> 全体を通して仙谷官房長官が簡潔とは正反対のくどくどしたあれやこれやの言葉を費やして行ったことは、那覇地検が7分だか5分だかの短いテープを提出したことが間違っていないことの弁解の一大展開に過ぎない。
本来ならば、そのような提出の相当性が正しいか否かの主張は地検側が行うべき事柄であって、官房長官が代って行い得ないことを代って、「相当性の判断をして、出したんだろうと思います」と推測までしてやって、提出の正当性を訴えてやっている。
この「だろうと思います」、あるいは。「これ全部推測ですよ」といった推測で提出の正当性を成り立たせている点で、言ってみれば、地検の身の潔白を、潔白かどうかも分からない事実を代って晴らそうとしている点で既に論理の破綻を生じせしめている。
そうしなければならないということは政府が指示、もしくは要請して件のテープを提出させた以外の理由を考えることはできない。要請した通りの内容のテープであるかどうか確認するために、国会に提出したテープであるにも関わらず、国会に先んじて官房長官と首相が見なければならなかった。
見た結果は、官房長官は27日午後の記者会見で述べている。《「逮捕となる事実分かる」=仙谷官房長官-尖閣衝突ビデオ》(時事ドットコム/2010/10/27-16:46)
仙谷官房長官「(中国人船長の)逮捕状請求、拘留の決め手となる事実が分かるビデオだ」
ここに誤魔化しがある。なぜなら国会のビデオ提出要請はビデオによって検察が処分保留のまま釈放した時点で政治介入があったかどうかの証明を果たすことを目的としているのであって、「逮捕状請求、拘留の決め手となる事実が分かる」証明のためではないからだ。
いくら「逮捕状請求、拘留の決め手となる事実が分か」ったとしても、そのことによって政治介入があったかどうかの判定はできない。
すべてのテープの提出ではなく、一つの短いテープの提出を正しい、相当性あることだと偽装することによって、テープの内容自体の正しさ、相当性に代えて、尚且つその正しさ、相当性を以ってその閲覧のみで逆に那覇地検の事件処理の正しさ、相当性の証明に再度代えようとする意図を働かせた結果の「逮捕状請求、拘留の決め手となる事実が分かるビデオだ」としているのだろうが、逆にそのことが「逮捕状請求、拘留の決め手となる事実が分」からせる「ビデオ」のみの提出を指示したことを証明することになる。
本来なら、「政治介入がなかったことを証明する事実が分かるビデオだ」としなかればならないところを、そのことに役立たないビデオであるところから、政治介入のプロセスを省略する、あるいは抹消する必要上「逮捕状請求、拘留の決め手となる事実が分かるビデオだ」としなければならなかった。
那覇地方検察庁の鈴木亨次席検事が9月24日、船長を処分保留のまま釈放することにした午後の記者会見での発言を見てみる。
鈴木亨次席検事「衝突された巡視船の損傷の程度が航行ができなくなるほどではなく、けが人も出ていない。船長は一船員であり、衝突に計画性が認められない」
鈴木亨次席検事「わが国の国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上、船長の身柄の拘束を継続して捜査を継続することは相当でないと判断した」
国会のビデオ提出要請はビデオによって政治介入の有無の証明を果たすことを目的としているはずだと書いた。当然、地検側はそこに政治介入がなかったことの事実と、国内法に則って粛々と事件の最初から最後まで処理したこと、特に中国人船長の処分保留のままの釈放を行った、上記記者会見で説明した地検自身の判断の相当性を提出したテープによって証明しなければならない義務と責任を負うことになる。
また政府も政治介入を行っていないことの証明のために那覇地検が提出したビデオで証明しなければならない義務と責任を負うはずだ。
くどいようだが、決して、「逮捕状請求、拘留の決め手となる事実」を「分か」らせる証明のためではない。
それを7分だか5分だかのたった1本の短いテープで行おうとしている。本来なら、すべてのテープを提出することによって、計画性がなかっという判断の相当性だけではなく、悪質性がなかったことの判断の相当性と、処分保留のまま釈放した理由として「わが国の国民への影響や今後の日中関係を考慮」した判断の相当性の当否を証明する材料とし得るはずだが、いわば検察としての身の潔白を晴らすことができる材料とし得るはずだが、それを7分だか5分だかのたった1本の短い、「逮捕状請求、拘留の決め手となる事実が分かる」だけのテープで果たそうとしていること自体に無理があるだけではなく、矛盾がある。
また国会が検察に提出を要請したテープを国権の最高機関である国会が閲覧する前に官房長官と菅首相が閲覧したことを、提出を「拒否するときはですね、出せません。拒否するときは、内閣が声明を要求する段取りになってますよね。104条というのは、2項、3項。と言うことは内閣の責任も、この提出をするということについては、内閣の責任もあるということですね」と正当化しているが、那覇地検が国内法に粛々と則って単独、独自の判断で逮捕から釈放に至るまで関わった事案であり、内閣は何ら関与していなかった、政治介入していなかった事案であるなら、検察の事件処理とテープの内容自体に関しは内閣の責任は生じないことになる。例え中国を刺激する場面があったとしても、例えば船長は中国に戻ってから道徳的規範の持主として表彰されたそうだが、それを裏切る内容が含まれていたとしても、出発点が国内法に則って粛々ということなら、あくまでも国内法の範囲内で最初から最後まで処理する問題となるのだから、内閣の責任云々するのは矛盾することになる。
例え中国を刺激する内容を含んでいたとしても、西田議員が言うように「先ず国会が見てですよ、国会が見た上で、その官房長官、おっしゃるように、外交的配慮をしなければならないかもしれない」という段取りを取れば済んだはずだ。
またビデオを国会に先んじて見るにしても、責任問題の観点から見る必要はなく、単なる外交問題への影響の観点からのみ見れば済む。要望書をつけるにしても、国会の判断を待つべきであろう。
それを内閣の責任を云々し、慎重な取扱いを要請する要望書を提出しなければならなかったのは、そこに内閣の責任の関与を置くことで二重三重に7分だか5分だかの提出ビデオの提出の相当性と提出したビデオの内容そのものの相当性を担保する必要上からのこじつけしか考えることができない。そうすることによって検察も政府も政治介入の罪に関して無罪だとする論理の展開が可能となる。
このことは仙谷官房長官の「あの、テープを改竄するとか何とか、テープをどのようにするとか何とか、一切、我々は触っておりません。那覇地検があくまでも、相当と認める範囲で国会に送ってきたと、いうことであります」という言葉が証明している。
事実ビデオ自体を改竄する恣意、意図を働かせなかったとしても、数あるビデオの中で7分だか5分のビデオの一つを選択をして衆議院に送ったこと自体が、その選択に検察側の何らかの恣意、あるいは意図が働いたことになるだから、国会のビデオ提出要請はビデオによって政治介入の有無の証明である以上、数あるうちから短い一つを選択したその恣意、意図は政治介入を否定する恣意、意図を働かせた選択と見なければならない。
恣意、意図を一切働かせる必要がなかったなら、すべてのビデオを提出しただろう。
当然、送らなかったビデオについても、送らなかったことについての恣意、意図を働かせた選択となる。これも国会のビデオ提出要請が政治介入の有無の判断にあることからの送らなかった選択と見なければならない。
その結果、「逮捕状請求、拘留の決め手となる事実が分かるビデオ」に絞ったということである。
その政治介入とは中国を刺激することを恐れた措置としての介入なのは誰でも想像つくことであるが、仙谷官房長官は弁護士出身らしく物的証拠を徹底的に隠すことで政治介入の疑いを疑いのみにとどめる強い意志を、菅内閣が吹っ飛ぶ恐れがあるのだから当然でもあるが、強い意志で働かせてはいるものの、非事実を事実と企もうとする余り、検察に代って検察の正当性を証明しようとするくどくどとした回りくどい弁解の一大展開となったといったところに違いない。
多分、ビデオのすべてを公開した場合、「衝突された巡視船の損傷の程度が航行ができなくなるほどではなく、けが人も出ていない。船長は一船員であり、衝突に計画性が認められない」の釈放理由の内、「計画性」を除いて否定され、逆に悪質性の証明と、「わが国の国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上、船長の身柄の拘束を継続して捜査を継続することは相当でないと判断した」のみが正当な理由となって残り、そこから政治介入が浮かび上がって国内法に則って粛々として対応したとする釈放そのものが破綻を来たすことになり、そのことを恐れたことからの「逮捕状請求、拘留の決め手となる事実が分かるビデオ」ということなのだろう。
結局はビデオのすべてを見ないことには政治介入は証明できなくても、仙谷官房長官の西田議員の質問に対する答弁は限りなく政治介入のクロを証言していると見ざるを得ない。
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