孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  麻薬犯罪撲滅に「射殺」を奨励するドゥテルテ大統領 「法の支配」無視では中国と同じ

2016-08-05 22:33:56 | 東南アジア

(フィリピン・マニラの路上で何者かに射殺されたマイケル・シアロンさんの遺体を抱き締める妻のジェニリン・オライレスさん。現場には「麻薬密売人」と書かれたボール紙製の札が残されていた(2016年7月23日撮影)。(c)AFP/NOEL CELIS 【8月5日 AFP】 ドゥテルテ大統領は写真を、十字架にかけられて死んだキリストを抱く聖母マリアになぞらえて「メロドラマ」と形容しているそうです。)

一か月で、麻薬の取り締まり現場などで容疑者402人が警官に射殺
「6カ月以内に犯罪組織撲滅を図る」(そのためには、死刑制度のないフィリピンにあって、麻薬犯罪容疑者を警官が現場で射殺することも奨励する)ことを公約とするフィリピン・ドゥテルテ大統領は、“誠実・着実”に公約実現に取り組んでいます。

その結果、刑務所が超満杯状態となっていること、批判も出つつある大統領を擁護して、麻薬密売に関与した疑いのある容疑者らをさらに殺害するよう奨励する検事総長の発言など、8月1日ブログでも取り上げたばかりです。

そのとき、“警察はすでに容疑者110人以上を殺害した”という数字を紹介しましたが、実際はそれより遥かに多いようです。フィリピン警察の“誠実・着実”な仕事ぶりをゆがめることになり申し訳ありませんでした。
そのうちフィリピンに行く機会もあるかと思いますが、機嫌を損ねたフィリピン警察に射殺されるのは困りますので訂正します。

****フィリピン新政権、1カ月で麻薬容疑者400人射殺 恐れなした57万人が出頭***** 
就任から1カ月が過ぎたフィリピンのドゥテルテ大統領が、公約に掲げた「治安改善」をめぐり強権姿勢をあらわにしている。

警察が400人を超える違法薬物の容疑者を現場で射殺。恐れをなした薬物中毒患者や密売人ら約57万人が当局に出頭するなど、取り締まりは一定の成果を上げているが、人権団体からは“超法規的殺人”との批判が上がっている。
 
フィリピン国家警察は2日、ドゥテルテ氏が就任した翌日の7月1日から8月2日までに、麻薬の取り締まり現場などで容疑者402人が警官に射殺されたと発表した。逮捕者は5418人だった。同国は死刑制度を廃止している。
 
就任前の半年間で、同様に警官に射殺された容疑者は約100人。ドゥテルテ氏はダバオ市長時代、自警団による薬物犯罪者の「暗殺」を容認する姿勢も示しており、警官以外による射殺人数も増加しているもようだ。
 
人権団体や非政府組織(NGO)など約300団体は2日、ドゥテルテ氏の薬物取り締まりが国際規範を逸脱しているとし、国連機関に「容疑者殺害の扇動の中止を大統領に要求するように」と要請した。
 
ドゥテルテ氏は先月7日、収監中の2人、逃走中の1人の計3人の中国出身者を「麻薬王」と名指しして“宣戦”を布告。全国の薬物密売の75%が、マニラ首都圏にある刑務所内で取引され、現職国会議員や元役人も関与しているとして摘発を進めている。【8月3日 産経】
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そのうち、拳銃片手にハーレーで夜のマニラを走り回る大統領、マシンガンを手にヘリコプターで容疑者の車を追う大統領・・・の姿も見られるのではないでしょうか。
ダバオ市長の頃は、そうした形で自ら“犯罪者の処刑”を実践していたとも言われていますので、大統領執務室に座っているだけでは物足りなくなるのではないかと思います。

犯罪に関与している国会議員も多いと聞きますので、現職国会議員の摘発もそのうち始まるのでしょうが、まずは市長から。

****麻薬ビジネスの「庇護者」とされた市長、比大統領の脅しで出頭****
フィリピン警察は3日、同国中部のアルブエラで、ロドリゴ・ドゥテルテ比大統領に麻薬絡みの犯罪に関与していると非難されていた市長の支持者6人を射殺したことを明らかにした。

ドゥテルテ大統領は今回の事件の数日前、麻薬の密売に携わる息子をかばっているとして、この市長を「その場で撃ってよい」と述べていた。
 
地元警察によれば、アルブエラで3日、ローランド・エスピノサ市長の支持者らと当局の間で銃撃戦が起き、武装していた支持者6人が射殺された。また警察は17丁の拳銃と複数の手投げ弾を回収したという。
 
ドゥテルテ大統領は1日、エスピノサ市長とその息子に出頭を呼び掛け、24時間の猶予を与えた。それに先立ち、警察当局は麻薬取り締まり作戦の一環で、市長のボディーガード2人と雇い人3人を逮捕していた。

また、エルネスト・アベリャ大統領報道官はテレビで、「抵抗し、逮捕を試みる警察官らの命が危険にさらされた場合は、その場で撃ってよいとの命令が出されることになる」と述べていた。
 
エスピノサ市長は2日に警察に出頭。ドゥテルテ大統領に、麻薬取引に携わる息子を甘やかしている報いを受けさせると脅され、身の危険を感じたと話しているという。
 
一方、フィリピン国家警察のロナルド・デラローサ長官は、エスピノサ市長の息子はアルブエラ地方の麻薬ビジネスを牛耳っており、市長自身も「麻薬の庇護(ひご)者」として警察の記録にリストアップされていたと指摘。
 
デラローサ長官は、エスピノサ市長を伴い、テレビ中継された記者会見を開き、市長の息子に対して「おまえの父親は既に出頭したぞ。おまえも父親のように出頭しろ。出頭しなければ死ぬことになる。おまえの命は危険な状態にあるのだから、出頭した方が良い」と呼び掛けた。【8月5日 AFP】
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殺戮を繰り返す“身元不明の武装集団” 「法の支配」を無視する政権
これだけ殺しまくっていれば、公約実現に6か月も必要ないかも。
なお、ドゥテルテ大統領のほかの実施予定の主な政策は(1)全国で禁酒(2)午後10時以降の夜間外出禁止令(3)公共の場所での禁煙(4)自動車の制限速度30キロなどだそうです。【5月16日 まにら新聞】

禁煙以外はいずれも実現が難しいそうですが、(違反者は射殺していいという形で)仮に実現できたとしたら何やら恐ろしい社会にもなりそうです。
シャリア(イスラム法)で厳格な恐怖政治を行うISやタリバンとどこが違うのでしょうか?

おそらく、ドゥテルテ大統領の強力なリーダーシップで治安改善が実現できたとして、「人権だなんだと言っても、フィリピンの現実を改善するにはこれしかない」と称賛する向きも多いかと思いますが、そうなのでしょうか?

もちろん、これまで麻薬犯罪が横行していたフィリピン社会は異常でした。
そうした状況を許してきたのは、犯罪組織と警察・政治家の癒着があってのことでしょう。(その警察が、一転して容疑者を殺しまくるというのも笑止です)

末端の麻薬売人を殺しまくることより、法律に定めるところによりそうした警察・政治の腐敗一掃に取り組み、数年かかってもいいですから「法の支配」を確立していくことが重要なのではないでしょうか。

“容疑者402人が警官に射殺された”とのことですが、この数字には自警団とみられる武装グループに殺害された人数は含まれていません。

“フィリピン最大のテレビネットワークABS-CBNによると、5月の大統領選以降に殺害された人数は603人に上り、うち211人が身元不明の武装集団によって殺されたという。”【8月5日 AFP】

警察の容疑者射殺も、その真相には疑問があります。これまで一緒に甘い汁を吸ってきた“仲間”も多いことでしょうから、“口封じのために・・・”といったこともあるのでは?

更に問題なのは、殺戮を繰り返す“身元不明の武装集団”の存在です。
これでは「法の支配」が無視されている点で、麻薬犯罪組織が横行する無法となんらかわらないのではないでしょうか。

****フィリピン「麻薬戦争」の犠牲、積み上がる死者の山*****
にぎやかな街路では銃で撃たれて倒れた血まみれの人々が放置され、空き地には切断遺体が遺棄されている——ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が麻薬撲滅戦争を掲げて就任して以降、増える一方の死者数に、フィリピンのスラム街には恐怖が広がっている。
 
ドゥテルテ氏は今年5月、圧倒的支持を得て大統領に選出された。半年以内に社会から麻薬と犯罪を撲滅すると公約し、そのためならば何万人でも犯罪者を殺害すると宣言。実際、ドゥテルテ氏の就任以来すでに数百人が死亡している。
 
インターネット上では、テレビカメラの照明の中、血だらけの夫の遺体を抱きしめて泣き叫ぶ若い女性の写真が、人的犠牲を象徴するイメージとして話題を集めた。警察の張った黄色い非常線の向こうから、通行人がこわごわと様子を見守っていた。
 
殺害されたのは、三輪タクシーの運転手だったマイケル・シアロンさん(30)。バイクで乗り付けてシアロンさんを射殺した男たちは、ボール紙で雑に作った札に「麻薬密売人」と書き残していった。

しかし、「夫は無実だった。誰かを傷つけたことなど一度もなかった」と妻のジェニリン・オライレスさんは強く反発する。(中略)
 
暗躍する自警団、「メロドラマ」と大統領
警察は麻薬密売人の地下拠点と疑う場所に次々と一斉摘発を行っており、ほぼ毎晩のように死者が出ている。当局は、血だまりに伏せた容疑者の遺体の傍らには拳銃が転がっているとして、逮捕に抵抗した証拠だと主張している。
 
麻薬撲滅運動に同調したとみられる自警団による殺人も後を絶たない。夜、人通りのない通りや空き地で、顔を梱包用テープでぐるぐる巻きにされボール紙製の「麻薬密売人」と書いた札を首から提げた遺体が見つかるケースが相次いでいる。
 
ドゥテルテ大統領は就任後初の施政方針演説で、自らの麻薬撲滅運動を擁護。射殺されたシアロンさんを抱き締め嘆き悲しむオライレスさんの写真について、まるで15世紀の芸術家ミケランジェロが彫刻した聖母子像「ピエタ」のようだと評し、十字架にかけられて死んだキリストを抱く聖母マリアになぞらえて「メロドラマ」と形容した。
 
オライレスさんによれば、亡くなったシアロンさんも大統領選でドゥテルテ氏に投票した1600万人以上の有権者の一人だったという。
 
殺害された人々の妻や親族たちが現場で泣き崩れ失神する中、各地の警察署には続々と麻薬常用者や密売人らが自首してきている。警察発表によると、出頭者の数は56万5806人に上っているという。【8月5日 AFP】
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法やルールを守るというのは、そのルールが自分にとって都合がいい場合も、良くない場合も「守る」ということです。「麻薬犯罪を犯してならない」というルールは重視するが、「殺してはならない」というルールは無視するというのでは、「法の支配」はいつまでたっても確立しません。

南シナ海で対立する中国も協力を申し出
外交の面でドゥテルテ大統領が注目されているのは、南シナ海をめぐる中国との関係です。

当初、ドゥテルテ大統領は中国との交渉に何度も言及してしており、中国への宥和的な姿勢が指摘されていました。
ただ、フィリピンの全面勝利とも言える仲裁が出てからは、中国がこれを無視する対応をとったことが大統領のご機嫌をそこねたようで、中国とは交渉しないとも。

中国も馬鹿ではありませんから、麻薬犯罪撲滅にご執心のドゥテルテ大統領に配慮して、冒頭【産経】にもある中国系「麻薬王」に関し協力を申し出ています。

****中国、麻薬犯摘発で比に協力=南シナ海で譲歩促す狙いか****
フィリピンのドゥテルテ政権が最優先課題に掲げる麻薬犯罪の一掃に、南シナ海の領有権問題で対立する中国が協力する姿勢を鮮明にしている。

中国は7月末、比当局が捜査対象とする実業家に関する情報を提供。中国には、南シナ海問題をめぐり比に全面敗訴した仲裁裁判所の判決を受け、同問題で比側の譲歩を促す思惑があるとみられている。
 
中国警察幹部は7月下旬にマレーシアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)警察長官会議で、デラロサ比国家警察長官と会談。その直後フィリピンを訪問し、比国内で「麻薬王」と称される中国系の実業家ピーター・リム氏らのデータを提供した。デラロサ長官は30日、中国から情報提供があったことを明らかにした上で、「詳細は明かせないが価値は高い」と評価した。
 
比国内で出回っている麻薬などの違法薬物は、中国から流入するか、中国人が比国内で製造するものがほとんどとされる。ドゥテルテ大統領は「(違法薬物の)大物はどこにいる? それは中国だ」と名指しで批判。

これに対し、在比中国大使館は「違法薬物は共通の敵。ドゥテルテ政権に効果的な協力を行いたい」とする声明を発表し、今後も支援を約束している。
 
6月末に就任したドゥテルテ大統領は、就任から3〜6カ月以内の麻薬犯罪一掃を掲げており、7月中旬にはリム氏と直接面談して「(容疑が固まれば)処刑する」と警告した。
 
フィリピンでは死刑が廃止されているものの、警察はドゥテルテ氏就任後、逮捕に抵抗したなどとして400人以上の薬物容疑者を射殺した。このため人権団体からは「司法手続きを逸脱した殺人だ」と批判する声も上がっている。【8月4日 時事】 
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【「秩序やルールを守らない」中国人 「法の支配」無視ではフィリピン・中国も同じ
「法の支配」に関心がない点では、中国もフィリピンも同じです。
単に国家の政策だけでなく、社会全般の問題でしょう。

****中国人よ・・・「なぜ列に並ばないのか!」、中国人がルールを守らない理由****
南シナ海問題で仲裁裁判所が下した判断に中国が従おうとしない様子が世界中で報道され、中国は「秩序やルールを守らない国」との認識が定着しているのではないだろうか。そんななか、中国メディアの捜狐は中国国民が普段の生活のなかでも秩序やルールを守らない理由を考察している。

記事は、現代の中国人について「中国人は列に並ぶのが嫌いな民族」と表現し、「中国人よ、なぜ列に並ばないのか」と疑問を投げかけた。確かにほとんどの中国人はバスに乗る時もチケットを買う時も並ぶことをしない。なぜこのような国民性になったのだろうか。

記事が挙げた1つ目の理由は、「特権意識の氾濫による不公平な競争」だ。中国では立場やコネによって何事も対応が大きく異なるのが普通の国だ。病院での診察や手術もコネがなければ後回しにされてしまう国であり、正直に順番を守る人が少なくなるのも当然と言えるだろう。

2つ目の理由は「並ばないことが習慣になっている」ことだ。大衆の力は強く、たとえ自分が列を守っていても、大多数の人たちが守らなければ秩序は生まれない。反対に大多数が列を守っていれば、一部の人が列を乱そうとしても秩序が保たれる。外国人であっても、中国で生活していれば自然と列に並ばない習慣が身についてしまう。

最後に挙げたのは、「管理しきれていない」点である。記事は日本が中国を占拠していた当時の例を挙げ、兵士が鞭を持ち、秩序が保たれるようにしていた状況を説明。現在は権力者が「鞭」を持って秩序を保とうとしていないことが原因の1つであると論じた。

中国人が国内での秩序やルールを守ることができていない現状で、南シナ海問題で仲裁裁判所が下した判断を中国が守るよう期待することは無理があるのかもしれない。【8月5日 Searchina】
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(なお、中国も大都市では最近は「列に並んでいる」光景も目にします。少なくともその点では変化が見られます。ただ一般的に、中国社会に自分の利益第一で、ルールを軽視する風潮があることは否めないでしょう)

容疑者を殺しまくるフィリピン・ドゥテルテ大統領と「秩序やルールを守らない」中国人、政権に都合の悪い活動家を拘束する共産党政権・・・・どちらも「法の支配」に関心がない点では似た者同士です。

南シナ海問題もどうなるのかわかりませんが、似た者同士ですから中国のフィリピンの鉄道建設への資金提供などで利害が一致すれば話は早いのではないでしょうか。

****南シナ海のスカボロー礁、比政府が自国漁師に操業を避けるよう警告****
フィリピン政府は3日、同国の漁師に対し、中国からの妨害行為を回避するため、中国が領有権を主張している南シナ海のスカボロー礁には立ち入らないよう警告した。
 
オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所(PCA)は最近、南シナ海の領有権をめぐる中国の主張を退けてフィリピンに有利な判断を示したにもかかわらず、今回の警告は発せられた。
 
中国政府はPCAの判断を拒否し、2日には南シナ海の係争中の海域を含め、自国の領海内で「違法」操業する漁船に対して罰則を科すと発表している。
 
フィリピン外務省のチャールズ・ホセ報道官は記者団に対し、「中国がスカボロー礁を占拠していることは分かっている。それゆえ、漁師たちがこれ以上嫌がらせを受けずにあの場所へ戻れる方策が明らかになるまで待とうではないか」と語った。
 
ホセ報道官は、PCAの判断は明確なものだったが、「現場での現実」は異なっていると述べ、「現実には中国があの場所にいるのだから、この件について話し合わなければならない」とした。
 
さらに同報道官は、フィリピンの漁師はスカボロー礁を現在のところ避けるべきという意味かとの質問に対し、「これは皆の安全のためだ」と返答した。
 
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領率いる新政権は、中国に対して弱腰との批判を受けており、スカボロー礁をめぐる今回の政府の対応は、さらなる批判を招きそうだ。【8月3日 AFP】
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