ケイの読書日記

個人が書く書評

角田喜久雄「高木家の惨劇」

2007-12-10 10:59:10 | Weblog
 敗戦後、没落していく名家でおこった当主殺害事件。いわゆる『旧家物』だが、横溝正史のような耽美・退廃的な雰囲気はない。
 戦争に負けて疲弊しきった日本人の生活をむき出しで書いてある。
 トリックやストーリーよりも、そちらの方がよっぽど面白い。

 昭和20年11月の事件という設定で、8月15日の敗戦から3ヶ月後に起こった事件を、加賀美という優秀な刑事が、何度も壁にぶつかりながら解決していく。

 しかし、敗戦から3ヶ月しかたっていないのに、警察ってこんなにキチンと機能していたんだろうか? 監察医や鑑識はとても有能で機材もそろっているなんて。
 だいたい、大多数の警察官はまだ復員していないんじゃないか。


 それ以上に足りないのはタバコである。
 食べるものにさえ事欠く時代に、どうしてそんなにタバコが吸いたいのか理解に苦しむが、加賀美はたえずタバコが無い無いとイライラしている。

 容疑者の一人が自分のタバコを持っているのにもかかわらず、加賀美にタバコをねだり、その上、取調室の灰皿に溜まっているシケモクさえ、袋に入れて持ち帰ってしまうというすごいケチンボなのだ。

 この高木家という家は、江戸時代には大名で明治に入って子爵に列せられたほどの名家だが、よどんだ血がなせる業が、最近は狂人が続き、子爵の位を剥奪されていた。
 殺された当主も、妻や子、弟や妹、使用人を虐待し、殺されても仕方がない男だったが、その実弟がシケモク窃盗犯なのである。
 
 ああ、世が世なればお殿様だったのにねぇ。本人の資質なのか、困窮する時代がそうさせたのかが、よく分からない。


 しかし、旧華族というのに『高木』という名字は合わない様な…。どこから引っ張ってきたのだろう。それが最大のミステリ。
コメント (4)
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