孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ペルー  恩赦を許されたフジモリ元大統領の「謝罪」 国民和解のきっかけとなるのか?

2017-12-28 21:43:57 | ラテンアメリカ

(12月26日、在任中の汚職と人権侵害事件で禁錮25年の刑に服し、ペルーのクチンスキ大統領から恩赦を与えられたフジモリ元大統領(写真)は、フェイスブック上にビデオメッセージを投稿し、在任中に至らなかった点について国民に対して「心の底から」許しを求めた。写真はフェイスブックの投稿から(2017年 ロイター)【12月27日 大紀元】)

父親恩赦への次男との“取引”で、汚職疑惑による失職を免れた大統領
ブラジル国営石油会社ペトロブラスを舞台にしたブラジル政界全体を巻き込む大規模汚職事件によって明るみに出た、ブラジル建設最大手オデブレヒトと南米・世界各国指導者の世界規模の贈収賄は、南米ペルーをも大きく揺さぶっています。

この汚職疑惑を追及されているペルーのクチンスキ大統領は、受刑中のフジモリ元大統領の長女ケイコ・フジモリ氏が率いる野党が議会の多数派を占める状況で、つい1週間前までは、罷免される可能性が高いとみられていました。

なお、大統領の汚職を追及するケイコ・フジモリ氏自身に関しても、オデブレヒトから資金を受けていたのでは・・・との疑惑があります。

****<ブラジル汚職>30カ国波及 ペルー大統領罷免も****
ブラジルの大疑獄事件が世界30カ国以上を巻き込み、国際スキャンダルに発展している。

贈賄側の中心企業、ブラジル建設最大手オデブレヒトが国際進出を図るため、各国指導者らに計33億ドル(約3700億円)をばらまいたとの報道もある。

中南米では大統領経験者が訴追された他、汚職疑惑が浮上したペルーのクチンスキ大統領の罷免決議案が今月15日に議会に提出された。各国当局の捜査に注目が集まる。
 
「ラバジャット作戦が31カ国(・地域)の検察の関心を引きつける」。ブラジル有力紙「フォーリャ」(電子版)は11月15日、捜査の広がりを伝えた。
 
ラバジャット作戦とは、ブラジル捜査当局が2014年に着手し、国内の政治家ら100人以上が有罪判決を受けたブラジル史上最悪とされる汚職事件の捜査のことだ。

国営石油会社ペトロブラスと取引先が契約額を不当につり上げ、本来の契約額との差額を賄賂として政治家らにまわした疑惑が中心だった。

一方、捜査の進展につれ、ペ社の取引先であるオ社を軸とする汚職の構図も浮かび上がってきた。オ社が国内や海外で業務を受注するため、米国やスイスの銀行口座や架空業者などを利用して、各国の政治家や官僚らに裏金を渡した疑惑だ。
 
元最高経営責任者(CEO)の有罪判決を受け、オ社は16年12月、中南米10カ国とアフリカのアンゴラ、モザンビークの計12カ国で計約10億ドル(約1130億円)の賄賂を渡したことを認めた。

◇権力者の捜査進む
中南米では指導者に対する捜査、公判が進む。公共工事に絡んで賄賂を受け取ったとして、収賄罪などに問われたブラジルのルラ元大統領は公判中で、テメル大統領も違法資金を受け取った収賄疑惑が報じられた。
 
ペルーでは今年7月、大統領選で違法資金を受け取った容疑でウマラ前大統領が逮捕された。クチンスキ氏は16年の大統領選に絡んで違法資金を受領した疑惑が浮上した。これとは別にオ社は、クチンスキ氏の会社に04〜07年、コンサルタント料として約78万ドルを払ったと公表。

当時、クチンスキ氏は経済・財務相や首相を務め、当初はオ社との関係を否定していただけに、野党側は「倫理的に問題がある」と罷免決議案を提出。

採決は21日の予定で、議会はフジモリ元大統領の長女ケイコ・フジモリ氏が党首の野党が多数派のため失職する可能性がある。

一方、ケイコ氏も11年の大統領選に絡んだ違法資金受領の疑惑が浮上。コロンビアやベネズエラでも指導者の汚職が報じられた。
 
フォーリャによると、汚職の舞台は欧州にも拡大。オ社の関与は不明だが、オランダの石油設備販売会社がペ社側に契約を巡る賄賂を払った疑いがある。

フランスやイタリアを含め世界31カ国・地域の捜査当局がブラジル当局に協力を要請し、事実解明を進めている。(後略)【12月18日 毎日】
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一方、フジモリ元大統領については、再び容体が悪化、上記贈収賄事件と同時並行して、恩赦の申請がなされていました。

****フジモリ元大統領、恩赦を申請=ペルー****
ロイター通信によると、任期中の人権侵害などで禁錮25年の刑に服しているペルーのフジモリ元大統領(79)は21日、クチンスキ大統領に対し、恩赦または刑期の短縮を正式申請した。
 
元大統領は10年以上にわたる拘禁生活で健康状態が悪化しており、クチンスキ氏は6月ごろから、年内恩赦の可能性に言及していた。

元大統領の家族は2012年にウマラ前大統領に恩赦を申請したが、「健康状態は深刻な状態ではない」などとして却下されていた。【12月22日 時事】
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こうしたなかで21日に採決が行われたクチンスキ大統領の罷免決議案でしたが、可決に必要な3分の2以上の賛成が得られず、クチンスキ大統領は失職を免れました。

****クチンスキ・ペルー大統領が罷免回避 議会が決議否決も疑惑への説明責任を問う声も****
南米ペルーからの報道によると、同国議会(130議席)は21日、汚職疑惑が浮上したクチンスキ大統領の罷免決議案を採決したが、可決に必要な3分の2以上の賛成が得られず、同氏は失職を免れた。
 
政権は少数与党のため失職は確実とみられていたが、決議案を主導したフジモリ元大統領派の野党フエルサ・ポプラルの手法が強引だとして「クーデター」などと批判した政権側の戦略が功を奏し、野党の一部が棄権するなどした。(後略)【12月22日 産経】
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失職を免れることにつながった“野党の一部が棄権”というのは、フジモリ元大統領の恩赦を求めていた次男、ケンジ議員ら10人が党の方針に逆らって棄権するなどした行動です。

当然ながら素人でも、クチンスキ大統領の罷免決議案とフジモリ元大統領の恩赦の間で“取引”がなされた・・・・と推察します。

ケンジ氏との確執 恩赦とは一線を画するケイコ氏
実際、ペルー大統領府は24日、クチンスキ大統領が人道的理由で、在任中の人権侵害などで禁錮25年の刑に服しているアルベルト・フジモリ元大統領(79)の恩赦を決めたと発表しました。非常にわかりやすいドラマです。

下記記事は恩赦発表前のものです。

****ペルーのフジモリ元大統領への恩赦、年内発表も 罷免回避へ取引か 野党からの反発必至****
在任中の人権侵害事件で服役しているペルーのフジモリ元大統領(79)をめぐり、恩赦が近く認められるとの見方が強まっている。

21日に議会による罷免決議を免れたクチンスキ大統領が、恩赦を条件に議会で多数を占めるフジモリ派野党の一部と取引していたとされ、クリスマスイブの24日や大みそかに恩赦が発表されるとの観測も浮上している。
                   ◇
罷免決議案は、議会で過半数を占めるフジモリ派野党「フエルサ・ポプラル」が中心となって提出していた。当初罷免は確実とみられていたが、ふたを開ければ否決に終わった。フジモリ氏の次男、ケンジ議員ら10人が党の方針に逆らって棄権するなどした結果だった。
 
恩赦を訴え続けるケンジ氏はクチンスキ氏に接近しており、これに呼応するようにクチンスキ氏も恩赦に繰り返し言及してきた。

現地報道などによると、罷免回避のため野党側の切り崩しを図る政権側ではニエト国防相が交渉を持ちかける一方、恩赦につながるとしてフジモリ氏自身も議員10人に棄権を依頼したとされる。
 
こうした一連の動きを裏付けるように、罷免決議案の審議があった21日、「フジモリ氏が政府に減刑申請した」「医師団が人道的恩赦を政府に勧告した」という報道が伝えられた。

事情に詳しい現地ジャーナリストは「(政府側がフジモリ氏のいる施設に)医師団を派遣したのは、(クチンスキ氏が)恩赦判断するにあたって“お墨付き”を得るためではないか」とみる。
 
フジモリ氏は、左翼ゲリラと間違えられた市民らが軍に殺害された事件などで2010年に禁錮25年が確定して服役している。持病で入退院を繰り返しているものの、国民の間では反感も根強く、歴代大統領は恩赦を認めてこなかった。
 
一方、フエルサ・ポプラルの党首でフジモリ氏の長女、ケイコ氏は決議案の否決で顔に泥を塗られた形だ。個人的には恩赦を求めながらも党としては表立った行動を控えており、ケンジ氏とは確執も伝えられる。仮に恩赦が実現すれば、党のかじ取りをめぐって新たな波乱も予想される。
 
罷免回避の借りを返す必要に迫られた格好のクチンスキ氏が恩赦を発表した場合、左派野党からの反発は必至。厳しい政権運営が続くとみられる。
                   ◇
ロイター通信などによると、フジモリ元大統領は23日、血圧低下と心拍異常により、服役している首都リマ郊外の警察施設から市内の病院へ移された。ケンジ氏が付き添った。【12月25日 産経】
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次男ケンジ氏が大統領と“取引”したのは明らかですが、ケンジ氏との確執もあるとされる長女ケイコ氏がこの動きに関与したのかどうかは知りません。

一般的には、過去2回の大統領選挙で、フジモリ氏との血縁に対する国民の反発で苦杯をなめたケイコ氏は、父フジモリ氏の恩赦とは一定の距離を置いていたとも言われています。

****フジモリ氏恩赦】長女と次男に確執、フジモリ氏自身の影響力・・・・・残る波乱の芽****
南米ペルーのフジモリ元大統領の恩赦が24日、決まった。

議会で野党ながら過半数を占めるフジモリ派政党「フエルサ・ポプラル」の伸長も期待されるが、同党党首で長女のケイコ氏、次男で同党所属のケンジ議員との間に確執があると伝えられるほか、フジモリ氏自身が独自の影響力を及ぼす可能性もあり、波乱要因となりかねない。
 
「これまで何度も恩赦のタイミングを逃しており、ようやくという感じだ」。フジモリ氏の恩赦問題をめぐり、地元ジャーナリストは産経新聞にこう語った。
 
議会で「フエルサ・ポプラル」に過半数を占められ、不信任を突きつけられて閣僚辞任が相次ぐなど政権運営に支障を来しているクチンスキ大統領は、今年に入ってから何度も恩赦をちらつかせては野党からの協力を得ようとしてきた。(中略)
 
恩赦が容易に実現しなかった背景には、ケイコ氏とケンジ氏との確執もあるとみられている。
 
恩赦を求めてクチンスキ氏に接近していたとされるケンジ氏に対し、ケイコ氏は一線を画し、党として恩赦を要求することは控えてきた。
 
過去2回、大統領選に挑戦したものの、「(フジモリ元大統領の)独裁政権が復活する」などと不安をあおる反フジモリ派のネガティブキャンペーンで苦杯をなめさせられたケイコ氏としては、「公私混同」ととられることは政治生命に関わるからだ。
 
自らが党を育ててきたという自負もある。ケイコ氏は父への恩赦決定を受け、「この一歩が(対立してきたフジモリ派とクチンスキ派との)再協調の一歩となるように願う」と語ったが、依然として根強い支持者を持つ父らに党の主導権を奪われるような状況が生じることになれば、新たな政治的不安定要素となる可能性もある。【12月25日 産経】
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ただ、もし(自身が求めていたように)大統領失職となれば、次の汚職疑惑のターゲットはケイコ氏自身にもなりかねません。表立っては動けない自身に代わってケンジ氏が“取引”で失職阻止に動けば、汚職疑惑に一定の区切りをつけられ、併せて父親の恩赦も実現できる・・・という思いがあったとしてもおかしくないようにも。もちろん、単なる下種の勘繰りです。

反発を招く恩赦決定
フジモリ元大統領への評価は国民を二分するところで、今回恩赦は反対派の激しい反発を招いています。
恩赦を決定したクチンスキ大統領も失職こそ免れたものの、“取引”を批判され、窮地に立っています。

****<ペルー>議員離党や高官辞任相次ぐ フジモリ氏恩赦に抗議****
在任中の市民虐殺事件で服役していた南米ペルーのアルベルト・フジモリ元大統領(79)の恩赦を決めたクチンスキ政権が窮地に陥っている。

ロイター通信によると、恩赦に対する抗議で与党議員の離党や政府高官の辞任が相次ぐ。27日にはソラール文化相が辞任し、アラオス首相は数日以内の内閣改造を示唆した。
 
フジモリ氏は今も国民的人気を誇る一方、虐殺事件の被害者らを中心に「独裁者」などと批判が根強く、恩赦決定後、抗議デモが頻発。

クチンスキ氏の罷免決議案採決(21日)を巡りフジモリ氏の長女ケイコ氏が党首の野党「人民勢力党」の一部と取引した疑惑がクチンスキ氏への不信感に拍車をかける。(中略)
 
ロイターによると、恩赦を巡っては、ソラール氏辞任に先立ち、クチンスキ氏の辞職を求めていたバソンブリオ内相が、罷免決議案が否決された直後に辞任。2閣僚以外に少なくとも法務省などの政府高官5人が恩赦への不満を理由に辞任したほか、少数与党「変革のためのペルー国民」の議員3人も離党した。

ペルーでは10月、内閣が不信任決議を受け総辞職した後、新内閣が発足したばかり。【12月28日 毎日】
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一方、ケイコ氏の率いる最大野党側にも、フジモリ元大統領との“協調”への警戒感もあるようです。

****フジモリ氏恩赦】左派離反で窮地のペルー政権 存在感増すフジモリ元大統領****
(中略)ところが恩赦決定により、もともと反フジモリであるこうした左派グループがクチンスキ氏から一斉に離反。基盤が大きく揺らぐ事態となっている。
 
クチンスキ氏は議会で罷免決議を免れたものの、自らの汚職疑惑を完全に払拭できていない上、決議案提出を主導したフジモリ派野党「フエルサ・ポプラル」の一部議員に恩赦と引き換えに棄権を求めたとされる不透明さも、「反クチンスキ」の空気を醸成している。
 
今後、左派の協力が見込めないクチンスキ政権は、フジモリ派との協調を模索するとみられ、これに呼応するかのようにフジモリ氏は26日、フェイスブック上に集中治療室(ICU)のベッドからビデオメッセージを投稿。「私の政権時代に国民の一部の期待を裏切ったことを認め、心から謝罪する」と述べつつ、「私が先頭となり、クチンスキ氏の言う和解、再協調を支援する」と協力姿勢をアピールした。
 
一方、フジモリ派からは、フジモリ氏のこうした動きを危惧する声も出ている。同派に近い政治評論家は地元ラジオの取材に、「(汚職疑惑のある)クチンスキ氏はほぼ有罪だ。彼を全面支援し協調することは、フエルサ・ポプラルにとって大きな打撃となりかねない」と強調。「(フジモリ氏のメッセージは)『今後の協調路線を仕切るのは私だ』ということだ」とも述べ、退院後のフジモリ氏が再び政界で影響力を及ぼす可能性に言及した。【12月27日 産経】
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フジモリ元大統領の「謝罪」が和解に向けた第一歩となるのか
上記のような国民が分断された状況での政治混乱にあって、フジモリ元大統領の「謝罪」が大きな驚きをもって国民に受け止められているそうです。

****フジモリ氏恩赦】「こわもて」フジモリ元大統領の謝罪に広がる驚き****
在任中の人権侵害事件で刑に服し、恩赦を受けたペルーのフジモリ元大統領(79)が国民に向けて謝罪したことが驚きを持って受け止められている。

「こわもて」のイメージが強いフジモリ氏が率直に非を認めたのは初めてで、地元メディアが詳報。反フジモリ派からも謝罪受け入れを訴える声が出るなど、国民和解に向けた第一歩になるとの期待が高まっている。
 
「私の政権時代に国民の一部の期待を裏切ったことを認め、心から謝罪する」。フジモリ氏が病床からフェイスブックで語った謝罪の言葉は、かつてのテロ対策などで発揮された豪腕ぶりを知る世代だけでなく、若い世代の支持層にも一種の感動をもって迎えられている。
 
入院先の病院前に集まっていた支持派のタリア・アルバラードさん(24)は「1人で責任を取って刑に服しただけでなく、非を認めて国民に向けて謝罪した。最高の人だ」と語り、興奮を隠せなかった。
 
そうした国民感情を反映するように、27日付のペルー各紙、テレビニュースは、フジモリ氏の謝罪について大々的に報じた。
 
謝罪はフジモリ派、反フジモリ派の双方にとって衝撃だったようだ。依然として批判的なとらえ方が大勢の左派系の新聞は「事件の被害者遺族に直接謝るべきで、国民に謝るのはおかしい」と指摘しつつも、多くのスペースを割いて詳述した。
 
フジモリ氏が呼びかけた国民和解に理解を示す意見も、左派グループから出ている。
 
かつて激しくフジモリ批判を展開していた著名な女性ジャーナリスト、セシリア・バレンスエラ氏は産経新聞の取材に対し、「国民に対して謝罪したことに驚くとともに、大変うれしかった。フジモリ氏が過去を振り返った結果で、現実的な和解、再協調に向けた第一歩だ」と述べた。
 
さらに、対決姿勢を崩さない反フジモリ派に触れて、「この謝罪により、反フジモリ派は気持ちを和らげなければならず、実際に和らげられるだろう。その端的な例が私自身だ」と語り、フジモリ氏の謝罪に向き合うよう呼びかけた。【12月28日 産経】
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恩赦を許された身なので“謝罪”は当たり前だろう・・・とも思えるのですが、ペルー国民にとっては、そうではないようです。
真摯な謝罪の言葉は、岩盤のような国民分断を動かし、和解へと導く・・・・のか、注目されます。
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