(ヤンゴンで、路上に張った物干しロープに伝統衣装のロンジーをつるし、バリケードにする抗議デモの参加者ら【3月10日 AFP】)
【激しさを増す国軍のデモ鎮圧行動】
ミャンマーの軍事クーデターに対する抗議活動に関して、興味深かったのは、女性用ロンジー(巻きスカートのようなもの)に対する男性の忌避感(それ自体はミャンマーにおける深刻な女性蔑視を示すもののひとつですが)を利用したもの。
*****伝統の巻きスカートで治安部隊を足止め ミャンマー*****
ミャンマーの路上で物干しロープに巻きスカートがつるされた様子は一見、何の変哲もない光景に見える。だが女性の衣服にまつわる昔からの迷信が、抗議デモの鎮圧を図る治安部隊の動きを阻止しているようだ。
2月1日のクーデターで軍部が文民政府を追放し、権力を奪取して以来、ミャンマーは大きな混乱状態にある。巻き起こった大規模な抗議デモの鎮圧に、軍事政権はますます武力行使を強化している。
軍が使用しているのは催涙ガス、閃光(せんこう)発音筒(スタングレネード)、ゴム弾、そして時には実弾さえある。
これに対してデモ隊は、創意に富んだ独自の戦術で応戦している。その最新戦術の一つが、街路を横切るように張った物干しロープに、女性の下着や伝統衣装の長いスカート「ロンジー」をつり下げることだ。
ミャンマーでは古くから、女性の下半身やそれを覆う衣服は、男性から「hpone」と呼ばれる力を奪ってしまうと言われている。
活動家のティンザー・シュンレイ・イー氏はAFPに「女性のロンジーの下をくぐると、彼らの『hpone』が破壊されるのです」と説明した。軍兵士の中には、武運を損なうことを恐れて、女性のロンジーに触りたがらない者もいる。
ティンザー・シュンレイ・イー氏は「住民がロンジーをロープにつり下げていると、(警官や兵士は)街頭に出動したり、それを横切ったりすることができず、(ロンジーを)引きずり降ろさなければならないのです」と語った。 【3月10日 AFP】
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現地の人間でなければ考えつかない工夫です。(繰り返しますが、そうした男性兵士の感情は、ミャンマーの女性差別を形成している要素のひとつです)
工夫という点では、ウェディングドレスなどでデモに参加する女性が話題になったことがありましたが、あれも別にふざけている訳でもなく、周囲やカメラの注意を引くことによって、治安部隊の暴力の対象となるのを防ぐ効果を期待したものとも。
しかし、治安部隊の鎮圧行動は戦闘用武器の乱射など、残念ながらロンジーなどの工夫で対応できるレベルを超えています。
****デモ弾圧に戦場用兵器=人権団体が非難―ミャンマー****
ミャンマーでクーデターを実行した国軍によるデモ隊の弾圧に関し、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは11日、戦場で用いる兵器が使われているとの調査結果を発表した。アムネスティは「組織的かつ計画的な殺害だ」と非難した。
ミャンマーの人権団体、政治犯支援協会によると、2月1日のクーデター後、治安部隊の銃撃などでこれまでに60人以上が死亡している。
アムネスティは最大都市ヤンゴンや第2の都市マンダレーなどで2月28日から今月8日にかけ、弾圧の様子を撮影した映像55本を検証した。
その結果、国軍や警察は狙撃銃や軽機関銃、短機関銃など治安維持用ではなく、本来なら戦場で使う武器の装備を増強。また、市街地で繰り返し実弾を無差別に乱射していた。【3月11日 時事】
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【「デモ参加者を撃てと言われた」】
こうした暴力的鎮圧を拒否して逃亡する警官などもいます。
****ミャンマーから逃亡の警官ら、「デモ参加者を撃てと言われた」 BBCに語る****
国軍への抗議デモが続くミャンマーから、国境を越えてインドに逃亡した警官10人以上が、BBCの取材に応じた。これまでにほぼ例のないインタビューで警官らは、一般市民を殺傷する事態を恐れ、国軍の命令を拒否して国外に逃げたと語った。
「デモ参加者を撃てと命令された。それはできないと言った」
そう話したナイン氏(27)は、ミャンマー(ビルマ)で9年間、警官として働いてきた(BBCは安全への配慮から警官らの名前を変えている)。現在、インド北東部ミゾラム州で身を隠している。
BBCはミャンマーで警官として働き、命令に従わなかった後、職を放棄して逃げたと話す20代の男女の一団に取材した。「軍に抗議している罪のない人たちを殺傷するのを強制されるのが怖かった」と、1人は話した。
「私たちは、選挙で発足した政府を軍が転覆したのは間違いだったと思っている」
国軍が2月1日に権力を奪取して以来、民主制を支持する抗議者ら数千人が、通りに出てデモを続けている。
これまでに50人以上が、治安部隊によって殺されたとされている。
ミャンマー西部の町の下位の警官だったナイン氏の話では、2月末になって抗議デモが激しくなり始めた。
デモ参加者らに発砲するよう命令されたが、2度拒み、逃亡したという。
「上司に、できない、あの人たちを支持すると伝えた」
「軍はいら立っている。どんどん残忍になっている」
取材中、ナイン氏は携帯電話を取り出し、残してきた家族の写真を見せた。妻とまだ5歳と6カ月の娘2人だ。
「もう二度と会えないかもしれないと心配だ」(中略)
ミャンマーから逃亡したのは警官だけではない。BBCは、民主化運動に参加するようオンラインで呼びかけ、当局から令状が発行されたという商店主に会った。
「身勝手に逃げているわけではない」と彼は言い、なぜ危険を冒して国を去ったかを説明した。
「国内の誰もが不安を感じている」
「私は身の安全のためにここにいる。今後も運動を支援するため、こちら側でできることを続けていく」【3月11日 BBC】
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3月6日ブログでも取り上げたように、こうした造反する警官・兵士が増えていけば、国軍にとっては大きな圧力となり、流れを変える力にもなります。
逆に、散発的なレベルにとどまる限りは、国軍の暴力的支配を止めることは難しいようにも。
【「仲介役」を目指す中国】
国際圧力の面では、一番カギとなるのは国軍が頼りとする中国の対応です。
国連安全保障理事会は10日、「女性や若者、子供を含む平和的なデモ参加者に対する暴力を強く非難する」とする議長声明を発表しましたが、中国・ロシアは制裁などを示すような文言の削除を求めたものの、削除後の上記のような声明は承諾しています。
中国としても、正面きって国軍の暴力を容認できる状況にもなく、国軍と一体となっているというように見られることは警戒しています。
****ミャンマー、デモ隊が中国大使館で抗議活動 「国軍支援」と非難****
ミャンマー国軍のクーデターに抗議する数百人のデモ隊が11日、ヤンゴンの中国大使館で抗議活動を行った。デモ隊は、中国がミャンマー国軍を支援していると非難しているが、中国側は否定している。
デモ参加者は「ミャンマーを支持せよ。独裁者を支持するな」と中国語と英語で書かれたプラカードを掲げて抗議。別の参加者はミャンマーのメディアに対して「中国の政府高官は軍事クーデータを支援する行動をしているように見える」などと不満を漏らした。
現時点で中国大使館からの反応はない。
インターネットなどでは、中国がミャンマーに機器やIT専門家を送り込んでいるとのうわさが流れている。
これについて中国外務省報道官は「ミャンマーに関連する問題を巡って、中国について虚偽の情報やうわさがある」とした上で、中国は状況を注視しており、関係者すべてが国家の発展と安定を念頭に行動するよう望むと改めて強調した。【2月11日 ロイター】
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中国は、国軍とアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の双方と友好関係を維持してきた経緯があり、国軍を明確に非難しない中国の姿勢は、ミャンマー市民らから批判されています。
王毅国務委員兼外相は、こうした状況を意識し、「仲介役」を担おうとする姿勢を見せています。
****中国、ミャンマー情勢安定化に向け全当事者と対話の用意=外相****
中国の王毅国務委員兼外相は7日、緊迫化するミャンマー情勢を安定させるため、全ての当事者と対話する用意があるとし、どちらか一方を支援するつもりはないとの考えを示した。
全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に合わせて開かれた記者会見で語った。
国軍が先月権力を掌握したミャンマー情勢について「明らかに中国が望んでいるものではない」と強調した。また、中国が軍のクーデターに関与しているとのソーシャルメディア上のうわさについて、ナンセンスだと否定した。
「中国はミャンマーの主権と人々の意思を尊重し、全ての当事者と接触し、対話する用意があり、緊張緩和に向け建設的な役割を担う」と述べた。
欧米諸国は2月1日のクーデターを強く非難している。一方中国は、ミャンマー情勢の安定化が重要だとの見解を示しているものの、批判的な姿勢を取ることには慎重になっている。
王氏は「国民民主連盟(NLD)も含め、ミャンマーの全ての党や派閥と長期にわたり友好的な関係を築いている。中国との友好関係は、ミャンマーの全てのセクターにおける総意だ」と説明した。
NLDは、ミャンマーのクーデターで拘束されたアウン・サン・スー・チー氏が党首を務める政党。【3月8日 ロイター】
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ただ、こうした二股をかける対応が成り立つのか、結局は国軍支配を容認することになるのではとの批判は当然にあります。
【日本も中国同様の二股外交】
その意味では、欧米のように国軍批判を前面にださず、やはり「仲介」的な役割を目指す日本も、中国と似たような立ち位置にあります。
日本は欧米のような制裁措置ではなく、ミャンマーへの政府開発援助(ODA)の新規案件を当面見送るといった対応。
****政府が「ロヒンギャ」人道支援20億円を決定 クーデター後初****
茂木敏充外相は9日の記者会見で、ミャンマーで国軍による迫害を受けてきた少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」への医療、食料などの人道支援に、国際機関を通じた計1900万ドル(20億9000万円)の緊急無償資金協力を決定したと発表した。
2月に起きたクーデター後、政府がミャンマー関連の支援を決めるのは初めてで、ミャンマーとバングラデシュ内の避難民が対象となる。
赤十字国際委員会(ICRC)、国連世界食糧計画(WFP)、国際移住機関(IOM)を通じて支援し、国軍との交換公文の署名などは行わない。ミャンマーに900万ドル、バングラデシュに1000万ドルをそれぞれ支援する。
茂木氏は「ミャンマーの国民生活や人道上の問題で支援は続けねばならない」と述べた。
日本は米欧のような制裁措置を打ち出していないが、ミャンマーへの政府開発援助(ODA)は当面、新規案件を見送る。日本は同国へのODAで、詳細な支援額を公表しない中国を除き、最大の拠出国となっている。
また茂木氏は、丸山市郎駐ミャンマー大使が8日、国軍に任命されたワナマウンルウィン外相と会談したと明らかにした。
東南アジア諸国連合(ASEAN)以外の外国政府関係者の接触は異例。日本外務省によると、丸山氏が民間人への暴力の停止やアウンサンスーチー氏らの解放を求め、「重大な懸念」を伝えたのに対し、ワナマウンルウィン氏は国軍による行動の正当性を主張したという。会談は首都ネピドーのミャンマー外務省で行われた。【3月9日 毎日】
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国軍を通さない人道支援は問題ないと思いますが、上記記事に“国軍に任命されたワナマウンルウィン外相と会談したと明らかにした”ということが問題にもなっています。
****日本大使館、ミャンマー国軍任命の人物を「外相」呼称 批判殺到*****
クーデターで国軍が全権を掌握したミャンマーにある日本大使館は8日夜、フェイスブックへの投稿で、国軍が任命した人物を「外相」と表記したうえで、「丸山(市郎)大使は、ワナマウンルウィン外相に申し入れを行いました」と述べた。
これに対し、ミャンマー市民からは「人々によって選出された外相ではない」「日本は軍政を応援するのか」などと批判の書き込みが相次いだ。
フェイスブックへの投稿は、ビルマ語、英語、日本語で行われ、丸山氏が「外相」に対し、市民への暴力の停止や拘束中のアウンサンスーチー氏の早期解放、民主的な政治体制の速やかな回復を強く求めたとした。だが、市民からは「外相と認めてはいけない」「修正を求める」などのコメントが多数寄せられた。
加藤勝信官房長官は10日の記者会見で、ミャンマー国軍が任命したワナマウンルウィン氏を日本政府が「外相」としていることについて「国軍によるクーデターの正当性やデモ隊への暴力を認めることは一切ない」と強調した。
加藤氏は「事案発生以来、クーデターを非難し、国軍に民間人への暴力の即時停止や拘束者の解放などを強く求めている」と日本政府の対応を説明。
そのうえで「ミャンマー側の具体的な行動を求めていくうえで、国軍と意思疎通を継続することは不可欠で、これまで培ってきたチャンネルをしっかり活用して働きかけを続けることは重要だ」と述べた。【3月10日 毎日】
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国連でも、国軍批判を行うミャンマー大使を認めず、別人物を国連大使とする国軍の対応が問題となっているように、国軍が任命した人物の役職をどのように扱うかは微妙な問題で、外務省が留意しないはずはありません。
今回「外相」と明記したということは、日本政府の一定に国軍支配を容認する姿勢が示された形です。
こういう中国の国軍支配への影響力拡大を阻止したい狙いからの二股外交が、ミャンマー国民にどのように映るのか?