(広東省東莞市の公衆トイレで行われている顔認証によるトイレットペーパーの支給【2020年12月6日 レコードチャイナ】)
【顔認証を使うシーンなどのルールがあいまい 警察に過度の裁量】
いまや街のあちこちに監視カメラ・・・というのは、ごく日常的な光景にもなっており、犯罪防止などで便利と言えば間違いなく便利です。
ただ、自分が知らない間に撮影されているという、落ち着かない感じも。そうしたデータが誰によってどのように利用されているのかと考えると、不安な感じも。
単に画像が撮影されるだけでなく、AIを駆使した「顔認証」技術によって、犯罪捜査などにも活用されています。
下記記事は、監視カメラが多いことでは世界有数のレベルにあるイギリス・ロンドンからのリポート。
****街中で撮られた私の写真、自宅に届いた 監視カメラ大国イギリスの今****
駅や商店街に設置され、犯罪に目を光らせる監視カメラ。人々の顔の特徴を見分ける「顔認証技術」を搭載し、さらに役立つ存在に……と思ったら、いや、待てよ。それだけではない議論が今、世界で巻き起こっている。
ロンドンの自宅に、一通の封書が届いた。中身は駐停車違反通知。朝、子どもを学校に送った際に、校門前で一時停車した場所がいけなかった。反省しつつ驚いた。通知書には証拠写真が、車を降りた子どもの姿とともに載っていた。(中略)
英国は監視カメラ大国として知られる。英報道によれば、ロンドンだけで40万台を超えるとされる。1990年代に防犯目的で政府が推進し、2005年のロンドン同時多発テロを機にさらに拡大した。テロや凶悪犯罪が絶えない社会で市民の理解を得てきた。
その監視カメラ社会はいま、人工知能(AI)によりさらに「進化」しようとしている。顔の特徴から人を見分ける「顔認証」技術の登場だ。
ただ、待ったをかける判決が昨夏、注目を集めた。英西部ウェールズ地方に住む大学職員のエド・ブリッジスさん(38)は17年12月、カーディフの商店街にクリスマスプレゼントを買いに出た。警察のバンが1台、路上に止まっていた。車体の腹に「顔認証」とある。説明は他になく、「自分の顔がスキャンされたのか」と気味悪く思った。
翌年3月、カーディフで平和デモに参加した彼は、通りの向かいに同じバンを見つけ、今度はゾッとした。「顔認証技術は、私を含む参加者に向けられていた。市民の安全と権利を守るべき警察による、威圧と感じた」
人権団体に相談し、警察の顔認証技術の利用はプライバシー権の侵害で違法だと裁判に訴えた。19年9月の一審判決は敗訴。しかし、20年8月、日本の高裁にあたる英控訴院が判断を覆し、ブリッジスさんが勝訴した。
英国に顔認証利用に特化した法律はまだない。警察は、監視カメラの設置ルールとデータの扱いを定めたデータ保護法などに照らし、適正だったと主張したが、判決は顔認証を使うシーンなどのルールがあいまいだと指摘。
肝となる「顔の照合リスト」を誰がどう作るかで、警察に過度の裁量が与えられていることを問題視した。技術そのものの捜査での有用性には理解を示したうえで、警察の野放図な利用は許されないというわけだ。
ブリッジスさんは、警察がAIのような新たな捜査技術を持つことに全て反対というわけではない。「ただ、常に市民のプライバシー権とのバランスが求められる。自分のデータをどこまでコントロールし、どこから警察に委ねるか。根本的な問題なのに、現状は法的整備が不十分だ」
■BLM契機に顕在化した米国
警察による顔認証利用への懸念は昨年、米国でも相次いだ。ここでの契機は、黒人差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」運動だった。
米大手IT企業のIBMは昨年6月、米議会下院に宛てた手紙の中で、顔認証システムの一般提供をやめると表明。アービンド・クリシュナ最高経営責任者(CEO)は「テクノロジーは透明性を高め、警察が社会を守るのにも役立てられるが、差別や人種による不公平を助長してはならない」と述べ、開発企業の立場から法整備の必要性を訴えた。
同様の趣旨でアマゾンも、自社の顔認証システムを警察が使うことを1年間中止し、マイクロソフトも一時的な取りやめに踏み切った。米ミネソタ州で白人警官が黒人男性を死なせた事件が起きた直後の判断だった。
顔認証は黒人を見分ける精度が低いという研究結果もある。警察の差別的な捜査姿勢と相まって、誤認逮捕などを招きかねない。BLMデモの参加者の監視につながるのではないか。そんな指摘が出ていた。
■企業対応、手探り
英ウェールズの警察当局は「(判決の指摘部分に)対応することで運用は可能」との立場で、利用を諦める気はなさそうだ。
英国では市民にも、顔認証の防犯目的利用への期待がある。(中略)
ロンドン警視庁は昨年、顔認証カメラの本格運用を発表した。採用するのは、日本で開発をリードするNECのシステム。使用場所はネットで周知され、結果も公表される。
コロナ禍の影響で、最後の運用は昨年2月、繁華街のオックスフォード・サーカスだった。開示資料によると、約8600人の顔が認識処理され、約7300人分の「リスト」と照合された結果、システムによる警告は8件。うち7件は間違いで、残る1件が検挙につながった。
顔認証利用の議論は、日本では煮詰まっていない。
(中略)欧米でプライバシーへの懸念を契機に規制をめぐる議論が広がる現状について、本部長の野口誠さんは「新しい技術を社会が受け入れるのに、必要なプロセスだと思う」と話す。議論が成熟した先に、この技術が課題解決に生かせる社会が見えてくると考えるからだ。「正解はなく、悩みながらというのが正直なところです」【3月12日 GLOBE+】
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【「監視カメラ大国」中国 「天網」システムが反体制派弾圧に利用されているとの批判も】
イギリス・ロンドンが「監視カメラ大国」として知られていますが、“やはり”と言うべきか、台数で言えば(おそらく、“活用度合い”で言っても)中国各都市が抜きんでているようです。
そして、監視カメラ台数と犯罪防止の間には明確な相関関係はないようですが、それでも中国が監視カメラを増やし続けるのは、もっと「政治的な監視体制」のためであると想像されます。
****イギリスレポートの監視カメラ動向****
「監視カメラ」と聞いて、みなさんはどのようなイメージを持つだろうか。監視カメラを設置することで、犯罪を抑止できるという考えもありますし、プライバシー侵害を叫ぶ声もある。
さらに、今顔認証技術が急速な発展を見せ、誰がどこにいて、何をしているかが、一目瞭然になる世界が見えており、そこに対する不安も聞かれる。
イギリスの比較サイトComparitechが発表した世界各都市の監視カメラ動向をまとめたレポートは、監視カメラにかかわる問題を考察していく上において、参考になるので、ご紹介したい。
このレポートは、世界120都市の監視カメラ台数を分析したうえで、人口1000人当たりの台数へと換算して、それをランキングしたものである。
- 監視カメラ上位は、やはりあの国…。
では、監視カメラが最も設置されている国はどこであろうか。予想していただき、続きを見てもらいたい。
このレポートによると、1位は、中国・重慶。監視カメラ約258万台。人口は約1535万人。1000人当たりのカメラ台数は、約168台。2位は、中国・深圳。監視カメラ約193万台。人口は約1212万人。1000人当たりのカメラ台数は、約159台となっている。以下、3位上海(1000人当たり113台)、4位天津(93台)、5位済南(73台)、6位ロンドン(68台)、7位武漢(60台)、8位広州(52台)、9位北京(39台)、10位アトランタ(15台)
と続く。やはりというか、上位10位のうち8つを中国を占めている。予想は当たっていただろうか。
- 監視カメラ台数と安全性に関する意外な結果
Comparitechはこのレポートの中で、監視カメラを設置する最たる理由としてよく挙げられるのは、「監視カメラを増やすことで犯罪抑止になる」という主張である。この主張が、本当に妥当なものであるかを安全指数(犯罪指数)に照らし合わせ、その相関関係を分析している。(中略)
(各都市の監視カメラ台数と安全指数を比較した)上記数字から、(安全都市ランキングで世界一位の東京が、監視カメラ数ランキングでは、0.65台で77位と低い位置にあるように)監視カメラの台数と安全性には、強い相関性がないことがうかがえる。
つまり、この分析における結論は、監視カメラの数と安全性の相関関係は弱く、「監視カメラを増やすことで犯罪抑止になる」という主張の正当性は、残念ながら低いということである。端的にまとめると、「監視カメラを増やしたからといって、必ずしも街の安全性が高まることはない」ということだ。(中略)
- 中国が監視カメラ設置を続ける理由
このレポートによると、2020年までに中国の監視カメラは、2億から6億2600万台まで及ぶとされている。深圳は今後数年で、監視カメラをの台数が、現在の193万台から、1668万台に増やす計画となっており、単純に一人当たりカメラ1台以上というとんでもない割合となってくる。
では、なぜ中国はここまで監視カメラを導入するのであろう。確かに犯罪抑制という一面もあるが、「天網」と呼ばれるシステムの強化であると言われている。
この「天網」とは、簡単に言えば監視カメラの映像とAIによって、中国国内の人々を特定してしまうシステムである。
2010年代から中国各地で試験的に始まり、2020年までの中国全土の導入を掲げている。中国はこれらは、行方不明者や犯罪者を見つける事ができるとしている。2018年時点で、2000人を超える犯罪者を逮捕を天網で成功したとしている。しかもこのシステム、すでに世界54か国に輸出されているという。
一方で、欧米メディアは中国の反体制派弾圧に利用されているとし、厳しい批判を浴びせている。AIによる画像認識は、様々なアルゴリズムと蓄積されていくビックデータによって、日々進化を遂げている。
日本は一体どういった道を進んでいくのだろうか。プライバシーについて、それぞれが考えるべき時が近づいているのかもしれない。【2020年04月08日 NSK日本セキュリティー機器販売】
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【中国国内にも個人情報の扱いに関する慎重論も 中国政府がガイドライン作成】
「中国=ディストピア的監視社会」というイメージについては、誤ったイメージによるもので「幸福な監視社会」という反論もあります。
****【書評】街中に監視カメラ、ネット検閲…それでも中国人が幸福な訳****
(中略)
『幸福な監視国家・中国』 梶谷懐・高口康太 著/NHK出版
(中略)「デジタル監視社会」の実体に詳しい専門家ですら、中国の監視社会については正確に理解できていないらしい。多くの誤解がある。
その原因は、バイアスのかかった先行情報を参照した結果、後追い情報もさらにバイアスのかかったものになる、という負の連鎖が起きているからだ。驚くのは、外からの視点と中国自身の現状に対する内からの視点とでは、評価が真逆なのだという。
この本は、現代の中国社会で起きていることを、冷戦期の社会主義国家のイメージで語るのはかなりミスリーディングだ、というスタンスをとる。「監視社会」やそれに伴う「自由の喪失」を論じるのであれば、同時に「利便性や安全性の向上」にも目を向けなければならないということだ。
というわけで、かなりめんどうくさい。うさんくさい。警戒しながらじっくり読むべし。【2020年12月9日 柴田忠男氏 MAG2NEWS】
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ただ、中国国内でも顔認証技術の乱用を危ぶむ声もあるようです。
****顔認証でペーパーが出てくる公衆トイレ、本当に必要?=「リスク」指摘する声も―中国****
広東省東莞市の公衆トイレで行われている顔認証によるトイレットペーパーの支給について、専門家からリスクを指摘する声が上がった。中国中央テレビ(CCTV)が4日付で報じた。
同市の一部の公衆トイレでは、顔認証システムを用いたペーパーの配布が行われている。トイレットペーパーの盗難や無駄遣い防止が主な目的で、顔を機械に読み取らせることで決められた量のペーパーが自動で出てくる。一度読み取ると、一定の時間は利用することができない仕組みだ。
顔認証の機械本体は、設定した時間ごとに保存されている顔情報を自動的に削除するという。しかし、ネットワークセキュリティーの専門家は「本体に情報が保存されていないからといって、システム内に保存されていないわけではない。データベースが漏洩(ろうえい)したり盗用されたりした場合、身元が明らかにされるリスクがある」と警告した。
顔認証によるトイレットペーパーの支給について、ネットユーザーからは「(顔認証は)不便だけど、そのまま設置すると持ち去る人間がいる。いっそ有料にすればいい。顔認証を使う必要があるだろうか」「近くにもある。公衆トイレの管理者はトイレットペーパーの浪費を抑えたいだけだろうが、設備の運営会社はたぶんビッグデータを集めたいのだろう」「顔ではなく指紋なら良いのでは?事件の容疑者逮捕にも役立つかも」といった声が寄せられた。
ほかには、「すべてのソフトに個人情報はある。気にしてたら何も使えない。本当に個人情報を使って何かされたら、それは違法なのだから法的な追及を受けるだろう。一般人の個人情報に大した価値はない」との意見も見られた。
中国では各地でスマートコミュニティーの建設が進むにつれ、多くの場所に顔認証システムが導入されている。地域の治安維持に有効という声がある一方で、個人情報を勝手に収集するプログラムは違法だと訴える人、収集された情報が漏洩した場合のリスクを懸念する人も出始めている。
中国のネット上では先日、「杭州市不動産管理条例(改正案)」が話題になった。同条例案では、不動産業者は区分所有権者に対し、指紋や顔認証などの生体認証を用いた共用施設の使用を強制してはならないと規定されている。背景には、個人情報収集の合理性と合法性をめぐる議論があるようだ。【2020年12月6日 レコードチャイナ】
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顔情報を含めて、いろんな方法で集められた個人情報は「信用情報」にまとめられ、生活の多くの場面で使用されることが想定されます。
中国政府も個人情報収集に関するルール作りの必要性は「一応」認識しているとのことのようです。
****中国、社会信用システム巡るガイドライン公表 国民の懸念に対応****
中国国務院(内閣に相当)は24日、企業や個人の間の信頼を高めることを目的とした「社会信用システム」について、整備に関するガイドラインを公表した。
同システムは詐欺や脱税、債務逃れなどを抑制する狙いがあるが、規制や法整備が不十分なため、個人情報の収集、データ保護、プライバシーなどについて国民の間で懸念が生じている。
ガイドラインによると、政府は社会信用システムの質の高い開発を促進し、不正行為を抑止する長期的なメカニズムを構築する。これにより「公正で誠実な市場環境」の実現を支援するとした。
企業や個人の不正行為に関するデータや情報、関連する処罰は法に基づいて処理すると説明した。
中国は信用システムを構築してきた世界的な経験から学び、国際基準を順守し、国民の懸念が大きい分野では慎重に行動するとしている。
また政府部門間の共有などデータの収集を改善し、信用情報の開示は企業秘密や個人のプライバシーを侵害しない形で行うと表明した。
金融機関、信用格付け機関、インターネット企業、データ企業を重点的に監督し、個人情報の収集・保存・使用・処理・開示を厳しく規制するとした。【2020年12月24日 ロイター】
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【「顔認証」でわかる政治的立場】
中国政府の「プライバシー尊重」という言葉をどのように評価すべきか・・・と言う話は、各人に判断にゆだねるとして、現実はどんどん進んでいます。これを国家権力が「テロ対策」の名目で「活用」しないということは考えられないかも。
****72%の精度で政治的立場を予測する「顔認証技術」の可能性と危険性****
スマートフォンやパソコンといったデバイスのロック解除から飛行機の搭乗手続きまで、顔認証技術は活用の場をどんどん広げています。最近では性格や感情までも読み取ることが可能になってきている模様。そんな顔認証技術の可能性と危険性を示唆する研究が最近、発表されました。
↑顔認証技術も2つの顔を持つ
アメリカのスタンフォード大学の研究チームは、顔認証技術の危険性について研究を行うため、人物の顔写真からその人の政治的立場を予測する技術について実験を行いました。
研究チームはアメリカ、カナダ、イギリスの3か国から合計108万5795人を対象に、デートサイトやFacebookに掲載されたプロフィール用顔写真を集め、さらに本人から政治的な志向、年齢、性別などの情報を収集。プロフィール写真からは人物の顔以外のパーツは排除し、オープンソースの顔認証アルゴリズムを使ってリベラル派か保守派か予測しました。
すると、アメリカのデートサイトのユーザー86万2770人の政治的志向は72%という確率で予測が当たりました。そのほかの結果はカナダのデートサイトの精度が68%、イギリスのデートサイトが67%、Facebookのサンプルが71%。その一方で人間の精度はわずか55%だったので、顔認証技術のほうが顔写真からより正確に政治的立場を予測することができると判明したわけです。
この結果は顔認証技術の驚異的な能力を示す反面、政治的立場といったプライベートな情報も比較的に高い確率で予測することが可能であり、プライバシーや言論の自由を脅かす危険性を伴っていることを示しています。(後略)【2月4日 GetNavl web】
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“(G20で)中国の習近平国家主席は、世界の人の往来を回復させるため、中国の独自システム「健康コード」を国際的に普及させることを提案した。”【2020年11月22日 FNNプライムオンライン】というように、コロナ対策の面からの個人情報活用が進む可能性も。