ケイの読書日記

個人が書く書評

「ヒントン・アンプナーの幽霊」平井呈一編訳 創元推理文庫

2021-10-09 11:58:08 | 今村夏子
 「ヒントン・アンプナー」というのは英国パンプシャーにある地名で、そこの荘園屋敷に幽霊が出るというオーソドックスな怪談話。怪異話としては大した話ではないが、そのころ(1772年の記述。つまりフランス革命より前なんだ。大昔ってイメージだよね) 上流階級の家庭内の事が色々分かって、その意味では興味深い話。

 こういったバカでかい屋敷って、人手はあるんだろうけど、防犯にまで手が回らず、近所の農夫が勝手に屋敷内に入ってくる事もあったらしい。確かに、アルソックやセコムがあるわけじゃないし、国王の城でもないので、警備の人間が常駐している訳じゃない。

 それに、こういった由緒ある屋敷を買う、あるいは借りる場合、そこで働いている使用人をそっくり受け継ぐことも多いようだ。失業対策だろうか? また、長年仕えてくれた使用人が病気で、あるいは年を取って仕事が出来なくなっても、死ぬまで屋敷内で面倒を見ることもあるらしい。貴族の義務というところか。
 日本でもあったんだろうか? 社会保障の無い時代、身寄りがない高齢者を放り出すのも、世間体が悪いという事か。

 でも、一つ屋根の下に暮らすのだから、仲間意識があるかといえば、そうでもないみたい。作品内で、奥方が幽霊を見たという乳母を「下層階級の人によくある迷信」と言ってるし「8人の召使はスイス人の従僕を除いて、あとはみんな無知な田舎の人間ばかり」とも言ってる。
 現代の感覚からすれば、あまりにも時代錯誤な言い方だが、仕方ないね。18世紀だもの。

 こういった幽霊屋敷のほとんどが、今では防犯カメラがあれば解決する問題なんだ。それにしても、英国人は幽霊屋敷が好きだなぁ。
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