(ハンガリーのナジカータで、ロシア製の新型コロナウイルスワクチンの接種を受ける人(2021年2月24日撮影)【3月9日 AFP】)
【ジョンソン英首相「EU離脱の成果」 面目を失ったEU】
順調に新型コロナワクチン接種が進むイギリスに対し、EUがワクチンの確保に初動で「失敗」し、製薬会社とのバトルや、「輸出管理」の導入に至っていることは周知のところ。
この混乱のなかで、一部の国々ではロシア製ワクチン「スプートニクV」への期待も高まっています。
*****ワクチン争奪戦、欧州明暗 新型コロナ*****
日本に先駆けて新型コロナのワクチン接種が欧州全域で始まって2カ月近くが経った。順調に接種が進む英国に対して、欧州連合(EU)ではワクチン供給が遅れ、ロシア製に目を向ける加盟国も出始めた。
EUは域内で生産したワクチンの輸出許可制を導入しており、状況次第では日本にも影響が及びかねない。
■巨額投じ迅速に入手 英
「前例のない成果だ」
英国のジョンソン首相は15日、順調なワクチン接種の現状を誇り、関係者をねぎらった。英国では前日、目標日程を1日前倒しして、70歳以上の高齢者や医療従事者ら1500万人への接種を完了した。
準備は素早く綿密だった。昨年5月、首相肝いりの「ワクチン特命部隊」トップに元生化学者のベンチャーキャピタリストが就任。オックスフォード大とアストラゼネカの国産ワクチン開発に6550万ポンド(約96億円)を投資して優先供給の約束を取り付けた。
民間出身メンバーが有望なワクチン候補を洗い出し、個人的つながりも生かして個別交渉に持ち込んだ。
米ファイザー製を含め計7種類を確保。スピード重視で購入や製造などに120億ポンド(1兆7620億円)の巨額を投じ、3億6700万回分をおさえた。単純計算で人口の5倍以上に相当する。
EUの共同調達の枠組みには加わらなかったことも吉と出た。EU離脱後の移行期間中で参加は可能だったが、意思決定の遅れを警戒した。実際、EUが条件でもたつく間に先行した。(中略)
■遅れ、独自確保模索も EU
出遅れたのはEUだ。欧州委員会が加盟国を代表して確保したワクチンは、承認済みの3種だけで計約12億回分に上る。だが実際に接種が始まると、次々に供給の遅れが出た。
とりわけ英アストラゼネカの遅れが目立つ。3月までの供給量を900万回分増やして4千万回に増やす方針だとEU側に伝えたが、それでも、当初予定の3分の1にすぎない。
フォンデアライエン欧州委員長は「(製薬会社と)ワクチン開発に力を注いできたが、大量生産の難しさを過小評価していた」と語る。
加盟国からは、ワクチン争奪競争に負けたのではとの批判も相次いだ。アストラゼネカが契約の順番などを理由に「英国優先」の姿勢を示したこともあり、EUは1月末、域内でつくられたワクチンの「輸出管理」に踏み切った。
契約通りの供給を確保するため、域外への輸出には数量を報告させて許可を出す仕組みだ。EUは「公平な配分のために、透明性を高める措置だ」と説明。
日本やカナダ向けの出荷も認められた。ただ、EU高官は、生産が遅れ、出荷可能なワクチンの大半がEU外に渡るような場合は、輸出を認めないという。
EUが独占する事態にはならないが、生産が滞れば必然的に輸出に回る量も減る見込みだ。状況次第では日本にも影響が及びかねない。
加盟国の中には、一刻も早いワクチンの供給を求める国内世論に押され、独自確保への動きもある。選択肢として注目されているのが、ロシア製ワクチン「スプートニクV」だ。
マクロン仏大統領は今月、「これは政治ではなくて科学的な決定だ」と断った上で、安全性が認められれば導入する考えを示した。
マクロン氏は、昨年春にマスクや人工呼吸器が不足した反省から、ワクチンの自国での開発を柱に「衛生の主権を取り戻す」と訴えていた。だが、計画の遅れから、なりふり構わずワクチンをかき集める方策に転じた格好だ。
オーストリアもロシア製や中国製のワクチンが欧州で承認されれば、国内でも生産する意向を示す。クルツ首相はメディアに「誰がつくっているかはともかく、できるだけ早く安全なワクチンを手に入れることがすべてだ」と発言。ロシア製のワクチンも選択肢に含める考えを示した。
ドイツは、EUの調達の枠組みで達成可能だというが、ロシア製ワクチンがEUで承認されれば、ドイツ内での生産も可能だとの立場だ。メルケル首相は「大きな政治的違いがあるにもかかわらず、一緒に働くことができる」と述べた。
ハンガリーは、ロシア製と中国製のワクチンを独自に承認。ロシア製の接種をすでに始め、中国製も近く始めるという。
■ロシアは牽制、国内優先
にわかに欧州各国の期待を集めた形のロシアは、ワクチン協力でEUとの交渉を優位に進めたい考えだ。
スプートニクVの開発資金を提供したロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁は国営テレビのインタビューで、EUの承認に自信を示し「審査が速やかに、政治的な議論抜きで行われるよう期待する」と、政治的な対立の深まる欧州を牽制(けんせい)した。
ただ、EUで承認されたとしても、欧州各国にすぐに大量に供給されるわけではなさそうだ。
ドミトリエフ氏は、欧州への大規模な供給開始時期について、「ロシア国内のすべての希望者への接種が終わる、5月か6月以降だ」と説明。
また、スプートニクVはこれまでに、南米や中央アジア、アフリカなどの20カ国以上が承認している。インドやブラジルなどでの大量生産も計画されているが、欧州の需要にまで応えられるかは不明で、ロシアや他の国との交渉を迫られる可能性がある。【2月17日 朝日】
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EUのワクチン確保をめぐる「混乱」ぶりとしては、製薬会社とのバトルや輸出規制以外にも。
****醜い欧州の「ワクチン狂乱」*****
統合と協調の精神はズタズタに
(中略)
ドイツの「抜け駆け」
そんななか、「EUの優等生」のはずのドイツが独善ぶりを露呈する。(中略)
共同購入は加盟国同士の争いを避けつつ交渉力を高めることで購入価格を引き下げ、経済力の弱い国にも平等にワクチンを行き渡らせるのが狙いだ。だが、ドイツ国内で高まったのは、「独企業のビオンテックが開発したワクチンなのだから、ドイツ入に優先的に供給されるべきだ」というナショナリスティックな不満だった。(中略)
極めつけは、共同購入を巡る「抜け駆け」だ。ドイツの保健当局は昨年来の記者会見で、政府が同年九月にファイザー・ビオンテックとの問で三千万回分のワクチンの個別契約を行っていたことを明かした。
EU加盟国は「ワクチンの事前購入について独白の手順を進めない」と合意しており、合意違反が強く疑われる行為だ。(中略)
EUの「ダブルスタンダード」
(中略)EUの「ダブルスタンダード」が際立つだのが、輸出規制を発表した際に示した英領北アイルランドとアイルランドの国境管理方針だ。
この国境を巡ってば、北アイルランド紛争の再発を防ぐために、英国とEUが合意した離脱協定で厳しい管理を避け、自由な物流を確保するよう定められた。
ところが、EUはワクチン輸出規制に関する文書で、EUから英国ヘワクチンを運ぶ「抜け道」とならないよう国境管理を復活させると記した。
英側か猛抗議したためすぐに取り下げたが、離脱交渉で「アイルランド島の平和と安定を守る」と繰り返し強調していたEUは、一体どこに行ったのか。(後略)【「選択」3月号】
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こうした混乱ぶりの背景には、“EUには、英国への対抗心が強くにじんでいた。(中略)ジョンソン政権はこれを「EU離脱の成果」と誇っていた。EUから離脱した英国がワクチン戦略に成功する一方で、自分たちが失敗すれば面目は丸つぶれだ。”【同上】といった心理もあるように推察されます。
【欧州医薬品庁幹部 スプートニクV使用は「ロシアン・ルーレット」】
とにもかくにもワクチンを確保したいEUは、ロシア製ワクチン「スプートニクV」の迅速な承認に向け審査を始めています。
****EU、ロシアワクチンを審査 欧米製の供給遅れに対応****
欧州連合(EU)の医薬品規制当局、欧州医薬品庁(EMA、本部アムステルダム)は4日、ロシア製の新型コロナワクチン「スプートニクV」の迅速な承認に向け審査を始めたと明らかにした。欧米企業のワクチン供給が大幅に遅れ、接種が予定通り進まないことへの対応とみられる。
EUではロシアに融和的なハンガリーが供給を受けているほか、スロバキアも使用を承認したとロシア側が1日に発表。域内のワクチン不足からロシア製使用に前向きな流れができつつある。
EMAは承認を急ぐためロシア側からリアルタイムで治験データを入手し評価する逐次審査と呼ばれる手法を取った。【3月4日 共同】
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しかし、欧州医薬品庁幹部が「スプートニクV」の各国の緊急承認・使用は「ロシアン・ルーレット」のようだと警告したとのこと。
*****スプートニクV使用は「ロシアン・ルーレット」 EU規制当局幹部が警告*****
欧州医薬品庁(EMA)幹部は7日、ロシア製新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の各国の緊急承認・使用は「ロシアン・ルーレット」のようだと警告した。
EMAは先週、欧州連合初の欧米製でない新型コロナワクチン承認へ向けて、スプートニクVのローリング・レビュー(逐次審査)を開始した。
ハンガリーはすでにスプートニクVを承認済みで、接種を開始。チェコとスロバキアも発注済みで、EMAの承認を待たずに使用する方針を示している。
EMA経営委員会議長のクリスタ・ビルツマーホッフ氏はオーストリアの公共放送ORFで、スプートニクVについて、安全性に関するデータが不十分だとして、承認と使用は「ロシアン・ルーレットのようだ」と述べた。「各国が緊急承認を行わないよう強く勧告する」
さらに、「必要なデータの検証が終われば、欧州でスプートニクVを使用できるようになる」と述べ、品質管理や有効性についてEUの基準を満たす必要があると説明した。 【3月9日 AFP】
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「スプートニクV」に関する専門的評価はもちろん知りませんが、一般には、先行して使用する国々での評価は良好なように聞いています。
いずれにしても「ロシアン・ルーレット」の例えは尋常ではなく、ロシア側の怒りは当然のようにも。
****ロシアのコロナワクチン開発者、EMAの中立性に疑義 謝罪要求****
ロシア製の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の開発者らは9日、欧州医薬品庁(EMA)の中立性に疑義を呈し、公式な謝罪を要求した。
EMAの経営委員会議長、Christa Wirthumer-Hoche氏が欧州連合(EU)加盟国に対し、現時点では「スプートニクV」の承認を控えるよう呼び掛けたことを受けた。
開発者らは「スプートニクV」の公式ツイッターに「同議長がEU加盟国による直接承認に否定的な見解を示したことについて、公式な謝罪を要求する。同議長のコメントは、現在進行中のEMAの審査に対し政治的な圧力がかかる可能性があるとの深刻な疑義を提起させる」と投稿した。
その上で、「スプートニクV」はすでに46カ国で認可されていると付け加えた。
EU加盟国のうち、ハンガリー、スロバキア、チェコの3カ国ではすでに「スプートニクV」が承認済み、または承認に向けた審査中の段階にある。【3月9日 ロイター】
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ロシアとEUが、ナワリヌイ氏毒殺未遂事件に関する制裁措置など、政治的には高度の緊張関係にあることは、3月5日ブログ“ロシア・プーチン大統領 欧米への警戒感・猜疑心から高まる欧米との緊張”でも取り上げたところ。
そのあたりの政治的思惑が絡んでいるのかどうか・・・は知りません。