
(7月1日、北京・人民大会堂で、中国共産党創設95周年の祝賀大会に出席した習近平国家主席(左)と李克強首相(ロイター)【7月31日 産経】)
【東シナ海でも既成事実を重ねる中国】
仲裁裁判所の判決以後も、スカボロー礁の周辺空域を「パトロールした」と発表するなど南シナ海での積極姿勢を続ける中国ですが、東シナ海での活動を強めていることも報じられています。
****中国、東シナ海のガス田にレーダー・・・・軍事利用か****
中国が東シナ海の日中中間線付近で開発を進めるガス田の海上施設1基に、レーダーと監視カメラが設置されたことが6日、分かった。
複数の日本政府関係者が明らかにした。レーダー設置が判明したのは、東シナ海の日中中間線付近に16基ある海上施設で初めて。日本政府は5日、外交ルートで中国に厳重に抗議し、撤去を要求した。日本政府は海上施設が今後軍事目的で利用される可能性もあるとみて警戒している。
レーダーと監視カメラの設置が確認されたのは、日本政府が「第12基」と呼んでいる海上施設。日本政府は6月下旬にレーダーのようなものが設置されたのを確認し、その後、防衛省が写真を分析し、水上レーダーと判明した。
設置されたレーダーは、主に狭い範囲での水上の捜索に使用されるとみられる。【8月7日 読売】
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レーダー施設に関しては、“中国は25年11月、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の上空を含む東シナ海に防空識別区を設定したが、中国の地上レーダーが捕捉できる空域は限定的だ。プラットホームにレーダー施設ができれば、沖縄本島を含め、自衛隊や米軍の活動が捕捉されることが懸念される。
無人機やヘリコプターの運用拠点となれば、中国軍の監視能力を一層高めることになる。戦闘能力を持つ部隊が常駐すれば、中国軍は機動的な部隊運用が可能になり、新たな脅威が生じることになる。”【8月7日 産経】とのこと。
“主に狭い範囲での水上の捜索に使用されるとみられる”今回レーダーの軍事的意味合いは素人で全くわかりませんが、そうしたことを冷静に判断することも必要でしょう。
尖閣諸島付近にも多数の中国艦船が、日本側の抗議にもかかわらず今もとどまっています。
****中国の海警船2隻が尖閣領海に侵入、日本は抗議*****
日本の外務省は7日、中国海警局の船2隻が東シナ海の尖閣諸島(中国名:釣魚島)の日本領海に侵入したため、駐日中国大使に抗議したと発表した。2隻はすでに領海を出たが、正午現在で合計9隻の海警船が尖閣の接続水域にとどまっている。
海上保安庁によると、7日朝に2隻の海警船が接続水域に入域。前日からいた7隻と合わせ、接続水域を航行する船は9隻に増えた。このうち2隻が午前10時ごろ領海へ侵入。1隻は機関砲のようなものを積んでいたという。
海保の巡視船が警告したところ、「中国の管轄海域で定例のパトロールをしている。貴船はわが国の管轄海域に侵入した。わが国の法律を守ってください」と応答があった。
2隻は午前10時40分ごろに領海を出たものの、海保によると、正午時点で9隻が接続水域にとどまったままという。(後略)【8月7日 ロイター】
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こうした中国側の動きは、既成事実を重ね、日本への圧力を強める狙いと見られています。
****日本への圧力強める=東シナ海、既成事実求め攻勢―中国****
「海洋強国」を目指し権益確保を叫ぶ中国が、東シナ海での活動を過激化させている。沖縄県・尖閣諸島周辺に膨大な数の漁船を集め、日中中間線付近のガス田施設には新たにレーダーを設置したことも判明した。南シナ海では造成した人工島の「軍事拠点化」を着々と進める中国。東シナ海でも既成事実を重ね、日本への圧力を強めている。
中国海軍は1日、東シナ海で東海、北海、南海の3大艦隊が参加する実弾演習を繰り広げた。大規模な海軍の演習は7月に南シナ海でも実施したばかりだ。
中国が海上での示威行動を強める背景には、南シナ海問題で中国の主張を全面的に退けた仲裁裁判所の判決があるとみられる。判決受け入れを迫る日米などに対し、中国は防戦に回らざるを得ず、中でも日本には「当事国でなく、輝かしくない歴史を持つ。とやかく言う権利はない」(外務省報道官)と、戦争の歴史まで持ち出して厳しく反発した。
中国の海洋進出を非難する防衛白書、靖国神社参拝を続けてきた稲田朋美防衛相の就任と、中国は安倍政権の対中姿勢に不満を募らせている。【8月7日 時事】
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【「われわれが行動を起こせば、対立状態が保たれることになる」】
南シナ海や東シナ海での中国の強硬な姿勢を裏付けるような、習近平主席の発言が報じられています。
****<南シナ海問題>習主席の内部会議での発言が流出―香港紙****
2016年8月4日、香港・明報によると、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が南シナ海問題について、仲裁裁判所の判決が出る前の内部会議で「われわれが行動を起こせば、対立状態が保たれることになる」と述べていたことが分かった。
習主席は「南シナ海問題で今手を打たなければ、将来的に歴史資料が残るだけで、何を言っても無駄になる。われわれが行動を起こせば、対立状態が保たれることになる」と語ったという。中国共産党中央政治局の会議後は「真の大国は問題を恐れない。問題の中から利益を得ることが可能だ」としていた。
習主席は就任後、南シナ海問題で大きな行動に出てきた。フィリピンは13年初め、南シナ海問題で仲裁裁判所に仲裁を申請。中国は同年9月に埋め立てを始め、これまで3つの島で大型飛行場を建設している。中国軍の将官昇進記念式典でも南シナ海担当者の昇進が目立っている。南シナ海での軍事演習、行動も増えている。【8月6日 Record China】
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後出のように激しい権力闘争のただなかにいる習主席としては、失敗を認めるような“譲歩”の姿勢を見せると敵対勢力に足をすくわれかねない・・・といった事情もあっての進軍ラッパのようにも思われます。
記事のタイトルに“内部会議での発言が流出”とありますが、本来であれば公開されないはずのものが、リークされたということでしょうか?
事情はよくわかりませんが、もしそういう“リーク”ということであれば、内容よりそちらの方に興味が引かれます。
【“ツートップ”の確執で現場も混乱】
“トラもハエも叩く”粛清運動の形で、党内基盤を強めてきたとされる習近平主席ですが、その分、党内や軍部に“敵”も多く、必ずしも政治基盤は安定的なものでもないようです。
現在注目されているのは、中国指導部の“ツートップ”である李克強首相との関係です。
これまで経済政策を主導してきた李克強首相に対し、習近平主席が不満を募らせており、李克強首相の権限を剥奪する方向で動いているとも報じられています。
****中国政権に異変の兆候=習主席の存在目立ち、李首相影薄く****
中国では6月末から7月中旬にかけては湖北、湖南、江西など南部各省で、7月下旬には河北省など北部各省で水害被害が相次いでいる。中国では民政分野の問題が発生すれば首相が前面に出て指導する方式が定着していたが、今回の全国規模の水害では習近平主席の存在感が目立つ状態が続いている。
中国の国家主席は英語では「president」と訳されていることでもわかるように、国家元首であり政権の最高指導者だ。さらに国家主席は共産党トップの総書記と中央軍事委員会主席とを兼任することになっており、軍事・武力部門と政権党においても最高指導者という、極めて強い権限を持っている。
一方の首相は「行政組織の責任者」の位置づけで、国家主席と比べて地位はかなり低い。しかし江沢民政権下の1998年から03年まで在任した朱鎔基首相の時代に、経済や民政分野の具体的問題に対しては、首相が前面に立って指導し、国家主席は首相を「立てる」方式が定着した。(中略)
習近平政権でも当初は同様で、特に経済問題については李首相の活躍が目立った。しかし16年春ごろからは、習近平主席の経済問題についての発言が目立つようになった。そのため、習主席と李首相の「対立説」が出た。
個人的な思想の違いや確執が原因ではなく、習主席が抱える共産党内の経済担当部門と李首相の手足である国務院(中国中央政府)の経済官僚の意見が対立し、“親分”同士の関係が難しくなったとの見方だ。
中国共産党中央も国務院も北京市中心の故宮博物院の西側にある「中南海」と呼ばれる敷地内にあるが、共産党中央の建物は中南海の南寄り、国務院は北寄りなので、両者が対立しているとして「南北院戦争」などの言い方も出たほどだ。
経済政策について、李克強首相と国務院の官僚は内需拡大を重視し、そのための規制緩和を加速しようとしている。いわゆる「リコノミクス」だ。
共産党の経済専門家は、李克強首相が通貨供給量を増やしたことなどを厳しく批判。5月9日には共産党機関紙の人民日報が、「リコノミクス」を事実上、厳しく批判する論説を掲載した。
6月末からの全国的な洪水・土砂災害多発については、人民日報が7月24日付で、「1カ月に3度語った。習近平はこのように言った」と題する記事を掲載。一連の被害に対して、習近平主席自らが、関係者を叱咤激励して対策を指導している状況を強調した。
中国で洪水対策は通常「抗洪」と呼ばれる。インターネット検索大手のグーグル(中国語版)で日本時間24日午後7時、「李克強 抗洪」の2語でニュース検索してみたところ、ヒットした記事は9万6000本だった。一方、「習近平 抗洪」で検索するとヒットは16万1000本。洪水対策でも習近平主席の存在感が極めて強く、李克強首相は“影が薄い”という異常な状態が続いている。【7月31日 Recoed China】
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経済政策を異にする“ツートップ”の対立で、現場も混乱しているようです。
****共産党ツートップがここまで対立するのは近年珍しい 習近平vs李克強 中国行政の現場が混乱している****
「南院と北院の争いに巻き込まれて大変だ」。7月中旬、久々に会った中国共産党の中堅幹部がこう漏らした。
北京市中心部の政治の中枢、中南海地区には、南側に党中央の建物、北側に国務院(政府)の建物がある。党幹部らは最近、習近平総書記(国家主席)と李克強首相の経済政策などをめぐる対立について、冒頭のような隠語で表現しているという。
国有企業を保護し、経済に対する共産党の主導を強化したい習氏と、規制緩和を進めて民間企業を育てたい李克強氏の間で、以前からすきま風が吹いていたが、最近になって対立が本格化したとの見方がある。
江沢民氏の時代は首相の朱鎔基氏、胡錦濤氏の時代は首相の温家宝氏が経済運営を主導したように、トップの党総書記が党務と外交、首相が経済を担当する役割分担は以前からはっきりしていた。
しかし最近、権力掌握を進めたい習近平氏が経済分野に積極的に介入するようになったことで、誰が経済政策を主導しているのか見えにくい状態になったという。
党機関紙、人民日報が5月9日付で掲載したあるインタビュー記事が大きな波紋を呼んだ。「権威者」を名乗る匿名の人物が、「今年前期の景気は良好」とする李首相の見解を真っ向から否定し、「(このままなら)中国経済は『V字回復』も『U字回復』もなく『L字型』が続く」と主張し、痛烈に批判した。
共産党最高指導部内で序列2位の李首相をここまで否定できるのは序列1位の習主席しかいないとの観測が広がり、「習主席本人がインタビューを受けたのではないか」との見方も一時浮上した。
複数の共産党幹部に確認したところ、「権威者」は習主席の側近、劉鶴・党財経指導小組事務局長であることはのちに明らかになった。しかし、インタビューの内容は習氏の考えであることはいうまでもない。最近の株価の下落や景気低迷の原因は、李首相の経済運営の失敗によるものだと考えている習主席は、周辺に李首相への不満を頻繁に漏らしているという。
習主席は7月8日、北京で「経済情勢についての専門家座談会」を主催した。経済学者らを集め、自らが提唱した新しいスローガン「サプライサイド(供給側)重視の構造改革」について談話を発表した。李首相はこの日、北京にいたが会議に参加しなかった。共産党幹部は「“李首相外し”はここまで来たのか」と驚いたという。
その3日後の11日、今度は李首相が「経済情勢についての専門家・企業家座談会」というほとんど同じ名前の座談会を主催した。自らの持論である「規制緩和の重要性」などについて基調講演を行った。
李首相周辺に近い党関係者によると、李首相は習主席に大きな不満を持っており、自分が主導する経済改革がうまくいっていないのは、習氏による介入が原因だと考えているという。
共産党のツートップがここまで対立することは近年では珍しい。「天の声」が2つあることで、行政の現場で大きな混乱が生じているという。
8月に河北省の避暑地で開かれる党の重要会議、北戴河会議で、党長老たちが2人の間に入り、経済政策の調整が行われるとみられ、行方が注目される。【7月31日 産経【矢板明夫のチャイナ監視台】】
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【習主席 共青団へ「圧力」】
“ツートップ”の対立は抜き差しならないところまで来ているようで、“李首相解任”の可能性も囁かれています。
*****習主席と李首相の対立鮮明に 経済で不協和音****
・・・・習氏はそれまでの集団指導モデルを転換し、政策決定を習氏自身が主宰する幾つかの小委員会内部に集中させた。それには経済問題も含まれている。習氏の支持者たちは、党指導部は前政権下で弱体化し腐敗しており、経済を改革する一方で一般の支持を得る強い中心人物がいまや必要だと述べている。
これに対し、習氏に批判的な人々は、習氏が効率的な支配のためあまりにも多くの権限を掌握する一方、李氏やその他のもっと有能な経済専門家から権限を剝奪したと述べている。これら李氏支持派は、李氏が過去2、3年間こうした処遇を甘受してきたが、最近数カ月間で同氏の立場はどんどん切り崩されていると述べている。
現在、党内部では、来年の主要党ポスト交代の際に李氏が解任されるのではないかとのうわさが広がっている。党の最高機関である政治局常務委員会(7人の常務委員で構成)の中で、来年退職年齢に達しない委員は習氏と李氏の2人だけだ。(後略)【7月22日 WSJ】
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周知のように李首相は、江沢民派と並んで習近平氏勢力に対抗するグループであるエリート集団「団派」を代表する立場にありますが、その「共産主義青年団(共青団)」の改革を習近平主席が指示しているということで、単に李首相ひとりではなく、習主席は「団派」そのものを追い落とす目論見のようにも思えます。
****中国が共青団改革計画 習氏、主導権争い見据え牽制か****
中国共産党中央弁公庁は2日、党エリートを養成してきた党の青年組織「共産主義青年団(共青団)」の「改革計画」を発表した。
習近平(シーチンピン)総書記(国家主席)が自ら指示して作成したとされ、共青団中央の高級幹部を減らし、地方に人材を振り向けるなど大幅な機構改革を求めている。背景には、李克強(リーコーチアン)首相らが輩出した共青団に対する習氏の厳しい姿勢がある。
党指導部や長老などが集まり、重要事項について話し合う非公式の「北戴河会議」が例年開かれるこの時期に合わせて改革計画が発表されたことから、最高指導部の人事が動く来年秋の党大会をにらんだ政治的な駆け引きだとの見方も出ている。(中略)
共青団は、胡耀邦(フーヤオパン)・元党総書記、胡錦濤(フーチンタオ)・前国家主席、李首相らが輩出。共青団出身者は「団派」と呼ばれ、党内の一大政治勢力となっている。
最高指導部である政治局常務委員入りをうかがう候補の中には、汪洋副首相や胡春華・広東省党委書記らもいる。革命世代の高級幹部を父祖に持つ「紅二代」の支持を受ける習氏らと共青団派の間では、政治的路線の違いなども指摘されている。
今回の改革計画など、共青団に対する「圧力」ともとれる一連の動きは、次期最高指導部の主導権争いを見据えた共青団派に対する習氏側の牽制(けんせい)だとする見方も出ている。【8月4日 朝日】
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共青団については、地方での現場経験を欠いていることに習近平総書記は不満を抱いており、かねてより共青団は「硬直化している」と批判していました。また、昨年10〜12月に共青団の調査を実施した巡視チームは今年2月、「党の指導が弱まり、貴族化、娯楽化の問題が存在する」と指摘していました。
【駆け引きの舞台「北戴河会議」】
どの記事にも出てくる、重要事項について話し合う非公式の「北戴河会議」ですが、現在進行中のようです。
****来年人事、駆け引き本格化=習主席らが北戴河会議―中国****
中国の習近平国家主席(63)ら最高指導部や長老が7日までに、河北省の避暑地・北戴河に集まり、毎年恒例の非公式会議を開いているもようだ。来年秋に開かれる第19回党大会で決まる新指導部人事に向け、駆け引きが行われているとみられる。
会議について公式発表はなく、習主席は7月末ごろに現地入りしたようだ。国営新華社通信によると、党序列5位の劉雲山政治局常務委員は5日、習主席の委任を受け、北戴河で56人の学者と面会した。関係筋によれば、党幹部らが宿泊する施設の周辺では厳重な警備体制が敷かれている。
来年の人事で焦点となるのは、最高指導部である7人の党政治局常務委員の構成。習主席は反腐敗闘争で実績を残した序列6位の王岐山党中央規律検査委員会書記(68)の手腕を高く評価し、留任を望んでいるとみられている。
ただ、68歳以上は退任が慣例となっており、王書記の続投には「定年制」の変更が必要となる。これが実現すれば、習主席が第20回党大会以降も政権を維持する可能性も出てくる。
一方で、反腐敗闘争で、江沢民元国家主席に近い有力者らを排除してきた習主席には「強権的」との批判がつきまとう。習政権の長期化に道を開く改変は、激しい反発を避けられそうにない。【8月7日 時事】
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不透明な中国政治の象徴のような「北戴河会議」ですから、何がどのように話し合われているのか外部の人間にはわかりません。そこで話し合われたことは、来年秋に開かれる第19回党大会に向けてジワジワと表面化してきます。