
森博嗣の第一短編集。11作品中2作品のみ、萌絵さんが登場するだけなので、ちょっと残念。ミステリらしいミステリは、萌絵さんが出てくる『誰もいなくなった』くらいかな。
森ミステリを読みたかった人には肩透かしの短編集だが、別の面白さもある。大学院生の生活が、垣間見えること。修士課程や博士課程に在籍している、大学院生の日常。例えば、『真夜中の悲鳴』『キシマ先生の静かな生活』など読むと、自分の知らない世界の事が書いてあって、興味深い。
特に『キシマ先生の静かな生活』に出てくるキシマ先生は、とても優秀な研究者で、その分野では一目置かれている人だが、身分は助手。だから、すごく薄給。しかも、ヨイショができない人らしく、助教授に昇格することは、まず無い。だいたい、専門分野が教授たちと違っているらしい。
そのキシマ先生は、ずーーーーっと好きだった女性と45歳で結婚。九州の大学に、助教授として栄転した。しかし…うまくいかなかった。
先生は2年で大学を辞めた。先生の奥さんは自殺して亡くなったと、風の便りできいた。
キシマ先生は、無理をして無理をして無理をしたんだ。以前から恋焦がれていた女性と結婚するために、気楽で自由な研究生活を手放したんだ。その歪が悲劇をうんだ。
悲しいね。『容疑者Xの献身』のXみたいだね。Xも出身大学では職を得られず、別の大学の助手として雇われたが、あまりの薄給と雑用の多さ、それに学内の派閥抗争に巻き込まれ、大学を辞め、生活のため高校の数学教師となった。
作品中に、主人公が「1日中、たった一つの微分方程式を睨んでいた、あの素敵な時間は、どこにいってしまったんだろう?」と嘆く場面がある。
いやーーーー、真性理系の人って、本当にスゴイと思うよ。
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