安倍晋三の戦争を美化する特攻隊論:戦前の愛国心は天皇の名によって洗脳された精神的産物

2019-09-09 11:31:51 | 政治
 米国のタブロイド紙ニューヨーク・ポストが伝えたトランプ自身が紹介した安倍晋三との遣り取り。トランプが2019年8月9日にニューヨーク郊外で行った選挙資金集会で安倍晋三の訛りのある英語をからかいながら話したのだという。

 トランプ「(安倍晋三の父、安倍晋太郎が神風特別攻撃隊のパイロットだったことに)魅了された。神風特別攻撃隊のパイロットは酒に酔っていたのか、薬物を使用していたのか?」

 安倍晋三「違う、彼らはただ自分たちの国を愛していたのだ」

 トランプはここで選挙資金集会の聴衆に信じられないこととして語りかける。

 トランプ「想像してみてほしい、彼らがただ国を愛するがゆえに、タンク半分しかないガソリンで飛行機に乗り込み、軍艦に飛び込むということを!」

 特攻隊員たちが「ただ国を愛するがゆえに、タンク半分しかないガソリンで飛行機に乗り込み、軍艦に飛び込む」云々の知識はトランプが安倍晋三によって吹き込まれてモノにした感動的な歴史認識と言うことになる。つまり愛国心を唯一の精神安定剤として冷静沈着に軍艦に体当りしていき、愛国心と引き換えに自らの命を桜の花びらのように潔く散らしていくことを特攻隊の使命としていたという安倍晋三自身の歴史認識をトランプも共通項とすることになった。

 単細胞なトランプでさえ感動したのだから、単細胞であることから免れている人間にしても、安倍晋三から受け継いでいた場合の感動的な歴史認識を披露する際、涙を流しさえしたかもしれない。安倍晋三にしても、この感動的な歴史認識を同じ日本人にではなく、外国人に、しかもアメリカの大統領に刷り込んで、その単細胞の頭に国を愛するがゆえに自らの命を犠牲にすることによって輝きを放つ特攻隊という存在を共通項とさせることに成功したのだから、外国に於ける日本の戦前の戦争の悪評判を拭い去って、見直させる機会になった外交上の相当に高度な情報伝達になったと誇らしい気持になったに違いない。

 安倍晋三とトランプの以上の感動的なエピソードは《「酒もドラッグもなしに特攻するなんて!?」トランプ大統領が安倍総理の英語をネタに神風特攻隊を揶揄!旧日本軍が人間を兵器にするためシャブ漬けにした史実を安倍総理は「愛国」とすり換え!》(Independent Web Journal/2019.8.16)の記事から得た。

 記事題名は「トランプ大統領が安倍総理の英語をネタに神風特攻隊を揶揄!」となっているが、それが「揶揄」なら、安倍晋三自身が美しい歴史認識としている特攻隊論はガセネタだと、つまり安倍晋三はウソをついたと聴衆に披露したことになる。あくまでも安倍晋三に吹き込まれて、トランプは特攻隊に関わる歴史認識を同じくしたと見なければならない。

 ガセネタなのは安倍晋三が愛国心だけを頼りに特攻隊員たちが死地に赴いたとする特攻隊に関わる歴史認識、特攻隊論である。「旧日本軍が人間を兵器にするためシャブ漬けにした史実を安倍総理は『愛国』とすり換え!」と記事題名にあり、記事の中でも、〈人間を単なる兵器として扱う「特攻」という、無謀で非人道的で馬鹿げた作戦を遂行するためだけでなく、旧日本軍は兵士や軍関係の工場労働者を覚醒剤漬けにしていたのである。安倍総理は大日本帝國を賛美するために「違う、彼らはただ自分たちの国を愛していたのだ」と、トランプ大統領相手に虚構を語り、大統領自身はそれを虚構だと、実のところ見抜いていた、と考えるのが妥当ではないだろうか。〉と書いているが、特攻隊員たちが体当たりの任務を与えられた際、ヒロポンなる覚醒剤を前以って与えれて、恐怖心を麻痺させていた情報はネット上にいくらでも転がっている。

 だが、安倍晋三はガセネタであるという思いはこれポッチもなく、特攻隊員たちは愛国心のみを精神の糧として恐怖に打ち克ち、天皇陛下のため、お国のために自らの命を引き換えに軍艦に体当りしていったとする特攻隊論を信じて疑わない自らの神聖にして真正な歴史認識としている。

 記事は「wikipedia」の項目「特別攻撃隊」からの引用として戦後の参議院の予算委員会で特攻隊員だけではなく、軍の工場の工員も使っていたとする答弁が行われたことを紹介しているが、脚注からその質疑に行きつくことが出来たから、安倍晋三の特攻隊論、感動的な歴史認識がガセネタであることの証明としてここに書き出してみる。

 第6回国会 参議院予算委員会(1949年(昭和24年)11月30日)

 井上なつゑ「ちよっと厚生省の薬務局長さんに伺いたいのですが、実はこの頃浮浪者の少年の中で問題に可なりなっておりましたヒロポンでございますが、これは厚生省と大蔵省に伺わなくちやならんかと思うのでございますが、伺いますところによりますと、ヒロポンは製造上大変抑圧しておるように伺いますが、戰争中にヒロポンが可なり多く用いられて、それが貯蔵されておったというような話を聞いたのでございますが、これは厚生省としてどういうように譲り受けになりましたか。

 又それは大蔵省の国有財産の一部として拂出し(払い出し)になったのでございますか。その点明らかにして頂きたいと思います。実は製造を禁止いたしましても、この頃子供一人を掴まえると、40本、50本打っておるので、何処からか流れ出しておるのではないかという懸念がございますので、このことにつきまして厚生省並びに大蔵省から承りたいと思います」

 説明員慶松一郎「只今お話になりました覚醒剤でございますが、これは大体戦争中に陸軍、海軍で使つておりましたのは、すべて錠剤でございまして、飛行機乗りとか、或いは軍需工場、軍の工廠等におきまして工員に飲ましておりましたもの、或いは兵隊に飲ましておりましたのはすべて錠剤でございまして、今日問題になつておりますような注射薬は殆んど当時なかったと私は記憶いたしております。

 そうしてその終戦当時ございましたそれらの薬は、外の医薬品、或いは衛生材料と同様に、占領軍当局、進駐軍当局から厚生省に渡されまして、そうして外の薬と同じような方法によりまして各都道府県に配給いたしたと存じております。併し私、当時から全体の薬の配給等に関係いたしておりましたが、当時におきましては余りそのことが問題になっておりませんでしたので、果してどういうふうに配給されたか、ちよっと今分らないと思います。しかしいずれにいたしましても、今日問題になっておりました製薬は当時殆んどなかったということが言えると思います」

 ヒロポンの効能は眠気を去り、疲労感をなくし、気分を高揚させて多弁になり、行動的となることができるということだから、出撃前の特攻隊員に飲ませた場合、不安や恐怖を押し殺すことができて、「天皇陛下のために、お国のために」と愛国心一色で意気揚々と特攻機に乗り込むことができ、意気揚々と飛び立ち、全てを捧げる気持で敵艦に体当たりすることができたのだろう。
覚醒剤――ヒロポンは禁止薬物外として戦前は錠剤の形で軍兵士だけではなく、軍需工場などに勤労動員された大学生やその他の若年男女が過酷な長時間労働の疲労や眠気を取り去ってくれる有り難い薬として上層部から与えられ、利用されことはヒロポンの別名が「突撃錠」であり、「猫目錠」となっていることに名は体を表す言葉さながらに十二分過ぎる程に現れている。

 特攻隊員にとってはまさに「突撃錠」という名前にあやかったはずであり、一般兵士が夜襲に出かけた際に暗闇の中で敵兵を探すのに「猫目錠」の役目を果たしてくれたはずだし、勤労動員に駆り出された者にとっても、「猫目錠」は名前どおりの効き目を与えてくれたはずだ。

 ヒロポンは戦後は注射液に姿を替えて、広く利用され、幻覚症状や妄想を伴うヒロポン中毒患者を広く見受けるようになり、ときにはヒロポンを買うカネ欲しさから、あるいは禁断症状から突発的に犯罪を犯す者が現れ、反社会勢力の資金源にもなっていて、ヒロポンが製造禁止の他、売買禁止の薬物指定を受けることになったのは、〈覚醒剤製造業者がその業務の目的のために製造する場合及び覚醒剤研究者が厚生労働大臣の許可を受けて研究のために製造する場合の外は、何人も、覚醒剤を製造してはならない。〉とする覚醒剤取締法が1951年(昭和26年)6月30日に公布されてからだった。

 だが、法律で禁止されて、それで幕を引くということにはならない。現在の脱法ドラッグのように密造品が広まり、1945年(昭和20)から覚せい剤取締法公布4年後の1955年(昭和30年)を期間とした第1次覚醒剤乱用期には患者が最高5万5千人を記録したとされている。第2次覚醒剤乱用期、第3次覚醒剤乱用期と迎えることになるのだが、戦争中は軍に所属して服用していたことが戦中だけではなく、戦後の使用に対する抵抗感を希薄にさせ、戦後、軍がヒロポンを横流ししたことが簡単に手に入る要因にもなっていたというから、安倍晋三の特攻隊員を簡単に感動話に仕立てる歴史認識はまさに狂っているとしか言いようがない。

 大体が戦前の「愛国心」なる心情は天皇の名によって洗脳された精神的産物に過ぎない。このことは1937(昭和12)年3月刊行の「国体の本義」を見れば、簡単に理解できる。

 「国体の本義」は先ず西洋の個人本位の思想を排斥する。天皇全体主義を善とするためにである。そして次の一節が戦前の「愛国心」の性格をよりよく表していて、「愛国心」なるものが天皇への忠節=奉仕であることを説いている。

 〈敬神崇祖(神を敬い先祖を崇める)と忠の道との完全な一致は、又それらのものと愛国とが一となる所以である。抑々(そもそも)我が国は皇室を宗家とし奉り、天皇を古今に亙る中心と仰ぐ君民一体の一大家族国家である。故に国家の繁栄に尽くすことは、即ち天皇の御栄えに奉仕することであり、天皇に忠を尽くし奉ることは、即ち国を愛し国の隆昌を図ることに外ならぬ。忠君なくして愛国はなく、愛国なくして忠君はない。あらゆる愛国は、常に忠君の至情によつて貫かれ、すべての忠君は常に愛国の熱誠を件つてゐる(件のとおりに示している?)。固より外国に於ても愛国の精神は存する、然るにこの愛国は、我が国の如き忠君と根柢より一となり、又敬神崇祖と完全に一致するが如きものではない。〉

 天皇は日本国家の中心であり、中心の天皇と国民が一体となった一大家族国家を構成していて、国民が先祖を敬うように一大家族国家の中心である天皇を敬い、忠誠を尽くして天皇の繁栄のために奉仕する精神こそが「愛国心」であるとしている。

 つまり天皇の名のもとに国家によって洗脳された愛国心となっている。その結果の「天皇陛下バンザイ、日本バンザイ」であって、自らの自律的な判断に基づいた愛国心とは縁がない。

 「国体の本義」の〈「教育ニ関スル勅語」に「天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼(助け守ること)スヘシ」と仰せられてあるが、これは臣民各々が、皇祖皇宗の御遺訓を紹述し給ふ天皇に奉仕し、大和心を奉戴(ほうたい―恭しく戴く)し、よくその道を行ずるところに実現せられる。これによつて君民体を一にして無窮に生成発展し、皇位は弥々栄え給ふのである。まことに天壌無窮の宝祚 (ほうそ―天子の位)は我が国体の根本であつて、これを肇国の初に当つて永久に確定し給うたのが天壌無窮の神勅である。〉云々と、天皇の位は国体の根本であるからとの理由付けで天皇への奉仕と天皇と国民との一体を求めている下りも、天皇への奉仕を通じた天皇と国民の一体が皇室繁栄の礎であることの説諭となっていて、「教育ニ関スル勅語」の本質がここに示されている。

 安倍晋三や稲田朋美が「教育ニ関スル勅語」に描かれている優れた道徳観は現代の道徳教育にも利用できると発言しているが、天皇への奉仕を目的とした道徳観であることは上記一節で明らかとなる。

 かくこのように安倍晋三が感動的な歴史認識としている特攻隊員が体していたとする「愛国心」一筋の敵艦体当たりなるものは天皇と国家から洗脳された精神的産物に過ぎない愛国心に塗りつぶされた行動であって、例えヒロポンの錠剤を飲まないままに特攻出撃に向かったとしても、洗脳された愛国心を頼みにしていたとなると、物悲しさだけを催すことになる。

 ましてや覚醒剤のヒロポンに頼った愛国心の発露となると、桜が散るように命の散り際が潔いとされている特攻隊員像はたちまち虚像化する。

 このような特攻隊員の愛国心の本質とその行動を可能にし、拠り所としていた糧が何であるかに気づかず、特攻隊員の行動を「愛国心」の発露とのみ決めつけることができる感動的な歴史認識は戦争の美化そのものと歴史の改ざんに当たり、恐ろしいばかりで、ガセネタのみとして排斥することはできない。

 安倍晋三が戦前の戦争を侵略戦争と認めず、国家存亡を賭けた自衛の戦争としている歴史の美化に繋がる一端が以上の特攻隊論からも見えてくる。

コメント (1)
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