ケイの読書日記

個人が書く書評

角田光代 「巡る」

2016-08-11 09:14:42 | 角田光代
 これも、前回ブログで紹介した『かなたの子』の中の1作品。子どもを育てている母親にとって、身につまされる話になっている。

 〝私”が目覚めると、見知らぬ4人の顔が、私をのぞき込んでいる。どうやら私は、登山の途中で気を失って倒れたらしい。でも、どうしてここにいるのか分からない。そうだ!少し思い出してきた。パワースポット巡りツアーに参加しているんだ。でも、どうして参加したんだろう?

 不安で安定しない書き出しで、この短編は始まる。

 私を含めた5人で、パワースポットとして有名なM山の山頂にあるお寺をめざす。その間、5人は世間話や自分の身の上話を始める。でも、どうもチグハグで奇妙な違和感を覚える。話しながら登っているうちに、だんだん分かってくる。自分を含めたこの5人は、何か取り返しがつかない事をして、許しを乞うためにここにいることに。

 

 私の愛しい娘・なつきは、どこにいるんだろう? なつきのオムツを外そうと苦労していた頃、夫が離婚したいと言ってくる。どうやら、風俗嬢に夢中で、彼女と結婚したいらしい。頭にきて怒鳴り散らしたが、夫の心は戻らず、多額の慰謝料と養育費をもらう条件で離婚。しかし、全く支払われず、幼いなつきをかかえ、私は働きだす。
 仕事は大変だが、なつきのためにと、仕事家事育児をかんばるが、なつきは反抗するばかり。
 せっかく作った料理をわざと落とす、ゴミ袋を破いて中のゴミをまき散らす、大声を張り上げて泣く。泣く理由なんかないのに、私を困らせるためだけに、泣く。

 気が付けば、なつきはひっくり返って泣きわめいている。身体には赤や青のあざが。背中には引っかき傷。これ、誰がやったの? 先生?子ども? 私のはずはない。私の手は赤く熱を持って、じんじん痺れているが、私のはずがない。
 どうして、何もかも上手くいかないんだろう。

 一生懸命がんばっているのに、何もかも上手くいかない、報われない。こういった焦燥感は、子育てをしているすべての母親が感じているだろう。

 

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