孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  すべての少数民族との停戦、全政治犯の釈放、人権侵害批判のある治安部隊を廃止 

2013-07-17 23:40:58 | ミャンマー

(ラカイン州でのロヒンギャとの衝突の際、棒や武器を手にしたラカイン族の人々 同様の暴力行為はロヒンギャ側にもあったと思われますが、衝突を鎮めるべき治安部隊が組織的にロヒンギャ襲撃を行っていたと指摘されています。 “flickr”より By thestateless http://www.flickr.com/photos/87484547@N05/8011385006/in/photolist-dcWrDG-eZfbut-dLbMf5-dLbMLj-dLbMt1-9QR8cx-9QR91K-9QTZJQ-9QTZNG-9QU17y-9QR8F8-9QTZwQ-9QTZau-9QTZW7-9QTZSw-9QTZpJ-9QR8ux-9QR8rK-9QTZEQ-9QTZjm-9QR9un-9QR8Nt-9QU1a1-9QR9oT-9QR8g8-9QTYT5-9QR8xc-egcuMA-dHrUek-dHyag3-dHxiYs-dHsLc8-ejYkAY-dJaUtL-dJaUm7-dJaTBy-dJaU6Q-dLbLSS-dLbLUf-dL6iSe-dLbN7q-dL6it2-dL6gQX-dL6izi-dLbPUA-dL6iY6-dL6i8t-dL6iqD-dLbPAL-dL6jJ4-dLbNg9)

【「過去60年以上にわたり、国内で銃声が鳴りやむのは初めてのことだ」】
民主化を進めるミャンマーのテイン・セイン大統領の施策がいくつか報じられています。
ミャンマー最大の問題である少数民族問題について、すべての内戦停止する、民主化が進展する過程で課題となっていた政治犯について、すべての政治犯を釈放する・・・といった内容で、実際に実行されればミャンマー民主化も新たな段階を迎えるともいえるものです。

****ミャンマーのセイン大統領、内戦停戦を示唆****
欧州歴訪中のミャンマーのテイン・セイン大統領は15日、ロンドンの英王立国際問題研究所で講演し、国内各地で続いた少数民族との内戦が近く、すべて停戦を迎えるとの見通しを示した。

大統領は「今後、数週間で、全土にわたる停戦を迎えるだろう。過去60年以上にわたり、国内で銃声が鳴りやむのは初めてのことだ」と述べた。

6月のラジオ演説で方針を示した全政治犯の釈放については、「今年末までに、(思想や信条を理由に拘束されている)『良心の囚人』が全員釈放されることを保証する」と強調した。

大統領は講演に先立ち、キャメロン英首相と会談した。首相は、ミャンマー西部ラカイン州などに多く住み、迫害を受けているイスラム系少数民族ロヒンギャの保護などを求めた。【7月16日 読売】
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少数民族との停戦については、“「数週間以内には停戦が実現するだろう」と楽観的な見方を示した上で、「その後は困難な交渉が待ち受けている。難しい点についても譲歩しなければいけないだろう。だが、実現させなければならない」と付け加えた”【7月16日 AFP】とのことです。

全政治犯釈放につては、アメリカ国務省のベントレル副報道官代理が16日、「大統領の発表を歓迎する。多文化・多宗教の国づくりを進め、暴力を容認しないという大統領の考えを喜んで受け入れる」と評価しています。【7月17日 時事より】

国境警備隊(通称「ナサカ」)を廃止
会談でキャメロン英首相からも指摘のあったイスラム系少数民族ロヒンギャの問題についても、動きが報じられています。

****人権侵害疑惑の部隊廃止=国連、隊員の責任追及要請―ミャンマー****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は16日までに、西部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャ族に対する大規模な人権侵害に関与したとして人権団体から批判を浴びていた国境警備隊(通称「ナサカ」)を廃止したことを明らかにした。

これを受けて国連人権理事会のキンタナ特別報告者(ミャンマー担当)は16日声明を発表し、ナサカの廃止を歓迎するとともに、ミャンマー当局に対し、疑惑を調査し、人権侵害に関与した隊員の責任を追及するよう訴えた。【7月16日 時事】 
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国境警備隊(通称「ナサカ」)については、非常事態宣言を盾にしたロヒンギャへの暴力行為が指摘されていました。

****ビルマ:ロヒンギャ民族の逮捕や襲撃が大量発生****
アラカン州の宗派間暴力での警察の対応  暴力的で偏見に満ちている

・・・・アラカン州北部での宗派間暴力の勃発時点から、ビルマ政府の治安部隊は殺害などの人権侵害に関係していた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

たとえば6月23日に、マウンドー近くの村で、治安部隊は暴力から逃れるために畑や森に隠れていたロヒンギャ系の村人約20人を追跡、発砲した。全体の死傷者数は不明だが、ある生存者のヒューマン・ライツ・ウォッチへの証言によれば、一団となって逃げていた若い男性8人のうち、治安部隊の発砲後に無傷で逃れたのは2人だけだった。

・・・・・6月10日、テインセイン大統領はアラカン州北部に非常事態を宣言した。これにより国軍はもっとも基本的な適正手続抜きで人びとを逮捕、拘禁できる。国軍は今回の宗派間暴力をおおむね沈静化させたが、治安部隊のロヒンギャ民族への人権侵害がここ数週間で急増している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

地元警察とナサカは、宗派間抗争に関わったロヒンギャ民族の容疑者を捜索するとの名目で、ロヒンギャ民族を大量逮捕している。

7月1日付の国営紙『ニューライト・オブ・ミャンマー』は、6月3日の殺害事件でアラカン民族30人が逮捕されたことを伝えた。しかし、アラカン州北部で現在起きている大量逮捕は差別的にも思われる。地元当局は刑事犯罪を行った疑いのあるアラカン民族の捜査も身柄の拘束も行っていない模様のためだ。被逮捕者の数や具体的な容疑についての報告は一切ない。
目撃者はヒューマン・ライツ・ウォッチに対して、治安部隊がマウンドー郡内のロヒンギャ民族が多数を占める地域で暴力的な襲撃を行い、住民に発砲したほか、住宅や商店で略奪を行ったと述べた。複数の村で、警察とナサカがロヒンギャ民族を自宅から引きずり出し、激しい殴打を加えている。

マウンドーの中心部から離れた地域の住民の話によれば、6月中旬に女性と子どもなどロヒンギャ民族数十人がナサカのトラックに乗せられてどこかに連れ去られ、現在まで行方不明だ。

・・・・「アラカン州で起きた暴力事件はロヒンギャ民族とアラカン民族双方のコミュニティに甚大な被害を及ぼした。しかし責任者の特定と逮捕に向けた政府の努力が、さらなる人権侵害を引き起こしてはならない」と前出のピアソンは指摘する。「宗派間暴力と非常事態宣言を盾にして、治安部隊がこれまでのように、ロヒンギャ系住民への人権侵害や差別を行うことは許されない。」

・・・・ナサカはこれまで長年にわたり、ロヒンギャ民族への恣意的拘禁のほか、被拘禁者には拷問などの様々な人権侵害を行ってきた。この事実は今回の大量逮捕に関して深刻な懸念を生んでいると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。(後略)【2012年7月5日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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少数民族側には不信感も 「まだ(大統領の)空想に過ぎず、あり得ない」】
最近の動きは、テイン・セイン大統領のもとで民主化が急ピッチで進展している・・・という感を抱かせるものであり、実際、大統領の姿勢は相当に評価できるものに思われます。
人権・民主化の面で問題を抱える国が多いASEANにあっても“お荷物”的な存在であった軍事政権時代からは想像できない格段の進展です。

大統領が民主化を急ぐ理由は、海外からの投資を早急に呼び込むためであったり、ASEAN議長国となることを睨んでのこととも言われていますが、理由がなんであれ、結果が伴えば結構なことです。

ただ、少数民族問題は相手のある話であり、不信感が強い少数民族側からは「まだ(大統領の)空想に過ぎず、あり得ない」といった厳しい声もあがっています。

****少数民族側は不信感 ミャンマー大統領、全土停戦へ意欲****
ミャンマーで自治権拡大を求める少数民族武装勢力との和平を掲げるテインセイン大統領が訪問先の英国で「全国的な停戦」に向けた意欲を表明した。だが、少数民族側は政府への不信感を募らせたままだ。早急に成果を出したい大統領だが、実現は容易ではない。

テインセイン氏は15日夜、ロンドンで講演し、「おそらく今後数週間で、全国的な停戦が実施される」と明言した。テインセイン政権はすべての少数民族組織の代表を首都ネピドーに招いて会議を開き、国連代表など国際社会の立ち会いの下、全国的な停戦協定に署名したい意向を示しており、その実現に自信を見せた形だ。

だが、カチンやカレンなど11の少数民族組織でつくる統一民族連邦評議会(UNFC)のナイホンサ事務局長は電話取材に対し、この発言について「まだ(大統領の)空想に過ぎず、あり得ない」と断言した。

ネピドー会議については、大統領の側近で少数民族との交渉責任者を務めるアウンミン大統領府相が7月中にも開催したい考えを示していた。

政府とUNFCは13日にUNFCの事務所があるタイ北部チェンマイで実務レベルでの協議を実施。双方の担当者によると、政府側からネピドーでの会議開催について申し入れがあった。

しかし、UNFC側は応じず、代わりに少数民族問題の政治的解決に向けた協議を8月上旬に開くよう求めたという。政府側の担当者は取材に対し、「ネピドー会議の開催は予定より遅れるだろう」との見通しを示していた。

2011年の民政移管後、テインセイン政権は主要11の武装勢力のうち10の組織と停戦合意。最後に残ったカチン独立機構(KIO)とも今年5月に暫定的に停戦合意した。戦力に勝る国軍の攻撃に追い込まれたとみられている。

少数民族側が個別には停戦に応じながらも、全国的停戦協定に反発するのは政府への不信感からだ。シャン州やカチン州では小規模な戦闘が散発的に続いている。先に武器を下ろしてしまえば、自治拡大要求が無視されかねないとの懸念も強い。UNFC幹部のオッカー氏は「協定を結んだ後、政治解決が無視されて、我々が武装闘争に戻れば、テロリスト扱いされかねない」と話す。

少数民族側には現憲法が多数派ビルマ族による中央集権を前提としているとして、少数民族の自治や権利を保障する新憲法制定を求める声もあり、政権側との主張の隔たりは大きい。

テインセイン氏が早期の「全国的な停戦」にこだわるのは、「来年、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国になる前に国内和平が実現したとアピールしたいからではないか」との指摘もある。

 ◆キーワード
 <ミャンマー少数民族> 大小135の民族が住むとされ、人口の6~7割を占めるビルマ族以外に七つの主要少数民族がいる。1948年の独立直後にカレン民族同盟が武装闘争を開始、60年代までにシャンやカチンの武装勢力も反乱を起こした。いずれもビルマ族中心の政府や国軍による支配に反発、現在は主に自治権の拡大を求めている。【7月17日 朝日】
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【「州が全権をもてれば、3カ月でベンガル人を追い出してみせる」】
イスラム系少数民族ロヒンギャについても、ロヒンギャと仏教徒・ラカイン族の相互の憎悪は根深く、現地に任せていては進展は期待できません。改善のためには、テイン・セイン大統領の強力なリーダー・シップが必要でしょう。各地に存在するイスラム系住民と仏教徒の緊張関係についても同様です。

****ミャンマー 仏教徒VSイスラム教徒 続く衝突、消えぬ憎悪****
 ■境界で隔絶 深まる対立
ミャンマー西部ラカイン州では、昨年6月以降、衝突を繰り返す仏教徒のラカイン族とイスラム教徒のロヒンギャ族が、完全に隔絶されていた。関係修復はもはや不能にみえるほど、対立感情は鋭く、亀裂は深い。
避難民のキャンプ生活も長期化している。衝突はまた、民族主義の強まりをもたらしていた。
                   ◇
 ◆ラカイン族
単線の鉄道の線路の上に、牛を放し飼いにしたロヒンギャ族の男性が座っていた。線路の左側はロヒンギャ族、右側はラカイン族の居住区。線路はいわば“民族の境界”だ。

線路の脇には監視小屋があり、兵士が小銃を手に目を光らせる。どちらの民族であれ、境界を越えれば逮捕される。州幹部は言う。
「新たな衝突が起こらないように、両民族を完全に分けている。一緒にすることはもはやできない。また殺し合う」

避難民キャンプも別々だ。昨年8月にできたラカイン族のモリワヌ・キャンプ。子供102人を含む302人が暮らす。250人のロヒンギャ族に襲撃され、69戸が全焼した近くの村から逃げてきた。

竹材を編んで造られた家屋は3畳ほど。粗末というほかない。1戸に平均6人が身を寄せ合う。折しも雨期。雨漏りがし地面はぬかるむ。6人の高齢者が病気で死亡し、2児が生まれた。コメや豆などの食糧が毎月1回、国連世界食糧計画(WFP)から支給される。家族7人暮らしのウエ・ライさん(60)は嘆く。
「ここはわが家じゃない。食べ物も十分ではない。家は放火された。家が残っている者も、まだ危険だから政府の帰宅許可が出ず、戻るに戻れない」

モリワヌ・キャンプには、夫を失ったフォエン・カインさん(40)がいた。「ベンガル人に追いかけられ、夫だけが連れ去られ殺された。ベンガル人をとても憎んでいる。彼らがいる限り平和はない」
ラカイン族は、もともとバングラデシュから来たロヒンギャ族を差別し、「ベンガル人」と呼ぶ。

 ◆ロヒンギャ族
ロヒンギャ族の居住区とキャンプを訪れるには、州当局の許可が必要だった。ようやく許可をもらうと、今度はラカイン族の運転手が「あんな所に入ったら、ベンガル人に囲まれ袋だたきにされる」とおびえ、頑として動かない。
仕方なしに、何台ものバイクや車をつかまえては、「連れて行ってほしい」と頼んだ。徒労だった。

長時間かけ何とか運転手を説得した。検問所でチェックを受け居住区へ入ると、人々は皆、「よそ者」の車を鋭い目で追い続ける。道路の両脇には市場。その奥まったところにキャンプがあった。ロヒンギャ族の男性が口を開いた。
「ラカイン族に差別されている。国外へ逃れる同胞もいるが、ここに残る。政府と州はオレたちに市民権を与えるべきだ」

 ◆民族政党発足
国連は解決策として、全ロヒンギャ族への市民権の付与を求めている。だが、州幹部は顔をしかめる。
「ベンガル人は増え続ける一方で、ほとんどが不法滞在者だ。家系などを遡(さかのぼ)り法的に正当性があれば、市民権を与え州外に住まわせ、そうでない者は国外へ退去させればいい」

ある州関係者は「中央政府の姿勢は、人権擁護という外圧を受けており弱い。州が全権をもてれば、3カ月でベンガル人を追い出してみせる」と豪語する。

ラカイン族の住民も、異口同音に「政府とUSDP(与党・連邦団結発展党)は生ぬるい。アウン・サン・スー・チー(最大野党・国民民主連盟=NLD=の党首)も、私たちのために何もせず、発言もしない。嫌いになった」と話す。

USDPとNLDの間隙を縫うように6月、民族政党の「ラカイン民族党」が発足した。「ラカイン民族発展党」と「ラカイン民主連盟」が合流し、新党を結成したのだ。幹部のウ・シュエ・ライ氏は言う。
「ここはラカイン族の土地だ。2015年の総選挙へ向け、民族の衝突はわれわれに追い風だ」【7月17日 産経】
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前出の国境警備隊(通称「ナサカ」)もそうですが、地元の役人・治安関係者においてロヒンギャへの差別意識が強く、衝突が起きると騒ぎを鎮めるのではなく、率先して迫害を行うというのが実態のようです。

人々の間に根付いた憎悪を煽る連中は、「ビルマのビンラディン」とも呼ばれる高僧ウィラツ師など多々存在しますが、和解を説く者は少ないのが現状です。
この問題については、スーチー氏も多くを語りません。
せめて、治安部隊が緊張緩和・衝突の沈静化のために動くように、テイン・セイン大統領の強い指導を期待します。

その意味で、国境警備隊「ナサカ」を廃止したことは、評価に値するものだと思います。
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アフガニスタン  とん挫した和平交渉 撤退後のアメリカの責任

2013-07-16 22:51:24 | アフガン・パキスタン

(映画「キリングフィールド」は、カンボジアでアメリカ人記者の助手として働いていたカンボジア人がポル・ポト支配のカンボジアに残されて経験する苦難とアメリカ人記者との絆を描いたものでしたが・・・・)

 
アメリカ、アフガニスタン政府、タリバン、三者の確執
アフガニスタンからの14年末までの米軍撤退を控えて、カタールの首都ドーハにタリバンの対外連絡事務所が先月開設されたことで、アメリカ、アフガニスタン政府、タリバンの間の和平に向けた交渉の動きも一時見られましたが、三者の確執が露呈する形で、交渉は中断しています。

****タリバン和平交渉:開始の見通し立たず 米政府代表帰国へ****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンとの和平へ向けた交渉で、米政府代表を務めるドビンス国務省特別代表(アフガニスタン・パキスタン担当)は27日、訪問先のインド・ニューデリーで会見し、交渉開始の見通しが立っていないことを明らかにした。

タリバンとの交渉に臨むため今月22日に中東・カタール入りしたが、インド訪問後はカタールへ戻らず、欧州経由で米国に帰国するという。

ドビンス氏は「我々は、協議したいのかどうかタリバン側の返答を待っているところ」と述べた。タリバンは18日にカタールに交渉窓口の事務所を開いている。【6月28日 毎日】
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交渉相手のタリバンとの関係だけでなく、アメリカとアフガニスタン政府・カルザイ大統領の関係も、どちらが主導権を持つかでぎくしゃくしています。

****アフガン完全撤退を検討=カルザイ氏との関係悪化―米紙****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は8日、オバマ大統領がアフガニスタン駐留米軍の撤退を加速させ、2014年末のアフガンへの治安権限移譲後は、部隊を完全撤退させることを真剣に検討していると伝えた。

米欧当局者の話として報じた。アフガンのカルザイ大統領との最近の関係悪化で、オバマ大統領が不満を強めていることが背景にあるという。【7月9日 時事】
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戦闘部隊が14年末に撤退を完了した後、アフガニスタン国軍の教育・訓練を担当するアメリカを中心とする国際部隊が編成される見通しですが、駐留米軍の地位を定める安全保障協定において、アフガニスタン国内法によるアメリカ兵士の訴追を免責する条項をアメリカ側が求めており、これに難色を示すアフガニスタンとの交渉は進展していません。

アメリカ国内の事情として、財政難から駐留規模を抑えたいオバマ大統領側と、治安の混乱を憂慮し規模を大きくしたい米軍側の意見対立もあるとも言われています。

そんなこんなで、14年末以降の方針は不透明な状況ですが、カルザイ大統領がアメリカとタリバンの直接交渉に激怒するなど、アフガニスタン政府側の自己主張の強さに、オバマ大統領としては「アメリカはもう手を引く。あとはアフガニスタンの好きにすればいい」と、いささか辟易しているといったところでしょう。

アメリカ側はカルザイ大統領の統治能力を全く信頼していませんし、カルザイ大統領は米軍の誤爆などを批判することで国民の支持をつなごうとしていますので、もともと両者の間には信頼関係はありません。

交渉が進まないなかで、タリバンの対外連絡事務所も一時閉鎖となってしまいました。

****タリバン、事務所を一時閉鎖=「約束違えられた」―カタール****
アフガニスタンの反政府勢力タリバンは9日、カタールの首都ドーハに開設した対外連絡事務所を一時閉鎖すると発表した。事務所に掲げたタリバン統治時代の国旗などを撤去させられたことに反発したものとみられる。AFP通信が報じた。

パキスタンに拠点を置くタリバン関係者は閉鎖の理由について「約束が違えられた。米国、アフガン両政府とその他関係者の不誠実さに不満を抱いている」と説明した。【7月10日 時事】 
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交渉に向けた方針が、組織的に混乱しているとも言われるタリバン内部でも必ずしも統一されていないのでは・・・という感もあります。

【「ビザをもらえず、米軍がいなくなったら、もうおしまいだ」】
そんな状況で、14年末以降の枠組みは依然不透明なままですが、どんな形になるにせよ時期が来ればアメリカなど外国勢力は撤退します。
帰る国がある米軍はそれでいいのですが、あとに残されたアフガニスタン国民はそのときの枠組みのなかで生きていくしかありません。

タリバンが統一政府的なものに参加するかどうかはわかりませんが、おそらく14年末以降、タリバンが大きな力を持つのではないかと思われているなかで、通訳として米軍などに協力した人々は、“報復”の恐怖を感じています。
そのため、アメリカなどへの移住を希望していますが、なかなかそれも難しいようです。

****アフガン人通訳、米軍撤退に恐々 母国に残れば命の危険****
アフガニスタンで10年以上続く米軍の軍事作戦を陰で支えたのは、最盛期で9千人に上ったアフガン人通訳たちだ。反米色が強まる母国に残れば、米軍撤退後に命を狙われる可能性がある。米国移住の希望がかなう日を、息を潜めて待ちわびている。

「タリバーンはいつか必ず首都にやって来る。その時、自分は真っ先に狙われる」。アフガン北部の米軍基地に所属する通訳ムハンマドさん(25=仮名)の中で米軍撤退後への不安が日に日に膨らんでいる。

基地で寝泊まりしながら、米兵30人ほどの小隊とともに、装甲車で巡回に出るのが日課。米軍の軍服とヘルメット、防弾チョッキ姿。米兵と違うのは、銃を持っていないことと、サングラスやマスクで必ず顔を隠している点だ。

通訳としての2年間の任務を通じて思い知らされたのは「米軍はほとんど誰からも歓迎されていない」という現実だった。村を歩けば「異教徒」「売国奴」と罵声を浴びる。「自分が母国のために働いているとは誰も思ってくれない。同じタリバーンと戦う国軍兵士とは、そこが大きく異なる」と話す。

敵襲よりも恐ろしいのは、自分が米軍で働いている事実を第三者に知られることだ。基地を出た通訳が襲われた例は「数え切れない」。
数カ月前、小隊が軍用車で移動中、誤って村人をはねた。怒った村人が鉄の棒を持って車列を取り囲んだ。あわてて車から飛び出したため、サングラスとマスクをつけることができなかった。「素顔を見られた以上、もうこの仕事は長く続けられない」と思った。

米軍での通訳は、家族の生活のために始めた。一般公務員の月給が200ドル(約2万円)ほどなのに対し、月給千ドル(約10万円)は魅力的だった。しかし、最盛期10万人近い兵力を抱えた米軍は、アフガン側に治安権限が完全移譲される2014年末に向けて削減を始め、今は6万人余りに減った。それに合わせて9千人いた現地通訳はほぼ半減した。オバマ政権は、14年末での完全撤退も検討している。

仕事にあぶれる仲間が相次ぐ中、月給が700ドルほどに下げられた。それでも通訳を辞めないのは「もう少し働けば、米国への移民ビザをもらえるのでは」と信じているからだ。

米国は通訳らを対象に、13年度までの5年間、毎年1500人を上限に特別移民ビザを発給する方針を打ち出している。ムハンマドさんも上官の推薦状を添えて申し込んだが、まだ米国大使館の返事はない。数カ月でビザを発給された仲間もいるが、何年も待っている通訳もいる。

「どこでどう線引きされているのか、まったく分からない。ビザをもらえず、米軍がいなくなったら、もうおしまいだ。運が悪かったというしかない」。ムハンマドさんは天を仰いだ。(カブール=武石英史郎)

 ■派兵の各国、処遇に課題
アフガンに派兵し、2014年末の期限に向けて撤退を進める各国にとって、アフガン人通訳をどう処遇するかは、共通して直面する課題だ。

比較的平穏な中部バーミヤン州に約150人を派兵してきたニュージーランドは今年4月、通訳とその家族計約95人に移民ビザを与えた。ニュージーランドでの歓迎ぶりは、アフガンでも大々的に報じられた。

英国は派兵数で米国に次ぐ。イラク戦争後は多くの通訳の移住を受け入れたが、アフガン人の受け入れには消極的だった。しかし、アフガン人元通訳3人がイラク人同様の扱いを求めて提訴。署名運動も広がり、今年6月に通訳600人に限って受け入れることを決めた。

多くの国は受け入れの際、「前線で働いていた」など厳しい条件をつけており、希望者数に対して受け入れ枠は少ない。人材派遣会社を通じた間接雇用の人は認められない場合があり、通訳と同じ危険を抱える運転手や事務職は対象外のことも多い。

仮に移住できたとしても苦労は続く。米軍通訳として6年働き、4年前に移民ビザを得て渡米したウスマンさん(27=仮名)は、ガソリンスタンドやスーパーなど職を転々。カブールに残した妻に移民ビザが出るのを待つ日々だ。
同じ時期に米国に渡った元通訳の中には、高収入を求め、今度は正式な米軍要員としてアフガンの米軍基地に戻った人も多い。

しかし、ウスマンさんは「アフガンに戻ろうとは思わない」と言う。「米国生活はいいことばかりじゃない。妻がなじめるかどうかも分からない。ただ、米国には安全がある。アフガンには命の保証がない」【7月16日 朝日】
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ベトナム戦争後のベトナムやラオスでも、またイラクでも、アメリカ撤退後に現地に残された人々の苦労は多々あります。

アメリカには「アメリカはもう手を引く。あとはアフガニスタンの好きにすればいい」とは言えない、撤退後の枠組みをつくり、移住希望者は受け入れる責任があります。
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タイ タクシン元首相の「密談テープ」発覚で揺れるインラック政権  バラマキ・大衆迎合批判も

2013-07-15 22:11:36 | 東南アジア

(6月30日の白仮面デモ “flickr”より By theglobalmovement http://www.flickr.com/photos/89734618@N02/9189748643/in/photolist-f14S78-eU3p2p)

【「操り人形の政権はいらない」】
タイでは、街頭での衝突などは最近ないものの、タクシン元首相を巡る「赤シャツ」「黄色シャツ」の対立構造(親タクシンの低所得層の農民や労働者と、反タクシンの軍・枢密院・既得権益層・都市中産階級との対立)は依然として解消されていません。

そんなタイで、今度はタクシン元首相の院政に抗議する「白仮面」デモが行われているそうです。
「白仮面」は、近年「抵抗と匿名の国際的シンボル」として大流行のガイ・フォークスの仮面のことでしょう。

****タイで白仮面デモ「操り人形の政権いらない*****
タイ各地で14日、インラック首相と、首相の兄で「影の実力者」とされるタクシン元首相に反対するデモがあり、「操り人形の政権はいらない」と気勢を上げた。

デモは、参加者が白仮面を着用するのが特徴で、5月から毎週末のように行われている。タイでは2006年ごろからタクシン支持派が赤色、反タクシン派が黄色のシャツを着用し、街頭行動を展開してきた。

白仮面デモの参加者には、「黄色シャツ組」も含まれており、インラック政権は警戒を強めている。【7月15日 読売】
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なお、ウィキペディアによると、ガイ・フォークスは1605年にイングランドで発覚した火薬陰謀事件の実行責任者で、「男、奴」を意味する英語「ガイ(guy)」は、彼の名に由来するとのことです。初めて知りました。

【「気持よく死にたいだけだ。政治にはこだわっていない」】
タクシン元首相は未だ帰国できずにいますが、妹のインラック首相周辺では元首相の帰国が画策されています。
最近も、タクシン元首相自身が登場する「密談テープ」が世間に流布されています。

****タクシン氏「密談テープ」流出=側近と会話?波紋広がる―タイ*****
タイのタクシン元首相と側近が元首相の帰国問題などについて密談しているとされる音声テープが動画投稿サイトに掲載され、波紋が広がっている。

問題のテープはタクシン氏とユタサック国防副大臣が6月に行った会話を録音したものとされる。
テープでは、タクシン氏とされる人物が、同氏の帰国を実現させるのは「あなたの義務だ」と語ると、もう1人が「私はライオンを助けるネズミのようなもの」と応じ、軍幹部らの支持を得てタクシン氏の帰国に道を開く方策を話し合っている。

また、ユタサック氏とされる人物は、タクシン氏が帰国しても、反タクシンの代表格で王党派のプレーム枢密院議長に報復しないとの保証をプラユット陸軍司令官が求めていると発言。タクシン氏とされる人物は「報復しない」と繰り返している。

このテープについてユタサック氏は「自分の声ではない」と否定。しかし、タクシン氏の長男は10日、フェイスブックで「確かに父の声だ」と認めた。長男によると、タクシン氏本人もテープの内容を一部確認したといい、テープは「本物」で間違いなさそうだ。【7月12日 時事】 
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これだけでは、密談の意味合いはよくわかりませんが、下記のタイ関連サイトが詳しく内容・背景・影響などを解説しています。

****タクシン元首相と閣僚が密談? 音声ファイル流出でタイ政権に激震****
タクシン元首相とユタサク副国防相(元国防次官)とみられる人物がタクシン元首相への恩赦やタイ軍人事などについて話し合う音声ファイルがインターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿され、タイ軍が態度を硬化させている。
元首相の帰国がさらに困難になった上、6月末に就任したばかりのユタサク副国防相が強い辞任圧力にさらされ、インラク政権は大きく揺らいでいる。

音声ファイルは2人が6月にシンガポールで会った際に隠しマイクで録音されたとみられ、今月6日に投稿された。ユタサク副国防相はタクシン元首相と会ったことを否定し、音声はねつ造だと主張。タイ政府はこの音声ファイルへのタイ国内からのアクセスを遮断したが、反タクシン派のメディアがファイルを入手し、自社サイトで公開を続けている。

タクシン元首相は2006年の軍事クーデターで追放され、2008年、首相在任中に当時の妻が公有地を競売で取得したことで、懲役2年の実刑判決を受けた。以来、投獄を避けるため、国外生活を余儀なくされている。
2011年の総選挙でタクシン派政党が勝利し、妹のインラク氏が首相に就任したことから、帰国を目指し、恩赦法案の国会提出、憲法改正などに動いたが、いずれも野党、反タクシン派市民団体の反対で潰された。

音声ファイルの会話では、元首相への恩赦を国会を経ずに実現するため、タイ軍の協力を得て、緊急勅令の形で恩赦を成立させる方法が話し合われた。
ユタサク副国防相とみられる人物は、軍幹部がこの方法に概ね同意しつつあるという感触を伝えた。タクシン元首相とみられる人物は、帰国後はタイ王室財産管理局の顧問につき、国王の諮問機関である枢密院の顧問官にはならないと述べた。王室財産管理局顧問というポストは政争の終了を印象づける狙いがあるようだ。

ユタサク副国防相とみられる人物は元首相が帰国後、政治に関与することに強い懸念を示したが、タクシン元首相とみられる人物は「気持よく死にたいだけだ。政治にはこだわっていない」などと話した。

ユタサク副国防相とみられる人物はまた、「上司のタクシン首相を帰国させたいと、占い師に聞いてきた」、「成功するが、大変だぞ、我慢出来るか、と言われた」などと話した。

軍については、ユタサク副国防相とみられる人物が「チャリット枢密顧問官(元空軍司令官)の手先だったプラジン空軍司令官が、こちら側についた」と述べた。タナサク国軍最高司令官とも良好な関係を築き、ミャンマー南東部ダウェイの開発でタナサク司令官とミャンマー軍最高司令官の個人的な関係が利用できると話した。

次の海軍司令官人事については、タクシン元首相とみられる人物がアモンテープ海軍大将を推した。アモンテープ海軍大将の妻はバンコクの大規模マッサージパーラー「ポセイドン」のオーナー一族で、タクシン元首相の元義父が付き合いがあるという。

タクシン元首相とみられる人物はまた、インラク首相について、「私と性格が同じ。女性だからソフトだけど、思ったことを口にする」などと話した。

インラク政権は6月末に内閣改造を行い、首相が国防相を兼任し、インラク政権でいったん国防相を務めたユタサク氏が副国防相として再度入閣した。
首相はこの異例の人事を、マレー系イスラム武装勢力によるタイ深南部のテロ問題に対処するためと説明したが、今回の音声ファイルが本物だとすると、タクシン元首相への恩赦、軍人事への介入が狙いだったことになる。

また、軍幹部は反タクシン派から政権側に寝返ったことを暴露されたかたちで、政権との関係は険悪化しそうだ。軍幹部は近く、この問題について協議するとしている。

ユタサク副国防相は1937年生まれ。陸軍士官学校卒。国防次官を定年退官した後、2001年のタクシン政権で副国防相、2011年のインラク政権で国防相、副首相を務めた。
【7月10日 newsclip 】http://www.newsclip.be/article/2013/07/10/18256.html
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密室政治の内情を暴露した随分と生々しい内容です。
「白仮面」デモは5月から行われているということですが、こうした「密談テープ」が暴露されれば、今後ますます盛り上がることでしょう。

タクシン元首相にとっては、彼を追放した軍との関係が悪化するのが問題です。帰国は更に難しくなったように思えます。

批判を受けるコメ担保融資制度に絡む損失拡大
タクシン元首相の代役として、いきなり首相の座についた妹のインラック首相は、就任当初は大洪水対策などで不慣れな面も露呈しましたが、その後は無難にこなしています。懸命に頑張っている様子などが一般国民には好印象を与え、支持率などは悪くない・・・というのが、昨年までの評価でした。

“タクシン一族内では、決して表面化することのないそれぞれの役割分担があるらしく、それは、タクシン氏が国内外の政治、妹のヤオワパー氏が党内外の調整役、そしてインラック首相は、タクシン、ヤオワパー両氏が書いた台本に従い、リーダーを演じることだという”【6月28日 thai plusone】http://thai-plusone.asia/column/ma20130628/

しかし、コメ担保融資制度に絡む損失拡大や不正疑惑などで政権批判が高まる中、さすがに最近はインラック首政権の支持率も低下してきているとも指摘されています。
タクシン支持派にとっては、いつまでたっても実現しない帰国問題への苛立ちもあるでしょう。

そうした支持率低下を挽回するための6月30日の内閣改造でしたが、「密談テープ」発覚で揺れています。
政策的に問題となっているのは、コメ担保融資制度に絡む損失拡大です。

****タイ、「コメ買い上げ」で赤字 8500億円との推計も 農村優遇裏目、輸出もできず****
コメ輸出大国のタイで、政府が一昨年導入した事実上のコメ買い上げ制度が巨額の財政赤字を生んでいる可能性が高まっている。インラック首相が公約としていた制度だが、政府は赤字額を公表できず、野党などから批判が高まりつつある。

米格付け大手のムーディーズ・インベスターズ・サービスが最近、赤字額は最大2600億バーツ(約8500億円)に達し、タイの信用格付けに影響しかねないとの報告書を出した。
政府は懸念を払拭(ふっしょく)するために今月7日、記者会見を開いたが、赤字額を公表できなかった。逆に「(損失は)もっとひどいのではないか」と臆測を呼んでいる。

この制度は、農家が生産したコメを担保に政府系機関の農業銀行から金を借りるという、融資のかたちの所得補償制度。借金を返さなければ担保のコメは戻らないが、それは政府が売るため、買い上げと変わらない。
コメ1トン当たりの融資単価が市場価格よりも3~5割も高いうえに、量に制限がないという破格のものだった。

昨年末の世界銀行報告書によると、タイのコメ農家の3分の1にあたる130万世帯が制度を利用し、政府は約2千万トン近くの売れないコメを抱え込むことになった。世銀推計では昨年の赤字は1150億バーツ。この額は国内総生産(GDP)の1%、12年度のタイの国家予算の5・8%にあたるとしている。

相場より高いコメのため、市場に出すと損失となり赤字が膨らむ。このため政府は輸出を控え、昨年の輸出量は前年より3割余り減り、世界1位のコメ輸出国の座から転落した。

この政策は、農村票を固めるためにインラック首相が2011年の総選挙の公約としたもので、政府には制度を見直すそぶりはない。ただ「赤字額を隠蔽(いんぺい)している」とのメディアや野党からの批判の高まりを受けて、同首相はワラテープ首相府相にこの問題を調べて説明責任を果たすよう指示を出した。【6月13日 朝日】
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こうしたインラック政権の施策は“大衆迎合”との批判も受けています。
もともと、兄タクシン首相の施策もバラマキ・大衆迎合の批判がありましたが、インラック首相のそれは更に拍車がかかっているとのことです。

****タイ、高まる大衆迎合批判 14年度予算案提出 コメ農家補償継続****
財政赤字削減を目指すタイ政府が2014年度(14年10月~15年9月)予算案を国会に提出したのをきっかけに、インラック政権による大衆迎合政策に拍車がかかっているとの批判が高まっている。現地紙バンコク・ポストなどが報じた。

タイ政府は17年度に年間の財政赤字をゼロにする目標を設定。14年度予算案では歳出を前年度比約5%増の2兆5250億バーツ(約7兆9790億円)とし、財政赤字を2500億バーツと見積もった。今年度の財政赤字は政府試算によると3000億バーツとなる見通しで、500億バーツの削減となる。

しかし、ここへきてインラック政権の主要政策の一つ、コメ農家への所得補償制度による今年度の損失額が、政府試算の最大1000億バーツを大きく上回る約1360億バーツ以上となったことが判明。「バラマキ」との批判が多かった政策だったことに加え、政府が早々に継続の意思を表明したことから議論が巻き起こった。

米格付け大手ムーディーズは、同政策を続行すれば財政赤字が拡大し、タイ政府による削減努力をのみ込む恐れがあると指摘、「17年までに均衡予算を実現するという目標の達成を危うくする」と警告した。

また、民間政策調査機関のタイ開発研究所は、11年に発足して以降のインラック首相の政権運営について、同首相の兄で01~06年に政権の座についたタクシン元首相を引き合いに出して、「大衆迎合に拍車がかかった」と批判している。

同研究所は、タクシン政権は大衆迎合とされながらも健康保険制度の推進や「1タンボン1製品運動」(日本の一村一品運動に相当)など、大多数の国民の利益を実現し、地方の発展に貢献した側面があったと分析。
そのうえで、インラック政権については自動車購入優遇政策や農家の所得補償政策など、「選挙を意識し、一部の人々のための政策実現に躍起になっている」と指摘した。特にコメ政策に関しては「市場を破壊し、経済に損失を与えている」と手厳しい。

高まりつつある各方面からの批判をかわしつつ経済成長を実現し、財政赤字削減を着実に実行できるかどうか。インラック政権は正念場を迎えている。【6月26日 Sankei Biz】
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もっとも、コメをめぐる農政に理念がなく、バラマキになっているというのは日本も同じで、タイ・インラック首相だけの問題でもありません。
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原発関連の住民反対運動に、中国は即決で建設中止、インドは稼働を強行

2013-07-14 22:13:15 | 原発

(インド、クダンクラム原発稼働に反対する住民運動 “flickr”より By News Agency http://www.flickr.com/photos/44858852@N04/8413968544/in/photolist-dPvMHb

中国:住民反対で異例の建設中止
原発を推進する新興国、中国とインドで、原発施設建設を巡る住民運動と政府の対応に関する話題が2件。

先ず、中国の方は、住民の建設反対運動を受けて、異例の建設中止の判断が下されたというものです。

****核燃工場建設を中止 中国当局「デモの意見、尊重*****
中国広東省の鶴山市で計画中だった原子力発電用の核燃料製造工場の建設が、住民の反対デモを受け、中止になった。市政府が13日発表した。原子力関連の計画が住民の反対で変更されるのは、中国では極めて異例だ。

工場はウラン精製から核燃料ペレット製造まで行い、370億元(約6千億円)が投資される予定だった。中国政府が直接管理する企業グループ「中国核工業集団」が選考を進め、同市が他省の候補地と競争の末に誘致。用地として229万平方メートルを準備した。

市政府は今年3月に計画の概要を公表していたが、「クリーンエネルギーの工業地」としか説明していなかった。今月3日になって核燃料の製造を公表し、意見公募を始めたところ、事故による放射能汚染を恐れる住民の反対が強まった。

12日には建設反対デモがあり、千人近くの市民らが参加。横断幕を掲げて車道を歩いた後、鶴山市を管轄する江門市の政府庁舎前で抗議の声を上げたり、国歌を歌ったりした。参加者によると警察官が数百人出動し、庁舎前を柵で囲んで警備したが、衝突はなかった。横断幕には「反核」「原発は未来を絞め殺す」などと書かれていた。

鶴山市政府は発表の中で「意見公募で社会各界の反対が多かった。デモの意見も十分尊重し、計画立ち上げを(企業に)申請させないと決めた」と説明。市民の反核運動が中止の判断に影響したことを認めた。

中国では環境意識の高まりから、工場建設に反対するデモが頻発しており、昨年は四川省什ホウの金属精錬工場や浙江省寧波の石油化学工場が建設中止に追い込まれた。核関連施設を巡っては、東京電力福島第一原発事故が報道された影響などから、住民の懸念はより一層強かったようだ。

中国政府は原発建設を推進しており、現在8カ所で稼働中。建設中や計画中のものは35カ所にのぼる。建設中止で、今後の原発政策に影響がでる可能性もある。【7月14日 朝日】
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“鶴山市は突然、この計画を発表し、4~13日の予定で住民からの意見募集を実施。しかし、地元住民から反対意見が噴出し、12日に江門市政府前で1000人以上のデモが行われたため、意見募集期間が10日間延長されていた。”【7月13日 時事】というものですが、市当局の中止発表後も、これを信用しない住民の抗議デモが続いたようです。

****3日連続で核燃反対デモ=当局の中止発表信用せず―中国****
13日に核燃料加工場の建設計画取り消しが発表された中国広東省江門市で14日、当局の発表を信用しない市民数百人が再び反対デモを行った。香港のラジオが伝えた。デモは3日連続。

デモ隊は市政府前で「団結は力だ」などと叫び、建設中止を明確にし、別の名目で同様の施設を建設しないよう要求した。これに対して、市共産党委員会の劉海書記が現場で対応、「建設計画は完全に取り消した」と明言したことから、デモ隊は解散した。【7月14日 時事】
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なお、“人口が多い中国東南地方の沿海部でこの種の施設の建設は初めてだった。建設地はマカオから100キロ、香港から120キロに位置し、両地区でも懸念の声が出ていた。”【7月13日 時事】とのことです。

インド 「人々の幸福のために建てられた」 稼働強行
一方、インドでは長年の住民による反対運動で反原発運動の象徴ともなっていた大規模原発について、その稼働が原子力規制委員会によって許可されたとのことです。

****新原発、数日中に稼働か=当初予定から6年、反発必至―インド****
インド原子力規制委員会は12日までに、南部タミルナド州にあるクダンクラム原子力発電所の稼働を許可した。当初の予定から約6年、運転開始が延期され続けてきた原発だが、数日中に運転が始まる可能性が高まった。しかし、環境や生活への影響を懸念する住民や活動家から強い反発を受けるのは必至だ。

地元政治家は時事通信の取材に、加圧水型のクダンクラム原発1号機(1000メガワット)の稼働に関し、規制委から報告を受けたことを認めた。一方、運転開始日時については「まだ聞いていない」としつつも、「早ければ2、3日中に始まるだろう」と語った。

クダンクラム原発は1988年、旧ソ連の支援で建設されることが決まったが、ソ連崩壊に伴う政治的混乱を受け、実際には2002年に着工された。
1号機は07年12月の稼働開始が予定されていたが、住民や活動家の激しい反対運動に遭った上、安全面での欠陥が指摘されるなどして延期された。【7月12日 時事】
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これに先立つ5月6日には、インド最高裁がクダンクラム原子力発電所の試運転を許可しましたが、その際最高裁は同原発について、「人々の幸福のために建てられた」ものであり、「政府は必要な手順を踏んている。原発の開発はインドにとって重要だ。われわれはより大きな利益と経済的必要性の間で、バランスを取らなければならない」と述べています。【5月6日 AFP】
建設地クダンクラムは、インド有数の巡礼地でもあるインド亜大陸最南端カニャクマリから北東へ24kmほど行った場所です。

反対運動の経緯は下記のとおりですが、これまでもインドの原発施設ではたびたび事故が発生していること、建設地は2004年のスマトラ島沖地震に伴うインド洋大津波の被災地であり、近くのマドラス原発では、その際冷却用の取水ポンプが津波で使用不能となる事故を起こしていることなどから、死者を出すほどに反対運動が激しいことにも理由があります。

****反対運動の経緯*****
計画当初から反対運動は行われていたが、2001年に地元出身の元大学教授ウダヤ・クマール氏らによるNGO団体、PMANE(People's Movement Against Nuclear Energy)が設立されることにより更に活性化した。

特に2011年の福島第一原子力発電所事故以降に1号機が試験運転を行ったことでより多くの住民が運動に参加した。8月以降連日1万人以上が参加し、津波と地震に対する安全性評価や、環境影響評価の開示などを求めて、集会、デモ行進、女性たちの道路封鎖、無期限ハンストなどが行われた。

9月22日、ジャヤラリター州首相は「住民の合意があるまで稼働させない」と表明し、シン首相に原発稼働断念を求めた。

しかし、2012年3月19日州首相は方向転換を発表し、稼働を許可、原発周辺地域を武装警官隊で封鎖し、物資の搬入を禁止、メディアの報道規制も行われた上、PMANE幹部への逮捕状を出した。23日にはデモなどを行った住民665人が逮捕された。

その後、高等裁判所が「封鎖解除、物資搬入許可」の緊急判決を下し封鎖は解除されたが、抗議行動は続けられた。
(中略)
2012年9月10日には約1,000人が参加したデモ隊に警官隊が発砲、1人が死亡、9月16日には約200人が警察に拘束されるなど弾圧が強まる中、原子炉に核燃料を入れる作業が9月19日から始まったと報じられた。
(中略)
なおこの海岸地帯は、インドでも12,407人が死亡した2004年のスマトラ島沖地震に伴うインド洋大津波の被災地であり、家を流された住民が現在も500棟の避難住宅で暮らしている。
また、北東約550kmにあるマドラス原発では、その際冷却用の取水ポンプが津波で使用不能となる事故を起こしている【ウィキペディア】
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日本の原発輸出に対する反発も
インドは安倍政権が原発輸出を進めようとしている国でもあります。

****安倍政権の「原発営業」、インドから「NO」の声****
「日本の原発は安全」をセールストークに、原発メーカーの役員を引き連れて世界中に「原発営業」をかけている安倍政権。
政府レベルでは売り込まれたほうも歓迎しているようだが、当然のことながら国民は猛反発している。

インドもまた、原発セールスを積極的に行う安倍政権が有望視している国だ。
5月29にはインドのシン首相と会談、原子力協定を早期妥結することで合意した。

インドではすでに20基の原発が稼動しているが、今後20年で新たに34基の原子炉を造る計画があるという。
そんな日本の「原発輸出」のリスクを訴えるため、6月にインドから来日したカルーナ・ライナ氏はこう語る。

「インド政府は、現在の2.7%から’50年には25%へと原発比率を増やそうとしています。ところが福島の原発事故以降、各地で反原発運動が起き始めました。南部のクダンクラムでは600日以上が経過したいまも激しい抵抗が続き、日本の原発輸出に対する反発も起こっています」

クダンクラムの抗議活動はインドの反原発運動の象徴ともいわれる。現地団体と交流があるノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパンの佐藤大介氏は「特に昨年9月のデモ、治安当局による弾圧は激しかった」と言う。

「クダンクラム原発1号機に核燃料が装填されそうになったため、9月9日、3万人もの人々が原発を包囲しました。ところが、翌日数千人の警官が襲いかかり、警棒で殴りつけるなど激しい暴行を加えました。警官は女性や子供にも手加減せず、重軽傷者多数。男性1人が射殺されました。さらには家々を次々と破壊するなどの弾圧ぶりに、インド全土が大きなショックを受けたのです」(佐藤氏)。

インドでは、たびたび起きてきた原発トラブルが原発の不信感に繋がっている。
「’93年にナローラ原発で火災が発生、翌’94年にはカクラパール原発で浸水。同じ年、建設中のカイガ原発では、格納容器を形成するコンクリート150tが高さ75mから崩落し、作業中の14人が負傷しました。過去40年間で数え切れないほど安全性に問題のある事例があるのです」(ライナ氏)

一方、ビジネスとして考えてみても、インドへの原発輸出は他国へ輸出するよりもリスクが大きい。
その理由は厳しい原子力損害賠償責任法の存在だ。これにより、事故が起きればメーカーが汚染の被害を賠償する仕組みになっている。日本のように、国が助けてはくれないのだ。

「もし日本製の原子炉で大事故が起きれば、メーカーに対して莫大な損害賠償が請求されることも十分ありえます。住民の反対、安全性への疑問、事故時の賠償責任等、多くのリスクを背負ってまで日本は原発をインドに輸出したいのでしょうか。ドイツは、インドの再生可能エネルギー開発に向けて10億ドルを拠出しました。日本もそちらの方面に資金を振り向けたほうがよいのでは」(ライナ氏)

福島原発の事故収束もままならぬ中、原発を平然と売り歩く安倍政権及び日本の姿はどう見られているのか?【週刊SPA! 7月9日】
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安倍政権の成長戦略において重要な位置を占める原発輸出ですが、日本国内で安全性への疑問から未だ稼働できていない状態で、他国に売り込むことに関しては、日本国内においても素朴な疑念を感じる向きが多くあります。

このところの猛暑が今後も続けば電力需給がひっ迫し、原発反対の声など消し飛んでしまう・・・と、政権側は高を括っているのでしょうか。まあ、実際その程度のものではありますが。

インド初の100万kwを超える大規模原発という国家プロジェクトと、中国の地方政府の原発施設建設計画を同列で論じることには問題もあるでしょうが、人権侵害国家として悪名高い中国で即決の建設中止、世界最大の民主主義国インドで稼働強行という、対照的な反応が興味深いところです。

中国指導部が住民の直接抗議行動にピリピリ神経をとがらせている感がありますが、これも一党支配体制における中国流民主主義でしょうか。

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イスラム武装勢力によるテロの被害者マララさん 16歳の誕生日、国連本部で教育の重要性を世界にアピール

2013-07-13 22:21:11 | アフガン・パキスタン

(マララ・デーの12日 国連でスピーチするマララさん “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/54892559@N06/9273610330/in/photolist-f8tFgh-f86XQi-f8mchQ-f8aorD-f8pENA-f7XuZV-f7XoqR-f8cDAY-f7ZQT6-f83G8Z-f812kZ-f8f7sf-f7ZQWx-f8f7tW-f84xnk-f8iNDJ-f7VYQe-f8HMo9-f8tnbg-f7YRev-f81AUk

テロ地獄パキスタン
パキスタンで日常茶飯事のごとく繰り返されるテロの暴力については、このブログでも何度も取り上げてきました。
最近1か月の国際的に大きく報じられた事件だけでも、以下のとおりです。

****パキスタンで女子大生を標的にした攻撃、25人死亡****
パキスタン南西部バルチスタン州の州都クエッタで15日、女子大学生が乗ったバスが武装集団によって爆破され、14人が死亡、19人が負傷した。政府当局者が明らかにした。
その約90分後、負傷者が搬送された病院が襲撃され、準軍事組織の辺境州防衛部隊報道官によると、さらに11人が死亡、17人が負傷した。(後略)【6月16日 AFP】****************

****外国人観光客ら10人死亡=武装勢力、ホテル襲撃―パキスタン****
パキスタン北部ギルギット・バルティスタン地域で23日未明(日本時間同日未明)、武装勢力がホテルを襲撃し、外国人観光客ら10人が死亡した。
地元当局によると、死亡したのはウクライナ人5人と中国人3人、ロシア人1人とパキスタン人ガイド1人。中国人1人が負傷して病院に搬送された。(後略)【6月23日 時事】
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****パキスタンで爆弾攻撃相次ぐ、53人死亡****
パキスタンで6月30日、各地で爆弾攻撃が相次ぎ、当局によると53人が死亡した。1日の死者数としては、ここ4か月余りで最悪のものとなった。
最も多くの死者を出した2件の攻撃は、南西部クエッタと北西部ペシャワル近郊で起きた。
クエッタでは、シーア派のモスク(イスラム礼拝所)近くの検問所で自爆攻撃が起き、当局によると28人が死亡、51人が負傷した。
ペシャワル近郊では治安当局の車列を狙った車爆弾攻撃があり、地元の病院によれば、17人が死亡、46人が負傷した。警察によると、車爆弾は混雑した市場で爆発したために、死傷者の大半が民間人だった。(後略)【7月1日 AFP】
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【「1本のペンと1冊の本が、世界を変え得るのです」】
こうしたテロの暴力が吹き荒れるパキスタンにあっても特に世界を震撼させた事件が、昨年10月、パキスタン北西部のスワト渓谷でバス通学途中にイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」によって頭を撃たれたパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさん(16)の事件でした。

マララさんはかねてより女子教育の必要性、学ぶことの喜びを訴えており、冒頭に挙げた6月15日のクエッタでおきた女子大学生通学バス爆破事件同様、女性の教育を否定するイスラム武装勢力によって標的とされたものです。

事件後、イギリスでの治療によって目覚ましい回復を遂げたマララさんは、TTPの再襲撃予告や事件の恐怖に屈することなく、改めて女子教育の重要性をアピールしており、そのアピールは世界中に大きな輪を広げています。

マララさんの誕生日、7月12日を国連は「マララ・デー」と命名。
その12日にマララさんは国連本部で、世界各国から集まった約500人の若者の他、国連世界教育特使のブラウン前英首相、潘基文(バン・キムン)事務総長が見守るなか、力強いメッセージを世界に発信しています。


「テロリストたちは、銃弾で私たちを黙らせることができると思ったのでしょう。でも、彼らは失敗に終わりました」

「彼らは私の目標を変えさせて、熱意をくじくことができると考えたのでしょう。でも、私の人生で変わったことはありません。弱さと恐怖心、絶望が消え失せ、強さと力、勇気が生まれたこと以外は」

「私は誰にも敵対はしない。私は誰も憎んでいない」

「過激派はこれまでも今も、本やペン、教育の力を恐れています。教育の力が彼らを黙らせたからです。そして彼らは、女性のことも恐れています」

「本とペンを手に取りましょう。私たちにとって最も強力な武器です。1人の子どもと1人の教師、1本のペンと1冊の本が、世界を変え得るのです。教育こそが唯一の解決策です」【7月13日 AFPより】


(マララさんのスピーチを聴く少女たち “flickr”より By United Nations Information... http://www.flickr.com/photos/46534160@N06/9270963596/in/photolist-f8f7tW-f84xnk-f8iNDJ-f7VYQe-f8HMo9-f8tnbg-f7YRev-f81AUk)

****本とペン、世界を変える…マララさん国連演説****
ニューヨークの国連本部で12日に演説したマララ・ユスフザイさん(16)は、「私たちの最も強力な武器である本とペンを持ちましょう。一人の子供と教師、1冊の本と1本のペンが世界を変えるのです」と訴え、喝采を浴びた。

この日、16歳の誕生日を迎えた少女の言葉は、子供の教育機会を拡充する活動の輪を、世界中に広げる力となりそうだ。

マララさんは、ピンクのスカーフを巻いて国連本部の大会議場に現れた。母国パキスタンのベナジル・ブット元首相が愛用したものだ。2007年12月、自爆テロに倒れた女性指導者の装飾品を身にまとうことで、暴力に屈することを断固として拒み、「私たちは言葉の力を信じます。言葉で世界を変えられます」という決意を示したものだ。

昨年10月、イスラム武装勢力に銃撃されながら、奇跡の回復を遂げ、勇気ある発言を繰り返すマララさんの姿は、すでに世界各地で教育振興の動きを促進している。

国際的な民間活動団体(NGO)「プラン」は、女子教育支援の「Raise Your Hand~世界の女の子のために手を挙げよう!」という運動を展開。マララさん銃撃の直前に始めたが、事件後に爆発的な広がりを見せた。賛同者は、挙手した写真をネット上に投稿するというユニークな活動で、マララさんを含む世界の人たちが、笑顔の写真を載せている。

パキスタンでは12日、少女30人がムハマド・バリグ・ラフマン教育相を訪ね、「すべてのパキスタンの少女に教育を受ける権利を」と訴えた。以前なら考えられなかった光景だ。

国連が演説に合わせて発表した報告書によると、世界で学校に通えない子供の数は11年時点で約5700万人に上る。特に深刻なのが紛争地での状況で、小学校に通えない子供の割合は08年の42%から50%に悪化した。

世界各地で教育を妨害する暴力がやむ気配もない。パキスタンでは、今年6月にも女子大学生が乗った通学バスが爆破され、14人が死亡する事件があった。ナイジェリアでは先週、イスラム過激派が「西側の教育は罪だ」と叫びながら学校を襲撃し、生徒41人を殺害した。

「教育のため、平和が必要です」というマララさんの訴えは、世界の多くの人々の胸に響いたはずだ。【7月13日 読売】
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【「マララは私たちの希望」】
パキスタンには、マララさんと同じように教育の権利を脅かされながらも、学ぶことをあきらめない女性たちがいます。

****希望と勇気 「マララと同じ境遇の少女、何千人もいる」同郷の少女、迫害恐れずエール****
マララ・ユスフザイさんがニューヨークの国連本部で演説した。パキスタンにはマララさん以外にも、迫害を受けている少女たちがいる。同郷のヒナ・カーンさん(18)もその一人だ。

首都イスラマバードでの記者会見で「学校へ行かせて」と訴えてから脅迫が絶えない。なお恐怖が支配する母国から「マララは私たちの希望」とエールを送った。

ヒナさんが家族とともに故郷のスワート渓谷から、首都に逃れてきたのは2007年。以来、6回自宅を変えたが、脅迫の手はなお追いかけてくる。

昨年、マララさんが撃たれる数日前、自宅の外壁に赤いペンキで×印が書かれているのを家族がみつけた。いたずらかと思ったが、消しても消してもまた書かれた。マララさん襲撃の3日後には、見知らぬ男から電話がかかってきた。母に「ヒナはお前の娘か。マララの次はヒナだ」と言った。

故郷にいた当時、父母は女性の自立を支援するNGOを主宰していた。女性の社会進出を否定する武装勢力パキスタン・タリバーン運動が渓谷一帯に侵入して来ると、生活は一変した。

別の町の女子校が爆破され、ヒナさんもほとんど学校に行けなくなった。仕事帰りの女性の刺殺体が近所で見つかった。働く女性への見せしめだった。女性の権利を訴えていた両親にも脅迫が及ぶようになった。

ある晩、父が「これから皆で旅行に行く」と言い出した。1週間分の着替えだけを持って家を出た。しばらくして本当の理由が分かった。
滞在先で深夜、父が黙り込み、母がすすり泣くのを見た。タリバーンのラジオ局が放送で両親を名指しし、「逃げても無駄だ。必ず処罰する」と脅迫したと聞かされた。父がタリバーンに拉致されかかっていたことも知った。

首都での逃亡生活は厳しかったが、うれしいこともあった。学校に通うことができたからだ。故郷の級友のほとんどは、16~17歳になると結婚させられ、学校をやめていく。首都の学校では、そんな級友はほとんどいない。

08年、NGOの記者会見に参加した。「スワートの友人たちを学校に行かせてあげて」と訴えた。両親だけでなく、自身も標的になったのは、この時の様子がメディアに流れたからだ。

「でも、私は後悔していない。この国にはマララのような境遇の少女が何百人も何千人もいる。一人一人は普通の少女でも、勇気を持ってマララと力を合わせれば、いつかこの国は変わるかもしれない」

 ■300万人超、学校通わず パキスタン
マララさんと同じスクールバスに乗っていて銃撃で負傷した友人のカイナート・リアズさんが12日、地元テレビの番組に出演した。「一緒に登校できないのは寂しいけれど、女の子の教育のため、マララにがんばってほしい」と話した。

現地では事件後、軍が厳戒態勢を敷き、タリバーンの活動は減った。12日にはマララさんと連帯する行進が行われた。多くの子供は学校に戻ったが、タリバーンへの恐怖が消えたわけではない。

昨年末、政府が地元女子大の名前を「マララ」と改名しようとしたところ、反対運動が起きた。テロの標的となるのを心配したためだ。
ユネスコによると、同国の小学校学齢期の女子のうち約3分の1にあたる300万人以上が就学していないという。【7月13日 朝日】
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マララさんと同じスクールバスに乗っていて銃撃で負傷したシャジア・ラムザンも、進学のためイギリスに渡っており、マララさんとも再会しています。

****マララさんと共に銃撃された少女、英国で通学へ****
パキスタンで昨年、女性の教育権を訴える活動を行っていた少女マララ・ユスフザイさんと共にイスラム武装勢力に銃撃された女子生徒が、英政府から学生ビザ(査証)の発給を受け、先週末に渡英していたことが分かった。

シャジア・ラムザンさん(15)は6月30日夜、英イングランド中部バーミンガムの空港に到着し、昨年10月9日の銃撃事件以来、離れ離れになっていたマララさんと喜びの再会を果たした。2人は共に、世界の教育問題に関する国連特使を務めるゴードン・ブラウン前英首相の事務所の支援を受けている。

世界中から非難を浴びたパキスタンのこの事件では、同国北西部のスワト渓谷で通学バスに乗っていたマララさんを、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が至近距離で銃撃した。女子の教育権を訴えていたマララさんを狙った犯行だったが、シャジアさんを含む他の少女2人も巻き添えとなり、シャジアさんは首と肩を負傷した。

頭部に重傷を負ったマララさんは、手術のために渡英。3月から、バーミンガムの学校に通学を始めていた。今回、シャジアさんも、ブラウン氏の「ア・ワールド・アット・スクール」など慈善団体からの奨学金やその他の支援を受け、英国で通学を開始できることになった。

同団体が発表した声明の中でシャジアさんは「ここで勉強し、医者になることを目指すことができて、とても嬉しく思います。パキスタンにとどまって教育課程を終えたかったけれど、絶えず脅迫を受けていたので不可能でした」と語っている。【7月5日 AFP】
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マララさんは今年のノーベル平和賞候補とも言われていますが、彼女のメッセージが世界中の人々に届くことを、特に、パキスタンのシャリフ首相に届くことを、そして一人でも多くの少女が安心して学ぶ権利を行使できるようになることを心から願います。

****マララさん:国連に請願書 学校に行けない子供の支援訴え****
ニューヨークの国連本部で12日に演説したパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさん(16)は同日、潘基文(バン・キムン)国連事務総長に、学校に行けない世界中の子供の支援を訴える請願書を提出した。
学校施設や教師などを提供する、世界の指導者による資金援助を訴える内容で、事務総長は「勇敢なマララさんに続こう」と賛意を表明した。

だが、パキスタンでは、マララさんを銃撃し重傷を負わせたパキスタン・タリバン運動などによるテロ攻撃が頻発。マララさんと両親らは、治療を受けた英国に残っている。帰国すれば命を狙われる可能性があるためだ。

パキスタン南西部クエッタでは先月、通学バスへの爆弾攻撃で女子学生ら約40人が死傷。マララさんの出身地の北西部スワート渓谷でも5月に爆弾テロが相次いだ。

パキスタンでは2007年、亡命生活を終え帰国したばかりの女性政治家ブット元首相が暗殺されている。「マララさんも帰国すれば第2のブット氏になりかねない」(地元記者)と懸念する声もある。

一方、マララさんの父ジアウディンさんが運営していた学校は、マララさん銃撃事件以降、政府による手厚い保護を受け約700人の女子学生が通学。ザルダリ大統領は12日、マララさんの活動への支持継続を表明した。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、世界で小学校に通っていない子供は11年に5700万人で、半数の2850万人が紛争地域に住む。パキスタンでは500万人の子供たちが学校に通っていない。【7月13日 毎日】
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シリア  困難さが増す反体制派の状況

2013-07-12 23:35:26 | 中東情勢

(アレッポ北部マクスード地区のクルド人 シリアにおけるクルド人の立場は複雑です。以前はアサド政権寄りでしたが、マクスードでは反体制派に協力しています。地域によっても対応が異なるようです。政府軍でも反体制派でもない第3勢力的な存在となっています。 “flickr”より By Thomas Rassloff http://www.flickr.com/photos/20674281@N03/9209194586/in/photolist-f2MwH1-f2MvWb-f2Mv4S-f2MwqG-f2xfgp-f2xhyi-f2xh2v-f2Mwmy-f2xfC4-f2MwZq-f2Mwvs-f2MvLL-f2xhbz-f2xgnD-f2MwRj-f2Mwzq-f2xfX2-f2Mwij-f2vbzB-f5eeHZ-f5hah8-f3hJNK-f2LkeE-f6L1nh-f44VjL-f7bZZH-f2MweU-f3nUAR-f4dvwJ-f7Ykzd-eZG3xV-eZWoif-f1r6Gm-f5cDgR-f5s47g-f5s3MX-f81iaQ-f4xWPF-f4aEQi-f31Hyo-f3ENMW-f736hs-f3BwK6-f4ugKj-f6vawj-f13sL2-f13sQK-f1bQ3f-f84P7U-f84N2y-f7Pyic)

内部対立、周辺国の干渉 和平枠組みも主導できず
軍事的にも隣国レバノンのイスラム武装組織ヒズボラの支援を受ける政府軍の攻勢にさらされているシリア反体制派ですが、反体制派内部の対立から統一組織「シリア国民連合」新代表が選べない組織的混乱も続いていました。
新代表については、ようやく選出できたようです。

****シリア国民連合、新代表にジャルバ氏を選出****
シリア反体制派の統一組織「シリア国民連合」は6日、トルコのイスタンブールで会合を開き、新しい代表にアハマド・ジャルバ氏を選出した。同連合の報道官が明らかにした。114人の評議員による投票の結果、サウジアラビアと関係が深いと目されているジャルバ氏は決選投票で55票を獲得し、52票の得票にとどまったムスタファ・サッバーハ氏を破った。シリア国民連合のアフマド・モアズ・ハティブ前代表は、シリア内戦に対する世界各国の無作為に抗議して5月に辞任していた。新代表は5月末に選出される見込みだったが、活動方針をめぐりシリア国民連合内部で対立があったほか、中東諸国が新代表選出に影響力を行使しようとしたことから延期されていた。ジャルバ新代表は1969年、トルコと国境を接するシリア北東部の都市カーミシュリー生まれ。イスラム教スンニ派で、シリア国民連合ではシリア反体制派に武器を供与するようアラブおよび西側諸国を説得する仕事に携わった。【7月7日 AFP】
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反体制派「シリア国民連合」は、米露が提唱する国際和平会議には参加しない意向を表明しています。
反体制派が要求しているアサド大統領の退陣が確約されないということもありますが、軍事的に劣勢にたたされている現状での交渉は不利と判断したようにも思えます。そのことは、和平交渉の枠組みづくりをリードできない反体制派の苦しい立場を示しています。

****シリア:戦況に変化なければ和平会議不参加…反体制派議長****
内戦が続くシリアの反体制派主要組織「シリア国民連合」のジャルバ議長は7日、ロイター通信のインタビューに応じ、アサド政権の攻勢が続く戦況に変化がない限り、米露が提唱する国際和平会議には参加しない意向を表明した。同会議を巡って反体制派はすでに、アサド大統領の退陣が確約されない場合には不参加との立場を表明していた。

ジャルバ氏は6日の総会で新議長に選出された。亡命していたサウジアラビアとの関係が深いとされ、ロイターとのインタビューでは「サウジアラビアから近く新型兵器が供与される」との見通しを示した。またシリアで9日開始の断食月(ラマダン)期間中の停戦を呼びかけた。【7月9日 毎日】
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アメリカ、欧州はこれまで控えていた反体制派の軍事的支援に踏み切ることを表明はしていますが、その具体的内容は明らかではなく、戦局を転換できるような重火器の大量供与や寄港禁止区域設定などは含まれないのではないかとみられています。
もし欧米が深く関与すれば、ロシアも対抗して軍事支援を強めるでしょうから、いよいよ代理戦争の泥沼にはまってしまいます。

「サウジアラビアからの新型兵器」が何かは知りませんが、戦力面では苦しい状況が今後も続きそうです。

欧米が反体制派への武器供与を渋る理由のひとつが、供与された武器が反体制派内で軍事的に存在感を強めているイスラム過激派組織の手に渡ることへの懸念があります。

アルカイダ系組織「自由シリア軍幹部を皆殺しにする」】
反体制派が欧米からの本格的な軍事支援を受けるためには、イスラム過激派との関係を断つ必要がありますが、それは軍事的にみて大きな部分を失うだけでなく、反体制派内の混乱・対立を激しくすることにもなります。

****シリア:反体制派で内紛か 共同作戦協議中に幹部殺害****
内戦が続くシリアの反体制派主要武装組織「自由シリア軍」幹部のハマミ司令官が11日、北部イドリブで、アサド政権側に対する共同作戦について協議していた国際テロ組織アルカイダ系のイスラム武装組織のメンバーに殺害された。

ロイター通信が報じた。殺害の経緯は不明だが、「反アサド」で共闘する自由シリア軍とアルカイダ系組織の対立が深まれば、戦況がアサド政権側に有利に働く可能性が高い。

ロイターによると、ハマミ司令官は、イラクに拠点を置き反体制派として参戦しているアルカイダ系組織「イラク・レバント・イスラム国」のメンバーとの会談中に殺害された。アルカイダ側は、自由シリア軍のスポークスマンに電話で連絡し、「自由シリア軍幹部を皆殺しにする」と通告したという。

自由シリア軍は、アルカイダ系組織とも協力し、アサド政権側に対抗してきた。だが欧米諸国がアルカイダへの流出を懸念し、武器供与に消極的なことから、今年4月に決別を宣言した経緯がある。ただ戦闘現場では、一部で共闘する状態が続いているとされる。【7月12日 毎日】
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エジプト暫定政権の離反
反体制派にとっては、エジプトでのクーデターによるモルシ政権崩壊も大きな痛手です。

****シリア反体制派と距離 エジプト、入国制限や拘束****
エジプトのマンスール暫定政権が、モルシー前大統領が積極支援してきたシリア反体制派への態度を硬化させている。
エジプトは反体制派への直接的な武器供与は行っておらず、シリア内戦の戦局への影響は限定的とみられるが、同国の首都カイロをアラブ諸国へのロビー活動の拠点とする反体制派の政治指導者らにとっては痛手となりそうだ。

地元報道によると、エジプト当局は3日のクーデター後、これまではほぼ自由に入国できたシリア人に、入国査証(ビザ)やエジプト治安機関の許可証取得を義務づけると決定、シリア人の拘束や退去も相次いでいる。
6月中旬にモルシー前大統領がアサド政権との断交を宣言して閉鎖されたカイロのシリア大使館は、今月7日に再開した。

イスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身のモルシー氏は、自身と同じイスラム教スンニ派が中心の反体制派を一貫して支援。同胞団幹部からは、シーア派の一派、アラウィ派が主導するアサド政権への「ジハード(聖戦)」呼びかけが相次ぎ、多数のエジプト人が反体制派に参加した。

しかし、主に宗教的動機でシリア問題への介入を深めたモルシー氏の態度は、軍の逆鱗(げきりん)に触れ政変の誘因の一つになったとも指摘される。シリアの同胞団組織などイスラム勢力が反体制派の一角をなしていることも、軍の警戒を呼んだ。

反体制派は、カイロが本部のアラブ連盟(加盟21カ国・1機構)などでの働きかけで支援を引き出してきたが、同連盟の事務局長ポストを握るエジプトが態度を変え始めたことで、活動が難しくなる可能性がある。

他方、実際の戦闘に従事する反体制派部隊を支えているのは、カタールやサウジアラビアなど湾岸産油国からの武器や資金だ。

湾岸諸国は政変後、相次いでエジプトへの巨額支援を発表し暫定政権支持を鮮明にした。ただ、専門家の間では「湾岸諸国には、敵対するイランの支援を受けるアサド政権と戦うことに大きな意味がある」とされ、エジプトと同調する形で対シリア政策がすぐに変化する可能性は低い。【7月12日 産経】
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そもそも、“反体制派=弾圧への抵抗勢力、民主化勢力”というとらえ方自体が実態にそぐわないという話は、7月3日ブログ「シリア 反体制派内のイスラム原理主義的傾向への懸念」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130703)で取り上げたところです。
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チベット  中国:ダライ・ラマの肖像写真掲示を一部容認 姿勢に変化?それとも従来どおり?

2013-07-11 23:28:55 | チベット

(五体投地で祈るチベット族 “flickr”より By Jérémy http://www.flickr.com/photos/79406194@N05/9113932717/in/photolist-eTnhEZ-eTyVVW-eTAo1j-eTx77Q-eVUdkr-eVmwSD-eVmSNv-f1D8AH-f1ToD9-f1Tt6Q-f1Da2R-f1Ddda-eVyfRq-eVn2Sp-eVypME-eVmx6g-eVypxG-eVmSei-eVn1B2-eVmT3T-eVmRNk-eVn2Fp-eVyfAG-eVyhzm-eVmyZ6-eVyrx5-f1TsHd-f1Tqx9-f1Tq4y-f1Deun-f1D7ER-f1Dfw4-f1TvzA-f1D5mH-f1TtEW-f1To6f-f1Tngh-f1D5Mt-f1D9xF-f1D7oz-f1TmJS-f1Tx5A-f1Tt15-f1TrB9-f1TpLN-f1Twus-f1Tns7-f1Dgng-f1DcNv-f1Tsvo-f1D7y2)

アメとムチ?】
中国・チベットでは中国共産党支配に対する抗議活動として、09年2月以降で117人(4月24日時点)の焼身自殺が行われており、まったく出口が見えない状況にあります。

こうした抵抗の背景には、チベット住民の伝統文化や生活様式を認めない中国政府の強硬な姿勢がると指摘されています。

****チベット人200万人以上が強制移動、人権団体報告****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch、HRW)は27日、中国政府による代替住宅の提供および強制的な移住政策により、チベット人200万人以上が移動を余儀なくされており、その影響から伝統文化や生活様式が著しく失われていると警告した。

HRWの報告書「They Say We Should Be Grateful': Mass Rehousing and Relocation in Tibetan Areas of China(彼らは私たちに感謝すべきだと言う:中国のチベット人居住区における大量住宅提供および移住政策)」は、中国政府の公式統計を根拠に、2006~12年の間に200万人を超えるチベット人が新しい住居への転居を強いられたとしている。これはチベット自治区に住むチベット人の約3分の2に相当するという。

HRWで中国部門を担当するソフィー・リチャードソン氏によると、チベット人に対するこれらの住宅関連政策は、その規模と速さにおいて毛沢東時代以降では前例をみないものだという。
さらにリチャードソン氏は、すでに厳しい弾圧下にあるチベット人たちは、政府の政策によって生活様式が劇的に変えられても異議を唱えたり反発する術がないことを指摘した。【6月28日 AFP】
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“200万人”“チベット自治区に住むチベット人の約3分の2に相当”という数字の真偽はわかりませんが、中国政府の強圧的な姿勢をうかがわせるものでしょう。

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は、そうした抑圧されたチベット族にとっては精神的支えであると同時に、中国政府からは「チベット独立を図り、暴力行為を扇動している」と、抵抗の象徴・根幹とみなされていますので、これまでその肖像写真の掲示は認められていませんでした。

そうしたなかで、中国政府が一部ではありますが、ダライ・ラマ14世の写真掲示を認め始めたという非常に興味深い報道があります。

****ダライ・ラマ崇拝を中国が認めた理由****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は、チベットの独立を掲げて暴力行為を扇動する存在として長年、中国から敵視されてきた。

だが中国当局は先月下旬、チベット自治区ラサのガンデン寺に対し、ダライ・ラマの肖像写真を掲げることを許可すると通達。チベット仏教を代表する重要拠点であるガンデン寺でダライーラマの写真掲示が認められるのは、96年以来17年ぶりのことだ。

チベットヘの抑圧政策に抗議する僧侶の焼身自殺が相次ぐなかで発表された今回の方針転換は、中国が宗教的弾圧を緩和し、融和路線に転じるサインなのかもしれない。
青海省や四川省などのチベット族居住区でもダライ・ラマの写真掲示を認め、チベット寺院に対する監視を緩める動きが報告されている。

事実だとすれば、チベットの人々にとっては大きな前進だ。
ただし、ロンドンに本拠を置くチベット支援団体「フリー・チベット」は慎重な見方を崩していない。ダライ・ラマ崇拝の容認が本当にガンデン寺以外の場所にも広がるかどうかは未知数。
これまでの経緯を考えれば、単独の寺院への方針変更だけを根拠に中国の真意を臆測するのは時期尚早だろう。【7月16日号 Newsweek】
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これが中国政府の方針変更を示すものかは即断できません。
従来の強硬な姿勢そのままの事件も報じられています。

****チベット族に発砲、7人負傷=ダライ・ラマ誕生日に当局―中国四川省****
英BBC放送(中国語版)などが9日報じたところによると、中国四川省カンゼ・チベット族自治州タウ県で6日、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の78歳の誕生日を祝う祝賀活動の際、参加していたチベット僧や民衆に治安当局が発砲した。少なくとも7人が負傷した。

治安部隊を乗せた4台の警察車両と7台の軍車両が祝賀現場に来て、チベット族住民に活動を停止し、解散・帰宅するよう要求。住民が拒否したため、治安当局は催涙弾を発射したほか発砲した。7人のうち3人は重傷だという。【7月9日 時事】 
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中国政府は「アメとムチ」の両方で臨む・・・ということでしょうか。もう少し様子を注視する必要がありそうです。

ダライ・ラマ、焼身自殺について発言
なお、誕生日を迎えたダライ・ラマ14世は相次ぐ焼身自殺について、その効果を疑問視する発言を行っています。
これまで自制を求める明確なメッセージを発してこなかったことへの批判を意識したものでしょう。

焼身自殺はチベット族の現状において可能な唯一の抗議手段ですが、仏教指導者として、民族の精神的指導者として自殺を助長することはできない・・・難しい立場です。

****チベット人の焼身自殺、ダライ・ラマ「効果ほどんどない****
オーストラリアを訪問中のチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世(77)は13日、焼身自殺による中国統治への抗議は、中国政府の政策にほとんど影響を与えていないと語った。

焼身自殺についてダライ・ラマは、「もちろんとても悲しいことだ。ただそれと同時に、そのような思い切った行動が効果を及ぼしているかには疑問を感じている」と記者団に述べた。

一方でダライ・ラマは、「中国当局者が引き金となっている兆候がある。当局者は焼身自殺の原因を調べるべきだ」と訴え、チベット人が単に社会的な抗議のためだけに命を犠牲にしている訳ではないと強調した。

2009年以来、四川省や甘粛省、青海省などで少なくとも117人のチベット人が、中国政府のチベット政策に抗議して焼身自殺を図っている。

チベット研究者らからは、ダライ・ラマが自制を求めていないことが焼身自殺による抗議を助長しているとして、ダライ・ラマの姿勢を批判する声も出ている【6月㏬ ロイター】
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もし、中国政府にダライ・ラマの肖像写真掲示を容認するような変化があるとしたら、117人にも及ぶ焼身自殺が頑なな中国政府の姿勢を動かした・・・とも言えます。

だからと言って、こうした焼身自殺を助長することもできませんので、抗議行動の沈静化を図るため中国政府とダライ・ラマ側のなんらかの妥協が生まれるといいのですが・・・・。
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中東メディアの雄「アルジャジーラ」の変質  政変のエジプトで批判を浴びる

2013-07-10 22:27:42 | 北アフリカ

(エジプトの首都カイロのタハリール広場に面したビルに掲げられたアルジャジーラを批判する垂れ幕。「アルジャジーラはうそつき。市民の命を奪った」などと書かれている=2013年7月5日午後2時半、秋山信一撮影【7月8日 毎日】)

イラク戦争報道で世界をくぎ付け ムスリム同胞団への偏向
アラブの衛星メディア「アルジャジーラ」は、イラク戦争の際、欧米の既存メディアとは異なる視線の中東発のメディアとしてその存在を世界に強く印象付けました。

「アルジャジーラ」が出現するまでは、アラブのTVとは政府・独裁者が占有するプロパガンダのための道具であり、“王様の持ち物として、(王様がラクダレースを観戦したといった類の)伝える価値のないニュースは大きく伝え、本当のニュースはひたすら隠して報道しない”存在で、人々からも信頼されていませんでした。

****地に墜ちた「アルジャジーラ」 今や中東騒乱の「諸悪の根源」に****
・・・・無風状態だったアラブの衛星メディア界に同局が彗星の如く現れたのは、一九九六年の秋。英BBCのアラビア語サービス出身者を中心とする実力派ジャーナリスト集団が、衛星通信業界に吹いた追い風を背景にアラブ初のニュース専門チャンネルの立ち上げを計画した。頓挫しかけたこの計画をカタールの首長が買い取ったのだ。

古臭い情報統制を好んだ父親を追放して玉座に就いた新首長の目論見は明白だった。
自由報道に徹し、アラブの情報を支配できるニュース局を生み出すことである。そのため経営側は、金は出すが口出しはしなかった。

一騎当千の有力ジャーナリストは何の制約を受けず自由に活躍できる環境で最新機材を使用して放送する。そこにはジャーナリズムを志す者であれば誰もが羨む一種のユートピアが現出し、その結果同局は数年にして世界の主要チャンネルのひとつに数えられるまでに成長した。

それだけではない。アラビア語による良質な情報が衛星から降ってくる世界の出現は、まさに情報革命の名にふさわしい展開であった。それまでは、ラクダレースのことしかやっていなかったのだから。首長の目論見は見事に当たり、世界はアルジャジーラに釘付けとなった。もしイラク戦争における同局の活躍がなかったら、米国はこの戦争ではるかに甘い汁を吸うことができたであろうし、その結果、現代の世界の政治地図は大きく変わっていたに違いない。

この一点をもってしても、アルジャジーラが現代史に与えた影響の大きさを知ることができる。そして米国が、英国が、仏、露、イランが、と相次いでアラビア語ニュース専門チャンネルを設立したのはまさにこの点に理由があった。

また、元来疑い深いアラブ人がテレビを信頼できる情報源と認識するようになったのも、はじめにアルジャジーラの自由で客観的な報道があればこそ、ということであった。

同胞団に支配された「煽動報道」
しかし、その後アルジャジーラは変容していく。有力な設立メンバーや人気キャスターがひとり、またひとりと辞めていき、報道内容の客観性と中立性が失われていった。
それは、ついに強い影響力を持つに至った同局を政治・外交の道具に利用しようと首長家が介入したからであった。首長はイスラム主義の救世主を気取り、局内ではムスリム同胞団と関係の深い者だけが重用された。

「アラブの春」の反乱が中東全域に野火のように広がったのは、アルジャジーラなど地元メディアが恣意的な挑発、煽動に電波を使い、「市民」を「その気」にさせたからだ。

例えばリビアでは、カダフィに対する反乱を針小棒大に報じ、国軍将兵の「寝返り」ビデオを紹介しては、あたかも政府軍のほとんどが寝返ったかのような印象をリビア国内と世界に与えた。独自のメディアに全く力のなかったカダフィは、この情報戦に敗れたと言ってよい。(後略)【選択 7月号】
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中東混乱を助長
アルジャジーラは、リビアと同様に、シリアでも反体制派に偏った報道を行っていることが指摘されています。

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アルジャジーラは、大量のビデオ撮影機能付き携帯電話や、衛星電話を反体制派組織(ムスリム同胞団)にばらまいた。

これは、イラク戦争の際、数台の中継車と数多くの小型ビデオカメラをばらまいて、あちこちで米兵襲撃の生映像を撮影したのと同じ手法だ。
時代が経過し、小型ビデオは携帯電話に収まるまでに小さくなり、中継車で飛ばさなくても、衛星携帯電話で送ることができるようになっていた。こうすれば、画像は粗くとも、反政府デモの状況、政府軍の暴虐ぶりを直接世界に届けることができる、というわけだ。こうして、同局のニュースはデモを伝える画像の粗いアマチュアビデオで埋めつくされ、反体制運動(=ムスリム同胞団・スンニ派武装集団)に決起と戦闘継続を呼びかける煽動報道一色となった。【同上】
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シリアの現在の混乱を生み出した責任の一端はアルジャジーラの煽動報道にあるという指摘です。

記者席から「追い出せ」の声
事実上のクーデターで混乱するエジプトにおいても、カタール首長家とムスリム同胞団の意向に沿った報道を行ってきたと言われており、事実上のクーデター後の軍主導の新体制からは、支局長に逮捕状が出されるなど、その責任が問われています。
一方で、そうした新体制の姿勢については、「報道の自由の侵害」という批判もあります。

****エジプト:アルジャジーラ支局長が出頭、即日保釈****
エジプトの検察当局は7日までに、報道によって治安を脅かした容疑で、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラ・カイロ支局長のアブデルファタハ・ファイエド氏の逮捕状を出した。

ファイエド氏は7日に出頭し、1万エジプトポンド(約14万4000円)の保釈金を納付して即日保釈された。アルジャジーラはモルシ前政権寄りの報道をしていると批判されてきたが、メディア規制を強める当局に対し「報道の自由の侵害」と批判する声もある。

 ◇報道で治安に脅威容疑
ファイエド氏は毎日新聞の電話取材に、容疑には無許可取材も含まれていたと明かし、「証拠は何もないし、当然容疑も否認した。取材許可も得ている」と話した。

中東で最も視聴率が高いテレビ局の一つであるアルジャジーラは、一連のエジプト騒乱で、モルシ前大統領の出身母体・穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団のデモを中心に放映し、「同胞団寄りの報道をしている」と批判された。同胞団を支援するカタール政府の意向を受けていたとも言われる。

モルシ前大統領が3日、軍に解任された後には、治安部隊がアルジャジーラのエジプト専門放送局を制圧し、放送が一時休止。反モルシ派の主要なデモ会場であるカイロのタハリール広場には「アルジャジーラはうそつき」と書かれた大きな垂れ幕が掲げられた。

アルジャジーラはクーデター後も、同胞団の集会の中継を続けている。だが時々、「タハリール広場などから中継する努力もしていますが、実現できずに申し訳ありません」という字幕を出すなど批判にも配慮している。

カイロ大学のバラカット・アブドルアジズ教授(メディア論)は「アルジャジーラが反モルシ派に対して攻撃的だったのは確かで、メディアは自主倫理を持たなければならない。しかし報道の自由は民主社会の原則で、守られるべきだ」と指摘している。【7月8日 毎日】
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反モルシ前大統領・反ムスリム同胞団勢力が前面に出てきているエジプトメディア界でも、アルジャジーラは厳しい指弾を受けています。
軍・内務省治安部隊と、モルシ前大統領支持派の対立により少なくとも51人が死亡した発砲事件に関して行われた内務省・軍の会見において、記者たちの批判でアルジャジーラ支局長が退席させられる場面もあったようです。

“会見前には、モルシ派寄りと見られているカタールの衛星テレビ局アルジャジーラ・カイロ支局長が退出させられる一幕もあった。国営中東通信の記者が立ち上がり、「アルジャジーラを追放しないと会見は始まらない。記者の総意だ」と叫ぶと、記者席から「追い出せ」の声が次々にあがり、支局長は退場した。”【7月9日 毎日】

立場の違いを理由に報道を制約することの問題はありますが、「イスラム世界やアラブの視点」からの報道で世界のメディアに大きな影響を与えたアルジャジーラが、今や、カタールやムスリム同胞団に偏向した報道で中東混乱を助長していると批判を浴びる存在となっています。

カタールの方針変更
なお、カタールはハマド首長から次男のタミーム新首長に交代し、ムスリム同胞団とも距離を置くようになっています。
そうした事情で、今回のエジプト政変に関しては、これまでのモルシ政権・ムスリム同胞団支持の姿勢から、軍主導の新体制を支持する方向に姿勢を転換させています。
おそらく、アルジャジーラの報道姿勢にも変化が出るのではないでしょうか。

また、アルジャジーラはアメリカ進出も報じられています。
****アルジャジーラ、米に本格進出 TV局買収し年内放送****
中東の衛星テレビ、アルジャジーラ(本社カタール・ドーハ)は2日、米国のニュース専門テレビ局「カレントTV」を買収したと発表した。カレントTVの衛星やケーブルのチャンネルを使い、ニュース専門放送を年内に開始、米国に本格進出する。

アルジャジーラは、イラク戦争などで欧米メディアが報じない「イスラム世界やアラブの視点」を売りにアラブ諸国で絶大な人気を誇っており、米国民に受け入れられるか注目される。
米国内外のニュースを提供する「アルジャジーラ・アメリカ」を新設し、本部はニューヨークに置く。【1月3日 共同】
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ブータン  “ユートピア”イメージが先行する「幸せの国」の現実 苦悩する若者も

2013-07-09 22:18:30 | 南アジア(インド)

(ティンプー市内を歩く若者。韓流ドラマなどの影響でショートパンツやミニスカート姿の女性が増えたが、学校や職場では伝統衣服の着用が義務づけられている(岩田智雄撮影)【写真:7月9日 産経新聞】http://sankei.jp.msn.com/world/news/130708/asi13070822260003-n1.htm)

【「政府はこの5年間、何とかするといってきたが、何も実現していない」】
国王主導で立憲君主制での民主政治を進めるブータンでは、13日に総選挙が行われますが、野党が議席を増加させる勢いだそうです。

****幸せの国」ブータン、民主政治の歩み 総選挙前に勢いづく野党****
ヒマラヤ山脈の小国ブータンで、国民議会(下院・定数47)の任期満了に伴う総選挙が13日行われる。
長らく王政が続いたブータンでは2008年に初めて国民議会選が行われ、立憲君主制での民主政治が始まった

この5年間で政治への関心が高まる一方、静かに押し寄せる近代化の波の中で頭をもたげた社会への不満が野党を勢いづかせている。

 ◆子供たちは都会へ
首都ティンプーから東に約70キロ。標高3150メートルの峠の山道を約3時間かけて進み、車を降りてつり橋を渡ると、プナカ県エビサ村に着いた。
青々とした棚田や段々畑が広がる静かな集落には400人ほどの村人が住むが、目につくのは中高年と幼い子供の姿ばかり。若者はどこにいるのだろう。

「11歳から20歳までの子供5人がいるが、全員ティンプーなどの学校に行っている。ここに住むのは私と妻だけだ」
農業を営むナムゲイさん(44)は淡々と答えた。村から通える小・中学校までは歩いて1時間半かかる。通学の負担のせいか、子供たちは落第を繰り返した。悩んだ末、5人とも都会に出した。
「しっかり学んでいい仕事についてほしい。農業は誰か1人がついでくれればいい。この村ではどの家庭もそんな状態だ」という。

携帯電話やパソコンの普及がようやく進み出したティンプーでは農村とは対照的に若者が増え続けている。
しかし、都会に出ればバラ色というわけではない。賃貸住宅の家賃は高騰し、生活も楽ではない。学校を卒業しても希望する職業に就くことができる人は限られており、ティンプーの若者の失業率は約7%と全国平均の3倍以上だ。

ティンプー・タクシー運転手協会代表、リンチェン・ツェリンさん(43)は「運転手が増えすぎて、早朝から深夜まで働かないと稼ぎが追いつかない。政府はこの5年間、何とかするといってきたが、何も実現していない」と不満顔だ。前回選挙は、4月の選挙管理内閣発足まで与党だったブータン調和党の候補者に投票したが「今回はみんなで野党の国民民主党に入れようといっている。政治を選べるようになったことは素晴らしい」と話した。

ブータン下院選は予備選で上位2党を選び、この2党が本選を争う。前回選挙では、2党しか参加しなかったため予備選はなく、本選だけが行われた。王政下で閣僚だった5人を擁する調和党が安定感を見せ、47議席中45議席を獲得して圧勝。国民に不人気の前閣僚が党首を務めた民主党は2議席と惨敗した。

しかし民主党は今回、党首を代え、与党への不満を吸い上げた。4党が参加した5月の予備選では、調和党が33選挙区でトップを維持したが、民主党は12選挙区で1位となり、党勢を拡大した。予備選3位の党の候補7人も本選前に民主党に加入し、調和党を猛追する。

民主党事務局長のツェリン・ワンチュクさん(42)は、「与党は若者の就業対策を何もしてこなかったから、若者の犯罪や少年非行が増えた」と与党を攻撃する。キプチュ・ナムギェル警察長官によると、ブータンの全犯罪の65%がティンプーに集中している。特に若者の傷害、侵入盗事件が増え、違法な麻薬に手を染める者も目立つ。

王政時代から国王の側近として要職にあった調和党の候補者は、こうした国民の不満をひしひしと感じ取っている。民主化前は閣僚が農村に行くと、村人は1日がかりで食事などの準備に追われるのが常だったが、首相を務めたこともあるジンバ前公共事業定住相は「今は選挙区に行くと、『橋を造ってくれ』などと要求ばかり突きつけられる。不作法になったものだ」と話す。

 ◆国王が安定の要
政治や政治家への国民の意識が変わる中、ブータン安定の要となっているのがワンチュク国王だ。父親の先代国王が提唱した「国民総幸福量(GNH)は国民総生産(GNP)よりも重要だ」との概念を推進し、国民からの人気も高い。

犯罪が増えたといっても「最近起きた殺人事件は2010年」(ナムギェル警察長官)というように凶悪犯罪は少なく、治安も安定している。「幸せの国」は穏やかに民主政治の道を歩んでいる。【7月9日 産経】
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“父親の先代国王が提唱した「国民総幸福量(GNH)は国民総生産(GNP)よりも重要だ」との概念を推進”すことで、“国民の幸福が経済成長より重視される所”という意味で「幸せの国」とか「幸福の王国」「最後の理想郷」というユートピア的なイメージで語られることが多いブータンです。
ヒマラヤの山奥で、昔からの伝統文化が守られているという“秘境”のイメージも、そうした“ユートピア”イメージを強くしています。

当然ながら、現実のブータンが「幸せの国」「幸福の王国」を実現している訳ではなく、国民総幸福量(GNH)に象徴される精神性を重視した“幸せ”を追及している・・・ということであり、やや“ユートピア”イメージが先行しすぎているきらいがあります。

最大の問題は失業 薬物とアルコールの問題も
そうしたブータンにも物質文明の波は押し寄せており、その社会は急速に変わりつつあることは、約1年前の2012年7月1日ブログ【ブータン 「幸せの国」で目覚める“物欲”】http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120701で取り上げたところです。

国民の高まる“物欲”を抑制するために、増税によって商品価格を高くしようとする政府、結局、それも世論の反対でとん挫してしまったことなど、物質的な豊かさを一段と求め始めた国民意識の変化に苦悩するブータン社会の様子が紹介されています。

変化する人々の意識と、十分に対応していない社会の間の軋轢は、高い失業率た薬物・アルコールの乱用という形で、都市部若者に特に大きな負担を強いているようです。

*****幸福の王国」ブータンで苦しむ若者たち*****
そこは「最後の理想郷」として知られている──美しい自然と仏教文化あふれるヒマラヤ奥地の国、国民の幸福が経済成長より重視される所。

だがそのバラ色の評判に、ブータン王国の都市に暮らす若者たちは迷うことなく異議を唱える。

「人びとが幸福でないことは見てとれる」と、ソーシャルワーカーのジグメ・ワンチュクさん(24)は語る。
薬物依存から立ち直ったワンチュクさんは、首都ティンプーにある薬物依存の若者たちの相談所で働いている。「私たちはとても多くの課題に直面しており、多くの人が苦しんでいる」

■薬物乱用、アルコール依存、犯罪率上昇
飲酒、特に米の自家醸造酒は長らくブータン文化の一部だった。だが、国家統計局の昨年の報告書によると、アルコール性肝疾患がティンプーの主要病院における死因の上位を占めるようになった。

また、何世紀もの間にわたって世界で最も孤立した国だったブータンが近代化するにつれ、若者による薬物乱用、特に調剤の乱用が大きな問題になってきている。

ブータンは1974年に初めて外国人観光客の入国を認め、1999年に初めてテレビを、2008年に初めて民主主義を認めた。今でもブータンは外国人に別世界のような印象を与える──職場や学校へ民族衣装で通う人びと、息を呑むような景観に点在する僧院やマニ車、政府庁舎として使われる古い要塞。

だが、伝統社会の網の目は、ほつれ始めている。
「犯罪率は年々高まっている。空き巣や強盗などは10年前にはほとんど無かった」と、ダンバー・K・ニロラ氏は語る。人口75万人足らずのブータンに2人しかいない精神科医の1人だ。
「現在直面し、今後ますます大きくなるであろう最大の問題は、失業だ。失業とともに、薬物とアルコールの問題も来る」

■「国民総幸福量」と現実のギャップ
こういった問題が、「国民総幸福量(Gross National Happiness、GNH)」をトレードマークにしている国で起きていることは、意外かもしれない。

GNHは、用語としては1970年代に先王の即席の発言で決まり、その後、本格的な開発モデルに発展した。国民総生産(GDP)を重視する諸外国と異なり、ブータンのGNHは、環境と文化を守り、良き統治を目指し、持続可能な社会・経済の発展を追求するものだ。精神と物質の両方の豊かさのバランスを取ろうというこの観点は世界の注目と称賛を集めた。

だが、GNHの基本コンセプトはブータン国内でも支持されているものの、その実際の運用には疑問も投げかけられている。
「この国の問題を見る限り、GNHがこの国にあるとは思えない」と、学生のジャミャング・ツェルトリムさん(21)は語る。ツェルトリムさんの最大の懸念は、多くの人と同じく、ブータン国内に若者向けの望ましい雇用がないことだ。しかもブータンの年齢中央値は26歳。今後さらに多くの人びとが生産年齢に到達する。

公式には、ブータンの失業率は2009年の12.9%から、2012年には7.3%に減少しているが、この統計には疑問の声も上がっている。

民間事業が発達していないことから高学歴のブータン人向けの事務職はごく限られている。一方で、成長する建設産業での手仕事は、国境を越えて来るインドの労働者が大半を担っている。

「雇用の需給がマッチしていない」とニロラ医師は語り、若者層が農業をしなくなっており、高齢者が農業を続けていると付け加えた。

問題の背景にあるのは、ブータンが隣国インドに投資、支援、輸入で大きく依存していることだ。昨年、過剰な需要の結果、ブータンはインドルピーが枯渇し、結果として大規模な信用危機が起きた。この経済危機のピークは、ちょうどジグメ・ティンレイ首相がニューヨークの国連会議で幸福哲学を説いていたころ訪れた。

「このとき、多くの人がGNHを厳しく非難するようになった。私たちの政府首脳陣はブータン国外でGNHを紹介することの方に興味があるのだ、とね」と、ブータニーズ紙の編集者、テンジン・ラムサング氏は語る。

ラムサング氏は、GNHが「高度に知的な」コンセプトとしてエリート層の支持を獲得する一方、国民の大半からは十分な支持が得られていない中で、政府首脳陣は悪化する国内問題を「見ないふりをする」ようになったのだと指摘する。

一方、GNH指標を考案したシンクタンク「ブータン研究センター」の研究者、ペマ・ティンレー氏は、「ユートピア国家」を求める非現実的な期待により、GNHが不公平な非難を浴びていると反論する。
「GNHはブータン国民全体の目標であり、達成しようと目指しているものだ。現時点でブータンがGNHを達成したとは誰も言っていない」とティンレー氏は語った。【6月26日 AFP】
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ブータンに限らず、物質的な豊かさとは縁遠い途上国を豊かな国から訪れた外国人は、その“何もないことの豊かさ”を称賛することがあります。ときに“貧しさのなかで子供たちの目は澄んで輝いていた”的な思い入れを込めて。

そこには物質的な豊かさの限界という真実があることは否定しませんが、ただ、多くの現地の人々が物質的な豊かさに強くあこがれていることも事実です。そうした人々の願いを無視することはできません。

ブータンにあっても、人々の物質的豊かさを求める声は今後ますます強まります。生活スタイルの変化に対応した産業構造を実現し、雇用を創出していく必要もあります。
“「高度に知的な」コンセプト”GNHがどのように国民に受け入れられていくのか、非常に注目されるところです。
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ロシア・モスクワの空港に留まるスノーデン容疑者 出国・亡命受入れを巡る各国の思惑は?

2013-07-08 23:11:07 | ラテンアメリカ

(2001年 カストロ前議長と故チャベス前大統領 スノーデン容疑者の問題は、両者のあとを継ぐ中南米の反米諸国のリーダーは誰か?という問題でもあるようです。 写真は【3月4日 WSJ】http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323994204578339310496921042.html)

【「招かれざる客」】
アメリカの情報収集プログラムを暴露した元CIA職員のスノーデン容疑者が香港からロシア・モスクワの空港にやってきてからすでに2週間が経過しています。

この間、ロシア・プーチン大統領が亡命受入を容認する意向を発表しましたが、その際「ここに残りたいのならば、アメリカに害を与えるような活動を停止することが条件となる」と、あえてスノーデン容疑者が受け入れられない条件を付けて、事実上“どこか他へ行ってくれ”との意向表明でした。
スノーデン容疑者側もロシアへの亡命申請を取り下げています。

スノーデン容疑者受入はアメリカの非道を暴くという痛快な政治カードですが、アメリカとの関係悪化を招きます。もともとアメリカと敵対している中南米の小国ならともかく、国際関係で重きをなそうとするロシアにとっては、あまりに大きな代償です。

そもそも国内での人権活動家を弾圧しているロシア・プーチン政権と国家の人権侵害を訴えるスノーデン容疑者の活動は相入れないものがあります。

中国は同じような理由から、香港からモスクワへとうまく厄介払いしましたが、ロシアも早く厄介払いしたいところでしょう。

****ロシアが元CIA職員に離国促す、対米関係悪化を懸念か****
米情報収集プログラムを暴露した中央情報局(CIA)の元職員エドワード・スノーデン容疑者(30)について、ロシアのリャブコフ外務次官は4日、避難先として別の国を探すべきだと述べ、同国から早急に離れるよう促した。

スノーデン容疑者は先月23日に香港からロシアに渡って以降、モスクワのシェレメチェボ空港の乗り換えエリアに滞在している。

リャブコフ次官はロイターに対し、スノーデン容疑者から政治亡命の申請はないとし、「行き先を選ぶ必要がある」とコメント。また、イタル・タス通信には、問題を解決するために「ロシアは何もできない」と語り、同容疑者を突き放した。

プーチン大統領は米国へのスノーデン容疑者引き渡しを拒否しているものの、滞在が長引けば、米国との外交的対立のリスクが増すことから、ロシア側は同容疑者について「招かれざる客」との態度を強めている。

スノーデン容疑者はこれまで、ロシアを含む計21カ国に亡命申請を行ったとされているが、ベネズエラ以外は受け入れを拒否するか、消極的な姿勢を示している。【7月5日 ロイター】
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【「口では反米主義を唱えながらも、米国との密接な経済関係に悪影響が出ることを懸念している」】
現在は、ベネズエラ以外に、ボリビア、ニカラグアも受入を認めています。
いずれも反米色の強い中南米にあっても、強硬な反米を看板としている国で、アメリカの国家犯罪を暴露するスノーデン容疑者の受入は国内的にはプラスとなります。

しかし、これらの国にしてもアメリカ経済との関係は無視できず、口先の威勢の良さと本音はまた違うのではないか・・・との指摘もあります。

****スノーデン事件、対米交渉カードに…でも経済影響心配 ジレンマ中南米諸国****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領が5日、米当局から訴追されている米中央情報局(CIA)元職員、エドワード・スノーデン容疑者(30)の亡命受け入れを表明するなど、中南米の反米左派政権が容疑者受け入れに前向きな姿勢を見せている。

大半の国々が対米交渉の重要な“カード”として容疑者を利用したい意向だが、経済面に深刻な影響を及ぼしかねないジレンマも抱えている。

マドゥロ大統領は5日、独立記念日を祝うテレビ演説で、「(スノーデン容疑者はCIAの活動について)真実を語ったまでだ」と述べた上で、「人道的な観点から、亡命を認めることを決めた」と語った。

容疑者は現在、モスクワの空港の乗り継ぎ区域にとどまっているとされる。在露ベネズエラ大使館が渡航許可証を発行すれば、航空機への搭乗が可能になるとみられているが、マドゥロ大統領は具体的な措置については言及しなかった。

ニカラグアのオルテガ大統領も同日、「状況が許せば、喜んで引き受ける」と強調。ボリビアのモラレス大統領やエクアドルのコレア大統領も受け入れに前向きで、キューバも同調する姿勢を見せている。

中南米で反米のリーダーだったチャベス前ベネズエラ大統領亡き後、反米勢力の支持をバックに、域内の新たな指導者に躍り出ようというそれぞれの思惑も絡んでいるとみられる。

ただ、こうした国々の多くは、「口では反米主義を唱えながらも、米国との密接な経済関係に悪影響が出ることを懸念している」(外交筋)のが実情だ。

例えば、ベネズエラにとって米国は主要な石油輸出先で、最大の貿易相手国。エクアドルもスノーデン容疑者を受け入れた場合、マグロやバラなど対米輸出品計247品を無関税、もしくは低税率で輸出できる米国の関税優遇措置が打ち切られる可能性もある。

容疑者を支援する内部告発サイト「ウィキリークス」は5日、容疑者が約20カ国に加え、新たに6カ国に亡命申請したと発表した。国名は分かっていない。【7月6日 産経】
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ベネズエラ・マドゥロ大統領なども出席したモスクワでのガス輸出国フォーラム(GECF)首脳会議に絡んで、スノーデン容疑者の出国があるのでは・・・との見方もありましたが、結局それもありませんでした。
ベネズエラ・チャベス前大統領が存命なら、違った展開もあったかもしれませんが・・・・。

キューバはこの問題をめぐって、一貫して口を閉ざしたまま
受入に伴うアメリカとの関係という政治的問題以外にも、もっと直接的な“どうやって出国させるか?”という問題もあるようです。

****CIA元職員のロシア出国を難しくしている「ある事情****
米国家安全保障局(NSA)による極秘の個人情報収集プログラムを内部告発した米中央情報局(CIA)元職員エドワード・スノーデン容疑者(30)が、ロシア首都モスクワの空港のトランジット(乗り継ぎ)区域で潜伏を始めてから半月が経過した──。ボリビア、ベネズエラ、ニカラグアの3か国が亡命の受け入れを表明しているが、目的地への経路模索は非常に難しいものとなりそうだ。

米露は犯罪人引き渡し条約を結んでいないため、米政府はロシア側に対し、「善意の行為」としてのスノーデン容疑者の引き渡しを求めている。しかし、ウラジーミル・プーチン露大統領はこれを拒否しており、スノーデン容疑者に対しては、早く渡航先を決めるべきと述べている。

またロシアのベテラン国会議員の1人は、スノーデン容疑者にベネズエラへの亡命を決めるべきとしている。ただ潜伏しているシェレメチェボ空港から中南米へ向かう便は、全てキューバ経由となっており、そのキューバはこの問題をめぐって、一貫して口を閉ざしたままだ。

もしスノーデン容疑者が航空機に搭乗した場合、欧州の国による妨害行為を受ける可能性がある。先週、ボリビアのエボ・モラレス(Evo Morales)大統領を乗せた航空機に同容疑者が搭乗していると疑った欧州の複数の国は、航空機の領空内通過を拒否している。【7月8日 AFP】
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キューバ・ハバナはアメリカ・フロリダの目と鼻の先です。ハバナに向かうロシア・アエロフロートの定期便はアメリカ領空を通過します。
スノーデン容疑者が搭乗していることがわかった場合、アメリカはロシアの通常旅客機を強制着陸させるのでしょうか?

もし、通常の定期便ではなく、プライベートジェットで直行する場合は、16時間程度の給油なしの飛行が必要になるそうで、これも難しい話です。

アメリカ領空に入らなくても、他の国がアメリカからの要請、あるいはアメリカへの配慮から通過を拒否する場合も考えられます。

ハリウッド映画並みの緊迫した場面にもなりそうです。

それにしても、一番興味深いのは“キューバはこの問題をめぐって、一貫して口を閉ざしたままだ”というところです。
引退したフィデル・カストロ前議長は、この問題をどのように考えているのでしょうか?

現在のキューバはアメリカとの関係改善を目指しています。
特に、これまでキューバ経済を支援してきたベネズエラのチャベス前大統領が亡くなって、ベネズエラの支援をこれまで同様に期待することにも不安が出てきています。

カストロが引退し、チャベスが亡くなり、中南米反米諸国もアメリカを相手に大立ち回りできるような役者が不足している感があります。
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