(「(ISなどに制圧されたシリアのパレスチナ)難民キャンプは死の収容所の様相を見せている」と、国際社会に対して事態の打開への協力を呼びかけるパン・ギムン事務総長 ただ、その呼びかけは悲しいほどに無力です。【4月10日 NHK】)
【イエメンからの脱出「地獄の航海」】
かつて東アフリカの破綻国家ソマリアで、イスラム過激派「アルシャバブ」による内戦と飢餓が猛威をふるっていた頃(現在でも安定している訳でもありませんが)、人々は海を渡って対岸のイエメンを目指して逃れました。
もとより、イエメンも楽園ではなく、「アラブ最貧国」と言われる国ですが、そこへの脱出は、単に粗末な船による海難事故というだけでなく、カネだけ巻き上げて難民を海に放り込むといった悪質な業者も跋扈し、「世界で最も危険な亡命ルート」とも称されていました。
****ソマリア難民を待つもう一つの飢餓の国****
最悪の飢饉から逃れるため、ソマリアを脱出する難民が行き着く先は、同じように飢餓と情勢不安が深刻化するイエメンという悲劇
内戦と干ばつにより、過去60年間で最悪の飢饉にあえぐソマリアでは、海を渡ってイエメンへ逃れる難民がここにきて急増している。
彼らは粗末な密航船にスシ詰めになって、アラビア半島とアフリカ大陸を隔てるアデン湾を横断する。しかし命の危険を冒してやっとたどり着く先は、国民の栄養失調の割合が世界で3番目に高い飢餓国だ。
8月だけでも、既に3700人のソマリア難民がイエメンへ流入。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、月単位では今年に入ってから最も高い流入率だという。
ソマリア難民の流入は今に始まったことではない。例年、多くの難民船がソマリア北部の港町ボサソからイエメンにたどり着くが、今年はピーク時期が早まっているようだ。
ソマリア難民は、「不安定な治安や深刻な干ばつ、食糧価格の高騰や雇用難」から逃れようと、支援団体が呼ぶところの「世界で最も危険な亡命ルート」を渡ってイエメンを目指す。
「イエメンの情勢は極めて不安定だ。そんな国を逃亡先に選ぶということは、ソマリア難民がそれだけ死に物狂いだという証拠だ」と、UNHCRの広報官エイドリアン・エドワーズは先週末に語った。
「彼らは、粗末な密航船に詰め込まれてアデン湾を渡る。危険な航海で命を落とす者も多い。月曜にも、ボートが転覆してソマリア人2人が溺死したばかりだ」(後略)【2011年8月29日 Newsweek】
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ソマリアからの難民が減少したあとも、“まだ見ぬ世界”に希望を託したエチオピアからの脱出者がイエメンを目指していました。
****アフリカからイエメンへ避難-6か月間で4万6000人がアデン湾を渡る****
2013年に入り6月までに、アフリカから4万6000人以上の難民と移民が海路イエメンに到着しており、危険を冒しボートで避難する人が増えています。
イエメンでは過去6年間で、庇護申請者、難民、移民が急増しています。2012年には10万7500人という記録的な数の密航者となりました。
2013年1月から6か月間で4万6417人。これは2012年同時期の5万6146人に比べると少ないものの相変わらず大きな数字です。2006年から延べ50万人近い人びとがイエメンにたどり着いたことになります。
「過去2年間でイエメンに到着した難民・移民の数には大きな変化がありました。エチオピア人の密航が増えており、故郷での困難な状況が密航の大きな理由です」とUNHCRのメリッサ・フレミング首席報道官は話します。
以前はソマリア難民が25%から30%強を占めていましたが、2013年6月までにイエメンに到着した人のうち、ソマリア人は16%の7559人で、エチオピア人はなんと84%の3万8827人となっています。
多くの人は2月から3月に紅海を横断し、3万4875人がLahij州などへ、また1万1542人はアラビア海をわたりHadramout州などに到着しています。
難民と移民は密航の途中で、搾取、暴力、性的虐待を受けやすいのです。アラビア海や紅海を渡ってイエメンへ向かう密航のボートは、たいていすし詰め状態です。
密航業者がイエメン当局に発覚することを避けるため、乗客を海へ飛び込ませることもあります。多くの場合、密航業者と人身売買の売人がイエメンの海岸で密航者を待ち受けているのです。
イエメン当局は自動的にソマリア人を難民として認定しています。エチオピア人と他国の出身者についてはUNHCRが難民として認定しています。
エチオピア人の多くはイエメンに留まらず、別の国へ行くことを希望しているか、庇護申請をわからない人が多く、庇護を求める人はあまりいません。その結果、多くのエチオピア人が極端に脆弱な立場に置かれています。(後略)【2013年8月21日 UNHCR】
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周知のようにイエメンでは、イランの支援を受けていると言われるイスラム教シーア派系のザイド派武装勢力「フーシ」と、亡命を余儀なくされているハディ大統領を支持する勢力及びこれを支援して軍事介入するサウジアラビアなどアラブ有志連合の間で激しい戦闘が行われています。
この戦闘を逃れて人々は、「世界で最も危険な亡命ルート」を逆に、アフリカ側対岸のジブチに向っています。
その逃避行は「地獄の航海」とも。
****空爆逃れてイエメン脱出、「地獄の航海」経てアフリカへ****
孫娘をひざに乗せた女性は、その頬の涙をスカーフでぬぐっていた。まだ生後数カ月。空爆が始まった夜、イエメン南西部ビリム島のモスクで夜通し孫娘の耳をふさごうとし続けた。爆音が鳴り響くたび、孫娘は泣き叫んだ。
イエメンでサウジアラビアが空爆を開始して以来、何千人もの市民らが激しい爆撃を逃れ、海を渡って対岸のアフリカ東部ジブチに避難している。
アミナ・アリ・カシムさんはミサイルが着弾する直前に自宅から避難して、最悪の事態は免れた。「近所の人が夫に『すぐに避難を』と叫び、私たちは夢中で逃げた。家を離れた直後、すぐ近くに1発目のミサイルが、続いて2発目が落ちた。地上の物は全部燃えた」と振り返る。
日が昇るとほかの3家族と共に、一家でビリム島を出港。25人を詰め込んだ小舟は、バブ・エル・マンデブ海峡を渡って対岸のジブチを目指した。
原油タンカーや貨物船が頻繁に往来する同海峡は今、イエメンからの難民を乗せた粗末な漁船が押し寄せる。
カシムさんの息子のモハメドさんはこの航海を、「地獄に飛び込んだようなもの」だったと形容する。「女性たちは激しい吐き気に見舞われた。あまりに悲惨な光景だった」
5時間かかってようやくジブチ北部に到着した。政府はオボックに仮設避難所を設置しており、今後さらに数千人の難民が押し寄せると国連は予想する。
カシムさん一家は間もなく、郊外にあるビニールテントに移らなければならないという。イエメンに残してきた2人の娘とは連絡が取れず、耐えられないほどの不安が募る。
ひざの上の孫娘に目をやって、「もう泣き止むことができないのかと思った。その恐怖は一生付いて回るかもしれない」とつぶやいた。【4月10日 CNN】
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【シリアのパレスチナ難民キャンプ「これまでで最も絶望的な状況にある」】
内戦が続くシリアでは、ISなどの攻勢によって首都ダマスカス近郊のパレスチナ難民キャンプが戦場と化しています。
****パレスチナ難民が危機的状況=政府軍、過激派掃討強化へ―シリア首都****
シリアの首都ダマスカス南部で、パレスチナ人が暮らすヤルムーク難民キャンプの大半が過激派組織「イスラム国」などの武装勢力に制圧され、アサド政権はキャンプでの掃討作戦を本格化させる構えだ。拡大する戦火の中、キャンプ内に取り残された人々は危機的状況に置かれている。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)などによると、キャンプにはシリア情勢が悪化する前の2011年3月時点で、シリア人を含め15万人以上が暮らしていた。
しかし、内戦が激化する中で反体制派が活動拠点としたため、政府軍の包囲下に置かれ、翌12年以降、食料不足などの人道危機が深刻化。多くの住民がキャンプを離れ、現在は1万8000人前後にまで減った。
武装勢力は人口急減に乗じ、空き家や廃屋を潜伏拠点にするなどして支配を拡大したとみられ、兵力は現時点で3000人程度に達したとの見方もある。
取り残された住民はキャンプを離れたくても、武装勢力による狙撃を恐れて身動きがとれないという。【4月9日 時事】
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現在、ヤルムーク難民キャンプの90%はISとアルカイダ系の「ヌスラ戦線」に制圧されているといわれます。
もともと、この難民キャンプは「ヌスラ戦線」の支配下にあるとされていましたが、“ISに共鳴する現地のヌスラの戦闘員が、ISの侵攻を手助けしたとの情報もある”とも報じられており、ISと「ヌスラ戦線」がどういう関係にあるのかはよくわかりません。
確かなことは、「ただでさえ人権がほとんど意味を持たない場所だったが、その状況がさらに悪化している」(国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)広報官)「これまでで最も絶望的な状況にある」(UNRWA事務局長)ということで、「誰もがキャンプから離れようとしている」「電気はなく、ISが病院を占拠しているためけが人が行く場所もない」といった現状です。
****「シリア難民キャンプは死の収容所の様相」****
内戦が続くシリアの首都ダマスカスの近郊で、過激派組織IS=イスラミックステートが難民キャンプを拠点にシリア軍と戦闘していることについて、国連のパン・ギムン(潘基文)事務総長は「難民キャンプは死の収容所の様相を見せている」と述べ、強い懸念を示しました。(中略)
国連によりますと、キャンプには子ども3500人を含む1万8000人の住民がとどまっていて、国連などによる人道支援が一切受け取れず、水も食料もない状況に置かれているということです。
これについて国連のパン・ギムン事務総長は9日、記者団に対し「難民キャンプは今や死の収容所の様相を見せている。住民は人間の盾にされ、キャンプの中にいる武装勢力と外にいる政府軍の双方の脅威にさらされている」と強い懸念を示しました。
そのうえで、「住民がいるキャンプに総攻撃がかけられるという情報もある。事実であれば許されない戦争犯罪だ」と述べ、シリア軍がISを掃討するため総攻撃に踏み切ることをけん制するとともに、国際社会に対して事態の打開に協力するよう呼びかけました。【4月10日 NHK】
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ダマスカス中心部からわずか7キロの位置にある同難民キャンプがISの手に落ちることは、シリア・アサド政権にとっても痛手であり、犠牲を顧みない総攻撃も懸念されます。
「切断された頭部をいくつも見た。彼ら(IS)は親の目の前で子どもたちを殺すんだ。恐ろしさに凍り付いた」【4月7日 AFP】といった脱出者の言葉も。
「『ダーイシュ(Daesh、ISのアラビア語の略称)』のメンバー2人が、切断された頭部をサッカーボール代わりにして遊んでいるのを見た」【同上】といった証言も。ただ、混乱の中での話ですので、この類の話の真偽のほどはわかりません。
パレスチナを追われ、逃れてきたシリアでまた逃げ惑う人々。
日常から逃避して、いびつな大義を隠れ蓑にして闘争本能を満足させるための戦いに明け暮れる武装勢力、様々な思惑から関与、あるいは傍観する周辺国・大国・・・・そのなかで翻弄される人々、いつの時代も、どこの世界でも変わらぬ構図です。
“国際社会に対して事態の打開に協力するよう呼びかけました”(国連事務総長)・・・その呼びかけはあまりにも無力です。