(中朝国境の鴨緑江で漁をする北朝鮮の住民。中国の国境警備隊から許可を得ていると思われる=2017年9月(撮影:パク・ヨンミン)【12月13日 石丸次郎氏 YAHOO!ニュース】)
【中国が密かに難民キャンプ建設】
北朝鮮への強硬な対応については、その結果、体制崩壊した場合の大量難民にどのように対応するのか・・・という難しい問題があることは周知のところです。
9月には、かねてよりこの種の問題への見識を披露している麻生副総理の問題提起が話題になったこともあります。
****麻生副総理「警察か防衛出動か射殺か」 武装難民対策****
麻生太郎副総理は23日、宇都宮市内での講演で、朝鮮半島から大量の難民が日本に押し寄せる可能性に触れたうえで、「武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない」と語った。
麻生氏はシリアやイラクの難民の事例を挙げ、「向こうから日本に難民が押し寄せてくる。動力のないボートだって潮流に乗って間違いなく漂着する。10万人単位をどこに収容するのか」と指摘。さらに「向こうは武装しているかもしれない」としたうえで「防衛出動」に言及した。
防衛出動は、日本が直接攻撃を受けるか、その明白な危険が切迫している「武力攻撃事態」などの際に認められており、難民対応は想定していない。(後略)【9月24日 朝日】
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体制崩壊時の大量難民は日本にも渡来するでしょうが、陸続きで、国境近くに朝鮮族が多数生活している中国にとっては、日本よりはるかに深刻な問題となります。
中国が、北朝鮮へのアメリカによる武力攻撃においそれと乗れない大きな理由のひとつが、この難民問題、その結果、中国の政治体制自体に大きく影響することがあるとされています。
ただ、北朝鮮情勢がここまでくると、中国としても難民問題への具体的対応を検討せざるを得ない状況にもなっているようです。
****中国が密かに難民キャンプ建設──北朝鮮の体制崩壊に備え****
<難民キャンプのネット接続サービスを請け負ったらしい国営チャイナ・モバイルの内部資料から明らかになった詳細とは>
中国は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)体制崩壊による難民の大量流入に備え、1400キロ余りの国境沿いに数カ所の難民キャンプを建設する計画を密かに進めている。
朝鮮半島の危機に備えた難民キャンプ建設計画の詳細は、国有の通信大手・中国移動通信(チャイナ・モバイル)の内部資料から明らかになった。12月7日に資料の一部が中国のソーシャルメディア「微博」を通じて一気に拡散。英紙フィナンシャル・タイムズが10日に報じた。
資料(本誌の調査では信憑性を確認できなかった)によると、チャイナ・モバイルは難民キャンプのインターネット接続サービスを請け負ったとみられ、中国北東部の吉林省白山市にある北朝鮮国境の町、長白朝鮮族自治県の3つの村と、省内の2つの都市に難民キャンプが建設されるという。
「国境を越えた情勢の緊迫化により......党委員会と長白朝鮮族自治県政府は、5カ所の難民キャンプの設置を提案した」と、資料には書かれている。
資料には、チャイナ・モバイルが「北朝鮮との国境沿いの緊張」に対応するため、工事を請け負ったことが明記され、長白朝鮮族自治県の3カ所の建設予定地も記されている。
北朝鮮との国境沿いに点々と
加えて、米紙ニューヨーク・タイムズによると、吉林省の2つの都市、図們と琿春にも難民キャンプが建設される予定だと、地元の実業家が匿名で明かしたという。この2つの都市は国境の川・図們江(豆満江)を挟んで北朝鮮に面し、脱北者の収容所がある。
一方、長白朝鮮族自治県は、鴨緑江を挟んで北朝鮮の恵山市の対岸に位置し、金政権が9月3日に行った地下核実験の震動が感じられたほど北朝鮮に近い。
「政府はこれらの収容先を指定したが、心配することはない。地元ではパニックは起きておらず、騒ぐようなことではない」と、チャイナ・モバイルの長白支社の広報担当は述べた。
11日に行われた中国外務省の定例記者会見では、陸慷(ルー・カン)報道官は難民キャンプの建設計画について「そうした報道は目にしていない」と述べ、事実とは認めなかったが、否定もしなかった。
中国は北朝鮮の政治的混乱、さらには体制崩壊の可能性を懸念しており、密かに進む難民キャンプ建設もその表れと見ていい。
北朝鮮がアメリカ本土に到達できる核弾頭搭載ミサイルの開発を急ピッチで進め、米朝指導者が激しい舌戦を繰り広げるなか、ここ何カ月か朝鮮半島の緊張は一気に高まっており、この状況で中国が非常事態に備えることは「全くもって合理的」だと、中国共産党中央党校の張*瑰(チャン・リエンコイ)教授(専門は外交)はニューヨーク・タイムズに語った(*は王へんに連)。
「現状では北朝鮮とアメリカの間で紛争が起きる可能性は高い。中国が(国境地帯で)進めているのは、朝鮮半島で起きるあらゆる事態に対応するための準備だ」【12月14日 Newsweek】
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【北朝鮮に苛立つ中国】
中国が北朝鮮問題にどのように対応するつもりなのかは、なかなか知りえない問題であり、それが北朝鮮問題を難しくしているところでもありますが、中国としても対応に苦慮していることは間違いありません。
おそらく党指導部内にもいろんな意見があるところで、更に、実際に北朝鮮に接して交易などを行っている地方と中央では、また見方にも差があるのでしょう。
****国境の橋、きしむ中朝 「友誼橋」修理で閉鎖・新橋は未開通****
中国・北朝鮮国境の鴨緑江にかかり、中朝貿易の主要ルートになっている「中朝友誼(ゆうぎ)橋」が11日、北朝鮮側の路面修理のために閉鎖された。
橋の老朽化に備えた新橋が10キロ下流に3年前に完成しているが未開通のままだ。北朝鮮が費用を負担しようとしないためで、中国がいら立ちを募らせている。
中国遼寧省丹東と北朝鮮新義州を結ぶ中朝友誼橋は普段、貿易品を積んだトラックが盛んに行き交う。だが、中国の通関当局は8日付で、「北朝鮮側の工事のため11日から20日まで車の通行を禁止する」と通達。
11日に記者が訪ねると、橋は静まりかえり、北朝鮮側の橋上で約10人の作業員が補修作業に当たっていた。中朝貿易関係者によると、工事は元日用の食品などで輸送量が増えるのに備えた北朝鮮側の措置だという。
同橋は戦時中の1943年に日本が建設し、老朽化が激しい。昨年には北朝鮮側に開いた穴が原因で中国のトラックが横転し、橋の補修費用を巡る中朝間の話し合いが紛糾した。
一方、同橋から約10キロ下流には、片側2車線の白く大きな「鴨緑江界河公路大橋」がそびえ立つ。中朝友誼橋に代わる新橋として2014年9月に完成したが、北朝鮮側の取り付け道路が整備されず、開通できないでいる。
新橋は金正日(キムジョンイル)総書記時代の11年、中朝協力の目玉として約18億元(約300億円)を中国が負担して着工。中朝関係筋によると、それに先立つ着工式には中国とのパイプ役で13年末に処刑された張成沢(チャンソンテク)・国防副委員長も列席したという。
丹東市政府関係者によると、完成の翌年、中国の負担で接続道路を建設する計画も浮上したが、北朝鮮側は税関庁舎の新築も要求。北朝鮮はビルの設計図まで示して中国側を怒らせ、計画は頓挫した。
それでも両国の交渉は続いていたが、今春以降、北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返したため中断した。【12月12日 朝日】
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中国が北朝鮮に対する影響力を実際のところどの程度有しているのかは、いつも議論になるところですが、開き直った弱者が「俺たちが崩壊したら、あんたらもただではすまないぜ」と強者をゆするような構図もあって、中国も大変でしょう。
中朝関係が厳しくなったことで、中断しているプロジェクトも少なくないようです。
****国境で見た対北朝鮮制裁 中国は本気か****
(中略)(中国側)南坪の対岸(北朝鮮側)・茂山には北朝鮮人の取材協力者がいる。この11月中旬、鉱山に直接行って状況を調べてもらうと、次のように伝えてきた。
「鉄鉱石の輸出が完全に止まったのは10月に入ってからだそうです。でも、今も採掘は続き、鉱石は野積みされています。今のところ、労働者には前と変わらぬ給与が支払われている。当局は『輸出停止は一時的。しばらくしたら再開するだろう』と労働者に説明しています」
茂山で掘った鉄鉱石の対中輸出は、完全に止まっているようだ。売る当てのない鉄鉱石採掘をいつまで続けることができるだろうか。労働者への給与支払いが止まったら、何千人もの労働者はどうなるのだろうか。
北朝鮮に絡む大型プロジェクトは・・・・
南坪では今、巨大施設が建設されている。2015年から進む「和龍国家級辺境経済合作区」の施設だ。
この計画は、賃金の安い北朝鮮の派遣労働者を雇うことを前提とし、工場を誘致する内容だ。鉱産物や水産物、木材などの加工に加え、国境観光の拠点をつくる狙いもある。
中国側は既に10億元(約170億円)を投じたという。中国政府が対北朝鮮制裁を履行すれば、これらの施設も無用の長物となる。
実は、似たようなプロジェクトやインフラ整備は国境地帯にいくつもある。いずれも北朝鮮との経済協力を前提としており、順調に進んでいるとは言い難い。(後略)【12月13日 石丸次郎氏 YAHOO!ニュース】
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【“幽霊病”? 先天性異常の子は北朝鮮政府の手で殺害?】
一方、核開発を急速に進める北朝鮮では、その強引な開発・実験過程で、「幽霊病」とも称される住民の健康被害が出ているのでは・・・とも報じられています。
****北朝鮮の核実験場周辺で「放射能汚染の噂」が拡散****
北朝鮮の北東部、豊渓里(プンゲリ)にある核実験場周辺では、以前から放射能汚染の噂が絶えない。実際に被害を訴える声も出ている。
聯合ニュースは昨年9月、韓国の統一ビジョン研究院が咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)出身の脱北者17人を対象にして健康状態に関する聞き取り調査を行ったところ、複数の脱北者が原因不明の体調不良を訴えたと報じた。
「じっとしていても汗が出て、いくら食べても力が出ず頭痛が続く。韓国に来てから吉州で流行っていた『幽霊病』が核実験のせいだとわかった」 (3回目の核実験実施まで吉州に住んでいた脱北男性)
「2010年頃から視力が1.5から0.8に落ちた。疲れやすく不眠に苦しめられている。心臓が痛く、つかみ出したくなるほどだ。(北朝鮮で)病院に行ったら『幽霊病』だと言われた」 (2回目の核実験実施まで吉州に住んでいた脱北女性)
吉州の中心から核実験場までは40キロ以上離れており、山に遮られている。しかし、吉州を流れる南大川(ナムデチョン)の源流が核実験場のそばにあるため、水を通じて汚染されているという噂が絶えない。
当局はそれを抑えようと様々な対策を取っていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。
現地の情報筋がRFAに語ったところよると、北朝鮮当局は吉州郡と化成(ファソン)郡を統制区域として指定し、部外者の立ち入りを禁止した。「わが国の核技術を盗み出そうとするスパイ、敵対分子の策動を防ぐ」ことを理由に挙げている。
しかし、核実験から2ヶ月経っても統制が解除されないため、住民の間では「スパイや敵対分子は言い訳に過ぎず、実際は放射能汚染が深刻だからではないか」との噂が絶えないという。
北朝鮮当局は専門家を派遣して調査を行わせ、その結果を示して汚染されていないと何度も説明した。また、住民にアブラハヤ(コイの一種)を捕まえさせ、南大川に放流させた。前述の専門家の「この魚は汚染に敏感なので、川が本当に汚染されていれば死んでしまうだろう」という説明に基づくものだ。
アブラハヤが比較的きれいな水を好むというのは事実だが、地元民にはあまり説得力がなかったようで、噂を抑え込むには至っていない。
最近、国境地域を訪れた吉州の住民によると、当局は外部の人間の立ち入りを制限しているが、内部の人間が他の地域に行くことは制限していない。当局は「本当に汚染されているなら出るのも入るのも禁止する」と宣伝している。しかし、これもあまり効果がないようだ。
なお、上述の情報筋の話は先月29日時点のものだが、テレビ朝日が報じた、先月10日に起きたとされる核実験場の崩落事故がついては触れていない。
核実験場の近くには、悪名高き政治犯収容所「16号管理所」(化成強制収容所)があり、政治犯が核実験施設で防護服なし、すなわち放射能に被曝しながら強制労働させられていると言われている。
死亡事故が起きれば遺体は放射性廃棄物扱いされ、収容所内でも「一度入ったら二度と出られない」と言われる完全統制区域に埋められるという。
つまり、核実験場の労働者と吉州の一般住民は接触する機会が限られているため、情報が伝わりにくい可能性がある。
ちなみに、韓国統一省の報道官は豊渓里出身の脱北者を対象に、放射線被曝の調査を行っていることを明かしている。【11月6日 デイリーNKジャパン】
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“現地の噂”がどの程度真実を反映しているのか、そもそも“現地の噂”がどのような形で外部に伝わるのか・・・など、不確実性は避けられませんし、脱北者の話もどこまで信用できるのかという問題もあります。
ただ、“あの国なら・・・”と思いたくもなるのが北朝鮮でもあります。
****北の核実験で広がる「幽霊病」と苛酷な仕打ち****
<地元住民が貧困と食料不足のせいと思っている「幽霊病」は放射能汚染によるものか>
(中略)また、同じく吉州郡から逃亡してきた別の脱北者、リ・ヨンシルによると、近所の住民が産んだ子には、生殖器がないという先天異常があったという。こうした子は北朝鮮政府の手で殺害されるケースが多いため、両親が自らの手で赤ん坊を殺したと、リは証言している。
異常のある子は殺される
北朝鮮は周囲から孤立した独裁国家であるため、核実験場の周辺を外部の者が検証するのは不可能だ。そのため、核実験による放射能汚染があったとする脱北者の主張についても、これを裏付ける科学的証拠はほとんどない。NBCは、前述のリ・ヨンファについて、放射能汚染の検査では陰性の結果が出たと伝えている。
しかし韓国メディアは、北朝鮮の金正恩党委員長の核実験によって実験場付近の環境が汚染され、先天性異常がある子どもの出生が相次いでいると報じる。(後略)【12月13日 Newsweek】
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実際は“放射能汚染”ではなく、やはり“満足に物が食べられないせい”なのかも。
ただ、それはそれで大問題であることにかわりありませんが。
この国の問題は、国際的に批判されている実態が国民に知らされていないことにあります。
そのあたりの状況、また、制裁の影響については、下記のようにも。
****制裁下の北朝鮮、国民の声を聴く****
肝心の北朝鮮国内では、制裁の影響がどう出ているのだろうか。
私たちは北朝鮮国内にいる約10人の取材協力者用に中国の携帯電話を密かに搬入し、連絡を取り合っている。今、彼らが異口同音に伝えてくるのは、経済制裁の概要や「なぜ制裁を受けているのか」について、国民はまともに知らされていない、ということだ。
「こちらでは『経済封鎖』をやめさせるためにミサイルを撃ったと説明しています。発射実験を続ければ、米国も韓国も膝を屈して援助してくる、そうすれば暮らしが良くなる、と」(咸鏡北道に住む労働党員の協力者)
「世界の多くの国が経済制裁に参加しているなんて、まったく知らされていません」(両江道の小売業者)
「ミサイル発射を続けているがために経済制裁を受けていることを知れば、人民は政府に怒るでしょう」(両江道の主婦)
経済制裁が続いて外貨収入が減れば、北朝鮮では購買力が落ちて景気が悪化したり、北朝鮮ウォンの価値が下落したりする。インフレになる可能性もある。私たちはそう考えていた。
ところが、北朝鮮国内の協力者が調査したところ、制裁が強まったこの1年、物価や北朝鮮ウォンのレートは安定している。今年4月にガソリンや軽油の価格が暴騰したほかは、市場に大きな変化はない。
この12月12日時点では、ガソリン1キロは1万8450ウォン(約257円)、北朝鮮産コメ1キロは4500ウォン(約63円)。1中国元は1230ウォン(約17.1円)。物不足も発生していないという。
ただ、統計からは「制裁の効果」を読み取ることもできる。
この11月下旬に中国の税関当局が公開した10月の貿易統計によると、北朝鮮からの輸入は約6億元(約102億円)にとどまり、前年同月比で6割も減少した。北朝鮮の外貨獲得手段は、主に石炭や鉄鉱石、繊維製品、海産物の輸出であり、統計を見る限り、中国による制裁の影響は大きい。
制裁は効果を上げるのか
では今後、中国が制裁を完全履行すると、北朝鮮はどのくらい外貨収入を失うのだろうか。
日本貿易振興機構が今年3月に公表した2016年度の「最近の北朝鮮経済に関する調査」所収の統計から試算すると、中国への輸出総額は約26億ドルで、そのうち禁輸品目の合計額は約24億ドルに達する。
「完全履行」の場合、北朝鮮は対中輸出のおよそ9割を喪失する計算だ。加えて中国への労働者派遣による収入2億~3億ドル(推定)も失う。(後略)【12月13日 石丸次郎氏 YAHOO!ニュース】
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