孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  激戦が続くアレッポ 補給路を確保するも危機に瀕する住民の生命 

2016-08-17 22:57:28 | 中東情勢

(シリア政府軍による塩素ガス攻撃で呼吸困難になったとされるアレッポの少女 祖父は「国際社会がシリアに背を向けた」と非難しています。【8月17日 BBC】)

イスラム過激派が主体となった反体制派 包囲網に補給路を開く
内戦が続くシリアの現在の主戦場は、北部の主要都市アレッポをめぐる政府軍と反体制派の戦いと、トルコ国境に近いISへの補給路の要衝マンビジュでのISとクルド人民兵を主体とする「シリア民主軍(SDF)」との戦いとなっています。

特に、アレッポをめぐる攻防は、7月28日ブログ“シリア アレッポ包囲で飢餓状態 マンビジュでは誤爆も 反体制派の残虐行為 増大する犠牲者”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160728でも取り上げたように、いったんシリア政府軍が包囲網を完成させ、包囲された反対派支配地域住民約25万人の食料・水・医薬品等の不足が懸念される状況でしたが、反体制派側が補給路を開くという一進一退の展開となっています。

ただ、現在も激しいロシア、シリア政府軍の空爆が行われており、危機的状況にあることには変わりないようです。
更に、政府軍支配地域住民(およそ100万人)についても、反体制派の攻勢で危機が懸念されます。

また、反体制派の主力はアルカイダ系「ヌスラ戦線」の改名組織が担っており、“欧米が支援する穏健な反体制派”といったものとは異なる様相にもなっています。

****アレッポで一進一退の激戦、シリア内戦、最大のヤマ場に****
シリアの内戦は8月初めから北部アレッポで激戦となり、最大のヤマ場に差し掛かった。
市内に閉じ込められた住民は水や食料不足が深刻化、切迫した飢餓状況に追い詰められている。

しかし反体制派は国際テロ組織アルカイダ系の「シリア征服戦線」が主導権を掌握したことから、ロシア、シリア政府軍が空爆を強化、戦闘終息の見通しは全く立っていない。

突然の包囲網突破
アレッポは内戦前、人口200万人を超えるシリア最大の商業都市だった。内戦勃発で市をめぐる攻防が激化。2012年以来、市の西側半分を政府軍が支配、東側半分を反体制派が占領してにらみ合ってきた。政府軍は7月からロシア軍の空爆支援で市の包囲網の強化を開始した。
 
政府軍側は8月初め、レバノンの武装組織ヒズボラ、イラクのシーア派民兵軍団などの地上部隊の支援を受けて北部も制圧、アレッポを完全包囲下に置くことに成功した。これにより、反体制派勢力のトルコとの補給ルートが遮断され、反体制派にとっては死活的な打撃となった。
 
反体制派支配地区に残留している住民は約25万人。補給線が途絶したことにより、水や食料の他、医薬品、生活用品も入らなくなり、深刻な人道問題となった。逃げようにも完全包囲下では脱出ルートがなく、国連安保理も緊急協議したが、ロシアが反体制派に補給物資が渡ることを懸念、協議は難航している。
 
こうした中、今度は8月6日、アルカイダとの連携を解除したとして、「ヌスラ戦線」から名称を変更したばかりの「シリア征服戦線」がアレッポ南西部ラモウス地域で不意を突いて市の外側から政府軍に攻勢を掛けて撃退。包囲網を突破して市東部の反体制派地域までのルートを切り開いた。
 
この「シリア征服戦線」の勝利によって市南西部に新たな補給路が開通、その上、政府軍が支配するアレッポ西側が攻撃にさらされる状況になった。西側地区には政府支持の住民約100万人が居住しており、住民らの懸念が高まっている他、物価が暴騰している。
 
米国は2月、ロシアとの間で停戦に合意し、内戦の当事者にそれぞれ影響力を行使して停戦を順守させた。しかしそれも約3ヶ月で破綻し、戦闘が再び激化していた。停戦の合意からは、過激派組織「イスラム国」(IS)と「ヌスラ戦線」への攻撃は除外された。この点が停戦崩壊の大きな要因になった。
 
というのも「ヌスラ戦線」は反体制派勢力の一角としてアサド政権軍と戦ってきたからだ。内戦が続く中で、「ヌスラ戦線」戦闘員と反体制派戦闘員の混合状態が進み、切り分けることが難しくなった。アサド政権を支援して空爆を続行するロシア軍は「ヌスラ戦線」を攻撃しているとして、反体制派も攻撃した。
 
米国はロシアが「ヌスラ戦線」攻撃を口実にして反体制派つぶしにかかっているとしてロシアを批判したが、ロシアは「過激派と反体制派を引き離すのは米国の仕事」として取り合わなかった。このロシア軍の空爆に反体制派が反発して戦闘が激化、停戦は完全に崩壊し、「ヌスラ戦線」が反体制派の最強組織にのし上がった。

アルカイダの生き残りが集結
「ヌスラ戦線」の指導者ジャウラニは7月28日、アルカイダとの決別を宣言、組織名も「シリア征服戦線」に改称した。ジャウラニは両組織の決別を認めるアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリの声明も発表した。
 
「彼らは反体制派の主導権を掌握したことで内戦終結後もシリアの主勢力として生き残りを図った。そのためにはアルカイダとの連携が障害になる。だから表面上、関係を解消してみせた」(ベイルート筋)ということのようだ。欧米は名称を変更しても、その本質に変わりはないとしている。
 
米国の情報機関が特に注目しているのが、かつてのアルカイダの指導者オサマ・ビンラディン時代の大物テロリストたちが続々とシリアに集結し、「シリア征服戦線」に加わっていることだ。戦闘員の勢力も1万人を超えた。
 
その中には、ビンラディンの側近でアルカイダ軍司令官だったエジプト人のサイフ・アデル、元最高幹部議長のアブカイル・マスリ、テロ計画立案で知られるアハメド・アブドラらが含まれている。米情報機関はアルカイダによる米本土へのテロが起きるのは時間の問題との見方を強めている。
 
シリア内戦はISというモンスターを作ったが、「シリア征服戦線」という新たな手強い怪物も誕生しようとしている。【8月17日 WEDGE Infinity】
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12日のトルコ系メディアTRTによると、包囲網が破られたことでアレッポに支援物資が届き始めたとのことです。

****アレッポに支援物資が届き始める***
アレッポの地元メディア活動家の1人ヤシール・アブー・アンマー氏は、先週反体制派が支援物資の制御を確保し、南部のラムーセ地域から都市に届けられたと話した。

人道機関や商人の努力により、まず都市に基本的食料物資の到着が確保されたと明かしたアブー・アンマー氏は、
「反体制派が統制している町の中心や市場ではもうさまざまな果物や野菜がある。支援機関は、反体制派地域に小麦粉も送った。」と話した。

アブー・アンマー氏は、支援は届けられたが、政権とロシアの戦闘機が攻撃を続けていることも付け加えた。(後略)【8月12日 TRT】
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もっとも、25万人ともいわれる住民に対し、物資がどの程度行きわたっているのかも疑問ですし、何より激しい戦闘・空爆が続いています。

急接近したトルコ・ロシア シリア対策では対立
トルコは従来よりイスラム過激派を含めた反体制派を支援してきており、今回のアレッポ反体制派支配地区住民への支援物資などにも関与しているのではないでしょうか。

最近、急接近を始めたロシア・プーチン大統領とトルコ・エルドアン大統領ですが、対ロシア制裁を続ける、また、トルコのクーデター未遂事件後のエルドアン政権の強引な粛清・権限集中に懸念を示す欧米を牽制したいという点で両者の利害は一致しているものの、シリア・アサド政権に対する姿勢では対立しています。

その対立点の調整についても報じられてはいますが、お互いにともアサド政権、反体制派それぞれの支援をやめるのは難しいでしょう。

****<露トルコ協議>シリア問題で政府間委員会を設立****
関係正常化を進めるロシアとトルコは、両国間で懸案のシリア問題に関する政府間委員会を設立した。トルコのカリン大統領報道官が10日、明らかにした。軍、情報機関、外務省の代表者がメンバーとなる。
 
ロシア通信によると、プーチン露大統領、エルドアン・トルコ大統領が9日の首脳会談で同委設立に合意。両軍間のホットラインも再開したという。トルコのチャブシオール外相は11日、「過激派組織『イスラム国』(IS)に対する共同作戦についてロシアと議論する用意がある」と地元テレビで語った。【8月11日 毎日】
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ただ、クルド人勢力をめぐる対応については、若干の歩み寄りもあるのかも。

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・・・・トルコのシリア問題での焦眉の急はトルコが安全保障の重大な脅威と位置付けるシリアのクルド人勢力の台頭だ。

シリアのクルド人勢力に対しては米国が武器を援助し、ISと戦わせている。ロシアも空爆でクルド人の勢力拡大に手を貸してきた。クルド人勢力は米ロの支援を利用し、トルコとの国境地帯に「自治区」の発足を宣言している。
 
トルコ国内の反政府クルド人組織を弾圧してきたエルドアン氏はシリアのこうしたクルド人の勢力拡大を安全保障上、看過できないと危機感を深め、ロシアにクルド人への支援をやめるよう要請した。これもプーチン氏との首脳会談の狙いの1つだった。(後略)【8月13日 WEDGE】
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政府軍が塩素ガス使用か 国連調査
話をアレッポ攻防にもどすと、戦闘は泥沼化しており、政府軍による「塩素ガス」使用も報じられています。

****<シリア>北部で塩素ガスか 国連調査へ 特使「戦争犯罪****
シリア和平を仲介するデミストゥーラ国連特使は11日、シリア政府軍と反体制派の戦闘が続く同国北部の主要都市アレッポで、塩素ガスが兵器として使われた可能性が高いとして国連が調査する方針を明らかにした。デミストゥーラ国連特使は「もし使われたのであれば戦争犯罪にあたる」と指摘した。
 
英BBC放送などによると、反体制派が支配する地域に10日、たる爆弾が落とされ、4人が死亡し多数が負傷した。塩素ガスが使用されたとみられ、病院で負傷者が呼吸困難を訴えた。反体制派は、今回の爆撃でシリア政府軍が塩素ガスを使用したと主張している。
 
塩素ガスの兵器への使用は化学兵器禁止条約で禁止されているが、化学兵器禁止機関(OPCW)の調査団報告書によると、シリアでは2014年4〜8月に塩素ガスが兵器として使用された。
 
国連安全保障理事会も15年3月、再び塩素ガスを使用すれば実行者に制裁を科すとする決議を採択している。
 
国連はアレッポで水や電気の不足が深刻化しているとして、援助物資を搬入したり、病人や負傷者を避難させたりするための「人道停戦」を1週間あたり48時間設けるよう関係各国に要請している。【8月12日 毎日】
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国連調査で“政府軍による化学兵器使用”が認定されると大きな影響がありますが、当然にシリア政府側は認めないでしょうから、どうなるのか・・・・。

なお、塩素はびらん剤のマスタードガスや神経ガスのサリンなどと比較して毒性が低く、廃棄対象のリストには掲載されていないそうです。

一方、シリアの国営メディアも8月2日、反体制派が毒ガスを搭載したロケット弾を撃ち込み、5人が死亡、8人が窒息に伴う損傷を負ったと報じています。【8月12日 「コレキタ速報」より】

【「史上最悪レベル」の状況に「涙も同情も祈りも不要。必要なのは行動だ」とも
激しい空爆、包囲網による飢餓作戦、更には塩素ガスというアレッポの状況に関して赤十字国際委員会(ICRC)総裁は史上最悪のレベルにあるとの見解を示しています。

****赤十字総裁、シリア・アレッポでの戦闘は「史上最悪レベル****
赤十字国際委員会(ICRC)のペーター・マウラー総裁は15日、シリア第2の都市アレッポで続く紛争は、都市における戦闘として史上最悪のレベルにあるとの見解を示した。
 
マウラー総裁は声明で「(アレッポでの戦闘が)都市での戦闘において、現代で最も破滅的なものの一つであることは疑いようがない」と述べ、「膨大な」犠牲者が出ていると非難。

政府軍と反体制派に分断されているアレッポでは戦闘が激化し、何百もの人々が死亡するとともに、数えきれない人々が負傷し、支援が届かない市内で何万もの人々が身動きがとれなくなっていると指摘した。
 
また、「誰もが安全ではないし、安全な場所も存在しない。砲撃は絶え間なく続き、家も学校も病院もすべて攻撃を受けている。人々は恐怖を抱きながら生きている」、「子どもたちは傷を負っている。犠牲は計り知れない」と述べた。
 
かつて同国経済の中心地だったアレッポは、5年に及ぶ内戦の激戦地となり、2012年半ば以降は反体制派が掌握する東側と政権側が支配する西側に分断されている。
 
戦闘が激しさを増す中、市内には推定150万の市民がいる一方で、反体制派が掌握する地域にも約25万人がいるとされ、懸念の声が高まっている。
 
マウラー総裁は「戦闘による直接的な脅威に加え、水や電気といった必要不可欠なサービスが不足しており、基本的な医療を受けることも非常に困難な最大200万もの人々を、緊急かつ重大な危険にさらしている」と警告した。【8月16日 AFP】
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現地の医療関係者の声は、もっと直截的です。

*****涙は不要、行動を」 シリア激戦地の医師団、米政府に訴え****
「涙も同情も祈りも不要。必要なのは行動だ」。

シリア東部の激戦地アレッポで活動する医師15人が12日までに連名でオバマ米大統領に宛てた書簡を公表し、現地の窮状を訴えて具体的な行動を要請した。

アレッポでは反体制派が1カ月に及んだ政府軍による包囲を破ったが、まだ平和には程遠い状態が続く。市民は戦闘に巻き込まれて身動きできず、基幹インフラは破壊され、人道支援物資の供給は限られている。

15人の医師たちは、今もアレッポに残る30万人のために、負傷者や病人の手当てを続ける。書簡では米国の対応について、「包囲を解除させようという努力も、市民を守るために影響力を行使しようという姿勢さえも見られない」と批判した。

アレッポ東部は2012年から反体制派が支配してきたが、政府軍に包囲されて支援物資の供給ルートは断たれ、非政府組織(NGO)のシリア人権監視団によれば、80日間続いた戦闘で市民を中心に6000人以上が死傷した。

「私たちが最もつらいのは、誰を生かし、誰を死なせるかを選ばなければならないことだ。幼い子どもたちが重傷を負って救急室に運ばれてくれば、可能性が大きい方を優先せざるを得ない。助けるための機材がないこともある」。そう医師団は伝えている。

「2週間前、爆発で保育器への酸素の供給が断たれ、新生児4人が空気を求めてあえぎながら窒息死した。まだ始まったばかりの命が終わった」
「それでも私たちはここにいることを選び、助けを必要とする人たちを助けると誓った」

米政府高官は11日、書簡がホワイトハウスに届いたことを確認し、「米国は繰り返し、アサド政権によるアレッポなどシリア各地での医療施設に対する無差別な爆撃を非難してきた」と強調。国連と連携し、ロシアとも対話しながら暴力を抑え、人道援助をアレッポに届けるための外交手段を見付けると表明した。

この反応について、書簡に署名したシリア人医師の1人は、ホワイトハウスの反応にショックを受けたと語り、「ロシア空軍が我々の頭上にいて、想像できる限りのあらゆる武器で我々を攻撃しているのに、人道支援や交渉や外交努力について語るのは大きな皮肉だ」「ホワイトハウスは何が起きているかを知っているはず」と批判した。
同医師は、アレッポで10日に化学兵器が使われた疑いもあり、そうした中でのオバマ政権の反応はあまりに鈍いと指摘する。

書簡によれば、アレッポの医療施設は17時間ごとに攻撃を受けているといい、このままの状態が続けば1カ月以内に同地の医療は壊滅状態になると予想。

「アレッポへの恒久的なライフラインが開通しなければ、再び政府軍に包囲され、飢えが蔓延(まんえん)して病院の物資が完全に底を突くのも時間の問題だ」「死がますます避けられない状態になりつつある」と危機感を示した。

国連の報道官によると、アレッポでは200万人以上が電気を使えない状態にあり、井戸やタンクに残ったわずかな水ではシリアの夏の猛暑の中で、この人口を支え切れない状態に追い込(原文がここで中断)【8月12日 CNN】
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訴えは、包囲網が破られたあとになされたものです。やはり補給路を開いたとは言っても、大勢を改善するには至っていないように見えます。

住民無視の戦闘を続ける点では政府軍も反体制派も同じ 必要なのは即時停戦
“シリアでは、「国境なき医師団」(MSF)支援病院などの病院が、シリア政府軍やロシア軍のターゲットになっている。住民の生存に不可欠な施設を破壊して一刻も早く追い出すためだ。”【8月17日 Newsweek】とも。

「涙も同情も祈りも不要。必要なのは行動だ」・・悲痛な叫びではありますが、“激戦地アレッポで活動する医師”というのは反体制派メンバーでもあるのでしょう。

政府軍・ロシアが熾烈な攻撃を続けているのは事実ですが、一方で、反体制派が執拗な抵抗を続けているのも事実です。
第三者的に見ると、住民の生命を無視した戦闘を続けている点では、政府軍・ロシアも反体制派も五十歩百歩にも思えます。

悲惨な状況を改善するために必要な行動は、アメリカ・オバマ政権が騎兵隊のごとく介入して住民を救い出すことではなく、政府軍・反体制派双方が武器を置いて停戦に応じることです。

アレッポを死守する反体制派は停戦の呼びかけに対し、「包囲網を破って自分たちに有利に展開している。今停戦することは政府軍・ロシアに立ち直りの時間を与えることになる」と、全く応じていません。

アレッポの住民の命を危機にさらしているのは政府軍・ロシアだけでなく、反体制派も同じです。

クルド人民兵を主体とする「シリア民主軍(SDF)」などが制圧したシリア北部の要衝マンビジュについては、「人間の盾」とされた住民の問題などもありますが、話が長くなるので、また別機会に。
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