23日(水・祝)は、東京都文京区のシビックセンターで、「1dayトーナメント・フランボワーズカップ」が行われた。
開場は午前10時30分、開会は11時。私は10時26分に家を出て、11時01分、対局場である26階の「スカイホール」へ入った。あまり早く入場して、一部の女流棋士に会ってしまったら、味がわるいと考えたからである。というのはウソで、ギリギリまで家でぬくぬくしていて、出られなかったのだ。
ホールでは、ちょうど中井広恵天河の開会の言葉が始まったところだった。いただいた大判の袋を覗くと、シャレたシステム手帳と、勝利者予想投票用紙などが入っていた。
さっそく勝敗予想をしてみる。今回は優勝者だけでなく、全対局の勝敗を当てる。優勝者予想のみだと、中井天河と石橋幸緒女流四段に集中してしまうからだろう。本当はそれではいけないのだが、このふたりが本命だからやむを得ない。
対戦カードは、トーナメント表の左から中井天河-中倉宏美女流二段、鹿野圭生女流初段-大庭美樹女流初段、船戸陽子女流二段-渡部愛ツアー女子プロ、松尾香織女流初段-石橋女流四段の8名。今年は昨年から4名が入れ替わっている。ちなみに「フランボワーズ」とは、ラズベリーのことである。
さてこのブログの読者なら、私の優勝予想は船戸女流二段、と推察するだろう。事実昨年は船戸女流二段の優勝と予想し、当たった。しかしそれは冷静な分析のうえである。
熟慮のすえ、今年は中井天河の優勝と予想した。反対の山からは石橋女流四段が出てくるだろう。これで5戦の勝敗が自動的に決まった。
問題は船戸-渡部、鹿野-大庭の2局だ。中堅や若手の、棋力の近い棋士同士の対戦が、いちばん予想が難しい。悩んだすえ、まず船戸-渡部戦は渡部ツアー女子プロの勝ちとした。船戸女流二段を推したいのはヤマヤマだが、渡部ツアー女子プロの軽快な振り飛車と、怒濤の終盤力は捨てがたい。しかし最後は、渡部ツアー女子プロの制服姿が決め手になった。
鹿野-大庭戦も難しいが、いま一度、鹿野女流初段の攻撃力に賭けた。というわけで全7局の勝敗予想が決定し、入口近くの投票箱に入れる。
11時15分、対局開始。持ち時間は15分、秒読みは一手30秒。今回は皆さん地味目の服装だ。頼みの船戸女流二段は黒のワンピースに、白抜きの蝶々が舞っているデザインである。もっと明るい服のコーディネイトもできたはずだが、対戦相手の服装に配慮したものか。肝心の戦型は、3手目に先番の渡部ツアー女子プロが☗2六歩と突き、居飛車を明示。それに船戸女流二段が☖4四歩と応じて、船戸女流二段の右四間飛車からの攻めが濃厚になった。
しまった、と思った。投票の〆切は11時30分まで。各局の出だしを見てからでも遅くはなかったのだ。というのも、前述のとおり、渡部ツアー女子プロは振り飛車が得意なのだ。現在は居飛車も勉強しているが、相居飛車の将棋では、船戸女流二段に一日の長(いちじつのちょう)がある。しかも短時間の将棋は、船戸女流二段に利がある。これは船戸女流二段が勝つと思った。
ホールの一番奥で指されている中井-中倉戦は、後手番中倉女流二段の原始棒銀。むかしの青野照市九段を彷彿とさせる指し手で、対局者を伏せたら誰だか分からなかったろう。勝敗はどう転ぶか分からないが、研究手順であることは確かで、その意気を大いに買った。
その右の石橋-松尾戦は、相振り飛車から、石橋女流初段が角を換わり19手目、☗8二角と打ちこんだ。これで香取りが受からない。実はこの変化、LPSA金曜サロンの大盤解説で、松尾女流初段に訊いたことがある。ところがこれは☖6九角から先手の飛車か金を取り、☖9二金と打って、後手が優勢になるのだという。石橋女流四段がその手に引っかかったとは思えないが、実際☖6九角と打たれて長考しているのはおかしい。
その右は、先ほど紹介した船戸-渡部戦。船戸女流二段は背筋がピンと伸び、文字どおり視線を盤のうえに落としている。女子高生に負けられないワ、という気概が感じられる。
そして一番右側が鹿野-大庭戦。ここは意外にも相振り飛車の戦形となった。アイフリは鹿野女流初段の得意形だろう。大庭女流初段に秘めたる手はあるのか。
入口の右には大型スクリーンが設置され、将棋ソフトによって4局のうち2局が順番に映しだされている。
船戸-渡部戦は中盤戦の入口。47手目☗4六歩の突き上げに、☖3六歩の取り込みが大きい。ここで☗2八角と引かざるを得ないようでは、先手がつらい。
中井-中倉戦は、中倉女流二段の棒銀が捌けず、つらい展開。やはり相居飛車戦は、中井天河の経験が豊富だ。
石橋-松尾戦は、☗8二角~☖9二金~☗9一角成と、金香交換となった。部分的には松尾女流初段の大きな駒得だが、☖9一金も存外使いづらく、思ったほど形勢は離れていないのかもしれない。いつぞやも書いたが、あとはココロの問題である。松尾女流初段が「駒得で楽勝」と思えばいいが、「石橋さん、☖9二金を知ってて、わざとこの筋に飛び込んだのかも」などと考え出すと危ない。なにしろ石橋女流四段は、「最後は私が勝つ」と思って指しているのだ。
船戸-渡部戦は、船戸女流二段の持ち時間が残り9分34秒のところで、渡部ツアー女子プロが秒読みに入った。しかも一方的にと金を作られ、その見返りもない。早くも大勢決した。
中井-中倉戦は、中井天河、残り7分24秒で中倉女流二段が秒読み。中倉女流二段の銀は9五に立ち往生のまま。中井天河は角を9一に成り、こちらも勝勢。
石橋-松尾戦は、松尾女流初段5分32秒のところで、石橋女流四段の秒読み開始。しかしこの将棋だけは、持ち時間の差がそのまま形勢の差を表していない。なんとなく、妙なムードは漂っている。なにしろ松尾初段は昨年の同カップでも、中井女流六段(当時)相手に必勝の将棋を落としているのだ。松尾女流初段秒読みに入ってから、冷静な指し手を続けられるか。
船戸-渡部戦が終了。やはり船戸女流二段の勝ち。渡部ツアー女子プロに力を出させない、中押し勝ちだった。渡部ツアー女子プロは、もっと相居飛車の勉強が必要である。
それにしても、勝者予想クイズの全問正解がよりによって船戸女流二段に阻まれるとは、なんという皮肉か。
鹿野-大庭戦は、大庭女流初段の端攻めが見事に決まり、☗4三銀からの左右挟撃態勢も入って、勝勢。残り11秒のところで、鹿野女流初段が一足先に秒読みに入った。この将棋も波乱なく終わりそうである。
けっきょく鹿野女流初段も最後は追い上げたが、逆転には至らず、大庭女流初段の嬉しい勝利となった。ここで私の勝者予想も脱落。2局も間違えては、もう無理だ。
中井-中倉戦も中井天河勝ちで終局。中倉女流二段は形も作れなかった。しかしこれだけ将棋に対する意欲があれば、来年の活躍は十分期待できる。
石橋-松尾戦は終盤戦に入ったが、いよいよ怪しい。松尾女流初段が残り2秒ぐらいにまでなって着手するのに対し、石橋女流四段は文字通りノータイムで返す。駒の損得は微妙だが、流れはもう完全に石橋女流四段だ。これは石橋女流四段の勝ちになると思った。
私はそう判断すると終局まで見ず、昼食を摂りに、外へ出た。
(つづく)
開場は午前10時30分、開会は11時。私は10時26分に家を出て、11時01分、対局場である26階の「スカイホール」へ入った。あまり早く入場して、一部の女流棋士に会ってしまったら、味がわるいと考えたからである。というのはウソで、ギリギリまで家でぬくぬくしていて、出られなかったのだ。
ホールでは、ちょうど中井広恵天河の開会の言葉が始まったところだった。いただいた大判の袋を覗くと、シャレたシステム手帳と、勝利者予想投票用紙などが入っていた。
さっそく勝敗予想をしてみる。今回は優勝者だけでなく、全対局の勝敗を当てる。優勝者予想のみだと、中井天河と石橋幸緒女流四段に集中してしまうからだろう。本当はそれではいけないのだが、このふたりが本命だからやむを得ない。
対戦カードは、トーナメント表の左から中井天河-中倉宏美女流二段、鹿野圭生女流初段-大庭美樹女流初段、船戸陽子女流二段-渡部愛ツアー女子プロ、松尾香織女流初段-石橋女流四段の8名。今年は昨年から4名が入れ替わっている。ちなみに「フランボワーズ」とは、ラズベリーのことである。
さてこのブログの読者なら、私の優勝予想は船戸女流二段、と推察するだろう。事実昨年は船戸女流二段の優勝と予想し、当たった。しかしそれは冷静な分析のうえである。
熟慮のすえ、今年は中井天河の優勝と予想した。反対の山からは石橋女流四段が出てくるだろう。これで5戦の勝敗が自動的に決まった。
問題は船戸-渡部、鹿野-大庭の2局だ。中堅や若手の、棋力の近い棋士同士の対戦が、いちばん予想が難しい。悩んだすえ、まず船戸-渡部戦は渡部ツアー女子プロの勝ちとした。船戸女流二段を推したいのはヤマヤマだが、渡部ツアー女子プロの軽快な振り飛車と、怒濤の終盤力は捨てがたい。しかし最後は、渡部ツアー女子プロの制服姿が決め手になった。
鹿野-大庭戦も難しいが、いま一度、鹿野女流初段の攻撃力に賭けた。というわけで全7局の勝敗予想が決定し、入口近くの投票箱に入れる。
11時15分、対局開始。持ち時間は15分、秒読みは一手30秒。今回は皆さん地味目の服装だ。頼みの船戸女流二段は黒のワンピースに、白抜きの蝶々が舞っているデザインである。もっと明るい服のコーディネイトもできたはずだが、対戦相手の服装に配慮したものか。肝心の戦型は、3手目に先番の渡部ツアー女子プロが☗2六歩と突き、居飛車を明示。それに船戸女流二段が☖4四歩と応じて、船戸女流二段の右四間飛車からの攻めが濃厚になった。
しまった、と思った。投票の〆切は11時30分まで。各局の出だしを見てからでも遅くはなかったのだ。というのも、前述のとおり、渡部ツアー女子プロは振り飛車が得意なのだ。現在は居飛車も勉強しているが、相居飛車の将棋では、船戸女流二段に一日の長(いちじつのちょう)がある。しかも短時間の将棋は、船戸女流二段に利がある。これは船戸女流二段が勝つと思った。
ホールの一番奥で指されている中井-中倉戦は、後手番中倉女流二段の原始棒銀。むかしの青野照市九段を彷彿とさせる指し手で、対局者を伏せたら誰だか分からなかったろう。勝敗はどう転ぶか分からないが、研究手順であることは確かで、その意気を大いに買った。
その右の石橋-松尾戦は、相振り飛車から、石橋女流初段が角を換わり19手目、☗8二角と打ちこんだ。これで香取りが受からない。実はこの変化、LPSA金曜サロンの大盤解説で、松尾女流初段に訊いたことがある。ところがこれは☖6九角から先手の飛車か金を取り、☖9二金と打って、後手が優勢になるのだという。石橋女流四段がその手に引っかかったとは思えないが、実際☖6九角と打たれて長考しているのはおかしい。
その右は、先ほど紹介した船戸-渡部戦。船戸女流二段は背筋がピンと伸び、文字どおり視線を盤のうえに落としている。女子高生に負けられないワ、という気概が感じられる。
そして一番右側が鹿野-大庭戦。ここは意外にも相振り飛車の戦形となった。アイフリは鹿野女流初段の得意形だろう。大庭女流初段に秘めたる手はあるのか。
入口の右には大型スクリーンが設置され、将棋ソフトによって4局のうち2局が順番に映しだされている。
船戸-渡部戦は中盤戦の入口。47手目☗4六歩の突き上げに、☖3六歩の取り込みが大きい。ここで☗2八角と引かざるを得ないようでは、先手がつらい。
中井-中倉戦は、中倉女流二段の棒銀が捌けず、つらい展開。やはり相居飛車戦は、中井天河の経験が豊富だ。
石橋-松尾戦は、☗8二角~☖9二金~☗9一角成と、金香交換となった。部分的には松尾女流初段の大きな駒得だが、☖9一金も存外使いづらく、思ったほど形勢は離れていないのかもしれない。いつぞやも書いたが、あとはココロの問題である。松尾女流初段が「駒得で楽勝」と思えばいいが、「石橋さん、☖9二金を知ってて、わざとこの筋に飛び込んだのかも」などと考え出すと危ない。なにしろ石橋女流四段は、「最後は私が勝つ」と思って指しているのだ。
船戸-渡部戦は、船戸女流二段の持ち時間が残り9分34秒のところで、渡部ツアー女子プロが秒読みに入った。しかも一方的にと金を作られ、その見返りもない。早くも大勢決した。
中井-中倉戦は、中井天河、残り7分24秒で中倉女流二段が秒読み。中倉女流二段の銀は9五に立ち往生のまま。中井天河は角を9一に成り、こちらも勝勢。
石橋-松尾戦は、松尾女流初段5分32秒のところで、石橋女流四段の秒読み開始。しかしこの将棋だけは、持ち時間の差がそのまま形勢の差を表していない。なんとなく、妙なムードは漂っている。なにしろ松尾初段は昨年の同カップでも、中井女流六段(当時)相手に必勝の将棋を落としているのだ。松尾女流初段秒読みに入ってから、冷静な指し手を続けられるか。
船戸-渡部戦が終了。やはり船戸女流二段の勝ち。渡部ツアー女子プロに力を出させない、中押し勝ちだった。渡部ツアー女子プロは、もっと相居飛車の勉強が必要である。
それにしても、勝者予想クイズの全問正解がよりによって船戸女流二段に阻まれるとは、なんという皮肉か。
鹿野-大庭戦は、大庭女流初段の端攻めが見事に決まり、☗4三銀からの左右挟撃態勢も入って、勝勢。残り11秒のところで、鹿野女流初段が一足先に秒読みに入った。この将棋も波乱なく終わりそうである。
けっきょく鹿野女流初段も最後は追い上げたが、逆転には至らず、大庭女流初段の嬉しい勝利となった。ここで私の勝者予想も脱落。2局も間違えては、もう無理だ。
中井-中倉戦も中井天河勝ちで終局。中倉女流二段は形も作れなかった。しかしこれだけ将棋に対する意欲があれば、来年の活躍は十分期待できる。
石橋-松尾戦は終盤戦に入ったが、いよいよ怪しい。松尾女流初段が残り2秒ぐらいにまでなって着手するのに対し、石橋女流四段は文字通りノータイムで返す。駒の損得は微妙だが、流れはもう完全に石橋女流四段だ。これは石橋女流四段の勝ちになると思った。
私はそう判断すると終局まで見ず、昼食を摂りに、外へ出た。
(つづく)