孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中台“パイナップル戦争” 中国禁輸で日本への販路拡大の期待も

2021-03-03 23:39:30 | 東アジア

(蔡英文総統の日本語ツイート)

 

【輸出の97%を占める中国向けがストップ 政治的嫌がらせか】

巨大市場を誇る中国が、取引相手国への政治的圧力のために輸入規制を利用する・・・というのは、対オーストラリアなどでも顕著ですが、当然ながら台湾に対しても。

 

****中国、台湾産パインを禁輸に 理由は害虫?嫌がらせ?****

中国が3月1日から台湾産パイナップルの輸入を停止することを決め、台湾で反発が広がっている。中国側は「害虫がいた」とするが、台湾側は「検疫の合格率は99・79%で政治的な圧力だ」と主張。2月28日には政権幹部らが産地を訪れて農家への支援表明に追われており、中台間の火種としてくすぶりそうだ。

 

中国政府は26日、台湾産パインから昨年以降に何度も害虫が検出されたとし、国内の生態系を守るため3月1日から輸入を停止すると発表した。

 

台湾ではこれから本格的な収穫が始まる時期で、蔡英文(ツァイインウェン)政権に衝撃が広がった。台湾のパイン生産量は年42万トン前後。うち昨年の輸出量は約4万6千トンで、中国向けが97%を占めた。日本も2位で約2%を占める。当局によると昨年以降で中国向けに出荷した6200回のうち、害虫が見つかったのは13回、合格率は99・79%だったという。

 

政権幹部は2月28日、急きょ南部の各産地を訪問。蔡総統は高雄市で農家を前に「今回の不合理な措置に対し、農家に損はさせない。必ず保護する」と約束した。当局は値崩れを防ぐため、すでに10億台湾ドル(約38億円)の予算投入を決め、中国以外への輸出量を約3万トンに引き上げる目標を設定した。

 

台南市で父親の代から45年間、パインを生産する農家の女性(48)は「突然の禁輸で驚いている。害虫を理由にするが、検出量は少なく、政治的な嫌がらせだ」と憤った。年産は30万株でうち3分の1が中国向けといい、「台湾内の販路を拡大したい」と語った。

 

台湾の人々もパイン農家支援に動いている。台湾メディアによると、大手光学機器メーカーや食品メーカーなど10社が27日までに計1600トンの購入を表明した。香港から台湾に逃れた人らが働く台北の香港レストラン「保護傘」は「パイナップルケーキを商品に加え、台湾を支援する」としている。台北の果物店では中国向けだった輸出用パインが店頭に並んでおり、店によると売れ行きは上々という。

 

今回の輸入規制について、台湾では、与党・民進党が地盤とする南部に多いパイン農家を狙い撃ちにし、蔡政権への圧力を狙ったのではないかとの見方が出ている。

 

台湾メディアによると、ほかにも中国向けの輸出の割合が高いバンレイシ(釈迦頭)などの果物があり、次の標的にされるのではとの警戒も広がっている。

 

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は2019年の台湾政策演説の中で、「同胞に同じ待遇を提供する。両岸(中台)の共同市場を築く」とし、蔡政権とは対立しつつも民間の経済分野では融和路線を図っていた。今回の措置の政治的な意図は明かしていないが、今後、経済協力の相手を選別していく可能性もある。【3月1日 朝日】

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上記記事にもあるように、南部は与党民進党の伝統的地盤であり、その地盤の農家を対象にした「政治圧力」のように思われます。

 

中国のこうした農産物輸入規制圧力は効果を発揮します

 

2018年11月の統一地方選挙でも“対中関係が悪化したことも蔡政権にダメージとなった。中国は、独立志向がある民進党政権に揺さぶりを続け、中国人観光客は激減。また中国当局は、台湾の農産物買い付けを減らすなどした。観光業の比重が大きい台湾東部や農村地帯では、蔡政権への反発が強まっていた。”【2018年11月24日 毎日】という状況で、与党民進党は結党以来の「聖地」とも言える南部中心都市・高雄市長を国民党・韓国瑜氏に奪われるという手痛い敗北を喫しました。

 

【日本への販路拡大の期待】

中国以外への販路拡大をということで、蔡英文総統が日本語メッセージをTwitterに投稿するなど、日本への期待が強まっています。

 

****台湾パイナップル、中国が輸入停止 ⇒ 日本の消費者に期待する声「ぜひ台湾産を」****

台湾産パイナップルの輸出先は、97%が中国大陸だった。テレパシーのような呼びかけも...

 

中国の税関当局は3月1日から、害虫の検出を理由として台湾産パイナップルの輸入を禁止した。

これに対し台湾側は「非合理的」と反発。これまで輸出先の97%を占めていた中国大陸を補完する買い手として、SNSを通じて日本への購入キャンペーンを強めている。

 

■日本語のSNS投稿相次ぐ

(中略)蔡英文・総統も「オーストラリア産ワインに続き、台湾のパイナップルがターゲットになった」と批判した。

 

オーストラリアのワインをめぐっては、モリソン首相が新型コロナウイルスに関する中国への独立調査を求めたことをきっかけに両国の関係が悪化したあと、中国側が高額の関税をかけていた。

 

現地メディアによると台湾産パインのうち輸出に回されるのは1割あまり。一方で農業委員会の発表によると、台湾が2020年に輸出したパイナップル、4万5621トンのうち97%を中国大陸が占めていて、台湾は主要な輸出先との取引を停止せざるを得なくなる。

 

これを補完するために期待されるのが日本だ。日本への2020年の輸出量は2%に過ぎない(残りの1%は香港)が、台湾側はSNSを通じたキャンペーンを強めている。

 

蔡英文・総統はパイナップルケーキ(鳳梨酥)の画像をTwitterに投稿し、「#パイナップルケーキを食べたことありますよね?パイナップルケーキといっても、台湾にはいろいろな種類があります。皆さんが好きなパイナップルケーキを教えてください!」と日本語で呼びかけた。

 

また、台湾北西部に位置する桃園市の鄭文燦(てい・ぶんさん)市長も日本語を使い、Twitterで「台湾の農民が苦労して育てた美味しくジューシーなパイナップルは、台湾のみならず、日本の方にも愛されています。 まだ召し上がったことのない方は、ぜひ台湾産のパイナップルをお試しください」とした。

 

このツイートは3万回以上リツイートされ、鄭市長は「皆さんがこんなにも台湾のパイナップルを応援してくれていることに感動しています」と再び投稿した。

 

また、日本における台湾との窓口機関である「台湾駐日経済文化代表処」も「#吃爆台湾鳳梨challenge(台湾パイナップル爆食チャレンジ)」というハッシュタグとともに「(台湾と日本にいる…関係者各位…聞こえますか…日本全国が…台湾パイナップルを待っています…今こそ…台湾流美味しいパイナップルの食べ方を…ツイートするのです…みんな…台湾パイナップルが店頭に並ぶのを…待っているのです…)」とまるでテレパシーのように呼びかけた。【3月2日 高橋史弥氏 HUFFPOST】

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「親日国」台湾からのこうしたアピールを受けて、日本のネット民の間でも関心が高まっており、今後の輸入拡大が見込まれています。

 

****中国が禁輸で…注目の「台湾パイナップル」が日本にやってくる!どんな味?どこで買えるのか調べてみた****

台湾の果物と言えば、マンゴー、ライチ、バナナ……そして忘れちゃならないのが、パイナップルだ。お土産にパイナップルケーキがあるくらいだ。当然、台湾ではパイナップルも栽培されているが、日本ではこれまで生の台湾産パイナップルに出会う機会が少なかったと言えるだろう。 

 

しかし2021年は様子が変わりそうだ。(中略)農家が大打撃を受けるなか、活路として期待が高まっているのが日本への輸出だ。

 

今後、日本へのパイナップルの輸出量は倍になる見通しという報道もあり、それに呼応して日本のネットユーザーからも「ぜひ買いたい」という声が高まっている。

 

注目の台湾産パイナップルとはどんなパイナップルなのだろうか?  

 

■台湾産パイナップルってどんな果物? 

現在、台湾では10種類以上のパイナップルの品種が栽培されている。例えば、原産系の酸味が強いものから、ミルクのような香りがするもの、リンゴのようなシャクシャクした食感のものなど……代表的な品種を見るだけでも「パイナップルとはこんなにもバリエーションが豊かなのか!」と驚くばかりである。 

 

その中でも生産量の8割を占めるのが「金鑽パイナップル」だ。金鑽パイナップルは、酸味が控えめで甘みが強い品種で、果肉が柔らかく芯まで食べられるというのが特徴。皮も薄く剥きやすい。

 

美味しい上にほとんど捨てるところがないのだ。日本で手に入るパイナップルは、芯はそのままでは食べられないものが多い。金鑽パイナップルとの出会いは日本人が持つパイナップルのイメージを変えることだろう。 

 

さて、パイナップルというとなんとなく夏のイメージがあるが、台湾産パイナップルの主要産地で最も収穫期が早い屏東県の場合、収穫期は2月~6月頃。つまり、これからが台湾産パイナップルが美味しい季節なのである。 

 

■日本ではどこで買える? 

そうなると気になるのが日本での販売店だ。台湾の報道によると、販売店の1つとして大手スーパー西友の名があがっているが、事実なのだろうか? 

 

そこで西友の広報に問い合わせたところ、西友でも台湾産パイナップルの取り扱い予定はあるとのこと。ただし、3月2日現在、店頭に並ぶ具体的な日程は未定とのことだった。 

 

そのほか、台湾では日本の他のスーパーやネット通販でも台湾産パイナップルが取り扱われると報じられているが、何しろまだ中国の輸入停止の発表から日が浅く、台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)のツイートによると日本向けの台湾産パイナップルは2月27日に出発したばかりだ。

 

果物の輸入には通関や輸送などの手続きもある。台湾産パイナップルを食べてみたい人は、はやる気持ちを抑えながら楽しみに待とう。【3月3日 まいどなニュース】

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ネット通販サイトで見ると、「金鑽パイナップル」が送料込みで1玉1000円程度で売られているようです。

 

前出のように、蔡英文総統自ら懸命の売り込みですが、台湾の駐日代表は「高い値段でたくさん買ってもらうことはできない」と、政治的な働きかけには否定的なようです。まあ、正論ではあります。

 

****台湾の駐日代表、日本へのパイナップル購入要請に否定的考え示す―中国メディア****

(中略)台湾のネット上で、南部の果物農家を助けるため、日本にパイナップルをたくさん購入してもらえるよう要請できないかとの声が上がっていることについて、台湾の駐日代表である謝長廷氏は否定的な考えを示したと、中国メディアの海峡導報社が1日付で伝えている。

それによると、謝氏は2月28日、フェイスブックを更新し、ネット上での声に「理解」と「敬意」を示した上で、日本へのパイナップル輸出量はもともと中国大陸向けの20分の1にすぎず、日本市場で目にするもののほとんどがフィリピン産であることなどを挙げ、「高い値段でたくさん買ってもらうことはできない」とし、現時点で直ちに日本側と交渉することに否定的な考えを示し、「日本市場で正々堂々と競争し、新たなビジネスチャンスを開拓し、中国市場への依存を徐々に解消することこそが長久の計だ」とした。

これに対し、台北市議員の徐巧芯氏はフェイスブック上で、謝氏の見解について「台湾人は自分でなんとかしろ、日本人に迷惑かけるな」という意味だと「皮肉交じりに翻訳」した上で、「さすがに(駐日代表に引っ掛けて)助日代表だけのことはある」と批判しているという。【3月2日 レコードチャイナ】

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台湾パイナップルは昨年5月にも、新型コロナ禍で中国向けが80~90%減少した上、価格も30~40%下落するという事態に見舞われ、日本市場開拓などの必要性が叫ばれていました。【2020年5月12日 SankeiBizより】

 

短期的な支援はともかく、長期的には「日本市場で正々堂々と競争し、新たなビジネスチャンスを開拓し、中国市場への依存を徐々に解消することこそが長久の計だ」というのは、まさにそのとおりです。

 

もちろん、台湾でも農家支援の「爆買い」が起きています。台湾内での内需が9割を占めていますので、量的にはこちらが本命でしょう。

 

****パイン禁輸、台湾が「爆買い」で中国に対抗 注文が殺到****

中国が害虫検出を理由に1日から台湾産パイナップルの輸入を停止したことを受け、台湾人が対抗措置としてパインの「爆買い」を続けている。

 

中国の禁輸発表から4日間で昨年1年間の対中輸出量に迫る約4万トン余りの注文が殺到。台北の日本台湾交流協会(大使館に相当)なども2日、SNSにパインの写真を投稿し、台湾支援の姿勢を示している。

 

台湾では今回の禁輸措置について、中国と距離を置く蔡英文(ツァイインウェン)政権に対する圧力だとする見方が強い。蔡総統ら政権幹部も相次いで禁輸の不当さを訴えるメッセージを発している。

 

台湾メディアによると、中国が2月26日に禁輸を発表した後、台湾当局が設けた購入窓口に注文が殺到。3月2日時点の台湾当局の集計で、180社余りの企業と1230人の個人から購入希望が寄せられている。海外を含めたこれまでの購入見込み総量は4万1687トンに上るという。昨年の対中輸出量は4万トン余りだった。

 

台湾の大手スーパー「全聯福利センター」が「赤字が出ても買う」と唱えて1万トンの購入を表明したほか、通信大手の「中華電信」も各従業員に配るために30トンの購入を決定。

 

台湾でラーメン店チェーンを営む野崎孝男さん(46)も東日本大震災の際に台湾から受けた支援への感謝として、3110個を買った。店でラーメンを注文した客に無料で配っており「友人が困っている時に助けるのは当然だ」と話す。【3月3日 朝日】

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【中国からは、アメリカの対中国規制を是としながら中国の同様措置を否とするのは「ダブルスタンダード」との批判も】

一方、中国からすれば米中貿易機戦争でアメリカがやってきたことと同じで、中国への批判・台湾支援の声は「ダブルスタンダードだ」という不満にもなります。

 

****中台“パイナップル戦争”、台湾支持の声に「ダブルスタンダードだ」との批判も****

中国の海関総署(中国税関)は26日、有害生物の存在を理由に台湾からのパイナップル輸入を当面停止すると発表した。台湾の蔡英文政権は同措置を批判した。日本で、同件について台湾側を支持する書き込みが増え始めたことについて、中国人からは「ダブルスタンダードだ」との批判が出はじめた。

蔡英文総統はフェイスブックに「中国が奇襲的な通知で、台湾パイナップルの輸入を一方的に一時停止したことについて、貿易についての異常な考え方であり非難します」などと書き込み、政府関係者に対して農民に協力するよう指示したことを明らかにした。

 

蔡総統はさらに、台湾から中国に輸出されたパイナップルについて、2020年から現在まで合格率は99.79%に達しており、台湾は農産物の輸出について国際規範を遵守し、輸入国側の要求にも協力していると主張した。

台湾当局の報道官及び台湾与党である民進党も、中国側のパイナップル輸入停止の措置について「大陸側が経済的手段によって台湾に圧力をかけた」との考えを示した。

 

蔡総統はまた、パイナップルを食べて台湾の農家を支えようとも呼びかけた。中国メディアの環球時報は台湾側の動きを「機会に乗じて政治的な操作をもてあそび始めた」と批判した。

同件が伝えられると、日本人によるとみられる台湾側に対する同情や応援、中国の措置を批判するSNSでの書き込みが増え始めた。

 

一方で在日中国人の間では、このような日本人の姿勢に対する批判が発生。中国側が主張する「有害生物の存在」との理由については、「事実はどうかは分からない」としつつ、よく似た状況の米国などによる中国製品に対する圧力に対して、米国寄りの立場を取る日本人が多いことに対しする違和感の表明だ。

米国は華為技術(ファーウェイ)など中国企業に対して「不正を行っている」として取引の禁止を実施したが、日本では米国を批判する声がほとんど聞かれないからだ。

 

政治的な理由で貿易に介入することの是非は別としても、同じような構図であるのに中台間の問題については台湾を支持する一方で中国を批判し、米中間の問題では米国を支持し中国を批判するのは「ダブルスタンダード」との指摘だ。【3月1日 レコードチャイナ】

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これも、耳を傾けるべき指摘でしょう。

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