
(ドネツクに近いマリインカ周辺で、親ロシア派武装勢力に発砲する政府軍。7月30日撮影 【8月2日 AFP】
“政府軍”というより、民兵のようにも見えますが・・・)
【OSCE 犠牲者の増加を警告】
最近あまり情報がないウクライナ東部の情勢ですが、停戦中の現在も戦闘は続いているようです。
「停戦破綻」という刺激的なタイトルの記事もありました。
****動画:停戦破綻、ウクライナ東部で続く激しい銃撃戦****
欧州安保協力機構(OSCE)は、停戦発効後もウクライナ東部で戦闘が続き、犠牲者が増加しているとして警告を発している。(後略)【8月2日 AFP http://www.afpbb.com/articles/-/3096031】
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確かに動画を見ると、停戦中とは思えない銃撃戦が展開されています。
7月には、下記のような死者を伴う戦闘も報告されています。
****親ロ派と戦闘、ウクライナ兵7人死亡****
ウクライナ大統領府高官は19日、記者会見し、東部を支配する親ロシア派との過去24時間の戦闘で、ウクライナ軍の兵士7人が死亡、14人が負傷したと明らかにした。
ウクライナ軍は「親ロ派から78回の砲撃があった」と説明した。一方、インタファクス通信によると、親ロ派はルガンスク州で5回、ドネツク州で379回の砲撃を受けたと主張した。【7月19日 時事】
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****ウクライナ東部、政府軍と親ロシア派が戦闘 兵士13人死亡****
ウクライナ軍は24日、東部の親ロシア派武装勢力との戦闘で過去24時間に兵士6人が死亡したと発表した。戦闘の間、同軍は狙撃兵の銃撃を受けたほか、無人機1機を敵軍によって撃墜されたという。
一方で政府軍側も迫撃砲で攻撃し、親ロシア派の兵士7人を殺害した。
ウクライナ政府と親ロシア派の間では2015年2月に行われた協議に基づき停戦合意が成立しているが、その後も散発的な衝突が繰り返されている。
国連はウクライナ危機での紛争によって、14年4月半ば以降、9400人以上が死亡、2万1532人が負傷したとしている。【7月25日 CNN】
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停戦中の散発的衝突にしては、1日の戦闘の死者が7人とか13人というのは多すぎます。
こうした状況が、冒頭のOSCEの“犠牲者が増加している”という警告にもなっているのでしょう。
【関与を深めるアメリカ ロシアに合意順守を求める】
先月7日、ケリー米国務長官はウクライナ・ポロシェンコ大統領と会談し、親露派武装勢力を支えるロシアに改めて停戦合意の順守を呼びかけています。
****<ウクライナ紛争>改めて露に停戦合意順守を 米国務長官****
ケリー米国務長官は7日、ウクライナを訪れ、ポロシェンコ大統領と首都キエフで会談した。ケリー氏は共同記者会見でウクライナ東部紛争について、親露派武装勢力を支えるロシアに改めて停戦合意の順守を呼びかけた。
ポロシェンコ氏は8日からポーランドで始まる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の際、自身も参加しての会合が開かれることに期待感を示した。
ウクライナ政府の発表によると、東部では6~7日にかけて政府軍兵士2人が死亡するなど再び緊張が高まりつつある。昨年2月の停戦合意(ミンスク合意)に基づき双方が撤去した重火器が前線に戻されている模様だ。
ケリー氏は、プーチン露大統領がオバマ米大統領との6日の電話協議で「(ミンスク合意の)プロセスを前進させたいとの姿勢を見せた」と述べ、「近日中に言葉が実行に移されると期待している」と言及。また、米国が東部の人道支援のため2300万ドル(約23億円)を拠出すると発表した。(後略)【7月8日 毎日】
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これまでアメリカはウクライナ問題にはあまり関与してきませんでしたが、イギリスのEU離脱などで欧州が揺れる状況にあって、ウクライナへの関与を強める姿勢を見せているとも報じられています。
****米、ウクライナ関与強化 停戦巡り独仏英伊と協議へ *****
・・・・ケリー長官は7日、ウクライナの首都キエフで同国のポロシェンコ大統領らと会談した。両氏は会談後の記者会見でNATO首脳会議の場で米欧5カ国とウクライナが首脳会議を開くことを明らかにした。
ロシアの支援を受ける親ロ派武装勢力との戦闘が続くウクライナ東部の停戦合意を巡り「合意を履行するようロシアに圧力を掛ける方策を話し合う」(ポロシェンコ大統領)。
ケリー長官は「停戦合意の実現に向け幅広い方策を取る準備がある」「ロシアが義務を果たさなければ、制裁は続く」となどと述べ、ロシアに停戦合意の履行を求めた。ウクライナに対する人道支援を追加で支出する方針を示し、NATOも首脳会議でウクライナ支援を打ち出すとの見通しも明らかにした。
ウクライナ東部の停戦協議はこれまで独仏がロシアとウクライナを仲介する形で4カ国の枠組みで進められてきた。英国のEU離脱問題の余波が広がるなかで、欧州内では対ロ関係の改善を求める声が高まるとの見方も出ている。
こうした情勢を踏まえ、米国はウクライナの停戦合意の実現に向けて関与を強める姿勢を示したとみられる。(後略)【7月8日 日経】
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もっとも、アメリカもシリア・イラクに加えて、最近ではリビアも空爆するなど、対IS対策で手一杯なのが実情で、“停戦合意の実現に向けて関与を強める姿勢”とは言いつつも、あまり具体的な行動はないようにも思えます。
【ロシアも独仏にウクライナへの圧力を求める】
“手一杯”なのはロシアも同様で、ロシアとしても今この時期に欧州を刺激するようなウクライナ東部での戦闘を拡大する意向も基本的にはないように思えます。
7月31日には旧ソ連構成国アルメニアの首都エレバンで野党系の武装勢力が人質を取って警察施設に立てこもる事件が発生し、警察施設前には連日、野党支持者のデモ隊が集結、市民が武装勢力支持を連呼する異例の事態に発展しました。
このアルメニアの騒動でもロシアは動いていません。
“アルメニアはロシア軍が駐留する親ロシア国家。何かあれば介入も辞さないはずのロシアは今回、基本的に静観する姿勢を貫いた。ロシア・メディアも警察施設前のデモについて「ジョージア(グルジア)のバラ革命、キルギスのチューリップ革命、ウクライナ政変のいずれにも似ていない。政治的なスローガンもない」(独立新聞)と指摘、性格をつかみかねていた。”【8月1日 時事】
一方、ロシア系メディアは、ウクライナ東部での戦闘が拡大していることに関し、ロシアがフランスとドイツに対し、ウクライナ当局へ圧力をかけるよう呼びかけていることを報じています。
“ロシアの専門家らは、ウクライナ軍によるドンバスの紛争地域への大規模な軍事侵攻の準備について語る根拠がある、とは考えていない”というロシア側の見解を報じる一方で、ウクライナ政府と親露派の双方が現状に不満であり、本格的な戦争は「いつで再発しうる」との見方も。
****ウクライナ軍の侵攻の可能性は?****
ウクライナ東部での武力衝突の激化を背景に、ロシアでは、ウクライナはドンバス(ウクライナ東部)の自称共和国の支援者らに対する軍事作戦を開始するのではないか、との見方が広がっている。ロシアは、フランスとドイツに対し、ウクライナ当局へ圧力をかけるよう呼びかけた。
ロシアのグリゴリー・カラーシン外務次官は、7月6日のドイツおよびフランスの大使との会談で、ドンバスにおける状況の悪化は、ウクライナ軍による軍事作戦の準備について物語るものである、と語った。
カラーシン氏は、ロシアおよびウクライナの大統領とともに自国の首脳がドンバスでの危機の解決を目指す「ノルマンディー4者」協議に参加している両国の大使に対し、「軍事的シナリオを阻むべくウクライナに対して自国の影響力を行使するよう」求めた。(中略)
砲撃の数の増加
(ロシア・親露派と欧米・ウクライナ政府の)どちらがウクライナ東部における安定化を促すべきかに関しては、一致した意見はないが、このところドンバスの分離ラインにおいて緊張が高まっていることに関しては、疑問の余地はない。
メディアの報道によれば、ここ数週間で、ドンバスにおける砲撃の数は、三割強、増加した。欧州安全保障協力機構(OSCE)も、停戦違反が頻発化した、と声明している。
一方、ロシアの専門家らは、ウクライナ軍によるドンバスの紛争地域への大規模な軍事侵攻の準備について語る根拠がある、とは考えていない。
独立国家共同体(CIS)諸国研究所のウラジーミル・エフセーエフ副所長によれば、「(ウクライナによる)大量の軍隊の展開について語るべきではない」。それは、むしろ、ロシアと西側の関係悪化を望んでいる過激主義者らの挑発と言える対峙ラインには、過激主義的な思想で知られる義勇兵団の戦士が多数いる。
軍事専門家で「アルセナール・オチェーチェストヴァ(祖国の兵器廠)」誌の編集長であるヴィクトル・ムラホフスキイ氏は、本紙へのインタヴューで、ウクライナ側が「何らかの大規模な軍事行動」を準備していることに関するデータを自分は持ち合わせていない、と語った。
また、政治的軍事的分析研究所のアレクサンドル・フラムチヒン副所長は、ウクライナによる侵攻の準備に関する報道がないにしても、ドンバスにおける戦闘行動は完全に終熄したわけではなく、本格的な戦争は「いつで再発しうる」とし、その原因として、双方が現状に不満である、つまり、ウクライナもドネツィクおよびルハンシクもより多くを望んでいる、という点を指摘している。
ロシアは、7月8日、「ノルマンディー4者」協議の欧州の参加者に訴える試みを続けた。今回は、より高いレベルにおいてで、プーチン大統領は、電話会談で、ドイツとフランスの首脳に対し、ウクライナ軍が「挑発的性格の行動」を停止すべくウクライナへ圧力をかけるよう呼びかけた。(後略)【7月12日 ロシアNOW】
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【ウクライナ国内にはEU統合路線への失望が】
ウクライナ政府も停戦を破棄して戦線を拡大する余裕はありませんが、イギリスのEU離脱という混乱でウクライナのEU加盟が遠のく現状にあって、“一部の親欧派政党が方向転換を図る可能性”や民族派勢力の台頭も報じられています。
****ウクライナのEU統合、英離脱で暗雲 域内に倦怠感 「遠心力」抑えるのに手一杯****
英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めたあおりを受け、ウクライナのポロシェンコ政権が旗印としてきたEUとの統合路線に暗雲が立ちこめてきた。
EU内にウクライナを支援することへの倦(けん)怠(たい)感が出ていたのに加え、EUが今や内部の「遠心力」を抑えるのに手一杯のためだ。
EUのウクライナに対するビザ(査証)廃止の見通しは遠のき、ウクライナ国民自身にもEU統合路線への失望が芽生えつつある。
ウクライナ政界では英国の投票を受け、最高会議(議会)の欧州統合問題副委員長が「展望のなさ」を理由に職を辞するなど、波紋が広がった。ポロシェンコ政権にとって英国の離脱決定は、オランダの国民投票で4月、EUとウクライナの自由貿易を柱とする「連合協定」の批准に「ノー」が突きつけられたのに続く打撃となった。
英国の投票後、EU首脳会議に合わせて行われたポロシェンコ大統領とEU首脳の会合は成果に乏しく、「象徴的成果」になると期待されていたビザ廃止に関する合意も見送られた。
ウクライナの政治学者、スピリドノフ氏は「貧しいウクライナを統合すれば、(労働移民の問題などで)EUの社会状況がさらに悪化する。ただでさえEU統合路線は幻想的だったが、英国の投票後は、EUの役人がいっそうウクライナを警戒している」と話す。
ウクライナで2014年、大規模デモによる親露派政権の崩壊を受けて発足したポロシェンコ政権にとって、EU統合路線は最大の公約であり、よりどころだった。EUも、ウクライナ東部に軍事介入したロシアに経済制裁を発動し、ポロシェンコ政権を後押しした。
しかし、EUでは、ウクライナ東部紛争をめぐる15年2月の和平合意が履行されないことへのいらだちが出ている。ロシア側もさることながら、ウクライナが合意に盛られた改憲などを実行していないことに厳しい視線が向けられつつある。
ウクライナの国内総生産(GDP)は14年の前年比6・6%減に続いて15年も同9・9%減で、EUとの連合協定の恩恵は見えてこない。
前出のスピリドノフ氏は「国民は欧州統合の話題に疲れている」とし、一部の親欧派政党が方向転換を図る可能性があると語る。東部紛争の政権側元義勇兵など、民族派勢力が力を増している現状もある。【7月11日 産経】
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【親露派 支配地域拡大の野心も】
アメリカもロシアもEUも、また、ウクライナ政府も「手一杯」で戦闘拡大を望んでいませんが、現地で対峙する双方が現状に不満であり、閉塞的な現状を打開すべく本格的な戦争が「いつで再発しうる」という状況にあります。
****<ウクライナ東部紛争>「大規模攻勢なら停戦破綻」親露派****
ウクライナ東部で2014年に一方的に独立を宣言した親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」の指導者、アレクサンドル・ザハルチェンコ氏(40)が毎日新聞の書面インタビューに答えた。
政府軍との紛争で昨年2月の停戦合意(ミンスク合意)を重視する考えを示す一方、大規模攻勢が始まれば「反撃して首都キエフまで進攻する可能性がある」と政府側をけん制した。(中略)
ザハルチェンコ氏はプーチン政権とは「協力関係にある」と説明。「ロシアとは事実上全ての問題で認識が一致している」と述べ緊密さを強調した。
ザハルチェンコ氏はまた「共和国の領域を州全体まで広げるのが我々の目標だ」と、領土的野心ものぞかせた。ウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州では、親露派が州域の3分の1程度、国民の約1割に当たる400万人弱を支配下に置いているとみられる。【7月26日 毎日】
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【ウクライナ “愛国主義”民族派勢力の拡大】
ウクライナにあっては、政府に批判的なジャーナリスト襲撃や嫌がらせ・圧力が相次いでおり、前出記事にもある“民族派勢力が力を増している現状”も懸念されます。
****ウクライナはジャーナリストを殺す?****
<政府と親ロ派の分離独立勢力の戦いが続くウクライナで、政府に批判的なジャーナリストへの攻撃が相次いでいる。民主化を進めてEUに加盟しようとしていたウクライナで、危険な愛国主義が高まりつつある>
先月20日、ウクライナの首都キエフで、ジャーナリストのパーベル・シェレメト(44)が暗殺された。運転中に車に仕掛けられた爆弾が爆発した。
シェレメトはラジオ局ベスチの朝の番組の司会を担当し、ウェブサイト「ウクライナ・プラウダ」ではスター記者だった。ベラルーシのミンスク出身で常に真実を追う彼は、母国からもロシアからも追放された身だ。
シェレメト暗殺は特異な例だ──そう思えたらどんなにいいだろう。だが、それだけはない。彼の死は、ここ数カ月着々と悪化されている報道弾圧の一例に過ぎない。劇的だからより人目についただけだ。
相次ぐ襲撃
シェレメト暗殺の翌21日には、ウクライナ版フォーブスのマリア・リドバンがキエフで背後から3度刺される事件があった。軽傷で済んだのは幸運だった。
先月25日には、ビジネスセンサー誌の編集長セルゲイ・ゴロブニオバが、キエフの裕福な地区ポディルで2人の男に殴られた。盗まれたものは何もない。
ニューヨーク・タイムズ・マガジンにウクライナの権力者に批判的な記事を書いていたクリスチナ・ベルディンスカヤ記者は、この数カ月、何度も脅迫状を受け取っている。
いったい誰がジャーナリストを狙っているのか。
治安トップは疑惑否定
(中略)シェレメト殺害の背後に誰がいるのかはまだ不透明だ。だが人権団体などは、ここ数カ月、ウクライナ政府が政府に批判的なジャーナリストに嫌がらせをして口を塞ごうとしていると非難する。
4月には、政府は国内トップの人気を誇るカナダ人テレビ司会者、サビク・シュスターの労働ビザを取り消した。シュスターは、毎週400万人が視聴するロシア語トークショー「シュスター・ライブ」のホスト役だ。
原因は、シュスターがペトロ・ポロシェンコ大統領を批判するようなことを言ったからではないか、ともっぱらの噂だ。(中略)
5月には、親ロシアの分離独立派が支配するウクライナ東部で仕事をしたことがある400人以上のジャーナリスト、カメラマン、プロデューサー、フリーランス、翻訳者、そして運転手の名前と連絡先がリークされた。(中略)
シェレメト暗殺は、現に報道の委縮効果をもたらしていると、VICE誌の記者、シモン・オストロフスキーは7月末のインタビューで語っている。「まるで(民主化革命以前の)1990年代に戻ったようだ。当時は、記者が襲われ、殺され、犯人の罪は不問に処された」【8月1日 Newsweek】
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ウクライナの“愛国主義”民族派勢力と勢力拡大を狙う親露派、現状に不満を持つ双方の衝突の危険を孕んだウクライナ東部情勢です。