
(2年前の広州市「リトルアフリカ」の賑わい 【8月26日 CNN】)
【日本は「質の高いアフリカ」をつくる・・・・】
周知のように、安倍首相の他、アフリカ各国の首脳約30人が出席して、ケニアの首都ナイロビで第6回アフリカ開発会議(TICAD)首脳会議が27,28日に開催されました。これまで5回のTICADは全て日本で開かれており、アフリカ開催は今回が初めて。
安倍首相は2018年までにアフリカに300億ドル(約3兆円)規模の投資を行う意向を表明し、量的にははるかに日本を上回る大規模なインフラ投資などを進める中国を念頭に、「質の高いアフリカ」をつくることをアピールしています。
****アフリカ支援、量より「質」 首相演説、中国に対抗 TICAD****
初のアフリカ開催となった、第6回アフリカ開発会議(TICAD6)。安倍晋三首相は「質の高い」アフリカを目指すと演説。豊富な資金力で先行する中国との違いを強調した。日本の存在感を高める狙いだが、進出を狙う企業には、テロや内戦といった治安リスクが最大の懸案となっている。
安倍首相はTICADの開幕を告げる27日の基調演説で、アフリカに寄り添う姿勢を強調した。まず訴えたのは、アフリカからの国連安全保障理事会の常任理事国入りだった。
「国連安保理改革こそは、日本とアフリカの共通の目標だ。達成に向け共に歩むことを、皆様に呼びかけます」。日本も目指す常任理事国入りについて、首相がそう力を込めると、会場から拍手が湧いた。
首相は、経済協力に話題を移し「日本企業には質への献身がある。アフリカで力をいかす時が来た」と主張。「日アフリカ官民経済フォーラム」の立ち上げや、総額3兆円(300億ドル)規模の官民による投資など、具体的な協力・支援策を並べた。
人材育成やトヨタ式の「カイゼン」で「質の高いアフリカ」をつくるとも説明。アフリカでの影響力を強める中国に対し、「オールジャパンで量より質で勝負する」(外務省幹部)姿勢を打ち出した。
約20分間の演説の最後には、「世界に安定、繁栄を与えるのは、自由で開かれた二つの大洋、二つの大陸の結合が生む、偉大な躍動にほかならない」と切り出し、安倍外交の新戦略「自由で開かれたインド太平洋戦略」を披露した。
南シナ海や東シナ海で権益の拡大を図る中国の強硬姿勢との対比を念頭に、太平洋とインド洋を「力や威圧と無縁で、自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育て、豊かにする責任を担う」と決意を語った。
新たな戦略をテコにして、アフリカでの存在感を高めたい安倍政権。ただ、中国は昨年12月、習近平(シーチンピン)国家主席が南アフリカで開かれた中国・アフリカ協力フォーラムで、協力実施のために600億ドル(約6兆円)の支援を約束するなど、政府が豊富な資金力を持つ企業と一体となってインフラ開発を進める。
外務省幹部は「支援額の数字だけで比較されるのは、納得がいかない。アフリカは可能性を秘めた地域。今後さらに力を入れたい」と話すが、日本の新戦略がどこまで浸透するかは見通せない。【8月28日 朝日】
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トヨタ式の「カイゼン」云々については、8月11日ブログ“エチオピア 政府の「明確なビジョンと戦略」で経済成長と医療改善を実現”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160811でも取り上げた、エチオピア工業省の傘下の「エチオピア・カイゼン機構」の取り組みなどをイメージしていると思われます。
人材育成については、感染症に対応する専門家や産業の基礎を支えるエンジニアなど、3年間で1000万人の人材育成に取り組むことも発表しています。
アフリカが将来的には中国・インドを上回る巨大市場となることから、出遅れている日本にとっては関係強化が急務となっていることや、安保理常任理事国の件など、政治的にアフリカ諸国の協力を得ることが日本にとって重要であること(個人的には、常任理事国の話は、今の日本はその状況にはないようにも思えますが)などから、アフリカ支援の重要性が指摘されています。
しかし、そうした話は別にしても、欧州の難民問題・テロ問題に見るように、世界全体のバランスの取れた改善が図られない限り、貧困や内戦を残したままで自国だけの安全・繁栄を維持することはできない現代社会にあって、課題が山積するアフリカへの関与は重要であると言えます。
【圧倒的な中国の存在感】
安倍首相が強く意識する中国のアフリカにおける存在感は圧倒的なものがあります。
中国とアフリカのつながりは毛沢東時代からのものですが、その後、資源獲得の時代を経て、今は巨額のインフラ投資をアフリカで行っています。
****住んでいる中国人は13万人、日本人は200人*****
・・・・アフリカと中国の貿易額や中国の対アフリカ投資額は近年増え続けており、それを反映するようにアフリカにおける中国人の人口は増え続け、専門家によると100万人を超えたと言われている。
アフリカの著しい経済発展で生まれている旺盛な需要を背景に、中国企業が次々にアフリカへ進出、アフリカの国家プロジェクトを受注し、投資をしている。
また、アフリカでの商機を求めて来る中国人も多い。エチオピアには現在約13万人の中国人がいるといわれている。ちなみにエチオピアに住んでいる日本人は約200人である。・・・・【8月15日 上野 きより氏“中国が旗を振る「エチオピア開発」の光と影” 東洋経済オンライン】
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エチオピアでは昨年9月、中国輸出入銀行が総工費の85%を融資し、世界各地で鉄道建設を行う中国国営企業の中国中鉄(CREC)が建設する形で、人々の足となる電車ライト・レールが運行を始めています。
中国国営企業はライト・レールだけでなく、鉄道、道路、高速道路、発電所などいくつもの主要なインフラ整備の多くを担っています。
それに対し、エチオピアに進出している日本企業は首都アディスアベバ郊外に工場を開設した横浜市の革製品店ぐらい・・・・ということで、「量より質」とは言うものの、話になりません。
もちろん、中国の進出が必ずしも現地住民の利益となっていない・・・という話はよく聞きます。
ケニアではの鉄道建設現場で作業中だった中国人を地元青年が襲撃する事件も報じられています。
****ケニア青年200人、鉄道建設の中国人労働者襲撃****
2016年8月2日、ケニア南西の町ナロクの鉄道建設現場で作業中だった中国人14人が、地元の青年ら約200人に襲撃され負傷する騒ぎがあった。鉄道建設は中国資本によるもので、地元青年らは就業機会が分配されないことに不満を感じていたという。英BBCが伝えた。
ケニアで最大の発行部数を誇る英字紙のデーリー・ネーションによると、事件はナロクとマイ・マヒウを結ぶ幹線道路で起きた。約200人の地元青年らが棒などを持ち大声で叫びながら中国人労働者と衝突した。この騒動で、地元テレビ局の記者も被害を受けたという。【8月3日 Record China】
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もちろん中国のやり方に問題があるのは多くの指摘どおりですが、日本の場合は、そういう問題を起こすレベルにまで届いていないとも言えます。
中国の投資には両面ある話ですから、片面だけからの判断はするべきではないでしょう。
中国が「内政不干渉」の建前で、人権侵害や独裁の国にも進出しているという話もあります。ただ、これも、欧米から制裁を受けるミャンマーやスリランカとのパイプを維持した日本にも、ある程度あてはまる話です。
【「リトルアフリカ」を取り巻く環境変化 黒人蔑視の問題も】
今日は、そういう話ではなく、中国に暮らすアフリカ人の話です。
両者の関係強化に伴って、アフリカに暮らす中国人が増えるのと同時に、中国でビジネスを展開するアフリカ人も多いようです。
しかし、中国で暮らすアフリカ人の環境も大きく変わっているようです。
****色あせるチャイニーズ・ドリーム<1> 中国を離れるアフリカ出身者****
中国南部の広東省広州市に「リトルアフリカ」と呼ばれる地域がある。「チョコレートシティー」とも呼ばれ、アフリカからの移民が集まっていた。だが近年、「チャイニーズ・ドリーム」を諦め中国を離れるアフリカ出身者が増加している。
広州の小北路ではつい2年前まで、買い物袋を頭に乗せて運ぶアンゴラ人女性や、長いローブに身を包みながら両替商を営むソマリア人男性、通りに面したレストランでヒツジをさばくウイグルからの飲食業者など、中国の他の地域とは異質な光景が広がっていた。
広州中心部にある登封には、中国内陸部だけでなくアフリカからも移民が殺到。サハラ砂漠以南から広州に移住してきたアフリカ出身者は2012年までに10万人に達したとの調査もある。
この数字が本当なら、アジア最大級のアフリカ出身者によるコミュニティーだったということになる。いずれも中国で成功する夢を追いかけてきた人々だが、この夢は現在、色あせつつある。
研究者らは、この約18カ月で数百人から数千人のアフリカ出身者が広州を去ったとみている。広州の競争力が薄れた背景には、経済を石油に依存する西アフリカ諸国でドルが枯渇していることや、中国の厳しい移民政策、人種差別のまん延がある。中国経済の減速と成熟も要因のひとつだ。
広州は約束の地?
広州は香港の北西120キロの地点に位置する工業都市。アフリカ出身者の流入が始まったのは1990年代半ばだ。
中国政府は、初めて「中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」が開催された2000年を境に、アフリカの資源国と良好な関係を築く戦略を展開。2014年までに中国は米国を抜いてアフリカにとって最大の貿易相手国となり、100万人以上の中国人がアフリカ大陸に渡航した。
ナイジェリアやギニアにチャイナタウンが出現するなか、中国を視野に入れるアフリカの人々も増えていった。
ただ香港大学の講師ロベルト・カスティロ氏によれば、中国への移民は西洋に向かったアフリカ出身者とは異なる。西洋に向かった人々はアフリカで成功の機会に恵まれず、西洋諸国への定住を目指した。
一方、中国のアフリカ出身者は企業家精神に富み、さまざまな場所を巡り新天地での機会を模索する資金力を持っているという。中国に向かったアフリカ移民の40%は高等教育を受けていたとの調査もある。
広州の物流業界で働くソマリア人のアリ・モハメド・アリさんは大卒だ。「きょうだい5人はみな欧州に行ったが、結局タクシーの運転手や警備員になった」と述べる。自身は東洋に向かうことで機会が広がったという。
ギニア出身のマディナ・ディアロさんはマットレスやポップコーン製造機などあらゆる製品をコンテナで輸出し、母国で販売するビジネスを展開。2002年には37万5000ドルの年収があった。ギニアの1人当たりの国民総所得は470ドルだ。
模造品もお金になった。こう指摘するのは、かつてセネガル空軍で航空機エンジニアを務めていたムスタファ・ディエンさんだ。セネガルでは一時、中国で買い付けたアディダスやナイキの模造品を正規品と同じ値段で売れることができた。中国製の模造品だとは誰も気づかなかったという。
広州は約束の地となり、移住してくるアフリカ人はさらに増えた。【8月26日 CNN】
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*****色あせるチャイニーズ・ドリーム<2> 「競争力」失う中国****
アフリカ各国の出身者は広州での「大使」を国ごとに投票で選出している。中国警察との折衝や外国人社会内部の争いの調停にあたるほか、コミュニティーの人数も記録している。移民は広州に着くとコミュニティーの指導者に非公式に申告し、支援を仰ぐのが普通だ。
コンゴ出身の「外交官」フェリー・ムワンバさんによれば、2006年にリトルアフリカに住んでいたコンゴ人は1200人。この人数は今日、500人にまで減少したとみている。他国の「大使」も同様の減少を報告している。
広州の中でも特に人数が多いのがナイジェリア人だ。そのコミュニティーの大使を務めるエマニュエル・オジュクさんは「クリスマスに大勢が帰国してしまい、戻ってこない」と話す。
多くの人は移動を重ねながら商売を行っているため、広州におけるアフリカ出身者の数を正確に知ることは難しい。香港大学の講師ロベルト・カスティロ氏は、中国政府も正確な人数は把握していないとみている。ただリトルアフリカの通りは、記者が2年前に初めて訪れた時よりも静かになっているように見えた。
競争力を失う中国
アフリカ出身者の間でチャイニーズ・ドリームが色あせつつある現状の背景には、中国経済の成熟が一因としてある。
セネガル出身のムスタファ・ディエンさんによれば、中国の存在感が世界的に増すなか、アフリカの消費者は模造品を購入していることに気づき始めた。当然の帰結として、以前ほどお金を払わなくなったという。
また国際的な圧力の高まりを受け、中国当局は世界的なブランドの知的財産権を保護する姿勢を打ち出している。ディエンさんの携帯にも最近、広州郊外の工場経営者から、アディダスやナイキなどのロゴの使用を今年から控えるというメッセージが送られてきた。
為替レートの変動や労働者の賃金上昇により、工場製品の値段が上がったことも影響したという。製造業の時給が上がる一方で人民元高が進み、利益幅は減少した。ディエンさんは今、ベトナムやバングラデシュに目を向けている。
文化の違い
収益の減少に伴い、アフリカ出身者の多くは中国生活の負の側面をこれまでよりも強く意識するようになっている。
告発サイト「ウィキリークス」は2008年、広州でアフリカ出身者の存在が目立つとして、中国の地元当局が以前から「非常に懸念」していたことを報じた。
また米国の外交官は米政府への報告の中で、中国人住民の多くが「アフリカタウン」に住みたくないと感じているとの調査結果に言及。文化やライフスタイル、衛生観念の違いが原因だとしている。
セネガル出身のムスタファ・ディエンさんはCNNの取材に、地元住民とエレベーターに乗り合わせた際、鼻をつまむしぐさをされた経験を語った。アフリカ系入居者の黒い肌の色が「雪のように白い壁」に付着したとして、中国人の大家がニュースサイトに不満を書き込んだ例もある。【8月27日 CNN】
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****色あせるチャイニーズ・ドリーム<3> 帰国の時?*****
中国は2013年、1986年以来となる出入国管理法の改正を行った。広州に長年住むアフリカ出身者は、この法改正により真の居住権への道が開かれることを期待していた。彼らは税金を収め、工場などへ支払いを行い、中国人と結婚するものもいた。
だが、香港大学の講師ロベルト・カスティロ氏は結果に「非常に失望」しているという。改正後の法律は極めて曖昧(あいまい)で、1986年に作られた法律と大差ないと指摘。外国人に向けて厳しいメッセージを送る内容だとしている。超過滞在や不法就労に対する罰則が厳しくなったのが唯一明確な変更点だ。
同氏によれば、法律が曖昧なことで、ビザ政策の解釈が地域ごとに大きく異なる事態が生じている。広州のように外国人の人口が多い地域では、滞在期間の短いビザが発給される傾向にある。多くのアフリカ出身者は、当局の対応が緩い近隣の仏山でビザ登録を行っているという。
1年間にわたった改修工事では外国との交易を歓迎する看板を取り壊し、この地域の生命線だった野外市場を禁止。道路を拡張し舗装し直したほか、警察を重点的に配置した。
「美化」は広州の未開発地域の刷新を図る政策の一環として行われたものだ。だが、これだけ狭い地域に警察を大規模投入したのは同市では他に前例がない。
外国人向けのサービスを提供する施設では8人の警官が同時に配置されたほか、300メートルの目抜き通りに複数の交番を置くなどの措置も取られた。日中いかなる場所でも警察がアフリカ出身者の旅券をチェックしているという。
この改修があって以来、アフリカ出身者の多くはリトルアフリカを去った。かつて活況を呈していた通りは今、人影もまばらだ。
アフリカではドルが枯渇
一方、ナイジェリアなどのアフリカ諸国では、ドルの枯渇が大きな問題となっている。石油をはじめとする資源価格が下落するなか、こうした国の政府は外貨準備高の減少を食い止めるため、ドルの使用を制限している。
母国の通貨で取引できない広州のアフリカ出身者にとって、この影響は甚大だ。ナイジェリア出身のエマニュエル・オジュクさんは「我々が中国で物を買うときにはドルを使う。だがそのドルがない。非常に大きな問題だ」と話す。
帰国のとき?
状況が厳しさを増すなか、コンゴ出身のフェリー・ムワンバさんは13年過ごした中国を離れ、故国に帰る準備をしている。撤退ではなく、最も必要とされる場所で自身のノウハウを使うための決断だ。「故郷に帰り、中国で学んだ知識を活用しなくては」と語る。【8月28日 CNN】
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あまりに面白い記事なので、長文記事の全文を引用しました。
広東省広州市の「リトルアフリカ」・・・・知りませんでした。
賑わっていた頃の様子を見ておくべきでした。
以前、洗剤のCM(中国人女性が洗濯機に黒人男性を放り込んで回すと、イケメン中国人男性が出てくるというもの)が話題にもなりましたが、中国人の黒人蔑視はよく聞くところです。(白人崇拝の裏返しでしょうか。空港などの広告でも、白人モデルがやけに目につきます。日本にもその傾向がありますので、あまり言える立場でもありませんが)
中国のアフリカ進出が必ずしも現地住民の利益になっていないという話も、根底には中国人のアフリカ黒人への認識があるのかも。そうだとすると、今後もトラブルが続きそうです。
また、日本が「質の高いアフリカ」に寄与したいということであれば、当然ながら、まず現地住民と対等の目線で向き合うことが大前提となります。