(負傷したデモ参加者の応急手当てにあたった救急隊員3人を救急車から降ろし、銃床や警棒で打ちのめす治安部隊 【3月5日 ANN】)
【激しい抵抗に苛立つ軍政 武力弾圧を強める】
多くの報道があるように、ミャンマーの軍事クーデターに対する市民の抵抗が続いており、それに対する鎮圧行動は激しさを増し、ロイター通信によれば、クーデター以降少なくとも55人が死亡したとのことです。
****Tシャツには「全てうまくいく」…ミャンマーデモで撃たれ死亡の10代女性****
ミャンマー第2の都市マンダレーで3日、軍事クーデターに抗議するデモに参加していた若い女性が銃で撃たれ、亡くなった。着ていたTシャツの胸元には、英語のメッセージが記されていた──「全てうまくいくよ」。
ダンスが大好きで、「天使」の愛称で知られたチャル・シンさんは、いつもファッションにメッセージを託してきた。黒い上着の背中に「私たちには民主主義が必要だ。ミャンマーに正義を。国民の投票結果を尊重せよ」というスローガンを貼り付けて、軍事クーデターに対する抗議デモに参加したこともあった。
「全てうまくいくよ」という言葉は、たちまち新たなスローガンとなってソーシャルメディアで広がった。4日に行われた葬儀には数千人が参列した。
チャル・シンさんにとって、ミャンマーに民主主義を取り戻すことは、自分の身の安全よりも重要だった。そして、2月1日に起きたクーデターで拘束されたアウン・サン・スー・チー国家顧問の解放を求める全国的な抗議デモに身を投じた。
今週には、抗議デモに行く前にフェイスブックに血液型と電話番号を掲載し、もし自分の身に何かあれば、臓器を提供すると書き込んでいた。
国連によると、3日のデモでは少なくとも38人が死亡。クーデター発生後、最悪の流血の事態となった。
ソーシャルメディアに投稿された動画には、撃たれる直前のチャル・シンさんの様子が映っていた。銃声が響き、催涙ガスが立ち込める中、道路を這い物陰に隠れようとしていた。
医師はAFPの取材に、チャル・シンさんは頭を撃たれたと話した。
チャル・シンさんの死が報じられると、インターネットには追悼の言葉や彼女を描いたイラストなどがあふれた。
4日午前には、人々が花束や花輪を手にひつぎの前に列をつくり、ミャンマーで広く歌われる革命歌「この世の終わりまで忘れない」を歌った。
ネットでは多くの人がチャル・シンさんを殉難者とたたえ、悲しみを分かち合っている。フェイスブックでチャル・シンさんとつながっていた男性は、こう追悼の言葉を寄せた。「安らかに眠ってください、友よ。われわれは最後までこの革命を闘い抜きます」 【3月5日 AFP】
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****ミャンマーで子供500人拘束か=5人死亡、催涙ガス被害も―ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は4日、ミャンマー国軍による抗議デモの弾圧が続くミャンマーで、推計500人以上の子供が恣意(しい)的に拘束されていると発表した。多くが外部との連絡を絶たれている。
ユニセフはこうした拘束や子供に対する実弾の使用を「最も強い言葉で非難する」と表明した。
ユニセフによると、3日時点で少なくとも子供5人が死亡したという報告があった。また、多くの子供が催涙ガスや音響閃光(せんこう)弾の被害にさらされている。家族が閃光弾などの標的になる例もあり、ユニセフは「深刻な精神的苦痛のリスクがある」と警告した。【3月5日 時事】
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救急車両から降ろされたボランティアの救急隊員3人が座らされ、複数の警官に繰り返し銃や警棒で殴られたり、蹴られたりする様子を映した動画も国内外に広がっています。
クーデターで全権を掌握したミャンマー軍政は、抗議デモへの弾圧を強化しています。デモ隊に対して殺傷能力の高い短機関銃を使用したとも報じられています。
そうした鎮圧行動強化の背景には、クーデターから1カ月を過ぎてもデモが収束せず、更に公務員による不服従運動など抵抗が拡大していることへの焦りやいらだちがあると思われます。
しかし、強引な鎮圧行動の犠牲者の様子がSNSで国内外に広く流され、市民側は更に抵抗を強める・・・という形で、混乱は拡大しています。
正直なところ、「力」の行使をためらわない国軍を前にしては、市民の抵抗も難しいのでは・・・と、個人的に考えていましたが、早期収束を狙う国軍の想定したシナリオは狂いつつあります。
【中国・ロシア 欧米とは一線を画しつつも、様子見の面も】
国際的な批判も強まっています。国軍はそうした批判は想定内としていますが、頼みの綱の中国なども、批判を強める欧米とは一線を画してはいるものの、それほど積極的に国軍を支援するという雰囲気でもなく、これも国軍にとっては想定外の事態でしょう。
****無抵抗者への銃撃映像が拡散 ミャンマー、弾圧が過激化*****
国軍がクーデターで権力を握ったミャンマーで3日、治安部隊が各地でデモ参加者に発砲し、38人が犠牲になった。1日の犠牲者数としては2月1日のクーデター以来最悪で、武力弾圧は激しくなる一方だ。最大都市ヤンゴンでは外出を控える人が増え、街は閑散としている。(中略)
ミャンマー国軍側は意図的に、抗議デモへの抑圧の度合いを強めている。現地の映像を見ると、市民を手当てする救護隊員にも暴行しており、状況は日に日に悪化している。
国軍は、市民の不服従運動はいずれ沈静化すると踏んでいたのだろう。運動の広がりと長期化は、想定外だったはずだ。
もう一つの計算違いは、彼らの「数少ない友人」である中国やインド、ロシアが自分たちを積極的に支援しようとせず、静観し続けていることだ。
その中で不服従運動は続き、国民は言葉による警告や脅しにもひるまなかった。
国軍側が「我々は制裁には慣れている」と強弁したり、デモへの抑圧を強めたりしているのは、それだけ国軍が追い詰められている証拠とも言える。
国軍側のシナリオは崩れているが、トップのミンアウンフライン最高司令官に、国際社会と妥協点を探そうとする姿勢は見えない。
市民への抑圧を強めればミャンマーは国際社会でさらに孤立し、民政移管以降の経済成長の果実も失われて、かつての軍事政権時代に後戻りしかねない。
国際社会は一致して強硬な非難声明を出し、制裁と対話を進めながら、国軍に方針転換を迫るべきだ。(聞き手・福山亜希)【3月4日 朝日】
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“国際社会は一致して強硬な非難声明を出し・・・”というのは、やはり中国・ロシアの消極姿勢で困難な状況です。
このあたりは、国軍が期待するシナリオどおりです。
****ミャンマー巡る安保理議長の声明案、中露の難色で協議継続…緊急会合*****
国連安全保障理事会は5日、クーデターを強行した国軍による抗議デモへの弾圧が続くミャンマー情勢を協議するため、オンラインによる非公開の緊急会合を開いた。英米両国は暴力の停止や民政復帰に向けた議長声明の採択を目指すが、中国とロシアが慎重姿勢を示し、協議は継続となった。
この日の会合では、ミャンマーを担当するクリスティン・ブルゲナー国連事務総長特使が、弾圧で市民約50人が死亡したなどと報告。弾圧に歯止めがかからない状況について「国連に対する(ミャンマー国民の)希望がしぼみつつある」と訴え、安保理に結束を求めた。
安保理筋によると、英国が配布した議長声明案について、中国とロシアが難色を示したという。中露は武器輸出などを通じてミャンマー国軍と関係が深く、国軍への非難も避けている。
緊急会合の開催を要請した英国のバーバラ・ウッドワード国連大使は会合後、記者団に「状況を注視し、安保理が合意に到達できるよう行動する」と述べた。【3月6日 読売】
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【「内政不干渉」を原則とするASEAN内にも批判】
ただ、「内政不干渉」を原則とするASEAN内にも批判があります。
****ミャンマー情勢 ASEAN外相会議が異例の「懸念」表明****
国軍によるクーデターが起きたミャンマー情勢を巡り、2日に非公式の特別外相会議を開いた東南アジア諸国連合(ASEAN、10カ国)は「懸念」を表明する議長声明を発表した。ASEANは1967年の創設以来、加盟国の国内問題には干渉しない「内政不干渉」を原則としており、異例の対応となった。
声明は、ミャンマーの治安当局が、抗議デモに参加した人々を強制排除する動きを加速していることを念頭に、「全ての当事者に暴力の抑制と建設的な対話を通じた平和的な解決を模索してほしい」と要請。
「ASEANは積極的、平和的、建設的にミャンマーを支援する用意がある」とした。また、アウンサンスーチー氏を念頭に「政治的理由で拘束されている人たちの解放を求める声があった」と指摘した。
ロイター通信によると、会議ではインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールの4カ国がスーチー氏らの解放などを要求。全権を掌握している軍事政権に対応を迫った。
外相会議の開催を主導したインドネシアのルトノ外相は2日、内政不干渉の原則を重ねて示しながら「民主主義を回復軌道に乗せなければならない」と強調した。【3月3日 毎日】
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インドネシアとシンガポールの両外相は、ミャンマー国軍が任命したワナ・マウン・ルウィン氏を外相と呼称しなかったとも。【3月3日 共同より】
【軍政からの権限移譲の受け皿にもなりうるNLD新組織】
こうした混乱のなかで、注目される二つの動きが。
ひとつは、政治的には抵抗運動の「核」となるスー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)メンバーら動きです。
****スー・チー氏支持派、複数の「大臣代行」任命 対決姿勢鮮明、国軍は警戒****
国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーで、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)メンバーらが複数の「大臣代行」を任命するなどして、国軍による政権運営を認めない動きを強めている。
国軍側を「テロ組織」とも批判。メンバーへの支持は拡大しつつあり、警戒する国軍は摘発に乗り出す構えを見せている。
2月1日のクーデター後、昨年11月の総選挙で当選したNLD所属議員らは「連邦議会代表委員会(CRPH)」という組織を設け、反国軍に向けた政治活動を開始。クーデターに抵抗する意思表示として職場を放棄する「市民不服従運動」も推進している。
CRPHは「スー・チー政権」こそが正統だと主張。今月2日には、スー・チー氏ら閣僚が拘束されているため、「内閣は職務を遂行できない状態だ」と述べ、外相など複数の「大臣代行」を任命した。国軍が設けた最高意思決定機関「国家統治評議会」による大臣任命を認めない姿勢を鮮明にした形だ。
CRPHは治安部隊がデモ隊に発砲するなど弾圧を続けていることを受け、国家統治評議会を「抗議者を殺害と暴力で恐怖に陥れているテロ組織」とも批判している。
CRPHをめぐっては、2月26日に国連総会非公式会合で異例の国軍批判を展開したチョー・モー・トゥン国連大使が支持を表明していた。NLD関係者によると、国軍は外交官にCRPH支持が広がることを警戒しており、スー・チー政権下で赴任した複数の在外公館職員に帰国の内示を出したという。
国家統治評議会は声明でCRPHは「非合法組織だ」と指摘。今月6日までに離脱しないメンバーには「重大な行動を取る」と宣言するなど強硬な姿勢を示している。【3月4日 産経】
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****NLD新組織に存在感=国軍、警戒強める―ミャンマー*****
(中略)CRPHは国際的にも受け入れられつつある。ドイツのショイブレ連邦議会(下院)議長はCRPHに書簡を送り、「国軍はミャンマーの民主化を不当に停止させた」と非難。「皆さんが苦境を乗り切るよう願う」とエールを送った。
国軍は国連総会の会合でCRPHの立場からクーデターを批判し、国際社会に支援を訴えたチョー・モー・トゥン国連大使を解任。ティン・マウン・ナイン次席大使を代理大使に指名した。
しかし、次席大使は辞意を表明。ミャンマー国連代表部はチョー・モー・トゥン大使がそのまま務めることを確認し、国軍は面目をつぶされた。【3月6日 時事】
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【今後のカギとなる軍・警察からの離反者】
もうひとつの注目される動きは、軍・警察など身内からの造反です。
****軍人や外交官、不服従の動き ミャンマー国軍、内外から反発*****
クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーで、足元の国軍や警察の内部から不服従の動きが出ている。4日には陸軍大尉とみられる人物がSNSで国軍を批判。不服従は外交官にも広がっており、国軍は内外から揺さぶりを受けている。ただ、抗議デモに対する武力弾圧は5日も続き、犠牲者も出ており、国軍への反発はさらに高まりそうだ。
「国と国民に対する国軍指導者の態度は間違っている」「もはや彼らの下では働きたくない」。首都ネピドーで任務にあたる陸軍大尉というニートゥーター氏は4日夕、フェイスブックにこう投稿し、職務を放棄して国軍に抗議する不服従運動に加わると宣言した。
ニートゥーター氏は投稿で、クーデターが起きた2月1日から反対の立場で、「間接的に不服従運動に協力してきた」と説明。治安部隊による抗議デモ参加者への武力弾圧が続くなか、「1人の兵士として、ひどい事態を防げなかったことをおわびしたい」とした。さらに「国軍の尊厳は史上最悪の状態にある」と非難し、「勇気と知恵は正しい場所で使うべきだ」「私より勇気を持った兵士はたくさんいる」と訴え、他の兵士にも不服従運動に加わるよう呼びかけた。
ニートゥーター氏は投稿後、顔を出さない条件で現地記者の取材に応じ、その様子の動画がユーチューブで公開された。同氏は国軍から処罰される可能性が高く、現在は身を隠しているという。同氏のフェイスブックのアカウントは5日夕までに削除された。
また、現地メディアによると、東部カレン州でも国軍兵士約10人が任務を離れ、少数民族の武装勢力に合流したという。
警官の離反も相次ぐ。ロイター通信は4日、これまでに少なくとも19人のミャンマー人警官が西隣のインドに逃れたと報じた。逃れた警官は「国軍から従うことのできない指示を受けた」と話しているという。ミャンマーメディアによると、不服従運動に賛同を表明した警官は100人以上に上り、デモ参加者への発砲命令を拒否した若手のほか、最大都市ヤンゴンの警察署幹部もいるという。
外交関係者の反発も目立つ。これまでに、米、独、スイスなどの在外公館の外交官や職員ら少なくとも11人が不服従運動への参加を表明した。在ワシントンのミャンマー大使館は4日に出した声明で、「平和的なデモをした民間人の命が失われたことを深く悲しみ、致命的な力の行使に強い反対と拒絶を表明する」と国軍側を非難した。(後略)【3月6日 朝日】
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****「国軍指示従えぬ」ミャンマー警官600人超「不服従運動」参加****
国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーで、デモ隊弾圧の最前線にいる警察官の間にも、職務を放棄して抗議の意思を示す「市民不服従運動」参加の動きが広がっている。地元メディアは600人以上が職を離れたと報道。デモ隊の犠牲者が50人を超える中、強硬姿勢に対して国軍の足元でも反発が広がり始めた。
6日も同国各地で抗議デモが相次いだ。最大都市ヤンゴンでは治安部隊が催涙弾を発射し、強制排除に乗り出した。デモに参加していた男性(22)は産経新聞通信員に、「声を上げ続けなければ軍政を認めたことになる」と話した。
地元メディアによると最大都市ヤンゴンの警察幹部が2月下旬、「国軍の下で任務に就きたくない」として、不服従運動参加を宣言した。その後、デモ隊への銃撃を拒否する警察官も相次いでいる。
警察官やその家族、約30人が国境を越えて西側のインドに入国し、保護を求めたとの情報もある。ロイター通信によると「国軍の指示に従えない」と話したという。ミャンマー側は身柄引き渡しを要求しており、インド政府が対応を協議している。
一方、地元メディアによると、「エンゼル」(天使)の愛称で知られ、デモ参加中に銃撃で死亡したチェー・シンさん(19)の遺体が5日、国軍関係者によって墓地から掘り起こされた。遺体はその後、戻されたというが、遺族に無断で死因を調べるなどした可能性があり、国内で反発の声が上がっている。【3月6日 産経】
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こうした身内からの造反が今後更に増えるようだと、市民の抗議活動への実力行使が困難になり、国軍側も追い詰められる状況ともなります。
そうなれば、前出の「連邦議会代表委員会(CRPH)」が軍に権限移譲を迫る・・・ということにも。
逆に、軍・警察の軍政支持が崩れなければ、抵抗運動の継続も難しいでしょう。