孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海・東沙諸島  ハードルの高い台湾進攻にかわる「成果」を誇示したい習近平主席

2021-03-07 22:14:43 | 東アジア

(小島と環礁でつくられる東沙諸島はこれまでほとんど注目されてこなかった。台湾が実効支配するが、中国との距離のほうが近い【小笠原 欣幸氏 Newsweek 2021年2月23日号】)

 

今日・明日は旅行中のため、目に付いた記事を簡単に紹介する形で。

 

南シナ海の南沙諸島・西沙諸島は、中国の強引な領有権主張で普段に目にしますが、東沙諸島というのは・・・・。

 

南シナ海の北東に位置する環礁で、台湾が実効支配していますが、東沙島だけが「島」で、飛行場があるが,島の大きさは約2800m×860mしかない。台湾の海巡署職員や研究者が常駐しているが,住民はいない。・・・とのこと。

 

昨年あたりから、この東沙諸島に関する記事を目にするようにもなっています。

 

****南シナ海の東沙諸島、中国軍機飛来し台湾は射撃訓練、「海峡危機の潜在的発火点」と米誌****

南シナ海に浮かぶ東沙諸島が中国と台湾の間で新たな焦点になりつつある。

 

東沙諸島は台湾が実効支配しているが、中国軍機が最近、頻繁に飛来して来る台湾の防空識別圏(ADIZ)南西部に位置する。台湾側も沖合で実弾射撃訓練を行うなどして中国をけん制。米紙は「台湾海峡危機の潜在的発火点」とも報じた。

東沙諸島は南シナ海の北東にある環礁。東沙島だけが平坦な「島」だ。約1500メートルの滑走路があるが、島の大きさは約2800×860メートルしかない。台湾の海巡署(海上保安庁に相当)職員や研究者が常駐。一般住民はいない。

地理的に中国沿岸から近く、台湾本島からは遠い。台湾本島からは約410キロで広東省の汕頭からは約260キロ。現在は台湾の海軍陸戦隊も守備に就いているとされる。

東沙諸島をめぐっては昨年5月、共同通信が「中国人民解放軍が8月に中国南部・海南島沖の南シナ海で、東沙諸島の奪取を想定した大規模な上陸演習を計画している」と報道し、注目を集めた。

 

記事は「東沙諸島は中国海軍の基地がある海南島から台湾南方のバシー海峡を経て太平洋へ向かうルート上にあり、中国軍が太平洋に進出するため戦略的に重要。中国初の国産空母『山東』も海南島の基地に配備されており、中国軍にとって東沙を制する必要性が高まっている」とも伝えた。

10月には東沙島に補給物資を運ぶ台湾の航空機が高雄から離陸したが,香港の航空管制から「安全を保障できない」と通告され,やむなく引き返した。軍事専門家は「中国軍がいつでも東沙の補給路を断つこともできるし,奪取しようと思えばできる状況にある」とみている。

台湾・中央通信社によると、海巡署東南沙分署は1日、東沙島沖で実弾射撃訓練を実施した。台湾南西のADIZには中国軍機の進入が相次いでいることから、各種の状況に備えるためとされ、9日にも東沙島沖で実弾射撃訓練を予定している。

 

国防部(国防省)が公表している軍事動向によれば、中国の各種軍用機は東沙諸島にも接近したことがあり、地域の平和や安定に緊張が生じている。

米紙ニューズウィークに寄稿した東京外国語大の小笠原欣幸教授(台湾政治)は「現時点では中国が台湾侵攻作戦を敢行する可能性は低い。それは台湾軍の抵抗、米軍の介入、国際社会での反中感情の高まりが予想されるからである」と指摘。その一方で「今年7月の中国共産党創設100周年、そして来年の第20回共産党大会を『中国の夢』で壮大に演出したい習近平国家主席は台湾問題で何らかの『成果』を示したいであろう。そこで浮上してくるのが東沙諸島だ」と述べた。【3月6日 レコードチャイナ】

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強気の習近平国家主席とは言え、さすがに「台湾進攻」というのはハードルが高すぎるが、台湾問題で何か誇るべき実績をつくりたい・・・・ということで、目が向けられているのが東沙諸島ということのようです。

 

上記記事にもある小笠原欣幸教授(台湾政治)は、以下のようにも。

 

*****南シナ海「東沙諸島」が台湾危機の発火点になる*****

<バイデン新政権誕生で強まる中国の軍事的威嚇、新たに「東沙諸島」が習近平の標的になる理由>

 

中国による台湾への軍事的威嚇が強まっている。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は「台湾統一への強い自信と決意」を表明したが、実は台湾統一は一向に近づいていない。

 

「台湾アイデンティティー」が広がった台湾では、「統一お断り」が民意の主流である。その現実にいら立つ中国メディアは「台湾に懲罰を」という主張を繰り返している。

 

中国のやり方は暴力で家族を支配する行為に似ていて、台湾の気持ちはますます離れていく。

 

現時点では、中国が台湾侵攻作戦を敢行する可能性は低い。それは、台湾軍の抵抗、米軍の介入、国際社会での反中感情の高まりが予想されるからである。

 

しかし今年7月の中国共産党創設100周年、そして来年の第20回共産党大会を「中国の夢」で壮大に演出したい習は、台湾問題で何らかの「成果」を示したいであろう。そこで浮上してくるのが東沙諸島だ。

 

(中略)東沙は地理的に中国沿岸から近く、台湾本島からは距離がある。台湾本島からは約410キロあるが、広東省の汕頭(スワトウ)からは約260キロしかない。

 

現在は台湾の海軍陸戦隊約500人が守備に就いているとされるが、平坦な地形で基本的に防衛は不可能な島だ。

 

中国軍は常時奪取可能

以前、東沙はほとんど顧みられなかったが、南シナ海の戦略的重要性が高まったことで注目度が増してきた。太平洋からバシー海峡を通って南シナ海に入る入り口に位置するので、中国が東沙を支配すれば南シナ海にふたをする形となり、艦船や航空機の通過を監視・牽制する門番の役割を果たす。

 

東沙への警戒を大きく高めたのは、昨年5月の「中国軍が東沙諸島の奪取演習を計画」という共同通信のスクープ記事だ。

 

中国軍は東沙と台湾本島の間の海・空域で活発に活動し、台湾の補給路を断つ演習を集中的に行ったとみられる。上陸演習は海南島など別の場所だった可能性が高い。

 

10月には、東沙島に補給物資を運ぶ台湾の航空機が高雄から離陸したが、香港の航空管制から「安全を保障できない」と通告され、やむなく引き返す事件があった。

 

軍事専門家は「中国軍がいつでも東沙の補給路を断つこともできるし、奪取しようと思えばできる状況にある」とみている。

 

東沙への軍事行動といっても、

(1)周辺での軍事演習の常態化から始まり、(2)補給の航空機と艦船に嫌がらせをするグレーゾーン、そして(3)海・空域の封鎖で補給路を断つ、(4)攻撃予告で台湾軍を撤退に追い込む、(5)上陸作戦による奪取ーーまで段階的なオプションがいくつもある。

 

ここで重要なのが米中の駆け引きである。ジョー・バイデン新政権は就任後すぐに「われわれの台湾への約束は岩のように固い」と表明し、空母打撃群を台湾の南のバシー海峡付近から南シナ海へと航行させた。

 

一方、中国軍は2日間にわたって爆撃機など計28機を発進させ、台湾の防空識別圏に侵入し、その先を航行する米空母を標的とする対艦ミサイル発射の演習を行った。米中共に台湾をめぐって一歩も引かない立場を示した形だ。

 

習にとって「一石数鳥」

いま中国が台湾本島を攻撃すれば米軍が動くであろうし、日米で強い反中感情が巻き起こるであろう。しかし、日米で東沙諸島を知っている人はまずいない。米世論も「台湾から離れた無人島で米兵を死なせるのか」と受け止める可能性がある。

 

中国は、バラク・オバマ米政権期に南シナ海で環礁を埋め立て軍事基地化した成功体験を持っている。

 

加えて中国が、米軍が動きにくい台湾の周辺でバイデン政権の出方を試す可能性がある。

 

米中関係の主導権を握るため、まずバイデン政権の出鼻をくじいておいて、その上で米民主党が重視する地球温暖化対策、コロナワクチン提供、貿易の国際ルール作りなどでアメリカの顔を立てるといった高等戦術もあり得る。

 

中国は過去4年間、ドナルド・トランプ政権によって忍耐を余儀なくされたという思いがある。主導権を取り返そうと考えるのが自然である。

 

「東沙の有事は台湾有事と比べると国際社会の批判も大きくはならないし、なっても一時的」と、習指導部が計算する可能性もある。

 

そうなれば台湾には大きな打撃だ。これで台湾社会にパニックが起これば、習には儲けものだ。

 

つまり中国にとって、やり方とタイミングをうまくすれば「一石数鳥」ものプラスを得られる可能性がある。それは3期目を目指す習が政権を継続する理由にもなる。これが東沙のリスクだ。

 

実際に何も起こらなければそれが一番よい。ただ日本が危機感を持っておくことは戦争の予防につながる。

 

万が一、中国が台湾本島あるいは周辺島嶼へ武力行使することがあれば、日本で強烈な反中感情が巻き起こり「日中関係は10年も20年も正常化できなくなる」という見通しを、日本政府だけでなく日本の社会が発信する必要がある。

 

日中友好と平和を願うのであれば、まず「中国に武力行使をさせない」という決意を固めなければならない。【小笠原 欣幸氏 Newsweek 2021年2月23日号】

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「台湾本島への武力行使ではなく,離島を奪取して内外に習近平の意志と力を見せつけ,「台湾統一が近づいている」という宣伝戦を展開する可能性である。合わせてバイデン政権の出方を試すことができる。それが東沙諸島である。」【2020年12月1日 笠原 欣幸氏】

 

このあたりの中国・習近平氏側の思いについては、以下のようにも。


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ここで習近平の時間軸で考えてみたい。日本の中国専門家はほぼ全員,習近平が2022年の党大会で三選すると見ている。2032年とか35年まで続けるという見方も多い。

 

習近平の頭の中では「任期中に台湾問題に決着をつけるチャンスが十分ある」ととらえているであろう。他方で,すでに8年間権力の座にありながら台湾統一がいっこうに近づいていない「不都合な真実」がある。

 

政権継続の正当性を示すためにも,2021年の共産党百周年あるいは2022年の党大会において台湾問題で何らかの「成果」を示したいであろう。
 

加えて,中国は,台湾の有権者が再三の警告を無視して蔡英文を当選・再選させ,その蔡政権が米国との関係を深めていることに腹を立てている。「環球時報」は「台湾に懲罰を与える」「教訓を与える」という主張を繰り返している。中国国内向けにも「台湾を痛い目に遭わせる」何らかの行動の必要性が高まっている。
 

そこで浮上してくるのが,台湾本島への武力行使ではなく,離島を奪取して内外に習近平の意志と力を見せつけ,「台湾統一が近づいている」という宣伝戦を展開する可能性である。合わせて米のバイデン政権の出方を試すことができる。それが東沙諸島だ。【同上】

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実際に何も起こらなければそれが一番よいのですが・・・。

 

コメント
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