一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

M氏とT氏とフランボワーズカップ

2009-12-23 01:05:01 | 愛棋家
LPSA金曜サロンには、ご意見番というべき人物がふたりいる。Mi氏とTo氏だ(以下、M氏、T氏と記す)。
M氏とT氏は、私が昨年の3月、初めて金曜サロンにお邪魔したときからすでにいらした。金曜サロンが開席されてからの常連で、このサロンを当初から贔屓にしていた人である。どちらも還暦をとうに過ぎているが、腕に衰えはなく、私もさんざん苦杯を嘗めてきた。対戦成績は、もちろん私の大幅な負け越しである。
M氏は髪の短い角刈り、T氏は短い白髪がわずかに生えただけの、坊主頭に近い。眼の保護のため、時折サングラスをかけている。棋風はというと、M氏が攻め将棋の粘着型、T氏が受け将棋のあっさり型で、対称的ある。このおふたりは自分の将棋を指すよりもヒトの将棋を観戦するのが好きで、対局が終わると、感想戦に参加していろいろアドバイスをくれる。
しかし厄介なのは両者の棋風がまったく違うため、「ここはこう指せばまだまだだよ」とM氏が言えば、「そんなんじゃダメだよ。もう終わってるよ」とT氏が返す。対局者は混乱してしまうが、そのやりとりは年季の入った漫才を見るようで、楽しい。
またおふたりは周りが若輩ということもあり遠慮がなく、対局者が初心者だろうと有段者だろうと、言うべきことはしっかり言う。それもズケズケと言う。かくいう私も、T氏には「今日の一公さんはダメだね」とキツイご宣託を頂戴したこともあった。それでいて憎めないのは、両者の人徳のなせるワザであろう。
そのおふたりは、LPSAの公開対局には、あまり顔を出さない。しかし昨年の「フランボワーズカップ」では、珍しく両者揃って顔を見せた。船戸陽子女流二段の劇的な優勝を見届けたあと、いつものメンバーでファミレスに食事に行こうとすると、珍しくおふたりも付き合ってくださることになった。
文京シビックセンター26階から下へ降りるエレベーターの中では、
「この前は一公さんにイビアナでやられちゃったからねぇ」
と、T氏が言う。この前の週の金曜サロンだったか、当時T氏に4連敗中だった私は、T氏の四間飛車に居飛車穴熊を採用し、61手の短手数で初勝利を挙げていたのだ。その話を蒸し返すのだから、T氏の将棋熱、推して知るべしである。
都営地下鉄・水道橋駅近くのファミレスに入ると、ドアに「イベント期間中は混雑が予想されるため、3時間で会計をお願いします」と貼り紙があった。
このときのメンバーは、そのおふたりにW氏、私、あとふたりぐらいいたと思う。それぞれ適当に食事をオーダーして、まずは一息。
M氏はズボンのポケットに「将棋世界」の別冊付録を携行していて、ヒマがあれば勉強をしている。その将棋好きはT氏に劣らない。結果、濃密な将棋の話題となった。
「きょうの将棋はいい将棋だったねぇ」
「☖5六歩の叩きにはしびれました」
「☖8五角切りがスゴかったねぇ」
と、まずはフランボワーズカップの感想を言い合う。そこから女流棋士の棋力について話が流れ、やがて私たちの棋力への言及になった。
「もう少し若いモンが頑張らにゃイカン」
金曜サロンでは昨年の4月から、会員同士のリーグ戦を3ヶ月ごとに開いており、その時点ではM氏の3連覇、T氏の2回連続準優勝が続いていたのだ。
「す、すみません」
「おれたち年寄りがリーグ優勝してるようじゃダメなんだよ」
「お、おっしゃるとおりでございます」
と、私たちはなぜか平謝りする。続いてT氏が昔話を始める。
「おりゃあ、小池重明と何度も指したことあるよ」
「ホントですか!? 新宿の殺し屋ですね!!」
私は大仰に驚く。
「ああ。角落ちだったけど、勝ったね」
「それはすごいですね!!」
その後も将棋の話は留まるところを知らず延々と続き、結局6時すぎごろに入って、終電近くまで粘ったのではなかろうか。
みんなが適当にカネを出し合い、会計を済ませて外に出る。そのとき、ドアにあった張り紙が、実はこの日(12月23日)も含んでいることに気がついた。
確かに食事が終わって雑談しているとき、入口には何人もの人が、順番待ちをしていたのだ。私には視界に入っていたが、場の雰囲気から、「そろそろ出ましょう」とは言いだせなかった。
それなら店員が会計を促してくれればよかったのに…と思ったとき、あっ!! と気がついた。M氏、T氏の風貌は、あちらの世界の人を彷彿とさせるではないか。しかも話している内容が、「さす」だの「切る」だの「叩く」だのと物騒な言葉ばかり。さらに「これからは若いモンが頑張らなきゃイカン」とか「殺し屋ですね!!」とかいう会話までしている。
まるで会長に若い衆が説教されている図である。そう思えば店員のほうも、なにか恐ろしい団体を見る目で、私たちの前を行き来していたような気がする。
たかだか食事とドリンクバーだけで長居をしてしまって、ファミレスの従業員、店員には、本当に申し訳ないことをしたと、恐縮する次第であった。
さてそんな出来事があったあの日から、きょうでちょうど1年。その同じ日、同じ場所で、今年も1dayトーナメントの掉尾を飾る「フランボワーズカップ」が行われる。今年はどんな感動が待っているだろう。大いに楽しみである。
コメント (9)
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