孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア・プーチン大統領  欧米への警戒感・猜疑心から高まる欧米との緊張

2021-03-05 22:26:30 | ロシア

(1991年に引き倒され、現在はモスクワ市内の公園で保管されるKGB創設者ジェルジンスキーの像【3月5日 共同】)

 

【ソ連の世界観に回帰するプーチンとその支持層】

ロシアでは、毒殺未遂事件の反体制派指導者ナワリヌイ氏が「プーチン宮殿」動画などでプーチン批判を強めるなかで、プーチン大統領の国民評価は割れています。特に、世代間の差が大きいようです。

 

****プーチン氏続投「望まず」拡大=若年層で顕著―ロシア調査****

ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターは26日、2024年に任期が切れるプーチン大統領の続投をめぐる調査の結果を発表した。続投を「希望」は48%で、「希望せず」の41%を上回ったが、「希望せず」の割合は13年以降で最も高かった。

 

若年層(18〜24歳)では望まないとの回答が57%と、希望(31%)を大きく上回った。20年以上権力を握り続けるプーチン氏に対し、若者が反発を強めていることが浮き彫りになった。一方で、55歳以上では59%が希望しており、望まないのは31%だった。

 

プーチン氏続投を望まない理由としては「長く務めており、もう十分」が21%。「権力は交代しなければならない」が19%で続いた。調査は18〜24日に約1600人を対象に実施された。【2月27日 時事】 

*********************

 

続投希望者が挙げた理由では、「安定」(30%)が最多だったとのことで、1991年のソ連崩壊後の混乱を経験した世代ほど安定志向が強く、プーチン氏への支持が底堅い傾向が見られます。

 

そうしたロシアでは近年、スターリン再評価などソ連時代への回帰を望むような声もありますが、そうしたソ連回帰を望む層とプーチン続投支持層は重なります。

 

クリミア併合、ナワリヌイ氏の事件など、近年の欧米とロシアの刺々しい関係を見ると、何よりプーチン大統領自身が、そうした欧米と対峙して存在感を発揮した時代への回帰を希望しているようにも見えます。

 

****「プーチンのロシア」20年 米欧を敵視、ソ連の世界観に回帰****

ロシアのプーチン大統領(67)が2000年5月に初めて大統領に就任し、最高実力者の座に就いてから(2020年5月)7日で20年。

 

ソ連崩壊後、米欧と同じ価値観を持つ民主国家を目指したロシアは、プーチン時代の20年を経て、再び米欧と対決するソ連の世界観に回帰。中国に接近するなど独自の道を模索している。米ロ対立の激化で、日本と北方領土問題を解決し平和条約を結ぶ機運も遠のいた。

 

ソ連崩壊後、屈折した思いを抱いていたロシアの中高年層の多くは、米国と対立し国際舞台で存在感を強めるプーチン氏の世界観を共有。現任期が切れる24年以降も同氏の続投を望むのは、こうした人々だ。【2020年5月7日 共同】

*******************

 

下記のKGB創設者の銅像再建の話題なども“米欧と対決するソ連の世界観に回帰”といった現象の現れでしょう。

 

****KGB創設者像で住民投票 再建の是非巡り、モスクワ****

ロシアの首都モスクワで25日、ソ連の秘密警察、国家保安委員会(KGB)の創設者ジェルジンスキーの銅像を再建することの是非を問うオンライン住民投票が始まった。

 

投票期間は3月5日までで、かつてのKGB(現在の連邦保安局)本部前のルビャンカ広場にこの像を再建するか、中世ロシアの英雄アレクサンドル・ネフスキー大公像を建てるかの選択が求められる。

 

タス通信によると、開始から約2時間半で5万人以上が投票し、ジェルジンスキー像再建を求める意見は47%。この像は1991年8月にソ連保守派のクーデター事件が失敗した直後、市民により引き倒されていた。【2月25日 共同】

******************

 

私などは、「あの“悪名高き”秘密警察・KGB創設者の銅像を・・・・」と思ってしまいますが、それを言うなら、プーチン氏自身がKGB出身ですからね・・・

 

25日にオンライン形式で始まった銅像再建の賛否を問う投票は2月26日に中止されました。

“ソビャニン・モスクワ市長が投票は社会の対立を招くと判断した。”【2月27日 時事】とのこと。

 

どうも、「対立」など招かず、圧倒的支持で賛成される・・・・と、市長側は考えていたようです。

でも、オンライン住民投票に参加するのは、プーチン続投を望んでいない若者層などが中心でしょう。

 

それにしても、劣勢だとわかると投票を中止してしまうというのも、さすがロシアです。

 

****KGB創始者像復元の投票中止 ロシア政権、「敗北」回避か****

(中略)政権は復元支持が圧倒的多数と見込んでいたが、途中経過で劣勢が判明、「敗北」を回避しようと中止を決めたようだ。

 

プーチン大統領はKGB出身。像復元の動きは、欧米との対立を背景に進むソ連的価値観への回帰の一環とみられ、ソ連時代の政治弾圧を記録するロシアの人権団体「メモリアル」は「良心を失った人だけが思いつくことだ」と批判していた。【3月5日 共同】

*********************

 

KGB創始者などの“古き良き時代”を懐かしむようになったら、先も見えてきた・・・という感がありますが、プーチン大統領及びその周辺には、若者層を中心とした世論の“読み違え”“混乱”があるようにも見えます。

 

【プーチン大統領の欧米への警戒感・猜疑心】

一方、“米欧と対決するソ連の世界観に回帰”というーチン大統領及びその周辺の思考は、ロシアの欧米への警戒感・猜疑心を強め、欧州での緊張を高めています。

 

****危ぶまれるプーチンの「精神状態」****

「欧米の謀略」に怯える日々

 

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、「ハイブリッド戦争」の恐怖におびえている。反体制派指導者アレクセイーナワリヌイ氏の動きが、米欧の支援を受けていて、さらに大きな策謀があるのではないかと警戒しているのだ。

 

ロシア軍内部では、米欧の工作を未然に防ぐため、北大西洋条約機構(NATO)に限定的な先制攻撃を仕掛けるべきとの声も上がっている。

 

北欧などロシアの近隣諸国では相次いで、近年では例のない警戒態勢に入っている。

 

北極圏であわや空中戦

今年二月上旬、ロシア空軍はただならぬ緊張に包まれた。米軍がテキサス州の基地からBI戦略爆撃機四機と要員約二百人を、ノルウェーのオーランド空軍基地に派遣することが伝えられたからだ。

 

ロシア西部サラトフ近郊のエンゲルス空軍基地にある「ツポレフ160」戦略爆撃機二機に出動命令が出て、二機は北極圏に向けて全速力で北上した。

 

ノルウェー空軍はF16ジェット戦闘機二機をスクランブル発進させ、両者はノルウェー最北端沖の公海上空で遭遇した。ツポレフ二機会はやがて大きく旋回し、ロシア側に戻っていった。

 

ノルウェー軍は「通常の行動をとった」としたものの、ツポレフ出勤は「空中戦を挑むぞ」というロシア軍の威嚇だった。

 

ロシア空軍がピリピリするのは、米軍機派遣のニュースばかりが原因ではなかった。最高司令官であるプーチン大統領が、西側の動きを強く警戒し、いら立ちを強めているためだ。

 

大統領はこの後、ロシアのテレビ局との会見に臨み、「(敵側は)私たちが新型コロナウイルスで疲弊しているところを狙ってくる」と厳しい表情で述べ、西側が何らかの形でロシアを揺さぶってくるという認識を示した。

 

プーチン大統領は何におびえているのだろうか。米シンクタンクのあるロシア専門家は、「ナワリヌイ氏の最近の行動が、米国によるハイブリッド戦争の一環と確信しているからだ」と言う。

 

ハイブリッド戦争とは、非正規戦闘員や秘密工作員に、敵陣営内で騒ぎを起こさせて、その混乱に乗じて正規車が一気に敬側を制圧するというもの。

 

最近の例では、プーチン政権が二〇一四年に、クリミア半島やウクライナ東部で仕掛けたものが代表例だ。大統領自身がハイブリッド戦争の達人と見られているのに、今は西側が自分に仕掛けていると見ている。(後略)【「選択」3月号】

*********************

 

こうしたプーチン大統領の警戒感・猜疑心の原点は、グルジアジョージア)、ウクライナ、キルギスなど2000年代に複数の旧ソ連国家で独裁政権交代を求めて起こった民主化運動「カラー革命」の背後でアメリカ国務省・CIAなどが動いていたということにあるのでしょう。

 

【制裁を強化する欧米】

対する欧米側は、ナワリヌイ氏の処遇で対ロシア制裁圧力を強めています。

 

すでに6個人と1研究機関に対する制裁に踏み切っているEUは更に追加制裁を。

 

****EUが対ロシア追加制裁を発表****

欧州連合(EU)は2日、ロシア反体制派ナワリヌイ氏の収監を巡り、クラスノフ検事総長らロシア捜査・司法機関などの4人に対し、EU域内の渡航禁止や資産凍結などの対ロ追加制裁の実施を発表した。【3月2日 共同】

*********************

 

ロシアに異様に宥和的だったトランプ前政権に対し、バイデン政権は厳しい対応に転換。

 

****米、反体制派毒殺未遂で対ロ制裁 化学兵器使用と断定 EU協調****

米政府は2日、ロシアが昨年、反体制派指導者ナワリヌイ氏を神経剤を使用して殺害しようとしたとして、7人のロシア政府高官のほか、14団体に対し制裁を発動させた。トランプ前米政権はロシアのプーチン大統領との直接対決に消極的だったが、バイデン政権はこれを翻し対抗姿勢を示した。

 

制裁措置は欧州連合(EU)と協調して導入。EUは前月の外相会議で合意された通り、クラスノフ検事総長らプーチン大統領の側近4人への制裁を発動させた。EUはすでに6個人と1研究機関に対する制裁に踏み切っている。

 

米ホワイトハウスのサキ報道官は「ロシア連邦保安局(FSB)がナワリヌイ氏を殺害しようと神経剤を使用したと、米情報機関は強く確信している」と述べた。

 

財務省によると、制裁対象に指定されたのはFSBのボルトニコフ長官とクラスノフ検事総長のほか、大統領府の国内警察担当アンドレイ・ヤリン氏、国防次官のアレクセイ・クリボルチコ氏とパーベル・ポポフ氏、首相経験者でプーチン氏の側近のアレクサンドル・キリエンコ氏、連邦刑務所の責任者アレクサンドル・カラシニコフ氏。

 

制裁措置の下、米管轄下にある資産が凍結されるほか、米国人との取引が禁止される。ただ7人が米国内に資産を持っているかは不明。

 

このほか、ロシアの生物・化学兵器製造に関与が疑われる14の団体も制裁対対象とした。このうち1団体はロシア政府の研究施設。残りの13団体は民間団体で、9団体がロシア、3団体がドイツ、1団体がスイスに本拠を置いている。

 

米政府当局者は記者会見で、欧州連合(EU)と協調して制裁を導入したと表明。ナワリヌイ氏は国内の腐敗を追求しようとしたため標的にされたとした上で、同氏の殺害未遂には化学兵器が使用されたと断定した。

 

同時に「米国はロシアとの関係をリセットしようとも、エスカレートさせようとも考えていない」とし、「ロシアの行動が責任ある国として尊重すべき一線を越えた際、米国とパートナー国は代償を払わせる必要があると考えている」と述べた。

 

これに先立ち、ロシアのラブロフ外相はインターファクス通信を通じ、ナワリヌイ氏に絡み米国が制裁を発動した場合、同様の手段で対抗すると表明した。【3月3日 ロイター】

***********************

 

当然ながら、ロシアは強く反発しています。

 

****ロシア、米制裁に対抗措置へ 反体制派の毒殺未遂巡り****
米政府がロシア反体制派ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件を巡り、対ロシア制裁を発表したことを受け、ロシア外務省のザハロワ情報局長は2日夜、声明を出し「受け入れられない。対抗措置を取る」と表明した。ナワリヌイ氏が化学兵器で攻撃されたという制裁理由はばかげたことだと批判。ロシアは2017年以降、化学兵器は保有していないと主張した。

 

ロシア政府は毒殺未遂への関与を全面否定し、証拠を示すよう要求。一方、イエレン米財務長官は声明で「政治的な反対派を沈黙させるために化学兵器を使ったことは、いかに国際規範を無視しているかを示すものだ」と批判した。【3月3日 共同】

***********************

 

プーチン大統領の頭の中では、欧米への警戒感・猜疑心が更に肥大していると思われます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする