【続く「民族浄化」の迫害、止まぬ難民】
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの問題。
ミャンマー政府は9月5日にロヒンギャ武装組織の掃討作戦を終了したとしていますが、その後もミャンマーを逃れて隣国バングラシュに向かうロヒンギャ難民はやまず、「民族浄化」を批判する国連などの国際的批判にもかかわらず、現地ではミャンマー国軍及び協力者によるロヒンギャ襲撃が散発的に続いていると思われます。
****<ロヒンギャ>迫害やまず 難民「逃げるしかない」*****
ミャンマー国境を流れるナフ川のバングラデシュ側ほとりで今月3日朝、幼い娘を抱えた女性が途方に暮れていた。「家族5人でボートで上陸した後、弟2人とはぐれてしまって……」。黒い布の間からのぞく瞳には、深い疲労がにじむ。
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の難民流入が続くバングラ南東部コックスバザール。幼い娘2人を抱えたこの女性、ミヌワラ・ベガムさん(25)は5日間歩いて国境近くにたどりつき、月明かりの下、他の難民約20人とともに小舟で近くの川岸に上陸した。その後、闇夜の中を歩くうち、20歳と18歳の弟を見失ったという。
ミャンマー政府は9月以降、「軍による掃討作戦は行っていない」としている。だが、ミャンマー西部ラカイン州ブティドウン地区にあるベガムさんの村では軍とみられる集団による襲撃が散発的に続いており、夫は約1カ月前、農作業に向かう途中に撃たれ死亡した。
先月末には「軍関係者」が突然現れ、村を出るよう通告してきた。慌てて食料をかばんに詰め、国境を目指した。「逃げるしかなかった。難民キャンプに行くことになると思うが、その前に弟を捜さないと」
バングラ、ミャンマー両政府は先月23日、難民の早期ミャンマー帰還に向けた覚書を交わしたが、今もバングラ側への難民流入は続く。
難民キャンプを視察したバングラのカデル運輸相は取材に対し、「両国の共同作業部会で作業中だ」と述べ、帰還準備は進んでいると強調したが、いらだった口調でこうも語った。「難民はまだ続々とやって来ている。彼ら(ミャンマー)は流出を止められないんだ」【12月26日 毎日】
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ミャンマー側は“流出を止められない”のではなく、“流出を強いている”と言うべきでしょう。
****ロヒンギャの村、焼き打ち続く=帰還合意後も被害―人権団体****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは18日、ミャンマー西部ラカイン州で10〜11月にイスラム系少数民族ロヒンギャの村40カ所が焼き打ちに遭ったとする声明を発表した。衛星写真で判明した。
ミャンマー治安部隊とロヒンギャ武装集団の衝突が始まった8月25日以降、焼き打ちされた村は354カ所。このうち少なくとも118カ所は、政府が掃討作戦を終了したと説明した9月5日以降に被害に遭った。
ミャンマーは11月23日、ロヒンギャ住民の脱出先となっているバングラデシュと難民の帰還で合意したが、その後も焼き打ちは続いていた。
ヒューマン・ライツ・ウオッチは「合意直後のミャンマー国軍による村の破壊は、難民の安全帰還に関する約束が宣伝にすぎなかったことを示している」と批判した。【12月18日 時事】
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【ミャンマー政府発表とは桁違い多い犠牲者 劣悪な難民キャンプで苦しむ子供たち】
「民族浄化」をもくろむミャンマー国軍等の迫害により、ミャンマー国軍が掃討作戦を始めてから最初の1カ月間で、少なくとも6700人のロヒンギャが殺害されたと推定されています。
その後の犠牲者を含めると、看過できない暴力がスー・チー氏率いるミャンマー政府のもとで実行されていると言わざるを得ません。
****ロヒンギャ殺害、1カ月で6700人か 子ども多数犠牲****
・・・・(国際NGO「国境なき医師団」)MSFによると、ロヒンギャの武装集団の襲撃事件を受けて掃討作戦が始まった8月25日からの1カ月間で、少なくとも9千人のロヒンギャが亡くなった。
71・7%は暴力によるもので、少なくとも6700人が殺害された。うち730人が5歳未満の子どもとみられるという。また暴力で亡くなった死因の約7割が銃撃だったという。
11月、バングラデシュの難民キャンプで抽出した約1万1千人を対象とする調査から推計した。MSFは「ロヒンギャがどれだけ暴力で命を奪われたかという証拠だ。調査できていない人も考えれば犠牲者はもっと多いと考えられる」としている。
ミャンマー政府は現時点までの犠牲者は計430人で、そのうち387人は武装集団の「テロリスト」であり、市民の犠牲は28人だと発表している。同政府はMSFの調査について「何もコメントすることはない」としている。【12月14日 朝日】
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バングラデシュに逃れた難民も厳しい環境に置かれています。
*****ロヒンギャ難民の子供、4分の1が栄養失調で命の危機 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は22日、ミャンマーからバングラデシュに逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャ難民のうち、5歳未満の子供の4分の1が、生死にかかわる深刻な栄養失調に陥っていると発表した。
今年10月22日から11月27日の間に3回実施された調査の結果、過密状態にある難民キャンプに収容された乳幼児の約25%が急性栄養失調となっていることが分かったという。
スイス・ジュネーブで記者会見したユニセフのクリストフ・ブリアラク報道官は「調査を受けた子供たちの半数近くが貧血、40%が下痢、最大60%が急性呼吸器感染症を患っている」と述べた。
ミャンマーのラカイン州では、軍事作戦によって今年8月以降に難民化したロヒンギャの数が65万5000人を超えており、うち約半数が子供となっている。国連(UN)は、この軍事作戦は民族浄化であるとの見方を示している。【12月23日 AFP】
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【アメリカの制裁・国連総会決議にさらされるミャンマー取り込みを図る中国】
人権問題には無関心なアメリカ・トランプ政権も、ミャンマー軍幹部への制裁を発表しています。
*****ロヒンギャ問題 米がミャンマー軍幹部に制裁****
(中略)アメリカ財務省は、世界各地での深刻な人権侵害に関わった関係者への圧力を強める大統領令に基づき、ミャンマー軍のマウン・マウン・ソー少将に対して、アメリカ国内の資産を凍結するなどの制裁を科したと21日発表しました。
この少将が率いていた治安部隊をめぐっては、ことし8月、西部のラカイン州で少数派のロヒンギャの人たちを無差別に殺害したほか、集落に放火したといった証言が寄せられているということです。
国連の推計によりますと、これまでにおよそ65万人のロヒンギャの人たちが隣国バングラデシュに避難を余儀なくされ、アメリカは、ロヒンギャに対する民族浄化だと厳しく非難しています。
この問題が起きてからアメリカ政府がミャンマー政府の関係者に制裁を科すのは今回が初めてで、ロヒンギャへの迫害をやめるよう強く促す狙いがあると見られます。
また、国務省の高官は「ほかの個人についても証拠を集め、ふさわしい判断を下す」として、今回対象となった軍幹部以外の関係者に対しても制裁を科す可能性を示唆しました。【12月22日 NHK】
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日本は、安倍首相がミャンマー大統領に“懸念”を表明していますが、同時にミャンマーを「官民挙げて最大限支援をしていく」ことも表明しています。
国連総会は軍事力行使停止決議を採択しましたが、日本は棄権しました。
****【ロヒンギャ問題】ロヒンギャへの軍事力行使停止決議を国連総会が採択、日本は棄権****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの迫害問題をめぐり、国連総会(193カ国)の本会議は26日までに、ミャンマー政府に対し、軍事力行使の停止や、国連などによる制限のない人道支援を認めるよう求めた決議案を賛成多数で採択した。
24日の採決では賛成は122カ国、反対は10カ国、棄権が24カ国だった。反対したのはミャンマーのほか、中国、ロシア、カンボジア、ラオス、フィリピン、ベトナム、ベラルーシ、シリア、ジンバブエ。
決議では、国連などによる人権問題の実態調査の受け入れも要求。日本はミャンマー政府の協力がなければ調査は効果的ではないとの立場で、11月の委員会採決に続いて棄権した。【12月27日 産経】
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“反対”にはASEAN加盟国が多く含まれています。同様の人権問題を抱え、“内政干渉”を嫌う周辺国はミャンマー政府を支援する方向のようです。
日本政府がミャンマー批判を明確にしない背景には、これまでのミャンマー・日本の歴史的・経済的な深いつながりに加え、国際的なミャンマー批判は結果的に中国へミャンマーを追いやることになる・・・との懸念があると思われます。
****ロヒンギャ問題、ミャンマーを取り込もうとする中国****
中国の王毅外相がミャンマーを訪問、ロヒンギャ問題への新提案をしたことについて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の11月21日付け社説は、中国の提案は不適切であると批判しています。要旨は次の通りです。
中国の王毅外相は11月19日、ミャンマーを訪問、ロヒンギャの人道危機の解決策を提案した。中国はその影響力を、軍を抑制するために行使していない。中国の提案はミャンマー政府による少数民族の誤った扱いを助長するだろう。(中略)
中国は当初、ミャンマー軍の行動を「国家安定の維持」に必要として支持、国連安保理による暴力非難決議に拒否権を行使した。対ミャンマー制裁や国際刑事裁判所への付託の圧力が高まっているが、王毅は中国のミャンマー支持が確固たるものであることを示した。
王毅の新提案は、まず停戦と安定の回復を求めている。それに異を唱えるのは難しいが、ミャンマーには迫害対象のロヒンギャはほとんど残っていない。12万人からなる最後の大規模グループは、2012年以来シットウェ郊外のキャンプに収容されている。
同提案は第二に、ミャンマーとバングラデシュが、他国や他のグループの同席無しで、危機の解決策を話し合うよう求めている。
これは、ミャンマーが国連の関与を拒否するのを助長する。バングラデシュとの対話は既に始まっているが、バングラデシュのみではミャンマーに象徴的な数の難民の帰還を認めさせる以上のことはできないであろう。
第三に、中国は、あらゆる政治的不安定に対する同国の標準的対応、すなわち経済発展を提案している。王毅は、雲南省、ヤンゴン、ロヒンギャが住むラカイン州を結ぶ経済回廊についての新計画を公表した。
西側諸国は、ロヒンギャ問題でミャンマーに圧力をかけるべく制裁を検討しているが、中国のミャンマー支持は、制裁が限られた梃子にしかならないことを意味する。アウンサン・スー・チーの側近は本紙に、制裁はミャンマーを中国の影響下に押し戻すだろう、と言っている。
しかし、ミャンマーの民族浄化を放置するのにもリスクがある。スー・チーは軍に接近し、批判するジャーナリストを弾圧している。ミャンマーの他の民族グループは、権利の縮小に直面している。
ロヒンギャ危機はミャンマーの政治的軌道を変え、中国による支援は極端なナショナリズムへの動きを加速し得る。【12月25日 WEDGE】
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【軍政時代と変わらぬスー・チー政権の対応】
国際的な批判・制裁の結果。中国との関係を強める・・・・というのは、かつての“ミャンマー軍事政権”と同じ流れです。
スー・チー氏による民政はそうした軍事政権を否定する流れの中で誕生したはずですが・・・・
スー・チー氏率いるミャンマー政府のロヒンギャ問題や国内言論への対応も、軍事政権時代を思い起こさせるものがあります。
****ミャンマー、言論弾圧に通信法悪用 文民政権下で摘発激増****
ミャンマーで、アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)による文民政権が発足して以降、同国の通信法に基づく名誉毀損(きそん)罪などで市民が摘発されるケースが激増していることが11日、人権団体の報告により明らかとなった。
人権団体らは権力者や富裕層が同法を悪用し、市民社会やメディアに言論弾圧を加えていると非難している。
およそ半世紀ぶりとなった文民政権の誕生は、軍事政権下で抑圧された言論の自由獲得への突破口となる前触れと期待が寄せられていた。
しかし、人権団体「フリー・エクスプレッション・ミャンマー(FEM)」によると、期待されていたものは今のところ全く得られていないという。
FEMの報告書によると、ソーシャルメディアへの投稿を取り締まる根拠とされている悪名高い電気通信法第66条(d)に基づいて市民が摘発された件数は、軍事政権下で11件にとどまっていたが、文民政権が発足した2016年3月以降では97件に上っている。
ほぼ全てが名誉毀損罪に関わるもので、インターネット上で風刺記事を書いた人や活動家、ジャーナリストが取り締まり対象となっている。また、裁判が行われたすべてのケースで禁錮刑を含む有罪判決を言い渡されているという。
FEMは、「権力者は自分たちに説明責任を課そうとする市民への罰則を拡大しようとしており、電気通信法第66条(d)はこの2年間、そうした権力者にとって最適な道具となっている」と指摘。
その上で、この「根本的に非民主的」な法律の撤廃を改めて求めた。名誉毀損の厳密な定義が行われれば、申し立ての少なくとも3分の2は取り下げられるという。【12月12日 AFP】
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****ロイター記者2人の勾留を2週間延長、ミャンマー裁判所****
ミャンマーの裁判所は27日、国家機密法に基づき逮捕されていたロイター通信のミャンマー人記者2人の勾留期間をさらに2週間延長することを決定した。
勾留されているのは、ワー・ロー記者とチョウ・ソウ・ウー記者。ミャンマー政府軍が主導していたイスラム系少数民族ロヒンギャ難民に対する弾圧を取材していたが、警察当局からヤンゴン郊外での夕食に招かれた後に逮捕されていた。
2人はラカイン州で政府軍が行っていたロヒンギャへの弾圧に関する重要な文書を保持していた疑いで勾留されており、有罪になれば最長14年の禁錮刑が言い渡される可能性がある。
ミャンマー当局者らは2人が勾留されている場所や釈放される時期については一切発言を拒否している。(中略)
記者2人の逮捕をめぐり、ミャンマー当局に対しては、報道の自由を損なうとして大きな非難を浴びている。今年、ミャンマーでは少なくとも11人の記者が逮捕されている。【12月27日 AFP】
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****ミャンマー、国連報告者の入国拒否=ロヒンギャ調査に協力せず****
ミャンマー政府は同国の人権を担当する国連の李亮喜特別報告者(韓国出身)に対し、入国を拒否し、同氏への協力を今後行わない方針を伝えた。国連が20日発表した。
李氏は来年1月にミャンマーを訪れ、イスラム系少数民族ロヒンギャ迫害を含む人権状況を調査する予定だった。李氏は声明で「ミャンマー政府の決定に失望している。(人権をめぐり)大変なことが起きているに違いない」と非難した。
李氏は7月のミャンマーでの現地調査後、「以前の(軍事)政権の手法が今も用いられている」などと批判。ミャンマー政府はこうした評価について「偏っており不公正だ」と反論し、協力取りやめの理由に挙げているという。【12月20日 時事】
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スー・チー氏に軍・警察に対する権限がないとか、国民世論がロヒンギャを嫌悪しており、ロヒンギャへの宥和的対応は軍・国民世論の両方の支持をうしなうことにもつながる・・・といった問題があることは、再三触れてきたところです。
しかし、だからといって「民族浄化」が進む現状の責任を逃れることはできません。
スー・チー氏自身も国際的批判に苛立ちを募らせているようですが、軍政時代に自宅軟禁状態にあった彼女は、人権問題に対しては“内政干渉”云々は通用しないとの国際批判によって支えられていたのではないでしょうか。
その彼女が今、国際的批判に十分に応えることなく、“内政干渉”に反対する中国への傾斜を強めるというのは、非常に残念な流れです。
【期待できない二国間協議】
なお、ミャンマー政府とバングラデシュ政府の二国間で行われている難民帰還に関する交渉に関しては、60万人を超える難民のどれだけが帰国できるのか危ぶまれるものがあります。
*****解決急ぐバングラデシュ*****
・・・・ミャンマー、バングラ両政府が帰還に向けて11月23日に交わした覚書は、難民のミャンマーでの居住証明を帰還条件にした1992年の合意を基礎としているとされる。
だが、帰還を急ぐバングラ政府は、難民からの自己申告に基づき名前や顔写真を登録する身分証発行手続きを進めている。
一方で、ミャンマー政府は住民だったと証明できる書類に基づいて審査を行うとみられ、こうした書類にこだわれば、難民は帰還できなくなる可能性がある。(後略)【12月26日 毎日】
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大量難民の圧力に苦しむバングラデシュは早急な難民帰還を求めていますが、ロヒンギャ難民が“ミャンマー国民として”“今後の安全な生活を保障される形で”帰還できるのか・・・・?
これまでのミャンマー政府の対応からすると、あまり期待できません。国連等の介在が必要ですが、ミャンマー政府は応じないでしょう。それは「民族浄化」を完遂したいためでしょうか?
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの問題。
ミャンマー政府は9月5日にロヒンギャ武装組織の掃討作戦を終了したとしていますが、その後もミャンマーを逃れて隣国バングラシュに向かうロヒンギャ難民はやまず、「民族浄化」を批判する国連などの国際的批判にもかかわらず、現地ではミャンマー国軍及び協力者によるロヒンギャ襲撃が散発的に続いていると思われます。
****<ロヒンギャ>迫害やまず 難民「逃げるしかない」*****
ミャンマー国境を流れるナフ川のバングラデシュ側ほとりで今月3日朝、幼い娘を抱えた女性が途方に暮れていた。「家族5人でボートで上陸した後、弟2人とはぐれてしまって……」。黒い布の間からのぞく瞳には、深い疲労がにじむ。
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の難民流入が続くバングラ南東部コックスバザール。幼い娘2人を抱えたこの女性、ミヌワラ・ベガムさん(25)は5日間歩いて国境近くにたどりつき、月明かりの下、他の難民約20人とともに小舟で近くの川岸に上陸した。その後、闇夜の中を歩くうち、20歳と18歳の弟を見失ったという。
ミャンマー政府は9月以降、「軍による掃討作戦は行っていない」としている。だが、ミャンマー西部ラカイン州ブティドウン地区にあるベガムさんの村では軍とみられる集団による襲撃が散発的に続いており、夫は約1カ月前、農作業に向かう途中に撃たれ死亡した。
先月末には「軍関係者」が突然現れ、村を出るよう通告してきた。慌てて食料をかばんに詰め、国境を目指した。「逃げるしかなかった。難民キャンプに行くことになると思うが、その前に弟を捜さないと」
バングラ、ミャンマー両政府は先月23日、難民の早期ミャンマー帰還に向けた覚書を交わしたが、今もバングラ側への難民流入は続く。
難民キャンプを視察したバングラのカデル運輸相は取材に対し、「両国の共同作業部会で作業中だ」と述べ、帰還準備は進んでいると強調したが、いらだった口調でこうも語った。「難民はまだ続々とやって来ている。彼ら(ミャンマー)は流出を止められないんだ」【12月26日 毎日】
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ミャンマー側は“流出を止められない”のではなく、“流出を強いている”と言うべきでしょう。
****ロヒンギャの村、焼き打ち続く=帰還合意後も被害―人権団体****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは18日、ミャンマー西部ラカイン州で10〜11月にイスラム系少数民族ロヒンギャの村40カ所が焼き打ちに遭ったとする声明を発表した。衛星写真で判明した。
ミャンマー治安部隊とロヒンギャ武装集団の衝突が始まった8月25日以降、焼き打ちされた村は354カ所。このうち少なくとも118カ所は、政府が掃討作戦を終了したと説明した9月5日以降に被害に遭った。
ミャンマーは11月23日、ロヒンギャ住民の脱出先となっているバングラデシュと難民の帰還で合意したが、その後も焼き打ちは続いていた。
ヒューマン・ライツ・ウオッチは「合意直後のミャンマー国軍による村の破壊は、難民の安全帰還に関する約束が宣伝にすぎなかったことを示している」と批判した。【12月18日 時事】
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【ミャンマー政府発表とは桁違い多い犠牲者 劣悪な難民キャンプで苦しむ子供たち】
「民族浄化」をもくろむミャンマー国軍等の迫害により、ミャンマー国軍が掃討作戦を始めてから最初の1カ月間で、少なくとも6700人のロヒンギャが殺害されたと推定されています。
その後の犠牲者を含めると、看過できない暴力がスー・チー氏率いるミャンマー政府のもとで実行されていると言わざるを得ません。
****ロヒンギャ殺害、1カ月で6700人か 子ども多数犠牲****
・・・・(国際NGO「国境なき医師団」)MSFによると、ロヒンギャの武装集団の襲撃事件を受けて掃討作戦が始まった8月25日からの1カ月間で、少なくとも9千人のロヒンギャが亡くなった。
71・7%は暴力によるもので、少なくとも6700人が殺害された。うち730人が5歳未満の子どもとみられるという。また暴力で亡くなった死因の約7割が銃撃だったという。
11月、バングラデシュの難民キャンプで抽出した約1万1千人を対象とする調査から推計した。MSFは「ロヒンギャがどれだけ暴力で命を奪われたかという証拠だ。調査できていない人も考えれば犠牲者はもっと多いと考えられる」としている。
ミャンマー政府は現時点までの犠牲者は計430人で、そのうち387人は武装集団の「テロリスト」であり、市民の犠牲は28人だと発表している。同政府はMSFの調査について「何もコメントすることはない」としている。【12月14日 朝日】
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バングラデシュに逃れた難民も厳しい環境に置かれています。
*****ロヒンギャ難民の子供、4分の1が栄養失調で命の危機 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は22日、ミャンマーからバングラデシュに逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャ難民のうち、5歳未満の子供の4分の1が、生死にかかわる深刻な栄養失調に陥っていると発表した。
今年10月22日から11月27日の間に3回実施された調査の結果、過密状態にある難民キャンプに収容された乳幼児の約25%が急性栄養失調となっていることが分かったという。
スイス・ジュネーブで記者会見したユニセフのクリストフ・ブリアラク報道官は「調査を受けた子供たちの半数近くが貧血、40%が下痢、最大60%が急性呼吸器感染症を患っている」と述べた。
ミャンマーのラカイン州では、軍事作戦によって今年8月以降に難民化したロヒンギャの数が65万5000人を超えており、うち約半数が子供となっている。国連(UN)は、この軍事作戦は民族浄化であるとの見方を示している。【12月23日 AFP】
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【アメリカの制裁・国連総会決議にさらされるミャンマー取り込みを図る中国】
人権問題には無関心なアメリカ・トランプ政権も、ミャンマー軍幹部への制裁を発表しています。
*****ロヒンギャ問題 米がミャンマー軍幹部に制裁****
(中略)アメリカ財務省は、世界各地での深刻な人権侵害に関わった関係者への圧力を強める大統領令に基づき、ミャンマー軍のマウン・マウン・ソー少将に対して、アメリカ国内の資産を凍結するなどの制裁を科したと21日発表しました。
この少将が率いていた治安部隊をめぐっては、ことし8月、西部のラカイン州で少数派のロヒンギャの人たちを無差別に殺害したほか、集落に放火したといった証言が寄せられているということです。
国連の推計によりますと、これまでにおよそ65万人のロヒンギャの人たちが隣国バングラデシュに避難を余儀なくされ、アメリカは、ロヒンギャに対する民族浄化だと厳しく非難しています。
この問題が起きてからアメリカ政府がミャンマー政府の関係者に制裁を科すのは今回が初めてで、ロヒンギャへの迫害をやめるよう強く促す狙いがあると見られます。
また、国務省の高官は「ほかの個人についても証拠を集め、ふさわしい判断を下す」として、今回対象となった軍幹部以外の関係者に対しても制裁を科す可能性を示唆しました。【12月22日 NHK】
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日本は、安倍首相がミャンマー大統領に“懸念”を表明していますが、同時にミャンマーを「官民挙げて最大限支援をしていく」ことも表明しています。
国連総会は軍事力行使停止決議を採択しましたが、日本は棄権しました。
****【ロヒンギャ問題】ロヒンギャへの軍事力行使停止決議を国連総会が採択、日本は棄権****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの迫害問題をめぐり、国連総会(193カ国)の本会議は26日までに、ミャンマー政府に対し、軍事力行使の停止や、国連などによる制限のない人道支援を認めるよう求めた決議案を賛成多数で採択した。
24日の採決では賛成は122カ国、反対は10カ国、棄権が24カ国だった。反対したのはミャンマーのほか、中国、ロシア、カンボジア、ラオス、フィリピン、ベトナム、ベラルーシ、シリア、ジンバブエ。
決議では、国連などによる人権問題の実態調査の受け入れも要求。日本はミャンマー政府の協力がなければ調査は効果的ではないとの立場で、11月の委員会採決に続いて棄権した。【12月27日 産経】
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“反対”にはASEAN加盟国が多く含まれています。同様の人権問題を抱え、“内政干渉”を嫌う周辺国はミャンマー政府を支援する方向のようです。
日本政府がミャンマー批判を明確にしない背景には、これまでのミャンマー・日本の歴史的・経済的な深いつながりに加え、国際的なミャンマー批判は結果的に中国へミャンマーを追いやることになる・・・との懸念があると思われます。
****ロヒンギャ問題、ミャンマーを取り込もうとする中国****
中国の王毅外相がミャンマーを訪問、ロヒンギャ問題への新提案をしたことについて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の11月21日付け社説は、中国の提案は不適切であると批判しています。要旨は次の通りです。
中国の王毅外相は11月19日、ミャンマーを訪問、ロヒンギャの人道危機の解決策を提案した。中国はその影響力を、軍を抑制するために行使していない。中国の提案はミャンマー政府による少数民族の誤った扱いを助長するだろう。(中略)
中国は当初、ミャンマー軍の行動を「国家安定の維持」に必要として支持、国連安保理による暴力非難決議に拒否権を行使した。対ミャンマー制裁や国際刑事裁判所への付託の圧力が高まっているが、王毅は中国のミャンマー支持が確固たるものであることを示した。
王毅の新提案は、まず停戦と安定の回復を求めている。それに異を唱えるのは難しいが、ミャンマーには迫害対象のロヒンギャはほとんど残っていない。12万人からなる最後の大規模グループは、2012年以来シットウェ郊外のキャンプに収容されている。
同提案は第二に、ミャンマーとバングラデシュが、他国や他のグループの同席無しで、危機の解決策を話し合うよう求めている。
これは、ミャンマーが国連の関与を拒否するのを助長する。バングラデシュとの対話は既に始まっているが、バングラデシュのみではミャンマーに象徴的な数の難民の帰還を認めさせる以上のことはできないであろう。
第三に、中国は、あらゆる政治的不安定に対する同国の標準的対応、すなわち経済発展を提案している。王毅は、雲南省、ヤンゴン、ロヒンギャが住むラカイン州を結ぶ経済回廊についての新計画を公表した。
西側諸国は、ロヒンギャ問題でミャンマーに圧力をかけるべく制裁を検討しているが、中国のミャンマー支持は、制裁が限られた梃子にしかならないことを意味する。アウンサン・スー・チーの側近は本紙に、制裁はミャンマーを中国の影響下に押し戻すだろう、と言っている。
しかし、ミャンマーの民族浄化を放置するのにもリスクがある。スー・チーは軍に接近し、批判するジャーナリストを弾圧している。ミャンマーの他の民族グループは、権利の縮小に直面している。
ロヒンギャ危機はミャンマーの政治的軌道を変え、中国による支援は極端なナショナリズムへの動きを加速し得る。【12月25日 WEDGE】
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【軍政時代と変わらぬスー・チー政権の対応】
国際的な批判・制裁の結果。中国との関係を強める・・・・というのは、かつての“ミャンマー軍事政権”と同じ流れです。
スー・チー氏による民政はそうした軍事政権を否定する流れの中で誕生したはずですが・・・・
スー・チー氏率いるミャンマー政府のロヒンギャ問題や国内言論への対応も、軍事政権時代を思い起こさせるものがあります。
****ミャンマー、言論弾圧に通信法悪用 文民政権下で摘発激増****
ミャンマーで、アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)による文民政権が発足して以降、同国の通信法に基づく名誉毀損(きそん)罪などで市民が摘発されるケースが激増していることが11日、人権団体の報告により明らかとなった。
人権団体らは権力者や富裕層が同法を悪用し、市民社会やメディアに言論弾圧を加えていると非難している。
およそ半世紀ぶりとなった文民政権の誕生は、軍事政権下で抑圧された言論の自由獲得への突破口となる前触れと期待が寄せられていた。
しかし、人権団体「フリー・エクスプレッション・ミャンマー(FEM)」によると、期待されていたものは今のところ全く得られていないという。
FEMの報告書によると、ソーシャルメディアへの投稿を取り締まる根拠とされている悪名高い電気通信法第66条(d)に基づいて市民が摘発された件数は、軍事政権下で11件にとどまっていたが、文民政権が発足した2016年3月以降では97件に上っている。
ほぼ全てが名誉毀損罪に関わるもので、インターネット上で風刺記事を書いた人や活動家、ジャーナリストが取り締まり対象となっている。また、裁判が行われたすべてのケースで禁錮刑を含む有罪判決を言い渡されているという。
FEMは、「権力者は自分たちに説明責任を課そうとする市民への罰則を拡大しようとしており、電気通信法第66条(d)はこの2年間、そうした権力者にとって最適な道具となっている」と指摘。
その上で、この「根本的に非民主的」な法律の撤廃を改めて求めた。名誉毀損の厳密な定義が行われれば、申し立ての少なくとも3分の2は取り下げられるという。【12月12日 AFP】
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****ロイター記者2人の勾留を2週間延長、ミャンマー裁判所****
ミャンマーの裁判所は27日、国家機密法に基づき逮捕されていたロイター通信のミャンマー人記者2人の勾留期間をさらに2週間延長することを決定した。
勾留されているのは、ワー・ロー記者とチョウ・ソウ・ウー記者。ミャンマー政府軍が主導していたイスラム系少数民族ロヒンギャ難民に対する弾圧を取材していたが、警察当局からヤンゴン郊外での夕食に招かれた後に逮捕されていた。
2人はラカイン州で政府軍が行っていたロヒンギャへの弾圧に関する重要な文書を保持していた疑いで勾留されており、有罪になれば最長14年の禁錮刑が言い渡される可能性がある。
ミャンマー当局者らは2人が勾留されている場所や釈放される時期については一切発言を拒否している。(中略)
記者2人の逮捕をめぐり、ミャンマー当局に対しては、報道の自由を損なうとして大きな非難を浴びている。今年、ミャンマーでは少なくとも11人の記者が逮捕されている。【12月27日 AFP】
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****ミャンマー、国連報告者の入国拒否=ロヒンギャ調査に協力せず****
ミャンマー政府は同国の人権を担当する国連の李亮喜特別報告者(韓国出身)に対し、入国を拒否し、同氏への協力を今後行わない方針を伝えた。国連が20日発表した。
李氏は来年1月にミャンマーを訪れ、イスラム系少数民族ロヒンギャ迫害を含む人権状況を調査する予定だった。李氏は声明で「ミャンマー政府の決定に失望している。(人権をめぐり)大変なことが起きているに違いない」と非難した。
李氏は7月のミャンマーでの現地調査後、「以前の(軍事)政権の手法が今も用いられている」などと批判。ミャンマー政府はこうした評価について「偏っており不公正だ」と反論し、協力取りやめの理由に挙げているという。【12月20日 時事】
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スー・チー氏に軍・警察に対する権限がないとか、国民世論がロヒンギャを嫌悪しており、ロヒンギャへの宥和的対応は軍・国民世論の両方の支持をうしなうことにもつながる・・・といった問題があることは、再三触れてきたところです。
しかし、だからといって「民族浄化」が進む現状の責任を逃れることはできません。
スー・チー氏自身も国際的批判に苛立ちを募らせているようですが、軍政時代に自宅軟禁状態にあった彼女は、人権問題に対しては“内政干渉”云々は通用しないとの国際批判によって支えられていたのではないでしょうか。
その彼女が今、国際的批判に十分に応えることなく、“内政干渉”に反対する中国への傾斜を強めるというのは、非常に残念な流れです。
【期待できない二国間協議】
なお、ミャンマー政府とバングラデシュ政府の二国間で行われている難民帰還に関する交渉に関しては、60万人を超える難民のどれだけが帰国できるのか危ぶまれるものがあります。
*****解決急ぐバングラデシュ*****
・・・・ミャンマー、バングラ両政府が帰還に向けて11月23日に交わした覚書は、難民のミャンマーでの居住証明を帰還条件にした1992年の合意を基礎としているとされる。
だが、帰還を急ぐバングラ政府は、難民からの自己申告に基づき名前や顔写真を登録する身分証発行手続きを進めている。
一方で、ミャンマー政府は住民だったと証明できる書類に基づいて審査を行うとみられ、こうした書類にこだわれば、難民は帰還できなくなる可能性がある。(後略)【12月26日 毎日】
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大量難民の圧力に苦しむバングラデシュは早急な難民帰還を求めていますが、ロヒンギャ難民が“ミャンマー国民として”“今後の安全な生活を保障される形で”帰還できるのか・・・・?
これまでのミャンマー政府の対応からすると、あまり期待できません。国連等の介在が必要ですが、ミャンマー政府は応じないでしょう。それは「民族浄化」を完遂したいためでしょうか?