かねやんの亜細亜探訪

さすらうサラリーマンが、亜細亜のこと、ロックのこと、その他いろいろ書いてみたいと思ってますが、どうなることやら。

ポールソン回顧録

2010年11月04日 | Books



今度、ブッシュ前大統領が回顧録を出すそうだ。アメリカの政界、財界の大物は、やたらに回顧録を出したがる。回顧録を書くのが目的で、仕事をやっているのではないかと思うぐらいだ。結構読んだが、それぞれ、それなりに面白い。

このポールソン回顧録は、その中でも、かなり面白い。それは、ポールソンが財務長官の時代に、100年に1度と言われる金融危機が起こり、その最前線にいたのが、彼であり、その金融危機がまだ終わっていない時期に本書が出版されたからだ。回顧録の90%以上が、この財務長官時代のことで、日記風に書かれている。後書きによれば、本書を著わすのに8ヵ月かかったというから、政権が変わり、ガイトナーに引き継いでから、すぐ書き始めたということなのだろう。その緊迫感は、十分映画化に耐えられる内容だ。

ただ、リーマンだけ何故潰したかということについては、買収者が現れなかったと繰り返すのみ。リーマンを救った場合と、どちらが、被害が少なかったかという疑問には答えていない。これは、本人もわからないだろうし、歴史もなかなか証明は難しいかもしれない。

それにしても本書は面白い。
ポールソンといえば、ゴールドマン出身者だし、あの風貌だし、相当の剛腕ではないかと思いがちだが、本書に著わされているポールソンは、まさに国のために、世界のために、粉骨砕身奮闘する大臣だ。自伝だから、そうなるのは当たり前かもしれないが。

家族を大切にするファミリーマンでもある。あの殺人的なスケジュールの隙間を縫って家族旅行にちゃんと出かけたりしている。奥さんは、クリントン現国務長官と同級生。

驚くのは、FRBのバーナンキと、当時NY連銀の総裁だったガイトナーと、ほぼ三位一体で、緊密な連携をとって動いていることだ。それでもこれだけ、混乱したのだから、独立性云々を言っていたら、ずるずるともっとひどい恐慌に陥っていただろうことは容易に想像出来る。ただ、その副作用にまだ悩まされていることも一方の事実ではある。FRBの金融緩和は、とどまるところを知らない(今日も新たな対策が出された)。

本書を読むと、いかに今回の金融危機が制御困難であったかということがわかる。誰も、問題の大きさが把握できない中で、対策を検討し、即実行せざるを得ない状況であったのだ。例えは悪いが、制御不能になったジャンボ機をレーダーもない中で、この3人を中心にして、墜落しないように必死に操縦かんを握りしめていたという感じだ。墜落の危機をやっと防いだと思ったら、また次の危機がすぐ訪れる。上下動を繰り返しながら、高度を下げて行くような状況だが、彼らの努力の結果が今の状況だ。墜落を防げたのかは、もう少し様子を見る必要があるだろう。

リーマンの破産に至る状況は、まさにチキンレース。最後まで、買収先を探したのだが、万策尽きたと言っている。資産内容の悪さから、最初から救済する選択肢はなかったように書かれているが、正直その時点では、どうにかなると思っていたか、つぶれてもこれほど大きなインパクトがあると想定していなかったのではないかと勘繰りたくなる。

モルスタも同じ状況に陥る寸前までいったが、ここは、邦銀が手を差し伸べた。それがなければ、モルスタもどうなっていたかわからない。結果的には、リーマンが大型倒産の最後になった。

もうひとつ面白かったのは、ブッシュ前大統領のことをほめちぎっていることだ。我々は、マスコミ経由でしか知りえないが、本当はもっとしっかりした判断力を持った人だったのかもしれない。今回の自伝で、イラクについては、誤った情報に基ずく判断ミスと述べているようだが。

後書きで、「規制の力だけで、不安定さを取り除くわけにはいかず、大規模で複雑な金融機関が深刻な窮状に陥る例は、これからも防げないだろう」とした上で、様々な処方箋のアイデアを述べている。

「危機が訪れない限り困難で重要な動きは実現しないと学んだ」と、諦めた風の言葉も、一方では、述べているが。

最後に、教訓を4点にまとめている。

1、アメリカの金融システムの行き過ぎはしかるべき批判を受けているが、根源として忘れてはならないのは、経済間に構造的な不均衡があり、そのせいで国境を超えて凄まじい資本異動が起きたことである。

2、現行の規制体系はかなり以前につぎはぎによって生み出されたものであり、どうしようもなく時代に取り残されたままだ。

3、金融システムがあまりに過剰なレバレッジを内包しており、その例証として資本と流動性にゆとりがなくなっていた。高レバレッジ投資の対象となったのは、主として非常に複雑で理解しにくい金融商品である。

4、最大手の金融機関はあまりに巨大で複雑化しているため、危険なほど大きなリスクをはらんでいる。

ど真中で、この金融危機(投資銀行が全て消え、リーマンを始めたとした多くの金融機関が姿を消した)対策にあたった人の言葉として、重く受けとめたい。

コメント
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