だが、ネットで調べてみると、イギリスのワクチン接種率は1回目終了が86%を超え、2回目終了が64%を超えているが、ここにきて感染が急拡大し、2021年7月19日時点の新規感染者数は31800人、7日間平均で30040人となっている。その理由はインド型の変異株だと言うが、何よりもワクチン接種が進んだことによる社会活動の活発化、つまり人流の大幅な増加にあるとされている。
日本もインド型の変異株が拡大し続けると、「1回接種した方の割合が人口の4割に達した」としても当てにはならなくなる。菅義偉は情報把握をしっかりとして、安易な希望的観測となるような情報の垂れ流しはやめるべきである。責任問題である。〉と書いた。
2021年7月17日のTwitterに、〈菅義偉、記者会見、その他で「ワクチンを1回接種した方の割合が人口の4割に達した辺りから感染者の減少傾向が明確になったとの指摘もあります」。イギリスはワクチン接種が1回目も2回目も人口の5割を超えているが、感染者が増え続けている。何を根拠の菅義偉発言なのか。ただの希望的観測なのか。)と投稿した。何を根拠の「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」なのか、ずっと気になっていたが、2021年7月17日付「asahi.com」記事が「ネタ元」を紹介していた。
最近の菅総理の記者会見では打ち切り間際に女性首相秘書官が「ただ今挙手頂いております皆様におかれましては、恐縮でございますが、1問をメールでお送りいただきたいと思います。後日、回答を総理より書面にてお返しさせて頂くと共にホームページで公開させていただきます。どうぞ御理解と御協力をよろしくお願いいたします」と知らせる。そこで朝日新聞が〈「該当する国やどのような方がどのような分析をして『4割』が導き出されたのか」と質問。書面での回答は、野村総研がまとめた「ワクチン接種先行国における接種率と感染状況から見た今後の日本の見通し」をその根拠に挙げ、「イスラエルやイギリス、アメリカにおける接種率(人口比)と新規感染者数の推移を比べたうえで、1回目接種率が4割前後に達したあたりから、新規感染者数の減少傾向が明確になり始めたと指摘されている」〉と説明してあったという。
さらに記事は野村総研のこのリポートは5~6月に纏めたもので、〈菅義偉は2021年7月3日に首相公邸で梅屋真一郎・野村総研制度戦略研究室長と面会し、リポートの内容についての説明を受けている。〉と解説を加えている。
要するに菅義偉は野村総研のリポートを根拠に「1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」と看做して、「今月末(=7月末)には、希望する高齢者の2回の接種は完了し、1度でも接種した人の数は全国民の4割に達する見通し」だと2021年7月8日の記者会見で述べた。と言うことは首相公邸で梅屋真一郎・野村総研制度戦略研究室長と面会した2021年7月3日の時点から記者会見の7月8日までのいつかの時点で7月末には日本は「感染者の減少傾向」に入るという見通しを立てたことになる。見通しを立てたときには喜び勇んだに違いない。首相夫人とハグして、「大丈夫だ、大丈夫だ。首相としてやっていける」と自信の言葉を漏らしたということもある。
朝日のこの記事を読んだとき、Twitterに〈#菅義偉、自分に都合のいい情報は検証せずに言いなりに信用し、都合の悪い情報は内容に妥当性があっても、退けるタイプの自己都合主義者なのだろう。貧すれば鈍するほど、平衡感覚を失って、そういったタイプに陥りやすくなる。〉と投稿した。
で、7月末を迎えて、菅義偉のこの見通しはど真ん中のどストライク、見事に当たった。東京都は2021年6月21日から7月11日まで「まん延防止等重点措置」を発出していたが、7月12日から8月22日までとする「緊急事態宣言」に切り替えることになった。増減はあったものの、7月10日前後に800人、900人と、千人に迫る感染者を出す日も出てきたからだ。やはり増減はあったものの、7月半ばになると感染者は千人を超え、7月20日を過ぎると、2千人を超え、3千人を超え、7月31日は4058人という最多の新規感染者を出すことになった。7月30日の記者会見では、7月12日から8月22日期限の第4回「緊急事態宣言」を8月31日まで延長すると発表しなければならなくなった。とてものこと、「7月末1回接種人口比4割=感染者の減少傾向開始」どころではない感染爆発と言ってもいい最悪の事態を迎えることになった。本当に首相としてやっていけるのだろうか。
菅義偉のこの見通しの見当違いは野村総研のリポート自体が見通しを誤っていたのか、あるいは誤っていなかったが、菅義偉の感染収束の願望が強過ぎて、リポートの情報を自分に都合よくツマミ食いして自身の願望通りの情報に仕立ててしまったのか、上記朝日記事の案内でネットから探し出し、目を通してみた。
「ワクチン接種先行国における接種率と感染状況から見た今後の日本の見通し」(2021年5月 株式会社野村総合研究所 未来創発センター戦略企画室 制度戦略研究室)(一部抜粋) 〈概要 新型コロナワクチンの接種が先行して行われたイスラエルやイギリス、アメリカでのワクチン接種率 (人口比) と新規感染者数の推移を比べると、 以下のような大まかな傾向が見て取れた。 ① 様々な行動制限策も相まって、 ワクチン接種が始まってから1 回目接種率が2割前後に届くまでの間に新規感染者数が減少へと転じ始めた。 ②1回目接種率が4割前後に達したあたりから、新規感染者数の減少傾向が明確になり始めた。 ③必要回数(主に2回)の接種率が4割前後に近づくにつれ、新規感染者数の抑制・低減傾向が強まった。 仮に感染の広がり方などに今後も大きな変化がなく、上記①~③の傾向が日本でも当てはまり、5月 27 日から3 週間後に日本で1日最大100万回の接種が達成できるとした場合、日本が「1回目ワクチン接種率4割」に達する日を試算すると8月20日、「必要回数(2回)ワクチン接種率4割」に達する日は最短で9月9日という結果となった。なお、このケースにおいて、東京オリンピックの開会式が行われる7月23日時点での1回目ワクチン接種率を試算すると、29.2%という結果となる。 また、1日の最大接種回数が80万回となった場合には、日本が「1回目ワクチン接種率4割」に達する日は9月10日、「必要回数(2回)ワクチン接種率4割」に達する日は最短で10月1日になると試算される。 一方で、日本でも感染拡大が懸念されるインド変異株については、特に1回のワクチン接種時での有効性が低下するという指摘もあり、今回の試算の目安となる状況が担保されるには、特にワクチンの2回接種が相応の比率に進捗するまで、変異株のまん延を回避することが重要になってくる。〉 |
先ず3カ国の人口比ワクチン接種率の進行状況に応じた感染減少傾向との関係を3項目に分けて挙げ、解説しているが、項目自体にも解説にも様々な条件が付けられていることに気づく。読み取ることができた感染減少傾向はあくまでも「大まかな傾向」であること。「様々な行動制限策」がそれなりの成果を上げていること。例えば人流抑制策、あるいは移動自粛要請策であるなら、それらが一定程度効果を見せていること。さらに「感染の広がり方などに今後も大きな変化」がないこと、①~③の3項目の「傾向が日本でも当てはま」ること、「5月 27 日から3 週間後に日本で1日最大100万回の接種が達成できる」ことなど、1日のワクチン接種回数が重要な要素となること。特にインド変異株が「1回のワクチン接種時での有効性が低下するという指摘」を踏まえて、「ワクチンの2回接種が相応の比率に進捗するまで、変異株のまん延を回避する」ことが「今回の試算」で示した「目安」、そう、あくまでも「目安」を担保する条件だと、最後の最後に肝心な条件を付けている。
このインド変異株ついて相応の比率での2回接種の必要性に関しては別のところでより具体的に述べている。
-ワクチン接種が進むまで変異株のまん延回避などが重要に- また、英イングランド公衆衛生庁が5月22日に公表したところによれば、ファイザー/ビオンテック社のワクチンの有症状疾患(symptomaticdisease)に対する有効性は、イギリス株(B.1.1.7)が1回接種後3週間でおよそ50%、2回接種後2週間で93%なのに対し、インド株(B.1.617.2)では1回接種後3週間で33%、2回接種後2週間で88%となっており、特に1回接種のみでの有効性がイギリス株に比べて低下しているとみられる。 このため、より感染力の強いインド株などといった新たな変異株の広がりが懸念されるなかで、今回の試算の目安となる状況が担保されるには、特にワクチンの2回接種が相応の比率に進捗するまで、変異株のまん延を回避することが極めて重要になってくる。 |
要するにインド変異株に対してワクチンの有効性を保ち、その感染の社会的な広がりを防ぐためには2回接種が相応の比率で進捗していなければならないと条件づけている。
東京都の新規感染者数とインド株の割合を、載っていない日もあるが、「NHK NEWS WEB」記事から抜粋してみる。文飾当方。
2021年7月6日東京都新規感染者593人中インド株(=デルタ株)最多の94人。(検査の実施件数に占めるインド株の割合はまだ示されていない。)
2021年7月7日新規感染者920人中インド株最多71人。
2021年7月8日新規感染者896人中インド株最多98人
2021年7月9日新規感染者822人中インド株最多167人
2021年7月12日新規感染者502人(第4回目緊急事態宣言2021年7月12日~8月22日発出)中インド株87人)
2021年7月13日新規感染者830人中インド株最多178人
2021年7月14日新規感染者1149人中インド株138人
2021年7月15日新規感染者1308人中インド株177人感染(検査の実施件数に占める割合は29.9%)
(要するに新規感染者1308人のうち約30%の390人前後がインド株感染者と看做すことができる。)
2021年7月19日新規感染者727人中インド株143人感染(検査実施件数に占める陽性割合34.5%。1日の発表としてはこれまでで最高)
2021年7月20日新規感染者1387人中インド株過去最多317人感染認(検査数に占める陽性割合は40.1%)
2021年7月21日新規感染者1832人中インド株最多681人感染(検査数1488件中681人陽性、陽性割合45.8%)
2021年7月26日新規感染者1429人中インド株940人(検査数1810件。陽性割合51.9%)
2021年7月27日新規感染者2848人中インド型株280人(検査数557件。陽性割合50.3%)
2021年7月29日新規感染者3865人中インド株665人(検査数は1058件、陽性割合62.9%)
2021年7月30日新規感染者3300人(第4回東京都緊急事態宣言を8月22日~8月31日まで延長決定)中インド株1367人(陽性率68.7%)(以上)
かくこのようにインド株の急激かつ広範囲な浸透に対して日本のワクチン接種率は2021年7月31日付「NHK NEWS WEB」によると、65歳以上高齢者に〈医療従事者や64歳以下の人も含めると、1回目の接種を受けた人の割合は2021年7月29日時点で全人口の38.43%、2回目の接種も終えた人は27.64%。〉と伝えていて、1回目も2回目も4割に到達していない。特に2回目は人口比3分の1以下の状況にある。
菅義偉は7月30日の記者会見で東京都の感染拡大の「大きな要因として指摘されるのが、変異株の中でも世界的に猛威を振るっているデルタ株です。4月の感染拡大の要因となったアルファ株よりも1.5倍ほど感染力が高く、東京では感染者に占める割合は7割を超えている、このように言われております」と発言していて、デルタ株の脅威を認識していながら、野村リポートが「ワクチンの2回接種が相応の比率に進捗するまで、変異株のまん延を回避する」ことが「今回の試算」で示した「目安」を担保する条件だとしているのに対して東京都のインド株の陽性率は7月30日時点で68.7%にまで達していて、変異株のまん延を回避できてきているとは到底言い難い。
要するに野村リポートの制約条件をクリアしているわけでないのに菅義偉は2021年7月8日の記者会見で「先行してワクチン接種が進められた国々では、ワクチンを1回接種した方の割合が人口の4割に達した辺りから感染者の減少傾向が明確になったとの指摘もあります。今のペースで進めば、今月(7月)末には、希望する高齢者の2回の接種は完了し、1度でも接種した人の数は全国民の4割に達する見通しであります」と、日本も7月末には感染者の減少傾向に入るかのようにさも請けけ合った。
この前後の関係は自分に都合よくツマミ食いした情報の公表によって成り立つ。野村リポートの制約条件をクリアしているかどうか厳格に検証していたなら、野村リポートをツマミ食いして自分に都合のよい情報に仕立てることなどできない。だが、ツマミ食いして、自分に都合のよい情報に仕立てた。都合のよい情報に仕立てる目的は自己政策の肯定であり、自己正当化である。都合のよい情報に仕立てることまでして自己正当化・自己政策の肯定を謀るのは自身のコロナ対策が首尾よく進んでいるかのように見せかけるためであり、首相としての自己を肯定するため以外にない。そのための自分に都合のよい情報のツマミ食い=情報操作であり、そうである以上、責任回避意識が仕向けた情報のツマミ食い=情報操作ということになる。
自分に都合よくツマミ食いした情報の発信であることは埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府への緊急事態宣言発出と北海道、石川県、京都府、兵庫県、福岡県へのまん延防止等重点措置の実施、東京都、沖縄県への期限8月22日までだった緊急事態宣言を8月31日まで延長する決定を伝える2021年7月30日の菅義偉の「記者会見」発言が証明することになる。
菅義偉「8月下旬には、2回の接種を終えた方の割合が全ての国民の4割を超えるよう取り組み、新たな日常を取り戻すよう全力を尽くしてまいります。さらに、ワクチンに関する正しい情報の発信に努めてまいります」
「7月下旬末」を「8月下旬」に言い変えているが、情報を自分に都合よくツマミ食いした結果迫られることになった情報修正であろう。「2回の接種を終えた方の割合が全ての国民の4割を超えるよう取り組む」と言っていることは希望する医療従事者や65歳上高齢者に全員接種しても、特に50代以下から12歳までの国民への接種が各年代ごと4割を超えないと、感染縮小に向かわないという意味での、やはり情報修正ということになる。若者は若者、中高年は中高年、高齢者は高齢者と言う関係で主として群れを作ることを主な社会習性としている。高齢者へのワクチン接種が進んで新規感染者の減少を迎えているが、一方で20代を最高に50代までの世代で大幅な感染が生じていることが証明しているワクチン接種の世代の偏りであろう。
当然、7月30日の記者会見で65歳以上高齢者へのワクチン接種が2回接種73パーセントと進んで、同じ高齢者の新規感染者数が「4月までの20パーセント台から、今では2パーセント台に低下している」ことを成果の一つとして挙げていても、このことが全体の新規感染をカバーするまでに至らず、東京都で言えば、緊急事態宣言を延長するまでに事態が急迫している以上、単なる一部分の成果にとどまる。だが、菅義偉は65歳以上高齢者の新規感染数の激減を以ってさも大した成果であるかのように他の記者会見やその他でも触りの主な一つとしている。これなども情報の立派なツマミ食いの部類であって、感染対策が首尾よく進まないことの責任回避と同時に自己正当化を図る一つのテクニックに過ぎない。
感染の多い少ないは人流の増減に深く影響する。勿論、コロナ株の感染力の強弱が新規感染数に影響していくが、極端なことを言うと、デルタ株(=インド株)がいくら感染力が強くても、人流のないところでは感染という作用は起きない。基本はあくまでも人流であろう。人流が多ければ、感染リスクが高まり、少なければ、感染リスクが減る。東京都の新規感染者数の増加を受けて、夏休みとお盆の時期だから不要不急の外出や移動の自粛その他をお願いするのは人流の増減が新規感染者の増減に影響していくことになるから当然のことだが、その一方で7月30日の記者会見で、「オリンピックが始まっても、交通規制やテレワーク、さらには皆さんの御協力によって東京の歓楽街の人流は減少傾向にあります。更に人流を減らすことができるよう、今後も御自宅でテレビなどを通じて声援を送っていただくことをお願いいたします」と人流が減少傾向にありながら、感染が拡大しているという矛盾した状況を伝えている。
2021年7月29日の首相官邸エントランスホールでの「記者会見」でも、東京オリンピック開催が人々の警戒心を緩めているとの指摘があることを問われて、同じ趣旨の発言をしている。
菅義偉「色々な人が色々な御意見を言っていることは承知してます。ただ、このオリンピック大会を契機に、目指して、例えば自動車の規制だとか、あるいはテレワークだとか、こうしたことを行っていることによって、7月の中旬から始めていますけれども、人流は減少傾向にあり、更に人流の減少傾向を加速させるために、このオリンピックというのは、皆さん御自宅で観戦していただいて、御協力いただければと思っています」
要するに五輪の自宅観戦が人流の減少傾向に一枚加わるという意味を取るが、新型コロナ対策経済再生担当相の西村康稔も2021年7月30日の衆院議院運営委員会でほぼ同じことを言っている。「五輪を自宅で観戦して頂いた分、20日以降人流が減っている」、あるいは「多くの人が自宅で観戦している。視聴率が高いのはその表れだ」
東京都知事の小池百合子も7月30日の定例会見で、「五輪の視聴率は20%を超えており、ステイホームに一役買っている」と間接的に自宅観戦が人流の抑制に役立っている発言をしている。
視聴率計測器が取り付けてあるテレビは全国で5900世帯で、東京都は600世帯数前後とネットに出ているが、社会的行動心理学上、政府の自宅感染の呼びかけに対して視聴率計測器が取り付けられているという義務感から自宅観戦を心がける可能性は高いと考えられるから、そのまま五輪テレビ放送の視聴率へと反映されることになり、その義務感のない視聴率計測器が取り付けてない世帯とのギャップが生じない保証はないし、視聴率には反映されない録画視聴が特に若者を中心に広がっているということを考えると、録画視聴は外出行動と自宅観戦という相反する行動を時間差で行うことができるから、自宅観戦=人流の減少を答えとするとは必ずしも言えなくなる。また若者が競技場の近くで競技の雰囲気を身近に感じながら、スマホの動画放送を視聴、路上飲みする光景も容易に想像できるから、五輪放送の視聴率が高いことを以って即、人流の減少と考えるのは自分に都合よくツマミ食いした情報の発信で、正確な情報の読み違えに繋がらないとも限らない。
そもそもからして菅義偉は自身が「7月の中旬から人流は減少傾向にある」と発言しているその状況下で東京都の感染が急拡大している原因をデルタ株の浸透だけに置いてもいいのだろうか。2021年7月14日に新規感染者が千人を超え、2021年7月19日に一旦千人を割ったものの、翌日の2021年7月20日には再び千人を超え、2021年7月28日には3千人を超え、この記者会見の2021年7月29日には3865人にまで達している。そして7月30日の記者会見の日は新規感染者数は少し減って3300人。
この3300人について前で触れているように7月30日の記者会見では、勿論、大きな要因をデルタ株に置き、「アルファ株よりも1.5倍ほどの感染力」だと発言し、結果、「東京では感染者に占める割合は7割を超えている」状況にあるなら、「1.5倍ほど感染力」に見合った、今まで以上の人流の抑制が必要になるとするのが常識的な危機管理となるはずだし、そのような危機管理を満足に機能させることができていないから、3千人を超え、7月31日の過去最多の4058人の新規感染者という見方が成り立つ。だが、菅義偉はこの見方には立たず、あくまでも「人流は減少傾向にある」を主張して譲らない。
記者との質疑応答でも、「オリンピックでありますけれども、今、東京への交通規制、首都高の1,000円の引上げ、こうしたことや、あるいは東京湾への貨物船の入港を抑制するだとか、いろいろな対応、テレワークもそうでありますけれども、そうした対応によって人流が減少しているということは事実であると思います」と言い、デルタ株の感染力の強さや新規感染者数との関係で人流の程度を捉えることはしない。
となると、人流の程度に関しては菅義偉は自分に都合よく情報をツマミ食いしているわけでも何でもなく、「人流が減少しているということは事実」であり、この「事実」をデルタ株の「アルファ株よりも1.5倍ほど」の「感染力」が無効にしてしまって、東京の現在の爆発的な新規感染状況を生じせしめているという関係を取ることになる。
果たしてデルタ株の1.5倍程の「感染力」に見合う人流の抑制が五輪のテレビ観戦という呼びかけだけで実現できているのだろうか。2021年年7月28日に開催された「45回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」(厚労省)の、「資料3-4 西田先生提出資料」に次のような記述がある。東京都のみを取り上げる。
〈(主要繁華街の滞留人口モニタリング/ 2021/07/24 までのデータ)
【東京】<緊急事態宣言中>:
• 夜間滞留人口は4週連続で減少(5週前(6/20-26)比:22.4 % 減)。昼間滞留人口も3週連続で減少(4週前(6/27-7/3)
比:17.1 % 減)。
• 緊急事態宣言後の直近2週間では、夜間滞留人口は18.9 % 減(前週比:6.5 % 減)、昼間滞留人口は 13.7 % 減(前週比:
6.7 % 減)。夜間滞留人口のうち18~20時は 20.0 % 減(前週比:3.9 % 減)、22~24時は 12.7 % 減(前週比:5.5%減)。
• 前回(3回目)の宣言発出後2週間では、18~20時は 47.3 %減 、22~24時は 48.5 %減少。今回の宣言による夜間滞留人口の減少幅は、前回の宣言によるそれと比べ ½ 以下にとどまっている。ハイリスクな深夜帯(22~24時)の滞留人口は4週連続で減少してはいるものの減少幅は小さく依然として高い水準。〉――
先ず東京都の緊急事態宣言とまん延防止法等重点措置の動きについて見ておく。3回目緊急事態宣言発出は2021年4月25日発出、2度の延長を経て、6月20日に解除、翌6月21日から7月11日期限でまん延防止法等重点措置に移行、7月11日解除の翌日7月12日に8月22日期限の4回目の緊急事態宣言が発出され、7月30日に8月31日までの延長が決められた。
3回目緊急事態宣言発出後2週間(2021年4月25日~5月8日)での18~20時の滞留人口は 47.3 %減 、22~24時の滞留人口は48.5%減少。但し7月12日の4回目の緊急事態宣言を受けた「夜間滞留人口の減少幅は、前回の宣言によるそれと比べ ½ 以下にとどまっている。ハイリスクな深夜帯(22~24時)の滞留人口は4週連続で減少してはいるものの減少幅は小さく依然として高い水準」
7月中旬前後から東京都に於けるデルタ株が感染者に占める割合を増加させている中で7月12日発出の4回目の緊急事態宣言がデルタ株の1.5倍程の「感染力」に見合う人流の抑制に繋がっていないことになる。少々の人流減少でデルタ株の感染力に太刀打ちできると言うなら、少々で構わないが、そうでないことを2021年7月25日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。東京の人出のみを拾ってみる。
4回目の緊急事態宣言(2021年7月12日発出)が出ている東京の7月24日の人出を3回目の宣言の期間だった4月25日から6月20日までの土日、祝日の平均と比較。
▽渋谷スクランブル交差点付近では日中(午前6時から午後6時まで)は48%、夜間(午後6時から翌日の午前0時まで)は62%ぞれぞれ増加
▽東京駅付近では日中は7%増加、夜間は18%増加しました。
オリンピック開始(2021年7月23日)の1週間前(7月16日)との比較
▽渋谷スクランブル交差点付近では日中が1%の減少、夜間は11%の増加
▽東京駅付近では日中は13%の減少、夜間は7%の増加となり、いずれも夜間が増加(以上)
2021年7月23日オリンピック開始1週間前(7月16日)は日中は減少しているものの夜間は増加。だが、東京の7月20日の新規感染者は千人を超え、さらに拡大傾向を見せているのだから、人出は減少を見せていいはずだが、オリンピック開始翌日の7月24日の人出は4月25日から6月20日までの土日、祝日の平均との比較で、特に渋谷スクランブル交差点付近では昼夜共に相当に増加していることになる。菅義偉が言うとおりに五輪開始前後から「人流は減少傾向」にあるとしても、東京の7月に入ってからの新規感染者数の増加に応じた、あるいは2021年7月12日の4回目緊急事態宣言発出に応じた人流の減少は起きていなかった。特にデルタ株のアルファ株と比較した1.5倍程の感染力の強さを考慮した場合、相当程度の人流の減少を図らなければならないのだが、それが実現できていなかった。
となると、東京都の新規感染者の爆発的拡大とデルタ株の従来株と置き換わりつつある状況を示す60%を超えるデルタ株の陽性割合を前にして「人流は減少傾向にある」と言うだけでは都合のよい情報のツマミ食い以外の何ものでもなく、緊急事態宣言やまん延防止法等重点措置の発出の正当性を損ないたくないための責任回避と自己正当化と指摘されても仕方がない。
五輪の自宅観戦についてもう少し見てみる。同じく2021年7月30日の記者会見・
フジテレビ杉山記者「菅総理は、これまで緊急事態宣言で大きな成果を上げてきたのが酒類の停止だとおっしゃってきました。一方で、東京都内で数1,000件に上る飲食店が時短などの要請に応じていない現状をどのように受け止めているのでしょうか。
また、菅総理は、先日、東京オリンピックを中止しない理由として、人流も減っていると述べましたが、その認識は今も変わりないでしょうか。ワクチン接種も進み、人流が減っているのであれば、首都圏でここまで感染が急拡大することはないのではないかという指摘もありますが、見解をお聞かせください」
菅義偉「飲食店による感染リスクを減少させることは感染の肝だということを、私は申し上げています。このことは、専門家の委員の皆様からもそこが指摘をされているということも事実です。そして、今は家庭での感染が一番多くなっています。それは、そうした外から感染して、家族にうつす方が一番多いということです。さらに、職場での感染が2番目になっています。そうしたことからしても、やはりここはしっかり対応しなければならないというふうに思います」
どう、「しっかり対応」しているのだろう。「飲食店による感染リスクを減少させることは感染の肝」で、「外から感染して、家族にうつす方が一番多い」。となると、飲食店に向かう人流を抑える以外にない。また、新規感染者の3分の1程度ある感染経路判明者は市中感染と見るべきで、これも人流の抑制をしっかりと実行する以外に抑える手はない。当然、数字ではっきりと示すことができる程に人流の抑制を図らなければならないはずだが、菅義偉の「人流が減少しているということは事実であると思います」と推測する、あるいは西村康稔や小池百合子のように五輪視聴率の高さを以って人流減少の根拠とする程度では自己正当化には役立ちはするだろうが、情報を自分に都合よくツマミ食いして発信する程度のことしか責任を果たしていないことになる。
もう一つ、自分に都合よくツマミ食いした情報の発信。2021年7月30日の記者会見で菅義偉は「足元の感染者の状況を見ますと、既に高齢者の73パーセントが2回の接種を完了する中で、これまでの感染拡大期とは明らかに異なる特徴が見られております。東京における65歳以上の新規感染者の数は、感染が急拡大する中にあっても、本日も82人にとどまり、その割合は4月までの20パーセント台から、今では2パーセント台に低下しております。これに伴い、重症者の数の増加にも一定の抑制が見られて、東京では人工呼吸器が必要な重症者の数は、1月と比較しても半分程度にとどまり、そのための病床の利用率も2割程度に抑えられております。また、死亡者の数も1月の水準と比較し、大幅に低い水準にとどまっています」と発言、このことを以って「ワクチン接種の効果の顕著な表れ」だとしている。
この発言で問題となるのは「重症者の数の増加に一定の抑制が見られる」と言っていることと、「東京では人工呼吸器が必要な重症者の数は、1月と比較しても半分程度にとどまり、そのための病床の利用率も2割程度に抑えられております」と言っていることである。要するに重症患者が減った。だが、2021年7月31日付け「毎日新聞」を見ると違った景色が見えてくることになる。
毎日新聞のインタビューに国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長が答えた内容である。
大曲貴夫国際感染症センター長「東京都の重症者は80人以上で推移している。ほかにも高濃度の酸素を必要とする人は多い。この1年半、治療法が変化し、人工呼吸器ではなく鼻から酸素を送り込む『ネーザルハイフロー』という呼吸療法を使うケースが増えた。これを使う人は、重症者にカウントされないが、酸素が足りずに身動きもとれない状況にある。重症者と同じように苦しんでいる人が、重症者の何倍も存在する。1年前と同じ感覚で重症者数だけを見て、『少ない』と言うのは状況の過小評価になる」
要するに症状が同じ重症状態にありながら、治療法が口から酸素を取る人工呼吸器から鼻から酸素を取る「ネーザルハイフロー」という機器に変わって治療を受ける場合、「重症者にカウントされない」、「重症者と同じように苦しんでいる人が、重症者の何倍も存在する」。
2021年7月28日付「NHK NEWS WEB」記事も「ネーザルハイフロー」について触れている。
〈この治療は人工呼吸器ではないため、東京都の基準では重症には含まれませんが、症状が重い患者が対象で、周囲への感染対策を徹底したなかで治療を行う必要があることなどから、医療スタッフの負担は大きいということです。
都内では27日時点で重症患者の数は82人でしたが、今村顕史部長(厚生労働省の専門家会合のメンバーで、東京都立駒込病院で治療に当たる感染症科部長)によりますと、この治療を受けている患者は先週の段階で合わせて91人に上ったということです。〉
今村顕史部長「重症患者とされていなくても、非常に重い肺炎の人が多くいる。今後、さらに毎日2000人、3000人の新規感染者数が続くと入院患者が積み上がり医療提供体制が圧迫される。デルタ株が広がっていることで感染がすぐには収まらない可能性もあり、ここを乗り越えることができるかどうか、重要な局面になっている」
要するに菅義偉は「重症者の数の増加に一定の抑制が見られる」としているが、実際には中等症扱いとなっている隠れ重傷者が相当数存在するということになる。尤も単なる治療法の違いであって、確実な治癒が保証されるなら、何も問題はないが、政府の側が首相の菅義偉を筆頭に隠れ重傷者が相当数存在している情報を無視して、「ワクチン接種が進んで重症患者が減った、減った」と自らの成果を誇れば誇る程、コロナ感染症に対して一般的に希薄と言われる若者の危機感を一層希薄にして、ワクチン接種への意欲を持たせるのとは逆の必要性を感じなくさせる状況を作り出すことになっていないかという危惧が生じることになる。
もしそうであるなら、「ワクチン接種が進んで重症患者が減った、減った」との成果誇示にしても自分に都合よくツマミ食いした情報の発信に分類しなければならない。重症患者並みの中等症患者が相当数存在していながら、「重症患者が減った、減った」は菅義偉自身が意図していなくても、結果的に自らの責任回避と自己正当化を果たすことになる成果誇示となる。