孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  ラッカ奪還で本格化するポストISの“グレート・ゲーム” 最後の勝利者は?

2017-06-20 23:14:42 | 中東情勢

(ラッカから避難した人たちが多く集まる近郊の町アインイッサのキャンプで、地面に座る子ども(2017年6月10日撮影)【6月12日 AFP】 “グレート・ゲーム”で誰が勝利者となろうが、泣くのは住民です。)

時間の問題となったラッカ奪還
「イスラム国(IS)」の最高指導者バグダディ容疑者が、シリア・ラッカ南郊における5月28日のロシア軍の空爆で死亡した可能性が浮上していますが、死亡の確認はとれていません。

ただ、バグダディ容疑者の生死にかかわらずISの支配が最終段階を迎えていることは間違いありません。

しかしながら、ラッカ陥落後もIS戦闘員によるテロ攻撃は続くであろうこと、IS後退後の支配・影響力をめぐる各勢力・関係国の争いが新たな段階に入ることも間違いありません。

****戦闘員、死ぬか降伏かしかない」 対IS作戦の現状は****
過激派組織「イスラム国」(IS)が、これまで猛威を振るってきたイラク、シリア両国で劣勢に追い込まれている。どのように民間人の犠牲を抑え、IS支配地域の奪還を進めるのか。掃討作戦を主導する軍関係者に聞いた。
 
ISは2014年6月以来、イラク北部モスルを最大拠点としてきたが、現在の支配地域は旧市街のわずか約4平方キロ。イラク軍幹部は朝日新聞の取材に「すぐにでもISを壊滅できるが、民間人の犠牲とインフラの被害を最小限に食い止めるのが重要」と語った。
 
現在、モスルにいるIS戦闘員は500人程度とみられ、自爆攻撃や狙撃で抵抗している。国連は旧市街に民間人約15万人がいると推定。ISはこれらの民間人を建物内に閉じ込めて「人間の盾」にしているという。旧市街の道路は狭く、イラク軍は装甲車両などを使えない。歩兵が道路や建物を一つ一つ解放する「ストリート戦争をしている状態」(同幹部)だ。
 
一方、ISが「首都」と称するシリア北部ラッカの奪還作戦を進める有志連合の報道官、ライアン・ディロン米陸軍大佐は朝日新聞の取材に「ラッカは包囲され、解放は近い。IS戦闘員には死ぬか降伏するしか選択肢はない」と指摘した。ラッカに残るIS戦闘員は現在約2500人。ラッカを脱出したIS戦闘員の掃討のため、ラッカ周辺のIS支配地域への空爆も強化したという。
 
また、ヨルダン国境付近の南部タナフで訓練したシリアの反体制派も、東部の都市や砂漠地帯の対IS掃討作戦に投入される見通しという。
 
ただ、ISへの攻勢が強まるにつれ、空爆による民間人被害が増えているとの指摘もある。ライアン氏は「民間人被害の疑いがあるすべての案件を深刻に受け止めて調査している。決して非戦闘員を狙ってはいない」と話した。【6月18日 朝日】
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「戦闘員、死ぬか降伏かしかない」とありますが、実際には、ラッカを脱出してテロ活動・ゲリラ戦を続けるというのが一番ありそうな展開です。

“住民の話として伝えられるところによると、SDF(クルド人勢力を主体とする「シリア民主軍」)の突入作戦が開始される数週間前から、多数の戦闘員が家族とともにラッカからの退去を開始、武器・弾薬、発電機、通信機器も運びだされた、という。
 
退去先はラッカ南東、デイル・アルゾウル県のユーフラテス川沿いのデイル・アルゾウルやマヤディーンと見られている。”【6月17日 WEDGE】

南部・東部ではアサド政権・イランとアメリカが勢力争い
シリアをめぐる最近の情報は、もはや時間の問題ともなったラッカ奪還の話よりは、アサド政権、ロシア、イラン、アメリカ、クルド人勢力などの“ポストISの覇権争い”にもつながる動向が中心になってきています。

IS支配地域が狭まるにつれて、各勢力・関係国が直接に衝突するリスクも高まっています。

軍事的優勢に立つアサド政権は、シリア南部の反体制派支配エリアに進出、一方、この地域のイラク・ヨルダン国境も近いタンフではアメリカ特殊部隊も拠点を拡大し、反体制派支援にあたっています。

ここ数週間は、米軍主導の有志連合が戦闘機で政権派組織を攻撃、政権派組織の前進を妨げているような状況ですが、シリア政府軍・イラン系民兵とアメリカ特殊部隊の地上での直接交戦の危険も大きくなっています。

****米特殊部隊、シリアの砂漠地帯で拠点拡大=関係筋****
シリアの反体制派組織によると、同国南東部の砂漠地帯に展開する米軍の特殊部隊が拠点を拡大している。イランが支援するシリア政権派組織と、米軍が地上で直接対峙するリスクが増しているという。

米軍の特殊部隊は昨年以降、シリア南部のタンフを拠点として、シリアの反体制派組織を支援している。

反体制派組織は、過激派組織「イスラム国」(IS)からの領土奪還を目指しているが、シリア政権派組織もISからの領土奪還を目指しており、政権派と反体制派が競合する形となっている。

ここ数週間は、米軍主導の有志連合が戦闘機で政権派組織を攻撃。政権派組織の前進を妨げている。

反体制派によると、米軍の特殊部隊はタンフの北東60─70キロの地点に2つ目の拠点を設けた。【6月15日 ロイター】
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ロシアはアメリカの政府軍等への空爆を非難していますが、アメリカは移動式の最新式ミサイルをこの地域に持ち込んだとも報じられています。【6月15日 「中東の窓」より】

シリア東部をめぐるアメリカ・イランの“陣取り合戦”も激しくなっています。

****ポストISの覇権争い****
シリアのデイル・アルゾウル県(ISのラッカからの退却先)が次の戦闘の中心地として浮上する中、IS以後のシリアの支配をめぐる覇権争いも一気に激化してきた。

中部方面から東方の同県に迫っているのは、シリア政府軍とイラン配下の武装組織ヒズボラやシーア派の民兵軍団だ。一方、南部から同県に進撃しているのが米支援の反体制派だ。
 
シリア政府軍とイラン支援の武装勢力はロシア、イラン、トルコの3カ国調停によるシリア内戦の停戦合意の結果、余裕が生まれ、これまで内戦に投入していた部隊や予算を東部のデイル・アルゾウ県に回せるようになった。
 
しかし、東部に軍事勢力が集中すれば、緊張も高まる。米軍はイラクとの国境沿いのタンフに特殊部隊の基地を置いているが、シリア政府軍が肉薄してきたとして今月6日、シリア軍を空爆した。米軍は5月にもシリア政府軍を攻撃しており、これまでISを主に標的にしてきた米国がシリアの将来に焦点を移し始めた徴候と見られている。
 
特に米国はイランの動きに神経を尖らしている。同県はバクダッドとダマスカスを結ぶハイウエーが通る交通の要衝でもある。イランはイラク、シリア、レバノンという“シーア派三日月ベルト”の確保を戦略の柱に据えており、そのためにも同県の支配を不可欠だと見ている。
 
逆に米国にとっては、この戦略を阻止することがイランの影響力拡大を封じ込める上で、極めて重要だ。

しかし双方が突っ張り合えば、米軍が今後、イラン支援の民兵軍団やシリアに派遣されている革命防衛隊とすら衝突する懸念も出てくる。

その時、イランとともにアサド政権を支えるロシアが米国と対決するリスクを冒してまでイランを支援するのか、どうか。大きな焦点だ。【6月17日 WEDGE】
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ヒズボラやイランにすれば、多大な犠牲を払ってシリアに介入している以上、何らかの見返りがなければ・・・といったところでしょう。(そのためにアサド政権を支えてきたとも言えます)

米軍により政府軍機撃墜で高まる米ロの緊張
そうこうしているうちに、シリア北部では、アメリカが支援するクルド人勢力をシリア政府軍が攻撃、これに対抗してアメリカ軍機が集団的自衛権を発動してシリア政府軍機を撃墜する衝突も起きています。

****米、シリアでアサド政権の軍用機撃墜 クルド人部隊への爆撃に反撃****
米軍の戦闘機が18日、シリア北部でイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」と戦うクルド人とアラブ人の合同部隊「シリア民主軍(SDF)」を狙って爆撃したバッシャール・アサド政権軍の軍用機1機を撃墜した。ISの掃討作戦を展開している米主導の有志連合が発表した。(中略)

有志連合は声明で「シリア政権のスホイ22(Su-22)1機が(18日)午後6時43分、(シリア北部)タブカの南でSDFの戦闘員らの近くに爆弾を投下した。有志連合部隊の交戦規定に従い、集団的自衛権を発動して、米軍のFA18スーパーホーネット1機が(同機を)直ちに撃墜した」と発表した。
 
声明によると、その2時間前にはアサド政権側部隊がタブカの南にある町でSDFの戦闘員らを攻撃し多数を負傷させ、町から追い出していた。有志連合の航空機がその後、威嚇行動によってアサド政権側部隊の当初の前進を食い止めたという。【6月19日 AFP】
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アサド政権側は、「(米軍によって撃墜された)軍用機は対IS作戦を遂行中だった」として、米軍を非難しています。

アサド政権を支えるロシアも、アメリカがホットラインを用いて撃墜の警告をしなかったとアメリカ批判を強めており、今後米軍等の飛行機・無人機もすべて“標的”とすると発表しています。

****ロシア、有志連合の飛行体は「標的」 シリアめぐり米軍を牽制***** 
ロシア国防省は19日、シリアで米軍機がアサド政権軍機を撃墜したことに関連して、シリア上空でロシア軍が軍事作戦を展開する空域の「あらゆる飛行体」が今後、ロシア軍の対空兵器により「標的」として監視されると発表した。

イタル・タス通信が伝えた。露国防省は、「飛行体」には米軍主導の有志連合が使用する「飛行機、無人機」を含むと強調し、米側を強く牽制(けんせい)した。

対象となる空域は、ユーフラテス川より西側の地域の上空だとしている。
 
アサド政権軍を支援するロシアは、今回の撃墜をめぐり米側への態度を硬化させている。露国防省はまた、米側と交わしたシリア上空での偶発的衝突を避けるための覚書の履行を19日から「停止する」とも発表した。【6月19日 産経】
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アメリカは、ロシアとの衝突にもつながる事態を避けるべく、覚書に基づく連絡回線の回復をロシア当局に働きかけているようです。

****米、対ISで露との連絡回復図る 掃討作戦への影響懸念****
米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は19日、ロシアがシリア上空での偶発的衝突を防ぐ米露間の覚書の停止を発表したことに関し、覚書に基づく連絡回線の回復をロシア当局に働きかけていることを明らかにした。
 
トランプ政権は、シリアでのイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討作戦に支障が出るのを食い止めるため、ロシアとのこれ以上の緊張激化を防ぎたい考えだ。(後略)【6月20日 産経】
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イランのシリア領内へのミサイル攻撃
一方、イランは18日、7日に起きた首都テヘランで国会議事堂などが襲撃された同時テロに関連して、シリア北東部へミサイルを撃ち込んでいます。

****シリア北東部にミサイル攻撃=「同時テロの拠点」標的―イラン****
イランの革命防衛隊は18日、同国西部からシリア北東部デリゾール県に向けて中距離地対地ミサイル数発を撃ち込んだ。

7日に首都テヘランで国会議事堂などが襲撃された同時テロに関連し、「テロリストの拠点を攻撃した」という。イラン学生通信が伝えた。
 
同時テロは過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を主張。ISによるイランでのテロは初めてで、デリゾール県にはISの支配領域が所々広がっている。
 
革命防衛隊は声明で、ミサイル攻撃で「多数のテロリストを殺害し、武器などを破壊した」と強調。「イランに対して悪事を働く者は地獄に落とす」と警告した。【6月19日 時事】
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“イランが国外でミサイル攻撃を実施したのは1980~88年のイラン・イラク戦争以来30年ぶり。”【6月19日 AFP】とも。

クルド人勢力を警戒するトルコ
アメリカ、イラン、ロシア・・・・それにもう一つ忘れてはならないプレイヤーがトルコです。

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さらに忘れてはならないのは、クルド人の勢力拡大を食い止めるためにシリアに軍事介入している地域大国トルコの動向だ。

トルコは同国の「警護官逮捕状問題」で米国を強く非難するなど対米関係を悪化させており、ロシアへの接近を一段と強め、シリアに半恒久的に居座るかもしれない。【6月17日 WEDGE】
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【「グレート・ゲーム」の勝者は?】
“かつて中央アジアの覇権をめぐって展開したグレート・ゲームが舞台をシリアに移し、ポストISに向かって再び展開しようとしている。”【同上】とも

アメリカの元シリア大使は下記記事で、今後の「グレート・ゲーム」の行方に関して、アサド政権の復活、イランの影響力拡大と、アメリカにとって厳しい予想していますが、現在アメリカに協力して対IS戦略の中核となっているクルド人勢力は結局アメリカから見捨てられるとも・・・・。

****アメリカはシリアを失い、クルド人を見捨てる--元駐シリア米大使****
シリア内戦はシリア政府とそれを支援するイランなどの外国勢力が勝利し、シリアで影響力を死守しようとしたアメリカにとってすべてが徒労に終わる。クルド人武装勢力は、ドナルド・トランプ米大統領に協力したことで今後大きな代償を払わされる──これが、アメリカの元シリア大使が描くシリア内戦の今後のシナリオだ。

バラク・オバマ政権下の2011〜2014年にアメリカのシリア大使を務めたロバート・フォードは月曜、ロンドンに拠点を置くアラブ紙「アッシャルク・アルアウサト」の取材に対し、米政府が掲げるISIS(自称イスラム国)の撲滅とシリアでのイランの台頭を抑え込むという目標の達成に関して「オバマはトランプ政権にわずかな選択肢しか残さなかった」と言った。

イランとロシアはシリアのバシャル・アサド大統領を支援し、アサドの退陣を求める反政府諸勢力やISISなどのジハーディスト(聖戦士)に徹底抗戦した。その間にアメリカは、クルド人主体だが他の少数民族やアラブ人なども寄せ集めた反政府勢力「シリア民主軍(SDF)」を支援してきた。

SDFはここにきて、ISISが「首都」と称するシリア北部の都市ラッカの奪還で快進撃を続けている。それでもフォードは、アサドを退陣させ、シリアでのイランの台頭を阻止するというアメリカの当初の計画について、「もう勝算はなくなった」と言う。

レバノン駐留米軍と同じ運命
「今後はイランの存在感が増す」とみるフォードは、今から2、3年後のシリアの勢力図を予想した。それによれば、シリア西部はアサドが支配を続け、シリア東部ではイランがアサド軍を支援し、最終的にアメリカを撤退させる。1980年代のレバノンで、イランが支援するシーア派のイスラム武装組織ヒズボラがアメリカを追い出したのと同じシナリオだ。

「勝ったのはアサドだし、アサドもそう思っているはずだ」とフォードは言う。アサドは欧米が戦争犯罪と非難した行為で罪に問われる可能性も低い。「恐らく10年以内に、アサドはシリア全土を取り戻すだろう」(中略)

反政府勢力の中にジハーディストが台頭するにつれ、アメリカはISIS掃討を優先する政策に舵を切り、クルド人主体のSDFへの支援を開始した。

シリア内戦が始まった当初、多くのクルド人は、反アサドの機運が高まったことを肯定的に受け止めた。イラク北部のクルド人自治区のように、シリア北部でクルド人自治区を作るチャンスと考えたからだ。

だがSDFの戦闘員たちは戦いが進むにつれ、敵はISISだけではなく、トルコの支援を受けた反政府武装組織もいると思い知った。国内にいる約1500万人のクルド人の独立を阻止したいトルコは、SDFを国家安全保障上の脅威とみなしているのだ。

アメリカはクルド人を守らない
そもそもSDFは、シリア政府軍と反政府勢力の戦いの中では、ほぼ一貫して中立の立場だった。だがISISの支配地域が縮小の一途をたどり、アメリカとアサド政権の緊張関係が高まった今、SDFはシリア政府軍との戦いの前線に立っている。

シリア政府軍とSDFが衝突した後の今週月曜、アメリカは初めてシリア政府軍機を撃墜した。SDF部隊の上空を飛行したのが理由だった。

クルド人がアメリカと手を結んだのは重大な過ちだったと、フォードは言う。イラク侵攻後にイラクを見捨てたのと同様に、米軍はシリアからISISが一掃され次第、クルド人勢力への支援を打ち切るとみるからだ。

「アメリカには、アサド軍からクルド人を守るつもりがない」とフォードは言った。「クルド人を利用するアメリカは、政治的に愚かなだけでなく、反道徳的だ」【6月20日 Newsweek】
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クルド人勢力はアメリカに見捨てられたら、前面にアサド政権軍、後ろには(アサド政権以上に敵意が強い)トルコを抱えて、非常に厳しい状況に置かれます。

もっとも、クルド人勢力もいつまでもアメリカが守ってくれると考えるほどお人好しでもないでしょう。
それなりの成算があっての・・・と言うか、権限拡大のためには“厳しいが、今立つしかない”と覚悟しての戦闘参加でしょう。
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カタール・サウジアラビアの断交問題 アフリカ・アジアへも影響拡大

2017-06-19 22:44:05 | 中東情勢

(【6月18日 六辻彰二氏 THE PAGE「サウジがカタールと断交、スンニ派同士でなぜ“兄弟げんか”」】)

【「要求のむか、孤立か」二者択一を迫るサウジ 「服従の要求には決して屈しない」カタール
アラブ世界の盟主を自任するサウジアラビアが主導するアラブ諸国と、小国ながら豊富な資金力を背景に独自外交を進めるカタールの対立については、6月14日ブログ“カタール断交問題  独自外交のカタール それを許さない中東世界の現実 火をつけたトランプ外交”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170614で取り上げたところです。

各国体制を揺るがす過激派への資金援助停止や対イラン融和策変更などの“要求を完全にのむ”かアラブ世界での“孤立”かの二者択一を迫るサウジアラビアに対し、「服従の要求には屈しない」とするカタールと、依然双方とも硬い姿勢を崩していません。

****汎アラブ紙・アッシャルクルアウサト「サウジの要求のむか、孤立か」二者択一を迫る****
サウジアラビア資本の汎アラブ紙、アッシャルクルアウサト(電子版)は13日付で、「カタールの危機の解決策は2つしかない」とする論評記事を掲載した。

2つの策とは、テロ組織や反体制派と縁を切るよう求めるサウジなどの要求を「完全にのむか」、それとも「周辺国から孤立したままで生きていくか」だ。カタールに二者択一を迫る厳しい内容といえる。
 
論評は、カタールの国防相だったハマド皇太子が父、ハリファ首長の外遊中に無血宮廷クーデターで政権を奪取した1995年から説き起こす。(中略)
 
サウジとカタールの冷たい関係は今に始まったことではない。そう示唆した上で論評は、「度重なる和解にもかかわらず、カタールはサウジやバーレーンの政権転覆を狙う反体制派を支援し、資金を提供し続けた」と非難した。

さらに、2011年の民主化政変「アラブの春」の後はアラブ首長国連邦(UAE)でも反体制派の側に立ち、エジプトでも政権転覆を図る組織に肩入れしたと指摘した。(中略)
 
同紙は14日付の記事でも、地域の各国は共存しようとしてきたが、「忍耐には限界がある」とカタールに対する脅しとも取れる文言を用いた。(後略)【6月19日 産経】
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****カタール・ガルフ・タイムズ「服従の要求には屈しない」 湾岸協力会議「永遠に忠実」と改善模索も****
・・・・カタール紙ガルフ・タイムズ(電子版)は6日の論説記事で、「世界トップの液化天然ガス(LNG)輸出で防護したカタール経済は、突然の衝撃にも耐えられるだけの強さがある」と述べ、サウジアラビアなどによる一斉断交に伴う経済制裁措置には屈しない姿勢をみせた。
 
カタールのLNG輸出は世界で約30%のシェアを占め、今回の断交による世界経済への影響が懸念されている。しかし記事は、サウジなどがカタールの船の領海通過を禁じるなどしてもLNGを届けるルートは確保されており、「ビジネスはいつも通りに行われる」と強調。

カタールがLNG輸出で得た資金は、国家ファンドを通じて世界各地の市場に投資されているとも述べ、各国にカタールとの関係の重要性を再認識するよう迫った。(中略)

一方、今回の断交ではカタールがペルシャ湾を隔てた隣国イランと比較的良好な関係にあることが、イランと敵対するサウジの怒りを買ったのが要因の一つだと指摘される。記事はこの点を念頭に、カタールは湾岸アラブ諸国などで作る湾岸協力会議(GCC)の「永遠に忠実(な加盟国)であり続ける」とも強調。湾岸諸国との関係をないがしろにはしないとの姿勢を明確にすることで、関係改善の糸口にしたい考えもにじませた。
 
ただカタールは小国ながら豊富な資金を背景に独自外交を展開し、アラブ諸国の盟主を自任するサウジに挑戦してきた国だ。意地がある。「国が一丸となり、服従の要求には決して屈しない」。記事は、こう締めくくった。【6月19日 産経】
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スイスのジュネーブで記者会見したカタール国家人権委員会委員長は、周辺国による制裁は集団的処罰の域に達していると批判。母親と赤ちゃんが引き離された例を挙げ、複数の周辺国がカタールと断交を決定したことで全中東市民の権利が踏みにじられていると訴え、その影響は「ベルリンの壁」よりも壊滅的だとも述べています。【6月18日 AFPより】

一方、人道的にも問題な全面封鎖をしているとの批判に対し、13日にワシントンでティラーソン米国務長官と会談したサウジアラビアのジュベイル外相は、「サウジは、カタール航空やカタールが保有する航空機のサウジ空域の飛行を認めていないだけだ。(カタールの)空港や港は開かれており、カタール人は自由に移動できる」と述べ「(全面)封鎖ではない」と強調しています。【6月14日 毎日より】

対立の余波でアフリカ・ジブチにエリトリア軍が侵入
両者の対立は中東を超えてアフリカ、アジアのイスラム世界に拡大しています。

東アフリカの「アフリカの角」に位置するジブチは、日本もソマリア海賊対策で自衛隊基地を置くほか、アメリカや、最近では中国なども基地を置く小国ですが、このジブチもサウジアラビアに追随する形でカタールに対する外交使節のレベルの引き下げています。

これに反発するカタールはジブチに駐留させていたPKO部隊を撤収させ、そこへ・・・・

***カタール問題の余波(ジブチ・エリトリアの緊張****
・・・・エリトリアはジブチとも関係が悪く、1990年代に2回ほど国境紛争があり、その後停戦が続いたが、2008年に再び紛争が発生し、2010年にはカタールの調停で和平が成立し、国境地帯にはカタール部隊がPKOとして駐留していたというわけです。

それが今回カタール問題をきっかけにカタール軍が撤退したすきに、エリトリア軍が侵入したということですが、これまでのところ衝突等は生じていない模様です。(後略)【6月17日 「中東の窓」】
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この問題に関しては、サウジアラビア、国連安保理、アフリカ連合などが対応を協議しているようです。

*****ジブチ・エリトリア問題(サウディ軍の派遣?)*****
この問題に関して、al qods al arabi net は、その後釜としてサウディ軍がPKOとして派遣されることが検討されているとの題名の記事を掲げています。

カタール軍の後にサウディ軍とは随分急な動きだな、と思って記事を読んだら、中身としてはリヤドの外交筋によると、サウディ政府はサウディ軍をPKOとして派遣するか、PKOとして派遣されるべきアフリカ軍を支援するか等の可能性を検討していて、現在各方面と連絡中であるとのことでした。

また同記事は、エチオピアの要請により、17日安保理が非公式協議を行っているが、アフリカ連合はこの問題についてジブチ・エリトリア両政府と緊密に連絡を取り、平和的解決に向けて協議中であるとも報じています。【6月18日 「中東の窓」】
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サウジアラビアの同調要請に苦慮するパキスタン
一方、アジアではパキスタンがサウジアラビアから同調を迫られているものの、過激派への資金援助という点ではカタールと似た立場にもあるため、対応に苦慮しているとか。

****アジアにも及んだカタール断交の圧力****
<カタールと断交したサウジアラビアがパキスタンに対し、どちらの味方かはっきりするよう迫った。だがパキスタンにとって、カタールの孤立は他人事ではない>

サウジアラビアなどが隣国カタールと断交した問題で、南アジアのイスラム教国パキスタンが、どちらの味方かはっきりせよとサウジアラビアに迫られている。パキスタンは今のところ巻き込まれたくないと考えているが、いつまでも中立ではいられないかもしれない。

報道によれば、先週月曜にサウジアラビアのサルマン国王とパキスタンのナワズ・シャリフ首相がサウジアラビア南西部のジッダで会談した際、サルマンはシャリフに対し、サウジアラビアかカタールのどちらか1つを選択するよう最後通告を突きつけたという。(中略)

不安になるパキスタン
・・・・カタールがアラブ諸国から突然仲間はずれにされたことで、パキスタンは不安になった。パキスタンはカタールと同様アメリカの同盟国である一方、テロ組織に資金援助しているとして国際的な批判にさらされており、今のカタールの苦しい状況が他人事とは思えないからだ。

アフガニスタンとインドは、パキスタンがイスラム教スンニ派武装組織を支援していると名指しで批判し、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンや南アジアのイスラム過激派ラシュカレトイバなどもパキスタンが後ろ盾だと主張している。

アメリカもかつて、タリバンの指導者だったオサマ・ビンラディンがパキスタン北部アボタバードの邸宅に潜伏していたことが明らかになると、パキスタン政府に背を向けた。(中略)

それでもアメリカとパキスタンは数年で軍事協力を再開した。昨年バラク・オバマ前米大統領はパキスタンに対して10億ドル超の人道・軍事支援を行うと発表した。だが後任のトランプは、オバマが決めた支援の大幅削減を検討中だ。

パキスタンは大っぴらにサウジアラビアを支持することは依然拒否しているが、トランプはパキスタンのカタールに対する影響力を行使して、湾岸諸国の危機を収拾することを求めているとも伝わる。

一方、パキスタンと敵対する隣国インドは、サウジアラビアの断交に従わず、新たに直通航路を開いたと言われる。【6月19日 Newsweek】
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周知のとおりパキスタンはインドに対抗して核兵器を増強させていますが、その資金はサウジアラビアから出ていると言われています。そしてサウジアラビアに開発した核兵器を渡す合意がなされているとか・・・

****サウジが「パキスタンの核弾頭」を手にする日:ミサイルは中国製の東風21****
・・・・しかしイランは将来の核武装化を完全に断念したわけではなく、核開発を先送りしたにすぎない。このため中東のアラブ諸国などがひそかに核開発を進め、米国などの情報機関が神経を尖らせている。

中でも最も懸念すべき動きを見せているのが、イスラム教シーア派大国イランのライバルであるスンニ派大国サウジアラビアだ。

パキスタンから5~6発
(中略)さらに、2010年の英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の研究会で複数の西側情報筋が「サウド王家はパキスタンの核開発計画の費用60%以下を負担、近隣諸国との関係が悪化した場合、5~6発の核弾頭をその見返りに得るとのオプションが付いている」との情報が明らかにされたという(ガーディアン紙)。(中略) 

サウジとパキスタンの合意とは
サウジ側はこのようにパキスタンからの核兵器入手について徹底的に否定し続けている。

しかし、米情報コミュニティは、そんな建前を信じてはいない。ホワイトハウスの元核不拡散対策担当調整官ゲーリー・セイモア氏は2013年当時、英BBCテレビで「サウジ側は、極端な場合にはパキスタンから核兵器を請求できることでパキスタン側の了解を得ている、と確信していると思う」と語っている。

やや回りくどい言い方だが、サウジとパキスタンの間には何らかの核合意があり、今もその合意は生きていると米国はみていることが分かる。(後略)【2016年2月18日 春名幹男氏 ハフポスト】
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パキスタンにとってはサウジアラビアは核開発のスポンサーであり、そのサウジアラビアの“カタールとの断交”という要求を拒むのは難しいのでは・・・とも想像されます。

ただ、本来の話で言えば、パキスタン自身が気にしているように、カタールのムスリム同胞団やハマス支援よりは、パキスタンのタリバンやラシュカレトイバ支援の方が国際社会に大きな影響を与えており、パキスタンこそが断交の対象となるべき・・・とも思うのですが。

トランプ大統領のカタール批判の一方で、アメリカはカタールへ戦闘機売却
今回のサウジアラビア主導のカタール制裁は、サウジラビアを訪問したトランプ大統領のサウジアラビアを支持する姿勢からもたらされたと言われています。実際トランプ大統領は、今回の国交断絶は自らの中東外交の成果であるかのようにアピールし、カタールの過激派支援を批判しています。

しかし、約1万人の米兵が駐留するカタールは米国にとって重要な同盟国でもあり、武器売却も続けられています。

****米国、カタールにF15戦闘機売却で合意 中東主要国と断交でも****
カタール国防省は14日、米国からF15戦闘機を120億ドルで購入することで合意したと明らかにした。

サウジアラビアなど中東4カ国が国交を断絶したカタールを巡っては、テロリズムを支援しているとトランプ米大統領も非難していた。

関係筋によると、マティス国防長官が14日にカタール代表団と会談し、合意を締結する。ブルームバーグは、36機の戦闘機が売却されると伝えた。

国防総省によると、契約には安全保障面での協力や二国間の相互運用も含まれる。

マティス長官とアティーヤ国防担当相は会談で、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する作戦の現状を協議したほか、湾岸地域のすべての関係国が緊張関係を緩和することの重要性についても意見を交換した。

米政府は昨年11月、カタールに対してF15戦闘機72機を211億ドルで売却することを承認していた。【6月15日 ロイター】
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当然に売却の話と並行して、今回騒動への対処についてもアメリカとカタールの間で話がなされているはずですが、どのように話が進んでいるのかはわかりません。
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イギリス  総選挙敗北で求心力を失なったメイ首相に追い打ちをかけるロンドン火災 対応のまずさも

2017-06-18 22:29:47 | 欧州情勢

(【ロンドン火災】メイ首相、国民感情を読み違えたのか
14日未明にロンドン西部の公営高層住宅を襲った火事をめぐり、テリーザ・メイ英首相は16日夜、BBC番組「ニュースナイト」に出演し、エミリー・メイトリス記者のインタビューに応じた。
首相は政府が住民支援に500万ポンドの資金を提供すると強調。15日に現地を訪れたものの住民に話をしなかったことが非難されている首相に対して記者は、首相が国民感情を読み違えたのではないかと繰り返し尋ねた。【6月18日 BBC http://www.bbc.com/japanese/video-40314195】)

求心力低下で「強硬離脱」方針変更、政局は混迷
EU離脱交渉に向けた強い指導力を確保すべく前倒し総選挙を行ったイギリス・メイ首相ですが、周知のとおり、当初の“圧勝”“地滑り的勝利”の予想(そうした予想があったからこそ、敢えてする必要のない選挙にうって出た訳ですが)に反し、第1党には留まったものの過半数割れに追い込まれる実質的“大敗北”の結果となっています。

北アイルランドのプロテスタント系地域政党・民主統一党(DUP)との協力で、今後とも政権を維持していく姿勢ですが、DUPが同性婚や人工妊娠中絶に反対するような保守党以上に保守的な政党であることや、過去には爆弾テロなどで3千人以上が犠牲になった北アイルランド問題の当事者の一方に肩入れすることにもなり、北アイルランドでのプロテスタント・カトリック系の対立を再燃させかねないことなどから、DUPとの協力を懸念する声も多くあります。

そうした状況でメイ首相の求心力は弱まり、離脱交渉の方針も「強硬離脱」からの変更を強いられ、政権運営自体も不透明な情勢となっています。

****英EU離脱】「穏健離脱」へメイ包囲網 交渉開始前に求心力低下 強硬離脱の修正迫られる****
英国総選挙でメイ首相率いる与党・保守党が過半数割れに追い込まれたことを受け、保守党内ではメイ氏が掲げる欧州連合(EU)から「強硬離脱」方針を穏健な方向に軌道修正すべきだとの声が高まっている。

党内の実力者らが相次いで「企業や他政党と協力する必要がある」と主張、19日開始予定の離脱交渉を前に「メイ包囲網」がじわり狭まっている。
 
「交渉目標を修正し、移民抑制より経済成長優先を明確に示す必要がある。スコットランド保守党や野党、経済界の意見を受け入れるべきだ」。外相経験者の保守党重鎮、ヘイグ氏が12日、デーリー・テレグラフ紙への寄稿で離脱戦略修正を訴えた。

その後、キャメロン前首相も「野党の声も聞く必要がある。野党はより穏健な離脱方針を迫る」とメイ氏に進言した。
 
こうした意見を受けてメイ氏は「離脱にはより幅広いコンセンサスが必要だ」との認識を示し、官邸主導の政治手法を改める方針を示した。

しかし、EUとの妥協を拒む約50人の党内の最強硬派にも配慮しなければならないメイ氏は、離脱戦略をどこまで修正できるのか、苦渋の決断を迫られている。【6月15日 産経】
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上記記事にもある“EUとの妥協を拒む約50人の党内の最強硬派”の造反を考えると、DUPとの協力だけでは乗り切れません。

****<英与党>労働党に秋波 政局混迷、大連立構想浮上****
どの政党も議会の過半数に達しないハングパーラメント(宙づり国会)となった英国の政局が混迷している。

8日の総選挙で議席を減らしたメイ首相の政治力は失われ、欧州連合(EU)離脱を巡る戦略も練り直しを余儀なくされている。

「首相失脚は時間の問題」との見方が強まる中、政権与党内では最大野党の労働党との「挙国一致」構想が浮上中だ。
 
英紙テレグラフによると、与党保守党の一部でEU離脱に関する超党派委員会を設ける計画が浮上。国論を二分する最重要課題をライバル政党の協力を得て乗り切ろうとする狙いで、労働党の一部議員と水面下で協議に入ったという。(中略)

ただ政策の方向性が大きく異なる各党が連携できるかは不透明だ。英国では第二次世界大戦中のチャーチル政権など「挙国一致」の大連立政権があったが、BBCは「ライバルの保守党と労働党が平時に協力し合うのは考えにくい」と伝えた。
 
一部の世論調査で労働党の支持率が保守党を上回ったこともあり、コービン党首は「我々は支持されている。再選挙を争う準備がある」と対決姿勢を強めている。
 
メイ首相は北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の閣外協力を得ることで大筋合意に達し、21日に予定する施政方針演説で新政権をスタートさせたい考え。

だが、少数派政権では、重要法案の採決で身内の保守党から数人の造反が出た時点で立ち往生する。他党を巻き込む協力体制を築けなければ綱渡りの政権運営となる。【6月18日 毎日】
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素人考えからすれば、泥船状態になりつつあるメイ首相・保守党にライバル労働党が手を貸すようには思えません。
あるとしたら、明確な再選挙実施を前提とした場合だけでしょう。

格差問題を露呈したロンドン火災 被災者を慰問しなかった首相の姿勢への批判も
メイ首相の“泥船状態”を加速し、一部からは“致命的”とも評される打撃を与えているのが、ロンドン西部の高層公営住宅で14日未明に起きた火大災です。死者と行方不明者は、17日の警察発表によると58人とされています。

最初にロンドンの高層住宅と聞いて、富裕層の住むようなマンションをイメージしたのですが、TVニュースに映し出される被害者・近隣住民の多くは非白人で、日々の生活にも余裕のないような人々のようです。

それだけに今回火災は単なる火災事故ではなく、貧富の格差という極めて敏感な問題をえぐりだす問題ともなっており、メイ首相はそうした敏感な政治問題への対応を明らかに間違えました。

****ロンドン高層住宅火災で明らかに イギリスが抱える「貧富の格差****
少なくとも17人が死亡した大規模火災が今週発生したロンドン西部の公営住宅がある一角から、徒歩で少しの場所に、数百万ポンドはする優雅な住宅が並ぶ、英国で最も裕福な通りの1つがある。

ケンジントン・アンド・チェルシー王室特別区は、ポップスターやセレブ、富裕層や銀行幹部が住むエリアとして、英国内外で広く知られている。

だがその同じ地区には、今回の火災が起きた24階建ての高層公営住宅「グレンフェル・タワー」が建つ一角のように、貧しい地区も点在している。(中略)

この大惨事にショックを受けたロンドン市民からは、大量の洋服や靴、シーツなどの寄付が押し寄せ、早々にボランティアが対応しきれない程になっている。

だが15日には、黒焦げの無残な姿をさらすタワーの周辺から、はっきりと怒りの声が上がっていた。地元当局が、富裕層を優遇する政策に走り、貧しい市民の安全や福利を軽視している、というのだ。

火災のあった建物に住む受付係員のアリア・アルガッバーニさんは、新たな外装材が取り付けられた昨年の改修工事に立腹していた多くの住人の1人だ。炎が急速に広がった一因に、この改修工事があった可能性を指摘する報道も出ている。

「なぜ外観をきれいにしたのかを考えると、いらだたしい。反対側の高級住宅の住民にとってこのタワーが見苦しいからだ」と彼女は言う。

消防当局は、火災原因を特定するには時期尚早としており、地元当局は、改修工事は住人の住環境改善のために行ったと説明している。

「二都物語」
改修工事中に同タワーの住民と緊密に連携していた地域のまとめ役、ピルグリム・タッカーさんは、今回の火災は、長年の間コミュニティの一部を丸ごと無視したことによる悲劇的な結末だと考えている。

「この公営住宅の住人は、自分たちが無視されていることを知っている」と、彼女は衝撃を隠せない様子で語った。「もし行政がするべき仕事をしていたなら、こんなことは起きなかった」

防災上の懸念を住人が指摘したにもかかわらず聞き入れられなかったとタッカー氏らが声を上げるなか、大惨事の余波は、より大きな政治の世界にも広がりつつある。

先週の総選挙で、財政規律の重視や、減税、ビジネス環境の整備を掲げた与党保守党は、公共事業に対する支出拡大を重視する野党労働党に対し議席を失い、過半数を確保できなかった。

グレンフェル・タワーのあるケンジントンの選挙区では、史上初めて労働党の候補者が当選を果たし、驚きを持って受け止められた。

当選した労働党のエマ・デントコード議員は新聞のインタビューで、安全性を軽視したとして行政当局を批判し、悲劇は防げたはずだと指摘するなど、火災を機に素早い反応を見せた。

メイ首相は15日、グレンフェル・タワーを訪問したが、消防士と会話する一方で住民とは言葉を交わさなかったと批判を浴びた。

対照的に、近隣の教会を訪問して住民やボランティアに面会した労働党のコービン党首は、「来てくれてありがとう」と周囲から声がかかるなど歓迎された。

「ケンジントンが『二都物語』であることは、避けられない事実だ」と、コービン党首は記者団に述べた。「ケンジントンの南側は極めて裕福で、全国で最も高級な地区だ。この火事が起きた地区は、国内でも最貧の部類だと思う」

「ある種の人々」
グレンフェルがある一角のすぐ外側は、多様な層が住むノッティング・デールと呼ばれる区域だ。味気のない1970年代築の公共住宅の周りには、富豪とまではいかないものの、裕福な人々が住む手入れの行き届いた住宅が並ぶきれいな通りがある。富豪たちは、数分は離れたホランド・パークと呼ばれる地区に住んでいる。

ノッティング・デールでは、地元住民の怒りにもかかわらず、火災によってコミュニティの異なる層の人々が団結した。タワーから脱出した人々や、現場近くの自宅から避難を余儀なくされた人々のために、より裕福な住民の多くが住居を開放したのだ。

ゆとりある生活を送る年配の婦人アナベル・ドナルドさんは、自宅アパートを、行き場のない住人6人に貸している。(中略)

彼女は、増税で公共住宅や他の公共サービスへの支出を拡充することは簡単にできるのに、地区の税金が不必要に低く抑えられていると批判する。地区税の負担増があれば、喜んで応じる考えだと語った。

「行政は、倹約する地区であることを自慢に思っている。ある種の人々を喜ばすことができると思ってやっているのだ」と彼女は言う。

火災の衝撃が社会に広まる一方で、社会的な分断はいつもより重要でなくなったと感じているという。
「教会で手助けしていた時ほど、地域で受け入れられたと感じたことはなかった。彼らは、私がどちら側の人間か、まったく気にしなかった。彼らの子供たちと遊んだり、おむつを替えたり、お茶やコーヒーを用意したりしたことだけが、重要だった」とドナルドさんは語った。【6月17日】
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より裕福な人々のなかには上記記事のような支援に立ち上がる方もいますが、貧しいい被災者の怒りは“彼らは、私がどちら側の人間か、まったく気にしなかった”では済まされないものがあります。

今回事故では燃えやすい外壁が被害を大きくしたのでは・・・との推測もありますが、改修工事においてわずかな支出を削減するために耐火性の高い資材ではなく、燃えやすい資材が使用されたとの批判もあります。

****英タワー火災、安全性の懸念無視か 住民「大量殺人だ」と怒り****
英ロンドン西部の24階建て高層住宅で14日未明に発生した大規模火災で、近隣住民らは、安全性への懸念が以前からあったにもかかわらず、富裕層が住む地域ではないため無視されてきたと、憤りをあらわにしている。
 
火災が起きたグレンフェル・タワーの入居者団体の元会長、ダミアン・コリンズ氏はAFPの取材に対し、住民らは昨年完了した同タワーの大規模改装の対処について地元議会に苦情を申し立てていたと説明。「私たちは、実際に悲劇が起きないと皆の目は覚めないし、ビル管理者が責任を問われることもないと言っていた」と述べた。
 
コリンズ氏によると、入居者らは建物内の火災非常口が足りないことを特に懸念していた。また、暖房と照明システムにも欠陥があり、改善を求める2015年の請願書に住民の90%が署名したが、それも無視されたと述べた。
 
グレンフェル・タワーは1974年建築のコンクリート製高層ビル。昨年、総額870万ポンド(約12億円)の改装を終えたばかりで、住民はこの改装の際に使われた新たな外装材が火事を広げた原因となったと批判している。
 
近隣住民の男性(46)は、同地域の住民は自力に頼ることが習慣になっていると語る。男性は住民が過去に何度も苦情を申し立てていたことを指摘し、「もしこれが(高級地区の)ナイツブリッジ近くで起きていたら、既に解決し、問題にはならなかっただろう」と述べた。(後略)【6月15日 AFP】
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また、2013年にはこうした建築物にスプリンクラーを設置するようにとの勧告が政府に対してなされていたにもかかわらず、対応がとられてこなかった・・・・ということも問題とされています。メイ首相は勧告を受けた政府の閣僚でもありました。

何よりも、被災者を慰問しなかったことで、メイ首相に被災者へ寄り添う気持ちが見られなかったということが問題視されています。このことが“メイ政権の命取りにもなる”との懸念も。

****ロンドン火災】被災者を慰問しないメイ首相に批判高まる 政権の新たな難題にも****
ロンドン西部の高層アパートで起きた大規模火災で、15日、被災現場を視察したメイ首相は、警察や消防の説明を受け、徹底した公開調査を指示したが、被災者を慰問しなかったため「被災者に面談すべきだった」との非難が集中。

英メディアも「ブッシュ元米大統領が指導力欠如を露呈した『ハリケーン・カトリーナ』と同じ対応ミス」(ガーディアン紙)と批判しており、テロ対応で支持率が急落したメイ政権の新たな火だねになりかねない。
 
公営高層住宅には400人から500人が居住していたが、移民を中心とした低所得者層だった。15日、被災現場を訪問したメイ氏はイラク戦争参加問題などと同様に独立した公開調査を行う方針を明言したが、遺族や被害者など住民に会わなかった。

首相官邸では「捜査や救急作業に支障をきたすことを回避するため」と弁明するが、対照的に労働党のジェレミー・コービン党首は同日、訪問して被災者と会って、「代替え住宅確保に全力を尽くす」と語り、ロンドンのカーン市長も面談した被災住民に原因究明を約束した。
 
労働党のハーマン議員は、ツイッターで、「メイ氏は被害者と会うべきだった。テレビ経由で話をするだけでは駄目だ」と非難。

英BBC放送は「被災者に共感している姿勢に欠け、誤算だったということになりかねない」と求心力が低下したメイ政権の命取りにもなる懸念を伝えた。【6月16日 産経】
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“総選挙で後退し辞任要求が続く中、英メディアは今回の火災がメイ氏の「政治的な命取り」になりかねないと伝えている。”【6月17日 毎日】という状況で、メイ首相は16日、改めて被災地を訪問して被災者を慰問しました。

しかし、遅きに失した感があります。冒頭画像のBBCインタビューは16日の慰問を終えてのものですが、「先ほど現地では取材を受けなかったのに、今なぜBBCに来られたのですか?」と、「今更何を弁解するつもりなのか?」と言わんばかりの冷たく厳しい質問にさらされることになっています。


先日の総選挙ではメイ首相はTV討論会に出席しなかったことも批判されていますが、国民向けに訴えるようなわざとらしいパフォーマンスは嫌いなのか、あるいは批判が集中するような場を逃げてしまうのか・・・

いずれにしても危機管理のまずさで、ハリケーン・カトリーナに対するブッシュ元米大統領、セウル号事件の際の朴大統領の二の舞になりかねないところに置かれています。

所得格差がらみと言う点では、ハリケーン・カトリーナはよく似ています。

そうでなくても困難を極める離脱交渉に向けて、今の状況ではなかなか・・・・。相手方のEUとしても、国内をまとめきれない“弱い政権”相手では困るところでしょう。

個人的には、この際EU離脱なんて白紙にもどして・・・・と、無責任に思ったりもするのですが、“引き返す勇気”が必要なときもあるでしょう。
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フィリピン・ドゥテルテ大統領 ミンダナオ島の戦闘で垣間見える反米・容共のメンタリティ、レイプ願望も

2017-06-17 22:23:16 | 東南アジア

(首都マニラにあるマラカニアン宮殿(大統領府)で演説するドゥテルテ大統領(2017年6月1日撮影)。【6月15日 AFP】 お疲れのように見えるのはたまたまでしょうか。)

11日を最後に姿を見せない大統領 健康に関する憶測も
フィリピンのドゥテルテ大統領が今月11日を最後に公の場に姿を見せておらず、健康不安説などが出ている・・・という報道は周知のところかと思います。

****ドゥテルテ氏に病気説 飛び交う臆測、5日間姿見せず****
フィリピンのドゥテルテ大統領が、今月11日を最後に公の場に姿を見せていない。多いときは日に数回も演説をしていたリーダーの不在に、国民の間では「病気ではないか」などの臆測が飛び交っている。
 
ドゥテルテ氏は11日、ミンダナオ島で続く過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う武装組織との戦闘で死亡した海兵隊員の遺族と面会した。

翌12日のフィリピン独立記念日には、マニラ首都圏で国旗掲揚式典に参加するはずだったが「体調が悪い」として欠席し、その後、公の場に姿を見せていない。昨年6月末の就任以来、5日も姿を見せないことは珍しい。
 
アベリヤ大統領報道官は15日、「大統領は元気。休養が必要なだけ」と強調。大統領側近が同日、ドゥテルテ氏とされる写真を公開した。

だがネット上では、「大統領は働ける状態なのか」「やせたように見え、心配だ」などの声が飛び交っている。16日にはラクソン上院議員が、「どの国でも大統領の健康問題は個人の問題ではなく社会的関心事だ」と述べ、政府に情報公開を迫った。
 
まもなく就任1年を迎えるドゥテルテ氏は現在72歳。重い持病を抱えているとのうわさも絶えない。【6月16日 朝日】
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“エルネスト・アベリャ大統領報道官は報道陣に対し、ドゥテルテ氏の体調に問題はないと説明した上、「大統領は元気を回復させるため、しばらく休息を取っている」と語った。公務に戻る時期は未定だとしたが、アベリャ報道官は「病気という点では心配することは何もない」と語り、「大統領は健康である」と念を押した。”【6月15日 AFP】とも。

今日もまだ“休養”が続いているようです。

ドゥテルテ大統領はバイク事故の後遺症を抱えていることは以前から報じられています。“がん”の噂は否定しています。

****ドゥテルテ比大統領、強力鎮痛剤の使用認める 健康に懸念も****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテル大統領が強力な鎮痛剤のフェンタニルを使用していたこと認めたことから、ドゥテルテ氏の健康に関する懸念が強まっている。議員らは18日、大統領に健康診断を受けてその結果を公表するよう促した。
 
ドゥテルテ大統領は12日、過去にオートバイの事故で脊髄を痛めたために、がんや慢性疾患の患者に処方されることが多いフェンタニルの貼り薬をよく使用していたと公表した。しかしドゥテルテ氏が処方された量を超えて「フェンタニルを乱用」していると知った医師に、同剤の使用を止められたという。(中略)

フィリピンの議員らは、ドゥテルテ大統領がフェンタニルの使用を認めたことで、同大統領の健康状態に関する憶測が再燃したと主張している。ドゥテルテ氏に関しては大統領選の選挙運動中、がんを患っているとの噂が広まっていた。ドゥテルテ氏は繰り返し噂を否定している。(後略)【12月18日 AFP】
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現地在住の方のブログによれば、脊髄損傷のほか、「私は毎日この片頭痛があります。私は熟睡していない」「癌だと信じてはいけない。私が持っているのは、本当はバージャー病だ。喫煙でのニコチンの影響で、血管を収縮させ、アルコールが血管を拡張する」とも語っているそうです。【http://ameblo.jp/morhicin171816/entry-12228516127.html

「フェンタニルを乱用」するほどの脊髄損傷後遺症、毎日の片頭痛、更にバージャー病・・・・“満身創痍”の感も。
先月の厳しい禁煙令も自身がバージャー病(発症には喫煙が深く関係するとされています)を有することと関係しているのでしょうか。

****比ドゥテルテ大統領、厳格な禁煙政策をさらに強化 大統領令に署名****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は18日夜、公共の場での喫煙を広範囲で禁止する大統領令に署名した。アジア諸国でも特に厳格な反たばこ政策をより強化する内容で、60日以内に発効する。
 
喫煙やたばこの販売は、屋内の公共の場に加え、学校や公園など子どもが集まる場所から半径100メートル以内の屋外でも全面的に禁止される。

たばこ広告禁止や屋外の公共の場での禁煙、たばこ包装に健康被害を警告する画像広告の表示を義務付けるなどの施策は、以前から導入されている。【5月19日 AFP】
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いまだ終息しないミンダナオ島の過激派との戦闘
政治指導者の健康不安説はしばしば流布しますが、本当のこともあれば、そうでないことも。今回のドゥテルテ大統領の健康状態に関してはわかりません。

健康問題はわかりませんが、ドゥテルテ大統領が内憂外患から多大なストレスにさらされていることは事実です。

“外患”の方は、“麻薬犯罪容疑者への超法規的殺人という強硬姿勢で国際社会から「深刻な人権問題」を指摘され、一方南シナ海領有権問題ではフィリピンによる同海域での資源開発に対し中国から「(そんなことをすれば)戦争になる」と「恫喝」されるなど厳しい状況”【5月27日 大塚智彦氏 Japan In-depth 「ミンダナオ島内戦に突入、ISの影」】ですが、目下の最大の問題は“内憂”、ミンダナオ島でイスラム系テロ組織が蜂起した件でしょう。

この問題で、ドゥテルテ大統領はミンダナオ島などに戒厳令を公布したことは、5月24日ブログ“フィリピン・ドゥテルテ大統領の戒厳令 対象地域・期間も拡大の可能性 暴力の矛先も・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170524でも触れたところです。

****ミンダナオ島内戦に突入、ISの影****
■内戦状態のミンダナオ島
フィリピン南部のミンダナオ島周辺地域に対し5月23日にドゥテルテ大統領が戒厳令を布告、イスラムテロ組織と国軍の間で戦闘が激化しているが、現地から伝えられる状況ではもはやテロ組織との戦闘というレベルではなく「内戦状態」という深刻な事態に陥っている。
テロ組織には複数の外国人メンバーの参加も明らかになっており、イラクやシリアでテロ攻撃を続けるイスラムテロ組織「イスラム国(IS)」が本格的な東南アジアの拠点作りにミンダナオ島で乗り出したとの見方が強まる中、ドゥテルテ政権は国内治安対策だけでなく、国際テロ問題への難しい対応に直面している。

■2つのテロ組織vs国軍
ミンダナオ島西部にある南ラナオ州の州都マラウィで同島を拠点とするISともつながりのあるイスラム過激派「アブサヤフ」のイスニロン・ハピロン幹部の捕獲作戦を23日午後に国軍が開始した。

激しい銃撃戦になったところへ現地で勢力を急速に拡大していた「マウテグループ」と呼ばれる別の組織が参戦、二つのテロ組織と国軍で本格的な戦闘に発展した。

両組織は合同してマラウィ市の主要拠点を次々と確保、国軍は一時劣勢に追い込まれた。この状況を国軍首脳から訪問中のロシアで受けたドゥテルテ大統領は国軍の進言を受け入れて23日夜にただちにミンダナオ島と周辺地域に「戒厳令」を布告した。

戒厳令は地方行政の諸権利が治安部隊に統制されるとともに夜間外出禁止、令状なしの身柄拘束、家宅捜索、抵抗者への発砲・殺害が可能となるもので60日間継続される。フィリピンでは1972年のマルコス大統領、2009年のアロヨ大統領に次いで第2次世界大戦後、ドゥテルテ大統領による今回が3回目となる。(後略)【前出 大塚智彦氏】
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ISともつながるとされる「アブサヤフ」は、昔からこの地域で活動している過激派組織ですが、「マウテグループ」は初耳です。

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フィリピンではこれまでドゥテルテ大統領による「和平停戦」の呼びかけに「アブサヤフ」は応じることなく、外国人誘拐、殺害、身代金要求、銃撃戦を続け国内治安問題の最大の「脅威」となっていた。

その掃討作戦中に乗じる形で登場してきたのが「マウテグループ」と呼ばれる組織。

治安当局によると「マウテグループ」は元警察官で麻薬組織を率いるアブドラ、オマール・マウテ兄弟が組織したといわれ、2016年の調査ではメンバーは263人だった。

その後麻薬組織メンバーや地元犯罪者などが加入し、麻薬を資金源として大量の武器も取得、ISとの関係を深めてミンダナオ地方にISの東南アジアの拠点を構築することで「アブサヤフ」とも思惑が一致、今回の共同作戦になったとみられている。【同上】
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一時はマラウィ市の75%を掌握したとされた過激派グループですが、その後は鎮圧が進んでいるようです。
ただ、抵抗は依然として続いてもいるようです。

****IS系武装勢力が市民を奴隷に、逃げれば射殺 フィリピン****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」系武装勢力と国軍との間で戦闘が続くフィリピン南部ミンダナオ島のマラウィで、武装勢力の戦闘員らが市民を奴隷として動員し、逃げようとした人たちを殺害していることが分かった。当局が13日明らかにした。
 
国軍と武装勢力の戦闘は3週間に及んでいるが、フィリピン政府によると、武装勢力の支配下にあるマラウィの一部地域には、いまだに最大1000人の市民が取り残されている。
 
フィリピン軍は米軍の支援を受け、武装勢力の戦闘員らが身を潜めている住宅地に容赦なく爆撃を加えている。当局によると、マラウィ市内では400人の戦闘員が抵抗を続けている模様。
 
現地のフィリピン軍報道官は記者団に対し「われわれが救出した住民の証言から、彼らが(戦闘員の)食事の用意や武器弾薬の運搬を手伝わされていたことが分かった」と述べた。
 
政府によると、これまでの戦闘で少なくとも市民26人、兵士や警察官58人、武装勢力の戦闘員202人が死亡している。
 
エルネスト・アベリャ大統領報道官は首都マニラで記者団に対し、逃げようとして隠れていた市民5人が12日、戦闘員に見つかり殺害されたことを明らかにした。(中略)

ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、今回の武装勢力による一連の襲撃について、ISが人口約2000万人の同国南部ミンダナオ島に拠点を作ろうとしている企ての一環だと指摘している。【6月14日 AFP】
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13日のフィリピン軍発表では、マラウィ市の20%がまだ過激派支配下にあるとされています。
戦闘を避ける避難民は24万人に及ぶとされ、その衛生面のリスクも懸念されています。

【「米国に接触したことは一度もない」 共産主義反政府勢力には共闘を打診
興味深いのは、この戦闘を支援するためアメリカが武器を供与したと報じられた件。
周知のようにアメリカ嫌いのドゥテルテ大統領は、昨年9月12日の演説で、ミンダナオ島でイスラム過激派の掃討作戦を支援している米軍特殊部隊に「出ていけ」と撤退を求めた経緯があります。

****米、比に武器供与=IS掃討を支援***
在フィリピン米大使館は5日、対テロ戦支援のため、フィリピン海兵隊に銃や拳銃などの武器を供与したと発表した。武器は南部ミンダナオ島マラウィ市での過激派組織「イスラム国」(IS)系グループ掃討作戦に使われる。
 
供与されたのはライフル銃300丁やピストル200丁、マシンガン4丁など。米比両国は同盟関係にあるが、「嫌米」のドゥテルテ大統領は自国からの米軍撤退を求め、米国から供与された武器も「中古品だ。要らない」と文句を付けていた。【6月5日 時事】
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さすがに危機的状況にあってドゥテルテ大統領も個人的好き嫌いを棚上げしてアメリカと協力するのか・・・とも思ったのですが、そうでもないようです。

****フィリピン大統領、米支援「要請していない」 IS系勢力掃討で****
フィリピンのドゥテルテ大統領は11日、南部ミンダナオ島マラウィ市での過激派組織「イスラム国」(IS)系武装勢力の掃討作戦で米国が支援の要請を受けたと明らかにしたことに関し、要請はしていないと述べた。

ドゥテルテ氏は武装勢力が占拠するマラウィから約100キロ離れたカガヤン・デ・オロでの記者会見で、支援要請のため「米国に接触したことは一度もない」と強調。米国の支援については「彼らが到着するまで知らなかった」と述べた。

親米派のフィリピン軍が、反米姿勢を繰り返し示しているドゥテルテ氏を通さず米国に支援を要請したかどうかは不明。

フィリピン軍は10日、米軍から技術支援を受けているが、米部隊が地上での作戦に参加しているという事実はないと明らかにしていた。これに先立ち、在フィリピン米大使館は、フィリピン政府に支援を要請されたと発表していた。

米国防総省は声明で、フィリピン軍に治安支援および情報収集、監視、偵察の分野での訓練を提供していると明らかにしている。【6月12日 ロイター】
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アメリカへの支援要請などはしたくないドゥテルテ大統領ですが、政府軍と戦闘を継続している共産主義勢力となら手を組めるようです。ドゥテルテ大統領はかねてより共産党の「理解者」をも自称しています。

****大統領、イスラム組織・共産党組織にも打診****
ドゥテルテ大統領は同じミンダナオ島を拠点とし、反政府武装活動を続けるイスラム過激派の「モロ民族解放戦線(MNLF)」とその分派である「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」に加えて、フィリピン共産党軍事組織「新人民軍(NPA)」に対しても政府軍との戦闘の中断と、国軍によるIS勢力一掃作戦への参加を呼びかけた。(後略)【6月7日 大塚智彦氏 Japan In-depth「ドゥテルテ氏、共産勢力と共闘?」】
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ドゥテルテ大統領は、極端な反米左翼だったベネズエラの故チャベス大統領に似たようなメンタリティを持ち合わせているようです。

【「3人レイプしても、私がやったと言うから」】
ミンダナオ島の戦闘に関連する“場外乱闘”的騒動としては、ドゥテルテ大統領の“レイプ容認発言”、アメリカのクリントン元大統領の長女チェルシーさんとの非難合戦も話題になりました。

****兵士に「3人レイプしても・・・」 ドゥテルテ氏に批判集中****
フィリピンのドゥテルテ大統領が、またレイプを容認するような発言をした。性犯罪を軽んじるような問題発言を繰り返す大統領に、国内外で批判の声が上がっている。

 問題の発言があったのは26日。戒厳令下のミンダナオ島イリガン市で、過激派との戦いに向かう兵士を前に演説したドゥテルテ氏は「責任は私がとる。任務に専念し、あとは任せなさい。3人レイプしても、私がやったと言うから。4人目の妻ができたらぶん殴るけど」と述べた。
 
この発言に、国内の人権団体や上院議員から批判が上がった。アベリヤ大統領報道官は27日、「誇張した表現で犯罪を例に挙げたが、兵士の行動に全責任を持つという意味だった」と釈明した。
 
一方、この発言に海の向こうから激怒しているのが米国のクリントン元大統領の長女チェルシーさん。ツイッターに「全く笑えない」と書き込み、さらに「ドゥテルテは人権に配慮しない残忍な殺し屋(murderous thug)。レイプはジョークではない」とも記した。(後略)【5月29日 朝日】
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チェルシーさんに対しドゥテルテ大統領はビル・クリントン元大統領の大統領時代の不倫スキャンダルに言及しながら口汚く反論しています。

****ドゥテルテ比大統領、レイプ発言非難のクリントン氏娘に暴言連発****
・・・・これを受けてドゥテルテ氏は31日、海軍兵士らとその家族の前で行った長時間にわたる演説の終盤、レイプに関する自身の発言を非難する人々、とりわけチェルシーさんに向け、「売春婦ども」とののしりつつ、「チェルシーは私を非難した。私は冗談など言っていない、ただ皮肉な物言いをしただけだ。私の演説をよく聴いてみろ。私は自分の冗談に笑ったりはしない」とまくし立てた。
 
さらにドゥテルテ氏はクリントン元大統領と不倫騒動を起こしたホワイトハウスの元実習生、モニカ・ルインスキーさんにも言及し、「彼女(チェルシーさん)に尋ねよう、米国の大統領だった父親が、ホワイトハウスでルインスキーや他の女たちとやっていた時にどう思ったのだ?父親を非難したのか?」と批判した。
 
またドゥテルテ氏は、詳細を示さずに米兵がフィリピンや日本で女性をレイプしたと非難。最後に「繰り返す、クリントン大統領がルインスキーとやっていた時に何を述べ、どんな反応をしたのだ?」と付け加えた。【5月31日 AFP】
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レイプ発言に関しては、ドゥテルテ大統領は“前科”がありますので、「またか・・・」としか思えません。
ドゥテルテ大統領は昨年の大統領選のさなかにも、外国人女性が被害にあったレイプ事件に触れ、「美人だった。私が先にやるべきだった」と発言して聴衆の笑いを誘っています。

兵士を鼓舞するのにどうして「3人レイプしても、私がやったと言うから」云々の発言になるのか?
性的問題に関しても特殊な(あるいは古臭いマッチョ的な)メンタリティを持っているようです。

男性の多くにそうした面があると言えばそうですが、それを公言するのはまた別問題です。

健康面でいろいろ万全でないところもあるようですから、この際ゆっくり休養されたら・・・とも思うのですが、そういう“休養が期待される”人に限って、すぐに復帰することが多いのも困ったものです。
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フランス総選挙 「強い大統領」演出で、マクロン大統領が率いる新党が圧倒的な勢い 今後への期待と不安

2017-06-16 23:06:18 | 欧州情勢

(【5月29日 CNN】 話題になったトランプ大領との長い、指の関節が白くなるほどの固い握手 「決して譲歩しない」とのマクロン大統領の意を込めた“握手外交”でした。)

【“新人と経験者のバランス”で「1強体制」へ
6月11日に第1回投票が行われたフランス総選挙(下院・国民議会選挙)は、第1回投票で過半数を取った候補者がいない場合には、1回目の投票で12.5%以上の得票率を得た候補による決選投票が明後日(18日)に行われます。
この選挙でマクロン大統領が率いる「共和国前進」グループが圧勝する見込みであることは報道のとおりです。

「共和国前進」は、マクロン氏が大統領選に向けて1年前に結成した政治グループ「前進!」から発展した新党です。

大統領選挙に当選はしたものの議会内に支持基盤を持たず、新党を率いて総選挙に臨むマクロン大統領は、議会において多数派を形成できないと苦しい政権運営を強いられるのでは・・・との懸念がありました。

“フランス憲法の規定では、立法や予算承認、首相の解任の権限を持つのは議会だけであり、議会で過半数を取れなければ、今後の改革をスムーズに進めることは難しい。

もちろん従来の大統領達は、みな所属する政党を軸に過半数を獲得してきた。しかしながらマクロン氏が建てた政党「前進」は現状ではゼロ議席で大きな政党が築いてきた基盤もなかったのだ。”【6月13日 Japan In-depth】

しかし、「第1党を確保しそう」→「過半数に迫るい勢い」→「過半数越え」→「最大で400議席も」→「400を大きく超える勢い」と、日を追うごとに勢いを増し、決選投票直前の15日の世論調査では440─470議席という驚異的な予測が出されています。470議席だと全体の8割を占めることにもなります。

****仏下院選、マクロン大統領の新党が440─470議席獲得へ=調査****
15日に公表された世論調査によると、18日に第2回投票が行われる仏国民議会(下院)選挙はマクロン大統領が率いる「共和国前進」グループが圧勝する見込み。

調査会社オピニオンウェイとハリス・インタラクティブがそれぞれ行った調査では、同グループが全577議席中440─470議席を獲得すると予想されている。

オピニオンウェイは保守派の共和党と中道右派連合の議席を70─90、社会党は20─30と見込んでいる。

極右の国民戦線(FN)は1─5議席、極左の「不屈のフランス」は5─15としている。

ハリス・インタラクティブも同様の予想を示している。

オピニオンウェイによると、投票率は46%と第1回投票から低下する見込み。【6月16日 ロイター】
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当初は圧勝・地滑り的大勝利が予測されながら、労働党の追い上げにあって、結局過半数割れとなったイギリスのメイ首相率いる保守党とは対照的な推移です。

マクロン新党については圧勝予測もさることながら、そもそも、5月の大統領選挙から時間的余裕もないなかで、ほぼ全選挙区に候補者を擁立できたこと自体も驚きです。上述のように大統領選挙に勝利しても議会選挙で勝たないと意味がないということで、大統領選挙と並行して候補者選びを進めていたことは報じられていましたが・・・。

****仏議会選に向けて右旋回を目指すマクロンの試練****
・・・・国民議会の定数は577。小選挙区制で、REM(「共和国前進」)はできるだけ多くの候補者を擁立しようと、約1万9000人の応募者から有望な人材を絞り込み、最終的に526人の候補者リストを発表した。

候補者選びは困難を極めた。マクロンの試みは現代のフランスばかりか、どこの国の政界でもまず前例のない政治的チャレンジだ。既成政党からのくら替え組と政治の素人を擁立して、全く新しい政党を議会の多数党に仕立てようというのだ。

社会党色の払拭がカギ
マクロンから独立した選考委員会が左右両陣営、さらには新人と経験者のバランスを見計らいつつ候補者の選定を進めた。

マクロンは候補者の半数を既成政治に染まらない新人にするよう要請。元女性闘牛士のマリー・サラ、長髪の数学者セドリック・ビラニといったタレント候補もリストに含まれる。(後略)【6月5日 Newsweek】
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“マクロンは候補者の半数を既成政治に染まらない新人にするよう要請”ということは、逆に言えば、半数ほどは既成政党(左派の社会党、右派の共和党)からの鞍替え組です。

大統領選挙における“マクロン優勢”の流れに乗る形で、左右両派からの大量の移籍が見られました。今回選挙予測で既存の二大政党は劇的に議席を減らす見込みですが、すでに候補者選定段階でマクロン新党にその基盤を侵食されていたとも言えます。

一方、首相のフィリップ氏が中道右派・共和党の出身、閣内には同党や中道左派・社会党の大物議員が名を連ねるということで、ルペン党首率いる右翼・国民戦線(FN)からは「従来通りの古い顔」などの批判も浴びていますが、環境運動家や企業経営者も閣僚に登用し、そうした印象を薄めています。“新人と経験者のバランス”です。【6月13日 朝日より】

候補者選定段階での“ゴタゴタ”はそれなりにあったようですが、それは当然でしょう。

自身が社会党・オランド政権の経済相だったこと、大統領選の序盤では社会党の支持をバネに有力候補にのし上がったこともあって、マクロン新党は社会党の影響が強いとみられがちでしたので、中道右派の共和党支持者の票も取り込んで議会選で勝つにはそのイメージを払拭する必要もありました。

********************
フランスのエマニュエル・マクロン大統領率いる新党「前進する共和国(REM)」にとって、それは願ってもない宣言に思えた。

社会党のフランソワ・オランド前大統領率いる政権で首相・内相を務めたマニュエル・バルスが「社会党は死んだ」と宣言。6月に実施される国民議会(下院)選挙ではマクロンの新党から出馬する意向を発表したのだ。

ところが公認候補の選考に当たるREMの委員会は、バルスの申し出を拒否。これには誰もが耳を疑った。マクロンはバルス首相の内閣で経済相を務めている。しかも、大統領選で社会党の候補を差し置いて自分を支持してくれたバルスは、マクロンにとっては恩人のはずだ。

それでもあえてバルスを切った苦渋の決断が、マクロンの直面するとてつもない試練を物語っている。マクロンは自分を選んでくれた有権者を説得しなければならないのだ。議会選ではこれまでの支持政党を捨てて、REMに入れてほしい、と。【同上】
*******************

さすがにマクロン大統領は、バルス氏の選挙区には対立候補を立てていません。
バルス氏だけでなく、協力してくれる他党の候補者には対立候補を立てていません。

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前進が波に乗る中、他党の候補にはその勢いに乗じようとの動きもある。
 
パリ北部の選挙区では保守党の候補が「大統領のための多数派を」と訴え、自身のツイッターに共和党出身のフィリップ氏との写真を掲載。支持率低迷中の左派、社会党の候補もポスターに「マクロン氏と進歩派の多数派のため」と掲げ、社会党のロゴマークを目立たないように記した。
 
前進は他党候補でも協力が見込めれば対抗しない戦略をとり、この選挙区に公認候補はいない。有権者からは「どちらも相手より前進に近いと説明してくる」(前進の支持者)と戸惑いの声も上がる。【6月10日 朝日】
********************

既成の2大政党である中道左派・社会党と中道右派・共和党の候補からも、マクロン大統領との近さをアピールする動きが出ており、今後の政界再編は不可避の情勢です。

【「強い大統領」演出に成功
マクロン大統領はまだ就任したばかりで実績云々はまだの段階ですが、主要7カ国(G7)首脳会議など外交舞台も無難にこなし、ロシア・プーチン大統領やアメリカ・トランプ大統領に対し1歩も引かない強い姿勢を見せることで、強い指導者という国民の信頼を得ることに成功しています。(今のところは・・・ですが)

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・・・・大統領選でのマクロン氏の勝利は、右翼・国民戦線(FN)のルペン党首の大統領就任を防ぐという消極的選択の面が強いと指摘された。

それを考えると、マクロン陣営の勢いは大方の予想以上だ。政治学者のブルーノ・コトレス氏は「政権はおおむね順調にスタートしてマクロン人気が続いている。一方の野党はおぼつかない」とみる。
 
マクロン氏は、ロシアのプーチン大統領に、同性愛者の人権問題で苦言を呈したと記者会見で説明した。

またトランプ米大統領が温暖化対策の「パリ協定」離脱を発表した際には、深夜に機敏にテレビ演説し、「間違っている」と訴えた。

39歳の若きリーダーは米ロ両大国の首脳と渡り合い、「強い大統領の姿をうまく演じている」(仏紙記者)という。【6月6日 朝日】
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こうした「「強い大統領」のイメージをなるべく広く浸透させるイメージ戦略・印象操作にも力を入れたようです。

****マクロン新党大躍進のわけ****
■マクロン人気の背景
大統領選の時点では、まだまだマクロン氏の実力に疑心暗鬼の有権者も多く、「FNには入れたくないので無難な方を選択」ぐらいの気持ちの人がいたかもしれない。

しかし大統領選出後はマクロン氏の人気はうなぎのぼりだ。階段を駆け上る若さ、今までの大統領とは違う振る舞い、あらゆることが好感を得る結果になっている。

さらにマクロン人気を加速させたのが、トランプ氏が地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した直後の発言だ。トランプ氏の発言「アメリカを偉大な国にする」を皮肉り、「世界をもっと偉大にする。賛同する人はフランスに来てください。」と英語で呼びかけた。

この言葉はツイッターで24万回リツーイトされ、この人気に早速反応したマクロン氏のスタッフ達はすぐさまグレートモアのサイトを立ち上げ、フランスに来る研究者達への窓口を設けたことも話題を呼んだ。「開かれた国」フランスを世界にアピールするだけでなく実際にフランスに来る方法の道筋が作られたのだ。

マクロン氏の言葉が世界中に拡散されていくのを目のあたりにして、年配の有識者で「マクロンはなんて運がいい男なのだ」と言う人がいた。

しかし、ほんとうに運がいいだけなのだろうか?この状態をラッキーとしか考えられないのでは全ての見方を誤るのではないのか?

確かに従来の政治家たちのやり方とは違うかもしれない。しかしながら大きな実績を残す実業家たちが行っている行動そのものに重なってみえる。

マクロン氏を陰で支える頭脳集団は、起業して実績を残す実業家も多い。そしてスピードがある。マクロン氏が「階段を駆け上がる」ことに違いを感じた人がいれば、すぐさまそれをアピールし旧体制を批判してきた層を獲得した。

トランプ大統領に向けた言葉に注目が集まればすぐさま対応し、世界のトランプ反対層を獲得。その上で、マクロン氏のフランス事業基盤を立て直すという計画にもつながる優秀な人材を呼び寄せる宣伝にまでつなげたのだ。

■マクロン政権は「スタートアップ」
大統領就任後の流れには、「取り組みの情熱」「周囲の巻き込み」「スピード」など、新事業を成功させるのに必要とされる全ての要素がうまく詰まっていることが見てとれる。

フランスでは起業する人を応援するスタートアップに力を入れているが、マクロン政権自体がとても見事なスタートアップを実践してみせた。その結果は確実に議員選に現れたと言えるだろう。

来週に2回目選挙が残っているが、現時点では圧勝が予測されている。これでマクロン政権の基盤が確立される。今後の動きにも注目していきたい。【6月13日 Japan In-depth】
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マクロン大統領が好んで着ている青を基調とした細身のスーツ(価格は5~6万円程度)が、人気を集めているそうですが、“大手投資銀行出身のマクロン氏は、かつて日本円で数十万円のスーツを着ていたが、経済相に就任した約3年前、ブリジット夫人(64)の助言で、「庶民派」に変身したと言われている”【6月15日 読売】とも。イメージは重要です。

大統領選挙でのルペン氏、選挙後のトランプ大統領と“敵役”に恵まれた感もあります。

【“古い政治”を脱して新しい政治をつくれるか?】
圧倒的な“マクロン人気”にも見えますが、第1回投票の投票率の低さにも示される政治離れも進行しています。
“投票率は48.7%と、前回2012年の第1回投票時の57.2%から大幅に低下した。アナリストらは反マクロン陣営の支持者たちが投票を控えたためだと分析している。”【6月12日 BBC】

****それでもマクロン支持は「相対的」でしかない****
・・・・この棄権率の高さは、大統領選挙でも見られたような、国民の既成政党への不信と政治離れを再確認したことになる。

有権者は「相対的」にマクロンを支持したに過ぎず、フランス政治そのものに対する期待が小さくなっていることがうかがわれる。

少し意地悪な数字であるが、棄権・無効票に投票事前未登録などを加えると、実際の投票率はもっと下がる。マクロン派が30%以上の支持率を得ているとしても、実際にマクロンに投票した人は有権者の10人に1人程度、という見方である。

これは単なる数字のマジックであるが、表向きの大勝利の裏で、国民の政治離れは歴然としている。

マクロン政権が心機一転、世代交代と政界再編成を目指すのは確かだ。それは候補者の平均年齢が49歳ということにも表れている。

選挙制度が変わって兼職が禁止されたために、市長や地域県議会議長にとどまり、国会議員の再立候補をあきらめた現職議員が200名にも上るといわれる一方、マクロン派の候補者の半数は政治経験のない人たちだといわれる。マクロン大統領もそうだったように、今回が初めての立候補だという候補者も多い。

マクロンに求められている新たな改革は、まずは人心の転換、本当の意味での政治の風を起こすことである。【6月16日 Foresight】
*****************

“政治経験のない人たち”がどれだけ働けるか?という問題とともに、多くの“乗り換え組”の“古い政治”克服も課題となります。

すでに、フェラン国土団結相のパートナーだった女性に利益を誘導した疑惑、バイル司法相のスタッフが欧州議会で勤務していたように装って不正な報酬を得ていた疑惑などが噴き出しています。

“実務を進めるとなると、ベテラン議員の力を借りざるをえないのが実情だ。そしてベテラン議員の中には、旧来型のしがらみや腐敗に染まった人物が混じっていたという皮肉な構図だ。”【6月15日 日経】

今のところは、こうした疑惑を大きく超える“マクロン人気”の順風を受けていますが、今後に向けてはこうした“古い政治”一掃ができるかどうかが、国民の信頼をつなぎとめる重要なカギになります。

もちろん政策面で結果を出す必要もあります。政策面での課題は経済政策でしょう。

“フランス国民は相次ぐテロに加え、高い失業率などの経済問題に辟易していたと言われる。それらを解決できなかった既存の2大政党にそっぽを向いたのだ。

マクロン氏の喫緊の課題は、世論調査でいつも不満のトップの失業率の改善。しかし、EU残留を主張する立場で、有効な対処手段を見いだせるだろうか?”(“伝説のディーラー”藤巻健史氏)【6月7日 dot】といった指摘も。

今回選挙に関しては、マクロン新党以外にも、マリーヌ・ルペン氏の極右FNと、極左ジャン=リュック・メランション氏率いる「不服従のフランス(FI)」の意外な伸び悩みといった話もあります。

簡単に極右FNに関して触れると、大統領選挙でルペン氏が決選投票に残ったとはいえ、その結果が惨敗であったことが支持者を大いに落胆させたこと、組織内の路線をめぐる内紛(その結果、姪のマレシャル・ルペン氏が不出馬)、選挙資金の枯渇(大統領選挙ではプーチン大統領に頼っていましたが)などの要因が指摘されています。【6月16日 Foresightより】

もし、マクロン大統領が国民の期待に応えられない結果に終われば、次はいよいよ“ルペン大統領”・・・・とも言われています。
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アフガニスタン  勢力が増大するタリバンに「勝てていない」 ISテロも頻発 米軍増派の方向)

2017-06-15 22:47:47 | アフガン・パキスタン

(死者が150人、負傷者は300人以上に達した5月31日にカブール中心部で発生した自爆テロによる巨大な穴【6月6日 AFP】)

悪化する首都カブールの治安 頻発するISのテロ
前回アフガニスタン情勢を取り上げたのは、タリバンの春期攻勢が始まった時期の、5月2日ブログ“アフガニスタン 春期攻勢のタリバン アメリカの増派は? ロシア・イラン・中国の関与は?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170502でした。

その概要は、下記記事に示されています。

****アフガンに“第2のシリア”の恐れ、タリバンが春期攻勢を宣言****
内戦の泥沼化の様相が深まる中、アフガニスタンの反政府組織タリバンはこのほど政府軍、駐留米軍に対して「春期攻勢」の開始を宣言、戦闘が一段と激化しそうな雲行きだ。

トランプ米政権は増派も含め、アフガン政策を見直し中だが、ロシアやイランの影もちらつき、同国が”第2のシリア”になる恐れも強まってきた。

政府軍死者が2倍に
(中略)こうした襲撃や交戦などでアフガニスタン軍の死者は毎年拡大する一方で、2016年は一昨年の2倍以上の6700人が犠牲になった。民間人の死傷者も1万1418人と急増した。

タリバンは現在、国土の50%以上を支配、アフガニスタンは米軍の支援と国際的な援助でなんとか国家の体裁を維持しているのが現実だ。
 
アフガンに駐留していた米軍中心の国際治安部隊は最大14万人に上ったが、2015年までに一部米軍を残して大半が撤退した。現在は約8500人の米軍が残留し、政府軍の訓練、助言などとともに、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダに対するテロとの戦いを続けている。
 
米軍はアルカイダの潜伏するパキスタン国境との部族地域に対する無人機空爆作戦を続行する一方で、ISの拠点のある東部ナンガルハル州での掃討作戦を強化。(中略)
 
トランプ政権の本音は1日も早いアフガニスタンからの軍撤退だろう。しかし今、米軍が手を引けば、同国がタリバンに取って代わられる可能性が強い。現状のままでも、タリバンが一段と勢力を拡大、ISもテロを活発化させて内戦が泥沼化、“第2のシリア”に陥りかねない。

特にISは拠点のあるナンガルハル州から活動範囲を拡大し、3月には首都カブールの国軍病院で自爆テロを実施、49人を殺害した。ISは最盛期の勢力からは弱まっているものの、依然1000人以上の戦闘員がいると見られている。(中略)

イラン、ロシアの影
とりわけトランプ政権は隣国のイランとロシアがタリバンを支援しているのではないか、との懸念を深めている。(中略)

両国がタリバンを支援する理由は大いにある。
それは両国ともISに対する「防波堤」の役割をタリバンに担わせたいと願っているからだ。(中略)
 
しかしアフガンの治安回復のため、これまで2400人もの将兵の血を流してきた米国にしてみれば、ロシアの動きは容認し難い。

ロシアの動きをけん制するためにも、早急にアフガン政策を策定できるかどうか、トランプ政権の戦略が問われている。【5月2日 WEDGE】
******************

状況は前回ブログの時点から改善していない・・・と言うより、悪化しています。

5月3日には、首都カブールで駐留するNATO部隊の車列を狙った爆発が起き、通行人ら8人が死亡、NATO軍の隊員3人を含む約30人が負傷しました。ISが犯行声明を出しています。

5月8日には、アフガニスタン北部のクンドゥズで一部地区がタリバーンに占拠され、数千人の住民が避難を余儀なくされていることが報じられています。

5月17日には、東部ナンガルハル州の州都ジャララバードで17日、武装集団が国営テレビ局「RTA」を襲撃し、治安部隊と銃撃戦になリ、少なくとも3人が死亡、16人が負傷しています。同州で影響を強めているISが系列のニュースサイトを通じて犯行声明を出しています。

5月20日には、首都カブールで外国人向けの宿泊施設が武装した集団に襲撃されて、ドイツ人女性とアフガニスタン人の警備員が殺害され、フィンランド人女性が拉致されたとみられています。

5月27日には、東部ホースト州の州都ホースト市でタリバンによるとみられる自動車爆弾攻撃があり、13人が死亡しました。米中央情報局(CIA)の支援を受けてタリバンに対する戦争をひそかに遂行しているとされる民兵組織を狙った攻撃とみられています。

一連の攻撃からは、タリバンだけでなくISによるテロも頻発していること、首都カブールの治安が悪化していることがうかがわれます。

その首都カブールでは5月31日に政府機関や大使館が集中する首都中枢での爆弾テロによって150人超が死亡、首都の治安対策の弱さが改めて浮き彫りとなっています。
また、6月3日には、上記テロの犠牲者の葬儀会場で複数回の爆発が起き、7人が死亡し、119人が負傷しています。

5月31日の大規模テロについては、犯行声明は出ておらず、タリバンは関与を否定しています。
アフガニスタン情報機関は、パキスタン情報機関の関与があったとしていますが、当然ながらパキスタン側は否定しています。

****<カブールテロ>「タリバン一派が実行」情報機関が声明****
アフガニスタンの首都カブール中心部で少なくとも80人が死亡した爆弾テロで、アフガンの情報機関・国家保安局(NDS)は5月31日、声明を発表し、旧支配勢力タリバンの一派である武装組織「ハッカーニ・ネットワーク」がパキスタンの軍情報機関ISIの支援を受け実行したとの見方を示した。

ただ、具体的な証拠は示しておらず、真偽は不明だ。アフガンとパキスタンは関係が冷え込んでおり、発表を機に両国関係がさらに悪化する可能性がある。
 
事件では犯行声明は出ておらず、タリバンは関与を否定している。アフガンではタリバンのほか、過激派組織「イスラム国」(IS)もテロを繰り返している。
 
ハッカーニ・ネットワークはパキスタン北西部を拠点とする武装組織で、アフガン国内で外国公館や駐留外国軍を狙ったテロ攻撃を行っている。タリバンに忠誠を誓っており、指導者のシラジュディン・ハッカーニ師は2015年にタリバンの副指導者に選出された。

一方、アフガンに対する影響力を維持したいパキスタンのISIが戦略的に支援してきたとも言われている。
 
アフガンとパキスタンは近年、互いに相手国から越境テロが行われているとして非難している。5月には国境を挟んで治安部隊同士が銃撃戦となり、双方に死者が出る事態に発展した。
 
今回の爆弾テロではパキスタン大使館の職員も軽傷を負い、パキスタン外務省は「あらゆる形式のテロを非難する」との声明を出した。アフガン当局に批判されたことで反発を強める可能性がある。【6月1日 毎日】
*********************

上記記事にもあるように、アフガニスタンとパキスタンは5月5日に国境地帯で銃撃戦を行っており、両国で市民ら少なくとも計15人が死亡したとされています。

パキスタン軍などによると、国勢調査員を警備していた治安部隊が銃撃されたとしていますが、アフガニスタンの地元警察幹部は、パキスタン側から先に攻撃を受けたと主張、パキスタンが国勢調査を装って武装勢力を越境させていると指摘しています。

“両国の国境はタリバンなどの武装勢力が行き来しているとされ、互いに相手国からの「越境テロ」を非難している。昨年6月には別の国境地帯で両軍が衝突し、死傷者が出ている。”【5月6日 毎日】

その後も6月6日には、西部ヘラート州で爆発があり、少なくとも7人が死亡、16人が負傷しています。

タリバン支援をめぐり米ロ対立
冒頭【5月2日 WEDGE】にある、ロシアのタリバン支援に関しては、アメリカがロシアを非難、ロシアは関与を否定する形となっています。

****<アフガニスタン>米露が対立 タリバン支援疑惑巡り****
戦乱が続くアフガニスタンを巡り、米国とロシアが対立している。米軍幹部らはアフガン政府軍と戦闘を続ける旧支配勢力タリバンに対し、ロシアが支援していると主張。ロシアは疑惑を全面否定しているが、4月にアフガン情勢に関する国際会議を開くなど、独自にアフガンへの関与を強めている。シリア同様、米露の対立が深まれば、アフガン情勢はいっそう混迷を深める可能性がある。
 
「(ロシアによるタリバンへの)支援は昨年後半に始まった」。先月24日、駐留米軍のニコルソン司令官はカブールでの記者会見でこう語り、ロシアがタリバンに武器を供与しているとの疑惑についても「否定しない」と述べた。同席したマティス米国防長官も、明言は避けつつ「アフガンに武器を流入させることは国際法に反している」と指摘した。(中略)
 
一方、ロシア外務省は「でっちあげだ」と非難。タリバンも否定しており、真相は不明だ。
 
ただ、ロシアがアフガン情勢に関与を強めているのは事実だ。ロシアは先月14日、近隣諸国を集めてアフガン情勢に関する国際会議を主催した。ロシアが「和平協議の場を提供する」と提案し、タリバンとの和平で主導権を発揮する方針を明らかにした。
 
この会議には米国も招待されたが、出席を拒否している。
 
ロシアが関与を強める背景には、アフガン東部を拠点とする過激派組織「イスラム国」(IS)に対する懸念があると言われる。ロシアは昨年、タリバンに影響力を持つとされるパキスタンと初めて合同軍事演習を行うなど、冷戦時代に対立陣営だったパキスタンとも接近している。
 
ただ、ロシアは旧ソ連時代にアフガンへ侵攻した歴史があり、アフガン国内には不信感もある。またタリバンは米軍撤退を和平条件に掲げており、米国不在の交渉は実効性がないとの見方もある。(後略)【5月19日 毎日】
*********************

【「勝てていない」米軍 増派を検討か
一方、アフガニスタンに駐留する米軍も厳しい状況に置かれています。

現在アフガニスタンに駐留する米軍は約8400人。このほかNATO軍もアフガニスタン軍の訓練や顧問役として約5000人を同国に派遣しています。

しかし、敵は前方のタリバンやISだけではなく、指導しているはずのアフガニスタン兵士からも銃弾が飛んでくる状況です。

****アフガン特殊部隊員の銃撃で米兵3人死亡、タリバンの潜入員か****
アフガニスタン東部ナンガルハル州で10日、同国軍と米軍の合同作戦中にアフガニスタン軍の特殊部隊員が発砲し米兵3人が死亡、1人が負傷した。米アフガン双方の当局者が明らかにした。(中略)

事件については旧支配勢力タリバンがツイッターで犯行声明を出し、米兵を射殺したのはタリバンの潜入員だと主張している。(中略)

増える味方からの「内部攻撃」
米軍はアフガニスタンで同国軍と合同で過激派組織「イスラム国ホラサン(Islamic State Khorasan、ISIS-K)」の掃討作戦を展開している。ISIS-Kはイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の分派を名乗る国内の武装組織でイラクとシリアを拠点に攻撃を続けているが、アフガニスタンでは確実に拠点を失いつつある。
 
その一方でNATOでは最近、共に長期にわたって軍事作戦に臨んできたアフガニスタン兵が駐留軍兵士に銃を向ける「グリーン・オン・ブルー」と呼ばれる内部攻撃が大きな問題となっている。

欧米側の関係者らによれば、こうした内部攻撃は個人的な恨みや異文化間の誤解に起因するものがほとんどで、武装勢力の攻撃によるものは少ないという。【6月11日 AFP】
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オバマ前政権時代から、アフガニスタンだけでなくシリア・イラクでも、アメリカは大規模な軍隊を派遣する代わりに、「米国はまた戦争を始めた」との内外からの反発を避ける形で秘密裏に動ける特殊部隊を各地の紛争地域に送り込むようになっていますが、その分、特殊部隊にかかる「負担が過重になっているとの指摘があります。

「(人員が足りず)兵士たちは年に何度も派遣される状況に陥っています」(米統合特殊作戦軍(SOCOM:いわゆる特殊部隊)の司令官を務めるレイモンド・トーマス大将)

2017年現在、80か国以上で約8000人の特殊部隊が展開中とのことです。【5月31日 堀田 佳男氏 JB Press「悲鳴上げる米特殊部隊、激務で死亡者続出」】

こうしたアフガニスタンの状況について、「勝てていない」との認識を示しています。

****アフガン戦争「勝てていない」=来月中旬に新戦略策定―米国防長官****
マティス米国防長官は13日、上院軍事委員会での証言で「現時点ではアフガニスタンでの戦争に勝てていない」と述べ、7月中旬までに新たなアフガン戦略を策定する意向を示した。
 
マティス長官は反政府勢力タリバンについて、「勢力は増大している」と発言。共和党のマケイン委員長からの「政権誕生から約6カ月たっても新たなアフガン戦略を打ち出せていない」との批判に対し、「緊急性は理解しており、早急に策定する」と約束した。【6月14日 時事】 
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また、以前から米政権の外交・安保担当高官らがトランプ大統領に、アフガニスタンへの米部隊増派を含む軍事関与拡大を提案したと報じられていました。

こうした情勢判断や提案を受けて、トランプ大統領は実質的に増派につながる方針変更を行っています。

****米、アフガンへ数千人増派か トランプ氏が国防総省に権限****
ドナルド・トランプ米大統領が国防総省に対し、アフガニスタンに駐留する米軍部隊の規模を決める権限を与えたことが分かった。米当局者が13日明らかにした。数千人規模の増派につながる可能性がある。
 
当局者は匿名を条件に、ジェームズ・マティス)国防長官がアフガニスタンへの派兵規模を決定する権限を付与されたとの一連の報道を認めた。具体的な増派数は決まっていないという。
 
当局者は、イラクとシリアでのイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」掃討戦のためにトランプ大統領が承認した制度変更に言及し、ホワイトハウスは両国に関する措置と同じように「派兵規模を決める権限を国防長官に付与した」と説明した。
 
バラク・オバマ前政権下では、アフガン、イラク、シリアへの派兵規模はホワイトハウスによって厳密に管理されており、現場の指揮官らからこの制限が足かせとなっているとの不満が出ていた。
 
報道によれば、マティス国防長官は米軍と北大西洋条約機構(NATO)合わせて3000~5000人規模の増派を検討しているとされる。ただ、マティス氏本人はこの件についてほとんど言及していない。
 
アフガンに駐留するNATO軍を率いるジョン・ニコルソン司令官は2月、こう着状態にある戦況を打破するためには「数千人」の増派が必要だと訴えていた。【6月14日 AFP】
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NATOのストルテンベルグ事務総長も5月11日、アフガニスタンへの部隊増派の是非を検討していると明らかにし、「数週間以内に判断を下す」と見通しを示していますが、「戦闘任務に戻るのではなく、(アフガニスタン治安部隊への)訓練や支援を続ける」と強調しています。(5月11日 時事)

必要とされるドラスティックな枠組み転換
相次ぐテロを実行しているISは、勢力は小さくなっていると言われていますが、下記のような報道もあり実態はよくわかりません。

****IS、タリバン要衝制圧か=アフガン東部で勢力拡大****
アフガニスタン東部ナンガルハル州選出のザヒル下院議員は14日、過激派組織「イスラム国」(IS)が同州の山岳地帯トラボラをほぼ制圧したことを明らかにした。トラボラは反政府勢力タリバンの要衝で、アフガン東部でISの勢力拡大が続いていることが改めて浮き彫りになった。
 
ザヒル議員は「ISがトラボラの約8割、(州都ジャララバード南方の)チャパルハルの約9割を制圧した。首都カブールとジャララバードを結ぶ幹線道路の寸断を狙っている」と語った。

また、米軍が4月に同州のIS施設に大規模爆風爆弾(MOAB)を投下したことに関し、「外国軍は(投下で)ISが終わりを迎えつつあると言うが、根拠がない」と効果に疑問を呈した。【6月15日 時事】 
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国連のグテレス事務総長は14日、首都カブールを予告なしに訪問し、カブールの避難民キャンプを訪れ住民と対話しています。事務総長は「きょうは自分も断食している」と明かし、ラマダン(イスラム教の断食月)に当たり、アフガン人の大半を占めるイスラム教徒への共感を示したとも。【6月14日 時事】

断食で連帯・共感を示すのも結構ですが、共通の敵であるISに対し、政府軍・米軍とタリバンが停戦・共闘するといったドラスティックな枠組み転換を図らないと、事態はますます悪化しそうです。アメリカが多少増派しても“第2のシリア”の泥沼にはまるだけです。

あと、5月31日のカブールでの大規模テロにパキスタン・ISIが関与しているのかどうかは定かではありませんが、いつも言うようにタリバンを支援しているとされる(少なくとも大きな影響力を有する)パキスタンを何とかしないとアフガニスタンはいつまでも安定しません。

パキスタンは中国とも接近していますので、北朝鮮対策同様に、中国を巻き込む必要もあるのかも。

それと、ウズベク人の有力者でもあるドスタム副大統領が政敵に暴行を加えた疑惑が浮上し、国外に逃亡したとのでは・・・との噂もあるようですが、“ドスタム将軍”のような内戦の過去を引きずる人物が政権中枢にいるようではアフガニスタン政府のまともな統治は期待できません。
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カタール断交問題  独自外交のカタール それを許さない中東世界の現実 火をつけたトランプ外交

2017-06-14 23:48:33 | 中東情勢

(カタールの首都ドーハ【7月6日 TRT】 豊富な石油と天然ガスの富で、“国民は所得税がかからない。さらに、医療費、電気代、電話代が無料、大学を卒業すると一定の土地を無償で借りることができ、10年後には自分のものとなる。”【ウィキペディア】)

フェイクだか本物だかはともかく、カタールの独自外交を示した「タミム首長発言」】
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなどアラブ諸国が、同じ中東にあってやや独自の外交路線もとってきたカタールと国交を断絶した件については、6月7日ブログ「アメリカ・トランプ大統領の“軽すぎる”言動 独自の道を模索し始めた同盟国」で、簡単に二つの記事だけ紹介しました。

ひとつは、“小さなカタールがここまで目の敵にされる背景にはテロ支援などの他に、父を退けて首長の座を奪ったり、女性が自由に運転できる文化など、湾岸諸国の体制を危うくしかねない要素がある”【6月7日 Newsweek】という、そもそもサウジアラビアなどがカタールを疎ましく見ていた事情。

もうひとつは、今回騒動のきっかけとなったタミム首長の発言とされるものについて、“米CNNは6日、ロシアからのサイバー攻撃でカタールの国営通信がハッキングされ、偽のニュースが流された可能性があると伝えた”【6月7日 毎日】との報道。

後者の“ロシアからのサイバー攻撃”云々については、ロシアとして今騒ぎを起こしてなんのメリットがあるのだろうか?・・・とも思ったのですが、下記のような報道も。

****ロシアの雇われハッカーが暗躍、カタール断交、米にも事前に相談****
ペルシャ湾岸のカタールとサウジアラビアやエジプトなどとの対立は一段と激化してきた。断交の引き金になったカタール首長の発言はロシアのハッカーが暗躍してフェーク・ニュースに仕立てた疑いが濃厚になったほか、トランプ米大統領がサウジなどから事前に相談を受けていたことも分かり、陰謀の様相が一層深まっている。

フリーランスのプロ
この問題を追っている米ニューヨーク・タイムズによると、カタール政府からの依頼で捜査をしていた米連邦捜査局(FBI)や英国のサイバー・テロの専門家は、カタール国営通信QNAのハッキングがコンピューターに外部から侵入され、「バハムト」というフリーランスのロシア人ハッカー集団によって実行されたことをほぼ突き止めた、という。
 
タミム首長が5月23日に軍士官学校の卒業式で行ったとされる発言が断交の直接的な引き金とされてきたが、その発言自体が仕組まれたものであったことになり、カタール批判を強めるサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などがこのハッカー集団を極秘に雇ってハッキングさせた可能性も取り沙汰されている。
 
問題となったタミム首長発言は6月5日の真夜中過ぎにQNAのウエブサイトに掲載された。その内容は、カタールと米国が緊張した関係にあり、トランプ政権が短命かもしれないこと、パレスチナの原理主義組織ハマスの称賛、サウジと敵対するイランとの友好関係の推進など、GCCの一員としては驚くべきものだった。
 
ニュースの掲載からわずか20分後には、サウジのメディアなどで反カタール・キャンペーンが始まり、識者のインタビューを流す用意周到ぶりで、前もってカタールに対する断交の決定が準備されていたことをうかがわせている。
 
このロシアのハッキング集団はこれまでにもサイバー攻撃事件で再三にわたって浮上した組織。特定の人間を標的にしたフィッシング詐欺が得意なことで知られていたが、その実態は謎に包まれている。(後略)【6月12日 WEDGE】
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ロシア政府ではなく、誰かがハッカー集団を使ってサイバー攻撃を仕掛けた・・・というのなら、ありえる話かも。
そうなると、“誰か”というのはカタールに制裁を加えたいサウジアラビアなど・・・と思うのが自然な流れでもありますが、そもそも「バハムト」が関与した攻撃だったのかどうかは定かではありません。(FBIが断定したような記事ではありますが)

もっとも、フェイクだか本物だかはともかく、タミム首長が「ハマス」をパレスチナ人の正当な代表と指摘し、イランについても「湾岸地域の安定のための大国」と呼んだとされる「タミム首長発言」(5月23日に軍士官学校の卒業式で行ったとされる演説)について、上記記事は“GCCの一員としては驚くべきもの”と評していますが、これまでのカタールの外交、タミム首長の主張するところに沿った内容でもあり、本音を語った・・・とも考えられます。

トランプ氏が“短命大統領”であるとの見方(期待)は、ある程度世界に流布している考えでしょう。

強硬姿勢を崩さない双方 イランがカタールへ食料支援 「イラン包囲網」に亀裂
サウジアラビアなどの対応は強硬で、国交を断絶し、食料品などの輸出も停止することで、食料を輸入に頼るカタールを“兵糧攻め”にするもので、カタール市民の生活にも動揺が起きているとも報じられています。

しかし、カタールも、こうした圧力に抵抗する強硬姿勢を崩していません。
カタール・サウジアラビア等の双方が強硬な姿勢を崩さないなかで、長期化の様相も見せています。

****カタール強硬、収拾見えず=アラブの「イラン包囲網」亀裂****
サウジアラビアやエジプトを含むアラブ諸国が「テロ支援」やイランとの融和を理由に断交に踏み切ったカタールが、強硬姿勢を貫いている。

サウジなどはカタールに拠点を置くとされる個人や組織をテロリストに指定して締め付けを図るが、カタールは「事実無根。決して降伏しない」(ムハンマド外相)と反発。アラブ諸国が目指す「イラン包囲網」にも亀裂が生まれている。
 
カタールと断交した国は中東、アフリカなどの9カ国。いずれもアラブとの友好を重視し、サウジが強く働き掛けたとみられる。
 
断交の引き金となった「イランと敵対するのは賢明でない」とするカタール首長発言について、同政府は7日、「サイバー攻撃による偽ニュース」と断定した。

それでも、収拾に向かう兆しは全くない。潤沢な天然ガス収入を基に、カタールが中東で独自外交を進めることがアラブ諸国の不信感を増幅させ、ムスリム同胞団やハマスなどのイスラム組織への支援疑念も晴れないためだ。
 
各国はカタールとの陸海空の往来を停止し、地続きのサウジは国境を封鎖。ヒトやモノの行き来を止める「兵糧攻め」で、カタールの軟化を促したい考えだ。

しかし、イランでの報道によると、カタールはペルシャ湾を挟んで向き合うイランから、食料空輸の受け入れを開始。アラブ諸国の思惑とは裏腹に、関係縮小に追い込むはずのイランとの接近を招く結果となっている。【6月10日 時事】 
*****************

サウジアラビアが敵視し、今回騒動のもとにもなっている“アラブの敵イラン”からの食料供給を受け入れるというのは、サウジアラビアの反発をさらに強めそうです。サウジラビアは今回断交の理由として、カタールが過激派組織に加えて「イランの支援を受けてサウジやバーレーンで活動するテロ組織」を支援していると説明しています。

****カタール、イランから生鮮品空輸=両国の接近鮮明に****
国営イラン航空の当局者は11日、AFP通信に対し、サウジアラビアなどアラブ諸国が断交を表明したカタールに向け、野菜などの生鮮食料品の輸送を行ったことを明らかにした。1機当たり約90トンの食料を積んだ貨物機5機が既にカタールに飛んだという。
 
カタールは食料需要の8割を輸入に依存し、断交による貿易の停滞で市民生活への悪影響が懸念されている。当局者は「需要がある限り、輸送を続ける」と説明。1隻につき約350トンの野菜や果物を積載した船舶3隻も今後、イランを出港する予定。
  
カタールのムハンマド外相は10日、訪問先のロシアのメディアとのインタビューで「イランは隣国だ。われわれは前向きな関係を望んでいる」と指摘。断交を機に、アラブ諸国が反目するイランと接近する動きを鮮明にしている。【6月11日 時事】 
**********************

カタールにとって対岸の大国イランは、成長の源泉である天然ガスをシェアする重要な国です。“イラン憎し”でイラン包囲網を強化したいサウジアラビアとは立場が異なります。

“カタールの急速な経済成長を支える天然ガスのほとんどは、イランとシェアする沖合のガス田に眠っている。カタールはイランを上回る量の炭化水素資源を生産している手前、イランをへたに刺激したくないはずだ。”【6月8日 Newsweek】

イランとしては、この機にカタールとの関係を強化し、サウジアラビア主導の「イラン包囲網」にくさびを打ち込みたいところでしょう。そのための食糧援助なら安いものです。

“イラン航空の当局者は11日、航空機4便が野菜を含む食料をカタールに運んだと述べた。南部ファルス県当局者は「毎日カタールに果物や野菜など100トンを輸出する」としており、今後も食料空輸を継続する意向を示した。カタールの首都ドーハのイラン外交筋によると、小型船での物資輸送も行った。”【6月12日 産経】

トルコもカタール支援の姿勢
アラブ世界で孤立するカタールを支えるもう一つの国がトルコです。

****トルコ大統領、中東主要国のカタール孤立化を強く批判****
サウジアラビアなど中東の主要国が、テロを支援しているとしてカタールとの国交を断絶したことを巡り、トルコのエルドアン大統領は13日、カタールを孤立させることはイスラムの価値観に反し、「死刑宣告」に等しいとして、各国の対応を厳しく批判した。

大統領はアンカラで与党・公正発展党(AKP)のメンバーに対し「カタールを巡り極めて甚大な過ちが犯されている。どの地域であれ、国を孤立させることは非人道的でイスラムの価値観に反する。カタールに死刑判決を下したようなものだ」と述べた。

その上で「カタールはトルコとともに、テロ組織『イスラム国』に対し最も断固たる姿勢を示してきた」として、カタールを擁護した。

イラクのアバディ首相も13日、中東主要国の措置はカタールの指導者ではなく国民に困難をもたらしているとして非難した。

断交を受けてカタールでは食料などの輸入に影響が出ており、同国は食料や水の調達を巡りトルコやイランと協議している。【6月14日 ロイター】
******************

トルコはサウジアラビア、湾岸諸国とも良好な関係にありますが、エジプトの「ムスリム同胞団」やパレスチナの「ハマス」に協力的だという点ではカタールと似たような外交路線にあります。

“トルコとカタールの関係は近年強まっており、昨年にはトルコがカタール領内に軍事基地を置き、湾岸地域でのプレゼンスを保ってきた。”【6月7日 朝日】

上記記事にある13日のエルドアン大統領の発言は、かなりストレートなサウジアラビア批判のように思えます。

【“軍事オプション”はなくても“軍事クーデター”はあり得る?】
小国カタールとサウジアラビア・エジプト等では軍事力では比較にならない差がありますが、現段階では“軍事力行使はない”とされています。

****カタール断交、軍事オプションは含まれず=駐米UAE大使****
アラブ首長国連邦(UAE)のユセフ・オタイバ駐米大使は13日、カタール断交を巡るアラブ諸国の行動に軍事オプションは含まれていないと述べた。ただ、さらなる経済的圧力が加えられる可能性があるとした。

同大使はワシントンで記者団に対し「われわれが実行していることに軍事的要素は絶対にない」と述べた。【6月14日 ロイター】
*******************

直接の“軍事オプション”はないにしても、サウジアラビア側はカタールでの“軍事クーデター”を期待している・・・との観測もあるようです。

本来は速やかに仲介に動くはずのアメリカですが、仲介を試みるティラーソン国務長官に対し、トランプ大統領はカタール批判を行うなど、例によって方針が定まりません。

****カタール、テロ支援中止を=米大統領―国務長官は和解呼び掛け****
トランプ米大統領は9日、サウジアラビアなどが断交したカタールに対し、「テロ活動に資金を提供してきた」と名指しし、提供中止を求めた。ルーマニアのヨハニス大統領との共同記者会見で語った。
 
トランプ氏は連日、サウジやカタールなど当事国の首脳と電話会談し、双方の関係修復に意欲を示している。9日もエジプトのシシ大統領に電話し、アラブ諸国間の結束維持の重要性を改めて訴えた。

ただ、この日はカタールの「テロ支援」を批判するサウジ寄りの姿勢を強めており、仲介役を果たせるか不透明だ。
 
これに対し、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦でカタールとの協力関係を重視するティラーソン国務長官は声明で、カタールにテロ対策強化を求めるとともに、「カタール封鎖は国際的なビジネスに害を与え、IS掃討作戦を妨げる」と指摘。サウジやエジプトなどにカタールへの国境封鎖を緩和するよう訴え、双方に和解に向けた行動を促した。【6月10日 時事】 
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危ういバランスを崩したトランプ氏のサウジアラビア訪問
そもそも、今回騒動が起きた背景にはトランプ大統領のサウジアラビアを勢いづかせる発言があったとされています。

****カタール「二股外交」が岐路に****
事実上トランプがけしかけたアラブ主要国による対カタール断交宣言で中東はもっと不安定になる?

カタールは天然ガスの埋蔵量が世界第3位の立憲君主国。22年のサッカーW杯の開催地でもある。中東と中央アジアの一部を統括する米中央軍の基地があり、アメリカにとっては中東最大の軍事拠点だ。

サウジアラビアやUAEと同じように、カタールも国民の大多数がイスラム教スンニ派だ。サウジアラビアがイエメンで進めるシーア派武装勢カホーシー派の討伐作戦や、シリアのバシャル・アサド大統領の退陣を求める戦いにも参加してきた。
 
ではなぜ、突然断交することになったのか。
 
実はカタールはシーア派の国であるイランや、シーア派のイスラム武装組織であるレバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスと親しい関係を築いてきた。(中略)

カタールとスンニ派諸国の摩擦は、10年ほど前から続いてきた。それが急にエスカレートした一因は、ドナルドートランプ米大統領にあるのかもしれない。
 
トランプは先月サウジアラビアを訪問したとき、スンニ派諸国の会議で演説。スンニ派とシーア派の対立で、アメリカはスンニ派を支持する態度を明確にした。

どうやらトランプは、その発言が宗派抗争だけでなく、スンニ派内部の亀裂も悪化させる可能性があることに気が付かなかったようだ。
 
カタールが外交面で独自路線
を取ってきた背景には、国家元首タミム首長の意向がある。それを可能にしてきたのが、小さな国の莫大な富だ。(中略)

ところが近年、その戦略は迷走している。アラブの春が崩壊して、反体制運動はイスラム過激派に取って代わられたのに、カタールは他のスンニ派諸国が嫌悪し恐れているこうした過激な運動に資金提供し、メディアでの支援を続けたのだ。
 
また、サウジアラビアなどのスンニ派とイランのシーア派の対立が悪化するなか、カタールはイランに接近し続けた。

スンニ派諸国から見れば、タミムはスンニ派諸国の現体制を打倒し、自分の影響力を拡大しようとしているように見えた。
 
一方、シーア派諸国(と組織)も、カタールが米軍に拠点を提供し続け、イエメンにおけるホーシー派討伐を支援し続けることに対して、不信の目を向けるようになった。
 
「ガタールは中東の香港になろうとした」と、アラブ紙アルーハヤトのワシントン支局長ジョイスーカラムは語る。「もうそれは不可能だ」 

その流れを決定的にしたのが、トランプの登場だ。

クーデターヘの「期待」
バラク・オバマ前米大統領は、中東の宗派抗争に巻き込まれないよう、主要国全てに関係構築の窓を開いた。カタールとスンニ派諸国間の緊張の高まりについては、当事者同士で解決させるべく距離を置いた。
 
トランプのサウジアラビア訪問は、その危ういバランスを崩した。トランプの演説は、スンニ派諸国を勢いづかせ、イランとその「代理組織」に対して強硬な態度を取らせ、カタールとの断交に踏み切らせた。(中略)

サウジアラビアは、カタールに軍事政権の誕生を望んでいるようだ。ある新聞は、「(ガタールでは)過去46年間にクーデターが5回あった。6回目も遠くない」と書き立てた。
 
カタールはこうした圧力に屈して、シリアで活動するシーア派過激派組織への支援を大幅に縮小せざるを得ないだろうと、軍事情報サイト「ジェーン360」の記事は予想している。(中略)

長い目で見れば、今回の騒動がアラブ諸国にとってプラスに働く可能性はある。カタールが過激派勢力への支援をやめれば、ISISなどの掃討活動が急ピッチで進む可能性がある。
 
その一方で、カタールがスンニ派諸国と完全に共同歩調を取るようになれば、中東の宗派抗争は悪化する恐れがある。

その二股外交に賛否両論はあるが、カタールは一種の緩衝地帯となり、危機を沈静化し、人質解放を助ける役割を果たしてきた。
 
カタールが敵でも味方でもない「第3の国」という在り方を否定された今、中東全体をのみ込む戦争が起こる可能性は高まったと言えるだろう。【6月20日号 Newsweek日本語版】
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アメリカはいつから北朝鮮になったのか? 米史上最も醜悪な閣議

2017-06-13 21:36:47 | アメリカ

(米ホワイトハウスで開いた閣議で笑みを浮かべるドナルド・トランプ大統領(2017年6月12日撮影)。【6月13日 AFP】 )

スターリン主義を風刺した喜劇か、北朝鮮の指導者賛美か・・・
トランプ大統領については、これまでも批判的な視点からになりますが、何度もこのブログでも触れてきましたし、他に取り上げるべき重要な事柄が世界中で刻々と進行している状況にあって、トランプ大統領についてあまりくどくどと批判めいたことを言うのもいかがなものか・・・という感もあります。

ただ、今日TVニュースで観たトランプ政権の初閣議の様子はあまりに異様であり、これに触れずに他の話題でお茶を濁すのも・・・ということで、今日も“トランプ”です。すみません。

トランプ大統領がコミーFBI前長官に忠誠心を求めたとか、いや嘘だとかが問題にもなっていますが、大統領の長男であるドン・ジュニア氏はFOXニュースに登場し「父は、誰にでも忠誠を求めるんですよ」とも発言しています。

ジュニア氏の発言の意図は“企業経営者としても政治家としても「部下には忠誠心を求める」のがトランプ式だというわけで、「誰にでも求めるのだから、司法妨害のような深刻なものではない」と言いたかったのかもしれません。”【6月13日 冷泉彰彦氏 Newsweek】というものでしょう。

司法妨害かどうかはともかく、トランプ大統領が忠誠心を表立って表明することを部下に強要する人物であることは、初閣議の異様な光景を見れば一目瞭然です。

ニュース等で初閣議の様子を少しでもご覧になった方には説明の必要もありませんが、まだ観ておられない方のために、その様子を再現した記事を。

****まるで踏み絵!閣僚全員がトランプを礼賛 米史上最も醜悪な閣議**** 
<人に称賛されることを必要としているアメリカ大統領は、「思ってもない褒め言葉」でもご満悦。驚くのは、テレビカメラも回る前で、閣僚全員が真顔で褒めきったことだ>

昨日、ホワイトハウスで開かれたトランプ政権の初閣議では、テーブルを囲んだ閣僚たちが一人ずつ、アメリカを再び偉大にすると豪語する暴君ドナルド・トランプ大統領を、まるで踏み絵のように、居並ぶ記者やカメラの前で、べた褒めさせられる異様なものだった。

まるで旧ソ連のスターリン時代だ。なにより驚きだったのは、全員が真顔でやり切ったこと。その光景がどれほど異常か、当人たちが気づかなかったはずはないのだが。

終始ご満悦だったのはトランプ一人。トランプは、閣議の冒頭を自分が大好きなこと──自画自賛──から始めた。「大恐慌への対処に追われたフランクリン・ルーズベルト大統領など少数の例外を除き、かつてこれほど多くの法案を通過させ、多くのことを成し遂げた大統領はいなかった」と、トランプは切り出した。

その後一人ずつ指名された閣僚は、トランプを褒めるしかなくなった。

忠誠心が好きなトランプ
政治部の記者や専門家がすぐさま指摘した通り、トランプの発言は事実ではない。それにも関らず閣僚が次々とトランプを称賛した。政権発足から半年も経たないのに、まるで任期終了直前に成果をねぎらい合う最後の閣議のようだった。

いくらメディア向けの見世物だといっても、現代アメリカ史で、今回ほど大統領へのおべっかで埋めつくされた閣議は例がない。

米CNNのコメンテーター、クリス・シリザは「史上最も醜悪な閣議」と酷評し、そのコメントはすぐさまソーシャルメディアに拡散した。

知っての通り、トランプは忠誠心が大好きだ。だが、閣僚が一人残らずメディアの前で忠誠を誓う様子には、心底あきれかえった。スターリン主義を風刺した喜劇でも見ているようだ。

ただしこれは喜劇でなく、現在のアメリカ政治のリーダーシップそのものだ。

トランプ礼賛の口火を切ったのは、マイク・ペンス米副大統領だ。トランプと一緒に仕事ができることは「人生最大の名誉」だと言った。他の多くの閣僚もトランプに奉仕することの「名誉」や「誇り」を連発した。

ロシアとの接触をめぐりますます疑惑が募るジェフ・セッションズ米司法長官は、トランプ政権が犯罪者や法執行当局に対して「正しいメッセージ」を送っている、と持ち上げた。

続いてトランプと、アメリカのギャング集団MS-13を撲滅するという話で意気投合した。「奴ら全員を、すぐに排除できる見通しだ」と、トランプは言った。

アレクサンダー・アコスタ米労働長官は、トランプが「アメリカの労働者に奉仕」していると称賛したが、具体的にどう奉仕したのかには触れなかった。

リック・ペリー米エネルギー相が、アメリカが脱退を表明した地球温暖化の国際的枠組み「パリ協定」を「出来損ないの行政命令のようなもの」とこきおろすと、トランプは満足げな表情を浮かべた。

「あなたの姿勢に脱帽する」と、ペリーはトランプを称賛した。トランプがパリ協定離脱を表明した演説で、「私はピッツバーグのために選ばれたのであって、パリのためではない」と述べて国内産業の保護を優先する姿勢を鮮明にしたことを指したのだろう(ピッツバーグの市長はトランプの演説に反発し、独自にパリ協定の指針に従うと約束した)

助けを必要とする人々のためになれた
ミック・マルバニー米行政管理予算局長は、「トランプの指示のおかげ」で「本当に助けを必要とする人々のためになること」ができるようになったと謝意を伝えた。

マルバニーが3月に公表した2018会計年度の予算案の概要には、高齢者や身障者に食事を提供することで好評な連邦政府のプログラム「ミールズ・オン・ウィールズ」への歳出カットが含まれていたのだが。

「大統領選中に掲げた公約を着実に実行するあなたを支えるチャンスを得られて、私はわくわくしている」と言ったのは、ウィルバー・ロス米商務長官だ。そうした公約には、大多数の経済学者が疑問視する中国との貿易戦争も含まれている。

「先週のインフラ週間は素晴らしい1週間だった。運輸省まで足を運んでくださり感謝申し上げる」と礼を述べたのは、イレーン・チャオ米運輸長官だ。チャオは大統領就任式で聴衆の規模に執拗にこだわったトランプの性質を察するかのように、こう続けた。「大勢の参加者が興奮した様子で一堂に会し、式典を見守っていた」

インフラ週間は実態が乏しいという理由で散々な評判だった。しかも先週は、トランプに電撃解任されたジェームズ・コミーFBI前長官が米上院情報特別委員会の公聴会で証言することにすっかり話題をさらわれた。

だがトランプに対するおべっかでは、駐ギリシャ米大使としてもうすぐ左遷という噂があるラインス・プリーバス大統領首席補佐官の右に出るものはいなかった。

「大統領、あなたの周りにいる上級スタッフ全員を代表して、あなたの政策とアメリカ国民のために仕える機会と祝福を与えてくれたことに感謝申し上げる」とプリーバスは言った。

ソーシャルメディアで笑い者に
プリーバスと最もいい勝負で、近代アメリカ史上最も不人気な政権を大げさに褒めまくったのは、ソニー・パーデュー米農務長官だ。「私はミシシッピ州から戻ったばかりだが、あそこの人々は大統領が大好きだ」。それを聞いたトランプは、見るからに嬉しそうだった。

トランプに批判的なリベラル派は、当然のことながらソーシャルメディアでこれを嘲笑の的にした。米MSNBCのスティーブ・ベネンは「驚くほど気味が悪い」と切り捨てた。

民主党のチャールズ・シューマー米上院院内総務は、閣議でのトランプ礼賛を揶揄して、事務所の若手スタッフが自分を褒めちぎる芝居の動画を公開した。【6月13日 Newsweek】
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トランプ政権に加わっている面々が、基本的にトランプ大統領と主張が一致することは当然ではありますが、一人一人が臆面もなく歯の浮くような言葉でトランプ大統領の偉業をたたえ、一緒に仕事ができることを光栄に思う云々といった美辞麗句を並べ立て、トランプ大統領がそれを満足げに聞いている・・・・という光景、これが世界の動向に最も大きな影響力を有する人々であるということは、醜悪と言うか、喜劇的というか・・・唖然としました。

各人が内心どう思うにせよ、美辞麗句で褒めたたえないと、コミー氏のようにクビにされるのでしょうか。

上記記事では“スターリン主義を風刺した喜劇でも見ているようだ”と評していますが、個人的には北朝鮮の金氏に対する歯の浮くような賛辞のオンパレードを連想しました。

規制緩和に向けた動き
トランプ大統領が1兆ドルのインフラ投資計画における民間投資刺激のために規制緩和に乗り出すという話は一昨日ブログ「アメリカ  トランプ政権の「インフラ・ウイーク」 現実性が疑問視される“1兆ドルのインフラ投資計画”」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170611でも取り上げました。

****トランプ米政権、製造業関連規制の緩和計画を週内に発表****
トランプ米政権は今週、国内製造業の成長の妨げとなる規制を緩和する計画を明らかにする方針だ。環境許可や労働者の安全、労使関連の規則などに影響する可能性がある。政権関係者が明らかにした。

米商務省は、規制の合理化や製造業者の負担軽減に向けた措置について3カ月以上にわたり調査や業界との意見交換を実施し、提言をまとめた。

報告書の内容について知る政権関係者によると、環境保護局(EPA)の複雑な認可ルールが焦点となる見込みだ。

この関係者によれば、報告書では企業や業界団体から出された意見を分析し、「多くの問題を指摘した上で責任ある措置をとる方法を提示」する。オバマ前政権が決定した多くの規制を検討対象としているという。

トランプ大統領は、完全に実施されていないオバマ政権時代の環境規制の一部を撤回する措置を既にとっているが、商務省がまとめた提言では法制化済みのルールも見直しの対象となる可能性がある。【6月12日 ロイター】
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そうした規制緩和の流れのひとつ。

****米内務長官、ユタ州国定記念物の指定範囲縮小を提言****
ジンキ米内務長官は12日、「ナショナル・モニュメント」(国定記念物)として指定されているユタ州ベアーズ・イヤーズ地域について、指定範囲を縮小するようトランプ大統領に提言したことを明らかにした。鉱業業界は歓迎する一方、環境保護団体からは非難の声が上がっている。

5463平方キロに及ぶベアーズ・イヤーズ地域はオバマ前大統領が任期終盤に国定記念物として指定。27ある国定記念物のうち、連邦政府所有地の開発拡大を計画するトランプ政権が指定を見直すのは初めて。

ジンキ内務長官は記者団とのテレカンファレンスの中で、4日間にわたってユタ州を視察した上で、10日に大統領に暫定的な提言書を送付したと明らかにした。(後略)【6月13日 ロイター】
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確かにアメリカの国立公園、それに類するエリアというのは非常に広く、アメリカを旅行した際にも「こんなに広い保護区を設定して、人々の生活・産業に支障はでないのだろうか?」という素朴な疑問も感じましたので、問題意識自体は間違いではないでしょう。

検討・決定する人々の意識が心配なだけです。

世界が付き合わされる“裸の王様”】
アメリカはいつまで初閣議に見られるような“裸の王様”を続けるつもりなのでしょう?

****<米・州政府など>「利益相反」トランプ大統領を提訴へ****
 ◇首都ワシントンとメリーランド州が「憲法の報酬条項違反」と
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は11日、トランプ大統領が家族の手がけるホテル業などを通じ、外国政府から利益を受けていることは合衆国憲法の「報酬条項」に違反するとして、首都ワシントンと、隣接するメリーランド州の両政府が12日に連邦裁判所に提訴すると報じた。

トランプ政権は入国禁止令を巡り地方政府と係争中だが、大統領としての国益追求とビジネス上の利害が対立する「利益相反」を巡り、新たな司法闘争を抱える可能性がある。
 
同様の訴訟は1月にワシントンの市民団体が起こしているが、地方政府による提訴は初めて。

ポスト紙によると、サウジアラビア政府はトランプ氏就任後、複数回にわたり市内のトランプ・インターナショナル・ホテルの客室を確保。在米クウェート大使館は当初別のホテルで予定していたイベントを同ホテルで開催した。昨年9月にオープンした同ホテルは、外国政府関係者らがトランプ政権の好意を得ようとして利用する可能性があり、政治倫理上の問題が指摘されてきた。
 
同ホテルの事業はトランプ氏の大統領就任後、長男に引き継がれたが、原告側はトランプ氏がホテルを含む一族のビジネスについて定期的に報告を受け、所有権も手放していないと指摘。宿泊費などの形でトランプ氏側が収入を受け取ることが、米政府当局者が外国から報酬を受け取ることを禁じた憲法の報酬条項に違反する一例だと主張する。
 
トランプ氏は就任前に携わってきた計150に上るとされる事業を長男らに引き継ぎ「経営から完全に離れる」(顧問弁護士)と説明してきたが、確定申告書の公表は拒否している。原告側には訴訟を通じて大統領の確定申告書開示を促す狙いもある。【6月12日 毎日】
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ただ、現実政治の枠組みにおいては、現職大統領の疑惑追及はなかなか困難です。

****ロシアゲート疑惑】トランプ氏ひとまず逃げ切り? 「圧力」証言のコミー氏、動機に疑問****
コミー前FBI長官の議会証言で新事実が明らかにならなかったことで、トランプ大統領はひとまず逃げ切りに成功した形だ。

逆に、トランプ氏との会話記録をメディアにリーク(情報漏洩)したことをコミー氏が明らかにしたことは、自らが標榜してきたFBIの「独立性」や、トランプ氏追及の動機を疑わせることになった。

コミー氏は公聴会で、前日に提出していた準備書面に沿って証言した。トランプ氏がフリン氏の捜査中止を求めて圧力をかけた問題が司法妨害に当たるかどうかは、疑惑の捜査に当たっているモラー特別検察官の判断に委ねるとした。(中略)

モラー氏の捜査では、トランプ氏の行為が司法妨害とされるかが焦点。ニクソン、クリントン両元大統領への弾劾の動きも司法妨害が要因となっている。だが、与党・共和党はコミー氏の情報漏洩を問題視しており、トランプ氏弾劾の機運は広がりを欠いている。【6月9日 産経】
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しばらく世界は、“将軍様”だか“裸の王様”だかと付き合っていかなければいけないようです。
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カナダ  移民・難民受け入れに比較的寛容なイメージに関するあれこれ

2017-06-12 22:12:27 | 難民・移民

(リッチモンド公衆市場【JUNGLE CITY.COM】https://www.junglecity.com/enjoy/travel-short-trip/vancouver-and-richmond-canada/
“Chef Liu Kitchen の台湾ヌードルと、Peanuts のバブルティーがオススメ!”とか。
“香港系移民によって本国をも凌ぐ一大グルメ・タウンに発展したリッチモンドですが、近年は本土や台湾からの移民が増え、さらに飲食店が充実”とのことで、車で3時間程度のアメリカ・シアトルからも日帰りできるとあって、多くの人々を引き寄せているようです。)

地域によって偏る移民
移民・難民受け入れに比較的寛容なイメージもあるカナダですが、西海岸のブリティッシュコロンビア州南西部、バンクーバーに隣接するリッチモンド(人口は約19万人)では人口の半分を中国系移民が占め、地元住民の反発を招いているとか。

****カナダにあふれる中国語の看板、中国系住民の急増に不満高まる****
2017年6月9日、中国メディア・紅星新聞によると、カナダのリッチモンド市がチャイナタウンと化しており、街にあふれる中国語の看板に現地住民が不満を募らせている。

チャイナタウンは世界各地にあるが、街の一角や数本の道であることがほとんど。しかし、カナダのリッチモンド市は街全体がチャイナタウン状態となっている。住民の半数を中国系が占めている。

中国系住民の増加により、街には中国語の看板が目立つようになった。元から住んでいた人々の間では読むことのできない中国語看板が増えていることに不満が高まっており、議会では中国系店舗の看板の半分を英語にするよう求める動きも出ている。【6月11日 Record China】
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リッチモンドは人口は185,400人(2008年)。“移民人口の多いことで知られ、全人口の57.4%を移民がしめ、これはカナダ全都市中最高率である。特に近年は富裕な香港中国人の移民が増加し、市人口の45%が中国系である。市中心部には中国系のための巨大ショッピング・モールが複数あり、観光名所となっている。”【日本カナダ学会HP】

リッチモンドに関するこの種の記事は数年前からあり、“日本もやがてカナダのように中国人に乗っ取られてしまうぞ!”的な中国嫌いの人々が取り上げる格好の対象にもなっていますが、カナダ全国で見た場合、中国人移民が突出している訳でもなく、「HAPPY BANANA’S BLOG」によれば、2015年移民者のうち最も多いのがフィリピン人(年間約5万人)、次がインド人(約4万人)で、中国人は3位の約2万人となっています。

蛇足ながら、イラン、パキスタン、シリアからも各1万人程度の移民を受け入れています。

ただ、地域・都市によって移民出身国の偏りがあり、カナダ最大都市トロントのあるオンタリオ州ではインド人が多い、フランス語圏のケベック州ではフランス、アルジェリア、モロッコなど、フランス語が公用語として話す国が多いといった特徴があり、リッチモンドなどブリティッシュコロンビア州では中国人などアジア系が多くなっているようです。【上記グラフを含め2016年11月21日「HAPPY BANANA’S BLOG」http://happybanana.info/?p=8209より】

異国での生活の不便・不安感から、同国出身者が多い地域に引き寄せられるという側面があり、日本でも特定の国の出身者が多い“〇〇タウン”と呼ばれる地域もあります。

ただ、社会への同化という面でみると、そういう現象は同化を阻むことにもつながり、文化・風習などで地域住民との摩擦も大きくなりますので、移民を受け入れる場合、政策的に特定地域に集中しないように誘導する配慮が必要ではないでしょうか。

資産家よりも人材を
中国人移民の場合、富裕層が高額の投資をする見返りに永住権を獲得する・・・というイメージもありますが、そのあたりも近年は変わってきているようです。

****中国人移民はお断り?!カナダやオーストラリアなど人気移民先が方針転換―中国****
2016年8月1日、起点は記事「“中国人を歓迎せず”と宣言?!四大移民大国がそろって態度変更」を掲載した。

カナダ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド。中国人の移民先として人気を集めてきた4カ国だが、ここ数年、移民政策の厳格化や反中感情の高まりにより、中国人にとって移民が難しくなりつつある。いったい何が起きているのだろうか?各国の事情を見ていこう。

まずカナダだが、2012年に投資移民という資格そのものを取り消した。今後は高度な人材の移民を中心に受け入れることになる。資産家よりも人材を受け入れたいという狙いだ。(後略)【2016年8月14日 Record china】
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社会には人種差別的な摩擦も
“カナダの警官がほほ笑みながら、アメリカ国境を越えようとする難民の女の子を抱き上げる”といった写真などから、先述のようにカナダは移民・難民受け入れに比較的寛容なイメージがあります。

実際、なんだかんだ言っても、移民・難民に門戸を閉ざしている日本などより遥かに寛容なのでしょうが、ただやはり、市民生活にあっては異文化が惹起するトラブル・摩擦もあるようです。

****英語できないなら中国に帰れ!」=女性が中国系店員を罵倒―カナダ****
2017年6月5日、看看新聞は、カナダの市場で女性が中国系店員に「中国へ帰れ」など罵声を浴びせ掛けるトラブルがあったことを伝えた。

記事は、英紙デイリー・メールの報道を紹介。トラブルは今月2日にカナダのFoodymartという市場で発生した。その一部始終を記録した動画には、車いすの女性が中国系の店にやって来て、英語が通じないことを理由に腹を立て、何度も「中国に帰れ」といった暴言を浴びせる様子が映っている。

動画を撮影した中国系住民のFrank Hongさんは「女性は店に来て、英語ができる人がいるか聞いた。だが、一向に何を買いに来たのかを言わなかったので、言いがかりをつけに来たのだと感じた」と話す。

Hongさんによると、店のマネジャーがやって来て「店員全員が英語を話せる訳ではありません」と理解を求めたが、女性は「だったらあんたらは中国に帰れ、中国に帰れ」と返答。

女性はさらに、「ここはカナダだ、英語とフランス語の国だ、英語ができなければ働けないと法律で決まっている」とまくし立てたそうだ。女性の「中国に帰れ」という発言に、そばにいた男性が笑う一幕もあったという。

この様子を見ていた客が通訳を買って出ようとしたが、女性は「法律で決まっているんだ!」の一点張り。だが最終的には、女性は別の華人客の助けを受けながらオーダーをしたとのことである。

Hongさんは「中国系カナダ人として、深い驚きと怒りを覚える。この女性の行動を世界に見せることで、自分たちを含めたみんなの人種差別に対する意識を高められたら」と語っている。【6月7日 Record China】
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必ずしもリベラルイメージどおりでもないカナダ政府
カナダ政府についても、トゥルドー首相のイメージも手伝ってトランプ大統領とは対照的にリベラル・寛容のイメージがありますが、実際はそうでもない・・・・という指摘もあります。

****カナダ首相は「反トランプ」という幻想****
<トゥルドーはイメージ通り自由世界の旗手なのか? カナダ人ジャーナリストが明かす真の姿>

若くて感受性豊か、フェミニストで環境保護論者。筆者の母国カナダのジャスティン・トゥルドー首相は、ドナルド・トランプ米大統領とは真逆のイメージを振りまいている。波打つナチュラルヘアも好対照だ。

首相の好感度は国の好感度につながる。ポピュリズムとは無縁の進歩的な安息の地――こんなイメージをカナダは獲得しつつある。

英エコノミスト誌は昨秋、カナダを象徴するカエデの葉の冠をかぶった自由の女神像を表紙にした。CNNは今や「カナディアン・ドリーム」の時代ではないかと問い、ニューヨーク・タイムズ紙は、カナダは自由世界の新しいリーダーだと書いた。

トランプの勝利に打ちのめされたアメリカのリベラル派は、トゥルドーとカナダに理想の姿を求めている。しかしそれは幻想にすぎない。カナダはアメリカに対抗するのではなく、アメリカを模倣する国なのだ。

アメリカで何かがあると、その数年後にカナダで似たような現象が(より生ぬるい形で)起こる。アメリカでは09年、変革を求める国民がオバマ政権を誕生させた。カナダも15年、首相を古くさい保守派のスティーブン・ハーパーから、若い中道派のトゥルドーに交代させた。

幻想は現実を見えなくする。トランプが最初の入国停止の大統領令を出した直後、アメリカに拒否された難民の受け入れをトゥルドーが明言した、と米メディアは報じた。

でも実際は、トゥルドーの曖昧なツイートを都合よく解釈しただけ。いわく「迫害、テロや戦争から逃れる人々へ。信仰にかかわらず、カナダ国民はあなた方を歓迎します。多様性は私たちの力です」。

このニュースが収まった頃、トゥルドー政権は難民政策に変化はないとこっそり釈明した。アメリカで難民認定されずカナダに亡命受け入れを求めた者も、従来どおり出身国に送還するとのことだ。

カナダの警官がほほ笑みながら、アメリカ国境を越えようとする難民の女の子を抱き上げる写真を見たことがあるだろう。感動的だが、直後に子供と両親が逮捕される写真はあまり知られていない。米カ両国は現在、共同で難民流入を阻止している。

メディアもイメージづくりに協力する。今年2月の訪米時、トゥルドーがトランプの差し出した手に不快感を見せるような写真が拡散した。実際はすぐ後に力強く握手し、がっちりハグし合ったのだが。

トゥルドーは、オバマ政権が却下したカナダからメキシコ湾岸に原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン計画」の交渉を進め、4月に米軍がシリアをミサイル攻撃した際も全面的な支持を表明した。

アメリカのメディアがトゥルドーは反トランプだと持ち上げる一方、カナダのメディアはトランプのメンツをつぶさずうまく立ち回っていると評価する。

小心者のカナダ人はどんな状況でも、隣の大国とうまくやりたいのだ。でも従順でいるだけでなく、いつか「カナダのトランプ」が生まれる可能性もある。

5月末の野党・保守党党首選で有力候補だったのはTV司会者で大富豪のケビン・オリアリー。4月末に選挙戦から降りたが、首相候補として再登場しないとも限らない。だってカナダはアメリカ追従だから......。【5月19日 Newsweek】
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社会の人種差別的風潮にしろ、政府のイメージとは異なる側面にしても、まあ、現実はそんなものでしょう。
そのようなイメージとは異なる側面ももちろんあるし、一方で、そうは言ってもイメージどおりのような側面もまた現実にある程度存在する・・・といったところでしょう。
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アメリカ  トランプ政権の「インフラ・ウイーク」 現実性が疑問視される“1兆ドルのインフラ投資計画”

2017-06-11 23:31:16 | アメリカ

(2007年に崩落したミネソタ州ミネアポリスの高速道路橋【6月6日号 Newsweek 日本語版】 アメリカ運輸省は10年以上前の1990年に構造的な問題を指摘していました。)

【「1日で組める鉄筋の量」を知る大統領が知るべきこと
アメリカの多くのインフラが老朽化しており、早急・大規模な対応が必要とされていることは2013年12月13日ブログ「アメリカ 進むインフラ劣化 財政難の要因に“節税の進化”」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131213でも取り上げました。
インフラ劣化による大規模事故・災害危険も相次いでいます。

****************
07年にはミネソタ州ミネアポリスで州間高速道路の橋が崩落し、9人の死者が出た。今年2月にはカリフォルニア州のオロビルダムが決壊寸前になった。補修は明らかに急務だ。
 
ワシントンのアーリントン・メモリアル橋は大幅な修理が必要だし、ニュージャージー州の鉄道橋ポータル橋は開通から107年がたち、一部には木が使われている。

ASCE(アメリカ土木学会)によれば、構造に欠陥のある橋は全米で6万本に上る。【6月6日号 Newsweek 日本語版「トランプは崩壊インフラを救えるか」】
*****************

そのASCE(アメリカ土木学会)は先ごろ“4年ごとのインフラ「成績評価」を発表し、現状を「Dプラス」と判定した上で、この評価を適切な「B」にまで引き上げるには4.6兆ドルほどかかるだろうと指摘した”【同上】とも。

そういう現状にありますので、トランプ大統領は大統領選挙出馬表明のときから大規模インフラ投資を約束していました。

しかし、具体的な計画は示されず、“2月末の上下両院合同本会議での施政方針演説でも、1兆ドルのインフラ投資計画を口にしただけで、政府がどれだけ金を出すのかも、どれだけの減税で民間によるインフラ投資を刺激するのかも明らかにしなかった。”【同上】

また、注目された予算案でも“インフラ関連の1兆ドルという数字は見当たらなかった。 予算案に盛り込まれたインフラ関連の支出額は現行よりも少なく、コミュニティー開発包括補助金といった生活環境改善プログラムの予算は大幅に削減されていた。”【同上】ということで、「(インフラ投資)法案はどこにあるのか?」(民主党のナン
シー・ペロシ下院院内総務)といった批判・疑問が出されていました。

ここにきて、ようやくトランプ政権のインフラ整備対策がわずかながら出てきました。トランプ大統領は先週を「インフラ・ウイーク」と位置づけていたとか。

トランプ米大統領は6月5日、アメリカ国内の空港の航空管制業務を民営化する計画を発表。この計画により、管制システムが近代化され、遅延などの問題を軽減できるとしています。

しかし、実現性については疑問も。

****トランプ氏の航空管制民営化案、実現は望み薄か****
トランプ米大統領が発表した航空管制システムの改革案には、トランプ氏らしからぬ具体的な方策が盛り込まれた。内容は2000語余りに及び、簡略だった4月の税制改革案とは見違えるほどだ。永続的な問題に対する賢明な解決策にもなっている。

しかし、この案でさえ実現は困難とみられ、もっと曖昧な政策に至っては推して知るべしだろう。

多くの米国の航空交通技術は時代遅れで、過密状態や遅延を悪化させている。連邦航空局(FAA)による現状の運営と設備更新は、税金と料金徴収を組み合わせて賄われている。多くの先進国は航空管制業務を分離し、自主的な運営と資金調達を可能にしている。

カナダは1996年、ナブ・カナダと呼ばれる非営利会社に航空管制業務を移管した。航空会社や労働組合、政府などの利害関係者からなる取締役会によって経営されている。トランプ氏の政権チームが具体的な提案を行えたのは、この実例によるところが大きい。提案はまた、下院運輸経済基盤委員会のビル・シュスター委員長が昨年出した法案にも立脚している。

非営利モデルにすれば、納税者が負担する必要はなくなる上、航空交通に対する責任の所在を明確にし得る。新会社は必要とされる技術開発投資の費用を賄うために、資金を借り入れることも可能となる。また、営利企業に利益が吸い取られるのではないかという、インフラ民営化に付きものの懸念も払拭できる。

これらは全て理にかなっており、現状は誰にとっても受け入れがたい。しかし、だからといってこの計画が具体化するということを意味しない。

トランプ氏の計画はシュスター案に比べ、非営利会社の取締役会に送り込む航空会社の代表が少ないため、航空会社の抵抗も予想される。

民主党議員らは、航空の安全と併せ、連邦政府職員ではなくなる従業員の保護について懸念を示している。

一方、地方空港や非商業便の運営者はアクセス減少や費用上昇を恐れている。カナダが非営利方式に移行してこのかた議論が続いてきたにもかかわらず、米国でいまだに何も進展していないのには理由があるのだ。

トランプ氏は他のインフラに関する発表も今週行う。多くは明確なものではないだろう。うわべだけはアピールするかもしれないが、詳細抜きでは明快な支持を得られないし、反対論の噴出も避けられない。航空交通ですら離陸できないのなら、他の提案はゲートで止まったままかもしれない。【6月6日 ロイター】
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7日には、インフラ投資計画全体に関する発表もありました。

****インフラ投資で「米国再建」=目玉政策アピール-トランプ氏****
トランプ米大統領は7日、訪問先の中西部オハイオ州シンシナティで演説し、公約に掲げるインフラ投資で「米国を再建する」と表明した。

ロシアとの関係をめぐる捜査介入疑惑で逆風が強まる中、経済成長と雇用拡大に向け、目玉政策を改めてアピールした。
 
トランプ氏は、道路や橋、水路などへの投資が不足してきた結果、「米国のインフラは朽ち続けている」と警告。「国民は世界で最高のインフラを持つべきだ」と訴え、雇用創出や税制改革によりインフラ整備を進めると宣言した。
 
政権は、公約に掲げた10年間で1兆ドル(約110兆円)のインフラ投資を実現するため、計2000億ドルの政府予算を投じて8000億ドル規模の民間投資を引き出す計画。

トランプ氏は「(サンフランシスコの観光名所)ゴールデンゲートブリッジ(金門橋)は4年で完成した」と語り、短期間でインフラ整備ができるよう民間投資を後押しすると表明した。 
 
ただトランプ氏は、ロシア疑惑などをめぐりメディアや野党から集中砲火を浴びており、政権運営能力が不安視されている。議会の協力が不可欠な公約の実現は見通せない。【6月8日 時事】
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一応“計2000億ドルの政府予算を投じて8000億ドル規模の民間投資を引き出す”という数字・方向性は出されましたが、2000億ドル(22兆円)もの財源をどうするのかを含めて、詳しい計画内容はよくわかりません。

“翌日に迫った連邦捜査局(FBI)のコミー前長官の議会証言を前に、支持層である白人労働者が多い「ラストベルト」(さび付いた工業地帯)で目玉政策をアピールし、国民の批判をかわす狙いもありそうだ。”【6月8日 朝日】といった対応で、差し迫ったアメリカのインフラ危機を打開できるのか、はなはだ疑問です。

特に、インフラ投資は財源手当のための議会承認が必要で、“弾劾”の声すら上がっているトランプ大統領では議会の協力を得ることは絶望的です。

インフラ事業が議会対立の標的となるのは以前から話で、オバマ前大統領が09年に成立させたアメリカ再生再投資計画(ARRP)も、共和党が縮小を求めなければ、整備の財源はもっと増えていたはずです。

共和党・民主党の対立だけでなく、政府による公共投資支出には、小さな政府を目指す共和党保守強硬派も抵抗しそうです。

民間投資をインフラ事業に呼び込むためには減税策が併用されるのではないかと思いますが、そのあたりの具体策はまだ明らかにされていません。誰が得をする減税かで議会審議は揉めるでしょう。

*******************
トランプは建設業界で財を成した男。インフラ整備についてもなにがしかの知識はあろう。4月には建設労働組合の会合で、こう自慢していた。「1日で組める鉄筋の量を知っている大統領の登場なんて、想像したことあるか?」
 
たぶん、ない。だがインフラ整備の財源論さえ固まらない現状を見ると、トランプが大統領として知るべきことはほかにあると言わざるを得ない。【前出6月6日号 Newsweek日本語版】
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規制緩和が惹起する問題
政府投資によらないインフラ事業促進対策として、認可プロセスを加速させる取り組みも発表されています。

****トランプ氏、インフラ案件認可プロセス加速へ****
トランプ米大統領は9日、看板政策として掲げる1兆ドル規模のインフラ整備計画の一環で、高速道路建設などの一連のプロジェクトの認可プロセスを加速させる新たな取り組みを発表した。

トランプ大統領は「驚くほど緩慢かつコストや時間のかかる認可プロセスが、必要に迫られたインフラ刷新における最大の足かせのひとつになっている」と強調。ホワイトハウスが「大規模な認可プロセス改革」を進め、インフラ整備のプロジェクト担当者を支援する諮問委員会を新設する方針を明らかにした。

同諮問委員会は、認可プロセスをオンライン上で確認できるデータベースを構築し、透明性の向上を目指すとともに、期限を守れず、常時プロジェクトを遅延させる連邦政府機関に対しては、新たに導入する厳格なペナルティを課す。大統領は「お役所にしっかりと責任を負わせる」と言明した。

また、非効率性を洗い出し、連邦・州・地方政府の手続きを簡素化し、時代遅れの連邦規制にとらわれずインフラ整備を進めていく環境を整えるとした。

トランプ大統領は「(サンフランシスコの)ゴールデン・ゲート・ブリッジの建設にかかった時間は4年、(ネバダ州の)フーバーダムは5年だ。現在、主要インフラ建設の承認獲得に10年の時間がかかる状況だ」と語った。【6月10日 ロイター】
******************

もちろん効率化は重要ですが、環境アセスメント的な必要な事前審議も省略・簡素化されるという話になると、また別の問題を生みます。

もとより人権とか環境とかには関心がないトランプ大統領の頭の中には、地域住民を強制的に立ち退かせ、環境破壊もいとわず、急速に高速鉄道網を拡大する中国の対応のようなものが“理想的なもの”としてあるのではないでしょうか?

政府の公的資金をなるべく使わずに民間投資を活用する方策としては、上記の認可プロセスの簡略化のほか、いわゆる規制緩和があります。

減税や規制緩和による民間投資活用がトランプ政権の基本的な方向性になると思われますが、公共投資関連ではありませんが、非常に懸念される案件もすでに出ています。

****紛争鉱物の規制を撤廃? アメリカの強欲がアフリカで新たな虐殺を生む****
<アフリカで武装勢力の資金源になっている鉱物資源の売買を規制する決まりがなくなれば、最悪の紛争が帰ってくるかもしれない>

中部アフリカ諸国で産出され、武装勢力の資金源になっている「紛争鉱物」を規制する国際社会の動きに逆行しようとしている国がある。ドナルド・トランプ大統領のアメリカだ。

もし米政府が企業に紛争鉱物の売買を規制する現行の法律を廃止すれば、アフリカ中部の資源国で紛争や汚職が拡大する恐れがあると、米上院議員や人権団体は警鐘を鳴らしている。

2010年にバラク・オバマ前米大統領の政権下で成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)に定められた紛争鉱物の条項は、米企業が製造した製品にコンゴ民主共和国(旧ザイール)で調達した紛争鉱物が含まれているか否かについて、企業側に開示義務を課す。

中部アフリカ諸国には、希少で高付加価値の鉱物が豊富に眠っている。国連の推計によれば、そうした鉱物の埋蔵量は24兆ドル相当に上る。

1998〜2003年におびただしい数の住民が犠牲になった第2次コンゴ紛争も、主戦場となったコンゴ東部はスマートフォンやパソコンなどの電子機器に使われる希少金属タンタルを含む鉱石コルタンの産地だった。

資源があっても荒廃したまま
米証券取引委員会(SEC)のマイケル・ピオワー委員長代行は今年4月、コンゴや周辺諸国で採掘や調達した紛争鉱物を、米企業が自社製品に使用していないことを調査・報告する義務はもう課さないと表明した。(中略)

コンゴでは、世界で最も多い200万人の労働者が鉱山で働く。だがいくら天然資源に恵まれても、経済成長には結びついていない。国連開発計画が発表した2016年度の人間開発指数(HDI)で、コンゴは188カ国中176位だった。数百万人の国民が20年以上続く紛争で故郷を追われ、全土が絶対的なインフラ不足に苦しんでいるのもその一因だ。

1998年に始まった第2次コンゴ紛争は、隣国のルワンダとウガンダの支援を受けたコンゴ東部の反政府武装勢力が、首都キンシャサで政権転覆を図ったことから勃発。周辺国を巻き込む民族対立で事態が紛争に発展。第2次大戦後に起きた戦争で最悪の540万人以上の死者を出し、「アフリカの世界大戦」と呼ばれた。

当時、紛争で武装勢力の資金源になったのが、コンゴ東部で産出される紛争鉱物だ。(中略)

トランプ好みの規制緩和
アメリカが紛争鉱物の流通規制を敷いたことにより、「採掘現場で武装勢力の活動が激減し、武力行使に及ぶ能力を大幅に後退」させる効果があったと、東コンゴのゴマに本部があるコンゴの人権団体、反奴隷シビル・ソサエティ連合協会の会長を務めるレオナルド・ビエールはAP通信に語った。

SECと同様、共和党は金融規制改革法を抜本的に見直す構え。そうなれば、紛争鉱物に関する規制そのものが撤廃されるだろう。産業の規制緩和に熱心なトランプの、満面の笑みが目に浮かぶようだ。【6月9日 Newsweek】
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“紛争鉱物”に関する米証券取引委員会(SEC)及びトランプ政権の対応については、以下にのようにも。

****SEC、ドッド・フランク法の「紛争鉱物ルール」見直しを指示 ****
・・・・紛争鉱物ルールでは、企業に対して自社製品に紛争鉱物が含まれているかを調査する義務を課し、調査内容の簡潔な説明と結果を証券取引委員会に報告するとともに自社HP上で開示することも義務化した。

さらに、製品に「コンフリクト・フリー」「コンフリクト・フリーとは判定されなかった」「コンフリクト・フリーか否か判定不能」のいずれかを製品を記載することも義務付けた。

しかし、証券取引委員会への初回報告期限であった2014年5月末の直前の4月に、コロンビア特別区(ワシントンD.C.)連邦巡回区控訴裁判所は「コンフリクト・フリーとは判定されなかった」との記載義務が、米国憲法修正第1条が保障する「言論の自由」に違反しているとの判決を下したのだ。

一方、それ以外の調査義務、報告義務などは正当とした。この判決を受け、紛争鉱物ルールそのものに反対する産業界等は、紛争鉱物ルールそのものの廃止も裁判所に要求したが、その訴えはすでに棄却されている。
 
マイケル・ピウワー委員長代行は、紛争鉱物ルール見直しの背景について、アフリカ産鉱物全体の不買運動など法律が意図しない結果を生んでいることや、義務化されたデューデリジェンスの実施や情報開示が企業コストを生じさせていること、法律が意図するコンゴ民主共和国での武装集団勢力の減退という効果を得られているのか疑いあることなどを挙げた。

関係者の間では、トランプ大統領が、ドッド・フランク法の他の規定が定める金融規制を緩和する方針を示しており、それに引きづられる形で紛争鉱物ルールの有効性についてもチェックが入ることとなったのではないかという話も出ている。(後略)【2月10日 Sustainable Japan】
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コンゴの惨状や紛争鉱物については、2016年9月20日ブログ“コンゴ 任期切れ近づくも、「居座り」を進めるカビラ大統領 「資源の呪い」と国際対応”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160920でも取り上げましたので、ここでは詳細には触れません。

誰のための政策決定か?】
グローバリゼーションから取り残された「ラストベルト」の白人労働者などの不満を背景に選挙に勝利したトランプ大統領ですが、減税や規制緩和で勢いづく資本も、グローバリゼーションで動く資本も同じでしょう。

何より、こうしたトランプ政権の決定が誰の声を反映して決定されるのか?という疑問があります。
選挙で彼を支援した「ラストベルト」の白人労働者でしょうか?

****トランプが忖度する「ヨット階級」の力****
・・・・パリ協定離脱は、トランプの真の支持基盤のために行った選択だった。この点に関して、トランプ政権の動向をうわべしか見ていない人たちはおそらく誤解している。
 
トランプが今回の決断に至った本当の理由は、地球温暖化否定論を信じ込んでいるからではない。昨年の大統領選で支持してくれた石油・石炭業界の労働者たちの歓心を買おうと思ったからでもない。
 
確かに、こうした層はパリ協定離脱に喝采を送ったが、アメリカの有権者全体に占める割合はごくわずかだ。次の選挙で確実に支持してくれると当てにすることも難しい。その人たちのためにこのような決断を下すことは考えにくい。
 
しかし、強大な力を持つ資産家たちのための行動だったとすれば、納得がいく。これらの層は、資金面でトランプを生かすことも殺すこともできる。さまざまな方法を通じて、政治的に破滅させることだって不可能ではないだろう。
 
パリ協定離脱は、トランプの真の支持基盤が誰かをくっきりと浮き彫りにした。その支持基盤とは、「ヨット階級」とでも言うべき超富裕層である。自家用ヨットを所有するような資産家たちだ。(後略)【6月13日号 Newsweek日本語版】
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「ヨット階級」とは具体的には“その中核は、有力投資家のカール・アイカーンやアメリカ屈指の資産家であるコーク兄弟のような大富豪、それにロシアのエネルギー財閥の総帥たち。そこに、そのミニチュア版のような人たちも加わる。テキサス州やオクラホマ州で石油・天然ガス採掘の事業を行っている人たちである。”とのこと。
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