【12月4日 毎日】
【国内に強い和平合意に否定的な声】
サントス大統領がノーベル平和賞を受賞するなど、国際的には評価が高い南米コロンビアの左翼ゲリラ組織FARCとの和平合意ですが、FARCによる被害者や遺族を中心に、国内的には和平合意を評価しない声が大きいのも事実です。
****コロンビアは今 和平合意から1年/4 続く国民の「分断」****
・・・・和平合意を受け入れる遺族や被害者がいる一方、国民のFARCへの不信感は根強い。FARCが政党「人民革命代替勢力」になった後の今年10月末に実施された米ギャラップ社の世論調査では、6割以上が「FARCは和平合意を履行しないと思う」と回答した。
政府軍の指揮官だった父が1998年にFARCに誘拐、殺害されたボゴタのジェニア・アルバドさん(25)は「幼い頃の出来事だが、今も思い出すのがつらい」と声を震わせ、「FARCに譲歩した和平合意は絶対に反対だ」と憤る。
和平合意は昨年10月の国民投票で小差で否決された。だがその後、内容を一部修正した上で、国民投票にかけず、議会承認で発効した経緯がある。
和平合意の否決を主導したウリベ上院議員(元大統領)が率いる中央民主党は10月、合意の無効か変更をにらみ、再度の国民投票を実施するため署名集めを始めた。
同党所属のアルバルド・プラダ下院議員(44)は「今も700人がFARCに誘拐されたまま、行方が分からない状況だ」と指摘し、「犯罪を犯したFARCが政治参加したり、元メンバーに免責を与えたりするのは到底、受け入れられない」と強調する。来年3月までに国民投票の実施に必要な約170万人を超える300万人分の署名を目指す。
和平合意後も残る国民の分断。「真の和解」に向けたコロンビア社会の苦闘は終わらない。【12月4日 毎日】
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特に、FARCのリーダーが大統領選挙に出馬すると表明したことで、反対勢力の怒りは高まっています。
****ゲリラの大統領選立候補に非難渦巻くコロンビア*****
政府とゲリラの和平合意が国民投票で否決されたものの、大統領がノーベル平和賞をもらったこともあり、合意文書をどうにか締結させた南米コロンビア。
その締結一周年を前にした2017年11月、今度はゲリラの頭目が18年の大統領選への立候補を表明し、「調子に乗るな」「いい加減にしろ」と保守勢力から非難の大合唱が起きている。
コロンビアは独立を挟んだ過去200年あまり、地主と小作、富裕層と貧困層との戦乱が繰り返され、16年に和平合意に至ったコロンビア革命軍(FARC)ら左翼ゲリラと政府軍は最後の半世紀の暴力を担ったにすぎない。
200年におよぶ内乱の終結という「大きな物語」が前に進んだのは確かだが、この国は依然、いくつもの否定的な「小さな物語」を抱えている。
コロンビア革命軍はその名を「コロンビア革命代替勢力」(FARC)に改め、合意文書で約束された政党として議会に10議席を確保されている。
スペイン語のArmada(武装)という言葉をAlternativa(代替)に変え、なぜか略称のFARCをそのまま残している。面白いのはR、つまりRevolucionaria(革命的)という言葉を温存しているところだ。武器なしでも、今も革命を、国家転覆を、富裕層打倒を目指しているという意味だ。
ゲリラ時代の議長で現党首、ロドリゴ・ロンドーニョ氏、通称ティモチェンコは17年11月、大統領選に出馬すると言い出し、右派の怒りを買い、2代前と1代前の大統領が共闘し始め、2人で大統領候補を選ぶと言い出した。
2人はサントス現大統領による和平合意に一貫して反対してきた古株で、仮にこの共闘勢力が大統領選で勝てば、和平合意をご破算にしかねない。
特に2代前のウリベ元大統領は米軍を呼び込み大規模なゲリラ掃討作戦を展開した人物。下手をしたら再びFARCを野に放つといった最悪のシナリオもささやかれている。
00年代初頭には1万8000を数えたFARCの戦闘員は9000人にまで減ったが、17年9月に武装解除し、社会復帰のための滞在施設に入ったのは8000人。その半数がすぐに姿を消し、約1000人が今も武装したまま、かつての支配地域でコカイン栽培の縄張り争いなどに当たっている。
議会では、和平合意は甘すぎるという意見を受け、内戦中の戦争犯罪を裁くよう新たな法廷を設立する法案が通過した。犯罪を告白すれば罪に問われない「真実委員会」のような形になるようだが、18年の大統領選で右派が勝てば、これもどうなるかはわからない。(後略)【12月13日 WEDGE】
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【進まぬ社会復帰 FARC側にも不満が】
不満が募っているのは、ゲリラ組織FARCも同様です。不満の矛先は、約束を履行しない政府です。
“元メンバーが社会復帰訓練を受ける一時滞在施設は予定の半分以下しか完成しておらず、社会復帰プログラムの導入も遅れている。国連は元メンバーの約半数が施設を去ったとの報告を発表しており、深刻な状況だ。”(コロンビア国立大のダニエル・ガルシア教授(政治学))【12月5日 毎日】
FARCの元メンバーやその家族が殺害される事件も多発しており、武装解除に応じていないメンバーも。
****<コロンビア>和平、道半ば 元ゲリラ社会復帰困難****
◇FARCと政府と合意1年
南米コロンビアで半世紀以上の内戦を続けた左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」と政府との和平合意が発効して30日で1年となる。
この間、FARCは武装解除を完了し、政党「人民革命代替勢力」(略称FARC)に生まれ変わった。しかし、元メンバーの社会復帰は順調にいかず、真の和平に向けて課題は山積だ。
サントス大統領とFARCのロンドニョ党首(元FARC最高司令官)は24日、2人が合意に署名して1年を記念したイベントに参加した。両者は合意の履行を進めると強調したが、サントス氏は「FARCが不満を言ったり、心配したりしているのを知っている」と明かした。
合意にあたり、政府は元メンバーの安全を保障。だが合意後、数十人の元メンバーや家族がほかの武装勢力に殺害され、FARCは不信感を募らせる。
FARCは8月、国連監視のもと武装解除を完了し、9月に政党になった。だが国連によると、約8000人のメンバーが社会復帰のための一時滞在施設に入ったが、半数近くが途中で退去。約1000人のメンバーは武装解除に応じず、ゲリラ活動を続けている。
また合意事項の一つとして、FARCに国会で議席が与えられることに関し、政府やFARCへの不信感は国民の間で依然として根強い。ボコタ市民のセルジオ・トーレスさん(68)は「なぜ、人殺しのFARCが議員になれるのか理解できない。国会でろくに議論せず拙速だった」と非難する。
◇コロンビア和平合意
(中略)合意は▽FARCは18年から8年間、上下両院で各5議席を得る▽犯罪を告白したFARC幹部は懲役刑の代わりに社会奉仕活動に従事する−−などの内容。【11月28日 毎日】
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FARC残党が加担した武力衝突も報じられています。
****左翼ゲリラ戦闘、13人死亡=FARC残党交戦―コロンビア=****
コロンビア政府は5日、エクアドル国境に近い西部ナリニョ州のマグイパヤンで11月27日に農民武装組織と左翼ゲリラ民族解放軍(ELN)が衝突し、市民ら13人が死亡したと発表した。ELNは10月から政府と停戦中で、政府は「停戦合意違反だ」と非難している。
既に武装解除した左翼武装組織コロンビア革命軍(FARC)の残党の支援を受けた農民組織が、服従を求めるELNと銃撃戦となった。死者にはFARC残党2人が含まれているとみられる。(後略)【12月6日 時事】
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【FARCの空白を埋める麻薬組織の抗争も】
更に、麻薬関連からFARCが手を引いた空白を埋めるように、麻薬密売グループ間の抗争も激化しているようです。
****内戦から麻薬抗争へ、出口の見えないコロンビア*****
コロンビアの港湾都市トゥマコでは、半世紀続いた内戦が和平合意により終結してから1年が経過しても、いまだに銃弾が飛び交っている。
(中略)政府軍と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との戦いによって家を追われた人々は再び、銃弾にさらされている。今度は多額の利益をもたらす太平洋沿岸のコカイン密輸ルートをめぐり、勢力争いを繰り広げる麻薬密売グループらの抗争だ。
マルシア・ペレアさん(47)は「私たちのアパートも銃撃されました。恐怖で赤ちゃんが泣き叫びました」と語る。リビングと寝室を仕切っていたドアの枠はいくつもの銃弾によって穴が開き、プラスチックの椅子も粉々に砕け散った。
マルシアさんの隣人の大半は、国内の別の場所からここへ逃れてきた。コロンビアで50年以上続いた内戦によって家を追われた人々は、約700万人に上る。
彼らが住む粗末な小屋は、悪臭を放つ沼地の上に立っており、ぼろぼろの木製の橋がもつれた蜘蛛の巣のように小屋と小屋をつないでいる。
1991年からコロンビアで活動しているNGO「ノルウェー難民委員会(NRC)」のクリスチャン・ビスネス代表は「トゥマコは、コロンビアで続く紛争の中心地の一つだ」と語った。
エクアドルとの国境に位置するナリーニョ州の港湾都市であるトゥマコは、この地域一帯の大規模な麻薬密売ルートの中でもトップを占めている。ここからはボートや潜水艇を利用して、中央アメリカやさらにその北にある巨大市場・米国に向かうことができる。
コロンビア政府は先ごろ、FARCや他のグループのメンバーらを追跡するため、9000人規模の軍や警察を配備すると発表したが、うっそうとしたジャングルと沿岸部のマングローブの沼地は、政府による監視を困難なものにしている。
■縄張り争いにかき消された和平合意
麻薬カルテルにとって、トゥマコは密輸のための戦略的ルートというだけではない。この地域には、コロンビア最大のコカの栽培地があり、世界最大のコカイン生産地となっているのだ。麻薬密売経路におけるすべてのネットワークは、この場所に集中している。
コロンビア政府が1年前にFARCと和平合意を結ぶと、周辺地域でのゲリラ活動の特徴である手りゅう弾による攻撃が減少したと、ある人権団体の代表は言う。
しかし、大いに期待された平和は長続きしなかった。「私たちが今、心配しているのは、殺人の増加です」と同代表は語った。
戦闘資金をコカインの密輸で調達していたFARCが武器を置いて立ち去ると、他の武装集団が力の空白を利用して流入し、敵対する集団同士の縄張り争いが始まった。
NRCのビスネス氏によると、現在、15もの反社会的集団が、多額の利益がからむ麻薬取引の主導権争いをしているという。(中略)
■「すべての問題の引き金は、コカ」
NRCによると、トゥマコでは1月~10月までの間に少なくとも2665人が自宅を離れて避難することになった。
トゥマコ教区のアルヌルフォ・ミナ司教代理は、すでに数十件の殺人事件が発生していると訴えた。「ここではコカが、すべての問題の引き金になっている」
昔から太平洋沿岸部は、コロンビア国内の他の地域からないがしろにされてきたとミナ氏は指摘する。トゥマコでは、人口のおよそ半数が貧困生活を送っており、その大半は安全な飲料水さえも手に入らない。
ミナ氏は「もしも政府が積極的な社会的投資計画を打ち出すことができなければ、前途にはいっそうの問題が待ち受けているだろう」と語った。
コロンビアから苦悩の半分を取り除くはずだった和平合意から1年。黒い砂のビーチと沿岸部の絶景から、かつては「太平洋の真珠」として知られたトゥマコは今、地獄の入り口にある楽園のようにみえる。【12月17日 AFP】
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【今後を左右する大統領選挙】
このように問題は山積していますが、前出【WEDGE】は、以下のようにも。
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このように否定的な「小さな物語」をあげればキリがない。
だが、例えば1990年代の南アフリカではアパルトヘイト崩壊後も騒乱が延々と続いたが、真実委員会などを経て、数年で政治的暴力は収まった。
コロンビアも政争が盛り上がり、通常の犯罪が増えたとしても、内戦終結という「大きな物語」が覆ることはないだろう。【12月13日 WEDGE】
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是非とも、そうあって欲しいものです。ただ、コロンビアには国民に信頼されたネルソン・マンデラがいないのが問題です。
今後の展開を左右するのは来年の大統領選挙です。
****和平合意から1年/5止 行く末占う大統領選 ダニエル・ガルシア コロンビア国立大教授(政治学)****
(中略)
--大統領選の見通しは?
◆第1回投票が5月にある大統領選はこの数十年で最も重要な選挙で、和平合意の行く末に大きな影響を与える。最近、合意に反対する中央民主党と保守党が大統領選で共同候補を擁立すると発表し、これが大きな右派勢力を形成する。右派が政権を取れば、和平合意を無効にするための国民投票を実施するだろう。
--残る左翼ゲリラ「民族解放軍(ELN)」との和平交渉の状況は?
◆FARCの交渉相手は政府だったが、ELNは政府だけでなく、さまざまな分野の市民社会や地域コミュニティーを巻き込んだ和平合意を目指している。このため、より複雑でより難しい。
大統領選があるためサントス政権で合意にこぎ着けるのは困難だろう。問題は、FARCとの和平合意を履行するにあたり政府の法令順守意識の欠如が明らかになったので、ELNは政府の実行力に懐疑的になっていることだ。【12月5日 毎日】
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サントス大統領の支持率26%という不人気ぶりを考えると、上記右派勢力による政権奪取、合意無効の国民投票実施という可能性も相当に高いようにも思えます。
そうなれば、再び内戦の火の手もあがります。残念な流れです。