10月30日のLPSA金曜サロンで藤森奈津子女流三段、船戸陽子女流二段に苦杯を喫してうなだれていると、植山悦行手合い係が声を掛けてきた。
「ボクと1局指しましょうか」
植山手合い係こと植山七段は、ふだんは初心者への講義が主だが、7月からリーグ戦参加の会員にも1対1で将棋を教えてくださるサービスを始めた。それが今期(10~12月)も継続されたのだ。
植山七段直々に指導対局をいただけるのはありがたいが、この日の私は女流棋士に連敗して意気消沈、とてもお受けできる精神状態ではない。しかしこれを断ったら、次の機会はしばらくないかもしれない。私は持てる気力を振り絞り、「お願いします」と言った。
手合いは角落ち。植山七段との角落ちは3局目だが、1局目は序盤で植山七段の緩手を咎め、一気に攻め込んだ。終盤逆転されたものの、それまでの指し手を評価してくれたのか、植山七段が緩めてくださった。2局目は三間飛車を採用したが、7筋から金2枚で盛り上がられて完敗。戦前植山七段は「一公君と角じゃきついなァ」とこぼしていたが、「6割の本気度」(植山七段)でこの体たらくでは、こちらこそ飛車落ちにしていただきたいぐらいだった。
というわけで、角落ち3局目の指導対局開始。上手は前局と同じ☖6二銀~☖5三銀の構え。前局はここで☗7八飛と振ったら、植山七段は困惑の反応だった。どうも☖5三銀型には下手振り飛車がいいらしいと感触を得た私は、本局でもう一度三間飛車を試みた。
以下駒組合戦になり、中盤はこう着状態。私は中飛車に振り直し、5筋の歩を交換する。しかし☖5四銀右~☖5五歩とガッチリ位を張られ、指しにくさを感じた。
私は☗8六歩~☗8八飛と、今度は☖8四金に狙いを定める。しかしじっと☖8三金と引かれては、二の矢がない。そのうち3~5筋からじりじり押され、角銀交換の駒損から馬を作られては、早くも大勢決した。以下飛車も成られたところで、なすすべなく投了となった。
せっかく1対1で教えてくださったのに、植山七段には張り合いのない将棋で、申し訳なく思った。なにしろ局数を重ねるにつれ、こちらの内容がだんだん悪くなってきている。角落ちでは位負けをしないことが鉄則なのだが、前局も本局も不用意に歩を交換しては位を張られ、押し潰されている。
典型的な負けパターンで、もっと駒をぶつけていく将棋でないといけない。私が上手だとそういう指し方がイヤなのに、下手側に回るとそれができない。ここが駒落ち将棋のメンタルなところであろう。
感想戦は懇切丁寧にしていただいた。本局も、☗6五歩からバリバリ攻めるべきだったらしい。その手はまったく浮かばなかったが、
「それが指せないなら、(角落ちで)振り飛車は指さないほうがいい」
と、きついアドバイスを受けた。このときは自分でも、あまりの弱さに呆れていた。
この日はひとつ印象に残ったシーンがある。下手が快調に攻める変化になり、
「こんなもん、(この局面になれば)このくらいで(下手が)いいでしょう?」
と私がぶっきらぼうに指すと、
「え? じゃあ、じゃあこう指したらどうしますか」
と、植山七段が気色ばんで言ったのだ。将棋はそんな簡単なものではない。将棋をなめてはいけないという、植山七段の戒めの言葉だった。私は頭をガツンと殴られたような衝撃を覚え、また同時に、植山七段の将棋に対する真摯な姿勢を感じたのだった。私は将棋に負けると、すぐに不貞腐れる。この悪癖は心がけ次第で直せるものである。これだけでも即実行しなければと思った。
とにかく完敗はしたものの、おかげで下手角落ちの指し方のコツが、なんとなく習得できた気はする。次回教えていただくのはいつになるか分からないが、そのときはもう少し、植山七段が長考に沈む将棋を指したいものである。
「ボクと1局指しましょうか」
植山手合い係こと植山七段は、ふだんは初心者への講義が主だが、7月からリーグ戦参加の会員にも1対1で将棋を教えてくださるサービスを始めた。それが今期(10~12月)も継続されたのだ。
植山七段直々に指導対局をいただけるのはありがたいが、この日の私は女流棋士に連敗して意気消沈、とてもお受けできる精神状態ではない。しかしこれを断ったら、次の機会はしばらくないかもしれない。私は持てる気力を振り絞り、「お願いします」と言った。
手合いは角落ち。植山七段との角落ちは3局目だが、1局目は序盤で植山七段の緩手を咎め、一気に攻め込んだ。終盤逆転されたものの、それまでの指し手を評価してくれたのか、植山七段が緩めてくださった。2局目は三間飛車を採用したが、7筋から金2枚で盛り上がられて完敗。戦前植山七段は「一公君と角じゃきついなァ」とこぼしていたが、「6割の本気度」(植山七段)でこの体たらくでは、こちらこそ飛車落ちにしていただきたいぐらいだった。
というわけで、角落ち3局目の指導対局開始。上手は前局と同じ☖6二銀~☖5三銀の構え。前局はここで☗7八飛と振ったら、植山七段は困惑の反応だった。どうも☖5三銀型には下手振り飛車がいいらしいと感触を得た私は、本局でもう一度三間飛車を試みた。
以下駒組合戦になり、中盤はこう着状態。私は中飛車に振り直し、5筋の歩を交換する。しかし☖5四銀右~☖5五歩とガッチリ位を張られ、指しにくさを感じた。
私は☗8六歩~☗8八飛と、今度は☖8四金に狙いを定める。しかしじっと☖8三金と引かれては、二の矢がない。そのうち3~5筋からじりじり押され、角銀交換の駒損から馬を作られては、早くも大勢決した。以下飛車も成られたところで、なすすべなく投了となった。
せっかく1対1で教えてくださったのに、植山七段には張り合いのない将棋で、申し訳なく思った。なにしろ局数を重ねるにつれ、こちらの内容がだんだん悪くなってきている。角落ちでは位負けをしないことが鉄則なのだが、前局も本局も不用意に歩を交換しては位を張られ、押し潰されている。
典型的な負けパターンで、もっと駒をぶつけていく将棋でないといけない。私が上手だとそういう指し方がイヤなのに、下手側に回るとそれができない。ここが駒落ち将棋のメンタルなところであろう。
感想戦は懇切丁寧にしていただいた。本局も、☗6五歩からバリバリ攻めるべきだったらしい。その手はまったく浮かばなかったが、
「それが指せないなら、(角落ちで)振り飛車は指さないほうがいい」
と、きついアドバイスを受けた。このときは自分でも、あまりの弱さに呆れていた。
この日はひとつ印象に残ったシーンがある。下手が快調に攻める変化になり、
「こんなもん、(この局面になれば)このくらいで(下手が)いいでしょう?」
と私がぶっきらぼうに指すと、
「え? じゃあ、じゃあこう指したらどうしますか」
と、植山七段が気色ばんで言ったのだ。将棋はそんな簡単なものではない。将棋をなめてはいけないという、植山七段の戒めの言葉だった。私は頭をガツンと殴られたような衝撃を覚え、また同時に、植山七段の将棋に対する真摯な姿勢を感じたのだった。私は将棋に負けると、すぐに不貞腐れる。この悪癖は心がけ次第で直せるものである。これだけでも即実行しなければと思った。
とにかく完敗はしたものの、おかげで下手角落ちの指し方のコツが、なんとなく習得できた気はする。次回教えていただくのはいつになるか分からないが、そのときはもう少し、植山七段が長考に沈む将棋を指したいものである。