ケイの読書日記

個人が書く書評

今村夏子 「あひる」

2018-01-02 10:56:30 | 今村夏子
 皆さま、あけましておめでとうございます。親の介護の必要が出てきて、ブログの更新が遅れることがありますが、それでも頑張ってやっていきますので、今年もよろしくお願いいたします。


 小説の導入部は優しい雰囲気。おだやかな老夫婦とその娘(この人が語り手「わたし」)の一家のもとにアヒルがもらわれてきて、世話をしていたら、近所の子供たちがアヒルを見学に集まってきた。
 老夫婦は寂しかったのだろう、子供たちを歓待し、家の中に入れてお菓子をあげたり、宿題をさせたりする。

 ここらへんで私の心が少しザワっとする。山間の静かな田舎町。子どもたちがどこで遊んでいるか分からない訳ないのに、彼ら彼女らの親御さんはどうしているの?「いつも子供がお菓子をいただいているそうで、ありがとうございます。これ、貰い物ですけどどうぞ。」くらい言いに来ないのが不思議。

 あの家に行けば何でも好き勝手できる、という評判が子供たちの間に広まったのだろう、最初は小学生がアヒルと遊びに来ていたのに、不良中学生の溜まり場になり、家の中の物を勝手に持ち出して換金したり、お金をくすねたり、やりたい放題。
 そこへ老夫婦の息子(語り手の弟)が帰って来て、不良たちをたたき出す。実は息子は中学ごろ素行が悪く、老夫婦は困っていたが、だんだん落ち着いてきて10年ほど前に家を出て結婚した。
 ここで、語り手「わたし」の年齢と状況が分かってくる。弟が30歳ちょっととすると、その姉だから「わたし」は30歳代半ばだろう。医療関係の資格を取ろうと、家でずっと勉強している。今まで一度も働いた事はないらしい。引きこもっている訳ではないが、家族以外とはほとんど話さない。

 そう、この「わたし」がどういう立ち位置の人が分からなかったから、読んでいて落ち着かなかったのかも。
 一見、穏やかに見えるこの一家が、実はどうしようもなく歪んでいて、昔ヤンチャをやっていた弟の方が、実はまともな人間だったんじゃないか。


 実は、もらったアヒルは1か月くらいで死ぬ。老夫婦はアヒルを動物病院に連れて行ったら治ったと偽り、別のアヒルを買ってくるが、そのアヒルも1か月ほどで死ぬ。理由は分かっている。環境の変化によるストレス。たくさんの子供たちに見つめられ、触られ、追いかけ回され、ストレスが過度にたまって食欲不振になったのに、なんの対策も取らなかったからだ。
 子どもたちに、アヒルを追い掛け回さないようにと言うと、家に子供たちが集まって来なくなるから、アヒルを見殺しにした。
 自分たち老夫婦が、子供たちに囲まれていたいがために。

 小説の最後は、息子夫婦に孫が生まれるからと、二世帯住宅に建て替えている最中で、老夫婦はニッコニコ。でも、この老夫婦は孫をダメにしそうで、怖い。

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