安倍晋三のケチ臭い度量から発した放送法「政治的に公平」の「補充的説明」を騙った報道自主規制の罠

2023-03-29 06:06:06 | 政治
 当方もごく度量の小さな人間であり、偉そうな口を叩く資格のない人間ではあるが、安倍晋三はある意味天下人である。関わる世界は広く、偉そうな口を叩く資格を有しているにも関わらず、ケチ臭い度量という逆説は普段叩いていた偉そうな口を骨抜きにする。

 2023年3月3日参院予算委で立憲参議院議員小西洋之は総務省職員からリークされた2014年11月26日作成の総務省行政文書に基づいて2015年5月12日の参議院総務委員会での総務大臣高市早苗の、いわゆる「一つの番組でも極端に偏っていた場合には政治的に公平とは認められない場合がある」とする答弁を放送法第4条第2号の「政治的に公平」は「一つの番組で判断するのではなく、テレビ局の番組全体で判断する」としていた従来からの政府統一見解の解釈変更に当たり、官邸側の政治的圧力によってなされていたことを示す文書内容となっているとの趣旨で政府を追及。政府側は解釈変更を否定、従来の政府解釈を補充的に説明したに過ぎないの姿勢を示すと同時に行政文書自体の信憑性の精査に取り掛かった。

 「公文書等の管理に関する法律 第2章行政文書の管理 第1節文書の作成 第4条」は、〈行政機関の職員は、第1条の目的(「国民共有の知的資源としての管理・保存の義務」のこと)の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。〉と規定している。今回明らかになった総務省行政文書は"意思決定に至る過程"を事実あったこととして記録した文書を職位の段階ごとに承認を受けて最終的に総務大臣が了承、保存された経緯を取るはずで、その信憑性を確認・精査すること自体が事実なかったことを記録・保存し、承認した疑いを持つ矛盾行為となる。つまり事実あったことの記録・保存を前提としない限り、行政文書そのものの存在が成り立たなくなる。参考のために内閣府のページから次の画像を載せておく。
 行政文書としての実態を備えていることを当たり前のこととすると、当時は国家安全保障担当で、放送行政に専門外の安倍補佐官礒崎陽輔がテレビ局の政治報道番組が放送放第4条各号の規定を超えている疑いを持ち出して総務省放送政策課側と総務省行政文書に記述の2014年11月26日から参議院総務委員会で自民党議員と当時総務大臣の高市早苗が放送法第4条について質疑応答を行う2015年5月12 日までの約5ヶ月半も話し合いを持つ理由はどこにあったのだろうか。

 事実、解釈変更は行われなかったのか、国会で答弁しているように補充的な説明を行っただけなのか。当時総務相高市早苗は「文書は捏造されたもの」と自身の関与を否定、現総務相の松本剛明は2023年3月16日の衆議院総務委員会で、「一つの番組でも極端な場合には一般論として政治的に公平であることを確保しているとは認められないことは昭和39年(1964年)の参議院逓信委員会で政府参考人が答弁している」、「(2015年5月12 日当時の)高市大臣の答弁は、従来の解釈を変更するものとは考えておらず、放送行政を変えたとは認識していない」と発言したことを2023年3月16日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えていて、当該総務省行政文書が官邸からの圧力を受けて解釈変更を画策した経緯を記したものではないことを否定している。

 だが、立憲民主党側は簡単には引き下がらない。政府側との間で当該行政文書を巡って安倍官邸の圧力を受けて放送法第4条が解釈変更されたのか、されなかったのか、さらに高市早苗の「捏造」発言は、「事実なら辞任する」と答弁したことから、その首を取るべく、捏造なのか、でないのかで質疑応答が展開されるに至っている。しかし政府側の言い分が正しかったとしても、当時は国家安全保障担当の安倍補佐官礒崎陽輔が自身の職権とは関係しない放送行政について何らかの意図なくして総務省職員を官邸に呼びつけ、テレビの政治報道を例に取って、放送法の「政治的公平」との関連で疑義申立を行うはずはない。その意図が何であったのか、解釈変更にあったのか、政治報道番組に対する何らかの規制を画策しての立ち回りだったのか、別の目的を胸に秘めていたのか、そのいずれであっても、意図通りの成果を手にすることができたのかどうか、以前ブログで取り上げた一騒動と関連すると見て、自分なりの読み解きで検証してみることにした。先ずは放送法の第4条について。

 放送法(第4条)

 第4条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
 1 公安及び善良な風俗を害しないこと。
 2 政治的に公平であること。
 3 報道は事実をまげないですること。
 4 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 総務省行政文書を点検する前に松本剛明答弁の昭和39年(1964年)4月28日参議院逓信委員会での政府参考人答弁を見ている。総務省行政文書にも関連する個所の質疑が記載されている。放送法は1950年(昭和25年)6月1日からの施行だが、何度か改正されていて、この質疑では「政治的公平」は第4条ではなく、第44条の規定となっている。当時の日本社会党所属参議院議員の横川正市(しょういち)がこの委員会で放送法の「政治的公平」を取り上げる。

 横川正市「この条文上の問題からいうと、放送法の44条の各項にわたっての解釈をどういうふうに解釈をされているのか。これが立法された当時の速記録でも読むと明確になるんでありますが、それが手元にありませんので、法律に従って業務をとられております局長からお聞きをいたしたいと思いますが、第一は、第2号の『政治的に公平であること』ということはこれは一体どういう内容なのか。それから第2は、『意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること』とあるけれども、これは一体どういう内容なのか。これは主観的なものではなしに、立法の精神からひとつ御説明をいただきたいと思います」

 政府参考人宮川岸雄「ただいまの御質問の御趣旨はこの44条第3項のことだと思うのでございまするが、『政治的に公平であること』及び『意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から』云々ということの御質問だと思いますが、前段にございます『協会は、国内放送の放送番組の編集に当っては、左の各号の定めるところによらなければならない』と、こういうふうになっておりまして、前段後段、全部含めましての考え方でなければならないかと思います。したがいまして、御質問の御趣旨と若干あるいは取り違っているかもしれませんけれども、この書いてございます3項の全体の問題につきましては、電波監理の事務当局といたしましては、協会が放送を行なう場合におきましての放送番組の編集でございますので、ある期間全体を貫く放送番組の編集の考え方のあらわれ、そういうようなものの中におきまして、それが政治的に非常に片寄った意見が常に一方的に相当長期間にわたって出る、あるいは意見の対立している問題について、片方からだけの角度からその論点を常に取り上げて、片方だけの意見を常に言っているというようなことが出てきた場合におきまして、この第3項というものの法律に違反することになってくる、こういうような考え方をとっているのでございます

 政府参考人宮川岸雄のこの答弁個所が総務相松本剛明が2023年3月16日衆議院総務委員会で、「一つの番組でも極端な場合には一般論として政治的に公平であることを確保しているとは認められないことは昭和39年(1964年)の参議院逓信委員会で政府参考人が答弁している」と説明した個所に当たる。

 この質疑について総務省行政文書にも断り書きがしてあるように横川正市は池田勇人が各テレビ局の各番組を20時から20時15分の15分間を中断させて、公労協の使用者側の立場から自らの談話を放送した事実を取り上げている。ネットで調べてみると、1964年春闘で総評等の労働組合が4月17日に大幅賃上げ、最低賃金確立、労働時間短縮等の各要求を掲げて国鉄幹線全列車対象を含めた全国規模のストライキ(ゼネスト)を計画したが、日本共産党がスト反対運動を展開、総評と対立したものの、スト決行の前日、当時の首相池田勇人と総評議長と事務局長が会談、話し合いの末に決着、ゼネストは中止された。但し計画決行2日前の4月15日、池田勇人が公労協の使用者側の立場から自らの談話を放送した。TBSの場合は野球実況中継の最中だったと言う。

 横川正市はこのことを「放送法のタテマエ」からして「遺憾な放送ではなかったか」と発言しているが、池田勇人が各局のテレビ番組を同時刻一定時間止めて首相談話を一方的に放送させた事態を、言葉に出して説明してはいないが、その"一方性"が時と場合によっては全体主義的な国家権力の恣意的行使に発展しうる危惧を感じて、放送法第44条各号で縛りをかける必要性を感じたのかもしれない。ここから約50年半を経た2014年11月に入ってから、安倍政権が政府批判を繰り広げるテレビ局の政治報道番組に現放送法第4条各号で縛りをかける必要性を感じることになり、安倍補佐官礒崎陽輔が総務省放送政策課に対して自分たちが望む方向への縛りを可能とする解釈の仕方(=根拠づけ)を求めることになったのだろう。違いは前者が野党の立場から政治権力側に顔を向けた要求であるのに対して後者は政治権力側が野党に味方していると見ている新聞・テレビ等のマスメディアに顔を向けた要求となっているという点である。しかし政治権力は国民から監視を受ける立場にある以上、国民に代わって監視の役目を引き受けているマスメディアの批判を引き受けるそれ相当の度量を持たなければならないが、安倍晋三にはその覚悟がなく、度量がケチくさいときているから、マスメディアを押さえつけ、満足したい欲求に駆られることになったといったところか。

 以下、総務省公表の行政文書、〈「政治的公平」に関する放送法の解釈について〉(磯崎補佐官関連) (総務省/2014(平成26年)11月26日)から主要部分を拾っていく。読みやすいように発言者名は○に変えてあるところは名前を記入し、段落を開けたり、文飾を施したり、事実関係を時系列で表してある箇所の最初のみで以下略してある年号を書き入れたりした。

 先ず総務省が行政文書として纏めるに至った安倍補佐官礒崎陽輔と総務省放送政策課との最初の関わりとなる2014年11月26日と引き続いての関わりとなる2014年11月28日の経緯を見てみる。

 平成26年11月26日(水)

磯崎総理補佐官付から放送政策課に電話で連絡。内容は以下の通り。
・ 放送法に規定する「政治的公平」について局長からレクしてほしい。
・ コメンテーター全員が同じ主張の番組(TBS サンデーモーニング)は偏っているのではないかという問題意識を補佐官はお持ちで、「政治的公平」の解釈や運用、違反事例を説明してほしい。

11月28日(金):磯崎補佐官レク
磯崎補佐官から、「政治的公平」のこれまで積み上げてきた解釈をおかしいというものではないが、①番組を全体で見るときの基準が不明確ではないか、②1つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか、という点について検討するよう指示。

 要するに安倍補佐官礒崎陽輔の全体的意向としてはテレビの報道番組の政権批判は放送法の第4条の「これまで積み上げてきた解釈」では満足な規制はできないから、1つの番組を取り上げるだけで規制できる解釈の仕方はないかと総務省に持ちかけてきたということになる。

 【配布先】桜井総審、福岡官房長、今林括審、局長、審議官、総務課長、地上放送課長 ← 放送政策課 (取扱厳重注意)

礒崎総理補佐官ご説明結果(概要)
 日時 平成26年11月28日(金) 13:15~13:40
 場所 官邸(礒崎総理補佐官室)
 先方 礒崎補佐官(○)、山口補佐官付
 当方 安藤情報流通行政局長、長塩放送政策課長、西がた(記)

 ◆経緯◆

 11月26日(水)、礒崎補佐官室から、放送法に規定する「政治的公平」について局長からの説明をお願いする旨の連絡があり、ご説明に上ったもの。補佐官のご発言の概要は以下のとおり。礒崎補佐官は11月23日(日)のTBSのサンデーモーニングに問題意識があり、同番組放送後からツイッターで関連の発言を多数投稿。

 礒崎陽輔)今すぐ何かアクションを起こせというわけではない。放送の自律、BPOが政治的公平についても扱っていること等は理解。これまで国会答弁を含めて長年にわたり積み上げてきた放送法の解釈をおかしいというつもりもない。他方、この解釈が全ての場合を言い尽くしているかというとそうでもないのではないか、というのが自分の問題意識。

 礒崎陽輔)聞きたいことは2つある。まず1つ目だが、1つの番組では見ない、全体で見るというが、全体で見るときの基準が不明確ではないかということ。「全体でみる」「総合的に見る」というのが総務省の答弁となっているが、これは逃げるための理屈になっているのではないか。そこは逃げてはいけないのではないか。

 礒崎陽輔)(確かに様々な事例、事案があるので、「基準」を作れとは言わないが)総務省としての考え方を整理して教えて欲しい。

 礒崎陽輔)もう一つは、一つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないかということ。今までの運用を頭から否定するつもりはないが、昭和39年の国会答弁にもあるとおり、絶対おかしい番組、極端な事例というのがあるのではないか。これについても考えて欲しい。有権解釈権は総務省にあるのだから、放送法の解釈としてもう少し説明できるようにしないといけないのではないか。

 礒崎陽輔)今は政府側の立場なので質問できないが、いずれ国会で質問したい。予算委員会でもいい。もちろん、事前によく摺り合わせてからやりたい。けんかになるから具体論はやらない。あくまで一般論ベースでやりたい。1つの番組で明らかに(政治的公平の観点から)おかしい、と判断できる極端な場合はどういうものか。

 また、これまでの「番組全体でみる」「総合的に判断する」とある「総合的」とはどういうものなのか。これまでの解釈を改めろと言っているのではなく、もう少し説明を加えてくれという話であり、これを国会の場で質したい。

 礒崎陽輔)言いたいことは以上。2~3日の内にとは言わないので、選挙後にでも考えを聞かせて欲しい。(以上)
      

 安倍補佐官礒崎陽輔は「これまで国会答弁を含めて長年にわたり積み上げてきた放送法の解釈をおかしいというつもりもない。他方、この解釈が全ての場合を言い尽くしているかというとそうでもないのではないか、というのが自分の問題意識」と指摘している"放送法解釈"に向けた不足感自体がマスコミ報道を規制したい欲求の現れそのものを示しているが、あくまでも憲法が保障している言論の自由、報道の自由に触れない方法での(「基準」を作れとは言わないが」、「けんかになるから具体論はやらない」の言葉に現れている)規制を意志していることが見て取れる。そして「いずれ国会で質問したい」の発言は対マスコミ報道規制の線に添って質問して、その線に添った政府答弁を以ってして放送法に関わる政府の公式見解としたいとする意図を読み取ることができる。

 【配布先】桜井総審、福岡官房長、今林括審、局長、審議官、総務課長、地上放送課長 ← 放送政策課
                            (取扱厳重注意)

            礒崎総理補佐官ご説明結果(2R概要)

日時 平成26年12月18日(木) 16:20~16:45
場所 官邸(礒崎総理補佐官室)
先方 礒崎補佐官(○)、山口補佐官付
当方 安藤情報流通行政局長(×)、長塩放送政策課長、西がた(記)

前回ご説明(11月28日(金)午後)の際の礒崎補佐官から指摘を踏まえ、別添の資料に沿って安藤局長から再度ご説明。主なやりとりは以下のとおり。

 礒崎陽輔)放送番組の「政治的公平」について、「番組全体を見て判断する」ことは理解するが、これまでの答弁はそこで止まっている。番組全体でどうなっていればいいのか、ポジに答えてほしい。また、番組全体でのバランスの説明責任はどこにあるのか。「番組全体でどうバランスを取っているのか問われれば、放送事業者が責任を持って答えるべきものと考えます」というような答弁はできないものか。

 礒崎陽輔)後段の問について一つの番組において政治的公平を欠く極端な事例というのは論理的にはあるはず。例えばコメンテーターが「明日は自民党に投票しましょう」と言っても総務省は「番組全体で見て判断する」と言うのか。反対する考え方には一切触れず一党一派にのみ偏る番組といった極端な事例について、もう少し考えてみてほしい。

(注)補佐官から、「番組の中で一党の党首が語るのは問題ないが、最近の番組は『番組(のコメンテーター)が語っている』からおかしい」との言あり。

 安藤情報流通行政局長)ご趣旨を踏まえ、答え方を工夫してみます。

 礒崎陽輔)政治的公平に係る放送法の解釈について年明けに(補佐官から)総理にご説明しようと考えている。流れとしては、

 ① 現行の解釈(番組全体を見て判断)があり、その中で、
 ② 番組全体のバランスとしてどういうものが求められているのか、また、
③一つの番組として政治的公平を欠く極端な事例とはどういうものなのか、という論点を整理するものをイメージしている。

 (安藤情報流通行政局長から具体的な進め方について確認したところ)

 礒崎陽輔)もちろん、官邸(補佐官)からの問合せということで、(多分変わらないだろうから)高市大臣にも話を上げてもらって構わない。こちら(官邸)で作るペーパーとそちら(総務省)で作るペーパーの平仄を合わせる作業を進めてほしい。こちらの資料も高市大臣にお見せしてもらって構わないし、こちらのペーパーを埋めるための回答ぶりについても早急に検討してほしい。政治プロセスは来年に入ってからだが、ペーパー自体は年内に整理したい。

 安藤情報流通行政局長)一定の整理が出来た段階で、官邸(補佐官)からの問合せということでそのペーパーで返したいと高市大臣に説明した上で政治プロセスに入る形でお願いしたい。

 礒崎陽輔)それは構わない。迷惑はかけないようにする。(以上)

 政府側が(=総務省が代表して)「番組全体を見て判断する」ことを規準としている「政治的公平」の説明責任(説明の義務)を第一義的には放送事業者に負わせたい意図を滲ませている。放送事業者が負った場合、特に民放の場合、スポンサーから受ける利益を優先させなければならない立場上、責任を問われてスポンサーを失う最悪事態の回避を前以って優先させると、政府批判を抑えたい衝動が否応もなしに頭をもたげ、結果的に言いたいことを控える萎縮を契機とする自主規制効果が期待できる欲求からの安倍補佐官礒崎陽輔の要望と見ることができる。このことは政府批判のコメンテーターをある種目の敵にしていることからも窺うことができる。

 対して総務省側は「ご趣旨を踏まえ、答え方を工夫してみます」と安倍補佐官礒崎陽輔の意図、欲求、要望に応える姿勢を見せている。いわば政府批判のテレビ報道を規制したい安倍官邸側の意向に総務省放送制作課が応じて、「(官邸)で作るペーパーとそちら(総務省)で作るペーパーの平仄を合わせる作業を進め」ることとなった。日本国憲法が保障する思想、言論、表現の自由を侵害しない範囲内での規制の画策であることは既に触れたが、この画策は「こちらの資料も高市大臣にお見せしてもらって構わない」としている安倍補佐官礒崎陽輔の話し振りと、安藤情報流通行政局長の「一定の整理が出来た段階で、官邸(補佐官)からの問合せということでそのペーパーで返したいと高市大臣に説明した上で政治プロセスに入る形でお願いしたい」の発言からして高市早苗に一定程度は既に話を通してあるか、でなければ、高市早苗をのちに加える画策であることが分かる。ここで言う「政治プロセス」とは国会質疑での政府答弁を以って政府の公式見解とすることを指している。

 そして安倍補佐官礒崎陽輔が「政治プロセスは来年に入ってからだが、ペーパー自体は年内に整理したい」と言っているように実際にもこの総務省行政文書作成の起点となった2014年11月26日から"来年"に当たる2015年5月12日の参議院総務委員会で、自民党参議院議員麻生派藤川政人(現在62歳)と当時の総務大臣高市早苗との質疑によって完成を見ることとなり、スケジュール通りに事は運んでいる。大臣の答弁が所管省庁職員のレク(説明)を受け、打合せした上で職員が作成、大臣が委員の質問に応えて読み上げる手順を考えると、安倍補佐官礒崎陽輔と総務省放送政策課職員との間の画策に高市早苗が無関係とすることはできない。2015年2月13日付で、「高市大臣レク(状況説明)」、2月17日付で、「磯崎補佐官レク(高市大臣レク結果の報告)」との文言を見受けることができる。 

 このことの証明の前に安倍補佐官礒崎がテレビの報道番組の政権批判を規制できるよう、放送法第4条を自らが望みうる適用に持っていくべく総務省放送政策課に指示するに至った元となった誘因を見てみることにするが、その前に2014年から2015年にかけての政治状況をざっと眺めてみることにする。礒崎陽輔が専門外の放送行政に首を突っ込んでまでしてマスコミの政府批判を抑えつけようとしたのはなぜかは、先ずは総務省の政務三役がその任に当たったなら、報道圧力があまりにも直接的な姿を取りやすくなるからだろう。

 2014年9月3日の第2次安倍内閣改造から1ヵ月半後の2014年10月20日、経産相小渕優子が政治団体の不透明な資金処理を巡って、法相松島みどりが選挙区内での「うちわ」配布問題で刑事告発を受けて、W辞任するに至った。女性の活躍を得意げに看板とし、その象徴として第2次では山谷えり子を国家公安委員会委員長と拉致問題担当とし、有村治子を女性活躍担当、高市早苗を総務大臣にと併せて5人も並べたものの、内2人が見当違いの活躍で辞任し、その後の世論調査で内閣支持率が9ポイントも下げるケースもあり、2015年10月1日からの消費税8%から10%への増税に対する逆風も生半可ではなく、増税反対の声、延期の声が高まっていた。安倍晋三の掛け声とは裏腹にアベノミクスが効果らしい効果を上げることができていなかった景気状況の煽りでもあった。安倍晋三は2014年11月18日に記者会見を開き、3日後の解散を予告した。

 安倍晋三「今週21日に衆議院を解散いたします。消費税の引き上げを18カ月延期すべきであるということ、そして平成29年4月には確実に10%へ消費税を引き上げるということについて、そして、私たちが進めてきた経済政策、成長戦略をさらに前に進めていくべきかどうかについて、国民の皆様の判断を仰ぎたいと思います」

 衆議院議員任期の半分、約2年を残しての解散予告だった。上に挙げた芳しからざる諸事情を受けた支持率低下を消費税増税延期で票を釣り上げる目論見に加えて、翌年春に地方統一選挙を控えていることから国政選挙に於ける与野党の勝敗の行方が地方選にそのまま影響する関係上、全地方議員の約半数を占める自民党地方議員が自分事として熱心に選挙応援せざるを得ない時の利をも作り出し、さらに野党が選挙準備ができていない状況を狙って早期解散に打って出たとされている。

 安倍晋三はこういった目論見を頭に置いてのことだろう、2014年11月18日のこの記者会見終了後に夜のTBSテレビ「NEWS23」に生出演した。一度、当ブログに取り上げているが、番組では約2年間のアベノミクスの成果を紹介する一環として景気の実感を街行く人にインタビューし、街の声として伝えた。

 男性(30代?)「誰が儲かってるんですかねえ。株価とか、色々上がってますからねえ。僕は全然恩恵受けていないですね。給料上がったのかなあ、上がっていないですよ(半ば捨鉢な笑い声を立てる)」
 男性(3、40代?)「仕事量が増えているから、給料が、その分、残業代が増えているぐらいで、何か景気が良くなったとは思わないですねえ」
 男性(4、50代?)「今のまんまではねえ、景気も悪いですし。解散総選挙して、また出直し?民意を問うて、やればよろしいじゃないですか」
 男性(5、60代?)「株価も上がってきたりとか、そういうこともありますし、そんなに、そんなにと言うか、効果がなかったわけではなく、効果はあったと思う」
 30代後半と見える女性二人連れの1「全然アベノミクスは感じていない」
 30代後半と見える女性二人連れの2(子供を抱いている)「株価は上がった、株価は上がったと言うけど、大企業しか分からへんちゃうの?」

 株価の上昇を通してある程度の効果を認めている1人以外は景気の実感はないとアベノミクスを切り捨てている。対するアベノミクスご本人の安倍晋三の反応。

 安倍晋三(ニコニコ笑いながら)「これはですね、街の声ですから、皆さん選んいると思いますよ。もしかしたら。だって、国民総所得というのがありますね。我々が政権を取る前は40兆円減少しているんですよ。我々が政権を取ってからプラスになっています。マクロでは明らかにプラスになっています。ミクロで見ていけば、色んな方がおられますが、中小企業の方々とかですね、小規模事業者の方々が名前を出して、テレビで儲かっていますと答えるのですね、相当勇気がいるのです。

 納入先にですね、間違いなく、どこに行っても、納入先にもですね、それだったら(儲かっているなら)、もっと安くさせて貰いますよと言われるのは当たり前ですから。しかし事実6割の企業が賃上げしているんですから、全然、声、反映されていませんから。これ、おかしいじゃないですか。

 それとですね、株価が上がれば、これはまさに皆さんの年金の運用は、株式市場でも運用されていますから、20兆円プラスになっています。民主党政権時代は殆ど上がっていませんよ。

 そういうふうに於いても、しっかりとマクロで経済を成長させ、株価が上がっていくということはですね、これは間違いなく国民生活にとってプラスになっています。資産効果によってですね、消費が喚起されるのはこれは統計学的に極めて重視されていくわけです。

 倒産件数はですね、24年間で最も低い水準にあるんですよ。これもちゃんと示して頂きたいと思いますし、あるいは海外からの旅行者、去年1千万人、これは円安効果。今年は1千300万人です。で、日本から海外に出ていく人たちが使うおカネ、海外から日本に入ってくる人たちが使うおカネ、旅行収支と言うんですが、長い間日本は3兆円の赤字です。ずっと3兆円の赤字です。これが黒字になりました。

 (司会の岸井成格が口を挟もうとするが、口を挟ませずに)黒字になったのはいつだったと思います?大阪万博です。1970年の大阪万博です、1回、あん時になりました。あれ以来ずっとマイナスだったんです。これも大きな結果なんですね。ですから、そういうところをちゃんと見て頂きたい。ただ、まだデフレマインドがあるのは事実ですから、デフレマインドを払拭するというのはですね――」

 要するに中小企業も小規模事業者も儲かっているが、儲かっていることが知れたら、製品単価が値切られてしまうから、テレビで尋ねられても、街の声として出てこない、実際にはアベノミクスは絶大な効果を上げているのだから、これはおかしいじゃないかと牽強付会もいいとこだが、アベノミクスの不人気などで選挙に負ける訳にはいかない切迫感からテレビ番組による意図的な情報操作の疑いをかけた。

 大体が国民総所得増加に加えて株価上昇と年金の運用の関係、倒産件数の減少等々のアベノミクス経済成果を政府、企業、家計全体を捉えたマクロ経済成長の証明に持ってこようと、一般家計を取り残したアベノミクスマクロ経済成長であることに目を向ける国民向けの誠実さを欠いていたなら、経済成長の中身は事実その通りに偏っていたのだから、結果的に情報操作への疑いだけが頭の中に肥大化していくことになる。マスコミの悪意ある情報操作だと頭から信じ込むことによってアベノミクスは唯一正しい経済政策としての地位を確保し続け、自分は岸信介の血を引く偉大な政治家だという自らに対する自尊意識が維持可能となる。安倍晋三からアベノミクスを取ったら、自らの存在意義を失ってしまう。アベノミクスの失敗に気づかされずにあの世に召されたのだから、ある意味、幸せ者だった。3日後の2014年11月21日の夕方7時から再び記者会見を開いて衆議院解散を告げた。

 安倍晋三「本日、衆議院を解散いたしました。この解散は、『アベノミクス解散』であります。アベノミクスを前に進めるのか、それとも止めてしまうのか。それを問う選挙であります。連日、野党は、アベノミクスは失敗した、批判ばかりを繰り返しています。私は、今回の選挙戦を通じて、私たちの経済政策が間違っているのか、正しいのか、本当に他に選択肢はあるのか、国民の皆様に伺いたいと思います。・・・・」
 
 当然と言えば当然だが、アベノミクスに寄せているこの強い拘りはアベノミクスは間違っていない、正しい経済政策であるとの思い込みをベースとしている。人間は自分は正しいという強い信念に立つと、ときとして正しくないと批判したり攻撃する対象に否応もなしに敵意を持つことになる。特に安倍晋三みたいな自分は偉大で間違いはないと思い込んでいるような自己愛性パーソナリティ障害が強度の人間は敵意の感情に走りやすく、強い症状を見せることになる。野党のアベノミクス失敗の批判は安倍晋三の敵意を刺激したに違いない。「悪夢の民主党」という民主党政権を全否定できる言葉(アベノミクスを全肯定する言葉となる)をたやすく口にできることが一つの証明となる。当然、マスメディアのアベノミクスに効果なしの報道に向けた敵意は野党よりも情報発信媒体としての影響力が格段に強力な分、情報操作の疑いを確信にまで高めていった可能性は強い。

 このことはTBSテレビ「NEWS23」生出演2014年11月18日からたった2日後の2014年11月20日付で在京テレビキー局の編成局長、報道局長宛てに「自由民主党筆頭副幹事長萩生田光一/報道局長福井照」の差出人連名で送りつけた要望書がその証明となる。要望書題名は「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」《安倍自民党がテレビ各局に文書で圧力》リテラ/2014.11.27)から)文飾は当方。

〈さて、ご承知の通り、衆議院は明21日に解散され、総選挙が12月2日、14日投開票の予定で挙行される見通しとなっています。
 つきましては公平中立、公正を旨とする報道各社の皆様にこちらからあらためて申し上げるのも不遜とは存じますが、これからの期間におきましては、さらに一層の公平中立、公正な報道にご留意いただきたくお願い申し上げます。〉

 具体的には次の項目を求めている。

 ・出演者の発言回数及び時間等については公平を期していただきたいこと
 ・ゲスト出演者の選定についても公平中立、公正を期していただきたいこと
 ・テーマについて特定の立場から特定政党出演者への意見の集中がないよう、公平中立、公正を期していただきたいこと
 ・街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的立場が強調されることのないよう、公平中立、公正を期していただきたいこと〉――

 明らかに安倍晋三がTBSテレビ「NEWS23」の生出演で疑うことになった情報操作が疑いを超えてテレビ局の"情報操作"そのものと確信するに至った、そのことを念頭に置いた数々の要求と見ることができる。疑いだけなら、こうも事細かな要求はできないだろう。そして各要求は放送法第4条各号の自分たちに望ましい運用求める内容そのものとなっている。

 2015年4月10日付「毎日新聞」はこの要望書送付2014年11月20日の6日後の2014年11月26日にテレビ朝日の「報道ステーション」プロデュサー宛に対しても同様の内容の要望書を自民党衆院議員福井照報道局長名で送付していたと報じている。

 〈同月(11月)24日放送の「報道ステーション」について「アベノミクスの効果が、大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく、特定の富裕層のライフスタイルを強調して紹介する内容」だと批判。「意見が対立している問題は、できるだけ多くの角度から論点を明らかにしなければならないとされている放送法4条4号の規定に照らし、特殊な事例をいたずらに強調した編集及び解説は十分な意を尽くしているとは言えない」として「公平中立な番組作成に取り組むよう、特段の配慮を」求めている。〉――

 この要請も放送法第4条各号の観点からの内容となっている。但しあくまでも安倍政権側から見た観点であって、アベノミクスの効果を感じ取っていない一般国民の観点からしたら、アベノミクス批判の報道は放送法第4条各号には関係しないと見るだろう。2023年3月14日付「東京新聞」はアベノミクス指南役で米エール大学名誉教授浜田宏一にオンラインのインタビューを行い、大企業の収益改善が従業員の賃金に回って、それを上昇させていくトリクルダウンがアベノミクスでは機能せず、「賃金がほとんど増えないで、雇用だけが増えることに対して、もう少し早く疑問を持つべきだった。望ましくない方向にいっている」との証言を、今さらという感じもあるが、引き出している。要するにマスコミ報道のアベノミクス批判は情報操作でも何でもなく、事実そのものの批判であって、放送法第4条とは関係しないこととしなければならならなかった。

 以上取り上げた各事実を時系列に纏めてみる

1.2014年11月18日のTBSテレビ「NEWS23」に生出演し、番組の「街の声」の取り扱いに対して情報操作の疑いを向ける。
2.2014年11月20日、在京テレビキー局の編成局長、報道局長宛てに報道の公平中立並びに公正を求める要望書を送付する。
3.2014年11月26日にテレビ朝日の「報道ステーション」プロデュサー宛に2014年11月24日放送のアベノミクスに関わる批判を一方的とし、放送法4条4号の規定に公平中立な放送を求める要望書を送付。
4.2014年11月26日、安倍補佐官礒崎陽輔が総務省放送政策課に対して政治報道番組の(あくまでも政権側から見た)偏向に関わる放送法第4条の解釈や解釈に応じた的確な適用、いわゆる政権側にとってのよりよい法適用の検討を指示。

 TBSテレビ「NEWS23」への安倍晋三生出演から安倍補佐官礒崎陽輔の専門外の総務省放送政策課への顔出しまでたった9日間しか経っていない。この短い期間の放送法第4条に関係した政治報道番組への批判的立場からの矢継ぎ早の各関与の直近の主たる発端は2014年11月18日のTBSテレビ「NEWS23」への生出演を措いてほかには考えられない。いわば安倍晋三が動かした安倍補佐官礒崎陽輔の総務省放送政策課を通した放送法第4条を使ったテレビ局政治報道番組への介入意図と見るべきである。要するに礒崎陽輔は親分安倍晋三の言いつけどおりに動いた。

 放送行政に門外漢の安倍補佐官礒崎陽輔が総務省放送政策課の幹部を取り込んでテレビ報道を抑え込もうと画策して得た一応の"結論"を総務相行政文書から取り上げてみる。この"結論"は何回か記載されているが、最後の記載を選択した。

 放送法における政治的公平に係る解釈について(案)

1 現行の政府解釈
放送法における政治的公平性については、昭和39年4月28日の参議院逓信委員会における郵政省電波監理局長答弁以来、次のような解釈を採っている。

○ 放送法第4条第1項第2号の規定により、放送事業者は、その番組の編集に当たり、「政治的に公平であること」が求められている。
○ ここでいう「政治的に公平であること」とは、政治的な問題を取り扱う放送番組の編集に当たっては、「不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく、放送番組全体としてのバランスのとれたものであること」である。
○ その判断に当たっては、一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断することとなる。

2 問題点
これまでの政府解釈には次のような問題点があり、放送の政治的公平を判断する上で、具体的な基準となり得なかった嫌いがある。
① これまで、「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」との答弁に終始し、どのような番組編集にすれば放送事業者の番組全体を見て「政治的に公平である」と判断されるのか、具体的な基準を示してこなかった。
② 同様に、「政治的に公平である」ことの説明責任の所在についても、明確に示してこなかった。
③ 放送事業者の番組全体を見なくても、一つの番組だけを見たときに、どのように考えても「政治的に公平であること」に反する極端な場合が実際にあり得るが、このことについて政府の考え方を示してこなかった。

3 解釈について補充的説明
 今後は、国会質疑等の場で、次の内容に沿って、従来の政府解釈について、補充的説明を行うものとする。
① 例えば、ある時間帯で総理の記者会見のみを放送したとしても、後のニュースの時間に野党党首のそれに対する意見を取り上げている場合のように、国論を二分するような政治的課題について、ある番組で一方の政治的見解のみを取り上げて放送した場合であっても、他の番組で他の政治的見解を取り上げて放送しているような場合は、放送事業者の番組全体として政治的公平を確保しているものと認められる。
② 政治的公平の観点から番組編集の考え方について社会的に問われた場合には、放送事業者において、当該事業者の番組全体として政治的公平を確保していることについて、国民に対して説明する必要がある。
③ 一つの番組のみでも、次のような極端な場合においては、一般論として「政治的に公平であること」を確保しているとは認められない。
・選挙期間中又はそれに近接する期間において、殊更に特定の候補者や候補予定者のみを相当の時間にわたり取り上げる特別番組を放送した場合のように、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすと認められる場合
・国論を二分するような政治的課題について、放送事業者が、一方の政治的見解を取り上げず、殊更に、他の政治的見解のみを取り上げて、それを支持する内容を相当の時間にわたり繰り返す番組を放送した場合のように、当該放送事業者の番組編集が不偏不党の立場から明らかに逸脱していると認められる場合

 この結論が2015年5月12日参議院総務委員会での自民党議員藤川政人と総務相高市早苗との間の質疑応答に反映されていなければ、一応の結論を導き出した意味を失う。このことは総務相行政文書の最初のページに、〈「政治的公平」に関する放送法の解釈について(磯崎補佐官関連)〉とある文書題名に引き続いて「平成26年11月26日(水)」から「平成27年5月12日(火)」までのスケジュールが書き込まれていて、最後の「平成27年5月12日(火)」は〈参・総務委員会 (自)藤川政人議員からの「政治的公平」に関する質問に対し、磯崎補佐官と調整したものに基づいて、高市大臣が答弁。〉と記されていることが証明する。高市早苗の答弁が「磯崎補佐官と調整したもの」であるなら、藤川政人の質問も「磯崎補佐官と調整したもの」ということになる。要するに安倍補佐官礒崎陽輔らの画策の一環としての質疑応答であって、いわば"ヤラセ"であり、国会の場で堂々と行われたこのカラクリを見逃してはならない。

 では、高市早苗と藤川政人の質疑応答を取り上げてみる。

 参議院総務委員会(2015年5月12日)

 藤川政人「おはようございます。 本日は、放送法に定める放送の政治的公平性について議論をさせていただきたいと思います。

 放送法第4条第1項第2号は、放送番組の編集について政治的に公平であることを求めるとともに、同項第4号において、意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること、すなわち、政治的公平性、論点の多角性を求めております。

 放送法はこのように明確に放送の政治的公平性を求めておりますが、それにもかかわらず、最近の放送番組を見てみますと、とても政治的公平性が遵守されているとは言い難いものがたくさん見受けられます。

 総務大臣は、最近の放送を御覧になって、政治的公平性が遵守されているとお考えですか。御意見を伺いたいと思います」

 高市早苗「最近の放送を見てどう思うかということなんですけれども、今、割と忙しくしておりまして、放送番組をじっくりとたくさん見る機会には恵まれておりません。

 ただ、放送番組は放送事業者が自らの責任において編集するものでございまして、放送法は放送事業者による自主自律を基本とする枠組みになっておりますから、個別の放送番組の内容について何か言えということでしたら、なかなかコメントはしづろうございます。

 なお、個別の番組について何か社会的な問題が発生した場合には、まずは放送事業者が自ら調査を行うなど、自主的な取組が行われることとなります。総務省としても、その放送事業者の取組の結果を踏まえて適切に対応するということにしております」

 藤川政人「私は、放送事業者による自主自律を基本とする枠組みはもちろん極めて重要であると考えておりますが、その名の下に放送法が求める政治的公平性が遵守されているとは思えない放送番組が見受けられる現状は問題が多いと考えております。国論を二分するような政治的課題について、一方の意見のみを取り上げて放送している番組も散見されます。

 そこで、政治的公平性について、総務省として従来どのような基準に沿って指導、そして助言をされてきたのでしょうか。総務大臣に伺いたいと思います」

 高市早苗「放送法第4条第1項第2号の規定により、放送事業者は放送番組の編集に当たり政治的に公平であることが求められております。ここで言う政治的に公平であることとは、これまでの国会答弁を通じて、政治的な問題を取り扱う放送番組の編集に当たっては、不偏不党の立場から、特定の政治的見解に偏ることなく番組全体としてのバランスの取れたものであることと解釈をしてきたところであります。その適合性の判断に当たりましては、一つの番組ではなく放送事業者の番組全体を見て判断することとされてきたと聞いております。

 これまで、放送事業者に対して、放送法第4条第1項第2号の政治的に公平であることに違反したとして行政指導が行われた事例はございません」

 藤川政人「そうですね。大臣が今おっしゃられた、従来、放送事業者の番組全体を見て判断するということが政治的公平性の判断基準になっているようです。

 私は、この一つの番組ではなく放送事業者の番組全体を見て判断するということが、放送法の求めている政治的公平性の意味を非常に分かりにくくしているのではないかなということも考えるわけであります。

 平成26年5月13日の総務委員会におきましては、当時の新藤総務大臣は、限られた放送時間等の制約の中で世の中の関心に応える番組を適切に編集していくためには、個々の番組で政治的公平性や論点の多角性を確保することが物理的に困難な場合もあることから、他の時間帯の番組と合わせた番組全体として政治的公平性や論点の多角性を判断する旨述べられているとともに、この原則の下で、個々の放送事業者の自主自律の判断に基づいて、放送時間等の制約が特段ないケースにおいては個々の番組で政治的公平性や論点の多角性を確保しようと努めることは、これは放送法第4条第1項の規定の趣旨に沿うものと述べられておられます。

 そこで、改めて総務大臣に伺いたいと思いますが、一体どのような状態であれば放送事業者の番組全体を見て判断して政治的公平が保たれていることになるのか、具体的に教えていただきたいと思います」

 高市早苗「率直に申し上げまして、藤川委員の問題意識、共有されている方も多いんじゃないかと思いますし、私自身も、総務大臣の職に就きまして、非常にここのところの解釈というのは難しいものだなと感じております。

 例えば、国論を二分するような政治的課題について、ある時間帯で与党党首の記者会見のみを放送したとしても後のニュースの時間に野党党首のそれに対する意見を取り上げている場合のように、ある番組で一方の政治的見解のみを取り上げて放送した場合でも、他の番組で他の政治的見解を取り上げて放送しているような場合は放送事業者の番組全体として政治的公平を確保しているものと認められるとされております」

 藤川政人「では、ある番組について政治的公平性の問題が指摘された場合において、どのように番組全体として政治的公平性や論点の多角性を確保したかについて放送事業者は説明する責任はないのでしょうか。放送事業者の番組全体を見て判断することを基準とするとしても、ただこのことを言いっ放しでは放送事業者に逃げ道を与えるだけでありまして、判断基準として全く役に立たないと考えます。

 過去に、政治的公平性について問題が指摘された番組に関して、この番組だけでは不公平のように見えますが、他のこういう番組できちんと穴埋めをしており、これらと合わせた番組全体として政治的公平性、論点の多角性は確保されているのですと具体的に説明された事例はあるのでしょうか。そのことを放送事業者がきちんと世の中に対して説明しなければこの基準は全く意味がないと考えますが、総務大臣はどのようにお考えになりますか」

 高市早苗「放送法は放送事業者の自主自律を基本とする枠組みとなっており、放送番組は、その下で放送事業者が自らの責任において編集するものであります。政治的公平の観点から番組編集の考え方について社会的に問われた場合には、放送事業者において、政治的公平を確保しているということについて国民に対して説明をする必要があると考えております」

藤川政人「そのことについては総務省としてもきちんと放送事業者を指導していただきたい、これは私からの本当に強い御要望とさせていただきます。

 それから、最近の放送番組を見ておりますと、一番組だけであってもやはり極端に政治的公平性が遵守されていないものがあると考えますが、いかがでしょうか。放送時間等の制約は、およそそうした極端な場合でもその内容を正当化する理由にならないのではないでしょうか。
 
 かつて類似の例があったと思いますが、例えば、選挙直前に特定の候補予定者のみを密着取材して、選挙公示の直前に長時間特別番組で放送する場合があります。こうした場合は、たとえ一番組だけであっても政治的公平に反すると言えるのではないかと考えますが、総務大臣はどのようにお考えですか」

 高市早苗「放送法第4条第1項第2号の政治的に公平であることに関する政府のこれまでの解釈の補充的な説明として申し上げましたら、一つの番組のみでも、選挙期間中又はそれに近接する期間において殊更に特定の候補者や候補予定者のみを相当の時間にわたり取り上げる特別番組を放送した場合のように、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすと認められる場合といった極端な場合におきましては、一般論として政治的に公平であることを確保しているとは認められないと考えます」

 藤川政人「そうですね。また、国論を二分するような政治的課題があるときにも政治的公平性は厳格に維持されなければならないと考えます。

 最近の放送の中には、国論を二分するような政治的課題について、例えば、一方の政治的見解をほとんど紹介しないで他方の政治的見解のみを取り上げ、それを支持する内容を相当時間繰り返して放送しているようなものも見受けられます。このような放送番組は、やはり一番組であったとしても政治的公平性に反すると言えるのではないかと考えますが、総務大臣、いかがですか」

 高市早苗「前問と同じように、政府のこれまでの解釈の補充的な説明として申し上げますが、一つの番組のみでも、国論を二分するような政治課題について、放送事業者が一方の政治的見解を取り上げず、殊更に他の政治的見解のみを取り上げてそれを支持する内容を相当の時間にわたり繰り返す番組を放送した場合のように、当該放送事業者の番組編集が不偏不党の立場から明らかに逸脱していると認められる場合といった極端な場合においては、一般論として政治的に公平であることを確保しているとは認められないものと考えます」

 藤川政人「ありがとうございました。放送番組の政治的公平性については、放送事業者の番組全体を見て判断するということが原則でありますが、やはり極端に政治的公平性を逸脱している場合には一番組だけでも政治的公平に反すると言える場合があるという御答弁をいただいたものと考えます。その点についても放送事業者を十分御指導いただきますようお願いを申し上げ、この質問を終えさせていただきたいと思います」

 藤川政人は、「放送法に定める放送の政治的公平性について」を取り上げ、「放送法第4条第1項第2号は放送番組の編集について・・・・政治的公平性、論点の多角性を求めている」として、このような要求事項に反して「最近の放送番組はとても政治的公平性が遵守されているとは言い難いものがたくさん見受けられる」と示した疑義、あるいは問題意識は安倍補佐官礒崎陽輔が総務省政策課に対して示した疑義、あるいは問題意識、〈「政治的公平」のこれまで積み上げてきた解釈をおかしいというものではないが、①番組を全体で見るときの基準が不明確ではないか②1つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか〉(下線は文中通り)等とそっくり重なって、安倍補佐官礒崎陽輔主導による総務省放送政策課と画策した「調整したもの」を下敷きにし質問であることは明らか過ぎるくらい明らかとなる

 藤川政人が最初に示したこのような疑義、問題意識に対して高市早苗は従来の政府解釈である「政治的に公平であること」は「一つの番組ではなく放送事業者の番組全体を見て判断することとされてきたと聞いております」と先ずは答弁。この答弁に対しても藤川政人は「この一つの番組ではなく放送事業者の番組全体を見て判断するということが、放送法の求めている政治的公平性の意味を非常に分かりにくくしているのではないかなということも考えるわけであります」と疑義を広げ、このことは既に挙げた安倍補佐官礒崎陽輔の、〈①番組を全体で見るときの基準が不明確ではないか②1つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか〉の疑義、問題意識そっくりそのままの踏襲、なぞり以外の何ものでもなく、安倍補佐官礒崎陽輔と調整した質疑応答、"ヤラセ"そのものであることの正体を暴露することになる。

 藤川政人が放送事業者の番組全体から政治的公平を判断する具体例を問うと、高市早苗は「国論を二分するような政治的課題について、ある時間帯で与党党首の記者会見のみを放送したとしても」云々と答弁している具体例にしても、上に挙げた「放送法における政治的公平に係る解釈について(案)」に書いてあることに添うものである。

 安倍補佐官礒崎陽輔のロボットとしての役割を担った藤川政人は礒崎陽輔が最も問題点としていた事柄を追及する。

 藤川政人「最近の放送番組を見ておりますと、一番組だけであってもやはり極端に政治的公平性が遵守されていないものがあると考えますが、いかがでしょうか」

 高市早苗「放送法第4条第1項第2号の政治的に公平であることに関する政府のこれまでの解釈の補充的な説明として申し上げましたら、一つの番組のみでも、選挙期間中又はそれに近接する期間において殊更に特定の候補者や候補予定者のみを相当の時間にわたり取り上げる特別番組を放送した場合のように、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすと認められる場合といった極端な場合におきましては、一般論として政治的に公平であることを確保しているとは認められないと考えます」

 この「補充的な説明」は上に挙げた「(案)」に書き込んである「今後は、国会質疑等の場で、次の内容に沿って、従来の政府解釈について、補充的説明を行うものとする。」と取り決めたルールに則った発言であると同時に、その「③」の〈一つの番組のみでも、次のような極端な場合においては、「政治的公平」を欠き、放送番組準則に抵触することとなる。〉とする具体例として「選挙期間中又はそれに近接する期間において、特定の候補者や候補予定者のみを殊更に取り上げて放送した場合のように、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすと認められる場合」と挙げていることとほぼ同様な文言となっている以上、いわば安倍補佐官礒崎陽輔が主導で画策した総務省行政文書解釈の取決めに案内を受け、その取決めを"ヤラセ"として演じた国会答弁であり、最終的には従犯的な共犯関係を組むことになった高市早苗の、自身も首を突っ込んだ連携プレーの一コマだと認識しなければならない。高市早苗が総務省行政文書中の自身に関わる記述は"捏造"とする説明は自らの折角の経歴の全てを傷つけかねない自身の共犯性を打ち消してなくしたい強い願望が"捏造"とすることによってそれが可能となるからだと疑えないことはない。

 総務省行政文書の中から"捏造"ではないことを証明するより明確な記述をさらに挙げてみる。

 「礒崎総理補佐官ご説明結果<未定稿>」(日時 平成27年1月29日(木)17:10~17:25)
 場所 官邸(礒崎総理補佐官室)☆

 安藤情報流通行政局長)本件の今後の取り運びについて確認させていただきたい。当方としては、本件は政務にも一切上げずに内々に来ており、今回の整理については高市大臣のご了解が必要。その際の話法としては、
 ①サンデーモーニングの件に加えてこれまでも国会で質問されてきた等、補佐官は従前から放送番組の政治的公平にご関心があったこと、
 𖯃今般あらためて本件について整理すべきとの問題意識から補佐官のほうで国会質疑を通じた明確化検討している、
 ③その前提となる考え方の整理について補佐官から照会があり数次やりとりをしてきた、というご説明でよいか。

 礒崎陽輔)問題ない。今回の整理は決して放送法の従来の解釈を変えるものではなく、これまでの解釈を補充するもの。他方、国会での質問としては成り立つ。上手く質問されたら総務省もこう答えざるを得ないという形で整理するもの。あくまでも「一般論」としての整理であり、特定の放送番組を挙げる形でやるつもりはない。

 藤川政人と高市早苗の質疑はかくかように安倍補佐官礒崎陽輔の思惑の範囲内に収まっている。"ヤラセ"なのだから、至極当然で、いわば、〈高市大臣のご了解を得られた。〉礒崎陽輔の思惑のコントロール下にあったことの証明以外の何ものでもない。さらに言うと、各職位の各段階で確認と了承を経て記録・保存されるに至る行政文書という性格上、捏造だとしたら、何らかの利益に基づいた組織ぐるみの意志が働いていなければ、捏造という形は取らせることはできない。森友学園国有地格安売却時の財務省の決裁文書改竄が一定部署の組織ぐるみであったから可能となったようにである。

 以上見てきたように安倍晋三を加えた安倍補佐官礒崎陽輔一派が放送法第4条に関わる政府統一見解に「補充的な説明」を付け加えることになった意図は政治報道番組の政府批判(端的に言うと、アベノミクス批判)を抑えたい欲求――規制したい欲求が発端となっていることを考えるなら、その答・成果は断るまでもなく規制を可能とする地点に持っていこうとするのは当然のことで、安倍補佐官礒崎陽輔が「今回の整理は決して放送法の従来の解釈を変えるものではない」と明言し、結果もそうなっていることからすると、報道の自由に抵触しない範囲内でテレビ報道番組を規制するための新たなアプローチを設けることに目的があった。それが「一つの番組でも極端に偏っていた場合には政治的に公平とは認められない場合がある」とする「補充的な説明」であり、報道機関に対して一種のインプリンティング(刷り込み)の手法を用いた。強権を廃した穏便さは見せてはいるものの、「政治的に公平」かどうかに睨みを利かすのはあくまでも政権側であり、その睨みがテレビ局側に政治的にどのような報道を行うか、いわば下駄を預けさせられた立場に立たせることに繋がって、「政治的に公平」に抵触しないよう、報道内容に控えめの線引きを行わざるを得ない。言ってみれば萎縮という名の自主規制を誘う罠としての働きを持たせることになるだろうから、こういったことに狙いを定めた役割こそが「極端に偏っていた場合には」云々の「補充的な説明」を国会答弁を用いて政府見解とするインプリンティング(刷り込み)に置いた。言ってみれば、「補充的な説明」のインプリンティング(刷り込み)によって安倍政権側は「政治的に公平」かどうかを判断する一種の生殺与奪の権を握ることになった。

 このことは安倍晋三が番組側の情報操作を疑ったTBSテレビ「NEWS23」生出演の2日後の2014年11月20日に自由民主党筆頭副幹事長萩生田光一と報道局長福井照が在京テレビキー局の編成局長、報道局長宛てに公平中立な報道を要請したことと、さらにその6日後の2014年11月26日に報道局長福井照がテレビ朝日の「報道ステーション」プロデュサー宛にも公平中立な報道を要請したことと符合する。あくまでも要請という形を取っているが、報道内容の公平中立性の維持はあくまでもテレビ局側に下駄を預けた形を取るから、公平中立性を前提とした控えめの報道を意識せざるを得なくなり、そう前提とすること自体が表現の自由に関わる生殺与奪の権を自民党という政治権力に一定程度は握らせたことになる。つまり「補充的な説明」は放送法第4条の「政治的に公平」な報道に対しての生殺与奪の権を担保させる"殺し文句"と喩えることもできて、"殺し文句"に政府統一見解という一大権威を与えたのである。

 安倍晋三自身について纏めると、政治権力は国民から常に監視を受ける立場にあり、批判される宿命を負っている。安倍晋三は自らに対する批判を評価に変える努力をすべきをテレビ局の政治報道番組が伝える批判を情報操作で作り上げた批判だと、あるいは放送法第4条の規定に逸脱していると疑い、放送法第4条に「補充的な説明」を加える手捌きで「報道の公平中立ならびに公正の確保」を改めて意識させ、それを自主規制の力とすべく画策した。政治権力者として度量がケチ臭くできていることの結末だろう。だから、死ぬまでアベノミクスは成功したと強弁を振るうことができた。


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