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(11月3日 笑顔で握手するフランス・サルコジ大統領とイギリス・キャメロン首相 10日前の会議では「もう、うんざりだ!」とキャメロン首相にキレたサルコジ大統領ですが・・・ 今回も相当なやり取りがあったのではないでしょうか。 “flickr”より By francediplomatie http://www.flickr.com/photos/francediplomatie/6308783333/ )
【「非常に有意義な結果が得られた。私たちは自国や過去の失敗から多くを学んできたのだから」】
財政・金融危機に揺れる欧州各国が、ベルギー・ブリュッセルで8~9日に開かれたEU首脳会議で、財政規律の強化などの対応策を議論・決定したことは報道のとおりです。
****EU首脳会議、財政規律強化で合意 欧州債務危機****
欧州連合(EU)のヘルマン・ファンロンパウ欧州理事会常任議長(EU大統領)は9日、ベルギー・ブリュッセルで8日開幕したEU首脳会議で、ユーロ圏債務危機の対策として国際通貨基金(IMF)への資金拠出と財政規律の強化で参加国首脳が合意したと発表した。
ユーロ圏の債務危機克服に向けた最後のチャンスと言われていた会議後の記者会見でファンロンパウ氏は、債務危機を支えるIMFにユーロ圏とその他のEU加盟国で最大2000億ユーロ(約20兆7000億円)の拠出を目指すことを決めたと語った。
また同氏は、ユーロ圏各国の常設救済基金となる欧州安定メカニズム(ESM)の発足を予定よりも早い2012年7月に前倒しすることを明らかにするとともに、ギリシャ国債を保有する投資家に損失負担を求めたEUの方針は国債市場に非常に悪い影響があったとして、「公式に終わった」と述べた。
債務危機の再来を防ぐための長期政策では、各国の予算をより厳しく監視し、財政規律を強化することで各国が合意した。いずれかの国が財政赤字を国内総生産(GDP)の3%未満に抑える義務に違反すれば、自動的に発動する制裁措置も設ける。【12月9日 AFP】
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今回対応は、主にドイツ・メルケル首相とフランス・サルコジ大統領の主導で行われましたが、ドイツ並みの財政規律を各国に迫る「ドイツ支配の強化」に対しては、各国の警戒感も出ていることは、一昨日8日ブログ「EUサミットを間に、米格付け会社による“市場の圧力” 欧州に広まる“ドイツ支配”への不満」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111208)でも取り上げたところです。
そのドイツ・メルケル首相は、今回決定に概ね満足な様子です。
****ECB総裁、独首相 満足感を示す****
新しい財政ルールとして、一時的な歳出や景気サイクルの影響を除いた年間の「構造的な赤字」を各国がGDPの0.5%以下に抑えるようにすることでも一致した。また、ドイツが強く求めていた債務抑制を各国憲法に明記することでも合意した。
しかしこの日は、専門家の間でユーロ圏の債務危機脱出の最良の方法だとされているが論争も呼んでいる「ユーロ圏共同債」については合意に達しなかった。
それでも欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は、「(ユーロ圏にとって)非常に良い結果になった」と歓迎し、合意によってユーロ圏の財政協定と規律ある経済政策に向けた基盤が築かれたと語った。
欧州第1の経済大国ドイツのアンゲラ・メルケル首相も、「私はかねてから、ユーロ圏17か国は信認を回復しなければならないと言ってきた。今日の決定をもってそれは可能になったと思うし、実際にそうなるだろう」と述べ、合意への満足感を示した。
8日に始まった会議は翌9日午前5時(日本時間同日午後1時)ごろまで続いた。会議を終えたメルケル首相は、「非常に有意義な結果が得られた。私たちは自国や過去の失敗から多くを学んできたのだから」と語った。【12月9日 AFP】
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【「自らを締め出し」た英国は、「いくばくかの孤立」に直面することになるだろう】
今回会議で鮮明になったとは、イギリスの独自の対応でした。
財政規律の強化については、ドイツとフランスは当初、EUに加盟する全27か国の同意でEU基本条約「リスボン条約」を改正し、基本条約に規律強化策を導入する構えでした。
しかし、イギリス・キャメロン首相が「イギリスの国益を守る保証がなければ、条約改正はしない方がいい」と事実上の「拒否権」を発動。このため、イギリスを除く最大26カ国で新条約を締結する形になりました。
****EU首脳会議、金融街守りたい英国が孤立 欧州債務危機****
8、9日の両日行われた欧州連合(EU)首脳会議で、参加国首脳はユーロ圏の債務危機に対処するため財政赤字の監視を強めることで合意したが、英国だけはEU基本条約の改正に反対した。
EU加盟27か国のうち英国を除く26か国は、ユーロ圏に瓦解(がかい)の危機をもたらした債務危機の解決を目指し、新しい財政協定への参加に前向きな姿勢を示した。しかし非ユーロ導入国の英国は、基本条約を改正して財政ルールを盛り込むという独仏が主導した動きに抵抗した。
ヘルマン・ファンロンパウ欧州理事会常任議長(EU大統領)は、「1か国を除いて全ての国が(基本条約改正に)参加を検討している。全会一致で条約を改正できなくなったのは残念だが、以前から言っている通りわれわれは最善を尽くす」と述べた。
ニコラ・サルコジ仏大統領は、英ロンドンにある欧州最大の金融街シティーに歯止めをかけようとするEUの動きをデービッド・キャメロン英首相が阻もうとしているのは「受け入れられない」と述べた。
マリオ・モンティ伊首相もサルコジ大統領に同調し、「自らを締め出し」た英国は、「いくばくかの孤立」に直面することになるだろうと述べた。
しかしキャメロン首相は英国にとって死活的に重要な金融セクターが守られないくらいなら「外部にいたほうがましだ」と述べた。
ロンドン中心部にある広さ1平方マイル(約2.5平方キロ)ほどのシティーには、欧州全体の金融サービスの約75%が集中している。英政府は「金融取引税」を課そうという独仏の動きや、金融取引に対する新しい規制の導入に抵抗している。【12月10日 AFP】
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なお、新条約での対応については、“EUの枠外の条約でEU基本条約を改正するのは、そもそも無理がある。法的な整合性を取るのは難しいようだ。ファンロンパウ欧州理事会常任議長(大統領)は9日、財政規律を破った場合の制裁をどう実行するのか問われ、「法的な拘束力がなくても、参加国の政治的関与があればできる」と反論した。新条約は法的な基盤が弱い欠点を抱えている。一方、ファンロンパウ大統領は「今後もこの条約をEU基本条約に格上げすることを目指す」とも述べた。英国など不参加国を粘り強く説得し、あくまで通常の全加盟国の批准による基本条約改正を目標にしている”【12月9日 毎日】という問題もあります。
【「英国の国益を守る保証がなければ、条約改正はしない方がいい」】
今回のイギリス・キャメロン首相の強硬姿勢の背景には、従来よりイギリス国内に根強い反EU感情、更に連立政権の脆弱さなどがあると指摘されています。
****EU基本条約:英、改正に「拒否権」 金融界に配慮し孤立****
財政危機への対応を協議した9日の欧州連合(EU)首脳会議で、英国は加盟国全体(27カ国)での基本条約改正に事実上の「拒否権」を発動した。
この異例の強硬姿勢の背景には、危機を受けて勢いを増す国内の欧州懐疑論と欧州政策をめぐって対立する連立政権の基盤の脆弱(ぜいじゃく)さがある。今回の決断により英国がEUで孤立を深めるのは必至で、英・EU関係は緊張含みの展開となりそうだ。
キャメロン首相は9日未明の会見で、「英国の国益を守る保証がなければ、条約改正はしない方がいい。改正案を英議会に提示することはできない」と苦渋の表情を見せた。「国益」とは、金融取引税の導入など仏独が強める金融規制への動きから、英産業の大黒柱である金融街「シティー」を守ることだ。
しかし、サルコジ仏大統領は会見で「十分な規制の欠如が今回の危機を引き起こした」と語り、英国が求める「保証」の約束を拒否した。首脳会議に臨んだキャメロン首相は、「危機解決への協調」と「国益の保護」との板挟みに置かれ、最終的には「国益の保証」のない条約改正案は英内政を混乱に陥れると判断したようだ。
英国では、単一通貨ユーロ圏の財政危機を受けて「ユーロに参加しなかった判断は正しかった」という意識とともに、欧州懐疑派が勢いづいている。世論調査では、5割前後の国民が「EU脱退」を支持。議会では10月、EU脱退を問う国民投票の実施を求める動議が投票に諮られ、与党・保守党を中心に100人を超す議員が賛成したほどだ。
欧州問題は伝統的に保守党の「アキレスけん」で、サッチャー元首相を含む歴代政権崩壊の引き金になってきた。加えて、キャメロン首相の基盤は、親EUの自由民主党との連立政権で脆弱だ。連立政権は、主権の一部をEUに移譲する場合は国民投票に諮ることを法制化しており、キャメロン首相は基本条約改正を安易に受け入れられない立場にあった。
キャメロン首相は「拒否権発動」で英国内向けに強い指導者像を示した。しかし、今後の欧州統合がユーロ加盟国主体で進み、「蚊帳の外」に身を置いた英国が金融規制を含む統合政策への影響力を低下させるのは確実だ。その場合、脱退論を含む反EU感情がさらに高まり、キャメロン政権が一層厳しい立場に追い込まれる可能性もある。【12月9日 毎日】
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【「あなたの批判にはもう、うんざりだ!」】
ユーロ圏外のイギリス・キャメロン首相とユーロ圏を主導していると自負するフランス・サルコジ大統領の間には、以前から確執があります。
ギリシャ支援策で揺れた10月にも、両者には激しいやり取りがあったことが報じられています。
****訪日中止しユーロ圏会議出席、英首相の「介入」にサルコジ氏「うんざりだ!」****
23日にベルギー・ブリュッセルで開かれた欧州(EU)のユーロ圏首脳会議で、ニコラ・サルコジ仏大統領がデービッド・キャメロン英首相に対し「もう、うんざりだ!」とキレた。
英紙ガーディアンやデーリー・テレグラフが外交筋の話として報じたところによると、サルコジ大統領は、ユーロ圏の債務危機の解決策を協議するための会議に、ユーロ非加盟の英国のキャメロン首相が「介入してきた」と痛烈に批判。
面と向かって「あなたの批判にはもう、うんざりだ。ああしろ、こうしろと口を出すのは止めてくれ」「ユーロは嫌いだと言って加盟しなかったくせに、今さら、われわれの会合に首を突っ込むのか」などと言い放った。
テレグラフによると、サルコジ大統領の怒りが爆発したのは、欧州の金融機関救済を話し合うため急きょ26日に召集されたユーロ圏首脳会議の出席国をめぐってだという。サルコジ首相は圏内17か国のみが出席すればいいとの立場だが、キャメロン首相はEU加盟の全27か国が参加するべきだと主張し、この会議に出席するために予定していた日本とニュージーランド訪問を取りやめた。
キャメロン首相はこれに先立って、ユーロ圏17か国がユーロ危機対応を重ねる中でユーロ非加盟のEU諸国がつまはじきにされかねないと懸念を示していた。【10月24日 AFP】
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今回も、このとき以上のやり取りがあったのでは・・・と推察されます。
10月段階で、サルコジ大統領に罵倒されながらもキャメロン首相がユーロ圏への“介入”を行ったのは、ユーロに加盟していないとはいえ、イギリスはEU経済の重要な一部であり、仮にユーロが破綻して欧州が長期的な大不況に陥れば、イギリス経済も大打撃を受けるのは間違いない・・・との判断からです。
そして、その判断は間違っていません。
今回は、逆に、ユーロ圏どころかEU全体から孤立しかねない途を選択したことになり、今後の流れでその孤立が具体的になってくれば、今回決定はイギリスにとって大きな意味を持つものとなるでしょう。
問題は、シティーの利益が“国益”か・・・というところでしょう。また、EUから孤立してシティーの利益があるのか・・・ということもあります。
外野席の観客的には、まるでナポレオン時代の大陸とイギリスの確執をみるようで面白いものがありますが。
また、TPPを巡ってその対応が定まらない日本にとっても、今回の“シティーの利益を死守することが国益”との判断によるイギリスの孤立選択は参考になるところかと思われます。