孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマーを追われ、周辺国からも追われ、行き場のないロヒンギャ

2021-03-08 23:07:04 | 難民・移民

(ロヒンギャの少女の顔には、「タナカ」が塗られていた。これはミャンマー独特の習慣だ【2月14日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

 

【同化を拒むミャンマー 軍事クーデターで遠のく事態改善】

ミャンマー西部、ラカイン州に暮らすスラム系少数民族ロヒンギャについては、ミャンマー国軍による民族浄化と言うべき暴力・虐殺・レイプ・放火などによって、その多くが隣国バングラデシュに追いやられています。

 

国軍に限らず、多くのミャンマー国民にとっては、ロヒンギャは国内少数民族ではなく、ベンガル地方からの違法な侵入者にすぎない・・・という認識であり、そうしたロヒンギャに対する嫌悪感が、スー・チー氏もこの問題に触れることができないというように、問題の解決を困難にしています。

 

しかし、何世代にもわたりミャンマーに暮らすロヒンギャも多く、そのミャンマー人への同化を拒んでいるのはミャンマー政府側の責任だとの指摘も。

 

*****ミャンマーの化粧をするロヒンギャの少女とたくましさ****

アジアの小さな村を旅してまわり、人々とふれあいながら撮影を続ける写真家の三井昌志さん。最新の写真集「Colorful Life 幸せな色を探して」(日経ナショナル ジオグラフィック社刊)から、ミャンマーでたくましく生きる人々の姿とその物語を紹介してもらった。

◇     ◇     ◇

ミャンマーの女性や子供たちが顔に塗っている白い粉は、「タナカ」と呼ばれる天然の日焼け止め兼化粧品だ。ミャンマー中部の乾燥地域に生えているタナカの木(ミカン科ゲッキツ属の樹木)を石板ですりおろし、それに水を加えてペースト状にしてから、ほおや鼻に塗る。

 

これは日差しが強いミャンマーで2000年前から受け継がれてきた伝統的な習慣で、日焼け防止だけでなく、防虫効果や美肌効果もあると言われている。

 

色鮮やかなサリーを見ればすぐにインド人だとわかるように、白いタナカが塗られた顔を見ればすぐにミャンマー人だとわかる。タナカは、ミャンマー人としてのアイデンティティーを表す象徴でもあるのだ。

 

タナカの習慣は、ミャンマー国民の約7割を占めるビルマ族だけでなく、山岳地帯を中心に広く分布している少数民族たちにも受け入れられている。

 

ミャンマー西部ラカイン州に住むムスリム系住民・ロヒンギャたちも、その例外ではなかった。多くの点で多数派のビルマ族とは異なるロヒンギャだが、タナカを顔に塗る習慣は同じように受け継がれているのだ。

 

ロヒンギャとは隣国バングラデシュから移住してきた人々の末裔(まつえい)で、すでに何世代にもわたってラカイン州に住んでいる。にもかかわらず、ミャンマー政府からは不法移民者として扱われていて、市民権を奪われたまま、数十年にわたって差別と迫害に苦しんでいた。

 

2017年8月にはロヒンギャ住民とミャンマー政府軍とのあいだで大規模な衝突が発生し、政府軍による虐殺と焼き打ちによって、70万を超えるロヒンギャたちが難民となって隣国のバングラデシュへ逃げ延びる事態となった。

 

この衝突で発生した大量の難民たちは劣悪な難民キャンプでの生活を余儀なくされ、21年の今もなお故郷に帰還するめどは立っていない。

 

ロヒンギャの人々が差別と迫害を受けてきたのは、彼らが母国ミャンマーへの同化を拒んでいることにも原因があると言われていた。

 

ロヒンギャ語という独自の言語を話し、イスラム教を信じているロヒンギャたちは、多数派である仏教徒と共存することは不可能だから、彼らの先祖が住んでいたバングラデシュへと追い返してしまえばいい、というのがミャンマー政府軍とそれを支持する人々の理屈だった。

 

しかし実際にミャンマーにあるロヒンギャの村を歩いて、彼らの側からものごとを眺めてみれば、事態はまるで違った様相を呈してくる。

 

確かにロヒンギャたちは独自の言葉を話しているが、ビルマ語を習得しようと努力しているし、それがいまだに不十分なのは、ミャンマー政府がロヒンギャの学校に対して一切支援していないからでもある。

 

ロヒンギャの村人の多くは貧しく子だくさんだが、それは彼らの市民権を奪い、まともな仕事に就けないような法律を作った体制側の責任だとも言えるのである。

 

現金収入が得られる仕事にも就けず、村の外に出ることすら許されていないロヒンギャたちは、人力と畜力に頼った昔ながらの農業で日々の糧を得ていた。

 

「父も祖父もここを耕してきたんだ」と使い古したクワを手にした男は言った。「やがて子や孫たちも、この畑を耕し、種をまくだろう。ここは私たちの故郷だから。誰に何を言われても、離れるつもりはない」

 

ロヒンギャの子供たちも働き者だった。男の子は村のそばを流れる川の水をくんで運ぶ仕事をしていたし、女の子は川の水でお米を洗ったり、洗濯を手伝ったりしていた。ため池に網を投げて小魚を捕まえる子もいたし、手製のパチンコを使ってコウモリを撃ち落とし、それを通りかかった車に売りつけている子もいた。

 

電気も水道もテレビもない不便な暮らしだが、子供たちの表情は生き生きとしていた。その笑顔には「どんな状況にあってもたくましく生きていく」という人間の本質が表れていた。

 

村の小学校はとても粗末だった。ミャンマー政府からの援助が受けられないために、校舎は狭く、竹を編んで作った屋根には大きな穴が開いていた。それでも子供たちの学ぶ意欲は高く、黒板を見つめる目は輝いていた。

 

ロヒンギャの子供たちの顔に塗られた白いタナカ。そこには、民族や言語や宗教の違いを乗り越え、「ミャンマー人」として堂々とこの土地で暮らしたい、という願いと決意が込められているように感じられた。【2月14日 NATIONAL GEOGRAPHIC】

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現実問題としては、ロヒンギャ弾圧の中核であった国軍が軍事クーデターによって実験を掌握したことで、バンクラデシュに逃れたロヒンギャ難民の帰還などの問題解決は、更に遠のいています。

 

****ロヒンギャの帰還さらに遠く 国軍、迫害を認めず*****

国際法廷、総司令官を訴追も

 

ミャンマー国軍が(2月)1日のクーデターで全権を握り、隣国バングラデシュで難民生活を送る少数民族ロヒンギャの帰還は一段と難しくなった。

 

ロヒンギャを迫害した国軍が犯罪行為を認めず、帰還後の安全も保証しないためだ。国軍は、責任者の訴追を模索する国際法廷に反発し、真相究明への協力を拒む。深刻な人道危機の解消は遠のき、欧米からの批判が一段と強まりそうだ。

 

「クーデターは悲惨な出来事で、恐ろしい」。バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプに住む30歳代のロヒンギャの男性モハマドさんは、日本経済新聞の取材にこう話した。

「母国(ミャンマー)で市民権を得られるなら帰りたいが、いつになるか分からない」と嘆いた。

 

一方、支援団体のリーダーはAP通信に「(難民の)家族を殺し、村を焼き払った国軍の支配下では安全なはずがない」と指摘した。

 

バングラデシュとミャンマーはロヒンギャの自主的な帰還を促すことで合意済みだが、希望する難民はほとんどいない。イスラム教徒のロヒンギャは仏教徒が大半のミャンマーでは宗教上の少数派で、国籍が付与されず、権利が保障されていないためだ。

 

ミャンマー国軍が警戒するのは、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)の動きだ。ICCはロヒンギャ迫害の責任者として国軍幹部を訴追する構えだとみられている。

 

2020年9月には国軍兵士2人の身柄を確保した。証言を引き出す狙いだとの見方がある。ミャンマー西部で迫害と70万人以上の国外流出が始まった17年8月の時点でも国軍総司令官だったミン・アウン・フライン氏の責任も問われかねない。

 

ICCは09年、戦争犯罪や人道に対する罪で現職のスーダン大統領だったオマル・バシル氏の逮捕状を発行。容疑者となったバシル氏は身柄の拘束を恐れ、自由な外遊ができなくなった。

 

ICCはロヒンギャ迫害についても、人道に対する罪などで19年11月、正式捜査を始めると表明した。今後、国軍幹部に逮捕状を出す可能性が取り沙汰されている。

 

一方、国軍が身柄を拘束した民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏は19年12月、ハーグにある別の国際法廷である国際司法裁判所(ICJ)で「国際人道法に反する行為が(国軍側に)あったことは否定できない」と認めた。

 

事実上のミャンマー政府トップとしての公式の証言で、国軍の同氏への不信感につながった。

 

バングラデシュ政府はロヒンギャ難民を持て余す。過去の流入者を含め、キャンプの人口は約100万人に膨れた。周辺の住民も、なし崩し的な「定住」を歓迎していない。

 

外務省は1日のクーデター発生後の声明で、ロヒンギャの帰還に向けたミャンマーとの協議が「続くよう期待している」と主張。

 

バングラデシュの英字紙デーリー・スター(電子版)は3日、同国政府が新たに(国軍の統治を恐れる)ロヒンギャが流入しないよう国境管理を強めたと報じた。

 

バングラデシュのモメン外相は同紙に「いまや国民は(ロヒンギャを)迎えたくない。ほかの国に受け入れてもらうほかない」と述べた。

 

バングラデシュ政府は20年12月から、キャンプでの治安悪化などを理由に、近隣のベンガル湾の離島に難民を移し始めた。これまで3回にわたり計約5000人を送った。計10万人の移送を目標にする。

 

実態は強制移住だと訴えるロヒンギャもいて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が懸念を示している。移送先は「バシャン・チョール」という島だが、豪雨や高潮が起こりやすい。水没のリスクも指摘されている。【2月10日 日経】

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ICC法廷におけるスー・チー氏の証言にいついては、上記にあるように一部行き過ぎがあったことは認めていますが、基本的には国軍の主張を認めるもので、国軍の弾圧責任を認めようとしないということで、国際的には同氏に対する失望と落胆を招いています。

 

【不毛の島に難民を隔離しようとするバングラデシュ】

ミャンマーが毛嫌いするロヒンギャですが、バングラデシュ政府にとってもロヒンギャ難民は厄介者であり、上記記事にもあるように、居住に適していないとの批判もある島への移送を進めています。

 

****ロヒンギャ移住1万人超に バングラデシュ****

ミャンマーから隣国バングラデシュに逃れているイスラム教徒少数民族ロヒンギャ2200人余りが3日、バングラデシュ政府が居住区を建設したベンガル湾の島に移動した。当局者が明らかにした。

 

同国政府が昨年12月から移住計画を実行、今回で計1万人を超えた。

 

バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプには、17年にミャンマーで起きた武装集団と治安部隊の衝突から逃れた70万人超のロヒンギャら100万人以上が密集して暮らす。

 

居住区には約10万人を収容可能で、政府は難民キャンプの過密緩和を図りたい考え。同国政府は移住したのは希望者としている。【3月4日 共同】

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ミャンマーはロヒンギャを力づくででも追い出そうとしている。

バングラデシュも「いまや国民は(ロヒンギャを)迎えたくない。ほかの国に受け入れてもらうほかない」とい姿勢で、ロヒンギャを不毛の島に隔離しようとしている。

 

【ミャンマーへ強制送還するインド】

受け入れる「ほかの国」があるのか?・・・・東南アジア・インドなど周辺国の対応も厳しいものがあります。

 

*****インド当局、ロヒンギャを多数拘束 ミャンマーに送還か*****

ミャンマーで迫害を受けてインド北部の連邦政府直轄地ジャム・カシミールに逃れていたイスラム系少数民族ロヒンギャが、当局に拘束され収容施設に入れられていることが7日、現地警察幹部の話で分かった。ミャンマーに送還されるとみられる。

 

ジャム警察のムケシュ・シン警視長はAFPに対し、6日以降に少なくとも168人のミャンマー出身のロヒンギャを拘束したと語った。「不法移民」の国籍を確認した上で、詳細をインド外務省に送り、国外退去に向けたミャンマー側との手続きに入るとしている。

 

シン氏によると、ジャム・カシミールには約5000人のロヒンギャがいるとみられている。

 

ヒンズー教徒が住民の大多数を占めるジャムでは、ほとんどのロヒンギャがスラムに暮らしており、命の危険を感じると訴えている。

 

7日にAFPの電話取材に応じたロヒンギャ男性は、「ビルマ(ミャンマー)に送り返すぐらいなら、ここで私たち全員を撃ち殺せばいい。向こうでも弾丸の雨を浴びせられることになるのだから」と語った。ロヒンギャの人々は、警察による摘発が始まってから「眠れていない」という。

 

ナレンドラ・モディ首相率いるインド政府はヒンズー至上主義的な政策を掲げ、国内に約4万人いるとされるロヒンギャを国外に退去させるよう、以前から各州・連邦直轄地に求めていた。

 

インド政府は、ロヒンギャを「イスラム国」などのイスラム過激派とつながりを持つ安全保障上の脅威だとみなしているが、ロヒンギャの指導者らは疑惑を否定している。 【3月8日 AFP】

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ヒンズー至上主義のインド・モディ政権にイスラム系ロヒンギャの保護を期待することはできませんが、イスラム教徒が多いマレーシア・インドネシア、周辺タイなどの国あっても事情は似たようなものです。

 

【危険な難民船による脱出】

また、マレーシア・インドネシアなどを目指す難民船による脱出自体が、きわめて危険な旅路となっています。

 

*****ロヒンギャ難民船が漂流、8人死亡 90人乗船*****

インド外務省は25日、バングラデシュ南東部コックスバザールから90人を乗せて出航した船が漂流し、8人が死亡、1人が行方不明になったと明らかにした。

 

乗船者や場所の詳細に触れていないが、AP通信によると、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの難民を乗せた船がアンダマン海を漂流中で、同じ船とみられる。

 

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が救助を呼び掛け、インド沿岸警備隊が船を発見。食料や水を提供し、医療支援を行った。インド外務省によると、船は11日に出航、15日にエンジンが故障し漂流した。インドとバングラデシュが対応を協議しているという。

 

ミャンマーで2017年に起きた武装集団と治安部隊の衝突後、ロヒンギャ70万人以上がバングラデシュに逃れ、コックスバザールの難民キャンプで生活。東南アジアへの密航を試みる船が度々救助されている。【2月26日 共同】

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たとえどこかの国にたどり着いても、その国の政府・軍によって再び海に押し戻されるといった対応が待っています。

 

ミャンマーにも、バングラデシュにも、周辺国にも行き場がないロヒンギャです。

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