孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型肺炎対策で改めて認識された顔認証・ビッグデータ活用の有効性 個人情報保護とのバランスは?

2020-02-19 23:16:12 | 民主主義・社会問題

(中国・河南省鄭州市の鄭州東駅で、顔認証システムを備えたスマートグラスを装着した警察官(2018年2月5日撮影)【1月26日 AFP】)

【ビッグデータ利用で百貨店利用客2万人を割り出す】
新型コロナウイルス肺炎に揺れる中国からは、連日、(良くも悪くも)いかにも“中国らしい”と思わせるニュースが多々伝えられています。

ここ二日ほどだけでも・・・

“6日間でマスク工場建設へ 突貫工事開始 北京”【2月18日 NHK】
“家族でマージャンしてたら暴力的取り締まり、中国ネット非難”【2月19日 レコードチャイナ】
“マスク着用勧告に従わない男性を柱に縛り付け物議―中国” 【2月19日 レコードチャイナ】
“中国・湖北省の医療従事者、褒賞として子どもの試験で加点へ”【2月19日 AFP】
“中国、医療従事者の士気維持に躍起 殉職者は「烈士」認定”【2月19日 産経】

当局も感染封じ込めに必死ですから、なりふり構わぬ対応のなかで、“いかにも・・・”と思わせるものが出てきます。

(別に、脱線気味ながらも奮闘する中国当局を揶揄している訳ではありません。船内における十分な感染防止対策を取ることなくクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」を最悪の集団感染の場としながら、いまだにその「失敗」を認めようとしない、何が起きているかも明らかにしない日本政府のお粗末さ・無責任さに比べたら、まだましでしょうから。)

突っ込みどころ満載のこうしたニュースのなかで、「うーん・・・」と唸ってしまったのが下記の記事。

****百貨店から感染拡大か 客ら2万人割り出し隔離 中国 天津****
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中国の天津では、市内にある大規模な百貨店から感染が広がったとして、利用客らおよそ2万人を自宅に隔離する徹底した対策が行われています。

中国メディアによりますと、天津の宝※テイ区にある百貨店では、先月31日に従業員の1人に新型コロナウイルスの感染が確認されたあと、利用客と従業員に相次いで感染が確認され、今月12日までに感染者が35人に増えました。

これを受けて地元当局は百貨店の従業員およそ200人全員を隔離したほか、地域の住民に百貨店を利用していた場合は報告するよう呼びかけ、さらに、ビッグデータを使いながら、担当者が地域の住宅を1軒ずつ回って、最終的におよそ2万人の利用客らを割り出したということです。

地元当局はこの2万人に自宅での隔離を求めたうえで、7人が発熱していることを突き止め、このうち5人は感染していないことが確認され、残る2人を確認中だということです。

天津では17日までに確認された感染者は124人で、このうち3人が死亡しています。

※テイは土偏に「抵」のつくり【2月18日 NHK】
********************

ビッグデータを活用しながら、百貨店の利用者2万人を割り出す・・・・この分野では世界最先端を行く中国ならではと言えるでしょう。利用者2万人を割り出すなんて、日本では到底真似ができないことです。

一方で、そうした割り出し作業において、個人のプライバシーなどはどのように扱われているのだろうか?という疑問も。
こういうことができるなら、当局がその気になれば何だってできてしまう社会なんだということを再認識する面も。

【プライバシーか、犯罪捜査などの効率性か】
こうしたAIを駆使したテクノロジーは「超監視社会」と呼ぶべき現象を現実のものにしつつあり、中国はその最先端にいることは、これまでもしばしば取り上げてきました。

一方で、今回のようなケースを見せられると、その効力を認めざるを得ないところもあります。
監視云々は中国に限った話でもなく、そのメリットを前向きに評価すべきとする「幸福な監視社会」といった見方もあります。

あらためて、テクノロジーがもたらす二面性を印象付けた一件です。

****福音が呪縛か、中国が独走する顔認証システムの未来****
AI(人工知能)と監視カメラのテクノロジーとを融合させた「顔認証システム」が、いま世界で急速に広がっている。
 
監視カメラなどに映った不特定多数の顔の映像から個人を識別するこの技術は、世界各国の警察が有効なテクノロジーとして導入を進めている。犯罪捜査や犯罪抑止の点からは著しい効果が出ている。
 
その一方で、今アメリカでは、顔認証システムを巡って集団訴訟が提起され、物議を呼んでいる。顔認証システムが「危険」だと見られているのだ。
 
これから5G(第5世代移動通信システム)やIoT(モノのインターネット)、そしてAIの技術がますます発展していく時代に、日本でも本格的に導入される可能性がある顔認証システムについて、一体何が問題となっているのか考察してみたい。

都市部の「天網工程」と地方の「雪亮工程」
そもそも顔認証システムとは、監視カメラなどで拾われてパソコンなどに入力された人物の写真を、データベースに大量の顔写真を蓄積しているAIのシステムに照会することで、個人を特定するテクノロジーだ。

2021年までに世界中に10億台の監視カメラが設置されると言われているが、それには顔認証システムが一緒に使われることになる。使途は主に、強権国家による監視、本人確認業務の自動化、そして警察の捜査である。
 
監視のための顔認証はすでに世界各地で導入されている。有名なのは中国である。中国には今、国内に3億5000万台の監視カメラが設置されている。実に国民4人に対して1台の計算になる。さらに2020年のうちに、その数は6億台以上にまで増設される計画だという。
 
これらのカメラを駆使し中国政府は、都市部を徹底的に監視する大規模監視システムである「天網工程」や、地方を網羅するシステムの「雪亮工程」を導入している。

顔認証技術を提供しているのは、香港が拠点の商湯科技開発(センスタイム)だ。さらに監視カメラの世界シェアでトップクラスを誇る杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や浙江大華技術(ダーファ)といったメーカーも顔認証プログラムを提供している。

中国は政府も国民も、西側諸国に比べて人権感覚が希薄なため、パスポートや免許など公的な書類の写真から、街中で集められる監視カメラ映像などまで、プライバシーなどお構いなしに、徹底して顔写真を集めている。そして皮肉なことに、それによって顔認証システムの精度がどんどん上がっており、世界をリードするようなテクノロジーの進化をもたらしている。プライバシーを尊重する欧米諸国ではできない芸当だ。
 
今世界で混乱を巻き起こしている新型コロナウイルスでも、この監視システムは「有効活用」されている。住民が武漢を訪問したあとに別の地域に移動すると、顔認証や車のナンバーなどから個人が特定され、当局から突然連絡を受けるというケースが報告されている。

特定された個人は、当局から「外出を控えるように」と命じられているのだという。さらに今回は、中国製のスマホアプリなども駆使され、個人がさまざまに紐づけられてウイルス対策に使われている。
 
中国はご自慢のこの顔認証システムを、わかっているだけで少なくとも18カ国に輸出している。ウクライナやアルメニア、UAE、シンガポール、マレーシア、パキスタン、スリランカ、ケニアなどだ。こうした国々も、中国のように国民を顔認証システムで管理していると言っていいだろう。

SNSから無断で顔写真を集めまくった米企業
顔認証には監視活動とは別の使途もある。本人確認作業などの自動化だ。日本では、空港で顔認証システムが導入されているところもあるし、2020年東京五輪でもNECの顔認証システムが本人確認で使われることになる。

欧州でも、2019年の欧州サミットでフランスが顔認証システムを活用しているし、ドイツでも導入が進められている。オーストラリアやニュージーランド、カナダなども取り入れており、導入する国は増え続けている。
 
また最近ではスマートフォンなどにも顔認証システムは使われている。インドでは、NECの顔認証システムを導入して、全国民にID(識別番号)を与えるための証明として使われている。それによって、これまでインドでは常識になっていた賄賂や搾取などの汚職が減少している。
 
そして今、冒頭で触れたようにアメリカで問題になっているのは、もう一つの用途である警察の捜査についてである。
 
2020年2月14日、イリノイ州シカゴの住民が、顔認証システムを提供している企業「クリアビューAI」を訴える集団訴訟を起こした。この企業、一般的な知名度はないが、治安当局にはよく知られた企業だった。

というのも、実に全米で600の法執行機関にシステムを提供しており、犯人などを追跡するのに非常に効果的だと評判になっていたからだ。その正確度も、98%以上だと言われている。
 
ところが問題は、同社の顔認証システムは、インターネット上のありとあらゆるサイトから、人の顔写真を拾い集めていたことだった。
 
現代では、一般のビジネスパーソンであっても会議や社内イベントの写真もどんどんアップされるし、メディアでの露出がある人もいる。さらにフェイスブックやYouTube、インスタグラム、ツイッターなどSNSでは、多くの人たちがプライベートな旅行やイベント、飲み会など様々な写真を公開している。

しかも、タグ付けなどで写真におさまっている人たちの名前がわかる場合も少なくない。

同社のシステムでは、そうした写真を勝手に30億枚も収集・蓄積し、写真を使ってAIですぐに個人を検索できるようになっていた。言うなれば、「顔のネット検索」を可能としていたのだ。

この顔認証システムは、捜査当局にはかなり重宝されている。例えば、インディアナ州では2019年2月にこんなケースがあった。
 
2人の男性が駐車場で喧嘩になり、一方が拳銃を持ち出して相手の腹部に向かって発砲。目撃者がその様子を写真に収めており、警察はその写真から発砲した男の顔を把握した。

警察はその顔写真をクリアビューAIのシステムに取り込み、検索をかけると、瞬く間に同一人物と思われる男が見つかった。誰かが以前にSNSで公開していた動画の中に、該当する男が写っていたことから、男が特定できたのだ。

しかもこの男、前科もないし運転免許証も持っておらず、政府には一切顔写真などのデータは存在していなかった。クリアビューAIのスステムがなければ、容易に逮捕はできなかったはずだ。
 
だが、このシステムが使えたことで、犯行が起きてからわずか20分以内に事件は解決したというのだ。
 
他にも事件解決に至ったケースは数多くある。児童への性的虐待が疑われた人物が、別の人がインターネットに公開したジムの写真の鏡に写っている人物とマッチしたために逮捕に至った、郵便物を盗んでいた犯人や路上で死んでいた身元のわからない男性もすぐに個人が特定された、監視カメラに映っていた泥棒のタトゥーを検索して犯人が判明した——などだ。

犯罪捜査に役立つことは間違いないが
確かに当局には便利なものだろうが、問題はその情報収集の仕方にあった。フェイスブックやツイッターなどから勝手に写真を集めるのは使用規約に違反している。そんなグレーな部分があることを承知していたから、システムを導入している当局もその事実を積極的には公表していなかった。

しかし、昨年末ごろからクリアビューAIについての記事がメディアで多く見られるようになり、それに伴って、シカゴのように訴訟にまで発展したというわけだ。
 
また、そもそも顔認証システムにはプライバシーの問題があるなどとして、警察による導入を禁止している自治体もある。米カリフォルニア州サンフランシスコ市が2019年5月に警察による顔認証システムの使用を禁じると、同州オークランド市も後に続いた。マサチューセッツ州サマービル市も同様の決定を下している。

さらに、有色人種を誤認しやすいという報告も出ており、人権問題にもつながるという指摘もある。また欧州でも同じような動きは見られ、欧州委員会も顔認証システムの禁止を検討しており、議論になっている。
 
こうした動きもあり、アメリカでは、2月12日に上院が規制や規範を作るまで警察による顔認証技術の使用を停止することを命じる法案を提出したし、ツイッターやグーグル、YouTubeは、クリアビューAIに対して写真の使用停止を求める文書を送っている。
 
一方で、顔認証による捜査は、世界でも導入検討が着々と進んでいるのが実態だ。フランスやドイツ、イギリス、オランダなどが導入予定であり、今後もその利用は広がる可能性が高い。すでに述べた通り、中国は米当局よりも大々的に、人権への配慮もなくどんどん顔認証データを集め、そのシステムを拡大させながら技術を高めている。
 
顔認証システムが導入されることで治安が良くなることは間違いない。犯罪は劇的に減るだろう。中国の顔認証システムを導入しているケニアでは犯罪率が46%も減少したとの話もあるし、インドでは顔認証システムで2930人の行方不明児が発見されているという。
 
プライバシーを重視するか、犯罪率の減少を求めるか——どちらを優先するかは、その国家の体制や、国民の価値観によるだろう。

まだ日本では、顔認証システムが警察に導入されていないが、今後、そういう議論は確実に高まってくる。その時までに、先んじて導入している国々で起きている議論などは注目しておいた方がよい。【2月19日 山田敏弘氏 JBpress】
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【中国でも広がる個人情報侵害への不安 しかし、対策はおそらく形式的なものへ】
“中国は政府も国民も、西側諸国に比べて人権感覚が希薄なため・・・”というのは事実でしょうが、中国でもプライバシーが全く意識されない訳でもなく、政府・社会の在り方に危機感を持つ人もおり、国民の関心も高まっているようです。

****中国、顔認証技術めぐり初の民事訴訟 国民に広がる個人情報侵害への不安****
中国では、空港やホテル、ネットでの買い物、公衆トイレに至るまで、顔認証技術が浸透しているが、法律を専門とする大学教授が昨年10月、顔認証技術の使用をめぐりサファリパークを訴えたことが分かった。

国内メディアによると、このような訴えは中国では初めてだという。この訴訟により、国内では個人情報の保護と侵害についての議論が高まっている。

中国政府は先進技術において世界のリーダーとなる政策を掲げており、その一環で顔認証技術や人工知能(AI)の商業利用や防犯などを手掛ける企業を支援している。

市民の多くも、これらの技術がもたらす利便性・安全性と引き換えに、ある程度の個人情報の放棄を認めているとの調査結果もある。

だが、指紋や顔認証による生体認証データの蓄積が進んできたことから、状況は変化している。
浙江省杭州にある浙江理工大学の教授である郭兵氏が、サファリパーク「杭州野生動物世界」を訴えたことに対する国民の反応は、法的予防策が整備される前に顔認証などの技術使用が拡大していることへの不安の表れだ。
 
中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」では、この訴訟に関連した投稿に1億以上のアクセス数があるが、多くのユーザーは、個人情報収集の禁止を求めている。こうした意見は、中国で金融詐欺や携帯電話番号の流出、フィッシング詐欺など、個人情報の侵害が横行している現状に一因がある。
 
裁判の日程は分かっておらず、郭氏の直接のコメントは得られなかったが、同氏は、自身の民事訴訟において、顔認証などのデータ収集は「それが流出するか、不法に提供または侵害された場合、消費者自身とその資産の安全性が簡単に脅かされてしまう」と主張している。
 
科学技術省は同省の広報誌で、サファリパークのやり方は性急かつ乱暴で、国民感情に無関心なことを表していると述べている。

■技術進歩の面では米国に大きく遅れている
中国ではいまだ個人情報に特化した法律が整備されていない。現在、法案化が進められているが、いつ導入されるか定かではない。
 
一方で政府は、先進技術による一大監視国家を築こうとしている。至る所に監視カメラが設置されているが、当局は犯罪対策と国民の安全を守るためには必要だと説明している。
 
個人情報保護に関する法律を導入した場合、政府が進める監視国家政策を妨げる可能性があり、個人情報保護法が成立したとしても、大きな変化はないのではないかと専門家らは指摘する。
 
北京師範大学の法学部教授で、亜太網絡法律研究中心の創設者である劉徳良氏は、「企業内に個人情報やデータ保護の専門家を配置するような象徴的な動きはあるかもしれないが、形式的なものにすぎないだろう」と述べている。
 
中国の新奇なハイテク技術を伝えるニュースは多いが、実際には、技術進歩の面では米国に大きく遅れており、中国が勝っているのは技術の広範囲な商業使用のみだとする専門家らの声もある。
 
中国の携帯電話でのインターネット利用者数は8億5000万人以上と世界最多で、企業にとって中国は、技術の実行可能性を探るための格好の実験場だ。
 
国内では、領収書の支払い、学校での出席確認、公共交通機関の改札の効率化、交通規則を無視して道路を横断する歩行者の特定など、さまざまな用途に顔認証が用いられている。

観光地によっては、トイレットペーパーの使用量を抑えるため、顔認証でトイレットペーパーを受け取れる仕組みの公衆トイレが設置されている場所もある。
 
だが、中国消費者協会の2018年11月の報告書によると、携帯アプリの90%以上が個人情報を、10%は生体認証データを過度に収集しているとみられている。
 
懸念が広がったのは、昨年12月に政府が通信事業者に対し、直販店で新しい電話番号を契約する顧客を登録する際、利用者の顔認証データを収集することを義務付けてからだ。

さらに、多数の顔認証データがインターネットで1件10元(約158円)ほどで販売されているという国内メディアの最近の報道も、そうした動きに拍車を掛けた。【1月26日 AFP】
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西アフリカ・カメルーン  多数派仏語圏からの分離独立を求める英語圏 繰り返される双方の暴力

2020-02-18 23:12:08 | アフリカ

(【2018年11月8日 NHK】 西(左)隣の大きな国は過激派武装組織「ボコ・ハラム」で有名なナイジェリア)

 

【「虐殺」か、「不運な事故」か】
西アフリカのカメルーン、日本にはなじみの少ない国です。

もう随分昔の話にもなってしまいましたが、2002年に開催された日韓ワールドカップの際、大分県中津江村がカメルーン代表のキャンプ地に選ばれ、「いちばん小さな自治体のキャンプ地」としてまた、また、選手団の到着が遅れたことなどから注目され、村民と選手団の交流が日本国内で有名になった・・・という記憶ぐらいでしょうか。

そうした“ほのぼのとした話”にもかかわらず、カメルーン国内には多数派の仏語圏と少数派の英語圏の間の深刻な分断・抗争があります。

****カメルーン軍が「虐殺」を否定、子どもと妊婦含む22人死亡****
国連によると、カメルーン北西部の英語圏にある村で14日、子ども14人を含む民間人最大22人が殺害された。

野党は政府軍兵士らによる虐殺だと非難しているが、軍は17日、これを否定して戦闘中の燃料爆発による「不運な事故」だったと主張した。
 
国連人道問題調整事務所でカメルーン西部を担当するジェームズ・ヌナン氏は16日、「武装した男たち」が妊娠中の女性1人と子ども14人を含む民間人22人を殺害したとAFPに述べた。子どものうち11人は女児だったという。
 
事件が起きたのは北西部ントゥボ村で、一帯は2017年10月以降、分離独立派による暴行が絶えない英語圏2地域のうちの一つ。
 
AFPの取材に応じた援助活動家らによると、40〜50人の武装した男たちがントゥボ村の1地区に進入し、住民たちを射殺したり焼き殺したりしたとの目撃情報があるという。男たちの中には、軍の制服やマスクを着用している者がいたという。
 
軍報道官は、内部調査の結果、英語圏の分離独立派との銃撃戦中に燃料が燃え上がったことが原因だったと説明。この報道官はAFPの電話取材に対し、女性1人と子ども4人の民間人5人が死亡し、「テロリスト7人」が「無力化された」と話した。また発表では「端的に言えば不運な事故で、この地域での治安作戦の巻き添えとなった」と述べた。 【2月18日 AFP】
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生々しい目撃情報に対して、戦闘中の燃料爆発による「不運な事故」ととする軍の見解はいかにも・・・・。

【第1次大戦後の植民地支配、独立の経緯を引きずる分断・衝突】
カメルーンの情勢を簡単に描写すれば、以下のようにも。

****暴動と弾圧が深刻化する英語圏 揺れるカメルーン****
2016年の年末から、カメルーン英語圏の2つの州で、前例のない政治危機が進行している。

英語圏の分離独立を訴えるグループが顕在化し、武装勢力と治安部隊の衝突が増加しているのだ。治安の悪化により英語圏の多くの有権者が投票できない状況で、2018年10月、30年以上にわたり同国の権力を握るポール・ビヤ氏が大統領に再選されたが、カメルーンの将来はいまだ不透明だ。(後略)【ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年12月号より】
********************

もともとはドイツ領でしたが、第1次大戦後英仏に分割され(仏語圏・英語圏はこの旧宗主国の違いによる)、仏領は「アフリカの年」1960年に独立。英領の方は、南部分が住民投票で独立した仏領側との連邦制を選択した(北部はナイジェリアと一体化)・・・・という独立の経緯があります。

しかし、徐々に圧倒的に規模の大きな旧仏領の勢力が増大していき、1972年に廃止されています。

****“内戦の危機”カメルーンに残る第1次世界大戦の傷痕****
今週(2018年11月)、カメルーンで、学校に押し入った武装グループによって、生徒や教師など80人以上が連れ去られ、2日後に解放されました。分離独立を求める、反政府武装グループが行ったとみられています。

背景にあるのは植民地時代から続く、フランス語圏と英語圏の対立です。

去年(2017年)から、英語圏の武装グループと、それを抑え込もうとする政府軍との間で戦闘が拡大。政府軍によるとみられる、村の焼き討ちや無差別な射殺が相次いでいます。

仏語圏と英語圏 深まる対立 緊迫 カメルーン
酒井 「アフリカのカメルーンでは、長年、フランス語圏と英語圏の対立が続いてきました。現在のビヤ大統領は、多数派であるフランス語圏の出身で、36年にわたる長期政権をしいています。」

花澤 「去年、政府の対応に反発する住民によるデモをきっかけに、英語圏の武装グループと政府軍の衝突が激化し、内戦に近い状況に陥っています。」

松岡 「アフリカ中部に位置する、カメルーン。元々一帯はドイツの植民地でしたが、1918年、第1次世界大戦の後、戦勝国のフランスとイギリスが分割して統治し、それぞれの国の言葉が使われ、文化が尊重されてきました。

1960年、東部のフランス領が独立、翌年には西部のイギリス領もこれに続き、今のカメルーンになります。現在、カメルーンの人口、2,400万のうち、およそ480万が英語圏で暮らしています。

政治や経済活動は、多数派のフランス語圏を中心に進められてきたため、少数派の英語圏の住民は、就職面で差別され、インフラ整備も遅れているなどとして長年、不満をくすぶらせてきました。

一昨年(2016年)英語圏の教師や弁護士は、政府がフランス語による教育やフランス式の司法制度を強要しているとして、英語も重視するよう求める平和的なデモを行いました。

この動きを政府の治安部隊が弾圧したことを受けて、去年、武装グループが英語圏である西部の独立を宣言、武装蜂起したのです。(中略)

リポート:別府正一郎支局長(ヨハネスブルク支局)
カメルーンでは先月(10月)、大統領選挙が行われ、85歳のビヤ大統領が再選を果たしました。
野党側を中心に、公平な選挙ではないとの批判が渦巻く中、7年の任期を得て、さらに政権が続くことになります。
別府支局長 「首都ヤウンデは、長期政権を続けるビヤ大統領のポスターであふれています。」

しかし、フランス語圏出身のビヤ大統領の政権下で、これまで安定していた国は、今、内戦の危機に直面しています。首都ヤウンデから、西に向かって車で6時間。

別府支局長 「私たちは今、フランス語圏を出ました。特に標識などはありませんが、ここから先は英語圏になります。」

目につくのは、ゴムや果物などの大きな農園です。沿岸部には石油関連の施設が確認できます。
カメルーンは産油国ですが、油田は英語圏の沖合にしか存在しません。英語圏は経済的な資源に恵まれているのです。

市街地に入ると、至る所に、政府軍による検問所が設けられていました。

別府支局長 「英語圏に入ると、町の雰囲気は一変します。あちらにあるように、ビヤ大統領のポスターは顔の部分だけがはがされています。」

首都ヤウンデでは見られない光景です。英語圏では長年の不満を背景に、去年、分離独立を求める勢力が武装蜂起。
その数は、数百人から数千人とされ、英語圏で、政府軍の兵士を攻撃したり、政府に協力しないよう住民に圧力をかけたりしています。

これに対し、政府側は、「武装グループはテロリストだ」として、武力攻撃を正当化。
治安部隊と武装グループの戦闘に巻き込まれるなどして、大勢が犠牲になり、数十万人が住まいを追われる事態になっています。

3週間前、英語圏の町から逃れてきたメルベイユ・カマジュさん、24歳です。
今年(2018年)7月、自宅に押し入った部隊によって、武装グループのメンバーだと疑われた夫が射殺され、4歳の息子も連れ去られました。
メルベイユ・カマジュさん 「夫も兄弟も親戚も殺されました。政府軍はどこでも入ってきて、無実の人でも殺します。」(中略)

しかし、政権側は、武装グループに対する強硬な姿勢を崩していません。
イサ・シロマ情報相 「政府軍は独立を主張する“テロリスト”と戦っています。国土の一体性が攻撃にさらされてされているのです。」

首都ヤウンデには、フランス語圏と英語圏の2つの言語、文化が混ざり合い、国が発展する理想を表す「融和の塔」があります。 しかし、カメルーンの現状は融和とはほど遠く、分断が深まっています。

花澤 「取材に当たった、ヨハネスブルクの別府支局長に聞きます。なぜ、ここまで分断が深まる状況になってしまったのでしょうか?」

別府支局長
「まず、独立の経緯が大きいと思います。統治していたフランスとイギリスから独立した際には、面積でおよそ80%を占めるフランス領が、より少ない20%のイギリス領を事実上、吸収して、合併した形です。

長期にわたり強権体制を続けてきた、ビヤ大統領もフランス語圏出身。英語圏にある石油会社にしても幹部はフランス語圏の出身者ばかりで占めています。

また、英語圏に展開する治安機関の幹部も、裁判所の裁判官も、フランス語圏の出身者ばかりだというのです。

こうしたことから、英語圏の人たちの間では、『これではまるで自分たちは2級市民のようで、理不尽な扱いを受けている』という受け止め方が広がったんです。

政府は独立以降、表向きは、双方の融和をアピールしてきましたが、カメルーンは結局のところ、カメルーンらしさという一体感を作れないまま、今に至っているのが現状です。」

酒井 「この対立、今後、どうなっていくのでしょうか。」

別府支局長 「対立はますます先鋭化していきそうです。そして、その代償を最も払っているのが一般の市民です。
政府軍については、一般市民への無差別な攻撃などの人権侵害が相次いで報告されています。

一方、英語圏の武装グループも、政府に協力したとみなせば、危害を加えていることが明らかになっています。

つまり、英語圏に暮らす人たちは、2つの勢力の暴力にさらされている、紛争の人質にとらわれているといえます。

国連は、避難民を対象にした食糧支援などに乗り出しました。しかし、圧倒的に足りないのが情報です。

国際メディアもカメルーンの現状を伝えようとしていますが、その度に壁に直面します。今回、私たちが取材するためのビザの取得には、情報省の大臣による許可が必要で、想像以上に長い時間がかかりました。また、撮影中に治安部隊から映像を消去するよう迫られることもありました。

国際社会の関心が十分に及ばないまま、戦闘と混乱がずるずると拡大しているのが現状で、内戦に突入するのではないかという懸念は高まる一方です。」

酒井 「武装グループと政府軍の衝突で、地元の人たちの命が犠牲になっているというのは辛い状況ですよね。」

花澤 「そうですね。長期の強権体制という話が別府支局長の方からもありました。それともう1つ背景にあるのは、先週の南アフリカにの黒人と白人の対立もそうでしたが、欧米による植民地支配の負の遺産、これがいまだに重くのしかかっているという現状ですよね。対立がさらに広がっているということで心配な状況が続いています。」【2018年11月8日 NHK】
*************************

2017年10月以降の関連記事見出しを並べると、以下のようにも。

“カメルーン英語圏が「独立宣言」 治安部隊との衝突で7人死亡”【2017年10月2日 AFP】

“カメルーン軍、英語地域での「大規模な軍事作戦」を準備”【2017年12月3日 AFP】
“英語圏独立派が学校襲撃、生徒の拉致狙う カメルーン”【2018年3月11日 AFP】
“カメルーン英語圏独立派、隣国ナイジェリアに潜伏 黒魔術も”【2018年3月29日 AFP】
“カメルーン英語圏で衝突激化、民間人400人殺害”【2018年9月19日 CNN】
“カメルーン、英語圏の衝突で死者 7日に大統領選 独立派は妨害の構え”【2018年10月7日 AFP】
“カメルーン大統領選、85歳ビヤ氏が7期目の再選”【2018年10月23日 AFP】

 

 

 

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イラン  21日に国会議員選挙 核合意の経緯は穏健派に逆風 国民の願いは経済改善

2020-02-17 23:18:42 | イラン

(投票風景 (保守強硬派、穏健派の推薦リストである)ビラのかわりにスマートフォンの画面を見る人も=2012年2月26日 出典: 神田大介撮影【2017年10月17日 神田大介氏 withnews】)

【「選挙は、宗教的民主主義の具現」】
今週金曜日の21日、イランでは国会議員選挙が行われます。

下記は、イラン系メディア「ParsToday」の関連記事です。

****視点;イラン国会議員選挙 - 様々な政治趣向や政党の存在****
今月21日、第11期イラン国会議員選挙及び最高指導者の選出を担う専門家会議の第5期第1回中間選挙が行われます。 

選挙は、宗教的民主主義の具現であり、同時に国民が国の運命を決定付ける場に参加することを意味します。

現在、選挙に向けて116の政党が正式に承認されています。これらの政党には、原理主義、改革派、無所属・中道派という3つの潮流が存在します。各選挙組織は、選挙の舞台にあらゆる趣向を導入すべく奔走しています。
 
(中略)いずれにせよ、4年に一度の割合で実施される国会選挙において、様々な階層や政治的派閥に属する様々な背景を持つ人々が国会での議席を得るために競い合い、有権者によって選択の対象となるわけです。中でも過去に際立った成功を収めた人物が選ばれる確立が高くなります。
 
今回、特に大きく報道されているのは、過去3期にわたり国会議長を務めてきたラーリージャーニー氏が不出馬を表明していることです。これは原理主義や改革派の間で大きな反響を呼びました。

ネット空間やメディアの予測では、ラーリージャーニー議長の国会選挙の不出馬の理由は、同議長がイラン大統領選挙出馬に向けて計画を立てているとする可能性が指摘されています。【2月15日 ParsToday】
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最後に出てくるラーリージャーニー議長・・・日本メディアでは「ラリジャニ議長」と表記されることが多い保守強硬派の中心人物です。アフマディネジャド元大統領のような庶民の出ではなく家柄も名家で(宗教権威に支えられたイラン保守派政界ではこういう「権威」が重要視されます)、以前から注目されていた政治家です。いよいよ大統領選挙に・・・ということでしょうか。

116の政党が承認されているとのことですが、日本や欧米で普通に見られる大政党は存在しないようです。しかも、
今回選挙の情報はしりませんが、4年前の前回選挙では290議席に1万2000人あまりが立候補を届け出ました。

大政党もなく、1万人を超す立候補者・・・どうやって有権者は選択するのか?(前回選挙では、人口約850万人の首都テヘランは定数が30に対し、最終的な候補者数が1111人)

後出記事でも説明されていますが、保守派、穏健派などの陣営がそれぞれ推薦リストを用意し、有権者はそのリスト(自分が気にった方)を見ながら投票する・・・というのが一般的なようです。

【「アメリカに騙された」・・・核合意を推進したロウハニ・穏健派には逆風】
最近のイラン社会では、ガソリン価格引き上げに伴う抗議デモが広がり、一部は体制批判に及び治安部隊との衝突で多くの犠牲者がでる事態に。

その後、米軍による革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害で、一転、反米的体制への求心力が高まったように見えました。

しかし、革命防衛隊によるウクライナ航空機撃墜を隠蔽していたとして、再び体制批判が表面化

・・・といったように、目まぐるしい動きがありますが、国民の間では「穏健派の言うように国際社会に譲歩して核合意を結んだのに、一向に制裁は解除されず暮らしはよくならない。アメリカに騙された」という不満が基本にあるように思われます。

「アメリカに騙された」という思いは、核合意を推進したロウハニ大統領など穏健派への批判となります。

****イラン大統領 革命記念日演説 保守強硬派の国民から罵声も ****
アメリカとイランの対立が先鋭化する中、イランのロウハニ大統領は11日イスラム革命の記念日に合わせた演説を行いアメリカとの対決姿勢を強調しました。

しかしこれまで欧米との対話路線を推進してきたことに保守強硬派の国民から罵声が浴びせられ、国内での立場が厳しさを増しています。
 
イランのロウハニ大統領は11日、現在の政治体制が樹立されたイスラム革命から41年となるのに合わせ、国民向けの演説を行い「アメリカはここ数年、イラン国民にひどい圧力をかけている。イランを壊し、降伏させようとしている」と述べ、経済制裁の強化や先月のソレイマニ司令官殺害などで圧力を強めるトランプ政権を非難しました。

そのうえで、「政府、国民、軍、国をあげてイランの国旗と最高指導者のもとで抵抗を続ける」と述べて、アメリカと対決する姿勢を強調しました。

しかし会場からは、保守強硬派の国民らが「妥協した者に死を」とか「恥知らず」といった罵声を浴びせかけ、アメリカの離脱で機能不全に陥っている核合意を結ぶなど、欧米との対話路線を掲げてきたロウハニ大統領を厳しく非難する一幕もみられました。

イランではアメリカが制裁を強化する中で経済が厳しさを増し、国内では政府を非難するデモも頻発していて、ロウハニ大統領にとって厳しい政権運営が続いています。【2月12日 NHK】
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そうした流れを受けて、今回選挙では穏健派の退潮、保守強硬派の台頭を予想するのが一般的な見方となっています。

****イラン国会選挙、強硬派台頭か 21日投票、穏健派は退潮****
米国と敵対し、核問題を巡り欧州との関係も冷え込んでいるイランの国会選挙(一院制、定数290、任期4年)の投票が21日に迫った。国際協調に重きを置くロウハニ政権を支えてきた改革派や穏健派の多数が立候補の事前審査で失格となり、反米の保守強硬派が優勢との見方が広がっている。
 
米イラン間では1月、米軍による革命防衛隊の有力司令官殺害やイランの報復攻撃で、武力衝突の直前まで危機が高まった。選挙で強硬派が台頭すれば、イランが米国との対決姿勢をより強める恐れがある。
 
イランでは最高指導者が重要政策で最終決定権を持ち、大統領や国会は従属的な立場だ。【2月17日 共同】
*******************

“改革派や穏健派の多数が立候補の事前審査で失格”・・・毎回、選挙のたびに問題となるところです。
日本や欧米とも似通った選挙という民主的仕組みがあるものの、最高指導者を頂点とする宗教権威によって大きく制約されている、イラン民主主義の限界でもあります。

審査は、最高指導者が直接・間接に任命した『護憲評議会』という組織が行います。
下記記事は、前回選挙に関するもの。

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国(の一機関)が事前審査をします。基準は、イラン国籍がある、30歳以上75歳以下、選挙区で悪い評判がない、イスラム法学者の統治に忠誠を誓うこと、など。

審査は密室で行われ、失格の通知にも理由は一切説明されないため、国に都合の悪い候補者が落とされているのではないか、という批判が絶えません。

この選挙では、届け出の締め切りから3週間後、約7300人が失格になったと報じられました。全体の6割です。【2017年10月17日 神田大介氏 withnews】

【「今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願い」】
そうした状況でも前回選挙では国民の経済改善への期待を担って穏健派・改革派が勝利しましたが、今回は・・・

****激動のイラン 国民の選択は****
(中略)
現在のイラン情勢は

西海
「スタジオには、現代のイラン政治が専門の、日本エネルギー経済研究所・研究理事の坂梨祥(さかなし・さち)さんです。
今年(2020年)に入り、非常に緊迫したイラン情勢ですが、現地はどうなっているのでしょうか。」

日本エネルギー経済研究所 研究理事 坂梨祥さん
「イランの情勢は、とても混とんとしています。
年明けにアメリカ軍がイランの司令官を殺害して、イランでは壮大な葬儀が行われました。
その後、イランがアメリカに報復攻撃を行って、一件落着と思われたのですが、緊張が極度に高まる中でウクライナ民間航空機の誤射が起こり、体制がそれを隠そうとしていたことに批判が広がりました。あまりにもたくさんのことが一度に起こって、整理が追いつかない状況にあります。」

西海
「司令官の殺害後は体制への求心力が非常に高まったのですが、その後の民間機の誤射が分かった後は、一部で最高指導者を批判するようなデモも起きました。国民全体では、どちらを向いているのでしょうか?」

坂梨祥さん
「誤射自体は、非常に緊張が高まる中で国民を守ろうとして起こったミスなので、体制への反発は、むしろそれを隠していたことに対するものだったわけです。体制が誤りを認めたので、このまま抗議行動が広がることにはならないと思います。」

議会選挙の情勢は
西海
「来月、イランで議会選挙が行われます。まず、現在の議席数はどうなっているのでしょうか。」

坂梨祥さん
「ロウハニ政権を支持する保守穏健派と改革派の連合が多数派、対する保守強硬派が少数派です。
ロウハニ大統領は対話路線を掲げていて、保守強硬派は、より欧米との対決姿勢を前面に打ち出す人たちです。」

西海
「この内訳は、日本の議会だとはっきりするのですが、イランでは分からないものなのでしょうか?」

坂梨祥さん
「現在、イランには大きな政党がなく、議会の説明が非常に難しい状況です。」

西海
「政党がないと、どのように投票するのでしょうか?」

坂梨祥さん
「政党単位で戦われるわけではないイランの選挙では、各グループが、リストを作って選挙戦を戦っています。
前回の選挙では、ロウハニ大統領の対話路線を支持する人たちが水色のリスト、保守強硬派と呼ばれる人たちが黄色のリストを作りました。人々はこれを投票所に持ち込んで、リストに書かれている名前を書き写して1票を投じます。」

西海
「かなり独特なやりかたですけど、前回の2016年の選挙では、ロウハニ大統領を支持する勢力が勝ちましたね。」

坂梨祥さん
「前回の選挙は核合意が成立して、経済の復興に対する期待が高まったタイミングで行われました。選挙の半年前には核合意が成立して、制裁解除があった翌月に選挙が行われました。なので、核合意を成立させた立て役者であったロウハニ大統領を支持しようという人たちが選挙に勝ったということです。しかし、今回は様子が違うかもしれません。」(中略)

「今回の選挙は、前回とは真逆の状況にあります。2018年5月、トランプ大統領が核合意を離脱して、その後どんどん制裁が強化されているので、イラン経済が窮地に陥っているなかで選挙が行われます。

そのため、保守強硬派がもともと言っていた『アメリカという国を信じるべきじゃなかった』『アメリカを信じたのがそもそも間違いだった』という意見が力を持ってしまう可能性があります。

それを示すかのように、今回の選挙では、ロウハニ大統領を支持する人たちが資格審査で失格になっていると報じられています。」(中略)

西海
「今の最高指導者はハメネイ師ですけど、『アメリカとの交渉はしないんだ』という強い姿勢を示しています。
こういう姿勢は、選挙にも影響するのでしょうか?」

坂梨祥さん
「ハメネイ師はこれまで30年以上にわたって最高指導者を務めていますが、この30年の間に、実は、イランがアメリカに歩み寄ったことも何回かあったんです。

でも、イランから見るとアメリカはそのたびに、イランに結局、冷たくしてきたという認識が、体制の上層部、特に最高指導者にはあります。

たとえば同時多発テロ事件のあと、アメリカがアフガニスタンを空爆したわけですが、それに際して、イランは情報を提供したりしてアメリカに協力していました。

でも、その直後に、アメリカはイランのことを『悪の枢軸』と呼び、『イランはアメリカが倒すべき体制である』としました。

もうひとつの例としては、過激派組織IS=イスラミックステートとの戦いを挙げることができます。
アメリカが年明けに殺害したソレイマニ司令官は、イラクでISと戦っていました。

アメリカもイラクでISと戦っていたので、ISとの戦いでは、アメリカとイランは同じ側に立っていたんです。

それにもかかわらず、ISの脅威が下火になったところで、アメリカはあたかも『用済み』であるかのように、ソレイマニ司令官を殺害したわけです。

そのようなことが繰り返されてきて、ハメネイ師の目には、アメリカはイランが歩み寄っても必ず裏切る国だと、これまでもそうだったと考えているわけです。

ですから、今のイランの体制では、『アメリカを信じるべきではなかった』という考えが優勢になっていて、ロウハニ大統領の『アメリカとも話をしなければ』という主張は通りにくくなっている可能性があるんです。」

国民の思いは
西海
「体制がそちらの方向に向いているということですね。一方の国民は、本音の部分ではどうなのでしょうか。」

坂梨祥さん
「イランには、もちろんいろいろな人がいます。でも多くのイラン人が、アメリカの文化に憧れを抱いています。iPhoneを使っている人も多いですし、コカ・コーラもみんな大好きです。多くの人が、政治は政治、自分が好きなものは好き、と思っていると思います。

ただ、アメリカの経済制裁の影響で貿易が非常に困難になり、外国企業が次々とイランから撤退したことで、失業率が上がったり、あるいは大学を卒業しても仕事に就けない人も増えています。

あと、制裁の影響で、物の値段もどんどん上がっていて、去年(2019年)の11月にはガソリン価格が非常に値上がりし、大規模なデモにまで発展しています。

今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願いだと思います。」

今回の選挙は?
西海
「そうすると、この希望を託す選挙は、どのようになるのでしょうか?」

坂梨祥さん
「今のイランの国民は、イランに対して、『最大限の制裁』という圧力をかけるアメリカと、そのような圧力には決して屈しないとする体制のはざまで板挟みになってしまっていると言えます。

ただ、ロウハニ政権が掲げてきた対話路線は、トランプ大統領が核合意を破棄したことによって行き詰まってしまいましたし、かといって、アメリカの圧力にだけは負けないと言っているような人たちに、経済を改善させる具体的なアイデアがあるようにも見えません。

つまり、現在国民としては、選挙とはいっても、『誰に経済状況の改善の望みを託せばいいのか?』という状況に置かれてしまっていると思います。

ただ、イランというのは、実は驚きに満ちた国なんです。これまでの選挙でも繰り返し、投票の数日前というタイミングになって、選挙が突然盛り上がって、結果的に体制や、あるいは世界を驚かすような結果が生み出されてきました。

今回の選挙でも、どのようなドラマが生まれるか、まだまだ目が離せないと思います。」【1月27日 NHK】
******************

前出のように、核合意をめぐる経緯は穏健派には逆風となっていますが、「今のイランの国民にとっては、経済の改善ということが、何よりもの願い」という点で、保守強硬派に託してどうなるのか?という疑問も。

今月21日、イラン国民の審判は?

 

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欧州  アメリカの反対にもかかわらず進む欧州各国でのファーウェイ5G参加容認の流れ

2020-02-16 23:47:50 | 欧州情勢

(【2月7日 日経】
【トランプ大統領を激怒させたイギリスの自己主張】
米英関係は「特別な関係」とも言われますが、EUを離脱するイギリスにとって、アメリカとの関係は今まで以上に重要なものになると思われます。 

しかし、それにしてはファーウェイの5G利用やデジタル課税でアメリカとの対立が目立ちます。

もちろん、重要な関係ということ、追随することは別物であるのは当然ですが、それにしてもイギリスの強気の背景に何があるのか・・・と訝しく思うことも。アメリカとの関係維持に自信があるが故の自己主張なのか・・・。

一方、アメリカの反発の激しさは、「なぜ、アメリカの言うことに従わないのか!」といった、驕りみたいなものも感じられます。

****ファーウェイの5G利用は「狂気の沙汰」 米が英政府に警告****
イギリス政府が中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の第5世代移動通信システム(5G)を導入しようとしていることについて、アメリカ政府が「狂気の沙汰だ」と警告した。

イギリスは今月にも、国内通信網の「非中核」部分にファーウェイの技術を採用するか決める予定。
これに対し、マット・ポッティンガー副顧問(国家安全保障担当)が率いるアメリカの代表団は、ファーウェイの技術を使った際のセキュリティーリスクを証明するとして、新たな証拠をイギリス政府に提示した。

ドナルド・トランプ米大統領はかねて、この件についてボリス・ジョンソン英首相に圧力をかけている。
アメリカ政府は昨年、セキュリティー上の懸念があるとして、米企業がファーウェイ関連の68の企業に部品や技術を提供しないよう制限した。

イギリスの情報機関はかねて、国家安全保障上の問題は見当たらず、ファーウェイの技術を5Gインフラに組み込めるとの技術評価を下している。

しかし13日に行われた協議でアメリカ側は、この評価を真っ向から否定するとする技術情報を大量に提示した。アメリカ側の関係筋は、資料の内容については言及しなかった。

この動きは、イギリス政府が5G網についての決定を下そうとしている中、トランプ政権によるロビー活動の最終段階だと考えられている。

アメリカ政府は各国に対し、ファーウェイ製品を使用した場合、情報共有について再審査を受けることになると警告していた。

一方イギリス政府は、そのような再審査を受けても大きな変更には至らないだろうと示唆している。

情報局保安部(MI5)のアンドリュー・パーカー長官はフィナンシャル・タイムズの取材で、イギリスがファーウェイの技術を使ったとしても、それが英米の情報共有の関係に悪影響を与えるとは「考えられない」と話した。(後略)
【1月14日 BBC】
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****英政府、5Gで華為技術製品の限定使用容認 米国の要請に応じず****
英政府は28日、次世代通信「5G」で中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)製品の使用を限定的に認めると発表した。同日に開催した安全保障会議で正式に決定した。
 
トランプ米政権は安全保障上の理由で華為製品の完全排除を同盟国に強く働きかけているが、これに応じない形になった。欧州連合(EU)からの離脱後に始まる米国との貿易交渉に影響を及ぼす可能性が指摘されている。
 
英政府は同日、ネットワークの安全を維持する方法として、華為製品を5Gネットワークの中核部分から排除するとした上で、非中核部分に限って採用する方針を示した。原子力発電所や軍事施設など安全保障上重要な通信網から排除するという。
 
しかし、華為製品は低コストであることなどから、すでに通信事業者が英国でアンテナなどに利用しており、英政府は完全排除は困難と判断したとみられる。
 
ジョンソン氏が、テレビ番組で華為のスマートフォンを用いて「自撮り」する様子が放映されていたほか、華為の使用をめぐり「肝心なのは消費者の利益」とも発言している。【1月28日 産経】
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ジョンソン首相が華為のスマートフォンを用いて「自撮り」・・・・トランプ大統領が激怒しそうですね。

*****米高官、英のファーウェイ容認に「失望」****
トランプ米政権高官は28日、ジョンソン英政権が次世代通信規格「5G」のネットワークに中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の製品を部分的に使用することを決めたことについて「英国の決定に失望した」と述べた。
 
トランプ大統領も同日、ジョンソン英首相と電話で会談した。ホワイトハウスは「通信網の安全確保策」などについて協議したとしており、トランプ氏が華為製品の使用を撤回するよう要請した可能性がある。
 
米政権高官は「5Gネットワークのいかなる部分であれ、信用の置けない業者の管理下に置くことは安全な選択肢ではない」と指摘し、安全保障の観点から華為製品を排除すべきとの考えを改めて示した。(中略)

欧州ではドイツも華為製品の導入を事実上認めるなど、華為の参入を受け入れる国が拡大しつつある。【1月29日 産経】
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****米、英と情報共有制限するか未定 華為の5G問題でカドロー氏****
米国家経済会議(NEC)のカドロー委員長は30日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]による第5世代移動通信システム(5G)への参入を英国が限定的ながら認めたことを受け、英国との情報共有を制限するかどうか決定していないと表明した。(後略)【1月31日 ロイター】
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****米国務長官、5G巡り英との緊張緩和図る 中国の脅威強調****
ポンペオ米国務長官は30日、次世代通信規格「5G」通信網への中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)参入を巡る米英間の緊張緩和を図る一方で、中国共産党は現代の最大の脅威であるとの見方を示した。

ジョンソン英首相は28日、5G通信網へのファーウェイの参入を限定的に容認すると発表した。

2日間の日程で英国を訪問中のポンペオ氏は記者団に対し、「国民の情報や国家安全保障上の情報が行き交うネットワーク上で、それらの情報を得る法的権限を中国共産党が持てば、それはリスクになる」とした上で、「米英が意見の対立解消に向けて協力する道筋を見つけると確信している」と指摘。安全保障上の機密情報を共有するファイブアイズ(米英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)は健在と述べた。

さらに、中国共産党を「われわれの時代の重大な脅威」と見なしていると言及。米国とその同盟国が軍事力や技術力を確保し、今世紀が欧米諸国の原則によって統治されていることを確実にするよう求めた。

また、ポンペオ長官は米英間の「特別な関係」は依然として良好と強調し、欧州連合(EU)離脱後の英国との通商協定を優先したいと指摘。「(オバマ)前政権は、英国がEUを離脱するなら、米国は英国との通商交渉を後回しにするとの見解を示していたが、われわれは英国を最前列とする意向がある」と述べた。【1月31日 ロイター】
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トランプ政権としては、なだめたり、すかしたり、恫喝したり・・・・といった感じですが、トランプ大統領はもっと直情径行です。

****トランプ氏、英首相に「激怒」=ファーウェイ容認で―新聞報道****
7日付の英紙フィナンシャル・タイムズは、トランプ米大統領が先月行ったジョンソン英首相との電話会談で激怒したと報じた。次世代通信規格「5G」網への中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)の参入を一部容認した英政府の決定が原因。米国はファーウェイの排除を求めていた。
 
会談での具体的なやりとりは不明。ただ同紙は、英当局者が「米大統領の言葉の強さに驚いた」と伝えている。【2月7日 時事】
*******************

この問題は、短期的には米英間の外交に悪影響を与えています。

****英首相、訪米計画「棚上げした」 5G巡りトランプ氏との対立懸念****
15日付英紙タイムズは、ジョンソン英首相が今月中にも行うとみられていた訪米計画を「棚上げした」と伝えた。英政府は第5世代(5G)移動通信システムに中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)製機器の採用を容認しており、排除を求めるトランプ米大統領との衝突を懸念し先送りしたとみられている。

トランプ氏との会談は、6月の米国での先進7カ国首脳会議(G7サミット)まで実現しない見込みだという。
 
ジョンソン氏の訪米日程は公式に発表されていなかったが、昨年12月の総選挙での大勝を受け、今年1月にも実施するとの情報があった。【2月16日 共同】
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【ドイツ・フランスもファーウェイ容認へ】
ドイツも、アメリカの圧力に加え、国内に根強い反対論がありますが、メルケル首相は“ファーウェイの参加容認で押し切る構え”とも。その理由に関して、下記記事は「中国市場はドイツ経済の生命線」とのメルケル首相の考えを指摘しています

****ドイツが5Gでファーウェイを選ぶ理由****
5G(次世代通信規格)構築をめぐる米中間のデジタル覇権争いで、ドイツのメルケル政権はやはり、中国を選ぶ方向に舵を切りつつある。

中国の通信機器最大手ファーウェイ(華為技術)の参加する5G構築に対しては、ドイツでも、中国によるスパイ活動やサイバー攻撃への不安が高まっており、政権および与党内でも、不協和音がかまびすしい。

しかし、メルケル首相は事実上、ファーウェイの参加容認で押し切る構えだ。

 ◇ファーウェイ反対論
折しもドイツでは、欧州連合(EU)の大使として複数国に駐在した経歴を持つ元ドイツ外交官ら3人が、中国のためにスパイ行為を働いていた容疑で、家宅捜索を受ける事件が明るみに出たばかりである。

そのあおりで、5Gをめぐる判断が左右されるとの観測も出ていた。しかし、中国と「戦略的パートナーシップ」を築き、中国市場をドイツ経済の「生命線」と見なすメルケル政権は、スパイ事件に動じることなく、ファーウェイ反対論を抑え込もうとしている。

5G問題では、与党キリスト教民主同盟(CDU)内部も紛糾した。(中略)

伝統的に親中の立場を取る連立パートナーの社会民主党(SPD)も、ファーウェイ参加に反対する姿勢を表明している。【2月2日 佐藤 伸行氏 時事】
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フランスも、アメリカの意向に反してファーウェイの参加を容認する方針です。

****フランス、ファーウェイを5G網から排除しないと明言****
フランスは13日、同国の次世代通信規格「5G」網から中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)製品を排除しない方針を明らかにした。その一方で、同社は制約の対象になり得ること、また欧州企業が優先される可能性も示唆した。
 
ブリュノ・ルメール経済・財務相は民放BFMに対し、「ファーウェイに対する差別はない…ファーウェイはフランスの5Gからは排除されない」と明言。
 
その上でルメール氏は、特に核関連施設や軍事施設周辺では「フランス政府は国益を守るための予防策を講じる」と述べ、またノキアやエリクソンといった「欧州の通信企業を優先することがあり得るのは理解できる」という見方を示した。
 
米政府を筆頭に、ファーウェイは中国政府と過度に密接な関係にあり、同社製品がスパイ活動に悪用されるのではないかと危惧する声もある。同社はこうした批判を断固否定している。
 
ドナルド・トランプ米大統領は既に、米企業にファーウェイとの取引を禁じており、同盟諸国にも同様の対応を求めている。 【2月13日 AFP】
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【デジタル課税でもアメリカ利害と衝突するイギリス】
イギリスはグーグル、フェイスブック、アマゾンなど巨大IT企業にデジタルサービス税を課税する件でも、フランスがアメリカと“休戦”したのに対し、アメリカとの対立がみられます。

****英がデジタル課税「4月導入」表明 米は「こちらも勝手に課税する」と警告****
英国のジャビド財務相は22日、スイスで開催中の世界経済フォーラム(ダボス会議)の討論会で、巨大IT企業を対象とした「デジタル課税」を予定通り4月から導入すると表明した。これに対し、同席した米国のムニューシン財務長官は報復措置を取る考えを示し、米英の対立が鮮明になった。
 
(中略)ジャビド氏は、国際的な課税ルールができるまでの「一時的な措置」としたが、ムニューシン氏は「デジタル企業に勝手に課税するのなら、米国も(英国の)自動車会社に勝手に課税することを検討する」と警告した。
 
デジタル課税を巡っては、導入方針だったフランスのルメール経済・財務相とムニューシン氏が同日、ダボスで会談。会談後、ルメール氏はツイッターに「ムニューシン氏と解決に向けて前進するための共通の枠組みで合意した」と投稿し、フランスが税の徴収を2020年末まで先送りする代わりに、米国も同年末までフランス製品に対する制裁関税の発動を見送る“休戦”で合意したことを明らかにした。(後略)【1月23日 毎日】
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【欧州も、アメリカ同様、「自国第一」を求めているだけ】
上記のような欧州各国の動向は、欧州とアメリカの間の溝・亀裂を示しているとの指摘があります。

****米欧同盟の亀裂を露呈、米側が中国やロシアの脅威に結束を求めるも欧州はそっぽ****
米国のポンペオ国務長官、エスパー国防長官が15日、ドイツで開かれた「ミュンヘン安全保障会議」に登壇し、中国やロシアの脅威への対応で欧州に結束を求めた。英独仏から応じる声はなく、米欧同盟の亀裂があらわになった。
 
ポンペオ氏は、中国の通信機器大手「華為技術」(ファーウェイ)について「中国情報機関のトロイの木馬だ」と危険性を主張。第5世代(5G)通信網への華為製品導入に傾く欧州側をけん制した。

ロシアやイランに対しても、米欧がともに対抗すべきだと促した。エスパー氏も「華為と5Gは、(中国の)邪悪な行為の見本のようなもの」と訴えた。
 
続いて登壇したマクロン仏大統領は、華為問題には触れなかった。中国については、デジタル産業への巨大投資で欧州は遅れをとったと指摘し、「欧州の戦略が必要だ」と述べた。ロシアについては「欧州にとっては隣人。米国とは違う」と位置づけ、対話の必要性を訴えた。
 
会議初日の14日には、ドイツのシュタインマイヤー大統領が、米中の競合こそ、平和の妨げになると主張した。トランプ米政権は「自国第一」を掲げ、「国際社会という概念を拒絶した」となじった。
 
5G網への限定的な華為参入を認めた英国は、会議に閣僚級の代表を派遣しなかった。ジョンソン英政権の決定に対し、ポンペオ氏は失望を表明し、改めて華為排除を求めていた。【2月16日 産経】
********************

ただ、トランプ大統領の言動が「亀裂」を印象付けている面もありますが、基本的には各国がそれぞれの国の利害をもとに行動しているというだけのことでしょう。

敢えて言えば、アメリカが自国の行動には「自国第一」を掲げて国際協調を無視しながら、欧州などにはアメリカ主導での協調を求めるあたりに、身勝手さも。

5Gへのファーウェイ参加の問題は、セキュリティーの問題、米中の覇権争いの問題が表向きありますが、根底には中国企業の技術なしには世界標準から遅れてしまう、アメリカも中国企業に代わるものを提供できないという現状があります。

中国と覇権を争うアメリカとしては中国企業の技術を使う訳にはいかない、だからと言って「お前らも使うな」と言われても欧州各国はおいそれとはアメリカに従えません。

 

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新型肺炎  日本からの支援が動かす中国の人々の心 社会・技術変化促進作用も

2020-02-15 21:29:26 | 疾病・保健衛生

((日本からの中国への支援物資のラベルには)宛先のほかには、日中の国旗と共に「加油(がんばれ)!中国」というメッセージ。さらに下部には、小さな文字で、「山川異域 風月同天」と書かれていた。【2月3日Jタウンネット】

【日本からの心温まるメッセージが多くの中国人の感動を呼んでいる】
新型コロナウイルス肺炎は死者が1500人を超え、この先の見通しもわからない情勢です。
その影響は、疾病による犠牲者にとどまらず、経済・社会・政治の広範な分野に及んでおり、その影響は今後更に深刻化することが予想されています。

そうした状況ですから、今回のウイルス騒動がもらした「効果」と言い方をすれば不謹慎のそしりはまぬがれませんが、あえて明るい面を探せば、中国への日本の官民レベルの多方面の支援によって、これまでの日中間の歴史問題のくびきから一歩踏み出せたような反応が中国国内で見られることでしょうか。

****日本にこんなに良くしてもらって、われわれはどうお礼をしたらいいのか=中国メディア**** 
中国メディア・今日頭条は12日、「日本よ、こんなにしてくれて、中国はどうやってお礼をすればいいのか」とする記事を掲載した。

記事は、10日の夜に安倍晋三首相が自民党の幹部会を開き、同党の国会議員が1人あたり5000円を議員報酬から控除し、新型コロナウイルス感染拡大抑止に取り組む中国に寄付することを決めたと紹介。

これまで中国に友好的だったか、反中的だったかに関わらず寄付を行うとし、二階俊博同党幹事長が「友好的な隣国として当然のこと」と語ったことを伝えた。

また、二階氏が7日に中国大使館を訪れて、孔鉉佑中国大使に対して「日本国ができることはいかようなことでも対応したいと思っているから、遠慮なくお申し出頂きたい」と述べ、中国とともにウイルスと戦う意向を示したとしている。

さらに、今回のウイルス感染拡大を巡っては、日本各地からマスクやゴーグル、防護服などの支援物資が続々と届けられるとともに、漢文を用いた応援メッセージも数多く送られたとし、「中国人は感動しない訳にはいかなかった」と評した。

そのうえで「中国を助けることが、自身を助けることになるということを日本も良く知っているから支援をするという面もある。とはいえ、これは本当に心からの支援であり、まさに雪中に炭を送る行為ではないか」とするとともに、中国人は恩と恨みをしっかり区別して対応する民族であり、受けた恩には報いるのが当然の礼儀であるとする一方で「日本よ、あなたは中国に難題を差し向けた。日本の今回の行動に対して、中国はこれからどうやって返礼をすればいいのだ」とし、非常に大きな恩義を抱いたことを表現している。【2月14日 Searchina】
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上記のような、日本からの支援に感動を禁じ得ない、日本への感情が今回の件で変わった・・・・という類の記事は連日紹介されています。

もちろん、日本側の真意をいぶかる声もありますが、それにしても・・・という声が多いようです。

*****日本はなぜ「新型肺炎」でこんなに我が国を支援してくれるのだろうか=中国メディア****
日本は新型肺炎問題を抱える中国に、いち早く支援を行ったことで中国から大いに感謝されている。4日には、中国外交部の華春瑩報道局長が「日本政府だけでなく多くの地方企業がマスクやゴーグル、防護服などの防疫物資を自発的に寄贈してくれた」と謝意を表明している。中国メディアの今日頭条は9日、日本はなぜこんなに中国を支援してくれるのかと疑問を投げかけ、分析する記事を掲載した。

今回の新型肺炎の問題では、中国への支援は世界各地から寄せられているが、なかでも日本の政府や地方自治体、企業、団体による支援が広く伝えられるということは、これまであまりなかったことだ。

実のところ、日本はこれまでも様々な形の支援をしてきたが、中国ではあまり多く語られることはなく、中国人の多くが知らないままだ。

対中ODAが実施されたことも多くの中国人は知らないが、約40年間にわたり、有償資金協力(円借款)、無償資金協力、技術協力の総額約3兆円以上の援助が行われてきた。

記事は、2008年の四川大地震では日本からいち早く救援隊が駆け付け、義援金や必要物資が送られ、2011年の東日本大震災の際には逆に中国からの支援を受けたと紹介。記事は、日本と中国は互いに困難な時期に助け合ってきたので、今回も日本は中国に特別の支援を示してくれたのだと分析している。

記事に対して、「中国は恩を忘れない国だ」、「隣国なのだから助け合うべき」など、日本の支援に感謝し、日中関係の親密さに好意を見せる意見が多く寄せられているが、中国が日本を特に持ち上げているのは、春に予定されている習近平国家主席の訪日を意識してのことだという見方もある。

中国の日本に対する態度は、米国への批判的な態度とは対照的という指摘もあり、いろいろな思惑がありそうだ。

とはいえ、日本の支援が広く伝わり感謝されていることはうれしいことである。【2月13日 Searchina】
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おかげで、旧日本軍を荒唐無稽な悪者にしたてることが多い抗日ドラマにも変化が出ているとか。

****日本の支援に感謝!中国山西省のテレビ局、抗日ドラマの放送休止****
中国版ツイッター・微博(ウェイボー)上の投稿によると、中国山西省のテレビ局、山西衛視は9日、それまで放送していた連続ドラマ「紅高粱」(紅いコーリャン)を別のドラマに差し替えた。 

山西衛視は、視聴者からの問い合わせに、「ドラマのこの後の20話には反日的な内容が含まれている。日本が最近、中国の感染症との闘いに、前例のないほどの友好を示していることに鑑み、後の20話についてはしばらく放送を見合わせることにした。ドラマ全話は今後、再放送されることになる」と回答したという。【2月13日 rコードチャイナ】
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今回の日本からの支援が中国側の琴線に触れた理由のひとつに、「日本の友人たちの漢詩大会状態になっている」との声まで上がるぐらいに、支援物資の漢詩が添えられることが多く、そのことが日本と中国の文化的な深い絆を再認識させていることがあるようです。

****援助物資に漢詩添え 日本からの心遣い 中国で話題「受けた恩は何倍にも」****
「遼河雪融 富山花開 同気連枝 共※春来」(遼寧で雪が解ければ 富山で花が咲く 同じ木でつながる枝のように 春が来るのをともに望む)
 
新型肺炎が広がる中国に対し、日本から漢詩や中国古典の一節を引用したメッセージを添えてマスクなどの支援物資を送る動きが相次いでいる。

粋な心遣いは中国で「同じ漢字文化圏ならでは」とインターネットで拡散され、病気との闘いが続く緊張感の中、明るい話題になっている。
 
富山県は10日、友好都市の中国東北部・遼寧省へマスク1万枚を発送。段ボール箱の一部に冒頭の漢詩をつづった紙を張り付けた。作者は同省出身の県職員、孫肖さん(40)。漢詩のルールに従って、両地を結ぶ思いをつづった。「互いに寒い土地。事態が早く落ち着き、楽しい春が来てほしい」と話す。
 
京都府舞鶴市が大連市に宛てたメッセージは「青山一道同雲雨 明月何曾是両郷」。唐の王昌齢による詩の一節
だ。同市によると「風も雨も乗り越えた親友同士 別々の場所で同じ月を見ている」という意味を込めた。

マスクを送る際に同市みなと振興・国際交流課内で相談し、大連からの国際協力員、曲振波さんのアドバイスを受けて決定した。
 
苦境が続く中国ではSNSを通じて日本側の支援に関する話題が広がり、主要メディアも相次いで報道。中国では小学校から漢詩をしっかり習い、クイズ形式のテレビ番組が人気を集めるほど教養として浸透している。「受けた恩は何倍にもして返さなくてはならない」と、中国の故事成句を盛り込んだネットの書き込みも目立っている。
 
中国のネットで日本からの支援が紹介される際に付記されることの多いのが「山川異域 風月同天」。武漢の大学などへマスク2万枚以上を送った日本青少年育成協会(東京都)が添えた言葉だ。

奈良時代の皇族、長屋王が唐の高僧、鑑真を日本に招く際に送ったとされる詩の一節。同協会は中国語検定HSKを日本で実施していて、中国の大学教員を日本に招く機会も多い。

「土地は違っても、同じ空の下で自然の営みは変わらない」との意味を込めた狙いを同協会の本田恵三事務局長は「中国の人たちに最も伝わりやすい方法だと考えた」と話し、中国での盛り上がりに「思わぬ反応だったが、気持ちが伝わってうれしい。早く肺炎が終息し、交流を続けたい」と話した。 ※は目へんに分 【2月13日 毎日】 
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日本からの漢詩に対する中国国内の好意的評価に対し、一部に「それにひかえ、中国は・・・」といった声も出ていることを諫める記事も出ているとのことですから、逆に言えば、それほど日本からの「漢文メッセージ」が話題になっていることでしょう。

****日本からの漢文を称賛し、中国メディアをやゆするのは間違い―中国紙編集長****
2020年2月12日、中国紙・環球時報の胡錫進(フー・シージン)編集長が自身の微博アカウント上で、新型ウイルス感染拡大に対する日本からの「漢文応援メッセージ」をめぐるネット上の議論に苦言を呈する文章を発表した。 

胡氏は、ここ2日の間に中国のネット上で日本からの支援物資に付された漢文のメッセージが称賛されていることを紹介するとともに、「中国人が発するのは『武漢頑張れ』『中国頑張れ』ばかりだ」と比較し、中国政府系メディアを「教養がない」と揶揄(やゆ)する書き込みが拡散していると紹介した。 

その上で、「漢文自体は素晴らしいし、間違いなく日本人の善意によるものだろう。しかし、漢文を『武漢頑張れ』と比較することは間違っている」と主張。「対比は一部ネットユーザーが不満やうっぷんを晴らすために書き込んだものである」との見解を示している。(後略)【2月14日 レコードチャイナ】
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いずれにしても“今回の新型コロナウイルスの大流行は、まさに未曾有の事態とも言えるが、一方で様々な場面で助け合いの精神も見られている。日本からの心温まるメッセージが多くの中国人の感動を呼んでいる。”【2月15日 Searchina】ということであれば、深刻な災いが続く中で、ややほっとするものがあります。

ウイルス騒動以前の訪日観光客の増加による日本理解の進展と相まって、今後の日中関係の基礎を形作るものでしょう。

【技術革新・社会変化を加速させる面も】
今回のウイルス騒動が社会に与える影響ののなかには、中国の「超監視社会」だか「幸福な監視社会」だかを更に進める動きがある一方で、SARSがネット通販を加速させたように、将来に向けての技術変化を加速させるという作用もあるのでは・・・との指摘も。

****中国、最先端技術フル活用 ビッグデータで感染者追跡/ワクチン開発にAI 新型肺炎****
新型コロナウイルスによる肺炎の感染が深刻な中国で、感染の蔓延(まんえん)を防ごうと、ビッグデータや最先端技術が活用されている。非常事態のなか、個人情報が当局に使われることに「やむなし」との声がある一方、「プライバシーはどうなる」との懸念もある。

 ■「手配犯扱い」批判も
「この便に乗っていた人を至急探しています!」
中国各地の地方政府のホームページ(HP)には、感染者が利用した交通機関を公表し、濃厚接触が疑われる人に現地の保健衛生当局への連絡を呼びかけるメッセージが並んでいる。
 
情報は具体的で、感染者が乗った高速鉄道や飛行機、バスなどの便名や運行日時、車両番号などが掲載されている。
 
たとえば山東省政府は1月下旬、煙台市内で確認された感染者の分刻みの足取りをHPに掲載した。
1月20日 11時12分 三連区駅から公共バス乗車 11時26分 和平家電駅で下車――
 
監視カメラなどで把握した情報とみられ、「まるで指名手配犯扱いだ」との批判も出た。
 
詳細な情報が開示される裏には、交通当局の協力がある。鉄道当局は感染者追跡のためのビッグデータ分析専門チームを立ち上げ、感染者の移動経路情報を各地の保健衛生当局に提供。中国の航空各社やバスの運行当局も同様で、感染者が乗っていたとして13日までに公表された列車や飛行機、長距離バスなどは計約750便にのぼる。
 
保健衛生当局と交通当局がタッグを組んだ大追跡により、国家衛生健康委員会によると、13日までに中国本土で追跡できた濃厚接触者は49万人を超える。
 
これに対し、SNS上では「非常事態だから仕方がない」との意見と、「中国からプライバシーという言葉は完全に消えた」といった批判が入りまじり、賛否が割れている。
 
感染対策に企業も最新技術を続々と投入している。
多くのIT企業が拠点を置く北京市の中関村。2年後の冬季五輪に向けて整備された高速鉄道の清河駅では高性能カメラが構内を歩く人々に向けられている。
 
新華社通信によると、カメラは顔認証機能で個人を特定し、同時に赤外線で体温も計測できる。発熱が確認されれば、直ちに係員が誘導して検査する仕組みだ。技術は検索大手・百度が提供し、今月2日から運用が始まった。
 
ほかの企業も競うように支援に乗り出している。
感染者が集中する湖北省武漢市。突貫工事で完成した火神山病院では、通信キャリアの中国電信と通信機器大手・華為技術によるテレビ電話での遠隔診療システムを導入。9日に北京の軍の病院と結んで初の遠隔診療が行われた。
 
IT大手アリババ集団は、新型肺炎のワクチン開発を促進するため、世界各地の公共研究機関に自社の人工知能(AI)の計算機能を無料で提供している。
 
中国では、2002~03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した際、感染を恐れて外出を控える人が続出。そのときに可能性を感じ取った人々がネット通販を始め、その後の中国のニューエコノミーをリードした面がある。
 
今回の新型肺炎では、人手不足に悩む医療現場や、接触感染の危険を減らすための在宅勤務の現場で、遠隔コミュニケーションの技術が今まで以上に積極的に使われている。その経験が新たなイノベーションの創出につながると期待する声も企業の間で出ている。【2月15日 朝日】
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中国  新型コロナウイルス肺炎対策で批判も噴出する習近平主席

2020-02-14 22:06:39 | 中国

(マスク姿で北京市内の施設を視察する中国の習近平国家主席=10日(新華社=共同)【2月12日 産経】)

【新型肺炎対策で陣頭に姿を見せない習近平主席】
新型コロナウイルス肺炎の感染拡大は中国の社会・経済・政治にも大きな影響を与えています。
(日本も、横浜のクルーズ船対応を巡って「一体、どうするつもりなのか?」と、各国から批判が高まっており、また、今後の話としては、もし感染拡大が長引くと東京オリンピックの開催も危うくなるという大きな政治リスクが浮上してきます。もちろん経済への深刻なダメージの問題もあります。そのあたり、日本の話はまた別機会に)

そのなかで、今回は中国政治への影響の話。

より大きな視点では、2月8日ブログ“中国  新型コロナウイルスの流行について警鐘を鳴らした医師の死が呼び起こした情報統制への不満”でも取り上げたように、共産党支配体制への不信・不満という問題がありますが、今日は更に絞り込んで、習近平国家主席への批判に関するもの。

2月3日、習近平国家主席は共産党指導部全体の意見として、政府の初期の対応に問題があったことを初めて認める異例の見解を示しました。

****新型肺炎 中国 習主席 ”政府の初期対応に問題” 初めて認める**** 
新型コロナウイルスの感染拡大について中国の習近平国家主席は、共産党指導部全体の意見として、政府の初期の対応に問題があったことを初めて認めたうえで、予防対策を徹底し、国を挙げて感染拡大を抑え込む考えを示しました。

中国国営の新華社通信によりますと、習主席は、新型コロナウイルスの感染拡大への対応について3日、共産党の最高指導部 政治局常務委員会の会議を開きました。(中略)

会議では、感染拡大が最も深刻な湖北省での医療体制の拡充に力を入れる方針を示したうえで、習近平指導部全体の意見として「今回明るみに出た政府の対応の欠陥や至らなかった点を教訓とし、危機管理の体系を改善して緊急対応の能力を高めなければならない」として政府の初期の対応に問題があったことを初めて認め、対応の在り方を改善していく考えを示しました。

ただ、初期対応に具体的にどのような問題があったかは明らかにしませんでした。(後略)【2月4日 NHK】
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その後も武漢をはじめとして深刻な感染が続く中で、国家の最終責任者である習近平主席の姿がしばらく見えませんでした。当然のように、この危機にあって何をしているのか?「雲隠れ」しているのか?という批判も出てきます。

****習氏、ようやく現場視察=新型肺炎、広がる国民の不満―中国 ****
11日付の中国共産党機関紙・人民日報によると、習近平国家主席は10日、北京市内の病院を訪れ、湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎対策活動を視察した。

習氏による新型肺炎に関連した現場視察は初めて。新型肺炎の発生後、地元当局の初動が遅れた上、習氏が対応を李克強首相に丸投げするような態度を取り国民の間で不満が広がる中、重い腰を上げた形だ。
 
習氏はマスクを着用し、新型肺炎患者が入院する病院を訪問。ネット映像を通じて湖北省武漢市の病院関係者を激励し、現地で指揮を執る高官とテレビ会議を行った。

習氏は「武漢の情勢は依然かなり厳しい」と認めた上で、「もっと果断な措置を取らなければならない」と指摘し、早急な医療態勢の強化を指示した。
 
習氏が公の場に現れたのは5日に行ったカンボジアのフン・セン首相との会談以来。習氏は7日にトランプ米大統領と電話会談し、新型肺炎対策で協力を要請するなどしたが、ウイルスのまん延におびえる一般国民にとっては「雲隠れ」の状態が続いていた。
 
習氏に代わって存在感を高めているのが、肺炎対策指導グループのトップに就任した李首相。李首相は1月27日に武漢入りするなど奔走した。これまで自らに権限を集中しトップダウンの手法を取ってきた習氏のひょう変ぶりに対して、「肺炎対策の責任を李首相に押し付けている」(知識人)との見方が出ていた。
 
さらに、昨年末に新型肺炎に警鐘を鳴らしたにもかかわらず、「デマを流した」として警察の処分を受けた医師、李文亮氏が2月7日に新型肺炎で死去すると、追悼ムードと共に習指導部への反発が拡大。

情報公開を求める声の高まりを意識したかのように、習氏は10日の視察で「透明性のある情報公開で大衆の懸念に応える」と強調した。
 
しかし、反対意見を力ずくで抑え込む習指導部の態度に変化はない。中国の人権問題を扱うサイト「維権網」によると、弁護士でジャーナリストの陳秋実氏は6日から行方不明になっている。陳氏は武漢を訪れ、当局の情報隠しや貧弱な医療態勢を批判したため拘束されたもようだ。【2月12日 時事】 
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李克強首相に丸投げして、うまくいかない場合はその責任をとらせる・・・ということでしょうか。
一方で、武漢・湖北省地方政府の責任を追及する強権的な手法で、自身への求心力を維持しようとしているとも。

****習近平氏、強権で求心力維持 新型肺炎、幹部ら徹底追及****
肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの中国全土での感染拡大を受け、習近平指導部が強権的な手法を強めている。地方政府が混乱し、当局への批判も広がる中、問題のある幹部らの責任を徹底追及するよう号令をかけた。

習指導部の権力基盤がまだ弱かった政権の1期目に、反腐敗闘争で求心力を高めたのと同じ構図だ。
 
湖北省党規律検査委員会は4日、同省赤十字社の副会長を免職とするなど3人を処分した。赤十字社が寄付を受けたマスクの種類や病院への配布数の情報公開がいい加減だとして、インターネット上で批判が集まっていた。同省黄岡市では幹部級6人が免職になるなど、公表されているだけで400人以上の地方政府幹部らが処分されている。
 
「多数の人が失業に直面している。国が(感染源とされる)野生動物売買をしっかり規制していれば」
中国のネット上では、当局による削除が追いつかないほど、批判が渦巻く。
 
北京の共産党筋は「(感染が発生した湖北省の)武漢では幹部らが責任の押し付け合いに必死だ。全国的に(当局内の)足並みが乱れている」と指摘する。
 
習氏は3日の会議で「全国が碁盤の石のように一体とならねばならない」と党中央の統一的な指導を指示したが、トップダウンによる指揮命令系統の乱れも示唆した形だ。さらに「党中央の指示に力を尽くさない者、責任を人になすりつける者」については、本人だけでなく党や政府の幹部も問責する考えを示した。
 
国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の開幕が1カ月後の3月5日に迫ってきた。米国が拠点の華字サイト「博聞」は「人心鼓舞のため予定通り開催を主張する習派と、延期を訴える李克強首相ら反対派が対立している」と報じた。だが、北京の大学教授は「開催すれば感染拡大の危険があるだけでなく、湖北省や武漢市の代表は出席できないだろう」と指摘した。
 
共産党筋は「トップへの信頼度が下がっているのは事実だ」としつつも、「習国家主席の他に重責を担える人物はいない。中枢にいる重鎮も多くが腹心で、大きく権力基盤が揺らぐことはない」と話している。
 
一方で、カンボジアのフン・セン首相が5日、北京を訪問した。感染拡大が続く非常事態ながら、この時期にも外交日程をこなせる余裕が習指導部にあると内外に示す思惑が透ける。【2月5日 産経】
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その後、13日には湖北省の共産党トップが解任され、習近平主席に近い人物が後任とされたこと、併せて武漢の党トップも更迭されたことが報じられています。

地方政府の対応に問題があったことは事実ですが、党中央の対応は?

全人代については、この状況では3月5日の開催は無理でしょう・・・今日、延期の検討が報じられていますが、習近平国家主席の訪日スケジュールにも影響してきます。おそらく訪日も延期でしょう。

****中国、全人代延期で調整 新型肺炎で3月下旬以降に*** 
肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中国共産党・政府が3月5日から北京で開催する予定の全国人民代表大会(全人代=国会)を延期する方向で調整していることが13日、分かった。

3月下旬に開く案が浮上しているが、さらに遅れる可能性もある。異例の延期に踏み切るかどうか感染のピークを見極めながら近く最終判断する。複数の党・政府筋が明らかにした。
 
延期されれば4月上旬を軸に調整してきた習近平国家主席の国賓訪日や経済運営に影響するのは必至。全人代はその年の主要政策を打ち出す重要会議で、1998年以降は毎年3月5日から10日間程度開かれてきた。【2月14日 共同】
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【今後の庶民の生活悪化が長期化・深刻化すれば、党指導部への批判も高まる懸念】
習近平主席の行動に話を戻すと、2月10日の北京視察についても批判的にとらえる向きもあるようです。

****習近平氏の北京視察伝えた直後に「武漢へ行け!」 人民日報、アプリ配信で巧妙批判か**** 
「武漢へ行け!」。中国共産党機関紙、人民日報が通信アプリ「微信」に配信した記事の見出しが国内外で注目を集めている。

習近平国家主席による北京視察を伝える記事に続いて、別記事のこの見出しをアップしたためだ。新型コロナウイルスの感染対策で「自らの指揮」を強調する習氏が、いまだ被害が深刻な湖北省武漢を訪れていないことへの巧妙な批判ではないかとの憶測を呼んでいる。
 
習氏は10日、マスク姿で北京の居住区や病院を視察し、感染防止に取り組む市民や患者の治療にあたる医療従事者を激励。人民日報はアプリ内の記事一覧で、この視察を伝える記事に続いて「武漢へ行け!」との見出しをつけた記事を掲載した。湖北省の各市に対する他地域の支援の分担が決定したことを伝える内容で視察とは無関係だった。
 
ただインターネット上では、2つの記事の見出しが並んだネット画面を保存した写真が拡散。米政府系のラジオ自由アジア(RFA)はこれを取り上げ、感染拡大の中で習氏の動向が久しく伝えられなかったことに「世論の不満」が高まっていたと伝えた。香港紙の蘋果日報(電子版)は「編集者が武漢出身だったのかもしれない」との専門家の談話を紹介した。
 
当局の厳しい言論統制を受ける中国メディアは、ときに巧妙な手口で権力を批判する。昨年7月に天安門事件で民主化運動の武力弾圧を主張した李鵬元首相が死去した際、中国紙の北京青年報は1面で訃報記事の下に花束を受け取って喜ぶ学生たちの写真を掲載し、物議をかもした。【2月12日 産経】
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意図した構成であればずいぶんと大胆な批判になりますが、どうでしょうか・・・

****習近平、やっとの現場視察でも隠せぬ「上から目線」****
2月10日午後、新型コロナウイルスで大混乱に陥っている14億中国人が、一心に待ちわびていた「皇帝様」(習近平主席)が、首都・北京に姿を見せた。
 
幹部用の青いマスクをしっかり着用した習主席は、福建省・浙江省勤務時代からの腹心の部下である蔡奇北京市党委書記を伴って、朝陽区安貞街道安華里の社区に現れたのだった。
 
あらかじめ厳選されたに違いない住民たちに近づいた習主席は、「いまは非常時だから握手はやめよう」と言って声だけかけた。そして街頭で住民たちを前に仁王立ちになり、「いまこそ『初心を忘れず、使命を肝に銘じる』(習近平思想のスローガンの一つ)ことを主題とした教育成果を展開するのだ!」と檄を飛ばしたのだった。

モニター越しに武漢の医師たちに指示
続いて習主席は、首都医科大学附属の北京地壇病院に赴き、一階にある監視コントロールセンターの前に立った。正面には大型のスクリーンが置かれ、スクリーンの向こう側には、防護服姿の武漢市の3病院(金銀譚病院、協和病院、火神山病院)の医師たちが、緊張気味に直立不動で立っていた。
 
現場の医師たちを見据えた習主席は、青マスクを付けたまま、両手を後ろに組んだり、人差し指を突き上げたりしながら、「武漢保衛戦と湖北保衛戦に勝利するのだ!」と、再び檄を飛ばした。

その後は、得意の長時間にわたる「重要講話」を述べたのだった。講話の原稿の段落が変わるたびに、医師たちは一斉に拍手していた。
 
習主席の最後の訪問地は、朝陽区疾病予防コントロールセンターだった。習主席はここでも再度、北京市の幹部たちを前に、長時間にわたる「重要講話」をぶったのだった。
 
この「習近平主席の北京視察」の重要ニュースは、以後、丸二日にわたって、CCTV(中央広播電視総台)で繰り返し流された。かつ視察のニュースに続いたのは、「共産党のおかげで退院できました!」と党に感謝する、全国の元コロナウイルス患者たちの「感動的なインタビュー」だった。

「自ら指揮」としながら李克強首相を武漢に派遣
こうしたニュース映像を見ていて、今回の新型コロナウイルスの一連の惨事の中で、習近平政権の「マイナス部分」が、いくつも露呈してきているように思えてならない。
 
習近平政権が目指すのは「強い中国」であり、習近平主席が目指すのは「強い指導者」である。平時には、これらは非常に輝いて見える。中国人は「自分は強い指導者に導かれた強国の一員なのだ」と自負できるからだ。
 
ところが「強い指導者」である習主席は、第一に、誰に相対しても「上から目線」にならざるを得ない。なぜなら、皇帝様と対等の臣民などいないからだ。皇帝様は常に皇帝然と構えていて、初めて皇帝様の威厳が保てるのである。
 
共産党の厳粛な会議などで、それをやるのは構わない。だが国民がバタバタ斃れている現在、求められているのは「国民目線の指導者」である。
 
少なからぬ中国人は、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)騒動の時、胡錦濤主席と温家宝首相が、マスクも付けずに病院の病室に慰問に訪れ、患者たちの手を取って「一刻も早く治るように」と涙目になって慰問していた様子を覚えている。

時代が違うと言われればそれまでだが、前任者たちは現場の医師たちを直立不動にして、長々と「重要講話」など説かなかった。「スクリーンを通して命令する」こともなかった。
 
第二に、習近平主席は「強い指導者」なので、何事においても責任者は自分であり、決定権も自分にあることを誇示してきた。だから今回も「自ら指揮し、自ら手配する」と宣言した。
 
ところがフタを開けてみたら、新型コロナウイルスの対策小グループ長には、ナンバー2の李克強首相を就かせた。そして、旧正月3日にあたる1月27日、李首相に「封鎖都市」武漢へ行かせたのである。
 
それでは習主席はと言えば、「中南海」に蟄居してしまった。習主席が何日も顔を見せないため、日本の某主要紙などは、「習主席もコロナウイルスに感染したのでは?」と憶測し、裏取り取材に走っていた。
 
こうしたことから、中国のネットやSNS上では、「自ら指揮し、自ら手配するお方はどこへ行ったのか?」という書き込みまで見られた(一瞬にして削除されたが)。
 
第三に、習近平政権における部下の管理術の失敗である。現在の中国は「習近平新時代」であり、政治家や官僚たちに求められるのは、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の学習」である。もっと簡単に言えば、習近平主席の日々の命令を、忠実に実行することだ。
 
前任の胡錦濤時代は、日本で言うなら「大正デモクラシー」のような時代で、政治家や官僚たちは、それぞれの範囲内で一定の権限を持っていた。そのため、賄賂が横行するという悪弊もあったが、政治家や官僚たちが自分の頭で考え、生き生きと働いていた。
 
ところが現在、政治家や官僚たちが見ているのは「皇帝様」だけであり、「皇帝様」にだけに忠実である。また、そのような志向を持った人材が、多く登用されるようになった。
 
しかし、いくら偉大な「皇帝様」であっても、日本の26倍もある国土で、14億人もの人間に目配りすることは不可能である。そのため、政治家や官僚の「不作為」(サボタージュ)が目立つようになった。今回、湖北省や武漢市ではこうしたことが顕著に出て、対応の遅れにつながったのである。

コロナウイルスが苦しめる習近平の支持層
第四に、新型コロナウイルスが、習近平主席の「岩盤支持層」である庶民層(中国語で言う「老百姓」)を直撃していることである。
 
歴代の政権で言えば、毛沢東がやはり庶民層を岩盤支持層にしていた。続く鄧小平は人民解放軍、江沢民は上海人と経済界、胡錦濤は8000万人の中国共産主義青年団(共青団)が岩盤支持層だった。

どの政権も、自分の岩盤支持層には特別気を遣い、反感を買わないように努めてきた。アメリカでも、ドナルド・トランプ大統領が、誰よりも岩盤支持層を優遇することは周知の通りだ。
 
習近平政権下でも、2012年以来の「八項規定」(贅沢禁止令)でひっ捕らえたのは幹部たちであり、2015年夏の株式暴落の時、損をしたのは富裕層や中間層だった。また、2018年以来のアメリカとの貿易摩擦でも、企業経営者が打撃を受けた。だが今回ばかりは、習近平主席の岩盤支持層である庶民層が、犠牲になっているのである。
 
さらに今後、新型コロナウイルスが徐々に終息していったとしても、中国の経済的損失や、国際的な信頼失墜は計り知れない。その意味で当分間、習近平政権の試練が続くだろう。【2月13日 近藤 大介氏 JBpress】
******************

第一の「上から目線」云々は日本的には問題でも、中国では当たり前のことなのかも(それゆえ、国民目線に立った温家宝首相が人気があったところでもありますが)

第二の「自ら指揮し、自ら手配する」を実行していないことに関しては、先述のように、事態が悪化したとき李克強首相に責任を押し付けるとの思惑もあるのかも。

第三の習近平一強体制の問題は、習近平氏が発言するまで誰も積極的に動かなかった、皆が最高指導者の顔色を窺っているということで、中国共産党体制の硬直化を示すもので大きな問題でしょう。

第四の庶民層の被害については、習近平指導部も重視して対応を求めています。

“習近平氏「大規模リストラ許すな」 中国指導部、社会不安を警戒”【2月13日 産経】
“習近平主席、新型肺炎防止策の行き過ぎに警告、経済に悪影響―海外メディア”【2月14日 レコードチャイナ】

ただ、今後の推移次第では、失業・景気悪化で庶民の暮らしに甚大な打撃があることも予想され、党指導部への不満も高まることが想定されます。

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カンボジア  野党弾圧・“媚中”外交のフン・セン首相「本当の病は人々の不安だ。」 この点には同意

2020-02-13 23:08:01 | 疾病・保健衛生

(13日、カンボジア南部シアヌークビル港沖に到着したクルーズ船「ウエステルダム」(ロイター=共同)【2月13日 産経】)

【フン・セン首相の野党弾圧にEUが経済制裁】
カンボジアのフン・セン首相が強権的な政治姿勢で野党を弾圧、実質的な一党支配体制をとっていることは、これまでも度々取り上げてきました。

****カンボジア野党指導者初公判 首相就任35年フン・セン氏、弾圧強化に懸念の声****
カンボジアで、政府転覆を図ったとして国家反逆罪に問われた旧最大野党「救国党」創設者、ケム・ソカ氏の初公判が15日、首都プノンペンの裁判所で開かれた。

首相在任35年を迎えたフン・セン氏は中国の後ろ盾を背景に独裁色を強め、旧野党陣営の弾圧を強化。自身は「あと10年、首相にとどまる」と宣言しており、旧野党陣営は弾圧継続への懸念を強めている。
 
ケム・ソカ氏は救国党党首だった2017年9月、外国政府と協力して政権の転覆を画策したとして逮捕され、自宅軟禁下に置かれていた。ケム・ソカ氏逮捕で救国党は解散を余儀なくされ、18年7月の下院選では与党・人民党が全125議席を独占した。
 
この日の公判では証拠の開示などが行われ、判決までには約3カ月かかる見通し。ケム・ソカ氏は15日、自身のフェイスブックで「私の活動は人権と民主主義に基づき、平和的に行われていた」とし、起訴内容を否認する意向を示した。
 
欧米などの国際社会は政権による野党弾圧に批判を強めており、欧州連合(EU)は武器以外の品目を無関税でEUに輸出できる協定の見直しを検討している。EUは2月にも見直しについて判断を示す見通しで、公判の行方を注視している。
 
フン・セン氏は、1985年1月に当時のプノンペン政権閣僚評議会議長(首相)に就任して以降、強権的な手法を維持する。ケム・ソカ氏の訴追もその一環だ。2017年には野党寄りの英字紙に巨額の税金を課して発行停止に追い込んでもいる。
 
特に締め付けが強化されたのは昨年夏ごろだ。フランスで事実上の亡命生活を送っていた政敵、サム・レンシー氏が帰国を表明したため、反対勢力結集を懸念し、旧野党陣営の70人以上を拘束した。
 
元救国党幹部のミーチ・ソバンナラ氏も違法な抗議活動を行ったとして昨年8月に逮捕され、12月に釈放された。ソバンナラ氏は「カンボジアは民主国家なのか。警察官も裁判官も検察官も与党の息がかかった人物。三権分立も機能していない」と批判する。フェイスブックで政権を批判した文章をシェア(共有)しただけで逮捕された例もあったという。
 
弾圧に対して欧米諸国が反発を強め、経済制裁が検討されても、フン・セン氏が強気の姿勢を崩さない背景には中国の支援がある。昨年1〜8月にカンボジア政府が認可した投資総額60億ドル(約6600億円)のうち、中国は35・31%と2位の日本(7・87%)を大きく引き離す。人権問題に口を挟まず投資を続ける中国はフン・セン氏にとって好都合なパートナーだ。
 
フン・セン氏は14日に首相就任35年を迎え、プノンペンで開かれたパーティーでの演説で首相職を退く意向はないことを宣言。「カンボジアは民主国家であり、父から子への権力移譲はない」として、息子が後を継ぐという噂を否定したが、「フン・センの後継者はフン・センだ」と述べ、首相の座は簡単に明け渡さないことも強調した。
 
ソバンナラ氏は「フン・セン氏の権力基盤は強固で、首相から退く意向はない。今後も自由は奪われ続けるだろう」と懸念。日本など諸外国がさらに圧力を強化するよう求めている。【1月15日 産経】
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上記記事にもEUの対応ですが、変化が見られないフン・セン政権に対し、経済制裁に踏み切るようです。

****EU、カンボジアに「経済制裁」 野党弾圧を深刻視****
カンボジアのフン・セン政権の野党弾圧を深刻視する欧州連合(EU)の行政府、欧州委員会は12日、事実上の経済制裁となる同国製品輸入時の優遇関税を一部停止すると発表した。

同国の対EU輸出総額の約5分の1が停止対象で、8月12日から施行予定。カンボジアは輸出の45%がEU向け(2018年)。経済的打撃となりそうだ。
 
カンボジア外務省は「不当な決定で遺憾だ」との声明を出した。
 
欧州委は12日の記者会見で「組織的かつ深刻な人権侵害」が続いていることを部分停止の理由に挙げた。【2月13日 共同】
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欧州諸国全体にとってはカンボジアなんて“遥か遠い異国”にすぎないと思われますが、EUが経済制裁という形で関与を強めているのは、野党指導者サム・レンシー氏がフランスで亡命生活を送っていたことで、インドシナに特別の思い入れのある旧宗主国フランスを通じて何らかのパイプが出来ているのでしょうか。

カンボジアにとっては、中国との関係を強化しているとは言え、“カンボジアは輸出の45%がEU向け”という現実への制裁の影響は決して小さいものではないでしょう。
それでも、フン・セン首相の強気姿勢は変わらないようです。

【“媚中”とも揶揄されるフン・セン首相「本当の病はコロナウイルスでなく(人々の)不安だ。」 これは正論】
そのフン・セン首相の強気を支える中国との関係ですが、新型コロナウイルス肺炎「COVID―19」に関して、多くの国が中国人の入国制限等の措置に踏み切るなかで、唯一中国との往来を維持することを表明するなど、“中国に媚びている”ともとれるような対応を見せていることは、2月5日ブログ“北朝鮮とカンボジア 中国頼みの両国、新型肺炎では対照的な対応”で取り上げました。

新型肺炎 カンボジア “特別な対策取らないことで中国を支援” 【1月31日 NHK】
新型肺炎、媚中貫くカンボジア【2月3日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
中国、カンボジア首相の武漢訪問の申し出を断る―中国メディア【2月5日 レコードチャイナ】

2月5日ブログで書いたように、中国との関係が頼みの綱ともなっているフン・セン首相が、“媚中”的な中国重視対応をとっている・・・というのは間違いないことでしょう。

ただ、そうした外交的配慮だけでなく、首相自身が武漢訪問を申し出るなど、現在の“新型肺炎騒動”に対し、カンボジア内戦という修羅場・地獄を経験したフン・セン首相としては独自の認識・見解もあるようです。

日本を含めて各国が寄港を拒否していた香港を出航したクルーズ船「ウエステルダム」の入港をカンボジアが認め、明日14日にも下船が始まるようです。船は今日午後8時ごろ、カンボジア南部のシアヌークビルの港に入港しています。

****日本など入港拒否のクルーズ船 14日にも下船か カンボジア ****
新型コロナウイルスに感染した疑いのある乗客がいるとして、日本などが入港を認めなかったクルーズ船「ウエステルダム」は、カンボジア南部の港の沖合で停泊しています。地元の当局者は、早ければ14日午前から乗客の下船が始まる見通しを示しました。

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、クルーズ船「ウエステルダム」は、今月1日に香港を出港したあと、台湾や日本などに入港を認められず寄港先を探していましたが、カンボジアが受け入れることになり、13日朝、南部のシアヌークビルの港の沖合に到着しました。

クルーズ船には日本人5人を含む乗客乗員2200人余りが乗っていて、船は現在も沖合で停泊しています。

地元の州知事は13日午後、取材陣に対して、早ければ14日午前から乗客が下船を始め、チャーター機で2回にわけて首都プノンペンの空港に移動する見通しを示しました。

ただ、実際にプノンペンに移動する乗客の人数など詳しいことは明らかにしていません。

一方、保健省によりますと乗客乗員の中に新型コロナウイルスに感染している人がいないかどうかクルーズ船に医療チームを派遣して、確認を進めているということです。

カンボジアは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けても、中国を支援する立場から往来を制限するなどの措置をとらない方針を打ち出していて、クルーズ船をめぐっては、フン・セン首相が地元メディアに対し、人道的な観点から受け入れを決めたことを明らかにしています。

保健省の報道担当者「体調崩して隔離されている人も」
(中略)一方、保健省の報道担当者は「クルーズ船の中に体調を崩して隔離されている人がいると聞いている」と明かしたうえで、「なにも問題がないことが確認できてから下船を許可する。仮に感染が確認された場合は、カンボジア国内で詳しく検査してもらう」と説明しました。

日本大使館関係者 「日本人乗客の体調に問題なし」 
(中略)各国の大使館の関係者も現地で情報収集にあたっていて、日本大使館の関係者は「クルーズ船に乗っている5人とは連絡がとれている。今のところ体調に問題はないと聞いている」と話していました。

入港拒否の経緯
アメリカの運航会社によりますと、「ウエステルダム」は、船体の長さがおよそ285メートル、幅およそ32メートルの大型クルーズ船です。(中略)

およそ2000人の乗客を受け入れることができ、会社側によりますと、船内には乗客1455人、乗員802人がいるということです。

ウエステルダムは、今月1日に香港を出港しましたが、3日にフィリピンへの入港を、翌4日には台湾への入港を拒否され、その後、沖縄への入港も日本政府に認められませんでした。

今月7日にはグアムへの入港を拒否されています。

さらに、ウエステルダムは、タイの港に入港しようとしましたが、タイ政府は、11日、入港を認めないことを明らかにしました。

こうした中、会社側は12日、カンボジア政府が入港を認めたとして、カンボジア南部のシアヌークビルの港に向かうことを明らかにしました。

シアヌークビルに入港後、乗客たちは数日かけて下船し、チャーター機で首都プノンペンに移動したあと、それぞれの国に向かう予定だとしています。(後略)【2月13日 NHK】
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今回対応についてフン・セン首相は「本当の病はコロナウイルスでなく(人々の)不安だ。」とも発言しています。

****カンボジア首相「本当の病は不安」 クルーズ船受け入れ****
(中略)船は港から数キロ先の沖合に停泊している。運航会社や地元当局によると、日本人5人を含む乗客乗員2257人は発熱などの症状がなければ下船し、プノンペンに移動した後、それぞれの国に帰る予定だ。
 
13日は乗客20人が下痢などを訴えたため、検体を採取し感染の有無を確認しているという。
 
フン・セン首相は地元メディアに「本当の病はコロナウイルスでなく(人々の)不安だ。入港許可は偏見を生む不安を取り除くためだ」などと述べた。【2月13日 朝日】
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カンボジアに(日本でも難しい)2000人超の乗客・乗務員の感染有無を調べる体制があるのか、国内に感染を広げないように国外に搬出する体制がとれるのか・・・技術的な不安・疑問はありますが、「本当の病は不安」とするフン・セン首相の見識には個人的に賛成します。

寄港を認めず漂流させる事態は正しくないでしょう。そうした状態が長引くほどに船内の事態は悪化します。

感染有無を正確に判断することはカンボジアには技術的には難しいにしても、国内と遮断する形で各国に送り届け、あとは各国で対応するというしかないでしょう。

現在1000人を超す死者を出しているのは武漢・湖北省の医療崩壊が原因であり、マークすべき者が特定できている状況できちんと対応すれば感染リスクは一定に抑制できますし、仮に感染者がいても隔離治療で対応可能です。

致死率は2%程度で通常インフルエンザの20倍とのことですが、医療崩壊した武漢を除く中国の致死率は日本国内のインフルエンザの2倍程度におさまるようです。【2月7日 東京より】逆に適切な医療対応がなければ武漢のような状況にもなります。

そばにいるだけで不治の病に感染してしまうかのような過度の不安は無用でしょう。

本当は技術的に不安のあるカンボジアにまかせるのではなく、WHO主導で国際協力体制がとられるのが一番よかったとは思いますが・・・。

【船内乗客・乗務員への対応が遅れる横浜「ダイヤモンド・プリンセス」】
一方、船内隔離状態が続き、感染がどんどん拡大している横浜のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」

****新型ウイルス クルーズ船全員の検査へ体制拡充急ぐ 厚労相****
クルーズ船での新型コロナウイルスの集団感染を受けて、加藤厚生労働大臣は、衆議院予算委員会の集中審議で、健康観察のための期間が経過したあとに、乗客・乗員全員を対象にしたウイルス検査を行うことができるよう、検査体制の拡充を急ぐ考えを示しました。

新型コロナウイルスへの集団感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で感染が確認された人は、検査を行った延べ492人のうち、合わせて174人に上っています。

これについて加藤厚生労働大臣は、衆議院予算委員会の集中審議で、今月5日から健康観察のための期間である12.5日が経過したあとに、船内に残る乗客・乗員全員にウイルス検査を実施したいという考えを示しました。

そのうえで加藤大臣は「国立感染症研究所などから人員を派遣してもらい、民間や大学の検査レベルを最大限に引き上げることで、1日当たり1000件を超える検査ができるようになる」と述べ、検査体制の拡充を急ぐ考えを示しました。【2月12日 NHK】
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すでに二次感染・三次感染が広がっているような状況で12.5日云々がどれだけの意味があるのか知りませんが、とにかく早急に全員の検査を行い、治療の必要がある者、一定の条件を満たす者、外国籍の者で母国が受け入れを認めている者などに分別して下船させ、今の3000人超の集団を分散小規模化して隔離・治療の対応をしていくことが必要でしょう。

必要なら、全国都道府県にそれぞれ50~60名を割り当て、隔離・治療させれば済む話です。今の日本の医療水準なら対応可能でしょう。できないというのは「不安という病」でしょう。“自分たちさえ守られれば3000人超はどうなっても構わない”という「病」でしょう。

****「助けだしてください」クルーズ船のインド人乗組員が投稿か****
新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗組員のインド人とみられる男性が、フェイスブックに助けを求める動画を投稿しています。

動画は、船内のキッチンとみられるところで撮影されていて男性の後ろには白いマスクと帽子をかぶった同僚の男性らが並んでいます。

動画の中で男性は「われわれは非常に恐れています。お願いです。なんとかして泥沼の状態からわれわれを助けだしてください」と訴えかけています。

そして「モディ首相にお願いです。われわれを隔離して、どんなことをしてでも無事に家に帰れるようにお願いします」と述べて、インド政府に対して日本政府と連携して対応に当たるよう求めています。(後略)【2月13日 NHK】
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****“クルーズ船から直ちに下船を” イスラエルが日本側に要請****
新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で乗客らの船内での待機が長引く中、イスラエル外務省はイスラエル国籍の乗客15人を直ちに下船させ、別の場所に移すよう日本側に要請しました。(後略)【2月13日 NHK】
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インド  モディ政権、反イスラム扇動による首都圏奪回失敗 増長する政権傘下組織による暴力行為

2020-02-12 23:23:35 | 南アジア(インド)

(11日、ニューデリーで支持者に手を振るケジリワル氏(前方左)【2月12日 日経】)

【ニューデリー首都圏選挙 モディ政権の攻撃を跳ね返してケジリワル氏率いる「庶民党」大勝】
日本ではあまり馴染みのない政治家ですが、インドにアルヴィンド・ケジリワルという政治家がいます。

*****アルヴィンド・ケジリワル****
2013年12月にデリー首都圏で行われた選挙で「汚職根絶」を掲げデリー首都圏首相に就任した[1]が、2014年2月14日議会が汚職防止法案を否決したことに抗議するため、辞任した。

デリー首都圏首相在任中は「汚職撲滅ホットライン」を設置した。この「汚職撲滅ホットライン」の受付時間は午前8時から午後10時までで、公務員が賄賂を要求してきた場合の対応を助言する。
 
その後2015年2月7日にデリー首都圏で行われた選挙(2015年デリー首都圏選挙(英語版))において自らが党首を務めるアーム・アードミ党が全70議席中67議席を獲得し躍進しケジリワルは再び首都圏首相に就任する事になった。
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今からほぼ10年前、汚職撲滅を訴える大規模な抗議行動でインドを揺るがし、上記のように「庶民党」という新興政党を立ち上げて、既成政治の腐敗・汚職を批判して5年前のニューデリー首都圏選挙で地滑り的大勝利を収めた政治家です。

やや、扇動家、あるいは近年各地で流行るポピュリスト的な雰囲気があって、2015年の大勝利以降はあまりその名前を見聞きする機会は、私はありませんでした。もっと正直に言えば“忘れて”いました。

そのケジリワル氏と「庶民党」、かつての国民会議派に代わってモディ首相率いるインド人民党(BJP)が大きな勢力を誇るインド政界にあって、現在も健在のようです。

****モディ首相の印与党、首都議会選に敗北**** 
インドのデリー首都圏議会選(定数70)が11日開票され、モディ首相率いる国政与党のインド人民党(BJP)が庶民党に敗れた。地元メディアが一斉に報じた。

庶民党は首都の教育やインフラ改革を訴え、前回5年前に続いて同議会の与党の座を確保した。BJPはイスラム教徒を排除する姿勢や景気低迷から支持が低迷した。

有権者は1400万人超で8日に投票があった。投票率は62%。11日午後6時の時点で庶民党が優勢を含め63議席を獲得したのに対し、BJPは7議席にとどまる。

庶民党は元国税専門官のケジリワル氏が党首を務め、汚職撲滅を掲げて2012年に結党した。BJPは19年8月にイスラム教徒が多いカシミール地方の自治権を剥奪するなど、少数派を排除する政策に反発が出ている。【2月11日 日経】
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なお、議席数は庶民党62~63に対し、BJPは7~8議席と大差がつきましたが、得票率では庶民党が50%台に対しBJPも40%台と、議席数ほどの差はありません。

国民会議派は得票率は数%で議席数ゼロと、その凋落ぶりが顕著です。

今回の庶民党の勝利は、首都圏奪還を目指すモディ首相率いるBJPの激しい攻撃を跳ね返してのものだったようです。

野党・国民会議派が精彩を欠く中で、庶民党は、これまでの首都圏政党からモディ政権に対抗しうる全国政党に発展する可能性も指摘されています。

****首都議会選で新興政党圧勝、インド政治に風雲急(2月11日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 )****
アルビンド・ケジリワル氏は2011年、インドを揺るがした大規模な反汚職運動で誰もがその名を知る存在となった。4年後、同氏は自らの新興政党を率いてデリー首都圏(州に相当)議会選に臨み、モディ首相の強大な集票マシンを破って衝撃的な勝利を収めた。

そして今、ケジリワル氏はデリー首都圏首相として再びモディ氏の前に立ちふさがった。同首都圏議会選で、自身が8年前に立ち上げた「庶民党」がモディ氏率いる国政与党インド人民党(BJP)の猛烈な選挙運動をはねのけ、圧勝で政権を維持したのだ。

■働く人の生活を支援
庶民党は11日、定数70の同議会選で61議席を獲得した。学校や病院の再整備、電気料金の引き下げ、下位中間層の働く人々の生活支援などの取り組みで支持の波に乗った。

BJPの容赦ない選挙運動を受けても庶民党が首都で大勝利を収めたことは、小柄ながら自らの大義に人々をまとめ上げる能力を実証しているケジリワル氏が依然、インド政治をかき回しうる存在であることを物語っている。

「彼はモディにとっていらだたしい存在だ。それもデリーでだ」と、アショカ大学のジル・バーニアース教授(政治学)はケジリワル氏について話す。穏やかな物腰のケジリワル氏は国税官から汚職撲滅の活動家に転身した。

「普通の人、英雄というには遠い人のように見える。勤労の倫理やつつましさの価値を体現する存在で、それが奏功している」

その結果、BJPは首都の支配権掌握と打倒ケジリワル氏にまなじりを決しながらも大敗を喫した。BJPにとって、ケジリワル氏はモディ氏に対する野党勢力結集の核になりうる脅威だ。(中略)

(10年前のケジリワル氏の)抗議行動は当時の国民会議派政権の弱体化に大きく影響し、14年のモディ氏の政権掌握に道を開いた。(中略)

「彼はかなりの部分、扇動者として登場した。革命的な人物、政府を倒そうと文字通り街頭で抗議する人物だったが、自分の立場を行政官に変えた」と、インド政治について数冊の著書があるミラン・バイシュナフ氏は言う。

庶民党は首都圏以外への勢力拡大に全力を挙げながらも苦労している。だが、激闘となった首都圏議会選での圧勝に加え、最大野党・国民会議派が精彩を欠くネール・ガンジー家の指揮下で漂流しているため、政権獲得を争える存在として信頼度が高まるはずだ。(中略)

■幅広い訴求力
モディ氏のライバルの多くは、民族や言語、さらにはカーストに基づくアイデンティティー政治で特定の州を基盤とする政党の指導者だ。専門家は、ケジリワル氏の政治路線のほうが幅広い訴求力があるとみている。

「極めて野心的な人物で、国民会議派の退潮が続くなか、庶民党のような政党が間隙を突けると見て取っている」とバイシュナフ氏は言う。「現在、庶民党は単一州の政党だが、彼らの訴えや基盤に、それ以上進めないことを示唆するものは何もない」。「ケジリワルはとても周到に自分を位置付けている。ほぼ中道ナショナリストに近い」(中略)

アショカ大学のバーニアース氏は、BJPにとって最大の懸念はケジリワル氏が大衆を揺り動かす扇動者という自身のルーツに戻り、ほぼ10年前に国民会議派に対してしたのと同様に反BJPの世論の高まりを引き起こすことだと指摘する。

「BJPは選挙政治の政敵としてケジリワルを恐れているわけではない。だが、ケジリワルがBJP政府の合法性を否定しようとする政治運動の一部分になれば、とても大きな懸念材料になる」とバーニアース氏は言う。

「BJPは彼を、すでに国民会議派というゴリアテ(旧約聖書に登場する巨人)を殺したダビデとみなしている。彼らが危惧するのは、その彼が別のゴリアテを殺すことだ」【2月12日 日経】
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【警察も協力する政権傘下過激派組織による暴力行為】
一方の敗れた政権与党のインド人民党、経済失速をヒンズー至上主義で糊塗しようとするモディ政権の「反イスラム」が裏目に出たとの指摘も。

****モディ首相与党、首都で敗北=景気低迷、反イスラム裏目―インド****
(中略)BJPは、西部マハラシュトラ州、東部ジャルカンド州の両議会選に続き地方選3連敗となった。(中略)
 
昨年4〜5月の総選挙では、BJPがデリー首都圏の全7議席を独占した。その後、経済成長が14年のモディ首相就任前のレベルまで落ち込んだことを背景にBJPは失速。昨年10月以降は地方議会選で連敗した。
 
ヒンズー至上主義を掲げるモディ氏は昨年12月、国民の8割を占めるヒンズー教徒の支持を固め失地回復を図ろうと、「(ヒンズー教徒ら)迫害された少数派を守る」名目で周辺国からの不法移民に国籍を与える法改正を実施。

イスラム教徒を国籍付与の対象から外したことで全国的な抗議行動を招き、首都圏議会選でも逆風となった。【2月11日 時事】 
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そのモディ政権のヒンズー至上主義、反イスラムは1月9日ブログ“インド モディ首相が目指すインドとは? 危険にさらされる少数派の生きる権利”でも取り上げましたが、最近ますます暴力的な状況になっています。

****ヒンズー過激派が大学襲撃=イスラム差別抗議に反発か―インド****
インドの首都ニューデリーにある国立ネール大が襲撃され、学生と教員計30人超が負傷する事件があり、同国の主要メディアは7日、ヒンズー過激派グループが犯行を認めたと報じた。

ネール大では、ヒンズー至上主義を掲げるモディ政権による少数派イスラム教徒差別に対する抗議行動が起きており、グループはこうした動きに反発したもようだ。
 
事件は5日に発生。覆面の集団が大学構内に侵入し、鉄の棒やハンマーで学生らを殴打した。過激派「ヒンズー・ラクシャー・ダル」は声明で「ネール大は反国家活動の温床だ。容認できない」と述べ、メンバーが襲撃を行ったと主張した。【1月7日 時事】 
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このヒンズー過激派グループとはインド人民(BJP)党傘下(と言うより、BJPの母体と言うべきか)の極右団体「民族義勇団」(かつてイスラムに宥和的なガンジーを暗殺した者もこの組織メンバー、そしてモディ首相もメンバー)が主導しているもので、警察もこれに協力しており、その暴力行為が黙認されています。

上記ネール大学襲撃も警察が手引きしたとのことで、襲撃者の何人かは名前も特定されていますが、逮捕者はゼロ。(「選択」2月号より)

ネール大学は以前からリベラルの気風が強く、モディ政権はそれを嫌っていたとか。
そして、また同様の暴力行為が。こんどは女子大。

****インド女子大の学園祭、男が集団で襲撃 暴力やセクハラ繰り返す****
インドの首都ニューデリーの南側に位置するサウスデリーの女子大学で先週、学園祭の最中に男たちが大挙してキャンパスに押し入り、暴力やセクハラ行為を繰り返していたことが分かった。

この大学では4日から6日まで、毎年恒例の学園祭が開かれた。学生団体の発表によると、最終日の6日に「数千人」の男たちが門を乗り越えて敷地内に侵入。施設を破壊したり、コンサート会場で女子学生らの体を触ったりした。

男たちはコンサートの後も学生らの後をつけてやじを飛ばし、名前やインスタグラムのIDを聞き出すなどのセクハラ行為を続けた。警官や職員らは何もせずに傍観していたという。

ニューデリーの警察は、正体不明の集団による不法侵入や暴行、女性へのいやがらせ事件として捜査していると発表した。大学の学長と連絡を取り、防犯カメラの映像も調べているという。

また地元警察幹部は、警官が暴力行為を放置したとの報告についても内部調査を進めていると述べた。

被害の多くは学生自治会にオンラインで届け出があった。大学当局も調査委員会を設けて被害者や目撃者の話を聴き、結果を警察に報告すると表明している。

大学前では10日、学長の退任などを求めるデモが実施された。学生団体は学長や治安担当教員らとの話し合いを求め、一斉ストを呼び掛けている。

市内の性犯罪を監視する「デリー女性委員会」のスワティ・マリワル委員長は10日に大学を訪れ、ツイッターを通して警察が大学当局の対応を非難。男たちをただちに逮捕するべきだと訴えた。【2月11日 CNN】
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こうした暴力行為の背後にいるとされているのが、モディ首相が信頼するアミット・シャー内相。
ジャム・カシミール州の自治権はく奪、イスラムを排除した国籍法改正などを主導している人物です。

民族義勇団にも子供の頃から参加し、そこでモディ首相と知り合ったとか。

****インド政府お抱え「暴力組織」の猛威****
「宗教対立」優先で停滞する経済
(中略)
「もつと経済に集中すべきだ」
シャー内相とモディ首相のコンビで進める「ヒンドゥー至上主義・反イスラム」政策は、今のインドに必要なのだろうか。
 
インドのイスラム教徒(人口の約一三%)が少数派だとしても、総数は一億八千万入超とされ、イスラム大国インドネシア、パキスタンの全人口に次ぐ数なのだ。

前出の英国紙特派員は、「これだけの人間を、警察権力による弾圧だけで抑え込めるわけがない。社会に大きな亀裂
を生み、インドが分裂してしまう」と懸念する。
 
抗議の長期化を予感させるのが、ニューデリーのシャヒーンバグ地区で昨年から始まった「女たちのデモ」だ。

国籍法改正反対を主軸に、女性への差別、性暴力、労働組合や学生運動弾圧への抗議など、現在のインドの不正義全般に抗議する運動に広がった。「ノンストップ」と「非暴力」を掲げ、一月下旬には連続四十目を超えた。
 
運動は全国に広がり、ゴルゴタ、ムンバイなど他の大都市に伝染。全国各地から抗議運動を中継したインドのテレビ局は、「国全体がシャヒーンバグになったようです」と伝えた。

女性の運動に対しては、ヒンドゥー教徒男性が、新たな憎悪をたぎらせている。
 
インド経済は昨年、名目国内総生産(GDP)で、旧宗王国英国を抜いて、世界第五位に躍り出た。二〇二〇年代半ばには、ドイツも抜き、米中目印の四強時代がやってくる。

インド経済界や国際金融界では、「モディ政権は、宗教紛争をやっている場合か」との懸念が高まっている。
 
トルコ生まれの著名なエコノミスト、ヌリエル・ルービニ氏は一月のインド講演で、「政府は、人種や宗教問題ではなく、もっと経済に集中すべきだ。街頭で起きていることは心配だ」と苦言を呈した。

ニューデリーの街頭には、抗議デモや警官隊との衝突だけでなく、「世界最悪」とされる大気汚染、生活用水不足、極端な雇用不安など、新興国経済の諸矛盾が噴出している。モディ=シャー・コンビに、この光景が見えているかは、はなはだ疑わしい。【「選択」2月号】
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シリア  イドリブをめぐりシリアとトルコの全面衝突の危機 プーチン氏は? 逃げまどう難民

2020-02-11 22:06:50 | 中東情勢

(シリアイドリブ県で展開するトルコ軍兵士(2月10日)【2月11日 WEDGE】)

【イドリブ制圧への攻勢を強める政府軍 反体制派支援の軍事介入を強化するトルコ】
シリアの状況・・・反体制派最後の拠点イドリブ制圧に向けて攻勢を強める政府軍、反体制派支援で介入を強化するトルコ、戦闘激化で増大する難民・・・については、2月4日ブログ“トルコ シリア・リビアで難しい立場にたつものの意気軒高なエルドアン大統領”でも、トルコの動きを中心に取り上げました。

事態は、更に緊迫の度を強めています。

****シリア政府軍、交通の要衝を完全掌握 イドリブ県内の重要幹線道路も支配下に****
シリア反体制派の最後の拠点となっている北西部イドリブ県で8日、 政府軍が交通の要衝サラケブを完全に掌握した。

シリアの国営テレビは、数週間にわたる爆撃で人の姿がなくなった道路の映像を流し、「軍部隊は今や、サラケブを完全に支配下に置いた」と報じた。
 
政府軍は昨年12月以降、ロシアの支援を受けてイドリブ県に猛攻撃を実施。反体制派を支援するトルコが攻撃の中止を求めたが、政府軍は次々と町を掌握してきた。
 
国連や人道支援団体も攻撃をやめるよう要請。大勢の避難が、約9年に及ぶ内戦で最悪規模の人道危機を生み出していると警告していた。
 
この攻撃により、民間人300人以上が死亡したほか、約58万6000人が比較的安全なトルコ国境付近への避難を余儀なくされた。
 
幹線道路M4とM5の奪還を目指す政府にとって、両道路が交わるサラケブの制圧は極めて大きな戦果だ。
 
シリアで最長の幹線道路であるM5は、第2の都市アレッポから首都ダマスカスを経てさらに南へ延び、ヨルダン国境まで続いている。
 
在英のシリア人権監視団は7日、政府軍がM5のうちイドリブ県内を走る部分をすべて支配下に置いたと発表した。反体制派が支配しているのはアレッポ市の南西のわずか15キロメートルにすぎない。 【2月9日 AFP】
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こうした政府軍の攻勢に対し、反体制派を支援して介入するトルコは、軍事拠点を増加し、実力でシリア政府軍を阻止する構えも見せています。

****トルコはシリア・イドリブの軍事拠点増強、行動の用意ある=高官****
トルコ高官は9日、内戦が続くシリアで同国政府軍の急速な進撃を食い止めようとする中、北西部のイドリブに多くの部隊や軍装備品を送ったとしたうえで、「あらゆる選択肢がテーブル上にある」と述べた。

シリア反政府勢力の最後の主要な拠点となっているイドリブで政府軍が攻勢を強める中、50万人超の人々が封鎖されたトルコ国境を目指しており、シリアにおける新たな人道危機の恐れが出ている。

既に360万人のシリア難民を受け入れているトルコはこれ以上の受け入れはできないと表明。シリア政府に対し、月末までにイドリブでの後退を求めており、さもなければ行動すると警告している。

トルコの軍事拠点12カ所を増強するため、戦車や装甲兵員輸送車などを運ぶ軍用車両の部隊がすでにシリア入り。トルコの拠点のいくつかは現在、シリア軍に包囲されている。

トルコ高官は匿名を条件にロイターに対し「この数週間でかなりの部隊・軍装備品がシリアのイドリブに送られた」と語った。

8日には軍用車両300台がイドリブ入りし、今月のトータルは約1000台に達したという。増派された新たな部隊の具体的な数は明らかにしなかったものの、「かなりの規模」だとした。【2月10日 ロイター】
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【すでにシリア・トルコの間で衝突・報復も】
こうした緊張状態は、当然のようにシリア・トルコ両軍の衝突を誘発します。

****砲撃受けトルコ兵5人死亡 シリア、政権軍と再び交戦****
トルコ国防省は10日、シリア北西部イドリブ県で同日、シリア政権軍の砲撃を受け、トルコ軍兵士5人が死亡、5人が負傷したと発表した。トルコ軍は報復攻撃し、標的を破壊したとしている。

大規模な直接交戦は3日以来。応酬が激化する懸念が強まった。
 
イドリブ県はシリア反体制派最後の拠点。反体制派を支援するトルコと、攻勢を強めるシリア政権軍との間で緊張が高まっていた。【2月10日 共同】
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トルコ側の報復攻撃については以下のようにも。報道のとおりとすれば、かなり大規模なものだったようです。

****シリア政権側の115カ所攻撃 砲撃でトルコ兵5人死亡の報復****
シリア北西部イドリブ県で10日、アサド政権軍による砲撃を受けてトルコ兵士5人が死亡、5人が負傷した。

これに対しトルコ軍は同日、大規模な報復攻撃を実施。トルコ国防省によると、政権側の標的115カ所を攻撃、戦車などを破壊し101人を殺害したと主張した。
 
トルコは10日も首都アンカラで政権軍の後ろ盾のロシアと協議した。トルコ政府の声明によると、トルコ側は協議の際「トルコ軍への攻撃は受け入れられず報復を継続する」と強調したという。政権軍とトルコ軍の攻撃の応酬がさらに激しくなる可能性がある。(後略)【2月11日 共同】
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【注目されるロシア・プーチン大統領の判断】
ここ数日の緊張に関しては、シリア政府軍の後ろ盾となりつつトルコとも協調するロシアの動きは報じられていないようです。

おそらく、今後何らかの形でロシアがシリア・トルコの間に入って、シリアとトルコの全面衝突といった事態を避ける試みをみせるのでしょう。(多分、現在進行しているのでしょう)

ただし、戦闘の緊張が高まれば、不測の事態から一気に戦闘が拡大する・・・というのは常にみられることで、シリア情勢がどう動くのかはわかりません。

アサド政権としては、イドリブの反体制派拠点制圧は遅かれ早かれ実行する既定路線でしょう。冒頭記事にあるように、要衝サラケブも完全制圧して実現に手が届く段階に今あります。この機を逃さず一気に・・・という動きに出ても不思議はありません。

トルコがどこまで本気でシリア政府軍阻止に動くのか、あるいは、その能力が現地部隊にあるのかはわかりません。
恐らくはロシアの調停を期待しているのではないでしょうか。

ロシアにすれば、トルコとの関係はシリアだけにとどまりません。リビアでも同じような構図になっていますし、そうした紛争地域の問題以外でも、中東の地域大国トルコとは政治的・経済的関係があります。

そうしたなかで、ロシアがどう動くのか?

****プーチンがどう決断****
イドリブ県の戦闘の行方はつまるところ、アサド政権の後ろ盾であるロシアのプーチン大統領がどう考えるかによって変わってくる。

トルコの“最後通告”を無視してアサド政権にイドリブ制圧を成し遂げさせるのか、それともエルドアン大統領の意向に配慮して政権軍の進撃をストップさせるかだ。
 
国際法的に言えば、他国に侵攻しているのはトルコであり、「安全保障上の脅威であるクルド人を国境地帯から排除するため」というトルコの主張は正当性を欠く。内戦のどさくさに紛れてシリアを侵略したことに変わりはないからだ。内戦の前であれば、確実に両国の戦争になっていただろう。
 
だが、トルコの一連の侵攻は「プーチンが承認した」上でのことであり、昨年の(北部クルド人勢力排除の侵攻)「春の平和」作戦はトランプ米大統領が青信号を与えたという背景がある。

いわば、米ロと地域大国トルコの政治取引の産物だ。そういう意味では、アサド政権も大国の身勝手さに翻弄されている1人ということが言えるだろう。
 
プーチン大統領がどう動くかは予断を許さないが、ロシアがアサド政権軍のイドリブ攻撃を支援していることに対し、エルドアン大統領の不信感が募っていることは間違いない。エルドアン氏は先月末、「ロシアはトルコとの合意を順守していない。われわれは我慢の限界だ」などとロシアを珍しく非難した。
 
こうしたエルドアン氏の非難に対し、ロシア国営のメディアは「トルコが過激派組織(旧ヌスラ戦線)の創設に手を貸した」「過激派の戦闘員はトルコから1カ月100ドルの給料をもらっている」などと批判。これにトルコの政府系有力紙は「プーチン政権は信用できない。ロシアはアサド政権軍にイドリブ攻撃をそそのかしている」などとやり返した。
 
ロシアがトルコを批判している理由の1つは、エルドアン大統領が2月3日にロシアの敵対国であるウクライナを訪問し、「ロシアによるクリミア併合を認めない」というトルコの政策を強調したことも大きい。「イドリブ攻撃をけん制するためのウクライナ訪問」(専門家)という側面があったことは事実で、エルドアン大統領の天びん外交の真骨頂というところだ。
 
エルドアン大統領はその後、プーチン大統領と電話会談し、「シリアにおける連携」で合意したと伝えられているが、両国の関係は2015年の「トルコによるロシア軍機撃墜以来、最悪の状況」(中東専門誌)との見方が強い。

イドリブ県をめぐるアサド政権軍とトルコ軍の緊張の行方は「エルドアンとプーチンという2人の“独裁者”の関係修復にかかっている」(専門家)。【2月11日 佐々木伸氏 WEDGE「トルコとシリアが全面衝突の緊張、難民60万人が人道危機にあえぐ」】
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【避難民キャンプは満杯、トルコも国境を閉ざすなか、逃げまどう避難民】
今後の展開はよくわかりませんが、間違いないのは多くの住民(数十万人規模)が逃げまどっているということです。

既に360万人のシリア難民を受け入れているトルコはこれ以上の受け入れはできないと表明し、国境を閉ざしています。

****「どこへ逃げれば…」 内戦激化のシリア北部、さまよう家族****
シリア北部イドリブ県で、政府軍とロシア軍の空爆を逃れたシリア人女性ゴスーンさんの一家は、何日も車でさまよっている。長時間の運転でへとへとだが、もはやどこへ行けばいいのかも分からない。

「2晩連続で車中泊だった。今夜もそうなりそうだ」とゴスーンさん。路肩に止めた車に寄りかかった彼女の隣で、夫がまだ赤ん坊の娘をあやしている。幼い息子は冬物のコートを着せられ、ビスケットの箱をつかんでいた。
 
ロシアに支援されたシリア政府軍は2か月前から、反体制派の最後の拠点であるイドリブ県への攻勢を強化。人口約300万人の県内では、58万人を超える住民が自宅を追われ、避難生活を余儀なくされている。
 
人々は家財道具を車に積み、家族総出で北へと逃げつつ、冬を乗り越えられる避難場所を探している。だが、9年に及ぶシリア内戦で難民が殺到したトルコは国境を封鎖しており、比較的安全とされる国境地帯で寒さをしのぐ場所を見つけるのは困難だ。
 
ゴスーンさんは「避難民キャンプに行ったが、もう空きがなかった」「貸家も探したが、家賃が高すぎた」と語った。
 
現地のAFP記者によれば、イドリブ県北部の農村部では最近の避難民の大量流入を受け、アパート1部屋の1か月当たりの賃料が約150ドル(約1万6000円)相当から最高350ドル(約3万8000円)相当まで高騰した。しかも、借りられる部屋はほんのわずかしかない。

■家賃高騰で追い出される家族も
ゴスーンさん一家が取材に応じたマ―ラトミスリン郊外には、新設された避難民キャンプがあるが、新しいテントは既にいっぱいだ。

定員350家族のこのキャンプには現在、800家族がひしめき合い、ぬかるんだ地面に直接じゅうたんやマットレスを敷いて暮らしている。

人々の流入は今もとめどなく、記者は、テントの数が足りずに木の下で2晩を過ごした家族にも出会った。
 
一方、家賃高騰の影響でイドリブ県北部の自宅を手放さざるを得なかった家族もいる。アラーさん一家は、前線からたった数キロしか離れていない県都イドリブの市街地に引っ越してきた。
 
妻と5人の子ども、両親、兄弟と暮らす新居は、建設途中で放置され基礎工事が終わっただけのコンクリートの建物で、窓もドアもない。それでも、アラーさんは「他よりましだ。少なくとも屋根がある」と話した。
 
ただ、迫りくるイドリブ市への攻撃にはおびえている。「頭上の屋根が吹き飛ばされるなら、泥にまみれた生活のほうがいいかもしれない」とアラーさん。「神よ守りたまえ」と祈りつつ、「私たちはもう疲れてしまった」と語った。 【2月10日 AFP】
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もちろん、この事態に国連は警鐘を鳴らしてはいますが、それだけでは・・・・。

****国連 シリア避難民への支援 国際社会に呼びかけ ****
国連は、内戦が続くシリアで死傷者や避難民が増え続けているとして、避難キャンプで厳しい生活を強いられる10歳の少女の動画をSNSに投稿するなどして、シリアの人々への支援を国際社会に呼びかけました。

内戦が続くシリアでは、反政府勢力の最後の拠点、北西部のイドリブ県で、アサド政権が、トルコの支援を受ける反政府勢力への攻勢を強めている一方、トルコ軍とシリア軍の間で直接的な衝突が発生するなど緊張が続いています。

国連は10日の記者会見で、イドリブ県では空爆や砲撃によっておよそ300万人の市民が危険にさられているとしたうえで「先月の1か月間に子ども67人を含む186人が、今月に入って5日間で子ども17人を含む49人の市民が死亡した。また、避難民はこの1週間で10万人増えて68万9000人に上り、その80%は女性と子どもだ」と述べて、市民の被害が増え続けている現状をと訴えました。

またOCHA=国連人道問題調整事務所は、10日、ツイッターに、イドリブ県の避難民キャンプでテント暮らしを強いられている10歳の少女の日常生活を撮影した動画を投稿し、1年以上学校に通えず、床にノートを置いて字を書く練習をする様子などを伝えました。

国連のハク副報道官は「シリア北西部で80万人を対象に、向こう半年間の人道支援を展開するため、3億3000万ドルが必要だ」と述べ、シリアの人々への支援を国際社会に呼びかけました。【2月11日 NHK】
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今回の事態で特徴的なことは、ここまでの話の中で、アメリカの“ア”の字も出てこないということです。

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東アフリカ  拡大するバッタの「蝗害」 食糧難に拍車

2020-02-10 22:50:47 | 災害

(ケニア・アーチャーズポスト近郊の村に襲来したバッタの大群の中を駆け抜ける少女たち(2020年1月21日撮影)【2月10日 AFP】 
写真では、まだ青空がしっかり見えていますが、更にバッタの数が増えると、空を暗く覆いつくすようにもなるようです。完全なホラー状態です)

【国家の脆弱な食糧安全保障にとって大きな脅威】
今世界中で大騒ぎになっている新型コロナウイルス肺炎のような疫病のほか、世の中には様々な災害があります。
その一つが「蝗害(こうがい)」 “トノサマバッタなど相変異を起こす一部のバッタ類の大量発生による災害”【ウィキペディア】です。

古くは、モーセが虐げられていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出する物語を中心に描かれ旧約聖書「出エジプト記」にも出てきます。

“モーセはエジプトのファラオに(ユダヤ)民族の解放を要求しますが、ファラオは認めませんせん。それどころか、労役をますます過酷にしました。そこで、神はモーセやアロンを通じて、災い(天災や災害など)をエジプトに下し、ファラオを懲らしめ、屈服させ、民族を解放するよう摂理されました。”【「聖書と歴史の学習館」】

その災いの8番目に起きるのが「蝗害」です。

その蝗害が今、東アフリカで進行しています。

****バッタ襲来で国家非常事態宣言 ソマリア、食糧難の恐れ****
アフリカ東部で過去数十年で最大規模のサバクトビバッタの群れが襲来している問題を受けて、ソマリア政府は2日、「国家の脆弱(ぜいじゃく)な食糧安全保障にとって大きな脅威」として、国家非常事態を宣言し、対策に乗り出すと表明した。
 
国連食糧農業機関(FAO)によると、年明け以降、アフリカ東部を中心に数億匹のバッタが発生。人口約1500万人のソマリアを襲っている群れの規模は過去25年で最大で、隣国のケニアでは過去70年で最大。

各国は上空から殺虫剤をまくなどして対応しているが、FAOは、このまま放置すれば「6月までにバッタの数が500倍になる」と警告している。
 
イスラム過激派による襲撃事件が相次ぐソマリアでは、4月が農作物の収穫時期にあたる。現地の農業・灌漑(かんがい)省は「いま行動しなければ、深刻な食糧難に陥る危険性がある」との声明を出し、国際社会への支援も求めた。
 
バッタの大群は、昨年末の大雨などの天候不順が続いたアフリカ東部を中心に発生している。【2月3日 朝日】
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ソマリアなど東アフリカはもともと食糧難にあえぐ、飢餓の危機にさらされてきた地域だけに、その上に「蝗害」となると、その影響は深刻、もっとはっきり言えば飢餓に直結します。

最初にエチオピア東部で発生したもののようですが、バッタは移動しますので、被害はケニア・ソマリアからウガンダにも及んでいます。

****バッタの大群、ウガンダに襲来 FAOは「蝗害」を警告****
「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ北東部で猛威を振るっているバッタの大群が9日、ウガンダに襲来し、政府は緊急閣議を開いて対応を協議した。
 
北東部カラモジャ地方の担当相によると、9日にケニアからバッタが襲来したのを確認したという。
 
大発生しているのはサバクトビバッタで、通常は群れをつくらない。だが、幾つかの条件が重なると大量繁殖して巨大な群れとなり、農作物を荒らし、飢饉の原因になる。
 
今回の大発生では既にケニア、エチオピア、ソマリアで食料難が起きており、ソマリアは今月、農作物が壊滅したとして国家非常事態を宣言した。国連食糧農業機関は、過去25年で最悪の状況だと指摘している。
 
バッタの群れは、エチオピア東部で発生し、ソマリア北部を通ってウガンダに襲来した。FAOは、現時点では地域全体に影響を及ぼす「大発生」レベルだが、状況がさらに悪化し1年以上にわたって被害の拡大を食い止められなければ、「蝗害(こうがい)」になると警鐘を鳴らしている。
 
これまでにサバクトビバッタによる「蝗害」は20世紀に6回あったことが記録されており、前回は1987〜89年。「大発生」は2003〜05年以来となる。 【2月10日 AFP】AFPBB News
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バッタというと、飛ぶというより数mジャンプする・・・といったイメージがあります。
しかし、“2007年、エチオピアで発生したサバクトビバッタが北ソマリア経由でインド洋を飛び越え、パキスタン、インドにまで到達したことが報告されている”【ウィキペディア】とのことで、風に乗るとはるか海を越えるほどに飛翔するようです。

【更に今後増加する恐れも】
現在大量発生しているバッタが産卵し、6月までに500倍にも増大する・・・・との可能性も指摘されています。
原因については、やはり昨今の異常気象が関係しているとも。

また、蝗害は東アフリカだけでなく、中東・インド・パキスタンでも発生しているようです。

****【アフリカ】東部でバッタ蝗害が大規模化。史上最大の被害。1200万人が飢餓。FAOが緊急支援要請****
国連食糧農業機関(FAO)は1月30日、アフリカ東部で大量発生しているサバクトビバッタによる蝗害が周辺地域に波及し人道危機をもたらしており、関係各者に対して緊急援助を要請した。被害は過去最大となっている。
 
蝗害は、イナゴやバッタが大量発生し、草本類を食べ尽くしてしまう現象。穀物や野菜にも被害をもたらし食糧危機を発生させる、蝗害そのものはそれほど珍しくはないが、問題なのはその規模。蝗害では、1km2のバッタが、毎日35,000万人分の食を奪う。

ケニアだけで、サバクトビバッタの大群は、縦60km、横40kmという広範囲となっており、風に乗り北側のエチオピアやソマリアにも侵食。
さらにジブチやエリトリアにも侵食。南スーダンやウガンダにも波及するおそれが出ている。

ケニアでは過去70年間で最大の規模。エチオピアとソマリアでも過去25年間で最大の規模。ウガンダと南スーダンに広がると1961年以来の蝗害発生となる。
 
2019年から大規模な蝗害が発生している原因について、FAOは異常気象の多雨により、バッタが繁殖しやすい状況になったとみている。ケニア、エチオピア、ソマリア、ジブチ、エリトリアの5ヵ国は、FAOに対し7,600万米ドル(約83億円)の資金援助を要請。FAOは、すでに1,540万米ドル(約17億円)の資金援助に応じた。FAOの加盟国非公式会合でも、専門家や物資を緊急支援することも決定している。
 
FAOの発表では、至急の食糧援助が必要となっている人口は1,200万人。サバクトビバッタの異常繁殖はまだ続いており、被害が拡大するおそれがある。

FAOの分析では、次の大量繁殖は2月が中心で、植付シーズンの4月に孵化するおそれ。6月までに現在よりもサバクトビバッタの数が500倍に増えるというFAOの試算もある。
 
蝗害は、エジプト、スーダン、イエメン、サウジアラビア、インド、イラン、パキスタンでも蝗害が深刻化している。【2月2日 Sustainable Japan】
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【日本ではほとんど見られない本格的な「蝗害」】
なお、「蝗害」は古来、中国でも頻発していますが、日本ではバッタによる本格的な「蝗害」はないようです。
そのため、「蝗害」の怖さがイマイチわからないところも。

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日本ではバッタ科のバッタによる蝗害がほとんど起こらなかったため、中国渡来の文献に書かれている「蝗害」を、昆虫による大規模な農被害全般を指す語だと誤解した。

日本の古文献に書かれている「蝗害」のほとんどは、イナゴ(イナゴ科)、ウンカ、メイチュウによるものである。

被害の様相はバッタによる真の蝗害とは著しく異なるが、やはり真の蝗害の実体験に乏しい日本では、このウンカによる被害に対しても、蝗害の漢語が当てられることとなった。

今日ではウンカも群生相を示すことが知られているが、被害は飛蝗に比べればはるかに小さい。【ウィキペディア】
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どうして日本ではバッタによる本格的な「蝗害」が起きないのか?ということについては、下記のようなネット情報もあります。

****日本には砂地の様な背の高い草が少ない貧弱な土壌が少ないからです****

バッタ科の雌は、産卵管を使って土や砂地の地下数センチメートルに産卵します。背の高い草が密集している場所ではあまり産卵をしません。

その為、大量に産卵が行われるには砂地が必要です。中国は万里の長城の外側は乾燥地帯です。その為、中国やアフリカなど乾燥地帯が多い場所では蝗害が頻繁に起こります。

反対にヨーロッパや日本では蝗害はあまり起こりません。
https://realestate.yahoo.co.jp/knowledge/chiebukuro/detail/12212797582/
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