(2021年3月10日、議会開催中に北中部の都市スルトに駐留するリビアの治安部隊。(AFP通信)【3月13日 ARAB NEWS】)
【明るい兆しも見える一方で、進まぬ傭兵の退去などの問題も】
シリアと並んで内戦状態に陥った「アラブの春」失敗例とされる北アフリカ・リビアについては、これまでの経緯から先行きははなはなだ不透明ながらも、とりあえず年末の総選挙に向けて暫定首相などの暫定政権メンバー選定で合意がなされたことを、2月7日ブログ“リビア 暫定首相など統一行政機関メンバーを選出 12月選挙に向けた態勢 先行きは不透明”で取り上げました。
****リビア「アラブの春」から10年 混乱から抜け出せるか焦点****
北アフリカのリビアで独裁政権の崩壊につながった「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が始まってから10年となります。
国が東西に分裂して内戦状態が続いてきましたが、国連主導の政治対話で今月に入って暫定首相が選出され、10年にわたる混乱から抜け出せるかが焦点です。
リビアでは10年前の2月15日に拘束された人権活動家の解放を求めるデモが始まったのをきっかけに、42年にわたって続いた独裁的なカダフィ政権が崩壊しました。
その後、武装勢力どうしの衝突が頻発し、2014年ごろからは国が東西に分裂して内戦状態に陥りましたが、去年、双方の勢力は停戦に合意しました。
国連主導の政治対話で今月には暫定首相が選出され、ことし12月には総選挙と大統領選挙が行われる予定です。
一方、国連が求めてきたよう兵の撤退や武器の禁輸措置といった外国による軍事支援の中止が守られていないという指摘も出ています。
今後、停戦を守りながら選挙を円滑に実施するなど新たな国づくりを進め、10年にわたる混乱から抜け出せるかが焦点です。【2月15日 NHK】
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合意からひと月余りが経過して、大きなトラブルは報じられていませんが、上記記事にもあるように、傭兵撤退などの外国勢力介入についての目だった改善もありません。
****リビアで暫定統一政府が発足 退去進まぬ傭兵に懸念も****
国家の分裂状態が続いた北アフリカのリビアで10日、暫定の統一政府が発足した。民主化運動「アラブの春」を受けたカダフィ独裁政権の崩壊から10年。国造りは一歩前進した形だ。ただ混乱の元凶とも言える外国人の傭兵(ようへい)の退去は進んでおらず、国家再建への不安は残ったままだ。
新しい政府は、12月24日に予定される大統領選と議会選までの統治を担う。暫定首相は、実業家出身のアブドゥルハミド・ダバイバ氏。
リビアの各政治勢力が集まった2月の協議で選ばれた。リビア東部に疎開していた代表議会が、同氏が提出した組閣案を審議。10日に賛成多数で承認した。
ダバイバ氏は「国民の和解のために働く。紛争が二度と繰り返されてはならない」と述べた。
リビアでは2011年の大規模デモと内戦の末、42年続いたカダフィ独裁政権が崩壊。だが14年の代表議会選を機に、政治勢力が東西に分裂した。
いったんは統一政府の樹立で合意。首都トリポリに暫定政府ができたが、19年になると、東部の武装組織「リビア国民軍(LNA)」が首都制圧に向けた軍事作戦に乗り出した。
トルコが暫定政府を支持し、派兵。エジプトもLNA側に立って軍事介入する構えを見せた。国際紛争に発展する恐れが一気に強まったが、暫定政府とLNAは昨年10月に停戦で合意。国連は国家分裂の解消に向けた仲介を強めた。
今のところ、停戦はおおむね維持されている。国連によると、戦闘を避けて自宅から逃れた42万人のうち11万人が戻った。東部ベンガジと西部ミスラタを結ぶ航空便も約7年ぶりに再開されるなど、明るい兆しも見える。
懸念材料は傭兵の存在だ。特にトルコとロシアは、リビアでの影響力を強める思惑もあり、シリア人などの戦闘員を送り込んだとされる。スーダンやチャドから戦闘に加わった者もいるとされ、国連によると、その数は約2万人。昨年10月の停戦合意では「外国人傭兵を3カ月以内に退去させる」こともうたわれたが、実現していない。
傭兵を放置すれば、戦闘再燃の恐れが消えないばかりか、国造りの過程で外国の介入を招くことにもなりかねない。国連のグテーレス事務総長は1日、「リビアの女性や男性、子どもたちの利益を最優先に考えるべきだ」と述べ、傭兵を退去させるよう関係国に改めて警告した。【3月11日 朝日】
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上記記事にあるように、兵員・傭兵を送り込んでいる主な国は、西の国民統一政府を支援するトルコと、東のハフタル司令官率いる「リビア国民軍(LNA)」及び代表議会を支援するロシアです。
国連安保理は、外国部隊と傭兵に「遅滞なく」退去するよう求めています。
****国連、外国部隊と傭兵にリビアからの退去を要求****
国連の最も強力な機関は、リビアのすべての当事者に対して暫定政府への円滑な引き継ぎを保証するよう要求した
国連安全保障理事会はまた、暫定政府に対して10月の停戦合意の履行を優先するよう求めた
国連:国連安全保障理事会は金曜日、リビアに軍隊や傭兵を駐留させている国々に対し、紛争当事者間の停戦合意で要求されている通り、「遅滞なく」退去するよう求めた。(中略)
紛争当事者は双方が多数の地元民兵組織に加え、地域や地域外の大国の支援を受けている。
2019年4月、ハフタル氏とその軍はトリポリを攻略するための攻撃を開始した。トルコが数百人規模の軍隊と数千人のシリア人傭兵で国連の支援を受ける政府に対する軍事支援を強化したため、ハフタル氏の作戦は崩壊した。
10月の停戦合意では3か月以内にすべての外国部隊と傭兵を撤退させ、国連の武器禁輸措置を遵守することが求められたが、この条件は満たされていない。
昨年、国連の専門家はロシアの民間警備会社ワグナー・グループが800人から1,200人の傭兵をハフタル氏に供給したと指摘した。
安全保障理事会の外交官によると、リビアには他にもシリア、スーダン、チャドから来た何千人もの傭兵がいるという。
国連の傘下で停戦を監視するための国際監視団派遣の第一歩として、国連の先遣隊がリビアに滞在している。先遣隊は来週には戻る予定となっている。(後略)【3月13日 ARAB NEWS】
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本当に総選挙が実施できるのか、実施したとして、その結果を双方が受け入れるのか・・・はなはだ不透明としか言い様がありませんが、まずは一歩踏み出した・・・といったところでしょうか。
【人々は平穏な日常を取り戻そうとしている・・・・】
でもって、今日リビアを取り上げたのは、上記のような不透明な政治情勢ではなく、下記の市民生活に関する記事を目にしたためです。
****塩セラピーのスパ、リビア革命の聖地を癒やす新ビジネス****
反カダフィ革命の聖地として知られる、リビア東部の主要都市ベンガジ。戦火で引き裂かれたこの国で思いもよらなかった癒やしのビジネスが、この地に登場した。
10年前、独裁者ムアマル・カダフィ大佐の打倒を目指して市民が立ち上がった港湾都市に昨年10月、リビア初の塩セラピーのスパがオープンした。
2人の女性起業家が立ち上げたスパの名前は「オパール」。静かな音楽と控え目な照明に包まれた瞑想(めいそう)的な雰囲気の中で、心地よい施術が行われる。それぞれの部屋は、塩でできた人工洞穴のようだ。
「塩の粒子を吸い込むことで呼吸器が浄化され、肌にも良い効果がある」と説明するのは、共同設立者で代替医療の専門家イマン・ブガイギスさんだ。
彼女はシャベルを使って、30代の男性客の両脚を塩に埋める。客は目を閉じ、塩の塊を両手で握り、ゆっくり呼吸を続けた。
別の部屋には、ヨウ素が添加された塩の粒子を散布している装置があった。
1回の施術は45分ほどで、料金は80〜120リビア・ディナール(約1900〜2900円)。効果を得るには数回通う必要があるとブガイギスさんは述べた。
■「痛みが和らいだ」
ベンガジの流行地区の真ん中にあるオパールが提供する塩セラピーは、ぜんそくなど呼吸器系の症状や湿疹・乾癬(かんせん)を含む皮膚疾患の治療に有望だという。
この都市は内戦中、東部勢力のハリファ・ハフタル司令官の牙城だったため、爆発の跡や破壊されたビルが目立つ。
50代の銀行家ムスタファ・アーメッド・アクリフさんは、副鼻腔炎に10年ほど悩まされてきた。「たくさんの鎮痛剤を服用し、痛みを和らげる伝統薬も試した」。ところが、オパールに4回通っただけで「8割」の症状が改善したと言う。
ブガイギスさんは他のアラブ諸国を旅行中に、塩を使う治療法を知ったという。その後、隣国チュニジアで代替医療を学んだ。
慢性病に対する塩セラピーの効能を確信したブガイギスさんは、帰国すると知人のザイナブ・アル・ワルファリさんとともに新ビジネスを立ち上げた。
■平穏な日常
オパールの開業はちょうど昨年10月、東部勢力と首都トリポリの国民統一政府の間で停戦合意が結ばれた時期と重なった。新たな暫定統治評議会が2月に発足し、12月の国政選挙に向けて体制を整えている。長年不安定な状態にあるリビアでは、ビジネスの見通しはつけにくい。
ワルファリさんは、塩セラピーの考え方をまずベンガジ市内の医療関係者に広めるところから始めるつもりだ。「そうすれば一般の人々にもできる限り行き渡る」と考えている。オパールでは、あらゆる年齢の患者を診る用意ができている。
カダフィ大佐殺害から10年、繰り返された戦闘を経て、リビアの人々は平穏な日常を取り戻そうとしている。 【3月13日 AFP】
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リビアというと、東西勢力間の衝突、あるいは欧州に渡る移民を食い物にする悪徳業者といった殺伐としたニュースばかり目にしますが、上記のような日常生活もあることに新鮮な印象も感じました。
女性起業家による事業というのも興味深いところ。
総選挙が無事実施されて、リビアの人々が平穏な日常を取り戻すことになるといいのですが。