孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  ユダヤ人学校前銃乱射事件は極右関係者ではなく、北アフリカ出身のアルカイダメンバー?

2012-03-21 21:26:19 | 欧州情勢

(トゥールーズの事件後、保護者に付き添われて学校を去る生徒  “flickr”より By juanzi615 http://www.flickr.com/photos/21427686@N03/7001527917/

【「反ユダヤ主義や人種差別的な発言が不安定な環境を作り出した」】
フランスで19日に起きたユダヤ人学校前での銃乱射事件は、特定人種を狙ったテロと思われることから、大きな衝撃を国内に与えました。

****フランス:ユダヤ人学校前で銃乱射、4人死亡****
フランス南西部の都市トゥールーズで19日午前8時ごろ(日本時間19日午後4時ごろ)、バイクに乗った男がユダヤ人学校前で銃を乱射し、地元当局によると、少なくとも4人が死亡した。うち3人は子供だった。
男は銃器2丁で武装し、乱射後、逃げる子供らを追って学校内まで侵入して逃走した。トゥールーズ周辺では先週、同様にバイクに乗った男が仏軍兵士3人を殺害する銃撃事件が相次いでおり、捜査当局は関連を調べている。

サルコジ大統領やゲアン内相が現場に急行した。1カ月後に控えた仏大統領選では、欧州債務危機に伴う景気の低迷で移民規制の強化など「右傾化」が目立っており、事件後、在仏ユダヤ人団体は「反ユダヤ主義や人種差別的な発言が不安定な環境を作り出した」と批判した。

警察などによると、事件当時、学校前では子供や保護者、教師らが送迎バスを待っていた。男は45口径の銃などで武装し、「動くものは何でも標的にした」という。先の仏軍兵士銃撃事件でも45口径が使われており、関連性が疑われているが、サルコジ大統領は「結論を出すには早すぎる」と慎重な姿勢を示した。

イスラエル外務省報道官は「背筋の凍る事件だ」と述べ、背後関係の徹底解明を求めた。イスラエルのメディアによると、襲われた学校はユダヤ教系。トゥールーズには約2万5000人のユダヤ人が住んでおり、学校は地域のユダヤ人社会の中核だった。【3月19日 毎日】
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おりしもフランスは大統領選挙のさなかで、サルコジ大統領など各候補は選挙運動を一時中断して現地を訪れています。

****フランス:与野党候補が現地入り…学校銃乱射*****
フランス南部の都市トゥールーズのユダヤ人学校で19日、男が銃を乱射し、男性教員と児童3人が殺害された事件を受け、4月に大統領選を控えたサルコジ大統領や最大野党・社会党のオランド前第1書記ら各候補は相次いで現地入りし、追悼式典などに参列した。また各候補は犠牲者を悼んで選挙運動の一時中断を決めた。国民の団結や治安を重視する姿勢を訴えつつ、約55万人のユダヤ人票にも配慮したとみられる。

ゲアン内相は20日のラジオ番組に出演し、犯人が首にビデオカメラをさげていたとの目撃証言を明かしたが「犯人像は絞り込めていない」と述べた。捜査当局は人種差別主義で極右思想の持ち主か、イスラム過激派による犯行の可能性があると見て捜査している。

現地のユダヤ系フランス人社会では、治安への不安が広がっている。19日午後、追悼集会が開かれたトゥールーズ中心部のシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)では数百人のユダヤ教徒が集まり、犠牲者に祈りをささげた。近隣の高校に通うフィンケンチムさん(15)は「理解できない。犯人は反ユダヤ主義というより、精神的に異常な人間だと思う」と話した。

大統領選で極右支持層への浸透を狙うサルコジ氏が「移民半減」を公約に掲げ、与党・国民運動連合幹部が人種差別的発言を繰り返すなど、選挙戦の「右傾化」の影響を指摘する声もある。心理療法士のダアンさん(53)は「大統領選がとても険悪な雰囲気を作り、それが高い代償を払う結果につながったと思う。選挙戦がここまで右傾化するのは初めてではないか」と語る。サルコジ大統領は事件を受けて19日、トゥールーズ周辺の警戒レベルを最高の「深紅」に上げた。仏メディアによると、90年代に4段階の警戒レベルが定められて以来、「深紅」の適用は初めてという。

現地入りしたサルコジ氏は「この憎むべき行為は必ず罰する」と強調した。一方、オランド氏は「反ユダヤ主義や人種差別にフランス全体の固く団結した意思で立ち向かう」と表明。極右政党「国民戦線」のルペン候補はテレビに出演し「今こそ政治活動を取りやめ共感と団結のための時だ」と述べた。【3月20日 毎日】
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人種や政治信条を理由に無抵抗な市民を殺す新しい「欧州型のテロ」の増大
各記事が触れているように、フランスでは増大する移民への反発から、社会の右傾化が目立っており、そのことが、ひところの極右政党「国民戦線」のルペン候補の躍進、そしてここへきてのサルコジ大統領の「右旋回」による極右票取り込み、追い上げに繋がっていると見られています。

そうした右傾化・反移民の社会風潮は、フランスだけでなく欧州全体に共通した流れでもあり、一般市民を巻き込んだテロが起きています。
ユダヤ系社会を標的にした事件ということで、今回事件とそうした社会全体の右傾化、大統領選挙での極右票を狙ったキャンペーンなどの関連が指摘されました。

****仏ユダヤ人学校銃乱射:無差別テロ連鎖の不安 人種・宗教理由に市民を標的****
フランス南部トゥールーズのユダヤ人学校での銃乱射事件で、人種や宗教・政治信条などを理由に一般市民を無差別に殺すテロがさらに起こるのではないかとの不安が現場で高まっている。
ノルウェーやドイツでも、昨年から一般市民を巻き込んだ同種のテロが顕在化、新しい「欧州型のテロ」として捜査当局は警戒を強めている。

仏捜査当局が事件を単純な反ユダヤ主義でなく、「テロ」として警戒度を最高レベルに上げているのは、19日にユダヤ人学校を襲撃した犯人が、現場周辺で北アフリカ系の兵士3人も射殺したとみているからだ。3月11日にはトゥールーズで1人が、15日には約50キロ北のモントバンで2人が同じ銃で殺された可能性が高い。再び人種などを理由に市民に銃を向けるとの不安が広がっている。

多くの市民が想起するのは昨年7月、「移民導入を進めた」ことを理由に与党・労働党支持者の若者ら77人が殺害されたノルウェーの連続テロ事件だ。
ドイツでも極右ネオナチの男女3人組が00~07年に、トルコ系移民ら計10人を次々に殺害した事件が昨年、発覚。人種や政治信条を理由に無抵抗な市民など「ソフトターゲット」を殺す欧州型のテロが根強くはびこっていることを見せつけた。

フランスでは極右政党の「国民戦線」が近年「穏健路線」にかじを切るにつれ、不満を抱く極右層が小規模の政治集団を組織するなど動きを活発化させている。極右集団「共和国抵抗運動」と「アイデンティティー連合」は10年に反イスラム運動を組織。連合は2月、トゥールーズに事務所を開き、極左活動家が反対運動を起こすなどした。こうした小規模の極右グループの動きもテロの背景にあるとの見方がある。

トゥールーズ在住の精神分析学者エナールさん(67)は「個人が何かの標的を見いだすことで不満を発散させているとすれば、オスロの事件と似ている。オスロでは標的が社会民主主義の若者で、今回はユダヤ人・外国人だったのだろう」と話す。【3月21日 毎日】
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【「パレスチナの子供の敵を討ち、仏軍を攻撃する」】
上記記事の指摘は一般論としては間違いではありませんが、今回事件については、容疑者は極右関係者ではなく、アルカイダメンバーであるとの見解が内務省から出されています。

****仏銃乱射:容疑者宅で銃撃戦、警察官2人けが****
フランス南部トゥールーズのユダヤ人学校での銃乱射事件で、仏警察当局は21日、容疑者とみられる男(24)の住宅を包囲した。現場は銃撃戦となり警察官2人が軽傷を負った。

内務省当局によると、男は北アフリカ出身で仏国籍。ムジャヒディン(イスラム聖戦士)を自称し、国際テロ組織アルカイダに所属していると主張している。
アフガニスタンとパキスタンに渡航歴があり、包囲する警察官に「パレスチナの子供の敵を討ち、仏軍を攻撃する」と語ったという。警察当局は男の兄弟を拘束し、事情を聴取している。

また検察当局によると、当局は容疑者逮捕に向けた複数の作戦を同時展開している。近隣住民の目撃情報によると、最初の銃声は午前3時ごろ聞こえたという。
事件は19日、ユダヤ人学校前で発生し、男が銃を乱射し、子供3人と男性教師1人の計4人が死亡した。【3月21日 毎日】
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もしネオナチとか極右関係者の犯行ということであれば、イスラム移民を念頭に置いた「移民半減」を掲げるサルコジ大統領の「右旋回」選挙キャンペーンは、こうした人種差別的テロを煽ることにもなりかねないとして、強い批判にさらされます。

しかし、北アフリカ出身のアルカイダメンバーによる犯行ということになれば、逆に、反イスラム移民の社会風潮を後押しし、サルコジ大統領の選挙戦も追い風を受けることにも考えられます。

オランド候補を追い上げるサルコジ大統領
大統領選挙選は、社会党オランド候補にリードを許していたサルコジ大統領が追い上げを見せており、第1回投票ではオランド候補を抑える支持率を見せています。決選投票においては、まだオランド候補がリードしているというのが大方の見方ですが、やはりサルコジ大統領の回復傾向が見られるようです。

****仏大統領選 猛追、サルコジ氏 第1回投票まで1カ月****
フランス大統領選は20日までに、現職のサルコジ大統領(57)や最大野党、社会党候補のオランド前第1書記(57)ら計10人の立候補が正式に確定した。4月22日の第1回投票まで1カ月となり、世論調査ではこれまで劣勢だったサルコジ氏が猛追し、第1回投票の支持でオランド氏を上回りはじめた。5月の決選投票ではオランド氏の優位が続くが、選挙の行方は混沌(こんとん)としてきた。

 ■2氏の競り合い「内向き」に
サルコジ、オランド両氏以外の主要候補は極右、国民戦線の女性党首、マリーヌ・ルペン氏や中道、民主運動のバイル議長、共産党が支持する左派戦線のメランション氏。
18日に公表された世論調査では、第1回投票でのサルコジ氏への支持が27・5%に対し、オランド氏は27%。ルペン氏が17・5%と続く。決選投票ではオランド氏が54%で、サルコジ氏は46%にとどまる。だが、19日発表の別の調査でもサルコジ氏に「好感を持つ」との回答者が今年初めの30%から40%に増え、上昇傾向は鮮明となってきた。

 ◆激しさ増す舌戦
「朝に『借金を減らす』といい、翌朝には『お金をもっと使う』という。大統領選で嘘はいけない」
南東部リヨンで17日開かれた選挙集会。サルコジ氏は支持者8千人を前に、オランド氏が財政再建の公約に柔軟姿勢を示したことをするどく批判した。

オランド氏も対抗し、同日出演したテレビでは「実績に頼ることができず、自暴自棄になっている」と5年間のサルコジ施政を痛烈に皮肉り、2人の舌戦は激しさを増している。

移民2世でエリート主義を嫌うサルコジ氏は、テレビで国民に直接語りかける政治姿勢が持ち味。2月15日の出馬表明後、集会やメディアとのインタビューなどを精力的にこなし、これが功を奏している。
オランド氏はエリート官僚を養成する国立行政学院(ENA)出身で、約10年間にわたり社会党を率い、調整力に定評がある。スクーターで仕事に通う庶民派でもある。だが、閣僚経験がないことなどもあり、大統領に選ばれた際の指導力には疑問がつきまとう。長年の党務の経験から「党官僚だ」との批判も上がる。

 ◆「赤」ではない
債務危機で欧州経済の悪化が懸念される中、両候補とも雇用対策などに力を入れるが、その手法は、サルコジ氏が企業の競争力重視であるのに対し、オランド氏は社会党に伝統的な所得再配分に比重を置く。

サルコジ氏はもともと、社会保障重視など国家の介入が伝統的に強いフランスの社会に米英型の自由競争を取り入れることを目指してきた。2007年の前回選挙で掲げたスローガンは「過去との決別」だ。
任期中は激しい抗議デモにも屈せず年金受給開始年齢引き上げを実行した。だが、金融危機や欧州債務危機の対応に追われ、成果を評価する声は少ない。

銀行や大企業への増税を掲げ、「大きな政府」を指向するオランド氏は「金融界は敵」とも訴え、経済・金融界からは懸念が上がる。年収100万ユーロ(約1億1千万円)を超える高額所得者への75%の課税は国民の支持を受けたものの、批判も強い。このため、オランド氏は自身について「『赤』ではなく、『ピンク』だ」と釈明、懸念払拭を図っている。

接戦の中、双方の競い合いは内向きになりがちで、サルコジ氏は不法移民対策強化のため、欧州の自由往来を定めたシェンゲン協定見直しを主張、ドイツ政府が不快感を示す一幕もあった。オランド氏は欧州連合(EU)の新財政協定を「幻想だ」と切り捨て、経済成長のための見直し論を一層強める。両者の戦いは欧州全体にも影響を与えかねない。【3月21日 産経】
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難民への対応に見る、オーストラリア社会と日本社会の差

2012-03-20 20:26:48 | 難民・移民

(メルボルン 2007年6月20日 市庁舎で行われた世界難民デーのイベント風景 “flickr”より By josiejose http://www.flickr.com/photos/awaketodream/1393137629/in/photostream/

【「彼らが私たちから学んだのと同時に私たちも彼らから学びました」】
「移民の国」オーストラリアには、アフガニスタン、イラクやスリランカなど紛争地域から多くの難民が向かっていますが、南北対立やダルフールなどの紛争を抱えるスーダンからの難民も多く移住しているとのことです。

****スーダン難民が見つけた第2の故郷、豪州のオレンジ市****
オーストラリアの国民歌「ワルチング・マチルダ」の作詞で知られる詩人バンジョー・パターソンの故郷として知られる田舎の金鉱と農業の街、ニューサウスウェールズ州オレンジ市が、長年内戦の続いたスーダン難民たちの第2の故郷になると想像するのは難しいかもしれない。
だが、たった1家族で始まったこの街に暮らすスーダン難民は、現在では300人ほどにまで増えている。

「世界で一番の街かもしれない。特に気候がね」とスーダン難民のファティ・ショーマさんはたどたどしい英語で語る。「スーダンで暮らしていた場所に似ている。まるで同じ地域のようで、生まれた場所で暮らしている気になる。ここでの生活は幸せだよ」
だがショーマさんが平穏な生活にたどり着くまでには長い道のりがあった。ショーマさんと妻のネイマット・ダラーさんは内戦の中、スーダンの南コルドファン州ヌバ山脈の故郷を逃れ、エジプトの難民キャンプで3年間を過ごした。

そこでは、女性たちはしばしば行方不明になり、臓器を取り出すために難民が殺されたといううわさ話がたびたび流れ、人口過密で常に暑く、伝染病は日常の一部だった。
「エジプトはとても大変だった。あそこからここに安全に来られたことを神に感謝しています」とダラーさんは語る。
前庭から子供たちの笑い声が聞こえるレンガ造りの質素な家で落ち着いてコーヒーを入れる姿を見ていると、エジプトはここオレンジの郊外からはるか遠くの世界のように思える。

多くのスーダン難民が移住し、この地を第2の故郷とした。2006年の最新の人口調査によると、難民認定を受けてオーストラリアに滞在する外国人のうち24%がスーダンからの難民だった。オーストラリアが受け入れた人道移民を出身国別にみるとスーダンが最も多く、イラク、アフガニスタンと続いている。

■オーストラリアの田舎での挑戦
最初のスーダン人家族、オスマン・タグさんとその妻、7人の子供たちが、難民たちがまず生活するシドニーを離れて人口3万7000人のこの街に移住してきたのは7年前だった。
詩人バンジョー・パターソンは、この地域のなだらかな丘陵と川に触発されて詩を作った。タグさんは、スーダンの山岳地方を思い出したという。
「私は小さな村で生まれた。良き友をつくるなら小さな街の方がいい」とタグさんはAFPの取材に語った。

スーダンからの難民は市の総人口の1%にも満たないが、多民族コミュニティーの中でスーダン難民が占める割合は11%に上る。この数字について、同市広報のアニー・ギャラガー氏は「かなりの」割合だと述べる。そのうち3分の2は子供だ。

■地元の人の手助けで仕事を得る
オーストラリアの田舎への移住には苦労もあった。地元の文化プログラムでは乗馬や水泳などが提供されている。青く澄んだ水をたたえたプールでの水泳学習は、地元の子供たちにとっては通過儀礼のようなものだが、難民の子供たちには全くなじみのない経験だった。
プログラム責任者のカレン・ボイドさんは「かなり生意気な子供たちもいますが、水をとても怖がってプールの底から足を離すこともできないんですよ」と話した。

英語をほとんど話せず、ときには読み書きもできない親たちにとって、学校や求職、賃貸などの手続きをこなすのは大変だった。
地元の退職者、サムさんとジェニーさんのグロブスナー夫妻がショーマさんとダラーさんの手助けをすることになり、申込書を書いたり、新聞を読んだりといった簡単な仕事を手伝った。

時とともに2家族の間には固い友情が結ばれた。ジェニーさんは「私たちにとっては、とても有意義でした。彼らは本当に驚くべき人たちです。彼らが私たちから学んだのと同時に私たちも彼らから学びました。そして今も学び続けています」と語る。

グロブスナー夫妻の助けをかりてダラーさんは地元スーパーで肉を詰める仕事を見つけた。早朝の仕事なので、3人の子供たちが学校から帰宅するころには自宅に戻れる。ショーマさんも、地元の新聞に記事が載ったことをきっかけにガソリンスタンドでの仕事を得た。

■子供たちのために困難を乗り越える
仕事や住宅の確保や、語学など生きていく上で必要な技能の習得に加え、文化の違いを乗り越える必要もあった。スーダン人コミュニティーのリーダー、アブドゥル・ジャバード・フセイン氏は「オーストラリアの子供は16歳になれば独立するが、これはわれわれの感覚ではあまり良くない。スーダンでは子供は結婚するまで両親や家族とともに暮らす」と言う。
スーダン人移民と地元のアボリジニとの摩擦も折に触れて激化した。地元住民からは本当にうまくやっていけるのか疑問視する声も上がったが、「人々の心の温かさで状況は一夜にして変わりました」(ジェニーさん)

しかし、2006年にニューサウスウェールズ州タムワースで、すでに移住していた人たちがオーストラリアの法律と習慣を守っていないとして、5家族の移住が拒絶されたことはよく知られている。この決定は最終的には覆されたが、その過程で何度か開かれた住民集会で、人道移住者をめぐる根深い偏見と意見の相違があることが浮き彫りになった。

ショーマさんとダラーさんはスーダン難民として初めて、オレンジ市に家を買うことになった。とはいえ、故郷を逃れて今もエジプトにいる家族や友人たちのことが気がかりだ。
「ときに、とても大変なこともある。一生懸命、考えている。自分たちのことでなく、子供たちのことを。子供たちはとても幸せそうだ」と、ショーマさんは語った。【3月20日 AFP】
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政策的混乱、社会的な軋轢も
多くの難民を受け入れるオーストラリアの難民政策が順調に進んでいる訳ではありません。
むしろ、押し寄せる難民の扱いに苦慮し、政策的にも混迷しているというのが実情です。
そのあたりの事情については、これまでも取り上げたことがあります。

11年6月11日ブログ「オーストラリア  牛とラクダと難民に見る“人道的”ということ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110611
11年6月6日ブログ「オーストラリア  迷走する難民対策 マレーシアで審査する案に人道上の問題」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110606
10年12月16日「オーストラリア・クリスマス島沖で難民船大破  難民対応に苦慮する豪政府」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101216

オーストラリア社会にも増加する難民への抵抗がありますし、「カレー・バッシング」と呼ばれるインド系移民への業力行為が横行し、インドから留学生が激減するといった社会風潮も見られています。
そうした政策的混乱、社会的な軋轢を抱えるなかで、冒頭記事にあるような多くのスーダン難民が定住を実現しています。

社会全体の“パラダイス鎖国”“ガラパゴス化”】
一方、日本は従来から、難民受け入れには消極的です。

****日本で難民申請、11年は最多1867人 認定は21人****
日本で難民認定を申請した外国人が2011年は1867人にのぼり、制度ができた1982年以降で最多となったことが法務省入国管理局のまとめでわかった。ただ、難民認定されたのはわずか21人で、05年以降で最も少なかった。

申請者の国籍は57カ国で、特に多かったのはミャンマー(491人)、ネパール(251人)、トルコ(234人)など。前年の申請者1202人から約1.6倍になった。同局は増加の理由を「就労する目的などで、何度も申請する外国人が増えた可能性がある」と説明している。

難民認定された外国人の国籍はミャンマー(18人)など4カ国。難民とは認められなかったものの、「在留特別許可」など人道的な配慮で滞在が認められた外国人が248人いた。認定者数の減少について、同局は「個別の審査の結果」としている。【2月24日】
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異質な人間が少ないことで、日本社会は安定的で、治安も世界有数の良好さを維持しています。
ただ、そうした同質社会への適応が困難なこともあって、そもそも日本への移住を希望する難民も限られているようです。

****第三国定住、面接は2家族=試行最終年、課題も―ミャンマー難民****
ミャンマーからタイに逃れた難民を日本に受け入れる第三国定住の第3陣に対する面接が15日、タイ北部メソトの国際機関施設で行われた。日本側は試験運用の3年間で90人を受け入れる予定だったが、最終年となる今年の候補者2家族10人を含めて計55人にとどまる見通し。政府は近く、来年度以降本格実施に移るか試行を続けるか方針を決める。

この日面接を受けたのはこのうちの9人で、いずれもミャンマーの少数民族カレン族。法務省の担当者が「最悪の場合、日本へ行けなくなることもあるので、うそはつかないでください」などと注意事項を説明し、家族ごとに移住の意思確認などを行った。

試験運用の初年度は5家族27人が日本に移住したが、2年目は最終段階で辞退者が出るなどして4家族18人に減少した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が希望者を募るが、海外移住を求める人の数自体が減少傾向にあるという。

第1陣として来日した難民の中に、日本での生活に適応できない人も現れた。こうした情報が難民キャンプ内に届いているという。法務省担当者は「既に移住した人たちが適応できるよう努力するとともに、キャンプ内の人に制度のことをよく知ってもらうことが大切」と話した。【2月15日 時事】
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審査も厳しいし、希望者も少ないということで、ある意味“難民”や“移民”が社会問題となることもあまりない安定状態にあるとも言えます。
外から異質な人間を受け入れることは多大なリスク・負担が生じます。
異質な人間への抵抗は、移民排斥的な極右政党が伸張する欧州各国でも顕著に見られます。

ただ、同質的な人間だけの居心地の良い安定した社会は、社会全体の“パラダイス鎖国”“ガラパゴス化”が進行するようにも思われ、今後少子高齢化が更に深刻な問題となる日本にとって、プラスとマイナス、どちらが大きいのか懸念もされます。
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アフガニスタン  米兵住民殺害事件による情勢流動化 女性教育とマイクロファイナンス

2012-03-19 21:28:23 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン・ヘラート BRACの運営する学校 ユニセフも支援しています。 “flickr”より By United Nations Assistance Mission in Afghanistan http://www.flickr.com/photos/unama/4856566798/ )

カルザイ大統領、治安権限移譲前倒しを要求
アフガニスタンで米兵が民家3軒に押し入り、非武装の住民に向けて銃を乱射、子供9人を含む16人が死亡したほか、負傷者も出た事件については、3月12日ブログ「アフガニスタン  駐留米軍兵士が子供を含む住民16名を射殺 繰り返される戦場の狂気」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120312)で取り上げたところです。

事件は、ただでさえ苦しいアメリカのアフガニスタン戦略を、より困難なものにしています。
アフガニスタン国内の反発を受けて、カルザイ大統領は治安権限移譲の前倒しを要求。アメリカのパネッタ米国防長官がアフガニスタンに出向き、一応、2014年末までに国際治安支援部隊(ISAF)からアフガニスタン政府に治安権限を完全移譲する現行計画を確認しました。
しかし、会談後にカルザイ大統領が、治安権限の移譲を1年前倒しして2013年までに完了し、ISAFを都市部以外の村落から撤収させるよう改めて要求するなど、不協和音が出ていました。

権限移譲については、カルザイ、オバマ両大統領の電話会談で、14年末までに移譲を終えるという方針が確認されていますが、「米部隊を村落部から撤退させる」というアフガニスタン側の要求については継続協議となっているようです。

****アフガン指揮権移行、来年から 米大統領が電話首脳会談****
オバマ米大統領は16日、アフガニスタンのカルザイ大統領と電話会談し、アフガン国内での戦闘任務の指揮権を来年からアフガン側に移行していく方針を確認した。米兵による民間人射殺事件を受け「米部隊を村落部から撤退させる」というカルザイ氏の要請に関しては、さらに協議を続ける。

米ホワイトハウスの発表によると、両首脳は2014年末までに米軍主体の国際治安支援部隊(ISAF)からアフガン政府への治安権限移譲を終えるという撤退計画を確認。ISAFは戦闘任務も来年中に終え、活動の比重を支援に移すことになる。
アフガンでは、イスラム教の聖典コーランの焼却事件や、2等軍曹が住民16人を射殺したとされる事件の後、反米デモが激化。米軍など外国部隊の早期撤退を求める声も強まっている。

オバマ政権は9万1千人のアフガン駐留米兵を、今年9月には6万8千人に減らす方針。その後の撤退計画は決まっておらず、今後の世論の動向にも左右されるとみられる。
カルザイ氏は5月に米シカゴで開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で訪米、治安権限移譲の細部をオバマ氏らと話し合う見通しだ。【3月19日 朝日】
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タリバン、和平交渉協議中断
一方、タリバンとの和平協議に向けた動きは、タリバン側の反発で“中断”となっています。

****タリバン、米国との対話を中断****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは15日、ウェブサイトに声明を掲載し、米国との間で行ってきた対話を中断すると発表した。
タリバンがカタールで米国側と行っていた捕虜交換などについての対話によって、米軍のアフガニスタン撤退前に政治的な解決が実現するのではないかとの期待がもたれていた。

タリバンは米国側の「一定しない姿勢」を対話中断の理由に挙げているが、ジェイ・カーニー米大統領報道官は、米国は一貫してタリバンが戦闘をやめること、国際テロ組織アルカイダとの関係を絶つこと、アフガニスタンの憲法に従うことという条件を示していたと反論した。(後略)【3月16日 AFP】
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上記記事では“期待がもたれていた”とされているタリバンとの交渉は、非常に困難と見られていましたので、“中断”の実質的意味合いがどの程度かという問題はありますが、現状よりハードルが高くなったことは間違いないでしょう。

尾を引きそうな容疑者への判決
住民殺害事件を起こしたロバート・ベールズ2等軍曹は、米カンザス州の米軍基地にある収容施設に移され、訴追手続きが始まる見通しですが、アフガニスタン世論を踏まえて、法ではなく政治の力で極刑を言い渡される可能性もあるとされています。

一方で、著名弁護士が弁護にあたることになっており、容疑者がこれまで3回派遣されたイラクで計3年を過ごし、数々の勲章を授与されたという経歴もあって、個人の犯罪ではなく戦争そのものの責任という主張もなされると思われます。
アメリカ国内には、個人の犯罪とすることに抵抗があるのではないでしょうか。オバマ政権としては国内大統領選挙を考えると、政治の力で極刑とは逆の選択もありうるのでは。

極刑になればアメリカ国内で、ならなければアフガニスタンで、また揉めそうな感があります。

【「勉強を続けて医者になりたい」】
そんなアフガニスタンに関して、女性教育・少額融資(マイクロファイナンス)のリポートがありました。
****途上国NGO、海外支援〈アジアンパワー****
■バングラデシュ発
積もった雪と泥が混じった坂道を上がり、周囲の家々と変わらない一軒家に入ると、小さな教室で少女たちが並んで迎えてくれた。クラスは一つだけだが、身長も年齢もまちまちだ。
アフガニスタンの首都カブール西郊の丘陵地。貧しい家族が多く暮らす住宅地にバングラデシュのNGO「BRAC(ブラック)」が運営する小学校がある。近くに通える小学校がないなどの理由で、入学機会を逸した10歳から18歳までの女子25人が通う。

マスマさん(18)は女子教育を禁じたタリバーン政権が2001年に崩壊した頃に就学年齢になったが、家から歩いて30分かかる小学校に通うのは危ないとの理由で両親が入学させず、代わりにじゅうたん織りの内職を手伝っていた。だが、3年前にNGOが女子学校をつくると友達から聞きつけ、親を説得。年下の子に交じって学んできた。

BRACの学校では、夏休みや冬休みなど長期休暇がなく、3年間で5年生までの課程を一気に教える。アフガンの教育省と連携し、卒業後は能力と年齢に応じて公立学校の6年生以上に編入できる。マスマさんは「勉強を続けて医者になりたい」と夢を語った。

BRACはアフガンでこうした小規模の小学校を約2300校運営し、少女を中心に約7万人が通う。
BRACはバングラデシュが内戦を経てパキスタンから独立した翌年の1972年に設立された。貧困の削減を目的に活動し、現在、バングラデシュ国内だけでスタッフが10万人、全国に事務所があり、国民の75%に当たる1億1千万人をカバーする。年間の支出は4億9500万ドル(約411億円)で、銀行や大学も経営する世界最大規模のNGOだとされる。

BRACが初の海外支援先として、アフガンでの活動を始めたのは02年。事務局長のマハブブ・ホサインさん(66)は「戦乱後の復興という部分は私たちの歴史と似通っていた。自分たちの経験を役立てようと考えた」と説明する。
実際、アフガンでの活動はバングラデシュで培った手法を主に使っている。小規模の学校は85年に始めた活動。教師を1人とすることでコストを抑え、きめ細かな指導ができるよう生徒を30人程度に絞る。こうした学校はバングラデシュ国内に約3万校ある。

バングラデシュ方式が奏功しているもう一つの活動が貧困層向けの少額融資(マイクロファイナンス)だ。女性を対象に5千~5万アフガニ(約8500~8万5千円)を貸し出し、起業によって自立を促す。

カブールに住むトルピカイさん(43)は3年前、1万アフガニを借り、市場から布を買って婦人服の仕立てを始めた。近所の人や市場で売れるようになり、借り入れと返済を重ねて、月7千アフガニ程度の収入が入るようになった。BRACの少額融資は14万6千人が利用し、融資総額は計3400万ドルに達する。

このほか、アフガンでは公立診療所の委託運営、農業支援なども行っており、職員の数はバングラデシュ人が139人、アフガン人約3千人に上る。アフガン代表のアリフル・イスラムさん(52)は「私たちは途上国のNGO。何でもできるわけではないが、能力に基づいて貧困を解消していきたい」と話す。
アフガンを皮切りに、BRACはいまアジア、アフリカ、カリブ地域の計9カ国に活動を広げた。年内には新たにフィリピン南部ミンダナオ島で学校の活動を始める予定だ。(後略)【3月19日 朝日】
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今後アフガニスタンの治安が悪化し、最終的にタリバンが復権するということになれば、こうした女性教育や女性向け起業融資なども頓挫することになるでしょう。
その意味で、先日の米兵による住民殺害事件による情勢流動化が懸念されます。

インド:マイクロファイナンスで自殺者続発
なお、マイクロファイナンスについては、バングラデシュのグラミン銀行が著名で、その総裁だったユヌス氏はノーベル平和賞も受賞しています。
マイクロファイナンスの話題は、これまでも11年3月3日ブログ「バングラデシュ ユヌス氏をグラミン銀行総裁から解任 厚い既存政治の壁」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110303)など、何回かブログで取り上げましたが、マイクロファイナンスには「貧困層にカネを貸して潤う吸血鬼」(バングラデシュのハシナ首相)との批判もあります。

下記は、インドにおける、そうしたマイクロファイナンスの問題を指摘したものです。
****存亡の淵「マイクロファイナンス*****
ノーベル平和賞の「小口金融」に自殺続出。高金利と追い貸しでインド版サブプライムか。

貧困撲滅と収益を両立させるマイクロファイナンス(貧困層向け小口無担保融資)が存亡の危機にある。発祥の地バングラデシュのグラミン銀行では、06年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス総裁が3月2日、中央銀行に解任された。隣国インドでも、投資家ジョージ・ソロス氏の支援も得て昨年8月にマイクロファイナンス機関(MFI)初の上場を遂げたSKSマイクロファイナンスが、わずか9カ月で株価が発行価格の3分の1に落ち込んだ。

ユヌス解任は現政権との政治的確執が原因とされているが「貧困層にカネを貸して潤う吸血鬼」(シェイク・ハシナ首相)とのMFI批判にも一理ある。現にMFIが盛んなインドのアンドラプラデシュ(AP)州では、利用者の自殺が相次ぎ、MFIのリスクが顕在化している。

年率150%の急成長
AP州にはSKSのほかに、シェア・マイクロフィン、アスミサ・マイクロフィン、スパンダナ・スフルティーなど大手が拠点を構え、インドのMFIの約4分の1が集中している。融資件数は村落と都市部を合わせて960万件(うち村落が650万件)、貸出残高の合計は723億8千万ルピー(約1300億円)に上る。09年時点でインド全体のMFIの推定貸出残高が1600億~1750億ルピーだったから、いかにAP州に集中しているかわかるだろう。

「家計が苦しくて借りましたが、金利があまりにも高く、毎週の返済のやりくりがつかず、取り立て業者から何度も返済を迫られました」。AP州第二の都市ヴィシャーカパトナムでは10月、MFIの融資を受けていた女性の留守中に、10歳の娘が取り立て業者と自助組織の会員たちに誘拐される事件が起きた。少女は無事、警察に保護されたが、彼女が追いこまれた状況は典型的だ。

インドのMF業界には約300社が参入しているが、貸出残高の合計の約74%は上位10社で占められている。インドではMFIが短期間で主要ビジネスとして急成長し、創業者たちは巨富を得た。06年度にインド国内5州で融資件数が20万2千件だったSKSは、4年後の10年度には19州で融資件数は約670万件へ、支店数は80店から2千店強、貸出残高も294億ルピーへと年間伸び率147.7%を記録している。(中略)

しかし急成長の裏には、多くのMFI各社が50%という高金利で融資し、追い貸しで回収率を引き上げてきた実態があった。インドでは融資事業は州政府が管轄しているため、AP州政府は10年10月に「2010年MFI法」を制定して強引な取り立てを封じこめようとした。細かい条項違反に重い罰金刑を科し、当局の許可なしでの追い貸しを禁止、回収も週1回でなく月1回(窓口は村落集会パンチャーヤト)にするなど、あまりにも厳しい内容で、MFIの存続を危うくした。

この結果、AP州では半年前には回収率98%を記録していたのが、自助組織に所属する60万人が債務不履行に陥った。州政府はMFIを機能不全に追い込みながら代替措置を打ち出さず、「病気より体に毒な治療」と非難された。

MFIのミソは小さな自助組織に貸し付けて、こまめに返済させるところにあるが、JRGセキュリティーズのアナンド・タンドン最高経営責任者(CEO)は「毎日のように余った金を集めなければ、この商売は成立しない。そうしないと、利用者が全額使い果たす」と言う。

MFIが崩壊して高利貸しが跋扈する時代へ逆戻りするのか。中央銀行のインド準備銀行(RBI)は昨年10月15日、小委員会を発足させ、MFI崩壊に対処するため調査に乗り出した。
今年1月に発表した小委報告によれば、利用者が借入資金のうち収益につながる事業活動に充てた割合は25.4%にとどまり、過去の借入金の返済に充てた(追い貸し)割合は20.4%。MFIが拡大を急ぐ余り、利用者の過去の債務歴や融資目的、返済能力を何も調べずに貸し付けた実態も確認できた。

自助組織にどれほどの返済能力があるかにかかわらず、取り立て業者が毎週、強引に返済を迫っていた事実もつかんだ。利用者が返済に行き詰まると、返済資金に追い貸しを迫り、借金を雪だるま式に膨らませていながら、銀行には何食わぬ顔で100%の回収率を提示していた。

また、強引な取り立てが原因とみられる自殺も51件あり、小委報告は「貧しい人々を貧困から救うはずのMFIは、融資を受けた人々の利益を奪うばかりか、尊厳や命まで奪った」と厳しく非難している。そのうえで、 MFIの貸出金利の上限を24%に設定、 金利のマージン(貸出金利と調達金利の差)は10~12%、 MFIを州政府の管轄から外し、借入額・金利・融資条件の明確な枠組みを設けた新タイプの金融機関として位置付ける――などを提案した。

中央銀行元総裁が警鐘
中央政府は小委提案を受けて、MF事業を規制する政府法案を作成する二人制パネルを任命した。法案は6月にも開かれる次回議会で提案される予定で、通過すればMFIは州政府の法令の影響を受けなくなる。
「規制の枠組みが一元化されるなら安心だ」とMFI業界の期待も高まっている。銀行も融資資金の証券化を再開し始めた。3月末に2行と融資資金の証券化取引を成立させたSKSのディリ・ラジ最高財務責任者(CFO)も「流動性ポジションを強化できる」と安堵している。銀行側は、このほかに、MFI5社の企業債務再編にも乗り出した。

しかし、安定した返済能力のない利用者に融資をしながら、銀行に対しては十分な回収能力があることを示して流動性を確保しなければならない――というジレンマに変わりはない。強力な自助組織と、事業を継続させるためにも法外な高金利融資の廃止という「2点を守れば、MFは今後もインドの優良事業分野として展開できる」(専門家)。

RBIも5月3日の声明で小委の提案を概ね受け入れるとともに、4月1日以降のMFIに対する銀行融資は、社会責任として銀行に融資を義務付ける「優先分野貸付」に分類して返済期限を延長、MFIの貸出金利の上限や融資条件の一部を小委提案より緩める考えを示した。

しかし、MFIに野放図に融資を広げさせるなとする意見がある。リーマン・ショックでインドの金融秩序を守ったY・V・レディ元RBI総裁は「MFはまるでインド版サブプライムローン。証券化やデリバティブ(金融派生商品)など米国の金融機関と同じ考え方だ。そして今度は優先分野貸付だ」と発言し、MFIの将来に警鐘を鳴らした。【11年6月8日 FACTA】
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マイクロファイナンスを単なる収益目的の金融業として運営すれば、生活苦の貧困者の多重債務・追い貸しを惹起し、「自殺者続出」という結果は目に見えています。
借りる側に資金の使途を明確にさせ、その起業をサポートする態勢が必要となります。
マイクロファイナンスが有意義な結果を生み出せるかは、運営する主体の理念にかかっています。
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北朝鮮  「衛星」打ち上げの発表にアメリカは戸惑いも 中国は慎重姿勢

2012-03-18 22:08:08 | 東アジア

(北朝鮮・江西郡の学校の壁絵 飢えに苦しむ子供も多いようですが・・・ “flickr”より By (stephan) http://www.flickr.com/photos/fljckr/3438624457/

【「不意を突かれなかった国はないだろう」】
北朝鮮は16日、4月に人工衛星を搭載したロケットを打ち上げると発表しました。現地メディア報道によれば、故・金日成国家主席の生誕100年に合わせ、4月12~16日の間に打ち上げを行う予定とのことです。

北朝鮮側は、「衛星」発射準備の一環として、国際民間航空機関(ICAO)と国際海事機関(IMO)などの国際機関に必要資料を送ったとしており、国際的な手続きを踏むことで「宇宙の平和利用目的」であることを強調しています。また、現場に外国の宇宙科学専門家と記者を招き、発射施設や打ち上げ状況を公開するとも発表しています。【3月17日 毎日より】

しかし、今回打ち上げが、98年から09年までの3回のミサイル発射実験と同様、核弾頭を小型化、軽量化して、アメリカ領土にも届く弾道ミサイルの配備への準備であることは衆目の一致するところです。

北朝鮮は2月末のアメリカとの協議で、24万トンの食糧支援と引き換えに、寧辺でのウラン濃縮活動、核実験、長距離ミサイル発射を一時停止し、ウラン濃縮施設を含む寧辺の核施設に国際原子力機関(IAEA)要員を受け入れると明らかにしたばかりです。

当然ながら、アメリカは「ミサイル発射なら合意破棄」と警告していますが、合意直後の突然の発表に困惑を隠せないようです。

***米「ミサイル発射なら合意破棄」 北、比東方沖に落下と予告****
米国務省のヌランド報道官は16日の記者会見で、北朝鮮が事実上の長距離弾道ミサイル発射を実施すれば、米朝合意の「破棄につながる」と警告し、食糧支援も「困難になる」との認識を示した。
また、デービース北朝鮮担当特別代表は、6カ国協議メンバーの日中韓露の政府高官と別々に電話会談し、ミサイル実験中止と米朝合意履行を迫るため、各国が取り組みを強化することで一致した。

ヌランド報道官は、米朝合意から16日後という北朝鮮の予告発表に「不意を突かれなかった国はないだろう」と述べた。オバマ政権は、今後の進展を「慎重ではあるが、楽観している」(国務省高官)としていただけに、突然の変節に戸惑いを隠せない。

北朝鮮は発表の数時間前、ニューヨークの国連代表部を通じて電話で「衛星打ち上げ」を通告。米国は米朝合意の交渉過程で「衛星」の発射も合意違反に当たると説明しており、北朝鮮側も承知の上での発表だったとみられる。

また、同報道官は、24万トンの栄養補助食品の提供で基本合意している食糧支援の実施には、北が合意内容を履行する「再保証が必要になった」と強調。ウラン濃縮施設への国際原子力機関(IAEA)監視員の派遣も「意味をなすようには見えない」と実現に否定的な見方を示した。(中略)

日本政府関係者は17日、ロケットの1段目は韓国の西方沖、2段目は発射地点から約3千キロ南方のフィリピン東方沖に落下すると予告してきたと明らかにした。【3月18日 産経】
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指導部内部に不一致?選挙を控えた米韓揺さぶり?】
北朝鮮の豹変ぶりについては、政権内部の意見の不一致や分裂を反映したものとの見方もあります。ただ、何を考えているかわからないとも、したたかな戦略で動いているとも言われる北朝鮮ですので、本当のところはよくわかりません。

****北のミサイル予告 核弾頭配備が目的 米専門家****
・・・・北朝鮮は今回も前回の実験と同様に、衛星打ち上げを目的にあげているが、同氏(米国議会調査局で長年、朝鮮半島情勢を専門に研究してきたラリー・ニクシュ氏)は、北はつい2週間ほど前に米国との間で成立させた「ミサイル発射の一時停止」合意に違反することは承知していると語った。

同氏は「米朝合意への違反となる行動をこれほど早く発表した点が最も意外だ」と述べ、「この不整合はいまの北朝鮮の集団的指導部に政策方向をめぐる意見の不一致や分裂があることを示唆しているとも受け取れる」と論評した。
同氏はまた「北朝鮮の軍部の強硬意見が強くなったともみられるが、指導部内でのこの種の意見の不一致をおさめられるほどには金正恩氏の力はまだ強くはない」と述べ、この不一致が今後さらに大きな不安定を招く可能性をも指摘した。

同氏はさらに「北朝鮮指導部内では2009年春ごろから軍部の力が一段と強くなり、核兵器開発への動きが強まり、6カ国協議への復帰にも強い反対が表明されたようだ」と述べ、米国としては今後中国を含む関係各国に呼びかけ、とくに核弾頭用のミサイル発射の実験をやめるよう訴えていくだろうと、語った。【3月18日 産経】
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この時期の“衛星”発射については、選挙を控えるアメリカ・韓国への揺さぶりとの指摘もあります。

****選挙控える米韓に揺さぶり ****
北朝鮮が16日に表明した「実験衛星」の打ち上げは、まだ20代の金正恩(キム・ジョンウン)氏による体制になって、初めてとなる大きな決断だった。新体制の確立を急ぐとされる北朝鮮だが、米韓などが抱える事情を十分に踏まえ大胆な仕掛けに出てきた。(中略)

韓国外交通商省の報道官は16日の談話で「地域の平和と安全を脅かす重大な挑発行為」と非難し、即刻中止を求めた。だが、「発表したからには必ずやるだろう」(大統領府関係者)との見方が支配的だ。

父の金正日(キム・ジョンイル)総書記の急死で、指導者の地位を受け継いだ金正恩氏だが、対外的な政策は生前に父が敷いたレールを踏襲してきた。最重視する米国との間で先月末、核・ミサイル問題と食糧支援を取引する形で合意したことも、北朝鮮にまず非核化措置を求める韓国の李明博政権とは本格的な対話に応じないことも、従来方針の通りだ。

そんな金正恩体制が初めて繰り出した手が「衛星打ち上げ」だった。北朝鮮は今後、大統領選を控えて身動きしにくい米国の足元を見据えつつ、中国やロシアを巻き込んで国連決議や制裁強化をかわす考えだろう。これまで以上に丁寧に宇宙開発の意思を説明するのは、中ロに向けたメッセージともとれる。

北朝鮮が故金日成(キム・イルソン)主席の生誕100年に合わせるように表明した4月12~16日の打ち上げ時期は、韓国の政権・与党をも強く牽制(けんせい)している。4月11日は与野党が大接戦を繰り広げ、年末の大統領選にまで影響を与えかねない総選挙の投開票日。
与党セヌリ党関係者は「ミサイル発射のカウントダウンの中で総選挙を迎えるようなものだ。有権者の危機感をあおって、揺さぶろうとしているのではないか」といぶかる。【3月18日 朝日】
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中国:北朝鮮を極度に刺激しないよう腐心
日米韓は長距離弾道ミサイルの発射と見なし、国連安保理決議や先の米朝合意に違反するとして非難していますが、北朝鮮側は「われわれの平和的な宇宙利用権利を否定し、自主権を侵害する卑劣な行為だ」と反論しています。

ロシア外務省も声明を出し、弾道ミサイルの発射を禁じた国連安全保障理事会の決議違反になると指摘して「深刻な懸念」を表明しています。

微妙なのは、北朝鮮の後ろ盾であると同時に、6カ国協議の議長国でもある中国の対応です。
「重大な関心と憂慮」を表明してはいますが、“北朝鮮を強く批判することは避け、自国に不利な事態を招かぬよう慎重に立ち回っている”【下記記事】とも。

****北のミサイル予告 中国、苦肉の「憂慮*****
北朝鮮による事実上の長距離弾道ミサイル発射実験の予告について、中国政府は17日までに「重大な関心と憂慮」を表明した。北朝鮮の核問題を協議する6カ国協議の議長国として、他の関係国に同調する姿勢を見せつつも、北朝鮮を強く批判することは避け、自国に不利な事態を招かぬよう慎重に立ち回っている。

国営新華社通信によると、中国の張志軍外務次官は16日、北朝鮮の池在竜駐中国大使と会談し、「憂慮」を伝えた。表面上は衛星打ち上げとの認識を崩さず、「朝鮮半島と東北アジアの平和と安定は関係国の共同責任だ。関係国が冷静に自制を保ち、事態を拡大させて情勢を複雑にしないよう望む」と従来の主張を繰り返した。

新華社は17日も、国際社会が北朝鮮の“衛星計画”に関心を寄せていることを伝えたが、中国は発射の是非に言及せず、北朝鮮だけ非難することを控えている。

“衛星”の発射場所とみられる平安北道鉄山郡の東倉里ミサイル発射施設は、中朝国境を流れる鴨緑江の河口から直線距離で約80キロしか離れていない。中国は、米韓による同施設への強硬措置を抑止するための“防波堤”に使われている側面も否めない。

中国にとって北朝鮮は在韓米軍との緩衝地帯であり、難民流入は自国の経済にも悪影響を及ぼす。何より、今秋の指導部交代に向け、国内の安定を最優先している胡錦濤政権としては、北朝鮮が引き起こす非常事態に巻き込まれるわけにはいかない。
中国がすでに食糧などの無償援助を始めたとの情報も流れる中、北朝鮮を極度に刺激しないよう腐心している様子がうかがえる。

6カ国協議再開につながると期待された2月の米朝高官協議での合意も中国は自国の外交成果と位置づけてきた。しかし、“衛星”発射はこのプロセスに悪影響を及ぼしかねない。17日に北朝鮮の6カ国協議首席代表、李容浩外務次官が北京入り。中国側は協議再開に向けた動きを後退させないよう求めるとみられる。【3月18日 産経】
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【“衛星”発射の一方で、外資導入を図る
北朝鮮は、国際的非難を浴びる“衛星”発射の発表の一方で、経済特区への外資導入も図っており、いよいよ“何を考えているのか”といった感もあります。

****北朝鮮:経済特区関連法を公表、積極的に外資導入狙う****
北朝鮮の朝鮮中央通信は17日、中朝国境地帯で開発を進める経済特区の関連法全文をウェブサイト上で公表した。韓国を含む各国からの投資を積極的に呼び込む内容。国際社会の要求に背を向けて、長距離弾道ミサイルと同じ技術を用いる「実用衛星の打ち上げ」を発表する一方、外資導入を図ろうとする北朝鮮の対外政策の矛盾が浮き彫りになっている格好だ。

サイトに全文が掲載された関連法は、最高人民会議常任委員会で昨年12月3日に採択された「黄金坪島(ファングムピョンド)・威化島(ウィファド)経済地帯法」と、修正・補充した「羅先(ラソン)経済貿易地帯法」。
 北朝鮮は、中朝国境に近い羅先特別市と平安北道(ピョンアンプクド)の中州、黄金坪島・威化島に経済特区を設け、昨年6月には中朝両国で共同開発に合意した。ただ、合意後も新規進出した企業はほとんどなく、開発は順調に進んでいない。

関連法はこうした事情を踏まえて、投資保護の仕組みを詳しく規定した。「経済地帯には世界各国の法人や個人、経済組織が投資できる。我が国の領域外に居住する朝鮮同胞も、この法律により経済貿易地帯に投資することができる」と明記している。
「領域外に居住する朝鮮同胞」は主に韓国人を指すとみられ、南北協力により大きな成果が出ている開城(ケソン)工業団地を念頭に、韓国企業による投資に期待を寄せている模様だ。

また、経済特区の開発と管理・運営について、北朝鮮が主導的な役割を果たすことを明確にしている。中朝両国による共同開発においても、経済力で圧倒的に勝る中国側に主導権を握られないようにする狙いとみられる。

北朝鮮が経済発展するには、羅先や黄金坪島などに国外の資本と技術を呼び込み、部分的にでも経済開放を進めるほかない。その際、隣接する経済大国・中国だけに頼るよりも、韓国や日本、欧州企業の投資も呼び込みたいというのが、北朝鮮の経済担当者らの本音だ。今回、公開された関連法には、こうした考えが反映されているとみられる。【3月18日 毎日】
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尋常ならざる国を隣人に持つ日本としては、はなはだ困ったことですが、自国民を窮乏にさらしても核・ミサイル開発に邁進する国とは常識的な対話も困難です。

北朝鮮の行動に一番影響力を持つのは中国ですが、その中国も北朝鮮には手を焼いているとも言われます。ただ、食糧やエネルギーなど、中国との関係なしに北朝鮮がやっていけるとも思えませんので、中国が本気で対応すれば北朝鮮を動かすことは可能でしょう。

その中国を動かせるのはアメリカですが、対中包囲網的な「対抗」だけの力関係では、中国にそうした決断をさせるのは無理でしょう。中国を取り込むような新たな枠組みが必要でしょう。
そうしたとき、日本は東アジアでどのような位置づけになるのか・・・という問題もあります。

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イラン  大統領の議会喚問 現代イラン社会事情:一時婚、結婚相談所に「くの一」

2012-03-17 21:22:24 | イラン

(写真は、後述のイラン忍者スクールとは別物で、軍か警察の女性隊員の訓練風景です。黒のスカーフですから、こちらもまるで忍者のようですが、ずっと本格派です。逆らうと殺されます。 “flickr”より By Majd Selbi http://www.flickr.com/photos/35445333@N08/5430659866/

【「喚問を試みた者はそれほど賢くもなさそうだ」】
イランでは、保守派内部でアフマディネジャド大統領と最高指導者ハメネイ師に近い反大統領派の権力闘争が激しくなっており、2日に投票が行われたイラン国会議員選挙では、議席の4分の3以上を制する形で反大統領派が圧勝、大統領派は惨敗しました。

反大統領派は選挙勝利の勢い乗って、14日、33年前のイスラム革命以降初めて、大統領を議会に喚問しています。
議会側は、この大統領喚問で、アフマディネジャド大統領の経済政策が失敗し、10年12月の政府補助金削減後に激しい物価高を招いているとしたほか、大統領が去年4月、最高指導者ハメネイ師に逆らって11日間閣議を欠席し公務を行わなかったとして責任を追及しました。

****大統領の責任を追及 経済問題など、イラン国会****
イラン国会は14日、アフマディネジャド大統領を呼び、経済問題などについて集中的に質問した。大統領に対する事実上の「喚問」で、イラン史上初めてとされる。反大統領派が優勢な国会で、インフレや失業率を抑制できない大統領の責任を問う声が相次いだ。

これに対し、大統領は「前政権ができなかった経済改革を進めた。できることはすべて実行し、経済は発展している」と一般論でかわし、具体論には踏み込まなかった。

イスラム式の服装規定を守らない女性を警察が摘発することに、大統領が否定的な発言をしたことを質問されても、「人々に敬意を持って接しなさいということだ。警察力だけで文化的な問題は解決しない」と反論。答弁の最後には「喚問を試みた者はそれほど賢くもなさそうだ」と述べ、議員たちを怒らせた。

現国会の任期は4月末まで。今月2日の国会議員選では反大統領派が約6割から約7割に増えたため、5月に招集される新国会では大統領との対立がさらに激化しそうだ。【3月15日 朝日】
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大統領の権力弱体化を印象づける狙い
アフマディネジャド大統領は、議員の批判をかわしながらも、ハメネイ師に逆らう意図はないと弁明したうえで、「議会は私の喚問ではなく、国民のためにすべきことがほかにあるのではないか」と、議会を批判しました
今後に展開については、これ以上の弾劾などには至らないと見られています。

****イラン国会が大統領を喚問-弾劾の可能性は薄い****
・・・・喚問はハメネイ師支持派が要求していたもので、国営ラジオで生中継された。イランの法律では、喚問は大統領弾劾につながる重大な動き。しかしアハマディネジャド大統領は、質問には直接答えず、逆に議員に問い返すなど質問者を翻弄し、議員の多くが金を払って学位を所得したなどとして議員の信頼性に疑問を投げかけた。

国会は喚問を受け、大統領の回答を十分として受け入れさやを収めるか、大統領の不信任投票を発表し弾劾のプロセスに入るかのどちらかを選択することになる。
イラン問題専門家で米ボストンに拠点を置いているモハマド・タハボリ氏は、「弾劾はあり得ない。ハメネイ師は混乱を起こしたくないと思っているからだ。アハマディネジャド大統領との対立がさらに先鋭化すれば、大統領はイランの政治体制を崩壊させかねない」と述べる。

3月2日に行われた国会議員選挙で、大統領派は大敗し、ハメネイ派と無所属が過半数を占めた。
国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランとの間の同国の核問題をめぐる交渉は、今後2、3カ月以内に実現する見通しとなっている。一方で、米欧などによる対イラン制裁は強化の一途をたどっており、イラン経済は疲弊している。 

アハマディネジャド大統領は6カ国との交渉に前向きになっているが、ハメネイ師は妥協を阻んでいる。アナリストによれば、大統領は国内外での自らの地位を強化するため西側諸国との関係正常化を図りたいとの思惑があるという。【3月 15日 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版】
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核兵器の開発疑惑を指摘されたイランは6日、国際原子力機関(IAEA)による軍事施設の査察に応じると表明しています。今年1月と2月にはIAEA調査団の立ち入りを拒んでおり、イラン側が「譲歩」を示した形となっています。
これを受け、国連安全保障理事会常任理事国など6カ国とイランとの核協議も再開が決まっています。イランは譲歩の姿勢を示すことで制裁緩和につなげたい思惑があるとみられています。
しかし、イラン側がウラン濃縮を放棄することは考えにくく、協議が進展する見通しはないとも指摘されています。【3月8日 朝日より】

反大統領派は、欧米諸国により強硬な姿勢をとるとされています。
今回の議会喚問は、国会で多数を占める反大統領派が大統領の権力弱体化を印象づける狙いがあるとされており、弾劾等には至らなくても、アフマディネジャド大統領の対イラン制裁緩和に向けた指導力発揮は更に難しくなりそうです。

牛乳が欲しいからといって牛を買う必要はない
ところで、冒頭記事に“イスラム式の服装規定を守らない女性を警察が摘発することに、大統領が否定的な発言をした”とあるように、宗教保守派に比べると、アフマディネジャド大統領は女性に寛容な姿勢を見せています。
ただ、他のイスラム国家同様に、イランでも女性の権利は、欧米価値観からすると大きく制約されています。
そんなイランにおける女性問題を示す記事がありました。

****イラン国会:「一時婚」登録制を拒否****
イラン国会は、正式な結婚とは別に、男女が契約を結べば一定期間だけ婚姻関係を持つことが許される「一時婚(シーゲ)」について、「役所への登録は不要」との結論を出した。一時婚はイスラム教シーア派独特の習慣。国内の女性からは「売春と同じだ」との批判があり、登録制にして一時婚の管理・抑制を求める声が強い。しかし、男性が大半を占める国会は「国民のプライバシーにかかわる問題だ」として登録制の動きを阻止した。

イスラム教では一般に男性は4人までの妻帯が可能。一時婚はこれとは別で、男女が互いにアラビア語で誓いをし、男性が女性に金を払えば、1時間から数十年間までの一定期間、関係を持てる。男性は既婚、未婚を問わないが、女性は未婚のみで、相続などの権利は一切ない。イスラム教スンニ派は一時婚を認めていない。

イランでは婚姻外の恋愛はご法度で、性的関係が発覚すれば男女とも石打ちによる死刑に処せられる可能性もある。だが、一時婚は貧しい女性を救済する意味もあり、金銭を介した男女関係として宗教上認められている。
イランの女性からは「男性ばかりに都合がいい制度」と評判が悪い。大半の男性は一時婚についてだれにも口外しない。一時婚で生まれた子供が父親に認知されず、福祉や義務教育の対象にならないなどの問題も多い。

このため、政府は女性団体などの意向を受け、一時婚を登録制にすることを盛り込んだ「家族保護法」の改正案を07年に国会に提案。長く議論を続けたが、多くの男性国会議員が強く反発。結局、今月5日に「女性が妊娠した場合や当事者が望む場合だけ例外的に登録する」と修正して可決した。

国会の決定について、テヘラン在住の女性人権活動家のバリモラドさんは「今後も男性に一時婚を奨励するような決定で、女性の人権を踏みにじるものだ。一時婚の後に子供ができたことがわかり、生活に苦しむ母子も多い。これでは家族保護法ではなく、家族破壊法だ」と話している。【3月15日 毎日】
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「一時婚」のイメージとしては、「地球人間模様」(http://www.47news.jp/47topics/ningenmoyou/126.html)の下記リポートが参考になります。

****悪評高い「一時婚」制度 頻繁に利用する男性も****
・・・・ファルザネが批判する一時婚制度はイラン女性に概して評判が悪い。欧米諸国からも「売春を合法化している」との批判が上がる。同じイスラム教でもスンニ派は預言者ムハンマドの側近、第2代正統カリフが禁止したとして違法視している。

テヘラン南西部に住む主婦(37)は4年前に交通事故で夫を失った。社会保障は受けられず、6歳の娘と生きていくために近所の男性と3年前に初めて“1時間”の一時婚契約を結び、20米ドルの「結納金」を得て性交渉を持った。契約時間が終わると男性は結婚契約書を破り「これでおしまい」と言ったという。
その後、彼女は一時婚の手続きやあっせんをする聖職者のもとで登録。複数の男性と数時間から数日の一時婚契約を結び、月700〜1200米ドルを得ている。男性の多くが既婚者だという。

「自分が売春婦に思え、身体を焼いてしまいたいと思うこともある。生活のためだけど、娘には知られたくない。イスラム教で認められている制度ということだけがせめてもの救い」と話し、涙を流した。

一方、一時婚を頻繁に利用する建築会社勤務の男性(31)は悪びれずに話した。「25歳の時の初体験も一時婚だった。普通の結婚は金がかかるし面倒。牛乳が欲しいからといって牛を買う必要はない。コップ一杯の牛乳を買えばいいんだ」
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殆んど「売春」に近い制度のようですが、多くの制約のもとで女性の社会進出が難しいイランにあっては、他に収入を得られない女性の生活を支える方策にもなっているようです。

伝統的な方法での伴侶探しは現実と乖離
上記「地球人間模様」は、イランにおける結婚相談所を取り上げており、男女関係をめぐる現代イラン社会の一面として興味深いので、紹介します。

****困難な出会い、相談所頼み****
変わる女性の伴侶探し 伝統とのはざまで苦悩

イランの首都テヘラン西部のアパート4階にある結婚相談所「若者の希望の家」ではひっきりなしに電話が鳴っていた。「27歳女性、語学の学士号を持っています。高学歴で29〜32歳の男性を紹介してください。公務員だとなおいいです」
十数人の女性相談員が顧客の希望を用紙に書き込む。異性の会員のデータを検索して希望に沿う相手を探し、双方に紹介するのだ。

イスラム教の戒律を厳しく適用、結婚前の男女交際は好ましくないと見なされるイラン。結婚相手は親や親戚が決め、夫婦は結婚式当日に初めて顔を合わせるのが理想とされている。だが、都市人口が増え、生活様式や若者の考え方も変化。伝統的な方法での伴侶探しは現実と乖離(かいり)している。

同相談所には2200人以上が登録。最近は登録数が激増しており、3分の2が女性。大学で生物学を学ぶ29歳のザハラもその一人だ。

妹が結婚できない
テヘラン近郊の「信仰をほどほどに重んじる」家庭の8人きょうだいの4番目。すべての女性が頭髪を隠すことを義務付けられているイランだが、髪を1本も露出させずにスカーフでしっかりと包んだ保守的なスタイルは最近の若い女性には珍しい。
男性との交際経験がないザハラが結婚を急ぐのは年齢による焦りもあるが、自分が結婚しないうちは2人の妹も結婚できないという家庭内の暗黙の決まりのせいもある。

同結婚相談所では週に1度、男女の登録者40人ほどが集まり、お互いに顔を合わせる「会合」も行われる。自己紹介をして結婚観などの意見交換を行い、好印象を持った異性の番号を紙に書いて交換し合う。双方が合意すれば結婚を前提にした交際に発展する。
会合に参加していた女性は概して高学歴だった。対する男性は年配でブルーカラーが多い傾向がある。

「自分より学歴や収入が上の女性を避ける男性が多いし、男性の母親は夫に従順で家事が得意な嫁を好む」とザハラ。一方、大学進学率が男性を上回るほど高学歴化が進むイラン女性が最も重視するのは「経済力」。自分より収入の低い男性は「お断り」のようだ。

ザハラは数カ月前、相談所を通じて知り合った男性(34)を自宅に招待した。「収入も学歴も申し分なかった」。だが、ザハラの家にイスラム教の教典コーランの一節を書いた壁掛けがあったことを理由に、世俗的な生活を好む男性の母親に結婚を反対されたという。
相談所ではほかに3人の男性を紹介されたが、いずれも地方の実家で暮らしたいと言われ、家族のいるテヘラン近郊に住みたいザハラの希望と折り合わなかった。

婚前交渉も
ザハラの婚活の行方を気に掛ける妹の24歳のファルザネには、最近つきあい始めた男性(25)がいる。「私は情熱的。いつも一目ぼれで恋愛が始まるの」とファルザネ。公園でデートもする。イスラム社会でタブー視される婚前交渉も「最近はしている人が多い」。

だが、ファルザネは、結婚を前提とした真剣な交際を避けるイラン男性が多いと話す。イランの国教であるイスラム教シーア派で合法とされる「一時婚」という制度のせいだという。
一時婚は男女が期間と結納金の額を決めて婚姻契約を結ぶ制度。婚姻外の性交渉は姦通(かんつう)罪とされ、既婚者は石打ちによる死刑、未婚者はむち打ちの刑に値するイランだが、一時婚の関係なら問題ない。「一時婚で性的欲求を満たせればいいと考える男が多い。責任を取りたくないのよ」とファルザネは憤る。

テヘランでほぼ唯一の結婚相談所である「若者の希望の家」は婚前恋愛を奨励しているとも受け取られ、イラン当局からすれば限りなく違法に近い施設。責任者のヤズダニ・サイードは「需要が多いことを察してか、今のところは当局も見逃してくれている」と話す。「きちんとした身元の人を」と親に連れられて来る利用者もいる。
ザハラは数カ月たっても「成果」がなかったため、家族に相談所通いをやめるように言われた。でも、ほかに男性と知り合うあてもない。「親に内緒でもう少し通おうと思う」と打ち明けた。 「地球人間模様」(http://www.47news.jp/47topics/ningenmoyou/126.html)より
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イラン男女交際事情ついでに、ネット恋愛に関する記事も。
****イラン:「ネット恋愛」を宗教指導者が容認****
イランのイスラム教シーア派最高権威(大アヤトラ)の宗教指導者、マカレム・シラジ師は28日までに、インターネット上で若い男女が知り合うことについて、容認するファトワ(宗教見解)を出した。結婚前の自由な男女交際や大勢のパーティーすら禁じられる同国で「ネット恋愛」にゴーサインが出るのは異例。

イラン学生通信などによると、同師はネット上の恋愛について「さまざまな人々がネット上で相手を探し、一部は成功しているようだ。イスラムの原則を尊重し、信用できる人々の監視下にあれば問題ない」との見方を示した。

同国では高校まですべて男女が分離され、互いに知り合う場が少ない。反政府デモへの警戒からイラン当局は交流サイト「フェイスブック」などの閲覧を禁じているが、サイト上では多くの男女が交友関係を広げているのが実態だ。

家族の役割を重視するイスラム教国のイランでは早い結婚が奨励され、アフマディネジャド大統領は昨年11月、「女性は16~17歳、男性は19~20歳で結婚するのが望ましい」と語った。しかし、女性の高学歴化や男性側の資金不足などで、現実には結婚平均年齢(女性24歳、男性26歳)は上がる一方。こうした現状に宗教界も頭を痛め、ネットを通じた恋愛が結婚を促すとして容認したとみられる。【11年6月29日 毎日】
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手裏剣だって投げます
イラン女性について、もうひとつ、こんな記事も。
****イラン女性に「忍術」が人気?華麗な技を披露****
イランの女性たちの間で近年、日本の忍術や武道が人気を呼んでおり、イラン武道連盟傘下の武道クラブで忍術を学ぶイラン女性は3000人に上るという。首都テヘラン西方のカライでは15日、忍術を学ぶイラン女性によるデモンストレーションが行われた。【3月16日 AFP】
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イラン「くの一」については、以前から話題になっており、You Tube動画 「Iranian Ninjas-Iran-01-29-2012」(http://www.youtube.com/watch?v=MJjpFYVvwBo&feature=player_embedded)が、百聞は一見に如かずです。ツッコミどころ満載で、とても面白い動画です。

「一時婚」「結婚相談所」「ネット恋愛」に「忍術」・・・・核兵器開発疑惑などの報道では見えてこないイラン社会の一断面です。
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フランス大統領選挙  サルコジ、オランドどちらでもEU求心力に問題

2012-03-15 21:52:37 | 欧州情勢

(パリ・マドレーヌ教会前で物乞いするムスリム女性 “flickr”より By Eric.Parker http://www.flickr.com/photos/ericparker/4796726181/ )

【「移民半減」など極右支持層を取り込む戦術が奏功
フランスでは4月22日に大統領選挙第1回投票が行われますが、ここまで野党・社会党のオランド前第1書記にリードを許し苦戦を強いられてきたサルコジ大統領が、極右票狙いの「右旋回」が功を奏して、ようやく第1回投票での首位をつかむまでに支持を伸ばしています。
ただ、決選投票については、依然としてオランド候補が大きくリードしており、サルコジ苦戦の情勢は変わっていません。

****仏大統領選:世論調査でサルコジ氏がオランド氏を初逆転****
フランス大統領選の第1回投票(4月22日)に向けた世論調査の支持率で、右派・国民運動連合のサルコジ大統領(57)が、これまで首位を走ってきた最大野党・社会党のオランド前第1書記(57)を初めて逆転した。

2月15日の正式出馬表明以来、メディア露出を激増させたほか、「移民半減」など極右支持層を取り込む戦術が奏功した形だ。だが上位2人による決選投票(5月6日)になった場合の支持率では、依然としてオランド氏がリードを保っている。

世論調査会社IFOP社が13日発表した調査によると、第1回投票の支持率は、サルコジ氏28.5%、オランド氏27%。前回の2月26日よりサルコジ氏が1.5ポイント伸ばしたのに対し、オランド氏は1.5ポイント下げた。だが決選投票となった場合の支持率は、オランド氏54.5%に対し、サルコジ氏は45.5%と、オランド氏のリードが続いている。

支持率3位の極右政党「国民戦線」のルペン氏(43)は、今回の調査では前回より1ポイント下げ16%だった。サルコジ氏の支持率上昇とともにルペン氏の支持率が下がる傾向が続いており、サルコジ氏や右派与党・国民運動連合の右旋回戦術に支持層を侵食されているとみられる。ただ、ルペン氏は13日、これまで懸案だった、立候補に必要な市町村長など500人の推薦人の確保は達成したと発表。選挙運動を本格化させる体制が整ったため、巻き返す可能性もある。
支持率4位の中道政党「民主運動」のバイル氏(60)は13%だった。【3月13日 毎日】
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サルコジ大統領:「シェンゲン協定」厳格化を要求
そのサルコジ大統領の、「わが国の領土にあまりにも外国人が多すぎる」「(新しく入国する)移民の数を半減させる」といった反移民政策など「右旋回」については、3月9日ブログ“フランス大統領選挙  苦戦のサルコジ大統領は「右旋回」 リードする社会党候補は「まるでユートピア」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120309)でも取り上げたところです。

更に、サルコジ大統領は、欧州諸国間の自由移動を認めた「シェンゲン協定」について、不法移民対策強化のための改正が行われない場合、一時的に実施を停止する意向を表明した。

****サルコジ氏、不法移民対策を強化 保守票取り込みへ****
・・・・サルコジ氏は最大野党、社会党候補のオランド前第1書記に苦戦を強いられており、協定の停止は極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首の支持層など保守票を取り込むためだ。これまでにもフランスが受け入れる移民数を年間10万人に制限する方針を示すなど、保守的主張を強めている。

シェンゲン協定は各国間の出入国審査の廃止を定めており、欧州連合(EU)加盟国中22カ国とスイスなど4カ国が実施している。不法移民でも一度入れば、自由に域内を移動できる。
サルコジ氏はパリ近郊で同日開かれた集会で、移民対策のための協定改正について、「1年以内に重大な進展がなければ、交渉が終了するまでの間、参加を中止する」と述べた。

サルコジ氏はさらに、公共事業に自国製品の優先調達を義務付け、保護貿易主義との批判を招いた米国の「バイ・アメリカン」条項を引き合いに、同様の制度をEUで導入することを主張。1年以内に実現しなければ、「バイ・フレンチ」法としてフランス一国でも実施するとした。(後略)【3月13日 産経】
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人、カネ、モノの自由な移動によって域内統合を図るEUにとって、人の自由移動を認めた「シェンゲン協定」は、ヨーロッパ市民としてのアイデンティティー形成、政治的主体としての共同体の一体感形成に寄与する重要な柱です。国境で分断されない統一体を形成し、域内においては警察・司法の協力態勢をとろうとする試みです。
また、経済活動の自由化ひいては活性化が期待されています。
現在は、 アイルランドとイギリスを除くすべてのEUの加盟国と、非加盟国のノルウェーおよびアイスランドが参加しています。

この協定によって、国籍取得が容易な加盟国で国籍を取得すれば「合法移民」として、フランスなど移民制限をしている国へも移動・就労が可能となります。また不法移民についても、一旦域内に入れば、域内他国への移動が可能となります。
その結果、移民の増加を招くことにもなり、国内失業者や貧困層からは、雇用を奪われている、競合により低賃金となっているとの不満も出てきます。フランスの場合、北アフリカや中東からのイスラム系移民の増大が問題視されています。

2011年の「アラブの春」の影響で、チュニジアやリビアから多数の難民新たに抱え込んだイタリアは、EUに支援を要請しましたが回答がなかったため、仮の滞在許可証を発行し、難民の希望地であるフランスなどへの越境を促しました。これに対しフランスは、イタリアとの国境を一時的に閉鎖し、イタリアとフランスの間で緊張が高まったこともありました。

サルコジ大統領が再選を果たし、実際に「反移民」政策を実行すれば、EU統合の理念とぶつかる場面が出てきそうです。

オランド候補:「経済成長戦略も必要」】
一方、厳格な歳出削減策に消極的な社会党オランド候補が当選しても、EUにとっては大きな問題を抱え込むことになります。

****仏大統領選:積極的財政出動唱えるオランド氏に不安の声*****
フランス大統領選(4月22日第1回投票)で、サルコジ大統領(57)の対立候補である最大野党・社会党のオランド前第1書記(57)の債務危機対策に不安の声が上がっている。
オランド氏が欧州連合(EU)の25カ国により2日に署名された「財政規律条約」の改正を主張、積極的な財政出動を唱えているからだ。オランド氏が当選すれば、独仏主導で進めてきた債務危機対策が根底から崩れるとの不安感がEU各国に流れている。

オランド氏は財政規律条約の厳格な歳出削減策に強い不満を示し、「経済成長戦略も必要」と主張。財政赤字を絶対悪とみなすメルケル独首相やサルコジ氏の路線とは明確に異なる。債務危機解決の切り札とされる「ユーロ共同債」もこれまで仏独の合意で先送りされたが、オランド氏は実現を目指している。

債務危機ではこれまで、独仏首脳会談で対応策の大枠を決め、他のユーロ圏諸国が従うパターンが続いてきたが、既に変化の兆しが見える。仏ルモンド紙は「メルケル首相はサルコジ氏以外の欧州首脳との面会回数を増やしている」と指摘。「サルコジ後」をにらんだ対策に加え、「1月の仏国債の格下げで、独仏はもはや以前の力関係にない」と分析した。

一方のオランド氏側近も仏経済紙「レゼコー」で「成長戦略を打ち出すには欧州全体との対話が重要だ」と語るなど、欧州の構図が大きく変わる可能性がある。

仏大統領選ではこれまでも、第1回投票を前に左右の2大政党の候補者がそれぞれ極左、極右により近い政策を掲げて支持基盤を固め、決選の第2回投票では中道層を奪い合う展開が繰り返されてきた。仏世論調査会社「CSA」の5日の調査では、極左政党「左翼戦線」の支持者の7割が、オランド氏の経済政策を「信用できる」と回答している。【3月15日 毎日】
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【「(緊縮策に)賛成したのは、債務削減をうまくいかせるためだ」】
財政規律強化を目的とした新条約で当面のギリシャ危機をしのいだEUですが、財政削減に国内の抵抗が強いのはフランスだけではありません。
緊縮策を受け入れた当のギリシャでも選挙態勢に入るにつれて、次期政権の中心となることが予想されている新民主主義党(ND)のサマラス党首は11日、「(緊縮策に)賛成したのは、債務削減をうまくいかせるためだ」と強調し、緊縮策を見直す考えを示しています。

****ギリシャ、高まる選挙ムード 反緊縮の左派、支持伸ばす 2次支援決定****
欧州債務危機の発端となったギリシャで、無秩序なデフォルト(債務不履行)回避にめどがついたことを受け、総選挙ムードが一気に高まってきた。国民の反発が強い財政緊縮策に対し、主要政党から見直しを目指す声が上がり、緊縮策反対を掲げる左派の少数政党が支持を伸ばしている。

昨年11月に発足したパパデモス政権の連立与党は、欧州連合(EU)などからの第2次支援の受け入れ後、解散・総選挙の実施で合意していた。民間投資家への債務削減が成功し、支援実施が12日に決定され、選挙への環境は整ってきた。

連立与党でも、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)は、支援の交渉役だったベニゼロス財務相が新党首に就くことになり、選挙態勢を固めつつある。新民主主義党(ND)は11日に党大会を開催。サマラス党首は選挙が4月15日の復活祭後、早期に行われるとの見通しを表明した。

焦点は、パパデモス政権が支援の代わりにEUなどと約束した緊縮策への次期政権の対応だ。世論調査ではNDが優位だが、サマラス氏は11日、「(緊縮策に)賛成したのは、債務削減をうまくいかせるためだ」と強調し、緊縮策を見直す考えを示した。

ただ、国民は長年にわたり政権を交代で担ってきた2大政党へ不満を募らせ、世論調査では両党の支持を合わせても50%に届かない。一方で緊縮策反対の左派3党が計4割前後の支持を集めている。うち1党がNDに次ぐ支持を得ている調査結果もあり、選挙後の政権の枠組みには不透明感が漂う。

ドイツのショイブレ財務相は11日、ギリシャの総選挙について「すぐに実施することが最善なのか分からない」と疑念を示した。【3月14日 産経】
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オランダ極右政党、ユーロ圏からの離脱を主張
ギリシャ以外でも、財政削減が難しいのは同様です。

****赤字削減」EUに早くも不協和音が****
失墜したユーロの信頼を回復させようと、EU首脳は財政規律強化を目的とした新条約に署名。しかし早くも不協和音が聞こえてきた。

スペインのラホイ首相は今月初めのEU首脳会議の終了直後、今年の財政赤字目標を対GDP比で5・8%にすると発表。サパテロ前政権は赤字を4・4%に抑えるとしていたが、ラホイは目標をほごにしてしまった。

最近まで財政運営の模範生とみられていたオランダも、今年の財政赤字が目標の3%を大幅に上回る4・5%に達する見込み。ルッテ首相は歳出を減らすと話しているが、極右の自由党はより過激な問題解決策を提唱する
ユーロ圏からの離脱だ。
自由党のヘールト・ウィルダース党首は、オランダが旧通貨ギルダーを使い続けていたら国民1人当たりで年間1800ユーロ豊かになっていたという報告書を引き合いに、ユーロ圈残留の是非を問う国民投票を実施するよう求めている。もっとも世論調査では国民の7割がユーロ圈残留を望んでいる。

スペインとオランダの状況を見ても分かるように、赤字削減はそう簡単にはいかない。ドイツ主導の財政規律強化は前途多難なようだ。【3月21日号 Newsweek日本版】
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EUは13日、ハンガリーが財政赤字の抑制を怠ったとして、2013年の同国向け補助金の一部に当たる約5億ユーロの交付を停止することで合意しています。
今後、こうした各国の利害の対立が更に深まることが懸念されています。
そうした状況に中心国ドイツが嫌気がさせば、EU・ユーロ圏の求心力は一気に低下します。

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中国  任期終盤の温家宝首相、政治改革に向けた取り組みを強調

2012-03-14 22:39:50 | 中国

(3月5日、開幕した全人代で薄熙来氏(右)と温家宝首相(左) “flickr”より By bill751105 http://www.flickr.com/photos/bill_soong/6963487609/

任命責任はあるが、「個別の問題」】
側近の王立軍副市長が2月に四川省成都の米総領事館に駆け込んだ事件に絡んで、中国重慶市トップの薄熙来(はく・きらい)共産党委書記が秋の党大会で次期政治局常務委員に任用されるかどうかは、薄熙来氏が経済政策的には国家の役割を重視する「ニューレフト(新左派)」の旗手的な存在であり、市場経済を重視した改革開放路線と異なる立場にあること、薄熙来氏が進める紅歌(革命歌)を歌うキャンペーンなど保守色の強い政治手法は文化大革命時代を想起させるものでもあり、胡錦濤国家主席や温家宝首相が不満を抱いているとされること、派閥的には次期国家主席の習近平氏と同様、高級幹部子弟の「太子党」の有力メンバーであり、胡錦濤国家主席などの中国共産主義青年団(共青団)グループと対立関係にあること・・・などから、次期習近平体制の基本姿勢にも影響する問題として注目を集めています。

背景にある権力闘争的側面や、温家宝首相などの改革開放を更に推し進めようとする勢力の動きについては、これまでも取り上げてきたところです。
3月1日ブログ「中国 党大会・権力移譲を控えて、改めて表面化する政治体制改革論議」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120301
2月10日ブログ「中国 重慶副市長失脚事件の“改革開放路線からの転換”への影響」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120210
2月6日ブログ「中国 温家宝首相、改めて改革開放の必要性強調 安定維持重視の保守派との路線対立か」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120206

薄熙来氏の去就については、共産党内部の権力闘争の結果ですので、外部の人間には窺い知れないところです。
同氏は、王立軍副市長を任命した責任を認め「反省が必要」としながらも、「監督不行き届きだった。重慶で起きた問題はすべて私に責任があるが、どの地方でも個別の問題や突発的な事件は起こるものだ」と、あくまでも「個別の問題」として、自身とは切り離す考えを語っています。

****中国:重慶市トップ責任認める…米総領事館駆け込み事件****
中国重慶市トップの薄熙来(はく・きらい)共産党委書記(政治局委員)は9日、国会にあたる全国人民代表大会が開かれている北京の人民大会堂で内外メディアの取材に応じた。側近の王立軍副市長が2月に四川省成都の米総領事館に駆け込んだ事件について監督責任を認めた。

薄氏が内外メディアの取材に直接応じたのは2月上旬の事件発覚後初めて。薄氏の処遇は今秋発足する最高指導部の布陣にも影響するとみられているが、「調査は受けていない」と語り、責任は限定的との見方を示した。

薄氏は「事件は予想もしないことだった。王氏を任命したことは非常に心が痛む。反省が必要な点は認める」とする一方、「個別の事件」とし、自らが王氏を起用して進めてきた「打黒」(暴力団や市幹部の摘発)の政策は正当化した。

最高指導部である政治局常務委員入りが取りざたされる中で起きた事件が自らの処遇にどう影響するかについては「考えていない」と述べた。重慶での政策は、薄氏とは一定の距離があるとみられる胡錦濤国家主席の考えにも合致し「最後には(胡主席が)視察することになる」との期待を示した。

事件の責任を取って政治局委員の辞職を申し出たとの報道や親族のぜいたくな生活ぶりが伝えられたことは「完全な作り話」と否定。8日の全人代全体会議で異例の欠席をしたが、理由は「せきが出たため」と説明した。全人代期間中、省や直轄市のトップが会見に応じているが、この日は事前に取材申請をした約200人に限られた。薄氏に関してNHKニュースが国内で数度中断されており、政府にとって敏感な問題とみられている。【3月10日 毎日】
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温首相、上層部の責任を追及
しかし、政策的に「ニューレフト(新左派)」の薄熙来氏と対抗する関係にある改革開放路線の温家宝首相は全人代閉幕時の記者会見で改めてこの問題を取り上げ、厳しい口調で薄熙来氏率いる市党委・政府に「反省」を求めています。

****温首相、重慶市党委書記らを批判…異例の口調で****
温家宝首相は14日の記者会見で、重慶市の王立軍・元公安局長が米総領事館に駆け込んだ事件について、「重慶市の歴代政府と多くの市民は、改革建設の事業で実績を上げたが、現在の市共産党委と市政府は必ず反省し、真剣に事件の教訓をくみ取るべきだ」と、異例の厳しい口調でトップの薄熙来同市党委書記らを批判した。

同事件については、13日に閉幕した人民政治協商会議の趙啓正報道官が2日、会見で「孤立して発生した事件」とだけ言及。温首相はさらに踏み込んで上層部の責任を追及したもので、「事件の調査と処理の結果は必ず国民に回答する」と強調した。

温首相は、文化大革命を発動した左派の誤りも指摘。薄書記が推進した「唱紅(革命歌を歌う)」運動を暗に批判したものだとする見方も広がっている。【3月14日 読売】
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【「共産党・国家の指導制度改革を進めなければならない」】
温家宝首相はこの記者会見で、政治改革の必要性、文化大革命再来の危機感をも指摘しています。

****指導制度改革を推進=「文革悲劇再来」に危機感―最後の全人代記者会見・中国首相****
中国の温家宝首相は14日、全国人民代表大会(全人代)閉幕に合わせて北京の人民大会堂で記者会見し、「経済体制改革だけでなく、政治体制改革、特に共産党・国家の指導制度改革を進めなければならない」と断言した。政治体制改革を進めないと、経済発展に伴って深刻化する汚職・腐敗や党・政府への不信、富の配分不均衡といった諸問題を解決できないと強い危機意識を明らかにしたものだ。

温首相はたびたび政治体制改革を推進すると表明。今回提起した「党・国家指導制度改革」とは、共産党組織の絶対的権限が政府に介入するなど党への過度の権力集中に対する改革を指しており、1980年代に当時の最高実力者・トウ小平氏が提起したものだ。

温首相は記者会見で「文化大革命(66~76年)の間違った封建的な影響がまだ完全に払拭(ふっしょく)されていない」と指摘。「政治体制改革を進めなければ、経済体制改革で得た成果も失われるばかりか、社会で新たに発生する問題も解決できず、文革の歴史的悲劇を繰り返すかもしれない」と危機感をあらわにした。
ただ、こうした改革に関して「順序立ててゆっくりと社会主義民主政治を構築する」とも述べ、共産党の指導下で進めるとの考えも示した。

一方、温氏は首相就任以降の9年間を振り返り、「能力の問題に加え、体制などの原因もあり、私の仕事にはまだ多くの不足がある」と述べた。その上で「国家最高行政機関の責任者として任期中に発生した経済や社会の問題は私に責任がある」と遺憾の意を表明した。
温氏は2003年の首相就任以降、全人代での記者会見は10回目。今秋の共産党大会を受け、来年の全人代で新首相が誕生するため、温氏にとって全人代での記者会見は最後となる。【3月14日 時事】 
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改革の必要性をしばしば語る温家宝首相には、その実行力への疑問を指摘する声もありますが、残り1年という任期終盤を迎えて、改めて自身の最後の仕事として取り組む姿勢を見せています。

温家宝首相はチベット族居住区で連続している焼身抗議については、“「極端な行動で社会の調和を妨害、破壊することには賛成しない。若い僧侶に罪はない」と批判した。”【3月14日 時事】とのことですが、“賛成しない”という表現は従来の党幹部の強硬な対応に比べると、一定にその心情は理解できるといったニュアンスも感じられます。もちろん「核心的利益」であるチベット問題への対応が何か変化することはないでしょうが。

中東諸国の民主化については、「アラブの人々の民主化要求は尊重し、適切に対応しなければならない。民主化の流れはいかなる力も阻止できない」と、「アラブの春」に肯定的な評価をしています。ジャスミン革命に神経をとがらせる当局対応とは異なるものが感じられます。

また、定年後について、「私が定年後台湾へ旅行に行くかどうかに関してだが、正直なところ、条件が揃えれば行きたいと思っている」「我々が力を合わせれば、祖国の統一と民族の復興という偉業も必ず実現できると信じている。これは中国人全員にとって誇りである」とも語っています。【3月14日 Record Chinaより】

【「新たな“革命”を期待している」】
政治改革を進めたい温家宝首相ですが、国内に「欧米式民主主義の導入」を求める声があるとの調査も報じられています。この報道が、人民日報傘下の国際情報紙「環球時報」(英語版)でなされた点も注目されます。

****63%が欧米式の民主主義求める」と中国官製メディアが異例の報道=ただし英語版のみ―仏メディア****
2012年3月12日、中国共産党機関紙・人民日報傘下の国際情報紙「環球時報」(英語版)が中国国内の代表的人物1010人を対象にした意識調査の結果として、63%が「欧米式民主主義の導入」を望んでいることが分かったと報じた。仏国際放送局RFIが伝えた。

「党の舌」と呼ばれる中国の官製メディアがこうした報道をするのは異例。13日付仏リベラシオン紙は「この記事は環球時報の英語版にのみ掲載され、中国語版や他の中国メディアはどこも報じていない」とした上で、「恐らく、環球時報の記者が厳しく処罰される危険を冒して掲載したもの」と指摘。これは中国共産党内部でも民主化に対する意見が分かれていることを表しているのではないかと分析している。

調査結果によると、自由選挙制度と共産党の権力を分離させることの実現性について、大多数の人が「現状では難しい」としたが、「実現はすでに可能な状態にある」とした人も15.7%に上った。また、約49%が「新たな“革命”を期待している」、約15%が「すでに“革命”の縁に立っている」、34%の人が「“革命”の縁に立っているかもしれない」と回答している。【3月14日 Record China】
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調査対象の“中国国内の代表的人物”とは何でしょうか?
以前のブログでも取り上げたように、このところ政治改革の必要性を指摘する記事が中国メディアで多く見受けられ、改革派のアピールと受け止められています。
ただ、こうした改革派のアピールが目立てば、それに反発・警戒する保守派の動きも出てきます。天安門事件のときのように・・・・。
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ミャンマー  4月1日の「自由で公正な選挙」を目指した取り組み

2012-03-13 23:25:36 | ミャンマー

(街角で売られているスー・チーさんのポスター “flickr”より By wisawin http://www.flickr.com/photos/26978279@N05/6920487259/ )

衰えぬスー・チー人気
4月1日に行われるミャンマー補欠選挙での、スー・チーさんの人気は依然衰えぬものがあるようです。

****ミャンマー補欠選挙 スー・チーさん旋風****
ミャンマーでは、4月1日に民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさんも参加して、国会の補欠選挙が行われる。スー・チーさんは積極的に地方遊説を行い、旋風を巻き起こしている。

ミャンマーの民主化を目指す政党・NLD(=国民民主連盟)を率いるスー・チーさんは、毎週のように地方遊説を行っている。10日、スー・チーさんは自宅のある最大都市・ヤンゴンから300キロ離れたモン州へ向かった。道中の集落ごとに大歓迎され、通常約6時間の道のりが倍の12時間近くかかって、州都・モーラミャインに到着した。11日の演説会は、中心部の会場の使用許可が当局から下りず、郊外のグラウンドを急きょ拡張して行われたが、それでも1万人以上が詰めかけた。

NLDは、スー・チーさん人気で勢いを増しながら、選挙戦の終盤に突入しようとしている。【3月12日 NNN】
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補選は、上下両院と地方議会の計48議席を対象に行われますが、スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)は、下院に立候補しているスー・チーさん自身を含め、全選挙区に候補者を立てています。
このNLDがどれだけ議席を獲得するかが注目されています。
個人的には、全議席独占といった形で“勝ちすぎる”のも、政権側の保守派の反発がありそうで、少し怖い感もあります。

国際的に自由で公正な選挙をアピールしたいテイン・セイン政権側は、民主化運動の象徴であるスー・チーさんには随分気を使っているようで、直接的な選挙妨害はなく、12日には下院議長の招待で、スー・チーさんは首都ネピドーで行われている下院の議事を1時間にわたって見学し、下院議長、上院議長とも会談しています。【3月13日 読売より】

【「人々が自由で安全に生きることができる社会を築きたい」】
当選が確実とされるスー・チーさんについては、当選後の閣僚への起用の話も出ていますが、あくまでも議員として活動で民主化努力を強めていく考えを示しています。

****スーチーさん単独会見:議員活動に意欲「国民に自由を****
ミャンマーの民主化運動指導者アウンサンスーチーさん(66)は8日、最大都市ヤンゴンの自宅で毎日新聞との単独会見に応じた。4月1日の国会議員補選で選出されれば「人々が自由で安全に生きることができる社会を築きたい」と述べ、議員の立場を生かして現実の政治で民主化努力を強めていく考えを示した。

スーチーさんは「私が言う自由とは、恐怖からの自由と欠乏からの自由を意味する」と話した。現状について「軍に支配された見せかけの民主主義だ」と述べ、真の民主化への具体的目標として(1)法の支配(2)少数民族との和解(3)憲法改正--を挙げた。

選挙後に閣僚入りを要請された場合、受諾の可能性があるかについては「現憲法では、閣僚になれば国会議員を辞めなければならない。私は国会を去るために国会議員になる努力をしているわけではない」と否定的な考えを示し、野党勢力を率いていく方針を示唆した。

選挙の現状に関しては「死んだ人や子供の名前が有権者名簿に記載されているなどの不正が見られ、選管に改善を求めている」と公正の確保に懸念を示した。

一方、日本政府が、選挙が公正に実施されればミャンマーへの政府開発援助(ODA)の円借款を再開する方針であることには「少し性急過ぎると思う。援助は歓迎するが、透明性の確保が必要だ」と注文をつけた。
また、日本政府からの訪日要請について「いつごろ外国訪問できるかは補選が終わった後に見通しをつけたい」と話し、具体的な時期は不明ながら前向きな考えを示した。【3月9日 毎日】
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【「建国の父」の娘
スー・チーさんの人気の背景には、民主化運動に対する強固な信念を貫いていることが当然ありますが、それ以外に、彼女が建国の父アウン・サン将軍の娘であることも影響しています。

****スー・チーさんの選挙戦 「建国の父」と二人三脚****
・・・・「大学通り」に沿った自宅の大きな鉄の扉の上には、「国民の顔を見よ」「迅速に決断、行動せよ」という、父アウン・サン将軍の言葉が写真とともに掲げられている。

アウン・サン将軍といえば、英国からの独立に生涯をささげ、1948年1月の独立を目前にして、32歳の若さで凶弾に倒れた「建国の父」だ。地方へ行くと、スー・チーさんと父親の写真が並ぶ選挙ポスターも目につく。スー・チーさんの支持者には、「将軍の娘だから支持する」という人も少なくない。
スー・チーさんにとり選挙戦は、父親との二人三脚なのかもしれない。【3月8日 産経】
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スー・チーさんの対立候補として政権与党「連邦団結発展党」(USDP)から立候補している元軍医、ソウミン氏(49)は、「今後、軍とスー・チーさんの関係は?」という問いに、「アウンサン将軍は国軍の父でもあり、長女のスー・チーさんと軍はいわば兄弟姉妹だ。協力して国をよくしていくべきだ。」と答えています。【3月12日 毎日より】
特に、政権側、軍部にとっては、「建国の父」の娘という立場は、スー・チーさんとの協力関係を作っていく上で影響力がありそうです。

問題点はあるものの、目に見える圧力はない
政権側からの直接的な選挙妨害はあまりないようですが、今回選挙の公正さに問題がない訳ではありません。

****ミャンマー「公正な選挙」黄信号 政見放送を事前検閲、有権者名簿に死者****
「自由、公正」なものとなるかどうか、国際社会が注視するミャンマーの連邦議会補欠選挙(4月1日投票)は、各党代表による政見放送の演説草稿が事前検閲により、部分的に削除、修正されるなど黄信号がともっている。

政見放送は録画で、各党は演説草稿を事前に情報省に提出しなければならない。14日に政見放送が予定される国民民主連盟(NLD)の党首、アウン・サン・スー・チーさんは「軍政は法を、国民を抑圧するために繰り返し利用してきた」と批判した段落が、削除されたとしている。

スー・チーさんはまた、「有権者登録名簿に多くの不正が見つかり、選挙管理委員会に善処を求めている」と明らかにしている。
NLD関係者によると、例えば最大都市ヤンゴンの選挙区の一つでは、死亡、あるいは他の選挙区へ転出した市民が名簿に含まれ、その数は名簿に記載されている約2千人のうち、1181人にのぼる。1世帯全員が名簿から抜け落ちている事例もあるという。

そこに「不正」の余地がある。関係者は「政権と与党・連邦団結発展党(USDP)が、死亡した複数の市民の名前を使い、1人で何回もUSDPに投票できる。逆に名簿に記載がなければ、NLD支持者は投票できない」と解説する。
別の野党の関係者は「2010年の総選挙のときも重複投票があり、状況は同じだった」と言う。

有権者登録名簿は10年の総選挙時のものを踏襲している。
選挙管理委員会は2月29日から3月6日まで、名簿の誤った情報の修正を受け付けた。だが、通達が届いたのは、シャン州内のある選挙区の場合、締め切り当日の6日だった。

票が現金で買収されているとの情報も絶えない。首都ネピドー郊外の村では、当局が「NLDを支持すれば電気を供給しない」と圧力をかけているという。
欧米は選挙監視団受け入れをテイン・セイン大統領に要求している。だが、依然、決定されていない。【3月13日 産経】
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問題は多々ありますが、「一昨年の総選挙では、我々の選挙運動を当局の情報部員が監視し、事務所に訪れては支持者を脅した。それに比べると今回、目に見える圧力はない。政権は制裁解除のために気をつかっており、我々は満足している」(NLDとは別の民主化勢力政党「ミャンマー民主党」から立候補している党首のトゥウェイ氏)【3月12日 毎日】といった発言にみられるように、米欧が経済制裁解除の前提条件に掲げる「自由、公正」な選挙に向けての政権側の努力は見て取れます。

NLDは、他の野党勢力とは選挙協力せず
「ミャンマー民主党」のように、スー・チーさんの国民民主連盟(NLD)以外にも、民主化を求める野党勢力はありますが、今回NLDはこうした他の野党勢力とは一線を画した選挙選を行っています。

****ミャンマー:「自由、公正」な実施焦点…補選まで3週間****
・・・・民主党など総選挙に参加した民主化系や少数民族系の10政党は昨年、補選での協力協定を結び、同じ選挙区での相打ちを避けるため候補者の一本化に合意した。

10政党はその後、補選参加を決めたNLDにも候補者調整に参加するよう呼びかけたがNLD側は反応せず、多くの選挙区でNLDと10政党連合の候補者が競合する事態となっている。
「一昨年の総選挙をボイコットしたNLDには、総選挙に参加した10政党への感情的なわだかまりがあるのだろう」。地元記者の一人はそう打ち明ける。

「我が党の選挙運動は車3台を使うのがやっとだ。NLDは5、6台。USDPは15台。これが力関係だ」。選挙の見通しを聞くと、(「ミャンマー民主党」の)トゥウェイ氏はそう言って笑った。(後略)【3月12日 毎日】
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先の総選挙への対応の違いに加え、NLDには民主化運動の中核としての自負心があるのでしょうが、民主化運動進展のためには、他の野党勢力との協調も今後必要になるのではないかと思われます。

一方、与党USDPは潤沢な選挙資金を使えるようですが、“「我々が勝てば不公正だと非難を浴び、負ければ『自由、公正に行われた』となるのだろう」。USDPの関係者はそうこぼした。”【同上】というように、損な役回りである側面もあります。
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アフガニスタン  駐留米軍兵士が子供を含む住民16名を射殺 繰り返される戦場の狂気

2012-03-12 23:05:17 | アフガン・パキスタン

(事件後、基地入口を警戒する米兵 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6828873946/

子供9名を含む住民16名を射殺
アフガニスタンでの米軍による不祥事が続いています。
今年1月には、アフガニスタン駐留の米海兵隊員らがタリバン兵士の遺体に放尿している動画がネット上に公開され物議を醸しました。
【1月13日ブログ「アフガニスタン タリバン遺体に米軍兵士放尿 事態収拾に追われるオバマ政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120113)】

2月には、駐留米兵がイスラム教の聖典コーランを焼却したことへの住民の抗議が激化し、混乱の中で住民とアメリカ側双方に犠牲者が出ました。
【2月26日ブログ「アフガニスタン コーラン焼却事件の混乱拡大 反米感情と相互不信」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120226)】

いずれも、現地の反米感情を強め、アメリカの作戦遂行を更に困難にし、今後の和平交渉や撤退計画にも影響しかねない事件でしたが、今回は駐留米兵が女性・子供を含む民間人に向かって銃を乱射するという、これまで以上に衝撃的な事件です。

****米兵が市民に銃乱射、15人死亡 アフガン南部*****
アフガニスタン南部カンダハル州で11日、駐留米兵が、基地から外出して民間人に向かって銃を乱射した。アフガン国防省によると、子どもを含むアフガン人の15人が死亡、9人が負傷した。米兵は、同州パンジュワイ地区の米軍基地付近の民家3軒を襲撃したという。

アフガンに展開する米軍主体の国際治安支援部隊(ISAF)は、この米兵を拘束したと発表した。「非常に残念な事件」との声明を出したが、動機など詳細は調査中として明らかにしていない。

アフガンでは2月下旬、複数の米兵がイスラム教の聖典コーランを燃やしたことをきっかけに、大規模な反米デモが各地で約1週間にわたって発生した。カブールの内務省で米士官が殺害されるなど、アフガン兵や警察官が一緒にいた米兵を襲う事件が相次いだ。

カンダハル州は反政府武装勢力タリバーンの活動が活発な地域。タリバーンはコーラン焼却に猛反発しており、さらなる強硬姿勢を取る可能性がある。【3月11日 朝日】
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続報によれば、犠牲者は16名で、うち9人が子どもだったとの情報もあります。
また、米紙ニューヨーク・タイムズ電子版によると、容疑者の陸軍2等軍曹は、6歳以下の女児4人を含む11人の遺体を1カ所に集めて焼いたとも報じられています。
この陸軍2等軍曹は38歳で、イラク戦争に3回派遣された経験があるが、アフガンは初めてだったそうです。任務は地域の安定化で、村の長老らと関係を築く役割を担っていたとか。【3月12日 朝日より】

また、“銃乱射”とういう表現が各紙で使用されていますが、TV報道では頭部を1発づつ撃たれているとのことで、パニック状態での“乱射”というよりは、冷静に“処刑”したというような感じもあります。
襲撃した米兵は武器と暗視装置を持って基地を抜け出して犯行に及んだとみられています。

オバマ米大統領「事件は悲劇であり、衝撃的だ」】
オバマ米大統領は、11日、犠牲者への追悼と事件の調査を約束する声明を発表し、事態収拾に努めています。
****アフガン米兵乱射:オバマ大統領が追悼声明****
アフガニスタン南部カンダハル州で国際治安支援部隊(ISAF)の米兵が銃を乱射し、多数の民間人を殺傷した事件で、オバマ米大統領は11日、犠牲者への追悼と事件の調査を約束する声明を発表した。

アフガンでは先月、米兵が基地内でイスラム教の聖典コーランを焼却する事件があり、米軍に対する抗議デモやテロが続いていた。アフガン国民の反米感情を刺激する「不祥事」が相次いだことで、アフガン駐留米軍の撤収にも影響が出る可能性もある。

オバマ大統領は声明で「(乱射)事件は悲劇であり、衝撃的だ」と述べ、治安維持を主要任務にしている米兵が多数の民間人を殺傷する側に回ったことへの衝撃をにじませた。大統領はパネッタ国防長官に徹底的な調査を指示する一方、アフガンのカルザイ大統領と電話協議し、アフガン国民に対する「深い尊敬の念」を伝えた。

米メディアによると、事件を起こしたのは米ワシントン州のフォートルイス基地所属の陸軍2等軍曹。乱射後、米軍基地に戻り自首したという。パネッタ長官はカルザイ大統領に電話をかけ、2等軍曹を軍法会議にかける方針を伝えた。動機は現段階では明らかになっていない。

米・アフガン両政府は今月9日、米軍が管理してきたテロ容疑者収容施設の管理権をアフガン側に移すことに合意し、関係改善に向けて動き始めたばかりだった。コーラン焼却で噴出した反米感情が乱射事件を機にさらに高まる可能性もあり、オバマ政権は危機感を強めている。【3月12日 毎日】
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精神を蝕む戦場の狂気
1月の遺体放尿事件は“悪質な悪ふざけ”、2月のコーラン焼却は“不注意による事故”という見方もできますが、今回の事件は“狂気”そのものであり、容疑者の精神面に病的なものがあったことも推測されます。

ただ、そうした個人的な“狂気”“病気”を助長したのは、戦場という狂気が支配する極限の緊張状態であり、また、コーラン焼却事件などによる混乱・不信・不満などであったのではないでしょうか。

戦場の狂気が兵士の精神状態を蝕むことは容易に想像されます。
米陸軍兵士で自殺が増加しているとの報告も今日報じられています。

****米兵の自殺、イラク戦争後に80%増加*****
イラク戦争開戦後に米陸軍兵士の自殺者数が80%増加したとの米軍医らの報告が、8日の英医学誌「インジュリー・プリベンション」に発表された。

これによると米陸軍兵士の自殺者数は1977年~2003年、緩やかな減少傾向にあり、民間人の自殺率より大幅に低かった。だが、米軍のイラク進攻から1年が過ぎた04年から増加に転じ、08年には140人が自殺を図った。これは人年単位で04年比80%の増加で、一般社会よりもはるかに高い増加率という。

報告書は、「米陸軍の過去30年の記録上で前代未聞の増加率だ。08年に起きた自殺のうち30%は、03年以降の進攻以降のイラクにおける作戦、およびアフガニスタンで続く軍事作戦などと関連している可能性がある」と指摘している。

自殺者の大半は階級の低い若い白人男性で、うつ病その他の精神疾患の既往歴のある人が多かった。自殺者数の増加にともなって精神的な不調を訴えて診察を受けたり入院する例も増え、03年比で約2倍になったという。現役兵士の5人に1人が精神疾患で外来診察を受けたことになり、「公衆衛生上の問題が広がっている恐れがある」と報告書は警告した。
また、08年における自殺の3分の1は未配属部隊で発生しており、戦闘経験のない若い兵士が抱えるストレス対策としてカウンセリングを行う必要があると指摘している。【3月12日 AFP】
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世界でも有数の“民主的”社会であるアメリカ社会で育った若者が、戦場での極限状態のなかで正気を保てることの方が不思議でしょう。

10年9月21日ブログ「アフガニスタン 戦争の狂気:「気晴らし」のため「スポーツ感覚」で一般人殺害か?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100921)で取り上げたように、アフガニスタンでは、駐留米軍の兵士5人が「気晴らし」のため一般住民を殺害したという事件もありました。この米兵は麻薬やアルコールを常習していたとされ、「スポーツ感覚」で住民を殺害していたとされています。

****米兵、「気晴らし」アフガン住民殺害 軍が5人訴追*****
・・・・事件は1月と2月、5月の計3回、イスラム原理主義勢力タリバンの拠点、南部カンダハル州で発生した。
兵士らは手榴弾(しゅりゅうだん)を爆発させて米軍が攻撃されたように装い、一般住民に向けて発砲。その後、遺体を切断して写真撮影したり、一部の兵士が頭部の骨などを収集したりしていた疑いもあるという。
関与した兵士は、ハシシュ(大麻樹脂の粉末)やアルコールを常習していた可能性が強く、快楽目的で一般住民を殺害していたとされる。
米陸軍は兵士5人のほかにも、7人を捜査妨害や麻薬使用、事件を告発しようとした兵士への集団暴行で訴追。組織的な犯行で、しかも隠蔽(いんぺい)工作が行われた可能性も浮上している。(後略)【10年9月21日 産経】
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戦場に狂気はつきものです。
下記は10年9月21日ブログからの再録です。

****狂気に蝕まれる精神 ソンミ、ハディサ・・・・*****
極限状態に置かれる戦争においては、しばしば常軌を逸した民間人殺害が起こります。
ベトナム戦争での「ソンミ村虐殺事件」は、米軍が国際的批判にさらされ支持を失い、国内的にも反戦運動のシンボルにもなりました。
“1968年3月16日に、南ベトナムに展開するアメリカ陸軍のうち第23歩兵師団第11軽歩兵旅団・バーカー機動部隊隷下、第20歩兵連隊第1大隊C中隊の、ウィリアム・カリー中尉率いる第1小隊が、南ベトナム・クアンガイ省ソン・ティン県ソンミ村のミライ集落(省都クアンガイの北東13km 人口507)を襲撃し、無抵抗の村民504人(男149人、妊婦を含む女183人、乳幼児を含む子ども173人)を機関銃の無差別乱射で虐殺。集落は壊滅状態となった”【ウィキペディア】

イラク戦争では「ハディサ事件」が起きています。
“2005年11月19日、バグダッドから西に260キロにある「スンニ派三角地帯」の町ハディサで起きた。同地をパトロール中の米海兵隊員が、同僚1人が道路脇の爆弾で死亡したのをきっかけに、子どもを含む民間人の男女24人を殺害した。” 【07年5月31日 AFP】
両事件ともに、当初軍内部報告では隠ぺい工作が行われています。
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今回の住民射殺事件への住民側の抗議行動などに関する記事はまだ目にしていません。
2月のコーラン焼却事件のときは即日に抗議行動が起き、大きな混乱を起こしましたが、若干様相が異なるのでしょうか?
アフガニスタン社会においては、“死”はありふれたことで、コーラン焼却ほどの衝撃はないのでしょうか?
それもまた悲しむべきことです。
それとも、これから抗議の混乱が起こるのでしょうか?
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東日本大震災から1年  支援国への感謝メッセージ、中国との信頼醸成、「絆」への疑問提示も

2012-03-11 23:10:24 | 災害

(3月11日 パリ在住邦人によって主催された、エッフェル塔に望むトロカデロ広場での黙祷と献花の儀式 “flickr”より By Passion Leica http://www.flickr.com/photos/passionleica/6825998062/

【「みなさんと手を携え共に前へ進んでいきたい」】
3.11の東日本大震災から1年、国内では多くの追悼式も行われましたが、復興はまだまだこれからという段階です。
韓国や台湾では、被災当時に支援の手を差し伸べてくれたこれら国々への日本からのお礼のメッセージが出されています。

****在韓日本大使館:「震災支援、忘れない」韓国紙に広告****
「みなさんの温かな支援の手を永遠に忘れません」--。東日本大震災から1年を迎えるのを前に在韓国日本大使館(武藤正敏大使)は9日付の朝鮮日報、中央日報、東亜日報の朝刊3紙に日本の感謝のメッセージを伝える意見広告を出した。

広告はカラーで、子供たちの写真などを配し「日本を訪ねて活気あふれる姿を確認して」と呼びかけ、「みなさんと手を携え共に前へ進んでいきたい」と結んでいる。

韓国では昨年3月11日の地震発生直後に李明博(イ・ミョンバク)大統領が関係閣僚を集め「日本の被害復旧や救助活動の支援に最善を尽くすように」と指示。12日に各国の先陣を切って救援隊を日本に送り込んだ。【3月9日 毎日】
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****ありがとう、台湾」=被災者がテレビCMでメッセージ****
台湾のみなさん、ありがとう―。東日本大震災の被災者に多額の義援金を寄せてくれた台湾の人々に感謝するため、震災発生から丸1年となる11日から、被災者本人の出演するテレビCMが地元主要局で1週間放映される。企画した日本の対台湾窓口交流機関、交流協会台北事務所(大使館に相当)によると、こうしたCMを放映するのは世界でも台湾だけという。

CMには、震災当日に生まれた乳児と両親、漁師、木工職人といった被災者が出演。復興しつつある自身の生活を紹介するとともに、「台湾のみなさんのおかげで元気になれた。支援をありがとう」などとするメッセージを伝える。CMはテレビのほか、インターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」や屋外モニター、地下鉄でも放映される。【3月10日 時事】
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従軍慰安婦問題を抱える韓国など、周辺国との関係は必ずしも穏やかとばかりも言えませんし、こうした感謝メッセージでそうした関係が急に好転する訳でもありませんが、それはそれとして、感謝のメッセージをきちんと伝えることは重要なことでしょう。

震災対策を明治以来の対中政策の転換点に
韓国や台湾だけでなく、中国も温家宝が被災地を慰問するなど、支援に尽力しました。
中国人研修生20人を避難させ、自身は亡くなった宮城県女川町の水産加工会社専務、佐藤充さんのこともあって、震災後日本への好感度は大きく改善されたようですが、日本側の中国への好感度は厳しい数字となっています。

****中国、支援評価されず不満…トモダチ作戦の陰で****
中国では東日本大震災後、中国人研修生20人を避難させ、自身は亡くなった宮城県女川町の水産加工会社専務、佐藤充さん(当時55歳)が「英雄」として報じられたことなどで、日本に対する好感度が高まった。
読売新聞が中国誌「瞭望東方週刊」と昨年10月に行った日中共同世論調査では、中国側で日本を「信頼できる」と回答した人が55%に達し、2010年の15%から大幅に改善された。

だが、日本人で中国を「信頼できる」と回答した人は11%にとどまり、「信頼できない」は実に79%に達した。中国は震災後、ポンプ車を無償提供し、温家宝首相も被災地を慰問に訪れたが、米国のトモダチ作戦の陰に隠れて十分に評価されていないことに対し、特に知日派の間に強い不満が生まれた。

中国国際問題研究所の姜躍春教授は「日中間には歴史認識や領土問題などの解きほぐし難いわだかまりがある。一つの事件で一気に改善できるものではない」と指摘する。【3月10日 読売】
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ただ、この数字は、震災当時の支援体制やアメリカの「トモダチ作戦」の影響云々というよりは、08年の冷凍ギョーザの事件などによる中国への不信感や、尖閣諸島や南シナ海問題などにおける中国の強硬な姿勢への反発などの結果でしょう。
台頭する中国への脅威も日本側にはあります。

日本は今後、除染作業など復興に向けてなすべき仕事は山積しています。費用的にも膨大なものがあります。
現在だけでなく、明治以来、東アジアにおいて中国と日本はライバル的な立場に立つことが多くあり、戦争を含め多く出来事があり、結果として、南京虐殺問題なども最近また表面化しています。

しかし、隣国がいたずらに競い合うだけでは愚かしいとも言えます。安全保障的にも大きな火種となります。
この際、過去のいきさつやプライドなどは封印して、復興への協力支援を中国に求めるのはどうでしょうか?
共同の作業のなかで信頼関係も醸成され、信頼が生まれれば、膠着した歴史的問題にも対応の道筋が生まれるのではないでしょうか。

【「トモダチ作戦」で同盟関係の深さ確認
一方、アメリカの「トモダチ作戦」は、世論調査で“「成果を上げた」は79.2%で、「成果を上げなかった」の15.5%”【3月10日 時事】と好印象を得ているようです。
オバマ大統領はじめ米政府要人も、震災復興支援によって両国の同盟関係が深められたとの評価をしています。

****悲劇でさらに絆深まった」米要人が相次ぎ声明*****
オバマ大統領はじめ米政府要人は9日、東日本大震災から1年となるのを前に相次ぎ声明を発表し、犠牲者を改めて悼むとともに、日本との同盟関係の深さが震災の試練を通じて確かめられたことの意義を強調していた。

パネッタ国防長官は、震災直後に米軍と自衛隊が共同で行った復興支援の「トモダチ作戦」が「日米同盟の強さを証明した」と指摘した。長官は「米軍と自衛隊の間にある友情の絆に感銘を受けた。(震災の)悲劇によりその絆はさらに深まった」と述べた。

トモダチ作戦で米軍は、兵員2万4000人と航空機190機、艦船24隻を投入した。太平洋岸で行方不明者の捜索を行ったほか、津波被害を受けた仙台空港の復旧支援、気仙沼市大島などでのがれき除去といった活動にあたった。【3月11日 読売】
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アメリカのメディアは10~11日、主要紙が追悼や復興をテーマに1面に大きな写真を掲載、テレビも時間を割いて報じるなど、東日本大震災1年関連のニュースを大きく扱ったそうです。【3月11日 毎日より】
市民レベルでもアメリカ各地で追悼行事が催されています。

****あなたたちを忘れない」=米国各地で追悼行事―大震災1年****
東日本大震災から1年を迎え、米国では10日、日本人が多く住む大都市を中心に各地で追悼行事が催された。ニューヨークでは、日本の復興を支援する約100の団体が協力して追悼式典を開催。被災者への励ましの声が相次いだ。

式典には広木重之ニューヨーク総領事ら約1100人が出席。黙とうの後にスピーチした市内の医師、カマール・ラマニさんは、震災直後に宮城県南三陸町でボランティアとして医療活動に当たった。その後も心療クリニックの立ち上げなどで支援を続けており、「私たちはあなたたちのことを忘れない」と強調した。
また、福島県相馬市のみなと保育園からのビデオ・メッセージで、「(ニューヨークからの支援に)感謝の気持ちでいっぱいです。頑張ります」と元気に語る園児らが映し出されると、会場から歓声が上がった。

一方、ロサンゼルスではマンガ、アニメなどの日本文化を紹介するイベントが開かれ、震災発生時刻に合わせた午後9時46分(日本時間11日午後2時46分)には多数の参加者がろうそくを手に犠牲者の鎮魂と復興に祈りをささげた。【3月11日 時事】
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【「絆と言ってもそんなものだ」】
しかし、日本の現状に対する厳しい指摘もあります。

****絆」の精神喪失=日本在住の元Wポスト紙記者****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は10日、東日本大震災から1年を迎えるに当たり、同紙東京支局の元特派員で、現在は家族と神奈川県鎌倉市で暮らすポール・ブルスタイン氏の「日本は悲劇を経ても停滞から脱せず」と題する寄稿文を掲載した。この中で同氏は「絆」という言葉で象徴される震災直後の団結の精神が失われていると警告した。

寄稿文で同氏は、放射性物質が検出されていなくても自治体ががれきの受け入れを拒否していることに触れ、「絆と言ってもそんなものだ」と失望を表明。消費増税をめぐる政治混乱にも落胆を示した。一方、現在の停滞打破には女性の就業機会の拡大などが必要だとしている。【3月11日 時事】
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「がれきの受け入れ」問題も指摘のとおりですし、先日の沖縄での雪遊びイベント中止の件なども、今後の全国的な復興支援体制を考えるとき、冷静さを欠いているように憂慮されます。

****雪遊びイベント中止に=「放射性物質心配」の声―青森の630キロ無駄に・沖縄****
那覇市と海上自衛隊第5航空群(同市)は21日、23日に予定していた子ども向け雪遊びのイベントを中止すると発表した。雪は同航空群が青森県十和田市から搬送したが、沖縄県に自主避難している父母らから、「放射性物質が含まれているのでは」と懸念する声が相次いだためという。イベントは2004年度から続く恒例行事で、中止は初めてという。

イベント用の雪は約630キロ。八戸航空基地(青森県八戸市)の訓練に参加した隊員らが16日、十和田市内で集めてP3C哨戒機で運んだ。搬送時と到着時の2回、放射線量を計測した結果、過去の平常値と同じ水準だったという。

一方、那覇市には2月中旬ごろから、東日本大震災後に自主避難してきた人たちから、会場となる児童館や市に対し、中止を求める声が10件程度寄せられた。市は20日、児童館で説明会を開催。集まった約20人の父母らに対し、放射線量の測定結果を伝え、危険性はないとして開催への理解を求めた。
しかし、参加者からは「雪に含まれた放射能が溶けて空気中に拡散するのでは」「放射能汚染を避けるため沖縄に避難している。少しでも放射能が測定されているなら中止してほしい」などの声が上がった。【2月21日 時事】 
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なお、那覇市宇栄原(うえばる)の学童保育では、青森から運ばれた約250キロの雪がプレゼントされ、小学生60人が歓声をあげたとのことで、ややほっとする思いでした。【2月29日 朝日より】

チェルノブイリ、そしてフクシマ
話を海外の反応に戻すと、旧ソ連チェルノブイリ原発事故に見舞われたウクライナの首都キエフでも追悼行事が行われています。

****福島に思い重ね、早朝の祈り=チェルノブイリ事故のウクライナ****
東日本大震災から1年の11日、約26年前に旧ソ連チェルノブイリ原発事故に見舞われたウクライナの首都キエフでは、地震発生時刻に市民らが犠牲者を悼んでキャンドルに献灯。故郷を離れざるを得なかった福島などの被災者と自国民の境遇を重ね合わせ、希望の日が訪れるよう祈りをささげた。

市中心部のウクライナ国立歌劇場前の広場には100人以上が集まり、午前7時46分(日本時間午後2時46分)に黙とう。画家のマリヤさん(26)は雪に負けない梅の花を手に「悲劇が二度と起こらないよう願った」。【3月11日 時事】
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