孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  中国の「一帯一路」への対抗姿勢を強めるも、止まらない中国の勢い

2017-12-18 22:44:02 | 南アジア(インド)

【12月15日 姫田小夏氏 DIAMONDonline】

伝統的インド勢力圏で影響力を拡大する中国
インドが、「一帯一路」のもとでインド周辺地域への影響力を強める中国に対し、強い警戒感を持っていることは今に始まった話でもありません。

しかし、インドの懸念にも拘わらず、情勢は中国に傾く流れにも見えます。

****<ネパール下院選>野党連合が圧勝 親中政権発足へ****
ネパール下院選(定数275議席)は13日、小選挙区の投票結果が確定し、地元メディアによると、中国寄りとされる野党連合「左派同盟」が165議席中116議席を獲得して圧勝した。開票作業が続く比例代表(110議席)でも左派同盟が優勢で、親中政権が発足する見通しとなった。
 
報道によると、左派同盟の統一共産党が80議席、ネパール共産党毛沢東主義派(毛派)が36議席を獲得。与党・ネパール会議派は23議席にとどまった。首相には統一共産党のオリ議長が就任するとみられている。

インドと中国に挟まれた小国ネパールはバランス外交を強いられてきたが、親中政権の発足で中国の支援によるインフラ開発などが進む可能性がある。【12月14日 毎日】
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「左派同盟」が持続するのか?という問題はさておき、“NCP(与党・ネパール会議派)は親インド住民「マデシ」への支持拡大を狙う戦略を採用。11月13日に政府は、中国企業と契約していた中部ブディガンダキ川での水力発電所プロジェクトを取り消すなどして、インドに近い層を取り込む作戦に出ていた。”【12月11日 産経】という与党・ネパール会議派の戦略は、大地震から2年半が経過してもいまだ復興が進まないなかでの「何党でも中国でもインドでもいい。生活を楽にしてほしい」【11月25日 産経】「これまで政府は再建に十分な支援をしてくれなかった。家が再建できるなら、中国が背後にいようと知ったことではない」【11月26日 時事】という国民の声に対抗できなかったようです。

“主要地元メディアは左派同盟の背後に「中国の存在がある」と指摘する”【11月25日 時事】という「左派同盟」圧勝で、インドの影響力が伝統的に強いネパールの中国への接近が加速されるだけでなく、南アジア全域の流れにも影響しそうです。

同じく伝統的なインド勢力圏のスリランカにおいても、“借金のカタ”に中国が重要港湾の経営権を取得することになっているのも、これまでも取り上げてきたところです。

****中国が「借金のカタ」にスリランカ有力港湾を99年間経営、日印対抗****
米紙ニューヨーク・タイムズは12日付で、スリランカ政府が9日、同国南部のハンバントタ港の経営権を中国国有系企業に譲渡する手続きを完了させたと報じた。インドは中国のスリランカ進出を強く警戒しており、日本とともにスリランカへの投資に注力するなどの動きを示している。

中国がスリランカへの進出を本格的に始めたのは、2005年11月から15年1月まで続いたラジャパクサ前大統領の時代だ。西側諸国がラジャパクサ政権には深刻な人権侵害の問題があるとして距離を置いた時期に、中国は同政権と急接近してインフラ整備などの投資事業を進めた。

スリランカではラジャパクサ大統領に対して、中国資本絡みで進めた港湾や空港などのインフラ整備計画などで不正な利益を得ているとの批判が出た。ラジャパクサ大統領は大統領三選を禁止する憲法を修正して2015年1月の大統領選挙に出馬したが、汚職や独裁、極端な親中政策が批判され落選。対立候補のシリセナ氏が大統領に就任した。

シリセナ大統領は当初、中国企業絡みのインフラ整備を凍結する意向を示したが、2016年になると建設の再開を認めるようになった。ハンバントタ港については、17年7月に同行の株式70%を中国国有系企業の招商局港口に11億ドル(約1240億円)で売却する契約を結んだ。

ニューヨーク・タイムズによると、スリランカ国会は12月8日に同契約を認めることを採決し、政府は9日に関連手続きを完了させた。招商局港口が今後99年間にわたるハンバントタ港の経営権を取得することが最終的に確定した。

スリランカ政府は深刻な財政難を抱えており、インフラ整備などでは中国企業に対して80億ドル(約9020億円)以上の債務がある。ハンバントタ港の経営権譲渡は中国企業への債務返済に充てられる。

構図としては、インド洋進出を強化する中国の思惑に乗った結果として返済に苦しむことになり、「借金のカタ」として自国にとって重要なインフラ施設である港湾の経営権を譲り渡したことになる。

スリランカ国内でも批判の声や抗議活動が発生していたが、ウィクラマシンハ首相は国会に対して、港湾地区に造られる経済ゾーンや産業施設は経済発展と観光客誘致をもたらすと説明した。

スリランカにはかつて、インドの衛星国のような側面があった。インドは領土問題などで中国とは対立関係にあり、中国のスリランカへの本格進出を警戒している。

ニューヨーク・タイムズによると、インドは日本と共同でスリランカ東部の港湾を開発する動きを進めており、ハンバントタ港の近隣地区での空港建設に対する投資でもスリランカ側と交渉を始めた。

日本側の最近の動きとしては、河野太郎外相が1月上旬にパキスタンとスリランカを訪問する方向で調整しているとされる。さらにミャンマーとインドも訪れ、「質の高いインフラ」の整備について各国外相らと会談する方針だ。河野外相の南アジア歴訪には、中国の進出をけん制する狙いがある。【12月15日 Record china】
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インド:スリランカ・ハンバントタ港に近い空港買収で中国を牽制
インドも手をこまねいている訳でもないようです。
問題のハンバントタ港近くに、ラジャパクサ前大統領が地元に建設した“世界で最も利用者の少ない空港”がありますが、この空港をインドが買収して、中国の港湾利用を牽制する目論みとも。

****インドが世界で最も利用者の少ない空港を買収、中国をけん制か****
・インドが、スリランカで2番目に大きな空港を買収する。だが、この空港の1日あたりの利用者数は10人ほどだ。

・買収の背景には、インド洋で存在感を増す中国に対する懸念がある。中国は最近、重要な貿易ルートに位置する近くの港を掌握していた。

・専門家は、今回のインドによる3億ドルの投資は、中国がこの港を軍事拠点として使用する可能性を削ごうとするものだと話している。(中略)

「海外の海軍拠点はもちろん、物流施設にとっても、人や物に空から容易にアクセスできることが重要だ。海軍の拠点であれば、沿岸の空中監視能力も必要になる。ハンバントタ港に近い空港をコントロールできれば、港の使い道に関しても、インドがある程度の影響力を持つことができる」ブリュースター氏は言う。

「空港抜きでは、中国海軍がハンバントタをその重要な拠点として開発することも難しくなる。要するに、インドは3億ドルで空港を買うことで、中国の海軍拠点をブロックしている」(中略)

インドでは、ハンバントタ港の買収は、中国の海上交通路戦略「真珠の首飾り」の一環と捉えられている。

1つ1つの真珠は、中国の軍事資産やインド洋やアジア太平洋の同盟国を意味し、それをつなげることでインドを取り囲もうというもの。マレーシアやパキスタン、バングラデシュ、ミャンマーもこれに含まれる。

中国は今年の夏、初の海外軍事基地をインドのすぐ西に位置するジブチに設置した。【12月18日 BUSINESS INSIDER】
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日本もインドと連携して「自由で開かれたインド太平洋戦略」で、「一帯一路」に対抗
日本もインドと連携して「自由で開かれたインド太平洋戦略」を進めることで、中国の進出を抑止しようとしています。

****中国の「一帯一路」にインドが反旗、アジア2大国の壮絶バトル****
中国の「一帯一路」と袂を分かつインド
インドと中国が世界の「パワーゲーム」の主力になるといわれる中で、2大国の拮抗がクリアになってきた。「一帯一路」構想と袂を分かつかのような動きがインド、そして日本に顕在化している。
 
それを象徴する動きが、今年5月に北京で開催された「一帯一路」構想の国際フォーラムだ。インドが、このフォーラムに政府代表団を派遣しなかったのである。インドは「一帯一路」構想に第一陣として参加する、アジア21ヵ国のうちの一つであったにもかかわらずだ。

「一帯一路」構想に対するインドの懸念は、パキスタンのインフラ建設「中パ経済回廊」に他ならない。中国の資金で進めるこの回廊が、パキスタンとインドがともに領有を主張する、インドのジャムカシミール州を通過することに不快感を示しているのだ。

「海上のシルクロード」といえば、あたかも交易の発展に資する“夢の航路”を想像させるが、インドにとっての現実はそんなポジティブなものではない。中国がインドを取り囲むようにして進行させる「一帯一路」構想で、インドの影響力は徐々に減退する傾向にある。
 
すでに中国の影響力は「南アジア地域協力連合(SAARC」の加盟国にも及んでおり、“インドの裏庭”といわれるスリランカやバングラデシュなどでは、中国資本による港湾開発が行われている。
 
日本の海洋政策に詳しい専門家によれば「インド洋で中国の潜水艦航行が常態化し、原子力潜水艦すら目撃されている」という。

中央アジアはインドの生命線 カザフスタンの原油輸入で対立
中央アジアをめぐっても、インドは中国と真っ向から対立する。
 
中国は、資源確保をめぐり、中央アジアを「一帯一路」構想の重要な沿線の国々として位置付けている。原油の調達先を西から東に移動する動きを見せており、中国の資源専門メディアが「従来のアフリカから中央アジアにシフトさせている」と指摘するように、中国はカザフスタンからの原油の開発輸入を期待している。
 
しかし、それはインドの利益と反する。インドもまた、カザフスタンからの資源輸入を狙っているのだ。資源確保と同時に、中央アジアにおけるプレゼンスを高め、企業を進出させ、そこで生産した製品を欧州に送り込む狙いもある。
 
また「一帯一路」構想そのものが、インドの利益と反するといえる可能性がある。インドは、中国の「一帯一路」構想の発表から10年以上もさかのぼる2002年に、ロシア、イランとともに「北南輸送回廊(INSTC」を打ち出しているのだ。
 
全長7200キロメートルにおよぶこの経済回廊は、インドと中央アジアやロシアを鉄道、道路、船を使ってイラン経由で南北に結ぶもので、2015年時点でベラルーシ、カザフスタン、タジキスタン、オマーン、アルメニア、アゼルバイジャン、ウクライナ、キルギスタン、トルコがこれに参加している。

インドは、米国や欧州の対イラン制裁などを理由にINSTCを10年にわたり凍結させたが、近年再びこれを復活させた。インドには、INSTCをさらに拡大する計画がある。
 
インドのムンバイとイランのバンダルアッバス港を海路で結び、その先のアゼルバイジャンの首都バクーを経由し、モスクワ、サンクトペテルブルクへと陸路で結ぶというルート、またロシアからバルト海に出て欧州をめぐるルート以外にも、イランからトルクメニスタン、カザフスタンを結ぶ鉄道をイラン国内の鉄道に連結させてペルシャ湾に至るルートなど複数が存在する。あたかも「インド版一帯一路」を見るかのようだ。

ソ連崩壊後、インドはパキスタンを牽制する意図から、真っ先に中央アジア5ヵ国と外交関係を結んだが、インドにとって中央アジアは軍事的にも切り離すことができない。

物流の9割を海運に依存する日本はインドと連携
2017年5月、アフリカ開発銀行の年次総会で、インドのモディ首相は「アジア・アフリカ成長回廊(AAGC)」の骨子を明らかにした。
 
東南アジア─太平洋─南アジア─アフリカをカバーするこの経済回廊の特徴は、質の高いインフラ建設と、人と人とのパートナーシップを重視する点にあり、健康、医薬、農業あるいは災害対応などのプロジェクトが優先される。素案づくりにはインド、ジャカルタ、東京の調査チームや学者が臨んでおり、2016年に日印首脳間で合意が形成されている。

また、安倍晋三首相は海洋の安全保障を強化するため、今年11月のアジア歴訪時の首脳会談において、自身が提唱する「自由で開かれたインド太平洋戦略」に米豪印との連携を確認した。
 
もともとこの構想は、安倍首相が提唱した「日本とハワイ(米国)、オーストラリア、インドの4ヶ所をひし形に結ぶ安全保障のダイヤモンド構想」がベースとなっており、インドを取り巻くようにして中国が布石を打つ海上ルート(「真珠の首飾り」)への抑止が原点にあるといわれている。背景には、物流の9割を海運に依存している日本の現実がある。

もちろん中国は、インドや日本の動きを好ましくは思っていない。中国の『環球時報』は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」という概念について、「中国を狙ったものであり、インドの役割を強調したものだが、その戦略は今のところ中身がない」と批判する。
 
その一方で、中国はこの4ヵ国にとっても1位の貿易パートナーであることを強調し、中国と経済貿易関係を強めるインド太平洋地区の国家は、「自国の発展を犠牲にするような選択をするのか」と疑問を投げる。(後略)【12月15日 姫田小夏氏 DIAMONDonline】
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ロシアはインドに「一帯一路」への協力を提言
一方、ロシアがインドに対し、「一帯一路」に協力するよう提言し、中国を側面から支援するという動きも。
別にロシアは中国のために動いている訳でもないでしょうが、その思惑はよく知りません。

****ロシア、インドに「一帯一路」への協力提言 中国を側面からサポート****
ロシアは11日、インドに対し、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」に協力するよう提言し、中国を側面から支援した。

インドは、中国が一帯一路の一環としてパキスタンとの間に建設する経済回廊が、インド・パキスタン両国が争っているカシミール地域を通ることに強く反発。5月に中国の習近平国家主席が開いた一帯一路フォーラムを公式にボイコットした唯一の国となった。

こうした中でロシアのラブロフ外相は、中国の王毅外相、インドのスワラジ外相との3者会談を踏まえ、「インドがいくつかの問題を抱えているのは承知している。われわれは本日、一帯一路のコンセプトについて議論したが、個別の問題があるからといって政治的解決を他のすべての分野に結び付けるべきではない」と語った。

その上でラブロフ氏は、ロシアと中央アジア、欧州のあらゆる国が一帯一路の推進に同意していることが事実だと指摘。「インドには、このプロセスから恩恵を得られるようにする道を探せるだけの非常に賢明な外交官や政治家がいると、私は100%信じている」と強調した。

一方、スワラジ氏は3者会談では経済的問題やテロとの闘いに関して、とても建設的な話し合いがあったとだけ述べた。【12月12日 ロイター】
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中印国境紛争地で軍事拠点化を進める中国
周知のように、インドは国境問題でも中国と恒常的に小競り合いを繰り返しいますが、南シナ海同様に着々と軍事拠点化を進める中国に対して、インドは後手に回っているようにも見えます。

とりあえず関連記事見出しだけ。

“中印紛争地区、離脱合意のはずが「中国固有の領土だ」 軍駐留を継続、トンネル建設も着手か”【12月2日 産経】
“インド無人機侵入を非難=「強烈な不満」―中国”【12月7日 時事】
“ドローン墜落にインド抗議、中国メディア反論「インドが謝罪すべき」”【12月11日 Record china】
“中国、係争地にヘリパッド建設=「恒久的駐留」―インド紙”【12月11日 時事】

中国が一枚上手のような感も。

アメリカ・トランプ大統領は中国を“競争相手”と明示するも・・・・
いずれにしても、インド・日本・アメリカが束になっても、中国の勢いはなかなか止められないようにも見えます。

日本が頼みとするアメリカ・トランプ大統領は、18日に予定している国家安全保障戦略の発表で、中国とロシアはアメリカの競争相手であり、安全や繁栄を脅かそうとしているとの見解を述べる見通しと報じられていますが、南シナ海での中国進出への対応など、明確な強い姿勢は見えません。

むしろ、いつでも“ウィン・ウィン”の関係として中国と手を結ぶ用意があるようにも見えます。

日本は、そうした現実を踏まえた戦略を考える必要があるでしょう。
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