孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  年末の総選挙に向けて一歩踏み出す 人々は平穏な日常を取り戻せるか?

2021-03-14 23:05:22 | 北アフリカ

(2021年3月10日、議会開催中に北中部の都市スルトに駐留するリビアの治安部隊。(AFP通信)【3月13日  ARAB NEWS】)

 

【明るい兆しも見える一方で、進まぬ傭兵の退去などの問題も】

シリアと並んで内戦状態に陥った「アラブの春」失敗例とされる北アフリカ・リビアについては、これまでの経緯から先行きははなはなだ不透明ながらも、とりあえず年末の総選挙に向けて暫定首相などの暫定政権メンバー選定で合意がなされたことを、2月7日ブログ“リビア 暫定首相など統一行政機関メンバーを選出 12月選挙に向けた態勢 先行きは不透明”で取り上げました。

 

****リビア「アラブの春」から10年 混乱から抜け出せるか焦点****

北アフリカのリビアで独裁政権の崩壊につながった「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が始まってから10年となります。

 

国が東西に分裂して内戦状態が続いてきましたが、国連主導の政治対話で今月に入って暫定首相が選出され、10年にわたる混乱から抜け出せるかが焦点です。

 

リビアでは10年前の2月15日に拘束された人権活動家の解放を求めるデモが始まったのをきっかけに、42年にわたって続いた独裁的なカダフィ政権が崩壊しました。

その後、武装勢力どうしの衝突が頻発し、2014年ごろからは国が東西に分裂して内戦状態に陥りましたが、去年、双方の勢力は停戦に合意しました。

国連主導の政治対話で今月には暫定首相が選出され、ことし12月には総選挙と大統領選挙が行われる予定です。

一方、国連が求めてきたよう兵の撤退や武器の禁輸措置といった外国による軍事支援の中止が守られていないという指摘も出ています。

今後、停戦を守りながら選挙を円滑に実施するなど新たな国づくりを進め、10年にわたる混乱から抜け出せるかが焦点です。【2月15日 NHK】

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合意からひと月余りが経過して、大きなトラブルは報じられていませんが、上記記事にもあるように、傭兵撤退などの外国勢力介入についての目だった改善もありません。

 

****リビアで暫定統一政府が発足 退去進まぬ傭兵に懸念も****

国家の分裂状態が続いた北アフリカのリビアで10日、暫定の統一政府が発足した。民主化運動「アラブの春」を受けたカダフィ独裁政権の崩壊から10年。国造りは一歩前進した形だ。ただ混乱の元凶とも言える外国人の傭兵(ようへい)の退去は進んでおらず、国家再建への不安は残ったままだ。

 

新しい政府は、12月24日に予定される大統領選と議会選までの統治を担う。暫定首相は、実業家出身のアブドゥルハミド・ダバイバ氏。

 

リビアの各政治勢力が集まった2月の協議で選ばれた。リビア東部に疎開していた代表議会が、同氏が提出した組閣案を審議。10日に賛成多数で承認した。

 

  

ダバイバ氏は「国民の和解のために働く。紛争が二度と繰り返されてはならない」と述べた。

 

リビアでは2011年の大規模デモと内戦の末、42年続いたカダフィ独裁政権が崩壊。だが14年の代表議会選を機に、政治勢力が東西に分裂した。

 

いったんは統一政府の樹立で合意。首都トリポリに暫定政府ができたが、19年になると、東部の武装組織「リビア国民軍(LNA)」が首都制圧に向けた軍事作戦に乗り出した。

 

トルコが暫定政府を支持し、派兵。エジプトもLNA側に立って軍事介入する構えを見せた。国際紛争に発展する恐れが一気に強まったが、暫定政府とLNAは昨年10月に停戦で合意。国連は国家分裂の解消に向けた仲介を強めた。

 

今のところ、停戦はおおむね維持されている。国連によると、戦闘を避けて自宅から逃れた42万人のうち11万人が戻った。東部ベンガジと西部ミスラタを結ぶ航空便も約7年ぶりに再開されるなど、明るい兆しも見える。

 

懸念材料は傭兵の存在だ。特にトルコとロシアは、リビアでの影響力を強める思惑もあり、シリア人などの戦闘員を送り込んだとされる。スーダンやチャドから戦闘に加わった者もいるとされ、国連によると、その数は約2万人。昨年10月の停戦合意では「外国人傭兵を3カ月以内に退去させる」こともうたわれたが、実現していない。

 

傭兵を放置すれば、戦闘再燃の恐れが消えないばかりか、国造りの過程で外国の介入を招くことにもなりかねない。国連のグテーレス事務総長は1日、「リビアの女性や男性、子どもたちの利益を最優先に考えるべきだ」と述べ、傭兵を退去させるよう関係国に改めて警告した。【3月11日 朝日】

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上記記事にあるように、兵員・傭兵を送り込んでいる主な国は、西の国民統一政府を支援するトルコと、東のハフタル司令官率いる「リビア国民軍(LNA)」及び代表議会を支援するロシアです。

 

国連安保理は、外国部隊と傭兵に「遅滞なく」退去するよう求めています。

 

****国連、外国部隊と傭兵にリビアからの退去を要求****

国連の最も強力な機関は、リビアのすべての当事者に対して暫定政府への円滑な引き継ぎを保証するよう要求した

国連安全保障理事会はまた、暫定政府に対して10月の停戦合意の履行を優先するよう求めた

 

国連:国連安全保障理事会は金曜日、リビアに軍隊や傭兵を駐留させている国々に対し、紛争当事者間の停戦合意で要求されている通り、「遅滞なく」退去するよう求めた。(中略)

 

紛争当事者は双方が多数の地元民兵組織に加え、地域や地域外の大国の支援を受けている。

 

2019年4月、ハフタル氏とその軍はトリポリを攻略するための攻撃を開始した。トルコが数百人規模の軍隊と数千人のシリア人傭兵で国連の支援を受ける政府に対する軍事支援を強化したため、ハフタル氏の作戦は崩壊した。

 

10月の停戦合意では3か月以内にすべての外国部隊と傭兵を撤退させ、国連の武器禁輸措置を遵守することが求められたが、この条件は満たされていない。

 

昨年、国連の専門家はロシアの民間警備会社ワグナー・グループが800人から1,200人の傭兵をハフタル氏に供給したと指摘した。

 

安全保障理事会の外交官によると、リビアには他にもシリア、スーダン、チャドから来た何千人もの傭兵がいるという。

 

国連の傘下で停戦を監視するための国際監視団派遣の第一歩として、国連の先遣隊がリビアに滞在している。先遣隊は来週には戻る予定となっている。(後略)【3月13日  ARAB NEWS】

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本当に総選挙が実施できるのか、実施したとして、その結果を双方が受け入れるのか・・・はなはだ不透明としか言い様がありませんが、まずは一歩踏み出した・・・といったところでしょうか。

 

【人々は平穏な日常を取り戻そうとしている・・・・】

でもって、今日リビアを取り上げたのは、上記のような不透明な政治情勢ではなく、下記の市民生活に関する記事を目にしたためです。

 

****塩セラピーのスパ、リビア革命の聖地を癒やす新ビジネス****

反カダフィ革命の聖地として知られる、リビア東部の主要都市ベンガジ。戦火で引き裂かれたこの国で思いもよらなかった癒やしのビジネスが、この地に登場した。

 

10年前、独裁者ムアマル・カダフィ大佐の打倒を目指して市民が立ち上がった港湾都市に昨年10月、リビア初の塩セラピーのスパがオープンした。

 

2人の女性起業家が立ち上げたスパの名前は「オパール」。静かな音楽と控え目な照明に包まれた瞑想(めいそう)的な雰囲気の中で、心地よい施術が行われる。それぞれの部屋は、塩でできた人工洞穴のようだ。

 

「塩の粒子を吸い込むことで呼吸器が浄化され、肌にも良い効果がある」と説明するのは、共同設立者で代替医療の専門家イマン・ブガイギスさんだ。

 

彼女はシャベルを使って、30代の男性客の両脚を塩に埋める。客は目を閉じ、塩の塊を両手で握り、ゆっくり呼吸を続けた。

 

別の部屋には、ヨウ素が添加された塩の粒子を散布している装置があった。

 

1回の施術は45分ほどで、料金は80〜120リビア・ディナール(約1900〜2900円)。効果を得るには数回通う必要があるとブガイギスさんは述べた。

 

■「痛みが和らいだ」

ベンガジの流行地区の真ん中にあるオパールが提供する塩セラピーは、ぜんそくなど呼吸器系の症状や湿疹・乾癬(かんせん)を含む皮膚疾患の治療に有望だという。

 

この都市は内戦中、東部勢力のハリファ・ハフタル司令官の牙城だったため、爆発の跡や破壊されたビルが目立つ。

 

50代の銀行家ムスタファ・アーメッド・アクリフさんは、副鼻腔炎に10年ほど悩まされてきた。「たくさんの鎮痛剤を服用し、痛みを和らげる伝統薬も試した」。ところが、オパールに4回通っただけで「8割」の症状が改善したと言う。

 

ブガイギスさんは他のアラブ諸国を旅行中に、塩を使う治療法を知ったという。その後、隣国チュニジアで代替医療を学んだ。

 

慢性病に対する塩セラピーの効能を確信したブガイギスさんは、帰国すると知人のザイナブ・アル・ワルファリさんとともに新ビジネスを立ち上げた。

 

■平穏な日常

オパールの開業はちょうど昨年10月、東部勢力と首都トリポリの国民統一政府の間で停戦合意が結ばれた時期と重なった。新たな暫定統治評議会が2月に発足し、12月の国政選挙に向けて体制を整えている。長年不安定な状態にあるリビアでは、ビジネスの見通しはつけにくい。

 

ワルファリさんは、塩セラピーの考え方をまずベンガジ市内の医療関係者に広めるところから始めるつもりだ。「そうすれば一般の人々にもできる限り行き渡る」と考えている。オパールでは、あらゆる年齢の患者を診る用意ができている。

 

カダフィ大佐殺害から10年、繰り返された戦闘を経て、リビアの人々は平穏な日常を取り戻そうとしている。 【3月13日 AFP】

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リビアというと、東西勢力間の衝突、あるいは欧州に渡る移民を食い物にする悪徳業者といった殺伐としたニュースばかり目にしますが、上記のような日常生活もあることに新鮮な印象も感じました。

 

女性起業家による事業というのも興味深いところ。

 

総選挙が無事実施されて、リビアの人々が平穏な日常を取り戻すことになるといいのですが。

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アメリカ  ワクチン接種1億回超え ストックワクチンは自国民優先 未接種者との差別化が課題

2021-03-13 23:41:08 | アメリカ

(中国がワクチン接種者に発行を開始した「ウイルスパスポート」の見本画面【3月9日 AFP】)

 

【世界で約3億3千万回 スローペース日本は約23万回】

日本国内の新型コロナワクチン累計接種回数は3月12日時点で約23万回とのこと。

 

****チャートで見る日本の接種状況****
新型コロナワクチンは医療従事者向けの優先接種が各地で進み、国内の累計接種回数は3月12日時点で4万9358回増の23万542回になった。

 

接種完了となる2回目の接種も始まり、接種を受けた人は累計で22万7194人、うち2回接種完了は3348人になった。

 

輸入第4便が3月8日到着し、1瓶あたり6回採取する計算で最大で99万4500回分だった。これまでの輸入分と合わせ、現在の調達数は約236万回分(約118万人分)になった。【3月13日 日経】

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一方、世界全体では3億回を超えています。

 

****主な国・地域の接種状況****

世界全体の累計接種回数は3月11日までに3億2883万回を超えた。直近7日間の接種回数は1日平均で600万6863回になっている。

 

国・地域別では米国、中国の接種回数が突出し、2カ国で全体の45.1%を占める。欧州各国でも普及が進む。【3月12日 日経】

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11日時点での国別では、アメリカが9567万回、中国が5265万回、インドが2568万回、イギリスが2425万回、ブラジルが1175万回、トルコが1036万回、イスラエルが907万回とのこと。

 

もちろん、途上国などではこれからの国が多々ありますが、明らかに日本は世界主要国比較で見るとワクチン接種の遅れが目立ちます。

 

****河野担当相×橋下徹 4 日本の遅れは“3カ月遅れの治験”****

(中略)今月(2月)から、医療従事者への接種が始まったものの、結果的に欧米に遅れる形となった。

番組レギュラーコメンテーターの橋下徹氏は「製薬会社は、治験データを提供する国にワクチンを優先供給する現実があるのではないか」と述べた。

 

これに対して河野氏は、イスラエル以外の国で、優先的なワクチン供給を受けるために、データを提供したケースはない、との見解を示した。

 

その上で河野氏は「むしろ日本の問題は、諸外国と比べて感染者数が桁外れに少ない。ファイザーが国際的な治験をやろうとした時、日本は対象外となった」「そこで日本政府はファイザーに依頼し、世界的に7月から始まった治験を10月からスタートし、承認にこぎ着けた」と内幕を語った。【2月28日 FNNプライムオンライン】

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どういう事情があるにせよ、世界各国がワクチン確保にしのぎを削っているなかで、ワクチン確保に向けた日本政府の対応は鈍かったように思われます。

 

そうした「鈍さ」を可能にしたのは、国民の過剰なまでのワクチンへの不安感、それを助長するようなメディアの姿勢でしょう。

今ですら、この国民の生命を危険にさらした失政への責任追及姿勢は世論・メディアにはあまり見られません。

 

そうした状況を背景に、政府・自治体・専門家は国民に上から目線の「自粛」を求めるばかり・・・まあ、国民がそれで納得しているなら、コロナで何人死のうが、閉店・廃業を余儀なくされた者がどれだけ出ようが、何も言うべきことはありませんが。

 

【1億回を超えたアメリカ 未承認ワクチンの大量ストックがあるも、他国への供与は拒否】

ところで、接種回数で世界トップのアメリカ、1億回を超えたとか。かなりのハイペースで進んでいるようです。

 

****米、ワクチン接種1億回=予定の半分で目標達成****

米国内での新型コロナウイルスのワクチン接種が12日、累計で1億回を超えた。

 

バイデン大統領は1月の就任時、「(政権発足から100日に当たる)4月末までに1億回の接種を目指す」と表明していたが、およそ半分の期間で目標を達成したことになる。

 

疾病対策センター(CDC)によると、米国内で少なくとも1回のワクチン接種を受けたのは、人口の約2割に当たる約6600万人。うち約3500万人は免疫獲得に必要な回数の接種を済ませ、接種回数は延べ1億100万回となった。優先接種の対象とされる65歳以上の高齢者に限ると、61%強が少なくとも1回の接種を受けた。

 

バイデン氏は11日の演説で、「18歳以上の全成人が5月1日までにワクチン接種を受ける資格を得られるよう、各州に指示する」と表明。ホワイトハウスは12日、優先接種対象となる職種を従来の医師や看護師などに加え、歯科医、獣医師、医学生、看護学生らに広げると発表した。【3月13日 時事】 

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接種がハイペースなだけでなく、ワクチン確保の点でも、未承認ワクチンをも大量ストックしているようで、なんだかんだ言いつつ「やっぱアメリカは・・・・」という感も。

 

そうした“ため込んでいる”ワクチンを分けて欲しいという要望もありますが、協調重視のバイデン政権も、それに関しては前政権同様「自国民優先」のようです。まあ、国民の生命を第一とする国家としては当然と言うべきか・・・。

 

****米政府、外国からのワクチン融通要請拒む 自国民優先****

サキ米大統領報道官は12日、世界の多くの国から新型コロナウイルスのワクチン供与に関する要請が米国に届いているが一切応じていないことを明らかにした。

 

米食品医薬品局(FDA)が緊急使用をまだ承認していない英アストラゼネカ社製のワクチンを、米国が数千万回分確保している理由を問う質問に答えた。バイデン米大統領が他国へのワクチン供給より、米国民へのワクチン接種を現在の最優先課題としている方針に言及した。

 

同社製のワクチンについては多数の国が使用を許可。ただ、欧州中心に十分な量の調達に手間取っており、供給能力への懸念も生じている。一方で米国はFDAによる使用承認の審査が続くなか、大量の在庫を既に抱えている。

 

サキ報道官は米国民へ投与するワクチンの量を確保したいとの狙いがあると説明。米国内では依然、毎日1400人が亡くなっているとの現状にも触れた。他国へワクチンを差し向けないのは「我々の集中すべきかつ優先順位の問題」と強調した。

 

他国へのワクチン供給でバイデン氏は倫理的な義務感を覚えないのかとの質問には、「大統領の目下の関心は米国の危機の封じ込めにある」と応じた。

 

米国の指導者としてワクチン確保で最大限の融通性を望んでいる一方で、国際社会との協力を求める意図を示しているとも述べた。【3月13日 CNN】

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ワクチン確保が遅れて、統合の理念が揺らいでいるEUなどは、喉から手が出るほど欲しいところでしょうが。

 

****オーストリア首相、EU加盟国は「裏取引」でワクチン調達と主張****

オーストリアのセバスティアン・クルツ首相は12日、欧州の一部の国は、欧州連合の規定で定められた量よりも多くのワクチンを受け取るため、ワクチン製造会社と「裏取引」をしている可能性があると主張した。

 

EU加盟国は、各国の人口に合わせてワクチン供給量を調整することで合意した。しかしクルツ首相は、加盟国のワクチン調達量を比較したところ、「(各国への)ワクチン供給量は、人口に応じて割り当てる仕組みに即していない」ことが判明したと主張。

 

「加盟国と製薬会社が追加契約を結んだ『市場』のようなものが存在することを示す手掛かり」として、1人当たりのワクチン量で比べると、今年7月末までにマルタはブルガリアの3倍の量のワクチンを確保し、6月末までにオランダはドイツより多いばかりか、クロアチアの2倍近い量のワクチンを確保することを例に挙げ、「これはEUの政治指針とは明らかに矛盾している」と述べた。

 

しかし、EU側は、クルツ首相が主張するような水面下での取引は行われていないと一蹴。

 

欧州委員会のステファン・デケースマーカー報道官は、「加盟国が、供給されるワクチン量の増減を依頼することもあるだろうが、それについては加盟国同士で話し合われている」と述べ、「加盟国同士の協議により、製薬会社との合意で新たな分配量が決まることも考えられる」とした。

 

ワクチン接種計画が遅いとして批判されているEU加盟国は、供給と出荷に問題があるとしている。

 

ワクチン接種を1回以上受けた人口の比率でみると、米国やイスラエル、英国と比較して、欧州各国は後れを取っている。 【3月13日 AFP】

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一方、アメリカの断れたメキシコは中国に頼る・・・といったことも。

 

****メキシコ、米国にワクチン共有を拒否され、中国に頼る―中国メディア****

中国メディアの中国日報網は10日、メキシコについて「米国に新型コロナウイルスワクチンの共有を拒否され、中国に頼ることに方向転換した」と報じている。

ロイター通信の報道を引用して伝えたもので、それによると、メキシコのエブラルド外相は9日の記者会見で、「メキシコはワクチンの不足を埋めるために、2200万回分の中国製ワクチンの注文に目を向けている」とし、「ロペスオブラドール大統領が中国からより多くの支援を得るための努力を主導した結果、2200万回分のワクチンを入手できることが確認された」とした。(中略)

米国のバイデン政権は先週、ワクチンをメキシコと分け合う計画はなく、自国民の接種を優先すると表明していた。【3月13日 レコードチャイナ】

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IOCバッハ会長が、中国製ワクチンを承認している国・地域の選手と関係者向けとして中国からワクチン提供の申し出があったと明らかにした件といい、中国のワクチン外交は「大成功」のようです。

 

【ワクチンへの関心高まる 今後は未接種者との差別化が課題】

話をアメリカに戻すと、国民のワクチン接種を促すキャンペーンに、存命の米大統領経験者のうち、トランプ氏を除く4人が出演したとか。

 

****存命の4人の元米大統領、ワクチン接種促すCM出演 トランプ氏は出ず****

存命の米大統領経験者のうち、トランプ氏を除く4人が出演し、新型コロナウイルスワクチンの接種を呼びかける公共広告のテレビ放映が11日、始まった。ワクチンに対する疑念を払拭(ふっしょく)する狙いがある。

 

出演したのはカーター、クリントン、ブッシュ(子)、オバマの各元大統領夫妻。広告は2種類あり、長い1分間のものは各夫妻が接種を受ける様子を見せるもの。

 

30秒の短いバージョンはクリントン、ブッシュ、オバマの各氏がアーリントン墓地の施設に3人で立ち、ワクチン接種を呼びかける内容となっている。

 

1分間の広告では、ブッシュ氏がワクチンが「すぐに皆の手に届く」と述べ、オバマ氏がワクチンは「希望」で「あなたとあなたの愛する人を守る」と続ける。その後、コロナ禍で失ったものに言及し、クリントン氏は「仕事に戻り、動き回りたい」、オバマ氏は義母を「誕生日にハグして会いたい」、ブッシュ氏は「テキサス・レンジャースのスタジアムで開幕戦に参加したい」と語った。

 

96歳のカーター氏はカメラの前では話さなかったが、自分が接種を受けるのは「この流行をできる限り早く終わらせたいからだ」との音声が流れた。

 

トランプ氏の参加について、事情に詳しい関係者によると、任期末期に大統領経験者らと疎遠な状況となっていたことや、バイデン大統領の就任式に出席せずワシントンを離れた経緯から、話題にあまり上がらなかったという。

 

ワクチン接種のキャンペーンの話は、大統領就任日の1月20日にクリントン、ブッシュ、オバマ氏の間で交わされた会話から進んだ。本プロジェクトに近い人物は、トランプ氏が就任式に参加しない決断をしたため、広告への参加を依頼されることもなかったと語る。

 

この広告は米広告協会が作成した。広告の作成チームはトランプ氏の参加はなさそうだと見て、参加の機会は遠のいた。ある大統領経験者の側近は、こうした時に「参加したいというサインがいっさいなかった」とも語った。

トランプ氏の広報担当に参加しなかった理由を尋ねたが返答はない。

 

トランプ氏は放映が始まる前日の10日に、1月にワクチン接種を受けていたことを認める声明を出している。【3月12日 CNN】

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日本ほどではないにしても、ワクチンへの不信感が比較的高かったアメリカでも、ワクチン接種への関心が、昨年5月38%、今年1月41%、3月54%と高まっているようです。

 

****職場復帰や旅行のワクチン接種義務、米の6割が支持=調査****

ロイターとイプソスが12日に公表した調査によると、新型コロナウイルスワクチンの接種を希望する米国人が半数を超えた。また、ワクチン未接種の人に対する職場や旅行での制限を支持する割合が約6割に上った。

調査では54%がワクチン接種に「非常に関心がある」と回答。1月調査の41%、ワクチン開発前の昨年5月時点の38%から上昇した。一方、興味がないという回答は27%で、昨年5月とほぼ同水準だった。

また、72%が「自分の周りの人がワクチンを接種しているかどうか」を知ることが重要と回答。ワクチン未接種の人について、飛行機の利用を認めるべきではないと答えた人は62%、公共のジム、映画館の利用やコンサート鑑賞を禁止すべきと答えた人は55%に上った。

さらに、60%が職場復帰に当たり社員全員にワクチン接種を義務付ける雇用主の下で働きたいと答え、56%がワクチン未接種の社員は在宅勤務とすべきだという考えを示した。

調査は8─9日に、1005人を対象に行われた。【3月13日 ロイター】

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職場復帰や旅行のワクチン接種義務をどうするかは、今後ワクチン接種が進んで行くと、日本を含めた各国が直面する課題ですが、アメリカの場合、ワクチン接種に興味がないという27%はトランプ支持層とも重なる部分が大きいと思われますので、「政治問題」にもなりそうな感じも。

 

米疾病対策センター(CDC)は8日、新型コロナウイルスのワクチンの接種を完了した人に向けた手引きを発表し、接種完了者同士が屋内で集まる場合、マスクを着用したり、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を取る必要はないとしています。

 

一方、加藤勝信官房長官は9日、日本では接種完了後も引き続きマスク着用が必要との方針を示しています。

 

また、各国で「ウイルスパスポート」導入に向けた動きが見られます。

 

****中国、「ウイルスパスポート」の発行開始****

中国はこのほど、海外旅行者向けの健康証明書となる「ウイルスパスポート」の発行を開始した。世界初とみられている。

 

保持者のワクチン接種状況とウイルス検査結果を示すこの電子証明書は中国国民向けで、ソーシャルメディアプラットフォームの「微信(ウィーチャット)」で8日に発行が始まった。

 

外務省報道官は、この取り組みの目的について「世界経済の回復促進に寄与し、国境を越えた移動を容易にするため」と説明している。

 

ただこのパスポートは、中国を起点とする出入国時に提示されるが、現在の発行対象者は中国国民だけで、まだ義務化はされていない。

 

また中国人が海外に赴く際、他の諸国の当局がこれを活用するかどうかは不明。 【3月9日 AFP】

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ワクチンより自粛・巣ごもりの方がいいというハイリスク者と接種を済ませたローリスク者の間で、日常生活のいろんな面で扱いに差が出るのは当然のことでしょう。

 

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顔認証技術の進歩で進む個人情報活用 ルール作りの必要も

2021-03-12 22:22:16 | 民主主義・社会問題

(広東省東莞市の公衆トイレで行われている顔認証によるトイレットペーパーの支給【2020年12月6日 レコードチャイナ】)

 

【顔認証を使うシーンなどのルールがあいまい 警察に過度の裁量】

いまや街のあちこちに監視カメラ・・・というのは、ごく日常的な光景にもなっており、犯罪防止などで便利と言えば間違いなく便利です。

 

ただ、自分が知らない間に撮影されているという、落ち着かない感じも。そうしたデータが誰によってどのように利用されているのかと考えると、不安な感じも。

 

単に画像が撮影されるだけでなく、AIを駆使した「顔認証」技術によって、犯罪捜査などにも活用されています。

 

下記記事は、監視カメラが多いことでは世界有数のレベルにあるイギリス・ロンドンからのリポート。

 

****街中で撮られた私の写真、自宅に届いた 監視カメラ大国イギリスの今****

駅や商店街に設置され、犯罪に目を光らせる監視カメラ。人々の顔の特徴を見分ける「顔認証技術」を搭載し、さらに役立つ存在に……と思ったら、いや、待てよ。それだけではない議論が今、世界で巻き起こっている。

 

ロンドンの自宅に、一通の封書が届いた。中身は駐停車違反通知。朝、子どもを学校に送った際に、校門前で一時停車した場所がいけなかった。反省しつつ驚いた。通知書には証拠写真が、車を降りた子どもの姿とともに載っていた。(中略)

 

英国は監視カメラ大国として知られる。英報道によれば、ロンドンだけで40万台を超えるとされる。1990年代に防犯目的で政府が推進し、2005年のロンドン同時多発テロを機にさらに拡大した。テロや凶悪犯罪が絶えない社会で市民の理解を得てきた。

 

その監視カメラ社会はいま、人工知能(AI)によりさらに「進化」しようとしている。顔の特徴から人を見分ける「顔認証」技術の登場だ。

 

ただ、待ったをかける判決が昨夏、注目を集めた。英西部ウェールズ地方に住む大学職員のエド・ブリッジスさん(38)は17年12月、カーディフの商店街にクリスマスプレゼントを買いに出た。警察のバンが1台、路上に止まっていた。車体の腹に「顔認証」とある。説明は他になく、「自分の顔がスキャンされたのか」と気味悪く思った。

 

翌年3月、カーディフで平和デモに参加した彼は、通りの向かいに同じバンを見つけ、今度はゾッとした。「顔認証技術は、私を含む参加者に向けられていた。市民の安全と権利を守るべき警察による、威圧と感じた」

 

人権団体に相談し、警察の顔認証技術の利用はプライバシー権の侵害で違法だと裁判に訴えた。19年9月の一審判決は敗訴。しかし、20年8月、日本の高裁にあたる英控訴院が判断を覆し、ブリッジスさんが勝訴した。

 

英国に顔認証利用に特化した法律はまだない。警察は、監視カメラの設置ルールとデータの扱いを定めたデータ保護法などに照らし、適正だったと主張したが、判決は顔認証を使うシーンなどのルールがあいまいだと指摘。

 

肝となる「顔の照合リスト」を誰がどう作るかで、警察に過度の裁量が与えられていることを問題視した。技術そのものの捜査での有用性には理解を示したうえで、警察の野放図な利用は許されないというわけだ。

 

ブリッジスさんは、警察がAIのような新たな捜査技術を持つことに全て反対というわけではない。「ただ、常に市民のプライバシー権とのバランスが求められる。自分のデータをどこまでコントロールし、どこから警察に委ねるか。根本的な問題なのに、現状は法的整備が不十分だ」

 

■BLM契機に顕在化した米国

警察による顔認証利用への懸念は昨年、米国でも相次いだ。ここでの契機は、黒人差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」運動だった。

 

米大手IT企業のIBMは昨年6月、米議会下院に宛てた手紙の中で、顔認証システムの一般提供をやめると表明。アービンド・クリシュナ最高経営責任者(CEO)は「テクノロジーは透明性を高め、警察が社会を守るのにも役立てられるが、差別や人種による不公平を助長してはならない」と述べ、開発企業の立場から法整備の必要性を訴えた。

 

同様の趣旨でアマゾンも、自社の顔認証システムを警察が使うことを1年間中止し、マイクロソフトも一時的な取りやめに踏み切った。米ミネソタ州で白人警官が黒人男性を死なせた事件が起きた直後の判断だった。

 

顔認証は黒人を見分ける精度が低いという研究結果もある。警察の差別的な捜査姿勢と相まって、誤認逮捕などを招きかねない。BLMデモの参加者の監視につながるのではないか。そんな指摘が出ていた。

 

■企業対応、手探り

英ウェールズの警察当局は「(判決の指摘部分に)対応することで運用は可能」との立場で、利用を諦める気はなさそうだ。

 

英国では市民にも、顔認証の防犯目的利用への期待がある。(中略)

 

ロンドン警視庁は昨年、顔認証カメラの本格運用を発表した。採用するのは、日本で開発をリードするNECのシステム。使用場所はネットで周知され、結果も公表される。

 

コロナ禍の影響で、最後の運用は昨年2月、繁華街のオックスフォード・サーカスだった。開示資料によると、約8600人の顔が認識処理され、約7300人分の「リスト」と照合された結果、システムによる警告は8件。うち7件は間違いで、残る1件が検挙につながった。

 

顔認証利用の議論は、日本では煮詰まっていない。

(中略)欧米でプライバシーへの懸念を契機に規制をめぐる議論が広がる現状について、本部長の野口誠さんは「新しい技術を社会が受け入れるのに、必要なプロセスだと思う」と話す。議論が成熟した先に、この技術が課題解決に生かせる社会が見えてくると考えるからだ。「正解はなく、悩みながらというのが正直なところです」【3月12日 GLOBE+】

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【「監視カメラ大国」中国 「天網」システムが反体制派弾圧に利用されているとの批判も】

イギリス・ロンドンが「監視カメラ大国」として知られていますが、“やはり”と言うべきか、台数で言えば(おそらく、“活用度合い”で言っても)中国各都市が抜きんでているようです。

 

そして、監視カメラ台数と犯罪防止の間には明確な相関関係はないようですが、それでも中国が監視カメラを増やし続けるのは、もっと「政治的な監視体制」のためであると想像されます。

 

****イギリスレポートの監視カメラ動向****

「監視カメラ」と聞いて、みなさんはどのようなイメージを持つだろうか。監視カメラを設置することで、犯罪を抑止できるという考えもありますし、プライバシー侵害を叫ぶ声もある。

 

さらに、今顔認証技術が急速な発展を見せ、誰がどこにいて、何をしているかが、一目瞭然になる世界が見えており、そこに対する不安も聞かれる。

 

イギリスの比較サイトComparitechが発表した世界各都市の監視カメラ動向をまとめたレポートは、監視カメラにかかわる問題を考察していく上において、参考になるので、ご紹介したい。

このレポートは、世界120都市の監視カメラ台数を分析したうえで、人口1000人当たりの台数へと換算して、それをランキングしたものである。

 

  • 監視カメラ上位は、やはりあの国…。
    では、監視カメラが最も設置されている国はどこであろうか。予想していただき、続きを見てもらいたい。

 

このレポートによると、1位は、中国・重慶。監視カメラ約258万台。人口は約1535万人。1000人当たりのカメラ台数は、約168台。2位は、中国・深圳。監視カメラ約193万台。人口は約1212万人。1000人当たりのカメラ台数は、約159台となっている。以下、3位上海(1000人当たり113台)、4位天津(93台)、5位済南(73台)、6位ロンドン(68台)、7位武漢(60台)、8位広州(52台)、9位北京(39台)、10位アトランタ(15台)
と続く。やはりというか、上位10位のうち8つを中国を占めている。予想は当たっていただろうか。

 

  • 監視カメラ台数と安全性に関する意外な結果
    Comparitechはこのレポートの中で、監視カメラを設置する最たる理由としてよく挙げられるのは、「監視カメラを増やすことで犯罪抑止になる」という主張である。この主張が、本当に妥当なものであるかを安全指数(犯罪指数)に照らし合わせ、その相関関係を分析している。(中略)

 

(各都市の監視カメラ台数と安全指数を比較した)上記数字から、(安全都市ランキングで世界一位の東京が、監視カメラ数ランキングでは、0.65台で77位と低い位置にあるように)監視カメラの台数と安全性には、強い相関性がないことがうかがえる。

 

つまり、この分析における結論は、監視カメラの数と安全性の相関関係は弱く、「監視カメラを増やすことで犯罪抑止になる」という主張の正当性は、残念ながら低いということである。端的にまとめると、「監視カメラを増やしたからといって、必ずしも街の安全性が高まることはない」ということだ。(中略)

 

  • 中国が監視カメラ設置を続ける理由
    このレポートによると、2020年までに中国の監視カメラは、2億から6億2600万台まで及ぶとされている。深圳は今後数年で、監視カメラをの台数が、現在の193万台から、1668万台に増やす計画となっており、単純に一人当たりカメラ1台以上というとんでもない割合となってくる。

 

では、なぜ中国はここまで監視カメラを導入するのであろう。確かに犯罪抑制という一面もあるが、「天網」と呼ばれるシステムの強化であると言われている。

 

この「天網」とは、簡単に言えば監視カメラの映像とAIによって、中国国内の人々を特定してしまうシステムである。

 

2010年代から中国各地で試験的に始まり、2020年までの中国全土の導入を掲げている。中国はこれらは、行方不明者や犯罪者を見つける事ができるとしている。2018年時点で、2000人を超える犯罪者を逮捕を天網で成功したとしている。しかもこのシステム、すでに世界54か国に輸出されているという。

一方で、欧米メディアは中国の反体制派弾圧に利用されているとし、厳しい批判を浴びせている。AIによる画像認識は、様々なアルゴリズムと蓄積されていくビックデータによって、日々進化を遂げている。

 

日本は一体どういった道を進んでいくのだろうか。プライバシーについて、それぞれが考えるべき時が近づいているのかもしれない。【2020年04月08日 NSK日本セキュリティー機器販売】

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【中国国内にも個人情報の扱いに関する慎重論も 中国政府がガイドライン作成】

「中国=ディストピア的監視社会」というイメージについては、誤ったイメージによるもので「幸福な監視社会」という反論もあります。

 

****【書評】街中に監視カメラ、ネット検閲…それでも中国人が幸福な訳****

(中略)

『幸福な監視国家・中国』 梶谷懐・高口康太 著/NHK出版

 

(中略)「デジタル監視社会」の実体に詳しい専門家ですら、中国の監視社会については正確に理解できていないらしい。多くの誤解がある。

 

その原因は、バイアスのかかった先行情報を参照した結果、後追い情報もさらにバイアスのかかったものになる、という負の連鎖が起きているからだ。驚くのは、外からの視点と中国自身の現状に対する内からの視点とでは、評価が真逆なのだという。

 

この本は、現代の中国社会で起きていることを、冷戦期の社会主義国家のイメージで語るのはかなりミスリーディングだ、というスタンスをとる。「監視社会」やそれに伴う「自由の喪失」を論じるのであれば、同時に「利便性や安全性の向上」にも目を向けなければならないということだ。

 

というわけで、かなりめんどうくさい。うさんくさい。警戒しながらじっくり読むべし。【2020年12月9日 柴田忠男氏 MAG2NEWS】

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ただ、中国国内でも顔認証技術の乱用を危ぶむ声もあるようです。

 

****顔認証でペーパーが出てくる公衆トイレ、本当に必要?=「リスク」指摘する声も―中国****

広東省東莞市の公衆トイレで行われている顔認証によるトイレットペーパーの支給について、専門家からリスクを指摘する声が上がった。中国中央テレビ(CCTV)が4日付で報じた。

同市の一部の公衆トイレでは、顔認証システムを用いたペーパーの配布が行われている。トイレットペーパーの盗難や無駄遣い防止が主な目的で、顔を機械に読み取らせることで決められた量のペーパーが自動で出てくる。一度読み取ると、一定の時間は利用することができない仕組みだ。

顔認証の機械本体は、設定した時間ごとに保存されている顔情報を自動的に削除するという。しかし、ネットワークセキュリティーの専門家は「本体に情報が保存されていないからといって、システム内に保存されていないわけではない。データベースが漏洩(ろうえい)したり盗用されたりした場合、身元が明らかにされるリスクがある」と警告した。

顔認証によるトイレットペーパーの支給について、ネットユーザーからは「(顔認証は)不便だけど、そのまま設置すると持ち去る人間がいる。いっそ有料にすればいい。顔認証を使う必要があるだろうか」「近くにもある。公衆トイレの管理者はトイレットペーパーの浪費を抑えたいだけだろうが、設備の運営会社はたぶんビッグデータを集めたいのだろう」「顔ではなく指紋なら良いのでは?事件の容疑者逮捕にも役立つかも」といった声が寄せられた。

ほかには、「すべてのソフトに個人情報はある。気にしてたら何も使えない。本当に個人情報を使って何かされたら、それは違法なのだから法的な追及を受けるだろう。一般人の個人情報に大した価値はない」との意見も見られた。

中国では各地でスマートコミュニティーの建設が進むにつれ、多くの場所に顔認証システムが導入されている。地域の治安維持に有効という声がある一方で、個人情報を勝手に収集するプログラムは違法だと訴える人、収集された情報が漏洩した場合のリスクを懸念する人も出始めている。

中国のネット上では先日、「杭州市不動産管理条例(改正案)」が話題になった。同条例案では、不動産業者は区分所有権者に対し、指紋や顔認証などの生体認証を用いた共用施設の使用を強制してはならないと規定されている。背景には、個人情報収集の合理性と合法性をめぐる議論があるようだ。【2020年12月6日 レコードチャイナ】

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顔情報を含めて、いろんな方法で集められた個人情報は「信用情報」にまとめられ、生活の多くの場面で使用されることが想定されます。

 

中国政府も個人情報収集に関するルール作りの必要性は「一応」認識しているとのことのようです。

 

****中国、社会信用システム巡るガイドライン公表 国民の懸念に対応****

中国国務院(内閣に相当)は24日、企業や個人の間の信頼を高めることを目的とした「社会信用システム」について、整備に関するガイドラインを公表した。

同システムは詐欺や脱税、債務逃れなどを抑制する狙いがあるが、規制や法整備が不十分なため、個人情報の収集、データ保護、プライバシーなどについて国民の間で懸念が生じている。

ガイドラインによると、政府は社会信用システムの質の高い開発を促進し、不正行為を抑止する長期的なメカニズムを構築する。これにより「公正で誠実な市場環境」の実現を支援するとした。

企業や個人の不正行為に関するデータや情報、関連する処罰は法に基づいて処理すると説明した。

中国は信用システムを構築してきた世界的な経験から学び、国際基準を順守し、国民の懸念が大きい分野では慎重に行動するとしている。

また政府部門間の共有などデータの収集を改善し、信用情報の開示は企業秘密や個人のプライバシーを侵害しない形で行うと表明した。

金融機関、信用格付け機関、インターネット企業、データ企業を重点的に監督し、個人情報の収集・保存・使用・処理・開示を厳しく規制するとした。【2020年12月24日 ロイター】

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【「顔認証」でわかる政治的立場】

中国政府の「プライバシー尊重」という言葉をどのように評価すべきか・・・と言う話は、各人に判断にゆだねるとして、現実はどんどん進んでいます。これを国家権力が「テロ対策」の名目で「活用」しないということは考えられないかも。

 

****72%の精度で政治的立場を予測する「顔認証技術」の可能性と危険性****

スマートフォンやパソコンといったデバイスのロック解除から飛行機の搭乗手続きまで、顔認証技術は活用の場をどんどん広げています。最近では性格や感情までも読み取ることが可能になってきている模様。そんな顔認証技術の可能性と危険性を示唆する研究が最近、発表されました。

 

↑顔認証技術も2つの顔を持つ 

アメリカのスタンフォード大学の研究チームは、顔認証技術の危険性について研究を行うため、人物の顔写真からその人の政治的立場を予測する技術について実験を行いました。

 

研究チームはアメリカ、カナダ、イギリスの3か国から合計108万5795人を対象に、デートサイトやFacebookに掲載されたプロフィール用顔写真を集め、さらに本人から政治的な志向、年齢、性別などの情報を収集。プロフィール写真からは人物の顔以外のパーツは排除し、オープンソースの顔認証アルゴリズムを使ってリベラル派か保守派か予測しました。

 

すると、アメリカのデートサイトのユーザー86万2770人の政治的志向は72%という確率で予測が当たりました。そのほかの結果はカナダのデートサイトの精度が68%、イギリスのデートサイトが67%、Facebookのサンプルが71%。その一方で人間の精度はわずか55%だったので、顔認証技術のほうが顔写真からより正確に政治的立場を予測することができると判明したわけです。

 

この結果は顔認証技術の驚異的な能力を示す反面、政治的立場といったプライベートな情報も比較的に高い確率で予測することが可能であり、プライバシーや言論の自由を脅かす危険性を伴っていることを示しています。(後略)【2月4日 GetNavl web】

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“(G20で)中国の習近平国家主席は、世界の人の往来を回復させるため、中国の独自システム「健康コード」を国際的に普及させることを提案した。”【2020年11月22日 FNNプライムオンライン】というように、コロナ対策の面からの個人情報活用が進む可能性も。

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ミャンマー  逃亡警官「デモ参加者を撃てと言われた」 仲介役を目指す中国・日本 国軍容認批判も

2021-03-11 22:41:39 | ミャンマー

(ヤンゴンで、路上に張った物干しロープに伝統衣装のロンジーをつるし、バリケードにする抗議デモの参加者ら【3月10日 AFP】)

 

【激しさを増す国軍のデモ鎮圧行動】

ミャンマーの軍事クーデターに対する抗議活動に関して、興味深かったのは、女性用ロンジー(巻きスカートのようなもの)に対する男性の忌避感(それ自体はミャンマーにおける深刻な女性蔑視を示すもののひとつですが)を利用したもの。

 

*****伝統の巻きスカートで治安部隊を足止め ミャンマー*****

ミャンマーの路上で物干しロープに巻きスカートがつるされた様子は一見、何の変哲もない光景に見える。だが女性の衣服にまつわる昔からの迷信が、抗議デモの鎮圧を図る治安部隊の動きを阻止しているようだ。

 

2月1日のクーデターで軍部が文民政府を追放し、権力を奪取して以来、ミャンマーは大きな混乱状態にある。巻き起こった大規模な抗議デモの鎮圧に、軍事政権はますます武力行使を強化している。

 

軍が使用しているのは催涙ガス、閃光(せんこう)発音筒(スタングレネード)、ゴム弾、そして時には実弾さえある。

 

これに対してデモ隊は、創意に富んだ独自の戦術で応戦している。その最新戦術の一つが、街路を横切るように張った物干しロープに、女性の下着や伝統衣装の長いスカート「ロンジー」をつり下げることだ。

 

ミャンマーでは古くから、女性の下半身やそれを覆う衣服は、男性から「hpone」と呼ばれる力を奪ってしまうと言われている。

 

活動家のティンザー・シュンレイ・イー氏はAFPに「女性のロンジーの下をくぐると、彼らの『hpone』が破壊されるのです」と説明した。軍兵士の中には、武運を損なうことを恐れて、女性のロンジーに触りたがらない者もいる。

 

ティンザー・シュンレイ・イー氏は「住民がロンジーをロープにつり下げていると、(警官や兵士は)街頭に出動したり、それを横切ったりすることができず、(ロンジーを)引きずり降ろさなければならないのです」と語った。 【3月10日 AFP】

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現地の人間でなければ考えつかない工夫です。(繰り返しますが、そうした男性兵士の感情は、ミャンマーの女性差別を形成している要素のひとつです)

 

工夫という点では、ウェディングドレスなどでデモに参加する女性が話題になったことがありましたが、あれも別にふざけている訳でもなく、周囲やカメラの注意を引くことによって、治安部隊の暴力の対象となるのを防ぐ効果を期待したものとも。

 

しかし、治安部隊の鎮圧行動は戦闘用武器の乱射など、残念ながらロンジーなどの工夫で対応できるレベルを超えています。

 

****デモ弾圧に戦場用兵器=人権団体が非難―ミャンマー****

ミャンマーでクーデターを実行した国軍によるデモ隊の弾圧に関し、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは11日、戦場で用いる兵器が使われているとの調査結果を発表した。アムネスティは「組織的かつ計画的な殺害だ」と非難した。

 

ミャンマーの人権団体、政治犯支援協会によると、2月1日のクーデター後、治安部隊の銃撃などでこれまでに60人以上が死亡している。

 

アムネスティは最大都市ヤンゴンや第2の都市マンダレーなどで2月28日から今月8日にかけ、弾圧の様子を撮影した映像55本を検証した。

 

その結果、国軍や警察は狙撃銃や軽機関銃、短機関銃など治安維持用ではなく、本来なら戦場で使う武器の装備を増強。また、市街地で繰り返し実弾を無差別に乱射していた。【3月11日 時事】

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【「デモ参加者を撃てと言われた」】

こうした暴力的鎮圧を拒否して逃亡する警官などもいます。

 

****ミャンマーから逃亡の警官ら、「デモ参加者を撃てと言われた」 BBCに語る****

国軍への抗議デモが続くミャンマーから、国境を越えてインドに逃亡した警官10人以上が、BBCの取材に応じた。これまでにほぼ例のないインタビューで警官らは、一般市民を殺傷する事態を恐れ、国軍の命令を拒否して国外に逃げたと語った。

 

「デモ参加者を撃てと命令された。それはできないと言った」

そう話したナイン氏(27)は、ミャンマー(ビルマ)で9年間、警官として働いてきた(BBCは安全への配慮から警官らの名前を変えている)。現在、インド北東部ミゾラム州で身を隠している。

 

BBCはミャンマーで警官として働き、命令に従わなかった後、職を放棄して逃げたと話す20代の男女の一団に取材した。「軍に抗議している罪のない人たちを殺傷するのを強制されるのが怖かった」と、1人は話した。

「私たちは、選挙で発足した政府を軍が転覆したのは間違いだったと思っている」

 

国軍が2月1日に権力を奪取して以来、民主制を支持する抗議者ら数千人が、通りに出てデモを続けている。

これまでに50人以上が、治安部隊によって殺されたとされている。

 

ミャンマー西部の町の下位の警官だったナイン氏の話では、2月末になって抗議デモが激しくなり始めた。

デモ参加者らに発砲するよう命令されたが、2度拒み、逃亡したという。

 

「上司に、できない、あの人たちを支持すると伝えた」

「軍はいら立っている。どんどん残忍になっている」

 

取材中、ナイン氏は携帯電話を取り出し、残してきた家族の写真を見せた。妻とまだ5歳と6カ月の娘2人だ。

「もう二度と会えないかもしれないと心配だ」(中略)

 

ミャンマーから逃亡したのは警官だけではない。BBCは、民主化運動に参加するようオンラインで呼びかけ、当局から令状が発行されたという商店主に会った。

「身勝手に逃げているわけではない」と彼は言い、なぜ危険を冒して国を去ったかを説明した。

 

「国内の誰もが不安を感じている」

「私は身の安全のためにここにいる。今後も運動を支援するため、こちら側でできることを続けていく」【3月11日 BBC】

***********************

 

3月6日ブログでも取り上げたように、こうした造反する警官・兵士が増えていけば、国軍にとっては大きな圧力となり、流れを変える力にもなります。

 

逆に、散発的なレベルにとどまる限りは、国軍の暴力的支配を止めることは難しいようにも。

 

【「仲介役」を目指す中国】

国際圧力の面では、一番カギとなるのは国軍が頼りとする中国の対応です。

 

国連安全保障理事会は10日、「女性や若者、子供を含む平和的なデモ参加者に対する暴力を強く非難する」とする議長声明を発表しましたが、中国・ロシアは制裁などを示すような文言の削除を求めたものの、削除後の上記のような声明は承諾しています。

 

中国としても、正面きって国軍の暴力を容認できる状況にもなく、国軍と一体となっているというように見られることは警戒しています。

 

****ミャンマー、デモ隊が中国大使館で抗議活動 「国軍支援」と非難****

ミャンマー国軍のクーデターに抗議する数百人のデモ隊が11日、ヤンゴンの中国大使館で抗議活動を行った。デモ隊は、中国がミャンマー国軍を支援していると非難しているが、中国側は否定している。

 

デモ参加者は「ミャンマーを支持せよ。独裁者を支持するな」と中国語と英語で書かれたプラカードを掲げて抗議。別の参加者はミャンマーのメディアに対して「中国の政府高官は軍事クーデータを支援する行動をしているように見える」などと不満を漏らした。

 

現時点で中国大使館からの反応はない。

 

インターネットなどでは、中国がミャンマーに機器やIT専門家を送り込んでいるとのうわさが流れている。

これについて中国外務省報道官は「ミャンマーに関連する問題を巡って、中国について虚偽の情報やうわさがある」とした上で、中国は状況を注視しており、関係者すべてが国家の発展と安定を念頭に行動するよう望むと改めて強調した。【2月11日 ロイター】

*****************

 

中国は、国軍とアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の双方と友好関係を維持してきた経緯があり、国軍を明確に非難しない中国の姿勢は、ミャンマー市民らから批判されています。

 

王毅国務委員兼外相は、こうした状況を意識し、「仲介役」を担おうとする姿勢を見せています。

 

****中国、ミャンマー情勢安定化に向け全当事者と対話の用意=外相****

中国の王毅国務委員兼外相は7日、緊迫化するミャンマー情勢を安定させるため、全ての当事者と対話する用意があるとし、どちらか一方を支援するつもりはないとの考えを示した。

全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に合わせて開かれた記者会見で語った。

国軍が先月権力を掌握したミャンマー情勢について「明らかに中国が望んでいるものではない」と強調した。また、中国が軍のクーデターに関与しているとのソーシャルメディア上のうわさについて、ナンセンスだと否定した。

「中国はミャンマーの主権と人々の意思を尊重し、全ての当事者と接触し、対話する用意があり、緊張緩和に向け建設的な役割を担う」と述べた。

欧米諸国は2月1日のクーデターを強く非難している。一方中国は、ミャンマー情勢の安定化が重要だとの見解を示しているものの、批判的な姿勢を取ることには慎重になっている。

王氏は「国民民主連盟(NLD)も含め、ミャンマーの全ての党や派閥と長期にわたり友好的な関係を築いている。中国との友好関係は、ミャンマーの全てのセクターにおける総意だ」と説明した。

NLDは、ミャンマーのクーデターで拘束されたアウン・サン・スー・チー氏が党首を務める政党。【3月8日 ロイター】

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ただ、こうした二股をかける対応が成り立つのか、結局は国軍支配を容認することになるのではとの批判は当然にあります。

 

【日本も中国同様の二股外交】

その意味では、欧米のように国軍批判を前面にださず、やはり「仲介」的な役割を目指す日本も、中国と似たような立ち位置にあります。

 

日本は欧米のような制裁措置ではなく、ミャンマーへの政府開発援助(ODA)の新規案件を当面見送るといった対応。

 

****政府が「ロヒンギャ」人道支援20億円を決定 クーデター後初****

茂木敏充外相は9日の記者会見で、ミャンマーで国軍による迫害を受けてきた少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」への医療、食料などの人道支援に、国際機関を通じた計1900万ドル(20億9000万円)の緊急無償資金協力を決定したと発表した。

 

2月に起きたクーデター後、政府がミャンマー関連の支援を決めるのは初めてで、ミャンマーとバングラデシュ内の避難民が対象となる。

 

赤十字国際委員会(ICRC)、国連世界食糧計画(WFP)、国際移住機関(IOM)を通じて支援し、国軍との交換公文の署名などは行わない。ミャンマーに900万ドル、バングラデシュに1000万ドルをそれぞれ支援する。

 

茂木氏は「ミャンマーの国民生活や人道上の問題で支援は続けねばならない」と述べた。

 

日本は米欧のような制裁措置を打ち出していないが、ミャンマーへの政府開発援助(ODA)は当面、新規案件を見送る。日本は同国へのODAで、詳細な支援額を公表しない中国を除き、最大の拠出国となっている。

 

また茂木氏は、丸山市郎駐ミャンマー大使が8日、国軍に任命されたワナマウンルウィン外相と会談したと明らかにした。

 

東南アジア諸国連合(ASEAN)以外の外国政府関係者の接触は異例。日本外務省によると、丸山氏が民間人への暴力の停止やアウンサンスーチー氏らの解放を求め、「重大な懸念」を伝えたのに対し、ワナマウンルウィン氏は国軍による行動の正当性を主張したという。会談は首都ネピドーのミャンマー外務省で行われた。【3月9日 毎日】

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国軍を通さない人道支援は問題ないと思いますが、上記記事に“国軍に任命されたワナマウンルウィン外相と会談したと明らかにした”ということが問題にもなっています。

 

****日本大使館、ミャンマー国軍任命の人物を「外相」呼称 批判殺到*****

クーデターで国軍が全権を掌握したミャンマーにある日本大使館は8日夜、フェイスブックへの投稿で、国軍が任命した人物を「外相」と表記したうえで、「丸山(市郎)大使は、ワナマウンルウィン外相に申し入れを行いました」と述べた。

 

これに対し、ミャンマー市民からは「人々によって選出された外相ではない」「日本は軍政を応援するのか」などと批判の書き込みが相次いだ。

 

フェイスブックへの投稿は、ビルマ語、英語、日本語で行われ、丸山氏が「外相」に対し、市民への暴力の停止や拘束中のアウンサンスーチー氏の早期解放、民主的な政治体制の速やかな回復を強く求めたとした。だが、市民からは「外相と認めてはいけない」「修正を求める」などのコメントが多数寄せられた。

 

加藤勝信官房長官は10日の記者会見で、ミャンマー国軍が任命したワナマウンルウィン氏を日本政府が「外相」としていることについて「国軍によるクーデターの正当性やデモ隊への暴力を認めることは一切ない」と強調した。

 

加藤氏は「事案発生以来、クーデターを非難し、国軍に民間人への暴力の即時停止や拘束者の解放などを強く求めている」と日本政府の対応を説明。

 

そのうえで「ミャンマー側の具体的な行動を求めていくうえで、国軍と意思疎通を継続することは不可欠で、これまで培ってきたチャンネルをしっかり活用して働きかけを続けることは重要だ」と述べた。【3月10日 毎日】

***********************

 

国連でも、国軍批判を行うミャンマー大使を認めず、別人物を国連大使とする国軍の対応が問題となっているように、国軍が任命した人物の役職をどのように扱うかは微妙な問題で、外務省が留意しないはずはありません。

 

今回「外相」と明記したということは、日本政府の一定に国軍支配を容認する姿勢が示された形です。

 

こういう中国の国軍支配への影響力拡大を阻止したい狙いからの二股外交が、ミャンマー国民にどのように映るのか? 

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ブラジル  増え続けるコロナ コロナ軽視のボルソナロ大統領もワクチン確保に ルラ元大統領の出馬は?

2021-03-10 23:07:40 | ラテンアメリカ

(ブラジルの首都ブラジリアで行われたジャイル・ボルソナロ大統領の退陣を求めるデモ(2021年1月23日撮影)【1月24日 AFP】 コロナ対策からの車によるデモ・・・なんでしょうが、スラム街住民とは層が違うようにも)

 

【“人命軽視政策”とも批判されるボルソナロ大統領を一定に支持する国民も】

新型コロナの新規感染者数は、世界的な傾向としては、日本の動きと同様に、年明けあたりをピークとして、その後は減少してきていますが、なかには依然としてピークに近い水準にとどまっている国もあります。

 

そうした国のひとつがブラジル。

 

****ブラジル ピークに到達・増加傾向****

ブラジルでの1日あたりの感染者数の平均がピークに達した。現在の新規感染者数は67,929件。

パンデミック(世界的大流行)開始以降、同国では感染者11,122,429人、死者268,370人が報告されている。【3月10日 ロイター】

**************

 

ブラジルでは、いわゆる「変異株」が猛威をふるっています。

 

****ブラジルで変異株猛威 1日2000人近い死者 他国に波及懸念****

ブラジルで新型コロナウイルス流行の第2波が深刻化している。最近は1日あたり2000人近い死者が出ており、医療体制は危機的状況にある。

 

ブラジル起源の変異株が猛威を振るっているとみられ、世界保健機関(WHO)は各国に感染拡大が波及しかねないとの強い懸念を示している。

 

「ブラジルが真剣にならなければ、近隣諸国やそれ以外の地域に影響を及ぼすだろう」。WHOのテドロス事務局長は5日の記者会見でそう強調し、感染防止策の徹底を求めた。テドロス氏の念頭にあるのは、従来株より感染力が強いとみられるブラジル北部アマゾナス州由来の変異株だ。

 

変異株は1月、同州から日本へ渡航した新型コロナ感染者から見つかった。同州で2020年末に出現したと考えられ、21年1月には同州の感染者の9割から検出された。

 

すでに全土で猛威を振るっている可能性が高く、欧米諸国など20カ国以上でも発見された。各国はブラジルからの入国制限を厳格化して警戒する。

 

ブラジルでは、人出が増える年末年始や2月のカーニバル期間を経て、新型コロナの死者が増加。3月2日に1726人、3日に1840人の死亡が確認され、1日当たりの最多死者数を2日連続で更新した。

 

患者の受け入れ能力が限界を超えている地域もあり、各自治体は行動制限を強化している。ブラジルの医学界では20年3月に第1波に見舞われて以降、今が「最悪の時期」との見方が広がる。ワクチンの接種は遅れており、今後、数週間にわたって急激な感染拡大が続くと予想されている。

 

一方で、ボルソナロ大統領は4日、「騒ぎや泣き言は十分だ。いつまで泣き続けるのか」と述べ、市民に自宅待機を求める自治体首長に反発した。ボルソナロ氏は、高齢者らに限って自宅待機し、若者は働くべきだとの持論を変えていない。

 

最大都市サンパウロでは5日、大統領支持者とみられる多数のトラック運転手が道路を封鎖し、行動制限への抗議活動を展開した。

 

米ジョンズ・ホプキンズ大によると、7日時点のブラジルの新型コロナの死者は約26万人で、米国に次いで2番目に多い。【3月7日 毎日】

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WHOのテドロス事務局長の「ブラジルが真剣にならなければ・・・」という発言は、おそらく、一貫して新型コロナを軽視した発言を続けるボルソナロ大統領を念頭に置いたものでしょう。

 

****コロナ死者記録更新のブラジル、大統領が嘆かずに行動せよと呼び掛け****

ブラジルのボルソナロ大統領は4日、新型コロナウイルス感染による死者が2日連続で過去最多を更新したことを受け、国民に「泣き言をいう」のをやめて行動するよう呼び掛けた。

 

新型コロナの深刻さには目を向けず、社会的距離(ソーシャルディスタンス)措置に反対する姿勢を新たに示した。

過去1年におけるブラジルのコロナ死者は米国に次いで世界で2番目に多い。米国では感染拡大が鈍化傾向となっているが、ブラジルは依然として最悪の事態に直面しており、国内医療は崩壊寸前の状況にある。

同大統領は集会で、「騒ぎも泣き言もたくさんだ。あとどれだけ泣き続け、自宅にとどまってすべてを閉ざすのか。もう誰も、これ以上耐えられない」と述べた。

また、「あらためて、死者が出ていることは憂慮する。だが、解決が必要だ」と述べた。

保健省によると、4日に確認された新規感染者は7万5102人で、昨年7月以来の高水準かつ過去2番目の多さとなった。死者は1699人で、過去2日の記録的水準はやや下回った。

今回で第2波となる感染拡大を受け、首都ブラジリアと最大都市サンパウロで規制が敷かれた。観光中心地のリオデジャネイロも4日、市全域を対象とする時間指定の外出禁止と飲食店の閉店時間繰り上げを発表した。【3月5日 ロイター】

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ブラジルでの感染拡大が止まらないひとつの理由は、こうしたコロナ対策を軽視する大統領と、規制強化を重視する州当局の足並みが揃わないことにあります。

 

新型コロナに限らず、女性や黒人への差別発言、環境対策軽視発言などボルソナロ大統領の「型破り」な言動に関する記事は枚挙にいとまがありませんが、下記は昨年6月ごろのもの。

 

****ブラジルでコロナ感染急増 暴走大統領の決まり文句は「人間はいつか死ぬ」*****

(中略)感染状況を悪化させているのは、ボルソナロ大統領(65)自身に他ならない。今年5月には英名門医学雑誌「ランセット」がブラジル公共医療の「最大の脅威」と名指ししたほどだ。

 

「元軍人で極右思想を掲げる大統領はコロナを『ちょっとした風邪のようなもの』と言い続け、決まり文句は『人間はいつか死ぬ』。ブラジルにはアマゾン川流域や都市部のファベーラと呼ばれるスラムなど医療基盤が脆弱な地域が少なくない。すでに医療崩壊が起きているが、大統領は何ら対策をとらず、それどころか政権内からはこれを機にアマゾンの開発を進めるチャンスという声まで上がっていた」(現地ジャーナリスト)

 

自他ともに認めるトランプ信者のボルソナロ大統領。本家を超えるデタラメな施策が世界中から危険視されている。その最たる例がコロナ関連のデータ隠しだ。ブラジル保健大臣は6月5日から突然、データ公表を限定する暴挙に出たのだ。4日後に撤回されたものの、データ隠しの疑惑は燻ったままだ。

 

コロナ感染防止策をめぐっては保健大臣と幾度となく衝突。1カ月で2名の保健大臣が辞任する異常事態となった。そして5月16日、ボルソナロ大統領が保健大臣代行に据えたのが、医療知識を持ち合わせない元軍人のエドゥアルド・パズエロ氏だ。

 

不支持率は55.4%に……ボルソナロ大統領の“人命軽視政策”

さらに感染が急拡大するなかでも人命軽視の政策を強引に推進させている。

 

「3月中旬から、ブラジルは、日本と同様に州政府や地方首長の判断で、商業施設の閉鎖や外出自粛要請を実施。するとボルソナロ大統領は、3月下旬から厳しい経済規制を敷く州政府を攻撃し始めたのです。さらには自ら、外出自粛に反対する抗議デモにまで参加しています」(同前)

 

悪評はコロナ対策にとどまらない。4月には親族への捜査を妨害するため警察人事に政治介入。法務・公安担当大臣が辞任した。

 

「大統領は3回結婚し、5人の子がいますが、そのうち上院議員の長男に数千万円に及ぶ金銭問題が浮上。大統領はモロ法務大臣に捜査をストップさせるよう圧力をかけたため、モロ大臣は抗議の意味を込めて辞任したのです」(同前)

 

当然のことながら、ブラジル国内では反ボルソナロのデモ活動が激化。世論調査では大統領の不支持率が55.4%となり、議会では弾劾の声も上がり始めた。【近藤 奈香氏 週刊文春 2020年6月25日号】

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ただ、規制に反対し、“人命軽視政策”とも批判されるボルソナロ大統領を一定に支持する国民もいることも事実です。

その背景には、冒頭【毎日】にも“多数のトラック運転手が道路を封鎖”と記されているように、「働かねば生きていけない」貧困層が多いことがあります。

 

経済規制して自宅で自粛するというのは、そういうことができる中間層や富裕層の価値観でもあります。

 

****感染者世界2位 コロナがあぶり出した格差の現実、ブラジルのスラムで見た****

新型コロナウイルスの感染拡大で、注目を集めた問題の一つが格差だ。スラム街など低所得者層の住宅は狭い上、大人数で暮らしがち。仕事も店員や清掃、デリバリーなどリモートワークが難しい職種が多く、高所得者層に比べて感染の被害が深刻になった。(中略)

 

■暮らしのためには、外出するしかない

(スラム街「ファベーラ」の)住人の中には、路上での物売りや屋台で生計を立てる人がいる。店員や配達員、建設作業員などの「エッセンシャルワーカー」のほか、守衛や家事代行など、富裕層の生活を支える仕事も多い。

 

雇用形態は契約書もないインフォーマルがほとんどだ。失業は日常茶飯事だし、手厚い労働法の庇護もなく、失業保険などの保障もない。経済が悪化して失業者も増える中、仕事があれば幸運だと思い、選ばずに働かなければ飢えることになる。

 

大統領のボルソナーロが新型コロナを「ちょっとした風邪だ」と軽視する姿勢を見せた時、(ファベーラのなかで例外的にコロナ対策を徹底して行っている地区の住民組織のリーダー)ホドリゲスは住民たちに信じないように訴え、外出を控えるよう呼びかけ続けてきた。だが、「ここでは、完全な外出自粛なんてできません。みな、暮らさなければならないから」。(後略)【2020年8月3日 GLOBE+】

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【ボルソナロ大統領の再選の可能性】

保守層に加え、そうした「働かねば生きていけない」人々の支持と緊急援助金バラマキの効果もあって、国内外からの批判にもかかわらず、極右ボルソナロ大統領の再選の可能性が高いとも指摘されていました。

 

****ブラジル大統領、コロナ対応で批判浴びるも支持率上昇 世論調査*****

ブラジルで今週発表された3社の世論調査で、同国のジャイル・ボルソナロ大統領の支持率が上昇し、新型コロナウイルス危機への対処をめぐって物議を醸しているにもかかわらず、2022年の大統領選で再選する可能性が高いことが分かった。

 

「熱帯のトランプ」とも称される極右のボルソナロ大統領は、国内で新型ウイルスが爆発的に広がっているにもかかわらず、感染拡大を軽視する発言をして現在、自身も感染している。同国は感染者数・死者数ともに米国に次いで世界で2番目に多い。

 

しかし、24日に発表された世論調査の結果によると、ボルソナロ氏は危機を比較的うまく切り抜けているようだ。

 

ニュース週刊誌ベジャに24日に掲載された最新の世論調査結果では、ボルソナロ氏は次期大統領選において、対立候補次第で得票率27.5〜30.7%を獲得し、第1回目の投票でリードする可能性が高い。

 

多くの支持を集めている強敵のセルジオ・モロ元法務・公安相や、左派のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ元大統領らが相手でも、決選投票で圧勝するとみられている。

 

一方、ニュースサイト「Poder360」が23日に発表した世論調査結果では、ボルソナロ氏の支持率は2週間前の40%から43%に上昇。不支持率は1ポイント減り、46%だった。

 

同サイトによると、新型コロナウイルスのの受給者の間では、ボルソナロ氏の支持率は52%に上った。この援助金は、外出制限措置で経済的影響を受けている貧困層を支援する目的で、一人当たり月600レアル(約1万2000円)が支払われている。

 

証券会社のXPインベスティメントスが20日に発表した世論調査では、ボルソナロ氏の支持率は5月の25%から30%に上昇した一方、不支持率は同50%より下がり45%だった。 【2020年7月25日 AFP】

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昨年9月頃までは、上記のような「ボルソナロ大統領も支持膣上昇」といった記事が目立ちました。

ただ、その後の感染拡大、ワクチン接種の遅れで少し風向きも変わったようにも。

 

****ブラジル大統領の支持率急落、弾劾には過半数が反対=調査****

 調査会社ダッタフォリャが22日に発表した世論調査によると、ブラジルのボルソナロ大統領の支持率が下落しているものの、同日発表された別のダッタフォリャ調査では、大統領の弾劾には過半数が反対の考えだった。

ブラジルは新型コロナウイルス感染第2波が拡大している一方、ワクチン調達が不足、政権への評価が急落している。

 

調査では、ボルソナロ政権を「悪い」または「ひどい」と評価した回答者の割合が全体の40%と昨年12月初めに行われた前回調査の32%から上昇した。「良い」または「素晴らしい」と回答した割合は3分の1弱。前回調査は37%だった。(後略)【1月25日 ロイター】

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【ボルソナロ大統領もファイザーにワクチンの迅速出荷を求める電話】

ワクチン接種も軽視するボルソナロ大統領でしたが、止まらぬ感染拡大に、大統領自らワクチン確保に。(人気取りのためなら、豹変するのがこの人の本領です)

 

****「中国のワクチンは買わない」はずが…ブラジル大統領が中国に感謝、現地ネット民「彼らは天使」―中国紙****

中国紙・環球時報は27日、新型コロナウイルスの感染状況が深刻なブラジルで、大統領や多くのネットユーザーから中国に感謝する声が上がったと報じた。

記事によると、ボルソナロ大統領は25日、「中国政府の心遣いに感謝する」などと投稿してワクチンの有効成分の同国への輸出を迅速に承認した中国政府に謝意を示した。

 

ブラジル政府はこれまで中国のワクチンに懐疑的な立場を取って「購入しない」との考えを表明していたが、ロイターの同日の報道によると「新型コロナの打撃を強く受けたブラジルはほぼ完全に中国・科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が研究開発したワクチン『コロナバック』に依存している」状況という。【1月27日 レコードチャイナ】

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****ブラジル政府、ファイザーにワクチン出荷前倒しを要請****

ブラジル政府は8日、米ファイザーに対して新型コロナウイルスワクチンの出荷を前倒しするよう求めた。インドからの供給が止まった英アストラゼネカ製のワクチンについても、他の国から確保することを目指している。第2波の感染が深刻な状況に陥っており、早急にワクチン接種を広げることが必要なためだ。

これまで新型コロナウイルスを軽視し、ワクチン確保を急ぐことに疑問を投げ掛けてきたボルソナロ大統領も、ファイザー幹部との個人的なテレビ電話を通じて迅速な出荷を要請するほどで、事態の緊迫度がうかがわれる。

一方同国保健相によると、インドはブラジル向けのアストラゼネカ製ワクチン800万回分の出荷を止めている。これを受け政府は、別の国を通じて同ワクチンをより多く集める方法も模索しているという。

ブラジルでは変異ウイルスの発生も加わって感染者が急増。政府はアストラゼネカのワクチンが中国のシノバック・バイオテック(科興控股生物技術)のワクチンとともに、感染抑制の切り札になると期待をかけている。【3月9日 ロイター】

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【ルラ元大統領に出馬の可能性も】

一方、大統領選挙に関しては、ボルソナロ大統領以前に絶大な人気を誇っていたライバルの登場の可能性も。

 

****ルラ元ブラジル大統領、最高裁が有罪無効に 再出馬に道****

ブラジル連邦最高裁判所は8日、ルラ元大統領(75)に対して下級審が下した収賄罪の有罪判決を無効にする判断を下した。これを受け、ルラ氏が来年の大統領選に出馬できる可能性が出てきた。

最高裁の判決を受け、左派のルラ氏と極右のボルソナロ大統領との間で有権者が二極化するとの見方から、金融市場には混乱が広がった。

判事は、南部クリチバの裁判所がルラ氏の公判を審理する権限を欠いていたとし、首都ブラジリアの裁判所での再審が必要と指摘した。

アーマー・キャピタルのマネジングパートナー、アルフレド・メネゼス氏は「ルラ氏が出馬できる見通しとなったことで、現政権がポピュリズム(大衆迎合主義)に向かう可能性がさらに高まった」と語った。

2003─11年まで大統領を務めたルラ氏は、寛大な社会福祉制度を通じて多くの貧困層を救い、今でも労働者階級に強い支持層を持つ。【3月9日 ロイター】

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まだルラ氏の無罪が確定したわけではなく、最高裁は首都ブラジリアの裁判所での再審が必要だと指摘。ルラ氏が来年の大統領選に出馬する可能性は出ましたが、再審理で再び有罪判決が下されれば、出馬資格をまた失うことになります。

 

“ブラジル連邦最高裁判所は9日、ルラ元大統領に対する収賄などの有罪判決を無効とする前日の判決に続き、汚職捜査で集められた証拠自体が無効とするルラ氏側の訴えについて審理したが、判断は先送りされた。”【3月10日 ロイター】

 

証拠無効の主張が認められれば、事実上の起訴取り消しとなりますが、最高裁判事の間でも意見は割れているようです。

 

ボルソナロ大統領再選の可能性は、感染状況・ワクチン確保の状況、そしてルラ氏裁判の動向によります。

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ロシア製ワクチン  ワクチン確保に失敗したEUが取得に乗り出すも、新たなバトルも

2021-03-09 22:23:18 | 欧州情勢

(ハンガリーのナジカータで、ロシア製の新型コロナウイルスワクチンの接種を受ける人(2021年2月24日撮影)【3月9日 AFP】)

 

【ジョンソン英首相「EU離脱の成果」 面目を失ったEU】

順調に新型コロナワクチン接種が進むイギリスに対し、EUがワクチンの確保に初動で「失敗」し、製薬会社とのバトルや、「輸出管理」の導入に至っていることは周知のところ。

 

この混乱のなかで、一部の国々ではロシア製ワクチン「スプートニクV」への期待も高まっています。

 

*****ワクチン争奪戦、欧州明暗 新型コロナ*****

日本に先駆けて新型コロナのワクチン接種が欧州全域で始まって2カ月近くが経った。順調に接種が進む英国に対して、欧州連合(EU)ではワクチン供給が遅れ、ロシア製に目を向ける加盟国も出始めた。

 

EUは域内で生産したワクチンの輸出許可制を導入しており、状況次第では日本にも影響が及びかねない。

 

 ■巨額投じ迅速に入手 英

「前例のない成果だ」

英国のジョンソン首相は15日、順調なワクチン接種の現状を誇り、関係者をねぎらった。英国では前日、目標日程を1日前倒しして、70歳以上の高齢者や医療従事者ら1500万人への接種を完了した。

 

準備は素早く綿密だった。昨年5月、首相肝いりの「ワクチン特命部隊」トップに元生化学者のベンチャーキャピタリストが就任。オックスフォード大とアストラゼネカの国産ワクチン開発に6550万ポンド(約96億円)を投資して優先供給の約束を取り付けた。

 

民間出身メンバーが有望なワクチン候補を洗い出し、個人的つながりも生かして個別交渉に持ち込んだ。

 

米ファイザー製を含め計7種類を確保。スピード重視で購入や製造などに120億ポンド(1兆7620億円)の巨額を投じ、3億6700万回分をおさえた。単純計算で人口の5倍以上に相当する。

 

EUの共同調達の枠組みには加わらなかったことも吉と出た。EU離脱後の移行期間中で参加は可能だったが、意思決定の遅れを警戒した。実際、EUが条件でもたつく間に先行した。(中略)

 

 ■遅れ、独自確保模索も EU

出遅れたのはEUだ。欧州委員会が加盟国を代表して確保したワクチンは、承認済みの3種だけで計約12億回分に上る。だが実際に接種が始まると、次々に供給の遅れが出た。

 

とりわけ英アストラゼネカの遅れが目立つ。3月までの供給量を900万回分増やして4千万回に増やす方針だとEU側に伝えたが、それでも、当初予定の3分の1にすぎない。

 

フォンデアライエン欧州委員長は「(製薬会社と)ワクチン開発に力を注いできたが、大量生産の難しさを過小評価していた」と語る。

 

加盟国からは、ワクチン争奪競争に負けたのではとの批判も相次いだ。アストラゼネカが契約の順番などを理由に「英国優先」の姿勢を示したこともあり、EUは1月末、域内でつくられたワクチンの「輸出管理」に踏み切った。

 

契約通りの供給を確保するため、域外への輸出には数量を報告させて許可を出す仕組みだ。EUは「公平な配分のために、透明性を高める措置だ」と説明。

 

日本やカナダ向けの出荷も認められた。ただ、EU高官は、生産が遅れ、出荷可能なワクチンの大半がEU外に渡るような場合は、輸出を認めないという。

 

EUが独占する事態にはならないが、生産が滞れば必然的に輸出に回る量も減る見込みだ。状況次第では日本にも影響が及びかねない。

 

加盟国の中には、一刻も早いワクチンの供給を求める国内世論に押され、独自確保への動きもある。選択肢として注目されているのが、ロシア製ワクチン「スプートニクV」だ。

 

マクロン仏大統領は今月、「これは政治ではなくて科学的な決定だ」と断った上で、安全性が認められれば導入する考えを示した。

 

マクロン氏は、昨年春にマスクや人工呼吸器が不足した反省から、ワクチンの自国での開発を柱に「衛生の主権を取り戻す」と訴えていた。だが、計画の遅れから、なりふり構わずワクチンをかき集める方策に転じた格好だ。

 

オーストリアもロシア製や中国製のワクチンが欧州で承認されれば、国内でも生産する意向を示す。クルツ首相はメディアに「誰がつくっているかはともかく、できるだけ早く安全なワクチンを手に入れることがすべてだ」と発言。ロシア製のワクチンも選択肢に含める考えを示した。

 

ドイツは、EUの調達の枠組みで達成可能だというが、ロシア製ワクチンがEUで承認されれば、ドイツ内での生産も可能だとの立場だ。メルケル首相は「大きな政治的違いがあるにもかかわらず、一緒に働くことができる」と述べた。

 

ハンガリーは、ロシア製と中国製のワクチンを独自に承認。ロシア製の接種をすでに始め、中国製も近く始めるという。

 

 ■ロシアは牽制、国内優先

にわかに欧州各国の期待を集めた形のロシアは、ワクチン協力でEUとの交渉を優位に進めたい考えだ。

 

スプートニクVの開発資金を提供したロシア直接投資基金のドミトリエフ総裁は国営テレビのインタビューで、EUの承認に自信を示し「審査が速やかに、政治的な議論抜きで行われるよう期待する」と、政治的な対立の深まる欧州を牽制(けんせい)した。

 

ただ、EUで承認されたとしても、欧州各国にすぐに大量に供給されるわけではなさそうだ。

 

ドミトリエフ氏は、欧州への大規模な供給開始時期について、「ロシア国内のすべての希望者への接種が終わる、5月か6月以降だ」と説明。

 

また、スプートニクVはこれまでに、南米や中央アジア、アフリカなどの20カ国以上が承認している。インドやブラジルなどでの大量生産も計画されているが、欧州の需要にまで応えられるかは不明で、ロシアや他の国との交渉を迫られる可能性がある。【2月17日 朝日】

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EUのワクチン確保をめぐる「混乱」ぶりとしては、製薬会社とのバトルや輸出規制以外にも。

 

****醜い欧州の「ワクチン狂乱」*****

統合と協調の精神はズタズタに

 

(中略)

ドイツの「抜け駆け」

そんななか、「EUの優等生」のはずのドイツが独善ぶりを露呈する。(中略)

 

共同購入は加盟国同士の争いを避けつつ交渉力を高めることで購入価格を引き下げ、経済力の弱い国にも平等にワクチンを行き渡らせるのが狙いだ。だが、ドイツ国内で高まったのは、「独企業のビオンテックが開発したワクチンなのだから、ドイツ入に優先的に供給されるべきだ」というナショナリスティックな不満だった。(中略)

 

極めつけは、共同購入を巡る「抜け駆け」だ。ドイツの保健当局は昨年来の記者会見で、政府が同年九月にファイザー・ビオンテックとの問で三千万回分のワクチンの個別契約を行っていたことを明かした。

 

EU加盟国は「ワクチンの事前購入について独白の手順を進めない」と合意しており、合意違反が強く疑われる行為だ。(中略)

 

EUの「ダブルスタンダード」

(中略)EUの「ダブルスタンダード」が際立つだのが、輸出規制を発表した際に示した英領北アイルランドとアイルランドの国境管理方針だ。

 

この国境を巡ってば、北アイルランド紛争の再発を防ぐために、英国とEUが合意した離脱協定で厳しい管理を避け、自由な物流を確保するよう定められた。

 

ところが、EUはワクチン輸出規制に関する文書で、EUから英国ヘワクチンを運ぶ「抜け道」とならないよう国境管理を復活させると記した。

 

英側か猛抗議したためすぐに取り下げたが、離脱交渉で「アイルランド島の平和と安定を守る」と繰り返し強調していたEUは、一体どこに行ったのか。(後略)【「選択」3月号】

**********************

 

こうした混乱ぶりの背景には、“EUには、英国への対抗心が強くにじんでいた。(中略)ジョンソン政権はこれを「EU離脱の成果」と誇っていた。EUから離脱した英国がワクチン戦略に成功する一方で、自分たちが失敗すれば面目は丸つぶれだ。”【同上】といった心理もあるように推察されます。

 

【欧州医薬品庁幹部 スプートニクV使用は「ロシアン・ルーレット」】

とにもかくにもワクチンを確保したいEUは、ロシア製ワクチン「スプートニクV」の迅速な承認に向け審査を始めています。

 

****EU、ロシアワクチンを審査 欧米製の供給遅れに対応****

欧州連合(EU)の医薬品規制当局、欧州医薬品庁(EMA、本部アムステルダム)は4日、ロシア製の新型コロナワクチン「スプートニクV」の迅速な承認に向け審査を始めたと明らかにした。欧米企業のワクチン供給が大幅に遅れ、接種が予定通り進まないことへの対応とみられる。

 

EUではロシアに融和的なハンガリーが供給を受けているほか、スロバキアも使用を承認したとロシア側が1日に発表。域内のワクチン不足からロシア製使用に前向きな流れができつつある。

 

EMAは承認を急ぐためロシア側からリアルタイムで治験データを入手し評価する逐次審査と呼ばれる手法を取った。【3月4日 共同】

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しかし、欧州医薬品庁幹部が「スプートニクV」の各国の緊急承認・使用は「ロシアン・ルーレット」のようだと警告したとのこと。

 

*****スプートニクV使用は「ロシアン・ルーレット」 EU規制当局幹部が警告*****

欧州医薬品庁(EMA)幹部は7日、ロシア製新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の各国の緊急承認・使用は「ロシアン・ルーレット」のようだと警告した。

 

EMAは先週、欧州連合初の欧米製でない新型コロナワクチン承認へ向けて、スプートニクVのローリング・レビュー(逐次審査)を開始した。

 

ハンガリーはすでにスプートニクVを承認済みで、接種を開始。チェコとスロバキアも発注済みで、EMAの承認を待たずに使用する方針を示している。

 

EMA経営委員会議長のクリスタ・ビルツマーホッフ氏はオーストリアの公共放送ORFで、スプートニクVについて、安全性に関するデータが不十分だとして、承認と使用は「ロシアン・ルーレットのようだ」と述べた。「各国が緊急承認を行わないよう強く勧告する」

 

さらに、「必要なデータの検証が終われば、欧州でスプートニクVを使用できるようになる」と述べ、品質管理や有効性についてEUの基準を満たす必要があると説明した。 【3月9日 AFP】

********************

 

「スプートニクV」に関する専門的評価はもちろん知りませんが、一般には、先行して使用する国々での評価は良好なように聞いています。

 

いずれにしても「ロシアン・ルーレット」の例えは尋常ではなく、ロシア側の怒りは当然のようにも。

 

****ロシアのコロナワクチン開発者、EMAの中立性に疑義 謝罪要求****

ロシア製の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の開発者らは9日、欧州医薬品庁(EMA)の中立性に疑義を呈し、公式な謝罪を要求した。

 

EMAの経営委員会議長、Christa Wirthumer-Hoche氏が欧州連合(EU)加盟国に対し、現時点では「スプートニクV」の承認を控えるよう呼び掛けたことを受けた。

開発者らは「スプートニクV」の公式ツイッターに「同議長がEU加盟国による直接承認に否定的な見解を示したことについて、公式な謝罪を要求する。同議長のコメントは、現在進行中のEMAの審査に対し政治的な圧力がかかる可能性があるとの深刻な疑義を提起させる」と投稿した。

その上で、「スプートニクV」はすでに46カ国で認可されていると付け加えた。

EU加盟国のうち、ハンガリー、スロバキア、チェコの3カ国ではすでに「スプートニクV」が承認済み、または承認に向けた審査中の段階にある。【3月9日 ロイター】

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ロシアとEUが、ナワリヌイ氏毒殺未遂事件に関する制裁措置など、政治的には高度の緊張関係にあることは、3月5日ブログ“ロシア・プーチン大統領  欧米への警戒感・猜疑心から高まる欧米との緊張”でも取り上げたところ。

 

そのあたりの政治的思惑が絡んでいるのかどうか・・・は知りません。

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ミャンマーを追われ、周辺国からも追われ、行き場のないロヒンギャ

2021-03-08 23:07:04 | 難民・移民

(ロヒンギャの少女の顔には、「タナカ」が塗られていた。これはミャンマー独特の習慣だ【2月14日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

 

【同化を拒むミャンマー 軍事クーデターで遠のく事態改善】

ミャンマー西部、ラカイン州に暮らすスラム系少数民族ロヒンギャについては、ミャンマー国軍による民族浄化と言うべき暴力・虐殺・レイプ・放火などによって、その多くが隣国バングラデシュに追いやられています。

 

国軍に限らず、多くのミャンマー国民にとっては、ロヒンギャは国内少数民族ではなく、ベンガル地方からの違法な侵入者にすぎない・・・という認識であり、そうしたロヒンギャに対する嫌悪感が、スー・チー氏もこの問題に触れることができないというように、問題の解決を困難にしています。

 

しかし、何世代にもわたりミャンマーに暮らすロヒンギャも多く、そのミャンマー人への同化を拒んでいるのはミャンマー政府側の責任だとの指摘も。

 

*****ミャンマーの化粧をするロヒンギャの少女とたくましさ****

アジアの小さな村を旅してまわり、人々とふれあいながら撮影を続ける写真家の三井昌志さん。最新の写真集「Colorful Life 幸せな色を探して」(日経ナショナル ジオグラフィック社刊)から、ミャンマーでたくましく生きる人々の姿とその物語を紹介してもらった。

◇     ◇     ◇

ミャンマーの女性や子供たちが顔に塗っている白い粉は、「タナカ」と呼ばれる天然の日焼け止め兼化粧品だ。ミャンマー中部の乾燥地域に生えているタナカの木(ミカン科ゲッキツ属の樹木)を石板ですりおろし、それに水を加えてペースト状にしてから、ほおや鼻に塗る。

 

これは日差しが強いミャンマーで2000年前から受け継がれてきた伝統的な習慣で、日焼け防止だけでなく、防虫効果や美肌効果もあると言われている。

 

色鮮やかなサリーを見ればすぐにインド人だとわかるように、白いタナカが塗られた顔を見ればすぐにミャンマー人だとわかる。タナカは、ミャンマー人としてのアイデンティティーを表す象徴でもあるのだ。

 

タナカの習慣は、ミャンマー国民の約7割を占めるビルマ族だけでなく、山岳地帯を中心に広く分布している少数民族たちにも受け入れられている。

 

ミャンマー西部ラカイン州に住むムスリム系住民・ロヒンギャたちも、その例外ではなかった。多くの点で多数派のビルマ族とは異なるロヒンギャだが、タナカを顔に塗る習慣は同じように受け継がれているのだ。

 

ロヒンギャとは隣国バングラデシュから移住してきた人々の末裔(まつえい)で、すでに何世代にもわたってラカイン州に住んでいる。にもかかわらず、ミャンマー政府からは不法移民者として扱われていて、市民権を奪われたまま、数十年にわたって差別と迫害に苦しんでいた。

 

2017年8月にはロヒンギャ住民とミャンマー政府軍とのあいだで大規模な衝突が発生し、政府軍による虐殺と焼き打ちによって、70万を超えるロヒンギャたちが難民となって隣国のバングラデシュへ逃げ延びる事態となった。

 

この衝突で発生した大量の難民たちは劣悪な難民キャンプでの生活を余儀なくされ、21年の今もなお故郷に帰還するめどは立っていない。

 

ロヒンギャの人々が差別と迫害を受けてきたのは、彼らが母国ミャンマーへの同化を拒んでいることにも原因があると言われていた。

 

ロヒンギャ語という独自の言語を話し、イスラム教を信じているロヒンギャたちは、多数派である仏教徒と共存することは不可能だから、彼らの先祖が住んでいたバングラデシュへと追い返してしまえばいい、というのがミャンマー政府軍とそれを支持する人々の理屈だった。

 

しかし実際にミャンマーにあるロヒンギャの村を歩いて、彼らの側からものごとを眺めてみれば、事態はまるで違った様相を呈してくる。

 

確かにロヒンギャたちは独自の言葉を話しているが、ビルマ語を習得しようと努力しているし、それがいまだに不十分なのは、ミャンマー政府がロヒンギャの学校に対して一切支援していないからでもある。

 

ロヒンギャの村人の多くは貧しく子だくさんだが、それは彼らの市民権を奪い、まともな仕事に就けないような法律を作った体制側の責任だとも言えるのである。

 

現金収入が得られる仕事にも就けず、村の外に出ることすら許されていないロヒンギャたちは、人力と畜力に頼った昔ながらの農業で日々の糧を得ていた。

 

「父も祖父もここを耕してきたんだ」と使い古したクワを手にした男は言った。「やがて子や孫たちも、この畑を耕し、種をまくだろう。ここは私たちの故郷だから。誰に何を言われても、離れるつもりはない」

 

ロヒンギャの子供たちも働き者だった。男の子は村のそばを流れる川の水をくんで運ぶ仕事をしていたし、女の子は川の水でお米を洗ったり、洗濯を手伝ったりしていた。ため池に網を投げて小魚を捕まえる子もいたし、手製のパチンコを使ってコウモリを撃ち落とし、それを通りかかった車に売りつけている子もいた。

 

電気も水道もテレビもない不便な暮らしだが、子供たちの表情は生き生きとしていた。その笑顔には「どんな状況にあってもたくましく生きていく」という人間の本質が表れていた。

 

村の小学校はとても粗末だった。ミャンマー政府からの援助が受けられないために、校舎は狭く、竹を編んで作った屋根には大きな穴が開いていた。それでも子供たちの学ぶ意欲は高く、黒板を見つめる目は輝いていた。

 

ロヒンギャの子供たちの顔に塗られた白いタナカ。そこには、民族や言語や宗教の違いを乗り越え、「ミャンマー人」として堂々とこの土地で暮らしたい、という願いと決意が込められているように感じられた。【2月14日 NATIONAL GEOGRAPHIC】

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現実問題としては、ロヒンギャ弾圧の中核であった国軍が軍事クーデターによって実験を掌握したことで、バンクラデシュに逃れたロヒンギャ難民の帰還などの問題解決は、更に遠のいています。

 

****ロヒンギャの帰還さらに遠く 国軍、迫害を認めず*****

国際法廷、総司令官を訴追も

 

ミャンマー国軍が(2月)1日のクーデターで全権を握り、隣国バングラデシュで難民生活を送る少数民族ロヒンギャの帰還は一段と難しくなった。

 

ロヒンギャを迫害した国軍が犯罪行為を認めず、帰還後の安全も保証しないためだ。国軍は、責任者の訴追を模索する国際法廷に反発し、真相究明への協力を拒む。深刻な人道危機の解消は遠のき、欧米からの批判が一段と強まりそうだ。

 

「クーデターは悲惨な出来事で、恐ろしい」。バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプに住む30歳代のロヒンギャの男性モハマドさんは、日本経済新聞の取材にこう話した。

「母国(ミャンマー)で市民権を得られるなら帰りたいが、いつになるか分からない」と嘆いた。

 

一方、支援団体のリーダーはAP通信に「(難民の)家族を殺し、村を焼き払った国軍の支配下では安全なはずがない」と指摘した。

 

バングラデシュとミャンマーはロヒンギャの自主的な帰還を促すことで合意済みだが、希望する難民はほとんどいない。イスラム教徒のロヒンギャは仏教徒が大半のミャンマーでは宗教上の少数派で、国籍が付与されず、権利が保障されていないためだ。

 

ミャンマー国軍が警戒するのは、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)の動きだ。ICCはロヒンギャ迫害の責任者として国軍幹部を訴追する構えだとみられている。

 

2020年9月には国軍兵士2人の身柄を確保した。証言を引き出す狙いだとの見方がある。ミャンマー西部で迫害と70万人以上の国外流出が始まった17年8月の時点でも国軍総司令官だったミン・アウン・フライン氏の責任も問われかねない。

 

ICCは09年、戦争犯罪や人道に対する罪で現職のスーダン大統領だったオマル・バシル氏の逮捕状を発行。容疑者となったバシル氏は身柄の拘束を恐れ、自由な外遊ができなくなった。

 

ICCはロヒンギャ迫害についても、人道に対する罪などで19年11月、正式捜査を始めると表明した。今後、国軍幹部に逮捕状を出す可能性が取り沙汰されている。

 

一方、国軍が身柄を拘束した民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏は19年12月、ハーグにある別の国際法廷である国際司法裁判所(ICJ)で「国際人道法に反する行為が(国軍側に)あったことは否定できない」と認めた。

 

事実上のミャンマー政府トップとしての公式の証言で、国軍の同氏への不信感につながった。

 

バングラデシュ政府はロヒンギャ難民を持て余す。過去の流入者を含め、キャンプの人口は約100万人に膨れた。周辺の住民も、なし崩し的な「定住」を歓迎していない。

 

外務省は1日のクーデター発生後の声明で、ロヒンギャの帰還に向けたミャンマーとの協議が「続くよう期待している」と主張。

 

バングラデシュの英字紙デーリー・スター(電子版)は3日、同国政府が新たに(国軍の統治を恐れる)ロヒンギャが流入しないよう国境管理を強めたと報じた。

 

バングラデシュのモメン外相は同紙に「いまや国民は(ロヒンギャを)迎えたくない。ほかの国に受け入れてもらうほかない」と述べた。

 

バングラデシュ政府は20年12月から、キャンプでの治安悪化などを理由に、近隣のベンガル湾の離島に難民を移し始めた。これまで3回にわたり計約5000人を送った。計10万人の移送を目標にする。

 

実態は強制移住だと訴えるロヒンギャもいて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が懸念を示している。移送先は「バシャン・チョール」という島だが、豪雨や高潮が起こりやすい。水没のリスクも指摘されている。【2月10日 日経】

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ICC法廷におけるスー・チー氏の証言にいついては、上記にあるように一部行き過ぎがあったことは認めていますが、基本的には国軍の主張を認めるもので、国軍の弾圧責任を認めようとしないということで、国際的には同氏に対する失望と落胆を招いています。

 

【不毛の島に難民を隔離しようとするバングラデシュ】

ミャンマーが毛嫌いするロヒンギャですが、バングラデシュ政府にとってもロヒンギャ難民は厄介者であり、上記記事にもあるように、居住に適していないとの批判もある島への移送を進めています。

 

****ロヒンギャ移住1万人超に バングラデシュ****

ミャンマーから隣国バングラデシュに逃れているイスラム教徒少数民族ロヒンギャ2200人余りが3日、バングラデシュ政府が居住区を建設したベンガル湾の島に移動した。当局者が明らかにした。

 

同国政府が昨年12月から移住計画を実行、今回で計1万人を超えた。

 

バングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプには、17年にミャンマーで起きた武装集団と治安部隊の衝突から逃れた70万人超のロヒンギャら100万人以上が密集して暮らす。

 

居住区には約10万人を収容可能で、政府は難民キャンプの過密緩和を図りたい考え。同国政府は移住したのは希望者としている。【3月4日 共同】

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ミャンマーはロヒンギャを力づくででも追い出そうとしている。

バングラデシュも「いまや国民は(ロヒンギャを)迎えたくない。ほかの国に受け入れてもらうほかない」とい姿勢で、ロヒンギャを不毛の島に隔離しようとしている。

 

【ミャンマーへ強制送還するインド】

受け入れる「ほかの国」があるのか?・・・・東南アジア・インドなど周辺国の対応も厳しいものがあります。

 

*****インド当局、ロヒンギャを多数拘束 ミャンマーに送還か*****

ミャンマーで迫害を受けてインド北部の連邦政府直轄地ジャム・カシミールに逃れていたイスラム系少数民族ロヒンギャが、当局に拘束され収容施設に入れられていることが7日、現地警察幹部の話で分かった。ミャンマーに送還されるとみられる。

 

ジャム警察のムケシュ・シン警視長はAFPに対し、6日以降に少なくとも168人のミャンマー出身のロヒンギャを拘束したと語った。「不法移民」の国籍を確認した上で、詳細をインド外務省に送り、国外退去に向けたミャンマー側との手続きに入るとしている。

 

シン氏によると、ジャム・カシミールには約5000人のロヒンギャがいるとみられている。

 

ヒンズー教徒が住民の大多数を占めるジャムでは、ほとんどのロヒンギャがスラムに暮らしており、命の危険を感じると訴えている。

 

7日にAFPの電話取材に応じたロヒンギャ男性は、「ビルマ(ミャンマー)に送り返すぐらいなら、ここで私たち全員を撃ち殺せばいい。向こうでも弾丸の雨を浴びせられることになるのだから」と語った。ロヒンギャの人々は、警察による摘発が始まってから「眠れていない」という。

 

ナレンドラ・モディ首相率いるインド政府はヒンズー至上主義的な政策を掲げ、国内に約4万人いるとされるロヒンギャを国外に退去させるよう、以前から各州・連邦直轄地に求めていた。

 

インド政府は、ロヒンギャを「イスラム国」などのイスラム過激派とつながりを持つ安全保障上の脅威だとみなしているが、ロヒンギャの指導者らは疑惑を否定している。 【3月8日 AFP】

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ヒンズー至上主義のインド・モディ政権にイスラム系ロヒンギャの保護を期待することはできませんが、イスラム教徒が多いマレーシア・インドネシア、周辺タイなどの国あっても事情は似たようなものです。

 

【危険な難民船による脱出】

また、マレーシア・インドネシアなどを目指す難民船による脱出自体が、きわめて危険な旅路となっています。

 

*****ロヒンギャ難民船が漂流、8人死亡 90人乗船*****

インド外務省は25日、バングラデシュ南東部コックスバザールから90人を乗せて出航した船が漂流し、8人が死亡、1人が行方不明になったと明らかにした。

 

乗船者や場所の詳細に触れていないが、AP通信によると、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの難民を乗せた船がアンダマン海を漂流中で、同じ船とみられる。

 

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が救助を呼び掛け、インド沿岸警備隊が船を発見。食料や水を提供し、医療支援を行った。インド外務省によると、船は11日に出航、15日にエンジンが故障し漂流した。インドとバングラデシュが対応を協議しているという。

 

ミャンマーで2017年に起きた武装集団と治安部隊の衝突後、ロヒンギャ70万人以上がバングラデシュに逃れ、コックスバザールの難民キャンプで生活。東南アジアへの密航を試みる船が度々救助されている。【2月26日 共同】

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たとえどこかの国にたどり着いても、その国の政府・軍によって再び海に押し戻されるといった対応が待っています。

 

ミャンマーにも、バングラデシュにも、周辺国にも行き場がないロヒンギャです。

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南シナ海・東沙諸島  ハードルの高い台湾進攻にかわる「成果」を誇示したい習近平主席

2021-03-07 22:14:43 | 東アジア

(小島と環礁でつくられる東沙諸島はこれまでほとんど注目されてこなかった。台湾が実効支配するが、中国との距離のほうが近い【小笠原 欣幸氏 Newsweek 2021年2月23日号】)

 

今日・明日は旅行中のため、目に付いた記事を簡単に紹介する形で。

 

南シナ海の南沙諸島・西沙諸島は、中国の強引な領有権主張で普段に目にしますが、東沙諸島というのは・・・・。

 

南シナ海の北東に位置する環礁で、台湾が実効支配していますが、東沙島だけが「島」で、飛行場があるが,島の大きさは約2800m×860mしかない。台湾の海巡署職員や研究者が常駐しているが,住民はいない。・・・とのこと。

 

昨年あたりから、この東沙諸島に関する記事を目にするようにもなっています。

 

****南シナ海の東沙諸島、中国軍機飛来し台湾は射撃訓練、「海峡危機の潜在的発火点」と米誌****

南シナ海に浮かぶ東沙諸島が中国と台湾の間で新たな焦点になりつつある。

 

東沙諸島は台湾が実効支配しているが、中国軍機が最近、頻繁に飛来して来る台湾の防空識別圏(ADIZ)南西部に位置する。台湾側も沖合で実弾射撃訓練を行うなどして中国をけん制。米紙は「台湾海峡危機の潜在的発火点」とも報じた。

東沙諸島は南シナ海の北東にある環礁。東沙島だけが平坦な「島」だ。約1500メートルの滑走路があるが、島の大きさは約2800×860メートルしかない。台湾の海巡署(海上保安庁に相当)職員や研究者が常駐。一般住民はいない。

地理的に中国沿岸から近く、台湾本島からは遠い。台湾本島からは約410キロで広東省の汕頭からは約260キロ。現在は台湾の海軍陸戦隊も守備に就いているとされる。

東沙諸島をめぐっては昨年5月、共同通信が「中国人民解放軍が8月に中国南部・海南島沖の南シナ海で、東沙諸島の奪取を想定した大規模な上陸演習を計画している」と報道し、注目を集めた。

 

記事は「東沙諸島は中国海軍の基地がある海南島から台湾南方のバシー海峡を経て太平洋へ向かうルート上にあり、中国軍が太平洋に進出するため戦略的に重要。中国初の国産空母『山東』も海南島の基地に配備されており、中国軍にとって東沙を制する必要性が高まっている」とも伝えた。

10月には東沙島に補給物資を運ぶ台湾の航空機が高雄から離陸したが,香港の航空管制から「安全を保障できない」と通告され,やむなく引き返した。軍事専門家は「中国軍がいつでも東沙の補給路を断つこともできるし,奪取しようと思えばできる状況にある」とみている。

台湾・中央通信社によると、海巡署東南沙分署は1日、東沙島沖で実弾射撃訓練を実施した。台湾南西のADIZには中国軍機の進入が相次いでいることから、各種の状況に備えるためとされ、9日にも東沙島沖で実弾射撃訓練を予定している。

 

国防部(国防省)が公表している軍事動向によれば、中国の各種軍用機は東沙諸島にも接近したことがあり、地域の平和や安定に緊張が生じている。

米紙ニューズウィークに寄稿した東京外国語大の小笠原欣幸教授(台湾政治)は「現時点では中国が台湾侵攻作戦を敢行する可能性は低い。それは台湾軍の抵抗、米軍の介入、国際社会での反中感情の高まりが予想されるからである」と指摘。その一方で「今年7月の中国共産党創設100周年、そして来年の第20回共産党大会を『中国の夢』で壮大に演出したい習近平国家主席は台湾問題で何らかの『成果』を示したいであろう。そこで浮上してくるのが東沙諸島だ」と述べた。【3月6日 レコードチャイナ】

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強気の習近平国家主席とは言え、さすがに「台湾進攻」というのはハードルが高すぎるが、台湾問題で何か誇るべき実績をつくりたい・・・・ということで、目が向けられているのが東沙諸島ということのようです。

 

上記記事にもある小笠原欣幸教授(台湾政治)は、以下のようにも。

 

*****南シナ海「東沙諸島」が台湾危機の発火点になる*****

<バイデン新政権誕生で強まる中国の軍事的威嚇、新たに「東沙諸島」が習近平の標的になる理由>

 

中国による台湾への軍事的威嚇が強まっている。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は「台湾統一への強い自信と決意」を表明したが、実は台湾統一は一向に近づいていない。

 

「台湾アイデンティティー」が広がった台湾では、「統一お断り」が民意の主流である。その現実にいら立つ中国メディアは「台湾に懲罰を」という主張を繰り返している。

 

中国のやり方は暴力で家族を支配する行為に似ていて、台湾の気持ちはますます離れていく。

 

現時点では、中国が台湾侵攻作戦を敢行する可能性は低い。それは、台湾軍の抵抗、米軍の介入、国際社会での反中感情の高まりが予想されるからである。

 

しかし今年7月の中国共産党創設100周年、そして来年の第20回共産党大会を「中国の夢」で壮大に演出したい習は、台湾問題で何らかの「成果」を示したいであろう。そこで浮上してくるのが東沙諸島だ。

 

(中略)東沙は地理的に中国沿岸から近く、台湾本島からは距離がある。台湾本島からは約410キロあるが、広東省の汕頭(スワトウ)からは約260キロしかない。

 

現在は台湾の海軍陸戦隊約500人が守備に就いているとされるが、平坦な地形で基本的に防衛は不可能な島だ。

 

中国軍は常時奪取可能

以前、東沙はほとんど顧みられなかったが、南シナ海の戦略的重要性が高まったことで注目度が増してきた。太平洋からバシー海峡を通って南シナ海に入る入り口に位置するので、中国が東沙を支配すれば南シナ海にふたをする形となり、艦船や航空機の通過を監視・牽制する門番の役割を果たす。

 

東沙への警戒を大きく高めたのは、昨年5月の「中国軍が東沙諸島の奪取演習を計画」という共同通信のスクープ記事だ。

 

中国軍は東沙と台湾本島の間の海・空域で活発に活動し、台湾の補給路を断つ演習を集中的に行ったとみられる。上陸演習は海南島など別の場所だった可能性が高い。

 

10月には、東沙島に補給物資を運ぶ台湾の航空機が高雄から離陸したが、香港の航空管制から「安全を保障できない」と通告され、やむなく引き返す事件があった。

 

軍事専門家は「中国軍がいつでも東沙の補給路を断つこともできるし、奪取しようと思えばできる状況にある」とみている。

 

東沙への軍事行動といっても、

(1)周辺での軍事演習の常態化から始まり、(2)補給の航空機と艦船に嫌がらせをするグレーゾーン、そして(3)海・空域の封鎖で補給路を断つ、(4)攻撃予告で台湾軍を撤退に追い込む、(5)上陸作戦による奪取ーーまで段階的なオプションがいくつもある。

 

ここで重要なのが米中の駆け引きである。ジョー・バイデン新政権は就任後すぐに「われわれの台湾への約束は岩のように固い」と表明し、空母打撃群を台湾の南のバシー海峡付近から南シナ海へと航行させた。

 

一方、中国軍は2日間にわたって爆撃機など計28機を発進させ、台湾の防空識別圏に侵入し、その先を航行する米空母を標的とする対艦ミサイル発射の演習を行った。米中共に台湾をめぐって一歩も引かない立場を示した形だ。

 

習にとって「一石数鳥」

いま中国が台湾本島を攻撃すれば米軍が動くであろうし、日米で強い反中感情が巻き起こるであろう。しかし、日米で東沙諸島を知っている人はまずいない。米世論も「台湾から離れた無人島で米兵を死なせるのか」と受け止める可能性がある。

 

中国は、バラク・オバマ米政権期に南シナ海で環礁を埋め立て軍事基地化した成功体験を持っている。

 

加えて中国が、米軍が動きにくい台湾の周辺でバイデン政権の出方を試す可能性がある。

 

米中関係の主導権を握るため、まずバイデン政権の出鼻をくじいておいて、その上で米民主党が重視する地球温暖化対策、コロナワクチン提供、貿易の国際ルール作りなどでアメリカの顔を立てるといった高等戦術もあり得る。

 

中国は過去4年間、ドナルド・トランプ政権によって忍耐を余儀なくされたという思いがある。主導権を取り返そうと考えるのが自然である。

 

「東沙の有事は台湾有事と比べると国際社会の批判も大きくはならないし、なっても一時的」と、習指導部が計算する可能性もある。

 

そうなれば台湾には大きな打撃だ。これで台湾社会にパニックが起これば、習には儲けものだ。

 

つまり中国にとって、やり方とタイミングをうまくすれば「一石数鳥」ものプラスを得られる可能性がある。それは3期目を目指す習が政権を継続する理由にもなる。これが東沙のリスクだ。

 

実際に何も起こらなければそれが一番よい。ただ日本が危機感を持っておくことは戦争の予防につながる。

 

万が一、中国が台湾本島あるいは周辺島嶼へ武力行使することがあれば、日本で強烈な反中感情が巻き起こり「日中関係は10年も20年も正常化できなくなる」という見通しを、日本政府だけでなく日本の社会が発信する必要がある。

 

日中友好と平和を願うのであれば、まず「中国に武力行使をさせない」という決意を固めなければならない。【小笠原 欣幸氏 Newsweek 2021年2月23日号】

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「台湾本島への武力行使ではなく,離島を奪取して内外に習近平の意志と力を見せつけ,「台湾統一が近づいている」という宣伝戦を展開する可能性である。合わせてバイデン政権の出方を試すことができる。それが東沙諸島である。」【2020年12月1日 笠原 欣幸氏】

 

このあたりの中国・習近平氏側の思いについては、以下のようにも。


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ここで習近平の時間軸で考えてみたい。日本の中国専門家はほぼ全員,習近平が2022年の党大会で三選すると見ている。2032年とか35年まで続けるという見方も多い。

 

習近平の頭の中では「任期中に台湾問題に決着をつけるチャンスが十分ある」ととらえているであろう。他方で,すでに8年間権力の座にありながら台湾統一がいっこうに近づいていない「不都合な真実」がある。

 

政権継続の正当性を示すためにも,2021年の共産党百周年あるいは2022年の党大会において台湾問題で何らかの「成果」を示したいであろう。
 

加えて,中国は,台湾の有権者が再三の警告を無視して蔡英文を当選・再選させ,その蔡政権が米国との関係を深めていることに腹を立てている。「環球時報」は「台湾に懲罰を与える」「教訓を与える」という主張を繰り返している。中国国内向けにも「台湾を痛い目に遭わせる」何らかの行動の必要性が高まっている。
 

そこで浮上してくるのが,台湾本島への武力行使ではなく,離島を奪取して内外に習近平の意志と力を見せつけ,「台湾統一が近づいている」という宣伝戦を展開する可能性である。合わせて米のバイデン政権の出方を試すことができる。それが東沙諸島だ。【同上】

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実際に何も起こらなければそれが一番よいのですが・・・。

 

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ミャンマー  続く抵抗に武力弾圧を強める国軍 今後に繋がるか、NLD新組織と軍・警察からの離反

2021-03-06 22:50:36 | ミャンマー

(負傷したデモ参加者の応急手当てにあたった救急隊員3人を救急車から降ろし、銃床や警棒で打ちのめす治安部隊 【3月5日 ANN】)

 

【激しい抵抗に苛立つ軍政 武力弾圧を強める】

多くの報道があるように、ミャンマーの軍事クーデターに対する市民の抵抗が続いており、それに対する鎮圧行動は激しさを増し、ロイター通信によれば、クーデター以降少なくとも55人が死亡したとのことです。

 

****Tシャツには「全てうまくいく」…ミャンマーデモで撃たれ死亡の10代女性****

ミャンマー第2の都市マンダレーで3日、軍事クーデターに抗議するデモに参加していた若い女性が銃で撃たれ、亡くなった。着ていたTシャツの胸元には、英語のメッセージが記されていた──「全てうまくいくよ」。

 

ダンスが大好きで、「天使」の愛称で知られたチャル・シンさんは、いつもファッションにメッセージを託してきた。黒い上着の背中に「私たちには民主主義が必要だ。ミャンマーに正義を。国民の投票結果を尊重せよ」というスローガンを貼り付けて、軍事クーデターに対する抗議デモに参加したこともあった。

 

「全てうまくいくよ」という言葉は、たちまち新たなスローガンとなってソーシャルメディアで広がった。4日に行われた葬儀には数千人が参列した。

 

チャル・シンさんにとって、ミャンマーに民主主義を取り戻すことは、自分の身の安全よりも重要だった。そして、2月1日に起きたクーデターで拘束されたアウン・サン・スー・チー国家顧問の解放を求める全国的な抗議デモに身を投じた。

 

今週には、抗議デモに行く前にフェイスブックに血液型と電話番号を掲載し、もし自分の身に何かあれば、臓器を提供すると書き込んでいた。

 

国連によると、3日のデモでは少なくとも38人が死亡。クーデター発生後、最悪の流血の事態となった。

 

ソーシャルメディアに投稿された動画には、撃たれる直前のチャル・シンさんの様子が映っていた。銃声が響き、催涙ガスが立ち込める中、道路を這い物陰に隠れようとしていた。

 

医師はAFPの取材に、チャル・シンさんは頭を撃たれたと話した。

 

チャル・シンさんの死が報じられると、インターネットには追悼の言葉や彼女を描いたイラストなどがあふれた。

 

4日午前には、人々が花束や花輪を手にひつぎの前に列をつくり、ミャンマーで広く歌われる革命歌「この世の終わりまで忘れない」を歌った。

 

ネットでは多くの人がチャル・シンさんを殉難者とたたえ、悲しみを分かち合っている。フェイスブックでチャル・シンさんとつながっていた男性は、こう追悼の言葉を寄せた。「安らかに眠ってください、友よ。われわれは最後までこの革命を闘い抜きます」 【3月5日 AFP】

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****ミャンマーで子供500人拘束か=5人死亡、催涙ガス被害も―ユニセフ****

国連児童基金(ユニセフ)は4日、ミャンマー国軍による抗議デモの弾圧が続くミャンマーで、推計500人以上の子供が恣意(しい)的に拘束されていると発表した。多くが外部との連絡を絶たれている。

 

ユニセフはこうした拘束や子供に対する実弾の使用を「最も強い言葉で非難する」と表明した。

 

ユニセフによると、3日時点で少なくとも子供5人が死亡したという報告があった。また、多くの子供が催涙ガスや音響閃光(せんこう)弾の被害にさらされている。家族が閃光弾などの標的になる例もあり、ユニセフは「深刻な精神的苦痛のリスクがある」と警告した。【3月5日 時事】 

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救急車両から降ろされたボランティアの救急隊員3人が座らされ、複数の警官に繰り返し銃や警棒で殴られたり、蹴られたりする様子を映した動画も国内外に広がっています。

 

クーデターで全権を掌握したミャンマー軍政は、抗議デモへの弾圧を強化しています。デモ隊に対して殺傷能力の高い短機関銃を使用したとも報じられています。

 

そうした鎮圧行動強化の背景には、クーデターから1カ月を過ぎてもデモが収束せず、更に公務員による不服従運動など抵抗が拡大していることへの焦りやいらだちがあると思われます。

 

しかし、強引な鎮圧行動の犠牲者の様子がSNSで国内外に広く流され、市民側は更に抵抗を強める・・・という形で、混乱は拡大しています。

 

正直なところ、「力」の行使をためらわない国軍を前にしては、市民の抵抗も難しいのでは・・・と、個人的に考えていましたが、早期収束を狙う国軍の想定したシナリオは狂いつつあります。

 

【中国・ロシア 欧米とは一線を画しつつも、様子見の面も】

国際的な批判も強まっています。国軍はそうした批判は想定内としていますが、頼みの綱の中国なども、批判を強める欧米とは一線を画してはいるものの、それほど積極的に国軍を支援するという雰囲気でもなく、これも国軍にとっては想定外の事態でしょう。

 

****無抵抗者への銃撃映像が拡散 ミャンマー、弾圧が過激化*****

国軍がクーデターで権力を握ったミャンマーで3日、治安部隊が各地でデモ参加者に発砲し、38人が犠牲になった。1日の犠牲者数としては2月1日のクーデター以来最悪で、武力弾圧は激しくなる一方だ。最大都市ヤンゴンでは外出を控える人が増え、街は閑散としている。(中略)

 

(考論)根本敬上智大学教授(ミャンマー現代史)

ミャンマー国軍側は意図的に、抗議デモへの抑圧の度合いを強めている。現地の映像を見ると、市民を手当てする救護隊員にも暴行しており、状況は日に日に悪化している。

 

国軍は、市民の不服従運動はいずれ沈静化すると踏んでいたのだろう。運動の広がりと長期化は、想定外だったはずだ。

 

もう一つの計算違いは、彼らの「数少ない友人」である中国やインド、ロシアが自分たちを積極的に支援しようとせず、静観し続けていることだ。

 

その中で不服従運動は続き、国民は言葉による警告や脅しにもひるまなかった。

 

国軍側が「我々は制裁には慣れている」と強弁したり、デモへの抑圧を強めたりしているのは、それだけ国軍が追い詰められている証拠とも言える。

 

国軍側のシナリオは崩れているが、トップのミンアウンフライン最高司令官に、国際社会と妥協点を探そうとする姿勢は見えない。

 

市民への抑圧を強めればミャンマーは国際社会でさらに孤立し、民政移管以降の経済成長の果実も失われて、かつての軍事政権時代に後戻りしかねない。

 

国際社会は一致して強硬な非難声明を出し、制裁と対話を進めながら、国軍に方針転換を迫るべきだ。(聞き手・福山亜希)【3月4日 朝日】

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“国際社会は一致して強硬な非難声明を出し・・・”というのは、やはり中国・ロシアの消極姿勢で困難な状況です。

このあたりは、国軍が期待するシナリオどおりです。

 

****ミャンマー巡る安保理議長の声明案、中露の難色で協議継続…緊急会合*****

国連安全保障理事会は5日、クーデターを強行した国軍による抗議デモへの弾圧が続くミャンマー情勢を協議するため、オンラインによる非公開の緊急会合を開いた。英米両国は暴力の停止や民政復帰に向けた議長声明の採択を目指すが、中国とロシアが慎重姿勢を示し、協議は継続となった。

 

この日の会合では、ミャンマーを担当するクリスティン・ブルゲナー国連事務総長特使が、弾圧で市民約50人が死亡したなどと報告。弾圧に歯止めがかからない状況について「国連に対する(ミャンマー国民の)希望がしぼみつつある」と訴え、安保理に結束を求めた。

 

安保理筋によると、英国が配布した議長声明案について、中国とロシアが難色を示したという。中露は武器輸出などを通じてミャンマー国軍と関係が深く、国軍への非難も避けている。

 

緊急会合の開催を要請した英国のバーバラ・ウッドワード国連大使は会合後、記者団に「状況を注視し、安保理が合意に到達できるよう行動する」と述べた。【3月6日 読売】

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【「内政不干渉」を原則とするASEAN内にも批判】

ただ、「内政不干渉」を原則とするASEAN内にも批判があります。

 

****ミャンマー情勢 ASEAN外相会議が異例の「懸念」表明****

国軍によるクーデターが起きたミャンマー情勢を巡り、2日に非公式の特別外相会議を開いた東南アジア諸国連合(ASEAN、10カ国)は「懸念」を表明する議長声明を発表した。ASEANは1967年の創設以来、加盟国の国内問題には干渉しない「内政不干渉」を原則としており、異例の対応となった。

 

声明は、ミャンマーの治安当局が、抗議デモに参加した人々を強制排除する動きを加速していることを念頭に、「全ての当事者に暴力の抑制と建設的な対話を通じた平和的な解決を模索してほしい」と要請。

 

「ASEANは積極的、平和的、建設的にミャンマーを支援する用意がある」とした。また、アウンサンスーチー氏を念頭に「政治的理由で拘束されている人たちの解放を求める声があった」と指摘した。

 

ロイター通信によると、会議ではインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールの4カ国がスーチー氏らの解放などを要求。全権を掌握している軍事政権に対応を迫った。

 

外相会議の開催を主導したインドネシアのルトノ外相は2日、内政不干渉の原則を重ねて示しながら「民主主義を回復軌道に乗せなければならない」と強調した。【3月3日 毎日】

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インドネシアとシンガポールの両外相は、ミャンマー国軍が任命したワナ・マウン・ルウィン氏を外相と呼称しなかったとも。【3月3日 共同より】

 

【軍政からの権限移譲の受け皿にもなりうるNLD新組織】

こうした混乱のなかで、注目される二つの動きが。

ひとつは、政治的には抵抗運動の「核」となるスー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)メンバーら動きです。

 

****スー・チー氏支持派、複数の「大臣代行」任命 対決姿勢鮮明、国軍は警戒****

国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーで、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)メンバーらが複数の「大臣代行」を任命するなどして、国軍による政権運営を認めない動きを強めている。

 

国軍側を「テロ組織」とも批判。メンバーへの支持は拡大しつつあり、警戒する国軍は摘発に乗り出す構えを見せている。

 

2月1日のクーデター後、昨年11月の総選挙で当選したNLD所属議員らは「連邦議会代表委員会(CRPH)」という組織を設け、反国軍に向けた政治活動を開始。クーデターに抵抗する意思表示として職場を放棄する「市民不服従運動」も推進している。

 

CRPHは「スー・チー政権」こそが正統だと主張。今月2日には、スー・チー氏ら閣僚が拘束されているため、「内閣は職務を遂行できない状態だ」と述べ、外相など複数の「大臣代行」を任命した。国軍が設けた最高意思決定機関「国家統治評議会」による大臣任命を認めない姿勢を鮮明にした形だ。

 

CRPHは治安部隊がデモ隊に発砲するなど弾圧を続けていることを受け、国家統治評議会を「抗議者を殺害と暴力で恐怖に陥れているテロ組織」とも批判している。

 

CRPHをめぐっては、2月26日に国連総会非公式会合で異例の国軍批判を展開したチョー・モー・トゥン国連大使が支持を表明していた。NLD関係者によると、国軍は外交官にCRPH支持が広がることを警戒しており、スー・チー政権下で赴任した複数の在外公館職員に帰国の内示を出したという。

 

国家統治評議会は声明でCRPHは「非合法組織だ」と指摘。今月6日までに離脱しないメンバーには「重大な行動を取る」と宣言するなど強硬な姿勢を示している。【3月4日 産経】

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****NLD新組織に存在感=国軍、警戒強める―ミャンマー*****

(中略)CRPHは国際的にも受け入れられつつある。ドイツのショイブレ連邦議会(下院)議長はCRPHに書簡を送り、「国軍はミャンマーの民主化を不当に停止させた」と非難。「皆さんが苦境を乗り切るよう願う」とエールを送った。

 

国軍は国連総会の会合でCRPHの立場からクーデターを批判し、国際社会に支援を訴えたチョー・モー・トゥン国連大使を解任。ティン・マウン・ナイン次席大使を代理大使に指名した。

 

しかし、次席大使は辞意を表明。ミャンマー国連代表部はチョー・モー・トゥン大使がそのまま務めることを確認し、国軍は面目をつぶされた。【3月6日 時事】

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【今後のカギとなる軍・警察からの離反者】

もうひとつの注目される動きは、軍・警察など身内からの造反です。

 

****軍人や外交官、不服従の動き ミャンマー国軍、内外から反発*****

クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーで、足元の国軍や警察の内部から不服従の動きが出ている。4日には陸軍大尉とみられる人物がSNSで国軍を批判。不服従は外交官にも広がっており、国軍は内外から揺さぶりを受けている。ただ、抗議デモに対する武力弾圧は5日も続き、犠牲者も出ており、国軍への反発はさらに高まりそうだ。

 

「国と国民に対する国軍指導者の態度は間違っている」「もはや彼らの下では働きたくない」。首都ネピドーで任務にあたる陸軍大尉というニートゥーター氏は4日夕、フェイスブックにこう投稿し、職務を放棄して国軍に抗議する不服従運動に加わると宣言した。

 

ニートゥーター氏は投稿で、クーデターが起きた2月1日から反対の立場で、「間接的に不服従運動に協力してきた」と説明。治安部隊による抗議デモ参加者への武力弾圧が続くなか、「1人の兵士として、ひどい事態を防げなかったことをおわびしたい」とした。さらに「国軍の尊厳は史上最悪の状態にある」と非難し、「勇気と知恵は正しい場所で使うべきだ」「私より勇気を持った兵士はたくさんいる」と訴え、他の兵士にも不服従運動に加わるよう呼びかけた。

 

ニートゥーター氏は投稿後、顔を出さない条件で現地記者の取材に応じ、その様子の動画がユーチューブで公開された。同氏は国軍から処罰される可能性が高く、現在は身を隠しているという。同氏のフェイスブックのアカウントは5日夕までに削除された。

 

また、現地メディアによると、東部カレン州でも国軍兵士約10人が任務を離れ、少数民族の武装勢力に合流したという。

 

警官の離反も相次ぐ。ロイター通信は4日、これまでに少なくとも19人のミャンマー人警官が西隣のインドに逃れたと報じた。逃れた警官は「国軍から従うことのできない指示を受けた」と話しているという。ミャンマーメディアによると、不服従運動に賛同を表明した警官は100人以上に上り、デモ参加者への発砲命令を拒否した若手のほか、最大都市ヤンゴンの警察署幹部もいるという。

 

外交関係者の反発も目立つ。これまでに、米、独、スイスなどの在外公館の外交官や職員ら少なくとも11人が不服従運動への参加を表明した。在ワシントンのミャンマー大使館は4日に出した声明で、「平和的なデモをした民間人の命が失われたことを深く悲しみ、致命的な力の行使に強い反対と拒絶を表明する」と国軍側を非難した。(後略)【3月6日 朝日】

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****「国軍指示従えぬ」ミャンマー警官600人超「不服従運動」参加****

国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーで、デモ隊弾圧の最前線にいる警察官の間にも、職務を放棄して抗議の意思を示す「市民不服従運動」参加の動きが広がっている。地元メディアは600人以上が職を離れたと報道。デモ隊の犠牲者が50人を超える中、強硬姿勢に対して国軍の足元でも反発が広がり始めた。

 

6日も同国各地で抗議デモが相次いだ。最大都市ヤンゴンでは治安部隊が催涙弾を発射し、強制排除に乗り出した。デモに参加していた男性(22)は産経新聞通信員に、「声を上げ続けなければ軍政を認めたことになる」と話した。

 

地元メディアによると最大都市ヤンゴンの警察幹部が2月下旬、「国軍の下で任務に就きたくない」として、不服従運動参加を宣言した。その後、デモ隊への銃撃を拒否する警察官も相次いでいる。

 

警察官やその家族、約30人が国境を越えて西側のインドに入国し、保護を求めたとの情報もある。ロイター通信によると「国軍の指示に従えない」と話したという。ミャンマー側は身柄引き渡しを要求しており、インド政府が対応を協議している。

 

一方、地元メディアによると、「エンゼル」(天使)の愛称で知られ、デモ参加中に銃撃で死亡したチェー・シンさん(19)の遺体が5日、国軍関係者によって墓地から掘り起こされた。遺体はその後、戻されたというが、遺族に無断で死因を調べるなどした可能性があり、国内で反発の声が上がっている。【3月6日 産経】

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こうした身内からの造反が今後更に増えるようだと、市民の抗議活動への実力行使が困難になり、国軍側も追い詰められる状況ともなります。

 

そうなれば、前出の「連邦議会代表委員会(CRPH)」が軍に権限移譲を迫る・・・ということにも。

 

逆に、軍・警察の軍政支持が崩れなければ、抵抗運動の継続も難しいでしょう。

 

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ロシア・プーチン大統領  欧米への警戒感・猜疑心から高まる欧米との緊張

2021-03-05 22:26:30 | ロシア

(1991年に引き倒され、現在はモスクワ市内の公園で保管されるKGB創設者ジェルジンスキーの像【3月5日 共同】)

 

【ソ連の世界観に回帰するプーチンとその支持層】

ロシアでは、毒殺未遂事件の反体制派指導者ナワリヌイ氏が「プーチン宮殿」動画などでプーチン批判を強めるなかで、プーチン大統領の国民評価は割れています。特に、世代間の差が大きいようです。

 

****プーチン氏続投「望まず」拡大=若年層で顕著―ロシア調査****

ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターは26日、2024年に任期が切れるプーチン大統領の続投をめぐる調査の結果を発表した。続投を「希望」は48%で、「希望せず」の41%を上回ったが、「希望せず」の割合は13年以降で最も高かった。

 

若年層(18〜24歳)では望まないとの回答が57%と、希望(31%)を大きく上回った。20年以上権力を握り続けるプーチン氏に対し、若者が反発を強めていることが浮き彫りになった。一方で、55歳以上では59%が希望しており、望まないのは31%だった。

 

プーチン氏続投を望まない理由としては「長く務めており、もう十分」が21%。「権力は交代しなければならない」が19%で続いた。調査は18〜24日に約1600人を対象に実施された。【2月27日 時事】 

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続投希望者が挙げた理由では、「安定」(30%)が最多だったとのことで、1991年のソ連崩壊後の混乱を経験した世代ほど安定志向が強く、プーチン氏への支持が底堅い傾向が見られます。

 

そうしたロシアでは近年、スターリン再評価などソ連時代への回帰を望むような声もありますが、そうしたソ連回帰を望む層とプーチン続投支持層は重なります。

 

クリミア併合、ナワリヌイ氏の事件など、近年の欧米とロシアの刺々しい関係を見ると、何よりプーチン大統領自身が、そうした欧米と対峙して存在感を発揮した時代への回帰を希望しているようにも見えます。

 

****「プーチンのロシア」20年 米欧を敵視、ソ連の世界観に回帰****

ロシアのプーチン大統領(67)が2000年5月に初めて大統領に就任し、最高実力者の座に就いてから(2020年5月)7日で20年。

 

ソ連崩壊後、米欧と同じ価値観を持つ民主国家を目指したロシアは、プーチン時代の20年を経て、再び米欧と対決するソ連の世界観に回帰。中国に接近するなど独自の道を模索している。米ロ対立の激化で、日本と北方領土問題を解決し平和条約を結ぶ機運も遠のいた。

 

ソ連崩壊後、屈折した思いを抱いていたロシアの中高年層の多くは、米国と対立し国際舞台で存在感を強めるプーチン氏の世界観を共有。現任期が切れる24年以降も同氏の続投を望むのは、こうした人々だ。【2020年5月7日 共同】

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下記のKGB創設者の銅像再建の話題なども“米欧と対決するソ連の世界観に回帰”といった現象の現れでしょう。

 

****KGB創設者像で住民投票 再建の是非巡り、モスクワ****

ロシアの首都モスクワで25日、ソ連の秘密警察、国家保安委員会(KGB)の創設者ジェルジンスキーの銅像を再建することの是非を問うオンライン住民投票が始まった。

 

投票期間は3月5日までで、かつてのKGB(現在の連邦保安局)本部前のルビャンカ広場にこの像を再建するか、中世ロシアの英雄アレクサンドル・ネフスキー大公像を建てるかの選択が求められる。

 

タス通信によると、開始から約2時間半で5万人以上が投票し、ジェルジンスキー像再建を求める意見は47%。この像は1991年8月にソ連保守派のクーデター事件が失敗した直後、市民により引き倒されていた。【2月25日 共同】

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私などは、「あの“悪名高き”秘密警察・KGB創設者の銅像を・・・・」と思ってしまいますが、それを言うなら、プーチン氏自身がKGB出身ですからね・・・

 

25日にオンライン形式で始まった銅像再建の賛否を問う投票は2月26日に中止されました。

“ソビャニン・モスクワ市長が投票は社会の対立を招くと判断した。”【2月27日 時事】とのこと。

 

どうも、「対立」など招かず、圧倒的支持で賛成される・・・・と、市長側は考えていたようです。

でも、オンライン住民投票に参加するのは、プーチン続投を望んでいない若者層などが中心でしょう。

 

それにしても、劣勢だとわかると投票を中止してしまうというのも、さすがロシアです。

 

****KGB創始者像復元の投票中止 ロシア政権、「敗北」回避か****

(中略)政権は復元支持が圧倒的多数と見込んでいたが、途中経過で劣勢が判明、「敗北」を回避しようと中止を決めたようだ。

 

プーチン大統領はKGB出身。像復元の動きは、欧米との対立を背景に進むソ連的価値観への回帰の一環とみられ、ソ連時代の政治弾圧を記録するロシアの人権団体「メモリアル」は「良心を失った人だけが思いつくことだ」と批判していた。【3月5日 共同】

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KGB創始者などの“古き良き時代”を懐かしむようになったら、先も見えてきた・・・という感がありますが、プーチン大統領及びその周辺には、若者層を中心とした世論の“読み違え”“混乱”があるようにも見えます。

 

【プーチン大統領の欧米への警戒感・猜疑心】

一方、“米欧と対決するソ連の世界観に回帰”というーチン大統領及びその周辺の思考は、ロシアの欧米への警戒感・猜疑心を強め、欧州での緊張を高めています。

 

****危ぶまれるプーチンの「精神状態」****

「欧米の謀略」に怯える日々

 

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、「ハイブリッド戦争」の恐怖におびえている。反体制派指導者アレクセイーナワリヌイ氏の動きが、米欧の支援を受けていて、さらに大きな策謀があるのではないかと警戒しているのだ。

 

ロシア軍内部では、米欧の工作を未然に防ぐため、北大西洋条約機構(NATO)に限定的な先制攻撃を仕掛けるべきとの声も上がっている。

 

北欧などロシアの近隣諸国では相次いで、近年では例のない警戒態勢に入っている。

 

北極圏であわや空中戦

今年二月上旬、ロシア空軍はただならぬ緊張に包まれた。米軍がテキサス州の基地からBI戦略爆撃機四機と要員約二百人を、ノルウェーのオーランド空軍基地に派遣することが伝えられたからだ。

 

ロシア西部サラトフ近郊のエンゲルス空軍基地にある「ツポレフ160」戦略爆撃機二機に出動命令が出て、二機は北極圏に向けて全速力で北上した。

 

ノルウェー空軍はF16ジェット戦闘機二機をスクランブル発進させ、両者はノルウェー最北端沖の公海上空で遭遇した。ツポレフ二機会はやがて大きく旋回し、ロシア側に戻っていった。

 

ノルウェー軍は「通常の行動をとった」としたものの、ツポレフ出勤は「空中戦を挑むぞ」というロシア軍の威嚇だった。

 

ロシア空軍がピリピリするのは、米軍機派遣のニュースばかりが原因ではなかった。最高司令官であるプーチン大統領が、西側の動きを強く警戒し、いら立ちを強めているためだ。

 

大統領はこの後、ロシアのテレビ局との会見に臨み、「(敵側は)私たちが新型コロナウイルスで疲弊しているところを狙ってくる」と厳しい表情で述べ、西側が何らかの形でロシアを揺さぶってくるという認識を示した。

 

プーチン大統領は何におびえているのだろうか。米シンクタンクのあるロシア専門家は、「ナワリヌイ氏の最近の行動が、米国によるハイブリッド戦争の一環と確信しているからだ」と言う。

 

ハイブリッド戦争とは、非正規戦闘員や秘密工作員に、敵陣営内で騒ぎを起こさせて、その混乱に乗じて正規車が一気に敬側を制圧するというもの。

 

最近の例では、プーチン政権が二〇一四年に、クリミア半島やウクライナ東部で仕掛けたものが代表例だ。大統領自身がハイブリッド戦争の達人と見られているのに、今は西側が自分に仕掛けていると見ている。(後略)【「選択」3月号】

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こうしたプーチン大統領の警戒感・猜疑心の原点は、グルジアジョージア)、ウクライナ、キルギスなど2000年代に複数の旧ソ連国家で独裁政権交代を求めて起こった民主化運動「カラー革命」の背後でアメリカ国務省・CIAなどが動いていたということにあるのでしょう。

 

【制裁を強化する欧米】

対する欧米側は、ナワリヌイ氏の処遇で対ロシア制裁圧力を強めています。

 

すでに6個人と1研究機関に対する制裁に踏み切っているEUは更に追加制裁を。

 

****EUが対ロシア追加制裁を発表****

欧州連合(EU)は2日、ロシア反体制派ナワリヌイ氏の収監を巡り、クラスノフ検事総長らロシア捜査・司法機関などの4人に対し、EU域内の渡航禁止や資産凍結などの対ロ追加制裁の実施を発表した。【3月2日 共同】

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ロシアに異様に宥和的だったトランプ前政権に対し、バイデン政権は厳しい対応に転換。

 

****米、反体制派毒殺未遂で対ロ制裁 化学兵器使用と断定 EU協調****

米政府は2日、ロシアが昨年、反体制派指導者ナワリヌイ氏を神経剤を使用して殺害しようとしたとして、7人のロシア政府高官のほか、14団体に対し制裁を発動させた。トランプ前米政権はロシアのプーチン大統領との直接対決に消極的だったが、バイデン政権はこれを翻し対抗姿勢を示した。

 

制裁措置は欧州連合(EU)と協調して導入。EUは前月の外相会議で合意された通り、クラスノフ検事総長らプーチン大統領の側近4人への制裁を発動させた。EUはすでに6個人と1研究機関に対する制裁に踏み切っている。

 

米ホワイトハウスのサキ報道官は「ロシア連邦保安局(FSB)がナワリヌイ氏を殺害しようと神経剤を使用したと、米情報機関は強く確信している」と述べた。

 

財務省によると、制裁対象に指定されたのはFSBのボルトニコフ長官とクラスノフ検事総長のほか、大統領府の国内警察担当アンドレイ・ヤリン氏、国防次官のアレクセイ・クリボルチコ氏とパーベル・ポポフ氏、首相経験者でプーチン氏の側近のアレクサンドル・キリエンコ氏、連邦刑務所の責任者アレクサンドル・カラシニコフ氏。

 

制裁措置の下、米管轄下にある資産が凍結されるほか、米国人との取引が禁止される。ただ7人が米国内に資産を持っているかは不明。

 

このほか、ロシアの生物・化学兵器製造に関与が疑われる14の団体も制裁対対象とした。このうち1団体はロシア政府の研究施設。残りの13団体は民間団体で、9団体がロシア、3団体がドイツ、1団体がスイスに本拠を置いている。

 

米政府当局者は記者会見で、欧州連合(EU)と協調して制裁を導入したと表明。ナワリヌイ氏は国内の腐敗を追求しようとしたため標的にされたとした上で、同氏の殺害未遂には化学兵器が使用されたと断定した。

 

同時に「米国はロシアとの関係をリセットしようとも、エスカレートさせようとも考えていない」とし、「ロシアの行動が責任ある国として尊重すべき一線を越えた際、米国とパートナー国は代償を払わせる必要があると考えている」と述べた。

 

これに先立ち、ロシアのラブロフ外相はインターファクス通信を通じ、ナワリヌイ氏に絡み米国が制裁を発動した場合、同様の手段で対抗すると表明した。【3月3日 ロイター】

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当然ながら、ロシアは強く反発しています。

 

****ロシア、米制裁に対抗措置へ 反体制派の毒殺未遂巡り****
米政府がロシア反体制派ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件を巡り、対ロシア制裁を発表したことを受け、ロシア外務省のザハロワ情報局長は2日夜、声明を出し「受け入れられない。対抗措置を取る」と表明した。ナワリヌイ氏が化学兵器で攻撃されたという制裁理由はばかげたことだと批判。ロシアは2017年以降、化学兵器は保有していないと主張した。

 

ロシア政府は毒殺未遂への関与を全面否定し、証拠を示すよう要求。一方、イエレン米財務長官は声明で「政治的な反対派を沈黙させるために化学兵器を使ったことは、いかに国際規範を無視しているかを示すものだ」と批判した。【3月3日 共同】

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プーチン大統領の頭の中では、欧米への警戒感・猜疑心が更に肥大していると思われます。

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