孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア  大統領選挙を延期して「ボコ・ハラム」掃討に・・・・とは言うものの

2015-02-18 22:09:22 | アフリカ

(「ボコ・ハラム」活動地域 【1月25日 時事】)

【「6年間(鎮圧)できなかったことを、彼ら(治安当局)は6週間ではできない」】
ナイジェリアでは今月14日に大統領選をはじめとする複数の選挙が予定されていましたが、イスラム過激派「ボコ・ハラム」の攻撃の影響で来月28日に延期されています。

****<ナイジェリア>大統領選を3月に延期 ボコ・ハラム掃討へ****
イスラム過激派ボコ・ハラムの勢力拡大による治安悪化を理由に、西アフリカ・ナイジェリアの選挙管理委員会は7日、今月14日に実施予定の大統領選と議会選を3月28日に延期すると発表した。

これについて、形勢を危ぶむ与党側からの圧力に選管が屈したとの見方が野党側から出ており、今後与野党支持者の対立がさらに強まる可能性がある。

「民主主義の大きな後退だ」。最大野党「全進歩会議(APC)」の最高幹部は選管の延期決定を声明でそう批判した。ケリー米国務長官は延期決定について声明で「深い失望」を表明した。

選管のジェガ委員長は7日の会見で延期決定の背景として、ボコ・ハラム掃討に「少なくとも6週間」必要とする当局の見方を明らかにした。

ボコ・ハラムは2009年以降、テロ攻撃を繰り返しており、ロイター通信によると、APCの大統領候補で、現職ジョナサン大統領との一騎打ちの公算が大きいブハリ元最高軍事評議会議長は「6年間(鎮圧)できなかったことを、彼ら(治安当局)は6週間ではできない」と皮肉った。

ボコ・ハラムは昨年4月、北東部チボクの女子校から約270人の女子を拉致。国際社会に衝撃を与え、ナイジェリア政府による救出やボコ・ハラム鎮圧への期待が高まったが、事態は好転していない。

ボコ・ハラムは同8月には支配地域でのイスラム国家樹立も宣言して制圧地を拡大し、国家の分断化を進めている。さらには隣国カメルーンなどへの攻撃も強めている。

「ジョナサン氏対ブハリ氏」の大統領選の構図は前回(11年)と同様だが、ボコ・ハラムへの対応への批判や政府内の汚職への不満が強まっており、最近では両氏の支持率が拮抗(きっこう)している。

ジョナサン氏は南部出身のキリスト教徒で、ブハリ氏は北部のイスラム教徒。支持者の対立が地域・宗教間対立に発展する懸念も指摘される。前回選の直後には北部を中心にブハリ氏支持者らが暴徒化するなどして、約800人の死者が出た。【2月9日 毎日】
*********************

変更された投票日までに「ボコ・ハラムの全拠点を排除する」(ナイジェリアのサンボ・ダスキ国家安全保障顧問)ですが、現在のところは「ボコ・ハラム」の襲撃・テロは治まる兆しが見えません。むしろ、大統領選挙に圧力をかけるように頻発しています。

****ナイジェリア北東部で自爆相次ぐ、38人死亡****
ナイジェリア北東部で17日、自爆攻撃が2件相次いで発生し、合わせて少なくとも38人が死亡した。同域では前日にも、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム(Boko Haram)」が町を襲撃したばかりで、選挙を約6週間後に控えて暴力行為が頻発している。

最初の攻撃はボルノ州で、同日午後1時(日本時間同9時)ごろ発生。ビウの町から4キロ離れた検問所で、1台のオート三輪に乗った3人が爆発物を起爆させた。

匿名を条件に取材に応じたビウの病院関係者によると、この自爆攻撃で36人が死亡、20人が負傷した。「犠牲者の大半が、いつも検問所に群がって行商や物乞いをしていた子どもたちだった」という。

州都マイドゥグリ(Maiduguri)から180キロ離れた町ビウは、町制圧を狙うボコ・ハラムの襲撃を繰り返し受けてきたが、軍の部隊や地元の自警団がこれを撃退してきた。

2件目の攻撃はその4時間後、ボルノ州と隣接するヨベ州の経済中心地ポティスクムで発生。同国北部で人気のレストランチェーンの1店舗で、男が自爆した。警察と医療関係者の話によると、店長と給仕係の2人が死亡、店員と客合わせて13人が重傷を負ったという。

またボルノ州では前日16日の夜、ボコ・ハラムが昨年4月に女子生徒200人以上を拉致したチボクから南に25キロ離れたアスキラウバを武装集団が襲撃。

地元住民によると、民家や公共施設が焼き討ちに遭い、数百人が避難を強いられたという。近くの町に逃れた住民の一人は、チボクに駐屯していた兵士らがアスキラウバへの出動を拒否したと話している。(後略)【2月18日 AFP】
*********************

南部・キリスト教徒を支持基盤とするジョナサン大統領は、これまで北部・イスラム教徒地域で活動する「ボコ・ハラム」への対策に熱意がなかったとも言われていますが、さすがに国内外の批判が高まるなかで、延期期間中に軍事的に得点を稼いで大統領選挙を乗り切ろうという思惑ではないかとも言われています。

***ボコ・ハラム掃討を保身に使う大統領****
ナイジェリア北東部を拠点にするイスラム過激派ボコ・ハラムに対し、チャド、ニジェールなど周辺諸国が攻勢を強めている。アフリカ連合(AU)は今月上旬、8750人規模の多国籍部隊の派遣を決めた。

しかし当のナイジェリアでは、ジョナサン大統領への不満が噴出。ボコ・ハラムとの対決を怠っている、保身のためにテロとの戦いを利用しているとの声が聞こえてくる。(中略)

だが大統領選で劣勢に立たされているジョナサンが、軍事侵攻で人気を上げようとしていると反ジョナサン派は批判する。

ジョナサンはここ数力月、ボコ・ハラム問題にきちんと取り組んでいないと言われてきたが、彼が及び腰なのは政治的にメリットがないから。

ボコ・ハラムが支配する北東部には天然資源がほとんどなく、住人の大半はイスラム教徒で、大統領選ではブハリ元最高軍事評議会議長を支持するとみられている(ジョナサンはキリスト教徒)。

ブハリは83年の軍事クーデターから85年まで、軍政トップとしてこの国を率いた。ボコ・ハラムに強い態度で臨んでくれそうな人物として期待を集めている。ナイジェリアの選挙では昔から現職が有利だが、今回はブハリが差を縮めており、勝利する可能性も出てきた。

ジョナサン政権はボコ・ハラムヘ攻撃を仕掛けて、権力の座を守ることに懸けているようだ。
しかしこれまでナイジェリア軍がボコ・ハラムに大きな勝利を収めていないことを考えれば、見通しは明るくない。【2月24日号 Newsweek日本版】
*******************

装備・士気で問題があるナイジェリア軍
しかし、「ボコ・ハラム」に立ち向かうべきナイジェリア軍は、装備でも劣り、士気も低いと言われています。
前出【2月18日 AFP】でも、“駐屯していた兵士らがアスキラウバへの出動を拒否した”とのことです。

****ナイジェリア軍の不満***
市民からだけでなく、ボコ・ハラムに直接的に対峙しなければならないナイジェリア軍からも、政府への批判が出ています。

2014年10月9日、ナイジェリア軍の参謀長は「ボコ・ハラムはISILと同じくらい危険だが、みんなシリアに向かっている」と述べました。これは米国主導の有志連合が「イスラム国」/ISILに関心を集中させることへの不満ですが、それは裏返せばナイジェリア軍だけでは手が足りないことを示唆するものです。

大陸最大の産油国であるナイジェリアは、アフリカ全体のGDPの約15パーセントを握る、南アフリカに次ぐ地域大国です。また、1990年代に西アフリカ各国で内戦が相次いだ際、その軍事力をもってそれらの鎮圧に少なからず貢献してきました。ナイジェリアが西アフリカの「長兄」(big brother)を自認することは、故のないことではありません。

しかし、そのナイジェリア軍の参謀長が体面抜きに窮状を吐露し、「外国の支援不足」を公の場で述べることは、外国政府だけでなく、ナイジェリア政府に対する批判をも暗に含むとみられます。

2014年12月、武器の不足を理由にボコ・ハラム掃討作戦への参加を拒絶した兵士54人に、軍事法廷は「反乱罪」により死刑判決を下しました。

各地の駐屯地などを襲撃するなかで、ボコ・ハラムは携帯式ロケット弾など破壊力の高い兵器を手に入れ、武装を強化しています。これに対して、末端兵士からは「武器の不足」への不満が噴出しているのです。【2月7日 六辻彰二氏 フォーサイト「大統領選挙を前に過激化するボコ・ハラム:掃討が困難な背景」】
*******************

欧米は人権問題もあり冷淡 チャドなど周辺国のローカル対応で
ジョナサン大統領はアメリカの支援を求めています。
“ジョナサン大統領は、「米国はISIS(イスラム国の別称)と戦っているのに、なぜナイジェリアには来てくれないのだ」と主張し、「米国はナイジェリアの友人だ。ナイジェリアに問題があれば、米国が来て助けてくれることを期待している」と話した。”【2月15日 AFP】

しかし、米国防総省のジョン・カービー報道官は記者会見で、現在のところ米軍はナイジェリア国内で活動しておらず、ナイジェリアに米軍を派遣する計画もないと述べています。

アメリカのつれない反応の裏には、ナイジェリア軍の人権意識に対する深い懸念があります。

****ナイジェリアと欧米諸国の隙間風****
・・・・米国政府がナイジェリアへの武器輸出を認めない背景には、「ナイジェリア軍にはコブラなどハイテク兵器の維持・管理はおろか使用もできない」という懸念だけでなく、ナイジェリアの人権状況があるとみられます。

ナイジェリア国内では、もともとボコ・ハラムの一件とは別に、政府に批判的な市民に対する弾圧が珍しくありません。

さらに、武器・弾薬が十分でないままボコ・ハラムに対峙することを求められるなか、軍隊の士気と規律の低下も指摘されています。

そのなかで、ナイジェリア軍によって「敵」とみなされた人間に対する扱いが非人道的という批判を受けることも、稀ではありません。

2014年8月、アムネスティ・インターナショナルは、ナイジェリア軍や政府を支持する民兵組織が行っている、ボコ・ハラムやその支持者に対する「裁判を経ない処刑」が、「戦争犯罪」にあたると批判しました。

米国は人権状況に問題がある国の軍隊に武器を提供することを、国内法で禁じています。

対テロ戦争が始まって以来、テロ対策と人権尊重は常に二律背反する課題としてあり、グアンタナモ基地での拷問や、パキスタンなどでの無人機攻撃など、米国も常に人権尊重を優先させているとはいえませんが、少なくとも駐ナイジェリア米国大使は「ナイジェリア政府はハイテク兵器の輸入より、末端の兵員が訴える弾薬不足の解消など、もっと基本的な事柄に力をいれるべきだ」と主張しており、米国の対ナイジェリア武器禁輸の意思は固いものとみられます。【2月7日 六辻彰二氏 フォーサイト「大統領選挙を前に過激化するボコ・ハラム:掃討が困難な背景」】
*****************

アメリカをはじめ欧米諸国が総じて武器提供に消極的な状況のなか、ナイジェリア政府は闇市場から武器を調達しようとしているとも伝えられています。

一方で「ボコ・ハラム」はナイジェリア北部だけでなく、隣接するカメルーンやニジェール、更に2月13日にはチャドにも襲撃を拡大しています。

****ボコ・ハラム、チャド初侵攻 攻撃激化、周辺国は危機感****
ナイジェリア北東部でテロや誘拐を続けるイスラム過激派「ボコ・ハラム」が、周辺国への攻撃を激化させ始めた。13日にはチャドに初侵攻。カメルーンやニジェールにも頻繁に攻撃を繰り返しており、周辺国は危機感を強めている。

AFP通信などによると、ボコ・ハラムは13日、チャド湖を渡ってチャド西部の村などを襲撃。住民ら5人を殺害した後、チャド軍に撃退された。8日にはカメルーン北部で20人乗りのバスを襲撃。ニジェールでは6日以降、国境近くの町が攻撃を受けた。【2月15日 朝日】
*******************

こうした事態に、アフリカ連合(AU)は1月30日、周辺5か国(ナイジェリア、チャド、カメルーン、ニジェール、ベナン)の軍で構成する計7500人の部隊の結成を呼びかけています。

これに先行し、カメルーン政府の支援要請に応じ、軍事的評価が高いチャドが1月中旬から軍の部隊をカメルーンに派遣して「ボコ・ハラム」掃討にあたっています。

チャド軍は2月3日には、ナイジェリア領内でも活動を行っています。
“「チャド軍は合意に基づき、テロリスト対策の全体計画に合わせて動いている」とのナイジェリア国防省報道官のコメントを報じており、チャド軍侵攻についてナイジェリア側は了承済みとみられる。”【2月4日 毎日】

多くを期待できないナイジェリアだけには任せておけない・・・というところでしょう。
カメルーン軍、ニジェール軍も「ボコ・ハラム」の襲撃に応戦しています。

“アフリカ内部の紛争はアフリカ内部で解決する”というのがアフリカ各国の基本方針ですので、チャド軍の行動、AUの呼びかけは、その基本線に沿うものではあります。

問われるべきジョナサン大統領の責任
とは言うものの、3月28日の大統領選挙までに大きな成果を出せるかは不透明です。
何より、「ボコ・ハラム」をここまで大きくしたナイジェリア・ジョナサン大統領の対応については、問われるべきものがあります。

アフリカ大陸最大の1億7,000万以上の人口を抱えるナイジェリアは、南アフリカを凌ぐ経済規模を誇り、石油収入にも恵まれています。

しかし、国民の約80パーセントの人口がいまだに1日2ドル未満の所得水準にあり、北部・イスラム教徒には政府から見捨てられたという思いも強くあります。

そうした政治への不満が「ボコ・ハラム」拡大の温床となっています。
巨額の石油収入は、軍の装備にも回されず、貧困解消にも使われず、いったいどこに消えたのか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  「世界の警察官」として頼られる現実

2015-02-17 21:56:13 | アメリカ

(ニュースサイト「バズフィード」で12日に公開された、オバマ米大統領のちょっとふざけてみたりもする姿を捉えた「みんなやってるけど話題にしないこと」と題された動画 【Buzzfeed】http://www.buzzfeed.com/andrewgauthier/the-president-uses-a-selfie-stick#.gdLAoKARv
激務・周囲の批判の中でも本人はそれほど気にしていないのか、それとも敢えてそのような姿を演出しているのか?)

地上部隊派遣の余地を残した曖昧表現】
これまで「イスラム国」対応でのアメリカ地上部隊派遣を否定してきたアメリカ・オバマ大統領は、2月11日、「長期にわたる派遣は認めない」としながらも、地上部隊派遣に余地を残す考えを議会に示しました。

****地上戦、玉虫色のオバマ氏 長期の派兵否定、投入余地は残す 対「イスラム国」決議案****
オバマ米大統領が、「イスラム国」への軍事力行使の承認を求める決議案を米議会に提出した。

米軍の地上部隊については「長期にわたる派遣は認めない」とのあやふやな表現を使い、派遣の場合も制限を加える姿勢を示した。米議会を握る共和党は米国の関与拡大を求めており、決議案が今後、修正される可能性もある。

「我々が提出した決議案は、イラクやシリアへの地上戦闘部隊派遣を要請するものではない」

11日、議会に決議案を提示した後にホワイトハウスで演説したオバマ氏は、対「イスラム国」戦略に、従来との大きな変化はないと強調した。

「米国は中東での長期の地上戦に引きずり込まれるべきではない」とも語り、「イスラム国」と戦うイラク治安部隊やシリア反体制派を訓練や武器供与によって側面支援し、米軍は関係国と連携して空爆中心の作戦を続ける、との考えも示した。

攻撃期間を「3年」と限定したのも、歯止めを印象づける狙いがあるようだ。

歴代の政権は軍事力行使には必ずしも議会承認は必要ないとの立場をとりつつ、議会のお墨付きを得ることも多かった。オバマ政権はこれまで対「イスラム国」空爆について、ブッシュ政権下の2001年にアルカイダを標的としたアフガニスタン攻撃の議会承認を援用してきた。

だが、昨年11月の中間選挙で野党共和党が上下両院で過半数を獲得。同党は軍事力行使には議会の承認が必要と訴え、これにオバマ氏も応える形で今回の決議案を示すことになった。

オバマ氏は演説で「(決議案には)不測の事態に対応できる柔軟性も備えている」とし、将来の情勢変化に応じられるよう、戦闘任務ができる地上部隊派遣に余地を残す考えを示した。具体的には、「イスラム国」幹部を狙った強襲作戦での特殊部隊投入や、人質救出作戦のための地上部隊派遣を想定している。

地上部隊派遣の可能性を否定しないことで、米軍の関与拡大を求める共和党から歩み寄りを引き出す狙いもあるとみられる。【2月13日 朝日】
********************

しかし、この“曖昧”ともとれる方針に、民主党からは地上戦闘部隊派遣に道を開くのではないかとの懸念が、一方、共和党からは「なぜ自らの権限を制限しようとするのか」(ソーンベリー下院軍事委員長)といった批判が出されています。

「一つの中国」のように、政治にあっては現実的観点から敢えて曖昧にすることも多々ありますが、原理原則を重視する左右両方からは「はっきりしろ!」との批判を浴びます。

第二次大戦後の安全保障は、アメリカの積極関与を前提に構築されている
オバマ大統領については、シリア・アサド政権の化学兵器使用に関する“レッドライン”対応など、外交問題に関して“優柔不断で、一貫した戦略がない”という評価が一般的になっています。

****世界の脅威に策を持たないオバマの危険なミニマリズム****
・・・・オバマは外交問題に関心がない、あるいは無能で優柔不断だという評価はワシントンの内外に根付いている。

スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の台頭から、中国がけし掛ける南シナ海での領有権争い、ウクライナをめぐるロシアと欧米の対立といった複雑な外交問題に、オバマは一貫した姿勢を示していない。

先頃オバマは、シリアでISISに対抗する「戦略はまだない」と発言して批判された。ISISの台頭は、昨日や今日始まったものではない。NBCニューズのリチャード・エンゲル記者は、米軍指導部はこの言葉に激怒したと伝えた。

ISISがアメリカ人ジャーナリストを殺害し、2人目の殺害予告をして(そのとおり実行した)、地域の同盟国の脅威となっているときに大統領が「戦略はない」と公言するのは広報のミスか、外交政策の失敗か、あるいはその両方だろう。

自由世界の将来を左右
(中略)しかし親オバマ派は、彼の外交政策を擁護するために奇抜な論理を考えついた。政治評論家のピーター・バイナートはオバマの政策を「果敢なミニマリズム」と呼ぶ。

オバマが本当に反撃するのは、米本土に直接の脅威がもたらされた場合だけだという。「シリアで多大な犠牲が出ても、タリバンがアフガニスタンを動揺させても、イランが核兵器を持っても構わない。オバマはアメリカ国民に危害を加えるであろう相手にだけ剣を抜く」

アメリカの国益以外には冷淡なことで知られるリアリスト陣営の論客スティーブン・ウォルトは、オバマは武力行使を「毅然と」自制していると絶賛する。

この考え方が危険なのは、アメリカが世界から手を引けば、悪の勢力がその空白を埋め、アメリカの同盟国が脅威にさらされる点だ。結局アメリカは問題解決に乗り出す羽目になり、代償はさらに大きくなる。

第二次大戦後の安全保障は、アメリカの積極関与を前提に構築されている。アメリカが世界の平和を保てば、アメリカの繁栄につながるという考え方だ。

政治評論家のロバート・ケーガンは、オバマは国民が望んだミニマリズムの外交政策を取ったが、結局誰も喜ばなかったと指摘した。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ロジャー・コーエンはこう書いた。「国民が求める大統領は、彼らの思いをただ受け取るのではなく、国を引っ張る人物だ」

激動の時代である。いま必要なのは、第二次大戦後に現れたような実行力と先見性のある指導者だ。安全保障の構造や同盟関係を再構築することも重要だ。世界もアメリカも、自ら時代を形作る大統領を求めている。(後略)【2014年9月11日 Newsweek】
********************

上記記事が書かれた2014年9月というのは、オバマ大統領が国民向け演説で、「イスラム国」に対し「場所を問わず、米空軍力を使う」と述べ、アメリカが幅広い有志連合を主導し、シリア領内を含めて「イスラム国」との戦いで反転攻勢に出ると強調したときです。

オバマ大統領は、その1年前の2013年9月、“レッドライン”を超えたシリア攻撃に踏み切るかどうかを議会に諮るという異例の対応を行い、10日のテレビ演説で、「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と述べ、アメリカの歴代政権が担ってきた世界の安全保障に責任を負う役割は担わない考えを明確にしました。

2014年9月の“有志連合を主導し、シリア領内を含めて「イスラム国」との戦いで反転攻勢に出る”という方針は、「世界の警察官」としての役割を避けてきたオバマ大統領にとり、戦略転換だとも解釈されました。

そして、ここにきての“地上部隊派遣に余地を残す考え”ということで、情勢の変化に引きずられてズルズルと・・・・ともとれますし、情勢の変化に適切に対応しているいう考えもあるでしょう。

もちろん、オバマ大統領の「世界の警察官」としての役割を避けたい思い、戦争拡大への優柔不断さというのは、基本的にはイラク・アフガニスタンを経験したアメリカ国民の厭戦気分に根差すものでもあります。

「国民が求める大統領は、彼らの思いをただ受け取るのではなく、国を引っ張る人物だ」・・・民主主義のシステムにあっては、いささか“ないものねだり”にも思えますし、場合によっては民意を否定したエリート主義にもなりかねないところもあります。

ただ、“第二次大戦後の安全保障は、アメリカの積極関与を前提に構築されている”というのも現実政治の実態でもあります。

やりたくもない「世界の警察官」を引き受けるかどうか・・・アメリカ大統領というのは実に悩ましいポストです。
しかも、どのような選択をしても批判は避けられません。

【「なぜナイジェリアには来てくれないのだ」】
アメリカに「世界の警察官」を求める声は、各地で上がっています。

****軍が敗退の危機、「数時間で崩壊」の警告も イラク西部****
イスラム過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の攻撃が続くイラク西部アンバル州の戦況について、イスラム教スンニ派の部族指導者は14日、イラク軍部隊が敗退の危機に直面しているとの見方を示した。

米当局者らは最近、イラクやシリアでISISが劣勢に転じたと主張している。しかし、イラク軍とともにISISと戦うスンニ派部族、アルブニムル族のナイム・ガウード氏は「アンバル州ではこちらが不利な形勢にある」と指摘。部族勢力が撤退すれば、イラク軍部隊は「数時間で崩壊するだろう」と述べた。

ガウード氏はそのうえで、米国に地上部隊の派遣や部族勢力への武器供与を要請。あるいはせめてイラク政府に対して武器供与を働き掛けてほしいと訴えた。(中略)

同州では2000年代半ば、アルブニムル族などの部族勢力が米軍の支援を得て国際テロ組織アルカイダの掃討に当たった。

ガウード氏は、アルブニムル族の住民らがISISに連れ去られる事件が相次いだ昨年11月、CNNとのインタビューで「われわれの仲間は米国との友好関係のために殺されている。米国は友人を見捨てるというのか」と語り、米国の介入を強く要請していた。【2月15日 CNN】
******************

****ボコ・ハラム掃討に米国の協力拡大を期待、ナイジェリア大統領****
ナイジェリアのグッドラック・ジョナサン大統領は14日、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューで、イスラム過激派組織ボコ・ハラムと戦う上で米国に一層の協力を求める姿勢を示した。

このインタビューでジョナサン大統領は初めてナイジェリアで過去6年間反乱を続けているイスラム教スンニ派のボコ・ハラムと、シリアとイラクの一部地域を占領するイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に直接的な結びつきがあると主張した。

ジョナサン大統領は、「米国はISIS(イスラム国の別称)と戦っているのに、なぜナイジェリアには来てくれないのだ」と主張し、「米国はナイジェリアの友人だ。ナイジェリアに問題があれば、米国が来て助けてくれることを期待している」と話した。

しかし、米国防総省のジョン・カービー報道官は記者会見で、現在のところ米軍はナイジェリア国内で活動しておらず、ナイジェリアに米軍を派遣する計画もないと述べた。

カービー報道官はまた、米国はナイジェリア政府によるボコ・ハラム掃討作戦を支援するためアフリカ各国が作る多国籍部隊の編制を支援する初期段階にあると述べた。(後略)【2月15日 AFP】
*********************

かつてイラクでアメリカ軍はスンニ派部族勢力の協力を得てアルカイダ勢力を抑え込んだのは事実であり、「われわれの仲間は米国との友好関係のために殺されている。米国は友人を見捨てるというのか」という訴えには重みもあります。

ただ、基本的にはイラク政府・イラク軍がもっと当事者としての自覚をもって、責任ある対応をしてくれないと・・・という感もあります。

ナイジェリア・ジョナサン大統領の「米国はISIS(イスラム国の別称)と戦っているのに、なぜナイジェリアには来てくれないのだ」に至っては、更に違和感も大きくなります。

現在の混乱を招いているのは自らの無策・無能の結果でもあり、アメリカにとやかく言う前に自分で何とかしろよ!・・・とも言いたくなります。何とかできななら大統領選挙延期といった姑息な対応などせず、すみやかに政権を明け渡すべきでしょう。(欧州でのイスラム過激派によるテロ事件などに比べて、ナイジェリアでのボコ・ハラムによる犠牲者に関して世界が無関心だ・・・とは思いますが)

「世界の警察官」として頼られるアメリカも大変です。すべてに対応していたらきりがありませんし、対応したらしたで、現地住民から「アメリカの侵略行為だ!」との恨みを買う恐れも多分にあります。

国際的にも、「警察官でもないのに・・・」との批判もあちこちから出ます。

“石油利権”といった“国益”(あるいは“私益”)にかなう場合に限り、「警察官」として出動する・・・と割り切れるなら、話は簡単でもありますが。

ウクライナ東部では「停戦合意」が微妙な情勢です。
もし、事実上の合意破棄となれば、ウクライナ政府への武器供与をカードとしてロシアを牽制してきたアメリカとしては、その履行に踏み切ることにもなります。

それは「世界の警察官」云々を超えて、米ロ代理戦争という深刻な事態にもなりかねない状況です。
もし、武器供与を履行しなければ、また“優柔不断で、一貫した戦略がない”との国内批判を浴びます。

凡夫の頭では判断しかねることばかりではありますが、つくづくアメリカ大統領という職務は大変だと同情します。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「巨大な墓地」と化す地中海  リビア情勢の混迷で増加する難民遭難

2015-02-16 22:25:21 | 難民・移民

(イタリア沖を漂流していた貨物船「ブルースカイM」号の船内でひしめき合う密航者ら。乗船していたシリア難民が携帯電話で撮影(2014年12月25日撮影)【1月6日 AFP】)

世界で最も危険な航路横断 横行する密航船ビジネス
北アフリカ・中東からイタリアなど欧州へ船で渡ろうとする難民と膨大な犠牲者の問題については、これまでも何回か取り上げてきました。
(2014年9月16日ブログ「地中海 後を絶たない中東・アフリカ難民に関する犯罪 2隻で700人超が死亡」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140916など)

特に、シチリア島とチュニジアの間に位置するイタリア・ランペドゥーサ島は、チュニジアから110kmあまりしかないことから、密航船の目指す“玄関口”となっており、受け入れたくはないが、人命にかかわるだけに放置もできないイタリア政府は対応に苦慮しています。

****リビア沖で難民2000人超を救助、イタリア当局****
イタリア当局は15日、リビアから同国に向かう途中に地中海上で遭難した難民の大規模な救助活動を実施し、2000人以上を保護した。伊メディアが伝えた。

イタリア政府は同日、リビアの治安状況の悪化をうけて在リビア大使館の職員を退避させ、同大使館での活動を停止していた。

伊メディアによると、十数隻のボートでリビアを出港した難民2164人がリビアとイタリアのランペドゥーサ島間で遭難し、イタリア海軍や沿岸警備隊によって救助された。

またイタリア運輸当局によると、難民救出にあたっていた沿岸警備隊員が、リビア沿岸からモーターボートで接近してきた4人の武装した男に脅迫された。

カラシニコフ自動小銃で武装した男らは、難民が救出されて空になったボートの返還を強要したという。

昨年にはアフリカ北部からボートでイタリアへの密航を試みた3200人以上が死亡しており、国際連合は北アフリカとイタリア間海路を世界で最も危険な航路横断と指摘している。

13日には、リビアの沿岸から約80キロの沖合で、6隻のボートに乗った約600人の難民がイタリア沿岸警備隊や商船によって救出された。

またその前週には、地中海で難民らが乗っていたゴムボートが悪天候のため沈没し、300人以上が死亡する悲劇も起きている。【2月16日 AFP】
*********************

こうした密航船は、難民を“商品”として扱い、その生命には関心をもたない業者が存在する密航船ビジネスともなっていますが、最近の密航船は廃棄目前の中古船の使い捨てが多いと聞いています。

今回は“十数隻のボート”と、小型船を使用したようですが、それにしても大船団です。
また、“難民が救出されて空になったボートの返還を強要”というのは、驚くべき強欲です。

****密航用船舶を取引する闇市場の影****
建造から数十年が経過した古い貨物船が、闇市場で中古車のように容易に取引されている。

年末から年始にかけ、数百人単位でイタリアへ密航させようとしていた貨物船が漂流しているのが相次いで見つかったが、こうした船も例外ではない。

海運専門家によると、伊当局に発見された「エザディーン号」と「ブルースカイM号」は、リサイクル用に解体したとしても、スクラップとしての価値はいずれも15万ドル(約1770万円)程度にしかならない。2隻は当局の力が及ばない闇市場で取引されてきた可能性があるという。

48年前に建造された家畜運搬船のエザディーン号には祖国からの脱出を試みる移民が360人、建造後37年経った貨物船ブルースカイM号には768人が乗っていたが、どちらの船にも通常の商用船に求められる堪航能力に関する最新の証明書がなかった。

ギリシァ・ピレウス港の海運仲立業者(ブローカー)、ウルサ・シップブローカーズのサイモン・ワード氏はAFPの取材に対し、2隻の貨物船は「スクラップにする以外、何の価値もないもの」だが、トルコのスクラップ回収場では、どちらも25万ドル(3000万円)にもならないと語った。そこまでの輸送費に最大10万ドル(1200万円)ほどかかることを考えると、船主は現金を支払う相手に船を売った方がいいと判断するかもしれないという。

匿名を条件に取材に応じた英ロンドンのブローカーは「誰かに安い金で船を操縦させて、そこに移民を乗せる。(船の調達は)中古車を買うのと同じくらい簡単なことだ」と話した。

密航を請け負う潜在的な利益は非常に大きい。伊当局によると、エザディーン号に乗っていた密航者は、地中海を渡るために1人当たり4000~8000ドル(約47万~94万円)を支払っていた。業者の利益は144万~288万ドル(1億7000万~3億4000万円)に上るという。

英海運専門紙ロイズリストの編集者デービッド・オルセン氏は「中古の船を売ること自体は世界中、どこであれ完全に合法だ。貨物船はeBayにも出品されているし、格安の船を紹介するウェブサイトもあるほどだ」と話した。(後略)【1月24日 AFP】
******************

こうした密航船を操舵する者は、途中で自動操縦モードにした船を放棄して引きかえしてしまい、その後の密航船は“幽霊船”として運任せにもなるようです。

****乗組員なし…幽霊船? 実は“密航者”わらわら…伊周辺海域で相次ぐ****
イタリア南部沖で多数の移住希望者を乗せながら、操舵(そうだ)する乗組員がいない貨物船が見つかり、同国当局が2日、救助した。

同様のケースは最近、周辺海域で続いて発生。“船頭”のいない「幽霊船」(伊メディア)は不法移民密航の新たな手口とされ、欧州で警戒が強まっている。

貨物船は1日午後、乗船者から「乗組員がいない」との無線通報を受けたイタリア当局が同国南部沖約150キロの海上で発見。

救援隊が2日、燃料切れで漂流していた船にヘリコプターから乗り込んで制御し、同国南部コリリアーノ・カーラブロ港まで曳航(えいこう)した。

貨物船はトルコから出港したとされ、英BBC放送などによると、女性や子供を含む約360人が乗船。国籍は不明だが、内戦中のシリアから逃れてきたともみられている。操舵していた乗組員は途中で船を脱出した可能性が高いという。

伊当局は12月30日にも、同国南東部沖で、約800人の移住希望者を乗せながら乗組員がいない貨物船を救助した。

この船には先にギリシャ当局が接触したが、異常はなく、航行を継続。乗組員はその後に船を去ったとみられる。航行を続けていれば、伊沿岸部に座礁の恐れもあった。

欧州では近年、地中海を越えてくる北アフリカや中東からの不法移民の増大が問題化し、密航業者が手引きしているといわれる。従来は漁船やゴムボートが主流だったが、今回使われたのは、ともに建造後40年以上の貨物船だった。

貨物船の場合、冬場でも大量輸送が可能で、古い船は安価で購入できるため、密航業者の利益も大きいとみられる。

国連関係者はロイター通信に対し、貨物船を公海上まで航行させた後、針路を設定して密航業者らは逃げるのが手口だと語り、「古い貨物船の利用が増えてきている」と警告している。【1月4日 産経】
*******************

当然ながら、“商品”を積めるだけ積み込んだ船内は悲惨ですが、それでも救助されて命があれば幸いです。

****劣悪な漂流密航船内の写真、乗船のシリア難民が撮影****
冒頭写真
家畜のようにひしめき合い、むき出しの床の上で毛布をかぶって身を寄せ合う人々――イタリア沖で先週、シリア難民ら768人を乗せて漂流していたところを発見された貨物船「ブルースカイM号」の船内のこうした状況が、乗船していたシリア人女性(30)が撮影した写真から明らかになった。

写真には、さびついた船体の限られたスペースにすし詰め状態で横たわる男女や子どもたち、そして壁から突き出た棚状の部分に座り込む人々の姿がとらえられている。

この女性は、両親と2人の妹と一緒に同船に乗り込んでいた。現在妊娠7か月で、3週間前に同じように密航した夫を追って、この危険な船旅に身を投じたのだという。(後略)【1月6日 AFP】
******************

2月9日にわずかな生存者が救助された事件では、死者が200人とも、300人とも言われています。

****<地中海>ゴムボートが遭難、アフリカ難民203人死亡か****
 ◇リビアからイタリアに向かう途中
北アフリカのリビアからアフリカ難民を乗せてイタリアに向かっていたゴムボートが地中海上で遭難し、203人が死亡した恐れがあることが分かった。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の南欧担当報道官が11日、救出された生存者の証言に基づいてツイッターで明らかにした。

イタリアのANSA通信によると、ボートは7日にリビアから出航したが、悪天候で海が荒れていたため、9日に転覆したという。

生存者9人はリビア沖でイタリア貨物船に救出され、11日、イタリア最南端ランペドゥーサ島に移送された。【2月11日 毎日】
******************

リビアの混乱で増加する難民船
今回2000人以上、13日には600人が救助され、9日には死者200~300人・・・と、密航船が頻発している背景にはリビアの混乱があるとされています。

リビアでは2011年のカダフィ政権崩壊後、複数の民兵組織間の戦闘が激化し、治安が極端に悪化しています。
暫定政府を支える民族派とイスラム系武装勢力の対立が、各地に割拠する部族間の抗争と同時に深刻化し、更に、仏軍などによりマリから掃討されたイスラム過激派が潜伏するほか、イラク・シリアで勢力を拡大する過激派「イスラム国」も拠点作りを進める・・・ということで、新たな内戦突入への懸念も高まっています。

16日は、「イスラム国」によるエジプト人質(キリスト教の一派であるコプト教徒)殺害への報復としてエジプト軍が「イスラム国」のリビア内拠点を空爆、事態は更に混迷の度を深めています。

****エジプト軍、リビア領空爆=「イスラム国」人質殺害に報復―過激派40人死亡****
エジプト軍は16日、隣国リビア領内にある過激組織「イスラム国」の拠点を空爆した。軍は声明で、イスラム国がエジプト人の人質21人を殺害したとする映像を公開したことに対する報復だと明らかにした。リビアの戦闘機も空爆に加わった。

声明は、報復攻撃は「われわれの権利かつ義務だ」と強調した上で、「エジプトには国家の治安を守る盾と、テロや過激主義を断ち切る剣がある」と訴えた。リビア空軍部隊の司令官は、エジプト国営テレビに対し、空爆で少なくとも武装勢力の40人を殺害したと表明した。

リビアからの情報によると、東部ダルナでは空爆により複数の家屋が破壊された。女性や子ども少なくとも5人が死亡するなど、民間人も巻き添えになっている。

空爆はダルナのほか中部シルトなどでも実施されたもようで、武装集団の野営地、武器庫などが標的となった。作戦は成功し、空爆に参加した戦闘機は既に帰還したという。

エジプトのシシ大統領はこれより先、演説で「テロを打ち負かす。エジプトは適切な方法で対応する権利を有する」と表明していた。

リビアでは2011年のカダフィ政権崩壊以降、イスラム過激派の勢力が伸長。最近、その一部にイスラム国のイデオロギーが浸透し、ダルナやシルトで支配基盤構築を進めているとされる。

リビアは現在、民族派とイスラム系勢力が覇権争いを繰り広げ、政府は事実上二つに分裂している。今回は民族派が掌握する空軍部隊がエジプト軍に協力した形だが、イスラム系が介入への反発を強め、リビアの分断状況に拍車が掛かる恐れもある。【2月16日 時事】
*********************

リビアの混乱によって、難民を救助するイタリア側には、難民に紛れてテロリストが流入することへの懸念もあります。

すでに昨年は最悪の状況となっていますが、リビアでの戦闘が激化すれば、イタリアに押し寄せる難民はますます増大します。

****地中海での難民・移民の死者数が過去最多に 国連****
欧州を目指し地中海を渡ろうとした難民や移民と移動の際に死亡した人々の数が今年、過去最多に達したと、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が10日、スイス・ジュネーブで2日間の日程で開幕した国際会合で報告した。UNHCRは各国政府に人命救助対策の強化を求めた。

UNHCRによると、今年1月以降に危険を冒して地中海を渡ろうとした人の数は過去最多の20万7000人以上、このうち死者は3419人に達した。これまでの最多は、リビアが内戦状態にあった2011年の7万人で今年はその3倍近くに達した。

シリア人6万51人、エリトリア人3万4561人を含む地中海を渡ろうとした人々の大半は、イタリアとマルタに向けてリビアから出港した。仕事を求める人々などだが、最近は亡命希望者が増えている。

また難民船の死者数は世界全体では4272人だった。

ジュネーブで2日間の日程で行われる国際会合は、迫害や紛争、政情不安、貧困などを逃れるために海路で移動する人々を保護する方策について話し合われる。【2014年12月10日 AFP】
********************

難しい難民対応
イタリア政府は難民の救難に取り組んでいますが、右派からは「不法移民につけこまれる」との批判もあります。

****難民、伊へ続々6万人 中東・アフリカから、上半期****
・・・・イタリア沖では昨年10月、難民船が火災を起こして転覆し、366人が死亡した。緊急対策を求められたイタリア政府は「マーレ・ノストゥルム」(ラテン語で「私たちの海」の意味)と名づけた救援作戦を始めた。地元紙によると、海軍の監視・巡回などに月900万ユーロ(約12億6千万円)の経費がかかる。

移民反対を唱える右派政党からは「不法移民につけこまれ、人数がかえって増えている」と作戦中止を求める声も出ている。政府は「対策を取らなければ、3万人は海上で死亡していた」と反論。ただ、仲介業者の拘束は進んでいない。政府は欧州連合(EU)が関与を強めるよう求めている。【2014年7月4日 朝日】
******************

ローマ法王は、「地中海が巨大な墓地になるのは容認できない」と語り、難民の受け入れを促しています。

****<ローマ法王>移民の受け入れ促す 欧州議会で演説****
フランシスコ・ローマ法王は25日、フランス東部ストラスブールにある欧州連合(EU)の欧州議会で演説し、欧州が「内向き」にならず、高齢者や貧困者、移民に対する連帯の精神を実践するよう呼びかけた。(中略)

フランシスコ法王は演説で「世界は『欧州中心』でなくなり、欧州はやつれ、世界の主人公ではなくなっている」と述べ、欧州経済危機を受けて高齢者や若者、貧困者の孤独が深まっていると指摘。「(移民船の遭難が続く)地中海が巨大な墓地になるのは容認できない」と語り、移民の受け入れを促した。(後略)【2014年11月25日 毎日】
*****************

難民・移民を受け入れた後、どうするのか・・・、受け入れ側には大きな負担ともなり非常に難しい問題です。

ただ、「この国は我々のものだ。お前らの来るところではない。自分の国で飢えるなり、死ぬなり勝手にしろ!」と追い払ってみたところで、命がけの渡航を試みる者が大勢いるという現実はなんら改善されず、問題は糊塗されるだけです。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  ロヒンギャ問題でも、少数民族との停戦でも“黄信号”

2015-02-15 21:36:30 | ミャンマー

(ロヒンギャの避難民キャンプ “キャンプ内には支援物資などを扱う商店もある。黄色いボトルは日本のODAで贈られた食用油だ”【1月27日 須田 英太郎氏 「小さな組織の未来学」】http://www.nikkeibp.co.jp/article/miraigaku/20150126/433160/

1日で撤回されたロヒンギャへの投票権付与 根深い多数派仏教徒の不寛容
これまでも何回も取り上げてきたように、ミャンマーの民主化にとって、少数派イスラム教徒、特に西部ラカイン州のロヒンギャの問題と、少数民族武装勢力との停戦の問題が大きな課題となっています。

野党指導者スー・チー氏の大統領資格問題も絡む憲法改正作業などで、最近は“民主化の停滞”も懸念されるミャンマーですが、上記の両方の問題に関しても芳しくない状況が見られています。

西部ラカイン州のロヒンギャは単にイスラム教徒であるというだけでなく、ミャンマー国民として認められていないという基本的な問題もあって、国際社会が懸念する厳しい状況に置かれています。

そういうなかにあって、暫定的な身分証明書を有するロヒンギャに憲法改正のための国民投票の投票権を与えるとする法律が成立したのですが、多数派仏教徒の強い反対にあって、法律成立の翌日には暫定的な身分証明書自体を廃止するということになりました。

****ミャンマー、ロヒンギャ族への投票権付与を撤回****
ミャンマー政府はイスラム教徒の少数民族ロヒンギャ族に対し、国民投票の投票権を与える方針を1日で撤回した。

仏教徒が多数派を占めるミャンマーで、ロヒンギャ族の人口は約130万人にすぎない。彼らは隣国バングラデシュからの不法入国者として扱われ、さまざまな差別を受けてきた。

今月10日、ロヒンギャ族であっても「ホワイトカード」(暫定的な身分証明書)を発給されている一部の人に限り、憲法改正のための国民投票の投票権を与えるとする法律が成立。

ところが翌11日、首都ヤンゴンでは多くの仏教僧も参加して、この条文の撤廃を求めるデモが起きた。

国営新聞によれば同日夕、テインセイン大統領はホワイトカードは3月末に失効するとの声明を出した。投票権も与えられないことになる。ただし失効後2カ月以内にカードを返還すれば、当局が市民権について審査を行うという。

国連は12月、ロヒンギャ族が市民権を取得する道を作るようミャンマー政府に求める決議を可決している。
ミャンマーでは10~11月に総選挙が予定されており、これに先だって憲法改正に必要な国民投票を行うことになっている。【2月13日 CNN】
******************

「ホワイトカード」(暫定的な身分証明書)は、ロヒンギャのほか、中国やインド系の一部住民に発給されています。

“ミャンマーでは無国籍者に対する国籍付与の手続きが行われているが、ロヒンギャはバングラデシュからの不法移民と見なされ、手続きはあまり進んでいない。”【2月13日 朝日】という状況で「ホワイトカード」も失効ということになれば、ロヒンギャの立場がさらに不明瞭になる可能性があります。

今回の件で、ロヒンギャへの対応が改善しない主な原因は、政府の施策というよりはロヒンギャを許容しようとしない多数派仏教徒国民に側にあることが窺えます。

スー・チー氏など民主化を求める野党勢力がロヒンギャの問題にはあまり関与しないのも、国民の反発を恐れてのこと・・・とも言われています。

なお、アメリカのマリノウスキー国務次官補(民主主義・人権・労働担当)は1月16日、ヤンゴンで記者会見し、国内で急進的な仏教徒による反イスラム運動が広がっていることについて、「政治などに宗教を利用することは危険だ」と懸念を表明しています。

戦闘再燃で「連邦記念日」の“全土での停戦合意の調印”出来ず
少数民族武装勢力との停戦協議も、武力衝突が再発する状況で、今後が危ぶまれています。

憲法改正についても、“少数民族勢力は憲法改正で「高度な自治」を求めており、国軍は「改正は国家統合を危うくする」と消極的だ。テインセイン大統領も「改正はすべきだが、時期を見極める必要がある」と慎重な姿勢に転じている。”【2月2日 毎日】と、政府と少数民族側には溝があります。

****少数民族結集も「停戦合意」果たせず ミャンマー、大規模衝突再発****
ミャンマー政府が進める少数民族武装勢力との停戦協議の行方が危ぶまれている。

民主化の試金石とされる総選挙を今秋に控え、テイン・セイン政権は全土での停戦合意の早期実現を重要目標に掲げてきた。

だが、国営メディアは13日、東部シャン州で今月9日に始まった戦闘で国軍側の47人が死亡したと伝えるなど、武装勢力との対立が収束する気配はみえないままだ。(中略)

(ミャンマーの「建国の父」、アウン・サン将軍の生誕100年記念行事の)前日の12日は、将軍が各民族勢力と連帯を誓ったことにちなむ「連邦記念日」に当たる。

テイン・セイン大統領は同日、主要な少数民族組織16団体を首都ネピドーに招いたが、傘下の武装勢力と国軍との衝突が続くカチン独立機構(KIO)など3団体が欠席。この日に合わせて目指してきた全土での停戦合意の調印も果たせなかった。

少数民族はミャンマーの人口の3割を占める。イギリスから独立した直後の49年から分離独立や自治権拡大を求め、ビルマ族中心の国軍と交戦してきた。犠牲者は数十万人に上り、今も百万人以上が避難生活をしているとされる。

かつて内戦の指揮をとった元将軍のテイン・セイン大統領は2011年の民政移管後、武装勢力と和解協議を推進。昨年秋には大幅な自治権を認める「連邦制」導入を受け入れる姿勢を示し、早期の全土停戦合意に意欲を見せた。

総選挙で(スー・チー氏率いる野党)NLDの優勢が予想される中、少数民族からの支持獲得は不可欠だ。

だが、昨年からシャン州や北部カチン州で散発的な戦闘が再発。シャン州では今月、国軍が空爆を行い、避難民約2千人が中国側に逃れたとの情報もある。

軍政時代、少数民族は木材や宝石などの国境貿易を資金源としてきたが、停戦に応じれば、これら既得権を失うとの懸念も強い。

全土停戦合意に向けた協議は近く再開されるというが、難航が続くと予想される。【2月13日 産経】
******************

上記記事にあるシャン州で政府軍と衝突しているのは少数民族コーカンの武装勢力です。
“コーカン地区は、軍事政権と停戦を結んだコーカン族の「ミャンマー民族民主同盟軍」が軍政末期まで支配した。麻薬生産で資金を得たとされる。”【2月14日 朝日】

地元紙によれば、コーカン地区では14日も、国軍との交戦で少数民族コーカン族武装勢力の13人が死亡した報じられています。

北部カチン州については、1月に戦闘激化が報じられていました。

****ミャンマー内戦激化 交戦地域に住民1000人超置き去り****
AP通信は18日、ミャンマー北部カチン州での同国軍と少数民族武装勢力「カチン独立軍(KIA)」との戦闘が激化し、中国との国境に近い交戦地域で住民ら1千人以上が置き去りにされていると伝えた。

戦闘はKIAが数日前、州政府の運輸相や警官3人を拘束した(運輸相は後に解放)のをきっかけに激しくなり、多くの住民が近くの仏教寺院やキリスト教会に避難している。【1月19日 産経】
******************

“北部カチン州などでは、政府軍と少数民族武装組織の戦闘で約10万人が国内避難民になったままだが、国連によると昨年9月以降、政府の許可が出ず、国際機関が物資を届けられていない”状況に、先述のマリノウスキー国務次官補は、「非常に懸念している。(避難民への)人道上の完全なアクセスが即座に必要だ」と語っています。【1月17日 朝日より】

少数民族問題の背景には密貿易利権
この戦闘激化で、森林の伐採などを目的に密入国した中国人多数が脱出できなくなる・・・という騒動もあったようです。

****ミャンマー北部の内戦がエスカレート、中国人数百人が現地から脱出できず・・・多くは「仕事のため」の密入国か****
中国人数百人が、ミャンマー北部の内戦地帯から脱出できなくなった模様だ。現地では、ミャンマー政府軍とカチン族による反政府武装勢力の内戦が激化した。

中国人の多くは森林の伐採などを目的に密入国した人で、駐ミャンマー中国大使館も状況を把握できていないという。中国メディアの環球網などが報じた。

反政府武装闘争を続けているのは、ミャンマー北部に住むカチン族による勢力「カチン独立軍」だ。

1948年のミャンマー独立時から自治権の拡大、さらに独立を目指して活動を続けた。1990年代に政府側と和解。しかし2000年代に中国企業によるイラワジ川にミッソンダムの建設計画が発表されたことで、武装闘争を再開した。

ミャンマー政府もミッソンダムの建設計画を中止するなどで対応し、2013年には停戦で合意したが、その後再び戦闘が始まり、エスカレートしているという。

中国・ミャンマー国境はそれほど厳格に管理されていなかったとされる。ミャンマー北部にはヒスイの産地があるために、入国手続きを行わずにミャンマー領内に入る中国人向け「買い付けツアー」が行われていたことがあるという。

内戦が激化した地域で脱出できない無関係の民間人は2000人程度で、うち中国人は数百人程度とみられている。環球網によると、カチン独立軍側は「条件さえあれば、われわれは中国人が帰国するための『命の回廊』を確保する」と述べたという。
ただし、実現の見通しについては、明らかにされていない。(中略)

駐ミャンマー中国大使館は情報収集につとめているが、脱出不能になった自国民のいる場所や、どのような状況なのかは把握していないという。

中国人のミャンマー「密入国」については、国境地帯を実効支配する反政府勢力が容認してきたとの背景もあるとされる。

「密入国者」が政府当局につかまれば、処罰の対象になる。事実であるかどうかは不明だが、これまで密入国をしてヒスイを採掘していた中国人が政府側につかまり、懲役7年を言い渡されたことがあるとの噂が流れたこともある。

そのため、政府軍がわが自分の所在地を掌握した場合、名乗り出ることができず、身を潜めているのではないかとみられている。また、伐採作業をしていた中国人が密林の中に身を潜めるケースもあるとの見方がある。【1月19日 Searchina】
******************

中国人が取り残されたのか、あるいは身を潜めたのかはともかく、ミャンマー国境では木材やヒスイ、麻薬などの密貿易が行われており、少数民族側がその利権を生業としているという事情、今後この利権がどうなるのかという問題が停戦合意がスムーズに進まない背景にあります。

ついでに言えば、ミャンマー国境で取引されているのは木材やヒスイなどだけではないようです。

****ミャンマーの女性ら177人救出 中国、売買目的で誘拐****
14日付の中国紙、法制晩報によると、中国の治安当局はミャンマーの女性たちを売買目的で誘拐した中国人とミャンマー人の容疑者計37人を拘束、女性と子供の計177人を救出した。

容疑者らは仕事や結婚の紹介と偽って女性たちを誘拐し、河南省や山東省の農村で5万~8万元(約95万~152万円)で売り渡していた。【2月14日 共同】
*******************

【「スー・チー氏は大統領職を断念していない」】
一方、13日にミャンマー各地で「建国の父」、アウン・サン将軍の生誕100年記念行事が行われましたが、娘のスー・チー氏も群衆の歓迎を受けています。

****スー・チー氏、父アウン・サン将軍生誕100年行事に****
ミャンマー最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は13日、同国独立の英雄で自らの父であるアウン・サン将軍の生誕100年を記念する祝賀行事に出席した。

アウン・サン将軍生誕の地、ナッマウに集まった数千人の群衆にスー・チー氏は大歓迎を受けた。年内に実施される予定の総選挙を控え、スー・チー氏は父から受け継いだ人気の高さを見せつけた。【2月13日 AFP】
*****************

“スーチー氏は支持者ら数千人を前に演説し「もし父の遺産を受け継ごうとするなら、真の民主国家を築かねばならない」と訴えた”【2月14日 毎日】とのことです。

スー・チー氏の去就を巡っては、“1月初め、地元誌トレード・タイムズがNLD報道官の話として「憲法改正は(大統領選までに)間に合わない。スーチー氏は(代わりに)国会議長になることでハッピーだ」との発言を報じた。これを内外メディアが引用して波紋が広がり、NLDは「スーチー氏は大統領職を断念していない」と発表している。”【2月2日 毎日】とのことです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ウクライナ  「期待を抱かせるが、誰も確信は持てない」

2015-02-14 21:25:47 | 欧州情勢

(ベラルーシのミンスクで会談する(前列左から)ロシアのプーチン大統領、フランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、ウクライナのポロシェンコ大統 【2月12日 毎日】)

【「欧州の平和を二度と忘れてはならない」】
「過去に目を閉ざすものは現在にも盲目となる」との演説で有名なワイツゼッカー元大統領が1月31日に死去したドイツでは13日、東部ドレスデンを廃墟とした連合軍の空爆から70年を迎えた追悼式典が行われ、ガウク大統領は「我々は、誰が戦争を始めたかを知っている。どんな時もドイツが主導した戦争の犠牲者のことを忘れてはならない」と戒めています。

****欧州の平和を忘れてはならない」 独ドレスデン空襲70年で追悼式典****
ドイツ東部ドレスデンが第二次世界大戦中、連合軍の大規模空襲を受けてから70年を迎えた13日、現地で追悼式典が行われた。

式典にはガウク大統領や生存者ら関係者千人以上が出席し、戦争の悲惨さをかみしめながら、平和への誓いを新たにした。

空襲は大戦末期の1945年2月13~15日に英米軍によって実施され、約2万5千人が死亡した。「エルベ川のフィレンツェ」と呼ばれた古都の大半が廃虚と化した。一般市民に対する無差別爆撃にはドイツ側にも複雑な感情が残る。

ガウク氏は式典で、「ドイツ人の犠牲者を悼むとき、(ナチス)ドイツの戦争遂行による犠牲者を忘れてはならない」と呼びかけた。

英国から出席した英国国教会のウェルビー・カンタベリー大主教は「欧州の平和を二度と忘れてはならない」と訴えた。【2月14日 産経】
******************

驚異的なメルケル首相の「強行軍」】
欧州はギリシャ債務問題やイスラム過激派によるテロの脅威などの難題を抱えていますが、「欧州の平和」の直接的脅威となっているのがウクライナ東部における紛争です。

メルケル独首相は停戦に向けた協議に東奔西走していますが、その“超人的”とも思える活動に国内野党からも賞賛の声があがっているそうです。

****<独首相>ウクライナ危機打開で「強行軍」 野党も称賛****
「7日間で2万キロの旅」「ほとんど寝ない」「どうすればこんな業務をこなせるのか」--。

ウクライナ危機打開のため、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(60)が欧米を短期間で飛び回る「強行軍」が独メディアで話題になった。
首相に厳しい野党からも「大変な敬意を払う」(左派党のリービヒ議員)と称賛されている。

首相は12日、ブリュッセルでの欧州連合(EU)首脳会議後の記者会見で「今週はどうだったか」と聞かれ、「特別な疲れはない。(木曜日で)まだ今週は終わっていない」と、仕事への意欲を見せて爆笑を誘った。

首相の外遊は、ウクライナに対する米国の武器供与案が報じられた後の2月第1週から始まった。

5日、急きょオランド仏大統領とウクライナの首都キエフ入りし、ポロシェンコ大統領と会談。その夜ベルリンに戻り、翌6日にイラクのアバディ首相と会談後、オランド氏と共に今度はモスクワに飛び、プーチン露大統領と5時間以上協議した。

首相は翌7日に独南部ミュンヘンで安全保障会議に出席後、北米へ。8~9日にはオバマ米大統領、ハーパー・カナダ首相と相次いで会談。

10日はベルリンで執務をこなし、11日にはワイツゼッカー元独大統領(1月死去)の追悼式参列後、ベラルーシの首都ミンスク入り。

12日にかけて約16時間の独仏露ウクライナの4カ国首脳会談に臨んだ。その足でブリュッセルでのEU首脳会議に出席した。

首相は通常の睡眠時間が4~6時間とされ、かつて女性誌に「ラクダが水分をためるように、睡眠時間をためることができる」と話した。【2月13日 毎日】
******************

特に11日がすごいです。
各国の国賓が参列するワイツゼッカー元独大統領追悼式を事実上取り仕切る立場にありながら、終了後すぐに世界が注目するミンスクでの4カ国首脳会談に向かい、16時間以上に及ぶ異例の長時間協議をこなしています。

この日はブリュッセルでギリシャ支援をめぐる臨時のユーロ圏財務相会合も開催されています。
参加したのはショイブレ財務相ですが、ギリシャ債務問題でギリシャのチプラス首相と並んでキーマンとなっているメルケル首相ですから、当然に連絡・指示が行われていると思われます。

相互不信のなか予断を許さない状況
八面六臂の活躍ぶりですが、そのミンスクでの4カ国首脳会談は周知のように、当面の流血拡大を阻止する基本的な停戦方法で合意にこぎ着けました。

合意できなかったときのことを考えれば、とにもかくにも合意できたことは大きな成果であることは間違いありません。
ただ、これまた周知のように、本当に停戦に至るのか・・・非常に危うい不安定な状況です。

ウクライナのポロシェンコ大統領の「期待を抱かせるが、誰も確信は持てない」という合意後の言葉が、現状をあらわしています。

協議中も、合意後も、停戦前に支配地を広げようと攻勢を強める親ロシア派と、守りを固める政府軍の戦闘が交通の要衝デバリツェボとその周辺を中心に続いています。

****ウクライナ東部の戦闘続く 28人死亡 危ぶまれる停戦****
ウクライナ東部では15日午前0時(日本時間同7時)から始まる予定の停戦が近づく中、13日も政府軍と親ロシア派武装勢力の激しい戦闘が続き、少なくとも一般市民と兵士の計28人が死亡した。

停戦前に支配地を広げようと画策する親露派と、守りを固める政府軍の戦闘が続いていることで、和平を達成する上で鍵となる停戦が本当に実現するのか危ぶまれている。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相はロシアに対し、停戦が破られれば欧州連合(EU)は新たな経済制裁の可能性も排除しないと警告した。

カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の先進7か国(G7)もウクライナ東部における武器の集積と戦闘に懸念を表明した。

米国務省のジェン・サキ(Jen Psaki)報道官は13日、ここ数日でロシアからウクライナ東部に重火器が運び込まれ、現在もさらに多数の重火器が輸送の途上にあるという報告を受けていると述べた。

15日からの停戦を決めた新たな合意はおおむね昨年9月に結ばれたものの守られなかった停戦合意に沿った内容だが、重火器を撤去する範囲の幅を兵器の種類に応じて50~140キロと9月の合意の2倍にしたほか、親露派が支配下に置いている長さ約400キロにわたるロシアとの国境地帯を住民選挙が行われた後にウクライナ政府に返すとした点などが異なっている。

親露派の支配地域には、交渉を経て一定の自治権が与えられることになっている。【2月14日 AFP】
*****************

当事者であるウクライナ政府と親ロシア派の相互の不信感もまったく改善されていません。

****停戦合意守られるか 予断許さぬ状況****
・・・・ウクライナの内務省によりますと、デバリツェボからおよそ40キロ離れた町アルチョムフスクで13日夕方、住宅や学校の敷地にロケット弾が着弾し、7歳の子どもを含む市民2人が死亡し、5人がけがをしました。

これについてウクライナのポロシェンコ大統領は13日、訪問先のハンガリーでオルバン首相と会談した際、「これは市民への攻撃だけではなく、停戦合意への攻撃でもある。停戦合意は非常に危険な状況にある」と危機感を示しました。

一方、親ロシア派の幹部は、12日から13日にかけての戦闘で戦闘員2人が死亡したとしたうえで、「停戦合意が守られるかは疑わしい」と述べ、双方の不信が高まるなか、実際に停戦合意が守られるのか依然、予断を許さない状況です。【2月14日 NHK】
******************

欧米諸国は歓迎しつつも慎重に推移を見守る姿勢
アメリカは「ロシアの真剣度は、言葉でなく行動で判断する」と、15日午前0時に向けて、ロシアの対応を注視しています。

****<ウクライナ停戦合意>米「露の行動で判断」 15日注視****
独仏露ウクライナの4カ国首脳がまとめたウクライナ東部の新たな停戦合意により、停戦が15日午前0時(日本時間同7時)から実施される。

停戦合意について、欧米諸国は歓迎しつつも慎重に推移を見守る姿勢だ。特にオバマ米政権はウクライナ政府軍への殺傷可能な武器の供与や対露追加経済制裁といった「ムチ」を構えたまま、戦闘停止、兵力引き離しの実現を促す構えだ。

「ロシアの真剣度は、言葉でなく行動で判断する」。ケリー米国務長官は12日、合意成立を受けた声明でそう語った。停戦実現のカギを握るのはロシアの意向であり、実際に重火器や兵員を引き揚げ、ウクライナの主権を尊重しなければ制裁解除などには応じないとの立場を示した。

米国は「ロシアは言葉と行動が違う」(サキ国務省報道官)と対露不信感を募らせている。昨年9月の停戦合意(ミンスク合意)は履行されず、ロシアの武器・兵員の支援を受けた親ロシア派武装勢力が紛争を拡大したとの認識があるからだ。米政府高官は15日の戦闘停止について依然不透明であるとの認識を示唆した。

今回の4カ国首脳会談の前にオバマ米大統領は「ウクライナへの防御用の殺傷能力のある武器供与を検討中だ」と明言した。

シュルツ米大統領副報道官は12日、記者団に「我々の方針は変わっていない」と述べ、情勢に応じて武器供与について決断する姿勢を改めて示した。

12日の米上院本会議で次期国防長官に承認されたアシュトン・カーター前国防副長官は、4日の指名承認公聴会で「(武器を)供与する方向に大いに傾いている」と踏み込んだ。

ただ、供与には政権内に慎重姿勢もあり、ロシアとの全面対決は回避したいのが本音だ。ケリー長官も12日の声明で、合意が全て履行されれば対露制裁を緩和する可能性に早々と言及している。

欧州連合(EU)のトゥスク欧州理事会常任議長(大統領)も12日、「プーチン露大統領への信頼は限定的だ」と述べ、停戦合意に極めて慎重な態度を示した。

EUは同日、当面の追加的な経済制裁は見送ったが、事態が悪化した場合には実施の用意があることで一致。プーチン政権幹部ら19個人と9団体を対象とした渡航禁止などの制裁は16日に予定通り発動し、ロシアへの圧力をかけながら、恒久的な停戦実現を目指す。【2月13日 毎日】
*****************

ロシアとの全面対決は回避したいのが本音であるにしても、もしロシア側に停戦合意を尊重しない行動があった場合は、国内で常に弱腰・優柔不断との批判を受けているオバマ大統領としては後には引けないところです。

その場合は、アメリカのウクライナへの武器供与という、「米ロ代理戦争」に向けたはしごを一段あがることになります。

ゴルビーが言及する「最悪の事態への恐怖」】
こうした危険な事態に、かつて冷戦終結を実現したソ連の最高指導者ゴルバチョフ氏は「核戦争」にも言及して警告しています。

****ウクライナ危機に「核戦争」への発展を危惧するゴルバチョフ****
ゴルビーが、ロシアと欧米諸国の「新冷戦」の行く末に危機感を募らせている。

死者5500人弱。ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力が争うウクライナ東部の戦いに、「核戦争」の可能性さえ口にする。

「熱くなりすぎた状態の中で、誰かが平常心を失えば、われわれはもう来る将来を生き残ることはできない」のだという。20世紀の“旧冷戦”を終結に導いたノーベル平和賞受賞者の憂惧は痛切だ。

「原因はNATO側にある
ミハイル・セルゲービッチ・ゴルバチョフ。1931年3月生まれ、83歳。ソ連時代を経験していない世代が急速に増えているロシア社会では、「ゴルビー」の愛称も色あせつつある。「過去の政治家」。口さがない一部の露メディアはそう呼ぶ。(中略)

ゴルバチョフ氏は、ウクライナ危機に、エスカレートする米露の摩擦、分断される欧州の姿を見出し、いったん葬ったはずの冷戦の亡霊が蘇ることに警句を発してきた。

1月初旬、「最悪の事態への恐怖」を指摘したドイツ誌シュピーゲルのインタビューで「私は分別のある人間であり、軽々しく口にしているのではない。状況を本当に懸念しているのだ」と言った。

「双方の信頼の喪失は壊滅的だ。モスクワは西側を信頼しておらず、西側もモスクワを信じていない」「この種の戦いは核戦争へと導くことは避けられない」

原因は、クリミア半島の併合や、ウクライナ東部の内戦に介入し、第2次世界大戦後の秩序を冒したロシア側にあるのではなく、北大西洋条約機構(NATO)の側にあるのだという。

「NATOの東方拡大は欧州の安全保障の秩序を破壊している。第2次世界大戦中、ドイツは東方への影響圏の拡大を図ろうとした。私たちは教訓を学ぶ必要がある」

米国を批判 「危険な勝利主義の精神構造」
冷戦への認識は、ウクライナ危機が激化するにつれ、その都度、深まった。
ロシアがクリミア半島を併合した昨年3月、欧米の対露制裁が発動されたことを鑑み「次なる冷戦を防がなくてはいけない」と述べた。そうして、ウクライナとロシアへ、両国民が受け入れられる解決策の実行を促した。

11月、ベルリンの壁崩壊25周年イベントでは、「われわれは冷戦勃発の縁にいる」と言った。
そして、ウクライナ東部での死傷者が激増する中で行われたシュピーゲル誌のインタビューでは「私はすでに、ありとあらゆる新冷戦の兆候を見ている」とさらに突っ込んだ。

ゴルバチョフ氏は現役時代から直截な表現を用いない。演説での言い回しは時に難解で人々にその意味を考えさせる。

対露制裁を主導する米国にはいま「危険な勝利主義の精神構造がこびりついている」のだという。
その上で「米国には政治的な根本改革、ペレストロイカが必要だ」と訴える。

「米国は緊張と不安定に乗じて、混乱状態に介入している。圧力の政治の展開を容易にするため、敵をわざと作り出している。米国はいまだに20世紀の古い政策の虜になっている。敵がいなければ、彼らは生きていけないのだ」(後略)【2月14日 Wedge】
*****************

ゴルバチョフ氏はすでに「過去の政治家」であり、ロシア国内での政治的影響力も全くありません。
彼が何を言おうが、世界情勢には関係ありません。

ただ、在任中に「欧州共通の家」「新世界秩序」を打ち出し、核戦争の危機を消滅させた功績は世界平和にとって特筆すべきものです。

「核戦争」云々は「そこまでは・・・」とも思いますが、非常に危険な状況にあるとの認識は必要ですし、戦争は常に相手の対応を読み違えることでエスカレートします。

「NATOの東方拡大は欧州の安全保障の秩序を破壊している」というロシア側の見方についても留意する必要があるでしょう。

アメリカや日本からすれば価値観・政治体制を共有するNATOやEUの拡大は“当然のこと”のようにも思えますが、ロシアの立場にたてば、自国に向かって押し寄せる脅威にも映るのでしょう。

かつてのカラー革命や、今回紛争の発端となったウクライナ政変について、プーチン大統領はアメリカ・NATOなど外国勢力に支援された過激主義によるものとの批判を繰り返しています。

別に“外国勢力によって画策されたもの”とは思いませんが、アメリカなどのいろんな機関が関与したのは間違いないでしょうし、ウクライナの政変も反政府行動が暴力化することで実現した面もあります。

相手の立場にたったときにどのように見えるのか・・・そうした想像力が、持論を主張するだけの対立・衝突を回避するうえで有益でしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イエメンの国家崩壊  中東・北アフリカの人口爆発が惹起する社会不安定化

2015-02-13 22:43:11 | 中東情勢

(2月11日 イエメン首都サヌア トラック荷台でスローガンを叫ぶシーア派系のザイド派武装勢力(フシ)のメンバー【2月13日 AFP】

イエメンは崩壊しつつある
中東イエメン・・・サウジアラビアが大半を占めるアラビア半島のアラビア海沿いで、国家崩壊した東アフリカ・ソマリアの対岸に位置しています。

2011年の民主化要求運動「アラブの春」で、当時のサレハ政権が動揺した際、サウジアラビアが調停役となって、副大統領だったハディ氏への平和的な権限移譲を実現させました。

しかし、北部のイスラム教シーア派系のザイド派武装勢力(フシ)、南部の分離独立派、更にアルカイダ系イスラム過激派という三つの問題を抱えるイエメンの混乱は治まらず、国家崩壊に向かっています。

新しい憲法の制定を巡ってシーア派系のザイド派武装勢力(フシ)と政府との対立が深まり、1月にハディ大統領が辞意を表明したのに続いて、2月6日に武装勢力が首都サヌアを掌握し、議会を解散すると宣言しました。

武装勢力側は、議会に当たる「国民評議会」や政権を運営する「大統領評議会」など、暫定的な統治機構を新たに設置するとしていますが、発足のめどは立っておらず、「権力の空白」が生じています。

ザイド派武装勢力(フシ)による事実上のクーデターでイエメンの治安が悪化していることを受け、アメリカ政府は11日までに首都サヌアの米国大使館を閉鎖し、職員を国外に退避させました。イギリス、フランス大使館も同日に閉鎖されたと報じられています。

この「権力の空白」の間に、アルカイダ系の「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)の活動が活発化する事態ともなっています。

****国連、イエメンは崩壊しつつある アルカイダが軍施設制圧****
国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は12日、イエメンで国際テロ組織アルカイダが軍施設を制圧し、武器を強奪しているなどの状況を受け、同国は崩壊しつつあると警告、内戦を回避するための行動を呼びかけた。(後略)【2月13日 AFP】
***************

イエメンの崩壊は、サウジアラビアなどの中東情勢にも大きく影響します。

****<中東情勢>サウジ難局、南北に敵対勢力抱え****
イエメンで6日、イスラム教シーア派武装組織フシが実権を完全掌握し、イエメンに隣接するスンニ派国家サウジアラビアが警戒感を強めている。

中東の覇権を争うシーア派国家イランの影響力拡大や、国内のシーア派による反体制運動につながりかねないためだ。

サウジは、北部のイラク国境でイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威にさらされており、南北に敵対勢力を抱える難局を迎えている。(中略)

フシの勢力拡大は、サウジの中東政策にとって大きな脅威だ。スンニ派のアラブ人国家サウジは、シーア派のペルシャ人国家イランとは、長年ライバル関係にある。イランが1979年の革命で王政を倒した後、「イスラム革命の輸出」を掲げたことが、国内での反王政運動を警戒するサウジを刺激した。

イラクやシリア、レバノンに続き、親イラン派がイエメンで実権を握ったことで、シーア派による「アラブ侵食」は加速する一方だ。

またイエメンの混乱は、サウジ王室を敵視するスンニ派の過激派の勢力拡大につながる恐れもある。イエメン南・東部では、1月の仏週刊紙襲撃事件で犯行声明を出した国際テロ組織アルカイダ系の「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)やISが勢力拡大を狙っており、サウジの安全保障上の懸念材料となっている。【2月7日 毎日】
*******************

根本的な原因はイエメンの途方もない人口爆発だ
イエメンや中東の混乱は政府軍・イスラム武装組織などの間の武力衝突や宗派対立として語られることが多いのですが、その背景には、人口爆発、それに伴う水不足、食糧不足という基本的な要因が存在しており、こうした要因が社会の不安定化を招いているとの指摘があります。

****イエメンに迫る「水戦争」の脅威****
中東 シーア派とスンニ派武装勢力の台頭に加えて、深刻な水不足で国が干上かって枯死する可能性も(ジェームズ・ファーガソン

4年前の「アラブの春」で可憐な花を咲かせ、ずっしり重い民主主義の実を結実させた稀有な例……になるはずだった。
しかしアラビア半島の突端にある国イエメンで民主主義が実を結ぶことはなく、今や(この地域にある多くの国と同様)国家の存続すら危ぶまれている。 

なぜか。宗教と政治の複雑微妙な関係ゆえではない。宗教や政治に無縁な人たちにも不可欠な「水」がないからだ。

首都サヌア(人口260万)の状況はとりわけ深刻だ。
水道から水が出るのは月に1度、それもわずか数時間。だから住民はずっと前から、水道よりも屋上に設けた貯水槽を頼りにしてきた。ただし貯水槽にためる水はタンクで運ばねばならないから、けっこう高くつく。

世界銀行の調査によれば、このままだとサヌアは、あと4年ほどで「持続不能」になりかねない。しかるべき対策が取られなければ、住民たちは町を捨てて逃げ出すしかない。すべてが干上がって、枯死する前に。

古代ローマ人はこの土地を「アラビア半島の楽園」と呼んだ。しかし今のイエメンはアラビア半島で最も貧しい国。しかも人口(現状で約2600万)は急激に増え続けている。(中略)

しかし、(シーア派やアルカイダ系などの)いずれの脅威よりも水不足の脅威のほうが大きい。

21世紀には石油ではなく水資源をめぐる戦争が起きると予言されてから久しい。だがイエメンでは、この終末論的な観測が現実になりつつある。

世界銀行によれば、イエメンは世界で最も水不足に苦しめられている国の1つであり、国民1人当たりの1年の真水供給量はわずか86立方メートルだ(アメリカは8914立方メートル)。

水を武器にするテロ組織
政府に敵対する勢力は、水不足がもたらす社会の亀裂を巧みに利用している。いい例がAQAPだ。イエメンを拠点とする彼らは欧米でのテロ攻撃を計画して実行する一方、地元では水の配給や井戸の掘削支援などを通じて住民の支持を獲得しつつある。(中略)

一方のイエメン政府は、国民への水の提供が持つ重要性の認識ではAQAPに大きく後れを取っている。
国民和解会議では国内にいる少数の水文学者たちが水不足の解消に優先的に取り組むよう訴えたが、水の管理運用に当たる水資源・環境省の予算は70%も削減されてしまった。
政府予算の大半を占めるのは軍事費だ。(中略)

イエメン政府は間違いを犯しているが、現下の危機がすべてハディの責任というわけではない。根本的な原因はイエメンの途方もない人口爆発だ、と社会学者は言う。

60年代には500万人だった人口が、今は2600万人に膨れ上がり、30年には4000万人に達すると予想されている。
たとえイエメンが豊かで安定した国たったとしても、この人口に十分な真水を供給することはかなりの難題だ。

人口増加率が全国平均の2倍以上の7%に近いサヌアは最大の問題に直面している。1910年には2万人に満たなかったこの都市の人口は、もうすぐ300万人に達する。

海水から塩分を除去して飲料水にする技術はアラビア半島のいくつかの国が採用しているが、イエメンでは採用しにくい。海から遠過ぎる上に、海抜が2200mと高過ぎるからだ。

この国の水危機は少なくとも40年前から進行している。70年代以前のイエメンでは伝統的なかんがいが行われてきた。それは雨期の雨水をためる複雑な段々畑のシステムだった。

だが人口の増加につれて食料の需要が増えた。そのため農家はもっと確実な水資源が必要になり、それを地下水に求めた。そこで始まったのが「掘り抜き井戸革命」。
直径―センチほどの鉄管を地中に打ち込み、地下水脈に達するまでひたすら掘り抜く単純な方法だ。

雨水から地下水への切り替えは、原油が発見された70年代に加速された。農産物の生産増加を目指す政府が、井戸掘削に必要な燃料への補助金を農家に支給し始めたからだ。

その裏で、昔ながらの段々畑式かんがいシステムは放棄された。地下水をくみ上げるほうが手っ取り早いからだ。かつては世界的に有名だった美しい緑の景観は、今や見る影もない。(中略)

言うまでもなく、地下水によるかんがいへの転換は環境への悪影響も大きかった。帯水層に再び水がたまるまでには一定の時間がかかるが、イエメンではもはや、その余裕がない。(中略)

しかも、今くみ上げているのは地下水脈ではなく「化石水」と呼ばれるもの。自然には補充されないから、すぐに枯渇してしまう。そうなれば農民は土地を捨て、仕事を探しに大都市へ流入してくる。だが都市部にも仕事はなく、不満だけが募ることになる。

イエメンの水事情を悪化させる原因の1つは作物にもある。
そもそも政府が70年代に農業用燃料に対する補助金を出したのは食料の増産が目的だった。

だが農民の多くは、野菜や穀物よりも力ート(葉に含まれる成分に興奮作用のある植物)の栽培を増やした。カートの葉には常習性があり、イエメン人の3人に1人が日常的にかんでいる。麻薬の一種だが、イエメンやソマリアなどでは合法的に栽培されている。

イエメン人は平均して収入の4分の1から3分の1をカートに費やしているとされる。国全体では年間約40億ドルだ。オランダでの研究によれば、産業として見ると、カードは雇用の16%、GDPの実に25%を生み出している。

カートの水は地中深く根を張り、大量の水を吸い上げる。消費されるのは先端の柔らかい葉だけであるため、非常に無駄の多い作物だ。イエメンで手に入る真水の40%が、栄養的価値のないカートの栽培に使われているという報告まである。

5歳未満の幼児の過半数が栄養不良に苦しむこの国で、カートの栽培面積は年間10%ずつ増え続けている。(後略)【2月10日号 Newsweek 日本版】
******************

輸入穀物の増大で、遊牧から都市定住・人口増加へ
人口増加はイエメンだけでなく、中東に共通した現象であり、また、共通した社会不安の要素です。

人口爆発の背景には輸入穀物の大量消費があり、それに伴って従来の遊牧生活から都市定住への変化が起きています。

しかし、一方で、人々の意識には遊牧時代の部族社会のものが残存しており、そのギャップが問題ともなります。

****シリアとヨルダン、「イスラム」フィルターを外すと見えてくるもの 人口と食料生産で読み解く国家の姿****
人口が急増するシリアとヨルダン
シリアとヨルダンでは人口が急増している。1961年のシリアの人口は470万人、ヨルダンは93万人。世田谷区の人口は約80万人だから、50年前のヨルダンは世田谷区のようなものだった。

それが2015年にはシリアが2200万人、ヨルダンが770万人になった。
シリアが4.7倍、ヨルダンは8.3倍である。これほど人口が増えれば、もめ事が増えるのは当然だろう。(中略)

1970年頃(シリア、ヨルダン)両国共に1人当たりの肉消費量は10キログラム程度であった。それが、現在、ヨルダンの消費量は45キログラムぐらいになった。一方、シリアの消費量はその半分程度にとどまる。

本来、農業国であるシリアの方が肉の生産量が多いはずだが、ヨルダンは飼料を輸入して大量に鶏肉を生産している。ヨルダンの肉消費量は日本と変わらない水準になっている。

ヨルダンはリン鉱石や天然ガスを産する。それを輸出して外貨を稼ぎ、かつ巧みな外交によって西側諸国から援助を得ている。食料の輸入に困らない。

人間の食べ物に対する欲求は基本的なものだ。腹が空けば怒りっぽくなる。一方、美味しいものを食べれば満足して温和になる。そのために、開発途上国の政情を考える時、肉の消費量はその国の政治を考える上で重要なファクターになる。(中略)

アラブの春によって、シリアのアサド政権は内戦に引きずり込まれることになったが、それは生活水準がなかなか改善されなかったからだろう。

一方、ヨルダンのアブドラ国王は危機が叫ばれながらも、なんとか政権を維持している。それは、肉の消費量が順調に増加したことに見られるように、生活水準が改善したためと考えられる。ヨルダンの人々に不満がないわけではないが、シリアよりはよいと思っているのだろう。

国家ではなく部族を信頼
アラビア半島に住む人は放牧によって食料を得てきた。(中略)

遊牧を行う人々は国家にはとらわれない。部族社会を形成する。そして、遊牧で養える人口は少なかったから、シリアもヨルダンも50年前の人口は少なかった。

だが化学肥料が使用されるようになって穀物生産量が増加すると、余った穀物が貿易を通じて砂漠の国にも流入した。それが人口を増加させた。

食料を輸入できるようになると、人々は遊牧を止めて都市で暮らし始めた。しかし、都市で暮らしても遊牧時代の記憶はなくならない。人々は国家ではなく、部族を信頼している。シリアもヨルダンもその実態は部族連合国家である。

そのような国を統治するためには、強力な独裁者が必要になる。イラクのサダム・フセイン、シリアのアサドはまさにそのような人物だった。

ヨルダンの王家は人口が少なかったために彼らほどの独裁的な政治を行う必要はなく、部族間の力関係を調節し巧みに操縦することでなんとか国家を維持してきた。
それが欧米に好感をもたれたのだろう。ヨルダンは西側について援助を引き出し、それなりに発展することに成功した。(後略)【2月9日 川島 博之氏 JB Press】
*******************

人口爆発と資源の減耗が同時進行し、食糧は輸入に依存
****中東・北アフリカが世界の火薬庫である理由****
中東・北アフリカ地域の人口爆発と資源減耗
・・・・中東・北アフリカ地域の人口は爆発的に増加している。同地域の人口は、1970 年の 1 億 9,000万人から 1995 年には 3 億 8,000 万人に倍増、2010 年には 4 億 5,000 万人程度に増加している。 
そして年齢別人口構成も、日本や欧州の「少子高齢化」とは対照的な「多子若齢化」が進んでいる。

エジプトはナイル川の水を利用した農業が盛んであり,穀物生産量は北アフリカで最大であるが,小麦、トウモロコシを多く輸入しており、小麦は世界最大の輸入国である。

サウジアラビアは,80年代より地下水を汲み上げて砂漠を小麦畑にしてきたが,水資源の枯渇が問題になったため、小麦生産はほとんど停止している。

イランは乾燥地帯であり、需要に見合う降雨のある地域は国土の10%しかないが、農業生産を地下水の汲み上げに依存しており、地下水位の低下は深刻だ。
 
アフリカ・中東の穀物輸入量が世界の穀物貿易量全体に占める割合は約3 分の 1 になっており人口爆発に食糧生産が追い付いていない。

一方、中東・北アフリカ地域は原油生産により発展してきた地域だが、資源の減耗は著しい。例えば、エジプトはかつて有数の産油国だったが、現在は原油の輸入国である。

内戦が続くシリアも、内戦勃発前には、原油生産がピーク時の60%まで低下し、国内のガソリンの価格が補助金の引き下げにより一気に三倍になった。現在は内戦のため、国内の原油生産はピーク時の5%にまで落ち込んでいる。

世界最大の産油国、サウジアラビアでさえ、原油輸出を続けられるか不安視されている。

このように、中東・北アフリカでは、人口爆発と資源の減耗が同時進行しており、食糧を海外からの輸入に頼っている。このことが、若年層の失業を招いており、その解は、見いだせないのが現状である。【2014年03月04日
辻元氏 「アゴラ」http://agora-web.jp/archives/1548248.html
*****************

食糧の多くを輸入に依存したとしても、労働力を吸収できる農業やその他産業を育成できていれば問題もないのでしょうが、補助金によって安価に輸入食料を供給することで国民不満をなだめる安易な方策と産業振興の無策によって、国内農業・産業が成長せず、若年層の大量失業という現在の社会不安を招いているように思われます。

中東・北アフリカの社会・治安の安定のためには、武力衝突への対応と同時に、人口爆発、水・食糧不足への対応も必要になります。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マレーシア  野党指導者アンワル元副首相の「有罪」確定で再構築を迫られる野党連合

2015-02-12 22:45:06 | 東南アジア

(最高裁判決の日のアンワル氏(中央)と夫人(左) “flickr”より By Trong Khiem Nguyen https://www.flickr.com/photos/trongkhiem/15876191223/in/photolist-qbVCwT-r4VD5j-r4Rx7z-r2dKHY-r4kVCC-qLYbji-qLQSim-r7MTcp-q6UaK9-r3Euu2-qSrRuM-r9MzW1-r6Rkox-qS1aH4)

事実上政治生命を断たれた野党指導者
マレーシアの野党指導者アンワル元副首相(67)の動向については、これまでもしばしば取り上げてきました。
(2014年3月21日「マレーシア “消えた航空機”も絡む、野党政治家アンワル氏の挑戦と既存勢力の抵抗」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140321 など)

多数派マレー系の他、華人系、インド系などの複合民族国家(2013年時点で、マレー系60%、華人系23%、インド系7%、その他10%)であるマレーシアは1957年の独立以来、現在の与党連合が政権を維持しています。

しかし、マレー系優遇策であるブミプトラ政策を根幹とした体制には近年揺らぎがみられ、かつて政権内部で副首相も務めたものの、内部抗争で政権外に追われたアンワル氏を軸にした野党連合が与党に迫る勢いとなっています。

2013年5月に行われた総選挙では初の政権交代があるかどうか注目されましたが、野党連合は得票率で上回りながらも議席では与党を下回る結果に終わり、政権交代は実現しませんでした。

その後もアンワル氏は政権交代に向けて、首都近郊に位置する最大州のスランゴールで州議会議員の補選に立候補し、州首相をめざす考えを明らかにするなど精力的な活動を行ってきました。

しかし、2014年3月、2008年にアンワル氏が事務所スタッフの男性に「同性愛行為」をしたとして異常性行為罪に問われた事件の控訴審で、マレーシアの上訴裁判所は無罪とした2012年の1審判決を取り消し、逆転有罪判決を言い渡しました。

有罪となると、国会議員を失職し、しかも出所後5年は選挙に立候補できないことから、年齢的に考えると政界復帰は難しくなります。

アンワル氏は上告、最高裁判決が注目されていましたが、結局「有罪」が確定しました。

****<マレーシア>「同性愛」アンワル元副首相収監 禁錮5年*****
マレーシアの連邦裁判所(最高裁)は10日、元助手の男性に同性愛行為をしたとして不正性行為罪に問われた野党指導者で「野党連合」を率いるアンワル元副首相(67)の上告を退けた。

禁錮5年とした2審判決が確定し、収監された。

アンワル氏は内部に多様な意見を抱える野党連合をカリスマ的指導力でまとめ上げてきた。政界復帰が厳しい中、野党連合のほころびや弱体化を懸念する声もある。

イスラム教を国教とするマレーシアで同性愛行為は違法だが、実際に罪に問われるのはまれ。
アンワル氏は「政治生命を絶つための(政権による)でっちあげだ」と主張した。

マレーシアは言論規制が敷かれるが、ここ数年、政権批判の大規模デモが起きている。アンワル氏の支持者らが今回の決定に反発するのは必至で、反政権デモが再燃する可能性もある。

アンワル氏はマハティール政権(1981~2003年)で副首相を務め、一時はマハティール氏の後継者と目されていた。

しかし、経済政策などでマハティール氏と対立し、98年に副首相を解任された。その後、同性愛行為や職権乱用罪で起訴され、6年間服役した。

同性愛行為については04年、連邦裁で逆転無罪となり、釈放された。

しかし、08年に元助手に対する別の同性愛行為で逮捕、起訴された。1審は無罪だったが、2審は逆転有罪となった。

アンワル氏は08年の下院補選で国政復帰。独立以来50年以上続く長期政権の「腐敗」を批判し、自ら率いる野党連合の支持を広げた。13年5月の総選挙で政権与党に肉薄し、次期総選挙での政権交代を目指していた。【2月10日 毎日】
****************

上記記事にもあるように、これまでもアンワル氏は同性愛行為で訴えられ政治的危機を経験しています。
前回の同性愛行為に関する訴訟については、2004年最高裁が無罪判決を出しています。

その後08年にふたたび同性愛行為で訴えられ、今回の「有罪」確定となっています。

実際に同性愛行為があったのかどうかは知りません。(もちろん、事実であってもなんら問題ないとは思いますが、マレーシアの法律ではそういう訳にはいきません)

同性愛行為を違法とするイスラム国家マレーシアにあって、物証の少ない同性愛の訴えは非常に便利な政敵追放の手段でもあります。

アンワル氏が政権にとっては最大の政敵であるだけに、真相については微妙です。

*****************
米国政府は10日、「有罪確定に深く失望している。米国は法による支配と司法の独立の観点からアンワル氏の裁判の行方を懸念してきた」とのコメントを出した。

傍聴した国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ幹部も「マレーシアの裁判に対する人々の信頼は間違いなく損なわれた」と非難した。

これに対し、マレーシア政府は「バランスのとれたあらゆる証拠と客観的手法に基づいた判決だ。マレーシアの司法制度は独立している」とコメントした。【2月11日 朝日】
******************

【脱皮を求められる野党連合】
いずれにしても、これでアンワル氏の政治生命がほぼ断たれたことになり、アンワル氏がまとめ上げてきた野党連合も空中分解の可能性があります。

現在の野党連合は、アンワル氏の人民正義党(中道リベラル)を軸に、それまで対立しがちだった華人系中道左派の民主行動党とマレー系イスラム主義右派の全マレーシア・イスラーム党の間で選挙協力体制を構築したものですが、かなり異質な勢力をアンワル氏のカリスマでくっつけた感もあります。

それだけに、アンワル氏を欠いては持続が難しいようにも思えます。

****マレーシア野党連合、脱皮の好機 アンワル元副首相収監 ワンサイフル・ワンジャン氏****
 ■<考論>ワンサイフル・ワンジャン氏(民主・経済問題研究所所長)

マレーシアの野党指導者アンワル・イブラヒム元副首相(67)が10日、同性愛行為で禁錮5年の有罪が確定し、収監された。年齢を考えれば、表舞台でのアンワル氏の政治活動は終わったと見るべきだろう。

アンワル氏が仕切ってきた野党連合は、同床異夢の3党が彼を頼りに集まったに過ぎない。

野党勢力が弱体化するとの見方もあるが、私には個人に頼らない真の野党連合に脱皮する好機に映る。この危機を前に結束できれば、強くなる。逆にこの先数カ月も内部の混乱が続けば、崩壊する。

アンワル氏が果たした役割は大きい。かつて国民は与党に従うしかなかった。だが、彼は国民のために政治が何をできるかを問い、民衆も政治に「果実」を求めるようになった。

半世紀以上も続く与党連合を脅かす勢力も作り上げた。

一方、彼の妻は野党・人民正義党(PKR)党首、娘は副党首だ。一族による政治支配は弊害にもなる。

収監は内外に負のイメージを与えた。同性愛行為は他にもあるだろうが、狙い撃ちされた感が否めない。警察の不透明な動機が内外の不信感につながっている。

ただ、政治のあり方は国民自身が決めるものだ。【2月12日 朝日】
******************

“個人に頼らない真の野党連合に脱皮する好機”・・・・なかなか難しいことです。

ただ、仮にアンワル氏のもとで次期総選挙で政権を獲得できたとしても、同床異夢の連合では有効な政策推進は難しいとも思っていましたので、野党連合が崩壊したとしても、“遅かれ早かれ”というところではあります。

個人的には、マレー系イスラム主義右派の全マレーシア・イスラーム党(PAS)に違和感があります。

【「ブミプトラ政策」を今後どうするのか?】
“政治のあり方は国民自身が決めるものだ”・・・・その根幹は、やはり国策“ブミプトラ政策”をどう考えるかでしょう。

「ブミプトラ政策」(マレー人優遇政策)は、ブミプトラ(マレー人とその他の先住民)と華人(中国)系住民との経済格差を是正することを主目的としてきました。

しかし、推進者であるマハティール元首相も、マレー系住民に対する優遇政策の必要性を訴えながらも、過保護がマレー系住民から危機感を奪い勤労意欲を削いでいるという弊害に苦慮もしていたと言われます。

その後の経済成長で華人との経済格差も縮小しました。
また、成長したマレー系中間層からも、より自由な活動を望む声も出てきています。

そうした情勢を背景に、ブミプトラ政策を見直すとして2009年に発足したナジブ政権でしたが、マレー系右派からの反対運動などにより見直しがほとんどできず、2013年の総選挙終了後は、逆にブミプトラ政策を強化する方針を打ち出しています。【2014年6月9日 JB Press 大場 由幸氏“TPP交渉でマレーシアが譲らない「国益」”より】

基本的には、やはりブミプトラ政策を見直すことへのマレー系住民の抵抗は強いようです。

しかし、これまでマレー系、華人系、インド系の絶妙なバランスをとり、イスラム圏で経済的に最も成功した「穏健派イスラム国モデル」と称されるマレーシアですが、更に一段の成長のためには過度の規制・制約は足枷となるように思えます。

次期総選挙は2018年と思われますが、それまでにブミプトラ政策の必要性・あり方についての議論、それを踏まえた野党連動の再構築が必要となるでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フランス  襲撃事件以降、高まる社会的緊張 「追い風」を受ける右翼政党・国民戦線

2015-02-11 22:09:43 | 欧州情勢

(襲撃事件後の1月11日のマリーヌ・ルペン党首(中央女性) “flickr”より By Vincent Jarousseau https://www.flickr.com/photos/jarousseau/16077745038/in/photolist-qw8JgC-quThxV-quS62x-quKEhA-qMiZm2-quJPzU-qMiLjk-qM9rCM-quJDsE-qM9q44-quJCLE-qtGjDZ-quTavD-qMiNJF-qMiSGv-quS216-quKAuW-quT8pp-qMeBpb-pQwGWk-qK2aAs-qK1XFL-qMeHsy-qM9EXn-qM9tVT-qK214b-quJKeu-quKzu9-pQiPUL-pQwJ5n-quJFfh-qM9wbe-dYGvcx-qFq4T5-qrHt28-qJ5HBg-qwH1u2-qDhjcR-qA99uS-qLfDjR-qPuZ1k-qK9VKs-r3S4w8-qC4wAq-qSncz5-qLpvEw-pLPqgB-qFeyt3-qAr4VZ-qHE7NB)

【「私たちは、ただ皆と平和に暮らしたいだけだ。しかしこの事件で状況が悪化しようとしている」】
「自由・平等・博愛」を基本理念とするフランスでは風刺紙シャルリーエブド襲撃事件以降、民族・宗教の違いによる社会的緊張が高まっています。

****過激派の烙印恐れる仏イスラム教徒 ****
フランス・パリ郊外では、北アフリカ系の多くの移民が失業と貧困の中で暮らしている。若い労働者が、地域のパーティーの開催を知らせるポスターの前を暗い表情で通り過ぎていく。

姓や年齢を明かさずにインタビューに応じたモハメドさんは、仏風刺週刊紙「シャルリー・エブド」がイスラム過激派に襲撃されたことにより、町でたむろする若者たちの将来が暗くなる可能性があると訴える。

「私たちは、ただ皆と平和に暮らしたいだけだ。しかしこの事件で状況が悪化しようとしている。友人たちも、まるで自分が事件と関係があるかのような目で見られることがあると話している」と述べた。

 ◆欧州最多の500万人
フランスでは事件後、モスクが相次いで襲撃され、イスラム教徒は身をひそめるようにして暮らしている。

イスラム教指導者たちは、シャルリー・エブドの襲撃事件に対する他のフランス市民の抗議活動を刺激しないよう、イスラム教徒たちに慎重かつ冷静な姿勢を保つことを呼びかけている。また、ベールで顔を隠している女性は1人で外を出歩かないようにと促している。

労働者階級が多く住むパリ郊外のセーヌ・サン・ドニを拠点とするイスラム協会連合(UAM93)の広報担当者、ムハメド・ヘニチェ氏は「パニックが広がっている。イスラム教徒の中に、『次に来るのは何だ?』と自問する人が増えている」と述べた。

極右政党国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は以前から、フランスの抱える悩みの多くは移民がもたらしているとの見解を示してきた。しかし現在はイスラム過激派に強硬な措置を取るよう主張を激化させており、イスラム教徒が感じる脅威は強まっている。

モハメドさんの近所に住む主婦のレイラ・ジェロウアニさん(55)は「フランスの人々が動揺するのは当然だ。彼らは私たちを侮辱し、私たちは彼らを侮辱する。それは仕方がない。だが互いに殺し合うところまでいくべきではない」と述べた。

全国民に占める割合で比較すると、フランスのイスラムコミュニティーの規模は欧州最大で、約500万人である。20世紀にフランス領だった北アフリカからの移民の子や孫の世代が増えつつあり、同国のイスラムコミュニティーは拡大を続けている。

パリ郊外のル・ブラン・メニルは移民が多く住む地域で、モハメドさんの職場もそこにある。パリのダウンタウンからわずか10マイル(約16.1キロメートル)しか離れていないが、豊かで華やかなパリとはまったく違う世界である。

失業率は20%で、全国平均の2倍に達する。住宅の38%が公営住宅で、住民の半数が所得税非課税の低所得者である。

モハメドさんが働く殺風景な低層の建物は、近隣の家庭に数少ない楽しみを提供する場所の一つである。翌日は地域のパーティーだった。モハメドさんも参加し、子供たちのために空気で膨らませる城を作ったり、親たちにリフレッシュの場を提供したりして、自身も日頃の憂鬱を忘れて過ごすつもりだという。

「大半の人々は平穏に毎日を過ごそうとしている。問題を起こすのはごく一部の人たちだ。誰もかれも同じような目で見られるのは非常に残念なことだ」と述べた。

 ◆反移民本や政党人気
ヘニチェ氏によると、フランスでは昨年10月に仏ジャーナリストのエリック・ゼムール氏が、イスラムコミュニティーの成長が火種になって内戦に至る可能性があるとし、移民を強制送還せよと発言した。

それ以降、イスラム教徒に対する圧力が強まっている。移民が同国の主権を脅かしていると論じたゼムール氏の最新の著書は、50万部近くを売り上げている。

またシャルリー・エブドの襲撃事件は、仏作家のミシェル・ウエルベック氏が、フランスでイスラムの影響が強まることへの懸念を表現した小説の発売日と同じ日に発生した。

この小説の筋書きは、2022年にフランスにイスラム教徒の大統領が誕生し、その保守的な宗教観をフランスの社会に広めようとするというものだ。

国民戦線のルペン党首は、移民への反感の高まりを追い風にして、今やフランスで最も人気の高い政治家の一人である。

1月8日には、同国で1981年に廃止された死刑制度の復活を求める国民投票の実施を求めた。またオランド大統領に対し、イスラム原理主義者への対抗策としてもっと強硬な手段を認めるべきだと訴えた。

UAM93のヘニチェ氏によると、同氏が担当する区域において、イスラム教徒が狙われる出来事の頻度が増し、女性たちが侮辱されたりベールを取られたりする事例も発生しているという。同氏の担当区域にはル・ブラン・メニルも含まれる。

イスラム系ニュースサイトのサフィアニュースのジャーナリスト、アナン・ベン・ローマ氏はリベラシオン紙の取材に「今発生している状況が下地となって、フランスがますます悪意のある考えを受容しやすい社会になってしまうかもしれない。人々が過度に単純化した答えに飛びつくことを恐れている」と述べた。(ブルームバーグ Angeline Benoit、Maher Chmaytelli)【2月6日 SankeiBiz】
********************

息をひそめるのはイスラム社会だけではなく、襲撃に怯えるユダヤ社会も同様です。
フランスで暮らすことをあきらめてイスラエルへの移住するユダヤ人も増加しています。

****ユダヤ社会の動揺続く=やまぬ襲撃、イスラエル移住も―連続テロ事件1カ月・仏****
ユダヤ人を含む17人が犠牲となったフランス連続テロ事件を受けて、仏国内のユダヤ社会の動揺が続いている。

ユダヤ人に対する差別的な言動や関連施設を狙った襲撃が事件後も後を絶たず、イスラエルなどへの移住を検討する人が急増。オランド大統領は「フランスはユダヤ人の故郷だ」と警備などの面で支援に全力を挙げているが、沈静化には時間がかかりそうだ。

事件は7日で発生から1カ月。風刺紙シャルリエブド襲撃の2日後には実行犯の1人とされるアメディ・クリバリ容疑者=死亡時(32)=がパリ東部のユダヤ食品店に立てこもり、人質のユダヤ人4人が殺害された。

2月に入ってからも事件は続き、南仏ニースでは3日、ユダヤ集会所を警備中の兵士2人が男に刃物で襲われ、軽傷を負う事件も起きている。

フランスのユダヤ人口は、イスラエルと米国に次ぐ世界3位の約50万人。しかし、近年ではパレスチナ情勢の緊迫などを受け、イスラム系住民を中心に「反ユダヤ」の機運が台頭。ユダヤ人を狙った犯罪も相次いだことから、2014年にフランスからイスラエルに移住したユダヤ人は7000人超と前年から倍増、過去最高を記録した。

イスラエルへの移住支援を手掛ける「ユダヤ機関」仏事務局の担当者は「説明会への参加申し込みは事件後に10倍超に急増した」と語り、今後も仏退去の動きは加速すると予想した。

他国への脱出を検討するパリのユダヤ人、サラさん(25)は仏紙ラクロワに「事態が悪化すれば国外に追放される。就職する前に離れたい」と心情を明かしている。【2月6日 時事】 
*****************

【「地域的、社会的、民族的なアパルトヘイト(人種隔離政策)が存在している」】
一方で、宗教・民族の違いによる緊張関係を乗り越えて、国民融和を求める動きもあります。

****<仏テロ1カ月>移民との融和論活発 テロ対策強化の一方で****
仏週刊紙「シャルリーエブド」襲撃事件から7日で1カ月。イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画掲載を発端とする一連の事件を受け、フランスではテロ対策の強化が図られる一方、事件の背景となった移民社会への差別問題やイスラム教のあり方が改めて議論されている。

射殺された容疑者3人が恵まれない移民集住地域の出身で、「表現の自由」など西洋的価値観を認めない偏狭なイスラム過激主義者だったためだ。

 ◇首相「人種隔離」自戒
「地域的、社会的、民族的なアパルトヘイト(人種隔離政策)が存在している」。バルス仏首相は1月20日の記者会見で、一連の事件の背景を刺激的な表現で指摘した。

週刊紙本社を襲ったクアシ容疑者兄弟とユダヤ教徒向けスーパーに立てこもったクリバリ容疑者が、旧植民地アルジェリアやマリからの移民2世で、移民集住地域の出身だったからだ。

パリ北郊の移民集住地域では2005年、社会的差別に基づく高失業率や失望感から暴動が起きている。バルス氏は「誰が05年を覚えているのか」と歴代政権の無策を自戒した。

「郊外の未来」の著者、パリ第8大サンドニ校のミシェル・ココレフ教授(55)は「郊外の(移民)集住地域に対する(これまでの)公共政策は無力だった」と指摘。「大半が白人の政治家に希望を託せず、社会や政治からの疎外感を持っている。住民の声をまとめて政治に届け、市民意識を育てる地域グループの支援が必要だ」と訴える。

一方、事件後も「言論の自由は守られるべきだ」との世論に大きな変化はない。2週間後に行われたIPSOS社の世論調査では、5割以上が「言論の自由は守られるべきで、同種(ムハンマド)の風刺画の発行に賛成」と答え、約4割は「個人的には同種の風刺画の発行に賛成しないが、言論の自由、出版の自由は守られるべきだ」と回答した。「同種の風刺画の発行に反対」は1割未満だった。

西洋的価値観を暴力的に否定するイスラム過激主義を前に、イスラム教指導者の中からも自省の声が上がっている。

仏東部ボルドー郊外のイスラム教指導者、マフムード・ドゥア氏(47)は「外国出身のイスラム教指導者はフランス語が話せるだけでは不十分。文化や歴史を理解する必要がある」と語る。

同国のイスラム教指導者の大半が北アフリカの旧植民地出身者のため、「表現の自由」を尊重する仏文化との融合が進まないとの指摘だ。「仏文化や歴史に合わせた教義をイスラム教の神学者たちが定義すべきだ」と訴える。

大学で講義も行う別の指導者タアール・マーディ氏(51)も「来仏する外国人の指導者は母国から資金援助を受けているため、フランスになじまない自国流を押し付ける傾向がある」と指摘。

イスラム過激派について「コーランの大半を占める慈悲や愛、平和についての節を無視し、正当防衛の戦争などに言及した数節だけをとらえて曲解している」と批判している。

一連の事件では、容疑者同士が服役中の刑務所で知り合い、過激化した経緯があるため、バルス氏は1月21日、刑務所で教えを説くイスラム教指導者の雇用費などの予算を倍増すると発表した。【2月6日 毎日】
***************

17年には、「ルペン」という名の大統領が誕生する可能性も
政治的に見ると、事件後、空前の低支持率に喘いでいたオランド大統領の支持率が回復しています。

事件解決から約1週間後の1月16,17の両日に行われた世論調査では、昨年12月の19%から40%へ、21ポイントの急上昇したそうです。

調査担当者は、“事件を発生から3日で終結させた一連の対応や、40カ国以上の首脳を含む370万人が参加した反テロ大行進の企画などが高く評価された”【1月19日 時事】と分析しています。

国民の結束を呼び掛けたバルス首相の支持率も、17ポイント上昇し61%となったそうです。

もっとも、持続可能かどうかは、今後の経済運営次第と見られています。
非常時の支持率回復は2013年1月、フランス軍のマリ軍事介入時にもみられました。

オランド大統領への支持回復もあって、8日にフランス東部であった議会の補欠選挙で、与党・社会党の候補が国民戦線候補を振り切って勝利しました。オランド大統領就任後では、補選における社会党の初めての勝利だそうです。

“与党・社会党の候補が前評判を覆して勝利した”【2月11日 日経】・・・・事前予想では国民戦線候補が勝利すると見られていたのでしょうか。

その点では、社会党が踏ん張ったということでしょうが、一方で国民戦線候補がほぼ半数の票を獲得していることには驚かされます。

****落選の右翼FN、半数に迫る得票 仏下院補選****
仏東部ドゥー県で8日、国民議会(下院)補選の決選投票があった。与党・社会党が無効票などをのぞいて51・4%の得票で議席を守る一方、右翼・国民戦線(FN)の得票は48・6%に達した。1月の連続テロの後、初の国政選挙で、移民規制の強化などを訴えるFNが勢いを見せつけた。

社会党のフレデリック・バルビエ氏(54)は1日の第1回投票で2位だったが、中道右派の一部が支持に回って逆転した。FNのソフィー・モンテル氏(45)は議席には届かなかったものの、首位だった第1回投票(得票率32・6%)から15ポイント超上積みした。【2月10日 朝日】
*******************

風刺紙シャルリーエブド襲撃事件で支持を回復したオランド大統領ですが、強まる反イスラム・移民排斥の風潮によって、オランド大統領以上にマリーヌ・ルペン党首率いる右翼政党・国民戦線への追い風が強まっています。

すでに、昨年9月のフィガロ紙の世論調査では、ルペン氏の支持率は現職のオランド大統領を15ポイント上回っていました。

マリーヌ・ルペン氏は、父親から引き継いだ“極右政党”のイメージからの脱却を行ってきました。

“ルペンにとっての課題は、国民戦線のあまりに過激なイメージを和らげることだ。そこでルペンと党幹部たちは、「毒抜き」を行い、人種差別と反ユダヤ主義の党から脱皮し、強力なナショナリズムとバラまき経済政策を掲げる政党に転換しようとしてきた。”【1月16日 Newsweek】

しかし、移民・イスラムへの厳しい姿勢は堅持しています。

“イスラムの脅威に早くから警告を発していたルペンに先見の明があったと考える国民も多いだろう。
ほかの政治指導者が追悼を呼び掛けたり、テロの背後にある憎悪を非難したりしているとき、ルペンはテロをフランスに対する宣戦布告と呼んだ。テロ翌日には、死刑制度の復活を問う国民投票を実施すべきだとも述べている。”【同上】

国民戦線は、昨年の欧州議会選で約25%の支持を得て、2大政党を抑えて国内第1党となっています。

オランド大統領の高支持率もどこまで持つか怪しいものですし、過去の人とも思われたサルコジ前大統領が復活した右派・国民運動連合(UMP)は内紛を抱えています。

おそらく、3月の地方選挙では、国民戦線が大躍進するでしょう。
問題は、2017年の大統領選挙です。

昨年来、国民戦線の支持拡大は指摘されてきたところで、2017年の大統領選挙では上位2者に残り、決選投票に進む可能性が取り上げられていました。
ただ、さすがに決選投票となると、反“極右”感情から、過半数を獲得するのは難しいだろう・・・という見方でした。

“フランスでも多くの研究者が以下の想定で一致する。2017年大統領選でルペン党首は決選に残り、22年には大統領選を制するかもしれない”【1月27日 朝日】

ただ、仏東部ドゥー県で8日に行われた国民議会(下院)補選結果をみると、すでに2017年で手が届くところまできているのかも・・・という感もあります。

“そして17年には、「ルペン」という名の大統領が誕生するという、かつてはとうてい想像できなかったことが現実になるのだろうか。”【1月16日 Newsweek】

****インタビュー)フランス社会の混迷 マリーヌ・ルペンさん****
「テロの原因を考えると、悲しくなります。イスラム原理主義が我が国に浸透していると、私たちはずっと以前から警告してきましたから。彼らは、一部の地域を占拠し、犯罪組織とつながりを持ち、世俗社会を尊重しません。自由なフランスの理念に対し、全体主義の立場から宣戦を布告しているのです」

「テロは手段に過ぎません。テロを生み出す理念こそが問題なのです。原理主義はイスラムのがん細胞。摘出しないと健康な細胞まで侵し、どんどん増殖する。フランス社会を分裂させ、自分たちだけの社会を内部に形成しようとする。そうなれば、政教分離の原則は崩壊するでしょう。政治は長年、この現実に目をつぶってきました」

「テロ直後に生まれた国民の一体感を強調するあまり、事件を招いた責任を忘れてはいけない。テロはなぜ起きたのか、私たちは何をすべきなのか、開かれた議論をしなければなりません」

「まず(欧州統合で廃止された)国境管理を復活させ、移民の流入を止め、刑罰の緩みをただすべきです。『原理主義を社会から孤立させよ』などと言う人がいますが、その前に(罪を犯した)彼らを逮捕し、処罰し、収容するための刑務所を増設しなければなりません」【1月27日 朝日より】
************************

マリーヌ・ルペン氏は「毒抜き」を行ってきました。しかし、人種差別につながる体質というか、「遺伝子」は残っています。より正確に言えば、体質・遺伝子は左右を問わず誰しも持っているのでしょうが、それを表に出して憚らない政治姿勢・・・と言うべきでしょうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ギリシャ債務問題 決断を迫られるギリシャ・EU 11日にEU臨時財務相会合

2015-02-10 22:04:14 | 欧州情勢

(1月25日、ギリシャの首都アテネで、急進左派連合(SYRIZA)の総選挙勝利を喜ぶ人々【1月26日 AFP】
チプラス首相も、メルケル首相も国内事情を抱えて容易には譲歩できません。)

増幅し合う欧州が直面する3つの危機
欧州は今、中東での暴力に起因するテロの脅威と移民排斥の動き、ウクライナ問題を巡るロシアとの緊張、ギリシャ債務問題を巡る経済混乱の懸念・・・という三つの問題に直面しています。
(いずれの問題も、日本を含めた世界全体に影響が及ぶという意味では、欧州に限定されない世界的な問題ですが)

その三つの問題は、国内における反EUの路線をとる極右・極左などの急進的政治勢力の台頭を通じて連動・増幅しています。

経済的な苦境を背景に、急進的政治勢力はイスラム移民によるテロの脅威を強調することで国内での支持を拡大しており、こうした勢力の多くはEUと対峙するロシアに対しては融和的姿勢をとっています。
ギリシャの左翼新政権もEUのロシア制裁を批判する形でEUに揺さぶりをかけています。

また、ギリシャ債務問題でギリシャの主張を認めれば、スペインで躍進する左派新党「ポデモス」などの同様主張を行っている勢力を拡大させることになり、一方で、ドイツ・フランス・オランダなどにおいては、自国税金をギリシャに投入することに批判的な国民の極右勢力への支持を強めることにもなります。
(1月30日ブログ“ギリシャ 「反緊縮」チプラス新首相とEUの両者とも譲れない「チキンレース」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150130

****欧州の真ん中を走る危険な亀裂経済恐慌と不安定な政治、1930年代の再来はあるか****
欧州を苦しめている危機は3つある。そのうちの2つは欧州連合(EU)の境界の近く、すなわち好戦的なロシアと、内側から崩れつつある中東で生じている。残りの1つは政治、経済、外交の緊張が高まっているEU内部で生じている。

この1カ月、3つの危機はいずれも激しさを増している。パリで起こったテロリストによる襲撃事件は、中東での暴力や宗教的緊張の影響が欧州にも及ぶかもしれないとの不安を高めた。

ロシアの支援を受けている分離主義者は、ウクライナで攻撃を再開している。

そして、ギリシャの総選挙での急進左派連合(SYRIZA)の勝利は、ユーロ危機勃発後では初めて、EU域内で急進的な左派政党が国政選挙に勝利したことを意味する。

互いに増幅し合う3つの危機
ロシアの問題と中東の問題、そしてユーロ圏の問題は、それぞれ大きく異なる要因から発生しているものの、悪化するにつれてお互いを助長し始めている。

EU加盟国の大半は景気が悪く、左派と右派の両方でポピュリスト政党が台頭しやすくなっている。そして、ポピュリストがエネルギー源とする人々の不安感は、中東の紛争の影響――テロの発生や不法移民の大量流入など――によってさらに強められている。

ギリシャやイタリアといった国々では、中東からの(あるいは中東経由の)移民の流入によって社会の危機だという雰囲気が強まっており、移民問題が緊縮財政に負けないほどの論争を引き起こすようになっている。

一方、ロシアによるウクライナへの軍事介入は、EUの外交政策にとって冷戦以来最大の試練となっている。対応を誤れば、この一件は軍事紛争に発展しかねない。EUはドイツの主導によってなんとか団結し、まずまず厳しい内容のロシア制裁パッケージを打ち出した。

しかし、欧州内部での急進的な政治勢力の台頭は、対ロシア政策でのEUの団結を脅かしている。そのため、ロシア政府が自信を深めて危機がエスカレートする可能性も高まっている。

ギリシャやドイツ、フランスといった国々の極左と極右は、ウラジーミル・プーチン氏率いるロシアへの好感によって結びついているように見える。

極右勢力はプーチン氏の社会保守主義、国民国家というものを強調する姿勢、専制政治、米国とEUに対する敵意などを好ましいと思っている。

また、極左勢力は、モスクワに対する昔からの親近感をまだ持ち続けているようだ。

ロシアがEU域内の極右・極左勢力に接近することは、完全に理にかなっている。EUの団結が崩れれば、ロシアの孤立に貢献してきた制裁の体制も崩れ始めるからだ。

プーチン氏はすでに、フランスの極右政党である国民戦線(FN)や、ギリシャのSYRIZAと交流している。ギリシャのアレクシス・チプラス新首相が最初に面会に応じた外国政府高官は、ギリシャ駐在のロシア大使だった。

ギリシャ政府は時をおかずに、EUの対ロシア追加制裁に反対を表明している。(後略)【2月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
*****************

厳しさをますギリシャを取り巻く環境
三つの問題のうち、ウクライナ問題については、親ロシア派がロシアの支援で攻勢を強める一方で、アメリカはウクライナ政府への武器供与もありうるとの姿勢を見せています。

米ロ代理戦争の危機が高まるなかで、11日に独仏とロシア、ウクライナがベラルーシの首都ミンスクで首脳会談を行い、ギリギリの調整を行う予定になっています。

アメリカの武器供与、EUの対ロシア追加制裁発動も、11日の会議待ちとなっています。
(この件については、11日の会議の結果を踏まえて、後日に扱うことにします)

ギリシャ債務問題についても、EUは同じく11日に臨時財務相会合を、12日に首脳会議を開いて協議する予定となっています。(EUを牽引するドイツ・メルケル首相も、ウクライナにギリシャと大変です)

ギリシャのチプラス首相は4日、ブリュッセルでEUのユンケル欧州委員長、トゥスク大統領らと相次いで会談しました。チプラス首相は一連の会談後、「債務問題で共通の解決策を見いだすことは可能」と述べ、EUとの協議に自信を示しています。

しかし、情勢は厳しさを増しています。

****ギリシャ国債担保停止=反緊縮の新政権に圧力―欧州中銀****
欧州中央銀行(ECB)は4日、ギリシャ国債の担保受け入れを11日に停止すると発表した。同国債を担保とした銀行への資金供給をストップする。

市場での自力資金調達が困難なギリシャの銀行にとっては、ECBの低利融資は資金繰りの生命線。この状態が長期化すれば、銀行の資金繰りが逼迫(ひっぱく)する恐れがある。

1月の総選挙を受け発足したギリシャ新政権は、欧州連合(EU)ユーロ圏諸国や国際通貨基金(IMF)から受けた支援融資の返済条件緩和や、融資の条件となってきた緊縮財政策の見直しを主張している。こうしたギリシャの動きにECBは厳しい現実を突き付け、拒否の圧力を加えた形だ。

ギリシャへのEUなどの金融支援は、月内で期限が切れる。支援延長など何らかの対策がまとまらなければ同国は期限切れ後に資金不足に陥る恐れもあるが、EUとギリシャの主張の隔たりは大きく、状況は切迫感を増してきた。【2月5日 時事】
******************

****ギリシャ国債格下げ、Bマイナスに…S&P****
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は6日、ギリシャ国債の格付けを投機的水準である「B」からさらに1段階引き下げ、「Bマイナス」とした。

これにより、S&Pの格付けでギリシャよりも低い国は、アルゼンチン、ウクライナなど、財政状況が極めて悪い数か国だけとなった。(後略)【2月7日 読売】
******************

****ギリシャ債、利回り11%台=債務問題懸念で売り****
週明け9日の欧州金融市場では、ギリシャ債務問題への懸念から引き続き同国国債が売られた。指標となる10年物国債利回りはロンドン時間午後0時30分時点で11.346%と前週末取引終盤比0.890%上昇した。11%台に乗せたのは先週5日以来。

また、主要株価指数のアテネ総合株式指数は前週末比で一時6%超下落。この動きを眺め、英独仏など欧州各国の株式市場でも朝から売りが優勢の展開となった。【2月9日 時事】 
******************

チプラス首相 ギリシャ支援は「失敗だった」】
チプラス首相は強気の姿勢を崩しておらず、EUなどによるギリシャ支援は「失敗だった」と、財政緊縮策を前提とした支援策を拒否する発言をしており、EUとの交渉は難航しそうです。

****<ギリシャ>緊縮策伴う支援拒否 EUとの交渉は難航か****
欧州でギリシャの先行きを巡る不透明感が強まっている。

先月の総選挙で政権に就いたチプラス首相は8日行った施政方針演説で、2月末に期限を迎える欧州連合(EU)の支援延長を求めない方針を表明。
ユーロ圏諸国に公的債務の削減と、緊縮策の抜本的な見直しを求める考えを改めて表明した。

EUは11日に臨時財務相会合、12日に首脳会議を開いてギリシャ問題を協議する予定。ただ、最大の支援国・ドイツが支援枠組みの変更に難色を示すなど、交渉は難航が予想される。

「(現在の支援枠組みの)延長は、過ちと災厄を延長することだ」。チプラス首相は8日の演説で、前政権が決めた緊縮策などを批判し、新たな支援の枠組みの構築を改めて訴えた。

新政権の最大の狙いは、国内総生産(GDP)の175%に膨らんだ公的債務の削減だ。

ギリシャは、(1)ユーロ圏各国が保有するギリシャ国債を、新たに発行する債務返済額が名目GDP成長率に連動する「GDP連動国債」と交換する(2)欧州中央銀行(ECB)が持つギリシャ国債を、元本を償還しない代わりに利子を永久に支払い続ける「永久債」に切り替える--という案を提示。

当面の政府の資金繰りは、政府短期証券を発行して銀行から資金を調達する案や、ECBに融資を求める方針を示している。

だが、ドイツのショイブレ財務相は「正しい方向と思えない」と債務削減を否定。永久債への債務交換は、EUの基本法が禁じるECBによる加盟国への財政支援にあたる可能性があるため、ECBが応じる可能性は低い。

資金繰りも綱渡りだ。ギリシャがあてにする政府短期証券は、ECBが定めた範囲でしか発行できず、すでに発行額は上限に達している。

しかもECBは先週、ギリシャ国債を融資の担保として認める特例を打ち切っており、銀行が政府の資金調達に応じるかは見通せない情勢だ。

ギリシャ政府は、11日のEU財務相会合で債務削減やつなぎ資金の詳細案を示す方針だが、各国の反発を受けて、3月末にも資金不足に陥る懸念もある。

ギリシャの債務問題をきっかけに2009年に始まった欧州債務危機が再発しないか、金融市場は警戒を強めている。【2月9日 毎日】
******************

差し当たり、短期の資金調達をどうするのか?】
差し当たっては、短期の資金繰りが問題となります。
それによっては、“グリグジット”(ギリシャのユーロ離脱)も現実味を帯びたものになりかねません。

****このまま行けば数週間で「グリグジット」も 今後4カ月をどう乗り切るか、決断まであと数日しかない****
悲惨な経済外交が繰り広げられた1週間
政治的には、今の状況はギリシャの債務危機が始まった2010年と同じくらい悪い。先週は全くもって悲惨な経済外交の1週間だった。同じような状況が数週間も続けば、グリグジット(ギリシャのユーロ離脱)が現実となる。

ギリシャと欧州の債権国・機関が、どうすればギリシャが今後4カ月間を乗り切れるかを決めるのに、あと数日の時間しか残されていない。

ギリシャ政府の支出計画を賄う資金が3月までに用意されるためには、欧州各国の財務相は11日の会合で妥協案に合意しなければならない。

そして、この合意に達して初めて、ギリシャ政府と債権者は本当に重要な問題――例えばギリシャ経済の将来など――について話し合いを始めることができる。

緊急流動性支援枠(ELA)の上限引き上げを決めた先週の欧州中央銀行(ECB)の決断のおかげで、ギリシャの銀行システムは当面保護される。ただし、あまり長くは保護されない。このため、短期の資金調達が主要な優先事項となる。

バロファキス財務相には、本質的に4つの選択肢、あるいは、その組み合わせがある。それぞれの選択肢に対し、このドラマの主要な役者の少なくとも1人が反対している。

4つの選択肢
第1の選択肢は、既存の救済プログラムの延長だ。これは手続き上最も容易で、ギリシャ政府を除くすべての人にとって許容できる措置だ。

バロファキス財務相はすでに、この選択肢を排除している。SYRIZAはまさにそれをやらないと約束して選挙に勝ったばかりだからだ。(中略)

第2の選択肢は、バロファキス財務相にとって、より魅力的だ。
同氏はそれほど理不尽でない要求として、ECBに対し、危機時のギリシャ国債購入で得た利息と利益を分配するよう求められるだろう。こうした資金は現在、保留されている。仮に分配が実現しても、それだけでは十分ではない。

バロファキス財務相は欧州諸国の財務相に、ギリシャ政府が発行できる国債の上限の撤廃に同意するよう求める必要もある。

発行上限は、ギリシャ政府が救済期間中に過度に国債を発行しないよう課されたものだ。ギリシャが新しいプログラムを受け入れなければ、上限撤廃は確信できない。

3番目の選択肢は、単によそで資金を見つけることだ。
利用できる資金源は多くはない。ロシア政府は原則として、支援の用意があることを示唆している。明らかに、これは人道的な同情心からではない。ロシアマネーはギリシャにとって、重い政治的なコストを伴う。

これはSYRIZA政権にとっても、少なくとも現状では、好ましい選択ではない。

4番目の選択肢は、政府支出を賄うために、国内だけで通用する並行通貨を発行することだ。これは基本的に「借用書(IOU)」に当たる。

並行通貨の発行が最も極端な選択肢となるが、資金調達の問題は片付く。これは容易に、グリグジットに向けた予備段階として、あるいはグリグジットそのものとして解釈できる。通貨が2つあったら、単一通貨に一体どんな意味があるのか?

ユーロ圏危機の決定的瞬間が目前に迫っている
短期的な資金を確保するのは難しいかもしれないが、行く手に待ち受ける重大な債務交渉と比べたら何でもない。筆者は債務削減が行われると思わないし、どんな種類であれ、財政緩和の余地はごくわずかだと見ている。

最大の反対は、ドイツはなく、トロイカに反乱を起こさなかったポルトガルなどの他の周縁国から来るだろう。

ユーロ圏の危機の決定的瞬間が近づいている。ただし、それは、まだ今週ではない。【2月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
***************

今は、ギリシャ、EUの双方が強気の姿勢を見せる「チキンレース」の最中ですが、いよいよ決断・妥協を迫られれば、それなりの判断をくだすのでしょう・・・おそらく。

いすれにしても、11,12日の会合で、どのような方向性が示されるのか、非常に注目されるところです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  綱紀粛正で権力基盤を強める習近平政権、思想引き締めも 経済改革には強固な抵抗も

2015-02-09 21:48:30 | 中国

(2014年の経済成長率が7.4%と24年ぶりの低水準となった中国経済ですが、1月21日のダボス会議で李克強首相は、中国経済のハードランディングを回避するとともに、長期的な中・高速の成長ペースを確実に達成することを重視すると表明しました。

また、金融システム全体を脅かすようなリスクを生じさせず、「適切」なペースの拡大を確保するため成長の質を改善することを目指すとも。

ただ、そのためには中国経済の体質改善が必要ですが・・・・。

写真は【1月22日 立場新聞】https://thestandnews.com/china/%E6%9D%8E%E5%85%8B%E5%BC%B7-%E4%B8%AD%E5%9C%8B%E7%B6%93%E6%BF%9F%E4%B8%8D%E6%9C%83%E7%A1%AC%E8%91%97%E9%99%B8/

【「反腐敗」を展開して抵抗勢力を抑え込み、2年余りで政権の足場を固めた
中国・習近平政権指導部が推し進める“新常態”を目指す、腐敗一掃・綱紀粛正、経済改革などの政治・経済・文化を巻き込んだ改革運動については、1月19日“中国 習近平政権が目指す新時代「新常態」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150119でも取り上げました。

習近平政権が強力に改革に取り組んでいる背景には、腐敗・汚職や経済格差などに関する国民の批判・不満の高まりで共産党一党支配の基盤が崩れつつあるという危機感があるように思われます。

腐敗・汚職を調査するのは党中央規律検査委員会ですが、その調査は自白強要など過酷なことで知られ、いったん調査されると無罪となることはほとんどなく、将来を絶望して自殺を図るケースが増えているようです。

****幹部50人以上が「不審死」=「反腐敗」で自殺続出―中国****
中国共産党が今年に入り、地方の党組織や国有企業などに対し、習近平党総書記(国家主席)が就任した2012年11月以降、自殺など不自然な状況で死亡した幹部を調査して報告するよう求めていたことが分かった。

背景には、習指導部が「反腐敗闘争」を展開する中、自殺者が相次いでいることがある。中国ニュースサイト・財新網は29日、不自然な死を遂げた幹部らは50人以上に達したと伝えた。(後略)【1月29日 時事】
******************

自殺者が相次ぐのは、習指導部が進める「反腐敗闘争」の結果でしょうが、党として不審死の調査報告を求める趣旨はよくわかりません。

言うまでもなく、中国における改革運動は、それに抗する勢力との政治的権力闘争と密接不可分の関係にもあります。
特に、党指導部にとっては軍を把握することが重要になります。

****軍の最高指導者は習近平主席・・・解放軍報が1面で強調、軍内部に「分派」か****
中国・中央軍事委員会機関紙の解放軍報は28日付の1面で、「工作制度はさらに1歩、真に厳しくせねばならない」との見出しの記事を掲載した。

同記事は、軍の指導者が中央軍事委員会主席、すなわち習近平主席と改めて強調した。

中国では「常識」である制度を強調したことは、軍内部に指導体制に抵抗する勢力がある可能性を示唆するものと言ってよい。(中略))

解放軍報の記事が「腐敗問題」に直接触れていないことも注目に値する。軍内部に腐敗や利権問題とは別に、習近平体制に批判的な勢力が存在する可能性がある。(後略)【1月29日 Searchina】
********************

****習主席、軍掌握へ本腰 福建省時代の人脈、中枢に登用****
中国の軍の要職に、習近平(シーチンピン)国家主席に近い人物が相次いで起用されている。

習氏自身が軍を掌握して、内部に根強い抵抗がある機構改革を進め、米軍に対抗できる能力を備える狙いがあるとみられる。

人事を通じた習政権の基盤固めは、党中央や地方でも進む。(中略)

胡錦濤前国家主席は党総書記就任から4年後、江沢民元国家主席を後ろ盾に上海市で権勢を誇った陳良宇・同市党委書記を汚職の疑いで解任し、「ようやく内政、外交で独自色を出すようになった」(外交筋)。

一方、習氏は党総書記に就いた直後から思い切った「反腐敗」を展開して抵抗勢力を抑え込み、2年余りで政権の足場を固めた。各分野の改革を推し進めるため、人事を通してさらに指導力を強めていく構えだ。(後略)【2月4日 朝日】
******************

大学管理を強化、新たな思想引き締め
権力闘争であろうが、“腐敗一掃・綱紀粛正”自体は中国社会にとって結構な話にも思われますが、同時に展開される思想的引き締めは、話ができる民主的な隣人を期待する立場からは懸念されるところです。

****中国教育相、大学から「欧米の価値観」を排除****
中国の袁貴仁教育相が、「欧米の価値観」を掲げる大学教科書を禁止することを約束した。中国国営新華社通信が29日夜、伝えた。
習近平国家主席のもとでの新たな思想引き締めとみられる。

新華社通信によると、袁教育相は「欧米の価値観を掲げる教科書を教室に持ち込ませてはならない」と語った。
また、「中国共産党の指導力を中傷する意見」や「社会主義を汚す」見解が大学の教室に持ち込まれるようなことは決してあってはならないと語ったという。

中国の大学は中国共産党が運営しており、大学では共産党支配に脅威を及ぼす恐れがあるとみなされた歴史などの話題は厳しく規制されている。中国共産党はしばしば、「複数政党による選挙」や「権力分立」などの考えを「欧米的」として非難してきた。

習氏が2012年に中国共産党総書記に就任して以来、中国は大学に対する管理を強化しており、中国共産党に批判的な数人の教授が解雇されたり投獄されたりしている。【1月30日 AFP】
*********************

習近平政権指導部が目指すところは、あくまでも共産党一党支配の維持が大前提ですので、上記のような話にもなる訳ですが、共産党一党支配の枠組みを前提とする限り、今後の改革にもおのずと限界があるように思われます。

李克強首相が進める簡政放権」 強い抵抗も
そうした改革のなかで、経済部門を担うのが李克強首相で、政府権力の経済活動への介入を縮小する「簡政放権」を推進しています。

しかし、なかなか実効があがっていないようです。

****中国・李克強首相「政府の収支は今後すべて、予算に入れて公開せよ」、「日光こそ最良の防腐剤だ****
中国の李克強首相は9日に行った中央政府の第3回廉政工作会議で、「政府(行政)の収支は今後すべて、予算に組み込み公開せよ」と述べた。

公共の資金は「納税者が苦労して得た金だ」と指摘し浪費が許されないと同時に、腐敗現象の撲滅には情報公開が必要として、「日光こそ最良の防腐剤だ」と述べた。中国新聞社が報じた。

李克強首相は、政府権力の経済活動への介入を縮小する「簡政放権」を推進している。
9日の会議では改めて「『簡政放権』は市場の潜在力を解き放す鍵であり、反腐敗の土台になる」と強調。政府には、権力を手放す「スリム化」と、腐敗現象を絶って「体力をつける」両方が求められていると述べた。

李首相が特に力を入れてきたのが、行政による許認可の撤廃だが、「形式上は撤廃しても、実質は残している」、「外見だけを変える」など、役人側が「手を変え品を変えて抵抗」する現象があると指摘。混乱している状況は「市場にとっての新たな障害物」として、「灰色地帯を必ず除去せねばならない」と述べた。

李首相は、政府が使う「公共の資金」について「すべて、納税者が苦労して得た金だ」と表現「1分1厘たりとも無駄遣いは許されない」として、「政府の収支は今後すべて、予算に組み込み公開せよ」と述べた。

予算化と公開については、「無駄遣いの防止」だけでなく、不正行為をしにくくなる効果もあると指摘。「日光こそ最良の防腐剤だ」と指摘し、公務について「決定から執行、管理、結果までを社会に向けて公開せよ。公共資金と権力は、探照灯と録画カメラのもとで動かしていかねばならない」と述べた。

李首相は「政府(行政)の許認可権は大幅に削減せねばならない。例外のない制度で権力の管理や制限を行わねばならない」とかねてからの主張を改めて強調。「法治」という“武器”で、権力の行使が許される限界を確定し、権力のリスト、責任範囲のリスト、(企業活動の)ネガティブリスト」などを確立せねばならない。これこそが、法治政府の樹立であり、清廉な政府への扉を開く『金の鍵』だ」述べた。

・・・・・・・・・・・・・・・
◆解説◆
日本人にとって、李首相の「政府(行政)の収支は今後すべて、予算に組み込み公開せよ」との要求はかなり異様に思える。「そんなことも、やれていないのか」という驚きだ。

李克強首相は就任直後から、行政側の「権限手放し」で市場を活性化させることを追い求めてきた。起業しやすい環境づくりも、経済政策の重要な部分だ。その先には内需拡大という「大目的」があるとされる。

中国経済は投資と輸出に頼って成長してきたが、投資については効果を考えないケースが相次いで、地方政府の財政の不健全化という問題を招いた。

輸出については、2008年のリーマンショックで頼りすぎることのリスクを思い知らされた。国民の購買力を底上げし、購買を志向する社会を実現せねば、安定した経済成長も難しくなるとの危機感だ。

ただし、「公共支出の予算化」を首相が改めて「厳命」せざるを得ないなど、中国当局に極めて遅れた面があることは否定でき 【2月9日 Searchina】
******************

「そんなことも、やれていないのか」という話はともかく、李克強首相の主張するところは日本でも十分に理解できるものです。

また、許認可行政の改革は日本でも難しい問題ですから、まして「人治」の中国における共産党政権下では・・・という感もあります。

“李首相は(2014年)7月16日の国務院常務会議で、許認可の撤廃に抵抗する動きがあった場合には「絞め殺せ。叩きつぶせ」と激越な言葉を使って、決定を貫徹させることを求めたという。【2014年8月12日 Searchina】”という記事の記憶があるせいでしょうか、李克強首相の熱意・・・というよりは、いくら言っても動かない壁に対する焦りみたいなものも感じられます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする