(ジョコ大統領を操るメガワティ元大統領・・・と揶揄する向きもありますが、ジョコ大統領としてはこの制約を調整して結果を出していくしかないようです。 “flickr”より by chandra diaryBy https://www.flickr.com/photos/chandradiary/13423588724/in/photolist-ntdzYp-mscpfU/)
【ジョコ大統領 「2015年世界で100人の影響力のある人」】
インドネシアは人口2億5000万人(2013年)と、日本の2倍ほどもある人口大国です。
経済的にも、順調に成長すれば2050年には日本を抜いて世界第4位の経済大国になる・・・との観測もあるようです。
****インドネシア、2050年GDP4位に 世界のトップ5入り****
インドネシアは、2030年に国内総生産(GDP)が世界のトップ5入りを果たし、50年には日本を抜いて世界4位の経済大国となる可能性がある。
英調査会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)によると、インドネシアのGDP(購買力平価換算)は14年の2兆5540億ドル(約305兆4330億円、世界9位)から30年に5兆4860億ドル(同5位)となり、50年には12兆2100億ドル(同4位)になる見通しだ。現地紙ジャカルタ・ポストが報じた。(後略)【4月8日 SankeiBiz】
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“石油産出国の同国は安定的なエネルギー調達が可能であり、今後数年の石油消費量の増加にも対応できることから経済規模と人口の拡大が続く”【同上】というのが予測根拠のようです。
これだけの人口規模ですから経済規模も拡大するのは間違いないところですが、世界第4位にまでなるかどうかはこれからの話です。
そのインドネシア経済を牽引するのが就任して半年になるジョコ·ウィドド大統領ですが、タイム誌による「2015年世界で100人の影響力のある人」に選ばれたそうです。
ジョコ大統領は、これまでの有権者と距離のある有力政治家一族や元軍人の政治家とは異なり、「小さき民」の声を重視する庶民派で、その庶民的人気を背景にソロ市長、ジャカルタ知事、そして昨年7月の大統領選挙に勝利と、インドネシア政界では異例の経歴でトップに上り詰めました。
ただ、与党の闘争民主党の党首を務めるメガワティ元大統領が隠然たる影響力を行使しており、ジョコ大統領にとっては、この党内基盤の弱さが大きなネックになっている・・・・というのが就任以来の評価でもありますので、「2015年世界で100人の影響力のある人」というのは意外な感がありました。
もっとも、100人には日本からは小説家の村上春樹氏と「片づけコンサルタント」の近藤麻理恵氏が選出されているというように、ユニークな基準による選定ではあるようです。
村上春樹氏はともかく、近藤麻理恵氏という方の名前は知りませんでした。著書「人生がときめく片づけの魔法」は「一度片づけたら、二度と散らからない」独自の整理収納法が話題となり、世界で累計300万部の大ベストセラーになっているそうです。
部屋が散らかし放題になっている私にとっては“天敵”のような人です。
閑話休題。インドネシアとジョコ·ウィドド大統領の話です。
【課題となっていた燃料補助金削減策を断行】
先述のように党内基盤の弱さを指摘しましたが、ジョコ大統領は就任早々に懸案事項であった燃料補助金燃料補助金の削減に果敢に取り組んでおり、そうした政策面での実績は高く評価されています。
低所得層向けの燃料補助金制度は一度導入すると財政全体を圧迫する規模に膨らんでしまい、政治的理由からなかなか手を付けることができない、無理強いすると政権が揺らぐという多くの国が抱える難題でもあります。
****「燃料補助金」は廃止したが・・・続く「ジョコウィ政権」の苦悩****
鬼門政策
インドネシアでは、石油、電気、ガスといった公共料金を低所得層のために低く抑えるべく、スカルノ初代大統領の時代以来、政府が巨額の燃料補助金を支出してきた。
燃料補助金は、国際的なエネルギー価格が上昇するほど支出額が増える。また、経済成長にともなって国内での燃料消費量が増加するほど、財政負担が増加する。
政府も経済界も、燃料補助金が本来は開発に振り向けられるべき予算を圧迫していることや、ガソリンなどに対する補助金が自動車を保有する富裕層の所得補償になってしまう逆累進性があることに、以前から気づいていた。
ジョコウィ新政権にとっても、この燃料補助金削減は大きな政策課題であった。所得格差が拡大するなか、限られた予算を低所得層向けの再分配政策に振り向ける必要がある。
また、石炭やパーム油の原料輸出と国内消費に依存した経済成長を、付加価値製品の製造と輸出が牽引する持続的な成長路線へと転換するため、財政をインフラ開発促進に振り向けなければならない。そのためには、大胆な燃料補助金削減策が必要であった。
しかし、補助金カットは、政府にとって鬼門の政策であった。なぜなら、1998年5月に当時のスハルト大統領が長期政権を放棄せざるをえなくなった直接的な原因が、アジア通貨危機で支援を受けたIMF(国際通貨基金)による構造改革に沿って実施した、石油燃料補助金の削減だったからである。
それでも、2004年に始まったユドヨノ政権の下では、国際原油価格の変動に対応して、補助金の削減とそれにともなう燃料価格の引き上げを3度にわたって実施することができた。
ジョコウィは、大統領選挙での当選が決まると、ユドヨノ大統領に、任期終了前に補助金を削減し、燃料価格の引き上げを実施してくれないかと頼んだ。
ジョコウィも、補助金削減の必要性は認めながらも、燃料価格の値上げにつながる不人気政策を実施することは嫌だったのである。しかし、それはユドヨノににべもなく断られた。
国民の反発を抑えられた理由
そうした経緯があっただけに、いくら人気の高いジョコウィといえども補助金削減は容易にはできまいと思われていたが、政権発足まもない昨年11月17日に、ジョコウィは突如として補助金カットを発表した。
さらに、今年1月1日、ガソリンについては燃料補助金を全廃し、基本的に国際市場の変動にあわせた価格へ移行することが発表された。
軽油や灯油については一定の補助金額が支給されるが、国際市場価格の変動にあわせて国内価格も変動することになった。
この補助金廃止・削減により、予算には大きな余裕が生じることになった。補助金のための予算は3分の1以下に縮小され、歳出に占める補助金の割合は14%から4%にまで減少したのだ。
ガソリンの補助金廃止は、インドネシアの経済政策という観点からは歴史的な決定である。
しかし、このような大胆な政策転換にもかかわらず、国民は比較的冷静にこれを受け止めた。補助金削減が発表されると、必ず議会からの強い反発や街頭でのデモが発生するのが常であったが、今回は目立った反対は出なかった。
国際原油価格が低下していたため、補助金の廃止・カットにもかかわらず、燃料価格が引き下げられたことも要因のひとつであろう。
また、ジョコウィ大統領が、補助金廃止を実施する前に、貧困層向けの再分配政策を発表していたことも反発を抑えるのに役立った。
政権発足後2週間という早い段階で、貧困層向けの無償医療・無償教育プログラムと所得補償プログラムを段階的に全国で実施していくことを発表していたのである。(後略)【3月23日 川村晃一氏 フォーサイト】
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【メガワティ党首の「院政」 大統領と与党の利害が乖離】
このように燃料補助金削減という「鬼門」を無難にこなしたジョコ大統領ですが、人事面では早々に躓きます。
1月に、新しい国家警察長官としてブディ・グナワン国家警察研修所所長を指名しましたが、そのわずか4日後、人事案が議会の承認を得る前に、汚職撲滅委員会(KPK)がこの新長官を汚職容疑者に指定しました。
もともとこの人物は不正な蓄財への関与が疑われており、「クリーン」を看板に掲げるジョコ大統領が敢えてこの者を起用したのは、この者が与党の党首であるメガワティ元大統領と関係が深く、元大統領側からの圧力があったものと見られています。
この問題でジョコ大統領は、ブディ・グナワン氏及び彼を支持する与党勢力と、その汚職容疑を主張する汚職撲滅委員会(KPK)の抗争の板挟みになる形で有効な手をうてず、汚職撲滅に真剣に取り組む大統領という期待を抱いていた市民グループは、ジョコ大統領の消極的な姿勢に大きく失望する結果となっています。
“民間調査機関が今月6日発表した世論調査では、ジョコ氏に「満足」と答えたのは60%で、就任直後の75%から低下”【4月19日 産経】と、国民支持も急速に低下しています。
****大統領は「裸の王様」****
ジョコウィ大統領が、人事面で、与党、なかでも第1党の闘争民主党の要求に屈するのは、これが最初ではない。以前のレポートでも指摘したように、内閣発足時、経歴や能力に疑問がありながらも、メガワティの推す人物の入閣を拒否できなかった。政権発足後も、これと同じことが繰り返されている。(中略)
このように、ここにきてジョコウィの政治基盤の弱さが露呈する事態が続いている。
ジョコウィは、高い行政手腕と個人的な人気で、家具商から市長、州知事、そして大統領へと権力の階段を上り詰めてきた。
闘争民主党の党員ではあるが、党役員としての経験はなく、党内に政治基盤はない。議員としての経験もないため、議会にも人脈はない。大統領というと強大な権力を持っているようにみえるが、民主的な議会政治において、政党に支持基盤をもたない大統領は「裸の王様」なのである。
これも以前指摘したように、そもそも大統領制では、大統領と与党の利害が乖離して両者の関係が対立的になる「政党の大統領制化」という現象が起きやすい。
政権が発足して間もないジョコウィも、まさにこの「政党の大統領制化」という事態に直面しているのである。【3月23日 川村晃一氏 フォーサイト】
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【ジョコ新党の可能性もあるものの、当面は与党関係に配慮するしかない現状】
与党との利害対立を解消する究極の選択は、与党を離れて自分の新党を立ち上げるということになりますが、その可能性も取りざたされています。
****インドネシア大統領、就任半年 基盤強化へ新党結成観測も****
インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が就任して20日で半年。「庶民派」を売り物に、汚職撲滅やインフラ整備への高い期待を背に出発したものの、所属する与党・闘争民主党の党首を務めるメガワティ元大統領が公然と「院政」を敷くなど指導力不足が露呈し、早くも国民からの支持離れを招いている。
「大統領に至るまで、あなた方は党の奉公人だ」
メガワティ元大統領は、9日に開幕した闘争民主党の党大会でこう述べ、ジョコ氏に対して党の方針に従うようクギを刺した。メガワティ氏は2020年までの党首続投を決めたほか、長女と次男を党の要職に就け、「党私物化」の色合いを一層強めた。
インドネシアの大統領選は直接選挙だが、候補者は総選挙で一定の得票率に達した政党が擁立する。メガワティ氏は、当時ジャカルタ特別州知事として絶大な人気があったジョコ氏を大統領選候補に指名し、昨年4月の総選挙で第一党への復活を果たした。
ただ、党内でのジョコ氏はあくまで「党の一員」扱いで、党大会でも発言の機会は与えられなかった。閣僚人事などでもメガワティ氏の「ごり押し」に屈するケースが相次いでいる。
民間調査機関が今月6日発表した世論調査では、ジョコ氏に「満足」と答えたのは60%で、就任直後の75%から低下。ユドヨノ前大統領の1期目に比べ、国民の支持が急速に離れていることがわかった。
「汚職の温床」とも指摘された燃料補助金削減を就任直後に断行し、浮いた財源をインフラ整備や福祉に振り向けた決断への評価は高い。だが、燃料費の上昇で一気に物価が上がり国民生活を圧迫するなど、課題は山積している。
東南アジア研究所(シンガポール)のマックス・レーン客員上級研究員は「支持者だった草の根の無党派層がジョコ氏批判に転じている」と指摘する。事態打開を図るジョコ氏が19年の次回大統領選に向け、「支持グループらを結集したジョコ新党の結成に動く可能性も排除できない」と予測している。【4月18日 産経】
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もともと、メガワティ元大統領は自分が大統領選に出馬して復権を果たしたかったとされており、そのために国民的人気があるジョコ·ウィドド氏を“副”大統領候補にしようとしていました。
ただ、それでは選挙に勝てないとの周囲の判断もあって、ジョコ氏を大統領候補に推すことを了承したと言われています。
それにしてもメガワティ元大統領は、「大統領に至るまで、あなた方は党の奉公人だ」と言いつつ、自分はその党を私物化しており、結局「大統領に至るまで、あなた方は私の奉公人だ」という話にもなります。
メガワティ氏(初代大統領スカルノ氏の長女)の権力欲はすさまじいものがあり、私など凡人には理解しがたいものがあります。スカルノ大統領失脚後は苦しい経験もあったようで、そうしたことが権力への執着を生んでいるのでしょうか。
話をジョコ大統領に戻すと、新党結成とは言ってもなかなか難しい事情もあります。
前出の川村晃一氏は当面は「何をやっても事態は変わらない」とも指摘しています。
****利害調整を図るのみ****
与党、とくに闘争民主党とジョコウィの関係が悪化したことで、ここにきてジョコウィ周辺からは、自らの新党を立ち上げようという動きや、いまの与党連合とプラボウォ率いる野党陣営とをそっくり入れ替えて連立を組み替えようという動きまで出てきている。
しかし、何をやっても事態は変わらない。
そもそも新党を作っても、その新党が議席を得るためには次の2019年の総選挙まで待たなければならない。
しかも、いまの闘争民主党を割って新党を作っても、比例代表制の選挙制度の下では、政党が選挙で獲得した議席数は変更されず、闘争民主党が離党した議員の穴を自ら補充するだけである。
また、連立を組み替えてプラボウォ陣営と協力したとしても、今度はプラボウォ陣営に属する政党からのさまざまな圧力にさらされるだけで、結果は同じである。
つまり、ジョコウィは、「多党制の下での大統領」ゆえに多党連立政権の下で連立与党の意向に配慮せざるをえず、「政党の大統領制化」ゆえに与党との利害調整に悩まざるをえないのである。
ジョコウィがインドネシアの大統領である以上、制度に規定されたこの呪縛から逃れることはできない。
ジョコウィに要求されているのは、このような制度の下で、アメとムチを使い分けながら連立与党と良好な関係を築きつつ、自らの目指す政治を実現することなのである。【3月23日 川村晃一氏 フォーサイト】
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与党との苦しい関係が続きそうですが、政策面での結果を出して自らの影響力を強め、メガワティ氏との力関係を変えていくしかないようです。