(アフガニスタンのバーミヤン渓谷で、タリバンによって2001年に破壊された遺跡の跡地をパトロールする警官(2021年3月3日撮影)【3月17日 AFP】)
【ブリンケン国務長官 アフガニスタン・ガニ大統領にタリバンとの暫定政権を提案】
タリバンとアメリカ・トランプ前政権の合意で、(タリバンの支配地域でアルカイダなどの武装勢力の活動をやめさせ、和平交渉を進めるという約束をタリバンが守ることができれば)5月1日が米軍撤退期限となっているアフガニスタン。
アフガニスタン政府とタリバンの直接交渉は昨年9月にカタールの首都ドーハで始まりましたが、大きな進展はみられていません。
そのアフガニスタン政府にアメリカ国務長官がタリバンの「春の攻勢」を警告したという下記の記事、(タリバンの「春の攻勢」は例年のことではありますが)アメリカ側の意図が今一つわかりませんでした。
****タリバンの「春の攻勢」を警告 米国務長官がアフガン大統領に****
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が、同国と北大西洋条約機構(NATO)の軍隊がアフガニスタンから部隊を撤退した後に、武装勢力タリバンが急速に勢力を拡大する恐れがあると警告していたことが7日、明らかになった。
タリバンとトランプ前米政権の間の合意では、タリバンによる安全の保証と引き換えに、米軍が中心のNATO軍は5月1日までに、アフガニスタンから残りの部隊員1万人を完全撤退させることになっている。
しかしブリンケン国務長官は、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領に書簡を送り、「春の攻勢」があるかもしれないとして警戒を呼びかけた。
米軍は2001年、米同時多発テロ事件を受けて、アフガニスタンを侵略。タリバンを政権の座から追放した。
今年1月に発足したバイデン米政権は、トランプ前政権とタリバンによる和平合意を見直す方針を示している。
バイデン政権はまた、タリバンが「約束を守る」のか見極めたいとしている。合意では、タリバンは米軍の撤退前に暴力を減らし、テロリストとの関係を断つとしている。
アフガニスタンでは、暴力事件の危険度が高い状態が続いている。ジャーナリストや活動家、政治家、女性裁判官などを狙った殺人事件が次々と起きている。
ブリンケン氏の書簡
BBCはブリンケン氏の書簡を7日に入手した。
その中でブリンケン氏は、アフガニスタンにおける90日間の暴力削減を要望。さらに、「永続的かつ全面的な停戦」を実現するためとして、国連が監督する新たな国際平和維持活動を提唱した。
そして、治安状態が一層悪化するのを防ぐためには、それらが今すぐ必要だとした。
また、関係国の外相や地域勢力の代表らを集めた会合を開くよう、国連に求めると説明。トルコが開催地になるとの考えを伝えた。
BBCのリーズ・ドゥセット国際問題編集委員長は、この書簡について、アメリカが同国史上最長となった戦争で平和的な解決を目指していることを強調するものだと解説。
アメリカは部隊撤退後にアフガニスタンが混乱と内戦に陥ったり、首都カブールが崩壊したりするのを防ぎたいと思っており、ブリンケン氏がガニ大統領とタリバンに圧力を強めた格好だと説明した。(後略)【3月8日 BBC】
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アメリカの意図がイマイチわからない理由は、上記記事ではブリンケン国務長官の書簡の肝心な部分に触れられていないためです。(同一書簡なのか、別書簡なのかは知りませんが)
「肝心な部分」というのは、アフガニスタン政府に対し、タリバンと暫定的な権限分割の合意(選挙実施までの暫定政権樹立)を締結するよう提案しているというもの。(“提案”というか、“強要”というか・・・)
****米、アフガン政府にタリバーンとの暫定的合意を提案****
バイデン米政権は9日までに、アフガニスタン政府に対し、反政府勢力タリバーンと暫定的な権限分割の合意を締結するよう提案した。ブリンケン米国務長官からアフガニスタンのガニ大統領への書簡で述べた。
ブリンケン氏は合意をめぐり、イランなど周辺国の役割が大きくなると示唆。また、バイデン政権が同国からの米軍の撤退について引き続き検討すると警告した。アフガニスタンからの米軍撤退は、トランプ前政権が5月1日までに実施するとしていた。
書簡は米国のアフガニスタン和平担当特別代表を務めるザルメイ・ハリルザド氏を通じて送られた。バイデン政権によるアフガニスタンに関する考察を初めて示すもので、ブリンケン氏のいら立ちを反映した内容ともなっている。
同氏は書簡の中で、自身の論調からガニ大統領には状況が切迫していることを理解してもらいたいと記した。
アフガン政府とタリバーンの間では、米国とタリバーンとの昨年の合意以降協議が続いているものの、アフガン国内での暴力は着実に増加傾向にある。
米国務省のプライス報道官は、書簡や提案の内容が事実なのかどうかについてコメントを控えた。書簡はアフガンのメディアが7日に初めて公開。事情に詳しい米当局者1人と外交筋1人は、書簡が本物であると明らかにした。
バイデン氏はオバマ政権時代にアフガンでの米軍の増強に反対。過去にも20年近く続く紛争における米軍の関与を縮小したいと発言している。
撤退を成し遂げなくては国内での批判にさらされる可能性があるものの、現在のアフガン情勢は不安定で、タリバーンは国内での支配領域を拡大している。こうした地域では、女性たちがこれまで獲得してきた自由や権利が危機にさらされてもいる。【3月9日 CNN】
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“反政府勢力タリバーンと暫定的な権限分割の合意”というのは、選挙を実施するまでの間の暫定政権を意味するようです。
****米、アフガン和平計画で暫定政権の発足提案 選挙実施まで****
米国は、アフガニスタンの和平に向けた計画の中で、新たな憲法制定で合意して選挙を実施するまでの間、暫定政権を発足させることを提案している。また、合同委員会が停戦を監視することも提案している。
ただ、この案に対しては、当事者から反対の声が上がっている。(中略)
米国の提案によると、暫定政権下で国会は、タリバンの代表者も含めて拡大するか、もしくは選挙後まではそのままにするかが提示されている。
さらに、アフガニスタンは、他国を脅かす「国内でテロリストを支援したり、テロリストに関連した活動を容認したりしない」とし、タリバンは「安全な避難場所」や近隣諸国との軍事的な結びつきを放棄しなければならないとしている。
アフガニスタンの4人の政府関係者は、ロイターが入手した和平計画の草案の信ぴょう性を確認した。米国のこの計画は、アフガニスタンのメディアが報じている。
一方、ガニ大統領は、暫定政権のために退任することは受け入れない方針。大統領府高官は8日、「われわれは、協議や政治的取引を通じた暫定(政権)設立を決して受け入れない」とコメントした。
タリバン側は、停戦と選挙を拒否している。ただ、タリバンの指導者はロイターに対し、タリバンは暫定政権には参加しないが、暫定政府を発足させる案には反対していないと語った。【3月8日 ロイター】
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これなら、冒頭記事にある「春の攻勢」云々の意味がよくわかります。
要するに、「このまま米軍が撤退したら、アフガニスタン政府単独ではタリバンの攻勢はしのげないだろう。カブールは陥落し、アフガニスタン政府は崩壊する。そうならないためには、アメリカの言うことをきいて、タリバンと権限分割合意し暫定政権をつくれ」という話のようです。
“ガニ大統領には状況が切迫していることを理解してもらいたい”という“ブリンケン氏のいら立ちを反映した内容”ですが、上記【ロイター】によれば、アフガニスタン政府側は抵抗しているようです。
【4月にトルコで和平会合】
その後の動きとしては、以下のような記事が。
冒頭【BBC】の“(ブリンケン国務長官は)関係国の外相や地域勢力の代表らを集めた会合を開くよう、国連に求めると説明。トルコが開催地になるとの考えを伝えた”という話の具体化でしょうか。
****4月にアフガン和平会合=トルコ外相表明****
トルコのチャブシオール外相は、アフガニスタン政府とアフガンの反政府勢力タリバンの双方が出席する和平会合をトルコで4月に開催する考えを示した。アナトリア通信が12日伝えた。アフガン駐留米軍の撤収期限が迫る中、トルコは米国とも協力して和平の進展を図る姿勢だ。
アフガン和平をめぐっては、これまでタリバンが事務所を置くカタールで接触が行われてきた。トルコとカタールは関係が深い。チャブシオール氏は、アフガン政府とタリバンの双方から開催の要請があったことを明らかにした上で、「兄弟国カタールと調整して実施したい」と述べた。【3月12日 時事】
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トルコは「兄弟国カタール」と呼んでいますが、アフガニスタン政府はカタールの対応には不満なようです。
****アフガニスタン、和平協議の場所変更希望 カタールの対応に不満****
カタールで行われているアフガニスタン政府と反政府武装組織タリバンの和平協議について、駐アラブ首長国連邦(UAE)アフガニスタン大使は、カタールが主催国としての役割を十分果たしていないとして、協議を複数の場所で巡回させて行うべきだと主張した。
和平協議は、米国が軍の撤収で合意した後、昨年からカタールで行われている。しかしアフガニスタンでは爆弾などによる攻撃が後を絶たず、アフガニスタン政府はタリバンが攻撃を抑制するという義務を果たしていないと批判している。
アフマド大使はロイターに、和平協議は一カ所に固定するのでなく、欧州、アジア、中東、あるいはアフガニスタンと場所を移しながら行うべきだと主張。
「カタールはホスト国で、より積極的で決定的役割を担い、タリバンに暴力を抑制させたり停戦を宣言させたりすることもできた」と述べ、カタールは自身の立場を適切に活用できていないと指摘した。
カタール政府側にコメントを求めたが返答はない。
ロシアは今週、アフガニスタンに関する会合を開催する。トルコは来月、和平協議を主宰する。【3月15日 ロイター】
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5月1日まで、残された時間は僅かですが、ブリンケン国務長官が提案したとされるアフガニスタン政府とタリバンの権限分割・暫定政権の話がどうなったのか・・・は、よくわかりません。上記のトルコでの和平会合などで議論されるのでしょうか?
【バイデン大統領 撤退期限延期の可能性示唆】
アメリカの対応ですが、バイデン大統領は完全撤退期限を延期する可能性を示唆しています。
****アフガン駐留米軍の完全撤退、バイデン氏が延期を示唆****
バイデン米大統領は17日に放送されたABCテレビのインタビューで、アフガニスタンに駐留している米軍を5月1日までに完全撤退させる計画について「厳しい」と述べ、期限を延期する可能性を示唆した。ただ、「ずっと長くかかるわけではない」とも語り、引き続き撤退を目指す姿勢を強調した。
トランプ前政権は昨年2月、反政府勢力タリバーンとの間でアフガニスタンから米軍を段階的に撤退させる合意を結び、今年5月を完全撤退の目標としてきた。
インタビューでバイデン氏は「しっかりとした交渉がされた合意ではない」と非難。「同盟国などと協議中だ」としつつ、5月1日の期限までに完全撤退させるのは「できるかもしれないが、厳しい」との認識を初めて示した。
バイデン政権はこれまでも、タリバーンが暴力を減らし、国際テロ組織のアルカイダとの関係を絶つ約束を守っていないと批判。撤退の前提となっているタリバーンとの合意について検証を行う必要があるとして、慎重な姿勢を示していた。(後略)【3月18日 朝日】
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いずれにしても、今後ひと月ほどの間で、アフガニスタン政府・タリバンにしても、アメリカにしても、更に動きが見られると思われます。
2001年3月、タリバンはバーミヤンの大仏2体に砲弾とロケット砲を浴びせ、最後はダイナマイトで爆破しました。
あれから20年、タリバンの考えは変わったのか、それとも同じなのか?
権限分割、暫定政権の可能性は、そのあたり次第です。