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(カシュガル旧市街の入り口に立つ警官【12月22日 WSJ】 カシュガル旧市街は取り壊し・移転が進められているという話は8月31日ブログ“中国 故郷にも国外にも安住の地がないウイグル族”でも取り上げました。)
【新疆:「一帯一路」の要衝でもあり、石油など地下資源も豊富】
中国当局が国内テロの発生源とみなす新疆ウイグル自治区のウイグル族の安定が、体制維持に傾注する中国にとって、チベット問題と並んで極めて重要な「核心的利益」であることは言うまでもありません。
単にそれだけでなく、新疆は「一帯一路」にとっても要衝とも言うべき地域になっています。
中国当局は「一帯一路」推進に伴う経済効果でウイグル族の生活水準を向上させ、民族的不満を緩和することを狙っています。
ただ、その経済利益が一部漢族に集中することになれば、逆に不公平感を強めることにもなります。
****経済発展で不満封じ込め 中国新疆、効果未知数****
中国が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の重要拠点の一つ、新疆ウイグル自治区では、当局の抑圧的な政策に反発するイスラム教徒の少数民族、ウイグル族による暴力事件が多発している。習近平指導部は経済発展を通じて不満を封じ込めたい考えだが、効果は未知数だ。
同自治区はパキスタンやカザフスタンなど8カ国と隣接する。中国内陸から中央アジアや欧州へ向かう国際貨物列車が通過し、自治区南部ではパキスタンとの間を道路やパイプラインなどで結ぶ経済回廊を建設。国内外の企業や銀行の進出も増え、人やカネが集まる。
新疆社会科学院によると、自治区の2016年の域内総生産(GDP)は前年比7・6%増の約9600億元(約15兆7600億円)。高建龍院長は、市民の収入は年々増え「16年に貧困人口が60万人以上減った」と強調。
習指導部はウイグル族の生活水準を向上させて「イスラム過激思想」のまん延を防ぐ狙いだ。ただ、同構想の恩恵が漢族に集中する可能性もある。【5月15日 産経】
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また、広大な砂漠・荒野が広がる新疆は「一帯一路」の経済回廊としてだけでなく、この地域自体が豊富な地下資源を有する地域として中国にとっての重要性を持ちます。
****中国の新疆ウイグル自治区で新たな油田発見****
中国の新疆ウイグル自治区で、埋蔵量およそ10億トン分の新たな油田が発見された。
中国国際放送局のニュースによると、同国の大手エネルギー生産企業であるペトロチャイナがジュンガル盆地で油田を発見したと伝えられた。
この油田は世界最大の石油埋蔵量を持つ油田の1つだということが伝えられた。
ペトロチャイナは、ここ2年間で新疆ウイグル自治区で138万トンの石油を採掘してきた。同社は、中国の第13次5か年計画(2016-2020)開発プランの一環として、同地域からの600万トンの石油採掘を目標にしている。
世界最大のエネルギー消費国である中国の北西部に位置する新疆ウイグル自治区には、石油のほか、金、プラチナ、銀、ウラン、石炭をはじめ多くの地下資源がある。【12月5日 TRT】
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【強化された治安維持対策】
ひところ民族的独自性を封殺されたウイグル族の抵抗運動が報じられていましたが、最近はあまり見聞きしません。
もちろん問題が解消した訳ではなく、中国当局による徹底した封じ込めの“成果”でしょう。
習近平政権の言論統制や人権・民主化運動に対する弾圧は、全中国的に以前の政権以上に強まっていますが、特に安定が重視される新疆にあっては、社会秩序維持の施策・締め付けが熾烈なものとなっています。
****習氏肖像画「飾れ」ウイグル自治区で政府強制か****
米政府系放送局ラジオ自由アジア(RFA)は2日、中国のイスラム系少数民族の居住地となっている新疆ウイグル自治区の政府が一部地域で、各家庭に 習近平 ( シージンピン )国家主席の肖像画を配布し、目立つ場所に掲げて敬意を示すよう、強制していると報じた。
中国では漢族を中心に建国の父・毛沢東の肖像画を飾る家庭は多いが、現役指導者の肖像画掲示が要求されるのは異例だ。
中国では今月18日開幕の共産党大会を前に、個人崇拝も連想させる習氏を巡る宣伝が展開されている。少数民族の反政府の動きに神経をとがらせる地元政府が、習氏や共産党への忠誠をはかる「踏み絵」として、肖像画を利用する可能性もある。
報道によると、10月1日の「国慶節」(建国記念日)でも、ウイグル族ら少数民族が記念行事への参加や国歌斉唱を強いられたという。【10月4日 読売】
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****国慶節で大型連休のはずが…ウイグル自治区では返上相次ぐ 習近平氏へのご機嫌取り、突然の通達に住民不満****
中国は国慶節(10月1日、建国記念日)を祝う大型連休最終日の8日、国内外からのUターンラッシュがピークを迎えた。
一方、抑圧政策に反発するウイグル族住民と治安当局などとの間で衝突が頻発する新疆ウイグル自治区では、公的機関や学校が連休を返上する異例の態勢をとった。
今月18日に開幕する中国共産党大会を控え、自治区政府は治安維持への努力をアピールしているが、地元住民からは不満の声も上がっている。(中略)
昨年8月、新疆ウイグル自治区トップの党委書記に就任した陳全国氏は、習近平国家主席と経済路線で対立する李克強首相の元部下で、李氏に近いとされる。今回の連休返上は、足をすくわれないよう習近平氏への忠誠をアピールする狙いがありそうだ。【10月9日 産経】
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【生体データも活用した「完全監視社会」の実験場】
中国では顔認識システムなどが日本では想像できないほど進展・一般化されるなど、近未来的個人情報管理システムが構築されつつありますが、そうした管理体制のための生体データの収集がウイグル族対策として強力に進められています。
日本や欧米社会のようにプタイバシーや人権の観点から異論を唱える勢力がありませんので、当局の“やりたい放題”の感も。
****中国新疆当局、住民の生体情報を収集 人権団体報告****
国際人権団体ヒューマン・ ライツ・ウォッチ(HRW)は14日までに、中国西部・新疆ウイグル自治区の当局が、12~65歳の住民数百万人のDNAサンプルや指紋、虹彩スキャン情報、血液型を収集しているとの報告を発表した。
新疆ウイグル自治区はチベットを除いた場合、漢族が住民の過半数を占めていない中国唯一の地域で、他の地域では経験することがない厳しい管理や監視にさらされている。
当局は4月、同地域のイスラム教徒1000万人を対象に、長いひげを生やしたり公共の場でベールを着用したりすることなどを禁止。
これに先立っては、パスポートの提出や車両内でのGPS(全地球測位システム)追跡端末の設置義務付けなど、監視強化のための一連の措置も講じていた。
HRWの中国担当責任者は今回、声明で「DNAを含む全住民の生体データの強制収集は国際的な人権規範に著しく違反している」と指摘した。
中国公安当局や新疆の自治区政府は現時点でコメント要請に応じていない。中国政府は、新疆で民族的または宗教的な差別が行われているとの批判を一貫して否定してきた。
自治区政府のウェブサイトに掲載された文書によれば、今回の新措置の主な目的は、「新疆の人口の真の値を完全かつ正確に確認し、12~65歳の住民の画像や指紋、虹彩スキャン情報、血液型、DNA生体認証情報を収集すること」だとしている。
こうした情報は戸籍にひも付けられる見込み。この戸籍制度は教育や医療、住宅サービスを受けることができる場所を制限するもので、実質的には多くの人を出生地に縛り付ける形となっている。
HRWの報告によると、新措置は今年2月に施行され、この1年間を通じて新疆全土で導入されてきた。当局の指針はこうした措置について、一部は医療へのアクセスを改善するのが狙いだと説明しつつも、「身元調査のため」DNAや血液型に関するデータが警察に提供される場合もあり得るとしている。【12月14日 CNN】
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こうした当局の施策の結果、いまや新疆は「完全監視社会」の実験場ともなっているようです。
抵抗運動を最近見聞きしないのも道理です。
****中国「完全監視社会」の実験場、新疆を行く****
最先端技術で常時監視されるウイグル自治区をWSJ記者が取材
中央アジアに面する中国辺境地域、新疆ウイグル自治区の首府ウルムチは、地上で最も厳しい監視にさらされた場所の一つといえる。
市街地やその周辺にある電車の駅や道路には、身元確認用スキャナーを備えた検問所が設けられている。ホテルやショッピングモール、銀行では入り口を往来する人の顔をスキャナーがチェックする。
警察は携帯式機器を使い、スマートフォンに暗号化したチャットアプリや政治的な告発対象となる動画、その他の疑わしいコンテンツがないかを調べる。
ガソリンスタンドでは運転手がまずIDカードを機械に通し、カメラをのぞき込まなくてはいけない。
中国政府はこれまで、イスラム教徒が大多数を占めるウイグル族の一部から暴力的な分離独立運動が起きるのを抑え込もうと腐心してきた。その結果、新疆ウイグル自治区はハイテクを駆使した社会統制の実験場と化している。人権擁護活動家は政府がいずれ中国全土に広げる意向だとみている。
この地域を移動すると、政府に容赦なく見られていると実感せずにいられない。日常生活に張り巡らされた警察の検問所や監視カメラ、さらにIDカードや顔、眼球、時には全身をスキャンする機械を通らなければならないのは、住民でも旅行者でも同じことだ。
新疆ウイグル自治区は中国国内の監視体制の巨大な実験場と化した。最先端テクノロジーで常時監視される人々の生活をWSJ記者が取材した。
果物店を営むパルハット・イミンさんは今夏、未払いの電話代を払おうと通信局でIDカードを機械に通した。すると自分の写真とともに「X」印が現れた。それ以来、IDカードをスキャンするたびに警報が鳴るという。
それが何を意味するかは不明だが、何らかの監視リストに載っているとイミンさんは推測する。ウイグル族であるうえ、過去に何度か警察ともめたことがあるからだ。
イミンさんは拘束されるのを恐れ、旅行はしたくないと話す。「政府のブラックリストに載っている。もうどこにも行けない」
国民を常に監視し、その行動を教え導くための最新テクノロジーが中国全土で展開されつつある。習近平指導部のもとで表現に対する統制は一段と厳しくなった。その広大な監視網にはネット上の活動を見張り、メッセージアプリを嗅ぎ回るハイテク機器が組み込まれている。
中国政府は2014年に国内各地で続いたテロ事件以降、警戒感を強めている。当局はそうしたテロ攻撃について、新疆ウイグル自治区に拠点を置く武装グループが海外のイスラム過激派に刺激を受けて起こした犯行だとみている。(中略)
中国内外の人権活動家は、同国北西端の地で行われる監視体制は、全国的に導入される未来の姿を予言していると指摘する。
「彼らは強権的ルールを新疆でまず実施し、常に教訓を得ている」と中国の人権弁護士は話す。「新疆で何が起きるかに中国人民全体の命運がかかっている」
新疆ウイグルの日常は
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者2人は10月、新疆ウイグル自治区に車で入った。自治区につながる道路には検問所が連なり、奇妙でピリピリと張り詰めた空気が流れた。
シルクロードの商人が何世紀も前に使った吹きさらしの山道で、警官が自治区に入る車両を検査し、旅行者の身元を確認していた。記者は停止させられ、車から降りろと命じられ、訪問目的を説明するよう求められた。車の運転手は漢民族以外の者が多く、IDカードや顔をスキャンするゲートを通るよう誘導されていた。
さらに進むと、50万人都市、哈密(ハーミー)の入り口で、警官がWSJ記者にテレビスクリーンの前で待つように言った。多数のスクリーンが映し出しているのは近くの監視カメラの映像だ。警察はその間に記者のパスポート番号を書き留めた。
街中に向かう道路沿いには、監視カメラが約100メートルごとに現れ、街角をくまなく見張り、中央のモスク(イスラム教礼拝所)近くの小さな飲食店の常連客にも目を光らせていた。店を営むイスラム教少数民族、回族の女性は、政府が今年、この地域の全ての飲食店に「テロ攻撃を防ぐため」の機器を設置するよう命じたと話す。
数日後、記者が鄯善(シャンシャン)県の砂利道を走行していると、パトカーがどこからともなく姿を現した。記者が近くの町を立ち去るよう命じられた直後のことだ。
パトカーは猛スピードで抜き去ると斜めに急停車し、砂ぼこりの上がる中、記者の乗る車を制止した。スポーツ多目的車(SUV)も1台、後ろに止まった。6、7人の警官が車から降りろと記者に命じ、パスポートを要求した。
警官は、監視カメラが域外のナンバープレートを発見し、警報装置が作動したと説明した。「新疆以外の車両を全て調べている」。警官はその後、記者が幹線道路に乗るまで見送った。
果物店のイミンさんが暮らすウルムチの二道橋(アルダオチァオ)地区には「コンビニエンス交番」と呼ばれる小さな建物がある。先端にライトが点滅するポールが立っており、200メートル弱の間隔で設置されている。駐在する警官は水や携帯電話の充電などのサービスを提供するかたわら、近くの監視カメラの映像をチェックする。
ウイグル族の若い男性は定期的に交番に出頭し、携帯電話のチェックを受ける。ウイグル族の亡命者によると、彼らの一部は2台を使い分けているという。1台は自宅用、もう1台は詮索を受けるようなコンテンツやアプリを搭載していない外出用だ。(中略)
暴動の後、当局者がやって来てイミンさんが当時営んでいた衣類や宗教雑貨の店を無理やり閉鎖した。抗議すると、警棒で後頭部を殴られたとイミンさんは話す。その影響で今も足を引きずって歩いている。イミンさんは公務執行妨害で6カ月間拘禁され、その後も大麻購入などの罪で何度か刑務所に入った。
6段階で危険度を判定
中国の為政者は「新疆」を統治するのに歴史的に苦労してきた。習政権はかつてのシルクロードに沿ってインフラ整備を進める「一帯一路」構想にとって、この地が不可欠だと考えている。
昨年、習氏はこの自治区の新たな党委員会書記に陳全国氏を抜てきした。陳氏はそれまで、やはり火種を抱えるチベット自治区の書記として民族問題に対処していた。
コンビニエンス交番など先駆的な対策をチベットに導入したのも同氏だ。中国政府の弾圧に抗議するチベット人僧侶の焼身自殺が続いたことがきっかけの一つだった。
陳氏の指揮の下、新疆ウイグル自治区では警察の存在感が飛躍的に高まった。データによると、警察官の募集広告が急激に増えたことがわかる。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが発見し、WSJが閲覧した政府調達資料によると、地元警察署は顔の3次元画像を映し出せるカメラやDNA解析装置、音声パターン分析システムを昨年から発注し始めた。(中略)
中国当局はウイグル族の個人情報を所定の形式で細かく記録している。WSJが入手したある書式では、祈りなどの宗教的習慣や、海外にいる連絡相手の有無などを答えることになっている。
また、その人物が「(犯罪の)重要参考人」かどうかを当局が6段階で判定する欄や、「安全」「普通」「危険」のいずれかを選ぶチェックボックスもある。
キルギスタン国境に近い都市、喀什(カシュガル)はウイグル族が大多数を占め、漢民族の構成比は7%に満たない。同市周辺の監視体制はウルムチよりも一段と厳しい。
同市に入る車両のドライバーは厳重なチェックを受ける。ドライバーの顔を一人ずつ機械でスキャンし、警官がエンジンやトランクの中を調べる。乗っている者は車の外に出て、かばんをエックス線検査装置に通さなくてはならない。
カシュガル市内から車で30分の場所に真新しい施設が立っている。周囲を取り囲む壁の上部には有刺鉄線が設置され、2カ所の見張り塔がある。
新疆では当局が「教育センター」と呼ぶ収容所が次々に建てられたが、村人たちはここも収容所だと説明する。ある夜、入り口近くに立っていた男性は「学校」だと話し、WSJ記者に立ち去るよう勧告した。
ハムトさんの話では、カシュガルに住む親戚がイスラム教の式典に参加した後、収容所に連行されたという。
新疆ウイグル自治区での滞在最終日、WSJ記者は早朝5時にウルムチ空港に向かった。それを覆面パトカーが追ってきた。(後略)【12月22日 WSJ】
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2012年に新疆のトルファンからウルムチにローカルバスで移動した際に、バスから全員降ろされて検問を受けました。私は外国人ということで、一人だけ検問所みたいな小屋に連れていかれ、特別にパスポートチェックを受けました。
2,3人が私のパスポートをいじくりまわしていました。「日本語が読める訳でもあるまいし・・・」とは思いつつも、狭い小屋に自動小銃を下げた者もいるような状況ですから、「日本国パスポート」の威光に期待して、ご機嫌をそこねないようにしていました。
あれから5年以上が経過し、テロだか民族的抵抗運動だかの騒動も多発しましたので、今では当時など比較にならないぐらいに厳しくなっていると思われます。