孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン・アメリカ 核合意復帰をめぐる膠着状態 ハメネイ師は強硬姿勢 イラン原油輸入を増やす中国

2021-03-22 23:26:02 | イラン

(春分の日は、イランでは春の新年ノウルーズとして祝われます。画像は、イラン北部ギーラーン州でのノウルーズを迎える儀式祭礼【3月18日 ParsToday】 )

 

【バイデン政権 イランとの交渉再開に向けた姿勢も】

アメリカのイラン核合意への復帰をめぐっては、両国が互いに相手側の譲歩を先に求めるチキンレース状態が続いています。

 

****米国とイランのいがみ合い 核合意復活は実現するか****

米国とイランは、核合意を巡り、それぞれ相手がまず行動すべきであると主張して膠着状態にあるが、膠着状態は緩和に向かう兆候も見られる。

 

イランはIAEAによる抜き打ち検査を拒否し、査察の回数は削減されたものの、核合意で認められたIAEAの専門家による定期査察は今後3か月間継続されることとなった。

 

したがって、監視が完全にできなくなる状態は避けられたことになる。他方、米国はトランプの「最大限の圧力」を緩和し始めた。国連でのイランの外交官の旅行制限を緩和し、合意の他の当事国、ドイツ、フランス、英国、中国、ロシアと一緒にイランの政府当事者と会合することを提案した。

 

フィナンシャル・タイムズ紙の2月25日付け社説‘Joe Biden has a narrow window to save Iran deal’は、バイデン政権が制裁を解除することなくイランの要望を受け入れる一つの選択肢として、日本や韓国のようなイランの原油の輸入国が、保持する何十億ドルという石油代金へのイランのアクセスを認めることを提案している。

 

社説は、「イランは、その基金を食料や新型コロナウイルスのワクチンを含む医薬品といった制裁の対象でない『人道的な』物資の輸入に使える」と言うが、実現性はよく分からない。

 

社説は、米国はイランが過剰な濃縮ウランや重水の国外持ち出しを差し止めている制裁を解除すべきである、とも提案する。

 

しかし、そもそもこの制裁の解除を止めたのはトランプの理不尽な決定であったので、その制裁の解除は前進ではなく後退を元に戻すだけに過ぎず、イランが核合意に復帰するインセンティブにはならない。

 

イラン側は核活動を拡大するという挑発的な行動は止めるべきである。しかし、イランが20%濃縮を再開したり、新しい遠心分離機を開発したりしているのは、米国が制裁を解除しないためであるとしており、イランが一方的に核活動の拡大を止めることはないだろう。

 

イランの核合意を取り巻く状況は厳しい。2020年1月イラン革命防衛隊ゴドス部隊のソレイマニ司令官が米軍によって暗殺され、これに対する報復として今年1月イランによるイラク中西部の米国のアサド空軍基地などに対する攻撃が行われ、さらにこの攻撃に対する報復として2月26日、米国によるシリア東部のイラン支援民兵組織の空爆が行われた。このような状況の下で核合意への復帰に努めるのは容易ではない。

 

なお、イラン核合意の欠陥はイランのミサイル計画とイランの地域での活動が含まれていないことであることが夙に指摘されている。

 

これはこの二つの難問を取り込もうとするとどれほど時間がかかるか分からないので、取り敢えずイランの核活動の制約のみが取り上げられた経緯がある。

 

上記社説は「核合意ができれば二つの難問にとりかかる努力を始める場を作ることができる」と言っているが、ことはそれほど簡単なものではない。

 

イランのミサイル計画一つをとっても、イランはいまやドローンと精密兵器を攻撃の中心としている。2019年9月のイランによるサウジアラムコのアブカイク製油施設攻撃も、ドローンと精密兵器によるものであった。このように今やイランが得意としている兵器の規制の話にイランが乗ってくるとは考えにくい。【3月18日 WEDGE】

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上記“米国はトランプの「最大限の圧力」を緩和し始めた”という流れの一環でしょうか、バイデン大統領は交渉再開に向けてやや柔軟な姿勢も見せています。

 

****制裁緩和も選択肢とイランに伝達 米、交渉再開へ前進も****

イラン核合意の立て直しを目指すバイデン米政権は、イランが合意履行を段階的に再開する見返りとして、米国の制裁を部分的に緩和することも選択肢だとの立場をイラン側に伝えた。米政府当局者が12日、明らかにした。

 

合意履行には制裁解除が不可欠とするイランの主張に米国が耳を傾ける姿勢を示した形で、交渉再開に向けた動きが進む可能性もある。

 

イランのロウハニ政権は米国の制裁解除とイランの核開発制限を同時並行で進める案を欧州連合(EU)を通じて米側に示す方向で調整している。【3月13日 共同】

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【ハメネイ師は強硬姿勢「アメリカの約束は信頼できない」 6月の大統領選挙に向けて勢いを増す保守強硬派】

ただ、「イラン」と言っても、アメリカとの交渉を再開して制裁解除への道筋をつけたいロウハニ大統領など穏健派と、アメリカとの対決姿勢を好む保守強硬派では大きく異なります。

 

6月に予定されている大統領選挙を睨んだ両勢力の綱引きにもなっています。アメリカ・バイデン政権の柔軟姿勢も、ここでイランを追い詰めても、大統領選挙で保守強硬派を利し、反米政権を誕生させる結果になるとの判断があってのことと推測されます。

 

保守強硬派の意向を示しているのが、最高指導者ハメネイ師の「米の対イラン制裁は殺人」「対イラン制裁を解除するとの米国の約束は信頼できない」といった最近の言動です。

 

****イランのハーメネイー師 「米の対イラン制裁は殺人」****

イランの宗教的指導者アリー・ハーメネイー師はアメリカが同国に科している制裁は殺人であると発言した。

 

ノウルーズの祝祭にちなんで国営テレビで国民演説をしたハーメネイー師は、内政及び外交政策で発生している最新情勢に関して見解を述べた。

 

ハーメネイー師は、「アメリカがイラン及び一部諸国に科している経済制裁は大きな殺人である。彼らは制裁によってイランを弱体化させ、強制を受け入れさせることを目指している。しかしこの政策は無効になり、この状況は国産の強化につながった」と述べた。

 

イランの核合意復帰の条件は「アメリカが全制裁を解除し、これを実践すること」であると繰り返し述べたハーメネイー師は、「アメリカの愚かな前の統治者(ドナルド・トランプ前大統領)の最大限の圧力政策は無効になった。新政府も同様の政策を取ればそれも無効になるであろう」と述べた。【3月21日 TRT】

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****イラン、米国の制裁解除は信用できず=ハメネイ師****

イランの最高指導者ハメネイ師は21日、対イラン制裁を解除するとの米国の約束は信頼できないと表明、米国が対イラン制裁を全面解除するまで2015年の核合意には復帰しないと述べた。

ハメネイ師は国営テレビの演説で「オバマ政権時代は米国を信頼し、われわれの義務を履行していたが、向こうはそうではなかった。米国は書面上は制裁を解除すると表明していたが、実際には制裁を解除しなかった」とし「彼らの約束を信用することはできない」と発言。

「彼らは書面上は制裁を解除したと表明したが、われわれとの契約締結を望むすべての企業に対し、危険でリスクが高いと伝えていた。彼らは投資家を追い払った」と述べた。

その上で「米国はすべての制裁を解除すべきだ。われわれがそれを検証し、制裁が本当に解除されれば、何の問題なくわれわれの義務を再び履行する」とし「我々は忍耐力が強く、急いではいない」と述べた。

またハメネイ師は、国内の政策当局に対し、制裁が近く解除されないという最悪のケースに基づいて行動するよう指示。「制裁が継続されることを想定して、制裁に基づいた経済計画を策定すべきだ」と述べた。【3月22日 ロイター】

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また、ワシントンの米軍基地へのテロ攻撃といった不穏な動きも。

背後にいるのは保守強硬派の革命防衛隊だしょうか?

 

****イランが米首都の陸軍基地攻撃を計画か 米報道****

AP通信は21日、複数の米情報当局高官の話として、イランが米ワシントン市内にあるフォート・マクネアー陸軍基地の攻撃を計画している可能性があると伝えた。米軍は事態を受け、基地周辺の警戒態勢を強化したとしている。

 

米高官らによると、攻撃計画は1月、通信情報を専門とする米情報機関「国家安全保障局」(NSA)がイラン革命防衛隊による交信を傍受して判明した。

 

計画では、基地自体への攻撃に加え、基地内に公邸があるマーティン陸軍副参謀長の殺害も画策していたことが分かった。

 

イランは攻撃手法として、2000年10月に米兵17人が死亡した、国際テロ組織アルカーイダによる米駆逐艦コールへの自爆攻撃のような、船舶による水上からの攻撃を検討している可能性が高いという。

 

基地は、ポトマック川とアナコスティア川の合流点となる半島の先端にあり、米軍はワシントン市当局に対し、基地周辺の川に75〜150メートルの緩衝地帯を設け、ボートなどの接近を禁止するよう要請した。

 

ただ、一帯は水上タクシーや遊覧船などの往来が激しく、市当局が緩衝地帯の設置に難色を示し、基地側と対立しているという。【3月22日 産経】

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こうした攻撃が実施されれば、「交渉」機運など一気に吹き飛びます。

話がでるだけでも緊張をたかめますが、そうした攻撃を計画する側、その情報をリークする側、それぞれの政治的思惑も。

 

【イラン原油輸入を増やす中国 米のイラン包囲網の突破口?】

イラン経済がアメリカの制裁で石油輸出が止まり瀕死の状態にあることは周知のところですが、抜け穴もあるようです。

 

****中国がイラン原油大量輸入 米制裁対象、経済活発化で需要拡大****

米国が制裁対象としているイラン産原油を中国が大量に買い付けていることが明らかになった。他国が米国の怒りをかわすためイランからの輸入を控えるなか、3月の中国のイラン産原油の輸入量は前月比で2倍以上になるとみられている。

 

トレーダーやアナリストによると、今月に入り、中国の精製処理能力の約4分の1が集結する山東省へのイラン産原油の輸送が急増し、中国の港湾は混雑し、貯蔵タンクは満杯になっている。

 

2018年半ばに第1弾が発動された米国の対イラン経済制裁により、イラン産原油の割安感が目立っている。トレーダーによると、中国では国際指標の北海ブレント先物より1バレル=3~5ドル安い価格で取引されるのが一般的だ。

 

このため、新型コロナウイルス禍からの回復で春節(旧正月)休暇後の経済活発化でエネルギー需要が拡大するなか、一部の地場企業が世界的な原油価格高騰をにらみながら在庫積み増しに動いているという。

 

市況商品関連のデータ会社ケプラーのアナリスト、ケビン・ライト氏の試算によると、中国のイラン産原油の輸入量は3月に前月比129%増の日量85万6000バレルとなり、過去2年間で最多になる見通しだ。

 

同氏の試算には原産地をごまかすため、中東やシンガポール、マレーシア、インドネシアの沖で積み荷を船から別の船に移す「瀬取り」を経て取引された原油も含まれる。

 

石油精製業者やトレーダーの多くは米国で銀行取引が行えなくなったり貨物が押収されたりするなどの影響を恐れ、イラン産原油の輸入に消極的だ。こうした中、イラン政府は原油輸出による収入を拡大し、制裁で打撃を受ける経済を立て直すべく、積極的な販売活動を進めている。

 

米国のトランプ前政権がイランとの核合意から離脱したことにより、米イラン関係は急激に悪化した。イランの公式統計によると、同国の原油輸出量は米国による制裁前の日量約250万バレルからほぼゼロにまで激減した。しかし、イランはなお日量約200万バレルの生産を維持している。(後略)(Bloomberg News)【3月13日 SankeiBiz】

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こうした中国企業の動きの背後には、中国政府の対米政策があると思われます。

 

****中国、イラン産原油の輸入拡大 米政権に試練****

中国はイランとベネズエラからの石油輸入を急増させ、ジョー・バイデン米政権の外交政策における二つの優先課題に対抗している。米当局者によると、長らく滞っている交渉の再開へ向け、米政権の必要とする重要な外交手段がこれによって損なわれている。

 

商品(コモディティー)データ会社ケプラーによると、中国によるイランからの原油輸入は3月、日量91万8000バレルに上る見通しで、米国が2年前にイラン政府に原油禁輸措置を発動して以降最大となる。

 

他の輸送追跡情報でもこうした動向が確認されており、中には日量100万バレルとの推計もみられる。

 

バイデン政権は2015年の核合意への復帰を交渉するため、イランとの協議を探っているが、イラン政府はそうした申し出をはねつけている。米国はドナルド・トランプ前大統領の下で核合意から離脱した。

 

金融データ会社リフィニティブによると、中国はベネズエラ産原油の購入も増やしている。米国はベネズエラのマドゥロ政権に対し、信頼できる民主的な選挙を実施するよう圧力をかけるため、制裁措置の活用を試みてきた。

 

イランとベネズエラの当局者によると、イランによる国際的な核合意順守や、ベネズエラによる自由選挙の実施を交換条件とする制裁緩和をバイデン氏が提案した後に、中国への原油輸出が拡大した。トランプ氏は両国に対し制裁圧力を強める政策を取っていた。

 

中国はさらに、北朝鮮に対する国際的な制裁を軽視する姿勢を強め、北朝鮮を支援する一部の密輸活動を隠そうともしなくなっている。米当局者が最近明らかにした。

 

原油価格の上昇と相まって、こうした動きはイランとベネズエラに対米交渉を迫る圧力を弱めている、と米当局者は話す。

 

イラン担当の米当局者の1人は、「中国による非公式な購入により、石油制裁を巡る交渉の必要性が低下している」と述べた。(中略)

 

イランの石油業者は昨年11月以降、値引き価格に引き寄せられたアジアの買い手から新たな取引を打診されているという。バイデン政権下で制裁の圧力が弱まると買い手が考えているためだ。

 

イラン当局者や業者の制裁逃れは一段と巧みになっている。貨物の原産地を隠すため、ペルシャ湾や南アジアで瀬取りをしたり、仮想通貨など銀行以外のプラットフォームを使って支払いを受ける新たな手法を編み出したりしている。

 

イランのエシャク・ジャハンギリ第1副大統領は15日、ここ数カ月にイランの原油輸出量が増加したと述べたが、詳細には触れなかった。

 

イラン国営通信(IRNA)によると、ジャハンギリ氏は「送金で問題があった。このため原油輸出の収入を取り込む方法について一計を案じる必要があったが、最近になって突破口が開けた」と述べていた。(中略)

 

米中関係は既に、安全保障や経済を巡る多くの不一致で緊張が高まっている。米政府の二大敵対国と中国政府との原油貿易はさらなる大きな懸案となる。

 

米当局者は中国に対し、イランからの原油輸入を支援する企業は制裁のリスクを冒しているとし、中国政府はベネズエラとの貿易を巡り厳しい措置に直面する可能性があると指摘している。国務省は中国との連絡についてコメントすることは控えた。【3月22日 WSJ】

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(送金問題について)「最近になって突破口が開けた」というのは、デジタル人民元でしょうか?

 

****中国が狙うイランの原油と天然ガス~支払いはデジタル人民元で(中)**** 

デジタル人民元による支払い、アメリカにとっては悪夢

 

中国にとっては、アメリカに取って代わるまさに千載一遇のチャンス到来というわけだ。中国の習近平国家主席はイランの最高指導者ハメネイ師と直談判を繰り返し、「中国イラン総合戦略パートナーシップ」協定を結んだ。両国間の長期的な通商、軍事協力を加速させる内容である。この合意を受け、中国はイランに対し、今後25年の間に4,000億ドルの投資を行うと表明。

 

具体的には、イラン国内の銀行・通信・港湾・鉄道などの広範なインフラ整備に中国が全面的に支援体制を組むことになる。その見返りに、中国はイラン産の原油を国際価格と比較して大幅に下回る金額で調達できるという仕掛けである。

 

すでに、イランにとって中国は最大の貿易通商相手であり、とくにイラン産原油の最大のバイヤーになっている。しかも、支払いはデジタル人民元でOKという。

 

これらはアメリカにとって悪夢といっても過言ではないだろう。イラン封じ込めを意図していたアメリカの対中東政策を根底から覆す動きを中国が演じているからだ。(後略)【3月4日 浜田和幸氏 NET IB News】

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このあたりは、先のアラスカでの米中会談でも議論になったのではないでしょうか。

 

****米が中国に対し、対イラン石油制裁行使の継続を表明****

アメリカの政府関係者の一人が、「米政府は中国政府に対し、トランプ前大統領時代にイランの石油に対して行っていた制裁が継続されるだろうと伝えた」と語りました。

 

ファールス通信によりますと、匿名とされているこの米政府高官は、「対イラン石油制裁解除に向けたいかなる計画も存在しない」と述べました。(後略)【3月18日 ParsToday】

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イラン・アメリカのチキンレースは、イラン国内の大統領選挙などの政治状況、中国の動きなども加わって、不透明な状況が続いています。

 

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