(ラカイン州でのロヒンギャとの衝突の際、棒や武器を手にしたラカイン族の人々 同様の暴力行為はロヒンギャ側にもあったと思われますが、衝突を鎮めるべき治安部隊が組織的にロヒンギャ襲撃を行っていたと指摘されています。 “flickr”より By thestateless http://www.flickr.com/photos/87484547@N05/8011385006/in/photolist-dcWrDG-eZfbut-dLbMf5-dLbMLj-dLbMt1-9QR8cx-9QR91K-9QTZJQ-9QTZNG-9QU17y-9QR8F8-9QTZwQ-9QTZau-9QTZW7-9QTZSw-9QTZpJ-9QR8ux-9QR8rK-9QTZEQ-9QTZjm-9QR9un-9QR8Nt-9QU1a1-9QR9oT-9QR8g8-9QTYT5-9QR8xc-egcuMA-dHrUek-dHyag3-dHxiYs-dHsLc8-ejYkAY-dJaUtL-dJaUm7-dJaTBy-dJaU6Q-dLbLSS-dLbLUf-dL6iSe-dLbN7q-dL6it2-dL6gQX-dL6izi-dLbPUA-dL6iY6-dL6i8t-dL6iqD-dLbPAL-dL6jJ4-dLbNg9)
【「過去60年以上にわたり、国内で銃声が鳴りやむのは初めてのことだ」】
民主化を進めるミャンマーのテイン・セイン大統領の施策がいくつか報じられています。
ミャンマー最大の問題である少数民族問題について、すべての内戦停止する、民主化が進展する過程で課題となっていた政治犯について、すべての政治犯を釈放する・・・といった内容で、実際に実行されればミャンマー民主化も新たな段階を迎えるともいえるものです。
****ミャンマーのセイン大統領、内戦停戦を示唆****
欧州歴訪中のミャンマーのテイン・セイン大統領は15日、ロンドンの英王立国際問題研究所で講演し、国内各地で続いた少数民族との内戦が近く、すべて停戦を迎えるとの見通しを示した。
大統領は「今後、数週間で、全土にわたる停戦を迎えるだろう。過去60年以上にわたり、国内で銃声が鳴りやむのは初めてのことだ」と述べた。
6月のラジオ演説で方針を示した全政治犯の釈放については、「今年末までに、(思想や信条を理由に拘束されている)『良心の囚人』が全員釈放されることを保証する」と強調した。
大統領は講演に先立ち、キャメロン英首相と会談した。首相は、ミャンマー西部ラカイン州などに多く住み、迫害を受けているイスラム系少数民族ロヒンギャの保護などを求めた。【7月16日 読売】
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少数民族との停戦については、“「数週間以内には停戦が実現するだろう」と楽観的な見方を示した上で、「その後は困難な交渉が待ち受けている。難しい点についても譲歩しなければいけないだろう。だが、実現させなければならない」と付け加えた”【7月16日 AFP】とのことです。
全政治犯釈放につては、アメリカ国務省のベントレル副報道官代理が16日、「大統領の発表を歓迎する。多文化・多宗教の国づくりを進め、暴力を容認しないという大統領の考えを喜んで受け入れる」と評価しています。【7月17日 時事より】
【国境警備隊(通称「ナサカ」)を廃止】
会談でキャメロン英首相からも指摘のあったイスラム系少数民族ロヒンギャの問題についても、動きが報じられています。
****人権侵害疑惑の部隊廃止=国連、隊員の責任追及要請―ミャンマー****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は16日までに、西部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャ族に対する大規模な人権侵害に関与したとして人権団体から批判を浴びていた国境警備隊(通称「ナサカ」)を廃止したことを明らかにした。
これを受けて国連人権理事会のキンタナ特別報告者(ミャンマー担当)は16日声明を発表し、ナサカの廃止を歓迎するとともに、ミャンマー当局に対し、疑惑を調査し、人権侵害に関与した隊員の責任を追及するよう訴えた。【7月16日 時事】
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国境警備隊(通称「ナサカ」)については、非常事態宣言を盾にしたロヒンギャへの暴力行為が指摘されていました。
****ビルマ:ロヒンギャ民族の逮捕や襲撃が大量発生****
アラカン州の宗派間暴力での警察の対応 暴力的で偏見に満ちている
・・・・アラカン州北部での宗派間暴力の勃発時点から、ビルマ政府の治安部隊は殺害などの人権侵害に関係していた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。
たとえば6月23日に、マウンドー近くの村で、治安部隊は暴力から逃れるために畑や森に隠れていたロヒンギャ系の村人約20人を追跡、発砲した。全体の死傷者数は不明だが、ある生存者のヒューマン・ライツ・ウォッチへの証言によれば、一団となって逃げていた若い男性8人のうち、治安部隊の発砲後に無傷で逃れたのは2人だけだった。
・・・・・6月10日、テインセイン大統領はアラカン州北部に非常事態を宣言した。これにより国軍はもっとも基本的な適正手続抜きで人びとを逮捕、拘禁できる。国軍は今回の宗派間暴力をおおむね沈静化させたが、治安部隊のロヒンギャ民族への人権侵害がここ数週間で急増している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。
地元警察とナサカは、宗派間抗争に関わったロヒンギャ民族の容疑者を捜索するとの名目で、ロヒンギャ民族を大量逮捕している。
7月1日付の国営紙『ニューライト・オブ・ミャンマー』は、6月3日の殺害事件でアラカン民族30人が逮捕されたことを伝えた。しかし、アラカン州北部で現在起きている大量逮捕は差別的にも思われる。地元当局は刑事犯罪を行った疑いのあるアラカン民族の捜査も身柄の拘束も行っていない模様のためだ。被逮捕者の数や具体的な容疑についての報告は一切ない。
目撃者はヒューマン・ライツ・ウォッチに対して、治安部隊がマウンドー郡内のロヒンギャ民族が多数を占める地域で暴力的な襲撃を行い、住民に発砲したほか、住宅や商店で略奪を行ったと述べた。複数の村で、警察とナサカがロヒンギャ民族を自宅から引きずり出し、激しい殴打を加えている。
マウンドーの中心部から離れた地域の住民の話によれば、6月中旬に女性と子どもなどロヒンギャ民族数十人がナサカのトラックに乗せられてどこかに連れ去られ、現在まで行方不明だ。
・・・・「アラカン州で起きた暴力事件はロヒンギャ民族とアラカン民族双方のコミュニティに甚大な被害を及ぼした。しかし責任者の特定と逮捕に向けた政府の努力が、さらなる人権侵害を引き起こしてはならない」と前出のピアソンは指摘する。「宗派間暴力と非常事態宣言を盾にして、治安部隊がこれまでのように、ロヒンギャ系住民への人権侵害や差別を行うことは許されない。」
・・・・ナサカはこれまで長年にわたり、ロヒンギャ民族への恣意的拘禁のほか、被拘禁者には拷問などの様々な人権侵害を行ってきた。この事実は今回の大量逮捕に関して深刻な懸念を生んでいると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。(後略)【2012年7月5日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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【少数民族側には不信感も 「まだ(大統領の)空想に過ぎず、あり得ない」】
最近の動きは、テイン・セイン大統領のもとで民主化が急ピッチで進展している・・・という感を抱かせるものであり、実際、大統領の姿勢は相当に評価できるものに思われます。
人権・民主化の面で問題を抱える国が多いASEANにあっても“お荷物”的な存在であった軍事政権時代からは想像できない格段の進展です。
大統領が民主化を急ぐ理由は、海外からの投資を早急に呼び込むためであったり、ASEAN議長国となることを睨んでのこととも言われていますが、理由がなんであれ、結果が伴えば結構なことです。
ただ、少数民族問題は相手のある話であり、不信感が強い少数民族側からは「まだ(大統領の)空想に過ぎず、あり得ない」といった厳しい声もあがっています。
****少数民族側は不信感 ミャンマー大統領、全土停戦へ意欲****
ミャンマーで自治権拡大を求める少数民族武装勢力との和平を掲げるテインセイン大統領が訪問先の英国で「全国的な停戦」に向けた意欲を表明した。だが、少数民族側は政府への不信感を募らせたままだ。早急に成果を出したい大統領だが、実現は容易ではない。
テインセイン氏は15日夜、ロンドンで講演し、「おそらく今後数週間で、全国的な停戦が実施される」と明言した。テインセイン政権はすべての少数民族組織の代表を首都ネピドーに招いて会議を開き、国連代表など国際社会の立ち会いの下、全国的な停戦協定に署名したい意向を示しており、その実現に自信を見せた形だ。
だが、カチンやカレンなど11の少数民族組織でつくる統一民族連邦評議会(UNFC)のナイホンサ事務局長は電話取材に対し、この発言について「まだ(大統領の)空想に過ぎず、あり得ない」と断言した。
ネピドー会議については、大統領の側近で少数民族との交渉責任者を務めるアウンミン大統領府相が7月中にも開催したい考えを示していた。
政府とUNFCは13日にUNFCの事務所があるタイ北部チェンマイで実務レベルでの協議を実施。双方の担当者によると、政府側からネピドーでの会議開催について申し入れがあった。
しかし、UNFC側は応じず、代わりに少数民族問題の政治的解決に向けた協議を8月上旬に開くよう求めたという。政府側の担当者は取材に対し、「ネピドー会議の開催は予定より遅れるだろう」との見通しを示していた。
2011年の民政移管後、テインセイン政権は主要11の武装勢力のうち10の組織と停戦合意。最後に残ったカチン独立機構(KIO)とも今年5月に暫定的に停戦合意した。戦力に勝る国軍の攻撃に追い込まれたとみられている。
少数民族側が個別には停戦に応じながらも、全国的停戦協定に反発するのは政府への不信感からだ。シャン州やカチン州では小規模な戦闘が散発的に続いている。先に武器を下ろしてしまえば、自治拡大要求が無視されかねないとの懸念も強い。UNFC幹部のオッカー氏は「協定を結んだ後、政治解決が無視されて、我々が武装闘争に戻れば、テロリスト扱いされかねない」と話す。
少数民族側には現憲法が多数派ビルマ族による中央集権を前提としているとして、少数民族の自治や権利を保障する新憲法制定を求める声もあり、政権側との主張の隔たりは大きい。
テインセイン氏が早期の「全国的な停戦」にこだわるのは、「来年、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国になる前に国内和平が実現したとアピールしたいからではないか」との指摘もある。
◆キーワード
<ミャンマー少数民族> 大小135の民族が住むとされ、人口の6~7割を占めるビルマ族以外に七つの主要少数民族がいる。1948年の独立直後にカレン民族同盟が武装闘争を開始、60年代までにシャンやカチンの武装勢力も反乱を起こした。いずれもビルマ族中心の政府や国軍による支配に反発、現在は主に自治権の拡大を求めている。【7月17日 朝日】
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【「州が全権をもてれば、3カ月でベンガル人を追い出してみせる」】
イスラム系少数民族ロヒンギャについても、ロヒンギャと仏教徒・ラカイン族の相互の憎悪は根深く、現地に任せていては進展は期待できません。改善のためには、テイン・セイン大統領の強力なリーダー・シップが必要でしょう。各地に存在するイスラム系住民と仏教徒の緊張関係についても同様です。
****ミャンマー 仏教徒VSイスラム教徒 続く衝突、消えぬ憎悪****
■境界で隔絶 深まる対立
ミャンマー西部ラカイン州では、昨年6月以降、衝突を繰り返す仏教徒のラカイン族とイスラム教徒のロヒンギャ族が、完全に隔絶されていた。関係修復はもはや不能にみえるほど、対立感情は鋭く、亀裂は深い。
避難民のキャンプ生活も長期化している。衝突はまた、民族主義の強まりをもたらしていた。
◇
◆ラカイン族
単線の鉄道の線路の上に、牛を放し飼いにしたロヒンギャ族の男性が座っていた。線路の左側はロヒンギャ族、右側はラカイン族の居住区。線路はいわば“民族の境界”だ。
線路の脇には監視小屋があり、兵士が小銃を手に目を光らせる。どちらの民族であれ、境界を越えれば逮捕される。州幹部は言う。
「新たな衝突が起こらないように、両民族を完全に分けている。一緒にすることはもはやできない。また殺し合う」
避難民キャンプも別々だ。昨年8月にできたラカイン族のモリワヌ・キャンプ。子供102人を含む302人が暮らす。250人のロヒンギャ族に襲撃され、69戸が全焼した近くの村から逃げてきた。
竹材を編んで造られた家屋は3畳ほど。粗末というほかない。1戸に平均6人が身を寄せ合う。折しも雨期。雨漏りがし地面はぬかるむ。6人の高齢者が病気で死亡し、2児が生まれた。コメや豆などの食糧が毎月1回、国連世界食糧計画(WFP)から支給される。家族7人暮らしのウエ・ライさん(60)は嘆く。
「ここはわが家じゃない。食べ物も十分ではない。家は放火された。家が残っている者も、まだ危険だから政府の帰宅許可が出ず、戻るに戻れない」
モリワヌ・キャンプには、夫を失ったフォエン・カインさん(40)がいた。「ベンガル人に追いかけられ、夫だけが連れ去られ殺された。ベンガル人をとても憎んでいる。彼らがいる限り平和はない」
ラカイン族は、もともとバングラデシュから来たロヒンギャ族を差別し、「ベンガル人」と呼ぶ。
◆ロヒンギャ族
ロヒンギャ族の居住区とキャンプを訪れるには、州当局の許可が必要だった。ようやく許可をもらうと、今度はラカイン族の運転手が「あんな所に入ったら、ベンガル人に囲まれ袋だたきにされる」とおびえ、頑として動かない。
仕方なしに、何台ものバイクや車をつかまえては、「連れて行ってほしい」と頼んだ。徒労だった。
長時間かけ何とか運転手を説得した。検問所でチェックを受け居住区へ入ると、人々は皆、「よそ者」の車を鋭い目で追い続ける。道路の両脇には市場。その奥まったところにキャンプがあった。ロヒンギャ族の男性が口を開いた。
「ラカイン族に差別されている。国外へ逃れる同胞もいるが、ここに残る。政府と州はオレたちに市民権を与えるべきだ」
◆民族政党発足
国連は解決策として、全ロヒンギャ族への市民権の付与を求めている。だが、州幹部は顔をしかめる。
「ベンガル人は増え続ける一方で、ほとんどが不法滞在者だ。家系などを遡(さかのぼ)り法的に正当性があれば、市民権を与え州外に住まわせ、そうでない者は国外へ退去させればいい」
ある州関係者は「中央政府の姿勢は、人権擁護という外圧を受けており弱い。州が全権をもてれば、3カ月でベンガル人を追い出してみせる」と豪語する。
ラカイン族の住民も、異口同音に「政府とUSDP(与党・連邦団結発展党)は生ぬるい。アウン・サン・スー・チー(最大野党・国民民主連盟=NLD=の党首)も、私たちのために何もせず、発言もしない。嫌いになった」と話す。
USDPとNLDの間隙を縫うように6月、民族政党の「ラカイン民族党」が発足した。「ラカイン民族発展党」と「ラカイン民主連盟」が合流し、新党を結成したのだ。幹部のウ・シュエ・ライ氏は言う。
「ここはラカイン族の土地だ。2015年の総選挙へ向け、民族の衝突はわれわれに追い風だ」【7月17日 産経】
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前出の国境警備隊(通称「ナサカ」)もそうですが、地元の役人・治安関係者においてロヒンギャへの差別意識が強く、衝突が起きると騒ぎを鎮めるのではなく、率先して迫害を行うというのが実態のようです。
人々の間に根付いた憎悪を煽る連中は、「ビルマのビンラディン」とも呼ばれる高僧ウィラツ師など多々存在しますが、和解を説く者は少ないのが現状です。
この問題については、スーチー氏も多くを語りません。
せめて、治安部隊が緊張緩和・衝突の沈静化のために動くように、テイン・セイン大統領の強い指導を期待します。
その意味で、国境警備隊「ナサカ」を廃止したことは、評価に値するものだと思います。