孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメンでも、シリアでも、戦闘激化で逃げ惑う人々

2015-04-10 21:13:36 | 難民・移民

(「(ISなどに制圧されたシリアのパレスチナ)難民キャンプは死の収容所の様相を見せている」と、国際社会に対して事態の打開への協力を呼びかけるパン・ギムン事務総長 ただ、その呼びかけは悲しいほどに無力です。【4月10日 NHK】)

イエメンからの脱出「地獄の航海」】
かつて東アフリカの破綻国家ソマリアで、イスラム過激派「アルシャバブ」による内戦と飢餓が猛威をふるっていた頃(現在でも安定している訳でもありませんが)、人々は海を渡って対岸のイエメンを目指して逃れました。

もとより、イエメンも楽園ではなく、「アラブ最貧国」と言われる国ですが、そこへの脱出は、単に粗末な船による海難事故というだけでなく、カネだけ巻き上げて難民を海に放り込むといった悪質な業者も跋扈し、「世界で最も危険な亡命ルート」とも称されていました。

****ソマリア難民を待つもう一つの飢餓の国****
最悪の飢饉から逃れるため、ソマリアを脱出する難民が行き着く先は、同じように飢餓と情勢不安が深刻化するイエメンという悲劇

内戦と干ばつにより、過去60年間で最悪の飢饉にあえぐソマリアでは、海を渡ってイエメンへ逃れる難民がここにきて急増している。

彼らは粗末な密航船にスシ詰めになって、アラビア半島とアフリカ大陸を隔てるアデン湾を横断する。しかし命の危険を冒してやっとたどり着く先は、国民の栄養失調の割合が世界で3番目に高い飢餓国だ。

8月だけでも、既に3700人のソマリア難民がイエメンへ流入。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、月単位では今年に入ってから最も高い流入率だという。

ソマリア難民の流入は今に始まったことではない。例年、多くの難民船がソマリア北部の港町ボサソからイエメンにたどり着くが、今年はピーク時期が早まっているようだ。

ソマリア難民は、「不安定な治安や深刻な干ばつ、食糧価格の高騰や雇用難」から逃れようと、支援団体が呼ぶところの「世界で最も危険な亡命ルート」を渡ってイエメンを目指す。

「イエメンの情勢は極めて不安定だ。そんな国を逃亡先に選ぶということは、ソマリア難民がそれだけ死に物狂いだという証拠だ」と、UNHCRの広報官エイドリアン・エドワーズは先週末に語った。

「彼らは、粗末な密航船に詰め込まれてアデン湾を渡る。危険な航海で命を落とす者も多い。月曜にも、ボートが転覆してソマリア人2人が溺死したばかりだ」(後略)【2011年8月29日 Newsweek】
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ソマリアからの難民が減少したあとも、“まだ見ぬ世界”に希望を託したエチオピアからの脱出者がイエメンを目指していました。

****アフリカからイエメンへ避難-6か月間で4万6000人がアデン湾を渡る****
2013年に入り6月までに、アフリカから4万6000人以上の難民と移民が海路イエメンに到着しており、危険を冒しボートで避難する人が増えています。

イエメンでは過去6年間で、庇護申請者、難民、移民が急増しています。2012年には10万7500人という記録的な数の密航者となりました。

2013年1月から6か月間で4万6417人。これは2012年同時期の5万6146人に比べると少ないものの相変わらず大きな数字です。2006年から延べ50万人近い人びとがイエメンにたどり着いたことになります。

「過去2年間でイエメンに到着した難民・移民の数には大きな変化がありました。エチオピア人の密航が増えており、故郷での困難な状況が密航の大きな理由です」とUNHCRのメリッサ・フレミング首席報道官は話します。

以前はソマリア難民が25%から30%強を占めていましたが、2013年6月までにイエメンに到着した人のうち、ソマリア人は16%の7559人で、エチオピア人はなんと84%の3万8827人となっています。

多くの人は2月から3月に紅海を横断し、3万4875人がLahij州などへ、また1万1542人はアラビア海をわたりHadramout州などに到着しています。

難民と移民は密航の途中で、搾取、暴力、性的虐待を受けやすいのです。アラビア海や紅海を渡ってイエメンへ向かう密航のボートは、たいていすし詰め状態です。

密航業者がイエメン当局に発覚することを避けるため、乗客を海へ飛び込ませることもあります。多くの場合、密航業者と人身売買の売人がイエメンの海岸で密航者を待ち受けているのです。

イエメン当局は自動的にソマリア人を難民として認定しています。エチオピア人と他国の出身者についてはUNHCRが難民として認定しています。

エチオピア人の多くはイエメンに留まらず、別の国へ行くことを希望しているか、庇護申請をわからない人が多く、庇護を求める人はあまりいません。その結果、多くのエチオピア人が極端に脆弱な立場に置かれています。(後略)【2013年8月21日 UNHCR】
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周知のようにイエメンでは、イランの支援を受けていると言われるイスラム教シーア派系のザイド派武装勢力「フーシ」と、亡命を余儀なくされているハディ大統領を支持する勢力及びこれを支援して軍事介入するサウジアラビアなどアラブ有志連合の間で激しい戦闘が行われています。

この戦闘を逃れて人々は、「世界で最も危険な亡命ルート」を逆に、アフリカ側対岸のジブチに向っています。
その逃避行は「地獄の航海」とも。

****空爆逃れてイエメン脱出、「地獄の航海」経てアフリカへ****
孫娘をひざに乗せた女性は、その頬の涙をスカーフでぬぐっていた。まだ生後数カ月。空爆が始まった夜、イエメン南西部ビリム島のモスクで夜通し孫娘の耳をふさごうとし続けた。爆音が鳴り響くたび、孫娘は泣き叫んだ。

イエメンでサウジアラビアが空爆を開始して以来、何千人もの市民らが激しい爆撃を逃れ、海を渡って対岸のアフリカ東部ジブチに避難している。

アミナ・アリ・カシムさんはミサイルが着弾する直前に自宅から避難して、最悪の事態は免れた。「近所の人が夫に『すぐに避難を』と叫び、私たちは夢中で逃げた。家を離れた直後、すぐ近くに1発目のミサイルが、続いて2発目が落ちた。地上の物は全部燃えた」と振り返る。

日が昇るとほかの3家族と共に、一家でビリム島を出港。25人を詰め込んだ小舟は、バブ・エル・マンデブ海峡を渡って対岸のジブチを目指した。

原油タンカーや貨物船が頻繁に往来する同海峡は今、イエメンからの難民を乗せた粗末な漁船が押し寄せる。

カシムさんの息子のモハメドさんはこの航海を、「地獄に飛び込んだようなもの」だったと形容する。「女性たちは激しい吐き気に見舞われた。あまりに悲惨な光景だった」

5時間かかってようやくジブチ北部に到着した。政府はオボックに仮設避難所を設置しており、今後さらに数千人の難民が押し寄せると国連は予想する。

カシムさん一家は間もなく、郊外にあるビニールテントに移らなければならないという。イエメンに残してきた2人の娘とは連絡が取れず、耐えられないほどの不安が募る。

ひざの上の孫娘に目をやって、「もう泣き止むことができないのかと思った。その恐怖は一生付いて回るかもしれない」とつぶやいた。【4月10日 CNN】
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シリアのパレスチナ難民キャンプ「これまでで最も絶望的な状況にある」】
内戦が続くシリアでは、ISなどの攻勢によって首都ダマスカス近郊のパレスチナ難民キャンプが戦場と化しています。

****パレスチナ難民が危機的状況=政府軍、過激派掃討強化へ―シリア首都****
シリアの首都ダマスカス南部で、パレスチナ人が暮らすヤルムーク難民キャンプの大半が過激派組織「イスラム国」などの武装勢力に制圧され、アサド政権はキャンプでの掃討作戦を本格化させる構えだ。拡大する戦火の中、キャンプ内に取り残された人々は危機的状況に置かれている。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)などによると、キャンプにはシリア情勢が悪化する前の2011年3月時点で、シリア人を含め15万人以上が暮らしていた。

しかし、内戦が激化する中で反体制派が活動拠点としたため、政府軍の包囲下に置かれ、翌12年以降、食料不足などの人道危機が深刻化。多くの住民がキャンプを離れ、現在は1万8000人前後にまで減った。

武装勢力は人口急減に乗じ、空き家や廃屋を潜伏拠点にするなどして支配を拡大したとみられ、兵力は現時点で3000人程度に達したとの見方もある。

取り残された住民はキャンプを離れたくても、武装勢力による狙撃を恐れて身動きがとれないという。【4月9日 時事】 
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現在、ヤルムーク難民キャンプの90%はISとアルカイダ系の「ヌスラ戦線」に制圧されているといわれます。
もともと、この難民キャンプは「ヌスラ戦線」の支配下にあるとされていましたが、“ISに共鳴する現地のヌスラの戦闘員が、ISの侵攻を手助けしたとの情報もある”とも報じられており、ISと「ヌスラ戦線」がどういう関係にあるのかはよくわかりません。

確かなことは、「ただでさえ人権がほとんど意味を持たない場所だったが、その状況がさらに悪化している」(国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)広報官)「これまでで最も絶望的な状況にある」(UNRWA事務局長)ということで、「誰もがキャンプから離れようとしている」「電気はなく、ISが病院を占拠しているためけが人が行く場所もない」といった現状です。

****シリア難民キャンプは死の収容所の様相****
内戦が続くシリアの首都ダマスカスの近郊で、過激派組織IS=イスラミックステートが難民キャンプを拠点にシリア軍と戦闘していることについて、国連のパン・ギムン(潘基文)事務総長は「難民キャンプは死の収容所の様相を見せている」と述べ、強い懸念を示しました。(中略)

国連によりますと、キャンプには子ども3500人を含む1万8000人の住民がとどまっていて、国連などによる人道支援が一切受け取れず、水も食料もない状況に置かれているということです。

これについて国連のパン・ギムン事務総長は9日、記者団に対し「難民キャンプは今や死の収容所の様相を見せている。住民は人間の盾にされ、キャンプの中にいる武装勢力と外にいる政府軍の双方の脅威にさらされている」と強い懸念を示しました。

そのうえで、「住民がいるキャンプに総攻撃がかけられるという情報もある。事実であれば許されない戦争犯罪だ」と述べ、シリア軍がISを掃討するため総攻撃に踏み切ることをけん制するとともに、国際社会に対して事態の打開に協力するよう呼びかけました。【4月10日 NHK】
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ダマスカス中心部からわずか7キロの位置にある同難民キャンプがISの手に落ちることは、シリア・アサド政権にとっても痛手であり、犠牲を顧みない総攻撃も懸念されます。

「切断された頭部をいくつも見た。彼ら(IS)は親の目の前で子どもたちを殺すんだ。恐ろしさに凍り付いた」【4月7日 AFP】といった脱出者の言葉も。

「『ダーイシュ(Daesh、ISのアラビア語の略称)』のメンバー2人が、切断された頭部をサッカーボール代わりにして遊んでいるのを見た」【同上】といった証言も。ただ、混乱の中での話ですので、この類の話の真偽のほどはわかりません。

パレスチナを追われ、逃れてきたシリアでまた逃げ惑う人々。

日常から逃避して、いびつな大義を隠れ蓑にして闘争本能を満足させるための戦いに明け暮れる武装勢力、様々な思惑から関与、あるいは傍観する周辺国・大国・・・・そのなかで翻弄される人々、いつの時代も、どこの世界でも変わらぬ構図です。

“国際社会に対して事態の打開に協力するよう呼びかけました”(国連事務総長)・・・その呼びかけはあまりにも無力です。
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タイ  戒厳令を解除するも、新令で統制継続 「善意の市民は影響を受けない」 “善意”とは?

2015-04-09 22:42:40 | 東南アジア

(2月9日 訪日したプラユット暫定首相と握手する安倍総理 【外務省HP】)

士官学校予科は合格率1%ほどの超難関
タイでは、毎年4月に各地でその地区に割り当てられた数の若者を徴兵するためのくじ引きが行われます。

****タイ 徴兵のくじ引きで悲喜こもごも****
東南アジアのタイでは、兵役に就く男性を決めるくじ引きが行われ、兵役を免れた人が喜びを爆発させる一方で、最長で2年間の軍隊生活が決まった若者が、肩を落とす姿が見られました。

タイでは21歳以上の男性に兵役の義務があり、公平を期すために毎年4月に各地でその地区に割り当てられた数の若者を徴兵するためのくじ引きが行われます。

このうち、タイ西部のカンチャナブリのお寺では5日、身体検査をパスした200人余りの若者が運命のくじ引きに臨みました。

つぼの中には、最長で2年間の兵役を意味する赤いくじが2割ほど入っていて、家族が見守るなか1人ずつ名前を呼ばれてくじを引きました。

免除を意味する黒いくじを引き当てた若者が、家族とともに喜びを爆発させた一方で、赤いくじを引いた若者は、その場で配属先を言い渡され、がっくりと肩を落としていました。

最後の赤いくじを引いた男性は「ほかの人が悪いくじを引くのを願っていたが、その悪運が自分に来てしまった。まだ生後4か月の娘に会えなくなるのが寂しい」と話していました。

また、出生証明では男性として登録されているものの、その後、性転換などで女性として生活している人も会場で審査を受け、身体検査の段階で「兵役には不適格」とされました。

軍側はことしおよそ10万人の新兵を必要としているということですが、去年5月のクーデター後も、徴兵される若者の数に大きな変化はないということです。

士官学校は人気
一方、タイでは軍の幹部は社会的な地位が高く、将校を養成する士官学校が人気を集めています。

今月2日には、日本の中学卒業の年次の学生を対象に士官学校予科の入学試験が行われ、このうち、陸軍の試験会場では、200人の定員に対して1万8000人の受験生が集まりました。

合格率1%ほどの超難関ですが、試験に訪れた学生は「軍の将校になって国王を守りたい、それが私と家族の誇りになります」などと意気込みを話していました。

去年5月のクーデター後、タイでは軍の政治的な影響力がますます高まっていますが、プラユット暫定首相をはじめ強いエリート意識を持つ士官学校の出身者が政権の中枢を固めています。【4月6日 NHK】
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陸軍士官学校予科が“合格率1%ほどの超難関”ということで、タイにおいて軍人が超エリートであり、優れた才能を有していることが窺われます。

当然に、彼らは選ばれし者としてのプライドと社会を牽引してく使命感を有しているのでしょう。
タイで頻繁に軍部クーデターが起きる背景には、そうした軍部のプライド・使命感があると思われます。

戒厳令に代えて暫定憲法44条発動 「戒厳令よりも悪い」とも
そのタイでは、タクシン派と反タクシン派の抗争による政治・社会・経済の混乱を収束させるためとして軍部が実権を掌握し、プラユット軍事政権のもとで戒厳令が敷かれてきました。

この戒厳令により、軍政を批判する言動や政治集会を禁じ、違反者を拘束したり、軍事裁判にかけたりしてきましたが、欧米からの批判をかわし、観光業や外国からの投資など経済への悪影響を抑える狙いで、戒厳令を解除する決定を下しました。

しかし同時に、プラユット暫定首相が立法・行政・司法の三権を飛び越えて治安権限を行使できる暫定憲法44条を発動するということで、実質的にはこれまでと殆ど変らないようです。
むしろ、戒厳令より悪い・・・という声もあります。

****タイ政府、戒厳令に代わり軍政の強権条項を発動****
タイのプラユット首相は3月31日の閣議後、昨年5月に発令された戒厳令を解除すると発表した。代わって自らの権限を大幅に強化する暫定憲法44条を新たに発動させる。

タイでは昨年5月に軍が民主政権を倒して実権を握り、その直前から戒厳令を発令。軍事政権の国家平和秩序評議会(NCPO)を設置して、市民の自由の制限や言論統制、反対派の摘発を続けてきた。

国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルによれば、昨年5月以来、数百人が平和的な政治集会への参加などを理由に拘束され、数十人が軍事裁判にかけられているという。

タイ政府の発表によると、戒厳令に代わる暫定憲法44条は、「国家秩序の維持に関連した任務に軍当局者を配置する目的」で発動させる。

44条では公衆の調和のため、または国家の治安の破壊を防ぐために必要と判断すれば、軍政のトップに必要な権限を与えると定めている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、これでプラユット暫定首相は行政、立法、司法に縛られることなく命令が出せるようになり、責任を問われることもない。

クーデターに反対してきたタイの政治学者は、「タイは国際社会からの圧力で戒厳令を解除せざるを得なかった」「しかし44条はNCPOに完全な権限を与えるという点で、戒厳令よりも悪い」と話している。【4月2日 CNN】
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****タイ新命令「戒厳令以上に過酷」 軍の権限強化に懸念続出****
・・・・戒厳令に代わる命令は、クーデターを決行した軍主導の機関、国家平和秩序評議会(NCPO)議長(プラユット暫定首相が兼務)は三権に超越してあらゆる命令・措置がとれるとする暫定憲法44条に基づく。

軍による令状なしの逮捕や家宅捜索、7日以内の身柄拘束、報道規制、5人以上の政治集会の禁止など、これまでの戒厳令とほぼ同じ内容だ。

これに対して、報道機関や内外の人権団体、国連機関などから「命令は司法のチェックが入らない無制限の権限を暫定首相に与えており、戒厳令以上に過酷であると懸念する」(フセイン国連人権高等弁務官)といった声が相次いだ。

命令を起案した暫定政府のウィサヌ副首相(法務担当)は報道機関や在タイ外交団を集めて相次いで説明会を開き、「戒厳令解除によって、旅行保険が適用されるようになるし、新たな治安命令が対象とするのはわずか4分野の違反行為でしかない」と説明する。

しかし、対象4分野は王制や治安を脅かす違法行為や銃や爆発物の所持・使用のほか、クーデター後に出たすべての「NCPO布告・命令に反する行為」としており、事実上、政府への抗議や民主化要求の自由な行動は禁じられる。【4月9日 朝日】
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新たな命令によって表現の自由などの人権が抑圧されるという国際的な批判に、暫定政権は7日、各国の大使館の関係者などを集めた説明会を開き、「市民や国際社会の声を聞いたうえで戒厳令を解除したが、治安を脅かす事態が起こる可能性はまだあり、軍に権限を与えることが必要だ」と述べて、新たな命令について理解を求めています。【4月8日 NHK】

ただ、“プラユットは改革と平和と治安のために必要であれば、どんな命令でも下せる。しかも法的責任は一切問われない。行政、立法、司法すべての上に君臨する絶対君主のような存在になるということだ。”【4月14日 Newsweek日本版】ということでもあります。

【「善意の市民は影響を受けない」で済まされるのか?】
こうした批判に対し、“悪いことさえしなければ問題ない”というのが軍政側の考えであり、プラユット首相は「自分は独裁者にはならない」とも。

****戒厳令より怖い「独裁者憲法****
・・・・当然ながら、軍事政権はこうした主張を否定している。「善意の市民は影響を受けない」と、ウドムデット陸軍参謀長は言う。「これは悪事をたくらむ人間を取り締まる法律だ」

プラユットも外国の報道陣に「心配ない」と力説した。自分は「非情な人間」ではないから、独裁者の法律にはならないというのが彼の言い分だ。「君たちの国に帰ってちゃんと説明してほしい。さもないと、私は権力欲に取りつかれた男とみられてしまう」【同上】
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こうした軍政に対応は、おそらくタイ国内の受けはそんなに悪くないのではないでしょうか。
“混乱をもたらす自由”より“安定を保証する強い支配”を望んでいる向きが多いとも思われます。

“4月1日から4日にかけて、世論調査機関であるスアン・ドゥシット・ポールが調べたところ、国民の51%以上がプラユット首相の暫定憲法第44条の行使を容認したそうです(ちなみに反対は32%)。”【4月6日 「アジアの放浪者」http://blogs.yahoo.co.jp/superstarspy007/16624642.html

ただ、“それでいいのだろうか・・・?”“それを言ってしまったら、民主主義など存在しえなくなるのでは?”という個人的印象があります。

おそらく古今東西の独裁者と言われる支配者、あるいは一党独裁政権などは、みなタイ軍政やプラユット暫定首相と同じことを言っていたのではないでしょうか。

その結果として多くの独裁のもとで多大な犠牲者が生まれ、そうした独裁を防ぐための民主主義だったのではないでしょうか。政治的自由は、そう軽々しく否定・制約していい権利ではないように思います。

国王を頂点とした社会秩序を維持するということで、軍部や国王周辺など一部の階層の既得権益が保護され、農民や貧困増などの政治参加が疎外される体制とはならないのでしょうか?

軍部、プラユット暫定首相の価値観がタイ全国民の価値観を代表していると言い切れるのでしょうか?
「違う」と感じたとき、どのように異議申し立てすればいいのでしょうか?

ブータンでは2008年に王室が牽引する形で絶対君主制から議会を有する立憲君主制へ移行しましたが、「国王を敬愛している。今のままでいい」と訴える国民に対し、前国王は「今日の国王は良き君主でも、もし悪しき君主が現れたらどうするのだ?」と人々を諭したそうです。

ステープ元副首相らが扇動した社会混乱を意図した反政府行動の代償は、非常に大きなものになったようです。

それにしても、プラユット暫定首相は非常にストレートはものの言い方をする人物です。
軍人らしいといえばそうですし、そうした率直さが国民受けしている面もあります。

****記者を「処刑する」=タイ暫定首相発言が物議****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相が軍政の意に沿わない報道を行った記者を「処刑」すると発言し、物議を醸している。

国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ブリュッセル)は「タイで表現の自由が完全にないがしろにされていることを際立たせるものだ」と批判する声明を出した。

地元メディアによると、プラユット氏は25日、報道陣との質疑応答で「メディアが社会を分断している」などとメディア批判を展開し、「今後は全てのメディアを監視し、必要なら私の権力を行使する」と言及。記者から「どのような処罰を行うのか」と問われると、「おそらく処刑だ」と述べた。【3月26日 時事】 
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こうしたもの言いが“率直な人柄”云々で済んでいるうちはいいですが、実際にその権力の矛先が向けられたときは・・・・。
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メキシコ  「麻薬戦争」の闇 なぜ子どもたちは犯罪組織をヒーローだと思うのか

2015-04-08 22:08:09 | ラテンアメリカ

(「手にはAK-47 肩にはバズーカ 邪魔する奴は頭を吹っ飛ばす 俺たちは血に飢えているんだ 殺しには目がないぜ」 麻薬組織のボスたちを英雄として称える音楽=ナルコ・コリードを歌うグループ 【3月15日 映画.com】)

未だ出口の見えない「麻薬戦争」】
メキシコは経済的には、安価な労働力を背景に、巨大市場アメリカに隣接していることもあって、中国に代わる「世界の工場」として、近年停滞するブラジルにとってかわる勢いで中南米での存在感を大きくしてきました。(産油国でもあるメキシコは、昨年後半からは原油価格下落の影響などで苦境にあるようですが)

一方で、これまでもしばしば取り上げてきたように、2006年以降、政府が麻薬組織の取締まりの強化を方針として打ち出し、これに対する麻薬組織の警察などへの襲撃事件、また、麻薬組織どうしの抗争などが日常化し、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによればこれまでに6万人を超える死者が出ていると言われています。10万人以上が死亡、または行方不明になっていているとの報道もあります。

こうした状況は「麻薬戦争」と称されており、治安対策が最重要課題となっています。

軍の武力を行使した強硬姿勢で「麻薬戦争」による治安悪化を招いたとして国民から嫌気されたカルデロン前大統領に代ったペニャニエト大統領は、武力中心の麻薬犯罪組織掃討・全面戦争から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移しています。

ペニャニエト大統領は昨年9月、2014年上半期の殺人件数が、自身が就任した2012年の同期比で29%減少したと誇示しましたが、麻薬組織による暴力は依然として続いています。
(2014年10月12日ブログ“メキシコ 「麻薬戦争」の現状 大統領は殺人事件減少を誇示しましたが・・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141012

その最たるものが、地元警察に襲われた学生43人が連れ去られ、麻薬組織に引き渡されて殺害された事件で、この事件には市長夫婦や多数の警官らが関与した(市長夫人は麻薬組織創設者の兄弟)とされています。
(2014年11月11日ブログ“メキシコ 学生失踪事件と高速鉄建設契約における疑惑で、高まるペニャニエト大統領への批判”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141111

****不明学生43人「敵と誤認、殺害」 麻薬抗争、市長が拉致指示 メキシコ検察結論****
メキシコ南部で昨年9月、学生43人が連れ去られ行方不明になった事件で、メキシコ連邦検察庁は、「学生たちは麻薬組織メンバーによって殺害され、遺体は燃やされた」と結論づけた。逮捕された容疑者の証言などから、学生たちは敵対する別の麻薬組織のメンバーと間違われたとみられるという。

地元メディアによると、連邦検察庁のムリリョ長官が27日、記者会見で発表した。検察当局が「殺害された」と断定したのは初めて。

事件は昨年9月26日夜に発生。教員養成学校の学生たちがバスで移動中、地元警察に襲撃され、6人が死亡、43人が行方不明になった。

捜査当局は、ゲレロ州イグアラ市の当時の市長夫婦や多数の警官らが関与したとして、これまでに99人を逮捕。政治家や警察の腐敗ぶりが明らかになり、メキシコ全土にペニャニエト大統領の辞任を求めるデモが広がった。

同長官の説明では、学生たちは地元警察によって連れ去られ、麻薬組織に引き渡されて殺害された。遺体は燃やして灰にしてから川に流された。

麻薬組織のリーダーが、学生の中に敵対組織のメンバーがいると思い込み、痕跡を残さずに全員を殺害するよう指示したという。

一連の捜査で、当時の市長は麻薬組織のメンバーだとわかったといい、学生連れ去りを警察に指示した罪で起訴される見通し。主犯格の麻薬組織メンバーには、禁錮140年の求刑が検討されているという。【2月1日 朝日】
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今年2月には、ローマ法王が友人に送った個人的な電子メールのなかで、母国アルゼンチンで麻薬密売が増えていることを「メキシコ化」という表現を使って嘆いたことが明るみになり、メキシコ政府の反発を買い、バチカンが釈明に追われる出来事もありました。【2月26日 CNNより】
たとえ事実でも、外交上は口にしていけないこともあります。

麻薬組織のボスを逮捕するだけでは・・・
そんなメキシコで2月末から3月初めにかけて、相次いで麻薬組織の大物が逮捕されました。

****メキシコ、麻薬組織掃討作戦 大物を相次ぎ逮捕*****
メキシコ当局が麻薬組織の掃討作戦に力を入れている。2月末に同国最大規模とされる麻薬カルテルのトップを逮捕したのに続き、4日には麻薬カルテル「セタス」のトップ、オマル・トレビノ・モラレス容疑者を逮捕した。

同国では昨年、43人の学生が麻薬組織に拉致され殺された事件が起きるなど、麻薬組織による社会不安がおさまらず、ペニャニエト大統領にとって治安回復は重要課題となっている。

地元メディアによると、連邦警察と軍は4日、米国に隣接するヌエボ・レオン州モンテレイ市の自宅にいたモラレス容疑者を逮捕。千人以上を殺害した疑いがあり、メキシコ当局が200万ドル(約2億4千万円)、米国当局が500万ドル(約6億円)の懸賞金をかけていた。

「セタス」はメキシコ陸軍特殊部隊の出身者が多く、殺害した人の生首をさらしたり、歩道橋から遺体をつるしたりするなどの残虐行為で知られる。2010年には麻薬の運び屋になることを拒否した中米移民72人を殺害したとされる。

2月27日には、同国最大規模とされる麻薬カルテル「テンプル騎士団」のトップ、セルバンド・ゴメス容疑者(49)が逮捕された。元教師で「ラ・トゥタ」と呼ばれるゴメス容疑者には、メキシコ当局が200万ドルの懸賞金をかけていた。

麻薬問題に詳しい米スタンフォード大学のアルベルト・ディアス・カイエロス教授は「麻薬組織のボスが逮捕された後、半年間は暴力事件が増えるが、長期的には減るだろう」などと話している。【3月6日 朝日】
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「テンプル騎士団」のセルバンド・ゴメス容疑者は、築き上げた財産の一部を地域の住民に還元していたそうで、小学校教師出身の経歴に加え、政治の腐敗を批判する映像をインターネットにたびたび流すなど、麻薬組織のトップとしては異色の存在として知られていました。【2月28日 時事より】

おそらく地元では、“ロビンフッド”的な人気があったのではないでしょうか。

こうしたトップの逮捕は成果ではありますが、単にトップを逮捕するだけ、あるいは、ひとつの組織を潰すだけでは、他の人間がとってかわるだけ、他の組織が生まれるだけに終わることも考えられます。

また、短期的には、跡目を狙った抗争が激化します。

将来に希望が持てない社会の現状が、犯罪組織を受け入れる土壌を作っている
メキシコでは、麻薬組織とその幹部を賛美する「ナルコ・コリード」という音楽のジャンルが人気があるそうです。
“ナルコ”は麻薬を、“コリード”は古くから伝わった「物語り歌」を意味する言葉です。

この音楽に象徴されるメキシコの現状を扱ったドキュメンタリー映画「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇」が今月11日から日本公開されるそうです。

****佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇****
メキシコに「ナルコ・コリード」という音楽のジャンルがある。スペイン語のわからない私が聞くと、なんだか少し懐かしい感じの陽気なラテンミュージックにしか聞こえない。踊りたくなるほどだ。

しかしナルコ・コリードは実はとても怖ろしい音楽だ。日本語に直訳すれば、「麻薬密売人のバラッド」。実在の麻薬組織のボスたちを題材にして、彼らを英雄としてあつかった語りの音楽なのだ。歌詞がすごい。

「手にはAK-47 肩にはバズーカ 邪魔する奴は頭を吹っ飛ばす 俺たちは血に飢えているんだ 殺しには目がないぜ」

ナルコ・コリードの歌手たちは特定の組織と親しくするため、敵対する組織から憎まれ、これまでたくさんの歌手が殺害されているという。何とも言えない話だ。おまけに反社会的すぎてメキシコ国内では放送禁止になっている。
それでも人気者になれば大金が稼げるというので、ナルコ・コリードを歌う若者たちはたくさんいる。

この映画には、ふたりの主人公がいる。ひとりがナルコ・コリードで人気急上昇中の歌手、エドガーだ。エドガーはロサンゼルス生まれのメキシコ系アメリカ人で、インターネットでしかメキシコの麻薬組織のことを知らない。

でも本場に憧れ、「スラングも何もかも本場がやっぱり凄いぜ」と、麻薬組織の本拠地を目指す。映画の中でエドガーのパートは、徹底的にハイテンションに描かれる。

もうひとりの主人公は、警官のリチ。彼は「世界で最も危険な街」と言われているシアダー・ファレスという100万都市の警察署で働いている。

年間3000人をこえる殺人事件が起きている土地。殺人の現場で鑑識活動や遺体の検分などにあたる警察官たちは、なんと覆面をしている。顔がばれると、麻薬組織に狙われて殺されるのだという。

なんという常識外れな、恐怖に支配されている恐るべき街……リアル北斗の拳というか、リアル・マッドマックスというか。

リチは正義のために戦う信念の人であるけれども、そして同時に彼の表情からは深い深い諦念が伝わってくる。映画の中での彼のパートは、静謐につつまれている。

かつては静かで愛すべき街だった故郷を、彼はいまも愛している。「ここにあるのは死と暴力だけじゃない。愛も優しさも気遣いもある」。リチはそう独白するけれど、人は狙われるのを恐れて外出せず、ストリートには人影がない。

アメリカは巨大な麻薬の消費地だ。かつてはこのマス市場に向けて、コロンビアから大量の麻薬が運ばれていた。しかし1980年代のレーガン政権時代の麻薬戦争によってコロンビアからのルートが壊滅すると、麻薬の道はメキシコ経由に変わった。

そしてメキシコの麻薬組織が台頭し、まるで軍隊のように武装し、メキシコ政府と真っ向から対立するようになり、2000年代後半からの血で血を争う麻薬戦争となる。かつては静かだった街が戦場に変わり、すべては呑み込まれていく。

狂気と諦念がリフレインのように何度もくり返され、見ていると目眩がしてくるようなドキュメンタリである。戦慄ということばは、こういう映画のためにあるのだろう。【3月15日 映画.com】
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メキシコでも「ナルコ・コリード」人気は急上昇。
悪をたたえる文化は映画産業にも浸透し、庶民のヒーローのような存在だというのです。

(街の若い女性)「皆、ナルコ・コリードを聴いてる。 嫌いな人はいない。」「麻薬ギャングとつき合いたい。」

犯罪組織に立ち向かう者と、それを賞賛する者。

映画は、相反する姿を通して、麻薬戦争が引き起こす社会の歪みを浮き彫りにしています。【4月6日 NHK】
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カメラを回し、暴力にまみれた人間像を浮き彫りにしたのは、イスラエル出身の報道カメラマン、シャウル・シュワルツ監督で、同氏は、これまで戦場の現実を独自の視点で切り取り、世界的に権威がある「ロバート・キャパ賞」を受賞しています。【4月6日 NHKより】

以下は、シュワルツ監督へのインタビューです。

****麻薬戦争”に見る闇の深層*****
映画監督 シャウル・シュワルツさん
「麻薬戦争というのは、結局のところ“ギャング同士の殺し合い”に過ぎないと思われがちです。
しかし実際にはもっといろいろな側面があり、多くの一般市民にも影響を与えます。
そこからサブカルチャーとして『ナルコ・コリード』が生まれたのです。

ラテン系米国人からメキシコまで、その影響は広がっています。
それは衝撃的でした。

しかし彼らの文化をただ非難するだけでは、麻薬戦争をめぐる本質は見えてきません。
なぜ子どもたちは犯罪組織をヒーローだと思うのか、そこに興味を引かれ、理解しようとしたのです。

犯罪組織はメキシコの“がん”です。暴力でこの美しい国を支配している。
だからこそ『ナルコ・コリード』をテーマにしたのです。」

犯罪組織を賛美? 不条理を生む土壌
人口の半数が貧困にあえぐメキシコ。
将来に希望が持てない社会の現状が、犯罪組織を受け入れる土壌を作っていると監督は言います。

映画監督 シャウル・シュワルツさん
「なぜ犯罪組織に魅了されるのか。現地の子どもを想像して下さい。母親の収入は1日わずか10ドルたらず。
必死に働いてもです。

一方で、中学生ぐらいの子どもが高級車を乗り回し、大金を稼いで、誰にも邪魔されず好き放題している。
それを見て、子どもには力を持つ方がいいという気持ちが沸き上がります。
『お母さんのようにはなりたくない、金を稼いで力を持ちたい』となるわけです。

私は、麻薬組織がヒーローだとも、貧しい人々を助けているとも思いません。
しかしアメリカは、空虚なスローガンをこれからも掲げるでしょう。
『より多くの金と銃を投入し、取締りを強化すれば麻薬戦争は終わらせられる』とね。

それでは解決しません。
一部の人々にとって犯罪組織は、希望と成功の象徴です。私たちには突拍子もなく見えますが、現地にいれば分かってきます。重要なのは、どうやってそれを希望の象徴にさせないかを考えることです。

彼らの文化に怒りを覚えますが、今では理解はできます。それを表現したかったのです。」
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将来に希望が持てない社会の現状が、犯罪組織を受け入れる土壌を作っている・・・・番組でもコメントしていましたが、ISなどの過激思想に身を委ねる若者が後を絶たないのも同じような土壌が背景にあると思われます。

今もメキシコでは暴力が吹き荒れています。

****待ち伏せ襲撃で警官15人死亡、麻薬組織による報復か メキシコ****
メキシコ西部ハリスコ州で6日、警察の車列が待ち伏せしていた武装集団に襲われ、警察官15人が死亡、5人が負傷した。当局者が7日、明らかにした。同国で近年起きた治安当局と麻薬密売組織との闘争の中では最悪の事件となった。

事件はソヤタン村近郊の農村地帯にある曲がりくねった主要道路で発生。警察の精鋭部隊を乗せ同国第2の都市グアダラハラに向かっていた警察車両の一団が襲撃された。

当局によると、犯行に及んだのは麻薬密売組織「ハリスコ新世代カルテル」で、実行犯らはキャンプを張って1~2日間待ち伏せしていたとみられる。

麻薬組織がらみの暴力事件では、ミチョアカン、ゲレロ、タマウリパスの3州が注目を浴びることが多かったが、今回の事件により、ハリスコ州も「麻薬戦争」の主な舞台になっていることが改めて示された。

先月同州では治安当局トップの暗殺未遂事件が発生し、その捜査の一環で麻薬組織の構成員4人が逮捕されており、当局によると、今回の事件はそれに対する報復とみられるという。【4月8日 AFP】
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エボラ出血熱  終息の目途は不透明 ギニアでの封じ込めが難航

2015-04-07 21:02:00 | 疾病・保健衛生

(3月29日時点の状況 ブルーの濃淡はこれまでの患者数 黄色い円の大きさがここ3週間の新規患者数 オレンジの円の大きさがここ1週間の新規患者数を示しています。(WHO資料)【Hazard lab】http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/9/6/9600.html
黄色、オレンジの円はギニア・シエラレオネ国境付近(沿岸部)に集中しています。ただ、ギニアは症例に関する報告体制が行き届いていないとも指摘されています。

WHO「今年半ばまでに感染を止めることはできるはず」】
最近あまり報じられることがなくなった西アフリカのエボラ出血熱ですが、今年1、2月頃は新規感染者も減少して「4月頃には終息・・・」という声も聞かれました。

しかし、完全に封じ込めるのは困難なようで、依然としてくすぶり続けています。
4月からは雨季に入り、支援活動も困難になることも懸念されています。

終息の目途としては、“今年半ば”が想定されていますが、どうでしょうか。

****エボラ熱死者1万人超=勢い鈍化、終息も視野―西アフリカ****
世界保健機関(WHO)は12日、流行が続くエボラ出血熱による西アフリカ3カ国の死者(疑い例含む)が1万人を超えたと発表した。感染者(同)はこれまでに2万4350人に上っている。

死者はリベリアが4162人、シエラレオネが3655人、ギニアが2187人で計1万4人。感染者が最も多いのはシエラレオネで1万1677人。ただ、流行の勢いはこのところかなり鈍化している。

エイルワード事務局長補は11日の記者会見で、十分な対策の継続が条件としながらも、「今年半ばまでに感染を止めることはできるはず」との見通しを示した。【3月13日 時事】
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リベリア ほぼ封じ込め状態へ
改善傾向が顕著なリベリアでは、“エボラウイルスが猛威を振るったリベリアで5日、感染が確認されていた最後の患者が退院した。また世界保健機関(WHO)は4日、リベリアで今月1日までの1週間に報告された新規患者数は、これまでの9か月間で初めてゼロだったと発表した。”【3月6日 AFP】と、4月中の終息宣言も期待されていましたが、新規感染者の発生が報じられています。

****リベリア首都でエボラ熱の新規患者を確認、約1か月ぶり****
リベリア政府は20日、首都モンロビアで、約1か月ぶりに新規のエボラ出血熱患者が確認されたと発表した。

エボラ出血熱のピーク時には最も大きな打撃を受けこれまでに4000人以上がこの病気で死亡したリベリアだが、現在は新規患者がほぼ出なくなる感染終結期にあり、4月中旬にもエボラ出血熱感染終結宣言が出されるとみられていた。

リベリア政府のルイス・ブラウン報道官は、「女性1人が新たにエボラ出血熱に感染したことが確認された。それまでの27日間はただ1人の新規患者も出ていなかった。(エボラ熱をめぐる状況は)後退した」とAFPに述べた。(後略)【3月21日 AFP】
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結局、この女性は死亡しましたが、他にも2人の感染者が新たに報告されてるとも報じられています。【3月30日 AFPより】 日本厚生労働省HP(4月2日)では、3月29日までの1週間に新たに報告されたエボラ出血熱の確定患者はなかったとのことです。

ギニア:減少傾向 外出禁止令や長期間に及んだ学校閉鎖の社会影響も
ギニアとシエラレオネでは、3月29日までの1週間にそれぞれ25人、57人の感染が新たに確認されるなど、予断を許さない状況が続いています。

ただ、シエラレオネは4週連続で減少しています。

そのシエラレオネでは、3月末には3日間の外出禁止令を出して、徹底的に感染者を把握しようという対策がとられました。

****シエラレオネ、エボラ対策で250万人に3日間外出禁止令****
シエラレオネ政府は19日、エボラ出血熱の流行収束のため、首都周辺と北部に住む約250万人に27日から3日間の自宅待機を命じると発表した。

シエラレオネ国立エボラ対策センター(NERC)のパロ・コンテー氏によると、自宅待機は今月27日~29日に実施。対象は首都フリータウンを含む西部と、北部のボンバリ、ポート・ロコの2県で、戸別調査を行って当局が把握していない感染者がいないか確認する。

シエラレオネでは昨年9月にも、エボラ出血熱の感染拡大を阻止するためとして全土に3日間の外出禁止令を出していた。【3月20日 AFP】
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しかし、こうした措置は市民生活にも大きな犠牲を強いるもので、当局側の一方的な措置に対して反発も出ています。

****エボラ出血熱 外出禁止措置で暴動発生****
エボラ出血熱の流行が続く西アフリカのシエラレオネでは、感染を抑え込もうとすべての国民を対象に外出禁止措置が取られたのに対し、一部の住民が、食料が確保できないとして暴動を起こしました。

西アフリカの3か国で流行が続いてきたエボラ出血熱の発生が最初に報告されてから1年がたちましたが、感染や感染の疑いによる死者は1万人を超え、流行は今も収まっていません。

このため、3か国のうち患者が最も多くなっているシエラレオネでは、さらなる感染対策として、27日から3日間、すべての国民を対象に外出禁止の措置を取ったうえで、当局の保健スタッフが各世帯を1軒ずつ訪れて感染者がいないかどうかを確認しています。

この措置を受けて、首都フリータウンでは28日、一部の住民が、食料が確保できないとして配給用の食料を奪ったりするなど暴動を起こし、これに対して警察が催涙弾を使って鎮圧に当たったほか軍も出動する事態となりました。(後略)【3月29日 NHK】
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また、シエラレオネでは全土で約7カ月間閉鎖されていた学校が再開されました。
学校再開自体は歓迎すべきことではありますが、長期に及ぶ学校閉鎖中に子供を働かせ始めたとか、妊娠したとかで、学校に戻って来ない児童も少ないという問題が起きています。

****<エボラ熱>シエラレオネも学校再開へ 教育の立て直し急務****
エボラ出血熱の感染が広がった西アフリカのシエラレオネで、昨夏から全土で約7カ月間続く学校閉鎖が今月中に解除される見通しとなった。
学校の予防体制が整ったのが理由。

これで1、2月に学校を再開したギニア、リベリアを合わせエボラ熱が猛威を振るった3カ国で、教育が元通りになる。

ただ、支援にあたった国連職員からは「(一律的に)全国で学校を長期間閉鎖することは本来はあり得ない。3カ国の教育システムは脆弱(ぜいじゃく)で、立て直しが急務だ」との指摘も出ている。

 ◇国連職員が指摘
国連などによると、3カ国では昨夏に感染者数が急速に拡大し、パニックに陥った。3カ国は7~8月に小学校から大学まで全ての学校の閉鎖を決定。学校に通えなくなった児童、生徒は約500万人に上る。

アフリカ西部セネガルの首都ダカールにある国連児童基金(ユニセフ)西・中部アフリカ地域事務所に3月まで勤務した青木佐代子さん(43)は「政府が今後への影響などを十分考慮しないまま、全国で閉鎖してしまった」と語る。

学校閉鎖は、再開を巡る与野党の対立などもあって長期化し、子供たちへの悪影響が懸念されている。

ユニセフなどが予防体制を整備した後、ギニア、リベリアでは学校を再開したが、戻った子供たちは8~9割にとどまった。閉鎖中に親が子供を働かせ始めた可能性があるという。またシエラレオネでは未成年者の妊娠が前年より3割増加したというデータもある。

3カ国はエボラ熱で計1万人以上の国民を失った。また元々、現地では政府や自治体が学校や生徒の数を正確に把握していないなど、教育システムが機能していなかった。

青木さんは「国連やNGOが政府と協力し、今回の危機を教育などのシステムを立て直す『チャンス』に変えるべきだ」と話している。【4月7日 毎日】
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本来は、一律的に長期にわたって閉鎖するのではなく、閉鎖期間中もなんらかの児童対策のフォローが望まれたところではありますが、“現地では政府や自治体が学校や生徒の数を正確に把握していない”といった状態の当事国に感染パニックの渦中で多くを望むことも非現実的です。

“今回の危機を教育などのシステムを立て直す『チャンス』に変える”という前向きな方向で対応していくことが望まれます。

ギニア:再燃、風土病化の懸念も
一方、ギニアでは再燃が懸念され、「公衆衛生上の緊急事態」措置が取られています。

****エボラ懸念が再燃、ギニアで「非常事態」宣言****
ギニアのアルファ・コンデ大統領は28日、エボラ出血熱の感染拡大阻止のため、西部と南西部の5県に45日間の「公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。

全国メディアで声明を発表したコンデ大統領は、緊急事態宣言について、流行地域が「沿岸部に移動した」ためだと説明。「病人を隠したり遺体を別の地域に移動させた者は、他者の命を危険にさらしたとみなし訴追する」と警告した。(後略)【3月30日 AFP】
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新規確定患者数が4週連続で減少しているシエラレオネに対し、ギニアでは前週の45人から3月29日までの1週間では57人に増加し、エボラ出血熱がこのまま風土病として根付いてしまう事態も懸念されています。

****ギニアで「風土病」化も=国連派遣の邦人外交官警鐘―エボラ熱****
国連エボラ緊急対応派遣団(UNMEER)に日本から派遣されていた小沼士郎外務省アフリカ1課交渉官が3日、東京都内の日本記者クラブで会見し、エボラ出血熱の感染者が多い西アフリカ3カ国のうち特にギニアでは「風土病として根付いてしまう可能性がある」と警鐘を鳴らした。

国連の掲げる「感染者ゼロ」の目標を8月までに達成できると期待されるリベリア、シエラレオネ両国に対し、ギニアの感染者数が横ばいで推移していることを注視している。【4月3日 時事】 
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WHOは、ギニア国内における症例に関する報告体制が行き届いていないうえ、感染者の遺体の埋葬についても感染拡大を防止する安全対策が徹底されていないという問題点を指摘してます。

風土病として根付いてしまったウイルスがやがて変異して、空気感染するようになった・・・なんてことにならないことを願います。
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ネパール  進まない制憲作業  根深い「ダリット」や女性などへの差別

2015-04-06 22:20:27 | 南アジア(インド)

(授業を受ける児童婚から逃れたダリットのススミタ・カミさん(本文参照)【4月5日 AFP】)

制憲議会選挙から7年、未だ新憲法策定に至らず
ネパールでは2006年に、それまでの王制が廃止されることが発表され、議会政治の根幹をなす憲法制定の取り組みがなされていますが、政党間の対立が解消されず、いまだ憲法制定には至っていません。

2008年4月に行われた制憲議会選挙では、従来政府軍と戦ってきた共産党毛沢東派(マオイスト)が予想外に第1党となり政権を獲得しました。

しかし、武装組織を有するマオイストに対する他政党の不信感など、激しい政党間対立もあって政権は安定せず、4年間とされていた制憲期間が時間切れで終了、憲法を制定できないまま2012年5月に制憲議会は解散しました。

しばらく議会不在の状態が続いていましたが、2013年11月に再度、制憲議会選挙が行われ、マオイストは惨敗し、ネパール会議派(コングレス 王制時代からの政党で親インド路線)が第1党となりました。

ただ、議会過半数には遠く及ばず、依然として不安定な政権運営が続き、今年1月、再度の制憲期限も終了しました。

****憲法制定、期限切れ=ネパール****
ネパール制憲議会は22日、この日までとしていた憲法草案の起草期限切れを迎えた。与野党の主張の隔たりが埋まらなかったためで、新たに期限設定し、残り任期内で草案作成を目指す。

野党は「憲法は各党の総意に基づいて決められるべきだ」と主張し、投票で決めようとする与党に反発。ネムバン制憲議会議長は「政党が公約を守らなければ、国民の信頼は得られない」と野党議員の説得を試みたが、失敗に終わった。【1月23日 時事】 
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憲法の大枠については、2012年当時、主要4会派による合意がなされています。
“連邦制に関しては州の数では合意したものの、細かな境界や州名の検討は新憲法制定後に先延ばしした。また、統治制度は直接選挙の大統領と国会が選出する首相とで行政権を分担するシステムの導入で一致したが、権限の配分までは決まらなかった。”【2012年5月17日 朝日】

その後の審議内容はわかりませんが、“州の数や統治形式(大統領と首相の権能)などについてなお主要政党間で意見の相違がある”【日本ネパール協会HP】とも。

マオイストや被差別少数民族マデシの政党などの野党連合は、4月初旬のこの時期に抗議活動を予定しています。

****ネパール:憲法制定に係る反政府活動に関する注意喚起****
1 ネパールでは,2013年11月に制憲議会選挙がおこなわれ,2014年1月に開催された第2回制憲議会で,新憲法について2015年1月22日までに制定することで合意がなされました。

しかし,連立与党(ネパールコングレス,CPN-UML,RPP,CPN-ML)と野党連合(統一共産党マオイスト,RPP-N,マデシ諸党)間で,連邦制の構成等について合意が得られなかったため,現在まで憲法の制定には至っていません。

憲法制定に向けた与野党間の会談は現在も続行されていますが,野党連合は,自分たちの主張を憲法に反映させるため,カトマンズ市内で大規模な抗議集会を開催するなど連立与党に対する抗議活動を行っています。

また,本年1月13日及び20日に行われたゼネストの際には,野党連合による車両への放火が30件発生しました。

2 このような状況の下,野党連合は,抗議活動として今後以下の行動をとることを発表しています。
(1)4月2日:ネパール全土でゼネストを実施
(2)4月3日~6日:全政府機関事務所への出入りを妨害
(3)4月7日~9日:ネパール全土でゼネストを実施
【3月27日 外務省HP】
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予定どおりなら、明日から全土でゼネストに突入することになります。

【「ダリット」、女性、「マデシ」への差別
遅々として進まない憲法制定ですが、ネパールには貧困などの経済問題のほかに、根深い差別の問題があります。

ネパールにはカースト制があり、特にその枠外と言うか、最下層に位置する「ダリット」(不可触浅眠)は、歴史的に差別と排除を受けてきました。

「ダリット」に対する差別の内容は次のようなものになっています。
・共同体における井戸・寺院・食堂などの利用が制限される
・職業選択が制限されており、清掃、皮なめしなど特定職業に限定されている
・教育や雇用の機会から排除されている。
・一緒のテーブルでは食事をしない同席・共食の拒否 【反差別国際運動(IMADR)より】

また、女性に対する性差別も深刻です。
・身体的暴力や性暴力
・政治や意思決定からの排除
・教育や経済的機会からの排除
・蔑視 【同上】

更に、ネパール南部に東西に細長く広がる平原地帯にはインド系の「マデシ」と称される人々がいます。
「マデシ」は人口の4割強を占めるとも言われますが、 旧来ネパール種族によるカーストの低位におかれ、あるいはカーストにすら組み込まれず、シチズンシップ(住民証)を得ることもできず、長い間差別されてきました。

「マデシ」は新体制のもとでは政党を組織し、大きな勢力になってきています。

本来、新憲法はこうした被差別グループの権利を守るべきものですが、そのようにはなっていない向きもあるようです。

****ネパール、「反女性」の新憲法草案に批判****
ネパール人のシングルマザー、ディープティ・グルンさん(40)はこれまで長い間、10代の娘2人の国籍を取得しようと悪戦苦闘してきた。グルンさんの娘は2人ともネパール生まれだが、幼少の頃に両親が離婚し、母親に育てられた。

少なくとも現在は、法律がグルンさんを味方している。だがネパールの制憲議会は新憲法草案で、ひとり親家庭の子どもが親の国籍を引き継ぐのを禁止することを提案しており、これが人権活動家の怒りを買っている。

グルンさんは「自分の国で難民になるようなものだ。女性に対する扱いといえば、父親の書類を要求して尋問し、拷問にかけ、苦しめることばかり。男親が子どもの市民権を申請すると、何の質問もされないのに」と訴えた。

人権活動家は、新法案が可決されれば100万人の子どもが無国籍状態になる可能性があると指摘する。ネパールではひとり親家庭の大半が母子家庭のため、女性が圧倒的に影響を受けることになる。

新法案では子どもの国籍取得の要件として、両親がともにネパール人であることを定めている。これは両親のいずれかがネパール人である場合、その子どもには国籍取得の資格があるとした2006年の市民権法を覆すことになる。

女性への法的支援を行う非政府組織(NGO)「女性・法・開発のフォーラム(FWLD)」のサビン・マルミ氏は「文言上は、男性と女性が同じように制約を受けるようにみえる。だがシングルマザーを差別するために、保守的な官僚たちが条項を悪用する余地がある」と話した。

ネパールで生まれ育ったアルジュン・クマル・サーさん(25)はネパール人の母親とインド人の父親を持ち、理論上は市民権を有している。だが申請は未だに受理されておらず、そのために仕事に就けない状態が続いている。サーさんは歴史的に差別を受けてきた少数民族マデシの出身という。【2014年12月24日 AFP】
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【「ダリット」の児童婚
「ダリット」の女性は、二重の差別を受けることにもなります。
そうした事情は、2010年2月16日ブログ「ネパール 最下層女性に対する“魔女狩り”」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100216でも取り上げましたが、未だに改善されていないようです。

****13歳で誘拐され結婚、「ダリット」の少女たち ネパール****
3年前のいてつく夜、当時13歳だったススミタ・カミさんは夫の家をひそかに抜け出し、ネパール北西部の片田舎にある両親の家まで走り続けた。

同国の「最下層民」とされるダリットの集落では、10代の少女の多くが強制結婚の伝統的風習に従うことを期待される。

ススミタさんは自分の意志に反する結婚から逃れた後、直ちに脅威にさらされた。夫の実家が両親に、ススミタさんを返してくれと要求したのだ。しかしススミタさんの両親はこれに拒否し、より良い人生を送りたいと切に願う娘の力になることを決意した。

現在16歳のススミタさんはAFPに対し、「親には、結婚なんかしたくない、(夫の家には)戻らないと告げました。逃げてきたのは、学校に戻りたかったからです」と語った。

1963年に児童婚が禁止されたネパールだが、国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)によると、18歳未満で結婚させられる少女の割合は現在も10人中4人に上り、低所得層であるダリットではこの比率が上昇する。

主流派の人々から敬遠されているダリットは遠隔地に居住しているため、その風習がとがめられることは皆無に近い。

2012年に非営利人道支援団体のプラン・インターナショナルとセーブ・ザ・チルドレン、ワールド・ビジョンが行った調査では、ダリットの少女4人中3人が、10代または10代になる前に結婚している実態が明らかになった。

少女が結婚相手として男性に誘拐される例も後を絶たないが、文化的慣例であるため反対する家はほとんどない。

ススミタさんは、まきを集めている最中に誘拐され、その4日後に結婚を強いられた。ススミタさんの母親のジャダネ・カミさんも、10代でこうした試練に耐えることを余儀なくされた。

「これがわたしたちの文化。こうしなければ少女たちが駆け落ちし、よその集落に行ってしまうという不安があるのです」と、当初は娘の強制結婚に反対していなかったカミさんは語った。

ネパールでは10年間の内戦を経て王政が廃止され、民主政治への移行が進んでいるが、ダリットの児童婚は根強く残っている。

■隔絶された居住地
チベット高原との境にあるフムラ区の中心地シミコットでは、ダリットの人たちが隔絶された居住地で暮らしている。干し草屋根の家屋は、カーストが高いヒンズー教徒や仏教徒の光るトタン屋根の家屋とは明らかに対照的だ。

フムラ区のバム・バハドゥル・KC副区長はAFPに対し、「ダリットはカーストの底辺にいることから苦難を強いられている。何世紀もの間、他の階級に属する人々との交流を禁止されてきた」と説明した。「これが彼らが孤立を深めた要因なのは言うまでもなく、旧習に固執し、なかなか変化しようとしない」

当局者によると、ダリットは家計面でも厳しい状況にある。子どもたちは通学をやめて働くことを強く求められ、親たちは農民として生計を立てるのが精いっぱいだ。

7人きょうだいの長女で18歳のダナ・スナールさんは、クラスで最後に残ったダリットの女子生徒だった。
他の生徒らが退学する中、ダナさんは卒業して教師になる夢を持っていたものの、14歳で誘拐され、月収わずか50ドル(約6000円)の18歳の農民と強制結婚させられた。「ずっと泣いていた。目の前の扉が閉じ、自分の夢が破れた気がした」とダナさんは振り返った。

夫の実家はダナさんに対し、退学して農業と家事に専念するよう圧力をかけた。既に生後6か月の双子の母となったダナさんは、新たな生活が「苦労ばかりの毎日」だと話す。「十分な収入がなく、1日1食のこともある。この子たちをどうやって育てるか見当がつかない」

■廃れてほしい「このひどい慣習」
専門家らは、児童婚が破壊的な影響をもたらすと指摘。政府で子どもの人権問題に取り組んでいるクンガ・サンドゥク・ラマ氏は、「未成年で子供をもうけると教育がおろそかになる上、母子ともに健康問題を抱えることになる」と警告した。

法律も無力だとラマ氏は言う。書類や写真、証人の証言など、強制的に結婚させられた事実を裏付ける証拠がないと処罰を求めることができないとされているためだ。そこで、ラジオ番組や街頭劇、放課後の児童クラブを通じて問題意識を高める活動が重点的に行われている。

もっとも、既に伝統の被害者となった少女たちにこのような啓発プログラムは不要だ。現在9年生のススミタさんは、「このひどい慣習」が廃れてほしいと強調した。

靴修理職人として月に80ドル(約9600円)を稼ぐススミタさんの父親は、制服代が45ドル(約5400円)もかかる学校に通わせるのは厳しいと認める。しかし今はススミタさんに学業を続けさせるため家族であらゆる手を尽くす考えだと述べた。

母親のカミさんは「娘に自立の機会を与えたい」と語った。「娘が逃げたのは正しいことだったと思う。私は自分に選択肢があると感じたことは全くなかったから、娘は私より勇気がある」【4月5日 AFP】
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イギリス  “自分は何者か”を問う総選挙 選挙後に待ち受けるEU離脱問題

2015-04-05 22:24:01 | 欧州情勢

(2日に行われた与野党の7党首によるテレビ討論 イギリス独立党(UKIP)やスコットランド民族党(SNP)の党首が存在感を示し、キャメロン首相(右端)と労働党・ミリバンド党首(左から2番目)はともに決め手を欠いた格好だったとも 【4月3日 日テレNEWS】)

【「自分たちは英国人なのか、欧州人なのか。または、スコットランド人なのか、イングランド人なのか」】
イギリスで5月7日に総選挙が行われますが、保守党キャメロン首相は、総選挙に勝利して政権を維持した場合にはEU離脱を問う国民投票を行うことを公約にしているという件については、3月10日ブログ「イギリ  5月総選挙でスコットランド独立派躍進か EU離脱を問う国民投票は?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150310でも取り上げました。

4月30日、イギリス議会下院が解散されて選挙戦へ突入、投票日までひと月あまりとなっています。

選挙予想に関しては、連立与党第1党の保守党と最大野党・労働党という二大政党の支持率はこのところ30%台で競り合う状況が続いており、両党とも過半数が取れない「ハングパーラメント(宙づり議会)」が2010年の前回総選挙に続いて生じるとの見方が一般的です。

そうしたなかで、スコットランド独立運動を主導してきた地域政党スコットランド国民党(SNP)と、EU離脱を掲げる英国独立党(UKIP)の支持率が拡大しており、今回選挙は「自分たちは英国人なのか、欧州人なのか。または、スコットランド人なのか、イングランド人なのか」というアイデンティティーが問われる選挙ともなっています。

政策的には、EU離脱が大きな争点になります。

****英国民とは」問う 総選挙まで1カ月 EU離脱が争点****
英国の今後5年の行方を占う下院選挙(5月7日投開票、定数650)が約1カ月後に迫った。「2大政党制」の代名詞だった保守、労働両党の支持率が意識の多様化を背景に低下する中、新興政党や地域政党も巻き込んだ激しい選挙戦が展開されている。

格差の解消に加え、欧州連合(EU)離脱の是非や、北部スコットランドの自治権拡大など国家の根本的な行く末も争点になっており、専門家からは「英国民とは何者か」を問う歴史的な転換点になるとの指摘も出ている。

「古くさいウェストミンスター(英国議会)の政治家には任せられない」「既存政党に移民問題は解決できない」。有力7党首が参加した2日のテレビ討論会。

ともに小政党の、スコットランドの地域政党スコットランド国民党(SNP)のスタージョン党首と、EU離脱を掲げる英国独立党のファラージ党首が保守、労働党相手に気勢を上げた。

これまで英国は保守、労働の2大政党のいずれかが政権を担ってきたが、前回(2010年)選挙で過半数に届かなかった保守党が自由民主党と第二次大戦後初となる連立政権を発足させた。

今回は多党化の流れを決定付ける選挙になる可能性もある。世論調査では支持率5%以上の政党が保守、労働、英国独立、自由民主、緑の党の5党と過去最多を記録。
全国での支持率は低いがSNPや、ウェールズ、北アイルランドの地域政党も存在感を増す。

選挙を特徴付ける争点の一つがEUとの関係だ。EU域内であれば原則居住は自由なため、東欧から移民が急増。そのため、英国民にはEUへの不信感が強い。

EU離脱を主張する英国独立党は、13年地方選、昨年の欧州議会選挙で躍進。2大政党に次ぐ支持率13〜15%を維持する。

保守党支持層が英国独立党に流れることを警戒したキャメロン首相は13年1月、「選挙で勝利した場合、17年末までにEU離脱の是非を問う国民投票を行う」と約束。
労働党は「国民投票を実施すれば、投資熱を冷ます」などと批判するが、選挙結果次第では離脱が現実味を帯びてくる。

もう一つの争点がスコットランドの自治権拡大問題だ。小選挙区制では特定の地域に支持者が集中する政党が有利だ。スコットランドには59議席が割り当てられている。

独立は昨年9月の住民投票で否決されたが独立を目指すSNPは6議席から54議席に伸ばすとの見方も出ており、第3党に躍進する可能性が高い。

英メディアによると、スタージョン党首は2日、「SNPが独立を求めていることはみんなが知っている。ただ、今回の選挙では(独立よりも)議会の権限を可能な限りスコットランドに移すことを求める」と述べた。

保守、労働両党が過半数を獲得できない「ハングパーラメント(宙づり国会)」となれば連立協議で鍵を握り、自治権拡大を要求するのは確実だ。

スコットランドには英国唯一の核兵器である潜水艦発射弾道ミサイル搭載の潜水艦基地がある。SNPは基地撤去を求めており、安全保障に影響が出る可能性がある。

ロンドン大学キングスカレッジのバーノン・ボグダナー教授(現代英国史)は選挙戦について「イデオロギーの政治に代わり、アイデンティティー(自分は何者か)の政治の時代になった。国民は選挙で、自分たちは英国人なのか、欧州人なのか。または、スコットランド人なのか、イングランド人なのかを問われる。グローバリズムの利益の享受層と、そこからこぼれた層との間に溝が生まれていることを反映した現象ともいえる」と分析している。

 ◇格差不満、多党化の流れ
他の欧州諸国と同様に争点になっているのが、「格差」と「財政緊縮策」の問題だ。

英国経済は14年の国内総生産(GDP)成長率が主要7カ国(G7)で最高の2・8%と好調だ。一方、非正規雇用の増加による雇用の不安定化や、社会保障費の削減などに国民の不満は根強い。選挙結果は、格差が問題となる日米や、緊縮策で対立が続く欧州各国にも影響を与えそうだ。(後略)【4月5日 毎日】
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政治は往々にして感情に支配される 「英国民もそれほどバカではない」とはいいつつも・・・・
キャメロン首相自身はEU離脱を望んでいる訳ではありませんが、国民のEUへの不満を背景にUKIPへの支持が拡大し、保守党の票がUKIPに食われてしまうというという懸念から、党内圧力もあって、EU批判票つなぎとめのために国民投票実施の公約を掲げています。

EU離脱がイギリスにとってメリットのない、最悪の選択肢であるという一般的な評価は前回ブログでも取り上げたところで、“欧州に影響されるが、欧州に影響を与える力を持たないという状況にイギリスを追い込む”と言われています。

****迫るイギリス総選挙、イギリスが「EU離脱」したらどうなる!?  西田明弘****
・・・・ユーロ圏を創ったEMU(経済通貨同盟)への参加を見送ったように、英国にはもともと大陸欧州とは一定の距離を保ちたいとの思いがある。

加盟負担金の大きさ(GDPの0.5%)やEUの規制などによって、EU残留は経済的にもマイナスだとの見方もある。
最近では、EU条約が人の移動の自由を原則保証しているため、英国への移民が増加しており、それに伴う社会保障給付の増加などが問題視されるようになっている。英国がEUに留まる限り、独自に移民制限などの政策を採用することはできない。

もっとも、英国がEUから離脱する方がデメリットは大きいとの見方が一般的だろう。EUから離脱すれば、輸出の約半分をEU向けが占める英国は、その特権的アクセスを失うことになりかねない。また、当然のことながら、EUの様々なルール作りに関して、英国は発言権を喪失することになる。

より深刻な影響が出そうなのが金融業界だ。ロンドン金融市場はニューヨークと並んで、グローバルな金融市場のなかでも際立った存在だ。それも、国内経済の規模に比べて格段に大きな役割を果たしているのは、外国の参加者が多いためだ。外国人選手の活躍が目立つことに例えて「ウィンブルドン現象」と呼ばれたこともあった。

その英国がEUから離脱した場合に、これまで同様に外国からの市場参加が望めるのか。ローカル市場に成り下がらないまでも、ある程度の存在感の低下は避けられないのではないか。

そして、外国金融機関は拠点の中心をロンドンから大陸欧州、例えばフランクフルトなどに移すかもしれない。その場合、英国の金融資産や不動産、通貨ポンドに対する需要も減退する可能性がありそうだ。

総選挙の帰趨とEU離脱論の行方に注目したい。【4月3日 西田明弘氏 マイナビニュース】
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理屈ではそうでも、感情的にはなかなか難しいものがあります。

****EU離脱か残留か 感情が政治を支配する恐ろしさ****
・・・・英国がEUを離脱した場合、非関税障壁が増え、EU統合の深化による利益を受けられなくなる。

実質消費で計った国民総生産(GDP)は悲観シナリオで3.09%(500億ポンド)、楽観シナリオで1.13%(180億ポンド)減るという。
500億ポンドは日本円にして約8兆8700億円だ。

英国とEUの貿易は25%、英国の国民1人当たり所得は6.3%~9.5%減少すると予測している。それでも英国がEUからの離脱を選択するとしたら正気の沙汰とは思えない。

英国民もそれほどバカではない。今年に入ってからの世論調査では10回中8回は残留派が離脱派を上回っている。

キャメロン首相がEUとの再交渉に臨み、英国の利益を守ったと判断した場合は、残留派が離脱派を圧倒している。

EU統合による移民が仕事や年金・医療など社会保障の機会を奪っているとUKIPは主張する。
しかし、働き盛りの移民は英国の経済と財政にとってマイナスというより大きなプラスなのだ。

グローバル時代が大きな転換点を迎え、ジオエコノミクス(地理経済学)の世界は米・中・欧、ロシアに分断され始めている。英国がEUから離脱すればEUというレバレッジを失い、ジオエコノミクス戦争の荒波にのみ込まれてしまうだろう。

キャメロン首相は政権を維持した場合、国民投票で有権者からEU残留の信認を得たい考えだ。経済が悪くなれば人は感情に支配されやすくなる。逆に経済が良くなれば余裕ができてきて、損得勘定すなわち理性に基いて判断するようになる。

政治は往々にして感情に支配される。
英国がEU離脱を選択することはよもやあるまいと筆者は考えているのだが…。【3月30日 木村正人氏 BLOGOS】
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スコットランド独立を問う住民投票も、キャメロン首相は“まさか本気で独立を選択するなんてありえない”と考え、大差で圧勝できると踏んでいました。だからこそ、くすぶる分離独立問題に決着をつけるため、進んで住民投票に打って出たところでもあります。

しかし、住民投票が近づくにつれ分離独立派が急拡大し、キャメロン首相以下、保守党・労働党双方が青ざめたのは周知のところです。

もしEU離脱を問う国民投票を実施する・・・という話になれば、「英国民もそれほどバカではない」とはいいつつも、スコットランド独立住民投票のときのような展開も考えられます。

キャメロン首相は、国民投票までにEU残留の条件交渉を行うとしています。
しかし、これは逆効果ではないでしょうか。

イギリス・キャメロン首相がEU離脱をちらつかせてイギリスへの特例的な待遇をEUに求めても、EU側は基本的な部分では応じないでしょう。

EUの基本理念に反するということもありますが、EU側にはこれまでもイギリスの対応にはうんざりしているところがありますので、「出て行きたいなら、すきにしたら」となるのが落ちでは・・・。

そんなイギリスがつれなくされる交渉を見せつけられたら、イギリス国民感情の方は益々EU離脱に傾きそうです。

まあ、まずは1か月後の総選挙で、国民投票云々は先の話ですが。
ただ、選挙結果が出て、保守党が政権維持という形になれば、2017年末までに行うと公約されている国民投票までは逃げ道がなくなります。

もっとも、ギリシャのユーロ離脱問題とか、フランスの2017年大統領選挙でのマリーヌ・ルペン氏の動向など、EUがそのときまで現在の姿のままでいられるかについては、不確定要素はありますが。

なお、キャメロン首相は移民流入のコントロールを主張しています。

****英総選挙へ党首討論 移民巡り論戦****
イギリスで、来月の総選挙に向けて与野党の7党首がテレビ討論に臨み、EU=ヨーロッパ連合の国々から流入する移民の制限に向けて、EUとの関係をどうすべきかを巡って論戦が交わされました。

来月7日に投票が行われるイギリスの総選挙では、急増しているEU各国からの移民を制限するため、「人の移動の自由」を基本原則に掲げるEUとの関係をどう見直していくかが争点の一つになっています。

2日、与野党の7党首によるテレビ討論が行われ、与党・保守党のキャメロン首相は「イギリスが多くの雇用を生み出してきたからこそ、EU各国から多くの移民が流入し続けており、コントロールが必要だ」と述べ、イギリスに来て6か月間就職できなければ帰国させるなどの対応方針を説明しました。

これに対し、世論調査の支持率で3位の野党・イギリス独立党のファラージュ党首は、「EUに加盟しながら移民をコントロールすることは絶対にできない」と述べ、EUからの離脱を訴えました。

一方、野党第1党・労働党のミリバンド党首は、「EUからの離脱は、雇用や家計、ビジネスに災難をもたらす。移民問題も含めてEUを変えていこう」と述べ、EUにとどまって改革を求めていくべきだと主張しました。

キャメロン首相は、再任されれば、EUと改革に向けた交渉をしたうえで、2017年までにEUからの離脱の賛否を国民投票で問う方針で、総選挙に向けてEUとの関係の在り方を巡る論戦が続きそうです。【4月3日 NHK】
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UKIPの資質
ついでに、UKIPに関する話題

何度も「ネグロは苦手なの」と繰り返すUKIP地方議員(ダンカン氏)を写した動画
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43284  【3月24日 BBC News Japan】
昨年12月の撮影で、発言内容を知ったUKIPはダンカン氏を除名しています。
ダンカン氏は今年2月の取材に対して、「人種差別的なことは何も言っていない」と答えています。

****英国独立党、「オバマ氏拉致せよ」投稿の候補変更 英総選挙****
5月7日に実施される総選挙に向けて本格的な選挙戦が始まった英国で、英国独立党(UKIP)は3月31日、イスラエルはバラク・オバマ米大統領を「拉致」すべきだと交流サイトのフェイスブックに投稿した候補を別の候補に変更した。

フェイスブックのページの保存画像によると、ロンドン北部ヘンドン選挙区から出馬する予定だったジェレミー・ゼイド氏は先週、イスラエルが秘密裏に進めていた核開発計画に関する文書の機密指定解除・公開を受け「オバマ大統領の退任後、イスラエルはやつの引き渡しを要求するか、国家機密を漏えいさせた罪で『アイヒマンのように』投獄すべきだ」「アイヒマンと同じように、あの野郎を捕まえて連行するんだ」などとコメントを書き込んだ。(後略)【4月1日 AFP】
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党勢が急拡大するときは、いろんな人材が紛れ込んでしまう・・・・ということで済むのか、UKIP支持者のある傾向を示すものなのか・・・。
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サウジアラビア  イラン核保有の場合は、パキスタンから一カ月以内に核兵器を入手?

2015-04-04 21:47:34 | 中東情勢

(長年パキスタンの核開発を支援してきたサウジアラビアのサウド外相・左とパキスタンのサルタージ国家安全保障・外交特別補佐官 2014年 【4月号 選択】)

曖昧合意、それはそれで・・・
注目されていたイラン核問題の「枠組み」合意が“一応”なされたこと、ただ、合意内容にはイラン側とアメリカ側では解釈に差がみられることなどについては、多くのメディアが詳しく報じているところです。

しかし、交渉というのは譲歩するということであり(譲歩しないのであれば交渉ではなく恫喝です)、これも各メディアが取り上げているように、イラン・アメリカ双方が国内に交渉に反対する強硬派を抱える状況では、なにがしらか、国内向けのアピールも必要とされると思われます。

また、今回の合意はあくまでも「枠組み」についてであり、要は最終合意に向けて曖昧にされた部分をつめていければ、あるいはもっとうまくカムフラージュできるようにしていければいい話で、現時点で完全に考えが一致している必要もありません。(一致しているなら、現段階で最終合意が可能です)

とにかく決裂させることは両者とも避けたいという“合意”のもとで、曖昧ながらも最終合意へむけた方向性を出した・・・ということでしょう。

イスラエルやアメリカ共和党強硬派のように「悪い取引はしない方がいい」という立場は、要は武力でイランを叩きたいというだけの話であり、戦争は極力避けたいという一般論からしても、あるいは、中東石油に大きく依存する日本の利害からしても、組することはできません。

【「いかがわしさ」がつきまとう核協議
そもそも、イランにせよ、北朝鮮にせよ、核開発問題協議には「いかがわしさ」がつきまとうものであり、核開発を阻止しようとする自分たちが善で、核開発を目論むイラン党が悪であるとい・・・といった話でもありません。

****イラン核協議の不都合な現実****
・・・・一方、この交渉の裏には、不都合な現実がある。
イランに核兵器の開発を断念するよう迫っている国のうち、ドイツを除いた5か国すべてが核武装している現実だ。

アメリカは核弾頭を7000発以上、ロシアは8000以上、イギリスは200以上、中国は250以上、フランスは300以上所有している。

イランとのいかなる合意も「人類を大きな危険にさらす」と憤っているイスラエルだって、80発以上を所有していると見られる。

このように自分たちは核武装していながら、イランをどうやって説得できるというのか。国際社会の大きな矛盾の1つだ。【3月31日 Newsweek】
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イランのように、シリア・イラク・イエメンなどで勢力を拡大しようとするような国に核を持たせたら危険だ・・・という話もあるでしょうが、それを言うならパレスチナに度々侵攻し、国際批判を無視して違法に入植地を拡大し続けるイスラエルのような国の核も問題です。

インドとパキスタンのように、いつ戦争を再開するかわからない国の核も問題です。

中国のように「核心的利益」を譲らない国も、ロシアのようにウクライナ東部に手を出す国も、立場によれば、世界各地でわがもの顔に振舞うアメリカの核も問題でしょう。

イランのように人権を無視した狂信的な国が核を持つのは・・・という話でも、やはり他国も似たりよったりの感もあります。

イスラエルと並んで、イランの核保有を警戒するもうひとつの国が、イランと中東地域での影響力を争うスンニ派の盟主を自任するサウジアラビアですが、人権とか民主化という点では、イラン以上に眉をひそめたくなるような国です。

アメリカはイランを“ならず者”扱いしますが、アメリカの同盟国であるイスラエルやサウジアラビアはどうなのか?という感もあります。

核協議の実態は、結局のところ善悪をただすというより、どうすれば自国の利益に都合がいいかという次元の話でしょう。

中東核拡散 「彼らが持てば、我々も持ちますよ」】
で、サウジアラビアです。
シーア派イランの影響力拡大に対抗して、イエメンで軍事介入を行っていますが、核に関しては、“イランが核を持つなら、自国も持つ”という立場です。

イラン核保有の最大の問題は、サウジアラビアなども対抗して核保有に走り、中東全域に核が拡散するという懸念です。

サウジアラビアに核開発の技術はありませんが、おカネがあります。

その豊富な資金力でこれまでパキスタンの核開発を支えてきましたが、必要となればいつでもパキスタンからサウジアラビアに核を移転するという前提だという話が以前からあります。

最近のイランのイラク・イエメンでの影響力拡大は、このサウジアラビアの既定方針を加速させているようです。

****サウジが「核」を持つ日 パキスタンと交わした「譲渡密約****
イランの核協議が大詰めを迎える中、サウジアラビアがパキスタンからの核兵器入手に向け、計画の詰めを急いでいる。

サウジ国内では、核弾頭搭載可能な弾道ミサイルの地下発射場が建設されており、イランが核兵器を保有した際には、「一カ月以内に核兵器を入手する」と見られている。

三月のイスラエル総選挙では、イランをめぐる核協議に反対するネタニヤフ首相が勝利したばかりで、もう一つの米国の同盟国サウジは、容易に核武装できる態勢を着々と固めている。

オバマ政権による、イランの核武装阻止計画は、同盟諸国によって完全に形骸化されている。

カネの見返りに核弾頭を提供
サウジのアブドゥラ前国王が死去して間もない二月初旬。パキスタンから極秘の代表団が、サウジの首都リヤドを訪れた。(中略)

「(パキスタン)軍首脳の訪問で、両国はサルマン新国王の下でも、核合意に変更がないことを確認し合ったと見られます」と、米国人の安全保障担当記者は言う。(中略)

パキスタンとサウジアラビアの軍事協力は一九六〇年代にまでさかのぼる。

インドとの戦争で実戦経験が豊富なパキスタン軍が、全面的にサウジ軍を支援していた。六九年にイエメンがサウジ領に侵入すると、これを駆逐したのがパキスタン軍のパイロットだった。七〇年代には、王国の防衛のため、一万五千人規模のパキスタン兵がサウジに常時駐留していたこともあった。

サウジは圧倒的な資金力で、これに報いた。民間からの寄付も含め、年間数十億ドル規模の支援をパキスタンに対して行った。パキスタンにあるイスラム神学校(マドラサ)は、サウジの支援だけで、三万校が開校した。

核兵器開発の協力も、初期段階の七〇年代に始まった。ライバルのインドが七四年に核実験を行い、追い込まれていたパキスタンに、サウジが資金面で全面的な支援をした。

「当初から『カネの見返りに、核弾頭や開発技術を提供する』という了解だったのでしょう。パキスタンが九八年に核実験に成功すると、その翌年にはサウジの国防相だったスルタン王子(二〇一一年死去)が、パキスタンのウラン濃縮施設とミサイル製造工場を視察しています」と前出記者。

イラク戦争が世界の耳目を集めていた〇三年には、イスラマバードで両国の「核協力」合意が秘密裏に締結された。この時には、後に国王になるアブドゥラ皇太子、サウド外相らがパキスタンを訪問した。(中略)

パキスタンは潤沢な資金に支えられ、核弾頭を百二十近くまで積み上げた。先行していたインド(推計で約百十)を、すでに追い抜き、二〇二〇年までに二百の核弾頭を持つと推計されている。

サウジが核兵器を買おうとした相手は、ほかにもいた。サダム・フセイン大統領時代のイラクに、核兵器開発の支援として数十億ドルを送っていたことは、後に米国に亡命したサウジ外交官、モハンメド・ヒレウィによって明らかにされた。この計画はイラクによるクウェート占領(九〇年)で、根元から消滅した。

「彼らが持てば、我々も持ちますよ」
サウジはパキスタンの核弾頭を待っているだけではない。

リヤド近郊のカルジ基地内に、七〇年代から極秘の核研究施設を運営し、サウジ人研究者を育成した。八八年には、「民生用原子力開発」の意図を公にし、国立の「原子力研究所」を設立。この年に、核拡散防止条約(NPT)に調印した。

弾道ミサイル開発では、八七年に「戦略ミサイル軍」を設置し、中国製の「東風3」を購入した。一昨年には、リヤド南西二百キロの山岳地帯に、大規模なミサイル地下発射場を建設していることが衛星写真で分かった。テヘランまで一千八百キロ、イスラエルの人口密集地まで二千六百キロの距離である。

昨年には、核弾頭搭載可能な「東風21」を購入したことが伝えられた。この情報を報じた米ニューズウィーク誌は、「米中央情報局(CIA)が、核兵器搭載不可に改造されたのを確認した」としたものの、パキスタンの核ミサイルも中国製が基礎であるため、サウジの核弾頭搭載ミサイル保有は時間の問題と見られている。

ただ、サウジの民生用原発の歩みは遅い。(中略)米研究機関「核脅威イニシアチブ(NTI)」は最新の評価の中で、「高性能核兵器を保有するには、天然資源、技術力、研究者のどれも不十分というのが、専門家のほぼ一致した見方である」としている。

ところが、パキスタンが核弾頭を提供するとなると、事情は激変する。

イスラエル軍の情報機関「アマン」の長官を務めたアモス・ヤドリンは一昨年、スウェーデンで開催された戦略関係会議で、「サウジはすでにカネを払っている。パキスタンに行って、必要なものを入手しさえすればいい。一カ月も待つことはない」と、サウジ、パキスタン両国の核兵器受け渡しが、最終段階にあるとの見方を示した。

もちろん米国は一貫して、「核兵器拡散は認めない」との立場を、サウジ、パキスタン両国に伝えてきた。
だが、オバマ政権下で中東、南アジア一帯からの米軍の急速な撤退が進み、サウジを筆頭とする湾岸産油国が、自助努力を迫られるようになると、サウジは核保有の意思をより明確に米側に伝えるようになった。

アブドゥラ前国王は〇九年、米国の中東外交の重鎮、デニス・ロスと会談した際に、「彼ら(イラン)が核兵器を持てば、我々も核兵器を持ちますよ」と、こともなげに語った。

ヒラリー・クリントン国務長官(当時)の特別補佐官だったロスは、「米国は核拡散に絶対に反対です」と長広舌をふるったが、国王は「彼らが核兵器を持てば、我々も核兵器を持ちますよ」と、全く同じ言葉を、冷たく言い放った。

サウジの総合情報庁の長官を長く務めたトゥルキ王子は近年、「イランが核を持てば、サウジは、これまで語られたことのない、劇的な措置を取らざるを得ない」といった発言を繰り返している。

また、あるサウジ高官が最近、「二つの道から、核保有を目指す」と語ったことも伝えられた。もちろん、一つは自国で核技術を取得していく道であり、もう一つはパキスタンから取得する道である。

オバマ政権への不信が背景に
サウジの新体制には、切迫した事情が別にある。

「イスラム国」壊滅作戦で、イランがイラクのシーア派政権の全面支援に回り、イラクを事実上、イラン傘下の国にしたことだ。

スンニ派盟主のサウジにとって、地政学上大きな失点である。北部ティクリートの攻防では、イラン革命防衛隊の精鋭部隊が奪還作戦の指揮をとった。米軍統合参謀本部のマーティン・デンプシー議長さえ、「イラン支援が最も明白になった作戦だ」と認めざるを得なかった。

サウジのサウド外相は三月、リヤドを訪問中だったジョン・ケリー国務長官に、サウジの不満をぶちまけた。外相は記者会見の席上で、「ティクリートほど、我々の懸念が最も鮮明に表れた例はない。イランはイラクを乗っ取ろうとしている」と、イランを非難した。

地域情勢の悪化、オバマ政権への不信がサウジ新体制を「パキスタン・オプション」に走らせているのは間違いない。

サウジには百五十万人のパキスタン人が働いており、パキスタンにとってもサウジは生命線である。

サウジの民生用核開発には、韓国電力公社(KEPCO)や日本の東芝などアジア企業も多数、契約獲得を競っている。だが、一見うまみだらけの計画の背景には、非情で苛烈な中東政治の現実が潜んでいること、そしてサウジ指導部が本当に必要な核は、「抑止力」であることを承知しておく必要があるだろう。【4月号 選択】
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従来は、“イランが核保有しても、サウジアラビアは自ら核開発に走ったり、あるいは、パキスタンから核を取得したりするよりも、はるかに高い確率でアメリカの核の傘の下での庇護を求めることになるだろう”という見方もありましたが、中東におけるアメリカの存在感が薄れるにつれて、その線も薄くなったようです。

もっとも、サウジアラビアに核を引き渡すということに関しては、パキスタンも相当の覚悟がいりますので、そうそう簡単な話でもないようにも思えますが。

いずれにしても、アメリカが本気で中東地域での核拡散を抑えたいと思うのであれば、イスラエルにも核を放棄させることでイランにも核開発を断念させ、さらにサウジアラビアにも・・・という覚悟が必要でしょう。

それができないなら、イランのとの最終合意ができても、火種はくすぶり続けるでしょう。

なお、今回の枠組み合意に関し、「あしき合意を阻止する、もしくは少なくとも修正を加えるために世界に(実情を)説明し、説得し続ける」というイスラエル・ネタニヤフ首相に対し、サウジアラビア・サルマン国王は「強制力のある最終合意に至ることを望む」と自制した発言を行っています。

****<イラン核協議>枠組み合意 イスラエルは強く反発****
・・・・一方、オバマ大統領は2日、サルマン国王やネタニヤフ首相に電話で説明。ネタニヤフ首相には、イスラエルの安全保障を今後も支援する意向を強調。今後樹立される新内閣との安保協力の協議を増やすよう、米政府の安全保障チームに指示したことも伝えた。

これに対し、サルマン国王は協議で「中東地域と国際社会の安全保障と安定に向けて、強制力のある最終合意に至ることを望む」と述べた。サウジの国営通信が伝えた。

イスラム教スンニ派国家サウジは、中東地域の覇権を競うライバルのシーア派国家イランによる核兵器開発を懸念している。国王の発言は、核開発を制限する枠組み合意を評価する立場を示したものとみられる。【4月3日 毎日】
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“枠組み合意を評価する立場”なのか、パキスタンからの核譲渡も視野に入れながらの醒めた対応なのか・・・。
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台湾  中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加申請 “一つの中国”が絡む悩ましい問題

2015-04-03 21:34:28 | 東アジア

(3月30日 台北 馬英九総統のAIIB参加表明に総統府前で抗議する人々 【https://twitter.com/yunhanwang1/status/583069239923216384】)

AIIB参加国50超 国際金融機関として一定の存在感を示す可能性
中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の話は、3月29日ブログ「中国主導のアジアインフラ投資銀行への“参加ドミノ” 日米の意向にかかわらず「世界は止まらない」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150329 でも取り上げました。

その後も、創設メンバー国として扱われる期限の3月末に向けて“駆け込み”が相次ぎ、51の国と地域に膨らんだようです。

日本とアメリカは、銀行の運営に不透明な点が残るなどとして参加の申請をしていません。

こうした対応については、単にアジアでのインフラ建設におけるビジネスチャンスを失う云々という話だけでなく、今後ますます国際的影響力を強めていく隣国・中国にどのように向き合っていくかという、日本の基本的な立ち位置を考えた際に、また、主要なプレーヤーとしての中国をどのように国際社会に受け入れるかということを考えた際に、いかがなものか・・・、時計の針が10年か15年前ぐらいで止まっているのではないか・・・という個人的な印象は前回ブログで触れたところです。

****戦わずして日米に勝つ」中国が狙う21世紀の“孫子の兵法” 雪崩を打って各国参加****
中国主導の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐり、日米を尻目に、アジアや欧州の国々が雪崩を打って参加を申請した。上海の大学教授は、「(日米に対抗する)21世紀の『孫子の兵法』だ」と評した。

米ドルを基軸通貨とする既存の国際金融秩序とは別に、自国に有利なルールを作り上げたい中国は、潤沢な資金力を武器に多くの国々を陣営に引き入れ、「戦わずして日米に勝つ」との策を実行に移しつつあるからだ。【3月31日 産経】
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****外交敗北」ではない=アジア投資銀の参加見送り―麻生財務相****
麻生太郎財務相は3日の閣議後記者会見で、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加判断を日本政府が先送りしたことに関し「日本政府や民間銀行が(金融面から)支援しているので、特にマイナスになるということはない」と強調した。

野党が政府の対応を「外交の敗北」と批判していることには「敗北なんて思ったことは全くない」と反論した。(後略)【4月3日 時事】
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勝つとか負けるとか、そういう話ではなく・・・・と思うのですが、その話は今回パスします。

【「台湾が適当な名義で参加することを歓迎する」】
今回は台湾の話。
台湾もAIIBへの参加を申請していますが、日本以上に悩ましい選択です。

****台湾、AIIBへの参加を表明 習近平氏と前副総統が会談****
台湾の蕭万長前副総統は28日、海南省ボアオ(博鰲)で中国の習近平国家主席と会談し、中国が主導する国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に台湾が参加する方針を伝えた。「ボアオアジアフォーラム」年次総会に出席中の台湾当局者が明らかにした。

会談は年次総会の開幕式前に行われた。AIIBへの参加について、台湾側では「中台両岸の産業協力」をはじめ、台湾の地域関与を進める上で有利だと説明している。

さらに蕭氏は、中国がユーラシア大陸の内陸と沿岸で進めるインフラ整備構想にも、台湾が積極的にかかわる考えを伝えた。

会談を前に、蕭氏は台湾メディアにAIIB参加に積極的な姿勢を取る馬英九政権の方針を表明していた。これに対し、中国の張志軍・台湾事務弁公室主任は、「台湾側の具体的な考えを聞きたい」と述べていた。会談には張氏も同席した。【3月28日 産経】
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台湾側は、“昨年10月に北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の財務担当閣僚会合で、中国側から非公式に提案があった”(張盛和財政部長)【3月19日 産経】とも説明しています。

北朝鮮の参加希望を“北朝鮮の財政状況や経済の実態が不透明で、情報開示も不十分だとして、要請を断ったという。融資を踏み倒す可能性を懸念したとみられる。”【3月31日 時事】と断った中国ですが、“一つの中国”を巡って曖昧・微妙な関係にある台湾については“歓迎”の姿勢です。

(それにしても、北朝鮮について“融資を踏み倒す可能性を懸念”というのも辛辣な表現です。「血で固められた友誼」はすでに過去のものになったようです。)

****台湾の参加を「歓迎」=アジア投資銀―中国****
中国国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は1日、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に対する台湾の参加申請について「(AIIBは)開放、包容的であり、台湾が適当な名義で参加することを歓迎する」との談話を発表した。「一つの中国」原則の下、名称や資格について調整した上で、参加を受け入れるとみられる。【4月1日 時事】 
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いうまでもなく、台湾にとっては中国との距離の取り方が最重要問題です。
政治的に中国に統合されることは絶対に認められませんが、経済的には中国なしには立ち行かないのも現実です。

そうした事情から、“ひとつの中国”という大問題は棚上げにして、とにかく経済的関係を・・・という台湾ではありますが、原則的には互いに相手を独自の“国家”としては認めていない“一つの中国”も絡むのが「適当な名義」という問題であり、台湾の扱いです。

****駆け込みでもなければブラックボックスでもない」参加の台湾苦しい釈明 「名称『中国台北』は受け入れられない****
中国が主導する国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明した台湾の馬英九政権が、苦しい立場に立たされている。

期限の3月31日に正式申請したことで野党から“駆け込み”批判を受けたほか参加の名称なども微妙な問題で、今後さらなる反発を招く可能性もある。

「駆け込みでもなければブラックボックスでもない」
張盛和財政部長(財務相に相当)は1日、海外メディアとの懇談で、こう釈明した。

台湾の蕭万長前副総統が中国の習近平国家主席に参加の意向を伝えたのは先月28日。正式な意向書送付は31日夜にずれ込んだ。

張氏は、AIIBの創設基本合意書が昨年10月、北京で署名されてから約2週間後に検討を始め、先月4日には中台関係の改善や投資機会の増加など「加入は利益が多い」との結論を得ていたと強調した。
一方で、米国の方針も「慎重に考慮した」と述べ、対米配慮から意向表明が遅れたことを示唆した。

野党、民主進歩党は加入自体には反対していないものの、31日の声明で、立法院(国会)での審議などを経ず手続きが「ブラックボックス」で「奇襲」だと批判。同日深夜には学生数十人が総統府前で抗議デモを行い、一部が警官隊との衝突で身柄を拘束された。

参加資格や名称も課題だ。中国の王毅外相は28日、加入表明を歓迎し「名称は国際慣例に従って処理される」と述べた。

だが、「一つの中国」の原則を掲げ、台湾を自国の領土とみなす中国は、台湾の国際組織への加盟を妨害してきた経緯がある。

台湾側は、原加盟国だったアジア開発銀行(ADB)で、1986年の中国加盟後、名称を「中国台北」に変更されたことを不服としており、AIIBでもこの名称は「受け入れられない」(外交部幹部)としている。

アジア太平洋経済協力会議(APEC)などでの「中華台北」が妥協点になるとみられるが、台湾が求める「対等かつ尊厳ある原則での加入」を中国がどの程度認めるかは、予断を許さない。【4月3日 産経】
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アジア開発銀行(ADB)については、中国の加盟後も台湾はとどまっていますが、「中国台北」の名称に変わっており、台湾側はこの名は受け入れられないと抗議を続けています。

夏立言・大陸委員会主任委員は「尊厳が守られなければ参加を取りやめる」とも。【4月1日 朝日より】

中国も、どれだけ公正で透明性のある運営をするのかが国際的に注視されているAIIBですから、あまり台湾をめぐる政治問題で深追いはしないのでは・・・とも思われます。

それにしても、台湾にとっては、中国との難しい交渉、その国内的な反響が今後待ち受けています。
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ナイジェリア  民主的政権交代が実現

2015-04-02 22:19:40 | アフリカ

(ナイジェリア北部ダウラで、支持者に手を振るブハリ氏=3月28日(AP)【4月1日 産経ニュース】)

【「国民の血であがなう価値のある野望など存在しない」】
ナイジェリアはアフリカ最大の1億7千万人の人口を抱え、アフリカ最大の経済規模を誇る地域大国です。また、アフリカ最大の産油国でもあります。

しかし、昨今の原油安で財政悪化が懸念されているほか、原油の国家収入の一部が所在不明になるなど不正が蔓延しており、経済再生と汚職の撲滅も課題となっています。

宗教的には“主に北部ではイスラーム教が、南部ではキリスト教が信仰され、その他土着のアニミズム宗教も勢力を保っており、内訳はイスラーム教が5割、キリスト教が4割、土地固有の伝統信仰が1割となっている”【ウィキペディア】とイスラム・キリスト教徒が拮抗しており、その宗教対立も大きな問題となっています。

経済的には、北部イスラム教徒地域は発展から取り残されており、南北・宗教間の経済格差も大きな問題です。

そうした発展から取り残された貧困、蔓延する腐敗・汚職を温床として拡大したのがイスラム過激派「ボコ・ハラム」であり、その残虐なテロ行為については再三取り上げてきました。

“ボコ・ハラムは2002年の結成後、09年前後から政府庁舎などを狙った攻撃を開始。昨年4月には学校を襲って女子生徒200人以上を誘拐し、いまだ解放に至っていない。その後も各地で数十~数百人規模の子どもや若い女性の誘拐を繰り返し、戦闘員として使ったり、自爆テロを強要したりして、計1万3千人以上の市民を殺害したとみられている。”【4月2日 朝日】

アフリカ随一の経済成長を実現しながらも、腐敗・汚職が蔓延し、これまで「ボコ・ハラム」の活動を抑え込むことができなかったジョナサン大統領(南部・キリスト教徒)の再選をかけた大統領選挙が世界的に注目されていましたが、前回選挙でジョナサン氏に敗れた北部イスラム教地域を地盤とするブハリ元最高軍事評議会議長(72)が勝利して政権交代が行われることになったは周知のところです。

****野党ブハリ氏勝利=現職、敗北認める―ナイジェリア大統領選****
西アフリカのナイジェリアで3月28、29の両日実施された大統領選挙の開票結果が1日未明(日本時間同午前)公表され、最大野党・全進歩会議(APC)のムハンマド・ブハリ元最高軍事評議会議長(72)が得票率53.95%で、同44.96%の与党・国民民主党(PDP)の現職グッドラック・ジョナサン大統領(57)を破り、勝利した。

ナイジェリアは長く軍事政権が続いたアフリカの大国で、選挙を通じた政権交代実現は、アフリカの民主主義の歴史に大きな一歩を刻むことになる。

ジョナサン氏は31日夜、声明を出し「自由で公正な選挙を約束してきた。その言葉を守る」と宣言、敗北を公式に認めた。1999年の民政移管以来、大統領の座を独占してきたPDPから初めて野党への政権交代が実現することになる。

選管の公式発表によると、ブハリ氏の得票は約1542万票、ジョナサン氏は約1285万票で、250万票も差が付いた。第2の都市カノなどブハリ氏の地盤である北部では、多くの支持者が街頭に繰り出し、勝利を祝った。

2011年の前回選挙後、敗れたブハリ氏の支持者が暴徒化し、800人以上の死者が出た。しかし、今回はジョナサン氏が声明で「国民の血であがなう価値のある野望など存在しない」と呼び掛けており、混乱の抑制が期待されている。【4月1日 時事】
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今回と同じ対決となった前回、2011年選挙では、ジョナサン氏が100万票以上の差をつけて、当初有利と思われていたブハリ氏を破りました。
この結果に、ブハリ支持者の多い北部を中心に暴動が勃発し、上記記事にもあるように500人とも800人とも言われる死者を出しており、今回選挙も“選挙後”が不安視されていました。

敗れたジョナサン大統領(57)は速やかに、勝利宣言したブハリ氏に電話で祝意を伝えて敗北を認め、「国民の血であがなう価値のある野望など存在しない」との声明を出して、混乱防止に努めています。

****ジョナサン氏を称賛=米大統領****
オバマ米大統領は1日、ナイジェリア大統領選挙の結果判明を受けて声明を出し、「民主主義の原則を守るナイジェリアの決意が強固であることを世界に示した」とたたえた。大統領は特に、敗北を認めた現職のジョナサン氏について「国の利益を最優先した」と称賛した。【4月1日 時事】 
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なにかと問題も多かったジョナサン大統領ですが、今のところは“有終の美を飾った”と形になっています。
ブハリ氏も、ジョナサン大統領派に対し「私を恐れる必要はない。古い闘争と過去の不満は忘れ、前途をつくり出していこう」とし、対立を乗り越え協力して国づくりを行うよう呼び掛けています。 

****ナイジェリアで民主的政権交代*****
ナイジェリアは大きく予想を裏切った。3月28日の大統領選について、政治家やアナリストは様々なケースを想定したが、その多くは崩れ去った。

1999年以降政権を握ってきた与党、国民民主党(PDP)の有力者達は、投票が行われる前から暫定的な中央政府を立ち上げようともくろんでいた。PDPの中には、現職のジョナサン大統領の対抗馬で野党のブハリ元最高軍事評議会議長への敗北を認めるより、軍に政権を移譲しようという考えもあった。

大統領選では、ナイジェリアの数百万人の国民が辛抱強く、おおむね平和的に投票の列をつくった。230万票という大差とはいえないものの、アフリカの中枢であり、分裂の危機にあるこの国の国民は、汚職の撲滅、より公平な富の分配、法や秩序の再建などを訴えた元軍政トップのブハリ氏を評価した。

必然ではなかった結果だからこそ、いっそう注目に値する。

最終的な開票結果が発表される前に、ジョナサン氏が敗北を受け入れ、ナイジェリア国民の投票に対する不信感は瞬時に消え去った。

ジョナサン氏は、おそらく多くの人命を救った謙虚さにおいて高い評価に値する。また、この選挙結果は、アフリカの多くの国々で民主化への道のりに険しさが残る中、大陸中の政治改革論者を活気づかせた。

■前例なかった現職大統領の敗北宣言
ナイジェリアの将来には多くのリスクが残されている。しかし、現職の大統領が投票で敗北して潔く敗退を受け入れたという、この国において前例のない出来事の重要性は過小評価することはできない。

ジョナサン氏は、より皮肉なPDP党員や同氏が政権にいたことで恩恵を受けていた故郷で産油地域ニジェール地方の出身者の一部からは、再選を果たせなかったことで批判されるかもしれない。

しかし、より広い目で見れば、動き出した民主化路線から外させようとする圧力に抵抗し、理にかなったルールを敷いてその険しい道のりを滑らかにしようとしていたのは、5年の任期中の失敗を考慮しても称賛に値する。

選挙管理委員会も極めて重要な役割を果たした。当初は問題もあったが、新たな投票者識別技術は国民が不満に思う政治家を選挙で排除できないという皮肉が出るほどの選挙違反の抑制につながった。

国内の体制は脆弱なままであるが、選挙管理委員会は安定に寄与する強さを得てきていることを見せつけた。

ブハリ氏の選出は、汚職や身内での排他的な資本流通、ナイジェリアの潜在力を弱体化させた犯罪行為などを国民が拒絶したことを示している。

同氏の支持者の大部分は、過去15年間の不均衡な経済成長の時代に、その恩恵にあずかることがほとんどなかった抑圧された人々だった。
こうした人々には、自身の選択で新たに政権についた人々に対するいっそうの一体感と信頼感が生まれるはずだ。

原油価格の下落とナイジェリア財政を考えると、国民の期待に応えるためには新政府には難しい課題が待ち受けている。

しかし、民主化の追い風を受けるナイジェリアにとっては、原油依存を減らし、政治体制を食い物にする人々に立ち向かい、全国民が恩恵を受けるより広範な経済を育てるためのすばらしい機会である。【4月2日 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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確かにナイジェリアに限らず、アフリカでは“民主的”選挙が行われても、選挙後に敗れた側が騒ぎを起こし混乱が広がることが多く、民主主義が定着という点で大きな問題がありました。

その意味で、今回ジョナサン大統領が敗北を認めて混乱防止に努めたことは、アフリカ民主主義にとっては大きな成果であると言えます。

なお、新たな投票者識別技術については、ジョナサン大統領自身の投票時、指紋のスキャナーが反応せず、自らの投票に約50分かかったという話もありました。

“有権者の本人確認のために導入された生体認証カードの読み取り装置に技術的なトラブルが相次ぎ、全国約15万か所の投票所のうち約300か所で29日も投票が行われることになった。
現職のグッドラック・ジョナサン大統領は故郷の南部バイエルサ州オトゥオケで投票しようとしたが、何度試してもカードの読み取りができなかったため、手作業で本人確認を済ませて投票した。”【3月29日 AFP】

問題はあったものの、選挙違反防止という点ではそれなりに効果を発揮した・・・ということでしょうか。

ボコ・ハラム対策はもちろんだが、新政権に対する汚職根絶と格差是正への国民の期待は強い
ブハリ氏は軍出身で、1983年末にクーデターで実権を掌握し、最高軍事評議会議長(国家元首)として軍事政権を率いました。

前政権時代の混乱をおさめるためにも強権的な統治を行い、また、緊縮的な経済運営で経済が悪化、1985年にはクーデターで政権の座を追われています。

民政移管後は大統領選に3回出馬し、いずれも敗北。今回が4回目の挑戦でした。

今回選挙では“強権イメージが、ボコ・ハラムに悩まされる国民に「強い指導者」と受け取られ期待が集まった面もある”【4月1日 毎日】とも。
ブハリ氏は地盤の北部で票を固め、キリスト教徒が比較的多い南西部各州でも大きく支持を広げて勝利しました。

ブハリ氏は当選を決めたあと、自身の“強権イメージ”について、今は以前の自分とは違う・・・という趣旨の発言をしています。そうであることを期待します。

また、「ボコ・ハラム」対策以上に、汚職撲滅が重要な課題とも述べています。

「ボコ・ハラム」に関しては、チャド軍など周辺国も参加した掃討作戦が奏功し、かなり追い詰めるところまできています。

****ナイジェリア軍、「ボコ・ハラム」本部の奪還を発表****
2イスラム過激派「ボコ・ハラム」の掃討作戦を進めるアフリカ西部のナイジェリア国防省は27日、同派が昨年樹立を宣言した「カリフ(預言者ムハンマドの代理人)制国家」の本部とする北東部の町グウォザを同日朝、奪還したとの声明を発表した。

地上軍や空軍戦力を投入しての戦果で、同町に通じる複数の町や村落でもボコ・ハラムを駆逐したと述べた。複数のボコ・ハラム戦闘員を殺害、多数を拘束したとし、大量の武器や弾薬を押収。グウォザの行政本部として用いられた施設を全面的に破壊したとも述べた。

同町はボルノ州内にあり、ボコ・ハラムは昨年8月、カリフ制国家の樹立を宣言。今月初旬には、イスラム過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」への忠誠を表明していた。(中略)

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは26日に発表した声明で、ボコ・ハラムの攻撃による民間人の死者は今年これまでで少なくとも1000人に達したと報告。グウォザを制圧した際には、住民約300人を森林地帯にあるキャンプへ連行したとも述べた。

ボコ・ハラムによるテロ攻撃などは2009年以降に本格化。その活動範囲はナイジェリア内が大半だったが、最近は隣国のカメルーンやチャドなどにも拡散。

これを受け両国はボコ・ハラム掃討に兵力を投入し、アフリカ連合も統合部隊を編成し、軍事介入している。【3月28日 CNN】
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当初2月14日に予定されていた大統領選挙は、ボコ・ハラム支配の地域での治安確保が難しいとして6週間の延期されていました。

いわゆる支配地域を奪還するという点では、早晩なんらかの結果が出るのではないでしょうか。

“(チャンバス国連事務総長)特別代表によると、ボコ・ハラムは今年初め、ナイジェリア北東部3州で計約20の行政区域を支配。ナイジェリアや周辺国で150万人が家を追われた。だが、チャドなど多国籍部隊の軍事介入を受け、現在はボルノ州のわずかな区域を掌握しているのみ。大統領選ではボコ・ハラムによる攻撃が一部で報告されたが、投票全体への影響はなかった。”【4月1日 毎日】

しかし、ゲリラ的活動、テロ行為がなくなるか・・・という話はまた別物です。

ブハリ氏は、「われわれはテロを打ち負かすまで努力することを全く惜しまない」(ボコ・ハラムは)この国からテロをなくし、平和を取り戻すというわれわれの意志の強さを間もなく思い知るだろう」と、「ボコ・ハラム」撲滅の決意を語っています。

しかし、「ボコ・ハラム」のような過激思想を一掃するためには、ブハリ氏も重視している「汚職追放」、更に、経済成長の恩恵を広く貧困層へ及ぼしていく取り組みが必要です。

****<ナイジェリア>ボコ・ハラム対策課題 政権交代、変革期待****
・・・・1999年の民政移管後初の政権交代を受け、変革への国民の期待を背負ったAPC(全進歩会議)政権は、イスラム過激派ボコ・ハラム対策や汚職根絶など山積する課題に向き合うことになる。

ジョナサン氏がブハリ氏に電話で祝意を伝えたことが報じられると、首都アブジャやブハリ氏の地盤である北部カノなどでは大勢の支持者が路上に繰り出し、選挙戦で陣営が用いた「汚職追放」の象徴であるほうきを振り、歌やダンスで喜びを爆発させた。

ロイター通信によると、勝利を決めたブハリ氏は支持者らに対し「一党(支配)国家を脱した。変革の時が来た」と述べた(中略)

ボコ・ハラム対策はもちろんだが、新政権に対する汚職根絶と格差是正への国民の期待は強い。

アフリカ最大の1億7000万人以上の人口を抱えるナイジェリアは、アフリカ一の産油国。経済規模も南アフリカを抜いてアフリカでトップの地域大国だが、1日1ドル(約120円)未満で暮らす貧困層は人口の6割にも上り、特に、油田に恵まれる南部と貧困層が多い北部の格差は大きい。

一方で、1960年の独立以降、国庫に入るべき約4000億ドル(約48兆円)が消えたとも指摘され、長年の腐敗は深刻だ。変革を掲げるブハリ氏の手腕が注目される。【4月1日 毎日】
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なお、「汚職追放」を重視するブハリ氏ですが、前政権に対する政治的復讐のような展開にならないことを願います。
また、国民も変化をあまり性急に求めすぎないことも重要です。改革には時間も必要です。特に、経済面では。
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イエメン 完全崩壊の瀬戸際

2015-04-01 23:04:13 | 中東情勢

【4月7日号 Newsweek日本版】

増大する犠牲者
3月27日ブログ「イエメン イラン・サウジアラビアの宗派間代理戦争の様相 対岸ジブチには自衛隊拠点」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150327 でも取り上げたように、アラビア半島先端に位置する中東イエメンでは、イスラム教シーア派の盟主イランが支援しているとされる反政府武装勢力「フーシ」(シーア派の一派であるザイド派)の攻勢・南進に対し、イスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアがスンニ派湾岸諸国とともにハディ大統領を支援する形で空爆に踏み切り、内戦状態に近い混乱が拡大しています。

ハディ政権対「フーシ」の政治抗争は、それぞれを支援する地域大国サウジアラビア対イランの地域影響力をめぐる代理戦争の様相を、また、中東各地で起きているスンニ派対シーア派の宗派間戦争の様相を呈しています。

****1週間で子ども62人死亡、イエメン「完全崩壊の瀬戸際」 国連****
国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)は3月31日、サウジアラビア軍主導の空爆作戦が続き戦闘が激化するイエメンで、ここ1週間に子ども少なくとも62人が死亡し、30人が負傷したと発表した。

ユニセフ・イエメン事務所のジュリアン・ハルネ代表は、「子どもたちは深刻に援助を必要とする状況にある。全ての紛争当事者は、子どもたちの安全を守るための策を全力で講じなくてはならない」と訴えている。

イエメンでは、反政府派のイスラム教シーア派(Shiite)系武装組織「フーシ派」の進攻を防ぐため、サウジアラビア主導の連合軍が先月25日に空爆を開始して以降、戦闘が急速に激化。ユニセフによれば、多くの子どもたちが戦闘におびえる一方で、戦闘に加わる子ども兵も増加している。

また、ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は声明で、「イエメンは非常に憂慮すべき状況にある。ここ4日間で市民数十人が死亡した」「同国は完全崩壊の瀬戸際にある」との見解を示した。【4月1日 AFP】
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また、「アラブ最貧国」イエメンにはこれまでの国内混乱の避難民及び国外のソマリア・シリアなどからの難民が多数存在していますが、被害はそうした難民キャンプにも及んでいます。

****<イエメン>攻撃で避難民キャンプ40人死亡、250人負傷****
イエメン西部ハッジャ州で30日、国内避難民キャンプに攻撃があり、女性や子供を含む少なくとも40人が死亡、250人が負傷した。国営サバ通信が報じた。

同州を実効支配するイスラム教シーア派武装組織フーシ側は「サウジアラビア主導の連合軍による空爆が原因だ」と主張。サウジに軍事介入を要請したハディ政権は「フーシ側の砲撃によるものだ」と反論した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、イエメンには政府側とフーシや国際テロ組織アルカイダ系の「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)などとの衝突が原因で約36万人の国内避難民がいる。
また、ソマリアやシリアから逃れてきた難民も約25万人いる。

今回の攻撃はサウジ主導の空爆かフーシの砲撃かは不明だが、避難民や難民が戦闘に巻き込まれる実態が明らかになった。

サバ通信などによると、攻撃されたのはハラズ・キャンプで、過去のフーシと政府との武力紛争などから逃れた国内避難民や東アフリカからの難民ら約4000人が滞在している。

サウジ軍は「戦闘機への攻撃に対して反撃したが、反撃対象地点が難民キャンプだったかどうかは不明だ」としている。キャンプ近くのフーシの拠点が空爆の標的だったとの情報もある。

イエメンはアラブ最貧国の一つで人道支援が必要な住民も多いが、相次ぐ武力紛争で国連などの活動も難しくなっている。

一方、サウジのサルマン国王は30日に閣議を招集し、イエメン情勢について「安定を望む全ての政治勢力と対話する用意がある」と述べた。ただ、対話の条件として、ハディ政権への支持などを挙げており、現時点でフーシ側との和解は難しいとみられる。【3月31日 毎日】
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サウジアラビア 地上戦の可能性も
連合軍に参加しているのはサウジとアラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、バーレーン、カタール、ヨルダン、モロッコ、エジプト、スーダンの計9カ国。アメリカは後方支援や情報提供の分野で協力しています。

重要支援国サウジアラビアから参加要請を受けていたパキスタンは、隣国イランとの関係や、シーア派住民が約2割おり、これまでも宗派間のテロが頻発していることなどを考慮して対応を躊躇していましたが、サウジアラビア主導の連合軍に参加の方針を固めたようです。
“パキスタンのシャリフ首相は28日にサウジのサルマン国王と電話で協議し、全面的な支持を伝えたという。”【3月31日 毎日】

サウジアラビア主導の連合軍は空爆によって、フーシ側の防空システムを破壊し、所持する弾道ミサイルの大半を破壊、制空権を掌握しています。
また、アデン等に艦船を配備して、イランからの物資流入を阻止する構えです。

サウジアラビアは地上部隊派遣は「現時点で計画はない」とはしていますが、15万人規模で部隊を準備しているとも報じられています。
イエメンのヤシン外相は28日、連合軍の地上部隊が数日以内にイエメン入りするとの見方を示しています。

****サウジ、イエメンに地上部隊派遣の構え 戦闘長期化も****
イエメンのイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」への空爆を主導しているサウジアラビアは、地上部隊の派遣も辞さない構えを示している。地上戦に突入した場合、戦闘はさらに長期化する恐れがある。(中略)
サウジが主導するスンニ派主体の連合軍は30日も、イエメン国内のフーシ派拠点に対する空爆を続けた。連合軍

サウジとエジプトは、かねて地上戦の可能性に言及してきた。イエメンのヤシン外相は28日、連合軍の地上部隊が数日以内にイエメン入りするとの見方を示した。

サウジの指導者らは、イエメンに地上部隊を投入した場合、フーシ派を弱体化させるまでは同国にとどまると表明している。

ゲリラ戦を得意とするフーシ派との戦闘は長期に及ぶとみられ、多数の犠牲者が出る事態が予想される。フーシ派はすでに、サウジ国内での自爆テロを予告している。

またイエメン自体は国家機能を完全に喪失し、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」など過激派のさらなる温床となる恐れがある。(中略)

米シンクタンク、外交問題評議会のリチャード・ハース会長はイエメン情勢について、「内戦と代理戦争、地域戦争が同時に起きている。戦火は長期にわたって燃え続けるだろう」との見方を示している。【3月31日 CNN】
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徹底抗戦の「フーシ」】
一方で、「フーシ」の攻勢も続いているようです。

****イエメン 反体制派の攻勢続く****
イエメンでは、反体制派の武装勢力に対し隣国のサウジアラビアなどが空爆を続けていますが、反体制派は大統領が拠点にしていた南部で新たな地域を制圧するなど引き続き攻勢に出ています。

イエメンでは、首都サヌアを掌握した反体制派のイスラム教シーア派の武装勢力に対し、スンニ派のサウジアラビアなど湾岸のアラブ諸国が中心になって26日から空爆を続けています。

現地のジャーナリストによりますと、空爆による支援で大統領側が南部の一部の地域を奪還したということですが、反体制派側も南部でハディ大統領の出身地のアビヤン州やシャブワ州の一部を制圧し、引き続き攻勢に出ているということです。

また、ハディ大統領が暫定的な首都と宣言し拠点にしていた南部の都市アデンでも、28日、反体制派側の武装グループが市街地で大統領側の部隊と戦闘を続け、多数の死傷者が出ているということです。

アデンでは商店などが営業できない状態が続いていて、サウジアラビアの国営通信によりますと、アデン港からサウジアラビアや友好国の外交官86人が艦船に乗って脱出したということです。

また、AFP通信によりますと、首都サヌアからも国連機関や各国の大使館職員など200人が航空機で国外に退避したということで、イエメンでは治安の悪化に歯止めがかからない状態が続いています。【3月29日 NHK】
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「フーシ」が活動拠点とする北部のサアダ州はサウジアラビアに接しており、31日には、サウジアラビア・イエメン国境地帯の複数の地域で砲撃やロケット弾によるサウジアラビア軍と「フーシ」との激しい攻撃の応酬も起きています。
かねてより「フーシ」はサウジアラビア越境攻撃も否定していません。

イラン 政治協議の開催を呼びかけ
「フーシ」の後ろ盾イランは、アメリカなどとの核開発問題の協議が山場にあることもあって、表立っての介入は控えています。その点ではアメリカも同じで、そのことがサウジアラビアを苛立たせています。

****イエメン空爆激化、イランが協議呼びかけ「全勢力参加を****
イエメンでイスラム教シーア派系武装組織「フーシ」に対するサウジアラビア主導の空爆が激化するなか、シーア派国家イランのアブドラヒアン副外相は3月31日、イエメン内のすべての対立勢力が参加する政治協議の開催を呼びかけた。

サウジアラビアとその同盟国であるスンニ派のアラブ諸国の当局者によると、3月下旬からフーシに対する空爆を始めたのは、イランとの核協議を抱える米国がイエメンへの軍事介入に二の足を踏んでいると結論づけたためだ。イランはイエメンのフーシを支援しているとみられている。

アブドラヒアン副外相はイエメンへの軍事介入では問題は解決できないとし、サウジとその湾岸諸国同盟は空爆を行うことで「自らを難しい立場に追い込んでいる」と述べた。

副外相は3月30日、ロシア国営の報道番組「ロシア・トゥデイ」で、「イエメンの状況は政治的手段によってのみ解決されるべきだと確信している」としたうえで、「戦争を始めるのは易しいが、それを終わらせるのは非常に難しい」と述べた。サウジ主導の空爆が3月26日に開始されて以来、イラン政府関係者が発言したのは初めてだった。(中略)

副外相はロシア・トゥデイで、「この地域でのテロリストに対する戦いを支援し続ける」と述べたが、フーシへの直接的な支援については言及しなかった。サウジとその同盟諸国はイランがイエメンへ武器を輸出していると主張しているが、イランは繰り返しこれを否定してきた。

副外相は具体的にどの勢力が協議に参加すべきかについて言及しなかった。ハディ大統領にはサウジの後ろ盾があり、イエメンの部族の多くはハディ大統領を支持している。(中略)

サウジ主導の連合軍で広報を担当するアハメド・アシリ准将は31日夜、イエメンでの空爆はこの24時間で激化したが、地上部隊による介入は「必須ではない」と述べた。連合軍が制空権と制海権を握っており、イエメンは孤立していると話した。【4月1日 WSJ】
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“サウジのサルマン国王は30日に閣議を招集し、イエメン情勢について「安定を望む全ての政治勢力と対話する用意がある」と述べた”【前出 毎日】
“イランのアブドラヒアン副外相は3月31日、イエメン内のすべての対立勢力が参加する政治協議の開催を呼びかけた。”【上記 WSJ】

文字通りそういう話なら、すぐにでも協議の場が設定されるところですが、そうはならないのが現実です。

イランが介入を強めると、中東全体を巻き込んだ紛争に拡大します。今はイランにその余力はないようにも思いますが・・・。

イエメンの国内事情
「代理戦争」の側面を少し離れて、イエメン国内の状況をみると、「フーシ」による攻勢は、伝統的部族社会からの反発を買っており、そこにアルカイダ系過激派がつけこむ展開も見られます。

一方で、民間人犠牲を伴うサウジアラビアなどの空爆は、住民からの反発を買う恐れがあります。

****イエメン「代理戦争」の構図****
国を分断する宗派対立
・・・・従来、イエメン人にとって大事なのは、宗派よりも部族だ(国民の約75%が何らかの部族に属す)。部族は現世的で、信仰とは無関係に、生活と商売の保護に徹している。

だがホーシー派が急激に台頭したことにより、アラビア半島のアルカイダ(AQAP)やISISのようなスンニ派系の過激派が宗派対立をあおる局面も出てきた。(中略)

ホーシー派は「アルカイダ掃討」を名目に他部族の支配地域にも攻め込み、行く先々で部族の反発を買っている。

世俗的なイエメンの部族は、共通の暮らしと文化で結ばれている。そして各部族のリーダーは、度重なる政治的騒乱を乗り越えて獲得してきた大きな自治権が今、ホーシー派に脅かされていると感じている。

「部族民がホーシー派と戦う理由は、シーアかスンニかという宗派の違いではない」と、AEIのキャサリン・ジマーマン研究員は言う。「ホーシー派が自分たちの縄張りを越えて進出してきて、そこで影響力を確立しようとしていることへの反発が理由だ」

また部族支配の強い地域は、石油資源に恵まれた場所が多い。ホーシー派の進撃が伝えられるマーリブ州も同国有数の石油・天然ガス産出地であり、この一帯の土地は地元の部族が所有している。

「これらの部族は反ホーシー派で団結している。よそ者がやって来て、自分たちの土地から資源を奪っていくことは許さない」とジマーマン。
「彼らはホーシー派も中央政府も、自分たちの代表とは見なしていない」

もともと中央政府は弱体で、部族自治を軽視してきた。だからどの部族も、中央政府を信用していない。「イエメンで部族が大きな影響力を持っているのは、国家機関の腐敗と弱さが原因だ」と、中東情勢に詳しいナドワ・アル・ダウサリはカーネギー国際平和財団発行のリポートで指摘している。

各部族を率いるのは、紛争解決や金銭的利益を守る手腕を評価されて指名された族長だ。ダウサリによれば、部族は独自に定めた掟に従い、伝統的に「イデオロギーを嫌い、アルカイダのような過激派の影響力拡大を警戒している」。

ところがここ数力月で、一部の部族がホーシー派という「共通の敵」を前にアルカイダ系のAQAPと手を組んだらしい。

AQAPは部族長たちに、中央政府からは受けられない保護と資源を提供することができると、ジマーマンは言う。(中略)

空爆への反感で支持拡大
ホーシー派はロシア、中国およびイランと経済協定を結ぶことで、混迷した部族中心のイエメン政治の中で正統性を確立し、またAQAPと戦うことで国民の支持を取り付けようと試みている。

ホーシー派を狙う空爆もまた、彼らにとっては追い風になるかもしれない。「空爆は、反ホーシー派も含め、イエメン国民を団結させる可能性がある」とクヌッセンは指摘する。

アメリカの支持するハデイが南部の拠点アデンを出てサウジアラビアに到着したことは、ホーシー派にとって1つの勝利かもしれない。「現時点では、いかなる形であれハデイが帰国することは難しいだろう。彼は祖国を捨てたのだ」と、クヌッセンは言う。

ハディが逃げ出した今、サウジアラビアはホーシー派よりも先にアデンに進撃する準備を整えているかもしれない。
だが、それにも地元住民の反発が予想される。

イエメン南部は長年、アルカイダを狙ったアメリカの無人機攻撃の標的となっており、それに伴う民間人の巻き添え被害が原因で、多くの地元住民がアメリカとその同盟諸国への反発を強めている。

サウジアラビアによる空爆でも、既に数十人の民間人が死亡している。外国勢による軍事介入かホーシー派の支配かという選択肢を示されたら、取りあえず国内の勢力を選ぶ人も少なくないだろう。

いずれにせよホーシー派の戦闘意欲は高く、地域大国のサウジアラビアと一戦を交える覚悟もありそうだ。
「イランの支援は必要ない」と言い切るのは、ホーシー派を支持するジャーナリストのフセイン・アル・ブカイティだ。「湾岸諸国も欧米諸国もホーシー派の強さを見くびっている。この先、世界はホーシー派の真の強さを思い知らされるだろう」【4月7日号 Newsweek日本版】
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「フーシ」に対する部族社会の抵抗、サウジアラビアの空爆に対する住民の反感・・・そうした国内要素を含んでの今後の展開となります。

リビアのカダフィ、イラクのフセインも部族社会を力で抑え込むことで統一的国家を実現し、その政権崩壊は混乱を引き起こしました。
もちろん、そういう独裁、力による支配には限界があります。

イエメンという部族社会にとって、どういう政治形態が一番望ましいのか、あるいは現実的なのか・・・サウジアラビアとイランの代理戦争という話とは別に、考えるべき問題です。
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