一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「フランボワーズカップ」を見に行く(後編)

2009-12-26 17:57:30 | LPSAイベント
午後1時15分、再入場。1時20分から、準決勝第1局の中井広恵天河対大庭美樹女流初段戦が行われる。ホールの隅では、1回戦で敗退した4女流棋士が指導対局(4面指し)に充たる。その中に「松尾香織」の名前が見える。石橋幸緒女流四段との一局は、やはり松尾女流初段が負けたのだ。
将棋に逆転負けはつきもので私の専売特許でもあるが、松尾女流初段は残念だった。しかしこれが「公認棋戦」なのが不幸中の幸いだった、と考えるべきである。公式戦で優勢の将棋を、しっかり勝ちきればよいのだ。
指導対局は、まだ3人分の空きがある。事前に予約はしても、来場しない人がいるらしい。これは約束違反である。これ幸いと私が申し込む。中倉宏美女流二段が2名、鹿野圭生女流初段が1名空いていたが、中倉女流二段を引く。
18日のLPSA金曜サロンでは、ファンランキング3位の中倉女流二段が常駐だったにも拘わらず、私は旅行に出た。今年は諦めていた指導対局を、ひょんなことからもう1局指せることになったわけだ。
私はイベントでの指導対局では、どの女流棋士でも香落ちでお願いしているのだが、今年最後なので、図々しく平手を所望する。時間的には、中井-大庭戦と同時進行である。
私の三間飛車に中倉女流二段の居飛車穴熊。私は向かい飛車に振り直し急戦を仕掛け、華々しい戦いとなった。対局が終わり、感想戦に入る。中倉女流二段は着席していたので、すぐ前に彼女の顔がある。なんだかドキドキする。と、そこへ船戸陽子女流二段も現われた。
「あ…陽子ちゃん来た…。一公さんの目が…」
と中倉女流二段。私の目が船戸女流二段に釘付けになってしまい、おもしろくない、ということだろうか。そ、そうなのだろうか。ただ先月中倉女流二段が、
「ワタシ、陽子さんのファンだから…」
と言ったことがあった。「ワタシのほうが陽子ちゃんのファンなんだから、じっと見ないでください」ということなのだろうか。このあたりの女性の心理は、よく分からない。
とにかくファンランキング1位の女流棋士も加わって、3人でさらに感想戦。視線を上げると、着席している中倉女流二段と立っている船戸女流二段が、にこやかな顔で私を見ている。す、素晴らしい構図である。写真に撮りたいところだが、撮影会ではないので、網膜に焼き付けるに留める。
しかし、こんな幸福があっていいのだろうか。いや、まずい。バチが当たると、私は早々に感想戦を切り上げた。
中井-大庭戦は中井天河の貫禄勝ち。第2局は2時45分から、石橋-船戸戦が行われる。私は船戸女流二段の顔が窺える位置に着席する。つい1年前を思い出してしまう。あの日の決勝戦(中井-船戸)は、いまも語り草になるほど、劇的な将棋だった。船戸女流二段が本局に勝てば、その再戦となる。
将棋は先番石橋女流四段の居飛車に、船戸女流二段の中飛車。解説は準決勝からつき、木村一基八段の代打、野月浩貴七段が務めていた。聞き手は中倉彰子女流初段。私は中倉女流初段からチケットを購入したのだが、その彼女が対局者でないとは、なんだかダマされた感じだ。しかし中倉女流初段の聞き手は、ボケが入っておもしろく、他の女流棋士の追随を許さない。
本局は、中倉女流初段と渡部愛ツアー女子プロのコンビで、解説という名のトークショーからのスタートとなった。「天然」同士のかけあいは爆笑だったが、石橋女流四段はともかく、船戸女流二段の耳には入っていなかったのではなかろうか。
石橋女流四段の作戦はいつも意欲的だが、本局は不発気味だった。船戸女流二段は自然に対応して、優位を築く。船戸女流二段は居飛車党だが、振り飛車党のように見事な指し回しを見せる。さすがプロである。その貌はピンクに染まり、艶やかだ。思わず見とれてしまう。
解説はすでに野月七段に替わっている。内容はもちろん実戦の解説だが、初心者にも有段者にも参考になる、「将棋の考え方」も織り込み、大いに参考になった。
実戦に戻り、132手目、船戸女流二段☖5八歩成。そこまで優勢に進めていたのに、この手が軽すぎた。☗同銀上に☖4八竜では、先手玉への響きが薄い。ここは苦労して作った☖5七歩の拠点を活かして、☖5八銀と畳みこむところだった。もしこれが指導対局だったならば、「あなた、これでどう指すの?」と、ノータイムでそう指していただろう。
1回戦の松尾女流初段同様、船戸女流二段も、相手の存在感に圧された感がある。ここから形勢が動き、最後は石橋女流四段に華麗な寄せが出て、石橋女流四段の決勝進出となった。
船戸女流二段の瞳がうるんでいる。戦前の抱負では、
「昨年はうれし涙を流してしまいましたが、今年はくやし涙を流さないように頑張りたいと思います」
と語っていた。船戸女流二段、武運つたなく、準決勝で散る。
決勝戦は中井-石橋戦。大本命の豪華なカードだが、おもしろくないカードともいえる。
4時15分、決勝戦開始。先番中井天河の☗7六歩に、石橋女流四段の採った作戦は「いきなり☖三間飛車」。ならばと中井天河も振り飛車に出て、おふたりには珍しい、相振り飛車となった。
ねじりあいの難しい将棋だったが、5時すぎ、121手で中井天河の勝ち。中井天河は相変わらず、LPSA業務にまったく関係のない厄介事に巻き込まれ、気の毒なくらいである。将棋の勉強どころではないはずだが、「貯金」が物を言って、「フランボワーズカップ」では嬉しい初優勝となった。
船戸女流二段、中倉女流二段のいない表彰式は滞りなく執り行われ、山青貿易株式会社協賛の「フランボワーズカップ」は幕を閉じた。
しかしこの日は、まだ続きがあったのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする