反イスラエル記事がハマス持ち上げ記事となっている
停戦が次の衝突までのモラトリアムに過ぎないことは麻生首相のもっともらしげな口癖を借りずとも、誰の目にも「はっきりしている」事実であろう。ハマスが自ら掲げたイスラエルの存在自体を抹殺、少なくとも現在の地から放逐する政策の目的達成が軍事的にも政治的にも蟷螂の斧に過ぎない効果しか見い出せなくても、軍事的方法に頼る以外に道はないことが理由となっている衝突、停戦、衝突、停戦の同じことの繰返しの歴史を踏まなければならない自縄自縛に絡め取られているからだ。
イスラエル人死者が13人に対してハマス側は「子ども410人を含むパレスチナ人1200人以上が死亡、約5300人が負傷」(中国新聞インターネット記事)が示している人的被害とガザ地区街の建物やインフラの破壊等の物的被害を併せた今回の衝突で得たマイナスの戦果はまさに蟷螂の斧がつくり出した成果としか言いようがない。
ハマス側の停戦はイスラエルによる逆の“抹殺”、あるいは逆の“放逐”の恐れが出たため、それを避ける必要からの、それが唯一の理由であって、この機を逃したら、次の衝突を準備する体力回復を望めないと判断したからだろう。
世界のマスコミの多くはイスラエルの民間人であるとないとを問わない無差別に近い攻撃の残酷さを非難し、パレスチナの対イスラエル闘争をインティファーダだ、ジハードだと持ち上げてきたが、それに同調して反イスラエルのデモを行った各国国民も多くいた。
だが、ハマスがこれまでに行ってきたロケット弾攻撃や自爆テロ、あるいはインティファーダやジハードの類がどれ程の建設的な成果を積み上げてきたと言えるのだろうか。イスラエルに対する国際的非難は停戦によって収束し、その殆どが次の攻撃まで風化するが、停戦を挟んだ衝突の繰返しは常にパレスチナ側の人的・経済的・物質的損失をより多く伴う負の成果を積み上げるのみで、その愚かしばかりの反復性に懲りない。
昨19日の『朝日』朝刊記事≪時時刻刻 停戦 なお疑心と不安≫ の中でもガザ・パレスチナ人の“懲りない”声を伝えている。
「大勢の市民を殺したイスラエル軍の攻撃は、ハマスと我々の結束を強めた」
強めた「結束」が次の衝突に勇気づけを与えるとしても、人的・経済的・物質的にどのような建設的な成果を約束するいうのだろうか。
だが、記事はその声に同調して、<イスラエル軍の圧倒的な攻撃は、住民のハマス支持を広げたように見える。>と次の衝突の確約にしかならない「ハマス支持」に肯定的な評価を与えている。本人は気づいていなくても、ここでハマスのイスラエルとの衝突と停戦の繰返しを容認したのである。
この姿勢は当然のように軍事的衝突を計ることのないアッバス議長への非難となって現れる。
<一方、ガザとは別のパレスチナ自治区ヨルダン川西岸だけを統治するアッバス自治政府議長は、ガザ攻撃を非難しても止められず、無力ぶりをさらけ出した。
アッバス氏がイスラエル軍の戦車に乗ってガザに「凱旋」するのではないか――。そんな冗談まで、空爆下のガザ住民の間で飛び交っていた。イスラエルへの憎悪とともに、同国に協力するアッバス氏のイメージはガザ住民の間で地に落ちた感がある。>
アッバス議長がその実現を望んでいる対イスラエル「2国家平和共存」政策は間違っていて、ハマスの衝突と停戦の繰返しを、それが建設的な進展を何も見ない現実を無視して正しい決定だとでも言うのだろうか。少なくともパレスチナ自治区ヨルダン川西岸に於いては数多くのパレスチナ民間人の犠牲、生活基盤や産業基盤の破壊を免れた。ガザが負うこととなった被害と比較した場合、「2国家平和共存」政策が人的犠牲や生活基盤・産業基盤の無傷という建設的成果を労せずして挙げたとも言えるはずである。
民間人の多くの犠牲、生活基盤や産業基盤の壊滅的な打撃とそれらがすべて無傷であったこととの差は大きい。パレスチナの将来的な人材足るべき子ども410人という死の数を取っただけでも、一人として子供の死を見なかったヨルダン川西岸の平穏さとの差は大きいものがある。
それとも、今は成果を見なくても、衝突と停戦の繰返しが将来的にはこれまでに失った人命や経済的・物質的損失を上回る建設的な成果を生み出すことができると見た上でのハマス同調なのだろうか。
同じ19日日付の『朝日』夕刊記事、≪密輸トンネル網、空爆で大打撃≫にしても朝刊に続いてというわけなのか、衝突と停戦を正当化させるハマス持ち上げ記事となっている。
イスラエルによるガザ封鎖下でエジプトとパレスチナ自治区ガザを結んで住民の生活物資やイスラム過激派ハマス調達の武器等の搬入通路となっていたトンネルがイスラエル軍の空爆で大打撃を受けた。そのトンネルの「管理者」の一人がトンネルの利用実態を証言するという内容の記事である。
地下約20メートルで境界を越える約千本ものトンネルが連日の空爆でほぼ壊滅状態化したが、それまではガザ側からの注文に応じてカイロから調達した食糧や燃料、電気製品などを搬入、ガザ住民の生命線を担ってきた。トンネル「通貨料」は発電機1台150ドル、羊1頭100ドルが相場。
一方でハマスがロケット弾を作る材料の水道管200本(5千ドル)、TNT火薬1トン(5千ドル)といった注文も裁き、過去3カ月で15万ドル稼いだという。
記事はトンネルの「管理者」がガザに物資を提供するのは商売のためだけではなく、「ガザの抵抗を助けているのが誇りだ」とハマスの対イスラエル闘争支援も目的の一つに入っているとしている。
その理由がトンネルの管理者の多くはベドウィンと呼ばれるシナイ半島の遊牧部族民で、かつてパレスチナ解放を掲げたエジプト軍に情報提供等で協力したが、イスラエル軍に敗北、82年まで占領下に置かれ、抑圧された経験があるからだという。
トンネル管理者「イスラエルは一時的にトンネルを破壊できても、ガザの人たちを助けたいという我々の意思は砕くことはできない。停戦したら、仕事を再開したい」
密輸再開はハマスの次の衝突の準備にしかならないだろう。どのような話し合いも、何らかの形でイスラエルの生存を認めることになるから、攻撃しか、イスラエルの存在を認めないとするサインにないからだ。例えエジプト当局が密輸取締まりの監視を強化したとしても、密輸業者がワイロを用いた場合、どれ程の実効性が出るだろうか。エジプト官憲の中にもハマス寄りの人間はいるに違いない。
過去3カ月で15万ドル稼いでいて、ガザに物資を提供するのは商売のためだけではなく、「ガザの抵抗を助けているのが誇りだ」とハマス支援を口にするのは自らの密輸行為を美化する体のいい口実に過ぎないのではないのか。
2009年01月19日9時現在で1エジプトポンドの対ドル交換レートは0.18088ドルだと言うから、15万ドルは約83万エジプトポンド。
同じく同じ時点で1エジプトポンドは16円35銭。83万エジプトポンドは約1千350万円。
計算に弱いから間違えていないことを祈るが、インターネットで検索したところ、≪ピカラタウン [徳島 香川 愛媛 高知] ほっと四国 - 今日子の「勝手に旅マニア」≫なるブログが2008年10月中旬の「エジプト紀行」として次のように書いている。
「エジプトの富裕層の大半は石油会社の人間。役職に就いている人は平均月収50~60万くらい。 至るところで目にするポリスマンは、日本の感覚で8万円くらい。 一番安いのは教員(特に小・中学校の先生)で、3万円くらいの場合もあるとか・・・・」――
昨今のエジプトにしても世界的な不況と穀物等の高騰から諸物価が急激に値上がりして庶民の生活を圧迫しているということだが、しかし一般庶民の給与額からしたら、3カ月で約1千350万円、1カ月で約450万円の稼ぎはハマスの対イスラエル闘争支援が便乗でしかない荒稼ぎであることを証明しているように思える。
便乗ではなく、「ガザの抵抗を助けているのが誇りだ」が正真正銘の事実だと言うなら、450万の稼ぎの中から相当部分を浄財として闘争支援にまわしてもよさそうなものだからだ。
少なくともハマスがイスラエルに盛んにロケット弾を打ち込んで装備の点で消耗してくれた方が、その代償にパレスチナの民間人が子供を含めてどのくらい犠牲になろうとも、新たな装備に向けた需要が喚起され、それがトンネル商売の商機をつくり出してくれると言うものである。当然、エジプト人の一般給与から比較したら、ベラボーな大儲けを約束してくれる。
『朝日』の記事はそんなことにまで注意を向けないハマス持ち上げ記事となっている。
参考までに――
『ニッポン情報解読』by手代木恕之〈 パレスチナの取る道――世界を領土とせよ〉