孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  未だ遠い生活水準向上への道 トイレ事情、病院に関する話題、そして政治家は・・・

2016-08-27 21:55:55 | 南アジア(インド)

(警官に抱えてもらって泥流の中を移動する印マディヤプラデシュ州の州首相 【8月25日 CNN】)

深刻な「トイレ問題」に取り組むモディ首相
大いなる発展の可能性を秘め、おそらく間違いなくマクロ経済的には近い将来中国と並ぶ規模にもなるであろうインドですが、少なくとも現状においては、絶対的貧困や社会的格差・固定的身分制度など、いろんな問題が取り沙汰される中国以上に深刻な課題を抱えています。

生活環境においては、基本的なトイレや水道設備も未だ未整備の状況にあります。

****発育不全の子ども、インドで世界最多 屋外排せつと不衛生で****
インドでは、トイレの不足や汚れた水、劣悪な衛生環境などが原因で発育不全の子どもが世界一多い。新たな研究結果が26日に発表された。
 
発育不全は栄養不良が原因で起こり、年齢に対する成長率が標準よりも下回っている状態。生後2歳を超えてからは遅れを取り戻すことが難しいケースが多い。
 
水と衛生に関する国際NGO「ウォーターエイド(WaterAid)」によると、世界の5歳未満の子どもの30%に当たる4800万人を抱えるインドは、近年の経済成長にもかかわらず、世界のどの国よりも発育不全の子どもが多く、幼年期を生き延びても他国の栄養状態の良い子どもに比べて身体的、知的に脆弱だという。
 
ウォーターエイドは、トイレと清潔な水の不足がインドでの発育不全の原因になっていると指摘する。トイレが不足しているため、屋外での排せつが増え、不衛生な環境となり、病気のまん延と感染が起きるためだ。

インドに関する同NGOのデータでは、毎年14万人の子どもが下痢が原因でなくなってとしており、また安全な水を入手できない子どもが7600万人、適切な衛生環境下で暮らしていない子どもが7億7400万人いるという。
 
屋外排せつはインドで長年、大きな保健衛生問題となっている。国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によると、インド国民の半数近い約5億9400万人が屋外で排せつしているという。【7月27日 AFP】
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中国では、仕切りのない“中国式トイレ”は都市部ではあまり見かけなくなったようですが、インドはそれ以前の段階です。

これまでも取り上げてきたように、インドでは、家にトイレがある人より携帯電話を持っている人の方が多いとかで、野原で用を足す際の無防備な状態が性犯罪を誘発するなど、女性に大きな負担を強いてもいます。(2014年6月3日ブログ“インド 2少女レイプ殺人で、改めて「寺院よりトイレ」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140603など)

モディ首相も生活水準向上の象徴として重点を置いており、トイレ事情の改善をアピールしています。

****インド首相、過去2年間でトイレ2000万か所を新設と発表****
インドの独立記念日に当たる15日、同国のナレンドラ・モディ首相は首都ニューデリーで演説し、政府がこれまでにトイレを2000万か所以上新設したと述べた。
 
17世紀に築城されたデリー城(レッドフォート、Red Fort)で演説に臨んだモディ首相は、世界第2位の人口を誇る同国のあらゆる世帯に電力とトイレを供給するという公約実現に向けて順調な前進を遂げていると強調した。
 
モディ首相は就任後初めて行った2年前の独立記念日の演説で、性暴力やトイレの不足といった同国ではタブー視されがちな問題に取り組む考えを明らかにして称賛を浴びた。その際、4年以内にトイレを全ての世帯に設置するという公約も掲げていた。
 
モディ首相は同日の演説で、「これほどの短期間で、インドの村々に2000万か所以上のトイレを設置した」と述べて拍手喝采を受けた。
 
同国では長年、屋外での排せつが保健衛生上の大きな問題となっており、国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によると、人口の半数近い約5億9400万人が屋外での排せつを続けているという。
 
モディ氏は2014年に首相に就任すると、衛生面での向上を強く訴え、下痢といった病気のまん延を防ぐため、各世帯にトイレを設置するよう繰り返し求めている。【8月15日 AFP】
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モディ首相の内政については、ヒンズー至上主義の拡大など問題もありますが、トイレ事情改善といった住民生活向上に直結する面での施策については、今後もその実行力を発揮してもらいたいところです。

病院をめぐる最近の話題に見るインド社会の現状
しかしながら、ここ2週間ほどの間にも、住民の生命を預かる病院の対応に関しても問題がいくつか報じられており、社会全体の底上げはまだまだこれからの状況です。

****病院職員が賄賂要求、治療遅れ赤ちゃん死亡か インド*****
インドで病院の職員から次々と賄賂を求められ、支払えずに治療が遅れたために生後10か月の赤ちゃんが死亡したと、赤ちゃんの家族が11日、地元ニュース専門局NDTVで訴えた。
 
スミタ・ダットとシブ・ダットさん夫妻は7日夜、病気の息子をウッタルプラデシュ州バーライチの公立病院に連れて行ったという。
 
夫妻によると、まず、看護師が書類処理のために賄賂を要求してきたという。その後、清掃作業員がベッドを手配するために賄賂を求めてきた。夫婦には賄賂を支払う以外の選択肢はなかったという。

さらに2日後、医師が注射のために賄賂を求めてきた。だが夫婦の資金は底をついていたため支払えず、口論となり、結果として赤ちゃんの治療が遅れたという。
 
病院側はこの問題について調査を行う方針を示したが、赤ちゃんの治療が遅れた事実はないと否定した。赤ちゃんの死因は今のところ分かっていない。

問題の清掃作業員は解雇され、看護師は別の部署に配置換えになったという。
 
インドでは、国営病院が過密状態にあるため貧困世帯も高額の民間医療に頼るしかなく、その中で病院での賄賂の要求や水増し請求が横行している。【8月11日 AFP】
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膨大な人数の貧しい人々は、生きている間はもちろん、死んだ後も人間らしい扱いは受けられないようです。

****病死の妻担ぎ徒歩で10キロ、車手配の余裕なく インド****
インド東部オディシャ州で27日までに、病院で病死した妻の遺体を金銭的な余裕がないため車を使って運べなかった夫が肩に担いで帰宅し、約10キロを歩き続ける出来事があった。

車の調達を手伝うなど夫への配慮に欠いた病院を批判する意見が出ている。

夫は悲しみに襲われながらも愛妻の遺体を青色のシートで包んで担ぎ、うだるような夏の暑さの中、泣きくれる12歳の娘を引き連れて自宅へ歩き続けていた。42歳だった妻は結核で死亡していた。

2人が村落の自宅までまだ約50キロの距離がある場所にたどり着いた際、住民の通行人が目撃して地元のテレビ記者に連絡。記者は父娘の苦難の姿をビデオ映像に収め、全国的な反響を呼ぶことになった。

夫は同記者の取材に、「お金がなく車を雇えなかった。病院にもその苦しい事情を説明したが、助けることは出来ないと言われた」と明かした。
2人にはその後、車が用意された。

地元のCNN系列局は政府がまず輸送用の車両を準備すべきだったと報道。夫の話として、病院側は手助けを断るだけでなく、遺体と共に立ち去るよう求めたとも伝えた。

病院当局者はCNNの取材に、車の提供を拒否したことは否定し、夫が妻の遺体を持ちだしたことは知らなかったと述べた。

また、妻の死去は当番の医師に確認されておらず、遺体を病院外へ連れ出す許可も出されていなかったとも主張した。

同州政府当局者は、今回の出来事の調査を指示し、不当な対応が見付かった場合、しかるべき措置を講じる考えを示した。

オディシャ州はインドの遠隔地にある州の1つ。国連が2011年に公表したインドの19州を対象にした調査では、同州は寿命などの人間開発指数で最低水準に位置付けられていた。【8月27日 CNN】
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****インドの病院、遺体の骨折りつるして搬送に批判殺到****
インド東部オリッサ州で病院職員らが、救急車が不足しているために高齢女性の遺体の骨を折って小さく折り曲げシーツにくるみ、棒につるして運ぶ様子を捉えた映像が公開され、国内で激しい怒りの声が上がっている。こうした事例は今週2度目。
 
映像の中で病院職員らは、腰骨あたりを折ったとみられる女性の遺体をシーツにくるんで運んでいる。遺体は、列車にはねられて死亡した80歳前後の女性のものだった。
 
オリッサ州では数日前にも、結核で死亡した妻の遺体を抱えて病院から10キロ離れた自宅まで徒歩で帰ることを余儀なくされた男性の映像が公開されていた。

同州で相次いで起きた2件の事例を捉えた映像は、ソーシャルメディアやテレビ番組で次々に取り上げられ、貧しい患者らに対する当局の扱いをめぐってネットユーザーや視聴者から批判の声が殺到した。
 
オリッサ州のナビーン・パトナイク州首相は報道陣に対し、非常に痛ましい出来事だと述べ、現在調査を進めており、遺体を搬送する救急車の配備へ向けた策も講じていくことを明らかにした。また州政府は、州内で霊きゅう車を無料で利用できるサービスも導入したと述べた。
 
インドの公立病院では、家族の遺体を自宅まで運ぶ際に救急車の利用を認めるケースは少なく、遺族は高額の自己負担で民間の霊きゅう車を手配せざるを得ない。
 
世界銀行によれば、インドでは保健制度に対する政府予算が国内総生産(GDP)の5%未満で、インフラと人的資源の深刻な不足に悩まされている。【8月27日 AFP】
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両事件ともネットユーザーや視聴者から批判の声が殺到しているということは、少なくともこうしたことに問題があるという認識はインド社会にもあるようです。

インド社会の改善を阻む政治家の意識レベル
そうした認識が政治に反映されていけば、やがては改善されていくのだろう・・・という期待もできますが、そうした期待すら潰しかねないのが、冒頭画像に写し出されたインド政治の在り様です。

****洪水視察の州首相、泥流嫌い警官の手車で移動 インド****
インド中部マディヤプラデシュ州の州首相が洪水の被災地を視察した際、泥流に入るのを嫌って警官の手車に乗って移動する写真がソーシャルメディアで流れ、ひんしゅくを買う事態となった。

シブラジ・シン・チョウハン首相は白色のスラックス姿で被災地を訪れていた。視察の目的は救援作業の現状を確認し、督励することなどだった。

首相府はインドの地元メディアに、警官の手車は首相が負傷するのを阻止するためだったと説明している。

インド東部や中部の諸州は豪雨に伴う洪水に襲われ、住民数万人が退避を強いられている。インド政府当局者などによると、被害が特に甚大なのは東部ビハール、北部ウッタルプラデシュ、マディヤプラデシュ州各州で少なくとも53人の犠牲者が出ている。被災者は総数で200万人以上とされる。

インドの気象観測当局は23日の時点で、降雨は今後数日間続くとも予報していた。

チョウハン首相の今回の振る舞いはツイッター上で嘲笑や冗談の材料となり、「インドは第3世界の国。3級のがさつな指導者を選んでいるのだから」などの書き込みがあった。【8月25日 CNN】
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“嘲笑や冗談”では済まされないことです。

以前、タイのインラック首相(当時)が洪水現場に駆け付ける際のブランドもののブーツが話題になったりもしましたが、それでも彼女は長靴で水の中をジャブジャブ歩いていました。

日本の政治家が災害視察や会議などで作業着みたいな服を着こんでいるのもパフォーマンス的であまり好きではありませんが、チョウハン州首相のケースは論外です。

人々の生活実態から遊離した政治家のこうした意識がインド社会の改善を妨げる最大の障害です。
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