(アフガニスタン東部ジャララバードのケシ畑で作業する農民 【11月26日 朝日】)
【トランプ大統領 好転しない戦況に立腹】
アフガニスタン情勢については、11月6日「アフガニスタン 明るい展望が難しい“米国の最も長い戦争”」でも取り上げましたが、世界中で多発する紛争・事件の陰に隠れるように、あまり大きな話題となることはありません。
話題にはなりませんが、“米国の最も長い戦争”はアメリカにとってタリバンの勢力拡大という、好ましからざる形で展開しています。
ただ、トランプ大統領は新戦略を一応示して増派は決定していますが、大統領就任前は撤退を公言していたこともあって、このアフガニスタン情勢にはあまり関心がないようです。
****<トランプ米大統領>アフガン興味なし? 司令官と会話なく****
アフガニスタン駐留米軍のニコルソン司令官は9日、ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部での会見で、トランプ大統領と「一度も話したことがない」と述べた。
8月にオバマ前政権の政策を転換し、数千人規模のアフガン増派を決定、NATO諸国にも増派を求めている。異例とも言える待遇は波紋を呼びそうだ。
トランプ氏は2001年9月の米同時多発テロを機に始まったアフガン戦争が、米国史上最長となる16年を経ても一向に好転しないことに立腹。
今年7月にはニコルソン司令官を解任する意向を示し、これをマティス国防長官らが押しとどめた経緯がある。司令官は会見で「中央軍司令官など通常ルートで報告はしている。国防長官とも昨晩会ったばかりだ」と業務には支障がないと強調、大統領から「信任を得ていると思っている」とも述べた。
オバマ氏やブッシュ(子)氏らアフガン戦争に関わった歴代の大統領は、現地司令官とたびたびテレビ会議などで現状を把握、その上で重要事項を決定してきた。
トランプ氏は就任後、細かい作戦行動などは軍の決定に一任する一方、3日はハワイでハリス太平洋軍司令官から状況説明を受けており、アフガンへの無関心ぶりが際立つ。【11月11日 毎日】
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戦局が好転しないことに立腹して現地司令官と話もしない・・・というのもトランプ大統領らしいですが・・・・。
【タリバンを支援するロシアの影も】
アメリカ・オバマ前大統領が撤退を進め、トランプ大統領の取り組みも遅れている状況で、ロシアがタリバンとの関係を深めているというのは、かねてより指摘されているところです。
****タリバン活性化、ちらつくロシアの影 10月以降のテロ死者200人****
アフガニスタンの治安状況が急速に悪化している。10月に入ってテロで少なくとも200人以上が死亡。イスラム原理主義組織タリバンの活性化が著しい。
駐留米軍の増派こそ決まったが、タリバンを支援するロシアの影もちらつき、動向次第では情勢は泥沼化する可能性をはらむ。専門家は「アフガンはこのままでは国家崩壊の危機に直面する」と警告する。
■軍備品、横流しか
アフガン国内で散発的に相次いでいたテロは、10月に入って急増した。
南部カンダハル州では10月18日夜、車両を使った自爆テロとみられる爆発が軍基地で発生。その後、武装集団が侵入し銃撃戦になった。同月19日までに少なくとも兵士ら43人が死亡し、基地は壊滅状態だという。
同月20日夜には首都カブールと中西部ゴール州のイスラム教シーア派のモスク(イスラム教礼拝所)で爆発があり72人が死亡。金曜日の集団礼拝が行われており、多数の市民が訪れていた。
一連のテロでは、武装組織が米国製軍用車「ハンビー」を使用するケースが多く、腐敗が進むアフガン軍から資材が横流しされている可能性がある。
テロの拡大とともに政府の支配地域も顕著に縮小する。米アフガン復興特別監察官によると、今年8月現在でアフガン国内407地区のうち政府の管轄下にあるのは56・8%にすぎず、2015年11月と比べて約15%減少した。残りの土地はタリバンら武装勢力と奪い合いを続けているか、完全に支配されているかだ。
■ちらつく露の影
テロ続発の背景にあるのは米国の動向だ。
米国は米同時多発テロ後のアフガン侵攻を経て、最大時には10万人規模の駐留部隊を配置した。だが、オバマ前大統領が「任期中(17年1月)までの撤退」という公約を打ち出して規模を縮小させたことが、タリバンの再拡大を招いた。
今年8月にはトランプ大統領が数千人規模の増派を含む「新戦略」を発表したが、状況の改善に直結するかは未知数だ。
駐留米軍が縮小する中、当地で存在を増すのがロシアだ。アフガンで拡大したイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の自国への波及を警戒し、イランとともに対立するタリバン支援に乗り出したとされる。
英タイムズ紙(10月16日付)は、ロシアがタリバンに間接的に資金援助を行っていると報道。記事ではウズベキスタン経由で燃料を無償でタリバン関連会社に供給しており、売却益のうち月額250万ドル(約2億8千万円)がタリバンへ還流していると指摘した。
アフガン情勢に詳しいロンドン大東洋アフリカ研究学院(英国)のアビナシュ・パリワル氏は産経新聞の取材に「警察は腐敗が進み、常設軍は正式な訓練を受けていない。国家崩壊を防ぐためには米軍の継続的な駐留が重要だが、各国のパワーゲームも始まっており、事態のさらなる混乱も予想される」と話している。【11月20日 産経】
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アフガニスタンでのイスラム過激派の拡大・政治の混乱は、中央アジアを通じてロシア自国へのテロリズムの浸透、麻薬の流入といったことで、ロシアにとっても憂慮すべきことと思われますが、そのロシアがタリバンに資金援助する思惑、ロシア政府としての方針なのかどうかなどはよくわかりません。
【アヘン工場など、攻撃を強化する米軍】
一方、アフガニスタンでは“太陽光発電の活用”もあって、麻薬原料のケシ栽培が過去最大に拡大しているそうです。
****太陽光発電で麻薬原料の収穫率向上 アフガン過去最大に****
アフガニスタンでヘロインなどの原料となるケシの栽培が今年、大幅に拡大した。国連薬物犯罪事務所(UNODC、本部・ウィーン)の調査で判明した。
推定栽培面積は前年比63%増の32万8千ヘクタール、収穫量見込みは87%増の9千トンとなり、いずれも過去最大。アフガンは世界の麻薬供給源として問題になってきたが、状況は悪化している。
調査はUNODCがアフガン政府と共同で行い、15日に発表した。アフガンは世界最大のケシ産地で、栽培が貧困を抜け出す道となり、反政府勢力タリバーンが資金源とするほか、過激派組織「イスラム国」(IS)なども関与しているという。栽培は長期的に増加傾向で、2000年から推定栽培面積は4倍、収穫量見込みは2・75倍に増えた。
調査では、アフガン当局が反政府勢力への取り締まりを大都市中心にしたことで、反政府勢力が地方で伸長したことも増加の一因としている。
今年は灌漑(かんがい)など栽培に必要な施設への太陽光発電の導入が広がって収穫効率が上がり、結果として安価で質の高い麻薬生産につながっている。
各州当局の取り組みでケシ栽培を根絶した面積も750ヘクタールと前年から倍増したが、栽培規模はその努力を追い越す勢いで伸びた。一度ケシ栽培をやめた地域でも、反政府勢力の伸長や開発の遅れなどで栽培が再開されているという。
UNDOCは、栽培拡大による麻薬の流通増により、欧米の消費地に至るまでの各地で、テロ組織などが新たな資金源を得る恐れを指摘する。
調査には日本と米国が拠出した資金が使われている。【11月26日 朝日】
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ケシ栽培の動向は、アフガニスタン政府の統治の実効性を示すバロメーターでもありますが、現状は上記のとおおり“過去最悪”ともなっています。
現地米軍は冒頭記事のようにトランプ大統領とはあまりうまくいっていませんが、新戦略で“裁量権”を与えられていることもあって、タリバンの収入源ともなる麻薬製造施設への攻撃を拡大させています。
****米軍、タリバン「収入源」を爆撃=政府支配地拡大へ―アフガン****
アフガニスタン駐留米軍のニコルソン司令官は20日、首都カブールからビデオ回線を通じて記者会見し、反政府勢力タリバンが収入源とするアヘン精製工場10カ所を爆撃したと発表した。タリバンへの攻勢を強め、2年以内にアフガン政府の支配地域を現在の6割から8割以上に拡大すると表明した。
ニコルソン司令官によると、アヘン工場を標的とした空爆はタリバンが強い勢力を保つ南部ヘルマンド州で実施され、アフガン治安部隊が2カ所、米軍機が8カ所を破壊した。アフガンでの軍事作戦では初めてステルス戦闘機F22が投入された。
トランプ政権が8月に打ち出したアフガン安定化に向けた新戦略で、駐留米軍は現地の治安部隊から離れて作戦行動を取る権限を付与された。今回初めてその権限を行使したという。
駐留米軍はこれまで、アフガン治安部隊の防衛などに軍事行動が制限されていた。だが、新しい権限はアフガン全土での攻撃作戦を可能にしたとされ、同司令官は「収入源を標的にするなど、従来とは異なる方法でタリバンに圧力を加えることができるようになった」と説明した。【11月21日 時事】
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アフガニスタンには、麻薬工場が400から500か所あると推定されていています。
タリバンの資金源を断つ方法としては有効かとは思いますが、こうしたアヘン工場を含めたケシ栽培全般を減らしていくうえでは、ケシ栽培に頼らざるを得ない状況にある農民への代替作物への誘導などの施策が必要です。
これまで、そのあたりがうまくいっていないことが、ケシ栽培増加につながっています。改めて検討する必要があります。
米軍・ニコルソン司令官は、アヘン工場攻撃に限らず、攻勢に向けて積極的な姿勢を示しています。
****アフガン前線に部隊増員へ=対タリバンで駐留米軍****
アフガニスタン駐留米軍のニコルソン司令官は28日、首都カブールからビデオ回線を通じて記者会見し、2018年から反政府勢力タリバンとの戦いの前線で活動する米兵を1000人以上に増員すると明らかにした。2年以内にタリバンの勢力をそぎ、和平への道筋をつけたい考えだ。
ニコルソン司令官は「今年1月以降、アフガンでの戦争で前年の約3倍の弾薬を使用した」と述べ、米軍が攻勢を強めていると説明。トランプ大統領が南アジア新戦略の中でアフガン駐留米軍の増派を決めたことを受け、18年春からは「さらに攻勢に転じる」と強調した。
このための方策として、前線で戦うアフガン治安部隊に助言を与える米軍顧問の数を「劇的に増員」し、1000人以上にすると宣言。さらに、アフガン特殊部隊の訓練を加速し、「特殊部隊兵士を年内に900人から1700人に増やす」と語った。【11月29日 時事】
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【大幅に後退している女子教育のための試み】
“米国の最も長い戦争”は更に拡大しながら続きそうです。
アメリカにとっては大変ですが、現実問題としては米軍の支援がなければアフガニスタン政府は持ちこたえられないことを考えると、アフガニスタンに芽生えた脆弱な民主化を守り維持するためには米軍頼みはやむを得ないところです。
米軍の支援がなければ持ちこたえられないアフガニスタン政府というのは、いったい何なのか?という、そもそもの疑問はありますが・・・・。
国際支援の継続・拡大も必要ですが、主体となるアフガニスタン政府にヤル気がないと・・・・。
****アフガニスタン:教育機会を求める少女たち****
治安問題・政府の不作為・国際ドナー離れで 前進が水泡に帰す恐れ
2001年以来、女子教育のためにアフガン政府と国際ドナーが取り組んできた試みが、近年なって大幅に後退していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチが本日発表の報告書内で述べた。
米軍主導のアフガニスタン軍事介入でタリバンを追放してから16年後の現在、少女のうち推定3分の2が学校に通っていない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ女性の権利局局長リーズル・ゲルントホルツは、「アフガン政府と国際ドナーは、すべての少女に教育機会を与えようと、2001年に果敢な約束をしたが、今や不安定さや貧困、国内避難で多くの少女が学校に通えないでいる」と指摘する。
「政府は、すべての少女が通える学校を確保することに改めて集中すべきであり、さもなくば、これまでの前進が水泡に帰す恐れがある。」
「私がお医者さんになれないから、いつの日かあなたは病気になる:アフガニスタンにおける少女の教育機会」(132ページ) は、アフガニスタンの治安が悪化し、国際ドナーが次々と去っていくのに伴い、少女を学校に通わせるための試みが停滞してしまった原因と現状を詳述したもの。(中略)
アフガン政府が少女のために準備した学校は、小中学校とも少年のそれより少ない。同国の州の半分では女性教師の割合が20%以下で、これは娘が男性教師に教わることをゆるさない家庭にとって、とりわけ障壁となっている。
多くの子どもが学校から遠く離れて暮らしており、特に少女たちがこの影響を受けている。また、学校の約41%が校舎を持たず、壁や水道施設、トイレなどが不足していることも少女たちにとっては大問題だ。
サマンガーン地方の農村で育ったKhatera(15歳)は、「一番近い女子校は別の村にあったの。 ロバや馬でお昼までかかるようなところよ」と話す。
女子教育の価値を認めなかったり、許さない差別的な考えから、少女はしばしば学校に通わせてもらえない。3分の1が18歳未満で結婚し、ひとたび結婚や婚約をしてしまえば、学校をやめさせられる少女が多い。
しかし一方で、多くの家庭が巨大な壁に直面しつつも、娘の教育のために必死で闘っており、こうした家庭は支援を受けてしかるべきだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、娘の学校を探すために町から町へと移住したり、時に国土を縦横断した家族とも話をした。このためにバラバラになった家族や、妹の教育費をまかなうためにイランで危険な違法就労をしている兄もいる。
女子教育はしばしば、国際ドナーやアフガン政府の成功事例として強調されてきた。実際、タリバンが支配していた時代に比べ、学校に通う少女の数は数百万人多い。
しかしすべての少女に教育を、と宣言された目標の実現には程遠いのが現状だ。生徒数もアフガニスタンの一部で落ちている。政府によると350万人が学校に通えておらず、その85%が少女だという。思春期の少女の識字率はわずか37%で、少年の66%と差がある。
アフガニスタン法では、通常子どもが14歳になる9年生までが義務教育と定められているが、現実には多くの子どもたちがこのレベルの教育機会を持てずにおり、時に全くない場合もある。行政上の壁と腐敗が、とりわけ国内避難民や貧困層にとって、さらなる障害としてふりかかっている。
たとえ授業料は無償であっても通学費はかかる。何より多くの家庭では、1人として子どもを学校に通わせる余裕がなく、貧困ゆえに息子たちを教育することを選択することも少なくない。
同国の子どもの約4分の1は、絶望的な貧困を生き延びるために働いている。多くの少女たちも勉強するより織物や刺繍、物乞い、ゴミ拾いで家族を助けている。
タリバンほかの武装勢力は現在、アフガニスタンにある地区40%超を支配している。 タリバンと政府間の戦いで多くの世帯が家を追われ、国内避難民の数は100万人を超える。タリバン支配下の地域では、タリバンが少女の教育をわずか数年に制限したり、時には全面的に禁じたりしている。
争いが続く地域では、通学を模索する少女たちが危険に直面している。内戦で無法状態になっていることに伴い、民兵組織や犯罪組織が増え、少女たちは性的嫌がらせや誘拐、酸攻撃などに加えて、女子教育を狙った攻撃や脅威にもさらされている。
このような環境で教育がますます悪影響を受け、少女たちが特に多大な危害を被っている。(中略)
ユネスコが設定した国際基準によれば、政府は国家予算の少なくとも15〜20%、国内総生産(GDP)の4〜6%を教育に費やすべきとされている。
国連は、アフガニスタンのような最も発展の遅れている国々に対し、これらベンチマークの上限か、それを上回るべきだと強調する。2016年の時点では、アフガニスタンの公的支出の13%、GDPの4%が教育に費やされた。
アフガン政府は国際ドナーと協力し、学校や生徒をよりよく保護することによって、少女の教育機会を拡大しなければならない。(後略)【10月19日 HUFFPOST】
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教育、特に女子教育において成果を示すことができれば、国際社会及びアメリカのアフガニスタンにおけるこれまでの努力・犠牲・負担も報われることになり、今後の継続的支援への希望ともなります。