孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本  第三国定住受け入れ ミャンマー難民30人程度

2008-12-20 13:20:54 | 世相

(ミャンマー国境が近いタイの難民(カレン族)キャンプ 孤児たちの学校 “flickr”より By happymouse
http://www.flickr.com/photos/kareneee/2540680659/)

【タイで生活するミャンマー難民30人程度を】
日本政府は、海外の紛争当事国から逃れて周辺国の難民キャンプなどで暮らす難民を日本で恒常的に受け入れる「第三国定住」を導入することを決定しました。
実際にはタイのキャンプで暮らすミャンマーからの難民が対象になるようです。

****<第三国定住>ミャンマー難民、10年度から政府受け入れ*****
紛争などで他国に逃れた難民をさらに別の国が受け入れる「第三国定住」について、政府はタイで生活するミャンマー難民30人程度を10年度から受け入れる方針を決めた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と連携し09年度中に受け入れる難民を選定する。第三国定住を受け入れるのはアジア初。11省庁による19日の難民対策連絡調整会議で正式決定する。
入管法が難民認定の可否を日本国内でしか審査できないのと異なり、第三国定住は、現住地で面接などを行って審査できる。
政府が受け入れるのは、UNHCRが事前に面接などをして政府に保護を推薦した難民で、社会適応できると判断した家族。政府は定住支援に向け、日本語の研修や職業の紹介・訓練を実施する。状況を見ながら受け入れを増やす方針。難民申請の約6割がミャンマー人であることを背景に、選んだとみられる。
UNHCRによると07年に第三国定住で受け入れられた難民は7万5300人。受け入れ国は14カ国で、うち米国が4万8300人。出身国はミャンマーやソマリアなどが多い。【12月19日 毎日】
***************************

今回の政府決定について、来日中のグテーレス国連難民高等弁務官は、「試験的だが、成功させることで、日本の難民受け入れが拡充することを期待する」と語り、夫を亡くした女性ら特に立場の弱い難民受け入れを検討することや、すべての難民が日本社会へ溶け込むために必要な言語や教育、就労への支援の重要性を強調しています。【12月19日 毎日】

【07年難民受け入れ41名】
今後の流れは、“平成21年度に予算や難民の選定を行い、22年度に受け入れる。今後、数年にわたり第2、第3陣を受け入れ、定着状況などを調査・検証した上で、以降の受け入れ体制を検討していく。”というものです。【12月19日 産経】

今回の決定については、今年夏頃に「政府方針が固まった」と報じられていました。
世界の難民の数は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の07年の調べで約1600万人に達しています。
紛争や災害、迫害で新たに難民となる人がいる半面、帰還のメドが立たず、キャンプ生活が10年以上の長期に及ぶ難民も少なくありません。
紛争地の周辺では大量の難民流入が、新たな社会不安の要因となります。
そんな難民を先進国が受け入れる第三国定住は、キャンプ生活から抜け出せない人々への救済に加え、紛争周辺国の負担を軽減する策として近年注目が高まっています。【7月24日 朝日】

日本は81年に国連の難民条約に加入していますが、受け入れ数は年間数人~数十人程度(07年41人)。
数万人単位で受け入れている欧米諸国などからは「難民支援にカネは出すがヒトは入れない」と批判されてきました。

こうした現状を踏まえた政府決定の背景、難民認定制度との関係について、夏頃に次のように報じられています。

“現在の難民認定制度は、すでに来日した人が認定を求めるために「不法滞在者らによる悪用」も多いとされ、認定されない割合も高い。これに対し、第三国定住制度は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が推薦する難民が対象で、日本としては難民認定の作業が容易になる。さらに、日本の担当者が現地に赴いて面接するため、財産もなく隣国に逃げて来て、審査のために来日するのが不可能な人たちを受け入れられる。
このため「国際貢献と治安維持のバランスが取りやすい」 (法務省幹部)とされ、UNHCRも「難民問題の恒久的な解決方法の一つ」として推進している。鳩山法相も昨年11月にグテーレス国連難民高等弁務官と面会し、積極的な姿勢を打ち出していた。
関係省庁の中には、治安面から慎重な意見もあったが、少人数から試行的に始めることで基本的な合意に達した。
また、法改正で同様の枠組みをつくる手法もありえたが、より迅速に、柔軟な判断ができることから「閣議了解」による受け入れを選んだ。”【7月24日 朝日】

こうした国際批判をかわす狙いの他に、少子・高齢化で外国人労働力に頼らざるをえなくなる日本社会の現状から、外国人に積極的に国を開いていこうという機運が政府や自民党内に広がっていることも背景にあるとも指摘されています。
“労働力を国外から求める以上、難民受け入れという国際的な人道責任も日本は引き受けねばならないという考え方だ。”【7月24日 朝日】

また、同記事では“、難民を入国前に面接などで選別・把握できる第三国定住について、日本にとって都合の良い人だけを受け入れるのではないかとの懸念も出ている。”とも指摘されています。

【「第2の難民」をつくらないために】
この【7月24日 朝日】記事については、在日難民の支援活動を行っているグループ“RAFIQ”が手厳しく批判しています。
問題としているのは“現在の難民認定制度は、すでに来日した人が認定を求めるために「不法滞在者らによる悪用」も多いとされ、認定されない割合も高い。”という箇所で、法務省見解を無批判に垂れ流していると批判しています。

“実際は、難民認定制度を知らないで、正規のビザで入国しても、国に帰れないためにオーバーステイ状態になっている人たちが多いことや、難民認定制度を知ることができるのは、入管の窓口ではなく、支援者・支援団体やや収容された時に同室の人や面会に来た支援者によるものが多いのです。
そして、申請してから認定・不認定の結果が出るまでが長く、不認定の結果が出ても、国に帰れない状況は同じなので、異議申し立てや裁判が行われますが、その期間も長いのです(その期間は、法務省の言う「不法滞在」状態にあります)。それらに耐えうる人のみがようやく認定されたり、在留特別許可されたりする現状です。
長期間の不安定な立場で、難民自身の体の調子や、母国に残した家族の状況の変化に耐えられずに自主帰国する人も過去にはあったのは事実ですが、これを「不法滞在者らによる悪用」と政府が受け取っていることにもっと事実を言及してもらいたいと思います。
私たちは、難民申請中、不認定に対する異議申し立て中の人たちをひっくるめて、不法状態にあるとしているのは、法務省・入管局の方であり、彼らはれっきとした難民申請者です。”
【RAFIQ web site http://www.rafiq.jp/siryou/dai3goku_teiju.html

RAFIQは、こうした難民認定制度の実態から、第三国定住についてもきちんと機能するか危ぶんでいます。

もとより、移民受け入れについては、文化的摩擦・社会の分断・治安の悪化などから大きなリスク・負担を懸念する考えがあり、実際、欧米などでもこの問題に苦しんでいる事実もあります。
そうした大量移民に今後門戸を開放するかどうかはさておいて、今回の“試験的”試みさえしり込みし、うまく機能しないようであれば、日本は自分達の利益しか考えていない偏狭な国民と周辺国・国際社会から侮られても仕方ないことかと思います。
“教育や就労支援、医療、住居などでの支援態勢を整え、彼らが日本社会から排除される「第2の難民」にならないための工夫も求められるだろう。” 【7月24日 朝日】

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パレスチナ  分離壁の聖地ベツレヘム、観光客回復 変わる中東和平交渉メンバー

2008-12-19 16:38:56 | 国際情勢

(昨年のクリスマス・イブのベツレヘム “flickr”より By nickolette22
http://www.flickr.com/photos/nickolette/2180026413/)

【観光客は回復したものの、相変わらずの“監獄”】
クリスマスも近いので聖地ベツレヘムの話題。

****パレスチナ:ベツレヘムに客足戻る 今年の観光、100万人突破*****
イエス・キリスト誕生の地とされるヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ベツレヘムの観光客数が今年、100万人を突破した。パレスチナの反イスラエル抵抗闘争(第2次インティファーダ)が起きた00年以来の最高記録で、クリスマスを目前に控え、主要ホテルはどこも予約で満室の状態だ。治安の回復が観光客を呼び戻しているといい、地元は「早く真の平和が実現してほしい」と願いを強めている。(中略)
しかしベツレヘムの町は、イスラエルが自国の治安維持を理由に建設した「分離壁」に取り囲まれ、厳しい移動制限を強いられたままだ。タマリ・ベツレヘム県知事は「今こそパレスチナとイスラエルが共存を実現する歴史的な機会だ」と強調した。【12月19日 毎日】
***********************

ベツレヘムにはイエスが生まれた洞窟の場所に建つとされる「聖誕教会」があり、世界中からキリスト教の巡礼者や観光客が訪れます。
名前はよく耳にする場所ですが、私はベツレヘムがイスラエル領内にあるものとなんとなく思っていました。
実際は、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区にあって、エルサレムのすぐ南に位置しています。
内外を結ぶ道路にイスラエルが78カ所の検問所や土盛りを設け、記事にもあるようにイスラエルが建設する分離壁に周囲を囲まれています。

人口は約3万で、キリスト教徒は市街地で41.3%、地方全体で26%。
2000年9月からの第2次インティファーダ、2001年~2002年のイスラエル軍侵攻という混乱が続き、ウィキペディアによると、2000年からの6年間で1万人が海外に移住したといわれます。
紛争は観光産業に壊滅的な打撃を与え、2000年には月9万人を超えていた観光客が04年は月7200人と激減。ホテルの稼働率は3%に届かず、失業率は07年頃でも6割を超える状態と言われていました。

そのことからすると、冒頭記事にある観光客年間100万人というのは、2000年当時の水準に回復してきたことが窺われます。
ただ、分離壁によって隔離された状態は相変わらずで、旅行者の話では街中でも更に壁の建設が進み、街の居住者でも往来がままならない状況になってきているとか。
04年、ローマ・カトリックのサバハ・エルサレム総大司教はクリスマスメッセージで「分離壁はベツレヘムを巨大な監獄にした」と語っています。

【正真正銘の“監獄” ガザ地区】
観光客増加を可能にしたベツレヘムの最近の治安回復は、武力闘争を主張するハマス勢力がヨルダン川西岸地区から移動してガザ地区に集中したことによるのでしょう。
このことは、今度はガザ地区を正真正銘の“監獄”状態にしています。

イスラエル軍は経済封鎖だけでなく、ガザ地区との境界沿いに1500メートルの範囲で、『Sentry Tech』(ハイテク歩哨)と呼ばれる監視塔による「自動殺傷ゾーン」を建設しているとか。

「敵対行動をしているとおぼしき標的を検知し、それがSentry Techにある武器の射程範囲にある場合、指定された標的を攻撃し殺傷する。複数の施設を1人のオペレーターで操作できるので、オペレーターが確認と査察、さらに標的との交戦を行なう際に複数の監視塔を使用できる」[過去記事によると、1カ所の指令センターは最大15カ所の銃座をコントロールできるが、将来的には承認不要の全自動式も検討しているという。銃座は数百メートル間隔で配備]【12月8日 WIRED VISION】
“承認不要の全自動式” 「自動殺傷ゾーン」・・・相当に不気味です。

それはともかく、ここ半年イスラエルとハマスの間で停戦が維持されていましたが、18日、ハマスは停戦終了を宣言しています。

【停戦終了 出口はどこに?】
****ハマス、ガザ地区でのイスラエルとの停戦終了を宣言
パレスチナ自治区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは18日、ガザ地区でのイスラエルとの6カ月間の停戦が終了したと宣言した。これにより、ガザ地区での衝突が激化することも予想される。
ハマスは声明で、停戦終了の理由は「敵(イスラエル)が義務を順守しなかったため」と説明している。
一方、イスラエルはこれまで、停戦がパレスチナ人の利益となり、無期限に継続されるべきと主張している。
ガザ地区では11月に入り、イスラエル側とパレスチナ側の衝突が再び始まり、今週に入って双方に死傷者が出るなど、緊張が高まっている。【12月19日 ロイター】
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イスラエルの経済封鎖によって巨大な“監獄”と化しただけでなく、更に銃弾が飛び交い新たな血が流される事態も懸念されます。
イスラエルによって土地を奪われたパレスチナ人の怒り・悲しみも、長年の迫害を耐えてようやく安住の地を手にしたユダヤ人の思いも、ともに共感できるところです。
しかし、自分たちの主張のみを力で押し通し相手の存在を認めようとしない立場からは、出口がまったく期待できないことは明らかです。

どんなに不満足でも互い銃を置き、違法な入植地や分離壁建設を止め、イスラエルに対するテロ攻撃を放棄し、交渉のテーブルに着くことでしかパレスチナ住民の生活を守る途はありません。
ブッシュ大統領による中東和平は不調に終わりましたが、オバマ次期大統領の指導力に期待したいものです。

【変わる交渉当事者】
ただ、交渉当事者がイスラエルも変わります。
汚職疑惑で退陣を表明したオルメルト首相の後を受けて、与党第一党カディマ(中道右派)のリブニ党首によって新たな組閣交渉が行われていましたが、結局組閣を断念、来年2月10日に総選挙が実施される運びとなっています。
“日刊紙イディオト・アハロノトが10月27日に発表した世論調査では、現時点で選挙を実施した場合、与党第1党で中道右派のカディマが最大議席数を維持するものの、野党の右派リクードが躍進し、中道左派の労働党を大きく引き離して2番手につけている。”【10月29日 AFP】
右派リクードが躍進ということになると、中東和平のハードルが更に高くなりそうです。

一方のパレスチナ側もアッバス議長の地位が微妙になっています。
議長の任期は原則4年で、05年1月に就任したアッバス議長は来月で任期満了となります。
ただ、選挙法の改正で次の議長選は2010年1月に予定される評議会選と同時に実施するという例外が設けられ、議長はこれを根拠に残留の構えです。
一方、ハマスは原則通りの議長選実施を要求。実施しない場合、アッバス氏は失職し、議長代行が就任すると主張しています。代行にはハマスのドウェイク評議会議長(イスラエルに拘束中)が有力だとか。

****パレスチナ:アッバス議長の任期切れめぐり内政が混迷******
1カ月後に迫ったアッバス・パレスチナ自治政府議長の任期切れをめぐり、パレスチナ内政が混迷している。議長は法改正で任期を1年延長する構えだったが、対立するイスラム原理主義組織ハマスが反発。議長は、ハマスが第1党を占める評議会(国会に相当)の解散をちらつかせて圧力をかけるなど、権力闘争の様相を強めている。
(中略)
アッバス議長は年内に和解が進展しなければ「議長、評議会の両選挙を実施する議長令を来年初めに出す」と表明。議長筋は「ハマスがガザでの選挙を妨害するなら西岸だけでも実施する」と強気の姿勢を見せている。
だが、ダブル選挙を強行すれば、逆に分断状況を強め、中東和平交渉にも影響しかねない。パレスチナ情勢は正念場を迎えている。【12月6日 毎日】
************************

イスラエルに対する武装闘争を誤りだったと明言し、軍事手段によらない解放闘争の必要性を訴えてきたアッバス議長ですが、そのことが過激派の反発を強め、また、ファタハ支配の腐敗もあって、 アッバス議長の指導性が発揮できないファタハ・ハマスの分断状態が続いています。
記事のような政治混乱状態となれば、中東和平は更に遠のきます。

【「神の地である当地が、ある者にとっては命の地であり、別の者にとっては死、排斥、占領、政治的牢獄の地であってはならない」】
アッバス議長は例年、ベツレヘムの教会で行われるクリスマスの深夜ミサに参加しています。
昨年のクリスマス、アッバス議長も参加した生誕教会でのミサで、サバハ総大司教は世界中から集まった数千人の信者を前に「神の地である当地が、ある者にとっては命の地であり、別の者にとっては死、排斥、占領、政治的牢獄の地であってはならない」「歴史の主たる神の名においてここに集まった者すべてが、この地に命、尊厳、平穏を見いだすことができなければならない」と語りかけました。
大司教はイスラエルに交渉を促す意味で、「弱者が服従し、搾取される生活が続くことがあってはならない。すべてを手にしている者には、本来弱者に属すべきものを自ら手放し、弱者に与える務めがある」と問いかけていますが・・・。


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バングラデシュ  総選挙がもたらすものは民主主義か混乱か?

2008-12-18 15:56:40 | 世相

(バングラデシュ・ダッカ 2006年、総選挙を控えてデモが頻発していた頃の写真のようです。 ただ、どういう趣旨のデモかはわかりません。 “flickr”より By colonos
http://www.flickr.com/photos/colonos/361717867/)

バングラデシュでようやく(2年ぶり)非常事態宣言が解除され、延期されていた総選挙が今月29日に行われることになりました。

****バングラデシュ:非常事態宣言2年ぶり解除 暫定政府*****
バングラデシュ暫定政府は17日、07年1月に発令した非常事態宣言をほぼ2年ぶりに解除した。29日に実施予定の総選挙に向けた措置。宣言発令は、2大政党のアワミ連盟(AL)とバングラデシュ民族主義党(BNP)の暴力的対立が理由だったが、非常事態下で新たな政治勢力は育たず、両党による旧来と同じ構図の選挙戦になりそうだ。
ALのハシナ元首相とBNPのジア前首相は非常事態宣言後、暫定政府による汚職摘発を受けて拘置状態にあったが、11月までに両氏とも釈放された。

06年10月にジア政権が任期満了を迎え、総選挙態勢に入ると、両党間の対立は激烈さを増し、選挙管理内閣(暫定政府)のアーメド大統領が非常事態宣言を発令し、総選挙を08年末に延期した。
この間、06年ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行のユヌス総裁が新党設立を計画して国内外の注目を浴びたが、両党の強い政治基盤を前に「勝てる見込みはない」と断念している。【12月17日 毎日】
***************************

【腐敗した旧二大政党政治】
バングラデシュにおいては、バングラデシュ民族主義党(BNP)とアワミ連盟(AL)の二大政党が交互に政権を担ってきました。
07年7月18日ブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070718)でも紹介したように、この二大政党の党首はいずれも女性で、似たような経歴で、かつ非常に仲が悪いという特徴があります。
与党BNP党首は前首相のカレダ・ジア。
彼女はジアウル・ラーマン元大統領(軍部出身で、軍政から民政に移行させた。)の未亡人で、夫ジウル・ラーマン元大統領は軍部のクーデターで暗殺されました。
野党AL党首は元首相のハシナ・ワゼド。
彼女はバングラデシュ独立時の初代大統領ムジブル・ラーマンの長女で、父ムジブル・ラーマン元大統領も軍部クーデターで殺害されています。

両党による政治支配によって社会に汚職が蔓延し、私怨と利権目的の政治対立はしばしばハルタルと呼ばれる暴力的なゼネストの形をとって国民の生活を圧迫していました。
06年末の総選挙を控えてこの混乱を収拾すべく、選挙管理内閣(暫定政府)のもと、アーメド大統領が07年1月非常事態宣言を発令し、総選挙を08年末に延期しました。

【暫定政府 強権的腐敗一掃】
暫定政府は非常事態宣言のもとで軍部の力を背景に、これまでの腐敗・汚職、更に社会全般の犯罪行為を強権的に一掃することとし、ALのハシナ元首相とBNPのジア前首相を汚職の罪で告発する荒療治に出ました。
この間、汚職政治家の逮捕、犯罪者の検挙、物価の統制などの暫定政府施策に国民はおおむね好意的だったとも報じられています。

当初は両党首を国外亡命に持ち込むつもりだったようですが、両党首がこれに応じず、逮捕収監することになりました。
しかし、非常事態宣言のもと両党首が収監されたままでは総選挙には応じられないとするAL、BNP既存政治勢力の反発も大きく、結局、暫定政府側も総選挙実施のためには両党首の釈放、そして非常事態宣言解除も已む無しとの判断にいたったようです。
(ハシナ元首相は釈放後、病気治療のため渡米(自主的亡命にも等しいとも)したと報じられていましたが、現在どうなっているのかよくわかりません。)

既存政治勢力による腐敗・汚職構造を一掃しようとする暫定政府の思惑は、やや“尻すぼみ”に終わったようにも見えます。
もとより、選挙に基づかない暫定政府の強権的手法には問題も多々あったところです。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は今年8月、バングラデシュの特殊治安部隊(軍や警察の精鋭を抜粋して編成)がここ2ヵ月間に少なくとも50人にのぼる市民を非合法に殺害している疑いがあることを報告しています。

“HRWによると、特殊部隊による殺害は過去4年間で540人以上にのぼる。2007年から今年初めにかけては減少傾向にあったものの、ここ数ヶ月で急増しているという。
これらの事件について、バングラデシュ当局は「銃撃戦に巻き込まれて死亡した」と説明しているが、同団体は「実際には、市民を拷問の末に超法規的に殺害した上で、銃弾戦に巻き込まれたかのように偽装したに過ぎない」と非難。また、拷問・殺害等の行為によって刑事罰を受けた特殊部隊の隊員はいないという。”【8月27日 IPS】

【試される民主主義】
民主的な混乱か、強権的な秩序か・・・という選択は、しばしば悩ましい問題となります。
ただ、汚職・犯罪行為一掃のためなら何をしても、どういう手段でもいいという訳ではありません。
民意に基づかない強権は、治安回復をもたらしたように見えても、長い目で見ると民主政治と国民の権利を圧殺してしまいます。
来るべき総選挙による民政復帰が、今回の経験を糧として、従来の混乱・汚職・腐敗から少しでも遠ざかるものになることを願います。
もし、国民が“これなら、やはり暫定政府の強権政治のほうがよかった・・・”と思うようなことになれば、政党関係者は自分たちの手で民主主義を絞め殺しことに他なりません。

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アフガニスタン  補給の鍵を握るパキスタン・カイバル峠ルート

2008-12-17 16:59:58 | 国際情勢

(ちょっとわかりにくい写真ですが、アフガニスタンへの輸送の大動脈、パキスタン・カイバル峠です。“flickr”より By michaelnewport
http://www.flickr.com/photos/zzzzz/157995919/)

【補給車両160台消失】
今月7日、8日にパキスタン北西部のペシャワルで、アフガニスタンに駐留するNATO軍のトラックターミナルが、タリバンの戦闘員に襲撃され、補給物資などを積んだトラック合計160台ほどが燃やされた事件がありました。
AFP報道によれば、事件は7日早朝(65台消失)と8日未明(100台消失)の2回に分かれて、連続して起きたとされています。

7日早朝には、タリバン200名ほどがターミナルを包囲し、警戒していた10人程度の治安要員を武装解除させた後、トラックにガソリンをかけ燃やしたということで、襲撃中、警備要員1人が撃たれて死亡、戦車2台も破壊されました。【12月7日 AFP】
8日の襲撃では、ジープや物資補給用トラック20台を含む100台近くの車両にガソリンがまかれた後放火され、警察が到着したときには武装グループは逃走していたとのこと。【12月8日 AFP】

なお、【毎日】では7日未明の1回の襲撃(約300名がロケット弾などで攻撃)で160台が消失とされていますが、どちらでも大差はありません。
この記事を見て、「いくら補給部隊とは言え、そんなに簡単に160台も焼かれていいのだろうか?補給を断つのは常套手段じゃないの?」と素人考えで驚きを感じました。

驚いたのは私だけではなかったようで、事件直後、TV等でもこの事件を取り上げ、アフガニスタン戦略における補給の脆弱性を解説していました。
かつてアフガニスタンに侵攻しようした外国勢力は、近年のソ連を含め、みなこのカイバル峠越えの補給路確保に苦しみ、侵攻が失敗に終わる大きな要因になったそうです。

【カイバル峠】
米軍主導の連合軍、NATO軍主導の国際治安支援部隊(ISAF)が必要とする大量の物資や装備の多くはまず、航路でパキスタン南部にある同国最大の港カラチに到着します。
食糧から燃料、車両、武器まで必需品の入ったコンテナは、トラックでペシャワルまで運ばれ、カイバル峠を経由するルートからアフガニスタンに入ります。

カイバル峠は全長50キロの山越えルートで、イスラム武装勢力が潜伏するパキスタン北西部の部族支配地域の中央を貫いています。
これまで、パキスタン北西部の部族支配地域は、イスラム武装勢力の拠点となっていることで注目されていましたが、物資補給ルートという意味でも重要な鍵を握っているようです。

*****タリバンの攻撃で露呈、アフガニスタン駐留軍の補給ルートの脆弱性*****
米軍報道官によると、米軍主導の連合軍は今でも毎月トラック2000台分の補給を行っているが、うち約70%がパキスタン領内を経由しており、残りの30%は空輸やほかの陸路を使用しているという。
しかし空輸はコストがかかるうえ一度に輸送できる分量が少なく、またカラチからクエッタやカンダハル市経由のルートを使えば、タリバンの拠点を通らなければならない。

パキスタン以外の国を通過するルートは限られている。アフガニスタンはイランと長い国境を接しているが、米イラン関係が敵対状態にある現状では選択肢にできない。
アフガニスタンの反対側の国境にはトルクメニスタンやウズベキスタン、タジキスタンといった旧ソ連から独立した諸国が並ぶが、これらはロシア政府の影響を多大に受けている。

ロシアとNATOの関係は、8月のロシア軍によるグルジア侵攻で悪化したが、ドイツ軍は11月、ロシア政府から同国経由でアフガニスタンに軍事物資を補給する承認を取り付けた。【12月12日 AFP】
**************************

【インドに移るパキスタン軍の関心】
アフガニスタンにはISAFと米軍あわせて6万5千人の兵力が展開していますが、中東・中央アジアを管轄する米中央軍のペトレアス司令官は9日、アフガニスタンへの大規模増派を提言したことを明らかにしました。
これを受けるように、ゲーツ米国防長官は11日、来年夏までに少なくとも7千人規模で米軍を増派するとの見通しを示しています。

パキスタン領内のルートについては、米軍も手出しできませんので(越境攻撃はやってはいますが)、パキスタン軍に委ねるしかありません。
そのパキスタンの部族支配地域での対応については、越境攻撃・民間人犠牲増大という状況で、反米的な国民感情の高まりとアメリカの強い要請の板ばさみとなり、こまでも大きく揺れてきました。
ここにきて、インド・ムンバイの同時テロ事件以降の印パ関係緊張によって、パキスタン軍の関心がアフガニスタン国境からインド側へ移っているとのことです。

****パキスタン:部族地域掃討を中断 武装勢力が支配拡大******
国境地帯でパキスタン軍が続けてきた武装勢力掃討作戦が、インド西部ムンバイでの同時多発テロ事件の影響で中断され、武装勢力が急速に支配地域を拡大していることが16日分かった。米軍による越境攻撃やテロ事件でのインドによる非難などの圧力を受けるパキスタン軍が、対テロ戦で機能しなくなりつつあることを示すものだ。米、印、パキスタン、アフガンが複雑に関係しあう南アジアでの対テロ戦は、さらに混迷を深めている。
パキスタン軍の掃討作戦が中断しているのは、カイバル峠の北側に当たる部族支配地域バジョール、モハマド両管区と、北西辺境州スワート地区。複数の地元住民は毎日新聞に対し、ムンバイ事件が起きた11月下旬から戦闘が起きなくなり、武装勢力の支配地域が拡大していると証言した。(後略)【12月17日 毎日】
*********************

パキスタン軍関係者は「インド軍の動向予想と分析に全力を傾注している」とのことです。
お互いに軍を動かすような決定的な行動は抑制していますが、インド空軍機の領空侵犯事件など、印パ関係はなかなか緊張が緩和しない状態で膠着しています。

【生活物資も】
タリバンとパキスタン軍動向次第で、今後カイバル峠越えの補給路確保がより困難になれば、カイバル峠・パキスタン領内を経ないルートとして、ロシアの意向が米軍・ISAFの補給にとって重要になる可能性があります。
更に、軍需物資だけではなく、アフガン国民向けの食糧や国際救援物資の大半も、カイバル峠を経由して運ばれています。
カイバル峠越えの輸送ルートの動向はアフガニスタン国民生活全般にまで及びます。

(追記:アップ後確認したところ“パキスタンの輸送業者団体「カイバル運送協会」は16日、アフガニスタンで活動する北大西洋条約機構(NATO)軍向け物資輸送業務を全面的に停止した。”とのニュースが入っていました。
やはり、パキスタン軍の警護が手薄になってきた影響のようです。)

ほんの数年前まではペシャワルからカイバル峠は観光コース(武装護衛付ですが)に入っており、私も一度カイバル峠に立ってみたいものだとミーハー的に思っていました。
当分は無理なようです。

【72%がタリバン支配・・・・】
新聞・TVがトラックターミナル襲撃事件とセットで取り上げていたのが、タリバン支配が国土の72%に拡大(前年は54%)したという報告書の件でした。
報告書は国際シンクタンク「インターナショナル・カウンシル・オン・セキュリティ・アンド・ディベロップメント(ICOS)」が8日発表したもので、タリバンはアフガニスタン南部を本拠地として、西部や北西部の地域に勢力網を拡大しているとのこと。
なお、ICOSは「恒久的に勢力を確立した地域」の定義を、タリバンが週1回以上、攻撃を行う態勢を備えた地域としています。

一方、アフガニスタン政府は、ICOSの報告書を真っ向から否定。外務省は、「タリバンの勢力分布に関するICOSの主張を、断固として否定する」との声明を発表しています。
“声明のなかで、アフガニスタン政府は、ICOSの分析方法には疑問があるうえ、タリバンの散発的なテロ行為がメディアの関心をひくための戦略であることを、報告書は理解していないと批判。また、タリバンの武力攻撃が確認されているのは、南部や東部、パキスタンとの国境付近など、ごく限られた地域だけだと言明した。”【12月9日 AFP】

【日本へ文民派遣の要請】
そんなアフガニスタンについて、日本の貢献を期待する声が報じられています。

****米、アフガンへの文民派遣期待 日本の貢献策で国務省日本部長*****
アフガニスタン本土での日本の貢献策について、米国務省のラッセル日本部長は15日、ワシントンでの記者会見で、自衛隊以外に警察、建築、医療などの分野で文民派遣に期待する考えを表明した。アフガンの治安回復と復興は、イラクに代わって米政権が抱える最大の外交課題に浮上。来年1月のオバマ政権発足後に、日本への人的貢献圧力が強まる恐れがある。【12月16日 共同】
**************************

オバマ政権発足の頃は、日本は小沢・民主党連立政権になっているかもしれませんが、アフガンISAFへの自衛隊派遣を主張する小沢氏と意見を異にする者も党内外に多いでしょうから、相当に揉めそうな案件です。


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ウガンダ  大統領が「アフリカ人はもっと働け」 エイズ感染率再上昇にみる問題

2008-12-16 18:54:04 | 世相

(昼寝を楽しむウガンダのゴリラ あくせく働くことがいいのか・・・いろいろあるところです。
昼寝をしているだけで暮らせるのであれば、それはいいかもしれませんが。
もっとも、昼寝ばかりしていると、たまには忙しく働く刺激が恋しくなるかも。 忙しく働くことが、いやなことを考えたり、解決できないことに頭を悩まさずにすむ、人生最良の途・・・・かも。
“flickr”より By withrow
http://www.flickr.com/photos/86953562@N00/822630564/)

【「アフリカ人はもっと働け」】
“貧困”“内戦”“疫病”などのネガティブなイメージが付きまとうことが多いアフリカ。
そうした事象の原因・背景には、植民地としての負の遺産や現在の厳しい政治・社会的環境などがあるのかもしれません。
どのような要因を重視するかは、人によって異なるところかも。
ただ、外的な理由を声高に叫ぶだけで、地道な自助努力を怠るとしたら、それでは事態は解決しません。
(努力不足のせいだけにして、外的な要因を無視するつもりもありませんが)
東アフリカのウガンダで、ムセベニ大統領が「もっと働け」と自国民を叱咤したそうです。

****「先進国支配逃れるにはアフリカ人はもっと働け」、ウガンダ大統領*****
アフリカ東部の国、ウガンダのヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領が声明で「貧困のまん延するアフリカ大陸を、先進国にこれ以上支配させないよう、アフリカ人はもっと働かなければならない」との考えを述べた。
大統領府が13日に発表した声明で同大統領は「われわれアフリカ人は、われわれを地球上からほんの一瞬で消し去ることのできる強力な武器を持った先進国たちのなすがままだ。
しかし、こうした技術的ギャップを埋めるためにもっと働くどころか、何もせずに座っているだけだ」と同胞のアフリカ人について批判した。

毎年恒例の議会の休日パーティーでも、ムセベニ大統領はアフリカ人は休日を取りすぎると批判し、富裕国の労働者が休日を取るのはいいかもしれないが、発展途上にあり貧困の克服が最優先のアフリカ諸国にとってはご法度だとも力説した。
ムセベニ大統領は「不必要な休暇を取り、貴重な時間を無駄にしている」と、自国ウガンダの国民を特に非難した。
1986年からウガンダを統治しているムセベニ大統領はこの演説の後、今年最もよく働いた議会スタッフに賞を与えた。【12月14日 AFP】
************************

ときに“働き蜂”とも揶揄されることがあった日本人からすると、途上国の人々の仕事ぶり・生活スタイルは、ややもすると非効率・ルーズで怠惰なものにも見えることがあります。
もちろん、日本的価値観が“正しい”とか言うつもりもありませんが、また、ムゼベニ大統領自身の普段の仕事ぶりも知りませんが、途上国の人々が「もっと働こう!」と奮起してくれることは良いことかと思います。

【LARとの交渉決裂】
日本とは馴染みが薄いウガンダが国際的に話題になるのは、神の抵抗軍(LRA)の問題とエイズ対策でしょうか。
(昔はアミン大統領の奇行が話題になったりもしましたが。)
ジョセフ・コニー率いる反政府勢力LRAについては、少年兵などの児童虐待が非難されており、当ブログでも
3月30日「ウガンダ “子供による、子供に対する戦争” “夜の通勤者”」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080330
7月13日「国際刑事裁判所の逮捕状 スーダン、ウガンダそしてアメリカ」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080713
などで取り上げたところです。

国連主導で和平交渉が進められて和解まで今一歩のところまで漕ぎ着けましたが、指導者コニーへの国際刑事裁判所ICCの告訴を取り下げるか否かで交渉がストップ、今年6月には交渉決裂、武力での決着方針が伝えられています。
スーダン大統領もダルフールでの「人道に対する罪」などによってICCから訴追されていますが、こうした法的措置は“白か黒か”を決め付けるものですから、弾力的な和解交渉にとっては足枷となる側面があります。
和解しても逮捕されるというのでは、誰も交渉のテーブルにつきません。

【感染率再上昇 「コンドームより禁欲教育」】
もうひとつの話、エイズ対策。
ウガンダは90年代、サハラ砂漠以南のアフリカでエイズ対策に最も成功した国でした。
92年に人口の18・5%だった感染者は02年に6%に減少。
鍵はHIV対策の基本である「禁欲、貞節、コンドーム利用」でした。
しかし、今、長く減少傾向にあったHIV感染率は増加へと転じ始めています。【11月30日 毎日】

*****エイズと向き合う:ウガンダ報告 「禁欲」裏目、増える感染*****
ウガンダはブッシュ米大統領主導の「エイズ救済緊急計画」による支援を受け始めている。05年は年約1億4800万ドル(約160億円)にのぼった。予防活動向け資金の3割以上を禁欲教育に割くなど制約が課せられ、コンドーム利用は推進されていない。背景には、米宗教団体がブッシュ政権の支持母体になっている事情がある。
国際家族計画連盟に加盟し、HIV対策に取り組むウガンダ家族計画協会のエリー・ムグムヤ代表(49)は「支援を得るには売春婦を対象にしない誓約が必要だ。感染者の65%以上が性欲の強い若者なのに、コンドームに積極的でないのは非現実的だ」と批判する。
ウガンダ国家エイズ対策委員会の担当者は重い口を開いた。「計画からの援助はHIV関連予算の約85%を占める。国家財政を考えれば制約にノーとは言えない」【11月30日 毎日】
*********************

【進まないARV薬治療 「延命策に過ぎな」】
HIV感染者も現在では抗レトロウイルス(ARV)薬を服用することで、エイズ発症を遅らせ、コントロールも可能な病気になっています。
こうした先進国では標準的な治療も、ウガンダなどでは現実問題としてうまく機能していません。
ARV薬治療は停滞しており、国連機関などの報告では、サハラ砂漠以南のアフリカで感染者の約3分の1がARV薬治療を2年以内で中断したそうです。
ウガンダでは投薬が必要で受けていない人が最大20万人にのぼっています。【11月30日 毎日】

*****エイズと向き合う:ウガンダ報告 停滞する投薬治療*****
背景には、ARV薬治療の経済的負担や複雑さがある。治療では3種の錠剤の同時服用を一生継続する必要があり、不規則な服用は薬の効果を弱める。薬は強く栄養不足での服用は逆に副作用をもたらす。食糧難とエイズ禍が重なる地域での定着も難しい。そして価格は依然、高い。

今年10月、カンパラ郊外でムセベニ大統領らが出席し、アフリカ初のARV薬製造工場の完成記念式典が行われた。大統領は「ARV薬をこの工場から購入し病院に供給する」と宣言した。アフリカ諸国ではARV薬が効果を上げることがわかっていながら供給態勢の確立が遅れ「感染者が見殺しにされた」との批判が根強い。
先進諸国が「延命策に過ぎな」いと援助を渋る事情もある。
困難を克服する手段が、自国でのARV薬生産だ。ウガンダでは来年初めにも月約15ドルと比較的安価にARV薬を販売、周辺国への輸出も期待される。国際家族計画連盟のジル・グリア事務局長は「アフリカ人のためにアフリカ製の薬が供給される。新たな突破口だ」と話す。【カンパラで高尾具成】
**************************

【製薬特許権とコピー薬】
薬剤の価格については、開発した製薬会社と安価なコピー薬をつくりたい途上国の間で、特許権侵害をめぐる争いが時々起こります。
“命より利益が大切なのか!”と言ってしまえばそれまでですが、製薬会社としても投下した膨大なコストの回収が保障されないのであれば今後新たな薬剤の開発に乗り出す会社はなく、特許権を無視した安価なコピー薬生産で“現在の命”を救うことが“(研究開発が順調に進められたならば)本来なら救われたであろう将来の大勢の命”を犠牲にすることになる・・・そういう問題でもありえます。
何とか、両方の立場を両立させるバランス感覚が要求されます。

【命の重さ】
それはともかく、上記記事の“先進諸国が「延命策に過ぎない」と援助を渋る事情もある。”というのが引っかかります。
日本をでは膨大な費用をかけて“延命治療”が行われています。
ときには、意識もないまま、機械的に“生かされている”ケースもあるかと思います。
家族の立場からは“1分1秒でも長く・・・”という思いはあると思いますが、私自身としては不自然な延命は少なくとも今は希望していないこともあって、延命治療のあり方については釈然としないものも感じます。

いずれにせよ、自国内ではそうした寝たきり状態での延命治療を認めておきながら、アフリカでの若い命を生き長らえさせるARV薬製造について「延命策に過ぎない」と切り捨てる・・・随分と命には軽重があるものだと感じてしまいます。
先の事例の“コンドームより禁欲教育”というのも資金提供側の価値観の押し付けであり、どちらのケースでも“本当に現地の人の命の重さが考えられているのだろうか?”という思いがします。

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日本  外国人労働者を襲う雇用不安 日本の移民政策の方向は?

2008-12-15 21:02:01 | 世相

(“flickr”より By 神酒 Coal
http://www.flickr.com/photos/mi-ki/2547511555/)

【“関税引き下げより労働力流動化を”】
ニューズウィークの記事に、“関税障壁は現在すでに十分に下がっており、今更WTOでこれ以上の関税引下げ交渉にエネルギーを使っても得られるメリットは大きくない。”という趣旨の記事がありました。
本当にそれほど関税障壁が低くなっているのかどうかはわかりませんが、その記事の最後のほうで、“今取り組むべきは、関税引下げではなく労働力の流動化である”とありました。

確かに、世界の富の偏在を是正するためには、労働力移動が有効です。
実際にアフリカ・アジア諸国からの出稼ぎ労働者、EU圏内での労働力移動などの人の動きがあります。
出稼ぎ者の送金が国家経済で大きなウェイトを占めている国も珍しくありません。

しかし、移民・出稼ぎ労働者は受け入れる国にとって、経済・社会的に不足している人材を穴埋めしてくれる“便利”な存在であると同時に、異なる文化・価値観の人々と共存することで、文化的摩擦を引き起こし、差別・治安の悪化・排斥運動・暴動などネガティブな面を惹起しやすい、非常に厄介な問題です。

【蜘蛛の糸のカンダタ】
日本は従来から外国人の受け入れに消極的な国で、その結果として、国内における文化・価値観の同一性が保持され、治安もよく、ある意味摩擦の少ない社会を維持してきました。
しかし、承知のとおり、少子高齢化の進行に伴い人口減少に転じることが確実ですので、このままの“鎖国”を続けている限り、社会・産業の活力は次第に衰退していくことが想像されます。
“沈みゆく難破船”というと言い過ぎでしょうか。

そうした“日本側の事情”のほかに、そもそも、日本で働きたいという人々を拒絶し、自分たちだけの住みやすい豊かな社会を守ろうとすることについて、それでいいのか?という疑問を感じます。
“外の世界の貧困は日本のせいではない、それなりのODAを負担しているじゃないか、日本だって大変なんだ、受け入れたらとてつもない厄介ごとを抱えることになる・・・・”という考えには、現実に存在する周辺国の経済事情を考えると、居心地の悪いものを感じます。
日本人としてもっと世界に胸をはれるような国であってほしいとも思います。

【外国人介護者】
社会・経済的必要性と“厄介者はかかえたくない”という思いのはざまで、かなり厳しい条件つきで、介護労働者の受け入れが始まっています。

****外国人介護者:「先進地」台湾、在宅ケア7割依存 言葉の壁承知で雇用、欠かせぬ存在*****
介護労働者の国際移動が活発化している。欧米先進国やアジア新興国で、少子高齢化や女性の社会進出に伴う介護者不足が進んでいるためだ。日本も経済連携協定(EPA)でインドネシアとフィリピンからの介護福祉士候補受け入れを決めた。ただ、定住には国内の資格取得など高いハードルが課され、本格的な受け入れにつながるかは定まっていない。(中略)
日本は今夏、インドネシア人の介護福祉士候補104人を受け入れた。日本語研修を終えた来年1月末から全国で働き始める。来年も最大300人受け入れる。フィリピンからも09、10年に最大600人の介護福祉士候補を受け入れる予定だ。
アジアは介護労働者の国際移動が最も活発な地域の一つ。送り出し国は、日本が受け入れる2カ国とベトナム、タイが主力で、受け入れ側は香港、台湾、シンガポールなどが中心だ。
ただ看護師と異なり、介護士は資格制度を持たない国も多く、仕事内容や呼称は異なる。
受け入れ国の多くは外国人労働者の資格や経験を問わないが、日本は自国での資格に加え、日本の国家資格取得まで求めるなど厳しい条件を課している。インドネシアは日本とのEPAを機に介護士資格を創設した。各国は日本の動向を注目している。【12月14日 毎日】
***************************

上記記事の省略部分に、台湾でのインドネシアからの介護労働者のケースが、“失業率が長期にわたり10%前後のインドネシアは国策で労働者を海外に送り出している。スリさんはシンガポールでも働いたが、母国に残した夫と11、12歳の子ども2人の生活を支えるため、2倍以上の収入が得られる台湾に移った。「電話で子どもから『会いたい』と言われるとつらいが、ここでは毎日が楽しい」。今の仕事にやりがいも感じている。”と、比較的肯定的にルポされています。

しかし、同じ台湾での外国人介護労働者について、数ヶ月前、TVで取り上げていたケースは、長時間労働・低賃金・暴力・・・など“搾取”“虐待”といった言葉を連想させるものでした。
どちらが、より実態を表しているのか・・・よくわかりません。

【外国人研修制度】
日本での外国人研修制度も同様に、満足して働いている外国人も少なくないのでしょうが、悪い話を聞くこともしばしばあります。

************************
近年では研修生の急増に比例するように人権侵害や事件が多発している。
典型的な事例は、パスポート取上げ、強制貯金、研修生の時間外労働、権利主張に対する強制帰国、非実務研修の未実施、保証金・違約金による身柄拘束、性暴力などで、2006年にはトヨタ自動車の下請け企業23社での最低賃金法違反、また岐阜県内の複数の縫製工場では時給300円で残業させていたことなどが報道された。
また、制度の趣旨と実態の乖離も指摘されている。いわゆる3K職種など日本人労働者を確保できなかったり、中国などの外国製品との価格競争にさらされている中小企業が、本来の目的である国際貢献ではなく、低賃金の労働力確保のために本制度を利用するケースが目立ち、研修生の中にも技能修得ではなく「出稼ぎ」として来日する者がいる【ウィキペディア】
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先日もこんな記事が。

*****小渕元首相のおいに有罪判決******
中国人技能実習生の賃金を着服したとして、労働基準法(中間搾取の排除)違反罪に問われた日中経済産業協同組合(東京)の代表理事で故小渕恵三元首相のおいの小渕成康被告(41)の判決公判が12日、宇都宮地裁足利支部で開かれた。島田尚登裁判官は「賃金を全額受給できる実習生の権利を侵害しており、批判は免れない」として懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)を言い渡した。(中略)小渕被告は19年6月にも10社から実習生34人の口座に振り込まれた賃金約1327万円のうち、1070万円を着服した。【12月12日 産経】
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【外国人労働者の雇用不安】
雇用不安が深刻化するなかで、今や労働人口の3分の1を占める非正規雇用者に関する派遣切りや雇い止めの話が連日報じられています。
当然、国内ではたらく外国人労働者の境遇は、日本人労働者以上に厳しいものが想像されます。

*****自動車、電機の崩落で深刻化解雇が急増中!*****
米国金融危機を発端とし、自動車関連や電機などの製造業の現場で、外国人労働者の解雇や契約の終了が目立つ。
たとえば、外国人労働者の構成比が13.2%と、東京都に次いで多い愛知県の場合は顕著。名古屋外国人雇用サービスセンターは、10月以降、さながら風邪のシーズンの病院の待合室のような混雑ぶりだ。
来所者数が昨年に比べ、2倍以上に増え、11月もさらに増加傾向にある。担当者は「10月は1日平均28.8件だった相談件数が11月は42.2件に、新規求職者数も10月の15.8人から26.3人に増えた」と説明する。(中略)
バブル崩壊後、国内製造業各社は非正規雇用者への依存度を高め、なかでも外国人労働者(合法就労者数)は工場労働の担い手として1996年の35人から2006年の75.5万人と、その数を増やしてきた。岐阜県美濃加茂市のように、自治体の人口の約1割が外国人という事例もある。
生活弱者としての非正規雇用者の存在が社会問題として取り沙汰されるようになって久しいが、とりわけ外国人労働者は、本国から呼び寄せた家族の処遇などを含め、失業対策は容易ではない。
また、治安悪化との関連も深い。彼らを安易に景気の調整弁とすることによって生まれる社会的な悪影響は計り知れない。【12月3日 『週刊ダイヤモンド』編集部 山本猛嗣】
*************************

“外国人労働者が多い浜松市で12年の歴史を持つブラジル人学校「エスコーラ・プロフ・ベネジット」が、12月末で閉鎖する。急速な景気悪化で、工場の派遣労働者などとして働く保護者の多くが職を失い、経営難に陥った。”【12月5日】といった記事もありました。
教育からも疎外される“2世”を生み出しつつあります。

【『多民族共生国家』】
今年6月には、自民党の「外国人材交流推進議員連盟」(会長=中川秀直・元幹事長)がまとめた、日本の移民政策に関する提言案が明らかにされました。
人口減少社会において国力を伸ばすには、移民を大幅に受け入れる必要があるとし、「日本の総人口の10%(約1000万人)を移民が占める『多民族共生国家』を今後50年間で目指す」と明記しているそうです。

最初に述べたように、日本社会の今後を考えたときの日本側の必要性の面でも、また、世界的な“格差”に対する人間的な対応として考えても、基本的には日本も、多少のリスクはとっても、門戸を今以上に開放していくことが必要であると考えます。
そのためには、“移民”対策も整備していく必要がありますが、セーフティネット拡充などを含め、現在の非正規雇用労働者に対する労働行政を抜本から改めることも必要です。
それなしに外国人労働者を受け入れても、日本人非正規雇用者と外国人労働者が職を奪い合うような状況で、互いへの憎悪が増すだけでしょう。

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ギリシャ  若者の怒り暴発 「生活も、職も医療も何もない」

2008-12-14 13:12:19 | 世相

(荒れ狂うギリシャの若者 “flickr”より By murplej@ne - under deconstruction
http://www.flickr.com/photos/murplejane/3098761766/)

【単なる暴力事件・・・ではなかった】
多くの事件がそうでしょうが、発生当初はその意味するものに気づかず、漫然と見過ごしてしまいます。
ギリシャで6日から続く若者の暴動もそんなひとつです。

****アテネで「黒覆面団」が暴徒化、ギリシャ各地に広がる*****
ギリシャの首都アテネ中心部で6日夜、警察と衝突した黒覆面の一団が暴徒化し、観光客に人気のあるエルムー通りの商店のガラス戸やショーウインドーを破壊したり、放火したりした。
暴動は北ギリシャのテッサロニキ市など5都市に拡大した。
警察の発表によると、約30人の黒覆面の一団が、アテネ市内を車でパトロール中の警官と口論の末、ビールの空き瓶や石を投げたのが発端。警察側の発砲で16歳の少年が死亡し、一団は、応援に駆けつけた特別機動隊と衝突したという。ほかに死傷者は出ていない。
黒覆面団は、大半が極右、極左の過激派。警察国家反対や反グローバル化などを唱え、労組や学生らのデモにも加わって、しばしば騒動を起こしている。【12月7日 読売】
********************************

“黒覆面の若者の暴徒化”という記事を目にして、日本のあちことで起きる単なる暴力事件の類といった印象で、全く関心を持ちませんでした。
しかし、暴動は収まることなく、海外へ、更に反政府運動・ゼネストへと拡大していきます。

【国外へ飛び火 国内ではゼネスト】
****ギリシャ暴動、国外に飛び火 ベルリン市内の領事館占拠*****
ギリシャの暴動は8日、国外にも飛び火した。政府に抗議する若者らがベルリン市内のギリシャ領事館を占拠したほか、ロンドンやキプロスのニコシアでも抗議活動が行われた。【12月9日 朝日】
******************************
ベルリン、ロンドンのほか、パリ、ローマなどの欧州各地や、モスクワやニューヨークでもデモが行われています。
“暴動はギリシャ国外にも波及している。トルコのイスタンブールにあるギリシャの領事館には左派系グループによって赤ペンキがまかれ、モスクワやローマのギリシャ大使館には火炎瓶が投げつけられた。スペインやデンマークではデモが起き、計40人以上が逮捕された。”【12月12日 産経】

中道右派政権を率いるカラマンリス首相は9日、最大野党・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のパパンドレウ党首と緊急会談を行い、危機克服への結束を訴えましたが、同党首は「国民は政府への信頼を失った」として首相退陣を要求。
左派野党・労組側は10日、ゼネストに突入、国の大部分で交通・行政機能がマヒする事態に陥いる事態となりました。
こうした問題の拡大の背景には、政治家の汚職まん延、経済危機による雇用不安への若者たちの怒りがあるとされています。

【怒れる若者】
****ギリシャ:アテネ暴動6日目 目的なく暴れる若者 未来への不安抱えネット情報で集結****
「理由なき革命というのか、こんなことは初めてだ」。中心街のオモニア広場に近い新聞社「アポキフマティニ」のマキス・デリペトロス編集次長(48)は疲れ切っていた。暴動発生以来、社屋が3度も暴徒に襲われたためだ。
毎日続くデモには、インターネット情報で学生、労働者に加え、アナキスト(無政府主義者)と呼ばれる若者が集まり、無秩序な固まりとなる。「何かを要求すれば政権も応えようがあるが、スローガンなしに暴力に走る」

「我々は政権退陣を求めるデモをしに来たんだ」。そう語るアテネ大のマリオさん(22)らは暴徒を押しとどめようとするが、らちがあかない。高級レストランの前で、暴徒は強化ガラスをたたき「いい物食いやがって」などと叫ぶ。客たちが奥に逃げていく。
「1日9時間働いて月700ユーロ(約8万5000円)。暴動の原因は貧しい若者の怒りだ」。毎日来ているというアントニーさん(30)はヘルメットをかぶり、ポケットの石を見せた。
世界経済危機で先の見通しは暗く、国営企業の合理化で失職者も多い。「具体的に何をという事を言えなくても、若者たちは漠然と未来を恐れている」。デモを見に来たナイトクラブ店員、タキスさん(63)は「彼らの暗さはギリシャだけの問題じゃないと思う。この世代が何を恐れているのか、くみ取る必要がある」と話した。【12月12日 毎日】
*******************

中道右派のカラマンリス政権は「小さい政府」志向で、国有企業民営化、労働市場自由化を進めましたが、その一方で“格差”が拡大、規制緩和で労働者への保護制度が減らされ、特に、20歳代若者の失業率は21%にもなっています。

****燃え広がる若者の怒り クリスマスどころじゃない****
「初任給は低い。大学の卒業証書はトイレットペーパー並み。結婚するためには仕事を2つ、3つ掛け持ちしなければならない」。10日、暴動についての民間テレビの討論会で、出演者の青年が若者を代表して不満を語った。
ギリシャの若年労働者の初任給は 700ユーロ(約8万5000円)程度だ。1人当たり国民総所得は2006年で約2万1700ドル(約 200万円)で、欧州最大の経済国ドイツはこれの約 1.5倍。だが、01年のユーロ流通後、物価上昇が続き、生活必需品の値段は両国ともほぼ同じ水準という。
就職できるのはまだ幸運だ。地元紙カティメリニによると、失業率7%台のギリシャでは特に20代の若者の失業率は高く、21%に達する。大学生の半数が卒業後就職できない厳しさだ。

さらに、世界的な金融危機による景気の落ち込みが国民を直撃。AP通信によると、世論調査の回答者の4分の3が将来を悲観していると答えた。
中道右派のカラマンリス政権は「小さい政府」志向で、国有企業民営化、労働市場自由化を進め、年金改革などによる歳出削減も計画。インフレを抑え込み企業活動を活発化させたとの評価がある一方、貧富の差が拡大した。現在は国民の約2割が貧困層との統計もある。”【12月13日 共同】
************************

“「なぜ暴動を起こすのか」との問いに「生活も、職も医療も何もない」と、タオルで顔を隠した学生らが口々に話した。”【同上】

【ギリシャだけでなく・・・】
若者の苦境は欧州共通の現象です。
“隣国イタリアでは、非正規雇用の広がりで月収千ユーロ(約12万円)以下で暮らす高学歴の若者が「千ユーロ世代」と呼ばれて社会問題化しているが、ギリシャではさらに収入が少ない「600ユーロ世代の若者」が話題だ。
スペイン28%、フランス20%など同年代の失業率の高さは欧州に共通する。” 【12月13日 朝日】

暴動鎮圧のため、ギリシャ警察は既に4000発以上の催涙弾を使用。残りが少なくなったとしてイスラエルに発注したそうです。
こうした事態に各国政府も事態の推移を注視しています。
サルコジ仏大統領は与党議員との会合で「ギリシャで起きていることに注意すべきだ」と語ったと報じられています。

労働市場自由化に伴う格差の拡大、非正規雇用の増加、一部若者の貧困化・・・これらは日本でも進行している事態です。
“ワーキング・プア”が問題になってきましたが、派遣・期間社員の解雇が進む昨今の不況・雇用縮小のなかで職を失えば、単なる“プア”です。
ほかの問題はともかく、経済的には概ね成功を収めたはずの戦後日本において、“貧困”が今語られるようになっています。
ギリシャの若者の暴動は、このような社会のあり方について、あらためて考えることを求めています。

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韓国“通貨危機” 不況に流行るコンドームと結婚仲介業 日本の不況対策は?

2008-12-13 21:38:03 | 世相

(韓国・釜山の夜 写真左側の赤いものはソジュ・テントと呼ばれる屋台 釜山には行ったことはありませんが、博多の屋台みたいな感じでしょうか
“flickr”より By William George
http://www.flickr.com/photos/thewilliamg/2322938134/)

【暴落した韓国ウォン】
今日13日,福岡・大宰府で日中韓3カ国の首脳会議が開催されます。
(歴史的に大陸文化の受入れ窓口だった大宰府で・・・というのは、よい選択のように思えます。)

世界的な金融危機がアジアの実体経済にも深刻な影響を与えている事態を受けて、東アジアで大きな経済規模を占める3カ国の首脳として危機克服に向けた「結束」をアピールするとのことです。

日本の不況深刻化の懸念は連日報じられているとおりですし、中国経済減速・雇用情勢悪化についてもこれまで取り上げたところです。
韓国の経済情勢悪化も同様というか、日中以上に厳しい“危機的”状況です。

韓国ウォンは2007年10月末に1ドル900ウォンを切るまで上昇しましたが、その後下落が続き、特に、9月のリーマン・ブラザーズ破綻で暴落状態になっています。
11月には1ドル=1500ウォン付近にまで低下したと報じられていましたが、今日のレートで見ると、1ドル=1369ウォンですから少しは回復したようです。
それでも、ピーク時の5割近くも下落しています。

この“通貨危機”状態に対し、中央銀行はドル売り・ウォン買いの為替防衛を懸命に行っていますが、資金が不足しており、危機感が増幅しました。
10月段階では“IMF金融支援”の危機も取り沙汰されました。
10月末、中央銀行の韓国銀行とFRB(米連邦準備理事会)が最大300億ドルの通貨スワップ協定を結び、ようやくウォンは下げ止まったようです。
しかし、不安定な状況は続いており、“12月危機説”とか、「決算を控えた日本の銀行が一斉に韓国から資金を回収し、来年3月に経済危機が発生する」という日本発の“3月危機説”などが、まことしやかに噂されたりしています。

【通貨安定に向けての日中韓首脳会議】
金融危機への対応が中心議題のひとつとなる今回の日中韓首脳会議に先立って、韓国の通貨安定のための対策が、日韓・中韓で相次いで発表されています。

****1兆8000億円を相互融通=日韓中銀が合意、為替介入に活用も****
日銀は12日、韓国の中央銀行である韓国銀行との間で円とウォンを融通し合う通貨スワップ協定について、利用限度額を30億ドル(約2700億円)相当から200億ドル(約1兆8000億円)相当に拡大することで合意したと発表した。近く正式協定を結び、2009年4月末までの時限措置として実施する。日銀は短期資金を潤沢に供給できる環境を整えることが目的としているが、下落の著しいウォンを買い支える市場介入に活用される可能性もある。
日韓両国政府は、中銀間のスワップ協定とは別に、アジア通貨危機のような非常事態が発生した場合に備え、100億ドルを融通し合う協定を結んでおり、通貨の融通枠は総額300億ドル相当になる。【12月12日 時事】 
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****韓国と中国、通貨スワップの約280億ドル拡大で合意=韓国中銀
韓国銀行(中央銀行)と中国人民銀行は、38兆ウォン(282億9000万ドル)相当の新たな通貨スワップ協定を締結することで合意した。韓国銀行(中央銀行)が12日、発表した。すでに締結されている40億ドルの通貨スワップに追加される。
韓国中銀は声明で「今回の合意は、基本的に健全な両国の金融システムにおける短期流動性の状況改善を支援することが狙い」と表明した。【12月12日 ロイター】
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なお、中国人民銀行は、韓国以外の他の中央銀行とも通貨スワップ協定締結の可能性を積極的に探る姿勢を表明しています。
資金的には今世界で一番体力のある中国ですから、この機会に存在感をアピールしようとのことでしょう。

【韓国 不況で流行るもの】
ところで、厳しい経済事情の韓国ではコンドームの売上げが伸びているそうです。

“韓国のコンビニ・チェーン店「GS25」によると、全国3300店舗で8月上旬から11月中旬にかけてのコンドームの売上げが、前年比19.3%増だったという。
同社の広報担当者はAFPに対し、「一部の専門家は、経済的苦境によるストレスに耐え、不安を払しょくするために、人々は快楽を求めていると指摘しており、これがコンドームの売上げ増加の背景にあると考える」と述べた。
経済が回復するまで、子作りを延期しているとの見方もある。【11月26日 AFP】”
後者の理由は“なるほどね・・・”と思ってしまいます。

なお、同記事によれば、コンドーム以外にも売上げを伸ばしているのが口紅と安酒だそうです。
口紅は“女性にとって、不景気の際に自分を美しく見せる最も安価な方法であるためだとみられている。”とのこと。
メークの流行の影響もあるのでは・・・との見方もあるようですが。
安酒の焼酎「ソジュ」が伸びるのは「苦しい時期に、韓国人はウイスキーやビールをあきらめて、経済的なソジュで満足しようとする傾向がある」と、こちらはわかりやすい理由です。

もうひとつ、「結婚仲介業」がブームだとか。
こちらは、韓国社会の現状を反映したもののようです。

****韓国で「結婚仲介業」ブーム、金融危機で親に焦り****
世界的な金融危機のなか、韓国では結婚仲介業が好景気に沸いている。
結婚仲介大手の一つDuo社によると、背景には無職の女性が結婚生活に経済的な安定を求める傾向や、父親が定年を迎えるまでに子どもを結婚させたいと、子どもに代わって親が仲介サービスに申し込むケースが増えているという。(中略)
Duo幹部によると、このようなブームは1997-98年のアジア金融危機の際にもみられたという。
韓国では現在も見合い結婚が広く行われており、特に上流階級では一般的だという。【12月12日 AFP】
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【日本 景気回復のためには】
話を本筋にもどしましょう。
景気悪化・雇用不安への対策の話です。
日本も麻生政権が景気回復に向けて多彩な施策を打ち出していますが、政局がらみで効果には疑問も持たれています。
そんななかで、雇用不安がどんどん深刻化しています。

世界的な同時不況で先が見えず企業の投資意欲は落ち込み、雇用不安を抱えるような厳しい状況で消費者の購買意欲も落ち込み、さらに金融不安で金融機関は貸し渋りへ走り、また、金融機関の経営基盤へのひとびとの信頼感も揺らぎ・・・といった状況では、政府の金融政策も財政支出もなかなか効果が出にくいように見えます。

経済学の教科書が教えるケインズの“流動性のわな”(金利があまりにも低くなり、すべての人々が資産として債権ではなく貨幣を保有しようと考え、そこで貨幣需要が無限に弾力的になって、中央銀行がどんなに通貨を供給してもお金がうまく回らず、消費や投資が伸びない現象)のような状況です。

“流動性のわな”の話は、今も昔もよく理解できないといころが多々ありますので、深入りしません。
こうした日本経済を素人的に考えると、凍りついた消費マインドに点火するためには、先ず国民の不安感を払拭することが一番大切なように思えます。
そのためには、年金・医療・社会保障について、政府は将来にわたり“絶対にこれを死守する”確固たる姿勢を国民にアナウンスする政策を打ち出すべきです。

【将来の消費税引上げの効果は?】
そのためには財政的裏づけを同時に出す必要があります。
そうなると、やはり消費税でしょう。
選挙対策として“とんでもない”という話以外に、“増税を口にすると、この不況時には消費意欲を引き下げる”との考えもあります。

もっともな感じもしますが、ただ、理屈的には逆ではないでしょうか?
将来の消費税引き上げが明示されれば、“買うなら今のうちに”という心理を誘い、購買意欲を高める方向で作用するのでは。
一種の“調整インフレ”です。

現実的に可能なら、現在の消費税を2%下げる、その代わり1年後には必ず2%引き上げ、2年後には更に2%引き上げ、3年後にはまた2%引き上げ・・・ということにすれば、“じゃ、今のうちに・・・”ということにもなるのでは?

やみくもに“これでもか、まだだめか・・・”と金融緩和・財政支出に走っていると、2年後・3年後に何らかのきっかけで投資・消費意欲が回復したとき、それまで溜まっていたマネーが一気に動き出し、ハイパーインフレーションを引き起こすという事態も危惧されます。
日本国内はともかく、今年の世界的な食糧価格・原油価格高騰をみると、世界的にはおおいにあり得るかも。




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世界人権宣言60周年  中国共産党一党支配批判「08宣言」 日本の死刑制度

2008-12-12 16:03:41 | 世相

(北京オリンピックが開催される中国での人権抑圧に抗議するため、今年8月アテネで始まり、世界各国を回った「人権トーチ・リレー」 “flickr”より By Steve Rhodes
http://www.flickr.com/photos/ari/2394988467/)

【世界人権宣言60周年】
「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である・・・」という書き出しで始まる世界人権宣言。
1948年12月10日の第3回国連総会で採択されました。

【ウィキペディア】によれば、世界人権宣言は条約ではなく総会において採択された決議であることから、法的拘束力がないのではないかという問題があるそうですが、“宣言が採択された当時は拘束力がなかったものの、その後に宣言を基礎にした各種人権条約の発効や各国の行動によって現在は慣習国際法になっているとする説”が現在は多くの支持を得ているそうです。

宣言が決議された12月10日は毎年「世界人権デー」とされていますが、先日10日で宣言採択から60年を迎えました。

****世界人権宣言60周年、国連総会で決議採択****
世界人権宣言が採択されて60年の10日、国連総会は記念の本会議を開き、「人権や基本的な自由がいまだに全世界で守られていない現状に遺憾の意を示す」とともに、宣言に盛り込まれた人権の実現を誓う決議を採択した。
潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は声明で、「宣言は国連のアイデンティティーの中核をなすものだ。我々は宣言に盛り込まれた人権を守るために、共に行動しなければならない」と訴えた。【12月11日 朝日】
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【中国「08宣言」】
ところで、中国における人権問題については多々論じられているところですが、それらの問題の根幹には、自由な意見・批判を許さない共産党一党独裁という政治システムがあるように思えます。

****中国で一党独裁の終了求め署名 作家や弁護士ら303人****
世界人権宣言の採択から60周年となる10日、中国で共産党の一党独裁体制の終了や人権保障などを求める文書がインターネット上で発表された。「08憲章」と題し、著名な中国人作家や弁護士ら計303人が署名している。中国で、これほど多数の人が実名で公に一党独裁を批判するのは異例。香港の人権団体によると、署名した著名作家で民主活動家の劉暁波氏は既に拘束されたという。【12月10日 共同】
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上記「08憲章」は「共産党が政治、経済、社会の資源を独占し、政治改革を拒否し、官僚は腐敗、道徳も荒廃し、社会が二極分化している」と主張し、全面的な民主選挙の実施や司法の独立など19項目の要求を掲げています。
署名は海外14カ国・地域に広がり、国内外の440人が新たに追加署名しています。
当局は「民主化勢力」と「社会不満分子」との結びつきを強く警戒しているそうで、起草者とみて拘束した著名作家で民主活動家の劉暁波氏について、国家政権転覆扇動罪を適用し正式に逮捕するかどうかは、高いレベルの政治判断に委ねられるもようとのことです。【12月12日 産経】

広東省深セン市で、民主活動家グループが「国家改革建議書」と題する民主化要求の文書を街頭で市民に配ったのに対し、当局は配布を妨害せず、事実上黙認したといった動きもありますが、一方で、12月4日の「法制宣伝日」に、各地で相次ぐ不当な土地強制収用や公安当局者らによる市民への暴行などに抗議するため地方から集まった100人以上の陳情者が、中国国営の中央テレビ前で拘束され、バスに強制的に乗せられて連行された・・・といった記事も相変わらずよく目にします

人権問題の根深さは地方に行くと更に際立ちます。
“中国の新京報は8日、同国東部山東省新泰市当局が、地元当局の不正行為を中央政府に訴えた市民をこれまでに少なくとも18人拘束し、精神病院に監禁していると報じた。なかには抵抗したため薬物を投与され衰弱させられた人もいるという。訴えを取り下げると解放された。”【12月8日 AFP】

こうした人権侵害・社会問題の根本的な解決のために、自由な批判・議論が政治的に保障されることが必要ですが、「08憲章」への対応にみられるように、当局は政治の根幹に触れる動きに対しては頑なな姿勢を崩していません。
天安門事件のような多くの流血を繰り返さないと“北京の春”はやってこないというのでは残念なことです。

【死刑廃止への流れのなかで】
日本の関係で人権問題が国際的に指摘されるのが死刑廃止の問題です。
****国連委:死刑停止決議を採択 支持増加、日本は反対****
国連総会第3委員会(人道問題)は(11月)20日、死刑執行の一時停止などを求める決議案を賛成多数で採択した。同種の委員会採択は2年連続で、支持は6カ国増えた。日本は07年に続き反対した。12月の総会で採択され正式な決議になるが、死刑執行停止を求める国際社会の圧力は確実に増加している。

決議案は欧州連合(EU)やオーストラリア、イスラエルなどが提案し、賛成105(07年99)、反対は日本、米国、中国、イランなど48(同52)、棄権はキューバなど31(同33)だった。決議に強制力はない。
決議案は、07年に採択した決議を再確認し、潘基文(バンギムン)事務総長が先日、総会に提出した報告で、死刑廃止は世界の流れであるとして執行の一時停止を提案し、停止が難しい場合でも執行に厳しい規制をかけるよう推奨したことを歓迎。2年後の総会で、その時点での死刑廃止状況と死刑を存続させている国への働きかけ方について、改めて話し合うよう求めている。

委員会の協議で、死刑維持派のシンガポールやエジプト、スーダン、シリアなどは「司法制度の選択は主権国の権利であり、外部から押しつけるべきでない」と主張。一方、イタリアやフランスなどは、「人命尊重の観点から、死刑執行を停止すべきだ」と説明した。日本は決議採択後、「わが国の世論調査では、死刑が支持されている。死刑については国際的合意もない」と反対理由を説明した。

国連の報告によると、7月1日現在、死刑を廃止もしくは事実上廃止している国・地域は141に上っている。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、89年に100カ国だった死刑執行国は、07年には24カ国にまで減少した。国連の規約人権委員会は10月30日、死刑廃止へ向けた取り組みを日本政府に求める勧告を盛り込んだ「最終見解」を公表している。【11月21日 毎日】
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ガザ封鎖を行っているイスラエルが死刑執行一時停止決議案の提案国というのもなんとなく・・・という感もありますし、殆ど弁護らしい活動もないまま公開処刑をしているような国と一緒にされたくないなとの思いもありますが、まあ、よその国の話はともかく、日本のことです。

“国際的な流れを背景に、死刑を維持する日本への風当たりは強まっている。国連で日本の人権状況が取り上げられる際には死刑制度が最大の焦点だ。関係者は「フランスが81年に廃止した時も世論調査では過半数が死刑維持派だった」と指摘し、死刑制度維持の理由に世論を挙げる日本への不快感を隠さない。
今年5月に行われた人権理事会の対日審査でも、各国から死刑廃止や執行停止を求める意見が続出。日本が「(死刑囚)本人への(執行の)事前通知は苦悩する時間を増やし、かえって残酷」などと抗弁した時には、議場に失笑が広がった。”【11月19日 毎日】

確かに、“死刑が妥当じゃないか”と私自身も思うような残忍な事件が多いことも事実です。
ただ、被害者家族を前面に押し出して“極刑しかない!”と大合唱するTV番組等の昨今の社会的風潮は、B級西部劇の“奴を吊るせ!”と迫る群衆のようで、馴染めないものも感じます。

日本の常識がときに海外では非常識になることもある・・・そういうことも含めて考えるべき問題なのかも。


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ロシア  金融危機・資源価格低迷で落ち込む経済 北方領土問題に変化は?

2008-12-11 19:22:58 | 国際情勢

(ロシア経済成長の象徴 建設が進むモスクワの超高層ビジネスセンター街「モスクワ・シチー」 ここにも金融危機の大波が・・・ “flickr” By Sasha Nilov
http://www.flickr.com/photos/nilov/2640430116/)

【「ロシアタワー」建設中止】
ロシアの話題というと、“プーチン首相がいつ、どのような形で大統領に復帰するのか”ということ。
それ以外では、アメリカの裏庭・中南米での外交攻勢、64年ぶりのロシア軍艦のパナマ運河通過、あるいはアメリカのミサイル防衛(MD)宇宙配備に備えた新型ミサイル開発、MD配置に対抗してポーランドに隣接する飛び地にミサイルを配備する計画等々、相変わらず“強気”の姿勢が目立ちます。

ただ、経済的に見ると、グルジア紛争以降の資本流出に世界的金融危機の影響がかぶさり、この8年間、記録的原油高を追い風に平均7%の高度成長を続けてきたさしものロシア経済も転換点を迎えています。
金融危機発生当時の10月6日には1日で19%の下げ、5月水準に比べると4分の1に暴落という状態でした。
銀行預金の凍結や通貨ルーブル急落も危惧されていました。

モスクワの超高層ビジネスセンター街「モスクワ・シチー」で、最も高いビル「ロシアタワー」(118階建て、612メートル)の建設も凍結されることになりました。
投資者が15億ドルの拠出を拒否したとかで、「石油景気に沸くロシアを象徴するプロジェクトであったが、金融危機の荒波をもろに受ける形となった」と報じられていました。【11月22日 朝日】
その後も、頼みの資源価格が下げ止まらず、ロシア経済に大きな影響を与えています。

【需要減少・価格低迷でつまづく資源外交】
NYの原油先物相場は、今日は1バレル=44ドル前後。
上げのピッチも早かったのですが、下げはそれ以上、7月につけた史上最高値の1バレル=147.27ドルから7割ほど値下がりしています。
ロシアの原油採掘の採算ベースが70ドルあたりという数字を以前何かで見た記憶があります。
そうすると、昨今の40ドル台はかなりきつい数字です。
世界的景気後退で石油の需要が世界的に減少し、在庫も積み増している状態です。
原油市場からは「経済環境は最悪で、しばらくは弱気相場が続くだろう」(米投資顧問会社)との声が聞かれています。

天然ガスは石油のようなオープンな市場がないのでよくわかりませんが、おそらく事情は似たようなものではないでしょうか。
原油・天然ガスの市場動向はロシア経済だけでなく、ロシア資源に依存するEU諸国との関係にも影響します。

****露パイプライン不要論*****
欧州連合(EU・27カ国)は先月13日、欧州の天然ガス需要予測を修正し、2020年のガス需要予測を昨年3月発表より約20%、減じた。そこで焦点になるのは、EUのガス輸入量の約4割を担うロシア。エネルギー問題専門家の一部には、次のような見方が浮上している。

「今回の修正予測を勘案すると、ロシアの対欧州輸出量は2020年で1400億~1600億立方メートルにとどまり、現在の輸出量と変わらない。そうであるならば、膨大な建設費用がかかるロシア・ドイツ間の『ノルド・ストリーム』とロシアからバルカン地域・欧州を結ぶ『サウス・ストリーム』の2本のガスパイプライン建設はいらなくなる」
プーチン露首相は最近、「ノルド・ストリーム」建設撤回も辞さないと強硬発言をぶちまけた。その背景には、EUのガス需要予測が大幅に外れて、ガスパイプライン不要論が生まれている現実へのいら立ちが作用している。「強気」は空威張りでしかない。(中略)
クレムリンがオバマ新政権下の米国との関係改善に期待する真意は、ロシア経済の屋台骨である石油・ガス輸出の顧客を、欧州以外にも拡大しておきたいからだ。期待というより、むしろ「あせり」と言ってもいい。これまでのロシアの資源外交の攻勢は、明らかに色あせ始めた。原油価格低迷が続けば、ロシアは予想外の大不況に陥る恐れがある。【12月9日 毎日 欧州総局長・町田幸彦】
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つい先日まで「サウス・ストリーム」だ「ナブッコ」だと、パイプライン建設をめぐって各国がしのぎを削っていましたが、様変わりです。

プーチン首相は今月4日、国民からの質問に答えるテレビ番組(“国父・強いプーチン”を国民にアピールする政治ショーとも言われていますが)に出演し「米国との関係改善を望んでおり、前向きなシグナルを受け取っている」と語っています。
プーチン首相は8月のグルジア紛争以来、対米強硬発言を続けていましたが、来年1月に誕生するオバマ次期政権に期待感を示した発言と評されています。
上記【毎日】にあるような“石油・ガス輸出の顧客を、欧州以外にも拡大しておきたい”との意向の表れなのでしょうか?

【麻生総理 起死回生の・・・】
そうなると、現実的な話としては一足飛びにアメリカというよりは、日本あたりがターゲットになるのではないでしょうか?

一方、支持率暴落で断末魔の麻生政権ですが、ロシアとの北方領土交渉に意欲を見せています。

****麻生首相:露大統領府長官と会談 領土問題解決に意欲****
麻生太郎首相は9日、訪日したロシアのナルイシキン大統領府長官と首相官邸で会談し、領土問題の解決と平和条約締結問題について「来年のプーチン首相の訪日の際、また次回以降のメドベージェフ大統領との首脳会談で具体化していきたい」と述べ、早期打開に強い意欲を示した。長官は「双方が受け入れ可能な解決策を探ることが重要だ」と述べ、歩み寄りが必要との考えを示した。
長官はプーチン首相の側近の一人とされ、今回の会談は「来年初め」で調整しているプーチン首相来日の地ならしの意味がある。これを踏まえ、麻生首相は「今後は日露関係全体を統括してほしい」と求め、長官もこれを了承した。【12月9日 毎日】
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麻生首相は先月22日、リマ市内でロシアのメドベージェフ大統領と初めて会談していますが、北方領土問題について大統領は「この問題の解決を次世代に委ねることは考えていない」と述べ、解決への強い意欲を表明したと報じられています。

“麻生首相は会談の冒頭で「我々隣国の関係が、国境線の問題も含めてきちっと確定していないところが不安定な要素になっている」と、領土問題を取り上げた。日本側の説明では、麻生首相は「大統領の決意が必ずしも事務レベルの交渉に反映されていない」とロシア側の姿勢への不満を伝えた。
これに対しメドベージェフ氏は「どこの国でも官僚の抵抗は存在するが、首脳の善意と意思があれば解決できる」と政治決断の重要性を強調した。一方で「並々ならぬ考えが必要だが、そのような考えは既存の文書から引き出されなければならない」と、過去の交渉の積み重ねを尊重する姿勢も示した。” 【11月23日 朝日】

読売はこの会談について“北方領土問題の解決が必要との立場を確認したが、ロシアは経済関係を軸とする対日関係の急拡大を歓迎しているものの、当面、領土問題で日本に歩み寄る気配はない。”【11月25日 読売】と否定的に報じています。

これまでの経緯を思えば、ロシアが急に譲歩するとも思われませんが、先述のようなロシア経済情勢を背景に、麻生首相がロシア側に秋波を送るのは何かあってのことでしょうか。
北朝鮮関係は行き詰っていますので、麻生首相が起死回生のカードを切れるとしたら、この北方領土問題ぐらいしか残っていません。どうでしょうか・・・。
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