孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア「ボコ・ハラム」によるテロ  牛泥棒による衝突  スーダン・ダルフールの今

2013-07-07 21:32:32 | アフリカ

(テロを繰り返すイスラム過激派「ボコ・ハラム」 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/54892559@N06/9223221050/in/photolist-f42qhA-f2sgJp-eZCgFs)

中には生きたまま焼かれた生徒も
これまでも再三取り上げているように、西アフリカのナイジェリアは豊富な石油資源をもとに著しい経済成長を実現し、その市場に海外資本も注目していますが、一方で、成長のから取り残されている多くの貧困層が存在し、南部キリスト教地域と北部イスラム教地域の間では激しい民族対立が続いています。

特に、イスラム過激派武装勢力「ボコ・ハラム」(地元言語で「西洋教育は罪」)は、主にキリスト教徒を狙った残忍なテロを繰り返し行っています。
そうしたテロのひとつと言えばそれまでですが、あまりにもむごい事件が報じられています。

****武装集団が学校襲撃、30人死亡…ナイジェリア*****
AP通信によると、ナイジェリア北東部ヨベ州で6日未明、イスラム過激派とみられる武装集団が寄宿学校を襲撃し、29人の子供と教員1人を殺害した。

同通信によると、武装集団は子供たちに発砲し、学校に火を付けた。焼け死んだ子供もいた。
ナイジェリアでは、イスラム過激派武装勢力ボコ・ハラム(地元言語で「西洋教育は罪」)が政府施設などへの襲撃を繰り返しており、ジョナサン大統領はヨベ州など北東部3州で今年5月、掃討作戦を開始した。【7月6日 読売】
*****************

“中学校は、宿舎が併設されており、事件時は生徒や教師は睡眠中だった。集団はオイル缶を持ち込み、中には生きたまま焼かれた生徒もいたという”【7月7日 朝日】とも。
犠牲者数については、続報では“42人”と報じられています。

おそらく、ジョナサン大統領が開始した掃討作戦への対抗措置なのでしょうが・・・。
人間性のかけらもない狂気としか思えませんが、ボコ・ハラムは執拗にこうしたテロを繰り返しており、多くの学校が放火され、大勢の生徒が犠牲となっています。

大多数のイスラム教徒はこうしたテロとは無縁な平和的な市民であることはわかりますが、国際社会においてイスラム教徒が尊厳ある地位を占めるためには、まずは世界のイスラム教徒・イスラム国家自身が過激派によるこうした非道を糾弾する姿勢を改めて明確にする必要があるでしょう。

牛泥棒
ナイジェリアでは先月末にも多くの犠牲者を出す事件が起きています。

****武装集団が村襲撃、48人死亡=ナイジェリア****
ナイジェリア中部プラトー州の三つの村が27日、武装集団に襲撃され、軍部隊との間で銃撃戦となった。軍報道官は28日、住民少なくとも28人のほか武装集団20人が死亡したと明らかにした。AFP通信が伝えた。

牛泥棒に絡んだ抗争が原因とみられる。被害に遭ったのはキリスト教徒が多い村で、牧畜に携わるイスラム教徒が襲撃に関与した疑いがある。

ナイジェリア中部では近年、キリスト教徒とイスラム教徒の間で土地などをめぐる衝突が多発、多数の犠牲者が出ている。【6月28日 時事】 
**************

詳細はわかりませんが、この事件はボコ・ハラムによるテロではなく、“牛泥棒”絡みの部族対立に宗教的対立も加わったもののようです。

牛はアフリカの住民にとっては貴重な生活な糧であり、各地でしばしば“牛泥棒”をめぐる部族対立が起きています。
2011年末から12年初頭にかけて、南スーダンでも牛をめぐる深刻な衝突が起き、一時は3000人が虐殺されたとの報道も流れました。3000人云々については証拠が見つからなかったということになっています。

****家畜の牛をめぐり過去最悪の民族衝突、政府軍が支配権奪還 南スーダン****
南スーダン東部のジョングレイ州の町ピボルで家畜の牛をめぐり過去最悪の民族衝突に発展した問題で、同国のバルナバ・ベンジャミン情報相は3日、ピボルの支配権を奪還したと発表した。

民族衝突は、ロウ・ヌエル部族の6000人余りの武装集団が、敵対するムルレ部族を牛の強奪犯と名指しし、ムルレ部族のせん滅を誓ってピボルを襲撃したことが発端となった。
武装集団はわらぶき屋根の住居に火を放ち、国境なき医師団が運営する病院を略奪した。

この衝突による避難民は、国連の推計で2万人以上にのぼった。避難した女性や子供、最大で150人が殺害されたとの未確認情報もある。

ベンジャミン情報相は会見で、ロウ・ヌエル部族に対しピボルからの退去を命じ、退去が始まっていることも明らかにした。

国連の報告書によると、同州では昨年1年間に民族間対立、牛の強奪、その報復攻撃による死者が1100人を超え、避難民も6万3000人に達している。民族間対立が新生国家の不安定化要因になることを危惧する政府と国連は同州の駐留軍を強化している。【2012年1月4日 AFP】
***************

何か事があると、自身の武力で報復・解決しようとする風潮が強く、いまだ、法律にのっとって警察・司法が裁くという社会システムが根付いていないようです。


停戦後も治安改善しないダルフール
アフリカでは、土地や水をめぐる農耕部族と牧畜部族の対立もしばしば起きます。
スーダン西部のダルフールでは、非アラブ系農耕部族とアラブ系牧畜部族の対立を背景にした、国連が「世界最悪の人道危機」とも呼んだ大規模な紛争が続いていました。

スーダンに関しては、北部スーダンと南スーダンの衝突・分離独立、その後の緊張関係が注目され、ダルフールの話題はここ数年あまり目にしなくなりました。

“2010年10月23日、カタールの首都ドーハで、カタール政府などの仲介により、スーダン政府と主要反政府勢力「正義と平等運動」が即時停戦を含む「ダルフール問題解決のための枠組み合意」に調印した。また、カタールのハマド首長は、スーダン再建のために約10億ドルを拠出することを明らかにした。
2013年2月10日、スーダン政府と「正義と平等運動」が、カタールの首都ドーハで停戦協定に調印した。”【ウィキペディア】
ということで、反政府勢力とスーダン政府の間で一応の停戦が成立はしています。

ただ、それでダルフールが安定した訳ではないようです。

****NGO事務所にロケット弾、1人死亡 治安悪化のスーダン・ダルフール****
国連(UN)によると、スーダン西部・南ダルフール州の州都ニャラで4日、国際援助団体の事務所にロケット弾が撃ち込まれ、職員1人が死亡、3人が負傷した。負傷者のうち2人は重体という。

国連人道問題調整部(OCHA)によると、攻撃を受けた国際NGO事務所は、同日正午ごろに市内で発生した戦闘に巻き込まれたとみられる。市内にある複数の国際団体の事務所が略奪被害に遭ったとの報告もあるという。被害に遭った団体名は公表されていない。

南ダルフール州当局は、4日の戦闘の原因は治安部隊の中での「意見の相違」だったと発表し、夜間外出禁止令を出した。

国連アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)のエルベ・ラドゥス事務次長によれば、ダルフール地方では3日にも、救急車が武装集団の待ち伏せ攻撃を受け、UNAMID要員3人が負傷している。

ダルフール地方の治安はこのところ悪化の一途をたどっている。
最悪の状況は脱したダルフール紛争だが、武装勢力間の戦闘はここ10年にわたって続いている。

特に、アラブ系と非アラブ系の勢力間で戦闘や誘拐事件、自動車強盗などが相次ぎ、治安を脅かしているが、こうした犯罪行為はスーダン政府とつながりのある民兵や準軍事組織によるものとの見方が強い。

国連の推計では、ダルフール地方ではこれまでに30万人が民族間紛争のため国内避難民と化している。【7月5日 AFP】
*******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エジプト政変  周辺国の反応 パレスチナ・ハマスへの影響

2013-07-06 22:59:48 | 北アフリカ

(カイロ市街を固める軍の装甲車 “flickr”より By IE Reda Samir http://www.flickr.com/photos/86124482@N05/9218165048/in/photolist-f3zvj9-f3CSbP-f3CSdF-f3u5Wk-f3qn2e-f3Xu6m-f3K9bE-f3Y8sJ-f3Y8nY-f39DbK-f3vYZK-f3Tgeq-f3Jc6R-f3x6en-f3x4Di-f3ZTvh-f3KJLp-f3DbM4-f39EPH-f3pcwp-f3wfPr-f3d8S8-f3qzHQ-f3zNm5-f3uVeg-f31PVc-f3eb8n-f3DpGs-f3jDCv-f3UNMo-f3DpCd-f3Jr2m-f3KChg-f3nryx-f3Jr53-f3kTiE-f3vTFu-f3Tigf-f3Y8xm-f3HTP8-f3FwE3-f3Weh3-f3ENMW-f3pnWB-f3zW73-f41ics-f3z5Jg-f3z5Va-f3z5MH-f3zu76-f3uYhc)

称賛から非難まで多様な反応
エジプトの軍による実質的クーデターについては、あまたの報道がなされています。
現在進行形でモルシ政権支持派の抗議行動も行われていますので、事態が収束するのかはまだ不透明です。
ただ、モルシ氏やムスリム同胞団幹部を拘束するなど、軍のムスリム同胞団追放の意思は固いようです。

もとより軍部はムスリム同胞団のようなイスラム主義とは敵対する関係にありましたが、「アラブの春」における民意の高揚によってムバラク政権を見限り、結果として選挙で選ばれたモルシ政権を許容してきました。
ただ、もともと軍とイスラム主義勢力の間には距離がありますので、再度の反モルシの民意高揚を利用し、これと連携をとりながら、筋書どおりに早々とモルシ政権・ムスリム同胞団をも見限った形に見えます。

今回の実質的クーデターの背景(モルシ政権の失政)、民主主義を覆した実質的クーデターの問題等が様々論じられていますが、今日は周辺国・関係国の反応や、パレスチナ・ハマスへの影響などについて取り上げます。

****エジプト:クーデター 中東では賛否両論****
 ◇湾岸諸国は理解、トルコやチュニジアは批判
エジプトの軍事クーデターについて、欧米諸国が軍の政治介入を「民主化の後退だ」と批判する一方、中東諸国では賛否両論に分かれている。湾岸諸国などは軍の判断に理解を示しているが、イスラム政党が政権を握るチュニジアやトルコは軍を猛烈に批判した。

「軍の介入は受け入れがたい。(モルシ派の)ジャーナリストや政治家が次々に逮捕される現状を懸念している」。チュニジアのマルズーキ大統領は4日、フランスのオランド大統領との共同記者会見で、エジプト軍を非難した。

チュニジアとエジプトは、2011年に民主化要求運動「アラブの春」で独裁政権を崩壊させ、その後、選挙で同胞団系のイスラム政党が勝利した点で共通する。

チュニジアの政権与党で穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団系の「アンナハダ」は世俗政党との連立政権を作るなど融和的な政権運営をしているが、今年2月にはアンナハダ批判の急先鋒(せんぽう)だった野党指導者の暗殺事件を契機に大規模な抗議デモを受け、首相の交代を強いられた。

エジプトで軍事クーデターの引き金となった反政権署名活動がチュニジアでも始まるなど、すでに影響は出ており、与党は懸念を深めている。

同様にイスラム政党が政権を握るトルコも4日、懸念を表明した。ロイター通信によると、ダウトオール外相は「民主的に選ばれた政府がクーデターで転覆されるなど受け入れられない」とエジプト軍を批判した。

一方、カタールのタミム首長は4日、サウジアラビアなど他の湾岸諸国と同様に、エジプトのマンスール暫定大統領に祝電を送った。外務省も治安を守ったとしてエジプト軍を称賛した。
カタールは同胞団など周辺国のイスラム勢力を支援してきただけに、軍事クーデターへの好意的な反応は意外だと受け止められている。6月下旬に就任したタミム首長が外交政策を軌道修正しようとしている可能性もある。

またエジプトやチュニジアと同様に「アラブの春」で独裁政権が崩壊したリビアのゼイダン首相は4日、訪問先のローマで「エジプト国民の選択を受け入れる」と述べた。【7月5日 毎日】
**************

それぞれの国の事情を反映した反応です。
エジプトのムスリム同胞団に近いイスラム主義組織による政権であるチュニジアやトルコがクーデターを批判するのは当然でしょう。
特に、チュニジアの場合は、足元にすでに火がついている状況です。

トルコは周知のように最近反政府・反首相抗議行動が注目されており、また世俗主義とイスラム主義の対立は以前から根深く存在しますが、モルシ政権と比べてエルドアン首相・公正発展党(AKP)の支持基盤は強く、かつてはクーデター等で政権を左右した軍部をも今は抑え込んでいますので、影響はあまりないものと思われます。
経済状況も、資金が枯渇して行き詰まっていたモルシ政権とはことなり、トルコ経済は順調です。

サウジアラビアは国内でのムスリム同胞団の活動活発化を警戒しており、今回のクーデター・ムスリム同胞団失脚を大歓迎しています。
“サウジアラビアのアブドラ国王はマンスール暫定大統領に祝福メッセージを送り、「エジプトを暗いトンネルから救った」と軍をたたえた。”【7月5日 産経】

一方、これまでモルシ政権にアメリカを上回る巨額の資金援助をおこい、「これでカタールはエジプトを併合したも同然だ」とも皮肉られていたカタールですが、今回はマンスール氏に祝意を伝達、サウジアラビアと同調しています。
TV報道では、カタールはすでに最近は、エジプト・モルシ政権やパレスチナ・ハマスなどへの資金提供を従来とは異なり減らしてきているとも報じていましたが、そのあたりの詳細はよくわかりません。

なお、アメリカは慎重な対応です。
民主的政権が軍による実質的クーデターによって崩壊したこと自体は批判すべき立場ですが、クーデターと決めつけて新体制と敵対することになっては、中東に大きな影響力を有するエジプトとの関係を失ってしまいます。
エジプト新体制も、命綱であるアメリカからの資金援助を維持するために、極力“クーデター色”を薄めたいところです。

後ろ盾を失うハマス
モルシ政権はこれまで、シリアの反体制派、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスを支援してきましたので、その崩壊はシリア・パレスチナへも及びます。

****中東イスラム組織に痛手 エジプト、同胞団政権を排除****
エジプトでイスラム政治組織ムスリム同胞団が支えるムルシ政権が排除された。同胞団はシリア反体制派の中核を占めてきたほか、パレスチナ情勢に大きな影響力を持つ。エジプトの政変は、中東情勢に大きな波紋を広げそうだ。

 ■シリア 反体制派活動に制約
シリアのアサド大統領は4日、政府系サウラ紙のインタビューで「エジプトで起こったことは政治的イスラムの崩壊だ。宗教を政治目的に使うものは、最後は倒れる」と語った。

「政治的イスラム」とは、シリア内戦でアサド政権に敵対するシリア・ムスリム同胞団やイスラム厳格派の「サラフィ主義者」を指す。ムスリム同胞団は、シリア反体制派で中心的な役割を果たしてきた。

エジプトのムスリム同胞団が強い影響力を持つエジプト医師組合は、昨年秋からシリア反体制派が支配するシリア北部のアレッポ近郊にエジプト人医師を送って野戦病院を開設。地域住民や自由シリア軍の戦士を受け入れていた。ムルシ政権下では、カイロに同胞団系のシリア反体制組織の事務所も開設されていた。

だが、既にエジプトでは公安警察による同胞団への締め付けが始まった。シリア反体制派幹部はエジプトの政変について「何も声明はない」としているが、エジプトでのシリア反体制派の動きは今後、厳しく制約されることになりそうだ。

 ■パレスチナ ハマス、後ろ盾失う
一方、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスもムスリム同胞団系組織だ。
ムルシ氏も大統領就任直後の昨年7月、ハマス政府のハニヤ首相やメシャール政治局長と相次いで会談し、支援する姿勢を示していた。

昨年11月にイスラエルによる空爆が始まった際には、エジプトが主導してアラブ連盟外相会議を開催。エジプトのカンディール首相やアラブ諸国の外相が次々とガザに入り、イスラエルを牽制(けんせい)した。

ガザからの情報では、エジプト側が5日、「シナイ半島の治安悪化のため」として、ガザ南部とエジプトをつなぐラファ検問所の封鎖を通告してきたという。

ムルシ政権の崩壊によって、ハマスは後ろ盾を失ったことになる。対イスラエルや、ヨルダン川西岸地域を支配するアッバス議長が率いるファタハとの関係でも、立場が弱まることは避けられない。【7月6日 朝日】
********************

ハマスが後ろ盾を失ったことの具体的変化のひとつとして、パレスチナ・ガザ地区ではエジプト情勢の急変をうけて、密輸トンネルによるガソリン供給が途絶え、市民生活に大きな影響が出ているとのことです。

****ガザ地区:ガソリン供給途絶える エジプト情勢急変で****
エジプト情勢の急変を受けて、パレスチナ自治区ガザ地区に不安が広がっている。
イスラエルによる封鎖政策が続くガザ地区では、エジプト側からの密輸トンネルを介した物資搬入が「生命線」だが、ガソリン供給が早くも途絶え、市民生活への影響が広がり始めている。

「3週間ほど前から、エジプトのガソリンが入らなくなった。代わりにイスラエルから買っているが、値段は2倍以上で、お客はほとんど来なくなった」。エジプトでマンスール暫定大統領が就任した4日、ガザ市内のガソリンスタンドで働くユーソフ・ジョゼフさん(25)は、浮かない表情で語った。

ガザ地区では6月初旬から、ガソリンを買いだめする市民が急増した。
地元のジャーナリストによると、エジプトで同月30日、モルシ大統領が就任1年を迎えるのに合わせ大規模デモが計画されているとの情報がソーシャルメディアなどで流れ、エジプト側からのガソリン供給が途絶える可能性を懸念した市民が殺到。密輸トンネルによる供給量をはるかに上回る需要が続いたという。

さらにその後、エジプト治安当局が取り締まりを強化し、6月中旬ごろから、ガソリン供給は途絶えた。現在はイスラエルから搬入する以外に方法はないが、値段は1リットルあたり約176円で、密輸価格の2倍以上と高額だという。

ガザでは、ハマスが武力制圧した2007年以降、イスラエルが封鎖政策で人や物の出入りを規制し、物資不足のほか停電も慢性化している。
このため民家や商店のほか学校や病院など公的施設も、ガソリンを使った発電機で電気を補うのが日常で、ガソリン不足は生活に大きなダメージを与える。買いだめした物資が底を突くのは時間の問題で、小学校教諭のムスタシさん(35)は「学習環境にも影響を及ぼしそうだ」と語った。

ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義ハマスの源流はモルシ前大統領の出身母体と同じムスリム同胞団で、大半の「密輸」は、事実上黙認されてきたともいわれる。

一方、エジプトでは1月以降、軽油の供給不足が続き、「モルシ政権がガザに無料でガソリンを譲渡している」とのうわさが一部で広まっていた。エジプト側が今後、どのような対応を取るかは不明で、ジョゼフさんは「市民はとても不安になっている」と話した。【7月5日 毎日】
*****************

“エジプト治安当局が取り締まりを強化し、6月中旬ごろから、ガソリン供給は途絶えた”というあたりは、今回政変に向けた一連の行動だったようにも思われます。

エジプト軍部は、イスラエルとの関係を悪化させるモルシ政権のハマスとの接近や、シナイ半島におけるイスラム過激派組織の跋扈にこれまで苛立ちを募らせています。

今回の政変を受けて“シナイ半島では、イスラム過激派とみられる武装勢力が政府庁舎を襲撃し、警察官ら三人が死亡した。同半島では五日朝も武装勢力が軍検問所などを攻撃し、情勢が一段と不安定になっている。”【7月6日 東京】という情勢もあり、今後、ラファ検問所の封鎖、あるいは管理強化、密輸トンネルの摘発強化などを継続的に行うことが予想されます。

中断が続くパレスチナ和平交渉への影響は?】
パレスチナの和平交渉は中断が続いています。

****米国務長官:中東和平交渉、再開果たせず****
ケリー米国務長官は30日、イスラエルのネタニヤフ首相やパレスチナ自治政府のアッバス議長らとの4日間にわたる会談を終えた。
約2年9カ月にわたり中断している中東和平交渉の再開を目指すケリー長官のシャトル外交はこれで5回目となったが、大きな成果は見えていない。

ケリー長官は27日夜からエルサレムやヨルダンの首都アンマンで会談を重ねた。これまでの協議で、イスラエルは前提条件なしでの交渉再開を求め、パレスチナ側はイスラエルが拘束するパレスチナ人服役囚の釈放やユダヤ人入植活動の凍結を条件に掲げている。

地元メディアによると、ケリー長官は双方の代表者やヨルダンのアブドラ国王が出席するアンマンでの「4者会談」の開催を提案した。
これに対しパレスチナ側は、条件としてイスラエルで服役中のパレスチナ人127人の釈放などを要求。
イスラエル側は交渉開始後の段階的な釈放のみ受け入れる姿勢を示し、双方の溝は埋まらなかったとみられる。【6月30日 毎日】
*********************

パレスチナ自治政府内部も、6月6日に就任したばかりのハムダッラー首相が、アッバス議長との確執などで20日は辞表を提出、23日に受理されるというごたごたが続いています。

ハマスは従来はシリア・アサド政権の支援を受けていましたが、シリア内戦に伴って反体制派支援に転換し、アサド政権からの資金提供は途絶えました。(資金援助が期待できなくなったので、方針を転換したと言うべきでしょうか)
イランからの支援も、経済制裁によるイラン自体の苦境によって、細くなっているといわれています。
先述のように最近の新たな支援国だったカタールの方針も変化しています。

こうした資金的に苦しい状況で、更に今回のエジプト政変でモルシ政権という後ろ盾を失ったハマスが、自治政府との関係・和平交渉再開に向けてどのように対応するのか注目されます。

最後に、最近目にしたハマス関連の話題。

****イスラム過激派が戒律強制を諦めた*****
イスラム原理主義組織ハマスがパレスチナ自治区ガザを実効支配し始めてから6年。当初は人々の生活にイスラム法を押し付けようとしていたハマスだが、最近は締め付けが緩んでいる。

少し前までは結婚前の男女が街やビーチで仲良くしていると、警察に尋問された。派手なランジェリーを売る店も目を付けられたし、女性が水たばこを吸うのも10年に禁止された。 

ところが、現在のガザには自由な雰囲気が漂っている。特にリベラルなガザ市では、多くの女性がスカーフをかぶらず街を歩き、Tシャツにスキニージーンズ、ウェッジサンダル姿で男性とカフェで会ったり水たばこを楽しんだりしている。

ハマスはどうやらイスラム法の無理強いを諦めたようだ。ハマスはガザ地区の政府としての役割と責任を認識し始め、寛大になったと、住民たちは言う。

「女性の服装は自由になった。イスラムの教えに反していると思う」と、ガザ市で香水を売るアブドラーモハメド(28)は言う。「でもそれは政府が介入する問題ではない。宗教心は個人の信念に基づくもので、法律で強制されるものではない」
こうした声がハマスに届いたのかもしれない。【7月9日号 Newsweek日本版】
*********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国・新疆ウイグル自治区  ウルムチの大規模暴動から4年、高まる緊張、力で抑え込む習近平指導部

2013-07-05 22:52:55 | 中国

(6月26日のトルファン近郊の事件で焼き討ちにあった警察のパトカー “flickr”より Once upon a time http://www.flickr.com/photos/88925006@N00/9147353568/in/photolist-eWjzwy-eXAaSt-8erXy4-epMc9v)

トルファン、そしてホータンでも
中国の新疆ウイグル自治区では、民族衝突で197人(当局発表)が死亡した09年7月5日のウルムチ騒乱から4年を迎え、域内のトルファンやホータンで民族問題によると思われる事件が続発し、緊張が高まっています。
この事態に習近平指導部は中心都市ウルムチに大量の治安部隊を投入するなど、力で抑え込もうという姿勢を強めています。

最初の事件は国際観光都市トルファン近郊で起きています。
死亡者数については、下記記事では27人とありますが、その後の報道では“ウイグル族16人、警官2人を含む24人が犠牲になったほか、警官がその場で射殺した「暴徒」の数は11人となった”【6月28日 朝日】と、合計35人と報じられています。

****中国:新疆で暴動 27人死亡*****
中国国営新華社通信(英語版)は26日、新疆ウイグル自治区トルファン地区※善県で26日朝、暴動が発生し、27人が死亡したと伝えた。ナイフを持った暴徒が警察署や地元政府、建設現場を襲撃し、9人の警察官と8人の市民が死亡した。警察官によって暴徒10人が射殺された。

地元当局は暴徒3人を拘束し、逃走者の行方を追っている。襲撃で3人が負傷し、地元の病院で手当てを受けている。

香港の人権団体「中国人権民主化運動情報センター」は同日、ウイグル族が派出所に仲間の釈放を求めたところ、当局者が拳銃を撃ち衝突を引き起こしたとの見方を伝えた。

新疆ウイグル自治区では2009年7月にウイグル族による大規模暴動が発生し、来月5日で4周年となることから、各地で当局が警戒を強めている。

地元のホテル関係者によると、1週間前に当局関係者がホテル関係者を集め、不審者に注意するよう呼び掛けた。この関係者は毎日新聞に「現在は当局が警戒を強め、現場付近は市民が近づけない」と話した。
 ※は善の右におおざと 【6月26日 毎日】
******************

この6月26日のトルファンに続いて、28日には、トルファン同様かつてのシルクロードに栄えたオアシス都市でもあるホータンで事件が起きています。

“ホータンはウイグル族が人口の90%以上を占める。漢族の男性経営者は28日、朝日新聞に対し、「周辺の店は全て閉店させられ、当局から外出が禁止された。街は厳戒態勢が敷かれ、警察車両が行き来している」と語った”【6月29日 朝日】という緊張状態のなか、当局側の報道規制もあってその詳細はよくわかりませんが、米政府系の自由アジア放送は次のように伝えています。

****デモ隊に発砲、10人以上死亡か=中国新疆―米政府系放送****
米政府系の自由アジア放送(RFA)は3日までに、中国新疆ウイグル自治区ホータンで6月28日に群衆による騒動が起きた際に、警察が発砲するなどしてウイグル族10~15人が死亡、50人以上が負傷したと報じた。200人以上が拘束されたという。

ホータンの村幹部によると、当局がモスク(イスラム寺院)を閉鎖し、若いイスラム教指導者を含むウイグル族数人を逮捕したことが騒動のきっかけ。ウイグル族数百人が抗議デモを行い、警官らは逃走するデモ隊に向けて発砲した。【7月3日 時事】
***************

中国西部最大の都市ウルムチ(市区人口は135万人、都市圏人口は183万人)には、カシュガルへの旅行途中にパスポートや現金・カードを置き引きされるという苦い思い出があるのですが、シルクロードの要衝トルファンは、シルクロード観光のハイライトのひとつでもあり、個人的には、遺跡・自然・文化など世界有数の観光資源を持った都市だと思っています。また、2回の旅行で多くの思い出もある街です。

当然ながら、普段は事件とは無縁の穏やかな街です。昨年4月に21年ぶりに再訪したトルファン中心部は、発展著しい中国の他都市同様に、かつての砂漠のオアシス都市の雰囲気を色濃く残した街から近代都市へと変貌をとげていました。

行きずりの観光客には定かではありませんが、民族対立の緊張が緩まない現実から判断すれば、目覚ましい経済発展の恩恵の多くが政治・経済の主導権を握る漢族の手に渡る一方で、多くのウイグル族住民が取り残されているのではないか・・・と思われます。

“(ウルムチの)バザールの南にある新疆大学の前にも武装警官約10人が待機。多くの学生が「(最近の事件の)話はしたくない」と口を閉ざした。法律を専攻するウイグル族の女子学生(23)は「先月下旬、ウルムチでもウイグル族が警察官に発砲された事件があったと聞いた。ウイグル族の生活は漢族と比べ経済的に苦しく、ここには問題がたくさんある」と語った”【7月3日 毎日】

“ウルムチで建設の仕事をしているウイグル族男性(28)は「自治区に移り住んでくる漢族は、羊の串焼きを好むという程度にしかウイグル族のことを理解していない」と不満を募らせる。就職活動の際に、複数の会社からウイグル族と知られた途端に面接を拒まれた。”【7月4日 朝日】

力づくの安定
習近平指導部は、4年前の暴動を再現させないように神経をとがらせています。

****新疆:暴力事件相次ぎ、習主席が事態収拾を指令****
中国紙、新疆日報(電子版)は29日、暴力事件が相次いでいる新疆ウイグル自治区に対し、習近平国家主席が早期の事態収拾と地域の安定を図るよう命じたと報じた。

漢族ら約200人が死亡した2009年7月5日の区都ウルムチでの大規模暴動から4年となるのを前に、各地で厳戒態勢を敷くとみられる。

同自治区トップの張春賢共産党委員会書記は28日の会議で「テロ分子は新疆全ての民族にとって共通の敵だ」と述べ、治安対策を強化するよう関係部門に指示した。ウイグル族ら少数民族に対する取り締まりが強化されそうだ。【6月29日 毎日】
******************

****中国・ウイグル自治区で「刀狩り」…密告も要求****
中国新疆ウイグル自治区公安庁は2日、自治区内で襲撃・暴力事件が相次いでいることを受け、15センチを超える短剣や爆発物、テロ活動を扇動する書籍などの自主的な提出を求める通告を出した。
10日以内に提出しなければ重く処罰するとし、所持している者を公安機関に通報することも要求している。

1日には、テロ犯罪を防ぐ情報を寄せた者に5万~10万元(80万~160万円)の懸賞金を出すとも通告。暴動を防ぐため、当局は、なりふり構わない対策を取り始めた模様だ。【7月2日 読売】
***************

“最近の事件を受け、習主席は事態収拾を指示。28日夜に中国共産党の重大な意思決定権を持つ政治局常務委員会会議を招集し、新疆社会の安定を求めた。29日には全国政治協商会議主席で党序列4位の兪正声氏が自らウルムチ入りし、テロの取り締まり強化を指示した。”【7月4日 朝日】

“6月29日、ウルムチでは道路が封鎖され、装甲車などによる大規模な軍事演習が行われた。ウイグル族の30代男性会社員は「当局は自分たちがこれだけ実力があると見せつけたかったんだろう。不安な気持ちにさせられた」と語った。”【同上】

住民の経済的・文化的・政治的不満を力で押さえつけようとする習近平指導部ですが、長期的にはそうした威圧的な対応は民族間の溝を一層深くし、問題の解決をより困難にします。
また、新疆を漢族のフロンティアとみなすような施策からは融和は生まれません。

新疆ウイグルにしても、チベットにしても、漢・唐の時代の漢族支配を当然のこととし、それを「中華民族の偉大な復興」「中国の夢」として誇示するような中華思想からは、解決の糸口は見いだせません。

国内に憎みあうような対立を抱えるよりは、望むなら独立もかまわないというぐらいの高度の自治権を付与して良好な関係を構築する方が、中国にとっても身軽になって得策のように思うのですが。
確かに新疆は資源に恵まれた地域ですが、経済の発展にとって、国内における資源の有無は、それほど決定的な要素ではありません。日本の経済成長は国内資源の制約から解放されたことで達成されたとも言えます。

もっとも、国家・領土となると思考が停止し、一歩たりとも譲ってはならないものという硬直した考えにとらわれるのは、別に中国に限った話ではありません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

温暖化  2001年からの10年間の世界平均気温は観測史上最高を更新 アメリカの温暖化対策行動計画

2013-07-04 22:27:24 | 環境

(ガンジス川の洪水にのみこまれた、ヒンズー教の破壊をつかさどる神「シバ」の像=インド北部ウッタラカンド州で2013年6月18日、AP【6月20日 毎日】)

1961~90年平均の14度を0.47度上回り、記録を塗り替えた
地球温暖化の話は、ここ数年あまり大きな注目を浴びていないように思えます。
世界尾的に経済状態が芳しくない、交渉しても先進国と途上国の対立の構図から抜け出せない、温室効果ガス最大排出国の中国・アメリカに熱意がみられない、日本は地震で原発稼働が停止してしまった・・・などの状況では、さしあたり今現在の不都合とは直結しない温暖化の話が脇に追いやられるのも無理ないことかもしれません。

世界気象機関(WMO)は3日、2001~10年の気象を分析した報告書「異常気象の10年」を発表しました。これによると、当該10年間の世界平均気温は観測史上最高を更新しており、また、異常気象も多発しているそうです。
やはり、温暖化は着実に進行している・・・ということのようです。

****2000年代は「観測史上最暑の10年」、国連報告書 ****
2001年からの10年間の世界平均気温は、観測史上最高を更新したことが、国連(UN)が3日に発表した報告書で明らかになった。
同期間中の気温上昇はかつてない速さで進み、異常気象による犠牲者は37万人を超えたとされている。

国連の世界気象機関(WMO)が発表した2001~10年の世界気象に関する報告書によると、同期間の世界平均気温(陸上気温・海面水温の平均)は14.47度だった。

一方、1881年から残る気象観測記録の長期平均気温は14度で、WMOのミシェル・ジャロー事務局長は「2001~10年は、この期間全体で最も暑い10年だった」と述べている。

2001年から10年間の世界平均気温は、その前の10年間と比べて0.21度上昇した。1990年代の世界平均気温は、1980年代よりも0.14度高かった。地球の温暖化は、二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガスの産業活動による排出など、人間の活動が原因とされている。

WMOの報告書は、139か国で行われた調査に基づいている。これらの国の94%近くが、2001~10年を観測史上最も気温が高かった10年間と記録している。また、同期間内に全国平均気温の最高記録を更新した国は44%に上った。

WMOによると、この期間に最も頻発した異常現象は洪水で、2010年にはパキスタンで2000人の死者を出し、2000万人が被害を受けたとされる。

同期間中の異常気象関連の死者数は、その前の10年間を20%上回り、37万人を超えた。主として2003年に欧州、2010年にロシアを襲った熱波によるもので、それ以前の10年間では6000人だった熱波による全世界の死者数は、2001年からの10年間では13万6000人に膨れあがった。【7月4日 AFP】
********************

“その前の10年間と比べて0.21度上昇”という、はっきりと体感できない長期的変動が、温暖化対策への取り組みを鈍らせる原因でもあります。
“0.21度”なんて観測誤差の範囲じゃないか?とも素人的には感じたりもしますが、このペースが100年続けば2.1度上昇するという数字でもあります。2.1度上昇すれば大変な影響が出ます。

なお、“1881年から残る気象観測記録の長期平均気温は14度で”というのは、14度というのがどの期間の平均なのか意味不明ですが、別記事によればこの10年間の14.47度という数字は、“基準としている1961~90年平均の14度を0.47度上回り、記録を塗り替えた”【7月3日 時事】ものだそうです。
ここ2~30年で0.5度近く上昇しているということであれば、確かに心配する必要がありそうです。

最近の異常気象・大規模自然災害としては、インド北部ウッタラカンド州を中心した洪水・土砂崩れの被害が懸念されています。
同地域では6月中旬の夏季の季節風(モンスーン)による豪雨のため、すでに約1000人の死亡が確認されていますが、7月1日時点で、約3000人がいまだ行方不明となっていると報じられています。

また、温暖化の影響を敏感に反応する北極海の状況に関しては、今年5月、氷の想定外の溶解によりロシアの観測基地が水没する危険に直面するという事態も起きています。

なお、“温暖化を招くとされる二酸化炭素(CO2)の大気中濃度は産業革命前の1750年から約39%上昇。「世界の気温上昇を招き、気象パターンに著しい影響を及ぼした」と分析している”【7月3日 時事】とのことです。

アメリカ:2020年までに温室効果ガス排出量を05年比17%程度削減
世界的な温暖化対策が前進するためには、なんといってもアメリカの積極的対応が必要です。
アメリカはこれまで欧州各国に比べ、温暖化対策においては消極的なイメージがありましたが、オバマ大統領は地球温暖化対策を強化する行動計画を発表しています。
背景には、異常気象多発による国民的関心の高まりや、シェールガス革命による天然ガス生産の増大というエネルギー事情が指摘されています。

****米温暖化対策 シェールガス革命が追い風に****
オバマ米大統領が、地球温暖化対策を強化する行動計画を発表した。
国内で二酸化炭素(CO2)排出削減を進めるとともに、中国やインドなどとの協力を含めて国際的な温暖化対策を拡充する内容だ。

CO2などの温室効果ガスの排出量は、世界で増加の一途をたどっている。中国に次ぐ排出大国の米国が温暖化対策に本腰を入れることは、世界全体の排出量削減の観点からも、意義は大きい。
オバマ氏の指導力と実行力が問われよう。

行動計画は、2020年までに温室効果ガス排出量を05年比17%程度削減する、という米国の中期目標を改めて確認している。

国内のCO2排出削減対策として、新規及び既存の発電所に新たに厳しい規制を導入するほか、石炭や石油よりもクリーンな天然ガスへの切り替えを促した。
水力や太陽光発電などの再生可能エネルギー倍増計画や、出力30万キロ・ワット以下の小型モジュラー炉の開発など原子力発電の維持・推進も盛り込んだ。

前途は容易ではあるまい。早くも電力会社は、厳しい規制で主力の石炭火力発電所が閉鎖に追い込まれかねないと警戒し、関連自治体や共和党も、雇用が奪われると反発を強めている。規制基準作りを巡り 紆余 ( うよ )曲折が予想される。

オバマ氏が大胆な温暖化対策の推進を打ち出した背景の一つに、暴風雨や巨大竜巻など異常気象で災害が増加していることへの国民の強い関心がある。行動計画は、災害に耐性の強い地域作りへ具体策を講じることも明記した。

シェールガス革命による天然ガス生産の増大が追い風になった点も見過ごせない。石炭から天然ガスへの転換で、CO2削減目標の達成は現実味を帯びてきた。国際交渉で米国の立場も強まろう。

京都議定書後の新たな国際枠組みは20年発効予定だ。すべての主要排出国が応分の責任を負う仕組みにすることが何より重要だ。
オバマ政権は、各国が自主的に目標を設定し、削減に努める緩やかなルール作りを目指すと見られる。削減義務を負うことに反発する新興国を引き入れるには、有効な手法と言える。
日本も積極的に関与したい。

安倍政権は、鳩山元首相が09年に唐突に打ち出した「20年までに1990年比25%削減」という非現実的な目標の撤回を表明している。まずは経済活動に目配りした現実的な目標に改め、国際社会の理解を得ていくことが肝要だ。【7月3日 読売】
******************

規制強化で家電製品のエネルギー効率引き上げ
アメリカの温暖化対策においては、家電製品のエネルギー効率引き上げが大きな役割をはたしているとの指摘もあります。

****オバマ式温暖化対策の重要ポイントはエコ家電****
消費者向け製品をもっとエコにするよう求めれば、アメリカでは大きな効果が期待できる

オバマ米大統領は先週行った演説で、地球温暖化防止に取り組む新しい行動計画を発表した。
骨子は発電所を対象とする二酸化炭素の排出規制やクリーンエネルギーの活用促進だったが、そこには大きなポイントが隠されていた。家電製品のエネルギー効率引き上げである。
(中略)
誰もが得する規制強化
電球を例に取ろう。07年に成立したエネルギー自立・安全保障法の下で、電球のエネルギー効率を25%上げ、従来の100ワット電球の明るさを72ワット以下の電力で確保することが求められた。

そのための簡単な策は、白熱電球の製造をやめて蛍光灯やLED電球に特化することだ。だが業界はそうせず、従来の電球の効率を上げた。おかげで消費者の選択肢は、さまざまな種類の白熱電球、電球型蛍光灯、LED電球と広がっていった。

しかも規制の対象から外れている従来型の白熱電球の売り上げはここ1年半で急落している。
値段は高くても耐久性のある製品のほうが経済的と見なされたためだ。このままいけば、15年には消費者にとって年60億ドルの節約になると政府は推定する。

自動車の燃費規制も業界に好影響を与えた。オバマ政権は国内で販売される乗用車・小型トラックの平均燃費を25年までに1ガロン当たり54・5マイル(1リットル当たり約23.2キロ)にするよう求めた。
すると業界は、もともと消費者が望んでいた燃費改善を実現させた。

今年5月には、1ガロン当たりの平均燃費が07年10月の20・1マイルから24・8マイルへと25%近く改善していた。40マイルを超えた車も多い。それでいて性能が下がったり、価格が上がるといったこともない。

他の業界でも、政府はエアコンや冷蔵庫のエネルギー効率を規制し、メーカーはそれに応えながら消費者の満足度を向上させてきた。オバマは演説でこの点を強調した。

「プラスチックに含まれる発癌性物質や有鉛ガソリンを規制しても、対象業界は滅びなかった。アメリカの技術者はより良い代替品を生み出した。フロンガスを規制したときも、世の中から冷蔵庫やエアコンや脱臭剤が消えることはなく、大きく環境を傷つけない方策が生まれた」

高い規制基準を満たすことが、どの企業にとっても簡単なわけではない。だが消費者向け製品のエネルギー基準は、誰にでも「平等」な市場を生んでいる。【7月9日号 Newsweek日本版】
**************

日本も、そろそろ原発稼働停止を言い訳にしない対策が求められます。

究極の温暖化シナリオ
なお、20億年後には太陽活動の変化により、地球上の生物はわずかな微生物以外はすべて死滅してしまう・・・という、究極の温暖化予測もありますが、まあ、これはいかんともしがたいといころです。

20億年後の話など全くピンとこないというのが実感です。
もし、数億年後も知的生物が地球上に残っていれば、地球外惑星への避難などを考えるのでしょう。

****20億年後「地球を継ぐ」のは微生物****
今から20億年後の地球は、ますます燃え盛る太陽に焼かれ、山や洞窟の中に点々と残った水たまりに閉じ込められた微生物だけが最後に生き残る──天文学者らの国際会議で1日に発表された未来の地球の暗いシナリオだ。

発表は、英セント・アンドリューズ大学で開かれている英王立天文学会(RAS)主催の天文学会議で、同大の宇宙生物学者ジャック・オマリージェームス氏が行った。
次の10億年の間に太陽が年を取って今よりも明るくなり、地球の温度調整システムが崩壊に至る可能性をコンピューターモデルによって示した。

水分の蒸発速度の上昇と、雨水との化学反応によって、植物が光合成を頼っている大気中の二酸化炭素(CO2)量が激減し、植物に依存している動物もまた打撃を受ける。
そして20億年のうちには海が完全に干上がり、最後に残って地球を「引き継ぐ」のは、太陽からの強力な紫外線放射と灼熱に耐えることができる極限環境生物(極限条件下で存在する微生物)だという。

RASの報道資料の中で同氏は「遠い未来の地球は、この時点までに生命にまったく適さない環境となっているだろう。全ての生物には液体水が必要で、従って生き残った生物(の生息場所)は、おそらくより温度の低い高地や洞窟、地下などに残る水たまりに限られる」と述べている。
しかし同氏のモデルによると、28億年後にはそうした「最後の砦」も消滅する運命にある。【7月2日 AFP】
********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シリア  反体制派内のイスラム原理主義的傾向への懸念

2013-07-03 23:33:30 | 中東情勢

(6月29日 アレッポ ロケット弾攻撃で破損した建物の破片が散らばるモスクに隣接する居住区 “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/9183207271/in/photolist-eZukzR-eAD726-eADcqc-eADa46-eAGmUQ-eAGjBE-eADgvp-eAGgsA-eADaDi-eADffB-eADe6i-eADbRH-eADcZB-eAD8GX-eAGo1f-eAGhES-eAGpf1-eAD7wa-f24yGf-f1PmgR-f24z7G-f24AaQ-f24FtN-f1PjQn-f24z4y-f1PkdD-f1Pm9n-f1PkhR-f1Pkyc-f24znu-f24zSW-f24A2y-f24yZw-f1PrmD-f1PjW4-f1Pmmg-f24Fpb-f1PkQe-f24ziW-f24zXf-f1Pkuv-f1PiFr-f1PrG2-f1Pj4H-f1PrxB-f24yss-f1PiS2-f24FBY-eSw8T7-eSjP48-eShv7e

死者は10万人超 未確認の犠牲者も含めれば2倍に上る可能性
シリアの2年以上に及ぶ内戦で犠牲者の数は10万人を超えていますが、いまだ出口が見えない泥沼の戦いが続いています。

****シリア:死者10万人超 和平会議めど立たず****
在英のシリア反体制派組織「シリア人権観測所」は26日、アサド政権と反体制派の武力衝突が始まった2011年3月以降の死者が10万人を超えたと発表した。

観測所によると、死者は1日100人以上のペースで増加。未確認の犠牲者も含めれば死者数は2倍に上る可能性があると指摘している。米露などが和平国際会議の開催を目指すが、25日の準備会合でも開催時期や参加者で一致できず、事態打開のめどは全く立っていない。

観測所によると、写真や映像などで確認された死者数は10万191人に上る。市民の犠牲者は5万200人で、うち5144人は子供、3330人は18歳以上の女性だという。反体制派の戦闘員の死者は1万8072人に上っている。

一方、政府軍は2万5407人、政権側の民兵組織は1万7311人の死亡が確認された。4月以降に政権側に加勢しているレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの戦闘員も169人が死亡したという。

国連は11年3月以降の死者数を少なくとも9万3000人と推計している。内戦による難民は160万人を超え、国内避難民も400万人以上だ。

内戦の政治解決を目指し、和平国際会議の開催が模索されている。だが、スイス・ジュネーブで25日、米国、ロシア、国連の高官が行った協議では、時期や出席者で合意できなかった。ジュネーブからの情報によると、ロシア高官は協議後「イランの参加で意見の相違がある」と述べた。

シリアのアサド政権は出席の意向だが、反体制派は参加者の調整がついていない。反体制派は7月4、5日に会合を開く予定。
ブラヒミ国連・アラブ連盟合同特別代表は協議前、和平会議は8月以降に延期される公算が大きいとの見方を示した。国連声明によると、ケリー米国務長官とラブロフ露外相が来週、和平会議開催について協議する。【6月25日 毎日】
*******************

戦況については、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラの本格参戦もあって、アサド政権側がホムス近郊の戦略的要衝とされるクサイルを奪還し、反体制派が掌握している北部大都市アレッポに迫りつつある・・・と、アサド政権側の攻勢が伝えらえています。

オバマ政権:長いためらいのすえに、反体制派への武器支援を表明
反体制派が劣勢にまわっているのは、武器など装備面における不足があるとして、かねてより反体制派からは欧米に対して武器支援の要請が強く出されています。

アメリカなどの欧米諸国は、提供した武器が反体制派内で大きな存在感を示しているイスラム過激派の手に渡ることことへの懸念などから、武器支援には慎重な姿勢を続けてきましたが、アメリカ・オバマ政権は先月、「レッドライン」としてきたアサド政権側の化学兵器使用を理由として、ようやく武器支援を行うことを決定しましたが、その詳細は明らかではありません。

*****米、シリア反体制派への軍事支援決定 政権側の化学兵器使用断定****
オバマ米政権は13日、シリアのアサド政権が反体制派や一般市民に対し、化学兵器のサリンなどを使用したと断定した。ローズ大統領副補佐官が記者団との電話会見で明らかにした。化学兵器は少なくとも4回使用され、死者は最大150人に達する。オバマ大統領はアサド政権が「レッドライン(越えてはならない一線)」を踏み越えたとして、反体制派への軍事支援を決定した。

オバマ大統領は、英・北アイルランドで17~18日に開催される主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)や国連の場で、軍事面を含む追加支援のあり方を関係国と協議する。
ただ、アサド政権の後ろ盾となるロシアが反発するのは確実。シリア軍が攻勢を強めることも予想され、シリア情勢の先行きには不透明感が広がっている。

ローズ副補佐官は情報当局の分析として、アサド政権が3~5月にかけ、首都ダマスカスや中部ホムス、北部アレッポの近郊で、サリンとみられる化学兵器を使用したと述べた。

軍事支援の具体的な内容は明らかにしなかったが、一部の反体制派に対する自動小銃などの武器供与、軍事訓練を念頭に置いているもようだ。米国はこれまで、反体制派への支援を殺傷力のない軍用品に限定していた。

シリアでは隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラがアサド政権に加勢し、イランも水面下で支援しており、反体制派は米国などに早期の武器供与を求めていた。

ただ、ローズ副補佐官は地上部隊の投入を否定。飛行禁止区域の設定にも慎重な見方を示し、国際社会と連携しながら「国益に矛盾しない追加措置」を検討すると述べるにとどめた。(後略)【6月14日 産経】
*******************

アメリカ国内の国務省・国防省、有力議員には以前からシリア介入を求める声が強く存在していましたが、ホワイトハウスというか、オバマ大統領は時に“優柔不断”の批判を受けながらも、武器支援・介入をためらってきました。

11年末にイラクからようやく片足を抜き、14年末にはアフガニスタンからもう一方の足を抜けるか・・・というこの時期に、アサド政権を支援するイラン、ロシア、ヒズボラ、反体制派を支援する周辺アラブ諸国、イスラム過激派が入り乱れ、イスラエル、トルコ、エジプトなども関係しているシリアの泥沼にあえて飛び込む必要はないというのは当然の判断でしょう。

厭戦気分の強いアメリカ世論もシリア介入を求めてはいません。
財政再建が急務のなかで、国防費を減らすことが求められており、増やすような介入はもってのほかです。

アメリカにとっての中東地域の重要性にも変化の兆しがあります。国内のシェールガス革命が進めば、中東の石油に頼る必要もなくなりますので、戦略的に中東に固執する必要もなくなります。

にもかかわらず、武器支援決定に至ったのは、前述のようなアサド政権側の攻勢がみられなかで、このまま無作為を続けることは、中東、ひいては世界におけるアメリカの存在感を著しく貶めることになるとの判断でしょう。

倫理的な介入】
そもそも、アメリカなど欧米諸国が反体制派を支援するのは、この内戦がアサド政権の弾圧・圧政に対する民主化を求める戦いであるという認識があります。

しかし、反体制派側にも多くの残虐行為がみられることは、以前から指摘されているところです。
ロシア・プーチン大統領は、「人間の内臓を食べるような兵士に武器を供与してはならない」と、反体制側を善とするシリア内戦に関する欧米的価値観を批判しています。

****シリア反体制派は「被抑圧者」か「人肉を食う連中」か****
泥沼の内戦が続くシリア情勢が、欧米の軍事支援によって事態が動くかもしれない。米国のオバマ大統領は、アサド政権が化学兵器を使ったとして、反体制派への軍事支援を表明し、欧州連合(EU)も武器輸出禁止措置を解除した。

6月中旬に英・北アイルランドで行われた主要8カ国首脳会議(サミット)でも、シリア情勢は中心議題となった。欧米を突き動かすのは、人権意識の高まりからつくられた「倫理的な介入」という新たな論理だ。だが、それは本当に正しい“ものさし”なのだろか

■人肉を食す兵士に武器を与えていいのか
「中東に戦争の火の手が上がるのを米国が黙って見過ごしていたなんて、記憶されたくはない。彼は『力には責任が伴う』といつも言っていたはずだ」
米国務省の元政策担当幹部はニューヨーク・タイムズ紙に、シリア情勢から距離を置くオバマ氏へのいらだちを語った。積極的な介入を促すこんな声が、決定を後押ししたことは間違いない。

ライス国連大使の後任、女性のサマンサ・パワー氏も積極介入論者だ。ピュリツァー賞受賞ジャーナリストで元ハーバード大教授という異色の経歴。受賞作「集団人間破壊の時代」は、何の罪もない少女がボスニアで虐殺されるショッキングなエピソードではじまる。そしてカンボジアやルワンダなど世界各地で起こった大虐殺について米国の不作為をあぶりだし、「私たちは集団人間破壊の傍観者であり続けてきたのだ」と批判している。

著しい人権侵害には実力を行使してでも介入し、場合によっては政府転覆も辞さない。そんな考えが、欧米で広まっている。

だが、果たしてそれは正しい基準なのだろうか。
倫理につきまとう正邪の判別は簡単ではない。ボスニアやコソボ紛争で注目を集めた「民族浄化」のレッテルも、一方を白、他方を黒と思い込ませる米国のPR会社の巧みな宣伝戦略という側面があった。

サミットを前にした英露首脳会談では、こんなやりとりがあった。
「流血の責任はアサド大統領にある」とするキャメロン英首相にプーチン大統領は「責任は双方にある」と反発。プーチン氏は、インターネットに流出した映像を暗に示し、反体制派を白と色付けする欧米を批判して、こう言った。「人間の内臓を食べるような兵士に武器を供与してはならない」(後略)【6月30日 産経】
******************

こうした人権意識に根差した「倫理的な介入」に対しては、現実主義的な立場からの批判もあります。

***************
・・・・しかし、倫理を振りかざしての介入には西欧でも大きな抵抗勢力がある。それは現実主義で冷戦を乗り切ってきた、キッシンジャー元米国務長官のような人たちだ。キッシンジャー氏は90歳になるいまもさまざまな場で意見を表明し続け、シリア内戦についてはこう突き放す。
「独裁に対する戦いとして始まったかもしれないが宗派争いに変容した」

ソ連と対立しながらも勢力均衡による安定を保ち、電撃的な米中和解を実現させたキッシンジャー氏は、混乱を助長する介入を強く戒める姿勢だ。同氏は、外交に勧善懲悪を持ち込めば、「(血みどろの宗教戦争など)歴史を冷笑する者たち」(同氏)によって破滅への道をたどることになると指摘している。(後略)【同上】
****************

キッシンジャー元米国務長官が指摘する「独裁に対する戦いとして始まったかもしれないが宗派争いに変容した」
という見方は、多くが認めるところです。
シーア派のひとつとされるアラウィ派のアサド政権をシーア派のイラン・ヒズボラが支援し、スンニ派主体の反体制派をやはりスンニ派が多いサウジアラビアやカタール、トルコが軍事、財政面で支え、アルカイダ系のスンニ派イスラム過激派が戦闘で大きな力を発揮するという状況になっています。

しかし個人的には、キッシンジャー元米国務長官のように外交に勧善懲悪を持ち込むことを冷徹に否定することも出ません。価値観を欠いたパワーゲームは、多くの弱者・被抑圧者を犠牲にします。

もうひとつの価値観:宗教的不寛容・原理主義による人権侵害の問題
「弾圧・圧政に対する抵抗」というシリア内戦の見方は現在ではかなり疑問ですが、もうひとつ別の価値観による問題があります。
宗教的不寛容・原理主義による人権侵害の問題です。

今朝の欧米系TV局のニュースは、反体制派が掌握するアレッポで起きた事件を取り上げていました。
コーヒー店で働く少年が、代金を支払わない客に「予言者でも、ただは無理」と言ったことが「イスラムを冒涜した」とがめられ、衆人が見守る中で暴行を受け、母親の目の前で射殺されたというもので、犯人は何の処罰も受けていないとのことでした。

この話はひと月近く前のもので、下記ロイターが伝えるところでは、少年の発言は「預言者のムハンマドが天から降りてきたとしても、僕は(イスラム教を)信じない」とされています。

****過激派がシリアの15歳少年を射殺、「預言者冒涜で制裁****
英国を拠点とするシリア人権監視団によると、国際武装組織アルカイダ系のイスラム過激派は9日、預言者を冒涜(ぼうとく)したとしてシリア北部のアレッポで15歳の少年を射殺した。

この少年は顔や首に銃撃を受け、監視団が提供する写真では、少年の口やあごが銃弾で損壊している様子が確認できる。

監視団によると、路上でコーヒーを販売する仕事をしていた少年は、誰かと口論になった際に「預言者のムハンマドが天から降りてきたとしても、僕は(イスラム教を)信じない」と語ったという。

イラクやシリアで活動するイスラム過激派は8日、少年を捕え、翌日になって少年の両親を含む大勢の目の前で少年を射殺した。過激派のメンバーは「預言者を冒涜するものは皆このような制裁を受ける」と言葉を残し、立ち去った。

監視団のラミ・アブドル・ラーマン代表は、少年の母親が命乞いをしたにもかかわらず殺害されたとし、「こうした犯罪を見逃すわけにはいかない」とコメントした。【6月10日 ロイター】
*******************

事件の発端となった口論の内容については定かではありませんが、犯人については、言葉訛からシリア人ではなく、イラクからのアルカイダ系グループ Al-Nosraとの指摘もあるようです。
現場は相当に人が多い場所だったようですが、誰も彼らの犯行をとがめることはなかったとのことです。

朝のTVニュースでは、この事件と合わせて、アレッポ市内で行われているシャリア(イスラム法)に基づく裁判、公開ムチ打ち刑の様子なども伝えていました。

アメリカがイスラム原理主義国家として敵視するイランでも、今回のような少年を射殺する行為は行われていないでしょう。
アメリカが潰したアフガニスタン・タリバンの支配を連想させるものがあります。

もしアサド政権が崩壊して、こうしたスンニ派過激派勢力が支配権を握れば、アラウィ派住民にたいする大規模報復行為も懸念されます。

こうした宗教的不寛容を是としない価値観からすれば、シリア反体制派支援には大きな疑問があります。
「アサドの方がましなのでは・・・」という思いもしてきます。

アサド政権崩壊に固執しない、ひとつの道筋
****米軍は中東の平和に役立っていない****
事実上警察官の役割を果たせなくなった米国に対して、アサド大統領の退陣にポイントを絞った外交に全力を挙げよと提案しているのは、ベイルートにあるイラク戦略研究所の准研究員で、06年に米国務省の近東問題局に勤務した経験を持つラマジー・マルディニ氏だ。

同氏は6月16日付ニューヨクタイムズに「大統領閣下、違います」と題する一文を書き、
①オバマ政権はシリア政権が正統性を失ったと述べてきたが、アサド大統領は都会に住むスンニ派を含む多くのシリア人から強力な支持を得ている、
②介入論者は長期的な視点を欠いており、政治的、文化的理解がない、
③いまの「シリア革命」なるものは、民主革命でも宗教革命でもない、
④9万人を超える死者は内戦の結果生じたのであって虐殺ではない、
⑤人権侵害は政府側にも反政府側にも存在する、
⑥反政府側はシリア人過半数の明確な支持と信頼を得ていない、
⑦民族浄化(エスニック・クレンジング)はアサド政権下よりも反政府勢力の支配下で起きやすい、
⑧化学兵器がテロリストの手に渡る可能性はアサド政権が弱体化すればするほど大きくなる、
⑨反政府勢力の勝利は現状維持の場合よりもイラクとレバノンを不安定にし、イスラエルに対する脅威は増大する―の諸点を挙げた。これらを無視してオバマ政権が反政府勢力に加担すれば、シリアを舞台にロシア・イランとの代理戦争に入り、中東地域全体が大動乱に入るというのである。

結論はシリアの政治機構はそのままとし、14年5月に任期が到来するのを待ってアサド政権を次の政権に移行させよとの提案だ。
米露間に合意ができれば、シーア派とスンニ派の、最終的には政府側と反政府側の代表を参加させた合意が求められると提唱している。

マルディニ提案をホワイトハウスがどのように受け取るかはおいて、中東の国際秩序を米国を中心とした欧州諸国が軍事力を背景に維持してきた時代は去ってしまったのではないか。(後略)【選択 7月号】*******************

これ以上の犠牲者を出さず、内戦終結後の報復を抑えられるなら、その主役は反体制派でなくてもいいのではないか・・・と思います。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

メキシコ「麻薬戦争」への市民の取り組み  武装自警団を組織 ソーシャルメディアで情報発信

2013-07-02 22:16:04 | ラテンアメリカ

(神戸港では、メキシコから覚醒剤193キロ(末端価格約135億円)を、小分けにしたポリ袋をラップで包み石材の内部に隠して鉄鉱石輸入に偽装して密輸しようとした事件が摘発されています。【6月25日 毎日より】http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130625-00000041-mai-soci

ペニャニエト大統領「(麻薬組織に対し)手加減をせず、取引もしない」】
メキシコでは1年前の12年7月1日に大統領選挙が行われ、制度的革命党(PRI)のペニャニエト前メキシコ州知事(45)が当選しました。(大統領就任は、12年12月1日)

カルデロン前大統領はアメリカの協力の下で軍を動員した麻薬組織との戦い、いわゆる「麻薬戦争」を行ってきましたが、06年以降、組織間の抗争などに巻き込まれるなどで7万人以上が死亡したとされ、治安の安定が大統領選挙の争点となりました。

麻薬組織との全面対決は、組織を追い詰める一方で、生き残りをかけた組織間の抗争を激化させ、結果的に犠牲者を増加させているとの指摘があります。
また、既存の組織を潰しても新しい組織ができるだけで、事態は改善しないとも言われています。

ペニャニエト新大統領は、軍投入による強硬路線をとってきたカルデロン前大統領に対し、警察強化を掲げて治安改善を訴えました。
軍でも抑えきれないものが、警察力強化でどうなるのか?・・・という感もありますが、麻薬組織との力による対決はやめよう、そうすれば麻薬組織がらみの犠牲者も減るだろう・・・ということのようです。

ただ、それは結果的に麻薬組織を野放しにするということではないか・・・という疑念もあります。
その疑念の背景には、過去に制度的革命党(PRI)が行ってきた“実績”があります。

“PRIは00年に政権を奪還されるまでの71年間、「『平和』と引き換えに麻薬組織と各種の取引をした歴史」(米紙ロサンゼルス・タイムズ)を持つ。過去のしがらみを絶ち、具体的な成果を挙げられるかを懸念する声は強い”【12年7月3日 産経】
また、PRIは汚職・腐敗のイメージも強い政党でした。

ペニャニエト新大統領は、選挙の勝利宣言で「(麻薬組織に対し)手加減をせず、取引もしない。新たな戦略で犯罪対策を続ける」と、治安回復に全力を挙げる旨を語ってはいますが・・・。

カルデロン前大統領と協力してきたアメリカも、同じ疑念・不安を感じています。

****米大統領:メキシコで首脳会談 麻薬対策への協力継続へ****
オバマ米大統領は2日、メキシコを訪問してペニャニエト大統領と会談し、麻薬組織犯罪対策への協力継続を約束した。また、両首脳は急成長するアジアに対抗できる競争力をつけるため、閣僚級経済会議の定期開催に合意。治安対策をめぐってきしみ始めた関係を早期に修復し、経済の拡大を目指す。

会談後の共同記者会見で、オバマ大統領は「治安対策を選ぶのはメキシコだ。どちらにしても米国は協力する」と発言した。メキシコ政府への資金供与も継続する方針だ。

メキシコのカルデロン前政権は2006年末、米国の援助を受けて、巨大化した麻薬犯罪組織に対する掃討作戦を開始したが、組織抗争が激化し、現在までに推計7万〜11万人が殺害される「麻薬戦争」状況に陥った。

昨年12月に発足したペニャニエト政権は、武力中心の麻薬犯罪組織掃討から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移し、メキシコ警察・軍と米国捜査機関との情報交換の窓口も中央政府に一本化した。このため米国側で懸念が高まっていた。【5月4日 毎日】
*****************

アメリカはメキシコ国内の犠牲者がいくら増えようが、麻薬組織が弱体化してアメリカへの麻薬流入が減りさえすればいい訳ですから、実際に膨大な犠牲者を出し続けているメキシコ国民とはまた異なる立場にあります。

未成年者が毎月20人殺害
12年5月6日ブログ「メキシコ さすがの「麻薬戦争」もピークを越した? ブラジルにとって代わるメキシコ経済?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120506)では、“メキシコの「麻薬戦争」に関して言えば、かつての目もくらむような暴力急増のペースが鈍り、地域によっては減少している。その理由は定かでないが、連邦治安維持費が74%も増加すれば、どんな国でもいずれは効果を生むだろう。”【12年4月16日 JB PRESS】といった記事も紹介しましたが、実際のところどうなのか・・・よくわかりません。

あまり派手な事件の報道は、最近はあまり目にしないようにも思いますが、下記サイトによれば、1月から3月までの3か月間に麻薬戦争に絡み殺害された「未成年者」は、1ヶ月平均で13年が20人とこれまでからそう大きくは減っていないようです。
未成年者が毎月20人殺害されるというのは、日本的感覚からは想像を絶するものがあります。

****メキシコ麻薬戦争で1750人以上の子供が殺されている****
NGO組織メキシコ児童の人権のためのネットワーク(REDIM)は、2007年以降麻薬戦争に絡み1750人以上の未成年者が殺害されていると発表しています。

REDIMによればチワワ州が若者と児童にとって最も危険な州であり、子供たちが犯罪組織によって性的搾取の対象となっています。チワワ州の次に危険なのはヌエボ レオン州・ゲレロ州・シナロア州・タマウリパス州となっています。また最も危険な年代は15歳から17歳です。

REDIMの代表フアン マルティン ペレス ガルシアは、「未成年者に対する性的搾取は増加しており、少女の失踪が増加しています。また麻薬カルテルは 児童を殺し屋として使用する事もあります。現在メキシコには子供たちへの暴力を予防し、暴力を受けた子供たちのケアをする公的組織は1つもありません。」と 述べています。

今年最初の3ヶ月間で殺害された未成年者は1月19人、2月17人、3月24人の60人です。一ヶ月平均で未成年者が殺害された数は2010年15人、2011年20人、2012年24人、2013年のこれまでで20人となっています。【5月4日 音の谷ラテンアメリカニュース】http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/7858763.html
****************

市長さえゆすりとられている町で自警団組織
警察・軍もあてにできないということか、住民が武装自警団を組織して自己防衛を行っている町もあるようです。

****麻薬カルテルとの闘いに武器を取って立ち上がる住民たち、メキシコ****
メキシコ西部ミチョアカン州にある人口1万人のコアルコマン。
麻薬カルテル「テンプル騎士団」から町を守ろうと、防弾チョッキを身につけライフルを背負った農民たちが、「自衛」の文字が派手に書かれた軽トラックに乗っている。

コアルコマンは麻薬カルテルの温床として知られているティエラ・カリエンテ(熱い土地)と呼ばれる地域にある。メキシコ政府は今週、数千人の兵士をコアルコマンなどに配備したが、自警団員たちは再び安全を取り戻すまで武器を手放すつもりはない。

先週コアルコマンの中央広場で、約200人からなる自警団を支持する住民集会が開かれた。この数か月、ミチョアカン州の複数の町でギャングによるゆすり行為や暴力を撃退するため住民が武器を手に立ち上がったが、コアルコマンはその最新の例だ。

「クオータ(割り当て)を払うのは、もううんざり」と32歳の薬局店員アドリアーナさん。「支払わないと誘拐されて『バーン、バーン』って殺されるのよ」。
「クオータ」とはテンプル騎士団が毎週あるいは毎月、事業主、農民、タクシー運転手などからゆすりとる金のこと。
市長さえクオータをゆすりとられている。

フェリペ・カルデロン前大統領は2006年、麻薬カルテル撲滅のため兵士と海兵隊員を全土に配備したが、ミチョアカン州はその最初の州だった。
しかしカルデロン前大統領が退任した昨年12月までにメキシコでは麻薬組織による暴力で7万人が死亡し、ミチョアカン州では新しい強力な麻薬組織テンプル騎士団が出現した。

エンリケ・ペニャニエト大統領は今週、ミチョアカン州に1000人の連邦警察官とともに4000人の兵士と海兵隊員を配備し、同州が平穏になるまでとどまらせると宣言した。【5月23日 AFP】
******************

死と隣り合わせの市民活動
警察もあてにできませんが、既存メディアは完全に組織の暴力を恐れて完全に沈黙しています。
そうした状況に、市民がソーシャルメディアを使って麻薬抗争絡みの情報を発信しているとのことですが、当然ながら、命がけの活動になります。

****麻薬抗争、ソーシャルメディアで「報道」する市民たち メキシコ****
麻薬密売組織による抗争が絶えないメキシコで、報復を恐れて事件の報道に消極的な地元紙に代わり、市民たちがツイッターやブログなどで抗争絡みの銃撃戦や殺人に関する情報発信を始めている。

メキシコの既存メディアは大抵、麻薬組織におびえている。そうした中、市民たちが自らの町や都市に潜む危険を常に認識しておく手段をソーシャルメディアがもたらした。

激しい麻薬抗争が続く北部モンテレイのある市民は、「奴らは手あたり次第殺しまくっている!ラザロ・カルデナス地区で銃撃戦が発生。そこには近づくな!」とツイッターで警告を発信した。

マイクロソフトの分析チームは、抗争が最も激しいモンテレイ、レイノサ、サルティーヨ、ベラクルスの4都市について、2010年8月~11年11月まで1年4か月間、市民のツイッター上でのやりとりを調べ、報告書「The New War Correspondents:The rise of civic media curation in urban warfare(新しい戦争特派員たち:都市抗争における市民メディア情報発信の台頭)」として発表した。
これによると、ツイッター上には「爆弾が爆発」「銃撃」「武装集団」などの言葉が多く飛び交っていた。

インターネットへのアクセス手段を持つ人々は、メキシコ全人口の30%程度で、日常的なツイッターの利用者となると20%ほどしかいない。だが、調査対象とした4都市では、シアトルなど米国の大都市より「2倍も多いリツイート(他ユーザーが発信した情報の引用)があった」と分析チームを率いるメキシコ人研究者アンドレス・モンロイ・エルナンデス氏はAFPの取材に語った。

調査によると、ツイッターでのやりとりが最も多かったのは、モンテレイで麻薬密売組織セタス(Zetas)がカジノに放火し、52人が死亡する事件が起きた2011年8月25日だった。この日、ツイッターでは犠牲者の氏名や写真が7000回も共有された。

分析チームは、麻薬抗争の最新情報を得るためにフォローが欠かせない重要アカウントとみなされている6つのツイッター・アカウントを突き止めた。

■「ブロガー記者」たちの身に迫る危険
匿名の方がずっと安全なため、ソーシャルメディアでの情報収集・発信者たちは実名を使っていない。そうして彼らは毎日、長いときには15時間も、残酷極まりない麻薬絡みの暴力事件の情報を集め発信している。

こうした発信者たちにインタビューを行ってきたエルナンデス氏によると、多くは一般市民で、利他の精神からツイッターでの報告活動を続けているという。彼らは地元を良く知る人々だが、努めて名が知れないよう心掛けていると、エルナンデス氏は言う。

メキシコの麻薬抗争では2006年以降これまでに7万人以上が犠牲となっており、ジャーナリストにとってもメキシコは最も危険な国の1つに数えられている。メキシコ人権委員会によると2000年以降、同国で殺害されたジャーナリストは86人に上り、18人の行方が分からないままだ。

市民によるソーシャルメディアを使った麻薬抗争情報の発信は、「情報提供者としての報道機関の役割に対する妨害、そうした状況下で高まる情報の必要性、ジャーナリストに対してあってしかるべき保護の欠如、そして麻薬密売組織の危険性」などの結果として生まれたと、モンテレイ工科大学のオクタビオ・イスラス氏は語る。 

表に出ないよう努力しているにもかかわらず、中には麻薬組織を激高させてしまったブロガーも出ている。情報活動を管轄する政府当局者によると、麻薬組織は電話の盗聴など、情報発信サイト管理者の身元を突き止める様々な手段を持っている。

2011年9月には米国と国境を接する北部ヌエボラレドで、2児の母親だった39歳の女性が切断遺体となって発見された。遺体の脇にはキーボードが置かれ、ネット上で麻薬組織について報告したことが殺害の理由だと記したメモが残されていた。

ヌエボラレドではその数日前にも、男性と女性の遺体が橋から吊るされた状態で見つかっていた。日常的に発生する暴力事件に関する記事や頭部を切断された遺体の写真、動画などを掲載している「麻薬ブログ」の管理者ルーシーさん(仮名)によると、2人は同サイトに定期的に情報を送っていた「ブロガー記者」だった。

ルーシーさん自身、その後、サイトのセキュリティーを担当していたパートナーの男性が行方不明になったことから、安全のために今はスペインに逃れている。【6月29日 AFP】
*******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ギリシャ  危機的状況は遠のいたものの、依然深刻な経済状態 弱体化する連立政権

2013-07-01 22:20:56 | 欧州情勢

(ERT閉鎖に抗議して集まった市民 警官隊と衝突・・・といった雰囲気ではないようです カメラ・アングルにもよりますが。“flickr”より By linmtheu http://www.flickr.com/photos/26040773@N07/9041833376/in/photolist-eLZL3U-eLNgKF-eLZD1Y-eLN1jB-eLNpn4-eLNkqp-eLN8Mp-eLN4P2-eLMZkg-eLZqZY-eLMYhg-eLN2og-eLNi3v-eLNqBP-eLZQ1S-eLZRcy-eLZVBL-eLMW8t-eLZkxo-eLZLYs-eLZK6o-eLZToS-eLZUs3-eLNjdP-eLZSqw-dJ2g7w)

若者3人に2人が失業 「飢え」で授業中に気を失う子ども
ギリシャでは、深刻な経済低迷が続いています。

****3月ギリシャ失業率は26.8%に上昇、06年公表開始以降で最悪***
ギリシャ統計当局(ELSTAT)が6日発表した3月の失業率は26.8%で、2月の26.7%(改定値)から上昇した。
ELSTATがデータを公表し始めた2006年以降で最悪となった。4月のユーロ圏失業率12.2%の2倍以上の高水準となっている。【6月6日 ロイター】
*****************

特に若者の失業率が高く、若者の3人に2人が失業している状況です。
“悪化の一途をたどる失業率は、欧州の「ロスト・ジェネレーション(失われた世代)」である25歳以下の若者にとって、不況脱出の見込みがほとんどないことを示している”【6月1日 AFP】
このような経済状態では社会の安定などは望むべくもありません。

ギリシャ支援を行っているIMFも、ギリシャの経済立て直しが思うように進んでいないことを認めています。

****ギリシャ支援「楽観的過ぎた」=IMF、当初計画の誤り認める****
国際通貨基金(IMF)は5日、財政危機に陥ったギリシャに対し、2010年5月~12年3月に実施した第1次支援策についての検証報告を発表、「経済見通しが楽観的過ぎたと批判されても仕方がない」として対応の誤りを認めた。

IMFは同国経済が予想以上に悪化したことから、欧州連合(EU)などとともに12年3月、より長期の融資に切り替えるなどした第2次支援策をスタートさせている。【6月6日 時事】 
****************

失業ということは収入がない訳ですから、どうやって生活するのだろうか?と不思議に感じます。
当然ながら“食べていけない”人々も多数出てきているようです。

****授業中、気失う子続々…緊縮財政で「飢え」深刻****
緊縮財政下のギリシャで「飢え」が問題になっている。
授業中に空腹で倒れる学童が出る事態に、民間ボランティアが救済に乗り出した。

アテネ郊外の住宅街にある民間活動団体(NGO)「アルトス・ドラッシ」は、賞味期限が迫った食材などを地元の協力で集め、毎日約120人分の料理や食品を無料で配っている。昼近くになると、大きな手提げ袋を持った人が次々と訪れる。

「毎週、新しい人が来るの。1年前と比べたら2・5倍に増えたわ」と、ボランティアのカリオピさん(66)が話す。17年前、クルド難民を支援するために始まった活動は、今や訪れる人々の大半がギリシャ人になったという。

市内に住むレフテリスさん(51)は週に1度、バスで1時間かけてやって来る。大型船の船員だったが3年前に失業。工事現場の短期労働などで13歳の息子とおばを養う。「職探しがあるから毎日は来られない。息子の学校では親の失業で食事を十分にとれず、授業中に気を失う子どもが増えている」と表情を曇らせた。【6月30日 読売】
***************

空腹で動けない・・・というのはよく見聞きしますが、気を失うというのはあまり聞きません。栄養失調とかのせいでしょうか?
いずれにしても、現代欧州で「飢え」の問題が現実のものになっているようです。

【「予想外に政権運営は順調だ」】
マクロ的に見ると、ひところ懸念された「ユーロ離脱」といったギリシャ経済の壊滅的破局は一応回避された状況で、小康を保っている状況です。改善にまでは至っていませんが。

****ギリシャ危機」遠のく=くすぶる政局混乱の火種―政権発足1年****
ギリシャのサマラス政権が21日、発足1年を迎える。財政危機に陥り、世界が「ユーロ圏離脱」に身構えたが、構造改革への取り組みで金融市場は落ち着きを取り戻した。

だが国営テレビ局閉鎖をめぐる政治混乱は、深刻な不景気から抜け出すための政治安定には依然、課題が残ることを改めて浮き彫りにした。

サマラス首相の支持率は、政権発足前の2012年5月には25%と、野党・急進左派連合(SYRIZA)のツィプラス党首を下回っていた。だが欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)などからの支援取り付けに成功し、政権樹立後はツィプラス党首を逆転して、40%台を維持している。

1年前は信用不安から30%程度まで跳ね上がっていた国債利回りは約10%に低下。反緊縮デモも激減し、アテネの銀行員(57)は「予想外に政権運営は順調だ」と評価する。首相は「ギリシャの欧州、世界での基盤は固まった」と改革進展に胸を張る。

一方で、若者の約6割が失業するなど景気悪化は深刻だ。ある大学教授は「多くの学生がギリシャを離れている」と証言する。一般市民は給与、年金の削減や増税にあえぐ。

長引く不景気は極右勢力の台頭を許している。「景気後退は今年で終わり」(ハジダキス開発・競争相)との期待は国民の中ではほとんど共有されていない。【6月20日 時事】
******************

公共テレビ・ラジオ放送局ERT閉鎖問題で連立政権弱体化
上記記事にある“国営テレビ局閉鎖をめぐる政治混乱”とは、財政再建を至上命題とする政府が、「無駄遣い天国」になっているとして公共テレビ・ラジオ放送局ERTを突然閉鎖して職員を解雇した問題です。

****ギリシャ:公共テレビを閉鎖 政府「無駄遣い天国*****
財政緊縮策を進めるギリシャ政府は11日、「無駄遣い天国」になっているとして公共テレビ・ラジオ放送局ERTを閉鎖した。首都アテネからの報道によると、突然の閉鎖に国民はショックを受けているという。

ERTの女性司会者は11日の番組で「今日は6月11日。つらい日です」と切り出し、「最後となるニュース番組をプロ意識をもってお届けします」と視聴者に語った。放映は深夜で終わり、画面は黒くなった。

政府報道官によると、ERTは年間3億ユーロ(約385億円)かかる「無駄遣いの典型」。報道官は公共テレビで「国民が犠牲を耐え忍んでいる時、もはや聖域はない」との声明を発表した。

ERTは1938年に事業を開始した放送局で、現在、テレビ3チャンネル、ラジオ4局を持つ。政府報道官によると、今後、スリム化された独立公共放送局に再編される予定。現在のERT職員約2600人はいったん解雇される。

アテネのERT本社前では11日夜、数千人が「ERTは閉鎖させない」などと書かれた横断幕を掲げて政府の決定に抗議した。アテネのジャーナリスト労組は組合員に48時間ストの実施を指令した。

緊縮策に反対する野党は「国民に対するクーデターだ」と反発。連立与党の間からも「事前に相談がなかった」として政府への不満が噴き出している。【6月13日 毎日】
*******************

この問題は結局、二大労組が24時間ストを呼びかけたものの、大きな混乱にはなりませんでした。
それなりに社会が落ち着いてきたということでしょうか?
“縁故採用などがはびこっていたERTに対する市民の共感は乏しい”という側面が指摘されていますが、国民の多くが自分の生活で手いっぱいで、もはや怒る元気もない・・・といった面もあるのではないでしょうか。

****ギリシャ抗議スト、低調=参加者は限定的、乏しい市民の共感****
財政難のギリシャで13日、政府が国営放送局の一時閉鎖を決定したことに抗議し、二大労組の呼び掛けで24時間ストが行われた。しかし、首都アテネ中心部で国営郵便局が業務を続けるなど、ストは低調だった。

ギリシャ政府は国営放送局ERTの一時閉鎖・従業員約2700人の解雇を決定した。公務員が加入する労組、公務員連合(ADEDY)のスト方針に民間の労働総同盟(GSEE)も同調し、この二大労組がストを呼び掛けた。

アテネ市内では鉄道の一部路線が運休したほか、公立病院、税務署、アテネ国際空港の航空管制なども業務をストップした。地元メディアによると、ERT本部前には約1万人が集まり、政府による突然のERT閉鎖に抗議するデモも実施された。

しかし、大半の省庁やアテネ市役所などのスト参加者は限定的。危機が深刻化していた昨年と比べると、盛り上がりに欠けた。縁故採用などがはびこっていたERTに対する市民の共感は乏しく、多くの業種は通常通りの営業が続けられた。【6月14日 時事】 
******************

この問題は、改組された新組織が出来るまでの間、放送継続を認めるという「国家評議会」の判断がなされています。

****ギリシャ国営放送の再開を命令…国家評議会****
ギリシャ政府が国営放送ERTを緊縮策の一環として閉鎖した問題で、行政訴訟の最上級審「国家評議会」は17日、放送を直ちに再開するよう命じた。

ロイター通信などによると、閉鎖発表の翌12日、ERTの労組が不服を申し立てていた。同評議会は、閉鎖決定を政府の裁量内とした上で、改組された同放送の新組織が出来るまでの間、放送継続を認めた。

ERTを閉鎖したサマラス首相に、連立を組む全ギリシャ社会主義運動(PASOK)、民主左派の両党は放送の即時再開を求め、連立政権内の対立が一時深刻化したが、判決は三者の面目を保った形だ。これに先立つ17日、首相と両党党首が会談し、内閣改造でも合意した。【6月18日 読売】
*****************

“内閣改造でも合意した”とのことですが、連立与党の一角を占めていた左派政党・民主左派がERT閉鎖に抗議して連立を離脱、サマラス政権の基盤は更に弱体化しています。

****ギリシャ:民主左派、連立離脱 緊縮策履行困難に**** 
財政再建下のギリシャでサマラス連立政権の一角を占める左派政党・民主左派が21日、緊縮策の一環として公共テレビ・ラジオ放送局ERTを閉鎖した政府の措置に抗議して連立離脱を決めた。
これにより、1年前に発足したサマラス政権の3党連立の枠組みは崩壊した。与党はかろうじて過半数を維持するが、政権基盤の弱体化により、緊縮策履行が困難になる可能性がある。

ERTは公務員数削減のため11日に閉鎖された。最高行政裁判所である国務院が17日、閉鎖を差し止め、放送再開を促す仮処分命令を出したが、放送は止まったままだ。

ギリシャからの報道によると、サマラス首相率いる中道右派・新民主主義党と全ギリシャ社会主義運動、民主左派の連立3党は19、20の両日、放送再開について交渉したが、決裂した。
サマラス首相は交渉で、解雇されたERT職員約2600人のうち約2000人を再編後の新放送局で再雇用する妥協案を提示し、全ギリシャは受け入れたという。

だが、民主左派のクベリス党首は拒否、21日の党内協議で連立離脱を提案し、所属議員の支持を取り付けた。
ギリシャ国会(300議席)で14議席を持つ民主左派の連立離脱により、新民主と全ギリシャの連立与党勢力は153議席となる。

サマラス首相は20日、「残りの任期3年をまっとうする」と述べ、早期選挙を回避する考えを強調した。
だが、ギリシャ政治の停滞を招いた連立2党に対する国民の反感は強く、反緊縮派野党が勢いを増すのは必至だ。財政危機に陥ったギリシャは欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から金融支援を受ける条件として緊縮策を進めており、サマラス政権は2015年までに公務員約1万5000人を削減する必要に迫られている。【6月21日 毎日】
*****************

なお、これまで閣外協力にとどまっていた中道左派、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首が外相兼副首相として入閣し、与党2党間の関係は強まったようです。

“解雇されたERT職員約2600人のうち約2000人を再編後の新放送局で再雇用する”ということは、実質的に削減されるのは600人になります。
解雇した後の受け皿がない経済状態では、“2015年までに公務員約1万5000人を削減する”というのは極めて困難な課題ですし、強行すれば政権がもたないでしょう。

今回ERT問題への一般市民の共感が少なかったように、日本でも世論に見られる“反公務員感情”に訴えるという方法もありますが、社会の分断を招く険しい道でもあります。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする